説明

微生物指示薬を含有する皮膚コーティング

【課題】外科的用途で使用するための微生物汚染の指示薬を提供する。
【解決手段】皮膚シーラントは、通常は皮膚処置剤上に塗布され、皮膚を閉じて、外科的処置の前にあらゆる残留細菌を所定の位置で保持する。このシーラントは、通常、外科的処置後は皮膚上に残される。微生物又は微生物副産物と接触して視認できる変色を呈する指示薬を有する皮膚コーティングが提供され、それにより感染の早期警告を提供する。前記コーティングは、硬化性コーティング組成物であり、皮膚処置剤を伴わずに使用することもでき、創傷、打撲傷、擦過傷、やけど、にきび、水脹れ、かみ傷、刺し傷、穿孔及び切り傷などの他の皮膚の崩壊を保護するために使用することもできる。前記コーティングは、創傷を閉じるために使用することもでき、或いは爪や粘膜などの皮膚の他の部分に対する追加のバリアを提供することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物指示薬を含有する皮膚コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカ合衆国では外科手術の約2〜3%で手術部位感染(surgical site infection:SSI)が発生しており、患者の罹患率及び死亡率を大幅に高めるSSIが年間50万件発生していると推定されている。手術部位感染は患者の健康に悪影響を与えるのみならず、回避可能であるこの手術部位感染は医療制度の財政負担に大きな影響を及ぼす。SSIは切開部が細菌に汚染されると発生し、多くの手術では、感染を引き起こす微生物の主要な感染経路は皮膚である(消化管を穿刺手術する場合を除く)。
【0003】
手術前に皮膚を処理するために、様々な組成物が使用される。皮膚処理剤(Skin preparation又はprep)は、皮膚切開前に皮膚上に存在する微生物をある程度除去するために使用される。皮膚シーラント材料は、手術部位の切開及び静脈注射針の挿入に伴う細菌感染から患者を保護するために使用される。皮膚処理剤は、皮膚に塗布され、塗布後に微生物を減少させる効果を最大化するために乾燥させられる。皮膚処理剤を乾燥させた後、前記シーラントを皮膚上に液体形態で直接的に塗布する。前記シーラントは、前記シーラント組成物の化学的性質に基づいた様々な技術によって、前記皮膚への強力な粘着性を有する粘着性膜を形成する。
【0004】
従来の皮膚処理剤は、主に、ポビドンヨード又はグルコン酸クロルヘキシジンに基づいた製剤であり、乾燥を急速に行うため及び微生物をより効率的に殺滅するためのアルコールを含み得る。
【0005】
最近の皮膚シーラントは、例えば、乾燥すると溶媒の気化によって膜を形成するポリマー組成物を使用する。また、in situ重合してポリマー膜を形成するモノマーユニットを含有する皮膚シーラントもある。アルキルシアノアクリレートモノマーを含むシアノアクリレートシーラントは、後者のタイプの一例であり、前記モノマーが例えば水やタンパク質分子等の極性種の存在下で重合してアクリル膜を形成する。形成された膜は、皮膚上に存在する細菌フローラを固定する働きをし、細菌フローラが、外科手術中に形成された切開部又は静脈注射針の挿入に関連する皮膚孔へ移動するのを防止する。
【0006】
また皮膚コーティングは、爪や人体の粘膜表面を保護又は処置することを目的とした物質を含むこともある。そのような物質としては、マニキュア、目薬、スプレー式点鼻薬などが挙げられ、それらの物質は、皮膚と周囲との間に追加のバリアを提供する役割を果たす。
【0007】
皮膚シーラントの使用は、手術部位感染の発生を著しく減少させたが、大きな懸念がまだ残っている。微生物汚染が存在しているときに、そのことを示す皮膚シーラントは今のところ知られていない。そのような指示薬は、医療提供者(medical provider)に対して感染の存在又はその感染が進行する可能性についての早期警告を与えるであろう。
【0008】
外科的用途で使用するための微生物汚染の指示薬が必要とされていることは明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当業者が直面している上述の課題に対処するために、我々は、感染を引き起こし得る微生物の存在を視覚的に示すべく皮膚コーティングに首尾よく添加することができる染料と着色剤との新規のサブセットを見出した。前記染料のいくつかは、様々な微生物に対して反応するものであり、別のものは、特に酵母、細菌、かび及び/又はウイルスに対して特異的なものである。この指示薬は、コーティング組成物中に、約1000ppm以下の量で存在することができ、50乃至800ppmの間の量で存在することがより好ましく、100乃至500ppmの間の量で存在することが更により好ましい。硬化性コーティング及び指示薬は、外科的処置の前に皮膚の清潔さを確かめるために使用され得る。また硬化性コーティング及び指示薬は、微生物と接触した後20分未満の時間内に微生物の存在を示すべきであり、微生物と接触した後5分未満で微生物の存在を示すことがより好ましく、微生物と接触した後30秒未満で微生物の存在を示すことが更により好ましい。また、硬化性コーティング及び指示薬は、皮膚表面上の微生物汚染の増加を時間とともにモニタするために使用することもできる。極わずかな量の微生物が皮膚内又は皮膚上に既に存在していることがあり、そのような微生物は時間とともに増殖し、重大な感染をもたらし得るのに十分な数を有するコロニー(集団)を形成する。またそのような感染は、感染された手、器具、又は針などとの接触を介した外科的処置後の汚染から発生し得る。微生物汚染を示すコーティングは、例えば、瞬時に汚染することができる多数の微生物の存在、又は皮膚上若しくは皮膚内の微生物の経時的な増加のいずれも検出し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
微生物汚染を、1つの微生物或いは複数の種類の微生物に対して別個のスペクトル反応を生成する染料又は着色剤を使用して検出することができることが見出された。検出され得る微生物としては、特定のものに限定されるわけではないが、細菌、酵母、菌類、かび、原生動物、ウイルスなどが挙げられる。検出され得るいくつかの関連する細菌群としては、例えば、グラム陰性桿菌(例えば、腸内細菌)、グラム陰性湾曲桿菌(例えば、ビビウス(vibious)、ヘリオバクター、カンピロバクターなど)、グラム陰性球菌(例えば、ナイセリア)、グラム陽性桿菌(例えば、バチルス、クロストリジウムなど)、グラム陽性球菌(例えば、ブドウ球菌、連鎖球菌など)、偏性細胞内寄生体(例えば、リケッチア、クラミジア)、抗酸性桿菌(例えば、マイコバクテリウム、ノカルジアなど)、スピロヘータ(例えば、トレポネーマ、ボレリアなど)、マイコプラズマ(即ち、細胞壁のない微小細菌)などが挙げられる。特に関連のある細菌としては、大腸菌(グラム陰性桿菌)、肺炎桿菌(グラム陰性桿菌)、連鎖球菌(グラム陽性球菌)、豚コレラ菌(グラム陰性桿菌)、黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌)、緑膿菌(グラム陰性桿菌)などが挙げられる。
【0011】
細菌に加えて、関心のある他の微生物としては、菌類界に属するかび、酵母(例えば、カンジダアルビカンス)などが挙げられる。例えば、接合菌は、黒パンかびや、植物及び動物と共生関係を示す他のかびを含む菌類のクラスである。これらのかびは、堅い「接合胞子」を溶解及び形成することができる。子嚢菌門は、酵母、うどん粉病菌、黒及び青緑かび、並びにオランダニレ病、リンゴ黒星病、麦角などの病気を発症させる複数の種を含む別の菌類のクラスである。これら菌類の生活環は、有性及び無性生殖の両方を結合し、菌糸は、細胞核及び細胞質の通過を可能にする多孔性の壁の中に分割される。不完全菌門は、上述した菌類のクラス又は担子菌類のクラス(ほとんどのキノコ、微小菌類及びホコリタケ菌類を含む)に容易に適合しない菌類の様々な集合を含む別の菌類のクラスである。不完全菌類は、チーズ及びペニシリンを生成する種を含むが、皮膚真菌症及び白癬を生じさせるような疾患を引き起こす要素も含む。具体的には、皮膚真菌症(足白癬とも呼ばれる)は、白癬菌の白癬(ring worm fungus tinea)によって発症する。人口の最大70%の人々が、生きている間のある時点で皮膚真菌症に感染する。それは、感染が生じた床、ソックス、及び衣類との接触によって人から人へと感染する。爪真菌(爪甲真菌症)は、手の爪及び足の爪が感染することができ、非常に一般的である。米国内の3500万人を超える人々が、その爪の下に爪真菌を有している。爪真菌は、一般的に、人が裸足で移動するシャワー室、浴室、又はロッカー室を介して人から人に感染する。
【0012】
本明細書中で使用される「皮膚」という用語は、爪、髪、肌、目、粘膜を含む身体全ての外表面を意味する。前記皮膚は正確には、表皮、真皮、皮下組織の3つの層から成る。本発明の指示薬は、表皮又は真皮の層上又は層中に存在する微生物汚染又は感染を、微生物自体又は関連する副産物(例えば、揮発性物質、代謝産物、又は微生物に関連する他の要素)のどちらかとの接触を介して検出することができる。
【0013】
皮膚シーラント材料は、手術部位の切開及び静脈注射針の挿入に伴う細菌感染から患者を保護するのに使用される硬化性コーティングである。皮膚シーラントは、多くの場合、ベタディン(登録商標)皮膚処理剤の上に直接的に塗布される。皮膚シーラントは、前記シーラント組成物の化学的性質に基づいた様々な技術によって、前記皮膚への強力な粘着性を有する粘着性膜を形成する。アルキルシアノアクリレートモノマを含むシアノアクリレートシーラントなどの皮膚シーラントは、モノマが極性種(例えば水又はタンパク分子など)の存在下で重合し、アクリル系フィルムを形成する種類の一例である。シアノアクリレートは、例えば、2−アルキルシアノアクリレートを含む。この場合、アルキル基は、直鎖、分岐鎖、又は環状鎖のC〜Cの炭化水素である。
【0014】
切開部又は他の種類の皮膚の創傷における微生物感染をできる限り早く警告することは、医療関係者にとって有益であろう。本願発明者は、微生物の存在下で変色する皮膚コーティングを提供することにより、医療関係者に有益な情報を提供できると考えている。
【0015】
最初は、微生物指示薬の1つを皮膚コーティング製剤中に含ませても、指示染料を感染又は汚染を発生させる微生物と接触させることができず、それ故に視覚的な指示は発生しないと考えられた。前記指示薬が作用しないのは、大半の染料が皮膚コーティングのバルク中に保持され、それ故に皮膚コーティングの境界面上で保持されないことに起因するものであり得る。しかしながら、本願発明者の熱心な努力により、微生物汚染の存在下において、視覚的な変色を与えるために十分な染料が膜の表面上に存在することを明らかにした。この推測によって拘束されることを望むわけではないが、本願発明者は、一つには硬化中のポリマの結晶化により、またポリマ中の染料のわずかな不一致に起因する染料の表面分離にもより、染料は膜の表面に向かって集中すると考える。
【0016】
本発明の指示薬及び硬化性コーティング組成物は、従来の皮膚シーラント(すなわち外科的切開術を行う際の膜形成バリア)として使用するのに加えて、創傷、打撲傷、擦り傷、やけど、にきび、水脹れ、かみ傷、刺し傷、爪、表皮、穿刺、切り傷及び他の皮膚の崩壊を、その後の汚染から保護するために又は事前感染領域の拡大に起因する存在を指示するために閉じる及び/又は覆う絆創膏(或いは包帯)のように使用することもできる。したがって、前記皮膚コーティング組成物の使用は、医療関係者に限定されるものではない。また、前記皮膚コーティング組成物の塗布前における皮膚処理剤の使用は必須ではない。
【0017】
創傷保護は、治癒過程の実施に重要である。従来の絆創膏やガーゼ創傷包帯は、急性創傷又は皮膚炎を治療/保護するために消費者によって使用されてきた。このような絆創膏は一般的に、能動的に作用せず、創傷治癒のための化学的治療はほとんど提供しない。むしろ、このような絆創膏は、創傷部に低レベルの圧力を加え、創傷部を周囲環境への露出から保護し、創傷部で生成された浸出液を吸収する働きをする。このような絆創膏は一般に、創傷部に貼った後に消費者から見える基層を含む。前記基層は、典型的には、ポリマー材料(例えばフィルム等)、不織布ウエブ、又はそれらの組み合わせから作成され、可撓性及び/又は通気性をもたらすために何らかの方法で穿孔されている。前記基層は、多くの場合、絆創膏を創傷部に貼った後に消費者から見える上面と、底面(皮膚接触面)とを有する膜要素を備えている。絆創膏を消費者に貼り付ける手段を提供するために、前記基層の前記底面に肌に優しい接着剤が通常は具備されている。或いは、前記絆創膏/創傷包帯が非粘着型である場合は、別個の接着テープを使用して、前記絆創膏/創傷包帯を前記創傷部に貼り付ける。前記基層の前記底面の中央には一般に、前記創傷からの浸出液を吸収するための吸収パッドが通常は配置される。そして、前記吸収パッドと前記創傷部との間にバリアを提供するために、前記吸収パッド上には、非粘性の穿孔膜層が通常は設けられる。創傷液が前記穿孔膜層を通過することにより、創傷部に創傷液が粘着することがなくなる。典型的には、このような絆創膏の前記吸収パッドは薬剤成分を含んでいないが、比較的最近の絆創膏メーカーは、創傷治癒を助長するために、抗生物質製剤を絆創膏の表面又は内部に含めることを始めている。
【0018】
本発明に係る皮膚コーティング組成物は、この複雑な絆創膏構造を、乾燥すると柔軟性コーティングとなり創傷部を絆創膏と同じようにして保護する液体を用いた1回の液体処理に置き換えることができる。さらに、微生物阻害領域の形成及び創傷治癒の促進等の更なる利益をもたらすために、例えば抗生物質製剤等の薬剤が効果的な量で前記組成物に混合される。前記コーティングは、表在性の創傷、やけど、擦り傷の表面を覆う効果的な厚さの膜を形成するために塗布される。治療される創傷が表在性であり皮層下まで延在していないため、創傷内で形成又は拡散されるポリマー残基は、前記皮膚から自然に押し出される。一般に、前記コーティングは、形成されたときに十分な可撓性及び組織に対する粘着性を有し、すぐに剥離及び亀裂が生じない、創傷領域を覆う粘着性膜を提供する。このコーティングは、約0.5mm未満の厚さを有する。
【0019】
このような厚さのシーラントコーティングは、表存性創傷上に物理的なバリア層を形成し、従来の絆創膏と同じような方法で前記創傷を保護する。具体的には、前記コーティングは、創傷部が濡れたときに交換する必要がないほぼ気密性の防水シールを、前記創傷部の周辺に形成する。一旦塗布されると、前記コーティングは、細菌及び汚染物質が前記創傷部に進入するのを防止し、それ故に二次感染の可能性が減少する。一般に、前記粘着性コーティングは、コーティング領域の動きを妨げるものではない、及び創傷の早期治癒を促進することができる。さらに、従来の絆創膏とは異なりコーティングは塗布後2〜3日で皮膚から自然に剥がれ落ちるので、従来の絆創膏を皮膚から剥がすときのような不快感はない。しかし、もし、このポリマー性コーティングを早期に除去したいのであれば、アセトン等の溶剤を使用することにより除去することができる。このことについての詳細は米国特許第6,342,213号を参照されたい。
【0020】
詳述すると、殺菌性塩化ベンザルコニウムと、ポリミキシンB硫酸及び亜鉛バシトラシンの抗生物質混合物とを含む創部治癒製品が、現在いくつか市販されていることに留意されたい。この技術分野の特許には、一般に知られている殺菌剤や抗生物質の使用が開示されている(米国特許第4,192,299号、第4,147,775号、第3,419,006号、第3,328,259号、第2,510,993号)。米国特許第6,054,523号(Braun et al.)には、凝縮可能塩基を含有するオルガノポリシロキサンと、縮合触媒と、オルガノポリシロキサン樹脂と、塩素窒素を含有する化合物と、ポリビニルアルコールとから作成された物質が開示されている。米国特許第5,112,919号には、熱可塑性物質ベースのポリマー(例えばポリエチレン、又はエチレンのコポリマー)を、1−ブテン・1−ヘキセン・1−オクテン等、シラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン)を含有する固形担体ポリマー(例えばエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA))及び遊離基生成剤(例えば有機過酸化物)と混合し、その混合物を加熱することにより作成される水架橋性ポリマーが開示されている。前記コポリマーは、その後、水と触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸スズ)の存在下での反応により架橋結合させることができる。米国特許第4,593,071号(Keough)には、ペンダントシランアクリロキシ基を有する水架橋性エチレンコポリマーが開示されている。
【0021】
ポリウレタン創傷コーティングが、EP0992 252 A2(Tedeshchl et al.)に開示されている。この文献には、ポリイソシアネートと、アミン供与体及び/又は水酸基供与体と、末端イソシアネート基及びアルコキシルシランを有するイソシアナートシラン付加物とから作成された潤滑性の薬剤含有コーティングが開示されている。水溶性ポリマー(例えばポリ(エチレン酸化物)等)を随意的に存在させることができる。架橋結合は、水酸基供与体又はアミン供与体とのイソシアネート反応により、ポリウレタン又はポリ尿素ネットワークを形成する。米国特許第6,967,261号には、創傷治療へのキトサンの使用が開示されている。キトサンは、豊富に存在する天然グルコサミン多糖であるキチンの(C13NOの脱アセチル化産物である。特に、キチンは、甲殻類(カニ、ロブスター、エビ)の殻から得られる。特に、キチンは、甲殻類(カニ、ロブスター、エビ)の殻から得られる。また、キチンは、海洋動物プランクトンの外骨格、或る昆虫(例えば蝶やてんとう虫)の羽根、及び、酵母・キノコ・他の菌類の細胞壁からも得られる。キトサンが、グラム陽性及びグラム陰性細菌(例えば、ストレプトコッカス属(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌)、シュードモナス属、エシェリキア属、プロテウス属、クレブシエラ属、セラシア属、アシネトバクター属、エンテロバクター属及びシトロバクター属)に対する抗菌性を有することが報告されている。また、前記文献には、キトサンは、規則的に配列されたコラーゲン線維束を含有する組織の修復を促進することが開示されている。
【0022】
また、本発明に係る皮膚コーティング組成物は、縫合又は包帯と同じようにして、創傷を閉じるのにも使用される。このように使用するために、前記組成物は、例えば、哺乳類の患者(例えば、人間の患者)の縫合可能な創傷部における対向する皮膚部分の少なくとも一方の皮膚表面に塗布される。前記対向する皮膚部分は、前記組成物の塗布前又は塗布後に互いに接触させられる。どちらの場合でも、前記組成物の塗布後、創傷領域は、前記組成物が重合して前記対向する皮膚部分を結合させるような条件下に維持される。一般に、前記縫合可能な創傷部と、その対向する皮膚部分の少なくとも一方の皮膚表面の近傍とを覆うように、十分な量の前記組成物が使用される。皮膚水分と組織タンパク質とを接触させると、前記組成物は重合する。或いは、前記組成物が部分的に重合されたモノマーを使用した組成物である場合は、周囲条件(皮膚温度)では約10〜60秒の間さらに重合する。この重合により、前記皮膚部分を結合する固形ポリマー膜が形成され、それによって、前記創傷部を閉じる。一般に、前記組成物は、前記離れた(対向する)皮膚部分を覆うポリマー膜を形成することができ、それによって、治癒中における前記創傷部の感染を抑制する。このことについての詳細は米国特許第6,214,332号を参照されたい。
【0023】
また、前記コーティング組成物は、爪や粘膜を覆うのにも使用することができる。真菌感染の存在を示すために、微生物指標染料を、様々な滴剤、ゲル剤、マニキュア等に加えることができる。爪真菌(爪甲真菌)は、指の爪や足の爪に感染することができ、非常に一般的である。爪甲真菌症の一般的な治療は、「ペンラック(Penlac)」という商標名で一般に市販されている8%シクロピロクスの局所用溶液で、感染が疑われる爪を覆うことである。この指示薬は、爪真菌の位置を示すために、例えば、ペンラック(登録商標)ラッカーに加えることができる。同様に、この指示薬は、一般的なマニキュアに加えることもできる。
【0024】
1つ或いは複数の微生物の存在下で変色を示すことができる適切な染料又は着色剤は、米国特許出願第20060134728号(MacDonald et. al)及び米国特許出願第20050130253号(MacDonald et. al)で既に開示されている。前記両米国特許出願は、引用をもってその全体を本明細書の一部とする。前記両米国特許出願で開示されているように、着色剤は、第1の色から第2の色へ、無色から有色へ、又は有色から無色へ変化し得る。様々な着色剤(例えば、染料、色素など)を、本発明の実施の際に用いることができる。それらのいくつかの構造を表1に示す。或る実施形態では、例えば、いくつかの種類の微生物を区別することができるpH感受性着色剤が使用される。即ち、pH感受性着色剤は、微生物の成長培地におけるpHの変化を検出することができる。例えば、細菌は、成長培地を代謝し、pHの変化をもたらす酸性化合物(例えば、CO)を生成し得る。同様に、いくつかの微生物(例えば、細菌)は、それらの細胞壁に高度に組織化された酸部分を含む。酸性/アルカリ性の変化は、異なる微生物毎に相違し得るため、本発明では、所望のpH変化のために調整されたpH感受性着色剤が選択される。また少なくとも1つの微生物指示薬を有する非指標有色染料を含むこともできる。
【0025】
フタレイン着色剤は、本発明の様々な実施形態において使用され得る適切なpH感受性着色剤の1つのクラスを構成する。フェノールレッド(即ち、フェノールスルホンフタレイン)は、例えば、pHが6.6から8.0までの範囲において黄色から赤色への変色を示す。pHが約8.1を超える場合、フェノールレッドは、明るいピンク色(蘭色)に変色する。また、例えば、クロロ、ブロモ、メチル、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸、ヒドロキシル基、アミン官能基などと置換されるフェノールレッドの誘導体も使用に適している。例示的な置換フェノールレッド化合物としては、例えば、クロロフェノールレッド、メタクレゾールパープル(メタークレゾールスルホンフタレイン)、クレゾールレッド(オルト−クレゾールスルホンフタレイン)、ピロカテコールバイオレット(ピロカテコールスルホンフタレイン)、クロロフェノールレッド(3’,3’’−ジクロロフェノールスルホンフタレイン)、キシレノールブルー(パラ−キシレノールスルホンフタレインのナトリウム塩)、キシレノールオレンジ、モルダントブルー3(C.I.43820),3,4,5,6−テトラブロモフェノールスルホンフタレイン、ブロモキシレノールブルー、ブロモフェノールブルー(3’,3’’,5’,5’’−テトラブロモフェノールスルホンフタレイン)、ブロモクロロフェノールブルー(ジブロモ−5’,5’’−ジクロロフェノールスルホンフタレインのナトリウム塩)、ブロモクレゾールパープル(5’,5’’−ジブロモ−オルト−クレゾールスルホンフタレイン)、ブロモクレゾールグリーン(3’,3’’,5’,5’’−テトラブロモ−オルト−クレゾールスルホンフタレイン)などが挙げられる。更に別の適切なフタレイン着色剤が当該技術分野において周知であり、そのようなものとしては、ブロモチモールブルー、チモールブルー、ブロモクレゾールパープル、チモールフタレイン、フェノールフタレイン(万能指示薬の一般的な成分)などが挙げられる。例えば、クロロフェノールレッドは、pHが約4.8から6.4までの範囲において黄色から赤色への変色を示し、ブロモチモールブルーは、pHが約6.0から7.6までの範囲において黄色から青色への変色を示し、チモールフタレインは、pHが約9.4から10.6までの範囲において無色から青色への変色を示し、フェノールフタレインは、pHが約8.2から10.0までの範囲において無色からピンク色への変色を示し、チモールブルーは、pHが約1.2から2.8までの範囲において赤色から黄色への第1の変色を示し、pHが約8.0から9.6までの範囲において黄色からpHへの第2の変色を示し、ブロモフェノールブルーは、pHが約3.0から4.6までの範囲において黄色からスミレ色への変色を示し、ブロモクレゾールグリーンは、pHが約3.8から5.4までの範囲において黄色から青色への変色を示し、ブロモクレゾールパープルは、pHが約5.2から6.8までの範囲において黄色からスミレ色への変色を示す。
【0026】
ヒドロキシアントラキノンは、pH感受性着色剤の別の適切なクラスを構成する。ヒドロキシアントラキノンは、次の一般構造を有する。
【0027】
【化1】

【0028】
前記一般構造における1〜8の番号は、融合された環構造上における官能基の置換が発生し得る位置を示す。ヒドロキシアントラキノンの場合、少なくとも1つの官能基がヒドロキシ(−OH)基である、或いは少なくとも1つの官能基がヒドロキシ(−OH)基を含む。融合された環構造上で置換され得る官能基の他の例としては、ハロゲン基(例えば、塩素又は臭素基)、スルホニル基(例えば、スルホン酸塩)、アルキル基、ベンジル基、アミノ基(例えば、第1級、第2級、第3級、又は第4級アミン)、カルボキシル基、シアノ基、リン基などが挙げられる。本発明において使用され得るいくつかの適切なヒドロキシアントラキノンとしては、モルダントレッド11(アリザリン)、モルダントレッド3(アリザリンレッドS)、アリザリンイエローR、アリザリンコンプレクソン、モルダントブラック13(アリザリンブルーブラックB)、モルダントバイオレット5(アリザリンバイオレット3R)、アリザリンイエローGG、ナチュラルレッド4(カルミン酸)、アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、エモジン、ヌクレアファストレッド、ナチュラルレッド16(プルプリン)、キナリザリンなどが挙げられる。例えば、カルミン酸は、pHが約3.0から5.5までの範囲において橙色から赤色への第1の変色を示し、pHが約5.5から7.0までの範囲において赤色から紫色への第2の変色を示す。一方、アリザリンイエローRは、pHが約10.1から12.0までの範囲において黄色から橙赤色への変色を示す。
【0029】
使用され得るpH感受性着色剤のまた別の適切なクラスとしては、次の一般構造を有する芳香族アゾ化合物が挙げられる。
【0030】
X−R−N=N−R−Y
【0031】
ただし、Rは芳香族基である。
【0032】
は脂肪族基及び芳香族基からなる群から選択される。
【0033】
X及びYは、互いに独立して、水素、ハロゲン化物、−NO、−NH、アリール基、アルキル基、アルコキシ基、スルホン酸基、−SOH、−OH、−COH、−COOH、ハロゲン化物などからなる群から選択される。またアゾキシ化合物(X−R−N=NO−R−Y)やヒドラゾ化合物(X−R−NH−NH−R−Y)などのアゾ誘導体も適している。そのようなアゾ化合物(又はその誘導体)の特定の例としては、メチルバイオレット、メチルイエロー、メチルオレンジ、メチルレッド、メチルグリーンなどが挙げられる。例えば、メチルバイオレットは、pHが約0から1.6までの範囲において黄色から青紫色への変色を示し、メチルイエローは、pHが約2.9から4.0までの範囲において赤色から黄色への変色を示し、メチルオレンジは、pHが約3.1から4.4までの範囲において赤色から黄色への変色を示し、メチルレッドは、pHが約4.2から6.3までの範囲において赤色から黄色への変色を示す。
【0034】
アリルメタン(例えば、ジアリルメタンやトリアリルメタン)は、適切なpH感受性着色剤の更に別のクラスを構成する。トリアリルメタンロイコ塩基は、例えば、次の一般構造を有する。
【0035】
【化2】

【0036】
ただし、R、R’、及びR’’は、互いに独立して、フェニル、ナフチル、アントラセニルなどの置換及び未置換アリル基から選択される。アリル基は、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホン基、アルキル基、及び/又は他の公知の官能基などの官能基と置換され得る。そのようなトリアリルメタンロイコ塩基の例としては、ロイコマラカイトグリーン、パラローザニリン塩基、クリスタルバイオレットラクトン、クリスタルバイオレットロイコ、クリスタルバイオレット、CIベーシックバイオレット1、CIベーシックバイオレット2、CIベーシックブルー、CIビクトリアブルー、N−ベンゾイルロイコメチレンなどが挙げられる。同様に、適切なジアリルメタンロイコ塩基としては、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンズヒドロール(「Michler'sヒドロール」としても知られている)、Michler'sヒドロールロイコベンゾトリアゾール、Michler'sヒドロールロイコモルホリン、Michler'sヒドロールロイコベンゼンスルホンアミドなどが挙げられる。或る特定の実施形態では、着色剤は、通常は無色であり次の一般構造を有する、ロイコマラカイトグリーンカルビノール(ソルベントグリーン1)又はその類似物である。
【0037】
【化3】

【0038】
酸性状態の下で、ロイコマラカイトグリーンカルビノール形態の1つ或いは複数の遊離アミノ基は、プロトン化され、次の構造を有するマラカイトグリーン(アニリングリーン、ベーシックグリーン4、ダイヤモンドグリーンB、又はビクトリアグリーンBとしても知られている)を形成し得る。
【0039】
【化4】

【0040】
マラカイトグリーンは、典型的には、pHが0.2から1.8までの範囲において黄色から青緑色への変色を示す。pHが約1.8を超える場合、マラカイトグリーンは深緑色に変色する。
【0041】
本発明の実施形態で使用され得る更に別の適切なpH感受性着色剤としては、コンゴレッド、リトマス(アゾリトミン)、メチレンブルー、ニュートラルレッド、酸性フクシン、インジゴカルミン、ブリリアントグリーン、ピクリン酸、メタニルイエロー、m−クレゾールパープル、キナルジンレッド、トロペオリンOO、2,6−ジニトロフェノール、フロキシンB、2,4−ジニトロフェノール、4−ジメチルアミノアゾベンゼン、2,5−ジニトロフェノール、1−ナフチルレッド、クロロフェノールレッド、ヘマトキシリン、4−ニトロフェノール、ニトラジンイエロー、3−ニトロフェノール、アルカリブルー、イプシロンブルー、ナイルブルーA、万能指示薬などが挙げられる。例えば、コンゴレッドは、pHが3.0から5.2までの範囲において青色から赤色に変色し、リトマスは、pHが約4.5から8.3までの範囲において赤色から青色に変色し、ニュートラルレッドは、pHが約11.4から13.0までの範囲において赤色から黄色に変色する。
【0042】
pHに加えて、着色剤の変色を促進させるための他のメカニズムも全体的に又は部分的に原因となり得る。例えば、多くの微生物(例えば、細菌や菌類)は、成長培地において「親鉄剤」として知られる低分子量の鉄錯体化合物を生成する。それ故に、或る実施形態では、親鉄剤の存在下で変色する金属錯体着色剤が使用され得る。金属錯体着色剤の1つの特に適切なクラスとしては、エリオクロムブラックT、エリオクロムブルーSE、エリオクロムブルーブラックB、エリオクロムシアニンR、キシレノールオレンジ、クロムアズロールS、カルミン酸などの芳香族アゾ化合物が挙げられる。更に別の適切な金属錯体着色剤としては、アリザリンコンプレクソン、アリザリンS、アルセナゾIII、アウリントリカルボン酸、2,2’−ビピリジン、ブロモピロガロールレッド、カルコン(エリオクロムブルーブラックR)、カルコンカルボン酸、クロモトロプ酸、ジナトリウム塩、クプリゾン、5−(4−ジメチルアミノ−ベンジリデン)ローダニン、ジメチルグリオキシム、1,5−ジフェニルカルバジド、ジチゾン、フルオレセインコンプレクソン、ヘマトキシリン、8−ヒドロキシキノリン、2−メルカプトベンゾチアゾール、メチルチモールブルー、ムレキシド、1−ニトロソ−2−ナフトール、2−ニトロソ−1−ナフトール、ニトロソR塩、1,10−フェナントロリン、フェニルフルオロン、フタレインパープル、1−(2−ピリジルアゾ)−ナフトール、4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノール、ピロガロールレッド、スルホナゾIII、5−スルホサリチル酸、4−(2−チアゾリルアゾ)レゾルシノール、トリン、チモールタレキソン(Thymolthalexon)、タイロン、Tolurnr−3,4−ジチオール、ジンコンなどが挙げられる。上述した1つ或いは複数のpH感受性着色剤はまた、金属錯体着色剤として分類され得ることに留意されたい。
【0043】
当然のことながら、前記着色剤は、特定の複数の微生物を互いに独立して区別できる必要はない。この点に関して、様々な微生物の存在下で検出可能な変色を示す着色剤を使用することもできる。ソルバトクロミック着色剤は、例えば、様々な微生物の存在下で検出可能な変色を示すと考えられている。具体的には、ソルバトクロミック着色剤は、或る分子環境において、溶媒極性及び/又は水素結合性質に基づいて変色し得る。例えば、ソルバトクロミック着色剤は、極性環境(例えば、水)において青色であり得るが、無極性環境(例えば、脂質が豊富な溶液)において黄色又は赤色であり得る。ソルバトクロミック着色剤によって生成される色は、着色剤の基底状態と励起状態との間の分子極性の違いに応じて決められる。
【0044】
メロシアニン着色剤(例えば、モノ−、ジ−、及びトリ−メロシアニン)は、本発明において使用され得るソルバトクロミック着色剤の種類の1つの例である。メロシアニン着色剤(例えば、メロシアニン540)は、「Colour and Constitution of Organic Molecules」(Academic Press, London (1976))に記載されているようにグリフィスの供与体−単一受容体着色剤の分類に含まれる。具体的には、メロシアニン着色剤は、偶数個のメチン炭素を有する共役鎖によって分離された塩基性核及び酸性核を有する。そのような着色剤は、電子受容体部分として作用するカルボニル基を有する。電子受容体は、ヒドロキシル基又はアミノ基などの電子供与基に接合される。メロシアニン着色剤は、環式又は非環式(例えば、環式メロシアニン着色剤のビニルアロゴウスアミド(vinylalogous amides))であり得る。例えば、環式メロシアニン着色剤は、一般的に次の構造を有する。
【0045】
【化5】

【0046】
ただし、nは0を含む任意の整数である。一般構造1及び1’で上記したように、メロシアニン着色剤は、典型的には電荷分離(即ち、「両性イオン」)共鳴構造を有する。両性イオン着色剤は、正電荷と負電荷の両者を含み、正味中性であるが高電荷である。理論によって限定されることを意図するものではないが、両性イオンの形態は、着色剤の基底状態に大きく関与すると考えられている。そのような着色剤によって生成された色は、それ故に着色剤の基底状態と励起状態との間の分子極性の違いによって決定される。基底状態が励起状態よりも極性が大きいメロシアニン着色剤の1つの特定の例が、次の構造2として示される。
【0047】
【化6】

【0048】
電荷分離された向かって左側のカノニカル2は、基底状態に大きく関与するものであり、向かって右側のカノニカル2’は、第1の励起状態に大きく関与するものである。適切なメロシアニン着色剤の更に別の例が、以下の構造3〜13で示される。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
【化11】

【0054】
【化12】

【0055】
【化13】

【0056】
【化14】

【0057】
【化15】

【0058】
【化16】

【0059】
【化17】

【0060】
ただし、「R」は、メチル基、アルキル基、アリール基、フェニール基などの基である。
【0061】
インジゴは、本発明において使用するのに適切なソルバトクロミック着色剤の別の例である。インジゴは、基底状態が励起状態よりも極性が著しく小さい。例えば、インジゴは、一般的に次の構造14を有する。
【0062】
【化18】

【0063】
向かって左側のカノニカルフォーム14は、着色剤の基底状態に大きく関与するものであり、向かって右側のカノニカル14’は、励起状態に大きく関与するものである。
【0064】
本発明において使用され得る別の適切なソルバトクロミック着色剤としては、恒久両性イオン形態を有するソルバトクロミック着色剤が挙げられる。即ち、これらの着色剤は、隣接するπ−電子系内に含まれる正の形式電荷と負の形式電荷とを有する。上述したメロシアニン着色剤とは反対に、そのような恒久両性イオンの着色剤にとって中性共鳴構造を引き出すことはできない。このクラスの例示的な着色剤としては、例えば、次の一般構造を有するN−フェノラートベタイン着色剤が挙げられる。
【0065】
【化19】

【0066】
ただし、R〜Rは、互いに独立して、水素、ニトロ基(例えば、窒素)、ハロゲン基、又は線形、分岐状、又は環状のC〜C20基(例えば、アルキル基、フェニール基、アリール基、ピリジニル基など)からなる群より選択され、飽和或いは不飽和であり、同じ又は異なる炭素原子において、1つ、2つ或いはそれ以上のハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アミノ基、フェニール基、アリール基、ピリジニル基、又はアルキルアミノ基と随意的に置換される或いは置換されない。例えば、N−フェノラートベタイン着色剤は、次の一般構造15を有する、4−(2,4,6−トリフェニルピリジニウム−1−yl)−2,6−ジフェニルフェノラート(Reichardt's染料)であり得る。
【0067】
【化20】

【0068】
Reichardt's染料は、強い負のソルバトクロミズムを示し、それ故に細菌の存在下で青色から無色への著しい変色を呈し得る。即ち、Reichardt's染料は、より短い波長に対する吸光度の変化を示し、それ故に溶液の溶離剤の強度(極性)が増加するので視認可能な変色が生じる。適切な負のソルバトクロミック・ピリジニウムN−フェノラートベタイン着色剤の更に別の例としては、以下の構造16〜23で示されるものが挙げられる。
【0069】
【化21】

【0070】
ただし、Rは、水素、−C(CH、−CF、又はC13である。
【0071】
【化22】

【0072】
【化23】

【0073】
【化24】

【0074】
【化25】

【0075】
【化26】

【0076】
【化27】

【0077】
【化28】

【0078】
恒久両性イオン形態を有する着色剤の更にまた別の例としては、次の一般構造24を有する着色剤が挙げられる。
【0079】
【化29】

【0080】
ただし、nは0以上であり、Xは酸素、炭素、窒素、硫黄などである。構造24で示される恒久両性イオン着色剤の特定の例としては、以下の構造25〜33で示すものが挙げられる。
【0081】
【化30】

【0082】
【化31】

【0083】
【化32】

【0084】
【化33】

【0085】
【化34】

【0086】
【化35】

【0087】
【化36】

【0088】
【化37】

【0089】
【化38】

【0090】
更に別の適切なソルバトクロミック着色剤としては、これらのものに限定されるわけではないが、4−ジシアンメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、6−プロピオニル−2−(ジメチルアミノ)ナフタレン(PRODAN)、9−(ジエチルアミノ)−5H−ベンゾ[エイ]フェノキサジン−5−オン(ナイルレッド)、4−(ジシアノビニル)ジュロリジン(DCVJ)、フェノールブルー、スチルバゾリウム着色剤、クマリン着色剤、ケトシアニン着色剤、N,N−ジメチル−4−ニトロアニリン(NDMNA)及びN−メチル−2−ニトロアニリン(NM2NA)、ナイルブルー、1−アニリノナフタレン−8−スルホン酸(1,8−ANS)、ダポキシルブチルスルホンアミド(DBS)及び他のダポキシル類似物などが挙げられる。上述した着色剤のほかに、使用され得る更に別の適切な着色剤としては、これらのものに限定されるわけではないが、4−[2−N−置換−1,4−ヒドロピリジン−4−イリジン)エチリデン]シクロヘキサ−2,5−ジエン−1−オン、レッドピラゾロン着色剤、アゾメチン着色剤、インドアニリン着色剤、及びそれらの混合物などが挙げられる。
【0091】
上述の着色剤は、その変色のメカニズム(例えば、pH感受性、金属錯体、又はソルバトクロマティック)に基づいて分類されるが、本発明は、任意の特定の変色のメカニズムに限定されるわけではないことを理解されたい。pH感受性着色剤が使用される場合でも、例えば、着色剤の変色のために、実際には他のメカニズムが全体的に又は部分的に原因となり得る。例えば、着色剤と微生物との間の酸化還元反応は、変色に寄与し得る。
【0092】
【表1−1】

【0093】
【表1−2】

【0094】
【表1−3】

【0095】
【表1−4】

【0096】
【表1−5】

【0097】
【表1−6】

【0098】
【表1−7】

【0099】
指示薬を含有する皮膚コーティングにおける変色という特性は、感染又は微生物汚染が存在する合図としての変色を視覚的に認識することを可能にするので、ユーザーにとっての視覚的表示と見なすことができる。また、前記変色は、電子的に測定することもできる。そのような測定は、光学素子、又は当業者に周知の変色を測定するための他の分光法(例えば分光光度計及び分光デンシトメータ等)を使用して行うことができる。この測定器具は、色空間を測定する。最も広く用いられる色空間は、CIELABである(Frank Cost著、「Pocket guide to digital printing」、Delmar Publishers Inc.、1997)のページ144に記載されている)。この色空間は、下記の意味を持つ3つの変数L、a、bを定義する。
【0100】
=明度 範囲は0(=暗い)から100(=明るい)まで
【0101】
=赤色/緑色軸 範囲は約−100から100まで。正の数値は赤色系で、負の数値は緑色系である。
【0102】
=黄色/青色軸 範囲は約−100から100まで。正の数値は黄色系で、負の数値は青色系である。
【0103】
CIELABは、概ね均一な色空間なので、人間が認識できる2色間の差異を示す単一の数字を計算可能である。この差異は、ΔEと呼ばれ、2色間(すなわち、変色前及び変色後)で、3つの差異(ΔL、Δa、Δb)をそれぞれ二乗した値の和の平方根を計算することにより算出される。
【0104】
CIELAB色空間では、ΔE要素のそれぞれは、前記2色間のおおよその丁度可知差異(just-noticeable difference)である。ΔEの差異は、人間の目によって明確に認識することができる。前記微生物指標は、ΔE>3という測定可能な変色を呈することが好ましい。
【0105】
染料の指示薬を含む前記組成物は、医療施設で使用するために「キット」形態でパッケージ化され、医療関係者が使いやすく便利になるように、適切な皮膚処理剤溶液と共にセット販売される。
【0106】
以下の例は、本発明の効果を示す。
【0107】
(例1)
【0108】
Reichardt's染料
【0109】
Reichardt's染料(Sigma-Aldrich Chemical Co. Inc.(Milwaukee WI)から入手可能)を、追加の0.2gのo−アセチルクエン酸トリブチル可塑剤(tributyl o-acetylcitrate placticizer)(Sigma-Aldrichから入手可能)を含有する2gのインテグシール(InteguSeal)(登録商標、以下同じ)皮膚シーラント(Medlogic Global Ltd.(Cornwall, UK))と混合させて、染料の濃度が200ppmの濃い青色の溶液を作成した。次に、少量(25mg)のこの混合液を、顕微鏡のスライドガラス(5cm×7.5cm)上に載せ、ガラス棒を使用して薄膜スミア(3cm×2cm)に引き伸ばした。前記膜を完全に硬化させ(5分)、その後、前記硬化膜を、10CFU/mL(コロニー形成単位)の黄色ブドウ球菌(グラム陽性細菌)の懸濁液にさらした。100μLのこの懸濁液を、前記硬化膜上の或る地点に載せ、その場所を観察した。前記細菌の懸濁液と接触した前記場所は10秒未満で脱色され、汚染が視覚的に示された。対照としての媒体の培養液又は水の100μLのサンプルだけを前記シーラント上に載せたときは、変色は観察されなかった。
【0110】
(例2)
【0111】
クロムアズロールS
【0112】
インテグシール皮膚シーラント中に300ppmのクロムアズロールS(Sigma-Aldrichから入手可能)の2gの青紫色の溶液を調整し、染料の濃度を300ppmにした。少量(25mg)のこの混合液をスライドガラスに載せ、ガラス棒を使用して薄膜スミアに引き伸ばした。前記シーラントは完全に硬化させた(5分)。その後、10CFU/mLの黄色ブドウ球菌の100μLの懸濁液を、前記硬化シーラント上に載せ、変色を視覚的に観察した。前記細菌が前記シーラント膜と接触した場所は、5秒以内に赤色に変色した。
【0113】
(例3)
【0114】
フェノールレッド
【0115】
300ppmのフェノールレッド(Sigma-Aldrichから入手可能)の2gの溶液の材料を混合させてインテグシール皮膚シーラント中に300ppmのフェノールレッドの2gの溶液を調整し、薄いピンクグレー色の液体を作成した。次に、25mgのこの混合液をスライドガラスに載せ、ガラス棒を使用して前記スライドガラス上に薄膜スミアに引き伸ばした。前記混合液を完全に硬化させ(5分)、その後、10CFU/mLの黄色ブドウ球菌の100μLの懸濁液を、前記硬化シーラント上に載せ、任意の変色を視覚的に観察した。前記液体が前記シーラント膜と接触した場所は、5秒未満で明るい赤色に変色した。有色媒体又は水を前記シーラント膜上に載せた場合は、変色や着色は観察されなかった。
【0116】
(例4)
【0117】
エリオクロムブルーブラックB
【0118】
300ppmのエリオクロムブルーブラックB(Sigma-Aldrichから入手可能)の2gのサンプルの材料を混合させてインテグシール皮膚シーラント中に300ppmのエリオクロムブルーブラックBの2gのサンプルを調整し、グレーブルーの混合液を作成した。25mgのこの混合液をスライドガラス上に載せ、ガラス棒を使用して薄膜スミアに引き伸ばした。前記膜を完全に硬化させ(5分)、その後、10CFU/mLの黄色ブドウ球菌の100μLの懸濁液を前記硬化膜に塗布して、変色を観察した。前記液体が前記膜と直接的に接触した場所は、5秒未満で前記膜の色が脱色し、無色の地点が残った。対照の媒体又は水を前記膜に塗布した場合は、変色は観察されなかった。
【0119】
(例5)
【0120】
大腸菌を含むフェノールレッド
【0121】
300ppmのフェノールレッド(Sigma-Aldrichから入手可能)の2gの溶液の材料を混合させてインテグシール皮膚シーラント中に300ppmのフェノールレッドの2gの溶液を調整し、薄いピンクグレー色の液体を作成した。次に、25mgのこの混合液を、スライドガラス上に載せ、ガラス棒を使用して前記スライドガラス上で薄膜スミアに引き伸ばした。前記混合液を完全に硬化させた(5分)、その後、10CFU/mLの大腸菌の100μLの懸濁液を硬化シーラント上に載せ、任意の変色を視覚的に観察した。前記液体が前記シーラント膜と接触した場所は、5秒未満で明るい赤色に変色した。有色媒体又は水を前記シーラント膜上に載せた場合は、変色や着色は観察されなかった。
【0122】
(例6)
【0123】
大腸菌及び黒麹菌を含むReichardt's染料
【0124】
Reichardt's染料(Sigma-Aldrichから入手可能)を、追加の0.2gのo−アセチルクエン酸トリブチル可塑剤(Sigma-Aldrichから入手可能)を含有する2gのインテグシール皮膚シーラントと混合させて、染料の濃度が200ppmの濃い青色の溶液を作成した。次に、少量(25mg)のこの混合液を、顕微鏡のスライドガラス(5cm×7.5cm)上に載せ、ガラス棒を使用して薄膜スミア(3cm×2cm)に引き伸ばした。完全に硬化させ(5分)、その後、前記硬化膜を、10CFU/mL(コロニー形成単位)の大腸菌(グラム陰性細菌)の懸濁液にさらした。100μLのこの懸濁液を、前記硬化膜上の或る地点に載せ、その場所を観察した。前記細菌の懸濁液と接触した前記場所は10秒未満で脱色され、汚染が視覚的に示された。対照の媒体の培養液又は水の100μLのサンプルだけを前記シーラント上に載せた場合は、変色は観察されなかった。前記硬化膜の別個の未接触の部分上に10CFU/mLの黒麹菌(かび)の100μLの懸濁液を載せ、その場所を再び観察した。前記かびの懸濁液が前記膜と接触した場所は、10秒未満でReichardt's染料が脱色された。
【0125】
(例7)
【0126】
他の硬化性樹脂に含まれる微生物指示薬
【0127】
フェノールレッドを、300ppmの濃度で3つの別の硬化性樹脂に溶かし、上述の(例5)の記載のように大腸菌を用いて試験を行った。試験に用いられた樹脂は次のものである。
・Elmer’s glue−all(Elmer's Products Inc.(Columbus OH))
・コンタクトセメント(DAP Weldwood Inc.(Dayton, OH))
・ゼラチンUSP(無味、The Kroger Co.(Cincinnati, OH))
【0128】
そして、大腸菌の100μLの懸濁液を、硬化させた膜上に載せ、視覚的に観察した。3つの全ての樹脂において、前記細菌の懸濁液と直接的に接触した場所は赤色に変色した。
【0129】
(例8)
【0130】
変色の測定
【0131】
上述した例のそれぞれにおいて、微生物と接触したときの変色は明確に視認できたが、この変色を光学的な変色メータ又はセンサを用いて測定することも可能である。このことを例1、2及び3により例証した。スペクトロメータ(Minolta cm-2600d、コニカミノルタ社(日本))を用いて変色を測定した。前記膜の前記場所を微生物にさらす前と後に測定して測定値を得た。前記測定値は、ΔEの単位で記録した。
例1:ΔEは32であった。
例2:ΔEは27であった。
例3:ΔEは35であった。
【0132】
本発明の細部の実施にあたっては、当業者は開示された実施例に様々な改良を加えることが可能である。本願発明者はそのような様々な改良も本発明の範囲内に含まれるものとする。また本発明の範囲は、上述の開示内容を考慮して解する場合、本明細書で開示した特定の実施形態に制限されるのではなく、添付の特許請求の範囲にのみ従うものであることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの微生物指示薬を含む硬化性コーティング。
【請求項2】
少なくとも1つの微生物指示薬と、
指示薬ではない有色染料若しくは着色剤とを含むことを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記微生物指示薬は、可視的な変色を呈することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
前記微生物指示薬は、ΔE>3の測定可能な変色を呈することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
前記指示薬は、約1乃至1000ppmの量で存在することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
前記指示薬は、約50乃至800ppmの量で存在することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
前記指示薬は、約100乃至500ppmの量で存在することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
ビニル系モノマ、ラテックス、ポリビニルアルコール又はゼラチンを含むことを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項9】
前記コーティングは、ビニル系モノマを含み、
前記ビニル系モノマは、シアノアクリレートであることを特徴とする請求項8に記載のコーティング。
【請求項10】
前記シアノアクリレートは、2−アルキルシアノアクリレートを含み、
アルキル基は、直鎖、分岐鎖、又は環状鎖のC〜Cの炭化水素であることを特徴とする請求項9に記載のコーティング。
【請求項11】
前記微生物指示薬は、細菌、かび、酵母又はウイルスの存在を示すことができることを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
前記指示薬は、pH感受性着色剤、フタレイン、アントラキノン、アリルメタン、芳香族アゾ、金属錯体着色剤又はソルバトクロミック着色剤であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項13】
前記指示薬は、pH感受性着色剤の微生物指示薬であり、
前記pH感受性着色剤の微生物指示薬はフェノールレッドであることを特徴とする請求項12に記載のコーティング。
【請求項14】
前記指示薬は、フタレインの微生物指示薬であり、
前記フタレインの微生物指示薬はフェノールフタレインであることを特徴とする請求項12に記載のコーティング。
【請求項15】
前記指示薬は、アントラキノンの微生物指示薬であり、
前記アントラキノンの微生物指示薬はレマゾールブリリアントブルーRであることを特徴とする請求項12に記載のコーティング。
【請求項16】
前記指示薬は、アリルメタンの微生物指示薬であり、
前記アリルメタンの微生物指示薬はクロムアズロールSであることを特徴とする請求項12に記載のコーティング。
【請求項17】
前記指示薬は、芳香族アゾの微生物指示薬であり、
前記芳香族アゾの微生物指示薬はエリオクロムブルーブラックBであることを特徴とする請求項12に記載のコーティング。
【請求項18】
前記指示薬は、金属錯体着色剤の微生物指示薬であり、
前記金属錯体着色剤の微生物指示薬はアリザリンコンプレキソンであることを特徴とする請求項12に記載のコーティング。
【請求項19】
前記指示薬は、ソルバトクロミック着色剤の微生物指示薬であり、
前記ソルバトクロミック着色剤の微生物指示薬はReichardt's染料であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング。
【請求項20】
前記指示薬は、20秒未満で可視的な変色を呈することを特徴とする請求項1に記載のコーティング。

【公表番号】特表2010−512739(P2010−512739A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540901(P2009−540901)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054052
【国際公開番号】WO2008/072117
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】