説明

微生物検査装置及び微生物検査用チップ

【課題】
チップの正確な位置あわせを行うことを課題とする。
【解決手段】
少なくとも、微生物を含む検体液を保持する検体容器と、検体液と反応する試薬液を保持するとともに、検体液と試薬液とを反応させる反応容器と、微生物を検出する検出用流路と、検出用流路の位置あわせを行う位置あわせ用試薬が保持された位置あわせ用試薬容器とを有する分析チップと、分析チップと連結され、分析チップに、少なくとも、検体液,試薬液及び位置あわせ用試薬とを搬送する搬送装置と、分析チップを保持するとともに、分析チップを移動させるステージと、少なくとも、検出用流路に光を照射する光源と、検出用流路からの光を検出するとともに、光を電気信号に変換する処理を行う光検出器とを有する検出装置と、光検出器で変換された電気信号を出力する出力装置とを備え、位置あわせ用試薬容器は、少なくとも検体容器及び反応容器よりも下流側に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の計測を行う微生物検査装置及び微生物検査用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生菌数計測の迅速化および簡便化を目的としたさまざまな簡便迅速測定法を実施する計測装置が知られている。特に、生菌数を迅速に直接計測する手法として、蛍光フローサイトメトリ法を用いた菌数測定装置がある。
【0003】
蛍光フローサイトメトリ法は、蛍光色素で染色した検体を含む検体の流径を細くし、検体を一個ずつ流し計測する粒子計測方法であり、この方法を用いた菌数測定装置は、短時間に検体を一個ずつ計測することができる。
【0004】
また、蛍光フローサイトメトリ法において、検体中の成分が流路壁面に付着することを防止するため、検体とシース液の層流を形成し、二液の圧力差を利用し、検体の流径を絞り込むことが行われている。
【0005】
さらに、低価格化を実現したり、洗浄の手間を省略したりするため、蛍光フローサイトメトリ法による測定を行う流路部分をディスポーザブルのチップにし、ディスポーザブルのチップ内で測定を行い、測定する流路部分を使い捨てにすることが知られ、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0006】
【非特許文献1】Journal of Biomolecular Techniques、Vol14、Issue2、pp.119-127
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記蛍光フローサイトメトリ法を用いた計測装置では、細い検出用の流路に励起光を照射し、微粒子の出す蛍光を検出するため、励起光および検出器の焦点に流路の位置をあわせる必要がある。しかし、励起光および検出器の焦点の範囲,流路の幅は、数ミクロンから数百ミクロンであり、高精度の測定をするためには数十ミクロンの精度の位置あわせが必要になる。さらに、流路部分をディスポーザブルなチップにする場合には、測定毎に流路の位置あわせを行う必要がある。
【0008】
チップの位置あわせの手段としては、チップの一部に特定の目印を設け、目印の位置を基準に検出用の流路の位置調整を行う方法がある。しかし、一般的にチップは、樹脂の射出成型で作製されるため、金型内の樹脂の熱流動現象や、離型後の成型品の収縮変形が生じ、検出用の流路と目印の相対位置が安定しない。そのため、数十ミクロンの精度を再現するには、射出成型後に機械加工を行う必要があるが、使い捨てのチップには不向きである。また、微粒子の出す蛍光を検出するための光学系のほかに、目印を認識するための光学系が必要になるため、装置の大型化や高コスト化につながる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、少なくとも、微生物を含む検体液を保持する検体容器と、前記検体液と反応する試薬液を保持するとともに、前記検体液と前記試薬液とを反応させる反応容器と、前記微生物を検出する検出用流路と、前記検出用流路の位置あわせを行う位置あわせ用試薬が保持された位置あわせ用試薬容器とを有する分析チップと、前記分析チップと連結され、前記分析チップに、少なくとも、前記検体液,前記試薬液及び前記位置あわせ用試薬とを搬送する搬送装置と、前記分析チップを保持するとともに、前記分析チップを移動させるステージと、少なくとも、前記検出用流路に光を照射する光源と、前記検出用流路からの光を検出するとともに、前記光を電気信号に変換する処理を行う光検出器とを有する検出装置と、前記光検出器で変換された電気信号を出力する出力装置とを備え、前記位置あわせ用試薬容器は、少なくとも前記検体容器及び前記反応容器よりも下流側に設けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微生物検出用流路の精度の高い位置あわせを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の微生物検査装置1の構成図である。微生物検査装置1は、検体や試薬を内部に保持し、微生物計測に必要な工程を行うための機構を内部に備えた分析チップ10と、微生物計測に必要な工程を行うために、分析チップ10と連結したチップ連結管144を介して、分析チップ10内の検体や試薬の搬送を制御するための搬送装置14と、分析チップ10を保持し、分析チップ10の位置を調整するX−Y可動ステージ125と、分析チップ10内の微生物に励起光を照射し、微生物からの蛍光を電気信号に変換する検出装置21で構成されている。微生物検査装置1に連結したシステム装置18は、搬送装置14に制御のための信号の出力と、検出装置21からの電気信号の処理を行う。電気信号の処理により得られた計測結果は出力装置19に表示される。
【0013】
分析チップ10は、検体1511を保持するための検体容器151と、検体中の微生物を染色するための染色液(試薬液)1411を保持し、検体と染色液を混合,反応させる反応容器141と、蛍光性の位置あわせ用試薬1541を保持するための位置あわせ用試薬容器154と、励起光源211より励起光213を照射し、微生物もしくは位置あわせ用試薬の蛍光を観測するための微生物検出用流路17と、微生物検出用流路17を通過した検体1511,染色液1411の混合液を廃棄するための検出液廃液容器156と、検体容器151,反応容器141,微生物検出用流路17を連結し、検体1511や混合液が流動するための溶液用流路157と、検体1511や混合液を気圧により流動させるため搬送装置14と各容器を接続する通気用流路158とで構成されている。染色液1411,位置あわせ用試薬1541の励起光,蛍光の波長は同じもしくは数十nm以内の差異である。また、微生物検査時に他の試薬とのコンタミを防ぐため、位置あわせ用試薬容器154は、他の容器よりも微生物検出用流路17に近い場所(下流側)に設けられる。さらに、位置あわせ用試薬容器154から微生物検出用流路17に至る流路は、他の容器の流路と異なる流路である。ここで、検体液の流れに沿って、検体容器151を上流側、微生物検出用流路17を下流側と定義する。位置あわせ用試薬容器154から微生物検出用流路17までの流路と、検体容器151から反応容器141を介して微生物検出用流路17に至るまでの流路は、反応容器141と微生物検出用流路17との間で結合される。
【0014】
検出装置21は、励起光源211と、励起光源211からの光を集光するための集光レンズ212から構成される照射部と、微生物検出用流路17を通過する微生物もしくは位置あわせ用試薬からの蛍光を集光し、平行光にする対物レンズ214と、微生物もしくは位置あわせ用試薬の蛍光を通過するバンドパスフィルタ243と、平行光を集光させるための集光レンズ244と、迷光をカットするための空間フィルタとして用いるピンホール245と、バンドパスフィルタ243を通過した光を検出する光検出器246である検出部で構成される。照射部および検出部は、互いの焦点が重なるように配置し、測定時には微生物検出用流路17を焦点の位置に調整する。
【0015】
位置あわせ用試薬1541を微生物検出用流路17に流動し、微生物検出用流路17から発する位置あわせ用試薬1541の蛍光量が最も高くなるようX−Y可動ステージ125で分析チップ10を動かし、分析チップ10の位置あわせを行う。
【0016】
図2及び図3は、微生物検出用流路17の位置調整の仕組みを説明するための模式図である。
【0017】
分析チップ10をX−Y可動ステージ125にセットしたのち、微生物検出用流路17に位置あわせ用試薬1541を流動する。次にX−Y可動ステージ125により、分析チップ10を励起光213の光軸に対し垂直方向(X方向)に動かす(図2)。このとき微生物検出用流路17のX方向の変位と検出装置21で検出される蛍光量Iの関係はグラフ128のようになり、微生物検出用流路17が励起光213の光軸上を通過するとき(xc)最も蛍光強度が高くなる。X方向の変位と検出装置21で検出される蛍光量Iのプロファイルをシステム装置18でストックし、蛍光量Iが最大、もしくはx方向に対する蛍光量Iの一次微分が0となる位置をxcとし、分析チップ10をxcに移動する。次に、X−Y可動ステージ125により、分析チップを励起光213の光軸に対し平行方向(Y方向)に動かす(図3)。このとき、微生物検出用流路Y方向の変位と検出装置21で検出される蛍光量Iの関係はグラフ129のようになり、微生物検出用流路17が励起光213の焦点を通過するとき(yc)最も蛍光強度が高くなる。X方向と同様にY方向の変位と検出装置21で検出される蛍光量Iのプロファイルをシステム装置18でストックし、蛍光量Iが最大、もしくはy方向に対する蛍光量Iの一次微分が0となる位置をycとする。また、再度x方向,y方向についてxc,ycを求める操作を繰り返すことでより高精度に位置あわせを行うことができる。
【0018】
Y方向に位置あわせを行う際は、光検出器直前のピンホールの径をより小さいものを使用することでより高精度に位置あわせを行うことができる。図4は、ピンホールの位置に投影される微生物検出用流路17の像の模式図である。ピンホール130では、微生物検出用流路17の位置が範囲132内にあるときに、微生物検出用流路17からの蛍光は検出されるが、より小さいピンホール131では、微生物検出用流路17の位置が範囲133内にあるときのみ、微生物検出用流路17からの蛍光は検出されるため、より高精度に位置あわせを行うことができる。
【0019】
ピンホールの径が小さすぎるとピンホールを通過する光量が減少するため、微生物検出用流路17の位置あわせでは径の小さいピンホール131を用い、微生物検出では、検出する光量を増やすため径の大きいピンホール130を用いることが好ましい。
【0020】
図5は、分析チップ10の位置あわせの手順をフロー図で表したものである。
【0021】
以下、食品由来の検体中の生菌数を計測するための実施例を示す。
【0022】
図6は、本発明の微生物検査装置で用いる分析チップ10の平面図である。最初に分析チップ10の構成について説明する。
【0023】
分析チップ10は、検体1511を保持するための検体容器151と、死菌染色色素1521を保持するための死菌染色液容器152と、全菌染色色素1531を保持する反応容器である全菌染色液容器153と、位置あわせ用試薬1541を保持するための位置あわせ用試薬容器154と、洗浄液1551を保持するための洗浄液容器155と、検体中に含まれる食品残渣を取り除くためのフィルタである食品残渣除去部160と、外部光源より励起光を照射し、微生物の蛍光を観測するための微生物検出用流路17と、微生物検出用流路17を通過した検体1511,死菌染色色素1521,全菌染色色素1531の混合液を廃棄するための検出液廃液容器156と、検体容器151,食品残渣除去部160,死菌染色液容器152,全菌染色液容器153,微生物検出用流路17を連結し、検体1511や混合液が流動するための溶液用流路1571〜1576と、各容器内の検体1511や混合液を気圧により流動させるための通気口1591〜1596と、通気口1591〜1596と各容器を接続する通気用流路1581〜1586とを備える。溶液用流路1571〜1576,通気口1591〜1596及び通気用流路1581〜1586は連結する容器の名称から、検体容器−死菌染色液容器間流路1571,死菌染色液容器−全菌染色液容器間流路1572,全菌染色液容器−洗浄液容器間流路1573,洗浄液容器−微生物検出用流路間流路1574,位置あわせ用試薬容器−微生物検出用流路間流路1575,微生物検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576,検体容器通気口1591,死菌染色液容器通気口1592,全菌染色液容器通気口1593,洗浄液容器通気口1594,位置あわせ用試薬容器通気口1595,検出液廃棄容器通気口1596,検体容器通気流路1581,死菌染色液容器通気流路1582,全菌染色液容器通気流路1583,洗浄液容器通気流路1584,位置あわせ用試薬容器通気流路1585,検出液廃棄容器通気流路1586とする。
【0024】
検体容器1511と、食品残渣除去部160と、死菌染色液容器152と、全菌染色液容器153と、洗浄液容器155と、微生物検出用流路17と、検出液廃液容器156は、溶液用流路1571〜1574,1576により直列に連結されている。位置あわせ用試薬容器通気流路1585は、洗浄液容器通気流路1584から分岐する。
【0025】
溶液用流路1571〜1576の深さおよび流路幅は10μm〜1mm、通気用流路1581〜1586の深さ及び流路幅は10μm〜1mmの範囲で形成され、溶液用流路1571〜1576の断面積は通気用流路1581〜1586の断面積より大きくなるように形成される。
【0026】
微生物検出用流路17は、蛍光計測を行うため光透過性,面精度,屈折率などの光学特性に優れている必要がある。別工程で作製した分析チップ10に光学特性に優れた石英や光学ガラスの管を接続し微生物検出用流路17として使用するか、ポリメタクリル酸メチルエステル,ポリジメチルシロキサンなどの光学特性に優れた樹脂材料を用い、分析チップ10と一体で作製する。微生物検出用流路17の断面形状は、好ましくは矩形だが円形であってもよい。微生物検出用流路17の断面寸法が大きいほど圧力損失は小さくなるが、微生物を一個ずつ流すためには寸法は小さいほうがいいため、一辺1μm〜1mmが好ましく、長さは、0.01mm〜10mmが好ましい。微生物検出用流路17に照射する励起光の光軸は、微生物検出用流路17に対して垂直方向である。
【0027】
死菌染色液1521,全菌染色液1531,位置あわせ用試薬1541は、分析チップ10内に前もって封入されている。検体1511は、検査前に通気口1591より、検体容器151に注入し、洗浄液1551は検査前に通気口1594から洗浄液容器155に注入する。
【0028】
検体容器151の体積は、検体1511の体積より大きい。死菌染色液容器152の体積は、検体1511と死菌染色液1521の合計体積より大きい。全菌染色液容器153の体積は、検体1511と死菌染色液1521と全菌染色液1531との合計体積より大きい。洗浄液容器155の体積は、検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531及び洗浄液1551の合計体積より大きい。また、検体容器−死菌染色液容器間流路1571の最高点は、検体容器151中の検体1511の水位より高くなるように形成される。これと同様に、死菌染色液容器−全菌染色液容器間流路1572の最高点は、検体1511と死菌染色色素1521の混合液の水位より高くなるように形成される。さらに、全菌染色液容器−洗浄液容器間流路1573の最高点は、検体1511,死菌染色色素1521,全菌染色色素1531の混合液の水位より高くなるように形成される。また、洗浄液容器−微生物検出用流路間流路1574の最高点は、検体1511,死菌染色色素1521,全菌染色色素1531,洗浄液1551の混合液の水位より高くなるように形成される。また、位置あわせ用試薬容器−微生物検出用流路間流路1575の最高点は、位置あわせ用試薬1541の水位より高くなるように形成される。
【0029】
ここで使用した検体1511は、検査する食品に対し質量比10倍の生理食塩水を加え、ストマッキング処理を行ったものであり、洗浄液1551は主に生理食塩水もしくは純水である。
【0030】
死菌染色液1521には、例えば、PI(プロピディウムイオダイド)(0.1μg/ml〜1mg/ml)を使用し、全菌染色液1541には、例えば、DAPI(4′,6−ヂアミジン−2′−フェニルインドール)(1μg/ml〜1mg/ml),AO(アクリジンオレンジ)(1μg/ml〜1mg/ml),EB(エチジウムブロマイド)(1μg/ml〜1mg/ml),LDS751(0.1μg/ml〜1mg/ml)などを使用する。
【0031】
位置あわせ用試薬1541には、PI,DAPI,AO,EB,LDS751などの蛍光色素や、特定の波長の蛍光を発する微粒子を含んだ溶液を使用する。検出のための光学系を共通化できるため、位置あわせ用試薬1541は死菌染色液1521か全菌染色液1531と波長ピークが近いほうが好ましい。
【0032】
分析チップ10を用いた生菌数測定は、始めに分析チップの位置あわせを行い、次に生菌数測定を行う。微生物計測の各工程における各液体の流動について説明する。
【0033】
始めに、分析チップ10の位置あわせにおける各液体の流動について説明する。分析チップ10は、図中下辺を下にして立てて使用する。位置調整では、位置あわせ用試薬1541(ここではPI(波長ピーク532nm)を使用する)を微生物検出用流路17に流動する。位置あわせ用試薬容器通気口1695を介し、搬送装置14からの圧力を加え、位置あわせ用試薬容器154内の気圧をあげる。同時に検出液廃棄容器通気口1596を介し、検出液廃液容器156を大気開放する。気圧差により、位置あわせ用試薬1541は、微生物検出用流路17を経由し、検出液廃液容器156に入る。微生物検出用流路17は検出装置から励起光が照射されているため、位置あわせ用試薬1541は微生物検出用流路17を通過するときに蛍光を発する。検出装置で検出される蛍光が最も強くなるように分析チップ10の位置を調整する。続いて、位置あわせ用試薬1541が微生物検出用流路17に残存する可能性があり、微生物検出用流路17を洗浄するため、位置調整後に洗浄液1551の一部を微生物検出用流路17に流動する。
【0034】
次に生菌数測定の工程における各液体の流動について説明する。
【0035】
1.検体1511を死菌染色液容器152へ流動する。通気口1631を介し、搬送装置14からの圧力を加え、検体容器151内の気圧をあげる。同時に死菌染色液容器通気口1592を介し、死菌染色液容器152を大気開放する。気圧差により、検体1511は、死菌染色液容器152に入り、死菌染色液1531と混合する。検体1511中の死菌は、死菌染色液1521(ここではPI(ピーク波長532nm)を使用する)により染色される。
【0036】
一方、検体1511中の生菌は、染色されない。二液の混合液の水位は、死菌染色液容器152と全菌染色液容器153を連結する死菌染色液容器−全菌染色液容器間流路1572の最高点を越えず、さらに死菌染色液容器152中に入っている空気は、死菌染色液容器通気口1592を介し外部に放出される。死菌染色液容器152の気圧は大気圧と等しいため、二液の混合液は全菌染色液容器153に押し出されず、混合液を反応に必要な時間中、死菌染色液容器152に保持することができる。同様に、全菌染色液1531(ここではLDS751を(ピーク波長710nm)使用)は、洗浄液容器155に押し出されず、また死菌染色液容器152に逆流もしない。
【0037】
このとき、混合液の全菌染色液容器153への流入をさらに防ぐ目的で、各通気口1593〜1596を介し、搬送装置からの圧力を加え、検体容器151の気圧より低い範囲まで全菌染色液容器153,位置あわせ用試薬容器154,洗浄液容器155,検出液廃液容器156の気圧を上げてもよい。
【0038】
なお、染色中は、分析チップ10の温度を一定に保つことにより、温度変化による染色の影響を小さくすることが良い。
【0039】
また、検体1511が食品残渣除去部160を経て、死菌染色液容器152へ流動する際に、検体1511中の食品残渣は、食品残渣除去部160により検体1511から取り除かれる。
【0040】
2.検体1511と死菌染色液1521の混合液を全菌染色液容器153に流動する。全菌染色液1531が混合液に追加され、検体1511中の死菌と生菌は、全菌染色液1531により染色される。
【0041】
3.検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531の混合液を洗浄液容器155に流動する。洗浄液1541が混合液に追加され、混合液中に含まれる未結合色素(微生物を染色しない死菌染色液1521,全菌染色液1531)の濃度を低下する。未結合色素の濃度を低下することで、検出の際にノイズの原因となる未結合色素の発する蛍光量を低減する。
【0042】
4.検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531,洗浄液1541の混合液を微生物検出用流路17に流動する。図中垂直方向より、励起光が照射されているため、微生物は蛍光を発する。蛍光を検出する検出装置21により、生菌は全菌染色液1531の蛍光のみ検出され、死菌は全菌染色液1531と死菌染色液1521の蛍光が検出されるため、生菌と死菌の判別が可能になる。
【0043】
図7は、生菌,死菌を判別するための検出装置21の光学系の構成図である。光学装置やその配置は使用する蛍光色素の励起スペクトルと蛍光スペクトルによって異なる場合もある。ここでは、死菌染色液としてPI(励起波長ピーク532nm,蛍光波長ピーク615nm)と全菌染色液としてLDS751(励起波長ピーク541nm,蛍光波長ピーク710nm)の二種類の蛍光色素を使用に対応した光学系について説明する。
【0044】
検出装置21は、励起光源211(波長532nm)と、励起光源211からの光を集光するための集光レンズ212から構成される照射系と、微生物検出用流路17を通過する微生物からの蛍光を集光し、平行光にする対物レンズ214と、波長610nm以下の光を反射し、波長610nm以上の光を通過させるダイクロイックミラー215と、ミラー216と、波長610nm近傍の波長の光のみ通過させる短波長用バンドパスフィルタ217と、波長710nm近傍の波長の光を通過させる長波長用バンドパスフィルタ218と、平行光を集光させるための集光レンズ219,220と、迷光をカットするための空間フィルタとして用いるピンホール221,222と、短波長用バンドパスフィルタ217を通過した光を検出する短波長用光検出器223と、長波長用バンドパスフィルタ218を通過した光を検出する長波長用光検出器224とを備えた検出系で構成される。
【0045】
集光レンズ212の焦点と対物レンズ214の焦点は交わるように構成され、検査時には、X−Y可動ステージ125により分析チップ10の微生物検出用流路17を集光レンズ212及び対物レンズ214の焦点の位置に調整する。励起光源211はレーザーを使用し、短波長光検出器223と長波長光検出器224はフォトマルを使用する。
【0046】
励起光源211から出力された励起光(波長532nm)は、集光レンズ212で集光され、微生物検出用流路17を流れる微生物を染色したPIおよびLDS751を励起する。PIからの蛍光226、及びLDS751からの蛍光227(PIは中心波長610nm、LDS751は中心波長710nm)は集光レンズ220に入射する。PIからの蛍光226はダイクロイックミラー215で反射し、LDS751からの蛍光227はダイクロイックミラー215を通過するため、二つの色素由来の蛍光は波長の違いにより分離できる。PIからの蛍光226は短波長用バンドパスフィルタ217を通過し、集光レンズ219で集光し、ピンホール221を通過し、短波長用光検出器223に入射し、LDS751からの蛍光227は長波長用バンドパスフィルタ218を通過し、集光レンズ220で集光し、ピンホール222を通過し、長波長用光検出器224に入射する。
【0047】
入射した蛍光は、短波長用光検出器223及び長波長用光検出器224により電気信号に変換され、電気信号はシステム装置18に送られる。システム装置18は、短波長用光検出器223,長波長用光検出器224から送られた電気信号を処理し、微生物数の情報を検査結果として、出力装置19に出力する。
【0048】
図8は、分析チップ10を用いた生菌数計測の工程をフロー図で表したものである。
【0049】
図9は、自己発光試薬を位置あわせ用試薬に使用したときの分析チップ10の平面図である。混合することで発光反応する二つの試薬を保持するための容器を分析チップ10内に備える。それぞれ、第1の発光試薬1541を保持するための第1の発光試薬容器1541と、第2の発光試薬1543を保持するための第2の発光試薬容器1542とする。例えば、第1の発光試薬1541にはルシフェリン−ルシフェラーゼ混合液を、第2の発光試薬1543にはATP水溶液を使用することで、第1の発光試薬1541を第2の発光試薬1543と混合後、微生物検出用流路17に流動し、ATP発光を利用し位置調整を行うことができる。
【0050】
図10は、位置あわせ用試薬が流れる流路と微生物検出用流路17を別流路にした分析チップ10の平面図である。微生物検出用流路17に隣接する位置あわせ用流路171に位置あわせ用試薬1541を流動させ、分析チップ10の位置あわせを行う。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態である微生物検査装置の構成図である。
【図2】本発明の微生物検査装置における位置調整の仕組みを説明するための模式図である。
【図3】本発明の微生物検査装置における位置調整の仕組みを説明するための模式図である。
【図4】本発明の微生物検査装置における微生物検出用流路の像の模式図である。
【図5】本発明の微生物検査装置における分析チップ10の位置あわせの手順のフロー図である。
【図6】本発明の一実施の形態である微生物検査装置における分析チップを示す平面図である。
【図7】一実施の形態である微生物検査装置における検出装置を示す構成図である。
【図8】一実施の形態である微生物検査装置における分析工程のフロー図である。
【図9】一実施の形態である微生物検査装置における分析チップを示す平面図である。
【図10】一実施の形態である微生物検査装置における分析チップを示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 微生物検査装置
10 分析チップ
14 搬送装置
17 微生物検出用流路
18 システム装置
19 出力装置
21 検出装置
125 X−Y可動ステージ
128 x方向変位と出力値の関係を示すグラフ
129 y方向変位と出力値の関係を示すグラフ
130,221,222 ピンホール
131 小さいピンホール
132,133 範囲
151 検体容器
152 死菌染色液容器
153 全菌染色液容器
154 位置あわせ用試薬容器
155 洗浄液容器
156 検出液廃液容器
157 溶液用流路
158 通気用流路
159 通気口
211 励起光源
212,219,220 集光レンズ
213 励起光
214 対物レンズ
215 ダイクロイックミラー
216 ミラー
217 短波長用バンドパスフィルタ
218 長波長用バンドパスフィルタ
223 短波長用光検出器
224 長波長用光検出器
226 PIからの蛍光
227 LDS751からの蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、微生物を含む検体液を保持する検体容器と、前記検体液と反応する試薬液を保持するとともに、前記検体液と前記試薬液とを反応させる反応容器と、前記微生物を検出する検出用流路と、前記検出用流路の位置あわせを行う位置あわせ用試薬が保持された位置あわせ用試薬容器とを有する分析チップと、
前記分析チップと連結され、前記分析チップに、少なくとも、前記検体液,前記試薬液及び前記位置あわせ用試薬とを搬送する搬送装置と、
前記分析チップを保持するとともに、前記分析チップを移動させるステージと、
少なくとも、前記検出用流路に光を照射する光源と、前記検出用流路からの光を検出するとともに、前記光を電気信号に変換する処理を行う光検出器とを有する検出装置と、
前記光検出器で変換された電気信号を出力する出力装置とを備え、
前記位置合わせ用試薬容器は、少なくとも前記検体容器及び前記反応容器よりも下流側に設けられたことを特徴とする微生物検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物検査装置において、
前記位置あわせ用試薬容器から前記検出用流路までの流路は、前記検体容器,前記反応容器及び前記検出用流路とを連結する流路とは異なる流路であって、前記反応容器と前記検出用流路との間で結合されたことを特徴とする微生物検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の微生物検査装置において、
前記位置あわせ用試薬容器から前記検出用流路までの流路の最高点は、前記位置あわせ用試薬容器に保持された位置あわせ用試薬の最高点よりも高い位置に設けられたことを特徴とする微生物検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の微生物検査装置において、
前記分析チップは、少なくとも前記検出用流路を洗浄する洗浄液を保持するとともに、前記反応容器と前記検出用流路との間に設けられた洗浄液容器を備えたことを特徴とする微生物検査装置。
【請求項5】
微生物を含む検体液を保持する検体容器と、
前記検体液と反応する試薬液を保持するとともに、前記検体液と前記試薬液とを反応させる反応容器と、前記微生物を検出する検出用流路と、
前記検出用流路の位置あわせを行う位置あわせ用試薬が保持された位置あわせ用試薬容器とを備え、
前記位置あわせ用試薬容器は、少なくとも前記検体容器及び前記反応容器よりも下流側に設けられたことを特徴とする微生物検査用チップ。
【請求項6】
請求項5に記載の微生物検査用チップにおいて、
前記位置あわせ用試薬容器から前記検出用流路までの流路は、前記検体容器,前記反応容器及び前記検出用流路とを連結する流路とは異なる流路であって、前記反応容器と前記検出用流路との間で結合されたことを特徴とする微生物検査用チップ。
【請求項7】
請求項6に記載の微生物検査用チップにおいて、
前記位置あわせ用試薬容器から前記検出用流路までの流路の最高点は、前記位置あわせ用試薬容器に保持された位置あわせ用試薬の最高点よりも高い位置に設けられたことを特徴とする微生物検査用チップ。
【請求項8】
請求項5に記載の微生物検査用チップにおいて、
少なくとも前記検出用流路を洗浄する洗浄液を保持するとともに、前記反応容器と前記検出用流路との間に設けられた洗浄液容器を備えたことを特徴とする微生物検査用チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−281753(P2009−281753A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131462(P2008−131462)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)