説明

微細に分散された熱分解により製造された金属酸化物粒子の精製

微細に分散された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を水蒸気を用いて除去するための方法であって、金属酸化物粒子を直立カラムの上部に施与し、重力によって下方へ移動させ、水蒸気を塔の底端部で施与し、金属酸化物粒子と水蒸気とを向流で供給し、かつハロゲン化物残分不含の金属酸化物粒子を塔の底部で除去し、水蒸気及びハロゲン化物残分を塔の頂部で除去する方法において、カラムの下方部分と上方部分との温度差Tbottom−Ttopが少なくとも20℃であり、かつ500℃の最高温度がカラム内で優勢となるようにカラムを加熱し、かつ金属酸化物粒子が1秒〜30分のカラム内での滞留時間を有することを特徴とする、微細に分散された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を水蒸気を用いて除去するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細に分散されかつ熱分解により製造された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を除去するための方法を提供する。
【0002】
フレーム加水分解又はフレーム酸化により金属酸化物粒子を製造することは公知である。前記方法により製造された金属酸化物粒子は、通常、熱分解により製造された金属酸化物粒子と呼称される。一般に、金属ハロゲン化物、特に塩化物がそのための出発材料として使用される。これらは、反応条件下で金属酸化物とハロゲン化水素酸、通常は塩酸とに変換される。ハロゲン化水素酸の大部分が廃ガスの形で反応プロセスを去るが、幾分かは金属酸化物粒子に付着して残存するか又は金属酸化物粒子に直接結合する。脱酸工程において、水蒸気を用いて、付着するハロゲン化水素酸を金属酸化物粒子から除去するか、又は、金属酸化物に直接結合しているハロゲン原子をOH又はOHで置換することが可能である。
【0003】
DE1150955では、脱酸が流動床中で450℃〜800℃の温度で水蒸気の存在下で実施される方法が特許請求されている。前記方法では金属酸化物粒子及び水蒸気を並流又は向流で供給することができ、その際、並流での供給が有利である。脱酸のために必要とされる高い温度が前記方法の欠点の1つである。
【0004】
GB−A−1197271では微細に分散された金属酸化物粒子を精製するための方法が特許請求されており、その際、金属酸化物粒子及び水蒸気又は水蒸気及び空気は、流動床を形成しないようにカラムを向流で導通する。このようにして必要な脱酸温度を400〜600℃に低下させることができた。しかしながら、前記温度であってもまだ金属酸化物粒子に対して悪影響を示すことが認められた。
EP−B−709340では熱分解法二酸化ケイ素粉末を精製するための方法が特許請求されている。前記方法において、脱酸のために必要とされる温度はわずか250〜350℃である。前記方法において、金属酸化物粒子及び水蒸気は並流で直立カラムを底部から頂部へと導通して供給される。流動床を形成し得るためには、速度は1〜10cm/sの範囲内である。精製された二酸化ケイ素粉末をカラムの頂部で除去する。前記方法を、制御に関して増加した費用に結びつく流動床を存在させて実施しなければならないことが欠点の一つである。更に、精製された二酸化ケイ素粉末及び塩酸を塔の頂部で除去するという並流の手法を用いた場合、精製された二酸化ケイ素が塩酸で汚染され得るという危険性が常に存在する。
【0005】
本発明の課題は、先行技術の欠点が回避された、金属酸化物粒子からハロゲン化物残分を除去するための方法を提供することである。特に、前記方法は穏やかでかつ経済的であるべきである。
【0006】
本発明は、微細に分散された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を水蒸気を用いて除去するための方法であって、その際、金属酸化物粒子は加水分解又は酸化ガスによるハロゲン化物含有出発材料の反応により形成されており、
− ハロゲン化化合物の残分を含有する微細に分散された金属酸化物粒子を反応ガスと一緒に直立カラムの上部に施与し、重力によって下方へ移動させ、
− 場合により空気と混合された水蒸気を塔の底端部で施与し、
− ハロゲン化化合物の残分を含有する微細に分散された金属酸化物粒子と水蒸気とを向流で供給し、かつ
− ハロゲン化物残分不含の金属酸化物粒子を塔の底部で除去し、
− 水蒸気及びハロゲン化物残分を塔の頂部で除去する
方法において、
− カラムの下方部分と上方部分との温度差Tbottom−Ttopが少なくとも20℃であり、かつ500℃の最高温度がカラム内で優勢となるようにカラムを加熱し、かつ
− 金属酸化物粒子が1秒〜30分のカラム内での滞留時間を有する
ことを特徴とする、微細に分散された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を水蒸気を用いて除去するための方法を提供する。
【0007】
本発明の範囲内におけるハロゲン化化合物とは、一般にハロゲン化水素、特に塩酸である。ハロゲン化化合物には、ハロゲン化物原子又はハロゲン化物イオンが金属酸化物粒子に共有結合又はイオン結合又は物理吸着により結合しているものも含まれる。
【0008】
ハロゲン化物含有出発材料は、一般に相応する金属塩化物、例えば四塩化チタン、四塩化ケイ素又は四塩化アルミニウムである。しかしながら、これらは有機金属化合物、例えばクロロアルキルシランであってもよい。
【0009】
本発明の範囲内において、金属酸化物粒子とは、ハロゲン化物含有出発材料からフレーム加水分解又はフレーム酸化により得ることができるものであると解釈される。金属酸化物粒子とはメタロイド酸化物粒子であるとも解釈される。これらは:二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化ビスマス並びに上記化合物の混合酸化物である。金属酸化物粒子にはDE−A−19650500に記載されているようなドープされた酸化物粒子も含まれる。金属酸化物粒子とは、フレーム加水分解により得られ、かつシェル中に封入された金属酸化物粒子、例えばDE10260718.4、出願日2002年12月23日に記載されているような二酸化ケイ素中に包入された二酸化チタン粒子であるとも解釈される。上記の酸化物のうち、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び二酸化チタンが極めて重要である。
【0010】
粒子は微細に分散された形で存在する。これは、該粒子が一次粒子の凝集体の形で存在し、かつ通常5〜600m/gのBET表面積を有することを意味すると解釈される。
【0011】
反応ガスは使用されるガスと水蒸気との反応生成物であり、これはフレーム酸化又はフレーム加水分解による金属酸化物粒子の製造において形成されたものである。前記反応ガスはハロゲン化水素、水蒸気、二酸化炭素並びに未反応のガスであってよい。
【0012】
本発明による方法は有利に温度差Tbottom−Ttopが20℃〜150℃となるように実施されてよく、その際、50℃〜100℃の範囲内は特に有利である。
【0013】
温度Tbottomは、反応器の底端部の上方で、反応器の全高に対して10〜15%に位置する測定点で測定される。
【0014】
温度Ttopは、反応器の上端部の下方で、反応器の全高に対して10〜15%に位置する測定点で測定される。
本発明による方法は有利に、最高温度が150℃〜500℃となるように実施されてもよい。350℃〜450℃の範囲が一般に特に有利である。
【0015】
滞留時間は有利に5秒〜5分であってよく、カラムへ入る粒子流の温度は有利に約100℃〜250℃であってよい。
【0016】
導入される水蒸気の量は有利に、金属酸化物粒子1kg当たり毎時0.0025〜0.25kgであり、金属酸化物粒子1kg当たり毎時0.025〜0.1kgの範囲は特に有利である。100℃〜500℃の水蒸気温度が有利に選択され、その際、120℃〜200℃の範囲が特に有利である。
【0017】
水蒸気と一緒に空気をカラムに導入する場合、金属酸化物粒子1kg当たり毎時0.005〜0.2mの空気の量を選択するのが有利であることが判明し、その際、金属酸化物粒子1kg当たり毎時0.01〜0.1mの空気の範囲は特に有利である。
【0018】
該方法は、精製すべき二酸化ケイ素粉末と、場合により空気と一緒の水蒸気とが、流動床を形成するように実施されてよい。しかしながら、更に有利に、該方法は流動床が形成されないように実施されてよい。この場合、制御に関する費用が低減され、かつ、低温でかつ滞留時間が比較的短くても所望の精製度合いが達成される。この方法によって、流動床法を用いた場合にあり得る、水蒸気及び空気を伴った二酸化ケイ素粉末の排出も回避される。金属酸化物粒子をカラムの底部で除去した後、所望であれば、前記金属酸化物粒子を、最高温度が500℃を超えない少なくとも1つの他のカラムに導通させることができる。前記処置によって、付着するハロゲン化化合物の含分を更に低減させることができる。
【0019】
金属酸化物粒子及び水蒸気、及び場合により空気を並流又は向流で前記の他のカラムに供給することができる。
【0020】
二次カラム及び後続のカラムが、少なくとも5℃の、カラムの下方部分と上方部分との温度差Tbottom−Ttopを有することは有利である。
【0021】
図1により該方法を図解する。図1において:1=金属酸化物粒子の導入;2=水蒸気及び場合により空気の導入;3=金属酸化物粒子の排出;4=ガスの排出。
【実施例】
【0022】
実施例
実施例1(本発明による):
pH1.6、塩化物含分0.1質量%及び初期温度190℃を有する、二酸化ケイ素粉末(BET表面積200m/g)の粒子流100kg/hを、直立カラムの上方部分に導入する。温度120℃の水蒸気5kg/h及び空気4.5Nm/hをカラムの底部で導入する。カラムを内部加熱装置を用いて加熱し、カラムの上方領域の温度Ttopを350℃にし、カラムの下方領域の温度Tbottomを425℃にする。カラムを去った後(滞留時間:10秒)、二酸化ケイ素粉末はpH4.2、塩化物含分0.0018質量%及び粘度3110mPasを示す。
【0023】
実施例2(比較例):
実施例1と同様に行うが、但し温度Tbottomは680℃であり、Ttopは670℃である。
【0024】
実施例3(比較例):
二酸化ケイ素粉末(BET表面積200m/g、pH1.6、塩化物含分0.1質量%、初期温度190℃)の粒子流100kg/h及び水蒸気5kg/h及び空気4.5Nm/hを、直立カラムの底部で並流で導入する。カラムを内部加熱装置を用いて加熱し、カラムの上方領域の温度Ttopを350℃にし、カラムの下方領域の温度Tbottomを425℃にする。カラムを去った後(滞留時間:10秒)、二酸化ケイ素粉末はpH4.0、塩化物含分0.09質量%及び粘度2850mPasを示す。
【0025】
実施例4(本発明による):
実施例1と同様に実施するが、但し二酸化ケイ素粉末に代わって酸化アルミニウム粉末(BET表面積99m/g、pH1.7、塩化物含分0.6質量%、初期温度185℃)及び、温度160℃の水蒸気6kg/h及び空気5Nm/hを用いて実施する(滞留時間:150秒)。
【0026】
実施例5(本発明による):
実施例1と同様に実施するが、但し二酸化ケイ素粉末100kg/hに代わって二酸化チタン粉末(BET表面積46m/g、pH1.7、塩化物含分0.6質量%、初期温度172℃)200kg/h及び温度180℃の水蒸気12kg/h及び空気10Nm/hを用いて実施する(滞留時間:85秒)。Tbottomは400℃であった。
【0027】
実施例6(本発明による):
直立カラムの底部に、二酸化ケイ素粉末の蓄積のための制御可能なフラップが配置されている。pH1.6、塩化物含分0.1質量%及び初期温度190℃を有する、二酸化ケイ素粉末(BET表面積200m/g)の粒子流100kg/hを、カラムの上方部分に導入する。温度120℃の水蒸気5kg/h及び空気4.5Nm/hをカラムの底部で導入する。カラムを内部加熱装置を用いて加熱し、カラムの上方領域の温度Ttopを350℃にし、カラムの下方領域の温度Tbottomを425℃にする。カラムを去った後(滞留時間:10分)、二酸化ケイ素粉末はpH4.3、塩化物含分0.0010質量%及び粘度3070mPasを示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1、4及び5は、付着するハロゲン化物を本発明による方法を用いて効率的に除去できることを示す。
【0030】
実施例1及び2の比較により、より高温であるために実施例2においてハロゲン化物残分の同等の効率的な精製が可能であったが、比較的高い温度は増粘作用に対して悪影響を及ぼすことが判明した。相応して、実施例1において得られた粉末は3110mPasの増粘作用を示し、実施例2の粉末は2750mPasの増粘作用を示すに過ぎないことが判明した。実施例3は実施例1と比較してハロゲン化物残分のより低度の除去を示し、かつ粉末はより低い増粘作用を示す。
【0031】
増粘作用は以下の方法により測定される:二酸化ケイ素粉末7.5gを22℃の温度で、1300+/−100mPasの粘度を有するスチレン中の不飽和ポリエステル樹脂の溶液142.5g中に導入し、分散を3000min−1で溶解機を用いて実施する。適当な不飽和ポリエステル樹脂の例はBASF社製のLudopal(登録商標)P6である。分散液60gに、スチレン中の不飽和ポリエステル樹脂を更に90g添加し、その後分散操作を繰り返す。増粘作用は、2.7s−1の剪断速度で回転粘度計を用いて測定された25℃での分散液のmPasでの粘度値である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による方法を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0033】
I 金属酸化物粒子の導入、 II 水蒸気及び場合により空気の導入、 III 金属酸化物粒子の排出、 IV ガスの排出

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細に分散された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を水蒸気を用いて除去するための方法であって、その際、金属酸化物粒子は加水分解又は酸化ガスによるハロゲン化物含有出発材料の反応により形成されており、
− ハロゲン化化合物の残分を含有する微細に分散された金属酸化物粒子を反応ガスと一緒に直立カラムの上部に施与し、重力によって下方へ移動させ、
− 場合により空気と混合された水蒸気を塔の底端部で施与し、
− ハロゲン化化合物の残分を含有する微細に分散された金属酸化物粒子と水蒸気とを向流で供給し、かつ
− ハロゲン化物残分不含の金属酸化物粒子を塔の底部で除去し、
− 水蒸気及びハロゲン化物残分を塔の頂部で除去する
方法において、
− カラムの下方部分と上方部分との温度差Tbottom−Ttopが少なくとも20℃であり、かつ500℃の最高温度がカラム内で優勢となるようにカラムを加熱し、かつ
− 金属酸化物粒子が1秒〜30分のカラム内での滞留時間を有する
ことを特徴とする、微細に分散された金属酸化物粒子に付着するハロゲン化化合物を水蒸気を用いて除去するための方法。
【請求項2】
温度差Tbottom−Ttopが20℃〜150℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
カラム内の最高温度が150℃〜500℃である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
滞留時間が5秒〜5分である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
カラムに入る水蒸気内の金属酸化物粒子が約100〜500℃の温度を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
導入される水蒸気の量が、金属酸化物粒子1kg当たり毎時0.0025〜0.25kgである、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
水蒸気と混合された空気の量が、金属酸化物粒子1kg当たり毎時0.005〜0.2mである、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
金属酸化物粒子をカラムの底部で除去した後、前記金属酸化物粒子を、最高温度が500℃を超えない少なくとも1つの他のカラムに導通させる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
金属酸化物粒子と水蒸気とを並流又は向流で他のカラムに供給する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
二次カラム及び後続のカラムが、少なくとも5℃の、カラムの下方部分と上方部分との温度差Tbottom−Ttopを有する、請求項8又は9記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−502766(P2007−502766A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523536(P2006−523536)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006718
【国際公開番号】WO2005/019107
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(501073862)デグサ アクチエンゲゼルシャフト (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa AG
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】