説明

微粒子乾式コーティング製剤

【課題】実質的に結晶構造からなる薬物が核粒子にコーティングされた微粒子乾式コーティング製剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】平均粒子径100μm未満の核粒子にコーティング剤および薬物を被覆してなる平均粒子径100μm以下の微粒子乾式コーティング製剤であって、該薬物が結晶構造からなることを特徴とする微粒子乾式コーティング製剤およびその製造方法。前記薬物の結晶化率が90%以上であることを特徴とするの微粒子乾式コーティング製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング製剤およびその製造方法に関し、より詳細には、微粒子である核粒子に薬物をコーティングした微粒子乾式コーティング製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与された薬物が適切な薬効を発揮するには消化管液中に溶解し、吸収される必要がある。しかしながら、近年開発される医薬品候補化合物は構造がより複雑化した難溶性化合物が多く、その溶解性を改善する製剤技術が検討されてきた。
【0003】
それらの製剤技術の一つとしてコーティング法がある。
コーティング法には、乾式と湿式があるが、核粒子に薬物をコーティングするコーティング製剤において、湿式では薬物を溶媒に溶解または懸濁した溶液を核粒子に処理するため、その溶媒が水である場合には処理後の蒸発に多くのエネルギーが必要となることや、核粒子中に水によって劣化する成分が含まれている場合にはこれが劣化するためそのような成分の使用が制限されるなどの問題があった。また、その溶媒が有機溶媒の場合には、有機溶媒の除去を完全にしないと製剤中に有機溶媒が残存するという問題があった。
【0004】
一方、乾式コーティング法では、溶媒を使用しないので、溶媒に起因する問題は発生しない。しかしながら、溶媒なしに核粒子に薬物をコーティングするのは困難であるため、乾式の結合剤としてコーティング剤の添加などが試みられているが、微粒子化等のコーティング剤の前処理を始めとした煩雑な操作が必要とされていた。
【0005】
特許文献1には、高速気流衝撃法を利用して、核粒子の表面に薬物などの結晶性有機化合物とコーティング剤である親水性高分子とをコーティングすることによって、該結晶性有機化合物の非晶質割合を増加させ、その結晶化を抑制する方法が開示されている。
【0006】
すなわち、薬物が非晶質で固定化されていれば難溶性薬物の溶解性向上などの利点があるが、非晶質状態は結晶状態に比べ高エネルギーであるために再結晶化して溶解性向上などの利点が失われる。従って、非晶質状態の割合を増加させ、かつその再結晶化を抑制することができれば、製剤上の利点があるとしている。
【0007】
【特許文献1】特開平06−210152号公報
【非特許文献1】薬剤学、67(5)、288〜296ページ、2007年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、コーティング剤である親水性高分子は可能な限り粉砕する必要がある、薬物の再結晶化の時間は遅くはなっているが時間の経過とともに再結晶化が進行している等の問題があった。
【0009】
また、薬物に結晶多形がある場合には、製剤化前の薬物が非晶質化した後、再結晶化によって物理化学的性質の異なる結晶となることによって、製剤化の前後で薬理活性に変化が生じる問題もある。
【0010】
なお、コーティング法では、非特許文献1に記載されているように100μm以下の平均粒子径のコーティング製剤は実用化されていないが、核粒子に薬物をコーティングするコーティング製剤において、核粒子の粒子径が大きいと単位質量あたりの表面積が小さく、コーティングする薬物の量を多くするのは困難であるため、薬物を高濃度に含んだ製剤とすることができなかった。従って、例えば投与量の大きな薬物では、実際に投与される製剤量も大きく、かさ高くなるため患者には大きな負担となる場合があった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決することに鑑みてなされたものであり、実質的に結晶構造からなる薬物が核粒子にコーティングされた微粒子乾式コーティング製剤およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明において、微粒子乾式コーティング製剤とは、100μm以下の乾式コーティング製剤をいう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、平均粒子径100μm未満の核粒子にコーティング剤および薬物を被覆してなる平均粒子径100μm以下の微粒子乾式コーティング製剤であって、該薬物が実質的に結晶構造からなることを特徴とする微粒子乾式コーティング製剤である。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記薬物の結晶化率が90%以上であることを特徴とする請求項1記載の微粒子乾式コーティング製剤である。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記核粒子がデンプン粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の微粒子乾式コーティング製剤である。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記デンプン粒子が平均粒子径10〜30μmのコーンスターチであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤である。
【0016】
請求項5に係る発明は、前記コーティング剤がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤である。
【0017】
請求項6に係る発明は、前記薬物が難溶性薬物であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤である。
【0018】
請求項7に係る発明は、請求項1から6のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤の製造方法であって、円筒形のキャビティを有する容器中で回転する撹拌羽根を備えた分散装置において、前記核粒子、前記コーティング剤および前記薬物からなる混合物を撹拌するに際し、該キャビティ中の該混合物の流れを層流とすることを特徴とする微粒子乾式コーティング製剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、平均粒子径100μm以下の微粒子乾式コーティング製剤およびその製造方法を提供できる。該コーティング製剤は、難溶性薬物の溶解性を向上させることができるばかりでなく、単位質量あたりの表面積が大きいため薬物の高濃度化が可能となる。従って、該コーティング製剤を最終の製剤として使用することができるだけでなく、溶解性の向上した薬物原末のように取り扱うことが可能となる。即ち、該コーティング製剤を、目的に応じてさらに加工して種々の製剤とすることができる。
【0020】
また、本発明の微粒子乾式コーティング製剤は、コーティングされた薬物が実質的に結晶構造からなっているため安定で、薬物の溶解性が時間の経過と共に変化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0022】
なお、本発明において微粒子乾式コーティング製剤、核粒子、コーティング剤、薬物等の粒子径はレーザー散乱式粒度分布測定器(LMS24、株式会社セイシン企業)を用い乾式で測定した。
【0023】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤は、核粒子にコーティング剤および薬物を処理して製造される微粒子である。その大きさは、核粒子の大きさと、コーティング剤および薬物からなるコーティング層の厚さとに依存するが、本発明の目的の一つである薬物の高濃度化を考慮すると平均粒子径で100μm以下であり、好ましくは5〜70μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0024】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤において、薬物は実質的に結晶構造からなっており、その結晶化率は、90%以上である。該結晶化率が90%未満では、薬物の再結晶化の影響が大きくなり、その結果、該薬物の溶解度が変化するため好ましくない。なお、結晶化率は、薬物に由来する粉末X線回折の回折線の強度から計算できる。
【0025】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤に用いる核粒子は、硬くて平均粒子径100μm未満のものであれば良く、例えば、含水二酸化ケイ素、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、小麦粉、酸化チタン、酸化マグネシウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、部分アルファー化デンプン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、薬用炭、硫酸カルシウム、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、コメデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、可溶性デンプン、タピオカデンプンが挙げられる。
【0026】
中でも、安全性が高く、医薬品としての使用量に制限がないデンプン粒子が好ましく用いられる。該デンプン粒子は、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、コメデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、可溶性デンプン、タピオカデンプン等の粒子があげられる。なお、前期核粒子の平均粒子径は100μm未満であればよいが、好ましくは5〜70μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0027】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤に用いるコーティング剤は、核粒子と薬物の結合を高め、薬物の溶解性を向上させるために使用される。前記コーティング剤としては、例えば、
アセチルグリセリン脂肪酸エステル、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマー、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルコポリマー、アラビアゴム、アラビアゴム末、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、カカオ脂、ヒマシ油水添ワックス(硬化ヒマシ油)、カラメル、カルナウバロウ、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、乾燥乳状白ラック、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、グリセリン脂肪酸エステル、鯨ロウ、硬化油、合成ワックス、硬ロウ、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、サラシミツロウ、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ポリオキシル40、ステアリン酸マグネシウム、精製ゼラチン、精製セラック、精製白糖、ゼイン、セタノール、ゼラチン、セラック、ソルビタン脂肪酸エステル、D-ソルビトール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、テルペン樹脂、白色セラック、パラフィン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ブドウ糖、プルラン、ポビドン、ポリエチレンオキサイド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール1500、ポリエチレングリコール1540、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール20000、ポリエチレングリコール35000、末端水酸基置換メチルポリシロキサンシリコーン樹脂共重合体、ミツロウ、ミリスチルアルコール、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、メチルセルロース、2−メチル−5−ビニルピリジンメチルアクリレート・メタクリル酸コポリマー、メチルメタアクリレート・メタクリル酸コポリマー、モクロウ、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モンタン酸エステルワックス、ラウロマクロゴール、DL-リンゴ酸、ロジン、アクリル酸ポリマー、アクリル酸アミドポリマー、メタアクリル酸ポリマー、メタアクリル酸アミドポリマー
が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、粉末状で汎用性があるメタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチルコポリマー、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルコポリマー、エチルセルロース、ヒマシ油水添ワックス(硬化ヒマシ油)、合成ワックス、サラシミツロウ、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマーおよびポリエチレングリコールが好ましく、特に粉末状のポリエチレングリコールが好ましい。なお、前記
コーティング剤の使用量は、核粒子に対して200体積%以下が好ましく、より好ましくは50体積%以下である。
【0029】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤に用いる薬物は、結晶であれば特に制限はないが、本発明の目的である難溶性薬物の溶解性向上の観点からは、難溶性薬物に適用するのが好ましい。なお、本発明において難溶性薬物とは、第15改正日本薬局方の通則において「溶けにくい」とされている溶解度以下の薬物をいう。
前記 薬物の使用量は、特に制限はないが、核粒子に対して200体積%以下が好ましく、より好ましくは50体積%以下である。
【0030】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤には、核粒子、コーティング剤および薬物以外に、その要求される性質に応じて他の添加剤を加えることができる。これらの添加剤としては、滑沢剤、紫外線散乱剤、着色剤、安定化剤、流動化剤、香料、界面活性剤、保存剤、賦形剤等が挙げられる。
【0031】
なお、本発明で用いるコーティング剤、薬物およびその他の添加物の性状は、その大きさに関係なく粉末状であれば、前処理などせずに使用できる。また、コーティング処理を繰り返すことにより多層のコーティングも可能である。
【0032】
本発明の微粒子乾式コーティング製剤を製造するには、容器のキャビティ中で被分散物である核粒子、コーティング剤、薬物等を撹拌するとき、その撹拌状態を層流とする分散装置、例えば図1ないし図10に示す分散装置100、300または310を用いることができる。
【0033】
これらの分散装置について、最も単純な構造の分散装置100を例として以下説明する。
分散装置100は、図1ないし図4に示すように、円筒形のキャビティ111を有する容器110と、キャビティ111と同軸状に回転自在に軸支されていてキャビティ111の内部に配置されている撹拌部材200と、撹拌部材200を回転駆動する回転駆動部(図示せず)と、を有する。
【0034】
分散装置100は、容器110のキャビティ111に収容された被分散物を回転駆動部により回転駆動される撹拌部材200により撹拌する。その撹拌部材200は、一定方向の回転により被分散物をキャビティ111の内周面と略平行に回転させるとともに回転軸体210の軸心方向に往復させる形状に形成されている。より具体的には、撹拌部材200は、回転自在に軸支されていて回転駆動部により回転駆動される円柱状の回転軸体210と、回転軸体210の外周面上に回転方向で等間隔となる偶数の位置に配置されている複数の羽根220と、を有する。
【0035】
そして、回転軸体210の軸心方向を上下方向としたときに回転方向で奇数番目の羽根220aは迎角θが負値で相対的に下方に位置しているとともに、偶数番目の羽根220bは迎角θが正値で相対的に上方に位置している。
【0036】
さらに、羽根220の上下幅Aおよび奇数番目の羽根220aの上端と偶数番目の羽根220bの下端との上下方向での間隔Bが、
0≦B≦A/2
を満足している。
【0037】
なお、羽根220は、平板状に形成されており、その板厚は翼弦長Cに対して充分に小さい。従って、羽根220の上下幅Aは、翼弦長Cと迎角θに対し、
A≒Csinθ
を満足している。
【0038】
分散装置100では、羽根220の迎角θが失速角未満である。羽根220の前縁に連続した部分に、軸心方向と直交した平面221が形成されている。
【0039】
羽根220の外縁222がキャビティ111の内周面と平行な円弧状に形成されている。羽根220の前縁223と後縁224とが平行である。また、羽根220の回転方向と平行な前後幅が回転軸体210の直径より小さい。
【0040】
また、分散装置100では、回転軸体210の軸心を中心に180度の二つの位置に、二枚の羽根220が個々に配置されている。そこで、この二枚の羽根220を、以下では第一番目の羽根220aおよび第二番目の羽根220bと呼称する。
【0041】
さらに、分散装置100では、第一番目の羽根220aの前縁がキャビティ111の下面近傍に位置しているとともに、第二番目の羽根220bの前縁がキャビティ111の上面近傍に位置している。
【0042】
本発明において、層流は乱流と対比されるものである。これまでの分散方法の殆どが乱流による分散方法であると考えられる。しかし、乱流が被分散物の流れを多方向にすることによって被分散物に多様な力をかけようとするのに対し、層流は被分散物の流れを一定方向に抑えながら被分散物に規則的で均一な力をかけようとするものである。
【0043】
キャビティとして円筒形状の内部空間が用いられる場合、被分散物の流動は、全体的には同心円状に移動し、径方向には殆ど移動しない。その状態は目視により確認することができる。
【0044】
図1は、分散装置100で被分散物を撹拌するときの、その被分散物の層流からなる流動を矢印で模式的に示している。この流動は、本願の発明者が実際に分散装置100を試作し、被分散物を撹拌したときの目視による実験結果に基づいている。
【0045】
図1(a)は分散装置100の内部の模式的な平面図である。本発明者は、分散装置100により撹拌される被分散物を上方から観察した。すると、図1(a)に示すように、被分散物は羽根220a,220bの外縁222とキャビティ111の内周面との間隙付近を、回転しながら直径方向に往復することが確認された。
【0046】
これは、羽根220a,220bの回転で作られた遠心力によってキャビティ111の内周面に押付けられた被分散物が、反発してキャビティ111の内側に戻ろうとするが、羽根220によって再びキャビティ111の内周面に押付けられ、これを繰り返すものと類推できる。
【0047】
図1(b)は、撹拌部材200の回転方向に第一第二の羽根220a,220bを展開して表現した模式図である。本発明者は、分散装置100により撹拌される被分散物を側方からも観察した。
【0048】
すると、図1(b)に示すように、被分散物はキャビティ111の内部を羽根220a,220bと同一方向に回転しつつ、第一番目の羽根220aの上面と第二番目の羽根220bの下面との間を上下に往復するが、その流動は層流であることが確認された。
【0049】
これは以下のように類推できる。被分散物は羽根220a,220bの回転にともなってキャビティ111の内部を回転するが、その回転速度が羽根220a,220bの回転速度に到達することはない。

【0050】
このため、被分散物は相対的には羽根220a、220bに対して反対方向に回転していることになる。すると、被分散物は、迎角が負値の第一番目の羽根220aにより上方に誘導され、迎角が正値の第二番目の羽根220bにより下方に誘導される。
【0051】
ただし、第一番目の羽根220aの前縁はキャビティ111の下面近傍に位置しており、第二番目の羽根220bの前縁はキャビティ111の上面近傍に位置している。このため、第一番目の羽根220aの上面と第二番目の羽根220bの下面により、相対移動する被分散物の全体が上下方向に誘導される。
【0052】
さらに、前述のように第一番目の羽根220aの上端と第二番目の羽根220bの下端との上下方向での間隔Bが「0≦B」を満足しているので、被分散物の流動に無理がない。このため、分散装置100により撹拌される被分散物の流動は層流となる。
【0053】
このような層流によると、被分散物にはいつも規則的で均一な力がかかることになる。このため、効率的で均一な分散が可能となる。なお、羽根220の外縁222の周速度が10m/sec未満では層流の状態とならないため、周速度は10m/sec以上が好ましく、より好ましくは20m/sec以上である。
【0054】
なお、被分散物を効率よく均一微細に分散させるには、被分散物と羽根220、被分散物とキャビティ111の内周面、被分散物同士、の衝突の頻度を高めなければならない。
【0055】
この頻度は羽根220が作る遠心力によって被分散物が円筒状のキャビティ111の内周面に押し付けられた結果できるドーナツ状の体積の中に含まれる被分散物の体積の割合に依存する。
【0056】
キャビティ111の直径方向の層流の厚みは、被分散物の密度、羽根220の外縁222の周速度、羽根220の迎角である設置角度、羽根220の外縁222とキャビティ111の内周面との間隙などによって決まり、目視によっても確認できる。
【0057】
層流の体積は、この層流の直径方向の厚みとキャビティ111の高さから計算できる。層流中の被分散物の割合が大きいほど被分散物同士の衝突の頻度が増大するため分散は効率的になるが、衝突により発生する摩擦熱により被分散物が溶融したり、熱劣化を受けたりすることがある。
【0058】
また、溶融状態または粉体など得ようとする分散体の状態に合わせて、羽根220の外縁222の周速度、羽根220の迎角である設置角度、羽根220とキャビティ111の内周面との間隙および層流中の被分散物の割合などを調整したり、場合によっては冷却或いは加熱したりすることができる。
【0059】
なお、上述のような撹拌する被分散物の摩擦熱による温度上昇は、羽根220の速度などの分散装置100の特性の他、分散装置100に投入する被分散物の量にも依存する。
【0060】
被分散物の投入量を増加させると、衝突頻度の増大により温度も上昇する。換言すると、被分散物を所望の温度で撹拌するためには、分散装置100への被分散物の投入量も調節する必要がある。
【0061】
図4は、図1にドーナツ状の層流を追加して表現した図である。図4(a)は、ドーナツ状の層流の中に小さな円で示されている被分散物が押し込められている様子を示している。
【0062】
分散装置100は、上述のように、撹拌部材200の一定方向の回転により、被分散物をキャビティ111の内周面と略平行に回転させるとともに回転軸体210の軸心方向に往復させる。
【0063】
つまり、被分散物の流動が層流となるので、被分散物に過度な摩擦熱などが発生しない。このため、被分散物を良好に分散しながらも、被分散物の特性劣化を防止することができる。
【0064】
また、分散装置100は、回転軸体210の軸心方向を上下方向としたときに回転方向で奇数番目の羽根220aは迎角θが負値で下方に位置しているとともに、偶数番目の羽根220bは迎角θが正値で上方に位置している。
【0065】
さらに、羽根220の上下幅Aおよび奇数番目の羽根220aの上端と偶数番目の羽根220bの下端との上下方向での間隔Bが、
0≦B≦A/2
を満足している。
【0066】
このため、簡単な構造の撹拌部材200により、被分散物をキャビティ111の内周面と略平行に回転させるとともに回転軸体210の軸心方向に往復させることができる。
【0067】
しかも、分散装置100では、羽根220の迎角θが失速角未満である。このため、被分散物の流動を確実に層流とすることができる。
【0068】
さらに、第一番目の羽根220aの前縁がキャビティ111の下面近傍に位置しているとともに、第二番目の羽根220bの前縁がキャビティ111の上面近傍に位置している。
【0069】
このため、下方に位置する第一番目の羽根220aの下端とキャビティ111の下面との隙間、および、上方に位置する第二番目の羽根220bの上端とキャビティ111の上面との隙間に、被分散物が流入することを良好に抑制することができる。従って、被分散物の全体を良好に撹拌することができる。
【0070】
特に、羽根220の前縁に連続した部分に、軸心方向と直交した平面221が形成されている。従って、下方に位置する第一番目の羽根220aの前縁をキャビティ111の下面まで近接させることができ、上方に位置する第二番目の羽根220bの前縁をキャビティ111の上面まで近接させることができる。
【0071】
このため、第一番目の羽根220aとキャビティ111の下面との隙間、および、第二番目の羽根220bとキャビティ111の上面との隙間に、被分散物が流入することを良好に抑制することができる。
【0072】
つまり、上述の隙間は撹拌部材200が容器100を擦過しない範囲で最小であることが好ましい。その隙間は、撹拌部材200の回転の精度、装置のサイズ、等にもよるが、例えば、0.5mm以上10mm以下である。
【0073】
さらに、羽根220の外縁222がキャビティ111の内周面と平行な円弧状に形成されている。このため、羽根220の外縁222とキャビティ111の内周面とに異形の隙間が発生することがない。
【0074】
従って、羽根220の外縁222とキャビティ111の内周面との間隙の流動を良好に層流とすることができる。この結果、キャビティ111の内周面の近傍に被分散物を局在させた状態とし、この状態で被分散物を流動させることができる。このように被分散物が局在するキャビティ111の内周面の近傍の範囲は、平面形状として円環状であり、立体形状としては中空の円筒状である。
【0075】
しかも、羽根220の前縁223と後縁224とが平行である。このため、羽根220の構造が簡単である。特に、羽根220の上下幅Aおよび奇数番目の羽根220aの上端と偶数番目の羽根220bの下端との上下方向での間隔Bを、簡単な構造で適切な関係とすることができる。
【0076】
しかも、羽根220の回転方向と平行な前後幅が回転軸体210の直径より小さい。このため、撹拌部材200の回転中心の近傍に乱流を発生させる形状が存在することがない。従って、被分散物を層流で良好に撹拌することができる。
【0077】
なお、羽根220の外縁222の周速度、翼型、翼平面形、流体の粘性、など他の条件にもよるが、羽根220の迎角が過大であると層流が維持できない。このため、羽根220の迎角は、層流が維持される失速角未満であることが好ましい。より具体的には、羽根220の迎角θの絶対値は0度以上90度以下で、好ましくは5度から45度であり、例えば、30度である。
【0078】
また、羽根220の翼型として、層流を乱さないため羽根220には角張ったところがないことも重要で、被分散物と羽根220およびキャビティ111の内周面との衝撃力、摩擦熱による被分散物の特性劣化を防ぐためには、羽根220の外縁222とキャビティ111の内周面との間隙は1mm以上であることが好ましい。
【0079】
さらに、分散で発生する摩擦熱による被分散物および/または分散体の熱劣化を抑制するため、場合によっては、溶融状態、粉末状態など任意の状態で分散体を得るためにも底部材、円筒形状の壁部材および蓋部材からなる容器部材、回転軸体および/または羽根内部に温度調整用に水などの冷媒或いは熱媒を通すことのできる構造を設置してもよい。その場合、容器110の部材内部と撹拌部材200の内部との少なくとも一方に調温流路が形成されており、調温流路に伝熱流体を流動させる温度調整機構を有すればよい(図示せず)。
【0080】
撹拌部材200を回転させる回転駆動部としては、回転軸体210にモーターの駆動軸を直結してもよく、回転軸体210とモーターの駆動軸とをギヤ列やベルト機構などで連結してもよい。
【0081】
また、上記形態では回転軸体が鉛直であることを想定して説明したが、本発明の装置は一定速度の層流が得られるものであれば設置の仕方に制限はない。回転軸体の回転方向が地面に平行でも垂直でも或いは斜めにも設置可能である。
【0082】
さらに、被分散物をキャビティ内に投入するには、蓋部を開いてそこから投入するようにしてもよいし、キャビティにホッパーなどの被分散物を投入するための装置を設置するなどしてもよい(図示せず)。 また、分散が終了した後、分散体を取り出すには蓋部を開けて取り出したり、底部に取り出し口を設けたりすることができる。
【0083】
上記形態では回転軸体210の軸心を中心に180度の二つの位置に、二枚の羽根220が個々に配置されていることを例示した。しかし、本発明の分散装置は、回転軸体210の外周面上に回転方向で等間隔となる偶数の位置に羽根が配置されており、奇数番目の羽根220は迎角θが負値で相対的に下方に位置しているとともに、偶数番目の羽根220は迎角θが正値で相対的に上方に位置していればよい。
【0084】
従って、図5ないし図7に例示する分散装置300のように、回転軸体210の軸心を中心に90度の四つの位置に羽根220が配置されていてもよい。この分散装置300は、軸心方向では、撹拌部材230の奇数番目である第一番目の羽根220aと第三番目の羽根220cとが同じ位置にあり、偶数番目である第二番目の羽根220bと第四番目の羽根220dとが同じ位置にある。そして、奇数番目の羽根220a,220cと偶数番目の羽根220b,220dとは、軸心方向で重複しない位置に配置されている。
【0085】
なお、撹拌部材230の羽根220の枚数は、その羽根220の翼弦長や回転軸体210の直径なども考慮して、被分散物が層流で撹拌されるように設定されればよい。
このため、回転軸体210の軸心を中心に60度の六つの位置に羽根220が配置されていること、45度の八つの位置に羽根220が配置されていること、等でもよい(図示せず)。
【0086】
また、図8ないし図10に例示する分散装置310のように、奇数番目と偶数番目との羽根220の組み合わせが、回転軸体210の軸心方向にも複数に配列されていてもよい。
【0087】
その撹拌部材240では、回転軸体210の軸心を中心に180度の二つの位置に羽根220が配置されている。ただし、奇数番目である第一番目の位置に二枚の羽根220a,220cが上下に配置されており、偶数番目である第二番目の位置に二枚の羽根220b,220dが上下に配置されている。
【0088】
分散装置310でも、羽根220a〜220dは、上下方向で重ならない位置に配置されている。また、羽根220a〜220dの迎角の絶対値は、例えば、15度である。
【0089】
また、奇数番目の位置の最下位の羽根220の前縁がキャビティ111の下面近傍に位置するとともに、偶数番目の位置の最上位の羽根220の前縁がキャビティ111の上面近傍に位置している。
【0090】
当然ながら、回転軸体210の軸心方向での羽根220の枚数も、その羽根220の翼弦長や迎角などを考慮して、被分散物が層流で撹拌されるように設定されればよい。
【0091】
さらに、回転軸体210の軸心を中心に四つ以上の位置に羽根220が配置されている構造を、軸心方向に複数に配列することもできる(図示せず)。この数を増やすことによって容易に装置の大型化が可能になる。
【0092】
本発明者は、上記形態で説明した分散装置を用い、該分散装置のキャビティ中で核粒子、コーティング剤、薬物等の被分散物を、その流れを層流として混合撹拌することによって、本発明の微粒子乾式コーティング製剤を製造した。
【0093】
なお、上記形態で説明したように、前記分散装置では、そのキャビティ内で、被分散物である核粒子、コーティング剤、薬物等の粒径や投入量、撹拌羽根外縁の周速度、設置角度、羽根とキャビティ内周面との間隔などを調整することによりこれら被分散物にかかる力を調節したり、容器部材、回転軸体および/または羽根内部に温度調整用の冷媒或いは熱媒を通すことによって温度をコントロールしたりすることができる。従って、本発明では、適宜これらの条件を選ぶことにより、薬物の溶解性を調整するなど目的に適合した微粒子乾式コーティング剤を製造できる。
【実施例】
【0094】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら具体例には限定されるものではない。以下の実施例で使用した分散装置(図示せず)は、図9に例示した撹拌部材240と同等な構造からなる。
【0095】
つまり、撹拌部材は、四枚の羽根が180度の二つの位置に上下二段に配置されている構造とした。その四枚の羽根は、相互に上下方向で重ならない位置に配置した。
【0096】
その羽根の上下方向での間隔Bは0mm、羽根の上下幅Aは10mmとした。第一番目の二枚の羽根の迎角は各々−25度、第二番目の二枚の羽根の迎角は各々+25度、とした。
【0097】
さらに、容器のキャビティの内径は50mmとした。キャビティの上下長は40mmとした。そして、羽根の外縁とキャビティの内周面との間隙は2.5mmとした。最下位の羽根の下縁とキャビティの底面との間隙は1mmとした。そして、撹拌部材の回転速度は28000rpmとした。
なお、キャビティの容積は、撹拌部材の容積を含めずに57mlで、キャビティの外壁には冷却水を通して冷却できるようにした。
【0098】
<使用材料>
実施例および比較例では、核粒子としてコーンスターチ(日本食品化工株式会社、平均粒子径16μm)、薬物としてフロセミド(和光純薬工業株式会社)、およびコーティング剤としてポリエチレングリコール(マクロゴール6000、日本油脂株式会社)を用いた。
【0099】
<キャビティ充填率>
上記分散装置に投入したコーンスターチ、フロセミドおよびポリエチレングリコールのキャビティ中の充填率は、各々の投入量とかさ密度から体積を計算し、その体積とキャビティの容積から計算した。
【0100】
<粒子径>
微粒子乾式コーティング製剤、核粒子、コーティング剤、薬物等の粒子径はレーザー散乱式粒度分布測定器(LMS24、株式会社セイシン企業)を用い乾式で測定した。
【0101】
<X線回折>
実施例で得られた微粒子乾式コーティング製剤および比較例の物理的混合物について粉末X線回折装置(RINT−Ultima 3、株式会社リガク)を用いて測定した。
【0102】
<結晶化率>
粉末X線回折を測定し、フロセミドに由来し、コーンスターチおよびポリエチレングリコールに由来する回折線と重ならない回折線2θ=25degについて、その強度から、比較例の物理的混合物を100%として実施例の結晶化率を評価した。
【0103】
<フロセミドの定量と溶解速度の評価>
フロセミド、微粒子乾式コーティング製剤または比較例の物理的混合物について、200号ふるい(目開き75μm)を用いて粗大粒子を除去した調製微粒子をフロセミド溶出速度評価の試料とした。
フロセミドの定量は、溶媒としてメタノールを用い、分光光度法(277nm)にて行なった。
この定量結果からフロセミド量が1mg相当となる試料について、日局パドル法(パドル回転数50rpm、37℃)で900mlの蒸留水を試験液とし、溶出試験器(NTR−1000 富山産業株式会社)を用いたフローセル法にて開始から1時間、分光光度法(277nm)によりフロセミド溶出量の変化を経時的に測定した。
【0104】
「実施例1」
コーンスターチ6.00g、フロセミド2.00gおよびポリエチレングリコール1.50gを上記分散装置に投入し、28000rpmで5分間撹拌して微粒子乾式コーティング製剤を得た。処理中の温度はキャビティ外壁に冷却水を通すことにより25〜30℃の範囲に保つよう調節した。キャビティ充填率および得られた製剤の平均粒子径を表1に記載した。
【0105】
「実施例2〜5」
表1の組成で実施例1と同様に処理して微粒子乾式コーティング製剤を得た。表1にキャビティ充填率および得られた製剤の平均粒子径を記載した。なお、実施例1〜5は、コーンスターチ、フロセミドおよびポリエチレングリコールの配合比は体積で6/2/2とし、キャビティ充填率を変化させたものである。
【0106】
【表1】

【0107】
「実施例6〜12」
表2の組成で実施例1と同様に処理して微粒子乾式コーティング製剤を得た。表2に得られた製剤における薬物(フロセミド)の結晶化率を記載した。なお、実施例6〜12のキャビティ充填率は、いずれも32.2%である。
【0108】
【表2】

【0109】
「比較例1〜7」
表3に記載の組成の材料をポリエチレン袋に入れ、5分間室温で手振り混合して物理的混合物(PM)を得た。
【0110】
【表3】

【0111】
実施例1〜5は、コーンスターチ、フロセミドおよびポリエチレングリコールの配合比は体積で6/2/2とし、キャビティ充填率を変化させたものであるが、表1によると、キャビティ充填率によらず得られた製剤の平均粒子径は何れも16μmであり、処理前には存在していた40μm以上および8μm以下の粒子が、処理後には殆ど観察されず粒度分布が狭くなっていた。
【0112】
図11はフロセミド(FUR)、コーンスターチ(CS)、ポリエチレングリコール(PEG)、実施例1〜5および比較例4の粉末X線回折の結果であるが、比較例4の物理的混合物(PM)と実施例1〜5の回折に殆ど変化が見られないことから、実施例1〜5の微粒子乾式コーティング製剤は実質的に結晶構造からなることが分かる。
【0113】
図12はフロセミド、コーンスターチおよびポリエチレングリコールの走査型電子顕微鏡写真を、図13は実施例1〜5および比較例4の走査型電子顕微鏡写真を示している。充填率が増大するほど核粒子であるコーンスターチへの付着物が多くなり、凝集物も増加しているが、充填率32.2%までは観察された粒子の殆どが、核粒子であるコーンスターチ表面にフロセミドおよびポリエチレングリコールがコーティングされた一次粒子であることが分かる。
【0114】
また、図14は、フロセミド単体(FUR)、物理的混合物(PM)および実施例1〜5の微粒子乾式コーティング製剤におけるフロセミドの溶解速度を示している。これによると、フロセミド単体より物理的混合物の溶解速度は上昇しているが、さらに実施例1〜5の溶解速度は、特に初期において顕著に増大していることが分かる。なお、図14の凡例では、実施例をキャビティ充填率で表示している(例えば、充填率25.8%は実施例1に相当する。)。
【0115】
実施例6〜12は、キャビティ充填率を32.2%とし、薬物のフロセミドとコーティング剤のポリエチレングリコールとの投入量(体積)は同じにして、核粒子であるコーンスターチの比率を変化させたものであるが、表2によると、コーンスターチの比率を変化させても結晶化率は各々対応する物理的混合物である比較例1〜7と比べて殆ど変化していないことが分かる。このことは、図15の粉末X線回折からも確認できる。なお、実施例9は実施例3と同じものである。
【0116】
図16は、実施例6〜12の走査型電子顕微鏡写真を示しているが、コーンスターチの配合率が多くなるほど凝集物は少なくなり、それと共にコーンスターチ表面への付着物が減少していることが分かる。
【0117】
また、図17は、実施例6〜12およびフロセミド単体(FUR)におけるフロセミドの溶解速度を表しているが、コーンスターチの添加率が増大するに従って溶解速度が増大していることが分かる。なお、図17の凡例では、実施例をコーンスターチ(CS)の添加率で表示している(例えば、添加率90%は実施例6に相当する。)。
【0118】
図11および15の粉末X線回折並びに図13および16の顕微鏡写真が示すように、本発明の微粒子乾式コーティング製剤は、核粒子表面に薬物が結晶構造を保持した状態でコーティングされ、該薬物の溶解性が向上(図14および17で示されている。)しているが、これは、前記薬物が結晶構造を保持した状態で微細化され、前記核粒子表面に均一に分布していることを示しているものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】(a)は本発明の実施の形態の分散装置の内部構造を示す平面図、(b)は撹拌部材の羽根と被分散物の流動との関係を示す模式図である。
【図2】撹拌部材の三面図である。
【図3】撹拌部材の斜視図である。
【図4】分散装置で被分散物を撹拌している状態を示す模式図である。
【図5】(a)は一変形例の分散装置の内部構造を示す平面図、(b)は撹拌部材の羽根と被分散物の流動との関係を示す模式図である。
【図6】撹拌部材の三面図である。
【図7】撹拌部材の斜視図である。
【図8】(a)は他の変形例の分散装置の内部構造を示す平面図、(b)は撹拌部材の羽根と被分散物の流動との関係を示す模式図である。
【図9】撹拌部材の三面図である。
【図10】撹拌部材の斜視図である。
【図11】フロセミド(FUR)、コーンスターチ(CS)、ポリエチレングリコール(PEG)、比較例4および実施例1〜5の粉末X線回折図である。
【図12】フロセミド(FUR)、コーンスターチ(CS)及びポリエチレングリコール(PEG)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例1〜5及び比較例4の微粒子乾式コーティング製剤の走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】フロセミド(FUR)、比較例4および実施例1〜5の微粒子乾式コーティング製剤の溶解速度を示す図である。
【図15】実施例6〜12および比較例1〜7の粉末X線回折図である。
【図16】実施例6〜12の微粒子乾式コーティング製剤の走査型電子顕微鏡写真である。
【図17】フロセミド(FUR)、実施例6〜12の微粒子乾式コーティング製剤についての溶解速度を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
100 分散装置
111 キャビティ
110 容器
200 撹拌部材
210 回転軸体
220 羽根
220a 羽根
220b 羽根
220c 羽根
220d 羽根
221 羽根の軸心方向と直交した平面
222 羽根の外縁
223 羽根の前縁
224 羽根の後縁
300 分散装置
310 分散装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径100μm未満の核粒子にコーティング剤および薬物を被覆してなる平均粒子径100μm以下の微粒子乾式コーティング製剤であって、該薬物が実質的に結晶構造からなることを特徴とする微粒子乾式コーティング製剤。
【請求項2】
前記薬物の結晶化率が90%以上であることを特徴とする請求項1記載の微粒子乾式コーティング製剤。
【請求項3】
前記核粒子がデンプン粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の微粒子乾式コーティング製剤。
【請求項4】
前記デンプン粒子が平均粒子径10〜30μmのコーンスターチであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤。
【請求項5】
前記コーティング剤がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤。
【請求項6】
前記薬物が難溶性薬物であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の微粒子乾式コーティング製剤の製造方法であって、円筒形のキャビティを有する容器中で回転する撹拌羽根を備えた分散装置において、前記核粒子、前記コーティング剤および前記薬物からなる混合物を撹拌するに際し、該キャビティ中の該混合物の流れを層流とすることを特徴とする微粒子乾式コーティング製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−114148(P2009−114148A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291560(P2007−291560)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】