説明

微粒子分散液製造方法および微粒子分散液製造装置

【課題】高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる方法および装置を提供する。
【解決手段】溶解工程では、容器30内において難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解される。固定工程では、溶解工程において得られた溶解液に含まれる有機溶媒が蒸発除去され、当該有機溶媒除去によりペレット状の残存物1が得られ、残存物1が容器30の内壁に固定される。照射工程では、容器30の内部に水2が注入されて残存物1が水2に浸漬され、マグネティックスターラ51の回転により水2が撹拌され、残存物1と水2との界面近傍において水2が流動している状態で、光照射部20から出力されたレーザ光Lが残存物1に対して照射される。これにより、残存物1が粉砕されて微粒子とされ、この微粒子が水2に分散されてなる微粒子分散液が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子分散液を製造する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の新規医薬品の開発において、候補化合物を合成する際にコンビナトリアルケミストリーの手法が採用されている。このコンビナトリアルケミストリーとは、組み合わせを利用して多種・多様な化合物を短期間で一度に合成する技術である。本手法で得られる化合物は、多くの場合、溶解性の問題を有している。すなわち、化合物自身に優れた生理活性を見出すことができても、その化合物が水に溶けにくい性質がある場合、その化合物の開発を断念する例が多い。また、天然物からの抽出によって得られる化合物も、溶解性を改善するため様々な有機合成が行われ構造最適化が行われる。すでに市販されている医薬品にも溶解性の低いものがある。これらは、患者個体内及び個体間で薬物の吸収量に変動幅があり、血中濃度の管理など、使用する側の医師および使用される側の患者の双方にとって負担が大きい。
【0003】
これらの問題点を解消し得るものとして微粒子製剤が注目を集めている。微粒子製剤は、難溶性の薬物粒子をマイクロメートル以下のサイズにしたものを水中に安定に分散させたものである。微粒子製剤を用いることで、生体内での薬物の吸収速度および量を高めることが可能である。また、患者個体内及び個体間における吸収量のバラツキの低減や、投与量に対する有効利用率の上昇が期待できる。このような微粒子製剤を製造する方法の発明が特許文献1,2に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された発明は、溶媒中に分散させた有機化合物にレーザ光を照射することにより有機化合物の超微粒子を得るものである。特許文献2に開示された発明は、溶媒に分散させた有機バルク結晶に超短パルスレーザ光を照射することにより、非線形吸収によるアブレーションを誘起して有機バルク結晶を粉砕して高分散性飛散物となし、この高分散性飛散物を溶媒により回収することにより、有機化合物の超微粒子を得るものである。
【特許文献1】特開2001−113159号公報
【特許文献2】特開2005−238342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に開示された発明は、破砕対象である有機化合物または有機バルク結晶が溶媒に分散された状態であることから、有機化合物または有機バルク結晶へのレーザ光照射が偶発的であり、処理効率が低いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る微粒子分散液製造方法は、(1) 難溶性薬物および分散安定化剤を揮発性の有機溶媒に溶解させる溶解工程と、(2) この溶解工程において得られた溶解液に含まれる有機溶媒を蒸発除去し、当該有機溶媒除去により得られる残存物を容器の内壁に固定する固定工程と、(3) この固定工程の後に、容器の内部に水を注入し、容器の内部の残存物と水との界面近傍において水を流動させながら、容器の内壁に固定された残存物に対して光を照射して、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造する照射工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
なお、溶解工程,固定工程および照射工程の全体を通じて1つの容器が用いられてもよい。また、上記残存物を得るまでの工程で用いられる容器と、その残存物の固定以降の工程で用いられる容器とは、互いに別個のものであってもよい。
【0009】
この微粒子分散液製造方法によれば、溶解工程において、難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解される。続く固定工程において、溶解工程において得られた溶解液に含まれる有機溶媒が蒸発除去され、当該有機溶媒除去により得られる残存物が容器の内壁に固定される。更に続く照射工程において、容器の内部に水が注入され、容器の内部の残存物と水との界面近傍において水が流動している状態で、容器の内壁に固定された残存物に対して光が照射されて、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された液が製造される。
【0010】
本発明に係る微粒子分散液製造方法では、照射工程において、容器の内部に注入された水を撹拌してもよいし、容器の内部に注入された水を振動(好適には超音波振動)させてもよいし、また、容器の内部へ水を供給してもよく、何れによっても、容器の内部の残存物と水との界面近傍において水を流動させることができる。
【0011】
本発明に係る微粒子分散液製造方法では、照射工程において、容器の内部へ水を供給する場合に、容器の内部に供給する水の温度を一定に維持するのが好適であり、容器の内部で製造された微粒子分散液を容器とは別の回収容器に回収するのも好適であり、或いは、容器の内部へ水の供給と気体の供給とを交互に行い、この気体の供給の際に微粒子分散液を回収容器に回収するのも好適である。
【0012】
本発明に係る微粒子分散液製造装置は、(1) 難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解され、当該溶解液に含まれる有機溶媒が蒸発除去されることにより得られる残存物が内壁に固定され、内部に水が注入される容器と、(2) 容器の内壁に固定された残存物に対して光を照射する光照射部と、(3) 容器の内部の残存物と水との界面近傍において水を流動させる流動手段と、を備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る微粒子分散液製造装置は、流動手段により容器の内部の残存物と水との界面近傍において水を流動させ、光照射部により残存物に対して光を照射することにより、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造することを特徴とする。
【0013】
この微粒子分散液製造装置では、難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解され、当該溶解液に含まれる有機溶媒が蒸発除去されることにより得られる残存物が容器の内壁に固定される。そして、容器の内部に水が注入され、流動手段により容器の内部の残存物と水との界面近傍において水を流動されている状態で、容器の内壁に固定された残存物に対して光照射部から光が照射されて、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された液が製造される。
【0014】
本発明に係る微粒子分散液製造装置では、流動手段は、容器の内部に注入された水を撹拌する撹拌手段を含んでいてもよいし、容器の内部に注入された水を振動(好適には超音波振動)させる振動手段を含んでいてもよいし、また、容器の内部へ水を供給する給水手段を含んでいてもよく、何れによっても、容器の内部の残存物と水との界面近傍において水を流動させることができる。
【0015】
本発明に係る微粒子分散液製造装置では、流動手段が上記給水手段を含む場合に、給水手段が、容器の内部に供給する水の温度を一定に維持するのが好適である。或いは、容器の内部で製造された微粒子分散液を回収する回収手段を更に備えるのも好適である。また或いは、容器の内部へ気体を供給する給気手段を更に備え、給水手段による水の供給と給気手段による気体の供給とを交互に行って、給気手段による気体の供給の際に回収手段により微粒子分散液を回収するのも好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。また、本発明によれば、高濃度の微粒子分散液を製造することができるため、これまで点滴用製剤とされていた水難溶性薬物を、短時間で必要量の有効成分を投与可能な注射剤とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
(第1実施形態)
【0019】
先ず、本発明に係る微粒子分散液製造方法および微粒子分散液製造装置の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る微粒子分散液製造装置11の構成図である。この図に示されるように、微粒子分散液製造装置11は、光照射部20、容器30、温度制御部40、マグネティックスターラ51およびスターラ台52を備え、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造するものである。
【0020】
容器30は、被処理液が容れられるものであって、光照射部20から出力されるレーザ光Lが透過し得る材料からなり、好適には石英ガラスからなる。なお、この図では、容器30の内壁に後述の残存物1が固定され、また、容器30の内部に水2が注入されている状態が示されている。
【0021】
温度制御部40は、恒温槽,温度計および温調手段を含み、温度計および温調手段によるフィードバック制御により、恒温槽内に収納された容器30及び容器30内部に容れられた被処理液を温度一定に維持する。恒温槽は、光照射部20から出力されるレーザ光Lが通過する部分が透明窓となっている。
【0022】
光照射部20は、容器30に向けてレーザ光Lを出射するものであり、レーザ光源21および照射光制御部22を含む。レーザ光源21は、好適には波長900nm以上の赤外レーザ光Lを出射する。照射光制御部22は、レーザ光源21から出射されて容器30へ照射されるレーザ光Lの強度および照射時間の双方または何れか一方を調整する。
【0023】
マグネティックスターラ51は、後述する照射工程S3の際に、容器30の内部に入れられ、スターラ台52により駆動されて容器30の底面の上で回転し、これにより、容器30の内部に注入された水2を撹拌することで、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2を流動させる。すなわち、マグネティックスターラ51およびスターラ台52は、容器30の内部に注入された水2を撹拌する撹拌手段として作用するとともに、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2を流動させる流動手段として作用する。
【0024】
次に、第1実施形態に係る微粒子分散液製造装置11の動作について説明するとともに、第1実施形態に係る微粒子分散液製造方法について説明する。図2は、第1実施形態に係る微粒子分散液製造方法を説明するフローチャートである。本実施形態に係る微粒子分散液製造方法は、溶解工程S1,固定工程S2および照射工程S3を順に行うことで、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造する。
【0025】
溶解工程S1では、容器30内において難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解される。ここで、難溶性薬物は、水にほとんど溶けない薬物であり、その溶解度については特に限定されないが、温度25℃において溶解度が50μg/mL以下のものが望ましい。難溶性薬物は、例えば、シクロスポリン、タクロリムス、ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、フェニトイン、ジギトキシン、ジアゼパム、ニトロフラントイン、ベノキサプロフェン、グリセオフルビン、スルファチアゾール、ピロキシカム、カルバマゼピン、フェナセチン、トルブタミド、テオフィリン、グリセオフルビン、クロラムフェニコール、パクリタキセル、カンプトテシン、シスプラチン、ダウノルビシン、メトトレキサート、マイトマイシンC、ドセタキセル、ビンクリスチン、アンホテリシンB、ナイスタチン、酪酸クロベタゾン等の副腎皮質ホルモン類などの市販薬、及び、その他の開発中の新薬候補化合物が挙げられる。
【0026】
分散安定化剤は高分子ポリマーまたは界面活性剤であるのが好適である。高分子ポリマーは、水溶性が高く、種々の有機溶媒に溶け易い物質であるのが望ましい。高分子ポリマーは、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルセルロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース誘導体、寒天、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、メタアクリル酸コポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。界面活性剤は、低毒性のものであるのが望ましく、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、コール酸、デオキシコール酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0027】
有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、アセトニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル等が挙げられ、より好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類である。
【0028】
溶解工程S1に続く固定工程S2では、溶解工程S1において得られた溶解液に含まれる有機溶媒が蒸発除去され、当該有機溶媒除去によりペレット状の残存物1が得られ、この残存物1が容器30の内壁に固定される。
【0029】
固定工程S2に続く照射工程S3では、容器30の内部に水2が注入されて、容器30の内壁に固定されている残存物1が水2に浸漬される(図1参照)。さらに、照射工程S3では、容器30の内部に入れられたマグネティックスターラ51がスターラ台52により駆動されて容器30の底面の上で回転して、容器30の内部に注入された水2が撹拌され、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。
【0030】
そして、照射工程S3では、この撹拌状態で、レーザ光源21から出力されたレーザ光Lは、照射光制御部22により強度および照射時間の双方または何れか一方が調整されて、容器30の内壁に固定された残存物1に対して照射される。なお、撹拌手段による撹拌は、連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。これにより、残存物1が粉砕されて微粒子とされ、この微粒子が水2に分散されてなる微粒子分散液が製造される。この微粒子は、難溶性薬物および分散安定化剤を含むものである。
【0031】
第1実施形態に係る微粒子分散液製造装置11または第1実施形態に係る微粒子分散液製造方法によれば、容器30の内壁に固定されたペレット状の残存物1にレーザ光Lが高効率に照射されるので、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。また、好適には波長900nm以上の赤外パルスレーザ光が出射され、多光子過程が起こらない程度の比較的弱い光照射でも微粒子が生成されるので、薬物分解等の問題が抑制され得る。
【0032】
また、本実施形態では、照射工程S3において、マグネティックスターラ51の回転により、容器30の内部に注入された水2が撹拌され、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。これにより、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制される。仮に撹拌を行わないとした場合には、残存物1と水2との界面近傍に微粒子が滞留または堆積し、レーザ光Lが該微粒子により散乱されて、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられる。しかし、本実施形態では、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制されるので、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられることはない。したがって、この点でも高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0033】
このようにして製造された微粒子分散液から、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が製造される。また、微粒子分散液を凍結乾燥して凍結乾燥微粒子が製造される。さらに、微粒子分散液,微粒子または凍結乾燥微粒子を含有する経口投与用製剤が製造され、また、微粒子分散液,微粒子または凍結乾燥微粒子を水に再懸濁して得られる分散液を含有する注射投与用製剤が製造される。
【0034】
照射工程S3において、図1に示されるように、容器30の内壁のうち残存物1が固定された領域の外側からレーザ光Lが照射されて、その照射されたレーザ光Lが容器30,残存物1および水2の順に進行するのが好適である。このようにすることにより、残存物1と水2との界面近傍において微粒子が生成され、その微粒子は直ちに水2に分散される。
【0035】
照射工程S3において、光照射部20から残存物1に対して波長900nm以上のレーザ光Lが照射されるのが好適である。このような波長のレーザ光Lが残存物1に照射されることで、残存物1に含まれる薬物の光劣化が更に抑制され得る。また、残存物1を経て界面にレーザ光Lが到達して該界面で微粒子が生成されることから、残存物1に対して吸光度が小さい波長のレーザ光Lが残存物1に照射されるのが好ましい。具体的には、残存物1に対する吸光度が0.01程度以下である波長のレーザ光Lが残存物1に照射されるのが好ましい。
【0036】
照射工程S3において、残存物1への光照射の強度および時間の双方または何れか一方が照射光制御部21により調整されるのが好ましく、このようにすることにより、光照射により生成される微粒子の粒径が制御され得る。また、残存物1への光照射の際に当該照射領域または容器内が温度制御部40により一定温度に維持されるのが好ましく、このようにすることにより、光照射により生成される微粒子の粒径が安定化される。
【0037】
容器30として密閉容器が用いられて、溶解工程S1,固定工程S2および照射工程S3が滅菌下で行われるのが好適である。すなわち、本実施形態では、容器30外部から光照射するだけの簡易な手法であるので、密閉容器でも実施することができ、滅菌下での注射剤製造も容易である。
【0038】
次に、第1実施形態に係る微粒子分散液製造装置11または第1実施形態に係る微粒子分散液製造方法において用いられる容器30の変形例について説明する。
【0039】
図3は、第1実施形態において用いられる容器30の第1変形例の構成図である。図1中に示された容器30と対比すると、この図3に示される第1変形例の容器30Aでは、内部を上下に区分けするメッシュ板31が設けられている点で相違する。このような容器30Aを用いる場合、固定工程S2では、有機溶媒除去により得られるペレット状の残存物1は、容器30Aのうちメッシュ板31より下方の内壁に固定される。また、照射工程S3では、容器30Aのうちメッシュ板31より上方まで水2が注入され、メッシュ板31上にマグネティックスターラ51が配置される。そして、メッシュ板31上のマグネティックスターラ51の回転により、メッシュ板31下の水2も撹拌され、残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。この撹拌状態で、光照射部20から出力されたレーザ光Lは、容器30Aの内壁に固定された残存物1に対して照射される。
【0040】
図4は、第1実施形態において用いられる容器30の第2変形例の構成図である。図1中に示された容器30と対比すると、この図4に示される第2変形例の容器30Bでは、底面のうち周縁部の環状領域において凹部32が設けられている点で相違する。このような容器30Bを用いる場合、固定工程S2では、有機溶媒除去により得られるペレット状の残存物1は、容器30Bの底面のうち周縁部の凹部32に固定される。また、照射工程S3では、容器30の内部に水2が注入され、マグネティックスターラ51の回転により水2が撹拌され、残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。このとき、マグネティックスターラ51は残存物1に接触しない。この撹拌状態で、光照射部20から出力されたレーザ光Lは、容器30Bの内壁に固定された残存物1に対して照射される。
【0041】
これら変形例の容器30A,30Bを用いた場合にも、内壁に固定されたペレット状の残存物1にレーザ光Lが高効率に照射されるので、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。また、好適には波長900nm以上の赤外パルスレーザ光が出射され、多光子過程が起こらない程度の比較的弱い光照射でも微粒子が生成されるので、薬物分解等の問題が抑制され得る。さらに、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制されるので、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられることはなく、この点でも高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0042】
(第2実施形態)
【0043】
次に、本発明に係る微粒子分散液製造方法および微粒子分散液製造装置の第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態に係る微粒子分散液製造装置12の構成図である。この図に示されるように、微粒子分散液製造装置12は、光照射部20、容器30、温度制御部40、超音波プローブ61および駆動部62を備え、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造するものである。
【0044】
図1に示された第1実施形態に係る微粒子分散液製造装置11の構成と対比すると、この図5に示される第2実施形態に係る微粒子分散液製造装置12は、マグネティックスターラ51およびスターラ台52に替えて、超音波プローブ61および駆動部62を備える点で相違する。
【0045】
超音波プローブ61は、照射工程S3の際に、容器30の内部に注入された水2に浸漬され、駆動部62により駆動されて超音波を発生し、これにより、容器30の内部に注入された水2を超音波振動させることで、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2を流動させる。すなわち、超音波プローブ61および駆動部62は、容器30の内部に注入された水2を振動させる振動手段として作用するとともに、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2を流動させる流動手段として作用する。
【0046】
次に、第2実施形態に係る微粒子分散液製造装置12の動作について説明するとともに、第2実施形態に係る微粒子分散液製造方法について説明する。第2実施形態に係る微粒子分散液製造方法を説明するフローチャートは、図2に示されたものと同様である。本実施形態に係る微粒子分散液製造方法も、溶解工程S1,固定工程S2および照射工程S3を順に行うことで、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造する。第2実施形態における溶解工程S1および固定工程S2それぞれは、第1実施形態の場合と同様である。
【0047】
第2実施形態における照射工程S3では、容器30の内部に水2が注入されて、容器30の内壁に固定されている残存物1が水2に浸漬される(図5参照)。さらに、照射工程S3では、容器30の内部に入れられた超音波プローブ61が駆動部62により駆動されて超音波を発生して、容器30の内部に注入された水2が振動し、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。
【0048】
そして、照射工程S3では、この振動状態で、レーザ光源21から出力されたレーザ光Lは、照射光制御部22により強度および照射時間の双方または何れか一方が調整され、ミラー23により反射されて、容器30の内壁に固定された残存物1に対して照射される。なお、振動手段による振動は、連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。これにより、残存物1が粉砕されて微粒子とされ、この微粒子が水2に分散されてなる微粒子分散液が製造される。この微粒子は、難溶性薬物および分散安定化剤を含むものである。
【0049】
第2実施形態に係る微粒子分散液製造装置12または第2実施形態に係る微粒子分散液製造方法によれば、容器30の内壁に固定されたペレット状の残存物1にレーザ光Lが高効率に照射されるので、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。また、好適には波長900nm以上の赤外パルスレーザ光が出射され、多光子過程が起こらない程度の比較的弱い光照射でも微粒子が生成されるので、薬物分解等の問題が抑制され得る。
【0050】
また、本実施形態では、照射工程S3において、超音波プローブ61による超音波発生により、容器30の内部に注入された水2が振動し、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。これにより、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制されるので、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられることはない。したがって、この点でも高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0051】
このようにして製造された微粒子分散液から、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が製造される。また、微粒子分散液を凍結乾燥して凍結乾燥微粒子が製造される。さらに、微粒子分散液,微粒子または凍結乾燥微粒子を含有する経口投与用製剤が製造され、また、微粒子分散液,微粒子または凍結乾燥微粒子を水に再懸濁して得られる分散液を含有する注射投与用製剤が製造される。
【0052】
本実施形態でも、照射工程S3において、容器30の内壁のうち残存物1が固定された領域の外側からレーザ光Lが照射されて、その照射されたレーザ光Lが容器30,残存物1および水2の順に進行するのが好適である。照射工程S3において、光照射部20から残存物1に対して波長900nm以上のレーザ光Lが照射されるのが好適であり、また、残存物1を経て界面にレーザ光Lが到達して該界面で微粒子が生成されることから、残存物1に対して吸光度が小さい波長のレーザ光Lが残存物1に照射されるのが好ましい。照射工程S3において、残存物1への光照射の強度および時間の双方または何れか一方が照射光制御部21により調整されるのが好ましく、また、残存物1への光照射の際に当該照射領域または容器内が温度制御部40により一定温度に維持されるのが好ましい。また、容器30として密閉容器が用いられて、溶解工程S1,固定工程S2および照射工程S3が滅菌下で行われるのが好適である。
【0053】
次に、第2実施形態に係る微粒子分散液製造装置12または第2実施形態に係る微粒子分散液製造方法において用いられる振動手段の変形例について説明する。図6は、第2実施形態において用いられる振動手段の変形例を示す図である。この図に示される変形例では、振動手段として超音波発生素子63が容器30の外壁に貼り付けられている。この超音波発生素子63により発生した超音波は容器30を経て水2に伝わって、これにより、容器30の内部に注入された水2が超音波振動し、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。そして、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制されるので、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられることはなく、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0054】
また、第2実施形態における振動手段の変形例として超音波洗浄器(例えば BRANSON社製のB5510)を用い、この超音波洗浄器に容器30を入れて、容器30の内部の水を超音波振動させてもよい。或いは、第2実施形態における振動手段の変形例として試験管ミキサー(例えば AS ONE社製のHM-10H)を用い、この試験管ミキサーに容器30を入れて、容器30の内部の水を振動させてもよい。これらの場合にも、水2が振動して、容器30の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。そして、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制されるので、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられることはなく、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0055】
なお、第2実施形態では、容器30の内壁に固定された残存物1は、レーザ光照射により光エネルギーが与えられることによって粉砕されて微粒子とされるだけでなく、振動エネルギーが与えられることによっても粉砕されて微粒子とされる場合がある。したがって、第2実施形態では、この点でも、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0056】
(第3実施形態)
【0057】
次に、本発明に係る微粒子分散液製造方法および微粒子分散液製造装置の第3実施形態について説明する。図7は、第3実施形態に係る微粒子分散液製造装置13の構成図である。この図に示されるように、微粒子分散液製造装置13は、光照射部20、容器70、給水部80および回収部90を備え、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造するものである。この第3実施形態における光照射部20は、第2実施形態における光照射部20と同じ構成のものでる。
【0058】
第3実施形態において用いられる容器70は、被処理液が容れられるものであって、光照射部20から出力されるレーザ光Lが透過し得る材料からなり、好適にはガラスからなる。この容器70の内部空間71と外部との間に流入路72および流出路73が設けられている。容器70の上に上板74が装着されたときに、内部空間71と外部との間は、流入路72および流出路73のみによって繋がっている。なお、この図では、容器70の内部空間71の底面に残存物1が固定され、また、容器70の内部空間71に水2が注入されている状態が示されている。
【0059】
給水部80は、容器70の流入路72に対して給水管により接続されており、容器70の内部空間71へ水を供給し、これにより、容器70の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2を流動させる。すなわち、これら給水部80,流入路72および給水管84は、容器70の内部へ水を供給する給水手段として作用するとともに、容器70の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2を流動させる流動手段として作用する。
【0060】
給水部80は、給水容器81、温度制御部82および給水ポンプ83を含む。給水容器81は、容器70の内部へ供給されるべき水を容れておくものである。温度制御部82は、給水容器81に容れられている水を所定温度に維持するものであり、これにより、所定温度の水を容器70の内部へ供給することができる。給水ポンプ83は、給水容器81に容れられている水を容器70の流入路72へ送出するものである。
【0061】
給水ポンプ83としてペリスタポンプが好適に用いられる。この場合、給水ポンプ83の流入口を給水容器81内の水に漬けておけば、その水が容器70の内部へ供給される。また、給水ポンプ83の流入口を気体(空気等)中に置いておけば、その気体が容器70の内部へ供給される。すなわち、給水ポンプ83は、容器70の内部へ気体を供給する給気手段としても作用し得る。
【0062】
回収部90は、容器70の流出路73に対して排水管91により接続されており、容器70で製造された微粒子分散液を回収して貯蔵する。すなわち、これら回収部90,流出路73および排水管91は、容器70の内部で製造された微粒子分散液を回収する回収手段として作用する。
【0063】
次に、第3実施形態に係る微粒子分散液製造装置13の動作について説明するとともに、第3実施形態に係る微粒子分散液製造方法について説明する。第3実施形態に係る微粒子分散液製造方法を説明するフローチャートは、図2に示されたものと同様である。本実施形態に係る微粒子分散液製造方法も、溶解工程S1,固定工程S2および照射工程S3を順に行うことで、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造する。
【0064】
溶解工程S1では、容器70内において難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解される。難溶性薬物、分散安定化剤および有機溶媒については第1実施形態において例示した通りである。溶解工程S1に続く固定工程S2では、溶解工程S1において得られた溶解液に含まれる有機溶媒が蒸発除去され、当該有機溶媒除去によりペレット状の残存物1が得られ、この残存物1が容器70の底面に固定される。
【0065】
この固定工程S2の後に、容器70の上に上板74が装着され、容器70の流入路72に対して給水管84により給水部80が接続され、容器70の流出路73に対して排水管91により回収部90が接続されて、照射工程S3が行われる。
【0066】
照射工程S3では、給水部80において、温度制御部82により一定温度に維持された給水容器81内の水が、給水ポンプ83により送出される。給水部80から送出された水は、給水管および容器70の流入路72を経て内部空間71へ供給される。これにより、容器70の内部空間71の底面に固定された残存物1は水2に浸漬される。また、給水手段により容器70の内部空間71へ水が供給されている期間では、残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。
【0067】
そして、照射工程S3では、この状態で、レーザ光源21から出力されたレーザ光Lは、照射光制御部22により強度および照射時間の双方または何れか一方が調整され、ミラー23により反射されて、容器70の底面に固定された残存物1に対して照射される。これにより、残存物1が粉砕されて微粒子とされ、この微粒子が水2に分散されてなる微粒子分散液が製造される。この微粒子は、難溶性薬物および分散安定化剤を含むものである。容器70の内部で製造された微粒子分散液は、流出路73および排出管91を経て回収部90へ移されて回収される。
【0068】
第3実施形態に係る微粒子分散液製造装置13または第3実施形態に係る微粒子分散液製造方法によれば、容器70の内壁に固定されたペレット状の残存物1にレーザ光Lが高効率に照射されるので、高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。また、好適には波長900nm以上の赤外パルスレーザ光が出射され、多光子過程が起こらない程度の比較的弱い光照射でも微粒子が生成されるので、薬物分解等の問題が抑制され得る。
【0069】
また、本実施形態では、照射工程S3において、給水手段による容器70内への水の供給により、容器70の内部の残存物1と水2との界面近傍において水2が流動する。これにより、残存物1と水2との界面近傍において、レーザ光Lの照射により生成された微粒子が滞留または堆積することが抑制されるので、レーザ光Lの照射による新たな微粒子の生成が妨げられることはない。したがって、この点でも高効率かつ短時間に微粒子分散液を製造することができる。
【0070】
このようにして製造・回収された微粒子分散液から、難溶性薬物および分散安定化剤を含む微粒子が製造される。また、微粒子分散液を凍結乾燥して凍結乾燥微粒子が製造される。さらに、微粒子分散液,微粒子または凍結乾燥微粒子を含有する経口投与用製剤が製造され、また、微粒子分散液,微粒子または凍結乾燥微粒子を水に再懸濁して得られる分散液を含有する注射投与用製剤が製造される。
【0071】
本実施形態でも、照射工程S3において、容器70の内壁のうち残存物1が固定された領域の外側からレーザ光Lが照射されて、その照射されたレーザ光Lが容器70,残存物1および水2の順に進行するのが好適である。照射工程S3において、光照射部20から残存物1に対して波長900nm以上のレーザ光Lが照射されるのが好適であり、また、残存物1を経て界面にレーザ光Lが到達して該界面で微粒子が生成されることから、残存物1に対して吸光度が小さい波長のレーザ光Lが残存物1に照射されるのが好ましい。照射工程S3において、残存物1への光照射の強度および時間の双方または何れか一方が照射光制御部21により調整されるのが好ましく、また、残存物1への光照射の際に当該照射領域または容器内が温度制御部40により一定温度に維持されるのが好ましい。また、容器70として密閉容器が用いられて、溶解工程S1,固定工程S2および照射工程S3が滅菌下で行われるのが好適である。
【0072】
なお、給水手段による容器70の内部空間71への水の供給は、連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。連続的に給水を行う場合と比較して、断続的に給水を行う場合には、回収された微粒子分散液における微粒子濃度が高いので、注射剤を製造するのが容易である。
【0073】
また、給水手段による水の供給と給気手段による気体の供給とを交互に行って、給気手段による気体の供給の際に回収手段により微粒子分散液を回収してもよい。この場合も、回収された微粒子分散液における微粒子濃度が高いので、注射剤を製造するのが容易である。
【0074】
また、容器70の内部空間71の容量が充分に大きい場合には、回収部90を設けることなく、得られた微粒子分散液を容器70の内部空間71に留めておいてもよい。このとき、容器70において流入路72から内部空間71へ注入される水は、残存物1と水2との界面近傍へ供給されるのが好適である。このようにすることで、残存物1と水2との界面近傍における微粒子濃度を効率よく小さく維持することができる。
【実施例1】
【0075】
次に、本実施形態に係る微粒子分散液製造装置または微粒子分散液製造方法のより具体的な実施例について説明する。
【0076】
先ず実施例1について説明する。実施例1は第3実施形態に相当するものである。実施例1では、難溶性薬物である免疫抑制薬Cyclosporin A(シクロスポリンA、以下「CsA」という。)の微粒子分散液を調製した。難溶性薬物としてのCsA原末(50mg)と、分散安定化剤としてのポリビニルピロリドン(250mg)およびラウリル硫酸ナトリウム(10mg)とを試験管にとり、揮発性有機溶媒であるエタノール(5mL)により溶解した。この溶解液を容器70に容れて、減圧条件下でエタノールを乾固し、薬物と分散安定化剤との混合物(残存物)を得た。この得られた混合物に水を添加して密閉した。
【0077】
容器70へ水を供給するとともに、容器70の内壁に固定された混合物に対してNd:YAGパルスレーザ光を照射した。照射条件は、波長1064nm、照射光強度0.61J/cm/pulse、パルス幅5〜7 ns、繰り返し周波数10Hzであった。60分間照射を行って、均一に白濁化した分散液が得られた。本実施例において、上記の操作は全て室温(20℃)で行った。
【0078】
高速液体クロマトグラフィ(High performance liquid chromatography、以下「HPLC」という。)を用いて波長210nmの吸光度を測定することにより、得られた分散液に含まれるCsA量を定量した(図8)。分離担体としてODS-C18(東ソー株式会社製)を用い、移動相としてアセトニトリル-イソプロパノール-水(2:5:3)を使用して、温度50℃で行った。標品としてCsA原末を1mg/mLとなるようにアセトニトリル-水(1:1)に溶解したものを使用した。CsAは約8分の位置に溶出し、標品を測定して得られたピーク面積を元に試料中のCsA量を比較計算して算出した結果、微粒子分散液中のCsA量は9.29±0.14mg/mL(n=3)であった。水に対する溶解度(23μg/mL)に比べて十分に高濃度の微粒子分散液を調製することができた。HPLCチャート上には、レーザ照射による共雑物ピークの増加は認められなかった。
【0079】
実施例1で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の粒度分布を測定した。粒径測定の際に用いた測定装置はSALD-7000(株式会社島津製作所製)であった。粒径200〜1000nmの範囲で、300nmおよび800nmそれぞれにピークをもつ粒度分布が得られた(図9)。粒度の揃った均一な微粒子懸濁液であると考えられる。
【0080】
実施例1で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の電子顕微鏡写真を撮影した(図10)。測定装置には走査電子顕微鏡S4200(株式会社日立製作所製)を用いた。この写真を見たところ、微粒子の形状は球形であり、300〜400nm程度の粒子径の微粒子が多く認められた。これは粒度分布のデータとも一致しており、均一な微粒子群であると考えられる。
【0081】
以上のように、粒径が揃ったCsA微粒子が分散された微粒子分散液を調製することができた。レーザ照射中の液相温度,照射強度および照射時間を変化させることにより、異なる粒子径の微粒子分散液を調製することが可能であった(以下の実施例を参照)。また、得られた分散液は室温で数日静置しても、沈殿はほとんど認められなかった。さらに、凍結乾燥が可能であり、凍結乾燥前と再懸濁後との間で分散液について粒度分布および電子顕微鏡像に有意な差は認められなかった。
【0082】
なお、一般に、レーザ光照射時に供給する水の温度が低いほど、粒子径が均一で小さい微粒子が得られた。水の温度を4℃付近としたとき、粒子径100nm以下の粒子径が揃った微粒子の分散液が得られた。
【実施例2】
【0083】
次に実施例2について説明する。実施例2では、分散安定化剤としてポロキサマー407(50mg)を用いた。その他の製造条件および顕微鏡観察条件は実施例1と同様である。実施例2で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の電子顕微鏡写真を見たところ、微粒子の形状は球形であり、マイクロメートルサイズ以下の粒子径の微粒子が多く認められた。
【実施例3】
【0084】
次に実施例3について説明する。実施例3では、試験管内の混合物(残存物)へ照射するレーザ光の強度を0.30または0.61J/cm/pulseとした。その他の製造条件および顕微鏡観察条件は実施例1と同様である。実施例3で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の電子顕微鏡写真を見たところ、微粒子の形状は球形であり、照射強度により粒子径は変化し、照射光強度が小さい方が粒子径は小さかった。これらの結果から、照射光強度が大きいほど、生成する微粒子の粒子径は増大すると考えられる。
【実施例4】
【0085】
次に実施例4について説明する。実施例4では、容器70の内壁に固定された残存物へレーザ光を照射する時間を10,60または180分間とした。その他の製造条件および顕微鏡観察条件は実施例1と同様である。実施例4で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の電子顕微鏡写真を見たところ、微粒子の形状は球形であり、照射時間により粒子径は変化した。照射時間10分の試料では粒径200〜500nmの微粒子が多いのに対し、照射時間60分の試料では粒径500nm〜1μmの微粒子が多く、照射時間180分の試料では1μmを超える粒子径をもつ微粒子が多く認められた。これらの結果から、照射時間が長いほど、生成する微粒子の粒子径は増大すると考えられる。
【実施例5】
【0086】
次に実施例5について説明する。実施例5では、難溶性薬物として抗炎症薬clobetasone butyrate(酪酸クロベタゾン)を用いて、clobetasone butyrateの微粒子分散液を調製した。その他の製造条件,粒度分布測定条件および顕微鏡観察条件は実施例1と同様である。実施例5で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の粒度分布および電子顕微鏡写真から、微粒子の形状は球形であり、マイクロメートルサイズ以下の粒子径の微粒子が多く認められ、分散液中の微粒子は200nmから1μmの間に存在しており、粒度の揃った均一な微粒子懸濁液であると考えられる。
【実施例6】
【0087】
次に実施例6について説明する。実施例6では、難溶性薬物として抗てんかん薬nifedipine(ニフェジピン)を用いて、nifedipineの微粒子分散液を調製した。その他の製造条件および粒度分布測定条件は実施例1と同様である。実施例6で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の粒度分布から、分散液中の微粒子は200nmから2μmの間に存在しており、400nmおよび1.2μmそれぞれに粒径ピークをもつ分散液であると考えられる。
【実施例7】
【0088】
次に実施例7について説明する。実施例7では、難溶性薬物として抗炎症薬ibuprofen(イブプロフェン)を用いて、ibuprofenの微粒子分散液を調製した。その他の製造条件および粒度分布測定条件は実施例1と同様である。実施例7で得られた微粒子分散液に含まれる微粒子の粒度分布から、分散液中の微粒子は250nmから1μmの間に存在しており、700nmに粒径ピークをもつ粒度の揃った均一な微粒子懸濁液であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】第1実施形態に係る微粒子分散液製造装置11の構成図である。
【図2】第1実施形態に係る微粒子分散液製造方法を説明するフローチャートである。
【図3】第1実施形態において用いられる容器30の第1変形例の構成図である。
【図4】第1実施形態において用いられる容器30の第2変形例の構成図である。
【図5】第2実施形態に係る微粒子分散液製造装置12の構成図である。
【図6】第2実施形態において用いられる振動手段の変形例を示す図である。
【図7】第3実施形態に係る微粒子分散液製造装置13の構成図である。
【図8】実施例1で得られたナノ粒子化シクロスポリンAのHPLCチャートである。
【図9】実施例1で得られたシクロスポリンAナノ粒子の粒子径分布を示す図である。
【図10】実施例1で得られたシクロスポリンAナノ粒子の電子顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0090】
1…残存物、2…水、11〜13…微粒子分散液製造装置、20…光照射部、21…レーザ光源、22…照射光制御部、30,30A,30B…容器、40…温度制御部、51…マグネティックスターラ、52…スターラ台、61…超音波プローブ、62…駆動部、63…超音波発生素子、70…容器、71…内部空間、72…流入路、73…流出路、74…上板、80…給水部、81…給水容器、82…温度制御部、83…給水ポンプ、84…給水管、90…回収部、91…排水管、L…レーザ光。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶性薬物および分散安定化剤を揮発性の有機溶媒に溶解させる溶解工程と、
この溶解工程において得られた溶解液に含まれる前記有機溶媒を蒸発除去し、当該有機溶媒除去により得られる残存物を容器の内壁に固定する固定工程と、
この固定工程の後に、前記容器の内部に水を注入し、前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させながら、前記容器の内壁に固定された前記残存物に対して光を照射して、前記難溶性薬物および前記分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造する照射工程と、
を備えることを特徴とする微粒子分散液製造方法。
【請求項2】
前記照射工程において、前記容器の内部に注入された水を撹拌することで、前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる、ことを特徴とする請求項1記載の微粒子分散液製造方法。
【請求項3】
前記照射工程において、前記容器の内部に注入された水を振動させることで、前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる、ことを特徴とする請求項1記載の微粒子分散液製造方法。
【請求項4】
前記照射工程において、前記容器の内部へ水を供給することで、前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる、ことを特徴とする請求項1記載の微粒子分散液製造方法。
【請求項5】
前記照射工程において、前記容器の内部に供給する水の温度を一定に維持する、ことを特徴とする請求項4記載の微粒子分散液製造方法。
【請求項6】
前記照射工程において、前記容器の内部で製造された微粒子分散液を前記容器とは別の回収容器に回収する、ことを特徴とする請求項4記載の微粒子分散液製造方法。
【請求項7】
前記照射工程において、前記容器の内部へ水の供給と気体の供給とを交互に行い、この気体の供給の際に前記微粒子分散液を前記回収容器に回収する、ことを特徴とする請求項6記載の微粒子分散液製造方法。
【請求項8】
難溶性薬物および分散安定化剤が揮発性の有機溶媒に溶解され、当該溶解液に含まれる前記有機溶媒が蒸発除去されることにより得られる残存物が内壁に固定され、内部に水が注入される容器と、
前記容器の内壁に固定された前記残存物に対して光を照射する光照射部と、
前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる流動手段と、
を備え、
前記流動手段により前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させ、前記光照射部により前記残存物に対して光を照射することにより、前記難溶性薬物および前記分散安定化剤を含む微粒子が水に分散された微粒子分散液を製造する、
ことを特徴とする微粒子分散液製造装置。
【請求項9】
前記流動手段が、前記容器の内部に注入された水を撹拌する撹拌手段を含み、この撹拌手段により前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる、ことを特徴とする請求項8記載の微粒子分散液製造装置。
【請求項10】
前記流動手段が、前記容器の内部に注入された水を振動させる振動手段を含む、この振動手段により前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる、ことを特徴とする請求項8記載の微粒子分散液製造装置。
【請求項11】
前記流動手段が、前記容器の内部へ水を供給する給水手段を含み、この給水手段により前記容器の内部の前記残存物と前記水との界面近傍において前記水を流動させる、ことを特徴とする請求項8記載の微粒子分散液製造装置。
【請求項12】
前記給水手段が、前記容器の内部に供給する水の温度を一定に維持する、ことを特徴とする請求項11記載の微粒子分散液製造装置。
【請求項13】
前記容器の内部で製造された微粒子分散液を回収する回収手段を更に備えることを特徴とする請求項11記載の微粒子分散液製造装置。
【請求項14】
前記容器の内部へ気体を供給する給気手段を更に備え、
前記給水手段による水の供給と前記給気手段による気体の供給とを交互に行って、
前記給気手段による気体の供給の際に前記回収手段により前記微粒子分散液を回収する、
ことを特徴とする請求項13記載の微粒子分散液製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−82855(P2009−82855A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257853(P2007−257853)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】