説明

微生物検査用キット及び該キットを用いた微生物の検査方法

【課題】 粘着シートで捕集した微生物の捕集量が少ない場合でも、微生物を高精度に検出することができる微生物検査用キット及び該キットを用いた微生物の検査方法の提供。
【解決手段】 (A)支持体の少なくとも片面に粘着層を設けてなる微生物捕集用粘着シート及び(B)微生物検出用染料を含有する培地層を少なくとも有する培地シートを含む微生物検査用キット。上記(A)の微生物捕集用粘着シートの粘着層を被験体に圧着して微生物を捕集し、次いで、粘着層の微生物を捕集した粘着面に上記(B)の培地シートの培地層を積重して、微生物を培養し、次いで、かかる培養を経て増殖した微生物を例えば顕微鏡観察することで、微生物の検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物検査用キット及び該キットを用いた微生物の検査方法に関し、詳しくは、粘着シートの粘着面に捕集した微生物を培養して増殖させることにより、高精度の検査を行うことができる微生物の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被験材料中の菌数を推定するには、例えば市販のフードスタンプ等を使用したアガースタンプ法のように、1個の菌が1個のコロニーを形成することを応用し、寒天等の固形培地を被験材料に押し当てて菌を培養し、寒天平板上に発現したコロニーを肉眼で見定めながら計測する方法がある。また、例えば市販の微生物/微粒子検査用メンブレンフィルター等を使用したメンブレンフィルター法のように、被験材料を生理食塩水等で洗いだし、メンブレンフィルターで捕集し、液体培地を吸収させることによりフィルター上でコロニーを形成させる方法もある。さらに下記非特許文献1には、フィルムに培地をコートし、これを被験面に接触培養するだけで検体採取が可能なフィルムコート培地を作成した例が報告されている。
【0003】
しかしながら、アガースタンプ法では、寒天培地の大きさ(面積)が限られているとともに、通常一被験面に対して一度しか使用できないので、寒天培地の含水率によって捕集効率が変化し、再現性に劣る等、細菌の捕集効率において不都合をきたすことが多かった。さらに、寒天培地中の水分によって被験面が汚染されるといった問題もある。
【0004】
また、メンブレンフィルター法では、洗い出し工程とフィルターでの濾過工程の2工程を要するために、操作が煩雑になるとともに、二次汚染が懸念される等の不都合がある。すなわちこの方法では、直接的に被験物質から菌を採取できず、使用前の滅菌作業、綿棒でのサンプリング、洗い出し液の調整、およびフィルター濾過などに多大な労力がかかり、コストアップが避けられない。
【0005】
さらに、下記非特許文献1に発表されたフィルムコート培地は、アガースタンプ法と同様に、水分によって被験面が汚染されるといった問題がある。また、使用されている寒天培地の曲げ強度が小さい為に、シートとしての利用が制限され、培地とフィルムとの接着力不足等の諸欠点がある。
【0006】
一方、本出願人は、粘着シートの粘着層を圧着、剥離して、該粘着層上に微生物を捕集(集積)した後、微生物を染色し得る一種以上の発色性物資を含有する水溶液を粘着層表面に接触させ、染色された菌体を観察・計数(画像解析)することで、被験体中に存在する微生物を検出できる検査方法を提案した(下記特許文献1)。この検査方法は、粘着シートの粘着層を微生物の捕集手段及び被験面として用いることによって、特に固形状の被験体の表面(固体表面)に存在する微生物を簡便に検出できるようにしたものである。しかしながら、例えば、被験体の表面が比較的清浄なものである場合、微生物捕集量が少ないために、十分に高い検出精度が得られないという問題があった。また、捕集された微生物と微小なごみとの識別がし難いという問題もあった。
【特許文献1】特開2002−142797号公報
【非特許文献1】医学検査、1992年、第41巻、第3号、p352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に艦みなされたもので、その解決しようとする課題は、粘着シートで捕集した微生物の捕集量が少ない場合でも、微生物を高精度に検出することができる微生物検査用キット及び該キットを用いた微生物の検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)下記(A)及び(B)を含む微生物検査用キット。
(A):支持体の少なくとも片面に粘着層を設けてなる微生物捕集用粘着シート
(B):微生物検出用染料を含有する培地層を少なくとも有する培地シート
(2)微生物検出用染料が蛍光染料である、上記(1)記載の微生物検査用キット。
(3)上記(1)記載の微生物検査用キットを用いた微生物の検査方法であって、
前記(A)の微生物捕集用粘着シートの粘着層を被験体に圧着して微生物を捕集する工程と、
前記粘着層の微生物を捕集した粘着面に前記(B)の培地シートの培地層を積重して、前記微生物を培養する工程と、
前記培養工程を経て増殖した微生物の検出操作を行う工程とを含む、微生物の検査方法。
(4)微生物の検出操作が微生物を顕微鏡観察する操作である、上記(3)記載の微生物の検査方法。
(5)微生物捕集用粘着シートの粘着層に含有させた微生物検出用染料がSYBRGoldであり、顕微鏡が蛍光顕微鏡である、上記(4)記載の微生物の検査方法。
なお、本発明において、「微生物の検査」とは「微生物の検出検査」を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の微生物検査用キットを使用すれば、被験体に圧着、剥離した粘着シートの粘着層(粘着面)に培地シートの微生物検出用染料入りの培地層を積重すると、粘着面に捕集した微生物に培地シートから栄養が供給され、かつ、微生物検出用染料が取り込まれるので、粘着シートと培地シートの積重物を例えばインキュベータ内に入れることで、捕集した微生物を増殖させると同時に標識することができる。従って、粘着シートで捕集した微生物(検体)の量が少ない場合でも、粘着シート上で微生物の濃度(検体濃度)を高め、かつ、標識できることから、常に、精度の高い微生物検査を行うことができる。また、比較的清浄度が高い被験体を検査対象とするときには同一粘着面で検査範囲を拡げることができるので、経済的かつ省力的に微生物の検出を行うことができる。また、微生物の捕集は粘着剤の粘着力によることから、安定かつ高い捕集効果が得られ、しかも、従来の検査用培地で問題となっていた、水分による被験面汚染の問題も解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
[(A)微生物捕集用粘着シート]
当該微生物捕集用粘着シートは、図1に示すように、支持体1の少なくとも片面に粘着層2を設けてなる粘着シート10である。粘着層2は一般に粘着シートの操作性の点から支持体1の片面にのみに設ける場合が多いが、支持体1の両面に設けてもよい。
【0011】
当該微生物捕集用粘着シート10は、検体の表面(被験面)に存在する微生物を捕集するために用いられる。すなわち、粘着層2の粘着面を被験体の表面(被験面)に圧着し、被験体の表面(被験面)に存在する微生物を粘着面に捕集する。
【0012】
粘着層2に使用する粘着剤(高分子化合物)としては、被験面上の微生物を捕獲するのに十分な粘着性を有するものであればよく、公知の粘着シートに使用されている種々の粘着性を示す高分子化合物(粘着剤)を使用できる。
具体的には、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合物、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル等の非水溶性粘着剤や、カンテン、カラゲニン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、メチルセルロース、ポリアクリル酸系及び/又はポリアクリル酸塩系高分子化合物、親水性ポリエーテル系ウレタンポリマー、スチルバゾリウム化ポリビニルアルコール、キサンタンガム等の多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等のアクリルアミド類等の水溶性粘着剤が挙げられる。
【0013】
微生物の粘着面における蛍光標識性の点からは、粘着層は透明性が高く、かつ、無蛍光性であるのが好ましく、かかる観点からは、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好ましい。当該アクリル系粘着剤の好適な具体例としては、アルキル基の炭素数が2〜13の直鎖又は分岐のアルキル基である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル及び(メタ)アクリル酸デシル等から選ばれる1種または2種以上を主モノマーとし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールといった親水性のモノマーを1種または2種以上共重合させた共重合体が挙げられる。また、粘着特性(特に粘着力)の改善のために、かかる共重合体に、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線等の照射処理等を行って、架橋を施したものも好ましく使用される。また、シリコーン系粘着剤の好適な具体例としては、主成分がジメチルシロキサンからなるものが挙げられる。
【0014】
また、培養時の微生物の成長速さ等の点からは、アルコキシアクリレート及びN-ビニルラクタムを主たる構成単位とするアクリル系共重合物からなる水溶性粘着剤が好適である。当該アクリル系共重合物におけるアルコキシアルキルアクリレートとしては、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基と炭素数2〜4のアルキル基あるいはアルキレングリコール基をもつアクリレートが挙げられ、具体的には、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、ブトキシトリエチレングリコール、2−(2−エトキシエチル)エチルアクリレート、メトキシトリエチレンアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート等が挙げられる。中でも、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート等が好ましい。また、N−ビニルラクタムとしては、5〜7員環のN−ビニルラクタムが好適であり、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−2−カプロラクタム等が挙げられ、中でも、N−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。
【0015】
当該アクリル系共重合物におけるアルコキシアルキルアクリレートの配合割合は、好ましくはアクリル系共重合物全体の60〜80重量%であり、さらに好ましくは65〜75重量%である。また、N−ビニルラクタムの配合割合は、好ましくはアクリル系共重合物全体の20〜40重量%であり、さらに好ましくは25〜35重量%である。N−ビニルラクタムの配合割合が、20重量%未満になると、得られた粘着層の強度および吸水能力が低くなる場合がある。一方、40重量%を超えると、得られた粘着層の柔軟性が低く、アクリル系共重合物が水分に溶解して流れが生じる場合がある。当該アクリル系共重合物には、吸水能力を向上させるために、ビニルカルボン酸を共重合させてもよく、ビニルカルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸半エステル、フマル酸半エステルが挙げられる。中でも、反応性、汎用性の面からアクリル酸が好ましい。ビニルカルボン酸の配合割合は、アクリル系共重合物全体の10重量%以下が好ましい。
【0016】
当該アクリル系共重合物等の水溶性粘着剤を使用する場合、必要に応じて粘着剤100重量部当たり5〜40重量部の範囲内で可塑剤を添加してもよく、可塑剤を添加することで、粘着層の柔軟性および粘着性をより向上させることができる。この可塑剤としては、使用する水溶性高分子との相溶性がよく、親水性である化合物が好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3,5−ペンタントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の低分子量の多価アルコール、平均分子量が1000以下であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンソルビトール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリスリトールエーテル等が挙げられるが、優れた柔軟性、粘着性および親水性が得られる点から、特に平均分子量が200以上800以下であるポリオキシプロピレングリセリルエーテル、平均分子量が200以上800以下であるポリオキシプロピレングリコール、平均分子量が200以上800以下であるポリオキシプロピレンソルビトールなどが好ましい。また、水溶性粘着剤の適度な水分率を維持するために、水溶性粘着剤100重量部当たり20〜300重量部の範囲で親水性低分子物質を添加してもよく、該親水性低分子物質としては、高沸点液状物質(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等多価アルコールやソルビトール等の糖アルコール)又は/及び潮解性無機塩類(例えば、硝酸リチウム、塩化リチウム等)が好適である。
【0017】
当該アクリル系共重合物は、粘着特性(特に粘着力)の改善のために、かかる共重合物に、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線等の照射処理等を行って、架橋を施したものも好ましく使用される。
【0018】
本発明において、粘着シートの粘着層2に使用する粘着剤(高分子化合物)は1種の粘着剤であっても、2種以上の粘着剤の混合物であってもよい。また、粘着層剤には、粘着剤とともに、必要に応じて、老化防止剤、充填剤など、常用の添加剤を配合することができる。
【0019】
本発明において、微生物捕集用粘着シート10の粘着層2の厚み(乾燥後の固形分による厚み)は、微生物の捕集効率、培養の際の酸素透過性等の観点から、5〜100μmが好ましく、特に好ましくは10〜60μmである。すなわち、厚みが100μmを超える場合は、粘着層が凝集破壊しやすくなり、捕集効率が低下すると共に、被験面を汚染しやすくなる。また、厚みが5μmより小さい場合、粘着剤を均一な厚みで塗布しがたくなり、好ましくない。
【0020】
本発明の微生物捕集用粘着シート10における支持体1には、粘着テープ用の支持体として使用されている公知のシート(フィルム)類を適用できる。特に、粘着層表面に大きな凹凸を形成させず、また、曲面や狭所表面にも自在に圧着させ得る柔軟な材質からなるものが好適であり、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ウレタン−アクリルハイブリッド樹脂等からなる中実または多孔質のプラスチックシート、布、不織布、紙、ポリエチレンラミネート紙等が挙げられる。これらの中でも、柔軟性や機械的強度の点からポリエステルフィルムやポリカーボネートフィルムが好ましい。
【0021】
また、支持体2の厚みは粘着シートの支持体としての十分な強度が得られる厚みであれば特に制限されるものではないが、一般的には5〜5000μm程度であり、好ましくは5〜200μm程度である。
【0022】
本発明の微生物捕集用粘着シート10には、支持体1の粘着層2と接する面とは反対面に、基材の強度を上げたり、光学的な散乱防止や発色性物質を用いて発色した微生物の視認性を向上させるバックグランド色を形成するために、さらにバッキング層を設けてもよい。
【0023】
粘着シート10は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、粘着層2を形成するための高分子化合物を含有する溶液を、剥離ライナーに塗布し乾燥させた後、粘着層2の表面に支持体1を構成するフィルム、布帛等を貼り合わせるか、又は上記高分子化合物を含有する溶液を、支持体1を構成するフィルム、布帛等に直接塗付し乾燥させた後、粘着層2の表面に必要に応じて剥離ライナーを積層して、支持体1及び粘着層2を含むシート状原反を得、これを粘着シートの外枠の形状で打抜くことで製造することができる。
【0024】
本発明の微生物捕集用粘着シート10において、被験体へ貼付するまで粘着層2の表面が剥離ライナーで保護されているのが好ましく、必要に応じて、粘着層2には剥離ライナーが積層される。かかる剥離ライナーの材質は、使用時に粘着層2から容易に剥離できるものであれば、特に限定されない。具体的には、その粘着層2との接触面を剥離処理した中実或いは多孔性のプラスチックシート(フィルム)、上質紙又はグラシン紙とプラスチックフィルム(例えば、ポリオレフィンフィルム)とのラミネートフィルム等が挙げられる。また、本発明の微生物捕集用粘着シート10は、使用前は、滅菌した状態で細菌遮断性包材に封入する等により、無菌状態を保持した形態をとるのが好ましい。なお、かかる滅菌処理には、EOG(エチレンオキサイドガス)法、電子線法、γ線法を用いるのが好ましい。即ち、粘着シートを細菌遮断性包材に封入する等により、無菌状態を保持し得る形態とした後、電子線或いはγ線を照射する滅菌処理を施して、本発明の微生物捕集用粘着シート10を流通に供するのが好ましい。この場合、電子線或いはγ線などの放射線の照射線量は、着色等の変性を防止しつつ十分な滅菌を達成するために、25〜50kGy程度が適当である。
【0025】
[(B)培地シート]
当該培地シートは、図1に示すように、微生物検出用染料を含有する培地層12を少なくとも有するシート20であり、通常、支持体11の上に微生物検出用染料を含有する培地層12を設けて構成される。支持体11は培地層12を支持するとともに、培地層12の乾燥を防止する役割を果たしている。
【0026】
培地層12に使用する培地の種類は、検出対象の微生物の生育を阻害しないものであれば、特に限定されず、公知の微生物生育(増殖)用の培地を使用できるる。例えば、標準寒天培地、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(SCD寒天培地)、SCDLP寒天培地、R2A培地(水質検査用)、マンニット食塩寒天培地(ぶどう球菌用)、デソキシコレーレート寒天培地、ポテトデキストロース寒天培地、サブロー・ブドウ糖寒天培地等が挙げられる。また、培地層には微生物の栄養要求性を利用し、適当な選択剤を添加することで、特定の微生物のみを検出することも可能である。選択剤としては、選択培地、抗菌剤、抗生物質等が挙げられる。特定微生物としては、例えば、食中毒菌として問題となっている、大腸菌や腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ、腸炎ビブリオ、リステリア、院内感染問題で注目を浴びている薬剤耐性菌のMRSA、ナチュラルウォーター中に存在する微生物、医薬用水中に存在する微生物、酵母、真菌などが挙げられる。一方、耐性菌検出のために添加する抗菌剤としては、例えば、アルコール類、グルタルアルデヒド、ヨードホール、ポピドンヨード、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アルキルポリアミノエチルグリシン、グルコン酸シクロヘキシジン、ベンズイソチアゾリン、有機窒素含有環式化合物、有機窒素硫黄系化合物、有機窒素硫黄ハロゲン化合物、ピリジンオキサイド系化合物等が挙げられ、抗生物質としては、例えば、セフェム系、第二世代セフェム系、第三世代セフェム系抗生物質(セファロシン、セファロリジン等)、ペニシリン系抗生物質(メチシリン、アンピシリン、ペニシリンG等)、テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン等)、ペプチド系抗生物質(バンコマイシン等)、アミノグリコシド系抗生物質(アルベカシン、スプレプトマイシン、カナマイシン等)が挙げられる。これら培地層への抗菌剤又は/及び抗生物質の配合量は特に限定されないが、一般的には、培地(固形分量)に対し、2×10−5〜2×10−2重量%程度である。
【0027】
培地層12中に含有させる微生物検出用の染料としては、微生物の生育を阻害しないものであれば特に限定されず、微生物の染色に使用されている公知のものを制限なく使用することができ、例えば、生育(増殖)させる微生物に特異的な酵素基質やpH指示薬、核酸に特異的に結合する蛍光染料等が挙げられる。酵素基質の中で特に好適なものは、「カルボキシフルオレセイン・ジアセテート(CFDA)」なる染料である。該CFDAは本来無蛍光であるが、生きている微生物が有する酵素(エステラーゼ)によって分解されると蛍光を発する。従って、該CFDAを含有せしめた培地層を有する培地シートを使用することで、例えば、培養(増殖)させた微生物を蛍光顕微鏡で観察した際、微生物の集合体のうち生きているものだけがこの染料で染色され、検出されることになる。また、核酸に特異的に結合する蛍光染料としては、好ましくは、SYBR GreenI、SYBR GreenII、SYBR Gold、SYTOX Green、DAPI、TOTO−1 Iodide、YOYO−1 Iodide、SYTO 62、SYTO 63、SYTO 64(いずれも、Molecular Probes社製)等が挙げられるが、なかでも、SYBR Goldは、微生物の染色性に優れ、しかも、微生物と共存しても微生物の増殖を阻害しないので、特に好ましい。
【0028】
培地層12は単位面積当たりの培地の量が0.1〜5mm/mmとなるように設けるのが好ましく、当該培地の量が0.2〜2mm/mmとなるように設けるのがより好ましい。培地層12における単位面積当たりの培地の量が0.1mm/mm未満の場合、微生物に対する栄養供給性が低下する傾向となり、5mm/mmを超えると、観察性が低下する傾向になる。また、培地層12中の当該蛍光染料の濃度(含有量)は好ましくは0.01〜100ppmであり、より好ましくは0.1〜10ppmが好ましい。該蛍光染料の濃度(含有量)が0.01ppm未満の場合、微生物の染色性が悪くなる傾向となり、100ppmを超えると、観察時にバックグランド発色が強くなる傾向になる。
【0029】
培地シート20の支持体11としては、培地層12との適度な密着性が得られて、培地層12を離脱することなく、かつ、培地層12の乾燥防止に役立つものであれば特に限定はされないが、ハンドリング性や顕微鏡観察時の明瞭性の点から、例えば、ポリエステルやポリカーボネート、ポリプロピレンが好ましい。また、支持体11の厚みは特に限定はされないが、一般的には5〜200μm程度である。
【0030】
培地シートは例えば次のようにして得ることができる。まず、少なくとも培地及び微生物検出用染料を含む溶液を、支持体11に塗布し乾燥させた培地層12を形成後、必要に応じて、培地層12の表面に該表面を保護するシート(フィルム)、布帛等を貼り合わせる。ここでの、培地層12の表面保護用のシート(フィルム)、布帛等は、培地シートの培地層の乾燥や微生物汚染防止のために設けられるものであり、該表面保護用のシート(フィルム)、布帛等を設けることで、品質保持や本発明のキットを用いた検査結果の信頼性向上という利点がある。
【0031】
[微生物の検査方法]
本発明の微生物検査用キットは、少なくとも、上記の(A)支持体の少なくとも片面に粘着層を設けてなる微生物捕集用粘着シート及び(B)微生物検出用染料を含有する培地層を少なくとも有する培地シートを含むものであり、以下、かかるキットを用いた微生物の検査方法について説明する。
【0032】
まず、本キットの粘着シート10の粘着層2を被験体に押し当て、被験体に付着している微生物を粘着層2上に捕集する、または、水溶液状の被験物質(即ち、検査対象の微生物を含む水性溶液、例えば、飲料水や食品懸濁液、拭き取り法などにより捕集した微生物含有液等)を粘着シート10の粘着層2上に直接接種する。
【0033】
次に、粘着層2の粘着面(捕集面)に培地シート20の培地層12を積重し、この状態で、かかる積重物をインキュベータ内に入れ、捕集された微生物の培養を行う。この間、捕集された微生物には培地シートから栄養が供給され粘着層2上で増殖し、微生物は集合体(コロニー)を形成すると同時に、培地層12から微生物検出用染料を取り込んで標識される。すなわち、例えば、微生物検出用染料が蛍光染料である場合、微生物は蛍光染料を取り込んで蛍光を発するようになる。
【0034】
かかる培養操作において、粘着シート10と培地シート20の積重物は、人体や設備機器の二次汚染を防ぐ目的で、これらの汚染源となる物品、環境から遮断された状態を保つのが好ましく、例えば、粘着性シート10と培地シート20の積重物を直ちにシャーレに入れるのが好ましい。なお、かかる積重物を環境から遮断するための手段はシャーレに限らず、微生物が透過することのできないフィルム等であってもよい。該「微生物が透過することのできないフィルム」とは、微生物が移動可能な大きさの孔を有しないフィルムのことであり、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレンなどのプラスチックフィルムや、孔径0.2μm以下のメンブレンフィルタ等が挙げられる。なお、培養時間は検査対象の微生物によっても異なるが、一般的には4〜48時間程度である。
【0035】
次に、培地シート20の培地層12を粘着シート10の粘着層2から分離し、粘着シート10の粘着層2の粘着面(捕集面)を顕微鏡観察する等して微生物の検出を行う。すなわち、被験物が生きた微生物で汚染されていた場合、該微生物は粘着面(捕集面)に捕集され、培養によって増殖し、かつ、標識されているので、微生物の集合体(コロニー)として検知でき、微生物の検出を行うことができる。
【0036】
本発明の微生物検査用キットでの検出対象となる微生物は特に限定されない。前記で説明したとおり、選択培地や抗生物質を添加することで、特定の菌のみの検出も可能である。具体例としては、食中毒菌として問題となっている大腸菌や腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ、腸炎ビブリオ、リステリア、院内感染問題で注目を浴びている薬剤耐性菌のMRSA、ナチュラルウオーター中に存在する微生物、医薬用水中に存在する微生物、酵母、真菌などが挙げられる。
【0037】
また、本微生物検査用キットを用いた微生物検査において、粘着シート上の増殖した微生物(コロニー)を観察(検知)する方法は特に限定されなず、目視での観察も可能であるが、検査精度の点から、通常、光学顕微鏡、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、レーザー顕微鏡等の顕微鏡観察で行うのが好ましい。また、市販のコロニーカウンターや各種画像の自動検出装置(例えば、簡易顕微鏡にオートスキャン装置を組み合わた自動装置であって、本発明のキット(粘着シート)をステージに乗せるだけで、自動で画像を取り込み、微生物を検出するもの等。)を用いて行ってもよい。また、増殖した微生物の集合体(コロニー)の大きさは特に限定されない。使用する観察(検知)手段によって適正に観察(検知)でき大きさであればよく、目視観察する場合は、目視で見える大きさまで増殖さればよい。なお、顕微鏡観察、特に蛍光顕微鏡観察であれば、増殖した微生物が、少なくとも4個以上の固体の集合体を形成していれば、増殖したコロニーとして判定することができる。
【0038】
本発明の微生物検査用キットを適用する被験体は特に制限されず、種々の物品の微生物検査を行うことができる。例えば、床や壁、食品や医薬品の製造装置、肉や魚や野菜の表面、ホモジナイズした食品、調理器具、医療器具、水等を挙げることができる。
【0039】
本発明の微生物検査用キットは、(A)支持体の少なくとも片面に粘着層を設けてなる微生物捕集用粘着シート及び(B)微生物検出用染料を含有する培地層を少なくとも有する培地シート以外に、例えば、微生物を捕集後培養する際に使用するシャーレや小型インキュベーター等を含んでもよい。
【実施例】
【0040】
実施例1
(粘着シートの作製)
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5(重量比))を重合して得られるアクリル系粘着剤を厚みが100μmのポリカーボネート製のフイルム上にアプリケーターで塗布し、110℃で3分乾燥させて最終厚み20μmの粘着層を形成した。これを適当な大きさに切り分け、γ線滅菌して粘着シートとした。
【0041】
(培地シートの作製)
SCDA培地(日本製薬社製)に最終濃度が1ppmとなるように蛍光染料(SYBR Gold、MolecularProbes社製)を添加した。これを厚み75μmのPETフイルムの上に厚み約0.2mmとなるように、クリーンベンチ内でキャストし、培地シートとした。
【0042】
(微生物検査)
上記粘着シートと培地シートを用いて水溶液状検体からの微生物の検出を行った。
生理食塩水で6.3×10cells/mlに希釈した大腸菌E.coli K-121mlを、フィルター(ワットマン社製、Nuclepore、孔径0.2mm)でろ過し、ろ過面に粘着シートの粘着層(粘着面)を指で軽く押し当て、すぐに剥離した。こうして集菌した粘着シートの粘着面に培地シートの培地層を積重し、25℃で16時間インキュベートした。インキュベート後、培地シート側から落射型蛍光顕微鏡(1000倍、青色励起)で観察した。その結果、蛍光を発するE.coliの集合体(コロニー)を検知でき、本発明のシートで生きた微生物を検出できることがわかった。図2はかかる落射型蛍光顕微鏡によるマイクロコロニーの観察画像写真である。
【0043】
実施例2
上記実施例1で作製した粘着シートと培地シートを用いて、環境中の微生物検査を行った。被検体は、マウスの左クリック部、ドアノブ、水道のカラン、冷蔵庫のドアの把手、水道のシンク、指掌などとした。
【0044】
(微生物検査)
粘着シートの粘着層(粘着面)を上記検体の被験面に指で軽く押し当て、すぐに剥離した。こうして集菌した粘着シートの粘着面に、培地シートの培地層を積重し、25℃で
48時間インキュベートした。インキュベート後、培地シート側から落射型蛍光顕微鏡(1000倍、青色励起)で観察した。その結果、蛍光を発する微生物の集合体(コロニー)を検知でき、本発明のシートで環境中の生きた微生物を検出できることがわかった。下記の表1はその検出結果であり、表中、+は微生物の集合体を検出できたことを示す。++は微生物の集合体を検出でき、さらにその量が多かったことを示す。一方、蛍光染料の入っていない培地で同様の検討を行ったところ、蛍光観察においてコロニーは検出されなかった。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の微生物検査用キットの微生物捕集用粘着シートと培地シートの模式断面図である。
【図2】実施例1で得られた落射型蛍光顕微鏡によるマイクロコロニーの観察画像写真のコピーである。
【符号の説明】
【0047】
1 支持体
2 粘着層
10 微生物捕集用粘着シート
11 支持体
12 培地層
20 培地シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を含む微生物検査用キット。
(A):支持体の少なくとも片面に粘着層を設けてなる微生物捕集用粘着シート
(B):微生物検出用染料を含有する培地層を少なくとも有する培地シート
【請求項2】
微生物検出用染料が蛍光染料である、請求項1記載の微生物検査用キット。
【請求項3】
請求項1記載の微生物検査用キットを用いた微生物の検査方法であって、
前記(A)の微生物捕集用粘着シートの粘着層を被験体に圧着して微生物を捕集する工程と、
前記粘着層の微生物を捕集した粘着面に前記(B)の培地シートの培地層を積重して、前記微生物を培養する工程と、
前記培養工程を経て増殖した微生物の検出操作を行う工程とを含む、微生物の検査方法。
【請求項4】
微生物の検出操作が微生物を顕微鏡観察する操作である、請求項3記載の微生物の検査方法。
【請求項5】
微生物捕集用粘着シートの粘着層に含有させた微生物検出用染料がSYBR Goldであり、顕微鏡が蛍光顕微鏡である、請求項4記載の微生物の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−230220(P2006−230220A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46022(P2005−46022)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000231648)日本製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】