説明

微細炭素繊維分散液の製造方法

【課題】微細炭素繊維のより安定かつ良好な分散液を効率よく製造する、微細炭素繊維分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に分散させた微細炭素繊維分散液の製造方法であって、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0に保持することを特徴とする微細炭素分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブに代表される微細炭素繊維分散液の製造方法に関するものである。特に、均一かつ安定な微細炭素繊維分散液を調製することにより、カーボンナノチューブの特性を活かして、例えば、各種物質表面への導電性被膜、帯電防止被膜、電磁波制御性被膜、高硬度ないし耐摩耗性被膜、着色被膜等の各種機能性被膜を良好な特性をもって形成することに応用可能、あるいは、マトリックス材となる各種物質へカーボンナノチューブを均一分散配合することに応用可能な、微細炭素繊維分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が開発されている。
【0003】
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、各種の用途において、種々の材料に、このような微細炭素繊維を均一かつ安定に、分散配合等することにより、前記したような物性を生かすことができれば、有望な導電性ないし制電性材料となり得る。さらに、導電性ないし制電性といった面に限られず、着色性、物理的強度、化学的安定性、その他の面においても貢献することができ、多方面での応用用途が期待されるものである。
【0004】
しかしながら、一方で、このようなCNT、特に単層カーボンナノチューブは、構成原子が全て表面原子であるため、隣接するCNT間のファンデルワールス力による凝集が生じやすく、生成時点で既に、複数本のCNTから成る強い凝集(バンドル)構造が形成されてしまうことが知られている。従って、これをそのまま使用すると、分散媒体中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。このため樹脂等の皮膜形成成分に導電性等の所定の特性を発揮させようとする場合には、かなりの添加量を必要とするものであった。
【0005】
このような微細炭素繊維の分散性を改良するための技術としても、種々の研究が進められており、例えば、(1)微細炭素繊維を超音波、各種撹拌装置等の物理的処理によって分散媒体に分散させる方法(例えば、特許文献1等)、(2)微細炭素繊維を化学修飾して分散液を得る方法(例えば、特許文献2等)、(3)カーボンナノチューブを界面活性剤等の各種分散剤を用いて分散させる方法(例えば、特許文献3参照)等各種のものが報告されている。
【特許文献1】特開2004−256964号公報
【特許文献2】特開2006−265151号公報
【特許文献3】特開2005−263608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したような従来の方法によっては、十分に良好かつ安定な分散性を有するCNT分散液は得られていない。すなわち、(1)の方法においては、良好な分散性を得ようとすると、CNTに高いせん断力が加わり、CNTの構造を必要以上に破壊してしまう結果となる。
【0007】
また、(2)の方法においては、CNTが安定な物質であるために、化学修飾すること自体が困難で、期待される程の分散性の向上は望めず、また、化学修飾を行うことで、CNTの特性を変化させてしまうという問題もある。
【0008】
また、(3)の方法では、CNTに対し良好な分散性を付与する分散剤が従来知られておらず、さらに(3)の方法において(1)の方法を併用した場合においては、CNTの分散性を高めようと長時間の分散処理を行った場合には、かえって分散性が悪くなってしまうといった現象が生じてしまったり、また、CNTの配合量が多い場合には、分散剤の量を高めても、良好な分散性が得られず界面活性剤による泡立ちの問題が生じたり、上記したようなCNTの構造破壊の問題が起こるものであった。
【0009】
したがって、本発明は、微細炭素繊維のより安定かつ良好な分散液を効率よく製造する、微細炭素繊維分散液の製造方法およびこれにより得られた微細炭素繊維分散液を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に分散させた微細炭素繊維分散液の製造方法であって、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0に保持することを特徴とする微細炭素分散液の製造方法である。
【0011】
本発明はまた、前記両親媒性物質が、両性イオン界面活性剤である微細炭素繊維分散液の製造方法を示すものである。
【0012】
本発明はさらに、前記分散工程において、メディアミルを用いることを特徴とする微細炭素繊維分散液の製造方法を示すものである。
【0013】
本発明はさらにまた、前記メディアミルを用いて分散処理を行うに先立ち、回転撹拌により予備混合を行うことを特徴とする微細炭素繊維分散液の製造方法を示すものである。
【0014】
本発明はまた、両親媒性物質を含有する水溶液がさらに水溶性ポリオール類を含有するものであることを特徴とする微細炭素繊維分散液の製造方法を示すものである。
【0015】
上記課題を解決する本発明はまた、微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に分散させた微細炭素繊維分散液であって、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0に保持することで得られることを特徴とする微細炭素分散液である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、極めて効率的にかつ安定して均一な微細炭素繊維分散液を調製することができるので、得られた微細炭素繊維分散液を、導電性被膜、帯電防止被膜、電磁波制御性被膜、高硬度ないし耐摩耗性被膜、着色被膜等の各種機能性被膜の形成、あるいは、マトリックス材となる各種物質へ微細炭素繊維の配合に適用した場合、微細炭素繊維が均一かつ単分散化された製品を得ることができ、微細炭素繊維が本来有する優れた、導電性、制電性、着色性、物理的強度、化学的安定性等の特性を最大限に発揮した、高機能、高性能の製品を製造することが可能となり、各種の産業分野、医療分野、その他の分野において、大きな貢献を図ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
本発明は、微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に分散させた微細炭素繊維分散液の製造方法であって、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0、よりより好ましくは5.0〜7.0、さらに好ましくは5.5〜6.5に保持することを特徴とするものである。
【0019】
ここで、本発明の炭素分散液の製造方法において、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを上記所定の範囲内に保持することは、次のような理由によるものである。
【0020】
すなわち、まず、CNT等の微細炭素繊維は、その単繊維、すなわち、一次粒子として考慮した場合、例えば、カーボンブラック等の一次粒径がより大きな物質と比較して、そのアスペクト比から、非常に大きな比表面積を有する。
【0021】
一方で、CNT等の微細炭素繊維は、自己凝集性の非常に高いため、通常、一次粒子状態では存在せず、多くが凝集体(二次粒子)として存在する。
【0022】
従って、このような微細炭素繊維の分散液を調製しようとした場合、両親媒性物質の化学的作用のみではその凝集状態を解くのに十分ではなく、撹拌処理などにより物理的にせん断力を加え、一旦その凝集を解く必要がある。
【0023】
ここで、分散処理当初においては微細炭素繊維同士が凝集体を形成しているために見掛け上の比表面積はある程度低いものであるが、分散処理が進み、撹拌処理によって凝集体が解されてくると、微細炭素繊維はその本来の非常に大きな比表面積という特性を表わし、これを分散媒体中で分散状態を維持する上で、当該微細炭素繊維へと付着するないしは当該微細炭素繊維と分散媒体との界面に配置される両親媒性物質分子の量が多く必要とされるようになる。
【0024】
さらに、撹拌処理においては、凝集が解される一方で微細炭素繊維自体の破断も避けられず、破断面が形成される結果、分散系内に存在する微細炭素繊維の比表面積は、分散処理時間の経過と共に、さらに増大することとなる。
【0025】
このように微細炭素繊維の分散処理にあっては、分散質である微細炭素繊維が、両親媒性物質のモル濃度のバランスに与える影響が非常に大きい。
【0026】
加えて、撹拌処理によって生じる微細炭素繊維の破断面には、−COOH、−OHといった活性な官能基が多数出現することとなり、分散系のイオンバランスの不均衡化を進めることとなる。
【0027】
このように、分散処理時間の経過と共に、分散系内におけるCNTの比表面積の増大、およびイオンバランスの不均衡化が進むため、分散処理当初において分散媒中の両親媒性物質濃度を所定のものとし、かつこの両親媒性物質が有効に働くような所定のpH値に設定していたとしても、微細炭素繊維を分散維持させることが困難となってしまう。
【0028】
本発明においては、この点を考慮し、これらの状態を見るパラメータとしてpH値に着目し、分散処理期間を通じて分散媒となる水溶液のpH値を所定のものに維持することで、極めて効率的にかつ安定して均一なCNT分散液を調製することを可能としたものである。
【0029】
次に、本発明に係る微細炭素繊維の製造方法において用いられる各材料および製造条件につき、より詳細に説明する。
(微細炭素繊維)
本発明の微細炭素繊維分散液の製造方法において、分散対象となる微細炭素繊維としては、特に限定されるものではないが、主として、炭素の六員環配列構造を有する構造体であって、この構造体の三次元のディメンションのうち少なくとも1つの寸法がナノメートルの領域にある、たとえば、数〜数100nm程度のオーダーを有する、ものが代表的なものである。
【0030】
この炭素の六員環配列構造としては、代表的には、シート状のグラファイト(グラフェンシート)を例示することができ、さらには、たとえば、炭素の六員環に五員環もしくは七員環が組み合わされた構造等をも含むことができる。
【0031】
より具体的には、例えば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーンなどが例示される。さらに、このカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン等や、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル等も包含される。これらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。また、本発明においては、このような微細炭素繊維を粉砕処理したものも用いることができる。
【0032】
これら、微細炭素繊維の製造方法としては、触媒金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学分解させ、生成炉内の微細炭素繊維核、中間生成物及び生成物である繊維の滞留時間を短くして繊維(以下、中間体又は第1の中間体という)を得た上で、高温熱処理することが、好ましい微細炭素繊維を製造する好適な方法である。
【0033】
これらの微細炭素繊維を得るため、具体的には、触媒の遷移金属または遷移金属化合物および硫黄または硫黄化合物の混合物と、原料炭化水素を雰囲気ガスとともに300℃以上に加熱してガス化して生成炉に入れ、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲の一定温度で加熱して触媒金属の微粒子生成の改善と炭化水素の分解により微細炭素繊維を合成する。生成した炭素繊維(中間体又は第1の中間体)は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0034】
次に、中間体(第1の中間体)を圧縮成形することなく、粉体のままで1段または2段で高温熱処理する。1段で行う場合は、中間体を雰囲気ガスとともに熱処理炉に送り、まず800〜1200℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除き、その後2400〜3000℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)で繊維の多層構造の形成を改善すると同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去し、精製された微細炭素繊維を得る。
【0035】
高温熱処理を2段で行う場合は、第1の中間体を雰囲気ガスとともに800〜1200℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱保持された第1の熱処理炉に送り、未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除いた微細炭素繊維(以下、第2の中間体という。)を得る。次に、第2の中間体を第2の2400〜3000℃の範囲の温度(好ましくは一定温度)に加熱保持された第2の熱処理炉に雰囲気ガスとともに送り、繊維の多層構造の形成を改善すると同時に触媒金属を蒸発させて除去し、精製微細炭素繊維とする。第2の熱処理炉における第2の中間体の加熱時間が、5〜25分、前記第2の加熱炉において、前記第2の中間体の嵩密度が5〜20kg/m未満、好ましくは5kg/m以上、15kg/m未満となるように調整することが望ましい。中間体の嵩密度が5kg/m未満であると、粉体の流動性が悪く熱処理効率が低下するためであり、中間体の嵩密度が20kg/m以上であると熱処理効率は良いが、樹脂混合時の分散性が悪いためである。
【0036】
また、生成炉は、縦型、高温熱処理炉は縦型でも横型でもよいが、中間体を降下させることができる縦型が望ましい。
【0037】
以上の製法において、原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリオム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0038】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0039】
以上の製法によれば、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した構造の繊維状物質において、筒を構成するシートが多角形の軸直交断面を有し、該断面の最大径が15〜100nmであり、アスペクト比が10以下で、ラマン分光分析で514nmにて測定されるI/Iが0.1以下である微細炭素繊維を得ることができる。
【0040】
この微細炭素繊維によれば、ラマン分光分析にて検出されるDバンドが小さくグラフェンシート内の欠陥が少ない微細炭素繊維を得ることができ、また、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、積層方向および炭素繊維を構成するグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上し、結果、凝集し難く、分散剤として用いる用途において、好ましい微細炭素繊維を得ることができる。
【0041】
なお、本発明に用いられる微細炭素繊維として更に好ましい微細炭素繊維としては、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものが挙げられる。
【0042】
この炭素繊維構造体を得るにおいては、上記した製法に加え、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが望まれる。なお、ここで述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0043】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、上記した炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0044】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元的な構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0045】
この炭素繊維構造体によれば、再分散用炭素繊維集合塊を得るにおいて、疎な構造を有したまま、分散媒体中に存在せしめることができるため、分散媒体中における炭素繊維構造体の単分散化が容易となる。
【0046】
(分散媒)
上記したような微細炭素繊維を分散させるために、後述するような両親媒性物質を含有する水溶液中を調製する上で使用する水としては、市水、工業用水、脱イオン水、蒸留水等を用いることができるが、分散液のpH値を安定に所定範囲とする上で、脱イオン水、蒸留水を用いることが望ましく、さらに経済的見地から脱イオン水を用いることが可能である。
【0047】
なお本発明において用いられる水溶液中には、分散媒としての機能を大きく阻害しない範囲において、必要に応じて、ハイドレート(水和安定剤)を配合することは可能ではある。水和安定剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールといったC〜C程度の低級アルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセロール、パンテノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の水溶性ポリオール類、アルキルエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アルキルエーテル、アルキルエーテルエトキシレート、アルキルエトキシレート、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類等を例示することができる。
【0048】
使用する両親媒性物質の種類等によっても左右されるが、これらの水混和性の有機溶媒のうち、水溶性ポリオール類、特にグリセロールは、水溶液中に配合されることによって、分散化された微細炭素繊維の分散安定性を向上させ得るものであるため、実施形態によっては、これを添加することが好ましい。なお、その配合量としては、特に限定されるものではなく、また、使用される両親媒性物質の種類および量、分散させようとする微細炭素繊維の種類および量等によっても左右されるが、例えば、使用される界面活性剤100質量部に対し、ポリオール0.01〜30質量部、特に好ましくは0.2〜10質量部程度である。
【0049】
(両親媒性物質)
本発明において用いられる両親媒性物質としては、特に限定されるものではなく、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤等の公知の各種の界面活性剤、さらに、分子中に親水基(ないしは親水団)および疎水基(ないし疎水団)を有するその他の各種化合物を使用することが可能である。
【0050】
陰イオン界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などを例示することができる。
【0051】
陽イオン界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩などを例示することができる。
【0052】
両性イオン界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、2−メタクロイルオキシホスホリルコリン(MPC)のポリマーやポリペプチドなどの両性イオン高分子、3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)−プロパンスルホネート、3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(N,N−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルフォネート(CHAPS)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート(CHAPSO)、n−ドデシル−N,N'−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−ヘキサデシル−N,N'−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリン、ジメチルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタイン及びN,N−ビス(3−D−グルコナミドプロピル)−コラミド、レシチンなどを例示することができる。
【0053】
非イオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどを例示することができる。
【0054】
分散させようとする微細炭素繊維の種類等によっても左右されるが、上記したような本発明に係る所定のpH値においても、安定に界面活性作用を発揮し得るものであるとの点から、一般的には、このうち、特に、両性イオン界面活性剤を用いることが好ましい。両性イオン界面活性剤としては、上記に例示したもののうち、特に、3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(N,N−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネート、n−ドデシル−N,N'−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−ヘキサデシル−N,N'−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、ジメチルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタインなどが好ましく用いられる。
【0055】
なお、一般に両性イオン界面活性剤は、使用される系のpH値にあまり影響されることなく、界面活性作用を有するものであると言われているが、本発明者が研究を行った上においては、微細炭素繊維の分散処理に関しては、このような両性イオン界面活性剤を用いた場合であっても、分散系のpH値の変動によって、微細炭素繊維の分散性にかなりの差異が生じることが判明しており、この点から上述したように分散処理工程において分散液のpH値を所定の範囲内に保持することが極めて重要であるとの結論に達したものである。
【0056】
本発明において使用される水溶液中に配合される、両親媒性物質の量としては、特に限定されるものではないが、分散させようとする微細炭素繊維に対して、分散処理期間を通して、臨界ミセル濃度(cmc)以上の量であることが望ましい。ここで上記したように、微細炭素繊維の分散処理においては、微細炭素繊維が凝集状態にある初期段階と、分散処理がある程度進み、撹拌により微細炭素繊維の凝集状態が解され、かつ微細炭素繊維が破断された状態とでは、見掛け上での比表面積が大きく変動し、かつ−COOH、−OHといった活性な官能基が生じることでイオンバランスも変動することから、分散系における臨界ミセル濃度は、分散処理の進行に伴ってかなり変動(増大)する。
【0057】
このため、予め、これらの点を考慮して、水溶液中に配合される両親媒性物質の量は、決定すべきであり、また、必要に応じて、分散処理の途中で、両親媒性物質を追添する等の処理を行うことも可能である。
【0058】
なお、使用される両親媒性物質の種類および分散させようとする微細炭素繊維の種類等によっても左右されるために、一概には規定できないが、最終的に得られる微細炭素繊維分散液において、例えば、微細炭素繊維100質量部に対し、両親媒性物質0.1〜50質量部、好ましくは0.2〜30質量部程度の使用量となることが望ましい。両親媒性物質の使用量が極端に少ないと良好な分散性は得られず、一方その使用量が極端に多いと経済的でないのみならず、過剰な両親媒性物質が微細炭素繊維に付着することによって、微細炭素繊維の特性を劣化させてしまう虞れがあるためである。
【0059】
(分散処理工程)
本発明においては、上記したような微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に撹拌等によりせん断力を加えながら分散させるものであるが、この際の撹拌方法としては、特に限定されるものではなく、従来、公知の各種の方法を単独であるいは複数組み合わせて、採択することが可能である。例えば、自動式ないし手動式のシェイカー、マグネティックスターラー、超音波振動子、その他、パドルおよびブレード等の各種攪拌子を備えた攪拌機、ビーズミル等のメディアミル、スタティックミキサー等の静止型撹拌機等を用いることが挙げられるが、このうち特に、メディアミルを用いて分散処理を行うことが望ましい。メディアミルは、微細炭素繊維凝集体に対し、均一かつ良好にせん断力を加えることができ、微細炭素繊維凝集体の解砕および分散化を効率よく行えるためである。
【0060】
本発明において分散処理に用いられ得るメディアミルは構造としては、特に限定されるものではなく、各種の撹拌子形状を有する公知のメディアミルが適用できる。具体的には、各種公知のビーズミル、アトライター、サンドミルなどが挙げられる。
【0061】
メディアミルに用いるビーズの粒子径としては、あまりに小さすぎると、カーボンナノ構造体が微細に破断されてしまう虞れがあり、また、ビーズの持つ運動エネルギーが小さくなり、分散が進行しない恐れがある。また、取り扱いが困難となるため、ビーズの平均直径が、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることが特に好ましい。一方、ビーズが大きすぎると、単位体積あたりのビーズ個数が少なくなるため、微細炭素繊維の凝集体の解砕が不十分となり分散効率が低下する虞れがある。このため、ビーズの平均直径が、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることが特に好ましい。
【0062】
メディアミルに用いられる分散メディアとしてのビーズの材質は、分散系中に含まれる微細炭素繊維、両親媒性物質、水等に対して不活性なものである限り特に限定されるものではなく、例えば、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス、鋼、クロム鋼などの金属、ガラスなどを例示することができるが、このうち、製品中の不純物の存在、また、比重に起因する運動エネルギーの大きさ等を考慮すると、ジルコニアビーズを用いることが好ましい。
【0063】
ビーズの形状も特に限定されるものではないが、一般的には球形状のものが使用される。
【0064】
なお、メディアミルのベッセルに対するビーズの充填割合はベッセルや撹拌子の形態等によって決定すればよく、特に限定されるものではないが、その割合が低すぎると微細炭素繊維に対し十分なせん断作用を発揮できなくなる虞れがある。一方、その割合が高すぎると、回転に大きな駆動力を必要とし、またビーズの磨耗による被処理媒体の汚染の増大を引き起こす虞れがある。このため、ビーズの充填割合は、例えば、ベッセルの有効容積の70〜85容積%程度とすることが望ましい。
【0065】
さらに、本発明の好ましい実施形態においては、このようなメディアミルを用いた分散処理を行うに先立ち、回転撹拌により予備混合を行うことが望ましい。これは、微細炭素繊維の配合割合によっては、分散処理当初の分散系の粘度が高くなりすぎ、メディアミルで良好に分散処理を行い得ない状態となるためである。
【0066】
このような予備混合の際の回転撹拌方法としては、具体的には、人の労力に撹拌する方法(手ごね)、ドラム等の容器の回転ないし振とうによる方法、抵抗面積の少ないパドルおよびブレード等の各種攪拌子を用いての低速撹拌などを例示することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0067】
このような予備混合は、特に限定されるものではないが、粉体状態にある微細炭素繊維と両親媒性物質を含有する水溶液とが混じり合い、混合系がペーストゾル化して流動性を得るものとなるまで行うことが望ましい。このようにペーストゾル化させることで、各微細炭素繊維の周辺部に分散媒と両親媒性物質が均一に分布されることとなり、その後さらに分散処理を行う過程で系全体で均一な撹拌を行うことが容易となるためである。
【0068】
なお、本発明者が実際に研究実験を行った際には、分散処理において、局所的に過大なせん断力が加わる等して、一部においてでも系のバランスが崩れてしまうと、その部分において急激に分散の安定性が維持できなくなり、これがその他の部分に急速に伝播して、結局、系全体の分散安定性が壊れ、凝集化する現象が観察されており、このような事態を避ける上からも予備混合を行うことは有用である。
【0069】
また、本発明において、分散処理を行うに際しては、微細炭素繊維に対して、両親媒性物質を含有する水溶液の所期の全量を、分散処理当初から混合することなく、分散処理時間の経過と共に、ニないし多段階的にあるいは連続的に徐々に添加して行く方法を採ることが可能である。特に、上記したような予備混合を行う場合には、予備混合時には、微細炭素繊維に対する両親媒性物質を含有する水溶液の配合量を低くしておき、混合系がペーストゾル化し、メディアミル等を用いた本分散処理に移行する際に、両親媒性物質を含有する水溶液を追加する方法を採ることが、より短時間かつ安定な分散処理を行う上で望ましい。
【0070】
しかして、本発明の製造方法においては、このようにしてた両親媒性物質を含有する水溶液に微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0に保持する。使用する両親媒性物質によってもある程度左右されるが、概して、より好ましくは5.0〜7.0、さらに好ましくは5.5〜6.5に保持することが望ましい。pH値の変動は、分散処理において微細炭素繊維が破断され、−COOH、−OHといった活性な官能基が微細炭素繊維表面に出現すること、また、微細炭素繊維の凝集が解されることによって微細炭素繊維の見掛け比表面積が増加し、微細炭素繊維を水中に安定に保持するためにその界面付近に移動し吸着ないし結合して消費される両親媒性物質の量が増え、系内における両親媒性物質の遊離のないしは自己凝集ミセルの濃度が変動すること等に起因して起こる。従って、pH値が上記所定の範囲にあれば、分散安定性に影響を及ぼすこれらの事象における変化が一定限度内に保たれて、分散処理を安定かつ良好に進行させることができるものであるため、分散処理工程において、pH値を制御するという比較的簡単な操作によって、安定かつ良好な分散液を得ることができるものである。
【0071】
分散処理工程において、pH値を上記所定の範囲内に維持する上では、初期の水溶液のpH値、両親媒性物質の濃度を所定のものとするのみならず、分散処理時間(撹拌が長期化することによる見掛け比表面積が増加、官能基の増加)の調整、分散処理工程中における両親媒性物質の遊離のないしは自己凝集ミセルの濃度の変動に応じた、分散処理工程途中における両親媒性物質の量の調整、あるいは、pH値調整のための中性水の添加、さらに必要に応じて各種酸、アルカリ等のpH調整剤の使用といった処理が有効である。
【0072】
なお、分散処理工程において、微細炭素繊維の分散媒である水に対する配合量としては、分散処理における撹拌処理、および予備混合工程を設ける場合においてはその混合処理が効率的に行い得るような配合割合であれば、特に限定されるわけではないが、例えば、撹拌処理に際しては、微細炭素繊維100質量部に対し水3000〜10000質量部程度、また予備混合処理においては、微細炭素繊維100質量部に対し水1500〜6500質量部程度の割合を例示することができる。
【0073】
(微細炭素繊維分散液)
上記したような分散処理を施すことによって得られる本発明に係る微細炭素分散液においては、微細炭素繊維が十分に分散され、分散媒中で単繊維状で安定して分散されている。このため、当該微細炭素繊維分散液を、導電性被膜、帯電防止被膜、電磁波制御性被膜、高硬度ないし耐摩耗性被膜、着色被膜等の各種機能性被膜の形成、あるいは、マトリックス材となる各種物質へ微細炭素繊維の配合に適用した場合、微細炭素繊維が均一かつ単分散化された製品を得ることができ、微細炭素繊維が本来有する優れた、導電性、制電性、着色性、物理的強度、化学的安定性等の特性を最大限に発揮した、高機能、高性能の製品を製造することが可能となる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
実施例1
まず、両性界面活性剤3−(N,N’−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルフォネート4.0gに対し脱イオン水960ml、グリセロール40mlの割合で添加して、界面活性剤溶液(pH 6.08)を調製した。
【0075】
この界面活性剤溶液1000mlと、カーボンナノチューブ(CNT)(ナノカーボンテクノロジース(株)製MWVNT−7)20gとを、ボール入り胴体(ボール直径15mm)内に入れ、ある程度手によりかき混ぜた後、上記ボール入り胴体を回転架台(アサヒ理化研究所 As ONE)に乗せ1時間撹拌し、ペーストゾル状とした。この際の混合物のpHは6.20であった。
【0076】
次いで、ボールミル胴体から、ペーストゾル状となったCNT入り界面活性剤溶液を取り出し、ビーズミル(ダイノーミル:ジルコニアビーズ(直径0.3mm)、充填率80%)に入れ、約180分間撹拌した。なおこの分散処理の間、CNT入り界面活性剤溶液のpHは、分散処理開始直後でpH6.20、30分経過後でpH6.29、60分経過後でpH6.36、180分経過後(撹拌終了時)でpH6.24と、pH6.0〜6.5の範囲に維持されていた。
【0077】
得られたCNT分散液(2.0w/v%)を観察したところ、分散液中でCNT凝集体は観察されず、粒度分布装置(microtrac、日機装)を用いて粒度分布を調べたところ、粒度分布は90%が0.2μm以内に入るものであり、良好な分散性を有するものであった。
【0078】
また、得られたCNT分散液をガラス基材の表面上に、合成例1で調製された微細炭素繊維の分散液を、所定の塗布量(乾燥重量換算:10mg/m)でスピンコートによりコーティングし、80℃で2分間風乾させた。コーティングされたCNT皮膜表面が乾燥した状態で、この上部より樹脂溶液(フェノール樹脂、濃度5%、溶剤:メタノール)を同様にスピンコートにより所定の塗布量(乾燥重量換算: 400mg/m)でコーティングし、380℃で10分間熱乾させた。この皮膜の表面抵抗率を測定したところ5Ω/□であった。
【0079】
実施例2
実施例1において、CNT20gに対し、界面活性剤溶液500mlを配合して、ボール入り胴体(ボール直径150mm)内に入れ、ある程度手によりかき混ぜた後、上記ボール入り胴体を回転架台(アサヒ理化研究所 As ONE)に乗せ1時間撹拌し、ペーストゾル状とした後、このペーストゾルに残りの界面活性剤溶液500mlを添加し、ビーズミルにて分散処理した以外は実施例1と同様にしてCNT分散液を調製した。分散液のpHは、予備混合処理および分散処理の期間を通じて、pH6.0〜6.5の範囲に維持されており、予備混合処理を行ったことで、ビーズミルでの分散処理操作がより円滑に進行した。
【0080】
得られたCNT分散液(2.0w/v%)を観察したところ、分散液中でCNT凝集体は観察されず、粒度分布は90%が0.2μm以内に入るものであり、良好な分散性を有するものであった。
【0081】
実施例3
界面活性剤溶液として、両性界面活性剤3−(N,N’−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルフォネート4.0gに対し脱イオン水1000ml割合で添加して調製したもの(グリセロール添加なし)を用いた以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を調製した。
【0082】
得られたCNT分散液(2.0w/v%)を観察したところ、分散液中でCNT凝集体は観察されず、粒度分布は90%が0.2μm以内に入るものであり、良好な分散性を有するものであったが、実施例1において得られた分散液と比較すると若干分散性が劣るものであった。
【0083】
実施例4および比較例1
実施例3において、ボールミルによる撹拌時間をより長時間化させる以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液の調製を試みた。その結果、撹拌時間7時間前までは、pH値が5.5〜6.5の範囲内に維持され、CNTが分散液内において分散される傾向にあったが、撹拌時間が7時間を越えるあたりでpH値の大きな変動が生じ、CNTの凝集が発生し、良好な分散状態を保持できなくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に分散させた微細炭素繊維分散液の製造方法であって、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0に保持することを特徴とする微細炭素分散液の製造方法。
【請求項2】
前記両親媒性物質が、両性イオン界面活性剤である請求項1に記載の微細炭素繊維分散液の製造方法。
【請求項3】
前記分散工程において、メディアミルを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の微細炭素繊維分散液の製造方法。
【請求項4】
前記メディアミルを用いて分散処理を行うに先立ち、回転撹拌により予備混合を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微細炭素繊維分散液の製造方法。
【請求項5】
両親媒性物質を含有する水溶液がさらに水溶性ポリオール類を含有するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の微細炭素繊維分散液の製造方法。
【請求項6】
微細炭素繊維の凝集体を、両親媒性物質を含有する水溶液に分散させた微細炭素繊維分散液であって、微細炭素繊維を分散させる分散工程において、分散液のpHを4.0〜8.0に保持することで得られることを特徴とする微細炭素分散液。
【請求項7】
前記両親媒性物質が、両性イオン界面活性剤である請求項6に記載の微細炭素繊維分散液。

【公開番号】特開2009−57241(P2009−57241A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225841(P2007−225841)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000005913)三井物産株式会社 (37)
【Fターム(参考)】