説明

微粒子担持多孔体の製造方法

【課題】 多孔体に微粒子を含浸する簡単な含浸法を用いながら、触媒や吸着剤のような機能性微粒子を繊維成形体などの多孔体内部に均一に担持させ、機能性微粒子の利用効率を高めることが可能な微粒子担持多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】 水に微粒子が分散した微粒子分散液を、繊維成形体のような多孔体に含浸させ、その多孔体を冷凍庫などで急速冷却して空隙内の水を凍結させた後、凍結している多孔体を熱風乾燥炉などを用いて80〜300℃で加熱乾燥する。多孔体に含浸した微粒子や水の重力沈降を抑制するため、含浸に用いる微粒子分散液の温度は5℃以下に制御することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維成形体などの多孔体中に触媒などの微粒子を均一に担持した微粒子担持多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、触媒や吸着剤などは、多孔体に担持して使用されることが多い。触媒や吸着剤などの機能性微粒子を多孔体に担持する方法の一つとして、無機繊維成形体などの多孔体に触媒や吸着などの機能を持つ微粒子の分散液を含浸させた後、加熱して乾燥することにより担持させる方法がある。
【0003】
しかし、このような従来の含浸法では、乾燥時に表面移行が起こるため、多孔体内で微粒子の均一な分布が得られない。即ち、微粒子分散液を多孔体に含浸させた後、そのまま熱風乾燥などにより乾燥すると、多孔体表面から水の蒸発が始まる。そして、多孔体表面の水分が減少し始めると、水分が多孔体内部から表面側に水の状態で移動して表面で蒸発し、最終的に全体が乾燥する。このとき、微粒子も水と共に多孔体の表面側に移動するため、微粒子が表面に濃縮される結果となる。
【0004】
この様な不均一な分布状態では、微粒子の機能が得られたとしても、微粒子の持つ大きな表面積を有効に活用できなくなるため、その活性を十分に引き出すことができない。また、触媒などの担体として多孔体を用いるのは比表面積が大きいからであり、多孔体内部の広大な表面に微粒子が均一に分散していなければ、多孔体のメリットが生かされない。従って、この様な不均一な分布状態で機能性微粒子の十分な性能を得るためには、機能性微粒子を過剰に担持することも可能であるが、その場合は製品がコスト高になるという問題がある。
【0005】
上記した微粒子の表面移行を防止する方法として、微粒子と水をゲル中に閉じ込めて微粒子が移動できない状態とし、水だけを蒸発させるゲル化法が知られている。例えば特開平01−242737号公報には、SiやAlなどのアルコキシドを加水分解し、これにゲル化剤を添加して短時間でゲル化するように調整した溶液を、繊維成形体の成形用バインダー(微粒子)として用いることことが記載されている。
【0006】
また、特開平04−059675号公報には、セラミック繊維及び/又はセラミックウィスカーを、ゲル化剤の溶液中に分散させたスラリーを調整し、このスラリーを加熱又は冷却することによってゲル化固化せしめ、得られたゲル体を乾燥した後、焼成する無機繊維質多孔材料の製造方法が記載されている。尚、上記のゲル化剤としては、寒天、ゼラチン、(NH)COのような塩基性塩などが知られている。
【0007】
しかしながら、微粒子をゲル化させるためには、ゲル化剤を添加するか、微粒子自体がゲル化できるものに制限されてしまう。また、ゲル化剤を添加する場合、通常のゲル化剤は有機物であるから、微粒子が有機物で覆われて活性が失われることを防ぐために、最終的に焼成して有機物を除去する必要がある。しかし、機能性微粒子の殆どは焼成により失活する(焼成温度に上限が存在する)ため、焼成工程は避けることが望ましい。また、ゲル化剤が無機物の場合でも、微粒子表面を無機物のゲルが覆うため性能を発揮できないことが多い。
【0008】
尚、多孔体として無機繊維成形体を用いる場合には、繊維成形体の成形と同時に、その成形体内に微粒子を保持させることも可能である。例えば、水に無機繊維とバインダーと共に微粒子を混合分散し、吸引成形などの手法により成形した後、乾燥又は焼成することによって、微粒子を担持した無機繊維成形体を得ることができる。しかしながら、この方法では形成用のバインダーを必要とするため、成形時にバインダーと共に微粒子を混合すると微粒子がバインダーに覆われてしまい、微粒子の機能が失われてしまう。
【0009】
【特許文献1】特開平01−242737号公報
【特許文献2】特開平04−059675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、内部空隙内に微粒子を担持した多孔体を製造するに際して、繊維成形体のような多孔体に微粒子を含浸する簡単な含浸法を用いながら、多孔体の内部に微粒子を均一に担持させることができ、機能性微粒子の場合その利用効率を高めることが可能な、微粒子担持多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明が提供する微粒子担持多孔体の製造方法は、内部空隙内に微粒子を担持した多孔体の製造方法であって、水に微粒子が分散している微粒子分散液を多孔体に含浸させ、この多孔体を急速冷却して空隙内の水を凍結させた後、凍結している多孔体を加熱乾燥することを特徴とする。
【0012】
上記本発明による微粒子担持多孔体の製造方法においては、前記水に微粒子が分散している微粒子分散液の温度を5℃以下に制御することが好ましく、また、前記凍結している多孔体は熱風乾燥炉にて80〜130℃で加熱乾燥することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な含浸法を用いながら、従来問題とされていた微粒子の表面移行をなくすことができ、微粒子を多孔体内部に均一に担持させた微粒子担持多孔体を得ることができる。しかも、従来のようにバインダーやゲル化剤などを添加する必要がなく、焼成工程も必要としないため、他の成分で微粒子の表面が覆われることがなくなり、均一な分散と相まって、微粒子の利用効率を高め、十分な機能を発揮することが可能となる。
【0014】
また、多孔体内で凍結している水を乾燥する際に、通常の熱風乾燥炉などに移して加熱乾燥すればよく、いわゆる凍結乾燥のように真空状態に保持して乾燥する必要はない。従って、真空にするためのポンプや真空室を備える必要がなく、設備費や動力費がかからないため、上記したバインダーやゲル化剤などを使用しないことと併せて、製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明方法においては、まず、含浸法により、水に分散した微粒子を多孔体に含浸させる。この水と微粒子が含浸した多孔体を凍結すると水だけが氷となり、微粒子は氷の結晶と結晶の間に追い出され、凝集して2次粒子となり粗大化する。このように凍結時に多孔体内部で凝集した粗大な2次粒子は、解凍後も2次粒子のままで1次粒子に戻らないため、後の加熱乾燥時に多孔体内部を移動できずに担持される。
【0016】
即ち、凍結した多孔体を加熱すると、多孔体内部の氷は融解するが、凝集した2次粒子は1次粒子に戻らない。そのため、多孔体内部の水は表面から蒸発し、それに伴って内部から水が表面側に移動(表面移行)していくが、凝集した2次粒子は粗大であるため移動できず、その場に保持される。その結果、多孔体の表面と内部とで微粒子の濃度分布がなくなり、均一に微粒子を担持することができる。尚、凝集した2次粒子の状態であっても、表面に濃縮された状態に比べ、はるかに粒子表面を利用し易い(有効表面積が広い)ことは言うまでもない。
【0017】
本発明方法について、更に具体的説明する。最初に、微粒子を水に加え、十分に撹拌混合することにより、含浸用の微粒子分散液を調製する。使用する微粒子については、種類、結晶構造、表面状態などに制限はなく、例えば、酸化チタンや貴金属などの触媒や、ゼオライトのような吸着剤など、各種の機能性微粒子を用いることができる。
【0018】
使用する微粒子の大きさは、多孔体の内部に水と共に進入できる大きさであることが必要であり、一般的には多孔体の空隙の大きさ(口径)の約6分の1以下であることが好ましい。微粒子が大き過ぎると、含浸時に多孔体表面でろ過され、多孔体内部に含浸することができない。また、原料微粒子が2次粒子を形成していても、水に分散したとき1次粒子となって多孔体に含浸できれば、原料微粒子中の2次粒子はどのような大きさでも良い。
【0019】
また、直ぐに沈降してしまう微粒子は、含浸した多孔体内で凍結前に沈降し、多孔体内で濃度分布が生じやすいため、含浸用として利用し難い。このような微粒子の場合には、分散剤や粘性調整剤などを添加して沈降を防止する必要がある。しかし、その場合には、添加した薬剤を除去するため低温での焼成工程が必要になるので、特に機能性微粒子を用いる場合には活性が失われないように注意を要する。また、微粒子が沈降する前に凝集できるよう、急速冷凍庫や液体窒素などを利用することもできる。
【0020】
次に、上記微粒子分散液に多孔体を浸漬して、多孔体に水と共に微粒子を含浸させる。使用する多孔体については、微粒子が空隙を通って内部に進入し得るものであれば特に制限されず、例えば無機繊維成形体やセラミックの多孔質焼成体、珪藻土焼成粒、多孔質の耐火レンガなどを用いることができる。また、多孔体の口径は上記したように微粒子の含浸に関連して重要であるが、無機繊維成形体では繊維径や密度の制御により、多孔質焼成体などでは気孔付与剤の使用などにより、いずれも口径を調整することが可能である。
【0021】
特に無機繊維成形体は、内部の繊維表面に多くの微粒子を担持でき、機能性微粒子を担持すれば性能を十分発揮させ得るため好ましい。無機繊維成形体の製造には、有機及び無機バインダーを添加すると共に、高温で焼成して高強度の無機繊維成形体とすることができる。しかし、この高温焼成時に、有機バインダーは消失してしまう。しかも、この無機繊維成形体に後から含浸される機能性微粒子は、バインダーで覆われることがなく、且つ高温にさらされることもないため、結晶構造が変化したり比表面積が低下したりすることがなく、従ってその活性が失われることがない。
【0022】
水と共に微粒子を含浸させた多孔体は、急速冷却して空隙内の水を凍結させる。含浸から凍結までの間、多孔体に含浸された微粒子分散液(含浸液)は、多孔体の間隙による毛管力で保持されるが、長く放置すると重力沈降により多孔体の下方に移動しやすい。そのため、含浸後の多孔体は直ちに冷凍装置に移し、急速冷却することにより、重力沈降が可能な時間が短くすることが好ましい。また、低温になるほど水の粘度は上昇するため、微粒子が分散している水の温度は低いほど好ましく、特に5℃以下に制御すれば重力沈降の抑制を図ることができる。
【0023】
その後、凍結している多孔体を加熱乾燥することにより、多孔体から水分を除去して、内部に微粒子を担持した多孔体を得ることができる。凍結している多孔体の加熱乾燥は、各種の加熱乾燥炉ないし加熱乾燥装置を用いることができるが、その中でも熱風乾燥炉の使用が好ましい。また、加熱温度については、80℃以上であれば効率的な乾燥が可能であり、300℃程度まで使用可能であるが、100℃程度までの温度であれば機能性微粒子の活性を失わせることがなく特に好ましい。
【実施例】
【0024】
水90kgに、機能性微粒子として酸化触媒のアナターゼ型酸化チタン(TiO:平均径0.5μm、比表面積100m/g)10kgを加え、一軸撹拌機を用いて十分に撹拌混合することにより、含浸用の微粒子分散液を調製した。
【0025】
一方、濃度20wt%のコロイダルシリカ25kgを添加した水5000kg(5m)を入れた配合槽に、アルミナシリカ繊維50kgを加えてスラリーを作製し、凝集剤を加えた後、成形型を用いて吸引して成形した。この成形体を更に脱水し、1200℃で焼成することにより、密度250kg/mの無機繊維成形体を得た。
【0026】
この無機繊維成形体を上記微粒子分散液に浸漬して、水と酸化チタン微粒子を含む微粒子分散液を無機繊維成形体に含浸させた。含浸後直ちに無機繊維成形体を冷凍庫に入れ、−20℃で24時間保持して凍結させた。凍結した無機繊維成形体を熱風乾燥炉に移し、120℃の熱風で24時間乾燥させた。
【0027】
得られた微粒子担持多孔体は、無機繊維成形体中にアナターゼ型酸化チタンを40%担持し、そのアナターゼ型酸化チタン粒子は10〜300μm程度の多孔質凝集体を形成していた。この微粒子担持多孔体は、酸化触媒を担持したフィルターとして有用であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空隙内に微粒子を担持した多孔体の製造方法であって、水に微粒子が分散している微粒子分散液を多孔体に含浸させ、この多孔体を急速冷却して空隙内の水を凍結させた後、凍結している多孔体を加熱乾燥することを特徴とする微粒子担持多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子分散液の温度を5℃以下に制御することを特徴とする、請求項1に記載の微粒子担持多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記凍結している多孔体を、熱風乾燥炉にて80〜300℃で加熱乾燥することを特徴とする、請求項1又は2に記載の微粒子担持多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記多孔体が無機繊維成形体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子担持多孔体の製造方法。

【公開番号】特開2008−284466(P2008−284466A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132292(P2007−132292)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】