説明

微生物資材

【課題】 活性を維持した状態で拮抗菌が固定され、使用の際に土壌中の水分で膨潤して拮抗菌の生命活動が回復される微生物資材に利用することが可能な新たな拮抗菌を見いだして、りんご等の果樹の白紋羽病や紫紋羽病や、じゃがいものそうか病に対して、いわゆる農薬としての機能がより有効に発揮される実用性に優れる微生物資材を提供する。
【解決手段】 少なくとも拮抗微生物及び固体栄養培地を含んでなる微生物資材であって、拮抗微生物が、Trichoderma asperellumF−288株(受託番号:NITE P−53)を含むことを特徴とする微生物資材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の病原菌に対して拮抗作用を有する微生物を含有する微生物資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、植物の病原菌に対して拮抗作用を有する微生物(拮抗微生物又は拮抗菌と呼ぶ)を積極的に病害の抑制に使用する微生物資材の研究は多くされているが、どれも試験管レベルでの成功例で、実際の農場での成功例は極めて少ない。ここで、拮抗菌とは、特定菌の増殖や活動を抑制する微生物のことであり、病原菌の増殖や活動を抑制し、結果的に植物に対する病害の軽減を可能とできるもののことである。特に、安全性や環境破壊が懸念される農薬の使用量を軽減する有機農業や、減農薬或いは無農薬農業といった生態系活用型(環境保全型)農業への移行が叫ばれている現状においては、かかる拮抗菌を使用して農薬としての機能を果たす微生物資材の技術は夢の技術といっても過言ではなく、その開発が切望されている。
【0003】
しかしながら、上記したように、種々の検討が行われてはいるものの、実際の農場での成功例は少ないのが現状である。その理由としては、農場土壌中には多種多様のおびただしい数の土壌細菌が存在しており、このような農場に、拮抗菌培養液の状態や(例えば、特許文献1参照)、培養材料中に多量の拮抗菌を繁殖させた状態の拮抗菌(例えば、特許文献2参照)を一時期に多量に蒔いたとしても、他の微生物(従来よりその土壌中に住み着いているもの)との競合に負けてしまい、その土壌中に拮抗菌が根付くことができないことが多いためであると考えられる。
【0004】
これに対し、出願人らは、既に、乾燥固定化微生物を得る技術(例えば、特許文献3及び4参照)を利用し、活性汚泥施設から排出される余剰汚泥を担体とし、拮抗菌を特定条件下で担体に固定して微生物資材を製造することで、余剰汚泥の有効利用を達成すると同時に、実際に農場で使用した場合に、土壌中の水分によって膨潤し、拮抗菌の生命活動を回復して、微生物資材として有効に機能し得ることが確認された製品についての提案を行っている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
上記した余剰汚泥を担体とし、拮抗菌を担体に固定した微生物資材は、従来知られていたコンポスト製品に拮抗菌を混合した状態のもの等に比べて、格段に高い拮抗菌による植物に対する病害の軽減効果が得られるものとなるが、具体的な植物の病原菌に対して、より効能があり、しかも実用的な製品とするためには、当該病原菌に対してより優れた効能を発揮でき、実際に植物に使用した場合に、より確実に効能が発揮され、更に、対象とする植物に対して効能がより長時間持続でき、使い勝手に優れる製品とするための更なる改良が必要である。
【0006】
【特許文献1】特公平7−101815号公報
【特許文献2】特公平6−192028号公報
【特許文献3】特公平4−48436号公報
【特許文献4】特公平6−73451号公報
【特許文献5】特開2001−308714公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、活性を維持した状態で拮抗菌が固定され、使用の際に土壌中の水分で膨潤して拮抗菌の生命活動が回復される微生物資材に利用することが可能な新たな拮抗菌を見いだして、いわゆる農薬としての機能がより有効に発揮された実用性の高い微生物資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成された。即ち、本発明は、[1]少なくとも拮抗微生物及び固体栄養培地を含んでなる微生物資材であって、拮抗微生物が、Trichoderma asperellum F288株(受託番号:NITE P−53)を含むことを特徴とする微生物資材である。
【0009】
本発明の好ましい形態としては、[2]更に、粘土鉱物であるバーミキュライト資材を含む上記[1]に記載の微生物資材、[3]拮抗微生物が固体栄養培地で培養された拮抗微生物を有し、且つ、該培養が、食品工場から排出される有機性植物残渣を使用した固体培養方法で行われたものである上記[1]又は[2]に記載の微生物資材、[4]粒状或いはペレット状である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の微生物資材が挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、農作物の苗や種とともに土壌中に蒔かれると、活性を維持した状態で固定されていたTrichoderma asperellum F288株を含む拮抗菌の生命活動が土壌中の水分で膨潤して回復し、いわゆる農薬としての機能が充分に発揮され、微生物を利用したものでありながら一定の品質を維持した製品となる微生物資材が提供される。更に、その好ましい形態によれば、より長期間にわたって上記効果が持続され、しかも、実際に農場土壌中に蒔いて使用する場合において取り扱い易い実用性に優れる微生物資材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、活性を維持した状態で固定されて、使用の際に土壌中の水分で膨潤して拮抗菌の生命活動が回復し、いわゆる農薬としての高い機能が発揮されて微生物資材として有効に利用可能な新規な拮抗微生物である、Trichoderma asperellum F288株を見いだして、本発明に至った。
【0012】
本発明を特徴づける新規なTrichoderma asperellum F288株(受託番号:NITE P−53)について説明する。該微生物は、トリコデルマ属のカビであるが、本発明者らは、該微生物について鋭意検討した結果、上記微生物は、りんご、梨、ブドウ及びみかん等といった果実の白紋羽病や紫紋羽病の病原菌である、Rosellina necatrix、Helicobasidium monpaに対して高い拮抗作用があることを確認した。又、Trichoderma asperellum F288株は、じゃがいものそうか病の病原菌である、Streptomyces Scabiesに対しても高い拮抗作用があることを確認した。そして、本発明者らの更なる検討によれば、この微生物は、果樹やじゃがいもの病気菌に対して上記のような高い拮抗作用を示す上に、少なくとも固体栄養培地を含んでなる微生物資材とした場合に、活性を維持した状態で固定されて、使用の際には土壌中の水分で膨潤してその生命活動が回復し、しかも上記の拮抗作用が高いレベルで発揮されて、いわゆる農薬として有効に利用することができることを確認した。
【0013】
本発明にかかる微生物資材は、最終的に得られる微生物資材1グラム当たりに、Trichoderma asperellum F288株が102〜107cells程度の範囲で含まれるようにすることが好ましい。
【0014】
本発明にかかる微生物資材は、拮抗微生物にTrichoderma asperellum F288株を用い、固体栄養培地を含んでなるものであればいずれのものであってもよい。本発明にかかる微生物資材に用いるTrichoderma asperellum F288株には、予め微生物学的に純粋培養されたものを使用することが好ましい。拮抗菌を培養する方法としては、従来公知の微生物学的純粋培養方法を使用すればよいが、特に、食品工場から排出される有機性植物残渣を使用した固体培養方法を用いることが好ましい。具体的には、例えば、フスマ、米ヌカ、オカラ及び小豆カスといった有機性植物残渣からなる固体栄養培地を用いて培養させることが好ましい。
【0015】
本発明にかかる微生物資材は、例えば、上記のようにして予め固体培養方法等で培養したTrichoderma asperellum F288株を、更に固体栄養培地と混合して得ることができる。本発明においては、Trichoderma asperellum F288株の培養に使用する固体培地と、更に混合させる固体栄養培地とを同一のものとすることが好ましい。
【0016】
本発明にかかる微生物資材は、上記に加えて更に粘土鉱物であるバーミキュライト資材を含有させてもよい。ここで、粘土とは、一般的に親水性が強く、水を加えると可塑性を生じ、乾けば剛性を示す粘着性微粒子の集合体をいうが、粘土鉱物とは、該粘土の主成分として産する含水ケイ酸塩をいう。本発明者らの検討によれば、粘土鉱物の中でも特にバーミキュライトを用いることが好ましい。
【0017】
本発明で使用することのできるバーミキュライトは、蛭石とも呼ばれるものであって、アルミナ、シリカ、マグネシアが化学主成分であるが、化学組成の一定しない二次鉱物である。バーミキュライトは、層構造を有する粘土鉱物であり、その外観は、黒雲母状である。土壌用や建材用として市販されているバーミキュライトは、バーミキュライト原料を加熱処理したものである。加熱処理によって、層を繋いでいる水が気化し、この結果、体積が膨張し、層間に無数の空気層を有する軽量・多孔質の粒状の製品となる。このように、バーミキュライトは多孔質であるため、拮抗菌の良好な固定材料となる。
【0018】
本発明では、市販されている土壌用や建材用のバーミキュライトを用いることができるが、好ましくは、バーミキュライトの製造工程において廃棄物として出される粉状のバーミキュライトを用いるとよい。このような粉状のバーミキュライトを上記した原料と混合して、公知の方法で造粒したものは、非常に安価な製品となる。又、粉状のバーミキュライトを上記した原料と混合して、公知の方法でペレット化すれば、取り扱い性に優れるペレット状の微生物資材が、容易に且つ安価に得られる。更に、廃棄物として出される粉状のバーミキュライトを用いることで、従来、廃棄されていた資源の有効利用が図れると同時に、バーミキュライト製造における廃棄物処理にかかるコストの削減をも達成でき、この点からも有効である。
【0019】
上記したバーミキュライトを含有する微生物資材は、バーミキュライト、拮抗微生物を培養した固体培地、更に、固体栄養培地である有機性植物残渣を加えた混合物から製造する。有機性植物残渣としては、拮抗菌の培養にも好適な、フスマ、米ヌカ、オカラ及び小豆カスから選択したものを用いることが好ましい。本発明者らの検討によれば、バーミキュライトを含有させた形態の微生物資材は、微生物の生命活動を利用するものであるにもかかわらず、一定の品質を維持し、より効果が持続する製品となる。
【0020】
本発明にかかる微生物資材の好ましい形態としては、固体培地で培養したTrichoderma asperellum F288株と、例えば、小麦フスマのような有機性植物残渣とを含有してなる混合物、或いは、更にこれにバーミキュライト資材のような粘土鉱物を加えた混合物を、造粒或いはペレット化したものが挙げられる。このような構成の微生物資材は、取り扱い易く、しかも、農作物の苗や種とともに土壌中に蒔くと、拮抗菌は土壌中で良好に生育し、該拮抗菌による植物に対する病害の軽減効果は、安定し且つ長期間持続したものとなる。本発明者らの検討によれば、本発明で使用するTrichoderma asperellum F288株は、上記のような、取り扱い性や製造性に優れる実用的な形態の微生物資材とした場合に、上記微生物が活性を維持した状態で固定され、更に、使用の際に土壌中に含有させた場合に該微生物は死滅することなく順調に生育し、土壌中で、その高い拮抗作用を発揮し得るものとなる。
【0021】
上記したように、粒状或いはペレット状に成形された本発明にかかる微生物資材は、取り扱い性に優れるが、特にペレット状の微生物資材は、それと同時に、土壌中に含有させた場合に、より長期間に渡って拮抗菌による植物に対する病害の軽減効果が持続する。本発明にかかる微生物資材をペレット状とするか否かは、該微生物資材の病害の軽減効果が期待される植物の種類に応じて決定すればよい。例えば、各種の野菜のように、短期に収穫できる植物に対して使用するものの場合は、ペレット化する必要はないが、りんご等の樹木の場合には、より長期間に渡って拮抗菌による植物に対する病害の軽減効果が持続するペレット状の微生物資材を使用することが有効である。
【0022】
本発明にかかる微生物資材は、上記したように、Trichoderma asperellum F288株とともに、例えば、フスマ、米ヌカ、オカラ及び小豆カス等から選択された有機性植物残渣からなる固体栄養培地が含まれているため、先に述べたように、この微生物資材を土壌中に施した場合に、拮抗菌の基質(エサ)がより十分にある拮抗菌が生育し易い状態になり、その効果がより長期間持続されるという効果を有するものとなる。本発明者らの検討によれば、上記した中でも特にフスマを用いてなる微生物資材は、土壌中に含有させ、土壌中に住み着いている他の微生物と競合した状態となった場合にも、拮抗菌の繁殖に優れ、しかも長期間にわたって拮抗菌の効果が持続するものとなる。
【0023】
本発明にかかる微生物資材の具体的な製造方法について説明する。本発明にかかる微生物資材は、Trichoderma asperellum F288株を培養した固体培地、及び固体栄養培地、必要に応じてバーミキュライトを含むものであればよく、その形状等は限定されないが、前記したように、粒状或いはペレット状とすることが好ましい。粒状の製品とする場合には、Trichoderma asperellum F288株を培養した固体培地、及び固体栄養培地等の原料を用いて、転動造粒式の造粒機等を使用する公知の方法で製造することができる。具体的には、上記した粉状の原料に水を加えて得た湿潤粉体原料を、造粒機によって転動、振動、撹拌等により運動させて凝集して造粒する方法、或いは、流動層中の乾燥粉体に凝集用のバインダーや水をスプレーすることによって生じる凝集現象を利用して造粒する方法等が挙げられる。
【0024】
上記した場合に使用する凝集用のバインダーとしては、例えば、粘結力・給水力・保水力の強い、コーンスターチ、小麦粉、加工澱粉等の澱粉類や、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ポリビニールアルコール(ポバール)等を使用することができる。これらのバインダーを用いる場合には、粉体原料中にバインダーを混合しておき、該混合物に回転や振動を与えながら水を噴霧してもよいし、粉体原料に回転や振動を与えながらバインダー水溶液を噴霧してもよい。
【0025】
本発明にかかる微生物資材は、ペレット状のものであってもよいが、その場合の製造方法としては、従来公知の押し出し造粒方式を用いることができる。具体的には、拮抗微生物を培養した固体培地、固体栄養培地、及び粘土鉱物、必要に応じてバインダーを加えた粉状原料に、水を加えて混合して湿潤粉体原料とし、これを押出機の孔から混合物を押し出して、その後に適宜な長さに切断し、乾燥することで、容易にペレット状の微生物資材が得られる。この際に加える水の量としては、湿潤粉体原料混合物が、押し出し成形可能な状態となるものであれば、いずれでもよい。
【0026】
上記のようにして得た原料混合物を成形した粒状やペレット状のものは、その後に乾燥処理すれば、強度の高い固形状の微生物資材製品とできる。乾燥温度としては、やや高めの常温、例えば、40℃以下の温度で、除湿及び乾燥処理することが好ましい。具体的な乾燥温度は、目的とする微生物の温度耐性に応じて適宜に決定すればよい。
【0027】
上記したような方法で得られる本発明にかかる微生物資材は、Trichoderma asperellum F288株、及び固体栄養培地、更に、必要に応じて添加されたバーミキュライト、バインダーのみからなり、拮抗菌は、これらの中に乾燥固定化された状態で含まれる。そして、本発明にかかる微生物資材は、農場に蒔かれた際に、土壌中の水分と接触して膨潤し、膨潤することで固体栄養培地やバーミキュライト中に固定されていたTrichoderma asperellum F288株が再び活性を取り戻し、農場中で、農作物に対する病原菌の増殖や活動抑制する拮抗作用を発揮して農作物に対する病害の軽減に効果を示す。
【0028】
Trichoderma asperellum F288株は、農場に蒔かれた際に、土壌中の水で膨潤されることで活性を取り戻すが、その際、該菌の周囲には固体栄養培地である有機性植物残渣が併存し、拮抗菌の基質(エサ)が十分に存在する状態となるので、土壌中に既に存在している多量の病原菌等の微生物と競合した場合にも拮抗菌が死滅することなく良好に生育し、拮抗菌が土壌中に常に存在する状態を形成させることができる。又、特に、ペレット状の微生物資材は、十分な強度を有し、農場に蒔く場合の取り扱い性に優れるのみならず、土壌中の水分によって表面から内部に向かって徐々に膨潤していくので、単に混合されたものや、粒状のものに比較して、拮抗作用をより長期間に渡って維持できるものとなる。
【0029】
更に、バーミキュライトを併存させた形態の微生物資材とした場合に、よりその効果が持続したものとなるが、本発明者らは、その理由を以下のように考えている。即ち、バーミキュライトを併存させた形態の微生物資材では、資材中のバーミキュライトが、あたかもフスマ等の有機性植物残渣の表面をコーティングしているような状態になっており、この状態が、微生物資材を構成している有機性植物残渣が、土壌中に存在している種々の微生物のエサとなることを有効に抑制し、含有させた拮抗菌が選択的に発育・増殖する環境を与える結果、農作物に対する病原菌の増殖や活動抑制する拮抗作用が発揮され、しかも、その拮抗菌の効果が長期間持続したものとなったと考えられる。
【0030】
本発明にかかる微生物資材は、上記した特性に鑑みて、使用する対象の植物によって、その原料の選択、形状の選択(粒状或いはペレット化するか否か、或いは大きさ)をすればよい。例えば、野菜を対象とする微生物資材の場合には、ペレット化することなく、混合物のまま、或いは粒状の微生物資材製品とすればよい。この場合に得られる微生物資材は、比較的脆いものとなる。一方、りんご等の果樹を対象とする微生物資材を製造する場合には、ペレット状にすることが好ましく、その大きさは、植物の種類、固定する拮抗菌の種類等によって、例えば、1〜20mmの範囲で適宜に決定すればよい。
【0031】
又、本発明にかかる微生物資材は、大量に使用することが予想されるが、拮抗菌の固定化資材として、従来、廃棄処分されていた粉状のバーミキュライトを使用した形態とすれば、バーミキュライトの有効活用を図ることができると同時に、製造コストを低く抑え、より安価で実用的な製品の提供が可能になる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
<実施例1>
先ず、りんごの白紋羽病や紫紋羽病の病原菌である、Rosellina necatrix、Helicobasidium monpaに対して拮抗作用のあるトリコデルマ属のカビTrichoderma asperellum F288株を、滅菌した10kgの小麦フスマを固体培地として103cells/gになるように植菌し、2週間培養した。次に、得られた培養物と、上記した培養に使用したと同様の小麦フスマとを、質量比で、それぞれが約1:10の配合割合となるように混合し、造粒して粒状の微生物資材を得た。
【0033】
<実施例2>
実施例1で使用したと同様に小麦フスマで培養したTrichoderma asperellum F288株の培養物と、培養に使用したと同様の小麦フスマとバーミキュライト(ヒルイシ化学製)とを、質量比で、それぞれが約1:5:1の配合割合となるように秤量し、水道水を加えて混合して湿潤粉体を得た。次に、上記で得た湿潤原料を用いて押し出し造粒方式の押出機で、成形・切断・乾燥して、約φ7mm×約3cmのペレット状の微生物資材を得た。
【0034】
<比較例1>
実施例2と同様にして得たペレット状の微生物資材を、オートクレーブで滅菌し、これを比較例1の資材とした。
【0035】
<評価>
上記で得られた実施例1、2及び比較例1の粒状又はペレット状の微生物資材について、実際に農場に蒔いて使用した場合の効果を、下記のようにして調べた。上記で得られた実施例及び比較例の微生物資材を、白紋羽病、紫紋羽病に感染しているりんごの根本に1kg/1本ずつ入れ、各10本を試験区とし、2年後の状態を観察し、評価した。
【0036】
(評価結果)
その結果、実施例1及び2の微生物資材を根元に施したものは、全て健全であり、枯渇することはなかった。これに対して、ペレット化後、滅菌処理した比較例1の微生物資材を根元に施した系では、全て枯渇した。この結果、拮抗菌を培養した培養物と、固体栄養培地とを混合して、造粒して得られた実施例1のもの、及び、更にバーミキュライトを加えた混合物をペレット状にして得た実施例2のものは、いずれも微生物資材として充分に機能することを確認できた。このことは、実施例のものは、土壌中の水分で膨潤することで拮抗菌の生命活動が回復し、その機能を発揮できる状態に拮抗菌が固定化されており、しかもその効果は、長期間持続できたことを意味している。
【0037】
又、実施例1及び2の微生物資材の効果を詳細に比較したところ、実施例1の粒状のものよりもペレット化した実施例2のものの方が、若干効果が優れることがわかった。このことは、ペレット化することによって、上記した効果が、より長期間にわたって持続でき、ペレット化された資材は、粒状の資材よりも長期間にわたって土壌中に拮抗菌を残存させることができるようになることを示している。
【0038】
<実施例3>
じゃがいものそうか病の病原菌である、Streptomyces Scabiesに対して拮抗作用のあるトリコデルマ属のTrichoderma asperellum F288株を、滅菌した10kgの小麦フスマを固体培地として103cells/gになるように植菌し、2週間培養した。次に、得られた培養物と、上記で培養に使用したと同様の小麦フスマと、実施例2で使用したと同様のバーミキュライトとを、質量基準で、それぞれが約1:5:1の配合割合となるように混合し本実施例の微生物資材とした。
【0039】
上記で得られた本実施例の微生物資材を、じゃがいものそうか病が発生した畑の土壌に100L/1反程度施した1a(アール)の試験区に、じゃがいもの苗を植えた。そして、3ヶ月に収穫したところ、収穫した全てのじゃがいもについて、そうか病の発生は認められなかった。
【0040】
<比較例2>
比較のために、生ゴミを発酵腐熟させて肥料とするコンポスト化の際に、本実施例で使用したと同様の拮抗菌を初期に体積比で5%含有させて得たコンポスト製品を、本実施例3の場合と同様の条件で施した試験区に、じゃがいもの苗を植えた。そして、3ヶ月に収穫したところ、収穫した1/3のじゃがいもに、そうか病の発生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の活用例としては、実際に農場で使用した場合に、土壌中の水分によって膨潤して活性を維持した状態で固定されていた拮抗菌の生命活動が回復し、りんご等の果樹の白紋羽病や紫紋羽病や、じゃがいものそうか病に対して、いわゆる農薬として作用する微生物資材製品が挙げられる。該製品は、従来のものに比べて、より長期間にわたってその効果が持続され、しかも、取り扱い易く、拮抗菌という微生物を利用した製品でありながら、一定の品質が維持された実用価値の高い有用な微生物資材製品とできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも拮抗微生物及び固体栄養培地を含んでなる微生物資材であって、拮抗微生物が、Trichoderma asperellum F288株(受託番号:NITE P−53)を含むことを特徴とする微生物資材。
【請求項2】
更に、粘土鉱物であるバーミキュライト資材を含む請求項1に記載の微生物資材。
【請求項3】
拮抗微生物が固体栄養培地で培養された拮抗微生物を有し、且つ、該培養が、食品工場から排出される有機性植物残渣を使用した固体培養方法で行われたものである請求項1又は2に記載の微生物資材。
【請求項4】
粒状或いはペレット状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物資材。

【公開番号】特開2006−199601(P2006−199601A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10659(P2005−10659)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000156581)環境エンジニアリング株式会社 (67)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】