説明

微粒蛍光体の製造方法

【課題】紫外線により緑色蛍光発光するナノサイズ蛍光体の効率のよい製造方法の提供。
【解決手段】紫外線により緑色蛍光発光するZnGeO:Mnで表される平均粒径1〜500nmの微粒蛍光体の製造方法であって、(1)ゲルマニウム化合物を水又はアルカリ水溶液に溶解又は分散させて、溶液又は分散液1を形成する工程、(2)亜鉛化合物及びマンガン化合物に溶解又は分散させて、溶液又は分散液2を形成する工程、及び(3)前記溶液又は分散液1、前記溶液又は分散液2及び多価アルコール又はその誘導体を混合し、加温下で反応させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線により緑色蛍光発光する式、Zn2GeO4:Mnで表されるナノサイズ蛍光体を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アート・装飾分野や、セキュリティ等の分野において、紫外線などの光エネルギーを照射することにより、緑色蛍光発光する無機蛍光体が種々使用されてきた。通常、緑色蛍光体粉末を塗料や、インキに配合し、目的物に塗装や、シルクスクリーン印刷が行なわれている。具体的には、アート・装飾分野では、テーマパークや、ホテル、地下道、列車などの壁や、天井に芸術家や、工芸塗装技術者などが、前記蛍光体含有塗料で装飾画等を描き、ブラックライト等で紫外線を照射することにより鮮やかな蛍光発色画を浮かび上がらせるものである。また、セキュリティ分野では、特殊使用法としてシルクスクリーン印刷が行われている。
【0003】
また、最近、インクジェット印刷技術の飛躍的進歩により、色鮮やかで高精細の屋内、屋外の広告看板、電飾看板が多く見られるようになっている。上記アート・装飾画、セキュリティの分野においても、このようなインクジェットを始めとする印刷技術で、高精細で耐久性のあるインビジブル印刷製品への期待が強まっている。
【0004】
しかしながら、このような用途には装置の構造上、1000nm以下、好ましくは500nm以下の極微細な無機蛍光体粒子が必要となるが、これまで、そのような用途に適する緑色蛍光発光する無機蛍光体は知られていなかった。通常、無機蛍光体は、乾式法(粉末冶金法)、即ち、原料の無機化合物粉末を混合した後、600℃〜千数百℃において焼成した後、物理的に粉砕することによって作られているが、このような乾式法(特許文献1)においては、一定以下の粒度に粉砕を行うことが困難であるとともに、たとえ微細粉砕できても、蛍光体の発光輝度が著しく低下するため、このような用途に使用することが出来なかった。
一方、似た組成の無機蛍光体であるZn2SiO4:Mn2+のナノサイズ化としてゾル−ゲル法(非特許文献1)があるが、少なくとも800℃以上の焼成が必要とされるので、焼結及び粒子成長が避けられず、粗大粒子が生じ易い欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−89692号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C. Cannas, M. Casu, A. Lai, G. Piccaluga, "XRD, TEM and 29Si MAS NMR study of Sol-Gel ZnO-SiO2 nanocomposites" J. Mater. Chem. 9, 1765-1769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術に鑑み、Zn2GeO4:Mnに代表される蛍光体であって、紫外線により緑色蛍光発光する微粒蛍光体を、焼成することなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、従来の技術について鋭意検討の結果、蛍光体を形成するための原料を、水中で反応させることにより、発光輝度の高い、微粒蛍光体が作製できることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、紫外線励起により緑色に蛍光発光する、式、Zn2GeO4:Mnで表される平均粒径1〜500nmの微粒蛍光体の製造方法であって、
(1) ゲルマニウム化合物を水又はアルカリ水溶液に溶解又は分散させて、溶液又は分散液1を形成する工程、
(2) 亜鉛化合物及びマンガン化合物を水に溶解又は分散させて、溶液又は分散液2を形成する工程、及び
(3) 前記溶液又は分散液1、前記溶液又は分散液2、及び多価アルコール又はその誘導体を混合し、反応させる工程、
からなることを特徴とする微粒蛍光体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特殊な装置を用いることなく、また、高温で焼成することなく、原料の無機化合物を水中で反応させることにより、高輝度蛍光体を効率よく製造することができる。また、本発明により製造した蛍光体は、500nm以下の均一な粒子径を有する微粒子であり、紫外線励起により緑色蛍光発光する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図2】実施例2で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【図3】実施例3で得られた微粒蛍光体の粒径分布の測定データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用されるゲルマニウム化合物としては、例えば、ゲルマニウムの水酸化物や、キレート化物(例えば、キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤や、ホスホン酸系キレート剤等が好適に挙げられる)、水素化ゲルマニウム、テトラメチルゲルマニウム、テトラエチルゲルマニウム、ハロゲン化物(例えば、塩化ゲルマニウム、臭化ゲルマニウム、沃化ゲルマニウム)、硫化ゲルマニウム、窒化ゲルマニウム、ゲルマニウム化物(例えば、ゲルマニウム化セシウム、ゲルマニウム化ナトリウム、ゲルマニウム化ルビジウム)、ゲルマニウム酸、ゲルマニウム酸塩(例えば、オルトゲルマニウム酸リチウム、メタゲルマニウム酸ナトリウム、
【0012】
二ゲルマニウム酸ナトリウム、四ゲルマニウム酸ナトリウム)、テルル化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム、ゲルマニウムイソプロポキシド、酸化ゲルマニウム、ゲルマニウム金属、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムイミド等を好適に挙げることができる。その中でも、テトラエトキシゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム、ゲルマニウムイソプロポキシド、酸化ゲルマニウム等を好適に挙げることができる。代表的なものとしては、酸化ゲルマニウム等が好適に挙げられる。
【0013】
亜鉛化合物としては、亜鉛元素それ自体や、その水素化物、ハロゲン化物及びハロゲノ錯塩(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、水酸化物、硫化物、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に挙げることができる。代表的なものとしては、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛等が好適に挙げられる。
【0014】
本発明で使用されるマンガン化合物としては、例えば、マンガンの水酸化物や、キレート物(例えば、キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤や、ホスホン酸系キレート剤等が好適に挙げられる)、酸化物、複酸化物、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、ハロゲン化物及び複ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)、チオシアン酸塩、硫化物等を好適に使用することができる。
【0015】
これらの代表例として、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩(例えば、カルボン酸としては、シュウ酸や、酢酸、安息香酸など)、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に挙げることができる。代表的なものとしては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、酸化マンガン、塩化マンガン等が好適に挙げられる。
【0016】
多価アルコール又はその誘導体としては、具体的にはエチレングリコールや、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールイソアミルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル、メトキシメトキシエタノール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールエステル類、エチレンクロルヒドリン、
【0017】
ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリグリコールジクロリド、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1−ブトキシエトキシプロパノール、プロピレングリコール誘導体、プロピレンクロルヒドリン、
【0018】
ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)誘導体、トリメチレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、グリセリルモノアセテート、グリセリルジアセテート、グリセリルトリアセテート、グリセリルモノブチレート、グリセリンエーテル、グリセリン−α,γ−ジクロルヒドリン、トリメチルプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールなどである。
本発明において特に好適に使用されるのは、エチレングリコールや、グリセリン、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
また、必要であれば多価アルコール又はその誘導体を2種以上使用することも出来る。この多価アルコール又はその誘導体を添加することにより、蛍光体の生成と粒子成長の制御に効果があり、また生成した微粒子蛍光体の分散安定性がよくなる効果がある。
【0020】
本発明の蛍光物質は、亜鉛化合物の結晶内に発光中心(賦活剤)であるMnが含有されることで紫外線などの励起源により発光するものと考えられる。また、賦活剤の発光を補助する補助賦活剤を加えることも可能である。補助賦活剤としては、例えば、Eu、Ce、Al、La、Tiなどの元素やその水酸化物や、キレート物(例えば、キレート化剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤や、ホスホン酸系キレート剤等が好適に挙げられる)、酸化物、複酸化物、酸素酸塩(例えば、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩など)、有機酸塩(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、フェノール塩、スルフィン酸塩、1,3−ジケトン形化合物の塩、チオフェノール塩、オキシム塩、芳香族スルホンアミドの塩、第一級及び第二級ニトロ化合物の塩など)、ハロゲン化物及び複ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、
【0021】
アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)、チオシアン酸塩、硫化物等を好適に使用することができる。これらの代表例として、硝酸塩や、硫酸塩、燐酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、バナジン酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩(例えば、カルボン酸としては、シュウ酸や、酢酸、安息香酸など)、ハロゲン化物(例えば、ハロゲンとしては、フッ素や、塩素、臭素など)、アルコキシド(例えば、炭素数が1〜15の、直鎖又は分岐を有するアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が好適に挙げられる)等を好適に挙げることができる。
【0022】
なお、理論により束縛されるものではないが、実験の観察によれば、本発明においてはゲルマニウム化合物と亜鉛化合物や、マンガン化合物が、水中で溶解又は分散し、多価アルコール又はその誘導体の存在下で、特にオートクレーブ処理を行うことにより、微粒蛍光体が合成されると考えられる。
従って、ゲルマニウム化合物と、亜鉛化合物や、マンガン化合物が、十分に水に溶解又は安定に分散する量とすることが必要である。
【0023】
溶液又は分散液1において、ゲルマニウム化合物は、一般に、水1質量部に対して、0.0001〜0.6質量部、好ましくは0.005〜0.5質量部の範囲とすることが好ましい。
ゲルマニウム化合物の添加量が0.0001質量部より少ないと、微粒蛍光体の製造効率が低下する傾向にある。また、0.6質量部より多いと、微粒蛍光体が凝集し、目的とする微粒蛍光体の均一な分散体を得にくい。
【0024】
アルカリ水溶液に使用する塩基性物質として、特に限定されるものではないが、アンモニア水、水酸化ナトリウム、炭酸ソーダ、アミン類などを使用することができる。添加量に関してはpH7以上の範囲となるように添加量を適宜加えることが出来る。なお、pH7未満となると発光輝度が低くなり、好ましくない。
溶液又は分散液2において、亜鉛化合物とマンガン化合物の合計量は、水1質量部に対して、0.0001〜3質量部、好ましくは0.001〜2質量部の範囲の量であることが好適である。
また、亜鉛化合物とマンガン化合物の配合割合は、発光輝度の高い微粒蛍光体を製造効率よく製造するために前記Zn1モルに対して、Mnが3モル以下、好ましくは、0.001〜2モルの範囲が好ましい。
【0025】
また、溶液又は分散液1中のゲルマニウム化合物と溶液又は分散液2中の亜鉛化合物、マンガン化合物の配合割合は、得られる微粒蛍光体の組成や、粒径等によりその配合比率を適宜変化させることが可能であるが、Zn1モルに対して、Geが0.05モル〜3.0モル、Mnが0.001モル〜3.0モルの範囲であることが好ましい。なお、Ge量が0.05モル未満となると、目的の蛍光体が得られにくくなる傾向にあり、3.0モルを超えても蛍光体としての輝度向上は見込まれない傾向にある。
本発明の方法においては、溶液又は分散液1と、溶液又は分散液2とを混合する(3)工程において、多価アルコール又はその誘導体を添加することにより蛍光体の生成を促進することができる。また、(3)工程において、多価アルコール又はその誘導体とともに水も添加してもよい。
【0026】
多価アルコール又はその誘導体の添加量は、例えば、反応系全体の水と多価アルコール又はその誘導体の質量比が、1〜99%:99〜1%となる程度であり、好ましくは、5〜80:95〜20である。水が1%より低いと反応系の分散状態が悪く、発光輝度の低い蛍光体が生成しやすく、水が99%より高くても発光輝度が低下してしまうため、目的の蛍光体を生成することが難しい。なお、多価アルコール又はその誘導体の一部を(2)工程の溶液又は分散液2に配合しておくことも可能である。
また、(3)工程において、ゲルマニウム化合物、亜鉛化合物、及びマンガン化合物の合計量と水の質量比は100:0.5〜800の範囲になることが適当である。
【0027】
本発明における(3)工程における反応は、オートクレーブ等の高温高圧装置内で行う。大気圧下でも反応は可能であるが、かなりの反応時間を要する。
加熱温度は、例えば、50〜400℃、好ましくは70〜300℃が適当である。加熱温度が50℃より低いと、微粒蛍光体の反応が著しく遅くなり易く、製造効率が低下する傾向にある。
このような加熱温度、加圧下での反応時間は、例えば、10分〜72時間であり、好ましくは、30分〜10時間で十分である。
【0028】
本発明においては、反応の際、分散安定性の向上のため、界面活性剤などの有機分散剤や、無機分散剤、高分子分散剤、分散安定に寄与するイオン(例えば、酢酸イオン)などを加えてもよい。また、必要に応じて酸化防止剤や、還元剤などの添加剤を加えることも可能である。
また、反応の際には、窒素ガス又はアルゴンガス雰囲気下で反応を行うことも可能である。反応系に対する酸素の混入を防止し、蛍光体の蛍光強度の低下、生成物の着色等、蛍光体の性能低下を防止することが可能である。
本発明は、攪拌装置を用いて水を攪拌しながら行うことが好ましい。このような攪拌装置を用いることで、反応系を均一とし、反応効率を上昇させることができ、微粒蛍光体の安定的な製造が可能となる。
【0029】
<微粒蛍光体の特性>
本発明により製造された微粒蛍光体は、平均粒径1〜500nmという、これまでの蛍光体よりも非常に小さな粒径を有する。従って、微粒蛍光体を塗料や、インクジェットプリンター用インク、フィルムなどのプラスチック成形材料の用途等、幅広い用途で使用することが可能となる。より高い分散安定性や可視光下透明性が要求される用途においては、100nm以下の微粒蛍光体を使用することが出来る。
また、前記微粒蛍光体は、紫外線を照射することにより、緑色蛍光発色するが、特に波長領域300〜400nmの近紫外線においても励起するため、ブラックライトや紫外線、LEDなどの光源でも蛍光発光させることが可能である。そのため、近紫外線発光の望ましいアート・装飾の分野や各種有価証券、ブランド品等の偽造防止に適している。
更に、当然のことではあるが、本発明の蛍光体は上記の用途に限定されることなく、蛍光灯や、LEDなどの照明、PDP、液晶、FEDなどのフラットパネル・ディスプレイ分野や紫外線を可視光に変換させる波長変換剤、太陽電池の発電効率向上材料としての用途などに使用することも可能である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例等により、本発明について更に詳細に説明するが、これらの実施例によって、本発明の範囲は、何ら限定されるものではない。
粒度分布についてはマルバーン社製のMalvern HPPSを使用した。この測定機械は、動的光散乱法にて粒度分布を測定する装置である。
【0031】
<実施例1>
500mlのフラスコに酸化ゲルマニウム 1.20g(11.5mmol)と、2M水酸化ナトリウム水溶液 2.5mlを加え、攪拌を行ない、アルカリ性の溶液1を調製した。
別途、酢酸亜鉛 1.076g(4.9mmol)、塩化マンガン 1.23g(9.8mmol)、水5ml、エチレングリコール15mlをはかりとり、溶解させて、溶液2を調製し、溶液1の入っている上記フラスコに添加し、撹拌を行った。この混合溶液に水2.5ml、エチレングリコール5mlを加え、アルゴンガスでバブリング10分行い、テフロンオートクレーブで200℃、2時間撹拌しながら反応を行った。
【0032】
その後、室温まで冷却し、やや黄みの白濁水分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvern HPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径45nmの均一な粒子であった(図1参照)。
この分散液に対し、365nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、緑色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、536nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、Zn2GeO4の回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置(ICPS−7510、島津製作所製)にて確認したところ、亜鉛、マンガン、ゲルマニウムの元素からなる化合物であることが確認できた。
【0033】
<実施例2>
500mlのフラスコフラスコに酸化ゲルマニウム 0.05g(0.5mmol)と、2M水酸化ナトリウム水溶液 2.5mlを加え、攪拌を行ない、アルカリ性の溶液1を調製した。
別途、酸化亜鉛 0.49g(6mmol)、酸化マンガン 0.007g(0.1mmol)、水10ml、エチレングリコール2mlをはかりとり、溶解させ、溶液2を調製し、溶液1の入っている上記フラスコに添加し、撹拌を行った。この混合溶液に水10ml、エチレングリコール5.5mlを加え、窒素ガスでバブリング5分行い、テフロンオートクレーブで150℃、5時間撹拌しながら反応を行った。
【0034】
その後、室温まで冷却し、やや黄みの白濁水分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvern HPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径92nmの均一な粒子であった(図2参照)。
この分散液に対し、365nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、緑色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、536nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、Zn2GeO4の回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置(ICPS−7510、島津製作所製)にて確認したところ、亜鉛、マンガン、ゲルマニウムの元素からなる化合物であることが確認できた。
【0035】
<実施例3>
500mlのフラスコに酸化ゲルマニウム 0.31g(3mmol)と、2M 水酸化ナトリウム水溶液 2.5mlを加え、攪拌を行ない、アルカリ性の溶液1を調製した。
別途、塩化亜鉛0.41g(3mmol)、酢酸マンガン0.09g(0.5mmol)、水2.5ml、ジエチレングリコール10mlをはかりとり、溶解させ、溶液2を調製し、溶液1の入っている上記フラスコに添加し、撹拌を行った。この混合溶液に水0.5ml、エチレングリコール14.5mlを加え、窒素ガスでバブリング10分行い、テフロンオートクレーブで250℃、7時間撹拌しながら反応を行った。
【0036】
その後、室温まで冷却し、やや黄みの白濁水分散液を得た。得られた分散液中の微粒物質をMalvern HPPS(マルバーン社製)で測定したところ、平均粒径36nmの均一な粒子であった(図3参照)。
この分散液に対し、365nmを主波長とする紫外線ランプを照射したところ、緑色の蛍光発色が確認できた。また、PL−250(日本分光社製)にて発光波長を確認したところ、536nmに発光波長のピークを確認できた。また、微粒子をX線回折装置(XRD-6100、島津製作所製)にて定性を行った結果、Zn2GeO4の回折データと一致した。また、ICP発光分光分析装置(ICPS−7510、島津製作所製)にて確認したところ、亜鉛、マンガン、ゲルマニウムの元素からなる化合物であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、紫外線により高輝度に緑色蛍光発光するナノサイズ蛍光体を効率よく製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線励起により緑色に蛍光発光する、式、Zn2GeO4:Mnで表される平均粒径1〜500nmの微粒蛍光体の製造方法であって、
(1) ゲルマニウム化合物を水又はアルカリ水溶液に溶解又は分散させて、溶液又は分散液1を調製する工程、
(2) 亜鉛化合物及びマンガン化合物を水に溶解又は分散させて、溶液又は分散液2を調製する工程、及び
(3) 前記溶液又は分散液1、前記溶液又は分散液2、及び多価アルコール又はその誘導体を混合し、反応させる工程、
からなることを特徴とする微粒蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記溶液又は分散液1及び2における、ゲルマニウム化合物、亜鉛化合物、及びマンガン化合物の配合割合が、Zn1モルに対して、Geが0.05〜3モル、Mnが 0.001〜3.0モルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(3)工程の反応をオートクレーブで50〜400℃の加温下で反応を行う、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記(3)工程で配合する多価アルコール又はその誘導体の一部を、前記(2)工程で配合する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記多価アルコール又はその誘導体が、ポリプロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコール及びジエチレングリコールからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140585(P2011−140585A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2755(P2010−2755)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000107158)シンロイヒ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】