説明

微細藻類を利用した生物燃料の製造方法

【課題】ユーグレナ、クロレラ、セレデスムス、クロロコッカムのうち一種類、もしくは複数種の微細藻類を培養し、嫌気性発酵処理によってバイオガスに変換する製造方法を提供する。
【解決手段】最適生育温度、最適照度、栄養要求、最適生育pH、被補食性、生育阻害物質に於いてそれぞれ固有の特性を有し、環境変化によって異なる生物相を形成する微細藻類のうち一種類、もしくは複数種を原料として、可燃性の燃料であるメタンガスとCO2、その他の成分との混合ガスであるバイオガスを製造する嫌気性発酵処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーグレナ、クロレラ、セネデスムス、クロロコッカムのうちの一種もしくは複数種から構成される微細藻類を、嫌気性発酵処理によってバイオガスに転換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細藻類を利用した再生可能な生物燃料の開発がバイオディーゼルを中心に試みられている。微細藻類由来の生物燃料の製造が、スポットを浴びている理由は以下の三点である。
【0003】
微細藻類は、光合成による有機炭素の生産効率、すなわち光利用効率が、高等植物類と比較して極めて高いため、CO2の固定化手段として有用である。
【0004】
資源系のバイオマスを活用する際の問題点は、バイオマスの育成に関する時間の長さと、バイオマスの収集に係るコストである。資源系バイオマスと呼ばれる間伐材や林地残材、エネルギー作物、海草類等は生長に長い期間を費やし、伐さい、搬出、運搬に多大なコストを要する。これに対して藻類は世代時間が短く、短期間での高密度培養が可能な上に、回収作業の自動化、装置化が図り易いのが特徴である。
【0005】
木質系、草本系バイオマスの組織は、堅牢な細胞壁で区分され、セルロースにリグニンが加わってできており、一般に難分解性である。しかし、微細藻類の中には、細胞外膜のみで保護されている種類もあるなど、他の高等植物と比較すると、組織を可溶化或いは加水分解し、燃料としての単位物質に低分子化するためのストレスが小さいことが特徴である。
【0006】
一方で微細藻類を利用した生物燃料技術の実用化は幾つかの課題に直面しており、充分な普及には至っていない。
【0007】
藻体やその代謝生成物から得られた成分は水分と分離する必要があり、濃縮、蒸散、高純度化に多大なエネルギーを消費する。回収した燃料成分の保有熱量に対して濃縮等の消費エネルギーを勘案すると、収支が成立していないケースが多い。
【0008】
光合成によるCO2の固定化を目的とした培養系では、培養槽内に於ける光の透過率に限界があり、特殊な光導入設備が必要になる。また特定の高カロリー藻類の育成を目的とした培養系では、コンタミネーションを防ぐため、一定の培養条件(湿度、培地組成、pH等)を維持するためのリアクター設備と生育環境の確保が必要になる。燃料の経済的価値はその環境価値を含めても高いとは言えず、設備投資並びに運用経費の過大な負担を負わせることは困難である。
【0009】
光合成を継続するためにはCO2に加えて栄養塩類の供給量に律速されるが、ほとんどの培養系では人為的な栄養塩類の供給に依存している。
【0010】
特許文献1は、食品廃棄物からメタンガスを生成させる過程において、メタン発酵で生成する炭酸ガス、消化液に含まれる窒素分を利用してユーグレナなどの藻類を培養できることを記載しているが、藻類自体からメタンガスを含むバイオガスが得られることについては全く記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−088838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ユーグレナ、クロレラ、セレデスムス、クロロコッカムのうち一種類、もしくは複数種の微細藻類を培養し、嫌気性発酵処理によってバイオガスに変換する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、最適生育温度、最適照度、栄養要求、最適生育pH、被補食性、生育阻害物質に於いてそれぞれ固有の特性を有し、環境変化によって異なる生物相を形成する微細藻類のうち一種類、もしくは複数種を原料として、可燃性の燃料であるメタンガスとCO2、その他の成分との混合ガスであるバイオガスを製造することができるという知見を持った。本発明はこれら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のバイオガスの製造方法を提供するためのものである。
項1. ユーグレナ、クロレラ、セレデスムス及びクロロコッカムからなる群から選ばれる少なくとも1種の微細藻類を嫌気性発酵処理する工程を含むバイオガスの製造方法。
項2. 微細藻類の藻体量並びに構成比率、優成種をpH、照度、培地組成、溶存酵素濃度、外気温、水温、CO2濃度のいずれかの環境要因の制御によって調整することを特徴とする、項1に記載のバイオガスの製造方法。
項3. 微細藻類の藻体を構成する油脂、たんぱく質、炭水化物の成分をモニタリングし、藻体構成物質の組織並びに発熱量をpH、照度、培地組成、溶存酵素濃度、外気温、水温、CO2濃度のいずれかの環境要因の制御によって調整し、嫌気性発酵に供することを特徴とする、項1又は2に記載のバイオガスの製造方法。
項4. 嫌気性発酵の生成物である消化液或いは工場もしくは生活排水処理施設から発生する有機排水中に含まれる栄養塩類を嫌気性発酵に用いることを特徴とする、項1〜3のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
項5. バイオガスから分離したCO2を用いて嫌気性発酵の環境要因の制御を行う、項1〜4のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
項6. 嫌気性発酵槽内の温度条件を摂氏33度から37度までの中温条件または摂氏50度から57度までの高温条件で水理学的滞留期間を30日以内とし、また発酵槽内を攪拌することにより、嫌気性菌と微細藻類との接触機会を増やすことを特徴とする、項1〜5のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
項7. 基質に含まれる細胞壁等の難分解成分を可溶化し、生分解性を向上させる手段として、機械的粉砕、攪拌による微細化、攪拌機が生ずるキャビテーション効果による磨耗、超音波、水熱反応、ヒドロキシラジカルのいずれを用いて前処理を行なうことを特徴とする項1〜6のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
項8. 発酵液を採取した試料の単位体積当りのDNA量から求めたアーキア数+バクテリア数をモニタリングして、発酵条件を制御することを特徴とする項1〜7のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
項9. バイオガスの脱硫、ミストセパレーターによる水分の除去、高圧水洗洗浄、膜処理、PSAによるバイオガス中のメタンガス以外の成分の除去からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理を行い、メタンガスの濃度を向上させる工程を含む、項1〜8のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微細藻類から効率的にメタンを含むバイオガスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のバイオガスの製造方法を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、生物燃料のうち水分との分離を必要としない、エネルギー収支に優れた系として、湿式の嫌気性発酵処理による、微細藻類の燃料化方法を提供する。
【0017】
光合成によるCO2の同化と並行して、嫌気発酵後の発酵消化液等に含まれる有機炭素や資化性窒素化合物を活用し、従属栄養下での藻類の培養を行なうことで、藻体量を確保する方法を提供する。
【0018】
ユーグレナ、クロレラ、セネデスムス、クロロコッカムから構成される微細藻類は、いずれも野外やオープンポンドでの生育に実績があり、汚濁した湖沼など、劣悪な環境での自生も確認されている。またそれぞれが異なる培養適性を有しており、日照量、温度等の外的な環境変化に応じて、それぞれ優生種が変わり、藻体収量の確保という観点から、相互に補完し得る関係にあるため、外的な環境変化が起こる条件では混合藻類の培養が好ましく、培養環境が変化しない条件では、その培養環境に適した微細藻類を単独で用いるのが好ましい。
【0019】
ユーグレナ、クロレラ、セネデスムス、クロロコッカムから構成される微細藻類は、光合成可能な開放系で培養され、濃縮される。微細藻類の濃縮は、濾過、遠心分離などにより行うことができる。濃縮された微細藻類は、嫌気性発酵処理される。微細藻類は、嫌気性発酵槽に送られる前か、発酵槽内で超音波、ウォータージェット、ホモジナイザー、撹拌、機械的粉砕などの任意の破砕装置での破砕、界面活性剤、オゾン,ヒドロキシラジカル、紫外線,過酸化水素,水熱処理、電解法などを用いる化学的破砕処理などにより処理されるのが好ましい。本発明の微細藻類は、ユーグレナ、クロレラ、セネデスムス、クロロコッカム以外の藻類が含まれていても良い。
【0020】
嫌気性発酵については、従来のメタン発酵に用いられている菌体混合物(汚泥)及び嫌気条件、嫌気発酵槽がそのまま用いられる。
【0021】
本発明で製造されるバイオガスは、メタン、二酸化炭素、水(水蒸気)などが含まれるが、その他にアンモニアなどのガスが含まれていてもよい。二酸化炭素は嫌気発酵槽に戻されて、CO濃度の調整に用いてもよい。アンモニアなどの窒素源は、微細藻類の培養培地に供給・再利用されても良い。また、嫌気性発酵の消化液、工場(特に食品工場)、生活排水施設由来の有機排水は、嫌気発酵槽に戻されるか、或いは微細藻類の培養槽に供給されてもよい。
【0022】
pH、照度、培地組成、溶存酵素濃度、外気温、水温、CO2濃度、DNA量、などの測定は、 常法に従い行うことができる。嫌気発酵槽は、撹拌することでバイオガスの発生を促進するのが好ましい。
【0023】
微細藻類の栄養塩類は公知であり、必要に応じて培養液中に添加することができる。
【0024】
バイオガスには、硫黄分(硫化水素、SOなど)、水分、窒素分(アンモニア、NO、NOなど)、水蒸気、COなどのガスが含まれ得るので、メタン以外のガスを脱硫装置、ミストセパレーター、高圧水洗洗浄、膜処理、PSAなどにより除去してもよい。
【0025】
メタン発酵槽から放出される消化液固形分(ケーキ)は、栄養分を含むので、肥料として、或いは他の肥料と混合して農業用、園芸用などの肥料に使用することができる。この肥料は、植物の根毛の成長を促進するので、肥料として好ましい。消化液固形分を除いた後の液体成分は無機塩類などの微細藻類の増殖に有用な成分が含まれているので、微細藻類の培養液に戻してリサイクルすればよい。また、遠心分離等により藻体を分離した後の清澄液も同様に機塩類などの微細藻類の増殖に有用な成分が含まれているので、微細藻類の培養液に戻してリサイクルすればよい。
【0026】
本発明のバイオガスは、メタンガスを多く含むので、工場生産、施設園芸、都市ガスパイプラインなどに燃料として利用することができる。
【0027】
本発明の方法によると、光合成により増加した藻類がメタンガスに変換され、そのサイクルは永続的であるので、メタンガスの供給システムとして理想的である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
実施例1
(1)試料の調製方法
下記の条件で調製した基質に、メタン発酵プラントの消化液を種汚泥として混合し、14日間の発酵試験を行った。生成したバイオガスは水上置換法で定量した。
【0029】
【表1】

【0030】
(2) 各種成分の分析方法
分析法を以下に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
(3) 結果
(i)基質の分析結果
基質の分析は全てwet試料を用いて行った。基質の構成成分比を表3に示す。成分比から推定した熱量は、基質の湿重量1 kgあたり817 kcalまた乾重量1kgあたり6,390 kcalであった。
【0033】
【表3】

【0034】
(ii)バイオガス生産の分析結果
14日間でのバイオガス生産の結果を表4に示す。種汚泥由来のガス量を差し引きすると、微細藻類から生成したバイオガス量は149 ml、あった。これを基質投入量 約0.48 g-dryで除算すると、基質1 kg-dry当たりのバイオガス生成量は310.41 L/kg-dryであった。
【0035】
【表4】

【0036】
(iii)発酵前後の成分分析の変化(wetベース)
wet状態の試料を用いて、水分およびN、P、Kの各成分を定量した。表5にwetベースの分析結果を示す。
【0037】
【表5】

【0038】
N: 発酵前後のN成分濃度を比較すると、有機態窒素濃度が顕著に減少し、アンモニア態窒素濃度が増加していた。これは、タンパク質やアミノ酸などの有機態窒素がアンモニアに変換されたものと考えられる。
P: 発酵前後のN成分濃度を比較すると、大きな増減は見られなかった。
K: 発酵液中にK成分はほとんど含まれていなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ、クロレラ、セレデスムス及びクロロコッカムからなる群から選ばれる少なくとも1種の微細藻類を嫌気性発酵処理する工程を含むバイオガスの製造方法。
【請求項2】
微細藻類の藻体量並びに構成比率、優成種をpH、照度、培地組成、溶存酵素濃度、外気温、水温、CO2濃度のいずれかの環境要因の制御によって調整することを特徴とする、請求項1に記載のバイオガスの製造方法。
【請求項3】
微細藻類の藻体を構成する油脂、たんぱく質、炭水化物の成分をモニタリングし、藻体構成物質の組織並びに発熱量をpH、照度、培地組成、溶存酵素濃度、外気温、水温、CO2濃度のいずれかの環境要因の制御によって調整し、嫌気性発酵に供することを特徴とする、請求項1又は2に記載のバイオガスの製造方法。
【請求項4】
嫌気性発酵の生成物である消化液或いは工場もしくは生活排水処理施設から発生する有機排水中に含まれる栄養塩類を嫌気性発酵に用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
【請求項5】
バイオガスから分離したCO2を用いて嫌気性発酵の環境要因の制御を行う、請求項1〜4のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
【請求項6】
嫌気性発酵槽内の温度条件を摂氏33度から37度までの中温条件または摂氏50度から57度までの高温条件で水理学的滞留期間を30日以内とし、また発酵槽内を攪拌することにより、嫌気性菌と微細藻類との接触機会を増やすことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
【請求項7】
基質に含まれる細胞壁等の難分解成分を可溶化し、生分解性を向上させる手段として、機械的粉砕、攪拌による微細化、攪拌機が生ずるキャビテーション効果による磨耗、超音波、水熱反応、ヒドロキシラジカルのいずれを用いて前処理を行なうことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
【請求項8】
発酵液を採取した試料の単位体積当りのDNA量から求めたアーキア数+バクテリア数をモニタリングして、発酵条件を制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
【請求項9】
バイオガスの脱硫、ミストセパレーターによる水分の除去、高圧水洗洗浄、膜処理、PSAによるバイオガス中のメタンガス以外の成分の除去からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理を行い、メタンガスの濃度を向上させる工程を含む、請求項1〜8のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−234676(P2011−234676A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109391(P2010−109391)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(510129336)トランス・エナジー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】