説明

微細藻類におけるヘマグルチニン−ノイラミニダーゼタンパク質の産生方法

本発明は、組換え微細藻類細胞、および異種ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)ポリペプチドの産生におけるそれらの使用、ならびにその組成物および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、組換え微細藻類細胞、およびヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)ポリペプチドの産生におけるそれらの使用、ならびにその組成物および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
微生物の発酵によるタンパク質の産生は、植物および動物の細胞培養などの既存の系に比べていくつかの利点を示す。例えば、微生物発酵に基づく方法は、以下の利点を提供することができる:(i)高濃度のタンパク質を速やかに産生できること;(ii)無菌の、十分に制御された産生条件(適正製造規範(GMP)の条件など)を使用できること;(iii)簡素な発酵と少ない不純物を可能にする、単純で、化学的に規定された増殖培地を使用できること;(iv)ヒトまたは動物の汚染病原体が存在しないこと;および(v)タンパク質を容易に回収できること(例えば、発酵培地からの単離による)。さらに、発酵設備は一般的に細胞培養設備よりも構築コストがかからない。
【0003】
ヤブレツボカビ(thraustochytrid)などの微細藻類は、標準的な発酵装置を用いて、非常に短い培養サイクル(例えば、1〜5日)で、安価な規定培地および、たとえ精製するにしても、最小限の精製でもって、生育させることができる。さらに、特定の微細藻類、例えばシゾキトリウム属(Schizochytrium)は、それに由来するバイオマスと脂質の両方の食品用途に対する安全性の実証された歴史がある。例えば、この微生物由来の高DHA含有トリグリセリド油は、米国食品医薬品局からGRAS(一般に安全と認められる)ステータスを受けている。
【0004】
微細藻類は、組換えタンパク質を発現する能力があることが示されている。例えば、米国特許第7,001,772号(特許文献1)は、シゾキトリウム属のメンバーを含めて、ヤブレツボカビを形質転換するのに適した、最初の組換え構築物を開示している。この公報には、とりわけ、アセト乳酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼプロモーターおよびターミネーター領域、α-チューブリンプロモーター、ポリケチドシンターゼ(PKS)系からのプロモーター、ならびに脂肪酸デサチュラーゼプロモーターのシゾキトリウム核酸およびアミノ酸配列が開示される。米国特許出願公開第2006/0275904号(特許文献2)および米国特許出願公開第2006/0286650号(特許文献3)はその後、アクチン、伸長因子1α(ef1a)、ならびにグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(gapdh)のプロモーターおよびターミネーターのシゾキトリウム配列を開示している。
【0005】
ウイルスワクチンは、多くの場合、それらが予防しようとする疾患に対応するウイルス培養物の不活化または弱毒化調製物から作られている。一般に、ウイルスは、野生の状態で感染可能な細胞型と同じまたは類似した細胞型から培養される。そうした細胞培養は高価であり、規模拡大がしばしば困難である。この問題に対処するため、ウイルスタンパク質抗原をトランスジェニック宿主において発現させる試みがなされており、この方法は培養が比較的低コストであり、規模拡大に適している可能性がある。しかし、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質のようなウイルス膜タンパク質は、大量に産生することが非常に困難なことがあり、ウイルスエンベロープタンパク質を全体的にまたは部分的に異種系で発現させる試みは、しばしば、限られた成果しか収めてきていない。したがって、規模拡大可能で、ウイルスHN抗原を産生することができる、本発明の発現系のような、新しい異種発現系が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,001,772号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0275904号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0286650号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)ポリペプチドの産生のための方法に関し、この方法は、異種HNポリペプチドを産生するために、異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む組換え微細藻類宿主細胞を培地において培養する段階を含む。いくつかの態様では、HNポリペプチドが分泌される。いくつかの態様では、前記方法はHNポリペプチドを培地から回収する段階をさらに含む。いくつかの態様では、HNポリペプチドはSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも90%同一である。いくつかの態様では、HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は膜ドメインをさらに含む。
【0008】
本発明は、異種HNポリペプチドを含む組成物を産生する方法に関し、この方法は、(a)異種HNポリペプチドを微細藻類宿主細胞において発現させる段階、および(b)その微細藻類宿主細胞を、異種HNポリペプチドを産生するのに十分な条件下で培養する段階を含み、ここで、該組成物は、異種HNポリペプチドを含む培養上清として産生される。いくつかの態様において、前記方法は、該組成物から培養上清を除去する段階、および異種HNポリペプチドを水性液体担体に再懸濁させる段階をさらに含む。
【0009】
いくつかの態様において、上記方法のいずれかの宿主細胞はラビリンチュラ菌門(Labyrinthulomycota)の宿主細胞である。いくつかの態様において、上記方法のいずれかの宿主細胞はシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の宿主細胞である。
【0010】
本発明は、異種HNタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む組換え微細藻類細胞に関する。いくつかの態様では、HNタンパク質はSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも90%同一である。いくつかの態様では、HNタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が膜ドメインをさらに含む。いくつかの態様では、微細藻類細胞はラビリンチュラ菌門の細胞である。いくつかの態様では、微細藻類細胞はシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属の細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、シゾキトリウム属種ATCC 20888での発現のために最適化された、ニューカッスル病ウイルスのヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:1)を示す。
【図2】図2は、シゾキトリウムのコドン使用頻度表を示す。
【図3】図3は、pCL0081とも呼ばれる、pCL0081 [pEPCT(+)-caliNDV HN]のプラスミドマップを示す。
【図4】図4は、トランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23(「23」)によるHNタンパク質の分泌を示す。低速上清(low-speed supernatant)と不溶性画分を分離するための遠心分離の手順を図4Aに示す。回収された組換えHNタンパク質(矢印で示す)は、図4Bに低速上清からの、そして図4Cに不溶性画分からの、クーマシー染色ゲル(「クーマシー」)および抗NDVイムノブロット(「IB: 抗NDV」)に示される。同時精製するアクチンバンドはアスタリスクで示される。
【図5】図5は、タンパク質配列(SEQ ID NO:2)の68%をカバーする合計32のペプチドにより同定された、回収した組換えHNタンパク質のペプチド配列解析を示す。トリプシン部位には下線が引いてある。
【図6】図6Aおよび図6Bは、シゾキトリウムでのHNタンパク質グリコシル化を示すクーマシー染色ゲル(「クーマシー」)および抗NDVイムノブロット(「IB: 抗NDV」)を示す。「-Ctrl」はイムノブロッティングの陰性対照を指し、これはトランスジェニック・シゾキトリウムAB0018であった。「23」はトランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23を指す。「EndoH」および「PNGase F」は、それぞれの酵素を用いたトランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23の不溶性画分の酵素処理を指す。「NT」は、酵素を用いないが、EndoHおよびPGNase F処理と同じ条件下でインキュベートしたトランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23を指す。
【図7】図7は、トータルイオンマッピングにより決定されたネイティブシゾキトリウム分泌タンパク質上に検出されたN-グリカン構造を示す。
【図8】図8は、NSI-トータルイオンマッピングにより得られたグリカン種を示す。
【図9】図9は、トランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23(「23」)上清からのHNの赤血球凝集活性を示す。「[タンパク質]」は、サンプルの次第に増加する希釈とともに左から右へ減少する、タンパク質の濃度を指す。「-」はHNを含まない陰性対照を指す。「+」はインフルエンザヘマグルチニン陽性対照を指す。「HAU」は、左から右へのサンプルの希釈(倍数)に基づくヘマグルチニン活性単位(Hemagglutinin Activity Unit)を指す。「2」は最初のウェルでのサンプルの2倍希釈を指す;左から右への後続のウェルは前のウェルに対する2倍希釈を表し、したがって最初のウェルから最後のウェルまでの希釈(倍数)は左から右へ2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048、および4096となった。
【図10】図10は、SignalPアルゴリズムの使用に基づいた、シゾキトリウムに固有の予測シグナルアンカー配列を示す。例えば、Bendsten et al., J Mol. Biol. 340: 783-795 (2004); Nielsen, H. and Krogh, A. Proc. Int. Conf. Intell. Syst. Mol. Biol. 6: 122-130 (1998); Nielsen, H. et al., Protein Engineering 12: 3-9 (1999); Emanuelsson, O. et al., Nature Protocols 2: 953-971 (2007)を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、微細藻類宿主細胞における異種ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)ポリペプチドの産生に関する。本発明はまた、異種HNポリペプチドを含む微細藻類宿主細胞、微細藻類宿主細胞から産生されたHNポリペプチド、ならびにその組成物および使用に関する。
【0013】
微細藻類宿主細胞
微細藻類は、微小藻類(microscopic algae)としても知られており、淡水系と海洋系にしばしば見られる。微細藻類は単細胞性であるが、鎖状におよび群れで増殖することもできる。個々の細胞は、大きさが数マイクロメートルから数百マイクロメートルの範囲にわたっている。これらの細胞は水性懸濁液中で増殖可能であるので、栄養素と水性環境に効率よくアクセスすることができる。
【0014】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞は不等毛藻またはストラメノパイルである。
【0015】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞はラビリンチュラ菌門のメンバーである。いくつかの態様では、ラビリンチュラ菌門の宿主細胞はヤブレツボカビ目(order Thraustochytriales)またはラビリンチュラ目(order Labyrinthulales)のメンバーである。本発明によれば、用語「ヤブレツボカビ」とは、ヤブレツボカビ科(family Thraustochytriaceae)を含めた、ヤブレツボカビ目の任意のメンバーを指し、そして用語「ラビリンチュラ(labyrinthulid)」とは、ラビリンチュラ科(family Labyrinthulaceae)を含めた、ラビリンチュラ目の任意のメンバーを指す。ラビリンチュラ科のメンバーは以前にはヤブレツボカビ目のメンバーであるとみなされていたが、このような生物の分類学による分類の最近の改正版では、ラビリンチュラ科は現在ではラビリンチュラ目のメンバーであるとみなされている。ラビリンチュラ目とヤブレツボカビ目はいずれもラビリンチュラ菌門のメンバーであると考えられる。分類学の理論家は現在、一般に、これらの微生物グループの両方をストラメノパイル系統の藻類または藻類様原生生物と一緒に配置する。ヤブレツボカビとラビリンチュラの現在の分類学上の配置は次のようにまとめることができる:
界:ストラメノパイル(Stramenopila)(クロミスタ(Chromista))
門:ラビリンチュラ菌門(不等毛類(Heterokonta))
綱:ラビリンチュラ菌綱(Labyrinthulomycetes)(ラビリンチュラ類(Labyrinthulae))
目:ラビリンチュラ目
科:ラビリンチュラ科
目:ヤブレツボカビ目
科:ヤブレツボカビ科
【0016】
本発明において、ヤブレツボカビとして記載される株には、次の生物が含まれる:目:ヤブレツボカビ目;科:ヤブレツボカビ科;属:ヤブレツボカビ属(種:アルジメンタレ(arudimentale)、アウレウム(aureum)、ベンチコラ(benthicola)、グロボスム(globosum)、キンネイ(kinnei)、モチブム(motivum)、ムルチルジメンタレ(multirudimentale)、パキデルマム(pachydermum)、プロリフェルム(proliferum)、ロゼウム(roseum)、ストリアツム(striatum)種)、ウルケニア属(Ulkenia)(種:アモエボイデア(amoeboidea)、ケルグエレンシス(kerguelensis)、ミヌタ(minuta)、プロフンダ(profunda)、ラジアタ(radiata)、サイレンズ(sailens)、サルカリアナ(sarkariana)、シゾキトロプス(schizochytrops)、ビスルゲンシス(visurgensis)、ヨーケンシス(yorkensis)種)、シゾキトリウム属(種:アグレガツム(aggregatum)、リムナセウム(limnaceum)、マングロベイ(mangrovei)、ミヌツム(minutum)、オクトスポルム(octosporum)種)、ジャポノキトリウム属(Japonochytrium)(種:マリヌム(marinum)種)、アプラノキトリウム属(Aplanochytrium)(種:ハリオチジス(haliotidis)、ケルグエレンシス(kerguelensis)、プロフンダ(profunda)、ストッキノイ(stocchinoi)種)、アルトルニア属(Althornia)(種:クロウチイ(crouchii)種)、またはエリナ属(Elina)(種:マリサルバ(marisalba)、シノリフィカ(sinorifica)種)。本発明においては、ウルケニア属内に記載される種をヤブレツボカビ属のメンバーであるとみなすことにする。オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)、オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)、ボトリオキトリウム(Botryochytrium)、パリエチキトリウム(Parietichytrium)、およびシチオイドキトリウム(Sicyoidochytrium)は、本発明ではラビリンチュラ菌門に包含される追加の属である。
【0017】
本発明においてラビリンチュラとして記載される株には、次の生物が含まれる:目:ラビリンチュラ目;科:ラビリンチュラ科;属:ラビリンチュラ属(種:アルゲリエンシス(algeriensis)、コエノシスティス(coenocystis)、チャットニイ(chattonii)、マクロシスティス(macrocystis)、マクロシスティス・アトランティカ(macrocystis atlantica)、マクロシスティス・マクロシスティス(macrocystis macrocystis)、マリナ(marina)、ミヌタ(minuta)、ロスコフェンシス(roscoffensis)、バルカノビイ(valkanovii)、ビテリナ(vitellina)、ビテリナ・パシフィカ(vitellina pacifica)、ビテリナ・ビテリナ(vitellina vitellina)、ゾプフィ(zopfii)種)、ラビリンチュロイデス属(Labyrinthuloides)(種:ハリオチジス(haliotidis)、ヨーケンシス(yorkensis)種)、ラビリントミクサ属(Labyrinthomyxa)(種:マリナ(marina)種)、ディプロフリス属(Diplophrys)(種:アルケリ(archeri)種)、ピルホソルス属(Pyrrhosorus)(種:マリヌス(marinus)種)、ソロディプロフリス属(Sorodiplophrys)(種:ステルコレア(stercorea)種)またはクラミドミクサ属(Chlamydomyxa)(種:ラビリンチュロイデス(labyrinthuloides)、モンタナ(montana)種)(しかし、ピルホソルス属、ソロディプロフリス属、またはクラミドミクサ属の正確な分類学上の配置に関する統一見解は現在のところ存在しない)。
【0018】
ラビリンチュラ菌門の微細藻類細胞としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:寄託株PTA-10212、PTA-10213、PTA-10214、PTA-10215、PTA-9695、PTA- 9696、PTA-9697、PTA-9698、PTA-10208、PTA-10209、PTA-10210、PTA-10211、SAM2179として寄託された微生物(寄託者によって「ウルケニアSAM2179」と命名された)、任意のヤブレツボカビ属の種(前のウルケニア属の種、例えばU. ビスルゲンシス、U. アモエボイダ(amoeboida)、U. サルカリアナ、U. プロフンダ、U. ラジアタ、U. ミヌタおよびウルケニア属種BP-5601を含む)、およびスラウストキトリウム・ストリアツム(Thraustochytrium striatum)、スラウストキトリウム・アウレウム(Thraustochytrium aureum)、スラウストキトリウム・ロゼウム(Thraustochytrium roseum)を含む;ならびに任意のジャポノキトリウム属の種。ヤブレツボカビ目の株としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:ヤブレツボカビ属種(23B)(ATCC 20891); スラウストキトリウム・ストリアツム(Schneider)(ATCC 24473); スラウストキトリウム・アウレウム(Goldstein)(ATCC 34304); スラウストキトリウム・ロゼウム(Goldstein)(ATCC 28210); およびジャポノキトリウム属種(L1)(ATCC 28207)。シゾキトリウム属としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:シゾキトリウム・アグレガツム(Schizochytrium aggregatum)、シゾキトリウム・リマシヌム(Schizochytrium limacinum)、シゾキトリウム属種(S31)(ATCC 20888)、シゾキトリウム属種(S8)(ATCC 20889)、シゾキトリウム属種(LC-RM)(ATCC 18915)、シゾキトリウム属種(SR 21)、寄託株ATCC 28209、および寄託シゾキトリウム・リマシヌムIFO 32693株。いくつかの態様では、細胞はシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属である。シゾキトリウム属は、連続的な二分裂と、最終的に遊走子を放出する胞子嚢の形成との両方によって複製することができる。しかし、ヤブレツボカビ属は、あとで遊走子を放出する胞子嚢の形成によってのみ複製する。
【0019】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞はヤブレツボカビである。いくつかの態様では、微細藻類宿主細胞はシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属の細胞である。
【0020】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞はラビリンチュラである。
【0021】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞は、選択マーカーをコードする核酸配列を含む組換えベクターを含有する。いくつかの態様では、選択マーカーは、形質転換された微生物の選択を可能にする。いくつかの態様では、選択マーカーは、栄養要求性マーカーであるか、優性選択マーカー(例えば、抗生物質活性を分解する酵素など)であるか、または形質転換の選択に関与する別のタンパク質である。
【0022】
本発明によれば、用語「形質転換」は、外因性の核酸分子(すなわち、組換え核酸分子)を微生物細胞に挿入できるようにする任意の方法を指すために用いられる。微生物系では、用語「形質転換」は、微生物が外因性核酸を獲得したことによる遺伝性の変化を記述するために使用され、用語「トランスフェクション」と本質的に同義である。外因性核酸分子をラビリンチュラ菌門の宿主細胞に導入するための適切な形質転換技術としては、限定するものではないが、微粒子銃、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、感染、およびプロトプラスト融合が挙げられる。いくつかの態様では、組換えベクターを含めて、外因性核酸分子は、静止期にある微生物の細胞内に導入される。
【0023】
本発明のいくつかの態様において、微細藻類宿主細胞は、グリコシル化に関与する遺伝子を含めて、糖鎖の輸送および/または合成に関連した生合成経路に関与する遺伝子を導入または欠失するように遺伝的に改変される。例えば、宿主細胞は、内因性のグリコシル化遺伝子を欠失することによって、および/またはヒトのものによく似ているグリコシル化パターンを可能にするためにヒトまたは動物のグリコシル化遺伝子を挿入することによって、改変され得る。酵母でのグリコシル化の改変は、例えば、米国特許第7,029,872号ならびに米国特許出願公開第2004/0171826号、第2004/0230042号、第2006/0257399号、第2006/0029604号、および第2006/0040353号に示されている。いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞には、遺伝子発現を増加または調節するためにRNAウイルス要素を利用する細胞が含まれる。
【0024】
微細藻類宿主細胞のための効果的な培養条件には、タンパク質産生および組換えを可能にする有効培地、バイオリアクター、温度、pH、および酸素条件が含まれるが、これらに限定されない。有効培地とは、微細藻類細胞が一般的に培養される任意の培地を指す。そのような培地は典型的には、同化可能な炭素、窒素およびリン酸源、ならびに適切な塩類、ミネラル、金属、および他の栄養素、例えばビタミン類、を含有する水性培地を含む。ヤブレツボカビ目の微生物に適した非限定的な培養条件は、例えば、米国特許第5,340,742号に記載されている。本発明の細胞は、従来の発酵バイオリアクター、振とうフラスコ、試験管、マイクロタイター皿、およびペトリ皿で培養することができる。培養は組換え細胞に適した温度、pHおよび酸素含量で実施することができる。
【0025】
ヤブレツボカビ宿主細胞のための非限定的な発酵条件は以下の表1に示される:
(表1)容器培地

【0026】
一般的な培養条件は以下を含む:
pH:5.5〜9.5、6.5〜8.0、または6.3〜7.3
温度:15℃〜45℃、18℃〜35℃、または20℃〜30℃
溶存酸素:0.1%〜100%飽和、5%〜50%飽和、または10%〜30%飽和
グルコースの制御:5g/L〜100g/L、10g/L〜40g/L、または15g/L〜35g/L。
【0027】
ポリペプチド
本発明はまた、異種HNポリペプチドを含む微細藻類宿主細胞、ならびにそれから産生されるHNポリペプチドに関する。本明細書中で用いられる「異種」という用語は、例えば微細藻類宿主細胞内に天然では見いだされない、配列またはポリペプチドを指す。
【0028】
「ポリペプチド」という用語には、単鎖ポリペプチド分子、ならびに個々の構成ポリペプチドが共有結合または非共有結合によって連結された複数のポリペプチドの複合体が含まれる。本発明によれば、単離されたポリペプチドとは、その自然環境から取り出された(すなわち、ヒトの操作にさらされた)ポリペプチドのことであり、例えば、精製されたタンパク質、精製されたペプチド、部分精製されたタンパク質、部分精製されたペプチド、組換えにより産生されたタンパク質またはペプチド、および合成により産生されたタンパク質またはペプチドが含まれる。
【0029】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドは膜ドメインを含む。本明細書中で用いられる「膜ドメイン」という用語は、ポリペプチドを膜へとターゲッティングさせるおよび/またはポリペプチドが膜との結合を維持することを可能にする、ポリペプチド内の任意のドメインを指し、限定するものではないが、以下が挙げられる:膜貫通ドメイン(例えば、膜を1回または複数回貫通する領域)、膜内在性モノトピック(integral monotopic)ドメイン、シグナルアンカー配列、ERシグナル配列、N末端または内部またはC末端停止転移シグナル、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー、およびこれらの組合せ。膜ドメインは、ポリペプチドのN末端、C末端または内部を含めて、ポリペプチドのどのような位置に存在してもよい。膜ドメインは膜へのポリペプチドの永続的または一時的結合に関与することができる。いくつかの態様では、膜ドメインを膜タンパク質から切断することができる。いくつかの態様では、膜ドメインはシグナルアンカー配列である。いくつかの態様では、膜ドメインは、図10に示されるシグナルアンカー配列のいずれか、またはそれらから誘導されるアンカー配列である。いくつかの態様では、膜ドメインはウイルスのシグナルアンカー配列である。
【0030】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドはネイティブHNタンパク質膜ドメインである膜ドメインを含む。HNは、C末端が細胞外にあって、N末端が細胞質側にある、単一の膜ドメインを含むタイプII膜タンパク質である。N末端はシグナルアンカー配列をさらに含んでいる。
【0031】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドはネイティブ膜ドメインを含まないが、異種膜ドメインへと組換えにより融合されている。いくつかの態様では、膜ドメインは微細藻類の膜ドメインである。いくつかの態様では、膜ドメインはラビリンチュラ菌門藻類の膜ドメインである。いくつかの態様では、膜ドメインはヤブレツボカビの膜ドメインである。いくつかの態様では、膜ドメインはシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属の膜ドメインである。いくつかの態様では、膜ドメインは、シゾキトリウムα-1,3-マンノシル-β-1,2-GlcNac-トランスフェラーゼ-I様タンパク質#1 (SEQ ID NO:3)、シゾキトリウムβ-1,2-キシロシルトランスフェラーゼ様タンパク質#1 (SEQ ID NO:5)、シゾキトリウムβ-1,4-キシロシダーゼ様タンパク質 (SEQ ID NO:7)、またはシゾキトリウムガラクトシルトランスフェラーゼ様タンパク質#5 (SEQ ID NO:9)由来のシグナルアンカー配列を含む。
【0032】
いくつかの態様において、異種膜ドメインはHNタンパク質とは異なるタイプの膜タンパク質に由来する。Chou and Elrod, Proteins: Structure, Function and Genetics 34: 137-153 (1999)に記載されるように、例えば、他のタイプの膜タンパク質には以下が含まれる:
1) タイプI膜タンパク質:これらのタンパク質は成熟タンパク質中に1回膜貫通ドメインをもっている。そのN末端は細胞外にあって、C末端は細胞質側にある。これらのタンパク質はタイプIa(切断可能なシグナル配列を含む)とタイプIb(切断可能なシグナル配列を含まない)に細分される。
2) 複数回膜貫通タンパク質:タイプIおよびIIの膜タンパク質では、ポリペプチドが脂質二重層を1回横切るのに対して、複数回貫通型の膜タンパク質では、ポリペプチドが膜を複数回横切る。複数回膜貫通タンパク質もまたタイプIIIaおよびIIIbに細分される。タイプIIIaタンパク質は切断可能なシグナル配列をもっている。タイプIIIbタンパク質はそのアミノ末端が膜の外表面に露出しているが、切断可能なシグナル配列はもっていない。
3) 脂質鎖固定型膜タンパク質:これらのタンパク質は、1本以上の共有結合した脂肪酸鎖またはプレニル基と呼ばれる他のタイプの脂質鎖によって膜二重層に結合している。
4) GPI固定型膜タンパク質:これらのタンパク質はグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーによって膜に結合されている。
5) 周辺膜タンパク質:これらのタンパク質は他の膜タンパク質との非共有結合相互作用によって間接的に膜に結合されている。
【0033】
いくつかの態様において、異種膜ドメインはHNタンパク質とは異なるタイプII膜タンパク質に由来する。いくつかの態様では、異種タイプII膜ドメインのN末端はシグナルアンカー配列を含む。
【0034】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドは糖タンパク質である。いくつかの態様では、異種HNポリペプチドは、ラビリンチュラ菌門の細胞での発現に特徴的なグリコシル化パターンを有する。いくつかの態様では、異種HNポリペプチドは、ヤブレツボカビの細胞での発現に特徴的なグリコシル化パターンを有する。いくつかの態様では、微細藻類宿主細胞で発現された異種HNポリペプチドは、酵母または大腸菌(E. coli)で産生されたタンパク質よりも哺乳類のグリコシル化パターンによく似たグリコシル化パターンをもつ糖タンパク質である。いくつかの態様では、グリコシル化パターンはN結合型グリコシル化パターンを含む。いくつかの態様では、糖タンパク質は高マンノースオリゴ糖を含む。いくつかの態様では、糖タンパク質はシアル酸を実質的に含まない。本明細書中で用いられる「シアル酸を実質的に含まない」という用語は、シアル酸が10%より少ない、9%より少ない、8%より少ない、7%より少ない、6%より少ない、5%より少ない、4%より少ない、3%より少ない、2%より少ない、または1%より少ないことを意味する。いくつかの態様では、シアル酸が糖タンパク質に存在しない。
【0035】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞での異種HNポリペプチドの発現のために用いられる発現系は、微細藻類宿主細胞内で活動する調節制御要素を含む。いくつかの態様では、発現系はラビリンチュラ菌門の細胞内で活動する調節制御要素を含む。いくつかの態様では、発現系はラビリンチュラ属において活動する調節制御要素を含む。いくつかの態様では、発現系はヤブレツボカビにおいて活動する調節制御要素を含む。いくつかの態様では、発現系はシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属において活動する調節制御要素を含む。種々のプロモーターを含めて、多くの微細藻類の調節制御要素は、いくつもの多様な種において活動性である。
【0036】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞での異種HNポリペプチドの発現のために用いられる発現系は、微細藻類配列に由来する調節要素を含む。いくつかの態様では、微細藻類宿主細胞での異種HNポリペプチドの発現のための発現系は、微細藻類以外の配列に由来する調節要素を含む。いくつかの態様において、前記発現系は異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含み、ここで該ポリヌクレオチド配列は微細藻類宿主細胞内で機能する任意のプロモーター配列、任意のターミネーター配列、および/またはその他の調節配列に結合されている。誘導可能な配列または構成的に活性な配列が使用され得る。
【0037】
本発明はまた、微細藻類宿主細胞での異種HNポリペプチドの発現のための発現カセットの使用を包含する。発現カセットの設計および構築では、当業者に公知の標準的な分子生物学的手法が使用される。例えば、Sambrook et al., 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第3版を参照されたい。いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞は、その宿主細胞内で機能するように連結された遺伝要素、例えば少なくともプロモーター、コード配列、およびターミネーター領域、を含む発現カセットを含有する。いくつかの態様では、発現カセットは膜ドメインをコードするポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、発現カセットはシグナルアンカー配列をコードするポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、シグナルアンカー配列をコードするポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:8、またはSEQ ID NO:10を含む。
【0038】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドをコードする単離された核酸配列は、プロモーター配列および/またはターミネーター配列(両方とも宿主細胞内で機能する)に機能的に連結される。発現される異種HNポリペプチドをコードする単離された核酸配列に機能的に連結されるプロモーターおよび/またはターミネーター配列は、任意のプロモーターおよび/またはターミネーター配列を含むことができる。誘導可能なまたは構成的に活性な調節配列が使用可能である。調節配列としては、限定するものではないが、米国特許出願公開第2010/0233760号、米国特許第7,001,772号、ならびに米国特許出願公開第2006/0275904号および第2006/0286650号に記載される、以下のようなシゾキトリウム調節配列:OrfCプロモーター、OrfCターミネーター、EF1ショートプロモーター、EF1ロングプロモーター、Sec1プロモーター、60Sショートプロモーター、60Sロングプロモーター、アセト乳酸シンターゼプロモーター、アセト乳酸シンターゼターミネーター、α-チューブリンプロモーター、ポリケチドシンターゼ(PKS)系由来のプロモーター、脂肪酸デサチュラーゼプロモーター、アクチンプロモーター、アクチンターミネーター、伸長因子1α(ef1α)プロモーター、ef1αターミネーター、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(gapdh)プロモーター、gapdhターミネーター、およびこれらの組合せ、または異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に連結される、微細藻類細胞(それらが形質転換される)内で機能する他の調節配列が含まれる。いくつかの態様では、異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、膜ドメインをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結される。いくつかの態様では、異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、翻訳効率を最適化するために、特定の微細藻類宿主細胞のためにコドン最適化される。
【0039】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞は上記のような発現カセットを含む組換えベクターを含有する。組換えベクターには、限定するものではないが、プラスミド、ファージ、およびウイルスが含まれる。いくつかの態様では、組換えベクターは線状化されたベクターである。いくつかの態様では、組換えベクターは発現ベクターである。本明細書中で用いる「発現ベクター」という語句は、異種HNポリペプチドの産生に適するベクターを指す。いくつかの態様では、組換え核酸分子を作製するために、異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が組換えベクターに挿入される。いくつかの態様では、組換えベクターは、その組換えベクターを含む組換え微細藻類宿主細胞を選択するための選択マーカーを含む。いくつかの態様では、組換えベクターは、異種HNポリペプチドに機能的に連結された膜ドメインを含む。
【0040】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドは、既知のHN配列、例えばSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11、と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のアミノ酸配列を含むポリペプチドであるか、または既知のHN配列、例えばSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11、と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、ここで、該ポリペプチドはHN配列に特異的に結合する抗体によって認識され得るものである。
【0041】
本発明はまた、異種HNポリペプチドの産生のための方法に関し、この方法は、異種HNポリペプチドを産生するために、異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む組換え微細藻類宿主細胞を培地において培養することを含む。
【0042】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞から産生される異種HNポリペプチドは商業規模で産生される。
【0043】
本発明はまた、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドおよび水性液体担体を含む組成物に関する。
【0044】
いくつかの態様において、異種HNポリペプチドは、微細藻類宿主細胞を増殖させた培養培地または発酵培地から回収される。いくつかの態様では、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドは「実質的に純粋な」形で単離することができる。本明細書中で用いる「実質的に純粋な」とは、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドの商品としての有効利用を可能にする純度を指す。
【0045】
本発明はまた、異種HNポリペプチドを含む組成物を産生する方法に関し、この方法は、(a)微細藻類宿主細胞において異種HNポリペプチドを発現させる段階、および(b)異種HNポリペプチドを含む微細藻類宿主細胞を産生するのに十分な培養条件下で微細藻類宿主細胞を培養する段階を含み、ここで該組成物は、異種HNポリペプチドを含む培養上清として産生される。いくつかの態様では、前記方法は、培養上清を除去する段階、および異種HNポリペプチドを水性液体担体中に再懸濁させる段階をさらに含む。いくつかの態様では、その組成物がワクチンとして使用される。
【0046】
いくつかの態様において、本明細書に記載した微細藻類宿主細胞は、目的のウイルスHN抗原以外の、ウイルス遺伝物質のような、関連したウイルス物質を含まないまたは実質的に含まない、異種HNポリペプチドを発現する。本明細書中で用いる「関連したウイルス物質を実質的に含まない」という用語は、関連したウイルス物質が10%より少ない、9%より少ない、8%より少ない、7%より少ない、5%より少ない、4%より少ない、3%より少ない、2%より少ない、または1%より少ないことを意味する。
【0047】
本発明はまた、有効量の組換えNDV HN抗原および薬学的もしくは獣医学的に許容される担体、賦形剤またはビヒクルを含有するNDVワクチンまたは組成物に関し、ここで組換えNDV HN抗原は微細藻類細胞において発現されたものである。いくつかの態様では、微細藻類細胞はシゾキトリウム属である。いくつかの態様では、NDV HN抗原は部分的に精製されているか、または実質的に精製されている。いくつかの態様では、NDV抗原は全体として、収集された微細藻類中に存在している。いくつかの態様では、NDV抗原は、収集された微細藻類の溶解物である「バイオマス」の形をしている。いくつかの態様では、組換えNDV HN抗原はトランスジェニック微細藻類細胞において発現されたものである。
【0048】
本発明はまた、微細藻類において発現され、実質的に精製されたNDV HN抗原に関する。
【0049】
本発明はまた、NDV HNポリペプチドまたはその断片もしくは変異体を発現させるための遺伝子で安定に形質転換された微細藻類の細胞または培養物に関する。
【0050】
本発明はまた、ポリペプチドを産生する方法に関し、この方法は、(a)微細藻類の培養培地内で微細藻類の細胞培養物を培養する段階であって、ここで微細藻類の細胞培養物は、該ポリペプチドを発現するように安定して形質転換されており、該ポリペプチドは、該ポリペプチドのコード配列と、該ポリペプチドの培養培地への分泌を指令するシグナルペプチドの機能的に連結されたコード配列、または膜ドメインと関連した機能的に連結された配列とを含むヌクレオチド配列から発現される、段階;および(b)該ポリペプチドを培養培地から回収する段階を含む。いくつかの態様では、その膜ドメインはNDV HN膜ドメインである。用語「回収する」には、培養培地から収集することまたは精製することが含まれるが、これらに限定されない。微細藻類における組換えポリペプチドの産生後に、タンパク質の精製のために当技術分野で利用可能な任意の方法を使用することができる。さまざまな段階として、非タンパク質または微細藻類物質からタンパク質を遊離させる段階、続いて目的のタンパク質を他のタンパク質から精製する段階が含まれる。精製工程の初期段階には、遠心分離、濾過またはこれらの組合せが含まれる。組織の細胞外空間内に分泌されたタンパク質は、真空または遠心分離抽出を用いて取得することができる。最低限の処理には、粗産生物の調製が含まれてもよい。他の方法としては、抽出物の直接使用を可能にするために、マセレーション(maceration)および抽出が挙げられる。関心対象のタンパク質を精製するための、こうした方法は、タンパク質のサイズ、生理化学的性質、および結合親和性の違いを利用することができる。かかる方法には、プロカインアミド親和性、サイズ排除、高速液体、逆相、およびアニオン交換クロマトグラフィーを含むクロマトグラフィー、アフィニティータグ、濾過などが含まれる。特に、発現タンパク質を精製するために、固定化Niイオンアフィニティークロマトグラフィーを用いることができる。Favacho et al., Protein Expression and Purification 46: 196-203 (2006)を参照されたい。さらに、Zhou et al., Protein J 26:29-37 (2007); Wang et al., Vaccine 15:2176-2185 (2006); およびWO/2009/076778を参照されたい。精製工程で浸透圧調節剤(osmotica)、酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、プロテアーゼ阻害剤などの保護剤を使用してもよい。
【0051】
微細藻類宿主細胞および異種HNポリペプチドの使用方法
本発明はまた、予防的治療から疾病に至るまでの動物またはヒトにおける治療用途のための、異種HNポリペプチドを含む微細藻類宿主細胞の使用、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドの使用、およびその組成物を包含する。
【0052】
用語「治療する」および「治療」とは、治療的処置と予防的または事前防止的処置の両方を指し、ここではその目的が、望ましくない生理的状態、疾患もしくは障害を予防するまたは遅らせる(軽減する)こと、あるいは有益なまたは望ましい臨床結果を得ることにある。本発明において、有益なまたは望ましい臨床結果としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:状態、疾患もしくは障害に関連する症状または徴候の軽減または除去;状態、疾患もしくは障害の程度の減少;状態、疾患もしくは障害の安定化(すなわち、状態、疾患もしくは障害が悪化していない場合);状態、疾患もしくは障害の発症または進行の遅延;状態、疾患もしくは障害の回復;状態、疾患もしくは障害の(部分的であろうと全体的であろうと、検出可能であろうと検出不能であろうと)寛解;または状態、疾患もしくは障害の向上または改善。治療には、過度の副作用なしに臨床的に有意な応答を引き出すことが含まれる。また、治療には、治療を受けていない場合に予想される生存に比べて、生存を引き延ばすことが含まれる。
【0053】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドは、動物またはヒトワクチンとして直接使用するために培養上清から回収される。
【0054】
いくつかの態様において、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドは、目的とする使用、例えばワクチンとしての投与、の要件に応じて精製される。一般的なヒトワクチンの応用例では、低速上清が濃縮による初期精製(例えば、タンジェンシャルフロー濾過とその後の限外濾過)、クロマトグラフ分離(例えば、アニオン交換クロマトグラフィー)、サイズ排除クロマトグラフィー、および滅菌(例えば、0.2μm濾過)を受けると考えられる。いくつかの態様では、本発明のワクチンは、アレルギーを起こす可能性があるキャリーオーバータンパク質、例えば卵タンパク質など、を欠いている。いくつかの態様では、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドを含むワクチンは、ウイルスHNポリペプチド以外のウイルス物質を欠いている。
【0055】
開示される方法に従って、投与は、例えば筋肉内(i.m.)、静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、または肺内経路とすることができる。その他の適当な投与経路としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:気管内、経皮、眼内、鼻腔内、吸入、腔内、導管内(例えば、膵臓への)、および実質内(例えば、任意の組織への)投与。経皮送達には、限定するものではないが、皮内(例えば、真皮または表皮への)、経皮(transdermal)(例えば、経皮(percutaneous))、および経粘膜(例えば、皮膚もしくは粘膜組織への、または皮膚もしくは粘膜組織を通しての)投与が含まれる。腔内投与には、限定するものではないが、口腔、膣、直腸、鼻腔、腹腔および腸腔への投与、ならびに髄腔内(例えば、脊柱管への)、脳室・心室内(例えば、脳室または心室への)、心房内(例えば、心房への)、およびくも膜下(例えば、脳のくも膜下腔への)投与が含まれる。
【0056】
いくつかの態様において、本発明は、微細藻類宿主細胞から産生された異種HNポリペプチドを含む組成物を包含する。いくつかの態様では、前記組成物は水性液体担体を含有する。さらなる態様では、水性液体担体は培養上清である。いくつかの態様では、本発明の組成物は、当技術分野で知られている薬学的に許容される従来の賦形剤、例えば、限定するものではないが、ヒト血清アルブミン、イオン交換体、アルミナ、レシチン、緩衝物質、例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、および塩類または電解質、例えば硫酸プロタミン、ならびに例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 第21版 (2005)に記載されている賦形剤を含む。
【0057】
本発明の組成物の最も効果的な投与様式および投薬計画は、疾患の重症度と経過、被験者の健康状態と治療への応答、および臨床医の判断によって決まる。したがって、組成物の投与量は個々の被験者に合わせて漸増すべきである。それでもなお、本発明の組成物の有効用量は以下の範囲とすることができる:1mg/kg〜2000mg/kg、1mg/kg〜1500mg/kg、1mg/kg〜1000mg/kg、1mg/kg〜500mg/kg、1mg/kg〜250mg/kg、1mg/kg〜100mg/kg、1mg/kg〜50mg/kg、1mg/kg〜25mg/kg、1mg/kg〜10mg/kg、500mg/kg〜2000mg/kg、500mg/kg〜1500mg/kg、500mg/kg〜1000mg/kg、100mg/kg〜2000mg/kg、100mg/kg〜1500mg/kg、100mg/kg〜1000mg/kg、または100mg/kg〜500mg/kg。
【実施例】
【0058】
実施例1
pCL0081発現ベクターの構築
ベクターpAB0018 (ATCCアクセッション番号PTA-9616)をBamHIおよびNdeIで消化すると、長さが838塩基対(bp)と9879bpの2つの断片が生じた。9879bp断片を寒天ゲルで標準的な電気泳動法により分画し、市販のDNA精製キットを用いて精製し、前もって同様にBamHIとNdeIで消化しておいた合成配列(SEQ ID NO:1;図1参照)にライゲーションした。次に、このライゲーション産物を用いて、市販されているコンピテントDH5-α大腸菌細胞株(Invitrogen社、CA)を製造元のプロトコルに従って形質転換した。次に、これらのプラスミドを制限酵素消化またはPCRによりスクリーニングして、上記ライゲーションによって予期されたプラスミド構造が作成されたことを確認した。この手順により得られた1つのそのようなプラスミドをサンガーシークエンシングによって検証し、pCL0081と命名した。図3を参照されたい。pCL0081ベクターは、HN導入遺伝子の発現を駆動するためのシゾキトリウム伸長因子-1遺伝子(EF1)由来のプロモーター、HN導入遺伝子の後にOrfCターミネーター(PFA3ターミネーターの別名でも知られる)、およびスルホメツロンメチルに対する耐性を付与する選択マーカーカセットを含んでいる。
【0059】
SEQ ID NO:1は、分離株gamefowl/U.S.(CA)/211472/02としても知られる、ニューカッスル病ウイルス(「カリフォルニア株」)のHNタンパク質をコードしている。このタンパク質配列はGenBankアクセッション番号AAS67142の配列に一致する。SEQ ID NO:1の特定の核酸配列は、シゾキトリウムでの発現のために、図2に示すシゾキトリウムコドン使用頻度表に基づいてBlue Heron Biotechnology社(Bothell, WA)によりコドン最適化され、かつ合成された。
【0060】
実施例2
シゾキトリウムで産生されるHNタンパク質の発現および特性解析
シゾキトリウム属のATCC 20888株を、pCL0081ベクターによる形質転換のための宿主細胞として使用した。
【0061】
酵素による前処理を用いたエレクトロポレーション - 細胞を50mLのM50-20培地(米国特許出願公開第2008/0022422号参照)中で振とう機上200rpm、30℃にて2日間増殖させた。その細胞をM2B培地(次の段落を参照)中に1:100で希釈し、一晩(16〜24時間)増殖させて、対数期中期の増殖(OD600が1.5〜2.5)に達するようにした。その細胞を50mLコニカルチューブに入れて約3000×gで5分間遠心分離した。上清を取り除き、2 OD600単位の最終濃度とするのに適切な容量の1Mマンニトール(pH5.5)中に細胞を再懸濁させた。5mLの細胞を25mL振とうフラスコに分取し、10mM CaCl2 (1.0Mストック、濾過滅菌済み)および0.25mg/mLプロテアーゼXIV (10mg/mLストック、濾過滅菌済み;Sigma-Aldrich社, St. Louis, MO)を添加した。フラスコを振とう機上で約100rpm、30℃にて4時間インキュベートした。プロトプラスト化(単一の細胞が望まれる)の程度を調べるために細胞を顕微鏡で観察した。細胞を丸底チューブ(すなわち、14mL Falcon(商標)チューブ、BD Biosciences社, San Jose, CA)に入れて約2500×gで5分間遠心分離した。上清を取り除き、細胞を5mLの氷冷10%グリセロールを用いて穏やかに再懸濁させた。細胞を丸底チューブに入れて約2500×gで5分間再び遠心分離した。上清を取り除き、ワイドボアピペットチップを用いて、細胞を500μLの氷冷10%グリセロールを用いて穏やかに再懸濁させた。90μLの細胞を、予冷したエレクトロ・キュベット(Gene Pulser(登録商標)キュベット - 0.2cmギャップ、Bio-Rad社, Hercules, CA)に分注した。1μg〜5μgのDNA(10μL量以下)をそのキュベットに加え、ピペットチップを用いて穏やかに混合して、氷上に5分間置いた。細胞を200オーム(抵抗)、25μF(電気容量)、および500Vでエレクトロポレーションした。0.5mLのM50-20培地をキュベットに直ちに添加した。その後、細胞を25mL振とうフラスコ内の4.5mLのM50-20培地に移して、振とう機上で約100rpm、30℃にて2〜3時間インキュベートした。その細胞を丸底チューブ内で約2500×gにて5分間遠心分離した。上清を取り除き、細胞ペレットを0.5mLのM50-20培地に再懸濁させた。(必要に応じて)適切な選択を含む、適切な数(2〜5)のM2Bプレートに細胞を播種して、30℃でインキュベートした。
【0062】
M2B培地は、10g/Lグルコース、0.8g/L (NH4)2SO4、5g/L Na2SO4、2g/L MgSO4・7H2O、0.5g/L KH2PO4、0.5g/L KCl、0.1g/L CaCl2・2H2O、0.1M MES (pH6.0)、0.1%PB26金属類、および0.1%PB26ビタミン類(v/v)から構成されていた。PB26ビタミン類は50mg/mLビタミンB12、100μg/mLチアミン、および100μg/mLパントテン酸Caから成るものであった。PB26金属類はpH4.5に調整され、3g/L FeSO4・7H2O、1g/L MnCl2・4H2O、800mg/mL ZnSO4・7H2O、20mg/mL CoCl2・6H2O、10mg/mL Na2MoO4・2H2O、600mg/mL CuSO4・5H2O、および800mg/mL NiSO4・6H2Oから成っていた。PB26ストック液を別々に濾過滅菌し、オートクレーブ処理した後の培養液に添加した。グルコース、KH2PO4、およびCaCl2・2H2Oはそれぞれ、塩の沈殿と糖のカラメル化を防止するために、混合前に培養液成分の残部とは別にオートクレーブ処理した。すべての培地成分はSigma Chemical社(St. Louis, MO)から購入した。
【0063】
トランスジェニック・シゾキトリウム(pCL0081で形質転換した)の凍結ストック(cryostock)をM50-20中でコンフルエンスまで増殖させ、その後50mLバッフル付振とうフラスコ内で27℃、200rpmにて48時間、以下の成分(リットルあたり)を含む培地で繁殖させた:

【0064】
その容量を脱イオン水で900mLとし、pHを6に調整してから35分間オートクレーブ処理した。次に、濾過滅菌済みのグルコース(50g/L)、ビタミン類(2mL/L)および微量金属類(2mL/L)を培地に添加して、その容量を1リットルに調整した。ビタミン溶液は0.16g/LビタミンB12、9.75g/Lチアミン、および3.33g/Lパントテン酸Caを含んでいた。微量金属溶液(pH2.5)は1.00g/Lクエン酸、5.15g/L FeSO4・7H2O、1.55g/L MnCl2・4H2O、1.55g/L ZnSO4・7H2O、0.02g/L CoCl2・6H2O、0.02g/L Na2MoO4・2H2O、1.035g/L CuSO4・5H2O、および1.035g/L NiSO4・6H2Oを含んでいた。
【0065】
シゾキトリウム培養物を50mLコニカルチューブに移し、3000×gまたは4500×gで15分間遠心分離した。図4Aを参照されたい。この遠心分離により得られた、「無細胞上清」と呼ばれる上清を赤血球凝集活性アッセイのために使用した。
【0066】
無細胞上清は100,000×gで1時間さらに超遠心分離した。図4Aを参照されたい。その結果得られた、HNタンパク質を含む不溶性画分のペレットはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させて、ペプチド配列解析ならびにグリコシル化解析のために使用した。
【0067】
トランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23(「23」)からのHNタンパク質の発現は、標準的なイムノブロッティング法に従うイムノブロット解析により確認した。無細胞上清からのタンパク質およびペレット化不溶性画分からのタンパク質は、4〜12%のbis-trisゲル(Invitrogen社)でのドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。次に、タンパク質をクーマシーブルー(SimplyBlue Safe Stain, Invitrogen社)で染色するか、またはタンパク質をポリフッ化ビニリデン膜に移行させて、ニワトリ由来の抗ニューカッスル病ウイルス(NDV)抗血清(1:1000希釈、Charles River Laboratories社)と、その後にアルカリホスファターゼ結合抗ニワトリ二次抗体(1:5000希釈、AP-AffiniPureヤギ抗ニワトリ#103-055-155、Jackson ImmunoResearch Laboratories社)を用いてHNタンパク質の存在を調べた。次いで、その膜を5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸/ニトロブルーテトラゾリウム溶液(BCIP/NBT)で製造元(KPL, Gaithersburg, MD)の説明書に従って処理した。トランスジェニック・シゾキトリウム「CL0081-23」のクーマシーブルー染色ゲルおよび対応する抗NDVイムノブロットを図4Bおよび図4Cに示す。組換えHNタンパク質は無細胞上清(図4B)および不溶性画分(図4C)に検出された。陰性対照(-Ctrl)はシゾキトリウム属の野生株ATCC 20888またはトランスジェニック・シゾキトリウムAB0018であった。さらに、ペレット化不溶性画分を溶解し、4500×gで10分、2回遠心分離したところ、HNタンパク質を発現するトランスジェニック・シゾキトリウム由来の上清(「無細胞抽出物」と呼ばれる)中にHNタンパク質が検出された(データは示さず)。
【0068】
無細胞上清の100,000×g遠心分離から得られる不溶性画分は、SDS-PAGEで分離して、クーマシーブルーで染色するか、または上記のようにPVDFに移行させてニワトリ由来の抗NDV抗血清でイムノブロットした。イムノブロットで交差反応に相当するバンドをクーマシー染色ゲルから切り出し、ペプチド配列解析を行った。簡単に説明すると、関心対象のバンドを50%エタノール、5%酢酸中で洗浄/脱染した。次にゲル片をアセトニトリル中で脱水し、SpeedVac(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社, Waltham, MA)で乾燥させ、50mM重炭酸アンモニウム中の10ng/μLトリプシンを5μL添加して室温で一晩インキュベートすることによりトリプシンで消化した。生成されたペプチドを、5%ギ酸を含む50%アセトニトリルの2つの30μLアリコート中にポリアクリルアミドから抽出した。これらの抽出物を合わせてSpeedVac(登録商標)で<10μLに蒸発させ、次に1%酢酸中に再懸濁させてLC-MS解析のために最終容量を約30μLとした。LC-MSシステムはFinnigan(商標)LTQ(商標)リニアイオントラップ質量分析計(Thermo Electron社, Waltham, MA)であった。HPLCカラムは自動充填型9cm×75μm Phenomenex Jupiter(商標)C18逆相キャピラリークロマトグラフィーカラム(Phenomenex社, Torrance, CA)であった。その後、μL量の抽出物を注入し、ペプチドをアセトニトリル/0.1%ギ酸勾配により0.25μL/分の流量でカラムから溶出し、オンラインで質量分析計のイオン源に導入した。マイクロエレクトロスプレーイオン源は2.5kVで作動させた。分解物は選択反応(SRM)実験を用いて解析されたが、この実験では質量分析計がLC実験の全過程にわたって一連のm/z比にフラグメント化する。その後、関心対象のペプチドのフラグメント化パターンを用いてクロマトグラムを作成した。各ペプチドのピーク面積を測定し、内部標準に対して正規化した。この分析で用いた内部標準は、検査されるサンプル間で存在量が変わらないタンパク質であった。これら2つの系の最終比較は、各タンパク質の正規化されたピーク比を比較することによって確定された。その後、衝突誘起解離スペクトルがNCBIデータベースに対して検索された。HNタンパク質はこのタンパク質配列の68%をカバーする合計32のペプチドによって同定された。配列決定された特定のペプチドを図5に示す。
【0069】
HNタンパク質上のグリカンの存在は最初に酵素処理によって評価された。トランスジェニック・シゾキトリウム「CL0081-23」の不溶性画分をPBSに再懸濁させ、EndoHまたはPNGase Fを用いて製造元の説明書(New England Biolabs社, Ipswich, MA)に従って消化した。次に、グリカンの除去を、クーマシーブルーで染色された12%SDS-PAGE上でタンパク質を分離するときの期待される移動度のシフト(図6A)により、または抗NDV抗血清を用いるイムノブロッティング(図6B)により同定した。イムノブロッティングのための陰性対照(「-Ctrl」)は、トランスジェニック・シゾキトリウムAB0018であった。酵素処理のための陰性対照は、酵素なしでインキュベートしたトランスジェニック・シゾキトリウム「CL0081-23」であった(「NT」=非処理)。
【0070】
シゾキトリウムで産生されたHNタンパク質のグリコシル化プロファイルは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法とナノスプレーイオン化-リニアイオントラップ質量分析法によって分析した。簡単に説明すると、関心対象のタンパク質のクーマシーブルー染色ゲルスライスを小片(〜1mm3)に切断し、色が消えるまで40mM重炭酸アンモニウム(AmBic)と100%アセトニトリルで交互に脱染した。その脱染ゲルを40mM AmBic中の10mM DTT中で55℃にて1時間再膨潤させた。DTT溶液を55mMヨードアセトアミド(IAM)と交換し、暗所で45分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、40mM AmBicと100%アセトニトリルで交互に2回洗浄した。脱水したゲルは、トリプシン溶液(40mM AmBic中のトリプシン)を用いて、初めに氷上で45分間再膨潤させてから、タンパク質消化を37℃で一晩実施した。上清を別のチューブに移した。ペプチドおよび糖ペプチドは、5%ギ酸中の20%アセトニトリル、5%ギ酸中の50%アセトニトリル、その後5%ギ酸中の80%アセトニトリルを順次用いて、ゲルから抽出した。そのサンプル溶液を乾燥させて、1本のチューブ内にまとめた。抽出したトリプシン消化物はC18 Sep-Pak(登録商標)カートリッジ(Waters社, Milford, MA)を通過させ、5%酢酸で洗浄して汚染物質(例えば、塩類およびSDSなど)を除いた。ペプチドおよび糖ペプチドは、5%酢酸中の20%イソプロパノール、5%酢酸中の40%イソプロパノール、および100%イソプロパノールを順次用いて溶出し、次に高速真空濃縮装置で乾燥させた。乾燥したサンプルを合わせて、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で再調製し、トリプシンを不活性化するために100℃で5分間加熱した。トリプシン消化物は、N-グリカンを遊離させるために、PNGase Fと共に37℃で一晩インキュベートした。消化後、サンプルをC18 Sep-Pak(登録商標)カートリッジに通し、糖質画分を5%酢酸で溶出して、凍結乾燥により乾燥させた。遊離したN結合型オリゴ糖は、Anumula, K.R., and Taylor, P.B. Anal. Biochem. 203(1): 101-108 (1992)の方法に基づいて完全メチル化(permethylate)し、質量分析(MS)によりプロファイリングした。
【0071】
質量分光分析はComplex Carbohydrates Research Center (Aoki, K. et al., J. Biol. Chem. 23: 282:9127-9142 (2007))で開発された方法に従って行った。質量分析はNSI-LTQ/MSnを用いることによって測定した。簡単に説明すると、完全メチル化グリカンを50%メタノール中の1mM NaOHに溶解し、0.4μL/分の一定の流量で計測器(Finnigan(商標)LTQ(商標)リニアイオントラップ質量分析計)に直接注入した。MS分析はポジティブイオンモードで行った。
【0072】
トータルイオンマッピングは、グリカンを示すフラグメントイオンの存在を調べるために実施された。トータルイオンマッピング、(35衝突エネルギーでの)自動MS/MS分析では、500から2000までのm/z範囲が、2質量単位だけ前のウィンドウにオーバーラップする連続した2.8質量単位ウィンドウでスキャンされた。m/z 500からm/z 2000までのすべてのMS/MSデータを取り出し、その生データを手動で分析した。
【0073】
NSI-トータルイオンマッピングにより得られたグリカン種のクロマトグラムおよび表は、それぞれ図7および図8に示される。クロマトグラムはスキャンフィルターによって処理された;m/z 139のニュートラルロスは高マンノース型グリカンの特徴を示している。トータルイオンマッピングは、このサンプルが長いマンノース鎖をもつ一連の高マンノース型グリカンを含むことを明らかにした。これらの結果は、同じ方法論で測定したときの、ネイティブシゾキトリウム分泌タンパク質および異種発現タンパク質上に検出されたN-グリカン構造に類似している(データは示さず)。
【0074】
シゾキトリウムで産生されたHNタンパク質の活性は赤血球凝集活性アッセイによって評価された。機能性HNタンパク質は、標準的な赤血球凝集活性アッセイにより容易に検出される赤血球凝集活性を示す。簡単に説明すると、PBS中の低速上清の2倍希釈物50μLを96ウェルマイクロタイタープレートに調製した。次に、PBS中のシチメンチョウ赤血球細胞(Fitzgerald Industries社)の約1%溶液を各ウェルに等量ずつ添加し、続いて室温で30分間インキュベートした。その後、凝集の程度を視覚的に分析した。赤血球凝集活性単位(HAU)は、ウェル内で可視的な赤血球凝集を引き起こす無細胞上清の最大希釈として定義される。
【0075】
典型的な活性は、トランスジェニック・シゾキトリウム「CL0081-23」上清での512 HAU程度であることが判明した(図9)。PBSまたはシゾキトリウム属の野生株ATCC 20888(トランスジェニック株と同じ方法で増殖させて調製した)は陰性対照として用いられ、赤血球凝集活性を少しも示さなかった。インフルエンザヘマグルチニン(HA)組換えタンパク質(Protein Sciences #3006 H5N1、PBSで1:1000に希釈)を陽性対照として用いた。トランスジェニック・シゾキトリウムCL0081-23上清由来のHNの赤血球凝集活性は、複数回の凍結/解凍を通して安定であることが判明し、2μM濾過の後で保存された。
【0076】
実施例3
シゾキトリウムで産生されるパラインフルエンザHNタンパク質の発現および特性解析
シゾキトリウム属のATCC 20888株が、パラインフルエンザHNタンパク質をコードする配列を含むベクターで形質転換するための宿主細胞として使用される。パラインフルエンザHNタンパク質の代表的な配列は、SEQ ID NO:11(GenBankアクセッション番号P08492からのヒトパラインフルエンザ3ウイルス(NIH 47885株))として提供される。一部の細胞は、パラインフルエンザHNタンパク質に関連したネイティブシグナルアンカー配列をコードする配列を含むベクターで形質転換される。他の細胞は、シゾキトリウムのシグナルアンカー配列を含めて、異なるシグナルアンカー配列をコードする配列を含むベクターで形質転換される。その異なるシグナルアンカー配列をコードする配列は、パラインフルエンザHNタンパク質をコードする配列に融合され、結果として、パラインフルエンザHNタンパク質が異種シグナルアンカー配列と共に発現される。実施例2に記載するように形質転換を行い、凍結ストックを増殖および繁殖させる。シゾキトリウム培養物を50mLコニカルチューブに移し、3000×gまたは4500×gで15分間遠心分離して低速上清を得る。その低速上清を100,000×gで1時間さらに超遠心分離する。図4Aを参照されたい。結果として生じる、パラインフルエンザHNタンパク質を含む不溶性画分のペレットを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させて、実施例2に記載するようにペプチド配列解析およびグリコシル化解析に使用する。
【0077】
トランスジェニック・シゾキトリウムからのパラインフルエンザHNタンパク質の発現は、適切な希釈率の抗パラインフルエンザHN抗血清と二次抗体を用いて、実施例2に記載するような標準イムノブロッティングの手法に従うイムノブロット分析により検証される。組換えパラインフルエンザHNタンパク質は低速上清と不溶性画分中に検出される。さらに、組換えパラインフルエンザHNタンパク質は、パラインフルエンザHNタンパク質を発現するトランスジェニック・シゾキトリウムからの無細胞抽出物中に検出される。
【0078】
シゾキトリウムで産生されたパラインフルエンザHNタンパク質の活性は、パラインフルエンザHN活性アッセイによって評価される。機能性パラインフルエンザHNタンパク質は、標準的なパラインフルエンザHN活性アッセイによって容易に検出されるパラインフルエンザHN活性を示す。
【0079】
本明細書中に記載したさまざまな局面、態様および選択肢のすべては、ありとあらゆるバリエーションで組み合わせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)ポリペプチドを産生するために、異種HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む組換え微細藻類宿主細胞を培地において培養する段階を含む、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)ポリペプチドの産生のための方法。
【請求項2】
HNポリペプチドが分泌される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
HNポリペプチドを培地から回収する段階をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
HNポリペプチドがSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも90%同一である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
HNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が膜ドメインをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
(a) 異種HNポリペプチドを微細藻類宿主細胞において発現させる段階、および
(b) 該微細藻類宿主細胞を、異種HNポリペプチドを産生するのに十分な条件下で培養する段階
を含む、異種HNポリペプチドを含む組成物を産生する方法であって、
該組成物が、異種HNポリペプチドを含む培養上清として産生される、
方法。
【請求項7】
組成物から培養上清を除去する段階、および異種HNポリペプチドを水性液体担体に再懸濁させる段階をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
宿主細胞がラビリンチュラ菌門(Labyrinthulomycota)の宿主細胞である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
宿主細胞がシゾキトリウム属(Schizochytrium)またはヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)の宿主細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
異種HNタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む、組換え微細藻類細胞。
【請求項11】
HNタンパク質がSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:11と少なくとも90%同一である、請求項10記載の微細藻類細胞。
【請求項12】
HNタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が膜ドメインをさらに含む、請求項10または11記載の微細藻類細胞。
【請求項13】
微細藻類細胞がラビリンチュラ菌門の細胞である、請求項10〜12のいずれか一項記載の微細藻類細胞。
【請求項14】
微細藻類細胞がシゾキトリウム属またはヤブレツボカビ属の細胞である、請求項13記載の微細藻類細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−515502(P2013−515502A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547248(P2012−547248)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/062274
【国際公開番号】WO2011/082189
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【出願人】(304040692)メリアル リミテッド (73)
【Fターム(参考)】