説明

微細管構造の製造方法

【課題】安価で簡便かつ生産が高い高性能微細管の製造。
【解決手段】本発明の微細管構造の製造方法には、第1、第2の基板を用意する工程と、第1、第2の基板の少なくとも一方の基板上に接着層を形成する工程と、前記接着層上にレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層に写真製版法により所望のパターンを焼き付ける工程と、前記接着層と該接着層を担持する前記少なくとも一方の基板とを、パターン化されたジストをマスクとして同時にエッチングして第1の基板に凹溝あるいは貫通孔を形成する工程と、第1、第2の基板を加熱・圧着により前記接着層により接合して一体化する工程とが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、微細な管構造を備えた素子に関し、特に安価で簡便な微細管構造の製造方法と該製造方法で製造された微細管構造に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、マイクロマシン技術を用いた微細な管構造を利用したデバイスの開発が盛んである。例えば、特開平9−161640号に開示の走行水銀微細滴を備えた流体充填超小型リレーや特開2000−195389号に開示される電気接点開閉装置が提案されている。また、このような微細管形状の多の応用としては、バイオエレクトロニクス分野や、医療分野、化学分析分野などにおいてバイオチップ、クロマトグラフィーなどに利用されている。
【0003】これらの微細管の多くは、一方、あるいは双方の基板に凹構造が加工された2枚の基板を貼りあわせることによって作られる。接合の際には、例えば、一方の基板にシリコン、他方にガラスを用いて陽極酸化接合を行うか、あるいは双方の基板にガラスを用いて溶着するなどの方法が最も良く用いられる。しかし、これらの方法はいずれも特殊な雰囲気を必要としたり、高温のプロセスを必要としたりするため、装置が高価であったり、特定の材料にしか使用できないといった不具合がある。
【0004】別の方法では、2枚の基板が樹脂の接着層を利用して貼り合わせられる。この方法は、比較的低温で実行でき、安価であり、多くの基板材料に用いることができるなどの利点がある。しかし、該接着層のパターンと、基板の凹溝構造のパターンを形成するレジストマスクとの位置合わせ精度に限界があり、これらパターン間の位置ずれが生じ、微細化にともない問題を生ずる。例えばコンタクト露光を用いた方法では1〜2ミクロン程度のずれが生じる。この場合には張り合わせの際に位置合せを行う必要が生じ、張り合わせ装置の性能にもよるが、一般的なものでは1ミクロン程度が精度の限界である。
【0005】上記位置ずれが生じると、微細管の軸に垂直な断面での張り合わせ即ち接合では、比較的問題は小さいものの、微細管が細くなるにつれ、この位置ずれ部分で乱流がおこり、バイオ関連などの微細な細胞やDNAの搬送といった分野においては、細胞やDNAの搬送速度が一定しないという問題が生じる。よしんばこの問題を解決し得るとしても、注意深い設計、製造を行なう必要があり、コスト高や種々の性能に対する制限が生ずる恐れがある。一方、例えば特開平10-377183に提案されている電気接点開閉装置のように、微細管の軸に沿った長手方向において接合が必要となるような構造においては、位置ずれの影響がより大きく深刻なものとなり、駆動効率の悪化等の性能低下を招くことは明らかである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記の問題を解決するために提案されたものであって、安価で簡便かつ生産が高い高性能微細管の製造方法と該製造方法による微細管構造の提供にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための、本発明の微細管構造の製造方法には、第1、第2の基板を用意する工程と、第1、第2の基板の少なくとも一方の基板上に接着層を形成する工程と、前記接着層上にレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層に写真製版法により所望のパターンを焼き付ける工程と、前記接着層と該接着層を担持する前記少なくとも一方の基板とを、パターン化されたジストをマスクとして同時にエッチングして第1の基板に凹溝あるいは貫通孔を形成する工程と、第1、第2の基板を加熱・圧着により前記接着層により接合して一体化する工程とが含まれる。この製造方法によれば、接着層と基板表面に形成される凹構造または貫通穴は同時に同じマスクを用いてエッチングされているため、セルフアライメント効果によって位置ずれが発生せず、圧着後に接合面付近にリークパスができることがないだけでなく、1枚のマスクで複雑な構造を作ることができるため、工程が簡素化、歩留りの向上が期待できる。
【0008】前記エッチングする工程はブラスト法を実施する工程とするのがよい。また、前記接着層にはがフッ素系樹脂が好適である。
【0009】前記接着層と前記レジスト層のと間に、前記接着層と前記レジスト層の密着性を高める中継樹脂層を形成することもできる。密着性の向上により、凹溝や貫通孔の精度が向上し、高性能微細管構造が製造し得る。レジスト層がフィルム状であり前記中継樹脂層が液状であるときは特に効果が大きい。密着性を高めるために、前記接着層を形成したあと該接着層にアルゴンプラズマを照射する方法も適用できる。
【0010】前記凹溝や貫通孔が周期的パターンを備え、第1、第2の基板を加熱圧着したのち、一体化された第1、第2の基板をダイシングすることにより複数の微細管構造デバイスを切出すこともできる。大面積の基板に一定の周期でパターンを形成してある場合には、圧着後にこれを一定の大きさに切り出して1つ1つのデバイスとすることもできる。
【0011】上記した製造方法によれば、接着層と基板表面に形成される凹構造または貫通孔は同時に同じマスクを用いてエッチングされているため、セルフアライメント効果によって位置ずれが極小になる。そのため、微細管構造の精度が向上し、圧着後に接合面付近にリークパスができることがないだけでなく、1枚のマスクで複雑な構造を作ることができるため、工程が簡素化、歩留りの向上も期待できる。また、大面積で一括して加工ができるため、大きなコストダウンにつながる。
【0012】
【実施例】図1は本発明の第1の実施例の微細管構造の製造方法を説明するための図であり、微細管構造10を製造するための各段階における構成部材の断面図を示す。図1の(A)を参照して、接着層12の形成について説明する。まず第1の基板としてガラス基板11を用意し、ガラス基板11上にスピンコータを用いてで液状フッ素樹脂を塗布した。液状フッ素樹脂を塗布したガラス基板11を80℃〜120℃に加熱したホットプレート上で、それぞれ1分間キュアした後、260℃の窒素オーブン内に1時間放置してキュアし接着層12を形成した。この段階で液状フッ素樹脂に含まれていた溶剤は、ほぼすべて揮発している。このキュア工程は本実施例における重要な工程である。このキュア工程が十分でない場合には溶剤が接着層12に所望の量より多く残留し、この後のレジスト工程における加熱により、接着層12とレジストが強固に接着してしまい、レジストを剥がすことが困難になる。
【0013】つぎに図1の(B)を参照して接着層12上にレジスト層13を形成してパターンニングする工程を説明する。接着層12を形成した第1のガラス基板11上にラミネータを用いて、厚さ0.1mmのフィルム状レジスト13を張り付け、所望のマスクにより露光、現像をおこない開口14を有するレジストパターンを形成した。この段階での露光、現像によりレジストパターンの焼き付けは従来周知のものであり説明を省く。
【0014】次に図1の(C)に示すように、ブラスト工法により、直径30から50ミクロンのアルミナ粉を開口14に吹き付け基板11をエッチングし凹溝15を形成した。エッチング時間は約100秒で、この時の凹溝15の深さは約200ミクロンになった。ついで、レジスト13を有機溶剤などを用いて剥離して除去した。この段階でのブラスト工法は、従来技術によるものも使用できるが、本発明の発明者が発明し、本願出願人に譲渡した特許出願2001−028830号に開示の方法が微細化にはさらに好ましい。
【0015】次に図1の(D)に示すように、第2の基板として平らな面を有するガラス基板16を準備した。レジストが除去されて、凹溝以外の面が接着層12で覆われた第1のガラス基板11と第2のガラス基板16の平らな面を対向させ、半導体製造用のフリップチップボンダを用いて加熱・圧着した。圧着の温度は、発明者の実験によれば、第1、第2の基板の両方を加熱した場合では、接着層12であるフッ素樹脂12のガラス転移温度である108℃以上で接着性が生ずるが、接着後の十分な接着強度を得るには双方の基板が130℃以上となるようにするのが望ましいことがわかった。第1、第2の基板が接着層12で接着されて一体化された後一体化された基板を所望の大きさに切断して図1の(E)に示すように個々の微細管構造10とした。
【0016】現在市販されている加熱・圧着装置の多くは、加熱したヘッド部分に第1の基板(チップ)を吸着し、精密な微動機構を備えたステージ部分に設置した第2の基板上に押し付けて加圧するものである。一般には剛性を高めて位置精度を上げるために、ステージは重く大きく作られており、これを加熱することは必ずしも容易ではない。そこで、発明者は、装置の都合上、両方の基板を加熱することが困難である場合を想定して、第1の基板のみを加熱して接着することを試みた。この場合には第2の基板と金属製ステージの間に断熱材としてテフロン(登録商標)板を設置した。接合に最適な温度は圧力によって異なるが、ガラス面同士の接合ではヘッドの温度が240度以上、圧力が250g/mm2以上で良好な接合が得られる。
【0017】また、接着層12とレジスト層13との密着性を高めるため、中継樹脂層を設けても良い。密着性の向上により、ブラスト加工の精度向上が望める。あるいはレジスト層13を形成する前に接着層にアルゴンプラズマを照射して密着性を得る方法を採用することもできる。ブラスト法にはフィルムレジストが最適であり。液状の中継樹脂をスピンコートして中継樹脂層を形成するのが良い。
【0018】図2により本発明の第2の実施例である微細管構造20の製造方法を説明する。該製造方法では第1の基板が第1の実施例での図1の(C)までの工程と同様の工程で加工され第1の基板であるガラス基板21に接着層22が堆積され凹溝25が形成される。第1の実施例と異なる点は、第1のガラス基板21だけでなく、第2基板であるガラス基板26にもブラスト加工を施すことにより例えば凹溝27が形成されることである(図2R>2の(A))。つぎに、第1の実施例と同様にして、第1、第2の基板が接合されて図2の(B)に示すような複雑な形状の微細管20が製造可能となっている。なお、この実施例においては第1の基板1上のみにフッ素系樹脂22を形成しているが、第1、第2の基板の双方に樹脂を形成しても同様の効果が得られる。
【0019】図3により本発明の第3の実施例である微細管構造30の製造方法でを説明する。図3の(A)に示すように、第1、第3の基板であるガラス基板31,36は図1におけるガラス基板11が図1の(D)に示す状態となると同様の加工がなされ、それぞれ接着層22A,22Bの堆積、凹溝35,37の形成がなされる。平らな平行面を有する第2の基板34はブラスト加工による貫通孔39を有する。第2の基板は第1、第3の基板により挟持され、加熱・圧着により接合され図3の(B)の微細管構造30を形成する。接着層22Aにより第1、第2の基板が接合され、接着層22Bにより第2、第3の基板が接合され、第1、第2、第3の基板が一体化される。そして凹溝35、37が貫通孔39を介して連通することになる。
【0020】図4により本発明の第4の実施例における微細管構造40の製造方法を説明する。図4の(A)に示すように、第1〜第3の実施例におけると同様の工程で、第1の基板であるガラス板41に接着層22が堆積され凹溝45がブラスト加工により形成される。他の実施例と異なる点は第2の基板としてセラミック基板46を用いており、その表面には薄膜配線48が形成されていることである。セラミック基板46の表面の凹凸はこれまでの実施例に比べて大きく、第1、第2の基板同士の接合の際に必要な圧力はガラス同士の場合に比較して大きくなる。本実施例の製造方法で製造された微細管構造40(図4の(B))は、微細管内に電極を備えることによって、特開2000−195389号に開示の電気接点開閉装置、各種センサー、バイオ用のラボチップ、あるいは電気泳動モジュールなどに使用して有効である。
【0021】
【発明の効果】本発明の効果については、本願明細書の「課題を解決するための手段」の項にも詳述した。すなわち、本発明を実施することによって、従来のものに比較して、安価で簡便かつ生産性の高い高精度微細管構造の製造方法が提供できる。そのため、また、本発明は該微細管構造を使用する機器やデバイスの高性能化、開発容易性の向上、コストダウン等に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係る微細管構造10の製造方法を説明するための図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る微細管構造20の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る微細管構造30の製造方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第4の実施例に係る微細管構造40の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
10 微細管構造
11 第1の基板
12 接着層
13 レジスト層
14 開口
15 凹溝
16 第2の基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】第1、第2の基板を用意する工程と、第1、第2の基板の少なくとも一方の基板上に接着層を形成する工程と、前記接着層上にレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層に写真製版法により所望のパターンを焼き付ける工程と、前記接着層と該接着層を担持する前記少なくとも一方の基板とを、パターン化されたジストをマスクとして同時にエッチングして第1の基板に凹溝あるいは貫通孔を形成する工程と第1、第2の基板を加熱・圧着により前記接着層により接合して一体化する工程とを含む微細管構造の製造方法。
【請求項2】前記エッチングする工程がブラスト法を実施する工程であることを特徴とする請求項1に記載の微細管構造の製造方法。
【請求項3】前記接着層がフッ素系樹脂でできていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の微細管構造の製造方法。
【請求項4】前記接着層と前記レジスト層のと間に、前記接着層と前記レジスト層の密着性を高める中継樹脂層を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微細管構造の製造方法。
【請求項5】前記レジスト層がフィルム状であり前記中継樹脂層が液状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微細管構造の製造方法。
【請求項6】前記接着層を形成する工程が該接着層にアルゴンプラズマを照射することを含む請求項1〜5のいずれかに記載の微細管構造の製造方法。
【請求項7】前記凹溝や貫通孔は周期的パターンを備え、第1、第2の基板を加熱圧着したのち、一体化された第1、第2の基板をダイシングすることにより複数の微細管構造デバイスを切出すことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の微細管構造の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開2003−266393(P2003−266393A)
【公開日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−64370(P2002−64370)
【出願日】平成14年3月8日(2002.3.8)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.