説明

微生物反応装置

【課題】特定の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置を提供する。
【解決手段】複数の微生物と生物反応の原料を含む原料溶液SSとを、自身を貫通する所定の回転軸Lの周りを回転することで撹拌し、凝集性微生物を培養する凝集容器100と、原料溶液SSが含む微生物の種類および個体数を検出する検出装置120と、検出結果に基づいて、凝集容器100の回転条件を制御する制御装置130と、凝集容器100の中の原料溶液SSと共に、該原料溶液SSにおける特定の深さ方向の位置に浮遊した凝集体を排出する排出手段180Aと、を備え、凝集容器100の内壁に付着する凝集性微生物を含む複数の微生物が、凝集容器100の回転に基づいて凝集することで、微生物の種類に応じて複数の大きさの凝集体AGを形成し、排出手段180Aは、凝集体の大きさに基づいて凝集容器100の特定の深さに浮遊している凝集体を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素反応や微生物を用いた生物反応等を利用して、溶液状態の原料から物質の合成や分解を行う装置、所謂バイオリアクタに関する技術が盛んに開発されている。一般に生物反応は、化学反応と比べると反応速度は遅いが化学反応のように高温・高圧を必要としないため省エネルギー性に優れ、また反応設備を耐熱・耐圧とする必要がないという特長を有している。更には、反応に用いる生物種に応じて、特定の原料から目的とする生成物へ、副反応が少ない反応系を構築することができるという特長も備えていることから、工業的に有利な点が多く注目を浴びている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
微生物を用いたバイオリアクタにおいて、反応効率を高めるためには、反応を触媒する微生物を反応装置内に高濃度で保持する技術が非常に重要となる。このような技術として、従来、微生物に分解されにくい物質で形成した構造体(担体)で微生物を担持する方法が多く用いられてきた。このような担体としては、大きくは、反応容器内部に固定される固定型と、反応容器内を自由に流動する流動型と、に分けることができるが、流動型の担体の方が、反応容器内で担体と原料との接触効率を高くすることが可能であるため、反応効率を高めやすいという利点がある。
【0004】
上記の流動型の担体としては、微細な隙間(水路)を有するゲル状物質(例えばアルギン酸カルシウム)で担体を形成する際に、微生物を内包させて形成し、担体内部で高濃度の微生物濃度を実現する包埋型担体を挙げることができる。また、微生物を表面に付着する担体を別途形成し、該担体の表面で高濃度の微生物濃度を実現する付着型担体も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、微生物を用いたバイオリアクタにおいては、所望の反応を行うため、反応を触媒する特定の種類の微生物を反応装置内に高濃度で保持する技術が非常に重要となる。
【0006】
このような技術として、従来は、特定の微生物を高濃度に内包して形成した包埋型担体を反応系内に投入する方法、装置へ流入する物質を全て滅菌した後に反応系内に特定の微生物のみを植種する方法、などが用いられてきた。また、特定の微生物に好適な運転条件に保ち選択圧による制御を採用する技術、薬剤投与によりある種の微生物の増殖を促進または抑制することによる制御を採用する技術なども挙げることが出来る。一方で、特定の種類の微生物のみが繁殖していることを確認するため、微生物の種類と数とを測定する様々な方法が提案されている(例えば、特許文献3から5参照)。
【特許文献1】特開2006−325577号公報
【特許文献2】特開2001−292765号公報
【特許文献3】特開2003−254891号公報
【特許文献4】特開平8−271447号公報
【特許文献5】特開平5−263411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特定の種類の微生物を保持するための上記方法には、次のような問題がある。
【0008】
包埋型担体を用いた場合には、包埋した微生物の寿命により反応効率が不安定であり、定期的に担体の交換が必要となってランニングコストの増大を引き起こす。流入物質を滅菌する方法では、滅菌のためのイニシャルコストやランニングコストが増大する上に、滅菌が不十分である場合には、反応に用いない夾雑菌の増殖を招き、反応系内が汚染される。更に、選択圧による制御は経験に頼るところが大きく制御が困難であり、薬剤投与による制御はランニングコストが増大する上に、目的生産物が食品や医薬品の場合に適用出来ない。
【0009】
すなわち、従来の方法では、特に連続して運転を行った場合に、特定種類の微生物の濃度を保持し続けることが困難である。連続運転中に、夾雑菌が増殖してしまった場合には、夾雑菌の繁殖を抑制する好適な手段がないため、目的とする微生物の濃度を維持できなくなるばかりか、反応を中断し反応装置内の滅菌や洗浄を行って再始動させるほかない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、特定の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、様々な検討を重ねた結果、凝集性微生物が自己凝集した凝集体を用いる方法にて反応を制御する構成が良いとの発想に至った。微生物の自己凝集体は、凝集性微生物の種類により凝集力・凝集速度などの条件が異なるため、同じ条件下で凝集させた場合に用いる微生物種によって凝集体の大きさに差が生じる。仮に夾雑菌が増殖し始めた場合であっても、このような凝集体の大きさの差を利用することで夾雑菌の分離が可能であると考えた。
【0012】
そこで、上記の課題を解決するため、本発明の微生物反応装置は、凝集性微生物を含む複数の微生物を培養して該凝集性微生物を含む凝集体を形成すると共に、前記複数の微生物の各々について個体数を制御する微生物反応装置であって、前記複数の微生物と該複数の微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液とを、自身を貫通する所定の回転軸の周りを回転することで撹拌し、前記凝集性微生物を培養する凝集容器と、前記原料溶液が含む前記微生物の種類および個体数を検出する検出装置と、前記検出装置における検出結果に基づいて、前記凝集容器の回転条件を制御する制御装置と、前記凝集容器の中の前記原料溶液と共に、該原料溶液における特定の深さ方向の位置に浮遊した前記凝集体を排出する排出手段と、を備え、前記凝集容器の内壁に付着する前記凝集性微生物を含む複数の微生物が、前記凝集容器の回転に基づいて該凝集容器の底面を転がり互いに凝集することで、微生物の種類に応じて複数の大きさの前記凝集体を形成し、前記排出手段は、互いに大きさが異なる複数の前記凝集体のうち、特定の大きさを有した凝集体であって、前記凝集体の大きさに基づいて前記凝集容器の特定の深さ方向の位置に浮遊している凝集体を排出することを特徴とする。
【0013】
凝集容器内で生物反応が進むと、凝集性微生物は凝集容器内で増殖し、原料溶液中における微小な凝集体の形成や、凝集容器の内壁への付着を起こす。ここで、凝集容器は回転しながら原料溶液を撹拌するため、原料溶液中に形成した微小な凝集体は、撹拌で生じる対流により互いに衝突して肥大し、凝集容器の底部付近に沈降する。または、内壁に付着した凝集性微生物(付着微生物)は、撹拌による原料溶液と付着微生物との摩擦力や付着微生物に加わる重力などにより、一部が内壁から剥離し凝集性微生物の凝集体として原料溶液中に浮遊する。
【0014】
このように溶液中で成長した凝集体や、壁面から剥離して生じた凝集体は、原料溶液中の微小な凝集体や内壁に付着している付着微生物を取り込みながら回転方向に転がり、雪だるま式に肥大し大きな凝集体へと成長する。このような凝集体の肥大は、凝集容器内の複数箇所で同時多発的に生じるため、凝集容器内には複数の凝集体が形成される。このように、本発明の構成を備える微生物反応装置では、微生物の凝集を促進し微生物の凝集体を形成する。
【0015】
ここで、微生物の自己凝集体は、凝集性微生物の種類により凝集力・凝集速度などの条件が異なるため、同じ条件下で凝集させた場合に用いる微生物種によって凝集体の大きさに差が生じる。凝集体の大きさの差は、原料溶液内での沈降速度の差として現れ、小さい凝集体は浮かびやすく、大きい凝集体は沈みやすいものとなる。たとえば、大きい凝集体は、撹拌による原料溶液の対流からの影響を受けにくいため沈降しやすく、小さい凝集体は原料溶液の対流からの影響を強く受けるため原料溶液内を流動しやすいため沈降しにくい。
【0016】
更に、濃縮装置の回転条件を変更することで、この凝集体の大きさの差が拡大する。そのため、検出装置で検出した微生物の個体数に基づいて、原料溶液内から排除した微生物と原料溶液内に保持しておきたい微生物との凝集体の大きさの差が拡大する様に濃縮装置の回転を制御すると、沈降速度の差が拡大し、微生物種ごとに凝集容器の深さ方向に滞留する位置の差が生じる。結果、凝集体は、微生物種に起因する凝集体の大きさに基づいて、凝集容器の特定の深さ方向の位置で滞留する。
【0017】
すると、凝集体の大きさの差に応じて原料溶液内で分離した後に、原料溶液から排除したい微生物の凝集体を排出することで、原料溶液内の微生物の量(存在比)を制御することができる。例えば、排除したい微生物が大きな凝集体を形成しやすい場合には、濃縮装置の底部付近に沈降する凝集体を抜き出すことで、排除したい微生物を効率的に取り除く事が出来る。また、排除したい微生物が凝集体を形成しにくい場合には、原料溶液の液面に浮上し液面付近に高濃度で滞留するため、液面付近の原料溶液を抜き出すことで、効率的に取り除くことができる。
【0018】
したがってこの構成によれば、特定の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置とすることができる。また、微生物は凝集体を形成しているために、該凝集体を用いた反応により、高効率な生物反応を実現することができる。
【0019】
本発明においては、前記検出装置において、微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用い、前記原料溶液に含まれる微生物の種類ごとに個体数を計数することが望ましい。
【0020】
この構成によれば、各微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用いる事で、種類ごとに素早く計数することができる。したがって、計数結果を濃縮装置の回転数制御に速やかに反映させ、微生物反応装置を良好に制御することができる。
【0021】
なお、本発明において「微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブ」とは、各微生物の遺伝子と相同的又は相補的な塩基配列を有する核酸を認識し得るが、他の種類の微生物の遺伝子と相同的又は相補的な塩基配列を有する核酸は認識し難いポリヌクレオチドプローブを意味する。
【0022】
本発明においては、前記検出装置において、CARD−FISH法を用いた検出を行うことが望ましい。
この構成によれば、微生物の種類、標識に用いる蛍光物質や酵素の種類によって、蛍光色や強度が異なるため、微生物を種類ごとに計数することができる。また、蛍光強度を高め高感度で微生物を検出することが出来るため、例えば従来よりも低倍率の蛍光顕微鏡下での観察によって、細菌を検出し計数することが可能となり、計数に要する時間を短縮することができる。従って、計数結果を濃縮装置の回転数制御に速やかに反映させ、微生物反応装置を良好に制御することができる。
【0023】
本発明においては、前記検出装置は、前記微生物の画像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段で取得する画像を解析する解析手段と、を有し、前記検出手段は、前記撮像手段を用いて前記微生物の画像を撮像する第1工程と、前記解析手段を用いて前記第1工程で得られた画像を二値化し、得られる二値画像において、画素が連結している領域を1個体の微生物として認識する第2工程と、1個体の微生物として認識された領域を計数する第3工程と、を有する計数方法により前記微生物の個体数を計数することが望ましい。
この構成によれば、取得された画像から半自動的に個体数を計数することができるため、迅速に微生物を計数することができる。
【0024】
本発明においては、前記凝集容器から前記凝集体を含む前記原料溶液が供給される反応容器と、を有し、前記反応容器では、前記凝集体と前記原料溶液とを含む反応液を撹拌し前記凝集性微生物を培養することが望ましい。
この構成によれば、反応容器に供給される凝集体は、微生物の個体数または存在比が制御されているため、反応容器内において副反応のない良好な反応を行わせることができる。更に、凝集性微生物を凝集させる際、原料溶液が固体を含んでいると、該固体が凝集性微生物同士の凝集を阻害するために凝集体が生じない。しかし、この構成によれば、主として凝集体を形成する凝集容器と、主として生物反応の場として用いる反応容器と、が別体となっているため、まず、固体を含まない溶液を用いて凝集体を形成した後に、固体を含む溶液に凝集体を供給し、良好な反応を行う事が可能となる。
【0025】
本発明においては、前記反応容器は、前記反応液が含む前記微生物の種類および個体数を検出する検出装置と、前記検出装置における検出結果に基づいて前記反応容器の撹拌条件を制御する制御装置と、前記反応容器の中の前記反応液と共に、該反応液の特定の深さ方向の位置に浮遊している凝集体を排出する排出手段と、を備え、前記反応液に含まれる前記凝集体が、前記反応容器の撹拌に基づいて凝集または崩壊することで、微生物の種類に応じて複数の大きさの前記凝集体を形成し、前記排出手段は、互いに大きさが異なる複数の前記凝集体のうち、特定の大きさを有した凝集体であって、前記凝集体の大きさに基づいて前記反応容器の特定の深さ方向の位置に浮遊している凝集体を排出することが望ましい。
この構成によれば、反応容器においても微生物の種類ごとに異なる凝集体の大きさの差を利用して、特定の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、微生物種に応じた凝集体の形成のしやすさと、凝集体の大きさによる沈降速度の差を利用し、凝集体の形成条件を制御することで混在する微生物を分離し、目的の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置とすることができる。例えば、反応系内に増殖する夾雑菌を排除したり、2種以上の微生物種を用いる場合に存在比を制御したりすることが可能となると共に、用いる微生物が凝集体を形成しているために、該凝集体を用いた反応により、高効率な生物反応を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る微生物反応装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0028】
図1は、本実施形態の微生物反応装置1を示す概略構成図である。図に示すように、本実施形態の微生物反応装置1は、回転軸Lまわりを回転する凝集容器100と、凝集容器100を回転させるための回転装置110と、を備えている。
【0029】
凝集容器100の内部には、凝集性微生物と該微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液SSが貯留されている。原料溶液SSには凝集性微生物の凝集体AGが複数浮遊している。凝集体AGの形成が促進される原理については、後に詳述する。
【0030】
原料溶液SSは、深さ方向の位置によって、異なる凝集体が滞留する溶液S1及び溶液S2を有している。溶液S1には、主として目的とする凝集性微生物を含む凝集体AGを含み、溶液S2には、目的の凝集性微生物とは異なる種類の夾雑菌を含む凝集体Cを多く含んでいる。本実施形態では、夾雑菌が所望の凝集性微生物よりも凝集しにくい性質を有するものとし、凝集容器100の底部付近に溶液S1が、液面付近に溶液S2がそれぞれ滞留しているものとして説明する。図では、説明を容易にするために溶液S1と溶液S2との境界を波線で示す。
【0031】
微生物反応装置1は、原料溶液SSを貯留するタンク140を備えており、配管150を介して凝集容器100の内部に原料溶液SSを供給する構成となっている。配管150には、途中に原料溶液SSを供給するためのポンプ145が配置されている。
【0032】
更に、微生物反応装置1には、凝集容器100内部の原料溶液SSのうち、溶液S1を選択的に容器外に排出するための配管170を備えており、配管170の途中には排出ポンプ160が配置されている。排出の際には、原料溶液SSと共に凝集体AGも一部排出される。排出先で凝集体AGを利用する場合には、排出ポンプ160は、例えばダイヤフラムポンプ等のようなポンプ内での剪断力が小さい方式のものを用いると、ポンプ通過時に凝集体AGを粉砕しないため好ましい。
【0033】
配管170を介して排出される溶液S1には、凝集性微生物を用いた生物反応により生じた反応生成物も溶解している。そのため、配管170の下流で溶液S1を回収し、反応生成物を分離することで目的物(反応生成物)を得ることが出来る。
【0034】
また、微生物反応装置1には、凝集容器100内部の原料溶液SSのうち、溶液S2を選択的に容器外に排出するための排出装置(排出手段)180Aを備えており、一端が原料溶液SSの液面付近に位置する配管180と、配管180の途中に設けられた排出ポンプ185とを備えている。排出装置180を用いると、液面に高濃度に対流する夾雑菌Cを分取して廃棄する事が出来る。
【0035】
配管170は、一部にバイパス175が設けられている。バイパスの途中には微生物の種類及び数を検出する検出装置120が設けられている。検出装置120は配管170のバイパス175と接続されていることとしたが、配管170と接続されず、必要に応じて不図示のサンプリング口から原料溶液SSを取り出し、配管170に接続されていない検出装置120を用いて微生物の種類・数を検出することとしても良い。
【0036】
本実施形態の検出装置120では、ポリヌクレオチドプローブを用いた計数方法を用いて原料溶液SSに含まれる複数の微生物を種類ごとに計数する。本発明の検出装置120において、計数用に用いられるポリヌクレオチドプローブは、計数対象である目的の微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するものであって、目的の微生物と他の種類の微生物とを区別して検出しうるポリヌクレオチドプローブであれば、特に限定されるものではない。
【0037】
ここで、「微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブ」とは、各微生物の遺伝子と相同的又は相補的な塩基配列を有する核酸を認識し得るが、他の種類の微生物の遺伝子と相同的又は相補的な塩基配列を有する核酸は認識し難いポリヌクレオチドプローブを意味する。特異性に優れていることが期待できるため、各微生物の16S rDNA遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブであることが好ましい。このようなポリヌクレオチドプローブは、常法により設計し合成することができる。また、各微生物を検出し得るポリヌクレオチドプローブとして公知のポリヌクレオチドプローブを用いる事もできる。
【0038】
各微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用いて、微生物の種類ごとに計数する方法であれば、特に限定されるものではない。該方法として、例えば、ハイブリダイゼーション法や定量PCR(Polymerase Chain Reaction)法などがある。
【0039】
核酸抽出操作を要さず、簡便であることから、in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法により検出することが好ましい。特に、安全で且つ感度が良好であるために、蛍光標識されたプローブを用いる蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)法により検出することが好ましく、CARD−FISH(Catalyzed Reporter Deposition-Fluorescence in situ Hybridization)法(Pernthaler et al.、APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY、2002年、第68巻、第3094〜3101頁参照)により検出することが好ましい。
【0040】
CARD−FISH法とは、HRP(Horse Radish Peroxidase)の酵素反応を利用して蛍光色素を活性化させる事により、蛍光強度を高めた応用技術である。具体的には、HPR標識プローブなどを用いてFISHを行った後に、蛍光標識されたチラミド(tyramide)を作用させる。チラミドはHPRによりラジカル化されるが、このラジカルの寿命は非常に短いため、HPRの近傍にあるチロシンやトリプトファンなどの芳香族化合物とのみ共有結合する。この結果、ラジカル化された蛍光標識チラミドが、HPR標識プローブより標識された微生物に集積するため、従来のFISH法ではよりも非常に感度良く微生物を検出することが出来る。
【0041】
例えば、従来のFISH法では60倍から100倍の対物レンズを用いなければ検出出来なかった微生物が、CARD−FISH法により4〜10倍の対物レンズを用いても検出し得るようになる。つまり、CARD−FISH法を用いることにより、従来よりも低倍率の蛍光顕微鏡下での観察によって、細菌を検出し計数することが可能となるため、計数に要する時間を短縮することができる。本実施形態では、このCARD−FISH法を用いる。
【0042】
本実施形態の検出装置120は、上記のように処理した微生物の画像を撮像する撮像手段を有しており、撮像する画像を解析することにより簡便に微生物の種類と数とを検出することとしている。詳しくは、検出装置120では、微生物の画像を撮像する第1工程と、第1工程で得られた画像を二値化し、得られる二値画像において、画素が連結している領域を1個体の微生物として認識する第2工程と、第2工程で1個体の微生物として認識された領域を計数する第3工程と、を有する計数方法を用いて微生物の検出を行う。以下、工程ごとに説明する。
【0043】
まず第1工程として、原料溶液SSに含まれる微生物のデジタル画像(画像)を取得する。微生物のデジタル画像は、適当な倍率の顕微鏡と、該顕微鏡に接続されたCCDカメラなどの撮像手段とを有した、汎用されている顕微鏡撮影装置などを用いて取得することができる。
【0044】
次に、第2工程として、第1工程で得られたデジタル画像を二値化し、得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりを1個体の微生物として認識する。例えば黒白の二値画像では、周囲を黒で囲まれ連結して(連続して)白で表示される領域を、1個体の微生物として認識する。そして、第3工程として、1個体の微生物として認識された各々の領域の数を算出する。
【0045】
任意の閾値を用いて二値化することにより、デジタル画像は極端な濃淡像で識別化される。得られた二値画像において、画素が連結している一まとまりの領域を一体の微生物として認識することにより、画像中の、背景から分離される物体(微生物)の形状を、迅速かつ簡便に識別することができる。二値化に用いる閾値は、微生物の標識に用いた蛍光物質や酵素の種類や濃度などを考慮して適宜決定することができる。
【0046】
このような処理を行うと、含まれる微生物の種類ごとに用いるポリヌクレオチドプローブの種類に基づいて、相同的又は相補的に反応する遺伝子を有する微生物を判別することができる。特に、微生物の標識に用いた蛍光物質や酵素の種類や濃度などに応じて、異なる色・強度の蛍光を発するため、蛍光の種類に応じて微生物の種類を判別することができる。更に、蛍光を発する微生物を撮像し、画像処理を行うことで、迅速かつ簡便に微生物の種類ごとに計数することができる。
【0047】
本実施形態の検出装置120では、以上のような計数方法を用いて原料溶液SSに含まれる微生物の個体数を計数する。
【0048】
検出装置120で検出された微生物の種類及び数は、検出装置120に接続された制御装置130に出力される。制御装置130には、記憶装置にて微生物の個体数についての所定値を記憶しており、記憶している所定値と検出される微生物の個体数とを比較回路で比較することで、現在の運転条件が所望の微生物が得られる運転条件かどうかを判断する。
【0049】
所定値とは、例えば、本実施形態の微生物反応装置1の反応に用いない夾雑菌の含有許容量や、複数の微生物種の存在比を制御する場合においては、用いる微生物種全体の個体数に対する各々の微生物の個体数の比(即ち存在比)などを挙げることができる。
【0050】
制御装置130には、回転装置110も接続されており、検出装置120で検出した微生物の種類及び数に基づいて凝集容器100の回転速度を制御する。
【0051】
このような構成の微生物反応装置1は、凝集容器100が回転することにより内部の原料溶液SSを撹拌し、凝集性微生物を用いた生物反応を促進すると共に、凝集体AGを形成している。図2は、凝集容器100における凝集体AGの形成の様子を示す概略断面図であり、図1の線分A−Aに相当する断面図である。
【0052】
まず、図2(a)に示すように、生物反応が進むと、凝集性微生物は増殖し、原料溶液SS中で微小な凝集体agを形成すると共に、凝集容器100の内壁に付着する。凝集容器100は回転し原料溶液SSを撹拌するため、内壁に付着した凝集性微生物(付着微生物MO)は、撹拌による原料溶液SSと付着微生物MOとの摩擦力や、付着微生物MOに加わる重力などにより、一部が内壁から剥離する。
【0053】
次いで、図2(b)に示すように、剥離した付着微生物MOは、剥離していない付着微生物MOや原料溶液中の微小な凝集体agを取り込みながら回転方向に転がり、雪だるま式に肥大して凝集体AGを形成する。このような凝集体AGの肥大は、凝集容器100内の複数箇所で同時多発的に生じ、凝集容器100内では複数の凝集体AGが形成される。また、凝集体AGは形成の過程において崩壊することもあるが、崩壊した凝集体が核となり、同様に雪だるま式に肥大して再度凝集体AGとなる。このように、凝集性微生物の凝集体AGが形成される。
【0054】
凝集体AGの形成に用いる事ができる凝集性微生物としては特に限定が無く、例えばSaccharomyces cerevisiae KF−7株のような凝集性微生物を挙げることができる。
【0055】
このように形成される凝集体AGの粒径は、凝集容器100の回転速度(単位時間あたりの回転数)を変化させることにより制御することができる。即ち、回転が遅い場合には、凝集体AGが崩壊しないまま長時間転がるため大きな凝集体が形成され、逆に回転が速い場合には凝集体AGの崩壊が頻発するために小さい凝集体となる。
【0056】
また、凝集体AGの粒径は、凝集性微生物の種類により凝集力・凝集速度などの条件が異なるため、同じ条件下で凝集させた場合、存在する微生物種によって凝集体AGの大きさに差が生じる。更に、凝集容器100の回転条件を変更することで、この凝集体AGの大きさの差が拡大する。そのため、凝集容器100の回転を制御することで、原料溶液SSへの沈降しやすさ(沈降速度)の差が拡大し、凝集体AGの大きさに起因する沈降速度の差を利用して、微生物の分離を行うことができる。
【0057】
本発明の微生物反応装置1では、このようにして生じる凝集体AGの粒径の差を利用して、凝集容器100内の微生物種を制御することができる。例えば、目的とする生物反応に用いない夾雑菌の増殖が認められたような場合、夾雑菌の増殖を抑制し、凝集容器100内の汚染を防止することができる。
【0058】
図3は、微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。以下のフローチャートの説明においては、図1で示す各符号を用いて説明する。
【0059】
まず、始めに凝集容器100内を滅菌・洗浄し、原料溶液SSを貯留すると共に凝集性微生物を含む所望の微生物を植種する。そして、所定の回転速度で凝集容器100を回転させ、凝集体AGを形成する(ステップS11)。
【0060】
次いで、一定期間の運転後に、検出装置120を用いて凝集容器100内の原料溶液SSに含まれる微生物の種類及び数を検出し、夾雑菌の菌数を確認すると共に、夾雑菌の存在比を許容値と比較する。夾雑菌の菌数が許容値未満であれば、そのまま凝集容器100の運転を継続する(ステップS12)。
【0061】
検出装置120で検出される夾雑菌の菌数が許容値以上であれば、凝集容器100の運転条件の変更を行う(ステップS13)。微生物の自己凝集体は、凝集性微生物の種類により凝集力・凝集速度などの条件が異なるため、同じ条件下で凝集させた場合に用いる微生物種によって凝集体の大きさに差が生じる。この性質を利用し、夾雑菌と所望の微生物との相対的な凝集のしやすさにより運転条件を変更する。
【0062】
即ち、夾雑菌が所望の微生物よりも相対的に凝集しにくい場合には、凝集容器100の回転速度を速めて、より夾雑菌の凝集を阻害するように制御する。すると、夾雑菌を含む凝集体、または夾雑菌自体は浮上しやすくなり凝集容器100内の原料溶液SSの液面付近に滞留する。このような夾雑菌としては、例えば糸状細菌が挙げられる。
【0063】
また、夾雑菌が所望の微生物よりも相対的に凝集しやすい場合には、凝集容器100の回転速度を落として、より夾雑菌の凝集を助長するように制御する。すると、夾雑菌を含む凝集体は沈降しやすくなり、凝集容器100の底部付近に滞留する。
【0064】
一定期間、このように運転条件を制御した後、夾雑菌を含む凝集体Cを凝集容器100から抜き取る。本実施形態の微生物反応装置1では、凝集容器100内から排出装置180Aを用いて夾雑菌が多く滞留している溶液S2を抜き取り廃棄する(ステップS14)。
【0065】
夾雑菌の抜き取りの後、再度検出装置120を用いて凝集容器100内の原料溶液SSに含まれる微生物の種類及び数を検出する。凝集容器100の運転条件変更とその後の抜き取りにより夾雑菌の菌数が許容値未満となっていれば、凝集容器100の運転を継続する。一方で、夾雑菌の菌数が引き続き許容値以上であれば、再度凝集容器100の運転条件の変更(S13)を行う(ステップS15)。
【0066】
ステップS13からステップS15までの循環(ループ)については、例えば最大の連続ループ数を設定しておき、該連続ループ数の設定値以上のループが行われた場合には、装置を停止し洗浄・滅菌処理を行うこととしておくと、無用に長時間の運転を行う事がない。
【0067】
また、上記フローにて制御可能な夾雑菌の最大比を予め設定しておき、夾雑菌が該最大比以上に含まれている場合には、装置を停止し洗浄・滅菌処理を行うこととしておいても、無用に長時間の運転を行う事がなく好適である。
【0068】
以上のように、微生物反応装置1の運転を制御することで、夾雑菌の増殖を抑制する。
【0069】
一般に微生物は、環境に順応し徐々に増殖する時期(誘導期、遅滞期)を過ぎると、一定以上に増殖した微生物が指数関数的に増殖する時期(指数増殖期、対数増殖期)を迎える。そのため、夾雑菌の増殖抑制という観点からは、対数増殖期を迎える前、あるいは対数増殖期に入ってからできるだけ初期のうちに夾雑菌の増殖抑制のための運転条件変更を行うことが好ましい。そのため、上記フローにおいては、一定時間ごとに夾雑菌の菌数を確認し(S12)、得られる夾雑菌の増殖速度から許容値に達するまでの期間を想定することで、夾雑菌の測定結果が許容値未満であってもS13の運転条件変更を行うこととしても良い。
【0070】
また、本実施形態の微生物反応装置1にて、凝集性微生物を含む2種以上の微生物を用いた生物反応を行う場合、好適な微生物の存在比を維持するために利用することとしても良い。図4は、微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。
【0071】
即ち、始めに凝集容器100内を滅菌・洗浄し、原料溶液SSを貯留すると共に凝集性微生物を含む複数の微生物を植種する。そして、所定の回転速度で凝集容器100を回転させ、凝集体AGを形成する(ステップS21)。
【0072】
次いで、一定期間の運転後に、検出装置120を用いて凝集容器100内の原料溶液SSに含まれる微生物の種類及び数を検出し、微生物の存在比を確認する。微生物の存在比が適切であれば、そのまま凝集容器100の運転を継続する(ステップS22)。
【0073】
検出装置120で検出される微生物の存在比が不適であれば、凝集容器100の運転条件の変更を行い、微生物種による凝集体の形成しやすさを利用して分離させる(ステップS23)。
【0074】
一定期間、このように運転条件を制御した後、凝集体AGを凝集容器100から抜き取り微生物の存在比を調節する(ステップS24)。
【0075】
抜き取り操作の後、再度検出装置120を用いて原料溶液SSに含まれる微生物の種類及び数を検出して、微生物の存在比を確認する。凝集容器100の運転条件変更とその後の抜き取りにより微生物の存在比が適切な値となっていれば、凝集容器100の運転を継続する。一方で、微生物の存在比が引き続き不適であれば、再度凝集容器100の運転条件の変更(S23)を行う(ステップS25)。
【0076】
ステップS23からステップS25までのループについては、最大の連続ループ数を設定しておき、該連続ループ数の設定値以上のループが行われた場合には、装置を停止することとしておくと、無用に長時間の運転を行う事がない。また、制御可能な存在比のずれの最大置を予め設定しておき、制御可能なずれから大きく逸脱する場合には装置を停止することとしておくと、無用に長時間の運転を行う事がない。
【0077】
以上のように、微生物反応装置1の運転を制御することで、微生物の存在比を制御することができる。
【0078】
図3,図4に示したフローを組み合わせることで、例えば、2種の微生物を用いた反応において夾雑菌が発生した場合には、まず、図3に示したフローにより夾雑菌を凝集容器から排除した後に、図4のフローにより存在比を制御することができる。更に、3種以上の微生物を用いた反応を行う場合には、用いる微生物の種類に応じて図4のフローを複数回行い微生物の存在比を制御することができる。
【0079】
以上のような構成の微生物反応装置1によれば、微生物種に応じた凝集体AGの形成のしやすさと、凝集体AGの大きさによる沈降速度の差を利用し、凝集体AGの形成条件を制御することで混在する微生物を分離し、目的の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置とすることができる。微生物反応装置1を用いると、例えば、反応系内に増殖する夾雑菌を排除したり、2種以上の微生物種を用いる場合に存在比を制御したりすることが可能となると共に、用いる微生物が凝集体AGを形成しているために、該凝集体AGを用いた反応により、高効率な生物反応を実現することができる。
【0080】
なお、本実施形態では、夾雑菌が所望の微生物よりも相対的に凝集しにくいこととしたため、排出装置180Aを用いて液面近くの溶液S2を抜き出すこととしたが、排出装置180Aによる抜き取りの位置は夾雑菌の性質によって変化する。即ち、夾雑菌が所望の微生物よりも相対的に凝集しやすい場合には、溶液S2は底部付近に滞留するため、排出装置180Aは底部付近から抜き出しを行うこととなる。また、底部付近から抜き出しを行う場合には、凝集容器100の底部付近に別途払い出し口を設けておき、該払い出し口の開閉操作にて抜き出しを行う事としても良い。
【0081】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る微生物反応装置2を示す概略構成図である。本実施形態の微生物反応装置2は、第1実施形態の微生物反応装置1と一部共通している。異なるのは、配管170の下流側に別途生物反応を行う場としての反応容器200を備えることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0082】
反応容器200は、配管170を介して供給される原料溶液SSを含む反応液RSが満たされている。反応液RSの組成は、原料溶液SSと同じ組成であることには限らず、凝集体AGを形成する凝集性微生物を用いて所望の反応を行う種々の原料を含む溶液を用いることができる。更には、反応液RSは、例えば木くずや木の葉などの固体を含んでいても構わない。
【0083】
反応液RSは、深さ方向の位置によって、異なる凝集体が滞留する溶液S1及び溶液S2を有しており、溶液S1には、主として目的とする凝集性微生物を含む凝集体AGを含み、溶液S2には、夾雑菌を含む凝集体Cを多く含んでいる。図では、説明を容易にするために溶液S1と溶液S2との境界を波線で示す。
【0084】
また、反応容器200は、反応液RSを撹拌する撹拌装置210と、反応容器200内の反応液RSに含まれる微生物の個体数を検出する検出装置220と、反応容器200から反応液が流出する流出路(排出手段)240とを備えており、流出路240の途中には、流出する反応液RSが含む液体と固体を分離する固液分離槽230と、を備えている。微生物反応装置2は、原料溶液SSが反応容器200へ連続して流入し、且つ反応容器200からは流出路240を介して反応液RSが連続して流出する、連続式の運転制御を行っているが、回分式の運転制御を行う事としても構わない。
【0085】
撹拌装置210は、攪拌器212および攪拌器212を運転する回転モータ214を有している。本実施形態では、攪拌機212で撹拌する撹拌式としたが、反応容器200内に吹き込む気体で反応液RSを撹拌する流動床式であっても良い。また、その両方を備えていても構わない。
【0086】
検出装置220には、検出装置120と同様の装置を用いることができる。検出装置220で検出された微生物数は、検出装置220に接続された制御装置130に出力される。制御装置130には、回転モータ214が接続されており、入力された検出値に基づいて攪拌器212との回転速度を制御し、反応容器200内の凝集体AGの粒径を制御する。
【0087】
反応容器200内の凝集体AGは、撹拌装置210の撹拌による剪断力で粉砕され、凝集性微生物の小片SPとなって反応容器200から流出する。或いは、反応容器200内で繁殖する凝集性微生物の付着や、凝集体AG同士の衝突による付着等に起因して、粒径が大きくなり流動不良となって沈降する。
【0088】
固液分離槽230は、反応容器200から流出する反応液RSに含まれる固形分を沈降させ液体と分離させる機能を備える。固液分離槽230では、流出する反応液RSが含む小片SPも沈降するため、沈降した小片SPを回収し再度反応容器200に投入することで、反応容器200内の微生物濃度を高濃度に保つ事ができる。
【0089】
微生物反応装置2は、連続式の運転制御を行っているため。流出路240からは、反応液RSが連続して流出している。その際、反応液RSのうち、目的とする凝集体AGは沈降しやすいため反応容器200の底部に滞留し(溶液S1)、夾雑菌を含む凝集体Cは液面付近に滞留するため(溶液S2)、夾雑菌を含む凝集体Cは流出路240を介して流出しやすくなっている。
本実施形態の微生物反応装置2は、以上のような構成となっている。
【0090】
本実施形態の微生物反応装置2においても、反応液RSにおける夾雑菌の増殖の抑制や、反応液RSに含まれる微生物の存在比の制御を行うことが可能である。図6は、本実施形態の微生物反応装置2において、夾雑菌の増殖を制御するための操作の例を示すフローチャートである。
【0091】
まず、始めに反応容器200内を滅菌・洗浄した後に、凝集容器100から供給される原料溶液SSを貯留する。そして、所定の撹拌条件で撹拌装置210を運転し、撹拌を行う(ステップS31)。
【0092】
次いで、一定期間の運転後に、検出装置220を用いて反応液RSに含まれる微生物の種類及び数を検出し、夾雑菌の菌数を確認すると共に、夾雑菌の存在比を許容値と比較する。夾雑菌の菌数が許容値未満であれば、そのままの撹拌条件で反応容器200の運転を継続する(ステップS32)。
【0093】
検出装置220で検出される夾雑菌の菌数が許容値以上であれば、反応容器200の撹拌条件の変更を行い、主として撹拌装置210による撹拌の剪断力を利用して、凝集体の大きさを制御する(ステップS33)。
【0094】
一定期間、撹拌条件を制御した後、夾雑菌を含む凝集体を反応容器200から抜き取る。夾雑菌が凝集しにくく浮上しやすい場合、本実施形態の微生物反応装置2では、越流により反応容器200から流出する。夾雑菌が凝集しやすく沈降しやすい場合、反応容器200内の底部から反応液RSごと夾雑菌を抜き取る。本実施形態では、夾雑菌を含む凝集体Cは凝集しにくく浮上しやすい性質を備えているため、連続式の運転制御により、溶液S2おける夾雑菌を含む凝集体Cの濃度を高め、反応液RSの流出と共に、流出路240を介してより多く系外に排出される(ステップS34)。
【0095】
夾雑菌の抜き取りの後、再度検出装置220を用いて反応液RSに含まれる微生物の種類及び数を検出し、夾雑菌の菌数が許容値未満となっていれば、反応容器200の運転を継続する。一方で、夾雑菌の菌数が引き続き許容値以上であれば、再度反応容器200の撹拌条件の変更(S33)を行う(ステップS35)。
【0096】
図7は、本実施形態の微生物反応装置2において、微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。
【0097】
即ち、反応容器200内を滅菌・洗浄した後に、凝集容器100から供給される原料溶液SSを貯留する。そして、所定の撹拌条件で撹拌し装置の運転を行う(ステップS41)。
【0098】
次いで、一定期間の運転後に、検出装置220を用いて反応容器200内の反応液RSに含まれる微生物の種類及び数を検出し、微生物の存在比を確認する。微生物の存在比が適切であれば、そのままの撹拌条件で反応容器200の運転を継続する(ステップS42)。
【0099】
検出装置220で検出される微生物の存在比が不適であれば、凝集容器100の運転条件の変更を行って、反応液RSで存在比が少なくなっている微生物を多く供給できるように、反応容器200へ供給される原料溶液SSに含まれる微生物の存在比を変更する(ステップS43)。凝集容器100の運転条件の変更は図4で示されたフローチャートに従い行う。
【0100】
微生物の存在比を変更した原料溶液SSの供給を一定期間行った後、再度検出装置220を用いて反応液RSに含まれる微生物の種類及び数を検出して、微生物の存在比を確認する。微生物の存在比が適切な値となっていれば、凝集容器100の運転を所定の微生物の存在比となる運転条件に戻し、その後の運転を継続する。一方で、微生物の存在比が引き続き不適であれば、再度凝集容器100の運転条件の変更(S43)を行う(ステップS45)。
【0101】
以上のように、微生物反応装置2の運転を制御することで、反応液RSにおける夾雑菌の増殖の抑制や、反応液RSに含まれる微生物の存在比の制御を行うことが可能である。
【0102】
以上のような構成の微生物反応装置2によれば、反応容器200に供給される凝集体AGは、微生物の個体数または存在比が制御されているため、反応容器200内において副反応のない良好な反応を行わせることができる。更に、主として凝集体を形成する凝集容器100と、主として生物反応の場として用いる反応容器200と、が別体となっているため、例えば反応液RSが固体を含む場合であっても、固体を含まない溶液を用いて凝集体AGを形成した後に、固体を含む溶液に凝集体を供給し、良好な反応を行う事が可能となる。
【0103】
また、反応容器200が検出装置220と、撹拌装置210の撹拌条件を制御する制御装置130とを備えているため、反応容器200内の反応液RSにおいて特定の微生物を高濃度に保持することが可能な反応装置とすることができる。
【0104】
なお、本実施形態では、反応容器200に接続される凝集容器100は1つとしているが、複数接続される事としても良い。複数の凝集容器100を用いる場合には、各々の凝集容器において同様に夾雑菌の抑制や微生物の存在比の制御を行うこととすると良い。
【0105】
また、ここでは、凝集容器100の運転条件を制御することで反応容器200内の微生物の存在比を制御することとしたが、図6に示したフローチャートに基づいて、夾雑菌の代わりに存在比が多い微生物を抜き取り、存在比を制御することとしても良い。
【0106】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1実施形態の微生物反応装置を示す概略構成図である。
【図2】凝集容器における凝集体の形成の様子を示す概略断面図である。
【図3】微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。
【図4】微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係る微生物反応装置2を示す概略構成図である。
【図6】微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。
【図7】微生物種を制御するための操作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
1,2…微生物反応装置、100…凝集容器、120,220…検出装置、130…制御装置、180…側管(排出口)、200…反応容器、AG…凝集体、L…回転軸、RS…反応液、SS…原料溶液、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集性微生物を含む複数の微生物を培養して該凝集性微生物を含む凝集体を形成すると共に、前記複数の微生物の各々について個体数を制御する微生物反応装置であって、
前記複数の微生物と該複数の微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液とを、自身を貫通する所定の回転軸の周りを回転することで撹拌し、前記凝集性微生物を培養する凝集容器と、
前記原料溶液が含む前記微生物の種類および個体数を検出する検出装置と、
前記検出装置における検出結果に基づいて、前記凝集容器の回転条件を制御する制御装置と、
前記凝集容器の中の前記原料溶液と共に、該原料溶液における特定の深さ方向の位置に浮遊した前記凝集体を排出する排出手段と、を備え、
前記凝集容器の内壁に付着する前記凝集性微生物を含む複数の微生物が、前記凝集容器の回転に基づいて該凝集容器の底面を転がり互いに凝集することで、微生物の種類に応じて複数の大きさの前記凝集体を形成し、
前記排出手段は、互いに大きさが異なる複数の前記凝集体のうち、特定の大きさを有した凝集体であって、前記凝集体の大きさに基づいて前記凝集容器の特定の深さ方向の位置に浮遊している凝集体を排出することを特徴とする微生物反応装置。
【請求項2】
前記検出装置において、微生物の遺伝子の塩基配列に特異的な塩基配列を有するポリヌクレオチドプローブを用い、前記原料溶液に含まれる微生物の種類ごとに個体数を計数することを特徴とする請求項1に記載の微生物反応装置。
【請求項3】
前記検出装置において、CARD−FISH法を用いた検出を行うことを特徴とする請求項2に記載の微生物反応装置。
【請求項4】
前記検出装置は、前記微生物の画像を撮像する撮像手段を有し、
前記撮像手段を用いて前記微生物の画像を撮像する第1工程と、
前記第1工程で得られた画像を二値化し、得られる二値画像において、画素が連結している領域を1個体の微生物として認識する第2工程と、
1個体の微生物として認識された領域を計数する第3工程と、を有する計数方法により前記微生物の個体数を計数することを特徴とする請求項3に記載の微生物反応装置。
【請求項5】
前記凝集容器から前記凝集体を含む前記原料溶液が供給される反応容器、を有し、
前記反応容器では、前記凝集体と前記原料溶液とを含む反応液を撹拌し、前記凝集性微生物を培養することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の微生物反応装置。
【請求項6】
前記反応容器は、前記反応液が含む前記微生物の種類および個体数を検出する検出装置と、
前記検出装置における検出結果に基づいて前記反応容器の撹拌条件を制御する制御装置と、
前記反応容器の中の前記反応液と共に、該反応液の特定の深さ方向の位置に浮遊している凝集体を排出する排出手段と、を備え、
前記反応液に含まれる前記凝集体が、前記反応容器の撹拌に基づいて凝集または崩壊することで、微生物の種類に応じて複数の大きさの前記凝集体を形成し、
前記排出手段は、互いに大きさが異なる複数の前記凝集体のうち、特定の大きさを有した凝集体であって、前記凝集体の大きさに基づいて前記反応容器の特定の深さ方向の位置に浮遊している凝集体を排出することを特徴とする請求項5に記載の微生物反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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