説明

微細気泡発生方法、および微細気泡発生装置等

【課題】微細気泡発生装置において、用途などに応じた最適な気泡径や数密度の微細気泡を発生させること。
【解決手段】加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部13に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させ、微細気泡を発生させる際に、縮流部の気体溶解水の流速を変化させ、水中の微細気泡の径と数密度の少なくともいずれか一方を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体溶解水から溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる、微細気泡発生装置と微細気泡発生方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
直径が0.1−100μm程度の微細気泡は、比表面積が大きく、内部圧力が高く、吸着性があるなどの特徴を有することから、浄化作用、生理活性、抗力低減などの様々な効果が期待され、その応用に向けて検討が進められている。
【0003】
たとえば、浴槽内の湯水中に上記微細気泡を発生させて白濁させ、牛乳風呂のような趣を与えるとともに、肌の保湿効果などの温泉に匹敵する入浴の効能を得ることがこれまでに行われている。
【0004】
特許文献1に記載された微細気泡発生装置では、循環ポンプの作動によって浴槽内から吸い込んだ湯水を噴霧ノズルから気液溶解タンク内に噴霧し、気液溶解タンク内で貯留している空気および外部から取り込んだ空気と混合して気液溶解浴水を生成する。そして、生成した気液溶解浴水を浴槽に向けて排出し、気液溶解浴水が減圧弁を通過する際に、圧力を開放させ、湯水に加圧溶解していた空気の膨張によって微細気泡を発生させる。
【0005】
このような微細気泡発生装置に関し、液体のキャビテーションを利用して微細気泡を発生させ、ポンプの消費エネルギー量を低減させる微細気泡発生器が特許文献2に記載されている。
【0006】
特許文献2に記載された微細気泡発生器は、大管径部と、小管径部とを備え、小管径部の端面および内周面が微細気泡発生器の縦断面において角部を形成し、小管径部の端面が大管径部の大径流路に接触しているものである。この微細気泡発生器では、小管径部の小径流路に導入された液体の流速が、流路断面積の急激な縮小にともない急激に上昇し、その結果、液体の静圧が低下するため、小さな動力でもキャビテーションを発生させることができる。また、液体には、上記角部への衝突にともない、渦が発生し、液体の圧力は角部の近傍において最も低くなり、キャビテーションが発生しやすくなる。
【0007】
したがって、上記微細気泡発生器は、高圧かつ大流量の液体を吐出するポンプを用いなくともキャビテーションを発生させることができ、ポンプの消費エネルギー量の低減を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−329100号公報
【特許文献2】特開2008−23515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
微細気泡発生装置には、用途などに応じて気泡の大きさや数を調整することも望まれているが、特許文献2に記載された微細気泡発生器では、気泡径や数を調整することまで考慮されていない。微細気泡の用途などに応じた微細気泡の発生を調整することが改善点として要求される。
【0010】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、用途などに応じた最適な気泡径や数密度の微細気泡を発生させることができる、微細気泡発生方法と微細気泡発生装置、および気泡径や数密度の調整方法や設計方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、加圧溶解方式の微細気泡発生装置において減圧により微細気泡を発生させる場合について鋭意検討を加えた結果、微細気泡を発生させる微細気泡発生部内の流路を流れる気体溶解水の流速を変化させることによって、微細気泡の径と数密度を調整することができるとの知見を得、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、上記の課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0013】
第1の発明は、微細気泡発生方法に関し、加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させ、微細気泡を発生させる微細気泡発生方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を変化させ、水中の微細気泡の径と数密度の少なくともいずれか一方を調整することを特徴としている。
【0014】
第2の発明は、上記第1の発明の特徴において、縮流部において変化させる気液溶解水の流速は、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲内であることを特徴としている。
【0015】
第3の発明は、上記第1または第2の発明の特徴において、縮流部または導入部の断面積を変化させ、縮流部の気体溶解水の流速を変化させることを特徴としている。
【0016】
第4の発明は、気泡径の調整方法に関し、加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における気泡径の調整方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を変化させて気体溶解水中の微細気泡の径を調整することを特徴としている。
【0017】
第5の発明は、微細気泡の数密度の調整方法に関し、加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における微細気泡の数密度の調整方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を変化させて水中の微細気泡の数密度を調整することを特徴としている。
【0018】
第6の発明は、気泡径の設定方法に関し、加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における気泡径の設定方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を調整することにより水中の微細気泡の径を設定することを特徴としている。
【0019】
第7の発明は、微細気泡の数密度の設定方法に関し、加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における微細気泡の数密度の設定方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を調整することにより水中の微細気泡の数密度を設定することを特徴としている。
【0020】
第8の発明は、微細気泡発生装置に関し、加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成する気体溶解部と、気体溶解部に水を供給するポンプと、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成され、導入部から縮流部に気体溶解水を供給することにより気体溶解水が減圧されて気体溶解水中の溶存気体を析出させ、微細気泡を発生させる微細気泡発生部とを備えた微細気泡発生装置であって、微細気泡発生部内の縮流部を流れる気体溶解水の流速を変化させる流速調整手段が設けられていることを特徴としている。
【0021】
第9の発明は、上記第8の発明の特徴において、流速調整手段において変化させる気液溶解水の縮流部の流速は、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲内であることを特徴としている。
【0022】
第10の発明は、上記第8または第9の発明の特徴において、流速調整手段は、縮流部または導入部の断面積を変化させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
上記第1の発明によれば、縮流部の気体溶解水の流速を変化させるので、流速に応じた気泡径や数密度の微細気泡が発生し、用途などに応じた最適な微細気泡を発生させることができる。
【0024】
上記第2の発明によれば、縮流部の流速が、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲内とされているので、より確実に流速に応じた気泡径や数密度の微細気泡を発生させることができる。
【0025】
上記第3の発明によれば、上記第1または第2の発明の効果に加え、縮流部または導入部の流路の断面積を変化させて縮流部の気体溶解水の流速を変化させるので、ポンプの吐出圧を一定としても、微細気泡の気泡径や数密度を変化させることができ、ポンプの消費エネルギー量を低減させることができる。
【0026】
上記第4の発明によれば、縮流部の気体溶解水の流速を変化させるので、流速に応じた気泡径の微細気泡が発生し、用途などに応じた最適な気泡径の微細気泡を発生させるように調整することができる。
【0027】
上記第5の発明によれば、縮流部の気体溶解水の流速を変化させるので、流速に応じた数密度の微細気泡が発生し、用途などに応じた最適な数密度の微細気泡を発生させるように調整することができる。
【0028】
上記第6の発明によれば、縮流部の気体溶解水の流速を調整するので、流速に応じた所望の気泡径の微細気泡を発生させることができ、用途などに応じた最適な気泡径の微細気泡を設定することができる。
【0029】
上記第7の発明によれば、縮流部の気体溶解水の流速を調整するので、流速に応じた所望の数密度の微細気泡を発生させることができ、用途などに応じた最適な数密度の微細気泡を設定することができる。
【0030】
上記第8の発明によれば、微細気泡発生部内の縮流部を流れる気体溶解水の流速を変化させる流速調整手段が設けられているので、流速に応じた気泡径や数密度の微細気泡が発生し、用途などに応じた最適な微細気泡を発生させることができる。
【0031】
上記第9の発明によれば、流速調整手段において変化させる縮流部の流速が、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲内とされているので、より確実に流速に応じた気泡径や数密度の微細気泡を発生させることができる。また、キャビテーションが確実に発生するため、微細気泡を十分な量で確実に発生させることもできる。
【0032】
上記第10の発明によれば、上記第8または第9の発明の効果に加え、流速調整手段は、縮流部または導入部の断面積を変化させるので、気体溶解水の流速の制御を容易に行うことができる。また、流速調整手段の設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の微細気泡発生装置と微細気泡発生方法等の一実施形態を示した構成図である。
【図2】本発明の微細気泡発生装置と微細気泡発生方法等における原理をモデル化して示した図である。
【図3】気体溶解水の流速の変化と微細気泡径の関係を示したグラフである。
【図4】気体溶解水の流速の変化と微細気泡の数密度の関係を示したグラフである。
【図5】微細気泡の初生流速、最小微細気泡径のときの流速および気泡数密度飽和のときの流速の水温変化を示したグラフである。
【図6】気体溶解水の流速の変化と微細気泡の発生状況の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上記のとおり、図1は、本発明の微細気泡発生装置、微細気泡発生方法、気泡径の調整方法、微細気泡の数密度の調整方法、気泡径の設計方法、および微細気泡の数密度の設定方法の一実施形態を示した構成図である。
【0035】
本実施形態は、浴槽内の湯水に微細気泡を発生させる微細気泡発生浴槽として具体的に実現したものである。
【0036】
微細気泡発生装置1としての微細気泡発生浴槽1aにおいて、湯水2を貯留する浴槽3は、側面部に湯水の吸込口4と吐出口5を備えている。浴槽3は、また、上面部を形成するフランジ部6に空気吸込口7を備えている。浴槽3の吸込口4は、配水管8を介してポンプ9の吸い込み側9aに接続されている。ポンプ9の吐出側9bは、流入管10を介して、微細気泡発生装置1における気体溶解部11としての気体溶解装置110の吸い込み側110aに接続されている。気体溶解装置110の吐出側110bは、流出管12を介して微細気泡発生部13に接続され、微細気泡発生部13は、配水管14を介して吐出口5に接続されている。空気吸込口7は、空気配管15を介して流入管10に連通している。空気配管15の途中には逆止弁16が設けられている。
【0037】
微細気泡発生浴槽1aにおいて微細気泡発生部13は、図2にモデル化して示したように、導入部13aと、導入部13aより断面積が小さい縮流部13bが接続して形成されている。また、微細気泡発生部13には、図1に示したように、流速調整手段17を構成する調整弁18が配設されている。導入部13aと縮流部13bの接続部分は、縮流部13bの端面が外側に開いた角部13cを形成し、キャビテーションが発生しやすいようになっている。調整弁18は、微細気泡発生部13内の縮流部13bまたは導入部13aの断面積を変化させるものあり、開度が大きいと流路の断面積が大きく、開度が小さいと流路の断面積は小さくなる。調整弁18には、その開度を調整する制御手段19が付設されており、制御手段19は、調整弁18とともに流速制御手段17を構成している。制御手段19には、電気信号にしたがう自動制御方式または水栓などのような手動制御方式が採用可能である。
【0038】
微細気泡発生浴槽1aでは、ポンプ9の作動によって浴槽3内の湯水2を吸込口4から吸い込み、配水管8および流入管10を通じて気体溶解装置110に送り出す。湯水2は、吸い込み側110aから気体溶解装置110に備えたタンク内に噴出し、タンク内に貯留していた空気や空気吸込口7から吸い込まれる浴室内の空気と混合され、湯水2中に空気が溶解して気体溶解水が生成する。所定の濃度に空気が溶解した気体溶解水は、吐出側110bから流出し、流出管12に送り出される。縮流部13bを通過すると、圧力が低下し、飽和水蒸気圧以下でキャビテーションが発生し、気体溶解水中の溶存気体が沸騰現象によって析出し、微細気泡が発生する。そして、発生した微細気泡は、湯水2とともに配水管14を流れ、吐出口5を通じて浴槽3内に吐出し、浴槽3内に貯留する湯水2と混合される。
【0039】
浴槽3内の湯水2は、ポンプ9の作動によって循環し、この循環が繰り返されて浴槽3内の湯水2の微細気泡量が増加し、浴槽3内の湯水2は微細気泡によって白濁し、牛乳風呂のような趣を与える。
【0040】
微細気泡発生浴槽1aに採用することのできるポンプ9および気体溶解装置110は特に制限はない。たとえば、遠心ポンプがポンプ9として例示される。また、気体溶解装置110には、水に空気を溶解させることができる限り、任意のものが採用可能である。
【0041】
さらに、微細気泡発生浴槽1aにおいて吸込口4と吐出口5は、単一のノズルユニットなどとして組み込み、浴槽2の壁部に取り付けることができる。この場合、後述する調整弁18の開度の制御は、ノズルユニットの開口面積の変化として実現される。
【0042】
そして、微細気泡発生浴槽1aにおいて、調整弁18および制御手段19から構成される流速調整手段17は、微細気泡発生部13内の縮流部13bを流れる気体溶解水の流速を変化させる。具体的には、流速調整手段17は、微細気泡発生部13内の縮流部13bまたは導入部13aの断面積を変化させることによって、その流路を流れる気体溶解水の流速を遅くしたり、速くしたりする。調整弁18は、その開度が制御手段19によって制御され、たとえば縮流部13b側の断面積を変化させるように設けられた場合は、開度が小さいとき、縮流部13bの断面積が小さくなり、その結果、縮流部13b内の気体溶解水の流速が速くなり、縮流部13bを流れる気体溶解水の流速が速くなる。このように流速が速くなると、微細気泡の発生量が多くなり、湯水2中の微細気泡の数密度が増大する。一方、調整弁18の開度が大きいとき、縮流部13bの断面積が大きくなり、その結果、縮流部13b内の気体溶解水の流速は遅くなる。流速が遅くなると、湯水2中の微細気泡の径は小さくなり、湯水2中の浮遊時間が長くなる。
【0043】
調整弁18が、導入部13a側の断面積を変化させるよう設けられた場合は、開度が小さいとき、導入部13aの断面積が小さくなり、導入部13aの気体溶解水の流速が同じ場合は、縮流部13b内の気体溶解水の流速が遅くなる。流速が遅くなると、湯水2中の微細気泡の径は小さくなり、湯水2中の浮遊時間が長くなる。一方、調整弁18の開度が大きいとき、導入部13aの断面積が大きくなり、その結果、縮流部13b内の気体溶解水の流速は速くなる。流速が速くなると、微細気泡の発生量が多くなり、湯水2中の微細気泡の数密度が増大する。
【0044】
なお、縮流部13bにおける気体溶解水の流速の変化は、微細気泡発生部13に気体溶解水を供給するポンプ9の出力を制御することにより行うこともできる。この場合、微細気泡の径を小さくし、水中の浮遊時間を長くしたい場合には、ポンプ9の出力を低下させて流速を遅くし、水中の微細気泡の径を大きくしたい場合には、ポンプ9の出力を増加させて流速を速くする。このようにして、気泡径を調整することができる。
【0045】
以上の気体溶解水の流速の変化にともなう微細気泡の径および数密度の変化は、以下のとおりの実験的検証と解析に基づいている。
【0046】
図3、図4に、実験により得られた気体溶解水の流速の変化と微細気泡径の関係、気体溶解水の流速の変化と微細気泡の数密度の関係をそれぞれ示した。これらの関係は、導入部13aの断面積とポンプ9の流量は一定とし、縮流部13bの断面積を変えることによって縮流部13bの流速を変化させて実験した結果である。また、図中の3本のグラフは、気体溶解量が異なる場合の評価結果である。なお、図3において、微細気泡径は、ザウタ平均気泡径を用いている。
【0047】
図3に示したように、縮流部13bの流速u2が10.5−12m/sでは、流速の上昇にともない、微細気泡径が急激に減少する。その後、12m/sでほぼ最小となり、12.5m/sより速くなると、微細気泡径は緩やかに増加する。また、図4に示したように、流速u2が10.5−11m/sでは数密度は極端に低いが、11−13m/sでは、流速の上昇にともない、数密度は急激に増加し、13m/sを超えるとほぼ一定になる。
【0048】
これらの実験結果から、縮流部13bの気体溶解水の流速u2の調整範囲は、11−13m/s、好ましくは11.5−13m/sの範囲内とするのが適当であると考えられる。すなわち、図3および図4に示したように、上記流速範囲内において気泡径の増減が可能であり、11.5−12.5m/sの低速の場合には、微細気泡の径は小さくなり、微細気泡の浮遊時間を長くすることができる。12.5m/s以上の高速の場合には、微細気泡の径は大きくすることができ、また、微細気泡の発生量が多くなり、微細気泡の数密度が増大する。このような結果を微細気泡発生装置の設計に応用し、気体溶解水の流速を調整することによって、所望の径や数密度の微細気泡を発生させることのできる微細気泡発生装置を実現することができる。
【0049】
また、縮流部13bにおける気体溶解水の流動状態を高速度ビデオカメラを用いて撮影し、キャビテーションの発生について確認した結果を図6に示した。
【0050】
流速u2が11m/sの場合、流路にキャビテーションが発生する。一方、キャビテーションの領域は比較的小さく、流路入口を占めている割合も比較的小さい。また、下流側で析出している微細気泡の量も比較的少ない。
【0051】
流速u2が11.5、12、12.5m/sの場合、流速の上昇にともないキャビテーション領域が拡大し、流路入口を占める割合も増加する。下流側で析出している微細気泡の量も増加する。
【0052】
流速u2が13m/sの場合、キャビテーション領域がほぼ全体を占めるとともに、流路入口のほぼ全体を気体で占めている。下流側で析出する微細気泡の量はかなり多い。一方、キャビテーション領域の拡大はほぼ飽和するとともに、流路内には水蒸気で満たされた空洞が形成し、この空洞の下流端部でちぎれた気泡が微細気泡として流路から吐出されるスーパーキャビテーションが発生した。
【0053】
したがって、流路を流れる気体溶解水の流速の変化範囲として適当であると考えられる11−13m/sは、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲に対応している。
【0054】
このように、微細気泡発生部13内の縮流部13bまたは導入部13aの断面積を変化させて流速を変化させることが可能な調整弁18を用いると、気体溶解部13に水を供給するポンプ9の出力を制御せずに、たとえば、ポンプ9の吐出圧を一定としても、縮流部13bの気体溶解水の流速を変化させることができる。微細気泡の径を小さくし、水中の浮遊時間を長くしたい場合には、縮流部13bを流れる気体溶解水の流速を遅くし、水中の微細気泡の径を大きくしたい場合や微細気泡の数密度を増やしたい場合には、縮流部13bを流れる気体溶解水の流速を速くする。したがって、微細気泡の用途などに応じた最適な微細気泡の発生に調整することが、ポンプ9の出力を制御せずに行うことができ、ポンプ9の消費エネルギー量をより低減させることができる。その結果として、気体溶解装置110などの気体溶解部11に備えるタンクの大きさも用途に合わせて設計することが可能となり、微細気泡発生浴槽1aなどでは、タンクの小型化も推進する。
【0055】
以下、本発明の原理について図2を参照して説明する。
【0056】
図2において、符号A1、A2は、気体溶解水の流路の断面積を示している。また、図2図中に示した他の符号および以下の数式におけるパラメータは、次のとおりである。
【0057】
P1:導入部13aの圧力
P2:縮流部13bの圧力
Pv:飽和水蒸気圧
u1:導入部13aの流速
u2:縮流部13bの流速
ρ :密度
ベルヌーイの定理(p+1/2ρu+ρgh=const.)より、
P1+1/2ρu1=P2+1/2ρu2 (1)
P1−P2=1/2ρ(u2−u1) (2)
一方、微細気泡が生成するための条件として、圧力が飽和水蒸気圧以下になり、キャビテーションが発生するときを考慮すると、
(P1−Pv)/(P1−P2)≦1 (3)
式(2)(3)より、
(P1−Pv)/(1/2ρu2)≦1 (4)
式(4)の左辺で表される値はキャビテーション係数Cvであり、キャビテーションの発生しやすさを表す係数である。Cvが大きいほどキャビテーションが発生しやすいことを表す。特にキャビテーションが発生しやすい場合、Cvは1以上の値となる。
【0058】
式(4)より、Cvは、縮流部の気体溶解水の流速u2を変更することにより変化することがわかる。
【0059】
また、質量保存の関係より、
u1=(A2/A1)u2 (5)
したがって、
Cv=(P1−Pv)/(1/2ρ(1−(A2/A1))u2) (6)
式(6)より、
u2=((P1−Pv)/(Cv×ρ/2×(1−(A2/A1))))(1/2) (7)
また、キャビテーションを発生する条件は、A1>>A2、すなわち(A2/A1)<<1であるため、
u2=((P1−Pv)/(Cv×ρ/2))(1/2) (8)
実験より、水温25℃のとき、微細気泡の初生流速、微細気泡径が最小となる流速および気泡の数密度が飽和する流速は、それぞれ、11、12.5、13m/sであることが確認されている。これらの結果から微細気泡の初生流速、微細気泡径が最小となる流速および気泡の数密度が飽和する流速のキャビテーション係数Cvを算出すると、微細気泡の初生するときのCv、微細気泡径が最小となるときのCvおよび気泡の数密度が飽和するときのCvは、順に1.627、1.367、1.165となる。このキャビテーション係数Cvと導入部13aの圧力条件P1に基づき、微細気泡発生の流速条件は、式(8)より以下の式で示すことができる。
【0060】
微細気泡の初生流速:u2=((P1−Pv)/(1.627×ρ/2))(1/2)
最小微細気泡径のときの流速:u2=((P1−Pv)/(1.367×ρ/2))(1/2)
気泡数密度飽和のときの流速:u2=((P1−Pv)/(1.165×ρ/2))(1/2)
各水温における飽和蒸気圧から上記流速を算出した結果を図5に示した。微細気泡の初生流速の曲線と、気泡数密度飽和のときの流速の曲線の間の流速範囲で、縮流部13bの気体溶解水の流速を変化させると、水中の微細気泡の径と数密度の少なくともいずれか一方を調整することが可能となる。
【0061】
なお、本発明は、図1に示した微細気泡発生浴槽に限定されることはない。微細気泡の用途に応じた各種機器において実現することが可能である。また、流速調整手段は、図1に示した調整弁および制御手段から構成される以外に、たとえばベンチュリなどとして構成することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 微細気泡発生装置
9 ポンプ
11 気体溶解部
13 微細気泡発生部
13a 導入部
13b 縮流部
17 流速調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させ、微細気泡を発生させる微細気泡発生方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を変化させ、水中の微細気泡の径と数密度の少なくともいずれか一方を調整することを特徴とする微細気泡発生方法。
【請求項2】
流速を変化させる気液溶解水の縮流部の流速は、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の微細気泡発生方法。
【請求項3】
縮流部または導入部の流路の断面積を変化させて縮流部の気体溶解水の流速を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の微細気泡発生方法。
【請求項4】
加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における気泡径の調整方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を変化させて水中の微細気泡の径を調整することを特徴とする気泡径の調整方法。
【請求項5】
加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における微細気泡の数密度の調整方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を変化させて水中の微細気泡の数密度を調整することを特徴とする微細気泡の数密度の調整方法。
【請求項6】
加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における気泡径の設定方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を調整することにより水中の微細気泡の径を設定することを特徴とする気泡径の設定方法。
【請求項7】
加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成した後、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成された微細気泡発生部に気体溶解水を供給し、気体溶解水が減圧されることにより気体溶解水中の溶存気体を析出させて微細気泡を発生させる微細気泡発生装置における微細気泡の数密度の設定方法であって、縮流部の気体溶解水の流速を調整することにより、水中の微細気泡の数密度を設定することを特徴とする微細気泡の数密度の設定方法。
【請求項8】
加圧条件下で水に気体を溶解させ、気体溶解水を生成する気体溶解部と、気体溶解部に水を供給するポンプと、導入部と導入部より断面積が小さい縮流部が接続して形成され、導入部から縮流部に気体溶解水を供給することにより気体溶解水が減圧されて気体溶解水中の溶存気体を析出させ、微細気泡を発生させる微細気泡発生部とを備えた微細気泡発生装置であって、微細気泡発生部内の縮流部を流れる気体溶解水の流速を変化させる流速調整手段が設けられていることを特徴とする微細気泡発生装置。
【請求項9】
流速調整手段において変化させる気液溶解水の縮流部の流速は、キャビテーションが発生する最下限の流速以上、スーパーキャビテーションが発生する最下限の流速未満の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の微細気泡発生装置。
【請求項10】
流速調整手段は、縮流部または導入部の断面積を変化させることを特徴とする請求項8または9に記載の微細気泡発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−31190(P2011−31190A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180769(P2009−180769)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】