説明

微生物採取用具

【課題】微生物採取担体に付着した微生物を積極的に剥離することができる微生物採取用具を提供すること。
【解決手段】微生物採取用具は、加圧部および管部を有するスポイトと、スポイトの管部の端部に設けられた微生物採取用担体とを備えて構成され、前記スポイトは、吸入口、排出口および液流調節部を有する。微生物採取用具は、吸入口から取り込んだ液体を排出口から微生物採取担体を通して繰り返し吐き出すことにより、微生物採取担体に付着した微生物に繰り返し水圧を加えて、微生物を積極的に剥離する。また、微生物採取用具は、微生物懸濁液中の夾雑物を微生物採取担体内部に留めることで、夾雑物が少ない微生物懸濁液を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物採取用具に関し、特に微生物検査に用いられる微生物採取用具に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物検査では、リン酸緩衝液や生理食塩水などの液体で湿らせた綿棒で被検査物(例えば、口腔粘膜やまな板など)の表面を拭き取り、この綿棒を同一の液体に入れることにより、微生物懸濁液を作製することが多い。微生物懸濁液を作製する際に、綿棒などの代わりに使用する微生物採取用具として、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているものがある。
【0003】
特許文献1には、懸濁用の液体を収容した容器本体と、先端部に拭き取り用含浸体が設けられたスポイトとを備える環境微生物検査用拭き取り器具が開示されている。綿棒を用いた従来の採取方法には、綿球が過剰に液体を含んでいると、微生物を適切に採取することができないという問題があった。一方、特許文献1記載の環境微生物検査用拭き取り器具は、スポイト内部の空気を吐き出すことにより、拭き取り用含浸体(綿棒の綿球に相当)に含まれている過剰な液体を除去することができるので、微生物を適切に採取することができる。ユーザは、過剰な液体を除去した拭き取り用含浸体で被検査物の表面を拭き取った後、拭き取り用含浸体を容器本体内の液体に入れることで微生物懸濁液を作製することができる。
【0004】
特許文献2には、被検査物の表面を拭き取る菌採取部(綿球)を有する菌採取具(綿棒)と、培養液を収容する容器(ガラスアンプル)と、培養用の空間を有する外装体とを備える菌検出器が開示されている。特許文献2記載の発明によれば、ユーザは、菌採取具で被検査物の表面を拭き取って外装体内に戻した後に、外装体内の容器を破壊して菌採取部を培養液に接触させることにより、微生物懸濁液を作製することができる。
【0005】
このように、上記従来の微生物採取用具を使用することで、微生物懸濁液を作製することができる。このようにして得られた懸濁液は、微生物検査を行う際の検査試料となる。
【特許文献1】特開平10−229871号公報
【特許文献2】特開平10−70974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の微生物採取用具には、付着した微生物を希釈液に十分に分散させることができないという問題がある。
【0007】
すなわち、上記従来の微生物採取用具は、微生物採取担体(拭き取り用含浸体または菌採取部)を液体に浸すのみで懸濁液を作製するため、微生物採取担体に付着した微生物を十分に剥離することができないのである。したがって、上記従来の微生物採取用具を用いて微生物検査を行うと、正確な結果を得られない可能性がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、微生物採取担体に付着した微生物を積極的に剥離することができる微生物採取用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の微生物採取用具は、第一の端部に排出口を有する管部、および前記管部の内部空間と連通する空間を有し、形状復元性を有する加圧部を有するスポイトと、前記排出口に設けられ、通気性および通液性を有する微生物採取用担体とを備える微生物採取用具であって、前記管部は、側面に吸入口を有し、かつ前記排出口から前記管部の内部空間に液体が流れ込むことを防ぐ液流調節部をその内部に有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微生物採取担体内に液体を繰り返し流すことにより、微生物採取担体に付着した微生物に繰り返し水圧を加えることができるので、微生物を積極的に剥離することができる。さらに、本発明によれば、周囲の微生物懸濁液に流動を起こすので、剥離した微生物を微生物懸濁液に効果的に分散させることができる。
【0011】
また、本発明によれば、管部内部から微生物採取担体を通して外部に微生物懸濁液を流すので、微生物懸濁液中の夾雑物を微生物採取担体内部に留めることができる。したがって、本発明によれば、夾雑物が少ない微生物懸濁液を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.本発明の微生物採取用具について
本発明の微生物採取用具は、加圧部および管部を有するスポイトと、スポイトの管部の端部に設けられた微生物採取用担体とを備えて構成され、前記スポイトが、吸入口、排出口および液流調節部を有することを特徴とする。
【0013】
加圧部は、管部の端部に設けられた、形状復元性を有する中空構造の部材である。加圧部の形状は、特に限定されず、ユーザが圧縮操作および開放操作を行いやすい形状に適宜設定すればよい。加圧部の材質は、形状復元性および耐水性を有し、かつ中空構造を採りえるものであれば特に限定されず、例えば高密度ポリエチレンなどの軟質の合成樹脂である。
【0014】
管部は、加圧部の内部空間と外部とを連通する中空構造の管である。管部の断面形状、長さ、内径および外径は、特に限定されず、被検査物や採取対象の微生物などに応じて適宜設定すればよい。管部の材質は、耐水性を有し、かつ中空構造を採りえるものであれば特に限定されず、例えば高密度ポリエチレンなどの軟質の合成樹脂である。なお、上記加圧部および管部は、同一の材質で一体成型されていてもよい。これにより、スポイトを作製するコストを抑えることができる。
【0015】
吸入口は、管部の側面に設けられた穴である。吸入口は、液体を外部から管部内部には通過させるが、管部内部から外部には通過させないように形成されることが好ましい。これにより、吸入口は、スポイト外部の液体をスポイト内部に取り込むための穴として機能することができる。例えば、吸入口の大きさを管部(排出口も含む)の内孔の大きさよりも小さくしたり(実施の形態1参照)、吸入口に第二の液流調節部を設けたりすることで(実施の形態2参照)、吸入口を通過する液体の流れを上記のように制御することができる。第二の液流調節部は、例えば逆流防止弁である。
【0016】
排出口は、管部の加圧部が設けられていない側の端部に設けられた穴である。ここで「端部」とは、管部の先端部のみではなく、管部先端の周辺部位も含む。後述する液流調節部の機能により、排出口は、スポイト内部の液体を外部に吐き出すための穴として機能する。排出口の大きさは、採取対象の微生物が通過しうる大きさであれば特に限定されない。排出口の数は、一つまたは複数のどちらでもよい。
【0017】
液流調節部は、管部内かつ吸入口と排出口との間に設けられた、吸入口側から排出口側にのみ液体を流すように、液体の流れる方向を制御する部材である。液流調節部は、スポイト内部が陰圧になったときは、外部の液体が排出口からスポイト内部に流れ込むのを妨げる。したがって、スポイト内部が陰圧になったときは、外部の液体が吸入口からスポイト内部に取り込まれることになる。一方、液流調節部は、スポイト内部が陽圧になったときは、スポイト内部の液体を吸入口側から排出口側に流れさせる。液流調節部は、例えば逆流防止弁である。
【0018】
微生物採取用担体は、被検査物の表面を拭き取って微生物を採取するための通気性および通液性を有する部材であり、管部の排出口が設けられた端部に強固に固定されている。微生物採取用担体は、天然繊維または化学繊維の繊維塊や、合成樹脂の多孔質体などが好ましく、例えば発泡ポリウレタンや発泡ポリエチレンなどである。本発明の微生物採取用具は、スポイト内の液体を排出口から微生物採取用担体を通して吐き出すことにより、微生物採取用担体に付着した微生物を剥離することを特徴とする。したがって、微生物採取用担体の繊維の間隔(繊維塊の場合)および孔径(多孔質体の場合)は、液体を容易に通しうる大きさであることが好ましい。また、微生物採取用担体の繊維の間隔および孔径は、採取する微生物が容易に通過しうる大きさで、かつ液体に含まれる夾雑物が通過できない大きさであることがより好ましい。これにより、本発明の微生物採取用具は、微生物採取用担体をフィルタとして機能させて、微生物懸濁用の液体に含まれる夾雑物を除去することができる。微生物採取用担体の繊維の間隔および孔径は、被検査物(夾雑物の大きさおよび採取される微生物がある程度特定される)に応じて適宜設定すればよい。例えば、採取対象とする微生物が数μmの塊を形成している場合、微生物採取用担体の繊維の間隔および孔径は、10μm〜数十μm程度の大きさとすればよい。なお、本明細書における「微生物」とは、すべての原核生物(真正細菌、古細菌)、真核生物の一部(糸状菌や酵母、変形菌、担子菌、単細胞性の藻類、原生動物など)およびウイルスを含む微小な生物を意味する。
【0019】
本発明の微生物採取用具は、微生物懸濁用の液体を吸入口から取り込み、取り込んだ液体を排出口から微生物採取用担体を通して吐き出すことができる。本発明の微生物採取用具は、微生物懸濁用の液体を繰り返し吐き出すことにより、微生物採取用担体に付着した微生物を水圧により剥離できる。したがって、本発明の微生物採取用具は、採取した微生物を微生物懸濁用の液体に効果的に分散させることができる。
【0020】
また、本発明の微生物採取用具は、微生物採取用担体をフィルターとして機能させることにより、微生物懸濁用の液体に含まれる夾雑物を除去することができる。これにより、本発明の微生物採取用具は、夾雑物が少ない微生物懸濁液を作製することができる。
【0021】
このように、本発明の微生物採取用具を使用することで、夾雑物が少なくかつ微生物が十分に分散している、検査試料として好ましい微生物懸濁液を作製することができる。
【0022】
2.懸濁用液体止めについて
本発明の微生物採取用具は、さらに懸濁用液体止めを備えていてもよい。懸濁用液体止めは、微生物懸濁用の液体をスポイト内部に封入する部材である。懸濁用液体止めは、ユーザが加圧部を圧縮して微生物懸濁用の液体の水圧を上昇させることにより、容易に破壊されるように形成されることが好ましい。これにより、ユーザは、加圧部を圧縮することで微生物懸濁用の液体を用意できるので、別個に微生物懸濁用の液体を用意することなく、微生物懸濁液を作製することができる。
【0023】
懸濁用液体止めの位置は、微生物懸濁用の液体をスポイト内部に封入できれば特に限定されないが、吸入口の近傍に配置することで、懸濁用液体止めを第二の液流調節部としても機能させることができる(実施の形態3参照)。
【0024】
微生物懸濁用の液体は、特に限定されないが、例えばリン酸緩衝液や生理食塩水、マンニトール水溶液などである。液体の量は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
3.イオン交換体について
本発明の微生物採取用具は、さらにイオン交換体を有していてもよい。イオン交換体は、微生物懸濁用の液体に含まれるイオンを吸着し、微生物懸濁用の液体の導電率を低下させる。イオン交換体は、微生物懸濁用の液体の導電率を下げるものであれば特に限定されず、例えば、スチレン・ジビニルベンゼンやポリビニールアルコール(PVA)などの基材に官能基が結合した構造を有するイオン交換樹脂や、セルロースに官能基が結合した構造を有するイオン交換繊維などである。イオン交換体の形状は、特に限定されず、例えばビーズ状やフィルム状、繊維状などにすることができる。イオン交換体は、スポイト内部に配置したり(実施の形態4参照)、微生物採取用担体内に配置したりすればよい。この場合、イオン交換体の大きさは、微生物採取用担体の孔径よりも大きなものが好ましい。イオン交換体を、スポイト内または微生物採取用担体内に留めることができるからである。なお、イオン交換樹脂をスポイト内部に塗布しても、同様の効果を得ることができる。
【0026】
ユーザは、イオン交換体を有する本発明の微生物採取用具を使用することで、夾雑物が少なくかつ導電率が低い微生物懸濁液を作製することができる。このような微生物懸濁液は、後述するように、電極間のインピーダンスを測定して微生物の数を算出する微生物検査の検査試料として特に有用である。
【0027】
4.本発明の微生物採取用具を用いた微生物数測定方法について
本発明の微生物採取用具を用いて作製した微生物懸濁液は、微生物が十分に分散し(すなわち、微生物の濃度が高く)、かつ夾雑物が少ないため、電極間のインピーダンスを測定して微生物の数を算出する微生物検査(例えば、特開2000−125846号参照)の検査試料として特に好ましい。
【0028】
以下、本発明の微生物採取用具を用いて作製した微生物懸濁液を検査試料として、電極間のインピーダンスを測定して微生物の数を算出する微生物数の測定方法について説明する。
【0029】
まず、本発明の微生物採取用具を用いて微生物懸濁液を作製する。具体的には、微生物採取用担体で被検査物の表面を拭き取り、被検査物に存在する微生物を微生物採取用担体に付着させる。次いで、微生物採取用具の微生物採取用担体側の部分を微生物懸濁用の液体に浸漬する。このとき、少なくとも微生物採取用担体および吸入口が液体中に位置するようにする。この状態で、加圧部の圧縮および開放を繰り返すことで、微生物や夾雑物を剥離するとともに夾雑物を除去して微生物懸濁液を得る(各実施の形態参照)。微生物懸濁用の液体は、導電率が低いものが好ましく、例えばマンニトール水溶液である。また、イオン交換体を有する微生物採取用具を用いて、微生物懸濁液の導電率を低下させることが好ましい。
【0030】
次に、作製した微生物懸濁液を、複数の電極を備えたセル内に導入する。ここでは、セル内に2つの電極が設けられているものとして説明する。
【0031】
次に、電極間に交流電圧を印加して、セル内の微生物を電界集中部に集める。ここで、「電界集中部」とは、電極間に交流電圧を印加した際に最も電場が強くかつ不均一な部分を意味する。セル内の微生物は、交流電圧を印加することにより発生する交流電界の作用で、電界集中部に泳動される。このとき、電極周辺に浮遊していた微生物は、すぐに電界集中部(電極間のギャップ)に到達するが、電極から離れて浮遊していた微生物は、距離に応じた時間が経過した後に電界集中部に到達する。したがって、一定時間後に電界集中部に集まっている微生物の数は、セル内の微生物の数(微生物懸濁液内の微生物濃度)に比例する。
【0032】
上記誘電泳動を行っている間に、電極間のインピーダンスを測定して、懸濁液単位量あたりの微生物の数を算出する。具体的には、まず、電極間のインピーダンスの経時変化を測定する。次いで、測定した各インピーダンスから電極間の静電容量を算出して、静電容量の経時変化を算出する。この静電容量の経時変化(インピーダンスの経時変化)は、誘電体である微生物が誘電泳動によって電界集中部に移動することに起因するものである。上記の通り、電界集中部に集まる微生物数の経時変化は、セル内の微生物の数に対応するので、静電容量の経時変化は、セル内の微生物数に対応したものとなる。したがって、セル内の微生物数と電極間の静電容量との間の関係を示す変換式を予め用意しておくことにより、静電容量の経時変化からセル内の微生物の数を算出することができる。電極間のインピーダンスの値から懸濁液単位量あたりの微生物の数を算出するより詳細な手順は、例えば特開2000−125846号に記載されている。
【0033】
以上の手順により、本発明の微生物採取用具を用いて作製した微生物懸濁液について、単位量あたりの微生物の数を測定することができる。
【0034】
本発明の微生物採取用具は、微生物の濃度が高く、かつノイズとなる夾雑物(微生物以外の誘電体)が少ない微生物懸濁液を作製することができる。したがって、本発明の微生物採取用具を用いた微生物数測定方法は、従来の微生物採取用具を用いた場合に比べて、より精度の高い測定結果を得ることができる。
【0035】
また、前述の通り、イオン交換体を有する本発明の微生物採取用具は、導電率の低い微生物懸濁液を作製することができる。したがって、本発明の微生物微生物採取用具を用いた微生物数測定方法は、イオン交換体を有する本発明の微生物採取用具を用いて微生物懸濁液を作製することで、インピーダンスの経時変化をより正確に測定することができるので、より精度の高い測定結果を得ることができる。
【0036】
さらに、本発明の微生物微生物採取用具を用いた微生物数測定方法は、誘電泳動時に電極間に強い電界が生じるため、水中の電解質濃度によっては電気分解が生じる可能性があるが、イオン交換体を有する本発明の微生物採取用具を用いて微生物懸濁液を作製することで、この電気分解を抑制することができる。
【0037】
5.本発明の実施の形態について
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0038】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る微生物採取用具100の構成を示す図である。
【0039】
微生物採取用具100は、加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150および微生物採取用担体160を備えて構成される。
【0040】
加圧部110および管部120は、一体成形にて作製されており、全体としてスポイト170を構成する。本実施例では、管部120は、一定の太さ(内径)を有するものとする。
【0041】
吸入口130は、管部120の側面に設けられた穴である。吸入口130が設けられる位置は、管部120の側面で、かつ微生物採取用担体160に覆われない位置であれば特に限定されないが、吸入口130と排出口140との間隔が長くなりすぎないことが好ましい。吸入口130と排出口140との間隔が大きくなると、後述する分散操作をする際に微生物懸濁用の液体の必要量が多くなるためである。吸入口130の大きさは、特に限定されないが、管部120の内部空間の断面(管部120の内径が一定ではない場合は、吸入口130と排出口140との間で一番細い箇所の断面)よりも小さいことが好ましい。例えば、吸入口130の面積は、管部120の内部断面積の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。これにより、スポイト170は、加圧部110を圧縮されたときに、スポイト170内の液体の大部分を吸入口130ではなく排出口140から排出することができる。
【0042】
ここで、吸入口130の大きさについてさらに説明する。スポイト170内部に液体を取り込んだとき、管部120の内部空間には圧力が均等にかかる。同様に、スポイト170から液体を排出するときも、管部120の内部空間には圧力が均等にかかると考えられる。したがって、スポイト170から液体を排出するときに吸入口130から排出される液体の量と排出口140から排出される液体の量との比は、吸入口130の大きさ(面積)と管部120の内部空間の断面積(管部120の内径が一定ではない場合は、吸入口130と排出口140との間で一番細い箇所の断面積)との比に依存すると考えられる。
【0043】
したがって、例えば、スポイト170内の液体の8割を排出口140から排出させようとする場合は、吸入口130の面積と管部120の内部空間の断面積との比を「2:8」にすればよい。また、吸入口130からの液体の排出をさらに抑えるためには、吸入口130の面積比(管部120の内部空間の断面積に対する吸入口130の面積の割合)をさらに小さくすればよい。例えば、吸入口130の面積比を0.5%とすると、吸入口130からの液体の排出は目視では確認できないレベルとなる。しかし、ここまで吸入口130を小さくしてしまうと、吸入口130から液体を取り込むことが困難となるので、吸入口130の面積比は、10%をやや下回る程度が特に好ましい。
【0044】
本発明者は、様々な大きさの吸入口を設けたスポイトを実際に作製し、上記吸入口の面積比と液体の排出量との関係について検討した。具体的には、まず、スポイトに青色の液体を吸入し、吸入口が水中に位置するようにスポイトの先(排出口側の部分)を無色の水の中に入れた。次いで、加圧部を加圧して吸入口および排出口から青色の液体を排出させ、吸入口および排出口における排出量を目視により観察した。その結果、吸入口の面積比が20%より大きい場合は、吸入口における排出量と排出口における排出量は同程度であった。一方、吸入口の面積比が20%以下の場合は、排出口における排出量が吸入口における排出量に比べて有意に大きくなり、吸入口の面積比が0.5%以下の場合は、スポイト内の液体はほとんど排出口から排出された。
【0045】
排出口140は、管部120の加圧部110が設けられていない側の端部に設けられた穴である。排出口140の大きさは、採取対象の微生物を通過させることができれば特に限定されないが、吸入口130の大きさよりも大きいことが好ましい。前述のように、スポイト170が、加圧部110を圧縮されたときに、スポイト170内の液体の大部分を吸入口130ではなく排出口140から排出するためである。本実施例では、排出口140の大きさは、管部120の内部空間の断面と同じ大きさであるものとする。したがって、排出口140の大きさは、吸入口130の大きさよりも大きい。
【0046】
逆流防止弁150は、吸入口130と排出口140との間に位置し、管部120内において液流調節部として機能する弁である。逆流防止弁150は、管部120の内孔を塞ぎうる形状の薄膜であり、その一部が管部120の内面に固定されている。逆流防止弁150は、固定部位を軸として排出口140側に90度回転することができる。逆流防止弁150は、スポイト170内部が陽圧になったときは、排出口140側に倒れる(管部120内面と略平行状態になる)ことで、スポイト170内部の液体が排出口140から吐き出されることを許す。一方、逆流防止弁150は、スポイト170内部が陰圧になったときは、管部120の内孔を塞ぐことで、外部の液体が排出口140から流れ込むことを妨げる。すなわち、逆流防止弁150は、外部の液体が排出口140から流れ込むことを妨げる弁として機能する。
【0047】
微生物採取用担体160は、被検査物の表面を拭き取って微生物を採取する部材である。微生物採取用担体160は、スポイト170内部が陽圧になった際に水圧によって脱離しないように、管部の排出口が設けられた端部に強固に固定されている。
【0048】
以下、上述のように構成された微生物採取用具100を用いて微生物を採取する手順と、そのときの微生物採取用具100の動作について説明する。
【0049】
まず、ユーザは、本発明の微生物採取用具100を手に取り、微生物採取用担体160で被検査物(例えば、口腔粘膜やまな板など)の表面を拭き取ることで、被検査物に存在する微生物を微生物採取用担体160に付着させる。このとき、微生物採取用担体160は、リン酸緩衝液や生理食塩水、マンニトール水溶液などの液体を含んでいてもよいが、乾燥していてもよい。
【0050】
次いで、ユーザは、微生物採取用具100の微生物採取用担体160側の部分を別個に用意した微生物懸濁用の液体に浸漬する。このとき、少なくとも微生物採取用担体160および吸入口130が液体中に位置するようにする。微生物懸濁用の液体は、例えばリン酸緩衝液や生理食塩水、マンニトール水溶液などである。この状態で、ユーザが加圧部110を圧縮すると、スポイト170の内部空間が陽圧になる。このとき、吸入口130の大きさが管部120の内部空間の断面よりも小さいため、スポイト170内の空気の大部分は、排出口140から微生物採取用担体160を通って外部に吐き出される。微生物採取用担体160に付着した微生物や夾雑物は、このときに受ける空圧によりその一部が微生物採取用担体160から剥離され、周囲の液体中に拡散する。
【0051】
次いで、ユーザが加圧部110を開放すると、スポイト170の内部空間が陰圧になる。このとき、逆流防止弁150が排出口140からの液体の流入を抑えるため、微生物懸濁用の液体は吸入口130からスポイト170内に流れ込む。この状態で、ユーザが加圧部110を再び圧縮すると、スポイト170の内部空間が陽圧になる。このとき、吸入口130の大きさが管部120の内径よりも小さいため、スポイト170内の液体の大部分は、排出口140から微生物採取用担体160を通って外部に吐き出される。微生物採取用担体160に付着した微生物や夾雑物は、このときに受ける水圧によりその一部が微生物採取用担体160から剥離され、周囲の液体中に拡散する。
【0052】
以後、ユーザは、加圧部110の圧縮および開放を繰り返すことで、微生物採取用担体160に付着した微生物や夾雑物に繰り返し水圧をかけて、微生物や夾雑物を剥離することができる。さらに、微生物懸濁用の液体を繰り返し微生物採取用担体160に通すため、夾雑物を微生物採取用担体160で除去することができる。
【0053】
以上説明したように、実施の形態1に係る微生物採取用具は、微生物採取担体に付着した微生物に繰り返し水圧を加えることができるので、微生物を積極的に剥離することができる。また、実施の形態1に係る微生物採取用具は、微生物懸濁液中の夾雑物を微生物採取担体内部に留めることができるので、夾雑物が少ない微生物懸濁液を作製することができる。
【0054】
(実施の形態2)
実施の形態1では、吸入口の大きさを調整することで、吸入口を通過する液体の流れを制御する例を示した。実施の形態2は、吸入口に第二の液流調節部を設けることで、吸入口を通過する液体の流れを制御する例を示す。
【0055】
図2は、本発明の実施の形態2に係る微生物採取用具200の構成を示す図である。実施の形態1に係る微生物採取用具と同じ構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0056】
微生物採取用具200は、加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150および微生物採取用担体160に加え、さらに流出防止弁210を備えて構成される。加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150および微生物採取用担体160は、実施の形態1と同じものである。
【0057】
流出防止弁210は、吸入口130において第二の液流調節部として機能する弁である。流出防止弁210は、吸入口130を塞ぎうる形状の薄膜であり、その一部が吸入口130近傍の管部120内面に固定されている。流出防止弁210は、固定部位を軸にして加圧部110側および排出口140側に180度可動することができる。流出防止弁210は、スポイト170内部が陰圧になったときは、加圧部110側に倒れる(管部120内面と略平行状態になる)ことで、外部の液体が吸入口130から流れ込むことを許す。一方、流出防止弁210は、スポイト170内部が陽圧になったときは、吸入口130を塞ぐように排出口140側に倒れることで、スポイト170内部の液体が吸入口130から吐き出されることを妨げる。すなわち、流出防止弁210は、スポイト170内部の液体が吸入口130から吐き出されることを妨げる弁として機能する。
【0058】
以下、上述のように構成された微生物採取用具200を用いて微生物を採取する手順と、そのときの微生物採取用具200の動作について説明する。
【0059】
まず、ユーザは、微生物採取用担体160で被検査物の表面を拭き取ることで、被検査物に存在する微生物を微生物採取用担体160に付着させる。
【0060】
次いで、ユーザは、微生物採取用具200の微生物採取用担体160側の部分を別個に用意した微生物懸濁用の液体に浸漬する。このとき、少なくとも微生物採取用担体160および吸入口130が液体中に位置するようにする。この状態で、ユーザが加圧部110を圧縮すると、スポイト170の内部空間が陽圧になる。このとき、流出防止弁210が吸入口130を塞ぐため、スポイト170内の空気は、排出口140から微生物採取用担体160を通って外部に吐き出される。微生物採取用担体160に付着した微生物や夾雑物は、このときに受ける空圧によりその一部が微生物採取用担体160から剥離され、周囲の液体中に拡散する。
【0061】
次いで、ユーザが加圧部110を開放すると、スポイト170の内部空間が陰圧になる。このとき、逆流防止弁150が排出口140からの液体の流入を抑えるため、微生物懸濁用の液体は吸入口130からスポイト170内に流れ込む。この状態で、ユーザが加圧部110を再び圧縮すると、スポイト170の内部空間が陽圧になる。このとき、流出防止弁210が吸入口130を塞ぐため、スポイト170内の液体は、排出口140から微生物採取用担体160を通って外部に吐き出される。微生物採取用担体160に付着した微生物や夾雑物は、このときに受ける水圧によりその一部が微生物採取用担体160から剥離され、周囲の液体中に拡散する。
【0062】
以後、ユーザは、加圧部110の圧縮および開放を繰り返すことで、微生物採取用担体160に付着した微生物などに繰り返し水圧をかけて、微生物や夾雑物を剥離することができる。さらに、微生物懸濁用の液体を繰り返し微生物採取用担体160に通すため、夾雑物を微生物採取用担体160で除去することができる。
【0063】
以上説明したように、実施の形態2に係る微生物採取用具は、スポイト内部の液体の吸入口からの流出をより防ぐことができるので、スポイト内部の液体をより効率的に排出口から吐き出すことができる。
【0064】
(実施の形態3)
実施の形態2では、微生物懸濁用の液体を別個に用意して微生物懸濁液を作製する例を示した。実施の形態3は、微生物採取用具内に予め封入した液体を用いて微生物懸濁液を作製する例を示す。
【0065】
図3は、本発明の実施の形態3に係る微生物採取用具300の構成を示す図である。実施の形態2に係る微生物採取用具と同じ構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
微生物採取用具300は、加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150および微生物採取用担体160に加え、さらに懸濁用液体止め310および懸濁用液体320を備えて構成される。加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150および微生物採取用担体160は、実施の形態2と同じものである。
【0067】
懸濁用液体止め310は、管部120内孔を塞ぐ薄膜であり、懸濁用液体320を加圧部110および管部120の一部に封入している。懸濁用液体止め310は、ユーザが加圧部110を圧縮して懸濁用液体320の水圧を上昇させることにより、懸濁用液体320を放出しうるように形成されており、その後は実施の形態2で述べた流出防止弁として機能しうるように形成されている。このようにするには、例えば、懸濁用液体止め310と管部120との接続部(懸濁用液体止め310の円周部分)の一部を、懸濁用液体320の水圧が上昇しても破壊されない強固な構造とし、接続部の残りの部分を、懸濁用液体320の水圧が上昇すると破壊される弱い構造とすればよい。このようにすることで、ユーザが加圧部110を圧縮して懸濁用液体320の水圧を上昇させると、弱い構造の部分のみが破壊されることになる。したがって、懸濁用液体止め310は、実施の形態2で述べた流出防止弁と同様に、その一部が管部120内面に固定された、吸入口130を塞ぎうる薄膜となる。
【0068】
懸濁用液体320は、懸濁用液体止め310により加圧部110および管部120の一部に封入されている、微生物懸濁用の液体である。懸濁用液体320は、例えばリン酸緩衝液や生理食塩水、マンニトール水溶液などである。
【0069】
以下、上述のように構成された微生物採取用具300を用いて微生物を採取する手順と、そのときの微生物採取用具300の動作について説明する。
【0070】
まず、ユーザは、微生物採取用担体160で被検査物の表面を拭き取ることで、被検査物に存在する微生物を微生物採取用担体160に付着させる。
【0071】
次いで、ユーザは、微生物採取用具300の微生物採取用担体160側の部分を別個に用意した容器に入れる。この状態で、ユーザが加圧部110を圧縮すると、スポイト170内部に封入された懸濁用液体320の水圧が上昇し、懸濁用液体止め310が破壊される。このとき、破壊された懸濁用液体止め310が吸入口130を塞ぐため、開放された懸濁用液体320は、排出口140から微生物採取用担体160を通って外部の容器内に吐き出される。
【0072】
以後、ユーザは、実施の形態2で述べたように、加圧部110の圧縮および開放を繰り返すことで、微生物採取用担体160に付着した微生物などに繰り返し水圧をかけて、微生物や夾雑物を剥離することができる。
【0073】
以上説明したように、実施の形態3に係る微生物採取用具は、実施の形態2に係る微生物採取用具の効果に加え、微生物懸濁用の液体を別個に用意せずに微生物懸濁液を作製することができる。
【0074】
(実施の形態4)
実施の形態3では、スポイト内部に懸濁用液体のみを封入する例を示した。実施の形態4は、スポイト内部に懸濁用液体に加えてイオン交換体も封入する例を示す。
【0075】
図4は、本発明の実施の形態4に係る微生物採取用具400の構成を示す図である。実施の形態3に係る微生物採取用具と同じ構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0076】
微生物採取用具400は、加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150、微生物採取用担体160、懸濁用液体止め310および懸濁用液体320に加え、さらにイオン交換体410を備えて構成される。加圧部110、管部120、吸入口130、排出口140、逆流防止弁150、微生物採取用担体160、懸濁用液体止め310および懸濁用液体320は、実施の形態3と同じものである。
【0077】
イオン交換体410は、懸濁用液体320に含まれるイオンを吸着する、ビーズ状のイオン交換樹脂である。イオン交換体410は、懸濁用液体320とともに加圧部110および管部120の一部に封入されている。イオン交換体410は、懸濁用液体止め310が破壊されると、スポイト170内部を移動可能になる。イオン交換体410は、微生物採取用担体160の孔径よりも大きなものが好ましい。これにより、イオン交換体410は、懸濁用液体止め310が破壊されても、スポイト170内部に留まることができる。
【0078】
本実施の形態では、懸濁用液体320は、実施の形態3とは異なりイオンを含まない液体が好ましく、例えばマンニトール水溶液などのイオン以外で浸透圧を調整する液体が好ましい。
【0079】
ユーザは、実施の形態3で述べたように、加圧部110の圧縮および開放を繰り返すことで、微生物採取用担体160に付着した微生物などに繰り返し水圧をかけて、微生物や夾雑物を剥離することができる。このとき、懸濁用液体320がイオン交換体410と接触して懸濁用液体320に含まれるイオンが吸着されるので、得られる微生物懸濁液は導電率が低いものとなる。
【0080】
以上説明したように、実施の形態4に係る微生物採取用具は、実施の形態3に係る微生物採取用具の効果に加え、導電性が低い微生物懸濁液を作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、微生物懸濁液を検査試料とする微生物検査装置の微生物採取用具として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態1に係る微生物採取用具の構成を示す概略図
【図2】本発明の実施の形態2に係る微生物採取用具の構成を示す概略図
【図3】本発明の実施の形態3に係る微生物採取用具の構成を示す概略図
【図4】本発明の実施の形態4に係る微生物採取用具の構成を示す概略図
【符号の説明】
【0083】
100、200、300、400 微生物採取用具
110 加圧部
120 管部
130 吸入口
140 排出口
150 逆流防止弁
160 微生物採取用担体
170 スポイト
210 流出防止弁
310 懸濁用液体止め
320 懸濁用液体
410 イオン交換体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の端部に排出口を有する管部、および前記管部の内部空間と連通する空間を有し、形状復元性を有する加圧部を有するスポイトと、前記排出口に設けられ、通気性および通液性を有する微生物採取用担体と、を備える微生物採取用具であって、
前記管部は、側面に吸入口を有し、かつ、前記排出口から前記管部の内部空間に液体が流れ込むことを防ぐ液流調節部をその内部に有する、微生物採取用具。
【請求項2】
前記加圧部は、前記管部の第二の端部に位置し、
前記液流調節部は、前記吸入口と前記排出口との間に位置する、
請求項1記載の微生物採取用具。
【請求項3】
前記液流調節部は、逆流防止弁である、請求項1記載の微生物採取用具。
【請求項4】
前記微生物採取用担体は、繊維塊または多孔質体である、請求項1記載の微生物採取用具。
【請求項5】
前記管部は、前記管部内の前記液体が前記吸入口から流れ出すことを防ぐ第二の液流調節部をその内部にさらに有する、請求項1記載の微生物採取用具。
【請求項6】
前記第二の液流調節部は、逆流防止弁である、請求項5記載の微生物採取用具。
【請求項7】
前記加圧部または前記管部は、懸濁用液を有する、請求項1記載の微生物採取用具。
【請求項8】
前記加圧部、前記管部または前記微生物採取用担体は、イオン交換体を有する、請求項1記載の微生物採取用具。
【請求項9】
請求項1記載の微生物採取用具を用いて、微生物の懸濁液を作製するステップと、
前記懸濁液を、複数の電極を備えたセル内に導入するステップと、
前記電極のうちいずれかの電極間に交流電圧を印加することにより、前記セル内の前記微生物に誘電泳動力を及ぼして、前記微生物を電界集中部に集めるステップと、
前記電極間でインピーダンスを測定して、前記微生物の数を算出するステップと、
を含む、微生物数測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−187944(P2008−187944A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24640(P2007−24640)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】