説明

微生物触媒を用いたアミド化合物の製造方法

【課題】生体触媒を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、ニトリルヒドラターゼ活性が高発現した微生物菌体を包括固定化して用いることにより生じる、反応速度の低下や単位菌体量当たりのアミド化合物の生産量低下等の問題を解決すること。
【解決手段】ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種に属する微生物の菌体を包括固定化しないで水性媒体中でニトリル化合物と接触させる。これにより、前記水性媒体中に45%以上のアミド化合物を蓄積させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体触媒を利用して化合物を合成する方法は、反応条件が穏和であること、反応プロセスが簡略化できること、および副生物が少ないことによる反応生成物の純度が高いこと等の利点があるため、多くの化合物の製造に用いられている。
【0003】
アミド化合物の製造においても、ニトリル化合物からアミド化合物に変換する酵素、ニトリルヒドラターゼが見出されて以来、盛んに生体触媒の利用が検討されている(特許文献1〜4参照)。
【0004】
現在では、操作性・安全性・経済性等の観点から優れた反応プロセスとしてアクリルアミドやニコチンアミド等の工業的生産にニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物が利用されている。
【0005】
これまで、ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物として非常に多くの微生物が見出されてきている。例えば、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属またはシュードノカルディア(Pseudonocardia)属に属する微生物等が挙げられる。
【0006】
その内、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属は、非常に高活性で安定性の良いニトリルヒドラターゼを発現するとして、工業化あるいは工業化に近いレベルで使用されている。
【0007】
さらに、この様な微生物の培養の際、ニトリルやアミド類を添加する方法(特許文献5および6参照)、アミノ酸を添加する方法(特許文献7および8参照)、ある種の金属イオンを添加する方法(特許文献9〜11参照)等によって、高活性のニトリルヒドラターゼを保有する微生物菌体が得られることが知られている。
【0008】
一方、生体触媒は熱に対して安定性が低いため、低温で反応させざるを得ず、結果的に触媒当たりの反応速度が低くなる。そのため、生体触媒を利用して化合物を工業生産する場合には、反応槽内の触媒濃度を高くする必要がある。
【0009】
現在知られている生体触媒を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する工業プロセスも同様に微生物菌体を包括固定化することで粒子状とし、反応槽内での触媒濃度を高くし、かつ触媒分離を容易にして実施されている(非特許文献1ならびに、特許文献12および13参照)。また、該菌体の固定化方法についても、検討されている(特許文献14および15参照)。さらには、工業的に効率よくアミド化合物を製造しようとする場合には、より高濃度に菌体を固定化することが重要であると考えられてきた(特許文献16参照)。
【0010】
しかし、発明者らがニトリルヒドラターゼ活性が高発現した微生物菌体を包括固定化し、反応に用いたところ、包括固定化粒子内で、反応基質であるニトリル化合物および/または反応生成物であるアミド化合物が、拡散不良を起こし、反応速度が著しく低下することが確認された。
【0011】
例えば、包括固定化した菌体と包括固定化しない菌体との初期の反応速度を比較した場合、反応条件によっては1/10以下と著しく低下した。また、初期の反応速度が著しく低下するのみならず、拡散不良により反応に充分寄与していない包括固定化触媒内部の酵素も反応中活性の低下を引き起こすため、単位菌体量当たりのアミド化合物の生産量をも低下させるという問題もあった。
【0012】
上記のような反応速度の低下や単位菌体量当たりのアミド化合物の生産量低下は、具体的には、回分式反応でアミド化合物を製造する場合には、目標となる蓄積量に達するのに長時間を要し、連続式反応の場合は、設備規模が大きくなるという好ましくない状況を引き起こす。
【0013】
【特許文献1】特開平11-123098号公報
【特許文献2】特開平7-265091号公報
【特許文献3】特公昭56-38118号公報
【特許文献4】特開平11-89575号公報
【特許文献5】特公昭61-43996号公報
【特許文献6】特公昭61-43999号公報
【特許文献7】特公昭61-43997号公報
【特許文献8】特公昭61-43998号公報
【特許文献9】特開昭61-162193号公報
【特許文献10】特公平6-55148号公報
【特許文献11】特開平8-187092号公報
【特許文献12】特開昭54-143593号公報
【特許文献13】特開昭55-144889号公報
【特許文献14】特開昭57-39792号公報
【特許文献15】特開昭62-294083号公報
【特許文献16】特開平7-203964号公報
【非特許文献1】化学と工業 第43巻第7号1098〜1101頁(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、生体触媒を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、ニトリルヒドラターゼ活性が高発現した微生物菌体を包括固定化して用いることにより生じる、反応速度の低下や単位菌体量当たりのアミド化合物の生産量低下等の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく包括固定化触媒よりもより相応しい触媒形態について鋭意検討した結果、ニトリルヒドラターゼ活性を乾燥菌体1mg当たり10℃で50U以上高発現させた微生物菌体を用い、かつ当該微生物菌体を水性媒体中、懸濁状態でニトリル化合物と接触させると、菌体を包括固定化した場合に比べより高効率にアミド化合物を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、微生物触媒を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、反応温度10℃で乾燥菌体1mg当たり50U以上のニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物菌体を包括固定化しないで水性媒体中でニトリル化合物と接触させることを特徴とする、アミド化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニトリルヒドラターゼ活性を高発現した微生物菌体を包括固定化することなく反応に用いるので、包括固定化による反応速度の低下や単位菌体量当たりの生産量低下の問題を生じることなく、ニトリル化合物からアミド化合物を効率よく製造することができる。従って、回分式反応の際には非常に短時間に、連続式反応の際には非常に小規模の設備で、アミド化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する微生物は、反応温度10℃で乾燥菌体1mg当たり50U以上のニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物であればいずれでも良い。例えば、バチルス(Bacillus)属、バクテリジューム(Bacteridium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属〔特公昭62-21519号〕、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属〔特公昭56-17918号〕、シュードモナス(Pseudomonas)属〔特公昭59-37951号〕、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属〔特公平4-4873号〕、ロドコッカス(Rhodococcus)属〔特公平4-4873号、特公平6-55148号、特公平7-40948号〕、アクロモバクター(Achromobacter)属〔特開平6-225780〕、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属〔特開平9-275978号〕に属する微生物が好ましい。さらには、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌がより好ましい。
【0019】
また、前記した微生物由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を取得し、そのまま又は人為的に改良し、任意の宿主に該遺伝子を導入した形質転換体を使用しても良い。
【0020】
前記形質転換体としては、アクロモバクター(Achromobacter)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10770(FERM P-14756)(特開平8-266277号)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10822(FERM BP-5785)(特開平9-275978号)またはロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種のニトリルヒドラターゼ(特開平4-211379号)で形質転換した微生物を例示することができる。
【0021】
本発明でいう酵素活性の単位U(ユニット)とは、1分間にニトリル化合物から対応するアミド化合物を1マイクロモル生成させることを意味する。ここでいう酵素活性とは、製造に使用するニトリル化合物を用いて測定した酵素活性測定値のことである。
【0022】
酵素活性の測定方法は、直径30mmの試験管に、その酵素の至適pH(例えばpH7)に調整した50mMのリン酸バッファー5mLを入れ、その中に培養後洗浄した菌体を乾燥重量として2mg懸濁し、10℃の水槽中で振盪する。約5分経過後、予め調整し10℃条件下においていた至適pHに調整した1〜5%のニトリル化合物を含むリン酸バッファーを添加する。任意の反応時間後に生成したアミド化合物の濃度を、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の分析機器等で測定し、酵素活性を算出する。
【0023】
反応時間は、反応終了時に、反応速度が低下しない濃度のニトリル化合物が反応液中に残っており、且つ生成するアミド化合物濃度が十分に精度良く測定できる濃度にまで生成している様に設定する。
【0024】
本発明は、酵素活性が乾燥菌体1mg当たり10℃で50U以上の微生物菌体を用いた場合に効果的であるが、80U以上、更には100U以上の微生物菌体を使用した場合には、より効果的である。
【0025】
本発明でいうニトリル化合物とは、ニトリルヒドラターゼの作用により対応するアミド化合物に変換されるニトリル化合物であり、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、サクシノニトリル、アジポニトリルで例示される脂肪族飽和ニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルで例示される脂肪族不飽和ニトリル、ベンゾニトリル、フタロジニトリルで例示される芳香族ニトリルおよび3−シアノピリジン、2−シアノピリジンで例示される複素環式ニトリルが挙げられる。ニトリル化合物の化学的物理的性質、ニトリルヒドラターゼ酵素の基質特異性、産業的工業的観点から、アクリロニトリル、シアノピリジンが本発明の対象として好適である。
【0026】
本発明でいう包括固定化しない触媒形態とは、微生物の菌体膜が直接反応液に接触するような触媒形態であり、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、寒天、ゼラチン、アルギン酸等の高分子物質で、菌体を包み込む包括固定化方法を行っていない触媒形態を意味する。
【0027】
即ち、本発明でいう包括固定化しない触媒とは、微生物を培養し、必要に応じて洗浄等を施した微生物菌体そのもの、微生物菌体をグルタルアルデヒド等の多官能基を有する物質により化学処理した微生物菌体、または微生物菌体をガラスビーズや樹脂、シリカゲル等の表面に化学的に結合させた微生物菌体である。
【0028】
特にグルタルアルデヒドで化学処理した菌体を触媒として使用することは、触媒の酵素活性安定性向上の点から好ましい。
【0029】
水性媒体中でニトリル化合物と接触させるとは、水又は水にイオン強度、pH緩衝能若しくはニトリルヒドラターゼ活性安定化剤等を溶解させた水性媒体中で、ニトリル化合物とニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物菌体を接触させることであり、その方法は回分式でも連続式でも良い。反応基質、反応液、目的化合物等の物性や、生産規模等により反応様式は選ばれ、反応装置が設計される。
【0030】
また、反応温度、反応pH等の反応条件はより小規模あるいはより短時間でアミド化合物を製造できるよう最適な条件で制御しつつ実施することが好ましい。
【0031】
前記方法で蓄積されるアミド化合物の濃度としては、工業的観点から20%以上が好ましく、より好ましくは、50%以上である。
【0032】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2000-387537号の明細書に記載された内容を包含する。
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、本実施例中でいう%とは、質量%を意味する。
【0034】
〔実施例1〕 (水性媒体中微生物菌体によるアクリルアミドの製造)
(1)菌の培養
i) 前培養条件:
(培地組成)
フルクトース 2%、ポリペプトン 5%(日本製薬株式会社)、酵母エキス 0.3%(オリエンタル酵母工業株式会社製)、KH2PO4 0.1%、K2HPO4 0.1%、MgSO4 7H2O 0.1%、pH 7
【0035】
(培養方法)
500ml容三角フラスコに培地を100ml分注して綿栓をし、121℃、20分間オートクレーブで滅菌した。Rhodococcus rhodochrous J1(FERM BP-1478)を接種して30℃で48時間振とう培養した。
【0036】
ii) 本培養条件
(培地組成)
初期培地: 酵母エキス 0.2%、KH2PO4 0.1%、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.1%、CoCl2・6H2O 0.002%、硫安 0.025%、フルクトース 2%、尿素 2%、エタノール 0.4%、プルロニックL61 0.1%(旭電化工業株式会社)、pH7
後添加培地: フルクトース 20%、エタノール 5%、硫安 6%、pH6.5
【0037】
(培養方法)
3リッター容ミニジャーファーメンターに初期培地2リッター分注し、121℃、20分間オートクレーブで滅菌した。但し、フルクトース、エタノールおよび尿素は、別途、無菌的に濾過して(アドバンテック東洋株式会社製0.45ミクロンの濾紙を使用)培地に加えた。
槽内圧力0.098MPa、攪拌数600rpm、通気量1vvm、pH7、温度30℃で培養を行い、酵素活性が最も高くなった時点で培養を終了した。その後50mMのリン酸バッファー(pH7.7)にて洗浄して、乾燥菌体重量15%の菌体懸濁液を得た。
【0038】
(2) ニトリルヒドラターゼ活性の測定
直径30mmの試験管に50mMリン酸バッファー(pH7.7)4.98mlに20μLの菌体懸濁液を添加混合し、10℃の水槽中にて5分間振盪させた。これに予め10℃にしておいた5.0%のアクリロニトリルを含む50mMリン酸バッファー(pH7.7)5mlを加えて、10分間反応させ、菌体を濾別してから、ガスクロマトグラフィー(GC−14B 島津製作所)で生成したアクリルアミドを定量することにより行った。分析条件はパラボックスPS(ウォーターズ社製カラム充填剤)を充填した1mガラスカラムを用い、カラム温度230℃、検出器は250℃のFIDで実施した。その結果、アクリルアミド1.2%生成していた。1Uが、反応温度10℃、反応時間1分間に1マイクロモルのアクリロニトリルをアクリルアミドへ変換させる量と定義した場合、本菌体のアクリロニトリルからアクリルアミドへの変換活性は、乾燥菌体1mg当たり10℃で56Uであった。
【0039】
(3)アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応
1Lのジャケット付きセパラブルフラスコに、50mM(pH7.7)のトリス(2−アミノ−2−ヒドロキシメチルー1,3―プロパンジオール)塩酸バッファーを664g入れ、これに先に得た菌体懸濁液を乾燥菌体重量が90mgとなるように添加した。これを、180rpm撹拌下18℃で、アクリロニトリル濃度が常に2%となるように連続的にアクリロニトリルを添加した。
【0040】
その結果、アクリロニトリルの添加開始から25時間で生成したアクリルアミド濃度が目的の45%となった。
【0041】
〔比較例1〕 (包括固定化微生物菌体によるアクリルアミドの製造)
(1)菌体の包括固定化
実施例1で得られた、アクリロニトリルからアクリルアミド変換活性56Uの菌体懸濁液を、充分に溶解させた3%アルギン酸ナトリウム(関東化学製)水溶液に等量加え、充分に混和した。この混合液を、内径2mmのシリコンチューブから1M塩化カルシウム水溶液に滴下し、粒子径約3mmの固定化菌体粒子を得た。この固定化菌体粒子を、50mMのトリス塩酸バッファー(pH7.7に調整)にて洗浄し、固定化菌体を得た。
【0042】
(2)アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応
1Lのジャケット付きセパラブルフラスコに、50mM(pH7.7)のトリス塩酸バッファーを664g入れ、これに先に得た固定化菌体を乾燥菌体重量90mgとなる量添加した。これを、180rpm撹拌下18℃で、アクリロニトリル濃度が常に2%となるように連続的にアクリロニトリルを添加した。
【0043】
その結果、アクリロニトリルの添加開始から50時間経過してもアクリルアミド濃度が目的の45%とならなかった。
【0044】
〔実施例2〕 (水性媒体中微生物菌体によるアクリルアミドの製造)
(1)菌の培養
特開平2−177883号の実施例に記載された方法を用いて、Pseudomonas chlororaphis B23(FERM BP-187)菌を培養した。この菌体のアクリロニトリルからアクリルアミドへの変換活性を実施例1と同様にpH7.7にて測定したところ乾燥菌体1mg当たり10℃で90Uであった。
【0045】
(2)アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応
内容積が1Lのジャケット付きセパラブルフラスコに、50mM(pH7.7)のリン酸バッファーを850mL、菌体を乾燥菌体重量として0.4g添加し、3℃撹拌条件下でアクリロニトリルが常に2%となるように連続的に添加して反応を実施した。
3時間後、アクリルアミド濃度が目的の20%に達していた。
【0046】
〔比較例2〕 (包括固定化微生物菌体によるアクリルアミドの製造)
(1)菌体の包括固定化
アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドおよび2ージメチルアミノプロピルメタクリルアミドが、それぞれ30,1,4%となるようにモノマー混合水溶液を調製した。
【0047】
続いて、実施例2で得られた、アクリロニトリルからアクリルアミド変換活性90Uの菌体懸濁液、モノマー水溶液、10%のN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン水溶液、10%の過硫酸アンモニウム水溶液を混合比50:20:1:1でラインミキシングし、その流出液を300×300×30mmのバットに次々と受け、そのバット上で重合させた。
【0048】
製造された菌体固定化ゲルシートをナイフにて0.5mm角程度に細かく裁断しアクリルアミド系ポリマー包括固定化菌体粒子を得た。この固定化菌体粒子を、0.1%のアクリル酸ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムでpH7に調整)にて通液洗浄し、固定化菌体とした。
【0049】
(2)アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応
実施例2記載の装置方法にてアクリロニトリルからアクリルアミドへの反応を実施した。
8時間後でも、目的のアクリルアミド濃度20%に達してしなかった。
【0050】
〔比較例3〕(低ニトリルヒドラターゼ活性微生物菌体によるアクリルアミドの製造)
(1)菌の培養と触媒の調製
実施例1と同様にRhodococcus rhodochrous J1(FERM BP-1478)菌を培養し、実施例1で示した活性測定法に基づき測定した菌体のアクリロニトリルからアクリルアミドへの変換活性が、乾燥菌体1mg当たり10℃で20Uとなった時点で培養を終了し、その後50mMのリン酸バッファー(pH7.7)にて洗浄して、乾燥菌体重量15%の菌体懸濁液を得た。
【0051】
(2)アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応
まず、比較例2の方法にしたがい、アクリルアミド系ポリマー包括固定化菌体懸濁液を調製した。
【0052】
次に、微生物として、前述の固定化菌体懸濁液または固定化していない菌体懸濁液を、それぞれ乾燥菌体重量に換算して225mg用いて、アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応を行った。その結果、いずれの菌体懸濁液を用いた場合も、約100時間経過後に目的のアクリルアミド濃度45%に達した。
【0053】
即ち、20Uの菌体では、固定化菌体および固定化していない菌体間で有意差はなかった。
【0054】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明方法によれば、ニトリルヒドラターゼ活性を高発現した微生物菌体を包括固定化することなく反応に用いるので、包括固定化による反応速度の低下や単位菌体量当たりの生産量低下の問題を生じることなく、ニトリル化合物からアミド化合物を効率よく製造することができる。従って、回分式反応の際には非常に短時間に、連続式反応の際には非常に小規模の設備で、アミド化合物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種に属する微生物を用いてニトリル化合物からアミド化合物を製造する方法において、前記微生物菌体を包括固定化しないで水性媒体中でニトリル化合物と接触させることにより、45%以上のアミド化合物を蓄積させることを特徴とする、アミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種に属する微生物が、受託番号FERM BP-1478で特定されるロドコッカス・ロドクロウス J1である、請求項1に記載のアミド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−236396(P2007−236396A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165916(P2007−165916)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【分割の表示】特願2002−551176(P2002−551176)の分割
【原出願日】平成13年12月19日(2001.12.19)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】