説明

微粒子製造方法

【課題】 粒度の揃った多量の金属微粒子を得ることができる微粒子製造方法の提供。
【解決手段】 金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液に、平均粒子径が1nm以上10nm以下である種結晶を添加して、混合溶液を作製する混合溶液作製工程と、前記混合溶液を攪拌しながら、前記混合溶液にγ線を照射することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する微粒子作製工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する微粒子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粒子径が1μm以下であるナノ粒子(金属微粒子)は、そのサイズの微小さや表面積の大きさから、医療・診断分野やバイオテクノロジー分野や環境関連分野等への応用が期待されてきている。例えば、生体内に注入された異物は、生体防御機構によって排除されるが、ナノ粒子は異物であっても生体防御機構を回避でき、さらに血管壁を透過して組織や細胞内にも取り込まれるため、ドラッグデリバリーシステム(DDS)における薬剤や遺伝子のキャリアとして有望視されている。
【0003】
このようなナノ粒子の製造方法としては、例えば、γ線照射法や超音波を利用する方法等が開示されている(特許文献1参照)。このようなナノ粒子の製造方法では、Auイオン錯体(金属錯体)と、60mlの水(溶媒)と、ポリエチレングリコールモノステアラート(界面活性剤)とを含有する溶液に、60Coガンマ線やCイオンビームやパルス電子線を照射することにより、Au微粒子(金属微粒子)を作製している。このとき、所望の平均粒子径を有するAu微粒子を得るために、60Coガンマ線やCイオンビームやパルス電子線のいずれかを用いて、照射する線量率を調整している。図3は、Auイオン濃度が0.5mmol/lである溶液を用いた際に得られるAu微粒子の平均粒子径と線量率との関係を示すグラフである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−19162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高い線量率を示すパルス電子線やCイオンビームを使用した場合、多量(例えば、10mg以上)のAu微粒子を一度に得ることができず、特に、医療・診断分野において実用できる製造方法ではなかった。一方、低い線量率を示す60Coガンマ線を使用した場合、多量のAu微粒子を一度に得ることができるが、Au微粒子の粒子径がばらつくものであり、特に、医療・診断分野において実用できる性能を有するAu微粒子を作製することができなかった。このとき、Auイオン錯体(金属錯体)の濃度を高くしたときには、Au微粒子の粒子径がかなりばらつくもの(粒子径の標準偏差:13)であった。すなわち、金属微粒子は、医療・診断分野での活用が期待されているものの、従来のナノ粒子の製造方法では、解明されていない複雑なメカニズムを経るものと考えられ、粒度の揃った多量の金属微粒子を得ることができない問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本件発明者らは、上記課題を解決するために、金属微粒子を作製する微粒子製造方法について検討を行った。パルス電子線やCイオンビームを使用した場合、多量の金属微粒子を一度に得ることができないため、60Coガンマ線を使用し、金属微粒子の粒子径がばらつかないようにすることを考えた。まず、金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液を攪拌しながらγ線を照射した。その結果、金属イオン又は金属錯体が低い濃度(例えば、0.1mmol/l)であるときには、粒度の揃った金属微粒子を得ることができたが、金属イオン又は金属錯体が高い濃度(例えば、1mmol/l)であるときには、粒度の揃った金属微粒子を得ることができなかった。そこで、金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液に、平均粒子径が1nm以上10nm以下である種結晶を添加して、その後、攪拌しながらγ線を照射することにより、金属イオン又は金属錯体が高い濃度であっても、粒度の揃った金属微粒子を得ることができることを見出した。このとき、攪拌速度を変化させることによって金属微粒子の平均粒子径を制御できることも見出した。
【0007】
すなわち、本発明の金属微粒子製造方法は、金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液に、平均粒子径が1nm以上10nm以下である種結晶を添加して、混合溶液を作製する混合溶液作製工程と、前記混合溶液を攪拌しながら、前記混合溶液にγ線を照射することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する微粒子作製工程とを含むようにしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属微粒子製造方法によれば、粒度の揃った多量の金属微粒子を得ることができる。
【0009】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の金属微粒子製造方法は、前記溶液中における金属イオン又は金属錯体の濃度は、0.01mmol/l以上1mol/l以下であるようにしてもよい。
そして、本発明の金属微粒子製造方法は、前記種結晶は、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であるようにしてもよい。
【0010】
さらに、本発明の金属微粒子製造方法は、前記金属イオン又は金属錯体を構成する金属は、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であり、前記溶媒は、水であるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Auイオン濃度が0.1mmol/lである溶液を用いた際に得られるAu微粒子の平均粒子径と攪拌速度との関係を示すグラフである。
【図2】Auイオン濃度が1mmol/lである溶液を用いた際に得られるAu微粒子の平均粒子径と攪拌速度との関係を示すグラフである。
【図3】Auイオン濃度が0.5mmol/lである溶液を用いた際に得られるAu微粒子の平均粒子径と線量率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0013】
本発明に係る金属微粒子製造方法は、金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液に、平均粒子径が1nm以上10nm以下である種結晶を添加して、混合溶液を作製する混合溶液作製工程(A)と、混合溶液を攪拌しながら、混合溶液にγ線を照射することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する微粒子作製工程(B)とを含むことになる。
【0014】
(A)混合溶液作製工程
金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液に、平均粒子径が1nm以上10nm以下である種結晶を添加して、混合溶液を作製する。
上記溶媒としては、例えば、水、アルコール等が挙げられるが、水であることが好ましい。
上記金属イオン又は金属錯体を構成する金属としては、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、レニウム等が挙げられる。そして、溶液中における金属イオン又は金属錯体の濃度は、0.01mmol/l以上1mol/l以下であることが好ましく、特に本発明に係る金属微粒子製造方法では、金属イオン又は金属錯体が0.5mmol/l以上であるときにも、粒度の揃った多量の金属微粒子を得ることができる。
上記種結晶としては、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、レニウム等が挙げられる。そして、上記種結晶の大きさは、1nm以上2.5nm以下であることが好ましい。さらに、溶液中への種結晶の添加量は、4.8重量%以上33.3重量%以下であることが好ましい。
なお、溶液には、界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコールモノステアラート、ドデシル硫酸ナトリウム等)、水溶性高分子化合物(例えば、ポリビニルアルコール等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等)、ポリオール類(アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、グリセリン等)、カルボン酸類(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸等)等が含有されていてもよい。
【0015】
(B)微粒子作製工程
混合溶液を攪拌しながら、混合溶液にγ線を照射することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する。
γ線の照射は、アルゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気中で行われることが好ましく、γ線を照射する条件としては、例えば、照射時間30分以上7時間以下、線量率1.3kGy/h以上18kGy/h以下等が挙げられ、具体例として、放射線源として60Coガンマ線(γ線光量子のエネルギー:1.25MeV)を用いて、照射時間1時間以上7時間以下、線量率2.8kGy/hの条件で実施することが挙げられる。
このとき、攪拌の方法としては、例えば、攪拌速度を変化させる機能を有する(回転数を100rpm〜1500rpmから選択することが可能な)スターラを用いること等が挙げられる。
そして、所望の平均粒子径を有する金属微粒子を得るために、攪拌速度を変化させることにより調整することになる。例えば、攪拌速度を速くすればするほど、金属微粒子の平均粒子径を大きくしていくことができる。
【0016】
以上のように、本発明に係る微粒子製造方法によれば、粒度の揃った多量の金属微粒子を得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0018】
<実施例1>
(A)混合溶液作製工程
0.1mmol/lのテトラクロロ金酸ナトリウム2水和物(金属錯体)と、60mlの水(溶媒)と、0.4mmol/lのポリエチレングリコールモノステアラート(PEG、界面活性剤)とを含有する溶液を、アクリル製のバイアルビンに入れた。その後、平均粒子径が2nmである金の種結晶(seed)が33.3重量%となるように添加して、混合溶液を作製した。
【0019】
(B)微粒子作製工程
バイアルビンの内部に存在する空気を、アルゴンガスに置換した。そして、混合溶液をマグネチックスターラ(アズワン株式会社製、スターラ本体:型番「S−1A」、コントローラ:型番「CS−4」)で攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)として攪拌しながら、20℃で1.8時間、線量率2.8kGy/hの条件下で60Coガンマ線を照射することにより、実施例1に係るAu微粒子を作製した。
【0020】
<実施例2>
実施例1における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル4(回転数:600rpm)としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るAu微粒子を得た。
<実施例3>
実施例1における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル6(回転数:900rpm)としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るAu微粒子を得た。
<実施例4>
実施例1における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル10(回転数:1500rpm)としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るAu微粒子を得た。
【0021】
<実施例5>
(A)混合溶液作製工程
1mmol/lのテトラクロロ金酸ナトリウム2水和物(金属錯体)と、60mlの水(溶媒)と、0.4mmol/lのポリエチレングリコールモノステアラート(界面活性剤)とを含有する溶液を、アクリル製のバイアルビンに入れた。その後、平均粒子径が2nmである金の種結晶が4.8重量%となるように添加して、混合溶液を作製した。
【0022】
(B)微粒子作製工程
バイアルビンの内部に存在する空気を、アルゴンガスに置換した。そして、混合溶液をマグネチックスターラ(アズワン株式会社製、スターラ本体:型番「S−1A」、コントローラ:型番「CS−4」)で攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)として攪拌しながら、20℃で3.6時間、線量率2.8kGy/hの条件下で60Coガンマ線を照射することにより、実施例5に係るAu微粒子を作製した。
【0023】
<実施例6>
実施例5における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル4(回転数:600rpm)としたこと以外は実施例5と同様にして、実施例6に係るAu微粒子を得た。
<実施例7>
実施例5における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル6(回転数:900rpm)としたこと以外は実施例5と同様にして、実施例7に係るAu微粒子を得た。
<実施例8>
実施例5における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル10(回転数:1500rpm)としたこと以外は実施例5と同様にして、実施例8に係るAu微粒子を得た。
【0024】
<比較例1>
実施例1における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル0(回転数:0rpm)としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るAu微粒子を得た。
<比較例2>
実施例5における攪拌速度ダイヤル2(回転数:300rpm)とした代わりに、攪拌速度ダイヤル0(回転数:0rpm)としたこと以外は実施例5と同様にして、比較例2に係るAu微粒子を得た。
【0025】
<比較例3>
実施例1における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例3に係るAu微粒子を得た。
<比較例4>
実施例2における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、比較例4に係るAu微粒子を得た。
<比較例5>
実施例3における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例3と同様にして、比較例5に係るAu微粒子を得た。
<比較例6>
実施例4における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例4と同様にして、比較例6に係るAu微粒子を得た。
【0026】
<比較例7>
実施例5における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例5と同様にして、比較例7に係るAu微粒子を得た。
<比較例8>
実施例6における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例6と同様にして、比較例8に係るAu微粒子を得た。
<比較例9>
実施例7における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例7と同様にして、比較例9に係るAu微粒子を得た。
<比較例10>
実施例8における種結晶を添加しなかったこと以外は実施例8と同様にして、比較例10に係るAu微粒子を得た。
【0027】
<比較例11>
比較例1における種結晶を添加しなかったこと以外は比較例1と同様にして、比較例11に係るAu微粒子を得た。
<比較例12>
比較例2における種結晶を添加しなかったこと以外は比較例2と同様にして、比較例12に係るAu微粒子を得た。
【0028】
<評価>Au微粒子の平均粒子径と粒子径の標準偏差
実施例1〜8及び比較例1〜12に係るAu微粒子における平均粒子径と粒子径の標準偏差とを算出した。なお、標準偏差の合否は、5以下を「○」とし、5を超えると「×」とした。その結果を表1と図1と図2とに示す。
図1は、Auイオン濃度が0.1mmol/lである溶液を用いた際に得られるAu微粒子の平均粒子径と攪拌速度との関係を示すグラフあり、図2は、Auイオン濃度が1mmol/lである溶液を用いた際に得られるAu微粒子の平均粒子径と攪拌速度との関係を示すグラフである。なお、種結晶(seed)があるものを線で結ぶとともに、種結晶(seed)がないものを線で結んだ。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、実施例1〜8に係るAu微粒子は、標準偏差が5以内となって得られた。つまり、粒度の揃ったものであった。一方、比較例7〜10及び比較例12に係るAu微粒子は、標準偏差が6以上となって得られた。つまり、粒度が揃ったものでなかった。
また、図1と図2とに示すように、実施例1〜4を結んだ線は、なだらかな線になるとともに、実施例5〜8を結んだ線も、なだらかな線になった。一方、比較例3〜6を結んだ線は、なだらかな線にならないとともに、比較例7〜10を結んだ線も、なだらかな線にならなかった。
以上のように、Auイオン濃度が高い1mmol/lである溶液を用いても、粒度の揃った多量のAu微粒子を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する微粒子製造方法等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン又は金属錯体と溶媒とを含有する溶液に、平均粒子径が1nm以上10nm以下である種結晶を添加して、混合溶液を作製する混合溶液作製工程と、
前記混合溶液を攪拌しながら、前記混合溶液にγ線を照射することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下である金属微粒子を作製する微粒子作製工程とを含むことを特徴とする微粒子製造方法。
【請求項2】
前記溶液中における金属イオン又は金属錯体の濃度は、0.01mmol/l以上1mol/l以下であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子製造方法。
【請求項3】
前記種結晶は、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の微粒子製造方法。
【請求項4】
前記金属イオン又は金属錯体を構成する金属は、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であり、
前記溶媒は、水であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の微粒子製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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