説明

心臓ペーシングを含む装置、方法、およびシステム

ペーシング出力回路は、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達し右心室および左心室のペースを調整し、固有活動に対する少なくとも1つの心室の同期を向上させる心室ペーシング信号を生成するように構成することができる。一例では、心室ペーシング信号は、基準成分に対して互いに極性が反対の第1および第2の信号成分を含むことができ、第1および第2の信号成分は略同一の持続時間と大きさを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓ペーシングを含む装置、方法、およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ペースメーカはおそらく、心臓律動管理などの習慣的電気刺激を与える最も良く知られた装置である。最近のペースメーカは、治療を受ける患者内に植え込まれるように設計される。心臓刺激装置の他の例には、植込み型心除細動器(ICD)やペーシングおよび除細動機能を実行することのできる植込み型装置などがある。このような植込み型装置は、心臓律動の障害を治療するために心臓の選択された部分に電気刺激を与える。植込み型ペースメーカは、時限のペーシングパルスで心臓のペースを調整する。ペーシングパルスは、その他のペーシングパルス、または感知される(固有)電気活動に対して調整させることができる。適切に機能していれば、ペースメーカは、代謝需要に適切な律動で自身をペース調整できない心臓を補足するように最小の心拍数を強制させる。ペーシング装置の中には、収縮を連携させるために心臓の様々な部位に伝達されるペーシングパルスを同期化するものもある。連携された収縮により、心臓は十分な心出力を提供するように効率的にポンピングすることができる。臨床データが示すように、同期化された両心室ペーシングを通じて達成される心臓再同期の結果、心機能は大幅に改善する。心臓再同期療法は、心不全患者の心機能を向上させる。心不全患者は自律神経系平衡が低下しており、それがLV(左心室)機能障害や死亡率上昇に関連している。
【0003】
よく治療される症状は、速すぎる、あるいは遅すぎる心拍に関連する。心拍が遅すぎて大抵は除脈と称される症状につながるとき、固有心拍数を上昇させて症状を正常にするためにペーシングを使用することができる。大抵は頻脈と称される症状により心拍が速くなりすぎるとき、心臓自体の固有電気刺激は、特定の心筋器質に変化(たとえば、梗塞した、あるいは非伝導部位)がある場合、回路を発見して元の起動回路に再入し、新たな活動を再度開始させる。これらの再入回路は、望ましくなく、致死的ですらあり得る非常に高速な心拍を引き起こす可能性がある。この症状を正常にするために、特殊化されたパルスシーケンスまたはパルス列を使用することによって心臓律動の制御を回復するように、頻脈性不整脈速度よりも速い速度での抗頻拍ペーシング(ATP)を使用することができる。抗頻脈高速ペーシングを提供するシステムは、いったん心臓を制御すれば、正常な洞律動が固有心拍数を再び制御して低減させることを期待して、ペーシング速度を徐々に低下させることができる。ペーシングバーストは不整脈を心室細動へと加速させるおそれがあるため、抗頻拍ペーシングは通常、植込み型除細動器と組み合わせて使用される。
【0004】
除脈のペーシングを行う際、経皮的に配置されるペーシング電極は、心臓の右側チャンバ(右心房または右心室)に置くことができる。このようなチャンバには上大静脈、右心房、三尖弁を通り、右心室へと容易にアクセスすることができる。右心房と右心室両方のペーシングも開発された。こうしたデュアルチャンバ・ペーシングは右心室のみのペーシングよりも優れた血行動態出力をもたらした。除脈の治療に加えて、デュアルチャンバ・ペーシングは心房と心室間の同期性を保持した。
【0005】
右心室での配置のように直接的にアクセスできないので、左心室への電極配置は通常回避される。さらに、左心室での塞栓リスクは右心室よりも高い。電極配置が原因で左心室内で発現する可能性のある塞栓は、左心室から上行大動脈を介して直接脳へと伝わる。これは脳卒中につながりかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近の臨床証拠が示唆するように、従来の右心室心尖部からの心室ペーシングは、左心室および右心室の非同期収縮を生成することによって、不十分な機械的収縮と血行動態性能の低下を招く可能性がある。長期にわたる従来の右心室心尖部ペーシングは、心不全の進展および/または悪化の増進傾向と関連する場合がある。
【0007】
臨床の場では、抗頻脈ペーシングは、右心室心尖部に位置する除細動リードチップを用いて伝えることができる。除細動リードの一具体例は2つのコイルを有する。一方のコイルは右心室内に配置され、他方のコイルは心房または上大静脈内に配置される。抗頻脈ペーシング信号用の帰還電極はしばしば、除細動コイルの一方の端部または植込み型除細動器の缶の遠位のいずれかに位置するリングであることが多い。その目的は、ペーシング信号が、現行の頻脈の速度よりも速い速度でのペーシングによって頻脈に追いつくことにより、筋細胞を無反応にして、再入ループで頻脈の再出を止めることである。いったん高速抗頻脈ペーシングバーストが停止すれば、心臓は正常な洞律動に戻ると期待される。しかしながら、1つの問題は、この方法の効果が100%ではないことである。100%成功とはいかない理由は、ペーシング速度が頻脈速度よりも速いときでも、伝導遅延の存在のせいで心臓ペーシング刺激が(完全に)心臓を制御しないからだと考えられる。具体的には、ペーシング刺激の伝播が遅すぎるために、ペーシング電極から遠位の領域で頻脈が残存すると考えられる。この形式の療法が市場へ浸透するか、または必要とする患者へ使用できるかは、おそらくコストが高く複雑であるため非常に限定されている。
【0008】
米国で毎年心不全と診断される多くの症例のうち、多数が非収縮期心不全に分類される。駆出率(EF)が保持された心不全(HF)としても知られ、これらの患者は収縮期機能を維持している(たとえば、EF≧50%)。この疾患の罹患率は増加傾向にあり、老人、女性、肥満の人、高血圧患者、および左心室肥大患者に影響を及ぼすことが多い。駆出率が保持された患者はEFが低下した患者よりも問題が少ないことを示す以前の証拠にもかかわらず、EFが保持された患者の死亡率は相当高いと考えられる。EFが保持された患者は、EFが低下した患者と同じ症状を多く含むその他の問題を抱えるリスクがあることも証明されている。
【0009】
この文書では特に、上記の課題またはその他の課題を克服する装置および方法について説明する。本主題は様々な具体化および応用で例示されており、その多くが心室ペーシングによって恩恵を受ける特定の心臓症状にとって有益な、あるいは特に適したツールおよび方法を含むことができる。本文書は特に、心室ペーシングなどの心臓のモニタリングおよび治療を含むシステム、装置、および方法について記載する。より具体的には、本主題の態様は、患者の右心室に位置する1つまたはそれ以上の電極にペーシング信号を供給することによる患者の左心室および右心室のペーシングなどの、心機能を向上させる心臓律動療法の仕組みの利用を含むことができる。その他の例は、駆出率が保持された患者の治療に関係することがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施例は、右心室内のリードからの右心室および左心室の心室ペーシングを含む。実施形態は、その他の適用の中でも特に、再同期のためなどに機械的または電気的な同期収縮を簡易化する、あるいは心室ペーシング中の同期性(たとえば、左心室と右心室間)を維持するために使用することができる。具体例は、除脈治療のためのペーシングに関係することがある。
【0011】
一例では、患者は、心臓の正常な生理学的伝導系を直接刺激して伝導シーケンスを誘発することによって治療することができる。伝導シーケンスは、正常な心臓内で空間的にも時間的にも発見される伝導シーケンスに従うことができる。伝導シーケンスが正常な心臓の伝導シーケンスに従う程度は、筋細胞の状態、細胞外マトリックスの現行の組成、大きさ、梗塞による瘢痕組織の数および分布、心血流への冠動脈閉塞による虚血部位、および心筋器質の全般的な状態によって影響され得る。
【0012】
本主題の態様は、XSTIM波形とも称される2つの異極性波形(たとえば、0.01〜5msのパルス幅)を基準に対して2つの電極に同時に、または略同時に(たとえば、1〜20ms内)印加することに関係する発見に基づくことができる。ヒス束の根とプルキニエ系を貫通するだけでなく、複数の束の分枝上/下のヒス領域に達することができると発見されている。複数の束が貫通することによって、右心室、左心室、および中隔を通る比較的正常な伝導反応を生成することができる。これにより、心室の正常な生理学的伝導系における多くの伝導障害を迂回できる地点で、遠位束を電気的に活性化できる。
【0013】
実施例1では、装置は、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達し右心室および左心室のペースを調整し、固有活動に対する少なくとも1つの心室の同期を向上させる心室ペーシング信号を生成するように構成されるペーシング出力回路を含み、ペーシング出力回路は任意で、第1の信号成分を送達するように構成される第1の端子と、第2の信号成分を送達するように構成される第2の端子と、基準信号成分を送達するように構成される第3の端子と、を含み、第1および第2の信号成分は基準信号成分に対して互いに反対の極性で提供され、持続時間と大きさは略同一である。
【0014】
実施例2では、実施例1の装置は任意で、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達するように構成されるペーシングリードを含む。
実施例3では、実施例1および2のうち1つまたはそれ以上によるペーシング出力は任意で、少なくとも部分的に時間が重複する反極性の第1および第2の信号成分を提供するように構成される。
【0015】
実施例4では、実施例1から3のうち1つまたはそれ以上によるペーシング出力回路は任意で、第1および第2の信号成分の極性を繰り返し反転させるように構成される。
実施例5では、実施例1から4のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、ペーシング出力回路による第1および第2の信号成分の極性反転を制御するために使用される情報を提供するように構成される心機能センサを備える。
【0016】
実施例6では、実施例1から5のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、心房収縮を感知するように構成される心房感知回路と、ペーシングAV遅延を判定し、感知された心房収縮からのペーシングAV遅延を同調させるように構成されるコントローラ回路と、を含み、コントローラ回路は任意で、ペーシング出力回路が、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達し右心室および左心室のペースを調整し、固有活動に対する少なくとも1つの心室の同期を向上させる心室ペーシング信号を提供する間、ペーシングAV遅延が最大dP/dtの心出力に対して低減された心出力を提供するように規定される値に設定される一時モードを含む。
【0017】
実施例7では、実施例1から6のうち1つまたはそれ以上によるペーシングAV遅延は任意で、左心房収縮の完了前に僧帽弁閉鎖を可能とする値に設定される。
実施例8では、実施例1から7のうち1つまたはそれ以上によるペーシングAV遅延は任意で、所定の期間後に増加されて、心臓が低減された心出力で回復することができる。
【0018】
実施例9では、実施例1から8のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、ヒス束またはその近傍で右心室内のペースマッピング用に構成されるガイドカテーテルと組み合わされる。
【0019】
実施例10では、実施例1から9のうち1つまたはそれ以上によるガイドカテーテルは、いったん右心室に導入されれば、ガイドカテーテルの遠位部が1つまたはそれ以上の電極をヒス束またはその近傍位置に向かって方向づける所定の形状を取るように構成される。
【0020】
実施例11では、実施例1から10のうち1つまたはそれ以上によるガイドカテーテルは任意で、ガイドカテーテルが右心房から右心室内へと延在する間、挿入に応答して、血管中で前進しやすくするように構成される比較的直線的な第1の形状と、ヒス束またはその近傍で遠位電極を配置しやすくするように構成される比較的曲線的な第2の形状とを含む2つの異なる形状を取るように構成される。
【0021】
実施例12では、実施例1から11のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達するように構成されるペーシングリードと組み合わされ、ペーシングリードは可撓性であり、ガイドカテーテルは、ヒス束またはその近傍にペーシングリードの遠位部を配置するようにペーシングリードを前進させるように構成され、ペーシングリードの遠位部は固定機構を備える。
【0022】
実施例13では、実施例1から12のうち1つまたはそれ以上による固定機構が任意で、少なくとも2つの別々にアドレス指定可能な電極を心組織に直接接触して配置することができるように構成される。
【0023】
実施例14では、実施例1から13のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、習慣的ペーシングリードを心臓の右心室内のヒス束近傍の位置に導入および誘導することができるように構成されるガイド糸と、ガイド糸を回収するように構成される回収カテーテルと、組み合わされる。
【0024】
実施例15では、実施例1から14のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、心室収縮感知回路と、心室収縮感知回路に結合されるコントローラ回路とを含み、コントローラ回路は、心室収縮感知回路からの情報を使用して頻脈性不整脈を検出し、検出される頻脈性不整脈に応答して、ペーシング出力回路を制御して心室ペーシング信号を抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルスとして心臓の右心室内のヒス束近傍の電極に送達するように構成される。
【0025】
実施例16では、実施例1から15のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、コントローラ回路に結合される除細動ショック回路を含み、コントローラ回路は任意で、複数のATPパルスが頻脈性不整脈を非頻脈性不整脈心臓律動に回復させないときに除細動ショックを送達するように構成される。
【0026】
実施例17では、実施例1から16のうち1つまたはそれ以上によるコントローラ回路は任意で、基準電極に対してエネルギーを送達するために少なくとも心臓の右心室内の第1の電極を使用するため、心臓の心房の脱分極に応答して、反対の極性の第1の信号成分と第2の信号成分とを含むペーシング信号を生成するため、および抗頻脈ペーシング(ATP)にとって十分なペーシング速度で、前記第1の信号成分および前記第2の成分を前記少なくとも第1の電極に送達し、それに応答し収縮が右心室心尖部ATPパルスよりも迅速かつ均一な活性化である心臓の左心室の収縮を捕捉するために、ペーシング出力回路を制御するように構成される。
【0027】
実施例18では、実施例1から17のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、ヒス束またはその近傍で右心室内のペースマッピング用に構成されるガイドカテーテルと組み合わされる。
【0028】
実施例19では、実施例1から18のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、心機能モニタと、心機能モニタおよびペーシング出力回路に結合されるコントローラ回路とを含み、コントローラ回路は任意で、心機能モニタから受信する情報を用いてペーシング出力回路の少なくとも1つのペーシングパラメータを反復的に修正することによって所望のペーシングパラメータを少なくとも部分的に判定するように構成される。
【0029】
実施例20では、実施例1から19のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、心機能モニタと、心機能モニタおよびペーシング出力回路に結合されるコントローラ回路とを含み、コントローラ回路は任意で、心臓のペーシング中に、ペーシング出力振幅、QRS幅、AV遅延、脈圧、患者の移動、時間毎血圧の変化(dP/dt)、心室内圧、または肺動脈または肺静脈からのサロゲートエンド−拡張期血圧のうち少なくとも1つに関する、心機能モニタから受信する情報を用いて所望のペーシングパラメータを少なくとも部分的に判定するように構成される。
【0030】
実施例21では、実施例1から20のうち1つまたはそれ以上によるコントローラ回路は任意で、心機能モニタから受信する勾配捕捉応答性情報を用いて所望のペーシングパラメータを少なくとも部分的に判定するように構成される。
【0031】
実施例22では、実施例1から21のうち1つまたはそれ以上による装置は任意で、心房収縮感知回路と、心室収縮感知回路と、心房収縮感知回路、心室収縮感知回路、およびペーシング出力回路に結合されるコントローラ回路と、を含み、コントローラ回路は、感知された心房収縮に応答してペーシングを行うペーシング出力回路を制御する心房追跡モードを備え、基礎的な心室律動がペーシングが作動可能となる心房追跡モード中に得られる心室律動と十分に相関していないとコントローラが判定するとき、基礎的な心室律動を感知するペーシングを阻止し、心房追跡モードを出るように構成される。
【0032】
上述したように、上記態様および実施例は、本明細書の開示の範囲または教示を制限するものとして取り扱うべきではない。当業者であれば、本明細書に特定される様々な発見に部分的に基づき、本発明が上記態様および実施例を含むがそれに限定されない多数の形で具体化可能であると認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明は、本発明と一致する以下の図面と組み合わせて以下に提示されるように、本発明にしたがい記載される各種例示的な実施形態の詳細な説明を検討することで、より完全に理解することができるであろう。
【図1】本発明の一実施形態による心臓とヒス領域および偽ヒス領域との断面図。
【図2】本発明の一実施形態による心臓断面図上のペーシング位置を示す図。
【図3】本発明の一実施形態によるペーシング波形を示す図。
【図4】本発明の一実施形態によるガイドカテーテルを示す図。
【図5】本発明の各種実施形態によるペーシング用装置の例を示す図。
【図6】本発明の一実施形態によるIVCベースのペーシング植込み用のカテーテルの例を示す図。
【図7】本発明の実施形態によるペーシングリードの例を示す図。
【図8】本発明の一実施形態によるペーシングリード構造の例を示す図。
【図9】本発明の一実施形態によるヒス束近傍に配置される電極を使用して感知される心房波の例を示す図。
【図10】本明細書に記載の方法によるペーシングを伴う、および伴わない患者の左心室内圧の比較を示す図。
【図11】心臓治療を提供するシステムの一例を概略的に示す図。
【図12】被験者に植え込まれるように構成されるIMDを含むシステムの部分の例を概略的に示す図。
【0034】
本発明は様々な修正や代替の形状に変更可能であるが、各種実施形態を例示のために図解し、以下詳細に説明する。しかしながら、それは説明される特定の実施形態に本発明を限定することを意図していないと認識すべきである。対照的に、本発明の精神と範囲に属するすべての修正、等価物、および代替物を対象とすることを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本主題は、様々な異なる種類の装置および方法に適用可能であると考えられ、心室の活性シーケンスの正常な伝導を維持する、あるいは再確立するのに特に適すると考えられる。このような伝導は、空間と時間の両方の分布において向上させることができる。これは、右心室に導入されるリードから達成することができる。一例では、リードは、三尖弁の中隔尖の根の背後に電極を配置させることができる。正確なペーシング位置は、迂回させることが必要な伝導ブロックの位置に左右し得る。このペーシングは、伝導回路を遮断することにより異常を引き起こしている束繊維の位置に左右し得る。多くの患者において、この位置は三尖弁の中隔尖と、繊維心房−心室および心室中隔に接近していることがある。本主題は必ずしも上記応用に限定されるわけではないが、主題の様々な側面はこのコンテキストを用いる様々な例の説明を通じて認識され得る。
【0036】
本発明者らは、特に、様々な方法および装置が、ヒス根および遠位束への電気刺激の深い透過を促進する助けとなり得ることを認識している。この透過は、左脚とその分枝、右脚とその分枝、および中隔束を含むことができる。様々な種類の脚ブロック(たとえば、右脚ブロックRBBB、近位および遠位、左脚ブロックLBBB、近位および遠位、左脚前枝ヘミブロックLAHB、近位および遠位、左脚後枝ヘミブロックLPHB、近位および遠位、心室内伝導障害IVCD、左軸偏位のRBBB、およびその他の種類の複雑な伝導障害)を電気的に迂回するのに特に有益であり得る。一例では、本主題は、XSTIMなどの波形の、ヒス束近傍の伝導系に深く透過する能力および使用に関連させることができる。たとえば、XSTIM波形を使用することで、その他の波形よりも大きな仮想電極を生成し、身体のキャパシタンスを克服することができると考えられる。
【0037】
ヒス束近傍の伝導系は、それぞれが電気絶縁体によって包囲される複数の導電体群とみなすことができる。よって、伝導系に導入されるペーシング信号は、導電体間のキャパシタンスによって影響を受け得る。導電体は導電体の細胞から細胞へ縦方向に電気刺激を伝達することができるが、束内で横方向の導電性はほとんどない。しかしながら、戦略的に配置される細胞間の架橋によって、電気刺激がある束から別の束にジャンプすることができると考えられる。この機構は、特定の束がたとえば梗塞または微小梗塞により作用を停止する場合に何らかの冗長性を提供すると考えられる。束はプルキニエ繊維での目的地に向かって進みながら複数の伝導繊維のセットに分岐する。繊維セットは特定された組織によって心筋の残りから電気的に絶縁されて、特定された伝導系を通過する電気パルスからの周囲の筋細胞の電気的脱分極を防止する。この導電体と絶縁体の組み合わせは分散キャパシタネットワークを有効に形成し、横方向に切断されてヒス束は少なくとも2つの直列キャパシタの中間にあると考えられる。ヒス束細胞の細胞膜は絶縁体でもあるので、ヒス束細胞内の間質液はまだ別のキャパシタ内にある。
【0038】
XSTIM波形は比較的大きな仮想電極を提供し、その非対称なドッグボーン形状は波形の極性に影響を受け、それ以後、波形の透過は2つの電極に印加される相対極性を変更することによって調節することができる。XSTIM波形は、キャパシタを迂回することのできる高周波刺激エネルギーも提供する。よって、XSTIM波形はヒス束に深く透過することができると考えられる。XSTIM波形の2つの異極性パルスを使用する際、パルスは時間的に(全体的にまたは部分的に)重複するように提供することができる。このようなパルスは必ずしも重複させる必要はない。たとえば、パルスは数ミリ秒(たとえば、0〜20ms)分離させることができる。よって、波形は、さもなければ到達不能とみなされていた、繊維、さらには遠位繊維まで透過し到達するのを助けるように様々な異なる構造の中から選択することができる。
【0039】
さらに、実験データを通じて、心筋およびヒス束に対する単独の捕捉閾値がないことが発見された。実際、多数の患者の反応は、ペーシング電圧の増大に伴い変動する。XSTIM振幅が閾値下値から次第に増大すると、心室を活性化する脱分極シーケンスを始動する第1の捕捉閾値が発見される。この脱分極シーケンスは、心筋組織の相当量の細胞間伝導を利用することが多い。多くの患者では、ヒス束のいくつかの(または追加の)繊維が捕捉される第2のペーシング閾値が存在する。この第2のペーシング閾値は、ヒス束のすべてに到達しない、あるいはヒス束のすべてを捕捉しない場合が多いと考えられる。たとえば、心室伝導欠損の患者では、XSTIMペーシング振幅がさらに増大すると、心電図(ECG)、QRS幅、分画レベル、および12リードECGのベクトルにおける連続的変化が観察された。最終的に、飽和点に達し、改善がほとんど見られなくなるか全く見られなくなる。入念な位置決めと振幅レベルの選択とを通じて、ペーシング刺激が伝導系の中で最も遠くでブロックされた繊維に到達することにより、収縮を略正常なレベルに調整することができると考えられる。
【0040】
正常な伝導反応を達成できるか否かは、梗塞の数、筋細胞退化、ミトコンドリアの可用性、血液供給、間質性線維症の存在、メタロプロテアーゼマトリックスの劣化などを含むがそれらに限定されない基質の健全性に依存する場合がある。これらのおよびその他の発見が示唆するように、類似の効果は様々な波形と、容量ネットワーク(たとえば、高周波信号成分により)を横切るように設計される電極構造とで達成することができる。有効キャパシタンスは、活動電位(0.01〜20ms)を起動するのに十分な周波数成分を含む高周波成分にとっては低い。いくつかの波形は類似の効果を達成するのにさほど効率的ではなく、より多くのエネルギーを使用するかもしれないが、本主題は最も効率的な波形の適用に限定されない。
【0041】
本主題の特定の実施形態は伝導障害を迂回して、保持された駆出率と心室伝導障害を有する患者の心機能と心不全を改善させることに関する。ヒトの研究データが示すように、ヒスペーシングはEFが保持された心不全患者の血行動態反応を改善させた。このペーシングはXSTIM波形を用いて実行された。これらの患者は生理学的心拍数反応から恩恵を受けることができると考えられる。
【0042】
一実施形態では、心房の速度応答性ペーシングは、心室のヒスペーシング、XSTIM、またはそれ以外と組み合わされる。
本主題の別の実施形態は、伝導障害および駆出率が保持された心不全を有する患者のヒス束の根近傍の伝導障害を電気的に迂回する電気刺激を用いた療法に関する。
【0043】
心不全で入院した全患者の中で、心不全にもかかわらず、全体の約50%が駆出率を保持している。つまり、各拍動で駆出される心室の総容量は、一対の対応物にあるのでさほど重大に低下していない。これらの患者は収縮期機能が低下したと考えられる、駆出率の低下した心不全患者とは対照的に、拡張期機能障害を有すると思われる。異なる心室内伝導障害がいずれの患者群でも一般的に生じる。
【0044】
これらの伝導障害を電気的に迂回することが(たとえば、ヒス束領域またはその近傍で電気的に刺激されたとき)いずれかの患者群でも可能であることが発見された。上記の伝導障害はヒス束の遠位であり、近位のヒス束の欠陥のみがヒス刺激により迂回可能であると教示されるため、これは特に驚くべき発見である。さらに、拡張期機能障害の患者群の場合、心室伝導障害を迂回できる場合でも、収縮期機能を改善可能であることが発見された。欠陥は拡張期機能ではなく収縮期機能にあると以前は考えられていたため、これは驚くべき発見である。
【0045】
ヒス束の根領域に十分深く透過できるXSTIMまたはその他の波形でこれらの心室伝導障害を迂回することによって(電気バイパスペーシング、すなわちEBP)、駆出率(EF)が保持された心不全(HF)患者において拡張期機能を改善させるだけでなく収縮期機能も改善させることができると発見された。
【0046】
本主題の実施形態は、上記の発見を活用することができる。一実施形態では、心房心室ペースメーカが実現される。ペースメーカは近傍ヒス電気バイパスペーシング(EBP)を利用し、EFが保持されたHF患者において拡張期機能および収縮期機能の両方を改善するのに特に有効となり得る。1具体化では、機械的同期性は、近傍のヒス根ペーシング用に使用されるリードおよび電極から、異なる電極を有する同一のリードから、あるいは心房活動感知用に心房に配置される別の特別なリードのいずれかから、心房活動を感知することによって心房収縮と心室収縮間で維持させることができる。その後、EB用の心室ペーシングは、電導を洞ノードからAVノードのヒス側へ伝播させることのできる短期間のAV遅延後に始動させることができる。このAV遅延は、AH(心房ヒス束)間隔を測定し、AV遅延をプログラミングすることによって算出することができる。具体化の一例では、AH遅延は約10ミリ秒(ms)程度にすることができる。
【0047】
図1は、心臓とヒス領域および偽ヒス領域との断面図の一例を示す。具体的には、図1は心臓の右側の図の例であり、ヒスおよび偽ヒスペーシング部位が点線で示される。これらの領域は実験データ用のペーシング箇所が収集される大体の部位を示す。
【0048】
図2は、心臓のいくつかの断面図上のペーシング箇所の位置の例を示す。上側の図は、AVノード、ヒス束、および右脚を含む伝導系の一部を含む断面図の例である。下側の2つの図は、上側の図の伝導系の部分に対する垂直図である。
【0049】
本主題の一例では、パルス発生器は、第1および第2の電極にそれぞれ印加される第1および第2のパルス波形W、Wを備えるXSTIM波形を生成するように構成することができる。図3は、このようなパルス発生器によって生成される信号と一致するこのような波形W、Wの例を示す。限定目的ではなく一例として、パルス持続時間(PD)は約0.1〜2.0ミリ秒とすることができ、振幅Aは0.1ボルト〜10または20ボルトとすることができ、パルス間の時間遅延TDは目標心拍数(たとえば、毎分50〜200回の拍動)に対応させることができる。
【0050】
パルスは矩形波として示されているが、実際には、様々な幾何学形状であればいずれの形状であってもよい。図3では、第1の電極は正に荷電したパルスのみを提供することができる。第2の電極は、正の電極の正に荷電したパルスと一致するように同調させることのできる負に荷電したパルスのみを提供することができる。直流(DC)パルスが示されるが、電極は交流パルスで励起することができ、電極への信号は位相がずれているため、第1の電極上の正のパルスは第2の電極の負のパルスと一致し、第1の電極上の負のパルスは第2の電極上の正のパルスと一致する。
【0051】
波形W、Wは、同時に、または互いに位相をずらして提供することができる。波形W、Wに示された第1のパルスセットは部分的重複持続時間(OD)を表す。この第1のパルスセットでは、ODは正の値である。図示しないが、この重複は、ODがパルスの持続時間全体と等しい正の値であるときは完全重複とすることができる。第2のパルスセットは、1パルスの開始が別のパルスの終了と一致する(OD=0)ようにさらに位相をずらされる。第3のパルスセットは、セットの第1のパルスの終了後にパルスの先端が生じるように位相をずらされたパルスを含む(ODが負の値である)。
【0052】
よって、各種具体化の場合、時間の少なくとも1部は電極の1つと基準電極との間に単極ペーシングを含むことができる。このペーシングは、位相ずれ単極フィールドを生成する。ODの値はパルス全体長(たとえば、約2ミリ秒)から数ミリ秒の負の値(たとえば、約−2ミリ秒)までの範囲を取ることができる。図3には明確に示されていないが、負または正のパルスのいずれかはそれぞれ別のパルスを導くことができる。また、2つの波形の大きさは等しく図示されているが、実際には等しくある必要はない、あるいは必ずしも厳密な矩形波として実現される必要はない。比較的緩やかな低下または上昇時間の非矩形波パルスの場合、ODはそれに応じて算出することができる。一例では、ODは各パルスの上昇/低下の開始または終了時から算出することができる。他の例では、ODは各パルスが特定の電圧レベルに達したとき、あるいはいったんパルスがある期間中に特定の電圧レベルを維持したときから算出することができる。
【0053】
本発明者らは、特に、ペーシング閾値が時間と共に変動することを認識した。理論上の制約を受けない限り、このような閾値変化の潜在的原因は多数あり、そのいくつかを以下説明する。
【0054】
電気刺激は、(たとえば、金属)電極に印加される電位を変更することで始動される交流イオン流によって生成することができる。この電圧印加により、心臓内の可逆性および非可逆性の電気化学反応の両方を生成することができる。このような電気化学反応の効率は、反応が生じるのに必要なイオン種の利用可能性に依存する可能性がある。ヒス束の遠位ブロックの迂回は、特定の刺激波形、構造、および形状を用いることによって簡易化することができる。具体的には、刺激波形は、束の遠位繊維に十分透過させて電気バイパスに影響を及ぼし得るように選択することができる。特定の具体化では、たとえば、三尖弁の中隔尖の中隔側近傍のヒス束領域のペースマッピングのように、比較的高レベルな電流を刺激部位に提供することができる。
【0055】
高透過刺激と関連する課題は、金属からインタフェースに存在する電解液および間質液への効率的なエネルギー伝達を生成するのに過剰に多い反応物が使用され得ることである。これにより反応が枯渇して、結果的に捕捉閾値が明らかに上昇する現象が生じる可能性があると考えられる(たとえば、同一電圧で同一のペーシング−有効性を達成できない)。電気バイパスの場合、明らかな捕捉閾値上昇は、遠位繊維が刺激されていないことを示す可能性がある。この結果、遠くの繊維が波形および使用されている波形構造の影響領域から降りるにつれ、電気バイパスの効率は漸減すると考えられる。
【0056】
もう1つの起こり得る課題は、緩やかに上昇するペーシング波形を調節する神経の特性であり、ペーシング波形が強度または電圧においてより迅速な上昇を発揮した場合よりも励起の閾値が大きくなる。この作用は神経の調節作用と称されることがある。論理上制約されない限り、このような調節作用は、ペーシング閾値を上昇させる際にある役割を果たす場合がある。たとえば、身体の固有キャパシタンスは、波形に対する有効な刺激速度を低減させるとともに、キャパシタンスによって保存される有効残留電圧を上昇させることができる。よって、電圧の有効な変化は、速度(dV/dt)に対して、および/または電圧の有効な変化(たとえば、残留電圧による)に対して低減させることができる。
【0057】
この作用は、極性または電流の流方向を交番することによって最小化することができる。たとえば、様々な種類の反応物がペーシングサイクル中に刺激極性に対して使用されると考えられる。したがって、極性または電流の流れの交番は、それらの反応物のための時間を補充できるようにするのに有効であり得る。この種の刺激の付加的利点は、2つのペーシングサイクルが検討されるときに電極間の正味電流流がないことである。これにより、たとえば正味電流が印加されるとき、さもなければ生じるであろうメッキまたは金属蒸着効果を低減する、あるいは排除することができる。課題が組み合わされると、たとえばペーシング装置の漏れ電流(たとえば、容量漏れによる)によってペーシング刺激間でさえ、電流が存在する可能性がある。何年間も同じ電極を用いてペーシングを行う装置にとって、このことは特に問題である。
【0058】
一例では、第1のペーシングパルスはペーシングカテーテルの先端に接続されるパルス発生器の出力の正数およびパルス発生器の出力の負数と共にペーシングカテーテルのリングに送ることができ、第2のペーシングパルスはペーシングカテーテルの先端に接続されるパルス発生器の出力の負数およびパルス発生器の出力の正数と共にペーシングカテーテルのリングに送ることができ、第3のペーシングパルスはペーシングカテーテルの先端に接続されるパルス発生器の出力の正数およびパルス発生器の出力の負数と共にペーシングカテーテルのリングに送ることができるなどして、心臓に送られるペーシング刺激毎に極性を交番する。
【0059】
一例では、電極の少なくとも1つがペーシング箇所から相当距離離して配置することができる。たとえば、ペーシングパルスは、ペーシングカテーテルの先端とパルス発生器の缶との間に送信することができる。これらの地点間の極性は、たとえば交番のように所望に反転させることができる。別の例では、ペーシングパルスは、ペーシングカテーテルの先端と別のリード上に位置する別の電極との間に送信することができる。その他のリードを、心臓内または身体の他の位置に置くことができる。
【0060】
一例では、極性を周期的に交番することができる。たとえば、極性はN回の拍動毎に交番させることができ、Nは2回以上の拍動として定めることができる。Nの値は医師または装置メーカによって設定することができる。
【0061】
一例では、Nは拍動の回数ではなく特定の期間とすることができる。一例では、極性はN回の拍動/時間後に交番させ、M回の拍動/時間後に再度交番させることができる。たとえば、特定の極性は好適な極性とみなすことができる。よって、Nが好適な極性を表す場合、NをMより大きくすることによって、時間の大半で好適な極性を使用することができる。特定例では、Mは1回の拍動、または同様に短時間と等しくすることができる。よって、極性はいまだ反転可能であるが、一例では比較的短い間のみである。
【0062】
一例では、極性の交番はセンサまたはその他の入力に応答させることができる。たとえば、ペーシング捕捉の部分的または完全な欠如はセンサによって検出され、ペーシング波形の変更を始動するのに使用することができる。一例では、ペーシング波形の変更は、波形の極性の変更を含むことができる。刺激強度、刺激持続時間、および波形形態を含むその他の波形変化を実行することができるが、それらに限定されない。これらのペーシング波形の変更は、互いに無関係に、あるいは様々な組み合わせで実行することができる。
【0063】
一例では、使用される波形は双極波形とすることができる。第1の拍動中、正相はまずより近位のリング電極に適用されて、第2の拍動中、正相はまずより遠位のチップ電極に適用することができる。本明細書に記載の例は単相または二相波形で実行することもできる。
【0064】
本発明者らは特に、両心室ペーシングを使用する再同期療法が心臓の収縮同期性とは関係なく心臓の心室の前負荷に対して通常は最適化されないことも認識した。たとえば、このような療法の目的は、心臓の可能な限り最大の領域をほぼ同時に活性化することである。これには通常、3つの活性波面が最適な場所で時間および空間上衝突する時間によって決定されるペーシングが含まれる。この最適衝突は、1)右心室リード内のペーシングスパイクから、2)左心室リードのペーシングスパイクから、および3)AVノードから生じる正常に伝導された活動から(たとえば、大多数の非AFおよび非3度AVブロック患者において)の3つの活性波面に依存するので、AV遅延の選択によって大きな影響を受ける可能性がある。よって、AV遅延の選択による前負荷の最適化は同期性に影響を及ぼし、その逆もまた同様である。
【0065】
ヒス電気バイパスを使用して、収縮の同期性は、固有AV遅延以下であるほぼすべてのAV遅延で達成することができる。このような同期性は、心室の物理的に異なる場所で励起されている異なる場所から生じる波面の最適衝突に依存しない。これにより、実行者は同期性に関係なく前負荷を最適化することができる。
【0066】
心不全患者では、心臓が非常に悪い場合が多い。このような状況で、心臓の負荷を低減することは、心臓を回復させるのに望ましいであろう。たとえば、心臓の負荷低減は、心不全に関連する劣化プロセスを停止させ、あるいは逆転すらさせることによって心臓の回復を可能にすることができる。さらに、この負荷低減は不適応機構(たとえば拡張)を治療し、さらには不適応機構の逆転すら可能にするために使用することができる。したがって、非常に重症な心臓の場合、身体が運動能力を最大化させるのに心臓が提供可能な心出力を最大化(たとえば、心出力またはdP/dtmaxの最大化のためのAV遅延最適化)するよりも、心臓の負荷を低減し、その回復を可能にするようにAV遅延を調整することができる。
【0067】
本主題の態様は、左心室および右心室の収縮の同期性を維持しつつAV遅延を低減する(それにより前負荷を低減する)のに有益であり得る。この同期性は、心臓の後半に活性化される領域での最大応力を低減にするのに役立てることができる。この応力は拡張などの多くの不適応代償プロセスの主な原因であり得ると考えられる。したがって、治癒プロセスは、収縮の同期性の向上から生じると期待される。AV遅延を小さな値に設定することによっても、心臓に係る応力は同期性のみに比べて改善させることができる。
【0068】
一例では、固有AV遅延は心エコー検査によって決定することができる。ペーシングAV遅延は、左心房収縮の終了とそれに関連する僧帽弁の閉鎖に対して設定することができる。たとえば、ペーシングAV遅延は、左心房収縮の終了前に僧帽弁を閉鎖させることができない可能な限り短い値に設定することができる。その後、この短期間のAV遅延は、病気の心臓を回復させるなど所定期間、装置によって持続させることができる。たとえば、短期間のこのAV遅延は、医師によって決定されるように数週間実行させることができる。時間の長さは、たとえば患者の状態や心臓の回復予測時間に応じて変動する可能性がある。一例では、短期間のAV遅延期間は、たとえば1つまたはそれ以上の徴候の重症度に応じて2〜50週間の範囲を取り得る。期間終了後、AV遅延を増加させることによって心出力(たとえば、dP/dt)を増加させることができる。一例では、AV遅延は(たとえば、1週間に1〜100msずつ)漸増させることができる。これは、装置に内蔵された自動的な増加とすることができ、たとえば回復した心臓にとって最適な前負荷が達成されるまで継続することができる。一例では、最適な前負荷は運動能力を最大化する、あるいは心出力を最大化する前負荷として定義することができる。
【0069】
一例では、装置に、最初の短期遅延とより長期のAV遅延目標とをプログラムすることができる。AV遅延目標は、短い値から長い値へAV遅延を緩やかに増加させることによって最終的に到達することができる。一例では、AV遅延目標に到達するのに必要な期間は(たとえば、臨床判断を利用して)医師によって決定することができる。
【0070】
一例では、測定はドップラ心エコー検査を用いて容易に行うことができる。このようなAV遅延の最適化により、心臓はたとえば逆転の再構築の可能性を高めるため、低い前負荷で機能することができる。心臓が改善または逆転再構築を示せば、その後、AV遅延は1つまたはそれ以上の技術(たとえば、ECG、RV圧、LV dP/dt、ECG測定、LVEDPなど)を使用して設定可能な設定値まで増加させることができる。
【0071】
本発明者らは特に、本主題の態様がヒス束の根近傍へのペーシングカテーテルの位置決めを簡易化することができることを認識した。ガイドカテーテルは上大静脈を通じた植込みを可能にする。ガイドカテーテルは、いったん右心室に挿入された電極が右心室内の三尖弁の中隔尖の後面、たとえば弁を支持する環の真裏近傍に向けられるように、半剛体の予め成形された設計を有することができる。
【0072】
一例では、ガイドカテーテルは、たとえば右心室への導入を可能にするため、予め成形された部分を直線化することのできるガイドワイヤを用いて導入することができる。いったんガイドカテーテルが右心室内で位置決めされれば、ガイドワイヤはゆっくりと取り外すことができる。ガイドワイヤを取り外すことで、ガイドカテーテルは予め成形された形状を取ることができる。一例では、ガイドカテーテルは、心室の心尖部に向かう比較的直線的な構造から湾曲構造へと移行することができる。さらに、ガイドワイヤを取り外し、ガイドカテーテルをさらに押し込むことで、カテーテルは右心室心尖部上で旋回し、三尖弁の中隔尖に向かって自ら逆進することができる。その後、ガイドワイヤを取り外し、たとえばガイドカテーテルの先端が三尖弁の中隔尖と心室中隔との間に配置されるまでガイドカテーテルを押し込むことができる。この時点で、ガイドカテーテルの先端(またはその近傍)にある電極は、遠位ヒス伝導ブロックの電気バイパスが最も適切に達成され得る正確な箇所に位置決めするようにペースマッピングのために使用することができる。一例では、永久プラス固定ペーシングカテーテルのチップ電極をこのペースマッピングのために使用することができる。いったん最適箇所が選定されれば(たとえば、患者の収縮期血圧を用いて、12リード心電図または単独のリード心電図のQRS幅を用いて、あるいは心電図によって表されるベクトル方向を用いて)、植込み型ペーシングカテーテルは、たとえば先端が中隔壁または最適箇所で三尖弁の環に触れるまで、ガイドカテーテルの管腔を通って導入させることができる。その後、ペーシングカテーテルは最適箇所で装着する(たとえば、露出したねじ込み式カテーテルまたは伸縮自在なねじ込み式カテーテルを用いてねじ込む)ことができる。次に、その手順は、ガイドカテーテルを引き抜き、ペーシングカテーテルを適所に残すことを含むことができる。この最後のステップは、以下の3つの方法を含むがそれらに限定されない多数の方法により達成することができる:1)ガイドカテーテルの管腔に嵌合したペーシングカテーテルの端部のコネクタを用い、次に、ねじ込まれたペーシングリードを取り外さないようにゆっくりと注意深くガイドカテーテルを引き出す、2)(1)と類似するが、長い(たとえば、ペーシングリードの2倍の長さ)保持ワイヤでペーシングカテーテルを保持しつつ行う、および/または3)ガイドカテーテルに切れ目を入れて、引き抜く医師が工場での事前切断を仕上げる特殊ツールを保持して半分に切断することによって、引き出しながらガイドカテーテルの引き剥がしを可能にする。
【0073】
図4は、本主題の一例によるガイドカテーテルの例を示す。ガイドカテーテルは、ペースマッピングとその後の比較敵永久的なペーシングリードの配置とを簡易化することができる。このガイドカテーテルは、1つまたはそれ以上のペーシング電極をヒス束近傍の中隔壁に同時に提供しつつ、ガイドカテーテルが中隔壁に対して略垂直な角度で心室に侵入できるような一連の湾曲部を含むことができる。
【0074】
本発明者らは特に、本主題の態様が抗頻脈に関連し得ることを認識した。本発明者らは、(たとえば、XSTIMまたは遠位繊維を含む束の透過を可能とするその他の波形で)ヒス束の根近傍のペーシングが遠位束ブロック、さらには拡散ブロックまでも迂回できることを認識した。この発見に基づき、正常な伝導系を使用することで、以前は尖部ベースのペーシングを必要とすると考えられていた伝達障害を有する心室を活性化することができる。本発明者らは特に、この新たな形のペーシングは抗頻脈ペーシング(ATP)に適用可能であり、伝導ブロック、さらにはヒス系の左脚より遠位にあると推定されるブロックまでも電気的に迂回できる能力によって、さらに高速な伝播時間になるという利点を提供することを認識した。このさらに高速な伝播時間は、正常な伝導系を使用してペーシング刺激の心臓への送達を促進することによって抗頻脈ペーシングの高い成功率を達成するうえで特に有益であり得ると考えられる。概して言えば、伝導系は、さもなければたとえば心尖部位置から得られる細胞間伝導よりもずっと速くペーシング信号を送達する。
【0075】
本主題の実施形態は、ATPなどの除細動バックアップを含む装置、ならびに除細動バックアップを含む必要のない装置を含むことができる。これにより、たとえば除細動ショックバックアップの存在を必要としない患者のために、より安価な装置の使用が可能になる。本主題の一例によると、この形の療法は、頻脈発症を回復させる両方を提供することができる。
【0076】
図5は、本主題の各種実施形態によるペーシング用装置の例を示す。一例では、信号発生器は、たとえばリード402、404および/または406に各種信号成分を提供することができる。リード402は、伝導障害の電気バイパスおよび/または心臓の自然伝導系の利用を可能にするように設計および配置することができる。任意のリード404および/または406は様々な目的で使用することができる。たとえば、リード404は除細動を提供するために使用することができ、リード406は心房内のペーシングおよび/または感知のために使用することができる。
【0077】
本主題の態様は、下大静脈(IVC)を通じたペーシングカテーテルの挿入を含む方法および装置の使用に関連させることができる。IVCには、(たとえば大腿静脈を介して)鼡径部を通じて到達することができる。図6は、たとえばIVCベースのペーシング植込み用のカテーテルの一例を示す。マッピングカテーテル410は、IVCを通り心臓の右側へ前進させることができる。マッピングカテーテル410は、たとえば心臓にペーシング成分を送達するための1つまたはそれ以上の電極412、414を含むことができる。目標ペーシング位置の決定後、管腔416は、たとえば目標位置への固定のために有刺ガイド糸418を前進させるために使用することができる。その後、マッピングカテーテル410は取り外すことができる。
【0078】
ガイド糸回収装置420、422はガイド糸を回収するために使用することができる。これは、異なる進入点を用いる、たとえば、鎖骨下静脈カテーテル留置(SVC)を用いることによる、より永久的なペーシングリードの導入にとって特に有効である。一例では、管腔420はガイド糸の近傍に回収フック422を誘導する。回収フック422によって、異なる進入点を通じてガイド糸を回収することができる。その後、ガイド糸回収装置420、422は取り除くことができる。
【0079】
その後、糸上ペーシングリード450は、たとえば回収されたガイド糸418を使用することによってペーシング位置に挿入することができる。糸上ペーシングリード450は、1つまたはそれ以上のペーシング電極452および454を含むことができる。固定機構456は、目標ペーシング位置でペーシングリードを心組織に装着するために使用することができる。
【0080】
本主題の態様はペーシングリードおよびその装着機構に関連させることができる。このようなペーシングリードの例を図7に示す。一例では、ペーシングリードは、ペーシング成分を送達するために使用される1つまたはそれ以上の電極(102、104)を有することができる。これらの電極は心組織と直接的に物理接触することが望ましいであろう。たとえば、心組織との直接的な物理接触は、電極と心組織間の低インピーダンス電気接続を生成する助けとなり得る。直接接触によって影響を受け得るその他の要素には、信号反射や電気刺激の透過深度などがあるがそれらに限定されない。また、ペーシング電極の位置は、心臓への固定前に容易に操作されることが望ましいであろう。たとえば、本主題の態様は、たとえば目標ペーシング位置を決定するための各種ペースマッピング法と共に使用することができる。電極102、104は、様々な異なる配向および形状で実現することができる。一例では、電極102、104は、ペーシングリードの長手部分の外側に配置することができる。電極102、104はたとえば両ペーシングリードが同時に心組織と直接接触できるように、ペーシングリードに外接させる、あるいはペーシングリードと略同じ側に配置することができる。
【0081】
一例では、固定機構106はペーシングリードを心組織に固着させることができる。一例では、固定機構106は、心組織に埋め込み可能な1つまたはそれ以上の歯または螺旋物を含むことができる。固定機構106の配向および位置は、いったんペーシングリードが心組織に固定されれば、電極102、104が心組織と物理的に接触するのを確保するように選択することができる。いくつかの異なる電極および固定位置を図7に示す。これらは単に例であり、様々なその他の組み合わせおよび構造も可能であるのは自明である。たとえば、3つ以上の固定歯があってもよい。別の例では、固定機構106は、刺を含むがそれに限定されない1つまたはそれ以上の異なる形状を取ることができる。
【0082】
一例では、固定機構106は、固定が所望されるまでカテーテル本体内に(部分的に、あるいは完全に)収容させることができる。いったん固定が所望されれば、固定機構106は経路を通じて心組織まで延長させることができる。固定機構106の様々な図示の横の矢印は、心組織(たとえば、中隔壁)への進入のための移動方向の例を示す。延長を始動させるカテーテルの構成要素を回転させる、あるいは押し込むことによって延長させることができる。この構造はカテーテルを使用するペースマッピングを簡易化し、その後、固定機構の選択的延長を実行することができる。
【0083】
バネ式固定機構などその他の各種構造も可能である。一例では、固定機構106は、留置中にカテーテル内に配置し、固定後に経路を通って延長させる必要はない。たとえば、固定機構は、中隔壁に沿ったカテーテルの移動を大幅に阻害しないようにペーシングカテーテルの外側に配置することができる。いったん所望の位置が達成されれば、固定機構106は、カテーテルをより永久的に固定するように始動させる(たとえば、延長、拡大、またはその他の形で変形させる)ことができる。たとえば、ペースマッピング中のカテーテルの移動を阻害しないように1つまたはそれ以上の凹部に配置される固定機構を含む。
【0084】
本主題の態様は、治療に有効な様々なペーシングリード構造に関連させることができる。図8は、このようなペーシングリード構造の例を示す。本主題は図8に示される構造に限定されない。したがって、図面とその説明から逸脱する変形も企図される。
【0085】
図8のペーシングリード402は、本主題の一具体例を示す。ペーシングリード402は、2つまたは3つの電極および固定機構で実現することができる。固定機構は、所望のペーシング位置でペーシングリードを心組織に固定するのに適した螺旋構造として示される。他の固定機構も可能である。一例では、固定機構は、ペーシング信号または基準点を提供するために使用される必要はないので、導電性を有する必要はない。電極1および電極2は、ペーシングリード404の遠位端に配置することができる。一例では、電極1および電極2はそれぞれペーシングリードの遠位端の外周またはその近傍に配置される。一例では、電極は同心状に(たとえば、ペーシングリードの中心から異なる距離)に実装することができる。電極1および電極2はそれぞれ、ペーシング信号の異なる成分を送達するために使用することができる。一例では、各電極は他方の電極の極性と反対の極性の信号成分を担持することができる。固定機構の配置と電極の配置は、心組織と電極間で頑丈な接触(たとえば、電気的および物理的)を確保するのに特に役立つ。このことは、ペーシング成分の心組織への有効な透過、ひいてはヒス束またはその近傍での伝導系の刺激を促進する助けとなり、その結果、脱分極は、緩やかな細胞間伝導を介してではなく、ヒス束またはその近傍での高速な伝導系を主に介して生じる。
【0086】
各種例では第3の電極(たとえば、電極3)を含むことができる。この電極は1つまたはそれ以上の追加ペーシング信号成分を提供することができる。一例では、第3の電極は基準信号成分を提供することができる。例によっては、電極の異なる組み合わせを含むことができる。一例では、電極1および電極3が信号成分を送達するのに使用され、電極2は使用されない。
【0087】
ペーシングリード402は、電極1および電極2の接触領域が異なる2つの具体例で示されている。第1の具体化では、電極は比較的平坦にすることができる。第2の具体化では、電極1および電極2は、一連の凸部(円で示す)で実現することができる。これらおよびその他の電極の変形例は、電極と心組織間の異なる有効抵抗を生成することができる。したがって、有効表面積(たとえば、高孔性電極を用いて)の変更例を含むがそれに限定されないその他の様々な変形例も可能である。
【0088】
本主題によるもう1つの可能なペーシングリード404の具体例を示す。この具体化では、固定機構は、ペーシング成分を送達する電極のうちの1つとして使用することができる。固定機構が心組織を物理的に透過すると仮定すれば、電極2用のペーシング成分は心組織内に送達することができる。一例では、固定機構のほぼすべてが導電性である。一例では、固定機構の選択された部分が導電性であり得る。たとえば、固定機構の先端が導電性である一方で、固定機構のペーシングリード404に近接して位置する部分が非導電性である。このような導電部の位置選択は、心組織に送達される有効な空間/時間刺激(たとえば、仮想電極特性)の制御を助けることができる。
【0089】
ペーシングリード構造406は、電極のうち1つまたはそれ以上が心臓の1つまたはそれ以上の電気信号を感知するいずれかのために使用することができる本主題の別の具体例を表す。一例では、図示されるように、感知スイッチが、たとえばペーシング成分を送達する、あるいは心臓の電気信号を感知するために電極を選択的に使用することを可能にする。一例では、感知はペーシング信号の需要を査定するのに有効であり得る。一例では、ペーシングは、ある期間停止させることができる。感知スイッチは、固有心機能の感知を可能とするように変更することができる。感知の結果は、外因性ペーシングを開始または再開すべきか否かの判定などの様々な目的で使用することができる。
【0090】
本発明者らは特に、心室内伝導障害を有する患者では、3つ以上のレベルのペーシング閾値があり得ると認識した。従来の全か無かの捕捉に一致するペーシング閾値の代わりに、一続きのペーシング有効性の変化(たとえば、QRS形態)が観察された。これらの変化/改善は、ペーシング(XSTIM)の刺激振幅が上昇し、飽和点まで継続されたときに観察された。
【0091】
理論上制約されない限り、ヒス束は、心室内で迅速に分岐し始める大量のびまん性繊維と考えられる。したがって、ペーシング信号振幅/強度は、ヒス束(またはその直後に分岐する繊維)深くに到達して、より低いペーシング信号振幅でアクセス可能な前記繊維より遠位の繊維(たとえば、近位根)を刺激する仮想電極を生成することができると考えられる。驚くべきことに、信号振幅が増大するにつれ、より多くの伝導系領域に電気的および機械的同期性を持たせることができる。よって、全か無かの捕捉閾値判定を使用するのではなく、勾配応答を観察することができる。
【0092】
本主題の態様は近傍のヒス束ペーシングの勾配応答性を活用するペーシングソリューションに関連する。1つまたはそれ以上の電極によって提供されるペーシングは、たとえば細胞の脱分極の空間−時間関係により特徴づけることができる。仮想電極は、物理的電極またはその他の電気刺激ソースを中心としない細胞の空間−時間脱分極と理解することができる。よって、刺激の有効な位置は、刺激源/電極の物理的位置意外となり得る。このような仮想電極の操作(たとえば、位置、サイズ、配向および/または持続時間の操作)は特に有益になり得ると考えられる。
【0093】
本主題の一実施形態によると、ペーシング療法は心臓疾患の治療のために実行することができる。ペーシング療法は、勾配応答性の存在を認識することができる、あるいはそれを利用する1つまたはそれ以上の基準を用いるなど、ペーシングパラメータの変更を含むことができる。これらのペーシングパラメータは、ペーシング出力レベル(たとえば、アンペア数、電圧、電力および/または持続時間)の滴定、異なるペーシング波形の選択、および/またはペーシング位置の些細な変更などを含むがそれらに限定されない。一例では、サイズ、位置、形状、または大きさの異なる様々な仮想電極を提供するためにペーシングパラメータを実現することができる。
【0094】
本主題の特定の具体化はXSTIM型波形を使用することができるが、一例では、本主題はXSTIM波形に限定する必要はない。単相、二相、または多相波形を含むがそれらに限定されない様々なその他のペーシング波形も可能である。
【0095】
ヒス束の捕捉の有効性または完全性は、たとえば1つまたはそれ以上の異なる基準を使用することによって判定することができる。基準の非限定的な例としては、狭窄したQRS幅、異なるリード内のQRSの分画度、QRSベクトルの配向、および/または1つまたはそれ以上の機械的または血行動態センサ、(たとえば、左辺の変数が外挿して推定または類推される右心室圧力センサ)などを含むことができる。
【0096】
一例では、ペーシング電極箇所は、ヒス束近傍に印加可能な比較的強いペーシング信号を用いて配置することができる。心室伝導欠損を有する患者では、この位置は、伝導欠損の電気バイパスを得られたか否かを示す1つまたはそれ以上の基準に応答して決定することができる。所望のペーシング箇所の配置後は、たとえば最適なペーシングパラメータを決定するように1つまたはそれ以上のペーシングパラメータを調節することができる。ペーシングパラメータの効果を監視し比較することができる。1つまたはそれ以上の勾配応答特性を使用して、所望の1つまたはそれ以上のペーシングパラメータを決定することができる。よって、ペーシングパラメータは、ヒス束の全か無かの捕捉に頼る解析ではなく、1つまたはそれ以上の勾配応答特性の微調整された解析を用いて選択することができる。
【0097】
本発明者らは特に、駆出率(EF)が保持された心不全(HF)患者がたとえば固有洞ノード速度よりも速い速度での心房ペーシングから恩恵を受けることができると認識した。EFが保持されたHF患者の中には変時性機能不全を抱える者もいる。身体の酸素需要に応答する増加に合わせて心拍数を増加させる能力を回復することで、症状の軽減に役立ち、快適さを享受することができる。
【0098】
一例では、速度応答性ペースメーカを実現することができる。ペースメーカは、たとえば電気バイパスを実行し、EFが保持されたHF患者に対する変時性機能を回復するのと同じ速度で収縮期機能および拡張期機能の両方を改善するために、近傍のヒスペーシングを用いて上記患者の変時性機能を回復するために使用することができる。
【0099】
一例では、外因性ペーシングは、たとえば周期的に、繰り返し停止させることができる。この停止期間中、固有特性が観察され、それに応じてペーシングを再開し、変更することができる。明確で非限定的な具体化は以下を含むことができる。
【0100】
1)ペーシングは、ある期間(たとえば、1分間)周期的に停止することができる。一例では、周期性はプログラム可能拍動N回毎またはX期間毎(たとえば、毎時または1日に1回)に実行することができる。この設定は医師によってプログラミング可能とすることができ、患者の状態または1つまたはそれ以上のその他の要素に依存することもできる。
【0101】
2)非ペーシング期間中、心室活動を感知することができる(心室ペーシングがない、あるいは心室感知に加えてペーシングがない)。感知される活動は、R−R時間の拍動毎の系列を確立するために使用することができる。ただし、Rは心室活動が感知される時間を表す。
【0102】
3)一例では、感知はタイムウィンドウ(たとえば、10ms〜300ms)全体で実行することができる。タイムウィンドウ中、検出されたR以外の1つまたはそれ以上の事象も感知し追跡することができる。これらの事象はその他の低レベル(R波の振幅の1/2〜1/100)事象を含むことができる。事象系列(S)は、以下のパラメータ:S(検出までの時間、検出振幅、fc、fb)、ただし、fは周波数反応特性であり、fcは中心周波数であり、fbは感知ノイズを低減または排除し、感知された心房事象を分離するために使用されるフィルタのバンド幅である、の可能な組み合わせ毎に生成する、または保存することができる。第1の経過観察時または植込み後、たとえば安静時、座位、仰臥位の患者で、完全なパラメータセットをテストすることができる。初回経過観察後、パラメータセットは、たとえば1分間の非ペーシング間隔でテストすることができる。パラメータセットは、初回経過観察時に患者の第1のセットアップで発見された最初の最適パラメータセットから段階的に変化させる(たとえば、値を1ずつ増加または低下させる)ことができる。これは状態を最適なセットへ変化する際に収束するのに役立つ。以下のパラメータセットは段階的設定値セットの一例を提供する:
a.検出までの時間:10〜50ms、50〜100、100〜150、150〜200、200〜250、250〜300ms
b.fc:5Hz、7.5Hz、10Hz、12.5Hz、15Hz、17.5Hz、20Hz、22.5Hz、25Hz、30Hz
c.fb:0.5Hz、1Hz、1.5Hz、2Hz、2.5Hz、3Hz、3.5Hz、4Hz、5Hz
d.検出振幅:R/2、R/4、R/8、R/16、R/32、R/64、R/128
4)植込み型パルス発生器(PG)のプロセッサは、R−Rデータ系列と、パラメータの組み合わせによって生成された各データ系列とを比較し、たとえばそれらのうちの1つが、R−R間隔の時系列との十分な相互相関(たとえば、1.0の相関度)を有するか否かを判定することができる。その後、この相互相関を最適化するために使用されるパラメータは、装置のメモリをプログラミングするために使用することができる。相互相関が閾値レベル(たとえば、0.8)を下回ると、装置はたとえば心房追跡モードを作動不能にすることによって適切に対応することができる。続いて、閾値レベルを下回る相互相関を改善するために新たな始動セットアップを試みることができる。これは、ペーシングの停止前に患者が規則的な固有律動が有するか否かをテストし、たとえば50bpmよりも高速で心室感知を検証することによって実行することができる。適切なレベルに達することができなければ、装置はVVIペーシングを使用することができる。一例では、VVIペーシングを使用する前に最大の所定回数(たとえば、3回)試みることができる。また、プロセッサは、ステップ(5)で使用される最適ウィンドウにおける最小の検出を提供する振幅を発見することができる。
【0103】
5)前のステップで発見された最適な検出時間は、たとえばP(または心房感知された波)との同期が失われ、R波(または心室検出)がステップ4の最後に発見される高検出振幅設定で検出される場合に使用することができる。その事象が検出されれば、前のR−R間隔を用いて別の心房事象のサーチを開始することができる。その間隔は、たとえばステップ4で発見される検出された設定値から段階的に減少させることができる。
【0104】
6)別のP波の検出ウィンドウは、これらの間隔から1またはそれ以上の所定数をプラスマイナスした(プログラム可能な)標準的な偏差など、R−R間隔またはP−P間隔(R感知事象の介入なし)の履歴内の1つまたはそれ以上の時間に限定することもできる(患者に応じてプログラム可能)。感知から心室ペーシングでの心房追跡へと移行する際、R−R間隔の履歴はプロセッサによって予め発見された最適検出時間に対して使用し調節する(たとえば低減する)ことができる。次に、この履歴は、検出までの時間のこれ以上の調節が必要なくなる、P−P間隔等価物へのペーシングの開始時に調節することができる。
【0105】
これらのステップの変形例は多数可能である。これらの変形は、R−R間隔を特徴づける異なる機構、追加のおよび/または異なるパラメータ設定値、追加のペーシングプロファイル、または異なる感知構造などを含むがそれらに限定されない。図9は、ヒス束近傍に配置された電極を使用して感知される心房波の例を示す。
【0106】
本発明者らは、本主題の実施形態が1つまたはそれ以上の電気生理学的および/または機械的血行動態センサの使用に関連させることができると認識した。これらのセンサは、本明細書に記載されたペーシング療法を、たとえば1つまたはそれ以上の具体的な目標を念頭に置いて調節または最適化させることができるフィードバックを提供することができる。最適なペーシングソリューションを開発する際に検討可能な1つまたはそれ以上の基準の例は、ペーシング出力振幅、QRS幅、AV遅延、脈圧、患者の移動(たとえば、加速計)、時間毎圧力の変化(dP/dt)、および/または肺動脈/肺静脈からのサロゲートエンド−拡張期血圧などを含むがそれらに限定されない。
【0107】
一例では、電気刺激の所望の位置は、たとえばセンサフィードバックの解析を通じて決定することができる。たとえば、ペーシング電極の位置は、所望の治療目標に対する治療の有効性の関数として決定することができる。
【0108】
このような目標の一例は、心不全またはその他の原因により不十分なdP/dtの患者のdP/dtを改善することである。1つまたはそれ以上の治療パラメータを、たとえば各位置毎に感知されるdP/dt(最小および/または最大)の改善量の関数として自動的に選択することができる。もう1つの目標は心臓の所望のAV遅延であり得る。ペーシングタイミングは、所望のAV遅延に応じて調節することができる。たとえば、AV遅延は、心臓の同期性を維持しつつ、前負荷の制御を助けるように調節することができる。QRS幅を狭めることもさらに別の要素として利用することができる。
【0109】
これらのおよび/またはその他の目標は、ペーシングのうちの1つまたはそれ以上の成分を調節することによっても助成することができる。これらの成分は、1つまたはそれ以上のペーシング電極の位置、ペーシング信号電圧、ペーシング信号アンペア数、ペーシング信号極性、ペーシング信号形態、ペーシング信号持続時間、および/またはペーシング信号タイミングを含むがそれらに限定されない。
【0110】
一例では、ペーシング位置は、たとえば比較的高いペーシング信号強度とXSTIM型波形を用いて決定することができる。強力なXSTIM波形の使用は、所望の位置決めを簡易化するのに特に有益であり得る。この位置は、1つまたはそれ以上のセンサからのフィードバックを用いて決定することができる。たとえば、伝導系の適切な捕捉の効果(たとえば、伝導異常を迂回するため)は必ずしも任意の種類のフィードバックに限定されない。伝導系の捕捉が観察された後、所望すれば配置の追加の微調整を行うことができる。これには、1つまたはそれ以上のフィードバック信号の最大の改善を探すことを含むことができる。いったん位置が決定されれば、所望のペーシング信号プロファイルを決定することができる。これは、たとえば、ペーシングプロファイルの1つまたはそれ以上の側面を繰り返し修正し、フィードバック信号の効果を査定することによって達成可能である。このようなある反復的修正では、ペーシング信号閾値は、たとえば改善が存在しなくなる、あるいは大幅に低減されるまでペーシング信号を低減することによって決定することができる。次に、このペーシング信号閾値は、たとえば閾値よりも十分に高いレベルでペーシング信号を設定するために使用することができる。別の反復的修正では、異なるペーシング信号極性、配向、タイミング、および/または波形形態のセットを使用することができる。所望のペーシングプロファイルは、結果として生じるフィードバック信号の関数として様々なペーシングプロファイルから選択することができる。
【0111】
一例では、ペーシングは、駆出率(EF)が保持された心不全患者を治療するために実行することができる。一例では、電気刺激は、たとえば伝導障害を迂回しつつ、両心室の1つまたはそれ以上の収縮を捕捉するために、ヒス束近傍に提供することができる。一例では、伝導障害は、左心室または右心室の遠位または拡散ブロックに関連する1つまたはそれ以上の特徴を発揮することができる。一例では、電気刺激はXSTIM波形とすることができる。一例では、心房用の速度応答性ペーシングが、ヒス束またはその近傍での電気刺激による心室ペーシングと合わせて使用することができる。それにより、心室ペーシングは心臓の固有ペーシング速度に従うことができる。このことは、固有ペーシング速度で比較的正常な心室活動を提供するために特に有益である。
【0112】
図10は、本明細書に記載の近傍のヒスペーシングを伴う、および伴わない患者の左心室の内圧の比較例を示す。「LVP」と標示される波形は、ミラーカテーテルで得られた左心室内圧を表す。単位時間毎圧力の変化の最大率(dP/dtmax)は、現在のペーシングを用いる患者において、より高く示されている。
【0113】
本主題の実施形態では、患者のdP/dtmaxを改善することが証明された。以下のデータが2人の患者から得られ、dP/dtmaxとdP/dtminのいずれにも改善が見られる。
【0114】

・患者1
−EF=60%、LVEDD=38mm、QRS幅=132ms
−デルタdP/dtmax=16.8%
−デルタdP/dtmin=21.6%
・患者2
−EF=60%、LVEDD=38mm、QRS幅=145ms
−デルタdP/dtmax=12.9%
−デルタdP/dtmin=7.5%

結果は患者によって幾分変動したが、結果が示唆するように、本主題による治療はEFが保持されたHF患者にとって特に有効であった。
【0115】
一例では、右心室リードからのペーシングが、遠位および/または拡散心室ブロックであり得る伝導異常の電気バイパスを提供するために使用することができる。この心室ペーシングは固有心拍数を使用して決定することができる。固有心拍数の使用は、生理学的需要によって始動される心拍数の変化(たとえば、物理的労作業のために増大し、就寝中は減少する)などの循環系の天然機能を患者の需要に応じて維持するために特に有益であり得る。
【0116】
一例では、固有心拍数の使用は、心房活動をモニタリングすることによって実行することができる。たとえば、固有心拍数モニタリングは、心房の固有脱分極(たとえば、P波信号)を検出することによって実行可能である。モニタリングは、1つまたはそれ以上の適切なセンサおよび技術を用いて達成することができる。非限定的例として、感知は、心房または心室に位置する感知電極を用いて実行することができる。たとえば、心房に配置される感知電極は、心臓の固有活動を感知することができる。別の例では、感知電極は(右)心室内に配置することができる。たとえば、ヒス束近傍に適切に配置されたペーシング電極は、心房脱分極またはそれを表す信号を検出するのに十分であり得る。
【0117】
図11は、心臓治療を提供するシステム1100を概略的に示す。一例では、システム1100は、プロセッサ50、右心室感知チャネル10、右心室ペーシングチャネル20、左心室感知チャネル30、左心室ペーシングチャネル40、および心房感知チャネル60を有する植込み型医療装置(IMD)5(たとえば、ペースメーカ、除細動器、または1つまたはそれ以上のその他の心臓律動管理装置)を含むことができる。心房感知チャネル60は右心房感知チャネルと左心房感知チャネルのうち少なくとも1つを含むことができる。いくつかの例では、システム100は心房ペーシングチャネルを含むことができる。別の例では、IMD5は右心室感知チャネル10、右心室ペーシングチャネル20、左心室感知チャネル30、左心室ペーシングチャネル40、心房感知チャネル60、または心房ペーシングチャネルのうち少なくとも1つの組み合わせを含むことができる。
【0118】
図11の例では、右心室感知チャネル10はセンス増幅器11を含み、左心室感知チャネル30はセンス増幅器31を含み、右心室ペーシングチャネル20はペーシング出力回路21を含み、左心室ペーシングチャネル40はペーシング出力回路41を含み、心房感知チャネル60はセンス増幅器61を含む。一例では、心房ペーシングチャネルはペーシング出力回路を含むことができる。各種例では、単独のペーシング出力回路は、ペーシング心房または心室ペーシングチャネルのうち1つまたはそれ以上のために使用することができる。別の例では、右心室感知チャネル10または右心室ペーシングチャネル20はリード15またはその他の場所に配置される電極16に結合することができ、左心室感知チャネル30または左心室ペーシングチャネル40はリード35またはその他の場所に配置される電極36に結合することができ、あるいは心房感知チャネル60はリード65またはその他の場所に配置される電極66に結合することができる。
【0119】
特定の例では、リード15は、センス増幅器11またはペーシング出力回路21を、中隔領域、自由壁領域、またはその他の右心室領域などの、右心室内に配置するように構成可能である電極16に電気的に接続するように構成することができる。同様に、リード35は、センス増幅器31またはペーシング出力回路41を、中隔領域、自由壁領域、またはその他の左心室または冠血管系内の領域などの、近傍の左心室内または左心室上に配置可能である電極36に電気的に接続するように構成することができる。さらに、リード65は、センス増幅器61を、被験者101の右心房および左心房のうち少なくとも1つに配置されるように構成可能な電極66に電気的に接続するように構成することができる。
【0120】
図11の例では、プロセッサ50は、植込み型構成要素、外部構成要素、または植込み型プロセッサと外部プロセッサの組み合わせまたは置換であってもよい。一例では、プロセッサ50の少なくとも一部が外部プロセッサを含む場合、プロセッサ50は(たとえば、誘導遠隔測定、RF通信、または1つまたはそれ以上のその他の通信プロトコルを介して)残りの植込み型要素(たとえば、センス増幅器11、31、ペーシング出力回路21、41、リード15、35、または電極16、36)と通信可能に結合されるように構成することができる。一例では、植込み型プロセッサは、低減された、または最小限の機能または電力消費を有するように構成することができる。特定の例では、プロセッサ50が、たとえば頻脈律動を分類する、あるいはそれ以外の方法で特定するために、複雑な演算を計算する外部プロセッサを含むことが有益であろう。別の例では、外部プロセッサは、構内または遠隔のいずれにあってもよい外部装置を含むことができる。一例では、プロセッサ5は、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、論理回路、またはその他のプロセッサを含むことができる。
【0121】
一例では、ペーシング出力回路21は、心臓内、心臓上、または心臓近傍、たとえば心臓のヒス束近傍の位置に1つまたはそれ以上の電極を送達するように構成される心室ペーシング信号などの電気エネルギーを生成するように構成することができる。特定の例では、1つまたはそれ以上の電極は、心臓の右心室に配置されるように構成されるリードに結合することができる。別の例では、電極のうち1つまたはそれ以上は、1つまたはそれ以上のその他の位置で、第2のリード上、IMD5上、または1つまたはそれ以上のその他の装置上に含めることができる。
【0122】
一例では、心室ペーシング信号は1つまたはそれ以上の信号成分(たとえば、基準成分に対して正の成分と負の成分とを有するXSTIM波形)を含むことができる。一例では、ペーシング出力回路21は、信号成分毎に別々の端子を含むことができる。ペーシング出力回路21は、第1の信号成分を送達するように構成される第1の端子と、第2の信号成分を送達するように構成される第2の端子と、第3の信号成分を送達するように構成される第3の端子とを含むことができる。一例では、第1および第2の信号成分は、基準成分に対してほぼ反対の極性を有する成分を含むことができる(たとえば、第1の成分は正の成分を含み、第2の成分は負の成分を含むことができるなど)。一例では、第3の信号成分は基準成分を含むことができる。
【0123】
一例では、リード15は、1つまたはそれ以上の電極を、心臓の右心室内のヒス束近傍の位置に送達するように構成されるペーシングリードを含むことができる。一例では、第1、第2、および第3の端子は、XSTIM波形を送達するように構成することができる。XSTIM波形は基準(たとえば、接地)に対して重複する2相刺激パルスを含むことができ、第1および第2の信号成分(たとえば、パルス)が時間上、少なくとも部分的に重複する。一例では、第1の信号成分は第2の信号成分と同一の大きさ(だが異極性)および持続時間を有し、時間上完全に重複する。別の例では、第1の信号成分は第2の信号成分よりも長い持続時間と第2の信号成分よりも大きな大きさを有することができる、あるいは第1の信号成分は時間上、第2の信号成分に先行する、または後続することができる。
【0124】
一例では、リード15は、ヒス束近傍位置に第1、第2、および第3の電極を送達し、第1、第2、および第3の電極に第1、第2、および第3の信号成分をそれぞれ送達するように構成することができる。他の例では、リード15は第1、第2、および第3の電極のうち少なくとも1つを含むことができ、1つまたはそれ以上のその他のリードまたはIMD5は残りの電極のうち1つまたはそれ以上を含むことができる。
【0125】
一例では、センス増幅器11は、第1および第2の信号成分の極性反転を制御するために使用される情報を提供するように構成される心機能センサを含むことができる。一例では、センス増幅器11はペーシング出力回路21に結合することができる。
【0126】
一例では、センス増幅器61は心房収縮を感知するように構成される心房感知回路を含むことができ、プロセッサ50はペーシングAV遅延を判定し、感知された心房収縮からペーシングAV遅延を同調させるように構成されるコントローラ回路を含むことができる。コントローラ回路は、ペーシング出力回路21が、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達し右心室および左心室のペースを調整し、固有活動に対する少なくとも1つの心室の同期を向上させる心室ペーシング信号を提供する間、ペーシングAV遅延が最大dP/dtの心出力に対して低減された心出力を提供するように規定される値に設定される一時モードを含むことができる。一例では、ペーシングAV遅延は、左心房収縮の完了前に僧帽弁閉鎖を可能にする値に設定することができる。
【0127】
一例では、センス増幅器61は心房収縮感知回路を含むことができ、センス増幅器11は心室収縮感知回路を含むことができ、プロセッサ50は心房収縮感知回路、心室収縮感知回路、およびペーシング出力回路21に結合されるコントローラ回路を含むことができ、コントローラ回路は、感知された心房収縮に応答してペーシングを行うペーシング出力回路を制御する心房追跡モードを備え、基礎的な心室律動がペーシングが作動可能となる心房追跡モード中に得られる心室律動と相関していないとコントローラが判定するとき、基礎的な心室律動を感知するペーシングを阻止し、心房追跡モードを出るように構成される。
【0128】
図12は、被験者101に植え込まれるように構成されるIMD5を含むシステム1200の部分の例を概略的に示す。システム200は構内プログラマ70および遠隔プログラマ75のうち少なくとも1つを含むことができる。構内プログラマ70と遠隔プログラマ75はいずれも外部構成要素である。一例では、構内プログラマ70は、プロセッサ50に通信上近接して位置決め可能な携帯プログラマまたはその他のプログラマを含むことができる。プロセッサ50と構内プログラマ70間の近接範囲は、データ通信の種類と通信種の物理的制約とに応じて変動する可能性がある。一例では、遠隔プログラマ75は、たとえば別の装置(たとえば、ルータや構内プログラマ70など)を通じて直接的または間接的にIMD5と通信するように構成される任意のプログラマを含むことができる。各種例では、遠隔プログラマ75は、複数の埋め込まれた、または外部の装置と通信する、あるいはそこからの情報を記憶するように構成することができ、また、被験者1から長距離離れて配置されるように構成することができる。
【0129】
一例では、構内プログラマ70または遠隔プログラマ75は、IMD5に情報を送信する、あるいはIMD5から情報を受信するように構成することができる。情報には、プログラミング情報、被験者データ、装置データ、あるいはその他の指示、警告、またはその他の情報を含むことができる。さらに、構内プログラマ70または遠隔プログラマ75は、たとえば被験者1の状態またはシステム成分に関する警告をeメールで送信することによって、ユーザまたは医師に送信または受信された情報を伝達するように構成することができる。
【0130】
当業者であれば、本発明と関連して説明される各種態様が様々な組み合わせおよび仕様で実現できると認識するであろう。さらに、本明細書に開示され組み込まれる各種参考文献と関連して説明される態様も、本発明の態様と組み合わせて利用することができる。本明細書に示される参考文献が多数の類似する図面や関連の説明を含む限り、当業者は、文献間で共通しない図面の場合ですら、本明細書に開示される態様の相互通用性を認識するであろう。これらの文献全体の教示は、本発明の実施形態と組み合わせて使用可能な態様に関する。したがって、それらの文献は引用により全文を組み込む。たとえば、以下の特許文献は、各種ペーシング電極と関連回路を示す説明および図面を含み、このような実施形態は本発明の態様と組み合わせて使用することができる:2008年6月26日に提出されたQingsheng Zhuらの米国特許出願第12/147,293号(AMED.004PA)、2007年6月29日に同時に提出され、以下の番号によって認められるQingsheng Zhuの米国仮特許出願第60/947,308号(再同期用心内膜ペーシング)、第60/947,310号(心室再同期用の方向可変外筒装置)、第60/947,322号(ペーシング有効性のモニタリングとその応答性を有する心室ペーシングのシステムおよび方法)、第60/947,327号(再同期用心内膜ペーシングのパルス制御用の電気回路装置および方法)、第60/947,336号(再同期用心内膜ペーシングおよび除細動器)、第60/947,342号(再同期および伝導異常治療用の心内膜ペーシング)、2008年1月11日に提出されたQingsheng Zhuらの米国仮特許出願第61/020,511号(心組織への2つの接触電極と刺激装置への接続部とを有する心臓刺激カテーテル)、2005年12月13日に提出されたDaniel Felipe Ortegaらの米国特許出願第11/300,611号(心室ペーシング)(AMED.002PA)、2005年12月13日に提出されたDaniel Felipe Ortegaらの米国特許出願第11/300,242号(心臓の生理学的伝導を再確立または維持するペースメーカおよびその適用方法)(AMED.003PA)、および2004年12月20日に提出されたDaniel Felipe Ortegaらのアルゼンチン特許出願第20040104782号(心臓の生理学的伝導を再確立または維持する新ペースメーカおよびその適用方法)。これらの特許文献はそれぞれ引用により全文を組み込む。
【0131】
本願は引用により、米国特許出願第11/300,611号(代理人整理番号第279.H25US1)、国際特許出願PCT/US2005/045044号(代理人整理番号第279.H25WO1)、アルゼンチン特許出願第2004/0104782号、米国特許出願第11/300,242号(代理人整理番号第279.H26US1)、米国特許出願第12/147,293号(代理人整理番号第279.H27US1)、米国特許出願第60/947,308号(代理人整理番号第279.H27PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068618号(代理人整理番号第279.H27WO1)、米国特許出願第12/147,317号(代理人整理番号第279.H28US1)、米国特許出願第60/947,310号(代理人整理番号第279.H28PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068627号(代理人整理番号第279.H28WO1)、米国特許出願第12/147,339号(代理人整理番号第279.H29US1)、米国特許出願第60/947,322号(代理人整理番号第279.H29PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068630号(代理人整理番号第279.H29WO1),米国特許出願第12/147,356号(代理人整理番号第279.H30US1)、米国特許出願第60/947,327号(代理人整理番号第279.H30PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068632号(代理人整理番号第279.H30WO1)、米国特許出願第12/147,425号(代理人整理番号第279.H31US1)、米国特許出願第60/947,336号(代理人整理番号第279.H31PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068635号(代理人整理番号第279.H31WO1)、米国特許出願第12/147,369号(代理人整理番号第279.H32US1)、米国特許出願第60/947,342号(代理人整理番号第279.H32PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068654号(代理人整理番号第279.H32WO1)、米国特許出願第12/147,376号(代理人整理番号第279.H33US1)、米国特許出願第61/020,511号(代理人整理番号第279.H33PRV)、国際特許出願PCT/US2008/068647号(代理人整理番号第279.H33WO1)、米国特許出願第12/249,508号(代理人整理番号第279.H34US1)、国際特許出願PCT/US2009/060293号(代理人整理番号第279.H34WO1)を組み込み、上記出願はすべて、Action Medical,Inc.に共同で譲渡されており、それぞれ引用によりその全文を本明細書に組み込む。
【0132】
上述の各種実施形態は例示のためのみに提供されており、本発明を限定するように解釈されるべきではない。上記説明と図に基づき、当業者であれば、本明細書に図解され説明される代表的実施形態および応用に厳密に従わなくても様々な修正例や変更例が可能であると認識するであろう。そのような修正例および変更例は本発明の範囲を逸脱しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達し右心室および左心室のペースを調整し、固有活動に対する少なくとも1つの心室の同期を向上させる心室ペーシング信号を生成するように構成されるペーシング出力回路を備える装置であって、ペーシング出力回路は、
第1の信号成分を送達するように構成される第1の端子と、
第2の信号成分を送達するように構成される第2の端子と、
基準信号成分を送達するように構成される第3の端子とを備え、
第1および第2の信号成分は基準信号成分に対して互いに反対の極性で提供され、持続時間と大きさは略同一である装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達するように構成されるペーシングリードをさらに備える装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
ペーシング出力回路が、少なくとも部分的に時間が重複する反極性の第1および第2の信号成分を提供するように構成される装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置において、
ペーシング出力回路が、第1および第2の信号成分の極性を繰り返し反転させるように構成される装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
ペーシング出力回路による第1および第2の信号成分の極性反転を制御するために使用される情報を提供するように構成される心機能センサを備える装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置において、
心房収縮を感知するように構成される心房感知回路と、
ペーシングAV遅延を判定し、感知された心房収縮からのペーシングAV遅延を同調させるように構成されるコントローラ回路とを備え、
コントローラは、ペーシング出力回路が、心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達し右心室および左心室のペースを調整し、固有活動に対する少なくとも1つの心室の同期を向上させる心室ペーシング信号を提供する間、ペーシングAV遅延が最大dP/dtの心出力に対して低減された心出力を提供するように規定される値に設定される一時モードを含む装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
ペーシングAV遅延が、左心房収縮の完了前に僧帽弁閉鎖を可能とする値に設定される装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の装置において、
ペーシングAV遅延が所定の期間後に増加されて、心臓が低減された心出力で回復することができる装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置において、
ヒス束またはその近傍で右心室内のペースマッピング用に構成されるガイドカテーテルと組み合わされる装置。
【請求項10】
請求項9記載の装置において、
ガイドカテーテルが、いったん右心室に導入されれば、ガイドカテーテルの遠位部が1つまたはそれ以上の電極をヒス束またはその近傍位置に向かって方向づける所定の形状を取るように構成される装置。
【請求項11】
請求項9又は10記載の装置において、
ガイドカテーテルは、ガイドカテーテルが右心房から右心室内へと延在する間、挿入に応答して、血管中で前進しやすくするように構成される比較的直線的な第1の形状と、ヒス束またはその近傍で遠位電極を配置しやすくするように構成される比較的曲線的な第2の形状とを含む2つの異なる形状を取るように構成される装置。
【請求項12】
請求項11記載の装置において、
心臓の右心室内のヒス束近傍に電極を送達するように構成されるペーシングリードと組み合わされ、ペーシングリードが可撓性を有し、ガイドカテーテルが、ヒス束またはその近傍にペーシングリードの遠位部を配置するようにペーシングリードを前進させるように構成され、ペーシングリードの遠位部が固定機構を備える装置。
【請求項13】
請求項12記載の装置において、
固定機構が、少なくとも2つの別々にアドレス指定可能な電極を心組織に直接接触して配置することができるように構成される装置。
【請求項14】
請求項9記載の装置において、
習慣的ペーシングリードを心臓の右心室内のヒス束近傍の位置に導入および誘導することができるように構成されるガイド糸と、ガイド糸を回収するように構成される回収カテーテルとが組み合わされてなる装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の装置において、
心室収縮感知回路と、
心室収縮感知回路に結合されるコントローラ回路とを備え、
コントローラ回路は、心室収縮感知回路からの情報を使用して頻脈性不整脈を検出し、検出される頻脈性不整脈に応答して、ペーシング出力回路を制御して心室ペーシング信号を抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルスとして心臓の右心室内のヒス束近傍の電極に送達するように構成される装置。
【請求項16】
請求項15記載の装置において、
コントローラ回路に結合される除細動ショック回路を備え、
コントローラ回路は、複数のATPパルスが頻脈性不整脈を非頻脈性不整脈心臓律動に回復させないときに除細動ショックを送達するように構成される装置。
【請求項17】
請求項15又は16記載の装置において、
コントローラ回路が、
基準電極に対してエネルギーを送達するために少なくとも心臓の右心室内の第1の電極を使用するため、
心臓の心房の脱分極に応答して、反対の極性の第1の信号成分と第2の信号成分とを含むペーシング信号を生成するため、および
抗頻脈ペーシング(ATP)にとって十分なペーシング速度で、前記第1の信号成分および前記第2の成分を前記少なくとも第1の電極に送達し、それに応答し収縮が右心室心尖部ATPパルスよりも迅速かつ均一な活性化である心臓の左心室の収縮を捕捉するために、
ペーシング出力回路を制御するように構成される装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の装置において、
ヒス束またはその近傍で右心室内のペースマッピング用に構成されるガイドカテーテルと組み合わされる装置。
【請求項19】
請求項1記載の装置において、
心機能モニタと、
心機能モニタおよびペーシング出力回路に結合されるコントローラ回路とを備え、
コントローラ回路が、心機能モニタから受信する情報を用いてペーシング出力回路の少なくとも1つのペーシングパラメータを反復的に修正することによって所望のペーシングパラメータを少なくとも部分的に判定するように構成される装置。
【請求項20】
請求項1記載の装置において、
心機能モニタと、
心機能モニタおよびペーシング出力回路に結合されるコントローラ回路とを備え、
コントローラ回路が、心臓のペーシング中に、ペーシング出力振幅、QRS幅、AV遅延、脈圧、患者の移動、時間毎血圧の変化(dP/dt)、心室内圧、または肺動脈または肺静脈からのサロゲートエンド−拡張期血圧のうち少なくとも1つに関する、心機能モニタから受信する情報を用いて所望のペーシングパラメータを少なくとも部分的に判定するように構成される装置。
【請求項21】
請求項19記載の装置において、
コントローラ回路が、心機能モニタから受信する勾配捕捉応答性情報を用いて所望のペーシングパラメータを少なくとも部分的に判定するように構成される装置。
【請求項22】
請求項1記載の装置において、
心房収縮感知回路と、
心室収縮感知回路と、
心房収縮感知回路、心室収縮感知回路、およびペーシング出力回路に結合されるコントローラ回路とを備え、
コントローラ回路が、感知された心房収縮に応答してペーシングを行うペーシング出力回路を制御する心房追跡モードを備え、基礎的な心室律動がペーシングが作動可能となる心房追跡モード中に得られる心室律動と相関していないとコントローラが判定するとき、基礎的な心室律動を感知するペーシングを阻止し、心房追跡モードを出るように構成される装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2012−512727(P2012−512727A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542513(P2011−542513)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/068859
【国際公開番号】WO2010/071849
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】