心臓病理学を処置するための筋肉由来の細胞およびその作製法および使用法
本発明は、体組織への移植後に長期的な生存を示し、軟組織の部位への導入(たとえば注射または移植(transplantation、implantation)による)後に軟組織を増加させることができる筋由来始原細胞を提供する。また、筋由来始原細胞を単離する方法、および遺伝子導入治療のために細胞を遺伝的に修飾する方法が提供される。本発明はさらに、奇形、損傷、脱力、疾患または機能不全を含む様々な美容的または機能的症状の治療において、ヒトを含む哺乳動物の軟組織の増加および増量のために筋由来始原細胞を含有する組成物を使用する方法を提供する。特に、本発明は、皮膚疾患、胃食道逆流、膀胱尿管逆流、尿失禁、便失禁、心不全および心筋梗塞のための治療および改善を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋由来始原細胞(MDC)および体組織、特に心筋のような軟組織の増加におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、軟組織および骨への導入後長期的な生存を示す筋由来始原細胞、MDCを単離する方法、および上皮、脂肪、神経、器官、筋肉、靱帯および軟骨組織を含む、ヒトまたは動物の軟組織および骨の増加のためにMDC含有組成物を使用する方法に関する。本発明はまた、心不全および心筋梗塞に関連する損傷または脱力のような機能的状態の治療のための筋由来始原細胞の新規使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような合成材料を用いた軟組織の増加は当技術分野において周知である。Arnettへの特許文献1は、顔面形成外科用のシリコーンインプラントの使用を開示する。しかし、そのような合成材料は宿主組織にとって異質であり、インプラントの被包および周辺組織の瘢痕化を生じさせる免疫応答を引き起こす。それ故、インプラントは付加的な機能的または審美的問題をもたらし得る。
【0003】
コラーゲンまたはヒアルロン酸のような生体高分子を用いた軟組織増加も記述されている。たとえばWallaceらへの特許文献2は、コラーゲンインプラント材料を用いて軟組織を増加させる方法を開示する。加えて、della Valleらへの特許文献3は、美容外科において使用できるヒアルロン酸のエステルを開示する。しかし、これらの生体高分子もまた宿主組織にとって異質であり、注入材料の再吸収を生じさせる免疫応答を引き起こす。生体高分子は、それ故、長期的な組織増加を提供することができない。全体として、生体高分子または合成材料の使用は、軟組織を増加させるという目的には全く満足のいかないものであった。
【0004】
細胞に基づく組成物を使用した軟組織増加も開発された。Boss,Jr.への特許文献4は、美容的および審美的皮膚欠陥の治療のための自己皮膚線維芽細胞の使用を開示する。この治療は、合成材料または生体高分子の移植または注入に固有の問題を回避するが、他の合併症を生じさせる。線維芽細胞はコラーゲンを産生するので、細胞は、移植部位の周囲の組織の硬化および変形を引き起こし得る。
【0005】
注入用増量剤としての自己脂肪細胞の使用も記述されている(総説については、K.Makら、1994,Otolaryngol.Clin.North.Am.27:211−22;American Society of Plastic and Reconstructive Surgery:Report on autologous fat transplantation by the ad hoc committee on new procedures,1987,Chicago:American Society of Plastic and Reconstructive Surgery;A.Chaichirら、1989,Plast.Reconstr.Surg.84:921−935;R.A.Ersek,1991,Plast.Reconstr.Surg.87:219−228;H.W.Horlら、1991,Ann.Plast.Surg.26:248−258;A.Nguyenら、1990,Plast.Reconstr.Surg.85:378−389;J.Sartynskiら、1990,Otolaryngol.Head Neck Surg.102:314−321参照)。しかし、注入された脂肪は宿主に再吸収されるので、脂肪移植処置は一時的な増量しか提供しない。加えて、脂肪移植は結節形成および組織非対称を生じさせ得る。
【0006】
筋繊維の前駆体である筋芽細胞は、融合して有糸分裂後の多核筋管を形成する単核筋細胞であり、生物活性タンパク質の長期的発現と送達を提供することができる(T.A.PartridgeとK.E.Davies,1995,Brit.Med.Bulletin 51:123−137;J.Dhawanら、1992,Science 254:1509−12;A.D.Grinnell,1994,Myology Ed 2,A.G.EngelとC.F.Armstrong,McGraw−Hill,Inc.,303−304;S.JiaoとJ.A.Wolff,1992,Brain Research 575:143−7;H.Vandenburgh,1996,Human Gene Therapy 7:2195−2200)。
【0007】
培養した筋芽細胞は、幹細胞の自己更新特性の一部を示す細胞の亜集団を含む(A.Baroffioら、1996,Differentiation 60:47−57)。そのような細胞は融合して筋管を形成することができず、別途に培養しない限り分裂しない(A.Baroffioら、前出)。筋芽細胞移植の試験(以下参照)は、移植された細胞の大部分は速やかに死滅するが、少数は生存し、新たな筋形成を媒介することを示した(J.R.Beuchampら、1999,J.Cell Biol.144:1113−1122)。この少数の細胞は、組織培養での緩やかな増殖と移植後の迅速な増殖を含む独特の挙動を示し、これらの細胞が筋芽幹細胞であり得ることを示唆する(J.R.Beuchampら、前出)。
【0008】
筋芽細胞は、様々な筋関連および非筋関連疾患の治療における遺伝子療法のためのビヒクルとして使用されてきた。たとえば遺伝的に修飾されたまたは修飾されていない筋芽細胞の移植は、デュシェーヌ筋ジストロフィーの治療のために使用されてきた(E.Gussoniら、1992,Nature,356:435−8;J.Huardら、1992,Muscle & Nerve,15:550−60;G.Karpatiら、1993,Ann.Neurol.,34:8−17;J.P.Tremblayら、1993,Cell Transplantation,2:99−112;P.A.Moissetら、1998,Biochem.Biophys.Res.Commun.247:94−9;P.A.Moissetら、1998,Gene Ther.5:1340−46)。加えて、筋芽細胞は、1型糖尿病の治療のためのプロインスリン(L.Grosら、1999,Hum.Gen.Ther.10:1207−17);血友病Bの治療のための第IX因子(M.Romanら、1992,Somat.Cell.Mol.Genet.18:247−58;S.N.Yaoら、1994,Gen.Ther.1:99−107;J.M.Wangら、1997,Blood 90:1075−82;G.Hortelanoら、1999,Hum.Gene Ther.10:1281−8);アデノシンデアミナーゼ欠損症候群の治療のためのアデノシンデアミナーゼ(C.M.Lynchら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:1138−42);慢性貧血の治療のためのエリトロポエチン(E.Regulierら、1998,Gene Ther.5:1014−22;B.Dalleら、1999,Gene Ther.6:157−61)、および成長遅滞の治療のためのヒト成長ホルモン(K.Anwerら、1998,Hum.Gen.Ther.9:659−70)を生産するために遺伝子操作されてきた。
【0009】
筋芽細胞はまた、Lawらへの特許文献5、Blauらへの特許文献6、およびChancellorらによる1999年4月30日出願の米国特許出願第09/302,896号に開示されているように、筋組織の損傷または疾患を治療するためにも使用されてきた。加えて、筋芽細胞移植は心筋梗塞の修復のために用いられてきた(C.E.Murryら、1996,J.Clin.Invest.98:2512−23;B.Z.Atkinsら、1999,Ann.Thorac.Surg.67:124−129;B.Z.Atkinsら、1999,J.Heart Lung Transplant.18:1173−80)。
【0010】
上記にもかかわらず、ほとんどの症例で、一次筋芽細胞由来治療は、遊走および/または食作用に起因する移植後の細胞の低い生存率に結び付いてきた。この問題を回避するため、Atalaへの特許文献7は、アルギネートのような液体ポリマーに懸濁した筋芽細胞の使用を開示している。ポリマー溶液は、筋芽細胞が注入後に移動するおよび/または食作用を受けることを防ぐための基質として働く。しかし、ポリマー溶液は、上記で論じた生体高分子と同じ問題を提起する。さらに、特許文献7は筋組織だけにおける筋芽細胞の使用に限定され、他の組織は取り上げられていない。
【0011】
それ故、長期間持続性で、広い範囲の宿主組織と適合性であり、移植部位の周囲の組織の炎症、瘢痕化および/または硬化を最小限に抑える、他の異なる軟組織増加材料が求められている。従って、本発明の筋由来始原細胞含有組成物は、軟組織を増加させるための改善された新規材料として提供される。さらに、移植後に長期的な生存を示す筋由来始原細胞を生成する方法、および、たとえば皮膚症状または損傷、および筋力の低下、筋の損傷、疾患または機能不全を含む、様々な審美的および/または機能的欠陥を治療するためにMDCおよびMDCを含有する組成物を使用する方法が提供される。
【0012】
非筋肉軟組織増量のために筋芽細胞を使用するこれまでの試みが不成功に終わっていることに注目すべきである(Atalaへの特許文献7)。それ故、ここで開示する所見は、本発明に従った筋由来始原細胞が上皮組織を含む非筋および筋軟組織に成功裏に移植され、長期的な生存を示し得ることを明らかにするので、予想外である。その結果、MDCおよびMDCを含有する組成物は、筋または非筋軟組織増加のため、ならびに骨生産のための一般的増量材料として使用できる。さらに、本発明の筋由来始原細胞および組成物は自己ソースに由来し得るので、増量材料の再吸収、および移植部位の周囲の組織の炎症および/または瘢痕化を含む、宿主における免疫学的合併症の危険性が低い。
【0013】
間葉幹細胞は、筋肉、骨、軟骨等を含む身体の様々な結合組織において認められ得るが(H.E.Youngら、1993,In Vitro Cell Dev.Biol.29A:723−736;H.E.Youngら、1995,Dev.Dynam.202:137−144)、間葉という用語は、歴史的には、筋肉からではなく骨髄から精製された幹細胞のクラスを表すために使用されてきた。それ故、間葉幹細胞は本発明の筋由来始原細胞とは区別される。さらに、間葉細胞は、ここで述べる筋由来始原細胞によって発現される、CD34細胞マーカーを発現しない(M.F.Pittengerら、1999,Science 284:143−147)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,876,447号明細書
【特許文献2】米国特許第4,424,208号明細書
【特許文献3】米国特許第4,965,353号明細書
【特許文献4】米国特許第5,858,390号明細書
【特許文献5】米国特許第5,130,141号明細書
【特許文献6】米国特許第5,538,722号明細書
【特許文献7】米国特許第5,667,778号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
要旨
移植後に長期的な生存を示す新規な筋由来始原細胞(MDC)およびMDC組成物を提供することが本発明の1つの目的である。本発明のMDCおよびMDCを含有する組成物は、デスミン、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34およびBcl−2のような始原細胞マーカーを発現する初期前駆筋細胞、すなわち筋由来幹細胞を含む。加えて、これらの初期前駆筋細胞は、Flk−1、Sca−1、MNFおよびc−met細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない。
【0016】
出発筋細胞集団から筋由来始原細胞を単離し、冨化するための方法を提供することが本発明のもう1つの目的である。これらの方法は、軟組織の部位への移植または導入後に長期的な生存能を有するMDCの冨化を生じさせる。本発明に従ったMDC集団は、特に、デスミン、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34およびBcl−2のような始原細胞マーカーを発現する細胞に富む。このMDC集団はまた、Flk−1、Sca−1、MNFおよびc−met細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない。
【0017】
移植のためのポリマー担体または特殊な培養培地を必要とせずに、皮膚、血管、脂肪、神経、骨格筋、平滑筋、靭帯、軟骨および様々な器官組織を含む筋軟組織または非筋軟組織の増加のために、MDCおよびMDCを含有する組成物を使用する方法を提供することが本発明のさらにもう1つの目的である。そのような方法は、軟組織への導入による、たとえば組織への直接注入または組成物の全身分布による、MDC組成物の投与を含む。好ましくは、軟組織は非骨体組織を含む。より好ましくは、軟組織は、非横紋筋、非骨体組織を含む。最も好ましくは、軟組織は非筋・非骨体組織を含む。ここで使用するとき、増加とは、体組織の大きさまたは質量を補填する、膨張させる、支持する、増大する、拡大するまたは増加させることを指す。
【0018】
a)美容的または審美的症状:b)胃食道逆流症状および状態;c)便失禁および尿失禁;d)骨格筋および平滑筋の筋力低下、損傷、疾患または機能不全およびe)心筋梗塞を含む心臓状態のために、MDCに基づく治療を提供することが本発明のもう1つの目的である。
【0019】
傷害、創傷、手術、外傷、非外傷、もしくは皮膚または内部軟組織または器官に裂、孔、陥凹、創傷等を生じさせる他の行為後に、骨または、筋由来軟組織または非筋由来軟組織にかかわらず、軟組織を増加させる方法を提供することが本発明のさらにもう1つの目的である。
【0020】
化学物質、増殖培地および/または遺伝子操作の使用を通して改変されたMDCおよびMDCを含有する組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。そのようなMDCおよびその組成物は、生物学的化合物の生産と送達、および様々な疾患、症状、傷害または疾病のために有用な化学的または遺伝的に修飾された細胞を含む。
【0021】
MDCおよびMDCを含有する組成物を含む医薬組成物を提供することが本発明のさらにもう1つの実施形態である。これらの医薬組成物は単離されたMDCを含む。これらのMDCは、その後、単離後の細胞培養によって増殖され得る。これらのMDCは、その医薬組成物を必要とする被験体への送達の前に凍結される。
【0022】
1つの実施形態では、MDCおよびその組成物が心臓状態を治療するために使用されるとき、それらは心臓に直接注射される。それらは、心房内または心臓壁に注射され得る。
【0023】
本発明はまた、単一平板手法(single plating technique)を用いたMDCの単離を含む組成物および方法を提供する。MDCは骨格筋の生検から単離される。1つの実施形態では、生検からの骨格筋は1〜30日間保存され得る。この実施形態の1つの態様では、生検からの骨格筋は4℃で保存される。細胞を細かく刻み、コラゲナーゼ、ジスパーゼ、別の酵素または酵素の組合せを用いて消化する。細胞から酵素を洗浄した後、細胞をフラスコ内の培地で約30〜約120分間培養する。この期間中、「急速接着細胞」はフラスコまたは容器の壁に付着し、一方「緩慢接着細胞」またはMDCは懸濁液中に残存する。「緩慢接着細胞」を2番目のフラスコまたは容器に移し、1〜3日間その中で培養する。この2番目の期間中に、「緩慢接着細胞」またはMDCは2番目のフラスコまたは容器の壁に付着する。
【0024】
本発明のもう1つの実施形態では、これらのMDCはいかなる細胞数にも増殖する。この実施形態の好ましい態様では、細胞を約10〜20日間新しい培地で増殖させる。より好ましくは細胞を17日間増殖させる。
【0025】
増殖したまたは増殖していないMDCは、輸送するためまたは使用までの期間中貯蔵するために保存され得る。1つの実施形態では、MDCを凍結する。好ましくは、MDCを約−20℃から−90℃で凍結する。より好ましくは、MDCを約−80℃で凍結する。これらの凍結MDCは医薬組成物として使用される。
【0026】
医薬組成物として凍結または保存された、または新鮮使用されるMDCは、多くの心臓状態を治療するために使用され得る。これらの症状は、心筋梗塞、心不全、アダムズ‐ストークス病、先天性心疾患、狭心症、不整脈、心房細動、細菌性心内膜炎、心筋症、うっ血性心不全、拡張機能障害、心雑音および心室期外収縮(premature ventricular contraction)を含む。MDCは何らかの心臓病変によって引き起こされる心臓欠陥を治癒するためまたは心機能を改善するために使用され得る。1つの実施形態では、MDCは心臓に直接投与される。
【0027】
好ましくは、MDCは心筋梗塞(MI)を治療するために使用される。1つの実施形態では、この治療は、MI患者から採集した骨格筋からMDCを単離し、患者自身のMDCを患者の心臓に投与して戻すことによって実施される。この治療は患者の心臓の機能を高め、MI後に起こる有害な心臓リモデリングおよび瘢痕化(を回避する、予防する等が続くと思われます)。
【0028】
本発明によって提供されるさらなる目的および利点は、以下の詳細な説明と実施例から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
付属の図面は、本発明をさらに説明し、その様々な態様の明瞭化を通してその理解を助けるために提示されるものである。
【図1】図1A−1Fは、従来のウシコラーゲンの注射と比較した、MDC組成物の注射を使用した軟組織増加の結果を示す。図1A−1Fに関して、MDC(図1D−1F)またはコラーゲン(1A−1C)のいずれかを腹壁の皮膚に注射した。注射の領域は、真皮と、皮膚である皮下結合組織の界面であった。図1A−1Fは、コラーゲンまたはMDCの皮膚への注射後の、40X倍率でのトリクローム染色を示す。注射後5日目、2週間目または4週間目に、組織試料を採取し、分析用に調製した。図1Aおよび1Dは、注射後5日目の、皮膚へのMDC注射とコラーゲン注射の結果を示す;図1Bおよび1Eは、注射後2週間目の結果を示す;および図1Cおよび1Fは、注射後4週間目の結果を示す。図1D−1Fにおける矢印は、注射領域(濃い桃色)におけるMDCの存在を指示する。図1A−1Fは、皮下腔への注射後、MDCは少なくとも4週間まで存在し、腹壁皮下組織を維持/増加させたが、コラーゲンは皮膚への注射後2週間まで存続しなかったことを明らかにする。(実施例3)。
【図2】図2Aおよび2Bは、MDC組成物の注射を使用した下部食道括約筋(図2A)および肛門括約筋(図2B)軟組織増加の結果を示す。注射は、胃食道接合部または肛門括約筋に対して実施した。注射後3日目に、組織試料を採取し、分析用に調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図2Aは、注射した組織を100X倍率で示す;図2Bは、注射した組織を40X倍率で示す。図2Aおよび2Bは、MDC注射が、注射後3日間まで下部食道括約筋および肛門括約筋軟組織増加を維持したことを明らかにする。
【図3】図3Aおよび3Bは、MDC組成物の注射を使用した膀胱尿管接合部軟組織増加の結果を示す。注射は膀胱尿管接合部に実施した。注射後3日目に、組織試料を採取し、分析用に調製した。MDCは、矢印の近くで見られるようにβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図3Aは、注射した組織を低(40X)倍率で示す;図3Bは、注射した組織を高(100X)倍率で示す。図3Aおよび3Bは、MDC注射が、注射後3日目まで膀胱尿管接合部軟組織増加を維持したことを明らかにする。
【図4】図4Aおよび4Bは、MDC組成物の軟組織注射を使用した膀胱低温傷害の治療を示す。注射は、低温傷害の部位の膀胱壁に実施した。注射後30日目に、組織試料を採取し、染色用に調製した。矢印は低温傷害およびMDC注射の部位を指示する。倍率は100Xである。図4Aは、未処置の低温損傷膀胱組織を示す。図4Bは、MDC注射で処置した低温損傷膀胱組織を示す;MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図4Aおよび4Bは、MDC注射が、注射後30日間まで低温損傷膀胱組織の軟組織増加を維持したことを明らかにする。
【図5−1】図5A−5Iは、低温損傷膀胱組織への注射後のMDCの細胞分化を示す。注射は、低温傷害の部位の膀胱壁に実施し、注射後5、35または70日目に組織試料を採取し、分析用に調製した。注射したMDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって示され、未分化MDCはα平滑筋アクチン(α−SMアクチン)染色によって示されている。筋管または筋線維に分化したMDCは、速ミオシン重鎖(速MyHC)染色によって示されている。矢印は速MyHCを示す。注射後5日目に、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5A)およびα−SMアクチン(図5D)染色、および比較的低レベルの速MyHC(図5G)染色によって示されるように、一部のMDCだけが筋管に分化していた。注射後35日目には、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ染色(図5B)、α−SMアクチン(図5E)染色の低下、および速MyHC(図5H)染色の上昇によって示されるように、多くが筋管に分化していた。注射後70日目には、MDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5C)、α−SMアクチン(図5F)染色の低下、および高レベルの速MyHC(図5I)染色によって示されるように、ほとんどすべてのMDCが筋線維に分化していた。倍率は200Xである。図5A−5Iは、MDCが膀胱軟組織への注射後70日間まで生存可能なままであり、分化を開始することを明らかにする。
【図5−2】図5A−5Iは、低温損傷膀胱組織への注射後のMDCの細胞分化を示す。注射は、低温傷害の部位の膀胱壁に実施し、注射後5、35または70日目に組織試料を採取し、分析用に調製した。注射したMDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって示され、未分化MDCはα平滑筋アクチン(α−SMアクチン)染色によって示されている。筋管または筋線維に分化したMDCは、速ミオシン重鎖(速MyHC)染色によって示されている。矢印は速MyHCを示す。注射後5日目に、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5A)およびα−SMアクチン(図5D)染色、および比較的低レベルの速MyHC(図5G)染色によって示されるように、一部のMDCだけが筋管に分化していた。注射後35日目には、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ染色(図5B)、α−SMアクチン(図5E)染色の低下、および速MyHC(図5H)染色の上昇によって示されるように、多くが筋管に分化していた。注射後70日目には、MDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5C)、α−SMアクチン(図5F)染色の低下、および高レベルの速MyHC(図5I)染色によって示されるように、ほとんどすべてのMDCが筋線維に分化していた。倍率は200Xである。図5A−5Iは、MDCが膀胱軟組織への注射後70日間まで生存可能なままであり、分化を開始することを明らかにする。
【図6】図6A−6Dは、膀胱の軟組織に注射したMDCの再神経支配を示す。神経支配は、神経筋接合部を示す、アセチルコリン(Ach)染色によって指示される。注射後3日目には、Ach染色によって示されるように、神経支配はほとんど認められない(図6A)。注射後15日目には、いくつかの神経支配が認められる(図6B)。注射後30日目には、より多くの神経支配が認められる(図6C)。注射の6か月後には、低(100X)倍率で数多くの神経支配が認められる(図6D)。図6A−6Cは、注射した組織を高(200X)倍率で示す。図6A−6Dは、MDCが低温損傷膀胱組織への注射後6か月間まで神経支配を誘導することを明らかにする。
【図7】図7Aおよび7Bは、MDC組成物の注射を使用した心筋平滑筋の軟組織増加の結果を示す。注射は心室壁に実施し、注射後3日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図7Aは、注射した組織を低(100X)倍率で示す;図7Bは、注射した組織を高(200X)倍率で示す。
【図8】図8Aおよび8Bは、肝組織へのMDC注射の結果を示す。注射は左下葉の肝臓組織に実施し、注射後4日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図8Aは低(100X)倍率を示す;図8Bは高(200X)倍率を示す。
【図9】図9Aおよび9Bは、脾組織へのMDC注射の結果を示す。注射は内面の脾臓組織に実施し、注射後4日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図9Aは、低(100X)倍率で観察した注射組織を示す;図9Bは、高(200X)倍率で観察した注射組織を示す。
【図10】図10Aおよび10Bは、脊髄組織へのMDC注射の結果を示す。注射を脊髄組織に実施し、注射後4日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図10Aは、低(100X)倍率で観察した注射組織を示す;図10Bは、高(200X)倍率で観察した注射組織を示す。図7A−7B、8A−8B、9A−9Bおよび10A−10Bは、MDCが、宿主組織を損傷することなく様々な異なる組織型への注射後に生存可能なままであることを明らかにする。
【図11】図11A−11Lは、デスミン、MyoDおよびミオゲニン(筋形成系統に特異的なマーカー)、M−カドヘリン(衛星細胞特異的マーカー)、Bcl−2(初期筋形成マーカー)、CD34(造血または間質細胞マーカー)を含む細胞マーカーの発現を示すmdxマウスからのPP1−4およびPP6細胞集団の免疫組織化学分析を示す。図11A−11Lは、PP1−4およびPP6細胞集団はデスミン(図11Aおよび11G)、MyoD(図11Eおよび11K)およびミオゲニン(図11Fおよび11L)を発現する細胞の同等のパーセンテージを示し、一方PP6集団はPP1−4集団と比較して、M−カドヘリンを発現する細胞のより低いパーセンテージを示すが(図11Dおよび11J)、Bcl−2(図11Cおよび11I)およびCD34(図11Bおよび11H)を発現する細胞のより高いパーセンテージを示すことを明らかにする。
【図12−1】図12A−12Iは、マウス筋細胞および血管内皮細胞におけるデスミン染色とCD34またはBcl−2染色の細胞内共局在を示す。図12Aは、抗CD34抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常なマウス筋細胞(矢印参照)および血管内皮細胞(矢じり参照)を示す。図12Bは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Cは、核を示すためにヘキスト(Hoechst)で共染色した同じ細胞を示す。図12Dは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Eは、抗Bcl−2抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常マウス筋細胞(矢印参照)を示す。図12Fは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Gは、核を示すためにヘキストで共染色した同じ細胞を示す。図12Hは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Iは、抗M−カドヘリン抗体で染色した衛星細胞を示す(矢印参照)。細胞は40X倍率で観察した。図12A−12DはCD34とデスミンの共局在を明らかにし、図12E−12HはBcl−2とデスミンの共局在を明らかにする。
【図12−2】図12A−12Iは、マウス筋細胞および血管内皮細胞におけるデスミン染色とCD34またはBcl−2染色の細胞内共局在を示す。図12Aは、抗CD34抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常なマウス筋細胞(矢印参照)および血管内皮細胞(矢じり参照)を示す。図12Bは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Cは、核を示すためにヘキスト(Hoechst)で共染色した同じ細胞を示す。図12Dは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Eは、抗Bcl−2抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常マウス筋細胞(矢印参照)を示す。図12Fは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Gは、核を示すためにヘキストで共染色した同じ細胞を示す。図12Hは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Iは、抗M−カドヘリン抗体で染色した衛星細胞を示す(矢印参照)。細胞は40X倍率で観察した。図12A−12DはCD34とデスミンの共局在を明らかにし、図12E−12HはBcl−2とデスミンの共局在を明らかにする。
【図13】図13A−13Eは、mc13細胞のrhBMP−2への暴露から生じるオステオカルシンの形態学的変化と発現を示す。mc13細胞を、rhBMP−2を含むまたは含まない増殖培地で6日間インキュベートした。図13Aは、rhBMP−2の不在下で>50%細胞集密度に増殖した細胞を示す。図13Bは、200ng/ml rhBMP−2の存在下で>50%細胞集密度に増殖した細胞を示す。図13Cは、rhBMP−2の不在下で>90%細胞集密度に増殖した細胞を示す。図13Dは、200ng/ml rhBMP−2の存在下で>90%集密度に増殖した細胞を示す。図13Eは、オステオカルシン発現(骨芽細胞マーカー;矢印参照)に関して染色した細胞を示す。細胞は10X倍率で観察した。図13A−13Eは、mc13細胞がrhBMP−2への暴露後に骨芽細胞に分化できることを明らかにする。
【図14−1】図14A−14Bは、rhBMP−2処理に応答してデスミンおよびアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞のパーセンテージへの影響を示す。図14Aは、新たに単離したmc13クローンのデスミン染色を示す。図14Bは、同じ細胞の位相差顕微鏡写真を示す。
【図14−2】図14C−14Dは、rhBMP−2処理に応答してデスミンおよびアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞のパーセンテージへの影響を示す。図14Cは、200ng/ml rhBMP−2を含むまたは含まない増殖培地での6日間のインキュベーション後のmc13細胞におけるデスミン染色のレベルを示す。図14Dは、200ng/ml rhBMP−2を含むまたは含まない増殖培地での6日間のインキュベーション後のPP1−4細胞およびmc13細胞におけるアルカリホスフェート染色のレベルを示す。*は統計的に有意の結果を指示する(スチューデントt検定)。図14Cは、rhBMP−2の存在下でデスミンを発現するmc13細胞の数が減少することを明らかにし、一方図14Dは、rhBMP−2の存在下でアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞の数が増加することを明らかにし、rhBMP−2の存在下では細胞の筋形成特徴が低下し、骨形成特徴が上昇することを示唆する。
【図15】図15A−15Gは、筋形成および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化を示す。mc13細胞を、LacZおよびジストロフィン遺伝子を含む構築物で安定にトランスフェクトし、筋肉内または静脈内注射によってmdxマウスの後肢に導入した。15日後、動物を犠死させ、組織学的検査のために後肢筋系を単離した。図15Aは、LacZに関して染色した筋肉内注射部位におけるmc13細胞を示す。図15Bは、ジストロフィンに関して共染色した同じ細胞を示す。図15Cは、LacZに関して染色した静脈内注射の領域におけるmc13細胞を示す。図15Dは、ジストロフィンに関して共染色した同じ細胞を示す。別の実験では、mc13細胞をadBMP−2で形質導入し、0.5−1.0×106細胞をSCIDマウスの後肢に注射した。14日後、動物を犠死させ、後肢筋組織を分析した。図15Eは、骨形成を測定するための後肢のX線撮影分析を示す。図15Fは、LacZに関して染色した後肢に由来する細胞を示す。図15Gは、ジストロフィンに関して染色した細胞を示す。図15A−15Dは、mc13細胞が筋肉内または静脈内送達によってジストロフィン発現を救済し得ることを明らかにする。図15E−15Gは、mc13細胞が異所性骨形成に関与することを明らかにする。細胞は以下の倍率で観察した:40X(図15A−15D)、10X(図15F−15G)。
【図16】図16A−16Eは、rhBMP−2を産生する一次筋細胞による骨治癒の増強を示す。歯科用バーを使用して雌性SCIDマウスにおいて5mmの頭蓋欠損を創造し、その欠損に、adBMP−2と共にまたはadBMP−2なしでmc13細胞を接種したコラーゲンスポンジを充填した。動物を14日目に犠死させ、骨治癒の徴候に関して検査し、顕微鏡で分析した。図16Aは、adBMP−2なしでmc13細胞によって処置した頭蓋を示す。図16Bは、adBMP−2で形質導入したmc13細胞によって処置した頭蓋を示す。図16Cは、フォン・コッサ染色によって分析した、adBMP−2なしでmc13細胞によって処置した頭蓋の組織学的試料を示す。図16Dは、フォン・コッサ染色によって分析した、adBMP−2で形質導入したmc13細胞によって処置した頭蓋の組織学的試料を示す。図16Eは、注射した細胞(矢印で示す緑色蛍光)を同定するためにY染色体特異的プローブでのハイブリダイゼーションによって分析し、核(赤色蛍光で指示される)を同定するために臭化エチジウムで染色した、adBMP−2で形質導入したmc13細胞によって処置した頭蓋の組織学的試料を示す。図16A−16Eは、rhBMP−2を発現するmc13細胞が骨欠損の治癒に寄与し得ることを明らかにする。
【図17】図17Aおよび17Bは、それぞれ急速に接着する細胞と緩慢に接着する細胞についての、CD56の様々な発現%でのクレアチンキナーゼ活性の量を示すグラフである。
【図18】図18は、心臓内注射後2週間目と6週間目の、対照細胞および急速接着MDCと緩慢接着MDCにおける左心室収縮性の指標である、左室内腔面積変化率(furactional area change)(FAC)を示す一連の棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
筋由来細胞および組成物
本発明は、体組織、好ましくは軟組織への移植後に長期的な生存率を示す初期始原細胞(ここでは筋由来始原細胞または筋由来幹細胞とも称する)から成るMDCを提供する。本発明のMDCを得るため、筋外植片、好ましくは骨格筋を動物ドナーから、好ましくはヒトを含む哺乳動物から入手する。この外植片は、筋始原細胞の「休止細胞(rests)」を含む構造的および機能的シンシチウムとして働く(T.A.Partridgeら、1978,Nature 73:306−8;B.H.Liptonら、1979,Science 205:12924)。
【0031】
一次筋組織から単離された細胞は、線維芽細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、造血および筋由来始原細胞の混合物を含む。筋由来集団の始原細胞は、Chancellorらの米国特許第6,866,842号に述べられているような、コラーゲン被覆した組織フラスコへの一次筋細胞の差次接着特性を利用して冨化することができる。緩やかに接着する細胞は形態的に丸い傾向があり、高レベルのデスミンを発現し、融合して多核筋管へと分化する能力を有する(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。これらの細胞の亜集団は、高レベルのアルカリホスファターゼ、副甲状腺ホルモン依存性3’,5’−cAMP、および骨形成系統および筋形成系統を発現することによってインビトロで組換えヒト骨形態形成タンパク質2(rhBMP−2)に応答することが示された(Chancellorらの米国特許第6,866,842号;T.Katagiriら、1994,J.Ceg Biol.127:1755−1766)。
【0032】
本発明の1つの実施形態では、緩慢接着細胞(MDC)から急速接着細胞を区別するためにプレプレーティング手順を使用し得る。本発明に従って、急速接着細胞(PP1−4)と緩慢接着円形MDC(PP6)の集団を単離し、骨格筋外植片から冨化して、緩慢接着細胞の中で多能性細胞の存在を判定するために免疫組織化学を用いて様々なマーカーの発現に関して試験した(実施例1:Chancellorらの米国特許出願第09/302,896号)。表3、ここでは実施例9に示すように、PP6細胞は、デスミン、MyoDおよびミオゲニンを含む筋形成マーカーを発現した。PP6細胞はまた、筋形成の初期段階で発現される2つの遺伝子、c−metおよびMNFも発現した(J.B.Millerら、1999,Curr.Top.Dev.Biol.43:191−219;表3参照)。PP6は、衛星細胞特異的マーカーであるM−カドヘリンを発現する細胞のより低いパーセンテージを示したが(A.Irintchevら、1994,Development Dynamics 199:326−337)、筋形成の初期段階の細胞に限定されるマーカー、Bcl−2を発現する細胞のより高いパーセンテージを示した(J.A.Dominovら、1998,J.Cell Biol.142:537−544)。PP6細胞はまた、ヒト造血始原細胞ならびに骨髄中の間質細胞前駆体に関して同定されたマーカー、CD34も発現した(R.G.Andrewsら、1986,Blood 67:842−845;C.I.Civinら、1984,J.Immunol.133:157−165;L.Finaら、1990,Blood 75:2417−2426;P.J.Simmonsら、1991,Blood 78:2848−2853;表3参照)。PP6細胞はまた、幹細胞様特徴を有する造血細胞のマーカーとして最近同定されたヒトKDR遺伝子のマウスホモログ、Flk−1を発現した(B.L.Zieglerら、1999,Science 285:1553−1558;表3参照)。同様に、PP6細胞は、幹細胞様特徴を有する造血細胞に存在するマーカー、Sca−1を発現した(M.van de Rijnら、1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4634−8;M.Osawaら、1996,J.Immunol.156:3207−14;表3参照)。しかし、PP6細胞はCD45またはc−Kit造血幹細胞マーカーを発現しなかった(LK.Ashman,1999,Int.J.Biochem.Cell.Biol.31:1037−51;G.A.Koretzky,1993,FASEB J.7:420−426において総説されている;表3参照)。
【0033】
本発明の1つの実施形態は、ここで述べる特徴を有する筋由来始原細胞のPP6集団である。これらの筋由来始原細胞は、デスミン、CD34およびBcl−2細胞マーカーを発現する。本発明に従って、PP6細胞は、移植後に長期的な生存能を有する筋由来始原細胞の集団を得るためにここで述べる手法によって単離される(実施例1)。PP6筋由来始原細胞集団は、デスミン、CD34およびBcl−2のような始原細胞マーカーを発現する細胞の有意のパーセンテージを含む。加えて、PP6細胞は、Flk−1およびSca−1細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kitマーカーを発現しない。好ましくは、PP6細胞の95%以上がデスミン、Sca−1およびFlk−1マーカーを発現するが、CD45またはc−Kitマーカーを発現しない。PP6細胞は、最後のプレーティング後約1日以内または約24時間以内に使用されることが好ましい。
【0034】
好ましい実施形態では、急速接着細胞と緩慢接着細胞(MDC)は、単一プレーティング手法を用いて互いから分離される。そのような手法の1つを実施例10で述べる。最初に、骨格筋生検から細胞を得る。生検必要量は、約100mgの細胞を含むだけでよい。約50mg〜約500mgの範囲の大きさの生検が、本発明のプレプレーティングおよび単一プレーティングの両方法に従って使用される。50、100、110、120、130、140、150、200、250、300、400および500mgのさらなる生検が、本発明のプレプレーティングおよび単一プレーティングの両方法に従って使用される。1つの実施形態では、生検からの組織は入手後24時間以内に処理される。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、生検からの組織は、その後1〜30日間保存される。この保存はほぼ室温から約4℃までの温度である。この待機期間は、生検された骨格筋組織にストレスを生じさせる。このストレスは、この単一プレーティング手法を用いたMDCの単離に必要ではないが、待機期間を用いることはMDCのより高い収率をもたらすと思われる。
【0036】
生検からの組織を細かく切り刻み、遠心分離する。ペレットを再懸濁し、消化酵素を用いて消化する。使用し得る酵素は、コラゲナーゼ、ジスパーゼまたはこれらの酵素の組合せを含む。消化後、酵素を細胞から洗い流す。急速接着細胞の単離のために細胞をフラスコの培地中に移す。多くの培地を使用してもよい。特に好ましい培地は、Cambrex内皮増殖培地(Endothelial Growth Medium)を含む、内皮細胞の培養用に設計されたものを含む。この培地に、ウシ胎仔血清、IGF−1、bEGF、VEGF、EGF、ヒドロコルチゾン、ヘパリンおよび/またはアスコルビン酸を含む他の成分を添加してもよい。単一プレーティング手法において使用し得る他の培地は、InCell M310F培地を含む。この培地に、上述したように添加してもよく、または添加せずに使用してもよい。
【0037】
急速接着細胞の単離のための工程は、約30〜約120分間の期間にわたるフラスコでの培養を必要とし得る。急速接着細胞は、30、40、50、60、70、80、90、100、110または120分でフラスコに付着する。それらが接着した後、急速接着細胞が付着しているフラスコから培地を取り出して、緩慢接着細胞を急速接着細胞から分離する。
【0038】
次に、このフラスコから取り出した培地を2番目のフラスコに移す。2番目のフラスコに移す前に、細胞を遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。細胞をこの2番目のフラスコで1〜3日間培養する。好ましくは、細胞を2日間培養する。この期間中に、緩慢接着細胞(MDC)がフラスコに付着する。MDCが付着した後、培地を除去し、MDCの数が増大し得るように新たな培地を添加する。MDCを約10〜約20日間培養することによってその数を増大させ得る。MDCを10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20日間培養することによってその数を増大させ得る。好ましくはMDCを17日間の拡大培養に供する。
【0039】
プレプレーティングおよび単一プレーティング法の代替法として、本発明のMDCは、MDCによって発現される細胞表面マーカーの1またはそれ以上に対する標識抗体を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析によって単離できる(C.Websterら、1988,Exp.Cell.Res.174:252−65;J.R.Blantonら、1999,Muscle Nerve 22:43−50)。たとえばFACS分析は、宿主組織に導入したとき長期的生存能を示すPP6様細胞の集団を選択するために、CD34、Flk−1、Sca−1、および/またはここで述べるその他の細胞表面マーカーに対する標識抗体を使用して実施できる。また、種々の細胞マーカータンパク質の抗体検出のための1またはそれ以上の蛍光検出標識、たとえばフルオレセインまたはローダミンの使用も本発明に包含される。
【0040】
上述したMDC単離法のいずれかを使用した後、輸送する予定であるまたは一定期間使用しない予定であるMDCは、当技術分野で公知の方法を用いて保存し得る。より詳細には、単離したMDCは約−25℃から約−90℃の範囲の温度で凍結し得る。好ましくは、MDCは、後日の使用または輸送のためにドライアイス上にて約−80℃で凍結される。凍結は、当技術分野で公知の何らかの凍結保存媒体で実施され得る。
【0041】
筋由来細胞に基づく治療
本発明の1つの実施形態では、MDCを骨格筋供給源から単離し、対象とする筋または非筋軟組織部位または骨構造に導入または移植する。好都合には、本発明のMDCは、移植後に長期的な生存を示す多数の始原細胞を含むように単離され、冨化される。加えて、本発明の筋由来始原細胞は、デスミン、CD34およびBcl−2のような多くの特徴的細胞マーカーを発現する。さらに、本発明の筋由来始原細胞は、Sca−1およびFlk−1細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない(実施例1参照)。
【0042】
本発明のMDCおよびMDCを含有する組成物は、筋または非筋軟組織の増加を通して様々な審美的または機能的症状(たとえば欠陥)を修復する、治療するまたは改善するために使用できる。特に、そのような組成物は、以下の治療のための軟組織増量剤として使用できる:1)皮膚の美容的および審美的症状;2)管腔の症状;3)胃食道逆流症状または状態;4)便失禁;5)骨格筋の筋力低下、疾患、損傷または機能不全;および6)平滑筋の筋力低下、疾患、損傷または機能不全。加えて、そのようなMDCおよびその組成物は、疾患または外傷の不在下で、軟組織領域、孔、陥凹、空隙に増量剤を添加することによって損傷に関連しない軟組織を増加させるため、たとえばしわを「滑らかにする」または取り除くために使用できる。MDCの多回の連続投与も本発明に包含される。
【0043】
MDCに基づく治療のために、骨格筋外植片は、好ましくは自系または異種ヒトまたは動物ソースから入手される。自系動物またはヒトソースがより好ましい。MDC組成物は、その後、ここで述べるように調製され、単離される。本発明に従ったMDCおよび/またはMDCを含有する組成物をヒトまたは動物レシピエントに導入するため、単核筋細胞の懸濁液を調製する。そのような懸濁液は、生理的に許容される担体、賦形剤または希釈剤中に本発明の筋由来始原細胞の濃縮物を含む。たとえば被験体に投与するためのMDCの懸濁液は、ウシ胎仔血清の代替物として被験体の血清を含むように改変された完全培地の滅菌用液中に108−109細胞/mlを含み得る。あるいは、MDC懸濁液は、凍結保存溶液(Celox Laboratories,St.Paul,MN)のような無血清滅菌溶液であり得る。MDC懸濁液は、その後、たとえば注射によって、ドナー組織の1またはそれ以上の部位に導入され得る。
【0044】
前述した細胞は、医薬的または生理的に許容される製剤としてまたは生理的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む組成物として投与でき、ヒトおよび非ヒト動物を含む対象レシピエント生物の組織に投与できる。MDC含有組成物は、滅菌生理食塩水または他の生理的に許容される注射用水性液体のような適切な液体または溶液中に細胞を再懸濁することによって調製され得る。そのような組成物において使用される成分の量は、当業者によって常套的に決定され得る。
【0045】
MDCまたはその組成物は、MDC懸濁液を吸着または接着材料、すなわちコラーゲン・スポンジ・マトリックス上に置くこと、およびMDC含有材料を対象部位内または対象部位上に挿入することによって投与され得る。あるいは、MDCは、皮下、静脈内、筋肉内および胸骨内を含む、非経口的経路の注射によって投与され得る。他の投与方法は、鼻内、髄腔内、皮内、経皮、経腸および舌下を含むが、これらに限定されない。本発明の1つの実施形態では、MDCの投与は内視鏡手術によって媒介され得る。
【0046】
注射投与に関しては、組成物は、滅菌溶液または懸濁液中に存在するか、または、防腐剤、安定剤、および溶液または懸濁液をレシピエントの体液(すなわち血液)と等張にするための物質を含有し得る、医薬的および生理的に許容される水性または油性ビヒクルに再懸濁され得る。使用に適する賦形剤の非限定的な例は、水、リン酸緩衝食塩水、pH7.4、0.15M塩化ナトリウム水溶液、デキストロース、グリセロール、希エタノール等、およびそれらの混合物を含む。例示的な安定剤は、単独でまたは混合物として使用され得る、ポリエチレングリコール、タンパク質、サッカリド、アミノ酸、無機酸および有機酸である。使用される量(amounts、quantities)ならびに投与経路は個人ごとのベースで決定され、当業者に公知の同様のタイプの適用または適応症において使用される量に対応する。
【0047】
移植の成功を最適化するため、ドナーとレシピエントの間の可能な限り最も密接な免疫学的適合が望ましい。自系ソースが入手不能である場合は、最も密接な適合が得られるかどうかを判定するためにドナーとレシピエントのクラスIおよびクラスII組織適合抗原を分析することができる。これは免疫拒絶反応を最小限に抑えるかまたは排除し、免疫抑制または免疫調節治療の必要性を低減する。必要に応じて、移植手技の前、その間、および/または移植手技後に免疫抑制または免疫調節治療を開始することができる。たとえばシクロスポリンAまたは他の免疫抑制薬を移植レシピエントに投与することができる。また、当技術分野で公知の選択的方法によって移植の前に免疫学的寛容を誘導し得る(D.J Wattら、1984,Clin.Exp.Immunol.55:419;D.Faustmanら、1991,Science 252:1701)。
【0048】
本発明と一致して、MDCは、骨、上皮組織(すなわち皮膚、管腔等)、結合組織(すなわち脂肪、軟骨、靭帯、リンパ等)、筋組織(すなわち骨格/横紋筋または平滑筋)、および消化器系に関連する器官(すなわち口、舌、食道、胃、肝臓、膵臓、胆嚢、腸、肛門等)、心臓血管系(すなわち心臓、静脈、動脈、毛細血管等)、呼吸器系(すなわち肺、気管等)、生殖器系(すなわち精管、陰嚢、精巣、陰茎、ファローピウス管、膣、陰核、子宮、乳房、卵巣、外陰等)、泌尿器系(すなわち膀胱、尿道、尿管、腎臓等)、および神経系(すなわち脳、脊髄、神経等)に関連する器官のような様々な器官組織を含む、体組織に投与され得る。
【0049】
MDC懸濁液中の細胞の数および投与方法は、治療される部位と症状に依存して異なり得る。非限定的な例として、本発明に従って、約1−1.5×106MDCが膀胱平滑筋組織における低温傷害の直径約8mmの領域の治療のために注射され、約0.5−1.0×106MDCが頭蓋欠損の約5mmの領域の治療のためにコラーゲン・スポンジ・マトリックスによって投与される(実施例9参照)。ここで開示する実施例と一致して、熟達した医師は、各々の症例について決定される必要条件、制限および/または最適化に従ってMDCに基づく治療の量および方法を調節することができる。
【0050】
皮膚症状:本発明に従ったMDCおよびその組成物は、美容的処置、たとえば形成外科または老化防止処置における軟組織増加のための材料として著明な有用性を有する。特に、そのようなMDCおよびMDC含有組成物は、創傷、皮膚のひだ、しわ、非外傷性起源の皮膚陥凹、皮膚萎縮線条、陥凹性瘢痕、尋常性ざ瘡からの瘢痕化、および唇の形成不全を含むがこれらに限定されない、ヒトまたは動物被験体における様々な皮膚症状を治療するために使用できる。より詳細には、本発明のMDCおよび組成物は、皮膚のひだ、しわまたは顔面、特に眼の周囲の領域の皮膚陥凹を治療するために使用できる。皮膚症状を治療するため、MDCはここで開示するように調製され、その後、たとえば注射によって、欠陥を補填する、増量するまたは修復するために皮膚、皮下または皮内に投与される。導入されるMDCの数は、深い皮膚陥凹または欠陥ならびに表在表面の陥凹または欠陥を修復するために必要に応じて調節される。たとえば皮膚の約5mmの領域の増加のためには約1−1.5×106MDCが使用される(実施例3参照)。
【0051】
管腔の症状:もう1つの実施形態では、本発明に従ったMDCおよびその組成物は、動物またはヒトを含む哺乳動物被験体における管腔の症状のための治療としてさらなる有用性を有する。特に、筋由来始原細胞は、身体内の様々な生物学的管腔または空隙を完全にまたは部分的にブロックする、増強する、拡大する、密封する、修復する、増量するまたは補填するために使用される。管腔は、限定を伴わずに、血管、腸、胃、食道、尿道、膣、ファローピウス管、輸精管および気管を含む。空隙は、限定を伴わずに、様々な組織創傷(すなわち外傷による筋肉および軟組織容積の喪失;刺創または銃創のような貫通発射体による軟組織の破壊;乳癌のための乳房切除術後の乳房組織の喪失または肉種を治療するための手術後の筋組織の喪失を含む、組織の外科的切除による疾患または組織死からの軟組織の喪失等)、病巣、裂溝、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、および動物またはヒトを含む哺乳動物の体内に存在し得る他の望ましくないまたは不要の陥凹または孔を含み得る。管腔の症状の治療のために、MDCはここで開示するように調製され、その後、たとえば注射または静脈内送達によって、空隙を満たすまたは修復するために管腔組織に投与される。導入されるMDCの数は、軟組織環境における大きなまたは小さな空隙を修復するために必要に応じて調節される。
【0052】
括約筋の症状:本発明に従ったMDCおよびその組成物は、動物またはヒトを含む哺乳動物被験体における括約筋の損傷、筋力低下、疾患または機能不全の治療のためにも使用され得る。特に、MDCは、食道、肛門、心臓、幽門および尿道括約筋の組織を増加させるために使用される。より詳細には、本発明は、胃食道逆流症状、および尿および便失禁のための軟組織増加治療を提供する。括約筋欠陥の治療のために、MDCはここで述べるように調製され、その後、たとえば注射によって、付加的な容積、補填材または支持を提供するために括約筋組織に投与される。導入されるMDCの数は、様々な量の増量材を提供するために必要に応じて調節される。たとえば胃食道接合部の約5mmの領域または肛門括約筋の約5−10mmの領域の増加を提供するために約1−1.5×106MDCが使用される(実施例4参照)。
【0053】
筋増加および収縮性:本発明のさらにもう1つの実施形態では、MDCおよびその組成物は、ヒトまたは動物被験体における筋症状の治療のために使用される。特に、MDCは、傷害、疾患、不活動、もしくは無酸素または手術誘発性外傷によって引き起こされる筋力低下または機能不全を治療するために骨格筋または平滑筋を増加させるために使用され得る。より詳細には、本発明は、スポーツ関連傷害のような骨格筋の筋力低下または機能不全のための治療を提供する。本発明はまた、心不全、または心筋梗塞に関連する損傷のような、平滑筋疾患または機能不全のための治療を提供する。
【0054】
筋増加または筋関連症状の治療のために、MDCはここで述べるように調製され、たとえば注射によって、付加的な容積、補填剤または支持を提供するために筋組織に投与される。熟達した医師によって認識されるように、導入されるMDCの数は、様々な量の増量材を提供するために必要または要求に応じて調節される。たとえば心臓組織の約5mmの領域の増加のためには約1−1.5×106MDCが注射される(実施例7参照)。
【0055】
加えて、MDCおよびその組成物は、たとえば胃腸組織、食道組織および膀胱組織のような平滑筋組織の収縮性に影響を及ぼすために使用され得る。実際に、実施例6で明らかにされるように、筋由来始原細胞、すなわちMDCの導入後、低温損傷膀胱組織において筋収縮性が回復することが認められた。それ故、本発明はまた、筋収縮を回復する上での、および/または、食道、胃および腸平滑筋を含む胃腸運動性低下のような、平滑筋収縮性の問題を改善するまたは克服する上での本発明のMDCの使用を包含する。本発明のMDCが改善、軽減または矯正し得る症状のさらなる非限定的な例は、胃不全麻痺、すなわち胃の運動および排出低下である。
【0056】
心臓の症状:さらにもう1つの実施形態では、MDCおよびその組成物は、ヒトまたは哺乳動物被験体における心臓状態の治療または予防のために使用される。これらの心臓状態は、心筋梗塞、心不全、アダムズ‐ストークス病、先天性心疾患、狭心症、不整脈、心房細動、細菌性心内膜炎、心筋症、うっ血性心不全、拡張機能障害、心雑音および心室期外収縮を含む。MDCおよびその組成物は、これらの心臓状態が起こるのを防ぐために予防的に投与され得るか、または疾病が起こった後、心臓状態によって引き起こされる心臓への損傷を修復するために投与され得る。たとえばMDCおよびその組成物は、心臓発作(心筋梗塞)の危険度が高いヒトまたは動物に、心臓発作が起こる前に投与され得る。同じかまたは別のヒトまたは動物に、心臓発作の発症後に心臓を修復するためにMDCおよびその組成物を投与し得る。
【0057】
心臓状態の治療または予防のために使用されるMDCおよびその組成物は、ここで述べる方法を用いてヒトまたは動物骨格筋組織から単離され得る。緩慢接着細胞(MDC)を単離した後、ヒトまたは動物患者への輸送のために細胞を凍結し得る。好ましい実施形態では、骨格筋細胞をヒトまたは動物患者から単離し、低温であるが凍結しない温度(たとえば4℃)に置き、MDC単離のために収集する。MDCおよびその組成物を単離した後、MDCを細胞培養で増殖させ、凍結して、解凍と投与のために患者に送り返す。
【0058】
投与するとき、MDCおよびその組成物は、心臓内に直接または心臓のすぐ外側に注射され得る。心臓内に注射するとき、MDCおよびその組成物は、心室・心房のいずれかまたは心臓壁に注射され得る。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、MDCは、心筋梗塞(MI)、特に急性期の治療のために使用される。MI後の損傷を治療することは、その後有害なリモデリングと瘢痕化を予防し、機能の低下を予防しながら、有益なリモデリングを促進するために不可欠である。急性期のMDCにより、より少ない細胞用量でMI患者へのより大きな利益が提供され得る。
【0060】
遺伝子操作された筋由来細胞
本発明のもう1つの態様では、本発明のMDCは、1またはそれ以上の活性生体分子をコードする核酸配列を含むように、およびタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ホルモン、代謝産物、薬剤、酵素等を含むこれらの生体分子を発現するように遺伝的に操作され得る。そのようなMDCは、ヒトを含むレシピエントに対して組織適合性(自系)または非組織適合性(同種異系)であり得る。これらの細胞は、様々な治療のため、たとえば癌、移植拒絶反応、および筋および神経組織の再生、糖尿病、肝不全、腎不全、パーキンソン病のような神経障害および疾患のような疾患および疾病の治療のため、およびここで述べるように、治療薬などの遺伝子産物を組織増加または空隙補填の部位に送達するための、長期的な局所送達システムとしての機能を果たすことができる。
【0061】
本発明において好ましいのは、レシピエントに外来性と認識されない自系の筋由来始原細胞である。これに関して、細胞を介した遺伝子導入または送達のために使用されるMDCは、望ましくは主要組織適合遺伝子座(ヒトにおけるMHCまたはHLA)に適合する。そのようなMHCまたはHLA適合細胞は自系であり得る。あるいは、細胞は、同じかまたは類似のMHCまたはHLA抗原プロフィールを有する人物からであり得る。患者はまた、同種異系MHC抗原に寛容化され得る。本発明はまた、米国特許第5,538,722号に述べられているような、MHCクラスIおよび/またはクラスII抗原を欠く細胞の使用を包含する。
【0062】
MDCは、当業者に公知の様々な分子学的手法および方法、たとえばトランスフェクション、感染または形質導入によって遺伝子操作され得る。ここで使用する形質導入は、一般に、ウイルスまたは非ウイルスベクターの細胞への導入によって外来性または異種遺伝子を含むように遺伝的に操作された細胞を指す。トランスフェクションは、より一般的に、プラスミドまたは非ウイルスベクター内に保有される外来性遺伝子を含むように遺伝的に操作された細胞を指す。MDCは種々のベクターによってトランスフェクトまたは形質導入され得、それ故発現された産物を筋肉に移入するための遺伝子送達ビヒクルとして働くことができる。
【0063】
ウイルスベクターは好ましいが、当業者は、所望タンパク質またはポリペプチド、サイトカイン等をコードする核酸配列を含むための細胞の遺伝子操作は、融合、トランスフェクション、リポソームの使用によって媒介されるリポフェクション、電気穿孔、DEAE−デキストランまたはリン酸カルシウムでの沈殿、核酸被覆粒子(たとえば金粒子)による微粒子銃法(バイオリスティック法)、微量注入等を含む、たとえば米国特許第5,538,722号に述べられているような、当技術分野で公知の方法によって実施され得る。
【0064】
異種(すなわち外来性)核酸(DNAまたはRNA)を、生物活性産物の発現のために筋細胞に導入するためのベクターは当技術分野において周知である。そのようなベクターは、プロモーター配列、好ましくは細胞特異的であり、発現される配列の上流に位置するプロモーターを有する。ベクターはまた、場合により、トランスフェクションの成功とベクターに含まれる核酸配列の発現の指標としての発現のための、1またはそれ以上の発現マーカー遺伝子を含み得る。
【0065】
本発明の筋由来細胞のトランスフェクションまたは感染のためのビヒクルまたはベクター構築物の説明的な例は、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびアデノ関連ウイルスベクターのような、複製欠損ウイルスベクター、DNAウイルスまたはRNAウイルス(レトロウイルス)ベクターを含む。アデノ関連ウイルスベクターは一本鎖であり、細胞の核への多数のコピーの核酸の効率的な送達を可能にする。アデノウイルスベクターが好ましい。ベクターは通常、原核生物DNAを実質的に含まず、多くの異なる機能的核酸配列を含み得る。そのような機能的配列の例は、筋細胞において活性なプロモーター(たとえば強力プロモーター、誘導的プロモーター等)およびエンハンサーを含む、転写および翻訳開始および終結調節配列を含むポリヌクレオチド配列、たとえばDNAまたはRNA配列を包含する。
【0066】
また、対象とするタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ポリヌクレオチド配列)も機能的配列の一部として含まれる;フランキング配列も、部位指定組込みのために含まれ得る。一部の状況では、5’フランキング配列は相同的組換えを可能にし、それ故、一例として、転写のレベルを高めるまたは低下させるために誘導的または非誘導的転写を提供するように、転写開始領域の性質を変化させる。
【0067】
一般に、筋由来始原細胞によって発現されることが所望される核酸配列は、筋由来始原細胞にとって異種である、構造遺伝子、または機能的フラグメント、セグメントまたは遺伝子の部分の核酸配列であり、たとえば所望タンパク質またはポリペプチド産物をコードする。コードされ、発現される産物は、細胞内に存在し得る、すなわち細胞質、核または細胞の小器官に保持され得るか、または細胞によって分泌され得る。分泌のために、構造遺伝子内に存在する天然シグナル配列が保持され得るか、または天然では構造遺伝子内に存在しないシグナル配列が使用され得る。ポリペプチドまたはペプチドがより大きなタンパク質のフラグメントであるとき、シグナル配列は、分泌およびプロセシング部位でのプロセシング後、所望タンパク質が天然配列を有するように提供され得る。本発明に従った使用のための対象遺伝子の例は、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子およびプログラムされた細胞死因子をコードする遺伝子を含む。特定例は、BMP−2(rhBMP−2)、IL−1Ra、第IX因子およびコネキシン43を含むが、これらに限定されない。
【0068】
上述したように、ベクター構築物を含む細胞の選択のためにマーカーが存在し得る。マーカーは、誘導的または非誘導的遺伝子であり得、一般にそれぞれ誘導下または誘導不在下での陽性選択を可能にする。一般的に使用されるマーカー遺伝子の例は、ネオマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グルタミンシンテターゼ等を含む。
【0069】
使用するベクターは、一般に、当業者によって常套的に使用されるように、複製起点および宿主細胞における複製のために必要な他の遺伝子も同時に含む。一例として、複製起点および特定ウイルスによってコードされる複製に関連するタンパク質を含む複製系が構築物の一部として含まれ得る。複製系は、複製のために必要な産物をコードする遺伝子が最終的に筋由来細胞を形質転換しないように選択しなければならない。そのような複製系は、たとえばG.Acsadiら、1994,Hum.Mol.Genet.3:579−584によって述べられているように構築される複製欠損アデノウイルス、およびエプスタイン‐バーウイルスに代表される。複製欠損ベクター、特に複製欠損のレトロウイルスベクターの例は、Priceら、1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:156;およびSanesら、1986,EMBO J.,5:3133によって述べられている、BAGである。最終的な遺伝子構築物は、1またはそれ以上の対象遺伝子、たとえば生物活性代謝分子をコードする遺伝子を含み得る。加えて、cDNA、合成によって生産されるDNAまたは染色体DNAが、当業者に公知であり、当業者によって実施される方法およびプロトコールを用いて使用され得る。
【0070】
所望する場合は、感染性複製欠損ウイルスベクターを、細胞のインビボ注射に先立って細胞を遺伝子操作するために使用し得る。これに関して、ベクターを両栄養性パッケージングのためにレトロウイルスプロデューサー細胞に導入し得る。筋由来始原細胞の隣接領域への自然拡大は、対象部位内または対象部位における多回の注射を回避する。
【0071】
もう1つの態様では、本発明は、所望遺伝子産物をコードする異種遺伝子を含むように操作されたアデノウイルスベクターを用いて、ウイルスによって形質導入されたMDC、たとえば初期前駆体筋細胞の使用を通して、ヒトを含むレシピエント哺乳動物宿主の細胞および組織へのエクスビボ遺伝子送達を提供する。そのようなエクスビボアプローチは、直接遺伝子導入アプローチに勝る、効率的なウイルス遺伝子導入の利点を提供する。エクスビボ手順は、筋組織の単離細胞からの筋由来始原細胞の使用を含む。筋由来始原細胞の供給源として役立つ筋生検は、損傷部位から、または臨床外科医からより容易に入手可能であり得る別の領域から入手できる。
【0072】
本発明に従って、クローン単離物が、当技術分野で公知の様々な手順、たとえば組織培養培地での限界希釈プレーティングを用いて筋由来始原細胞(すなわちPP6細胞)の集団から誘導され得ることは認識される。クローン単離物は、1個の単独細胞から生じる遺伝的に同一の細胞を含む。加えて、クローン単離物は、クローン単離細胞系を樹立するために、上述したようなFACS分析、続いて各穴につき1個の細胞を達成するための限界希釈を用いて誘導され得る。PP6細胞集団に由来するクローン単離物の一例は、実施例9で説明されるmc13である。好ましくは、MDCクローン単離物が、本発明の方法において、ならびに1またはそれ以上の生物活性分子の発現のための遺伝子操作のために、または遺伝子置換療法において使用される。
【0073】
MDCを、最初に、食塩水またはリン酸緩衝食塩水のような生理的に許容される担体または希釈剤中に懸濁された、所望遺伝子産物をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む操作されたウイルスベクターに感染させ、次に宿主において適切な部位に投与する。本発明と一致して、MDCは、上述したように、骨、上皮組織、結合組織、筋肉組織、および消化器系、心臓血管系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系および神経系に関連する器官のような様々な器官組織を含む、体組織に投与され得る。所望遺伝子産物が注入された細胞によって発現され、それ故遺伝子産物が宿主に導入される。導入され、発現された遺伝子産物は、それにより、宿主において長期的な生存を有する本発明のMDCによって長期間にわたって発現されるので、損傷、機能不全または疾患を治療する、修復するまたは改善するために利用され得る。
【0074】
筋芽細胞を介した遺伝子治療の動物モデル試験では、筋酵素欠損の部分的矯正のために筋肉100mgにつき106筋芽細胞の移植が必要であった(J.E.Morganら、1988,J.Neural.Sci.86:137;T.A.Partridgeら、1989,Nature 337:176)。このデータから推定すると、70kgのヒトについての遺伝子治療のために、生理的に適合性の媒質に懸濁された約1012MDCを筋組織に移植することができる。この数の本発明のMDCは、ヒトソースからの1回の100mg骨格筋生検から生産できる(以下参照)。特定損傷部位の治療に関して、所与の組織または損傷部位への遺伝子操作されたMDCの注入は、溶液または懸濁液中に治療有効量の細胞、好ましくは、生理的に許容される媒質中に、治療される組織cm3につき約105−106細胞を含む。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
MDCの冨化、単離および分析
MDCの冨化と単離:MDCを、記述されているように(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)作製した。筋外植片を多くの供給源の後肢から、すなわち3週齢のmdx(ジストロフィー)マウス(C57BL/10ScSn mdx/mdx,Jackson Laboratories)、4−6週齢の正常雌性SD(Sprague Dawley)ラット、またはSCID(重症複合型免疫不全)マウスの後肢から得た。動物ソースの各々からの筋組織を切開して骨を除去し、切り刻んでスラリーにした。次にスラリーを、0.2%XI型コラゲナーゼ、ジスパーゼ(グレードII、240単位)および0.1%トリプシンとの37℃で1時間の連続インキュベーションによって消化した。生じた細胞懸濁液を18、20および22ゲージの針に通し、3000rpm で5分間遠心分離した。その後、細胞を増殖培地(10%ウシ胎仔血清、10%ウマ血清、0.5%ニワトリ胚抽出物および2%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM)に懸濁した。次に細胞をコラーゲン被覆したフラスコでプレプレーティングした(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。約1時間後、上清をフラスコから取り出し、新鮮コラーゲン被覆フラスコに再プレーティングした。この1時間のインキュベーション内に迅速に接着した細胞は主として線維芽細胞であった(Z.Quら、前出;Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。細胞の30−40%が各フラスコに接着した後、上清を取り出し、再プレーティングした。約5−6回の連続プレーティング後、培養物を、出発細胞集団から単離され、さらなる試験において使用される、PP6細胞と称される小さな円形細胞で冨化した。初期プレーティングで単離された接着細胞を一緒にプールし、PP1−4細胞と称した。
【0076】
mdx PP1−4、mdx PP6、正常PP6および線維芽細胞集団を、細胞マーカーの発現に関して免疫組織化学分析によって検査した。この分析の結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
mdx PP1−4、mdx PP6、正常PP6および線維芽細胞をプレプレーティング手法によって誘導し、免疫組織化学分析によって検査した。「−」は細胞の2%未満が発現を示したことを指示し;「(−)」;「−/+」は細胞の5−50%が発現を示したことを指示し;「+/−」は細胞の〜40−80%が発現を示したことを指示し;「+」は細胞の>95%が発現を示したことを指示し:「nor」は正常細胞を指示し;「na」は免疫組織化学データが入手できないことを指示する。
【0078】
mdxおよび正常マウスの両方が、このアッセイで試験したすべての細胞マーカーの同一の分布を示したことが注目される。それ故、mdx突然変異の存在は、単離PP6筋細胞由来集団の細胞マーカー発現に影響を及ぼさない。
【0079】
MDCを、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10%HSウマ血清、0.5%ニワトリ胚抽出物および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を含む増殖培地、または2%ウシ胎仔血清と1%抗生物質溶液を添加したDMEMを含む融合培地で増殖させた。すべての培地供給量はGibco Laboratories(Grand Island,NY)を通して購入した。
【0080】
(実施例2)
MDCベクターおよびトランスフェクション
レトロウイルスおよびアデノウイルスベクター:MFG−NB(N.Ferryら、1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377−81)レトロウイルスベクターをMDC実験のために使用した。このベクターは、ロングターミナルリピート(LTR)から転写されたシミアンウイルス(SV40)ラージT抗原からクローニングされた核局在化配列を含む修飾LacZ遺伝子(NLS−LacZ)を含む。レトロウイルス株を増殖させ、以前に述べられているように調製した(J.C.van Deutekomら、1998,Neuromuscul.Disord.8:135−48)。レトロウイルスの力価は1×107−1×109cfu/mlと測定された。
【0081】
アデノウイルスベクターも使用した。 このベクターは、ヒトサイトメガロウイルス(HuCMV)プロモーターの制御下にあるLacZ遺伝子を含んだ(J.Huardら、1994,Hum Gene Ther 5:949−58)。E1−E3欠失組換えアデノウイルスを、Dr.I.Kovesdi(Gene Vec Inc.,Rockville,MD)を通して入手した。
【0082】
MDCのウイルス形質導入:ウイルス形質導入のために、MDCをT 75フラスコに1−1.5×106の密度で植え付けた。PP6 MDCをHBSS(ハンクス平衡塩溶液)で洗浄し、8μg/ml Polybrene(商標)(Abbott Laboratories,Chicago,Ill.)を含むDMEM 5ml中のレトロウイルス(1×107−1×109cfu/ml)またはアデノウイルス(1×109cfu/ml)懸濁液と共に37℃で4時間インキュベートした。ウイルス形質導入したMDCを、増殖培地10ml中、37℃で24時間増殖させた。次にMDCをHBSSで洗い、0.25%トリプシンで1分間酵素消化した。処理したウイルス形質導入MDCを3,500rpmで5分間遠心分離し、ペレットをHBSS 20μlに再懸濁した。
【0083】
(実施例3)
皮膚の軟組織増加
MDCおよびコラーゲンの注射:SDラットを、標準的な方法を用いてハロタンで麻酔し、Betadine(登録商標)溶液で手術部位を洗浄することによって手術用に準備した。下腹部の皮膚に、ハミルトンマイクロシリンジを用いてHBSS中のMDC懸濁液10μl(約1−1.5×106細胞)、市販のウシコラーゲン(Contigen(商標);C.R.Bard,Covington,Ga.)10μl、または滅菌食塩水10μlのいずれかを注射した。注射後5日目、2週間目および4週間目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、顕微鏡で検査し、写真撮影した。組織化学分析は、ヘマトキシリン、エオシンまたはトリクローム染色を含んだ。
【0084】
結果は、MDCが皮膚組織への注射後少なくとも4週間まで生存可能であり、注射部位の組織の炎症の証拠を伴わなかったことを明らかにする(図1D−1F)。これに対し、コラーゲンは皮膚組織への注射後2週間目に生存可能ではなかった(図1Bおよび1C)。それ故、MDC組成物は、たとえば美容的および審美的適用または手術における使用のための皮膚増加材料として使用することができる。これまで、移植した筋細胞は、生存するためにそれが結合する周囲の宿主筋線維を必要とすると考えられていたので、これは予想外の所見である。非筋組織への注射後の本発明のMDCの生存は、実施例8および9においてさらに明らかにされる。
【0085】
(実施例4)
胃食道接合部および肛門括約筋の軟組織増加
SDラットを上述したように手術のために準備した。胃食道接合部および肛門括約筋を露出させるために腹部正中切開を実施した。ハミルトンマイクロシリンジを用いて軟組織にHBSS中の筋由来始原細胞懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を注射した。注射後3日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの実験の結果は、MDC組成物が、胃食道逆流または便失禁症状または状態の治療のために食道および肛門括約筋増量材料として使用できることを明らかにする(図2Aおよび2B)。
【0086】
(実施例5)
膀胱尿管接合部の軟組織増加
SDラットを上述したように手術のために準備した。尿管−膀胱(膀胱尿管)接合部を露出させるために腹部正中切開を実施した。ハミルトンマイクロシリンジを用いて組織にHBSS中のMDC懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を注射した。注射後3日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの結果は、MDCに基づく組成物が、膀胱尿管逆流症状または状態の治療のために尿管膀胱増加材料として使用できることを明らかにする(図3Aおよび3B)。
【0087】
(実施例6)
低温損傷膀胱組織のMDC治療
低温損傷とMDC移植:SDラットを上述したように手術のために準備した。膀胱と尿道を露出させるために下腹部正中切開を実施した。次に膀胱に食塩水1mlを満たした。ドライアイス上で冷却した直径8mmのアルミニウム棒で低温損傷を実施した。冷却した探針を膀胱壁の一方の側に15または30秒間(それぞれ「軽度」または「重度」損傷と称する)当てる。低温損傷後直ちに、1つの重度損傷群に本発明の筋由来細胞(HBSS 15μl中1−1.5×106細胞)を注射し、対照重度損傷群にはHBSS(15μl)を注射した(n=3/群)。低温損傷の1週間後、その他の軽度および重度損傷群にHBSS 50μl中のMDC懸濁液(2−3×106細胞)を注射し、対照軽度および重度損傷群にはHBSS 50μlを注射した(n=4/群)。各々の群に関して、注射は、30ゲージの針とハミルトンマイクリシリンジを用いて損傷領域の中心に実施した。
【0088】
平滑筋アクチン(α−SMアクチン)についての免疫組織化学染色:免疫組織化学分析のための試料を調製するため、組織または細胞試料を−20℃の低温アセトンに2分間固定し、5%HSで1時間ブロックした。試料を、マウスモノクローナル抗平滑筋アクチン一次抗体(カタログ番号F−3777;Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)(PBS pH7.4中1:400希釈)と共に湿度室において室温で一晩インキュベートした。次に試料をPBSで3回洗浄し、Cy3蛍光色素と結合した抗マウスIgG二次抗体(Sigma Chemical Co.)(PBS pH7.4中1:200希釈)と共にインキュベートした。
【0089】
速ミオシン重鎖(Fast MyHC)についての免疫組織化学染色:組織または細胞試料を−20℃の低温アセトンに2分間固定し、5%HSで1時間ブロックした。試料を、その後、マウスモノクローナル抗骨格筋ミオシン(速)一次抗体(カタログ番号M4276;Sigma Chemical Co.)(PBS pH7.4中1:400希釈)と共に湿度室において室温で一晩インキュベートした。次に試料をPBSで3回洗浄し、Cy3結合抗マウスIgG二次抗体(Sigma Chemical Co.)(PBS pH7.4中1:200希釈)と共にインキュベートした。
【0090】
細胞培養:実施例1で調製した筋由来始原細胞を、35mmコラーゲン被覆皿において増殖培地に接種した。24時間後、増殖培地を融合培地と交換した。MDCが筋管に分化するまで、培地を毎日交換しながら細胞を融合培地に維持した。
【0091】
収縮性試験:MDC注射の2週間後、動物を安楽死させ、膀胱細片を作製するために使用した。2つの細片を各々の膀胱から作製し、両方の細片を、膀胱の周囲に沿って伸びるように切断した。膀胱細片を組織バスに入れ、神経収縮に供して(20Hz、10および80ショック)、以下で述べるように記録し、分析した。
【0092】
組織の採取および組織学的検査:SDラットを安楽死させ、注射部位の周囲の組織の試料を切除した。液体窒素中であらかじめ冷却した2−メチルブタンを用いて試料を瞬間凍結した。試料の組織化学分析は、ヘマトキシリンおよびエオシン染色を含んだ。試料を染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。各々のクリオスタット切片は厚さ10μmと測定された。
【0093】
膀胱平滑筋組織の電気刺激:動物を安楽死させ、膀胱を迅速に切除した。膀胱壁の周囲をカバーする2つの切片を各々の膀胱から得た。細片を、95%O2と5%CO2で通気したクレブス溶液(113mmol/l NaCl、4.7mmol/l KCl、1.25mmol/l CaCl2、1.2mmol/l MgS04、25mmol/l NaHCO3、1.2mmol/l KH2PO4および11.5mmol/lグルコース)を含む5ml器官バスに入れた。初期張力を10mNに設定し、TBM4ストレインゲージ増幅器(World Precision Instruments)に連結されたストレインゲージ変換器で等尺性収縮を測定した。データ取得プログラムを用いて(Windaq,DATAQ Instruments,Inc.,Akron,OH)収縮測定を蓄積した。チャネルごとのサンプリング率を100Hzに設定した。算定プログラムを使用して(WindaqEx,DATAQ Instruments,Inc.)収縮の大きさを計算した。20分間の平衡期間後、器官バスの上部と底部の4cm離れた2つの白金ワイヤ電極を通して電場刺激を適用した。温度は実験全体を通して37℃に保持した。
【0094】
膀胱平滑筋組織の化学刺激:膀胱細片を最大電圧(100V)で0.25ミリ秒間の矩形波パルスで刺激し、1、2、5、10、20または40Hzで10または80ショックを使用して周波数応答曲線を構築した。電気刺激後、収縮を誘導するために5、10または20μMカルバコールを膀胱細片に添加した。平行実験では、1μMアトロピンを添加し、上述したように電気刺激を適用して、収縮を誘導するために50μMメチレンATPを添加した。
【0095】
神経支配についての染色:平滑筋におけるMDCの再神経支配を評価するためにアセチルコリン(Ach)染色を使用した。Achは、神経終末の存在を指示する神経筋接合部についての染色である。MDC注射後、3、15、30日目または6カ月後に組織を切除し、Achに関して染色し、顕微鏡で観察して、写真撮影した。
【0096】
統計解析:数値は平均±標準偏差として報告されている。0.05未満の「P」値を統計的に有意とみなした。スチューデントt検定を使用した。
【0097】
MDC分化:実施例1で作製した筋由来始原細胞を細胞分化に関して評価した。α−SMアクチンは平滑筋細胞表現型についての最初期の公知のマーカーであり(K.M.McHugh,1995,Dev.Dyn.204:278−90)、筋線維芽細胞表現型の主要マーカーである(I.Darbyら、1990,Lab.Invest.63:21−9)。筋細胞分化の間に、α−SMアクチンの発現は低下し、一方速MyHC発現が上昇する。α−SMアクチンおよび速MyHCマーカーを使用したMDC処置膀胱組織の組織化学分析は、低温損傷の部位への注射後のMDCの分化を明らかにする。低温損傷膀胱組織への注射後5日目に、いくつかのMDC(少なくとも20%)はα−SMアクチン染色を示し(図5B)、細胞がまだ未分化であることを指示する。注射の6カ月後には、しかし、速MyHC染色の同時上昇(図5I)を伴う、α−SMアクチン染色の低下(図5F)によって示されるように、実質的にすべてのMDCが筋管または筋線維に分化していた。
【0098】
筋の再神経支配:アセチルコリン(Ach)は神経筋接合部に存在するので、筋神経支配のインジケータの役割を果たすことができる。Achマーカーを使用したMDC処置膀胱組織の組織化学分析は、低温損傷の部位への注射後のMDCの再神経支配を明らかにする。低温損傷膀胱組織への注射後3日目に、注射されたMDCは、比較的低いレベルのAch染色によって指示されるように(図6A)、最小限の神経支配を示す。注射後15日目に、Ach染色のレベル上昇によって指示されるように(図6B)、神経支配のレベル上昇が認められる。注射後30日目には、神経支配のさらなる上昇を指示する、より一層のAch染色が認められる(図6C)。注射後6か月目に、低倍率で観察されるMDC注射領域全体にわたる実質的なAch染色によって指示されるように(図6D)、広汎な神経支配が認められる。これらの結果は、骨盤神経が膀胱のMDC注射領域へと成長しつつあることを指示し、MDCが注射した組織の収縮性と機能を改善し得ることを示唆する。
【0099】
注射したMDCが処置した膀胱組織の機能を改善したかどうかを判定するために、いくつかの収縮性試験を実施した(上記参照)。表2は、MDC注射を実施したまたは実施しなかった低温損傷後の膀胱筋の収縮性パラメータを示すデータを提示する。
【0100】
【表2】
*p<0.05、**p<0.01。数値は平均±標準偏差である。統計分析のために、対照およびMDC注射群に関してスチューデントt検定を実施した。第1群:低温損傷後直ちにMDCを注射した重度損傷群。第2群:低温損傷の1週間後にMDCを注射した軽度損傷群。第3群:低温損傷の1週間後にMDCを注射した重度損傷群。第4群:正常膀胱組織。
【0101】
低温損傷後直ちにMDCを注射した重度損傷群(第1群)は、対照(擬似)群と同様の収縮性を示した(表2の第1群の擬似とMDCの列に示されている収縮性レベルを比較する)。しかし、低温損傷の1週間後にMDCを注射した重度損傷群(第3群)は、対照群と比較して(表2において星印で指示されている擬似とMDCの列に示されている収縮の大きさのレベルを比較する)高い収縮率を示した(それぞれ20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで対照膀胱の145%および161%)。同様に、低温損傷の1週間後にMDCを注射した重度損傷群(第3群)は、対照群と比較して(表2の第3群の擬似とMDCの列における収縮速度値を比較する)高い収縮速度(それぞれ20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで対照細片の119%および121%)を示した。低温損傷の1週間後にMDCを注射した軽度損傷群(第2群)も、対照群と比較して(表2の第2群の擬似とMDCの列に示されている収縮性レベルを比較する)高い収縮の大きさおよび速度を示した。これらの試験の結果は、MDC注射が低温損傷した膀胱筋組織に収縮性を回復させ得ることを示し、MDCに基づく組成物が尿失禁の治療のために使用できることを指示する。
【0102】
(実施例7)
心筋層の軟組織増加
SDラットを上述したように手術のために準備した。心臓を露出させるために胸部切開を実施した。ハミルトンマイクロシリンジを用いてHBSS中のMDC懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を心室壁に注射した。3日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの実験の結果は、MDC組成物が、心不全または心筋梗塞に続発する傷害または脱力の治療のために心筋軟組織増加材料として使用できることを明らかにする(図7Aおよび7B)。
【0103】
(実施例8)
肝臓、脾臓および脊髄組織へのMDC注射
SDラットを上述したように手術のために準備した。肝臓および脾臓を露出させるために腹部正中切開を実施した。両方の部位に、ハミルトンマイクロシリンジを用いてHBSS中のMDC懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を注射した。同時に、脊髄を露出させるために背部正中切開と部分椎弓切除術を実施した。次に、レベルT10の脊髄組織に、肝臓および脾臓組織に関して実施したようにHBSS中のMDC懸濁液を注射した。
注射後4日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの実験は、MDC組成物が、様々な肝臓、脾臓および脊髄の損傷、疾患または機能不全を治療するために肝臓、脾臓および脊髄軟組織増加材料として使用できることを示す(図8A、8B、9A、9B、10Aおよび10B)。
【0104】
(実施例9)
骨欠損のMDC治療
筋由来細胞の単離:MDCを、実施例1で述べたようにmdxマウスから得た。
【0105】
PP6筋由来始原細胞のクローン単離:PP6細胞集団からクローンを単離するため、PP6細胞を、LacZ、ミニジストロフィンおよびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした。簡単に述べると、pPGK−NEOからのネオマイシン耐性遺伝子を含むSmaI/Sa/Iフラグメントを、LacZ遺伝子を含むpIEPlacZプラスミド内のSmaI/Sa/I部位に挿入し、pNEOlacZプラスミドを創製した。短縮型のジストロフィン遺伝子を含むDysM3からのXhoI/Sa/Iフラグメント(K.Yuasaら、1998,FEBS Lett.425:329336;Dr.Takeda,Japanからの贈呈品)をpNEOlacZ内のSa/I部位に挿入して、ミニジストロフィン、LacZおよびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを作製した。トランスフェクションの前にSa/I消化によってプラスミドを線状化した。
【0106】
PP6細胞を、製造者の指示に従ってLipofectamine Reagent(Gibco BRL)を使用して、ミニジストロフィン、LacZおよびネオマイシン耐性遺伝子を含む線状プラスミド10μgでトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、個別のコロニーが出現するまで10日間、細胞を3000μg/mlのG418(Gibco BRL)で選択した。次に、コロニーを単離し、大量のトランスフェクト細胞を得るために増殖させて、その後LacZの発現に関して試験した。これらのPP6由来クローンの1つ、mc13をさらなる試験のために使用した。
【0107】
免疫組織化学:PP6、mc13およびマウス線維芽細胞を6穴培養皿に接種し、低温メタノールで1分間固定した。次に細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、室温にて1時間、5%ウマ血清でブロックした。一次抗体を以下のようにPBSに希釈した:抗デスミン(1:100,Sigma)、ビオチニル化抗マウスCD34(1:200,Pharmingen)、ウサギ抗マウスBcl−2(1:500,Pharmingen)、ウサギ抗マウスM−カドヘリン(1:50、Dr.A.Wernigからの贈呈品)、マウス抗マウスMyoD(1:100,Pharmingen)、マウス抗ラットミオゲニン(1:100,Pharmingen)、ウサギ抗マウスFlk−1(1:50,Research Diagnostics)、およびビオチニル化Sca−1(1:100,Pharmingen)。細胞を一次抗体と共に室温で一晩インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、適切なビオチニル化二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで洗い、Cy3蛍光色素と結合した1/300ストレプトアビジンと共に室温で1時間インキュベートした。次に細胞を蛍光顕微鏡によって分析した。各々のマーカーについて、細胞の無作為に選択した10の視野に関して染色細胞のパーセンテージを算定した。
【0108】
4週齢の正常マウス(C−57 BL/6J,Jackson Laboratories)からの筋試料の凍結切片を低温アセトンで2分間固定し、PBSに希釈した5%ウマ血清中で1時間プレインキュベートした。CD34、Bcl−2およびコラーゲンIV型に関して、以下の一次抗体を使用した:ビオチン抗マウスCD34(PBS中1:200,Pharmingen)、ウサギ抗マウスBcl−2(1:1000,Pharmingen)およびウサギ抗マウスコラーゲンIV型(PBS中1:100,Chemicon)。ジストロフィン染色のために、ヒツジ抗ヒトDY10抗体(PBS中1:250希釈)を一次抗体として使用し、抗ヒツジビオチン(PBS中1:250希釈)およびストレプトアビジン(PBS中1:250希釈)を用いてシグナルを増幅した。
【0109】
rhBMP−2での刺激、オステオカルシン染色およびアルカリホスファターゼアッセイ:細胞を、12穴コラーゲン被覆フラスコにおいて1−2×104細胞/穴の密度で3穴ずつにプレートした。200ng/mlの組換えヒトBMP−2(rhBMP−2)を増殖培地に添加することによって細胞を刺激した。最初のプレーティング後1、3および5日目に増殖培地を交換した。対照群の細胞は、rhBMP−2を添加せずに並行して増殖させた。rhBMP−2刺激を伴うまたはrhBMP−2刺激なしでの6日後に、マイクロサイトメーターを用いて細胞を計数し、オステオカルシンおよびアルカリホスファターゼ発現に関して分析した。オステオカルシン染色のために、細胞をヤギ抗マウスオステオカルシン抗体(PBS中1:100,Chemicon)と共にインキュベートし、次いでCy3蛍光色素と結合した抗ヤギ抗体と共にインキュベートした。アルカリホスファターゼ活性を測定するため、細胞溶解産物を調製し、p−ニトロフェニルホスフェートからの無機リン酸の加水分解による試薬の色の変化を利用する市販のキット(Sigma)を用いて分析した。生じた色の変化を分光光度計で測定し、データを、106細胞に基準化した国際単位ALP活性/リットルとして表した。スチューデントt検定を用いて統計的有意性を解析した(p<0.05)。
【0110】
筋形成および骨形成系統におけるmc13細胞のインビボでの分化−筋形成系統:mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの後肢筋に筋肉内注射した。動物を注射後15日目に犠死させ、注射した筋組織を凍結し、クリオスタット切片を作製して、ジストロフィン(上記参照)およびLacZ発現に関して検定した。LacZ発現に関して試験するため、筋切片を1%グルタルアルデヒドで固定し、その後X−gal基質(リン酸緩衝食塩水中の0.4mg/ml 5−ブロモクロロ−3インドリル−β−D−ガラクトシド(Boehringer−Mannheim)、1mM MgCl2、5mM K4Fe(CN)6および5mM K3Fe(CN)6)と共に1−3時間インキュベートした。分析の前に切片をエオシンで対比染色した。並行実験では、mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。動物を注射後7日目に犠死させ、後肢を単離して、上述したようにジストロフィンおよびβ−ガラクトシダーゼの存在に関して検定した。
【0111】
骨形成系統:アデノウイルスBMP−2プラスミド(adBMP−2)を構築するため、rhBMP−2コード配列をBMP−2−125プラスミド(Genetics Institute,Cambridge,Mass.)から切り出し、HuCMVプロモーターを含む複製欠損(E1およびE3遺伝子が欠失している)アデノウイルスベクターにサブクローニングした。簡単に述べると、BMP−2−125プラスミドをSa/Iで消化し、rhBMP−2 cDNAを含む1237塩基対フラグメントを生成した。次にrhBMP−2 cDNAをpAd.loxプラスミドのSa/I部位に挿入し、それにより遺伝子をHuCMVプロモーターの制御下に置いた。psi−5ウイルスDNAとpAd.loxのCREW細胞へのコトランスフェクションによって組換えアデノウイルスを得た。生じたadBMP−2プラスミドを、さらなる使用時まで−80℃で保存した。
【0112】
mc13細胞をトリプシン化し、感染の前にマイクロサイトメーターで計数した。HBSS(GibcoBRL)を用いて細胞を数回洗浄した。50感染多重度単位に等しいアデノウイルス粒子をHBSSに前混合し、その後細胞の上に層状に重ねた。細胞を37℃で4時間インキュベートし、次に等量の増殖培地と共にインキュベートした。気密注射器の30ゲージ針を使用して、露出させたSCIDマウス(Jackson Laboratories)の下腿三頭筋に0.5−1.0×106細胞の注射を実施した。14−15日目に、動物をメトキシフルランで麻酔し、頸部脱臼によって犠死させた。後肢をX線撮影によって分析した。その後、下腿三頭筋を単離し、リン酸緩衝食塩水で緩衝し、液体窒素中で予備冷却した2−メチルブタン中で瞬間凍結した。凍結試料を、クリオスタット(Microm,HM 505 E,Fisher Scientific)を用いて5×10μm切片に切断し、さらなる分析のために−20℃で保存した。
【0113】
RT−PCR分析:TRIzol試薬(Life Technologies)を使用して全RNAを単離した。SuperScript(商標) Preamplification System for First Strand cDNA Synthesis(Life Technologies)を使用して、製造者の指示に従って逆転写を実施した。簡単に述べると、ランダムヘキサマー100ngを70℃で10分間、全RNA 1μgにアニーリングし、その後氷上で冷却した。10XPCR緩衝液2μl、25mM MgCl2 2μl、10mM dNTP混合物1μl、0.1M DTT 2μlおよびsuperscript 11逆転写酵素200Uで逆転写を実施した。反応混合物を42℃で50分間インキュベートした。
【0114】
標的のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅を、逆転写酵素反応産物2μl、Taq DNAポリメラーゼ(Life Technologies)100μl(5U)および1.5mM MgCl2を含む反応混合物50μl中で実施した。Oligoソフトウエアを用いてCD34 PCRプライマーを設計し、それらは以下の配列を有した:CD34 UP:TAA CTT GAC TTC TGC TAC CA(配列番号1);およびCD34 DOWN:GTG GTC TTA CTG CTG TCC TG(配列番号2)。その他のプライマーは以前の試験に従って設計し(J.Rohwedelら、1995,Exp.Cell Res.220:92−100;D.D.Comelisonら、1997,Dev.Biol.191:270−283)、それらは以下の配列を有した:
【0115】
【化1】
以下のPCRパラメータを使用した:1)94℃、45秒間;2)50℃、60秒間(CD34)または60℃、60秒間(ミオゲニンおよびc−met);および3)72℃、90秒間を40サイクル。PCR産物を、アガロース−TBE−臭化エチジウムゲルによって確認した。予想されたPCR産物の大きさは以下のとおりである:CD34に関しては147bp;ミオゲニンに関しては86bp;およびc−metに関しては370bp。ゲノムDNA汚染の可能性を排除するため、2つの対照反応を実施した:1)逆転写酵素の不在下での並行逆転写、および2)イントロンにまたがるプライマーセット(Clonetech)を使用したβ−アクチンの増幅。
【0116】
頭蓋欠損アッセイ:3匹の6−8週齢の雌性SCIDマウス(Jackson Laboratories)を対照群と実験群において使用した。動物をメトキシフルランで麻酔し、腹臥位で手術台上に置いた。10番の刃を使用して、頭皮を切開して頭蓋を露出させ、骨膜を除去した。硬膜の貫通を最小限に抑えながら、歯科用バーを使用して約5mmの全層円形頭蓋欠損を創造した。コラーゲン・スポンジ・マトリックス(Helistat(商標),Colla−Tec,Inc.)に、adBMP−2形質導入を伴ってまたは伴わずに、0.5−1.0×106MDCを接種し、頭蓋欠損内に置いた。4−0ナイロン縫合糸を用いて頭皮を閉じ、動物に給餌して、活動させた。14日後、動物を犠死させ、頭蓋標本を観察して、その後顕微鏡で分析した。フォン・コッサ染色のために、頭蓋標本を4%ホルムアルデヒドに固定し、次に0.1M AgNO3溶液に15分間浸けた。標本を少なくとも15分間光に暴露し、PBSで洗浄して、その後観察のためにヘマトキシリンとエオシンで染色した。
【0117】
Y−プローブを使用したインサイチューハイブリダイゼーションにおける蛍光:凍結切片を3:1 メタノール/氷酢酸(v:v)に10分間固定し、空気乾燥した。次に切片を2XSSC(0.3M NaCl、0.03Mクエン酸ナトリウム)、pH7.0中の70%ホルムアミドにおいて70℃で2分間変性した。その後、スライドガラスを各濃度で2分間の一連のエタノール洗浄(70%、80%および95%)によって脱水した。Y染色体特異的プローブ(Y.Fanら、1996,Muscle Nerve 19:853−860)を、BioNickキット(Gibco BRL)を使用して製造者の指示に従ってビオチニル化した。ビオチニル化したプローブを、次に、G−50 Quick Spin Column(Boehringer−Mannheim)を用いて精製し、5ng/mlの超音波処理したニシン精子DNAと共に凍結乾燥した。ハイブリダイゼーションの前に、50%ホルムアミド、1XSSCおよび10%硫酸デキストランを含む溶液にプローブを再懸濁した。75℃で10分間の変性後、プローブを変性切片上に置き、37℃で一晩ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、切片を2XSSC溶液、pH7.0によって72℃で5分間洗浄した。次に切片をBMS溶液(0.1M NaHCO3、0.5M NaCl、0.5%NP−40、pH8.0)中で洗浄した。ハイブリダイズしたプローブをフルオレセイン標識アビジン(ONCOR,Inc)で検出した。核を、Vectashield封入剤(Vector,Inc)中10ng/mlの臭化エチジウムで対比染色した。
【0118】
mc13細胞のマーカー分析:mc13、PP6および線維芽細胞によって発現された生化学的マーカーを、RT−PCRおよび免疫組織化学を用いて分析した。表3(下記)は、mc13細胞が、幹細胞様特性を有する造血細胞のマーカーとして最近同定された(B.L.Zieglerら、前出)、ヒトKDR遺伝子のマウスホモログであるFlk−1を発現したが、CD34またはCD45を発現しなかったことを示す。しかし、本発明のPP6 MDCに由来する他のクローン単離物は、CD34ならびに他のPP6細胞マーカーを発現した。ここで述べる手順が、PP6筋由来始原細胞集団をクローン化し、筋由来始原細胞に特徴的な細胞マーカーを発現するクローン単離物を得るために使用できることは当業者に認識される。そのようなクローン単離物は本発明の方法に従って使用できる。たとえばクローン単離物は、デスミン、CD34およびBcl−2を含む始原細胞マーカーを発現する。好ましくは、クローン単離物はまた、Sca−1およびFlk−1細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない。
【0119】
【表3】
細胞を上述したように単離し、免疫組織化学分析によって検査した。「−」は、細胞の0%が発現を示したことを指示する;「+」は、細胞の>98%が発現を示したことを指示する;「+/−」は、細胞の40−80%が発現を示したことを指示する;「−/+」は、細胞の5−30%が発現を示したことを指示する;「na」は、データが入手できないことを指示する。
【0120】
CD34+およびBcl−2+細胞のインビボでの局在化:インビボでのCD34+およびBcl−2+細胞の位置を同定するため、正常マウスの下腿三頭筋からの筋組織切片を、抗CD34および抗Bcl−2抗体を用いて染色した。CD34陽性細胞は、デスミンに関しても陽性である(図12B)筋由来細胞の小集団を構成した(図12A)。抗コラーゲンIV型抗体とCD34+・デスミン+細胞の共染色は、それらを基底膜に局在化した(図12Bおよび12D)。図12A−Dにおいて矢じりで指示されるように、小さな血管もCD34およびコラーゲンIV型に関して陽性であったが、核染色で共局在しなかった。血管内皮細胞によるCD34の発現が以前の試験で示された(L.Finaら、前出)。Bcl−2+・デスミン+細胞が同様に同定され(図12E−12H)、基底膜内に局在化された(図12Fおよび12H)。衛星細胞の位置を同定するために切片をM−カドヘリンに関しても染色した(図12I)。衛星細胞は、CD34+・デスミン+細胞、またはBcl−2+・デスミン+細胞と同様の位置で同定された(矢印、図12I)。しかし、M−カドヘリンとCD34またはBcl−2を共局在化する多数の試みは成功せず、M−カドヘリン発現細胞がBcl−2またはCD34を共発現しないことを示唆した。これは、ここで開示するように、高レベルのCD34およびBcl−2を発現するが、M−カドヘリンは極微のレベルでしか発現しないPP6細胞と一致する。
【0121】
クローン化筋始原細胞の骨形成系統へのインビトロ分化:mc13細胞を、rhBMP−2での刺激によって骨形成分化能に関して評価した。細胞を6穴培養皿にプレートし、200ng/ml rhBMP−2の存在下または不在下で集密まで増殖させた。34日以内に、rhBMP−2に暴露したmc13細胞は、rhBMP−2不在下の細胞と比較して劇的な形態形成変化を示した。rhBMP−2の不在下では、mc13細胞は多核筋管に融合し始めた(図13A)。200ng/ml rhBMP−2に暴露したときは、しかし、細胞は単核のままであり、融合しなかった(図13B)。細胞密度が>90%の集密度に達したとき、未処置培養物は融合して多数の筋管を形成したが(図13C)、処置細胞は円形で肥大性になった(図13D)。免疫組織化学を使用して、これらの肥大細胞をオステオカルシンの発現に関して分析した。オステオカルシンは、骨に沈着し、骨芽細胞によって特異的に発現されるマトリックスタンパク質である。未処置群と異なり、rhBMP−2処置した肥大細胞はオステオカルシンの有意の発現を示し(図13E)、それ故、mc13細胞がrhBMP−2への暴露後に骨芽細胞に分化できることを示唆した。
【0122】
mc13細胞を、次に、rhBMP−2刺激後のデスミンの発現に関して分析した。新たに単離したmc13細胞は均一なデスミン染色を示した(図14Aおよび14B)。rhBMP−2への暴露から6日以内に、mc13細胞の30〜40%だけがデスミン染色を示した。rhBMP−2刺激の不在下では、mc13細胞の約90〜100%がデスミン染色を示した(図14C)。この結果は、rhBMP−2によるmc13細胞の刺激がこれらの細胞についての筋形成能の喪失を生じさせることを示唆する。
【0123】
さらに、mc13細胞をrhBMP−2刺激後のアルカリホスファターゼの発現に関して分析した。アルカリホスファターゼは骨芽細胞分化についての生化学的マーカーとして使用されてきた(T.Katagiriら、1994,J.Cell Biol.,127:1755−1766)。図14Dに示すように、mc13細胞のアルカリホスファターゼ発現はrhBMP−2に応答して600倍以上上昇した。対照として使用したPP1−4細胞は、rhBMP−2に応答したアルカリホスファターゼ活性の上昇を示さなかった(図14D)。合わせて考慮すると、これらのデータは、PP6クローン単離物、たとえばmc13細胞が、インビトロでrhBMP−2暴露に応答して筋形成マーカーを喪失し、骨形成系統を通して分化し得ることを明らかにする。
【0124】
mc13細胞の筋形成および骨形成系統へのインビボでの分化:mc13細胞がインビボで筋形成系統を通して分化できるかどうかを判定するため、細胞をmdxマウスの後肢筋組織に注射した。動物を注射後15日目に犠死させ、組織学的および免疫組織化学的分析のためにそれらの後肢を採取した。いくつかの筋線維は、注射部位の周囲の領域においてLacZおよびジストロフィン染色を示し(図15Aおよび15B)、mc13細胞がインビボで筋形成系統に分化することができ、ジストロフィー筋において筋再生を増強し、ジストロフィンを回復させ得ることを指示する。
【0125】
並行実験では、mc13細胞をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。動物を注射後7日目に犠死させ、組織学的および免疫組織化学的分析のために後肢筋を採取した。いくつかの後肢筋細胞はLacZおよびジストロフィン染色を示し(図15C、15D:「*」も参照のこと)、mc13細胞がジストロフィン発現の救済のために標的組織に全身的に送達され得ることを示唆した。
【0126】
インビボでのmc13細胞の多能特性を試験するため、細胞をrhBMP−2をコードするアデノウイルスベクター(adBMP−2)で形質導入した。adBMP−2を有するmc13細胞を、次に、SCIDマウスの後肢に注射した。動物を注射後14日目に犠死させ、後肢を組織化学的および免疫化学的分析のために切除した。adBMP−2で形質導入したmc13細胞の酵素免疫検定法(ELISA)分析は、感染細胞がrhBMP−2を産生できることを示した。注射したSCIDマウスの後肢のX線分析は、注射の14日以内に堅固な異所性骨形成を明らかにした(図15E)。異所性骨のLacZ染色を用いた組織学的分析は、LacZ陽性mc13細胞が、骨芽細胞および骨細胞が認められる典型的な位置である、石灰化マトリックスまたは小窩内に均一に位置したことを示す(図15F)。
【0127】
異所性骨の形成におけるmc13の役割をさらに確認するため、筋切片をジストロフィンの存在に関しても染色した。図15Gに示すように、異所性骨はジストロフィンに関して高度に陽性の細胞を含み、mc13細胞が骨形成に密接に関与していることを示唆する。対照として、線維芽細胞に関して同様の実験を実施した。線維芽細胞は堅固な異所性骨形成を支持することが認められたが、注射した細胞は一様に骨の外側で認められ、いずれも石灰化マトリックス内に位置することができなかった。これは、線維芽細胞が、異所性骨を形成するようにrhBMP−2を送達することができるが、骨芽細胞に分化することはできないことを示唆する。この場合、異所性骨の石灰化に関与する細胞はおそらく宿主組織に由来すると考えられる。それ故、これらの結果は、mc13細胞がインビボおよびインビトロの両方で骨芽細胞に分化できることを明らかにする。
【0128】
遺伝子操作された筋由来細胞による骨治癒の増強:骨格的に成熟した(6−8週齢)雌性SCIDマウスにおいて上述したように歯科用バーを用いて頭蓋欠損(約5mm)を創造した。以前の実験は、5mmの頭蓋欠損が「非治癒性(non−healing)」であることを明らかにした(P.H.Krebsbachら、1998,Transplantation 66:1272−1278)。頭蓋欠損に、adBMP−2で形質導入したmc13細胞または形質導入していないmc13細胞を接種したコラーゲン・スポンジ・マトリックスを充填した。これらのマウスを14日目に犠死させ、頭蓋欠損の治癒を分析した。図16Aに示すように、rhBMP−2なしのmc13細胞で処置した対照群は欠損の治癒の証拠を示さなかった。これに対し、rhBMP−2を発現するように形質導入したmc13細胞で処置した実験群は、2週間目に頭蓋欠損のほとんど完全な閉鎖を示した(図16B)。石灰化した骨を強調するフォン・コッサ染色は、rhBMP−2を発現するように形質導入したmc13細胞で処置した群において堅固な骨形成を示したが(図16D)、対照群では極微の骨形成しか認められなかった(図16C)。
【0129】
実験群における新しい骨の領域を、移植した細胞を同定するためにY染色体特異的プローブとの蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)によって分析した。図16Eに示すように、Y染色体陽性細胞が新たに形成された骨内で同定され、rhBMP−2の影響下での移植細胞の骨形成への能動的な関与を指示した。Y染色体陰性細胞も新たに形成された頭蓋内で同定され、それ故宿主由来細胞の能動的な関与も指示した。これらの結果は、mc13細胞がrhBMP−2での刺激後に「非治癒性」骨欠損の治癒を媒介し得ることを明らかにし、本発明のMDCが骨欠損、損傷または外傷の治療において使用できることを指示する。
【0130】
(実施例10)
緩慢接着ヒトMDCは性質としてより筋形成性であり、誘発性心筋梗塞を有するマウスにおいて左心室機能を改善する。
【0131】
急速および緩慢接着MDCの集団を、Center for Organ Recovery and Education(CORE)から入手した3名の男性と3名の女性ドナー(13歳の男性、57歳の男性、70歳の男性、32歳の女性、59歳の女性、64歳の女性)の直筋から単離した。14の試料についての生検の大きさは42−247mgの範囲であった。平均の大きさは129mgであった。57歳の男性ドナーから単離した急速および緩慢接着MDCを心臓内注射のために使用した。
【0132】
骨格筋生検組織を直ちに低温溶液(硫酸ゲンタマイシン(100ng/ml、Roche)を添加したHypo Thermosol(BioLife))に入れ、4℃で保存する。3−7日後、生検組織を保存から取り出し、生産を開始させる。結合組織または非筋組織を生検試料から切除する。単離のために使用する残存筋組織を計量する。組織をハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で細かく切り刻み、円錐管に移して、遠心分離する(2,500×g、5分間)。次にペレットを消化酵素溶液(Liberase Blendzyme 4(0.4−1.0U/mL、Roche)に再懸濁する。生検試料100mgにつき消化酵素溶液2mLを使用して、回転板上で37℃にて30分間インキュベートする。その後試料を遠心分離する(2,500×g、5分間)。ペレットを培地に再懸濁し、70μmのセルストレーナーに通す。この実施例で述べる手順のために使用する培地は、以下の成分を添加したCambrex Endothelial Growth Medium EGM−2基本培地であった:i.10%(v/v)ウシ胎仔血清、およびii.インスリン増殖因子−1(IGF−1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、ヘパリンおよびアスコルビン酸を含む、Cambrex EGM−2 SingleQuot Kit。次に、ろ過した細胞溶液をT25培養フラスコに移し、5%CO2中37℃で30−120分間インキュベートする。このフラスコに付着する細胞が「急速接着細胞」である。
【0133】
インキュベーション後、T25フラスコから細胞培養上清を取り、15mL円錐管に入れる。T25培養フラスコを温めた培地2mLで洗浄し、前記15mL円錐管に移す。15mL円錐管を遠心分離する(2,500×g、5分間)。ペレットを培地に再懸濁し、新しいT25培養フラスコに移す。フラスコを5%CO2中37℃で〜2日間インキュベートする(このフラスコに付着する細胞が「緩慢接着細胞」である)。インキュベーション後、細胞培養上清を吸引し、新しい培地をフラスコに添加する。その後フラスコを増殖のためにインキュベーターに戻す。このあと、培養フラスコ中の細胞集密度を50%未満に維持するように標準培養継代を実施する。継代の間にフラスコから接着細胞を分離するためにトリプシン−EDTA(0.25%、Invitrogen)を使用する。「緩慢接着細胞」の典型的な増殖は、3,700万細胞の平均総生細胞数を達成するために平均17日間(生産を開始させる日から出発して)を要する(n=14の生産を14の異なる生検試料から実施し、生検重量は42−247mgの範囲であり、平均129mgである)。
【0134】
ひとたび所望細胞数が達成されれば、トリプシン−EDTAを使用してフラスコから細胞を採取し、遠心分離する(2,500×g、5分間)。ペレットをBSS−P溶液(ヒト血清アルブミン(2%v/v、Sera Care Life)を添加したHBSS)に再懸濁し、計数する。次に細胞溶液を再び遠心分離し(2,500×g、5分間)、低温保存溶液(ヒト血清アルブミン(2%v/v、Sera Care Life)を添加したCryoStor(Biolife))で所望細胞濃度に再懸濁して、極低温保存のために適切なバイアルにパッケージする。クライオバイアルを冷凍容器に入れ、−80℃の冷凍庫内に置く。凍結細胞懸濁液を室温で解凍して細胞を等量の生理食塩水と共に投与し、直接注射する(追加操作なしで)ことによって細胞を投与する。緩慢接着細胞集団(n=7生検)の系統特性決定は以下を示す:筋形成(87.4%CD56+、89.2%デスミン+)、内皮(0.0%CD31+)、造血(0.3%CD45+)、および線維芽細胞(6.8%CD90+/CD56−)。
【0135】
骨格筋生検組織の解離後、細胞の2つの分画を培養フラスコへのそれらの急速または緩慢接着に基づいて収集した。次に細胞を増殖培地での培養で増殖させ、その後1.5mlエッペンドルフ管の低温保存溶液中で凍結した(15μ中3×105細胞)。対照群については、低温保存溶液15μlだけを管に入れた。これらの管を注射時まで−80℃で保存した。注射の直前に、管を保存から取り出し、室温で解凍して、0.9%塩化ナトリウム溶液15μlで再懸濁した。生じた30μl溶液を、次に、30ゲージ針を用いて0.5ccインスリンシリンジに導入した。手術および注射を実施する試験者には管の内容物がわからないようにした。
【0136】
細胞数および生存能を、GuavaフローサイトメーターおよびViacountアッセイキット(Guava)を用いて測定した。CD56は、PE結合抗CD56抗体(1:50、BD Pharmingen)およびPE結合アイソタイプ対照モノクローナル抗体(1:50、BD Pharmingen)を使用してフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。デスミンは、モノクローナルデスミン抗体(1:100、Dako)およびアイソタイプ対照モノクローナル抗体(1:200、BD Pharmingen)を使用してパラホルムアルデヒド固定細胞(BD Pharmingen)に関するフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。Cy3結合抗マウスIgG抗体(1:250、Sigma)を用いて蛍光標識化を実施した。各工程の間に、細胞を透過性上昇緩衝液(BD Pharmingen)で洗浄した。クレアチンキナーゼ(CK)アッセイのために、各穴につき1×105細胞を12穴プレートの分化誘導培地に接種した。4−6日後、細胞をトリプシン処理によって採取し、遠心分離にかけてペレットにした。細胞溶解産物上清を、CK Liqui−UVキット(Stanbio)を用いてCK活性に関して検定した。
【0137】
ヒト細胞の異種移植に関連する免疫拒絶反応を回避するために、細胞をNOD−SCIDマウスの心臓に注射した。Institutional Animal Care and Use Committee,Children’s Hospital of Pittsburghは、この試験において実施される動物および手術手順を承認した(プロトコール37/04)。22週齢のNOD.CB17 prkdc重症複合型免疫不全(NOD−SCID)マウス(The Jackson Laboratory,Bar harbor,ME,USA)をこの試験で使用した。マウスをイソフルランと酸素の気体混合物で麻酔し、挿管した。手術中、人工呼吸器で陽圧換気を維持した。正常に位置する左心耳の先端から2mmの左冠動脈前下行枝の結紮によって急性心筋梗塞を誘導した。結紮後直ちに、調製した溶液を梗塞に隣接する収縮壁の前面と側面および梗塞の中心部に注射した(各領域につき10μl)。
【0138】
移植の2週間後と6週間後に、左心室機能を評価するために心エコー検査を実施した。心エコー検査は、13−Mhzリニアアレイ変換器(15L8)を備えたSequoia C256システム(Acusion,Mountain View,CA,USA)を用いて盲検化された試験者によって実施された。マウスをイソフルランガスで麻酔し(1分間の誘導のために3%イソフルランおよび維持のために1.50%イソフルラン)、背臥位で拘束した。収縮末期面積(ESA)と拡張末期面積(EDA)の両方を左心室の短軸像から測定した。LV収縮性の指標である左室内腔面積変化率(FAC)を、FAC(%)=[(EDA−ESA)/EDA]×100として算定した。
【0139】
データを平均±SEとして提示する。心機能データにおける統計的有意差は二方向ANOVAによって決定した。Student−Newman−Keuls多重比較検定でポストホック解析を実施した。
【0140】
急速および緩慢接着MDCの筋形成特性決定
6名の異なるドナー(男性3名と女性3名)の組織から単離した細胞において、我々は、急速接着MDCの集団が、緩慢接着MDCの集団(平均71.0%)と比較したとき、より低いレベルの筋形成マーカーCD56発現を示す(6集団すべての平均、49.5%)ことを認めた(図17)。各群について同数の細胞を、筋形成分化を誘導する条件に供したとき、急速接着MDC(平均69U/L)は緩慢接着MDC(平均142U/L)よりも低いクレアチンキナーゼ活性レベルを示し(図17)、緩慢接着細胞が急速接着細胞よりも多量の筋を生産できることを指示した。合わせて考慮すると、これらの結果は、緩慢接着MDCの集団が、急速接着MDCの集団と比較したとき、より筋形成性であり(CD56含量)、筋生成に関してより強力である(CK活性)ことを示唆する(図17)。
【0141】
注射用にパッケージし、凍結した細胞の解凍後特性決定
我々は、心臓内注射用にパッケージし、凍結したMDC(57歳の男性ドナーから単離した)の解凍後試料を分析した。どちらの細胞集団も解凍直後には等しく高い割合の生存能を有しており(92%)、両集団の細胞の非常に高いパーセンテージが注射の時点で生存可能であることを指示した(表1)。筋形成マーカーCD56を発現した細胞の割合は、表4に示すように、急速接着MDCと緩慢接着MDCについてそれぞれ43.8%と85.1%であった。
【0142】
【表4】
同様の傾向が、急速(62.5%)および緩慢接着MDC(93.6%)についての筋形成マーカー、デスミンの発現レベルにおいて認められた。解凍後にCK活性によって測定した細胞の筋形成能は、急速および緩慢接着細胞についてそれぞれ82および181U/Lであった。これら2つの集団の間での筋形成含量(CD56およびデスミン)および筋形成分化(CK)の差は、心臓内注射のために使用された細胞が、典型的にはドナー骨格筋から単離される急速および緩慢接着細胞の代表集団であることを指示する(図17参照)。
【0143】
心機能
2つの理由から、57歳の男性から単離したMDCを心臓内注射のために使用した。第一に、このドナーからの急速および緩慢接着細胞集団は、表5および図17に示すようにその他のドナーから単離した細胞を代表する筋形成特性を示した。
【0144】
【表5】
第二に、ドナーの筋生検の年齢および性別がそのような治療を必要とする標的集団と適合性であると思われる。
【0145】
対照群と比較したとき、急速または緩慢接着細胞を注射した心臓は、図18に示すように心筋梗塞後2週間目で早くも、FACによって測定したとき、LV収縮性の改善を示した。また、表5に示す結果は、それぞれ23.0%および69.7%の上昇を明らかにする。6週間目まで、LV収縮性レベルはどちらの細胞群においても安定なままであったが、対照群では小さな低下が認められ、表5および図18に示すように、対照溶液を注射した心臓と比較したとき急速および緩慢接着細胞を注射した心臓に関してそれぞれ45.2%および118.9%のLV収縮性のさらに一層大きな改善を生じさせた。対照群と比べての有意差は、緩慢接着MDC群においてのみ達成された(図18;*P<0.05、緩慢接着MDC対対照)。加えて、緩慢接着MDCを注射した心臓は、急速接着細胞を注射した心臓を上回るLV収縮性を明らかにし(図18;†P<0.05、緩慢接着細胞(MDC)対急速接着細胞)、心筋梗塞修復に関して緩慢接着細胞が急速接着細胞よりも優れていることを示唆した。
【0146】
我々は、ヒト骨格筋生検組織の解離後、培養フラスコへのそれらの急速または緩慢接着に基づいて細胞の2つの分画を単離した。培養フラスコに緩慢に接着した細胞の集団は、急速に接着した細胞の集団と比較したとき、より高い筋形成含量とより大きな筋形成効率/効力によって特徴づけられる。心筋梗塞修復に関して、細胞のいずれかの分画を注射した心臓は、対照を注射した心臓と比較したとき機能的改善を提供した。しかし、緩慢接着細胞は、急速接着細胞と比較したとき心筋梗塞後のより優れた機能回復を提供した。
【0147】
本明細書において引用するすべての特許出願、特許、テキストおよび文献参照、本発明が属する技術分野の技術水準をより詳細に説明するためにそれらの全体が参照によりここに組み込まれる。
【0148】
様々な変更が、上述したような本発明の範囲と精神から逸脱することなく上記方法および組成物において実施され得るので、付属の図面で示す、または付属の特許請求の範囲で定義される、上記説明に含まれるすべての対象物は、例示と解釈され、限定的な意味ではないことが意図されている。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図11K】
【図11L】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図12G】
【図12H】
【図12I】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋由来始原細胞(MDC)および体組織、特に心筋のような軟組織の増加におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、軟組織および骨への導入後長期的な生存を示す筋由来始原細胞、MDCを単離する方法、および上皮、脂肪、神経、器官、筋肉、靱帯および軟骨組織を含む、ヒトまたは動物の軟組織および骨の増加のためにMDC含有組成物を使用する方法に関する。本発明はまた、心不全および心筋梗塞に関連する損傷または脱力のような機能的状態の治療のための筋由来始原細胞の新規使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような合成材料を用いた軟組織の増加は当技術分野において周知である。Arnettへの特許文献1は、顔面形成外科用のシリコーンインプラントの使用を開示する。しかし、そのような合成材料は宿主組織にとって異質であり、インプラントの被包および周辺組織の瘢痕化を生じさせる免疫応答を引き起こす。それ故、インプラントは付加的な機能的または審美的問題をもたらし得る。
【0003】
コラーゲンまたはヒアルロン酸のような生体高分子を用いた軟組織増加も記述されている。たとえばWallaceらへの特許文献2は、コラーゲンインプラント材料を用いて軟組織を増加させる方法を開示する。加えて、della Valleらへの特許文献3は、美容外科において使用できるヒアルロン酸のエステルを開示する。しかし、これらの生体高分子もまた宿主組織にとって異質であり、注入材料の再吸収を生じさせる免疫応答を引き起こす。生体高分子は、それ故、長期的な組織増加を提供することができない。全体として、生体高分子または合成材料の使用は、軟組織を増加させるという目的には全く満足のいかないものであった。
【0004】
細胞に基づく組成物を使用した軟組織増加も開発された。Boss,Jr.への特許文献4は、美容的および審美的皮膚欠陥の治療のための自己皮膚線維芽細胞の使用を開示する。この治療は、合成材料または生体高分子の移植または注入に固有の問題を回避するが、他の合併症を生じさせる。線維芽細胞はコラーゲンを産生するので、細胞は、移植部位の周囲の組織の硬化および変形を引き起こし得る。
【0005】
注入用増量剤としての自己脂肪細胞の使用も記述されている(総説については、K.Makら、1994,Otolaryngol.Clin.North.Am.27:211−22;American Society of Plastic and Reconstructive Surgery:Report on autologous fat transplantation by the ad hoc committee on new procedures,1987,Chicago:American Society of Plastic and Reconstructive Surgery;A.Chaichirら、1989,Plast.Reconstr.Surg.84:921−935;R.A.Ersek,1991,Plast.Reconstr.Surg.87:219−228;H.W.Horlら、1991,Ann.Plast.Surg.26:248−258;A.Nguyenら、1990,Plast.Reconstr.Surg.85:378−389;J.Sartynskiら、1990,Otolaryngol.Head Neck Surg.102:314−321参照)。しかし、注入された脂肪は宿主に再吸収されるので、脂肪移植処置は一時的な増量しか提供しない。加えて、脂肪移植は結節形成および組織非対称を生じさせ得る。
【0006】
筋繊維の前駆体である筋芽細胞は、融合して有糸分裂後の多核筋管を形成する単核筋細胞であり、生物活性タンパク質の長期的発現と送達を提供することができる(T.A.PartridgeとK.E.Davies,1995,Brit.Med.Bulletin 51:123−137;J.Dhawanら、1992,Science 254:1509−12;A.D.Grinnell,1994,Myology Ed 2,A.G.EngelとC.F.Armstrong,McGraw−Hill,Inc.,303−304;S.JiaoとJ.A.Wolff,1992,Brain Research 575:143−7;H.Vandenburgh,1996,Human Gene Therapy 7:2195−2200)。
【0007】
培養した筋芽細胞は、幹細胞の自己更新特性の一部を示す細胞の亜集団を含む(A.Baroffioら、1996,Differentiation 60:47−57)。そのような細胞は融合して筋管を形成することができず、別途に培養しない限り分裂しない(A.Baroffioら、前出)。筋芽細胞移植の試験(以下参照)は、移植された細胞の大部分は速やかに死滅するが、少数は生存し、新たな筋形成を媒介することを示した(J.R.Beuchampら、1999,J.Cell Biol.144:1113−1122)。この少数の細胞は、組織培養での緩やかな増殖と移植後の迅速な増殖を含む独特の挙動を示し、これらの細胞が筋芽幹細胞であり得ることを示唆する(J.R.Beuchampら、前出)。
【0008】
筋芽細胞は、様々な筋関連および非筋関連疾患の治療における遺伝子療法のためのビヒクルとして使用されてきた。たとえば遺伝的に修飾されたまたは修飾されていない筋芽細胞の移植は、デュシェーヌ筋ジストロフィーの治療のために使用されてきた(E.Gussoniら、1992,Nature,356:435−8;J.Huardら、1992,Muscle & Nerve,15:550−60;G.Karpatiら、1993,Ann.Neurol.,34:8−17;J.P.Tremblayら、1993,Cell Transplantation,2:99−112;P.A.Moissetら、1998,Biochem.Biophys.Res.Commun.247:94−9;P.A.Moissetら、1998,Gene Ther.5:1340−46)。加えて、筋芽細胞は、1型糖尿病の治療のためのプロインスリン(L.Grosら、1999,Hum.Gen.Ther.10:1207−17);血友病Bの治療のための第IX因子(M.Romanら、1992,Somat.Cell.Mol.Genet.18:247−58;S.N.Yaoら、1994,Gen.Ther.1:99−107;J.M.Wangら、1997,Blood 90:1075−82;G.Hortelanoら、1999,Hum.Gene Ther.10:1281−8);アデノシンデアミナーゼ欠損症候群の治療のためのアデノシンデアミナーゼ(C.M.Lynchら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:1138−42);慢性貧血の治療のためのエリトロポエチン(E.Regulierら、1998,Gene Ther.5:1014−22;B.Dalleら、1999,Gene Ther.6:157−61)、および成長遅滞の治療のためのヒト成長ホルモン(K.Anwerら、1998,Hum.Gen.Ther.9:659−70)を生産するために遺伝子操作されてきた。
【0009】
筋芽細胞はまた、Lawらへの特許文献5、Blauらへの特許文献6、およびChancellorらによる1999年4月30日出願の米国特許出願第09/302,896号に開示されているように、筋組織の損傷または疾患を治療するためにも使用されてきた。加えて、筋芽細胞移植は心筋梗塞の修復のために用いられてきた(C.E.Murryら、1996,J.Clin.Invest.98:2512−23;B.Z.Atkinsら、1999,Ann.Thorac.Surg.67:124−129;B.Z.Atkinsら、1999,J.Heart Lung Transplant.18:1173−80)。
【0010】
上記にもかかわらず、ほとんどの症例で、一次筋芽細胞由来治療は、遊走および/または食作用に起因する移植後の細胞の低い生存率に結び付いてきた。この問題を回避するため、Atalaへの特許文献7は、アルギネートのような液体ポリマーに懸濁した筋芽細胞の使用を開示している。ポリマー溶液は、筋芽細胞が注入後に移動するおよび/または食作用を受けることを防ぐための基質として働く。しかし、ポリマー溶液は、上記で論じた生体高分子と同じ問題を提起する。さらに、特許文献7は筋組織だけにおける筋芽細胞の使用に限定され、他の組織は取り上げられていない。
【0011】
それ故、長期間持続性で、広い範囲の宿主組織と適合性であり、移植部位の周囲の組織の炎症、瘢痕化および/または硬化を最小限に抑える、他の異なる軟組織増加材料が求められている。従って、本発明の筋由来始原細胞含有組成物は、軟組織を増加させるための改善された新規材料として提供される。さらに、移植後に長期的な生存を示す筋由来始原細胞を生成する方法、および、たとえば皮膚症状または損傷、および筋力の低下、筋の損傷、疾患または機能不全を含む、様々な審美的および/または機能的欠陥を治療するためにMDCおよびMDCを含有する組成物を使用する方法が提供される。
【0012】
非筋肉軟組織増量のために筋芽細胞を使用するこれまでの試みが不成功に終わっていることに注目すべきである(Atalaへの特許文献7)。それ故、ここで開示する所見は、本発明に従った筋由来始原細胞が上皮組織を含む非筋および筋軟組織に成功裏に移植され、長期的な生存を示し得ることを明らかにするので、予想外である。その結果、MDCおよびMDCを含有する組成物は、筋または非筋軟組織増加のため、ならびに骨生産のための一般的増量材料として使用できる。さらに、本発明の筋由来始原細胞および組成物は自己ソースに由来し得るので、増量材料の再吸収、および移植部位の周囲の組織の炎症および/または瘢痕化を含む、宿主における免疫学的合併症の危険性が低い。
【0013】
間葉幹細胞は、筋肉、骨、軟骨等を含む身体の様々な結合組織において認められ得るが(H.E.Youngら、1993,In Vitro Cell Dev.Biol.29A:723−736;H.E.Youngら、1995,Dev.Dynam.202:137−144)、間葉という用語は、歴史的には、筋肉からではなく骨髄から精製された幹細胞のクラスを表すために使用されてきた。それ故、間葉幹細胞は本発明の筋由来始原細胞とは区別される。さらに、間葉細胞は、ここで述べる筋由来始原細胞によって発現される、CD34細胞マーカーを発現しない(M.F.Pittengerら、1999,Science 284:143−147)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,876,447号明細書
【特許文献2】米国特許第4,424,208号明細書
【特許文献3】米国特許第4,965,353号明細書
【特許文献4】米国特許第5,858,390号明細書
【特許文献5】米国特許第5,130,141号明細書
【特許文献6】米国特許第5,538,722号明細書
【特許文献7】米国特許第5,667,778号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
要旨
移植後に長期的な生存を示す新規な筋由来始原細胞(MDC)およびMDC組成物を提供することが本発明の1つの目的である。本発明のMDCおよびMDCを含有する組成物は、デスミン、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34およびBcl−2のような始原細胞マーカーを発現する初期前駆筋細胞、すなわち筋由来幹細胞を含む。加えて、これらの初期前駆筋細胞は、Flk−1、Sca−1、MNFおよびc−met細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない。
【0016】
出発筋細胞集団から筋由来始原細胞を単離し、冨化するための方法を提供することが本発明のもう1つの目的である。これらの方法は、軟組織の部位への移植または導入後に長期的な生存能を有するMDCの冨化を生じさせる。本発明に従ったMDC集団は、特に、デスミン、M−カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34およびBcl−2のような始原細胞マーカーを発現する細胞に富む。このMDC集団はまた、Flk−1、Sca−1、MNFおよびc−met細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない。
【0017】
移植のためのポリマー担体または特殊な培養培地を必要とせずに、皮膚、血管、脂肪、神経、骨格筋、平滑筋、靭帯、軟骨および様々な器官組織を含む筋軟組織または非筋軟組織の増加のために、MDCおよびMDCを含有する組成物を使用する方法を提供することが本発明のさらにもう1つの目的である。そのような方法は、軟組織への導入による、たとえば組織への直接注入または組成物の全身分布による、MDC組成物の投与を含む。好ましくは、軟組織は非骨体組織を含む。より好ましくは、軟組織は、非横紋筋、非骨体組織を含む。最も好ましくは、軟組織は非筋・非骨体組織を含む。ここで使用するとき、増加とは、体組織の大きさまたは質量を補填する、膨張させる、支持する、増大する、拡大するまたは増加させることを指す。
【0018】
a)美容的または審美的症状:b)胃食道逆流症状および状態;c)便失禁および尿失禁;d)骨格筋および平滑筋の筋力低下、損傷、疾患または機能不全およびe)心筋梗塞を含む心臓状態のために、MDCに基づく治療を提供することが本発明のもう1つの目的である。
【0019】
傷害、創傷、手術、外傷、非外傷、もしくは皮膚または内部軟組織または器官に裂、孔、陥凹、創傷等を生じさせる他の行為後に、骨または、筋由来軟組織または非筋由来軟組織にかかわらず、軟組織を増加させる方法を提供することが本発明のさらにもう1つの目的である。
【0020】
化学物質、増殖培地および/または遺伝子操作の使用を通して改変されたMDCおよびMDCを含有する組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。そのようなMDCおよびその組成物は、生物学的化合物の生産と送達、および様々な疾患、症状、傷害または疾病のために有用な化学的または遺伝的に修飾された細胞を含む。
【0021】
MDCおよびMDCを含有する組成物を含む医薬組成物を提供することが本発明のさらにもう1つの実施形態である。これらの医薬組成物は単離されたMDCを含む。これらのMDCは、その後、単離後の細胞培養によって増殖され得る。これらのMDCは、その医薬組成物を必要とする被験体への送達の前に凍結される。
【0022】
1つの実施形態では、MDCおよびその組成物が心臓状態を治療するために使用されるとき、それらは心臓に直接注射される。それらは、心房内または心臓壁に注射され得る。
【0023】
本発明はまた、単一平板手法(single plating technique)を用いたMDCの単離を含む組成物および方法を提供する。MDCは骨格筋の生検から単離される。1つの実施形態では、生検からの骨格筋は1〜30日間保存され得る。この実施形態の1つの態様では、生検からの骨格筋は4℃で保存される。細胞を細かく刻み、コラゲナーゼ、ジスパーゼ、別の酵素または酵素の組合せを用いて消化する。細胞から酵素を洗浄した後、細胞をフラスコ内の培地で約30〜約120分間培養する。この期間中、「急速接着細胞」はフラスコまたは容器の壁に付着し、一方「緩慢接着細胞」またはMDCは懸濁液中に残存する。「緩慢接着細胞」を2番目のフラスコまたは容器に移し、1〜3日間その中で培養する。この2番目の期間中に、「緩慢接着細胞」またはMDCは2番目のフラスコまたは容器の壁に付着する。
【0024】
本発明のもう1つの実施形態では、これらのMDCはいかなる細胞数にも増殖する。この実施形態の好ましい態様では、細胞を約10〜20日間新しい培地で増殖させる。より好ましくは細胞を17日間増殖させる。
【0025】
増殖したまたは増殖していないMDCは、輸送するためまたは使用までの期間中貯蔵するために保存され得る。1つの実施形態では、MDCを凍結する。好ましくは、MDCを約−20℃から−90℃で凍結する。より好ましくは、MDCを約−80℃で凍結する。これらの凍結MDCは医薬組成物として使用される。
【0026】
医薬組成物として凍結または保存された、または新鮮使用されるMDCは、多くの心臓状態を治療するために使用され得る。これらの症状は、心筋梗塞、心不全、アダムズ‐ストークス病、先天性心疾患、狭心症、不整脈、心房細動、細菌性心内膜炎、心筋症、うっ血性心不全、拡張機能障害、心雑音および心室期外収縮(premature ventricular contraction)を含む。MDCは何らかの心臓病変によって引き起こされる心臓欠陥を治癒するためまたは心機能を改善するために使用され得る。1つの実施形態では、MDCは心臓に直接投与される。
【0027】
好ましくは、MDCは心筋梗塞(MI)を治療するために使用される。1つの実施形態では、この治療は、MI患者から採集した骨格筋からMDCを単離し、患者自身のMDCを患者の心臓に投与して戻すことによって実施される。この治療は患者の心臓の機能を高め、MI後に起こる有害な心臓リモデリングおよび瘢痕化(を回避する、予防する等が続くと思われます)。
【0028】
本発明によって提供されるさらなる目的および利点は、以下の詳細な説明と実施例から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
付属の図面は、本発明をさらに説明し、その様々な態様の明瞭化を通してその理解を助けるために提示されるものである。
【図1】図1A−1Fは、従来のウシコラーゲンの注射と比較した、MDC組成物の注射を使用した軟組織増加の結果を示す。図1A−1Fに関して、MDC(図1D−1F)またはコラーゲン(1A−1C)のいずれかを腹壁の皮膚に注射した。注射の領域は、真皮と、皮膚である皮下結合組織の界面であった。図1A−1Fは、コラーゲンまたはMDCの皮膚への注射後の、40X倍率でのトリクローム染色を示す。注射後5日目、2週間目または4週間目に、組織試料を採取し、分析用に調製した。図1Aおよび1Dは、注射後5日目の、皮膚へのMDC注射とコラーゲン注射の結果を示す;図1Bおよび1Eは、注射後2週間目の結果を示す;および図1Cおよび1Fは、注射後4週間目の結果を示す。図1D−1Fにおける矢印は、注射領域(濃い桃色)におけるMDCの存在を指示する。図1A−1Fは、皮下腔への注射後、MDCは少なくとも4週間まで存在し、腹壁皮下組織を維持/増加させたが、コラーゲンは皮膚への注射後2週間まで存続しなかったことを明らかにする。(実施例3)。
【図2】図2Aおよび2Bは、MDC組成物の注射を使用した下部食道括約筋(図2A)および肛門括約筋(図2B)軟組織増加の結果を示す。注射は、胃食道接合部または肛門括約筋に対して実施した。注射後3日目に、組織試料を採取し、分析用に調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図2Aは、注射した組織を100X倍率で示す;図2Bは、注射した組織を40X倍率で示す。図2Aおよび2Bは、MDC注射が、注射後3日間まで下部食道括約筋および肛門括約筋軟組織増加を維持したことを明らかにする。
【図3】図3Aおよび3Bは、MDC組成物の注射を使用した膀胱尿管接合部軟組織増加の結果を示す。注射は膀胱尿管接合部に実施した。注射後3日目に、組織試料を採取し、分析用に調製した。MDCは、矢印の近くで見られるようにβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図3Aは、注射した組織を低(40X)倍率で示す;図3Bは、注射した組織を高(100X)倍率で示す。図3Aおよび3Bは、MDC注射が、注射後3日目まで膀胱尿管接合部軟組織増加を維持したことを明らかにする。
【図4】図4Aおよび4Bは、MDC組成物の軟組織注射を使用した膀胱低温傷害の治療を示す。注射は、低温傷害の部位の膀胱壁に実施した。注射後30日目に、組織試料を採取し、染色用に調製した。矢印は低温傷害およびMDC注射の部位を指示する。倍率は100Xである。図4Aは、未処置の低温損傷膀胱組織を示す。図4Bは、MDC注射で処置した低温損傷膀胱組織を示す;MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図4Aおよび4Bは、MDC注射が、注射後30日間まで低温損傷膀胱組織の軟組織増加を維持したことを明らかにする。
【図5−1】図5A−5Iは、低温損傷膀胱組織への注射後のMDCの細胞分化を示す。注射は、低温傷害の部位の膀胱壁に実施し、注射後5、35または70日目に組織試料を採取し、分析用に調製した。注射したMDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって示され、未分化MDCはα平滑筋アクチン(α−SMアクチン)染色によって示されている。筋管または筋線維に分化したMDCは、速ミオシン重鎖(速MyHC)染色によって示されている。矢印は速MyHCを示す。注射後5日目に、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5A)およびα−SMアクチン(図5D)染色、および比較的低レベルの速MyHC(図5G)染色によって示されるように、一部のMDCだけが筋管に分化していた。注射後35日目には、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ染色(図5B)、α−SMアクチン(図5E)染色の低下、および速MyHC(図5H)染色の上昇によって示されるように、多くが筋管に分化していた。注射後70日目には、MDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5C)、α−SMアクチン(図5F)染色の低下、および高レベルの速MyHC(図5I)染色によって示されるように、ほとんどすべてのMDCが筋線維に分化していた。倍率は200Xである。図5A−5Iは、MDCが膀胱軟組織への注射後70日間まで生存可能なままであり、分化を開始することを明らかにする。
【図5−2】図5A−5Iは、低温損傷膀胱組織への注射後のMDCの細胞分化を示す。注射は、低温傷害の部位の膀胱壁に実施し、注射後5、35または70日目に組織試料を採取し、分析用に調製した。注射したMDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって示され、未分化MDCはα平滑筋アクチン(α−SMアクチン)染色によって示されている。筋管または筋線維に分化したMDCは、速ミオシン重鎖(速MyHC)染色によって示されている。矢印は速MyHCを示す。注射後5日目に、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5A)およびα−SMアクチン(図5D)染色、および比較的低レベルの速MyHC(図5G)染色によって示されるように、一部のMDCだけが筋管に分化していた。注射後35日目には、多数のMDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ染色(図5B)、α−SMアクチン(図5E)染色の低下、および速MyHC(図5H)染色の上昇によって示されるように、多くが筋管に分化していた。注射後70日目には、MDCが注射領域で認められ、高レベルのβ−ガラクトシダーゼ(図5C)、α−SMアクチン(図5F)染色の低下、および高レベルの速MyHC(図5I)染色によって示されるように、ほとんどすべてのMDCが筋線維に分化していた。倍率は200Xである。図5A−5Iは、MDCが膀胱軟組織への注射後70日間まで生存可能なままであり、分化を開始することを明らかにする。
【図6】図6A−6Dは、膀胱の軟組織に注射したMDCの再神経支配を示す。神経支配は、神経筋接合部を示す、アセチルコリン(Ach)染色によって指示される。注射後3日目には、Ach染色によって示されるように、神経支配はほとんど認められない(図6A)。注射後15日目には、いくつかの神経支配が認められる(図6B)。注射後30日目には、より多くの神経支配が認められる(図6C)。注射の6か月後には、低(100X)倍率で数多くの神経支配が認められる(図6D)。図6A−6Cは、注射した組織を高(200X)倍率で示す。図6A−6Dは、MDCが低温損傷膀胱組織への注射後6か月間まで神経支配を誘導することを明らかにする。
【図7】図7Aおよび7Bは、MDC組成物の注射を使用した心筋平滑筋の軟組織増加の結果を示す。注射は心室壁に実施し、注射後3日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図7Aは、注射した組織を低(100X)倍率で示す;図7Bは、注射した組織を高(200X)倍率で示す。
【図8】図8Aおよび8Bは、肝組織へのMDC注射の結果を示す。注射は左下葉の肝臓組織に実施し、注射後4日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図8Aは低(100X)倍率を示す;図8Bは高(200X)倍率を示す。
【図9】図9Aおよび9Bは、脾組織へのMDC注射の結果を示す。注射は内面の脾臓組織に実施し、注射後4日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図9Aは、低(100X)倍率で観察した注射組織を示す;図9Bは、高(200X)倍率で観察した注射組織を示す。
【図10】図10Aおよび10Bは、脊髄組織へのMDC注射の結果を示す。注射を脊髄組織に実施し、注射後4日目に組織試料を調製した。MDCはβ−ガラクトシダーゼ染色によって指示されている。図10Aは、低(100X)倍率で観察した注射組織を示す;図10Bは、高(200X)倍率で観察した注射組織を示す。図7A−7B、8A−8B、9A−9Bおよび10A−10Bは、MDCが、宿主組織を損傷することなく様々な異なる組織型への注射後に生存可能なままであることを明らかにする。
【図11】図11A−11Lは、デスミン、MyoDおよびミオゲニン(筋形成系統に特異的なマーカー)、M−カドヘリン(衛星細胞特異的マーカー)、Bcl−2(初期筋形成マーカー)、CD34(造血または間質細胞マーカー)を含む細胞マーカーの発現を示すmdxマウスからのPP1−4およびPP6細胞集団の免疫組織化学分析を示す。図11A−11Lは、PP1−4およびPP6細胞集団はデスミン(図11Aおよび11G)、MyoD(図11Eおよび11K)およびミオゲニン(図11Fおよび11L)を発現する細胞の同等のパーセンテージを示し、一方PP6集団はPP1−4集団と比較して、M−カドヘリンを発現する細胞のより低いパーセンテージを示すが(図11Dおよび11J)、Bcl−2(図11Cおよび11I)およびCD34(図11Bおよび11H)を発現する細胞のより高いパーセンテージを示すことを明らかにする。
【図12−1】図12A−12Iは、マウス筋細胞および血管内皮細胞におけるデスミン染色とCD34またはBcl−2染色の細胞内共局在を示す。図12Aは、抗CD34抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常なマウス筋細胞(矢印参照)および血管内皮細胞(矢じり参照)を示す。図12Bは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Cは、核を示すためにヘキスト(Hoechst)で共染色した同じ細胞を示す。図12Dは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Eは、抗Bcl−2抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常マウス筋細胞(矢印参照)を示す。図12Fは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Gは、核を示すためにヘキストで共染色した同じ細胞を示す。図12Hは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Iは、抗M−カドヘリン抗体で染色した衛星細胞を示す(矢印参照)。細胞は40X倍率で観察した。図12A−12DはCD34とデスミンの共局在を明らかにし、図12E−12HはBcl−2とデスミンの共局在を明らかにする。
【図12−2】図12A−12Iは、マウス筋細胞および血管内皮細胞におけるデスミン染色とCD34またはBcl−2染色の細胞内共局在を示す。図12Aは、抗CD34抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常なマウス筋細胞(矢印参照)および血管内皮細胞(矢じり参照)を示す。図12Bは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Cは、核を示すためにヘキスト(Hoechst)で共染色した同じ細胞を示す。図12Dは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Eは、抗Bcl−2抗体で染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した正常マウス筋細胞(矢印参照)を示す。図12Fは、デスミンとコラーゲンIV型抗体で共染色した同じ細胞を示す。図12Gは、核を示すためにヘキストで共染色した同じ細胞を示す。図12Hは、CD34、デスミン、コラーゲンIV型およびヘキストに関して共染色した細胞の合成画像を示す。図12Iは、抗M−カドヘリン抗体で染色した衛星細胞を示す(矢印参照)。細胞は40X倍率で観察した。図12A−12DはCD34とデスミンの共局在を明らかにし、図12E−12HはBcl−2とデスミンの共局在を明らかにする。
【図13】図13A−13Eは、mc13細胞のrhBMP−2への暴露から生じるオステオカルシンの形態学的変化と発現を示す。mc13細胞を、rhBMP−2を含むまたは含まない増殖培地で6日間インキュベートした。図13Aは、rhBMP−2の不在下で>50%細胞集密度に増殖した細胞を示す。図13Bは、200ng/ml rhBMP−2の存在下で>50%細胞集密度に増殖した細胞を示す。図13Cは、rhBMP−2の不在下で>90%細胞集密度に増殖した細胞を示す。図13Dは、200ng/ml rhBMP−2の存在下で>90%集密度に増殖した細胞を示す。図13Eは、オステオカルシン発現(骨芽細胞マーカー;矢印参照)に関して染色した細胞を示す。細胞は10X倍率で観察した。図13A−13Eは、mc13細胞がrhBMP−2への暴露後に骨芽細胞に分化できることを明らかにする。
【図14−1】図14A−14Bは、rhBMP−2処理に応答してデスミンおよびアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞のパーセンテージへの影響を示す。図14Aは、新たに単離したmc13クローンのデスミン染色を示す。図14Bは、同じ細胞の位相差顕微鏡写真を示す。
【図14−2】図14C−14Dは、rhBMP−2処理に応答してデスミンおよびアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞のパーセンテージへの影響を示す。図14Cは、200ng/ml rhBMP−2を含むまたは含まない増殖培地での6日間のインキュベーション後のmc13細胞におけるデスミン染色のレベルを示す。図14Dは、200ng/ml rhBMP−2を含むまたは含まない増殖培地での6日間のインキュベーション後のPP1−4細胞およびmc13細胞におけるアルカリホスフェート染色のレベルを示す。*は統計的に有意の結果を指示する(スチューデントt検定)。図14Cは、rhBMP−2の存在下でデスミンを発現するmc13細胞の数が減少することを明らかにし、一方図14Dは、rhBMP−2の存在下でアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞の数が増加することを明らかにし、rhBMP−2の存在下では細胞の筋形成特徴が低下し、骨形成特徴が上昇することを示唆する。
【図15】図15A−15Gは、筋形成および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化を示す。mc13細胞を、LacZおよびジストロフィン遺伝子を含む構築物で安定にトランスフェクトし、筋肉内または静脈内注射によってmdxマウスの後肢に導入した。15日後、動物を犠死させ、組織学的検査のために後肢筋系を単離した。図15Aは、LacZに関して染色した筋肉内注射部位におけるmc13細胞を示す。図15Bは、ジストロフィンに関して共染色した同じ細胞を示す。図15Cは、LacZに関して染色した静脈内注射の領域におけるmc13細胞を示す。図15Dは、ジストロフィンに関して共染色した同じ細胞を示す。別の実験では、mc13細胞をadBMP−2で形質導入し、0.5−1.0×106細胞をSCIDマウスの後肢に注射した。14日後、動物を犠死させ、後肢筋組織を分析した。図15Eは、骨形成を測定するための後肢のX線撮影分析を示す。図15Fは、LacZに関して染色した後肢に由来する細胞を示す。図15Gは、ジストロフィンに関して染色した細胞を示す。図15A−15Dは、mc13細胞が筋肉内または静脈内送達によってジストロフィン発現を救済し得ることを明らかにする。図15E−15Gは、mc13細胞が異所性骨形成に関与することを明らかにする。細胞は以下の倍率で観察した:40X(図15A−15D)、10X(図15F−15G)。
【図16】図16A−16Eは、rhBMP−2を産生する一次筋細胞による骨治癒の増強を示す。歯科用バーを使用して雌性SCIDマウスにおいて5mmの頭蓋欠損を創造し、その欠損に、adBMP−2と共にまたはadBMP−2なしでmc13細胞を接種したコラーゲンスポンジを充填した。動物を14日目に犠死させ、骨治癒の徴候に関して検査し、顕微鏡で分析した。図16Aは、adBMP−2なしでmc13細胞によって処置した頭蓋を示す。図16Bは、adBMP−2で形質導入したmc13細胞によって処置した頭蓋を示す。図16Cは、フォン・コッサ染色によって分析した、adBMP−2なしでmc13細胞によって処置した頭蓋の組織学的試料を示す。図16Dは、フォン・コッサ染色によって分析した、adBMP−2で形質導入したmc13細胞によって処置した頭蓋の組織学的試料を示す。図16Eは、注射した細胞(矢印で示す緑色蛍光)を同定するためにY染色体特異的プローブでのハイブリダイゼーションによって分析し、核(赤色蛍光で指示される)を同定するために臭化エチジウムで染色した、adBMP−2で形質導入したmc13細胞によって処置した頭蓋の組織学的試料を示す。図16A−16Eは、rhBMP−2を発現するmc13細胞が骨欠損の治癒に寄与し得ることを明らかにする。
【図17】図17Aおよび17Bは、それぞれ急速に接着する細胞と緩慢に接着する細胞についての、CD56の様々な発現%でのクレアチンキナーゼ活性の量を示すグラフである。
【図18】図18は、心臓内注射後2週間目と6週間目の、対照細胞および急速接着MDCと緩慢接着MDCにおける左心室収縮性の指標である、左室内腔面積変化率(furactional area change)(FAC)を示す一連の棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
筋由来細胞および組成物
本発明は、体組織、好ましくは軟組織への移植後に長期的な生存率を示す初期始原細胞(ここでは筋由来始原細胞または筋由来幹細胞とも称する)から成るMDCを提供する。本発明のMDCを得るため、筋外植片、好ましくは骨格筋を動物ドナーから、好ましくはヒトを含む哺乳動物から入手する。この外植片は、筋始原細胞の「休止細胞(rests)」を含む構造的および機能的シンシチウムとして働く(T.A.Partridgeら、1978,Nature 73:306−8;B.H.Liptonら、1979,Science 205:12924)。
【0031】
一次筋組織から単離された細胞は、線維芽細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、造血および筋由来始原細胞の混合物を含む。筋由来集団の始原細胞は、Chancellorらの米国特許第6,866,842号に述べられているような、コラーゲン被覆した組織フラスコへの一次筋細胞の差次接着特性を利用して冨化することができる。緩やかに接着する細胞は形態的に丸い傾向があり、高レベルのデスミンを発現し、融合して多核筋管へと分化する能力を有する(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。これらの細胞の亜集団は、高レベルのアルカリホスファターゼ、副甲状腺ホルモン依存性3’,5’−cAMP、および骨形成系統および筋形成系統を発現することによってインビトロで組換えヒト骨形態形成タンパク質2(rhBMP−2)に応答することが示された(Chancellorらの米国特許第6,866,842号;T.Katagiriら、1994,J.Ceg Biol.127:1755−1766)。
【0032】
本発明の1つの実施形態では、緩慢接着細胞(MDC)から急速接着細胞を区別するためにプレプレーティング手順を使用し得る。本発明に従って、急速接着細胞(PP1−4)と緩慢接着円形MDC(PP6)の集団を単離し、骨格筋外植片から冨化して、緩慢接着細胞の中で多能性細胞の存在を判定するために免疫組織化学を用いて様々なマーカーの発現に関して試験した(実施例1:Chancellorらの米国特許出願第09/302,896号)。表3、ここでは実施例9に示すように、PP6細胞は、デスミン、MyoDおよびミオゲニンを含む筋形成マーカーを発現した。PP6細胞はまた、筋形成の初期段階で発現される2つの遺伝子、c−metおよびMNFも発現した(J.B.Millerら、1999,Curr.Top.Dev.Biol.43:191−219;表3参照)。PP6は、衛星細胞特異的マーカーであるM−カドヘリンを発現する細胞のより低いパーセンテージを示したが(A.Irintchevら、1994,Development Dynamics 199:326−337)、筋形成の初期段階の細胞に限定されるマーカー、Bcl−2を発現する細胞のより高いパーセンテージを示した(J.A.Dominovら、1998,J.Cell Biol.142:537−544)。PP6細胞はまた、ヒト造血始原細胞ならびに骨髄中の間質細胞前駆体に関して同定されたマーカー、CD34も発現した(R.G.Andrewsら、1986,Blood 67:842−845;C.I.Civinら、1984,J.Immunol.133:157−165;L.Finaら、1990,Blood 75:2417−2426;P.J.Simmonsら、1991,Blood 78:2848−2853;表3参照)。PP6細胞はまた、幹細胞様特徴を有する造血細胞のマーカーとして最近同定されたヒトKDR遺伝子のマウスホモログ、Flk−1を発現した(B.L.Zieglerら、1999,Science 285:1553−1558;表3参照)。同様に、PP6細胞は、幹細胞様特徴を有する造血細胞に存在するマーカー、Sca−1を発現した(M.van de Rijnら、1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4634−8;M.Osawaら、1996,J.Immunol.156:3207−14;表3参照)。しかし、PP6細胞はCD45またはc−Kit造血幹細胞マーカーを発現しなかった(LK.Ashman,1999,Int.J.Biochem.Cell.Biol.31:1037−51;G.A.Koretzky,1993,FASEB J.7:420−426において総説されている;表3参照)。
【0033】
本発明の1つの実施形態は、ここで述べる特徴を有する筋由来始原細胞のPP6集団である。これらの筋由来始原細胞は、デスミン、CD34およびBcl−2細胞マーカーを発現する。本発明に従って、PP6細胞は、移植後に長期的な生存能を有する筋由来始原細胞の集団を得るためにここで述べる手法によって単離される(実施例1)。PP6筋由来始原細胞集団は、デスミン、CD34およびBcl−2のような始原細胞マーカーを発現する細胞の有意のパーセンテージを含む。加えて、PP6細胞は、Flk−1およびSca−1細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kitマーカーを発現しない。好ましくは、PP6細胞の95%以上がデスミン、Sca−1およびFlk−1マーカーを発現するが、CD45またはc−Kitマーカーを発現しない。PP6細胞は、最後のプレーティング後約1日以内または約24時間以内に使用されることが好ましい。
【0034】
好ましい実施形態では、急速接着細胞と緩慢接着細胞(MDC)は、単一プレーティング手法を用いて互いから分離される。そのような手法の1つを実施例10で述べる。最初に、骨格筋生検から細胞を得る。生検必要量は、約100mgの細胞を含むだけでよい。約50mg〜約500mgの範囲の大きさの生検が、本発明のプレプレーティングおよび単一プレーティングの両方法に従って使用される。50、100、110、120、130、140、150、200、250、300、400および500mgのさらなる生検が、本発明のプレプレーティングおよび単一プレーティングの両方法に従って使用される。1つの実施形態では、生検からの組織は入手後24時間以内に処理される。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、生検からの組織は、その後1〜30日間保存される。この保存はほぼ室温から約4℃までの温度である。この待機期間は、生検された骨格筋組織にストレスを生じさせる。このストレスは、この単一プレーティング手法を用いたMDCの単離に必要ではないが、待機期間を用いることはMDCのより高い収率をもたらすと思われる。
【0036】
生検からの組織を細かく切り刻み、遠心分離する。ペレットを再懸濁し、消化酵素を用いて消化する。使用し得る酵素は、コラゲナーゼ、ジスパーゼまたはこれらの酵素の組合せを含む。消化後、酵素を細胞から洗い流す。急速接着細胞の単離のために細胞をフラスコの培地中に移す。多くの培地を使用してもよい。特に好ましい培地は、Cambrex内皮増殖培地(Endothelial Growth Medium)を含む、内皮細胞の培養用に設計されたものを含む。この培地に、ウシ胎仔血清、IGF−1、bEGF、VEGF、EGF、ヒドロコルチゾン、ヘパリンおよび/またはアスコルビン酸を含む他の成分を添加してもよい。単一プレーティング手法において使用し得る他の培地は、InCell M310F培地を含む。この培地に、上述したように添加してもよく、または添加せずに使用してもよい。
【0037】
急速接着細胞の単離のための工程は、約30〜約120分間の期間にわたるフラスコでの培養を必要とし得る。急速接着細胞は、30、40、50、60、70、80、90、100、110または120分でフラスコに付着する。それらが接着した後、急速接着細胞が付着しているフラスコから培地を取り出して、緩慢接着細胞を急速接着細胞から分離する。
【0038】
次に、このフラスコから取り出した培地を2番目のフラスコに移す。2番目のフラスコに移す前に、細胞を遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。細胞をこの2番目のフラスコで1〜3日間培養する。好ましくは、細胞を2日間培養する。この期間中に、緩慢接着細胞(MDC)がフラスコに付着する。MDCが付着した後、培地を除去し、MDCの数が増大し得るように新たな培地を添加する。MDCを約10〜約20日間培養することによってその数を増大させ得る。MDCを10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20日間培養することによってその数を増大させ得る。好ましくはMDCを17日間の拡大培養に供する。
【0039】
プレプレーティングおよび単一プレーティング法の代替法として、本発明のMDCは、MDCによって発現される細胞表面マーカーの1またはそれ以上に対する標識抗体を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析によって単離できる(C.Websterら、1988,Exp.Cell.Res.174:252−65;J.R.Blantonら、1999,Muscle Nerve 22:43−50)。たとえばFACS分析は、宿主組織に導入したとき長期的生存能を示すPP6様細胞の集団を選択するために、CD34、Flk−1、Sca−1、および/またはここで述べるその他の細胞表面マーカーに対する標識抗体を使用して実施できる。また、種々の細胞マーカータンパク質の抗体検出のための1またはそれ以上の蛍光検出標識、たとえばフルオレセインまたはローダミンの使用も本発明に包含される。
【0040】
上述したMDC単離法のいずれかを使用した後、輸送する予定であるまたは一定期間使用しない予定であるMDCは、当技術分野で公知の方法を用いて保存し得る。より詳細には、単離したMDCは約−25℃から約−90℃の範囲の温度で凍結し得る。好ましくは、MDCは、後日の使用または輸送のためにドライアイス上にて約−80℃で凍結される。凍結は、当技術分野で公知の何らかの凍結保存媒体で実施され得る。
【0041】
筋由来細胞に基づく治療
本発明の1つの実施形態では、MDCを骨格筋供給源から単離し、対象とする筋または非筋軟組織部位または骨構造に導入または移植する。好都合には、本発明のMDCは、移植後に長期的な生存を示す多数の始原細胞を含むように単離され、冨化される。加えて、本発明の筋由来始原細胞は、デスミン、CD34およびBcl−2のような多くの特徴的細胞マーカーを発現する。さらに、本発明の筋由来始原細胞は、Sca−1およびFlk−1細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない(実施例1参照)。
【0042】
本発明のMDCおよびMDCを含有する組成物は、筋または非筋軟組織の増加を通して様々な審美的または機能的症状(たとえば欠陥)を修復する、治療するまたは改善するために使用できる。特に、そのような組成物は、以下の治療のための軟組織増量剤として使用できる:1)皮膚の美容的および審美的症状;2)管腔の症状;3)胃食道逆流症状または状態;4)便失禁;5)骨格筋の筋力低下、疾患、損傷または機能不全;および6)平滑筋の筋力低下、疾患、損傷または機能不全。加えて、そのようなMDCおよびその組成物は、疾患または外傷の不在下で、軟組織領域、孔、陥凹、空隙に増量剤を添加することによって損傷に関連しない軟組織を増加させるため、たとえばしわを「滑らかにする」または取り除くために使用できる。MDCの多回の連続投与も本発明に包含される。
【0043】
MDCに基づく治療のために、骨格筋外植片は、好ましくは自系または異種ヒトまたは動物ソースから入手される。自系動物またはヒトソースがより好ましい。MDC組成物は、その後、ここで述べるように調製され、単離される。本発明に従ったMDCおよび/またはMDCを含有する組成物をヒトまたは動物レシピエントに導入するため、単核筋細胞の懸濁液を調製する。そのような懸濁液は、生理的に許容される担体、賦形剤または希釈剤中に本発明の筋由来始原細胞の濃縮物を含む。たとえば被験体に投与するためのMDCの懸濁液は、ウシ胎仔血清の代替物として被験体の血清を含むように改変された完全培地の滅菌用液中に108−109細胞/mlを含み得る。あるいは、MDC懸濁液は、凍結保存溶液(Celox Laboratories,St.Paul,MN)のような無血清滅菌溶液であり得る。MDC懸濁液は、その後、たとえば注射によって、ドナー組織の1またはそれ以上の部位に導入され得る。
【0044】
前述した細胞は、医薬的または生理的に許容される製剤としてまたは生理的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む組成物として投与でき、ヒトおよび非ヒト動物を含む対象レシピエント生物の組織に投与できる。MDC含有組成物は、滅菌生理食塩水または他の生理的に許容される注射用水性液体のような適切な液体または溶液中に細胞を再懸濁することによって調製され得る。そのような組成物において使用される成分の量は、当業者によって常套的に決定され得る。
【0045】
MDCまたはその組成物は、MDC懸濁液を吸着または接着材料、すなわちコラーゲン・スポンジ・マトリックス上に置くこと、およびMDC含有材料を対象部位内または対象部位上に挿入することによって投与され得る。あるいは、MDCは、皮下、静脈内、筋肉内および胸骨内を含む、非経口的経路の注射によって投与され得る。他の投与方法は、鼻内、髄腔内、皮内、経皮、経腸および舌下を含むが、これらに限定されない。本発明の1つの実施形態では、MDCの投与は内視鏡手術によって媒介され得る。
【0046】
注射投与に関しては、組成物は、滅菌溶液または懸濁液中に存在するか、または、防腐剤、安定剤、および溶液または懸濁液をレシピエントの体液(すなわち血液)と等張にするための物質を含有し得る、医薬的および生理的に許容される水性または油性ビヒクルに再懸濁され得る。使用に適する賦形剤の非限定的な例は、水、リン酸緩衝食塩水、pH7.4、0.15M塩化ナトリウム水溶液、デキストロース、グリセロール、希エタノール等、およびそれらの混合物を含む。例示的な安定剤は、単独でまたは混合物として使用され得る、ポリエチレングリコール、タンパク質、サッカリド、アミノ酸、無機酸および有機酸である。使用される量(amounts、quantities)ならびに投与経路は個人ごとのベースで決定され、当業者に公知の同様のタイプの適用または適応症において使用される量に対応する。
【0047】
移植の成功を最適化するため、ドナーとレシピエントの間の可能な限り最も密接な免疫学的適合が望ましい。自系ソースが入手不能である場合は、最も密接な適合が得られるかどうかを判定するためにドナーとレシピエントのクラスIおよびクラスII組織適合抗原を分析することができる。これは免疫拒絶反応を最小限に抑えるかまたは排除し、免疫抑制または免疫調節治療の必要性を低減する。必要に応じて、移植手技の前、その間、および/または移植手技後に免疫抑制または免疫調節治療を開始することができる。たとえばシクロスポリンAまたは他の免疫抑制薬を移植レシピエントに投与することができる。また、当技術分野で公知の選択的方法によって移植の前に免疫学的寛容を誘導し得る(D.J Wattら、1984,Clin.Exp.Immunol.55:419;D.Faustmanら、1991,Science 252:1701)。
【0048】
本発明と一致して、MDCは、骨、上皮組織(すなわち皮膚、管腔等)、結合組織(すなわち脂肪、軟骨、靭帯、リンパ等)、筋組織(すなわち骨格/横紋筋または平滑筋)、および消化器系に関連する器官(すなわち口、舌、食道、胃、肝臓、膵臓、胆嚢、腸、肛門等)、心臓血管系(すなわち心臓、静脈、動脈、毛細血管等)、呼吸器系(すなわち肺、気管等)、生殖器系(すなわち精管、陰嚢、精巣、陰茎、ファローピウス管、膣、陰核、子宮、乳房、卵巣、外陰等)、泌尿器系(すなわち膀胱、尿道、尿管、腎臓等)、および神経系(すなわち脳、脊髄、神経等)に関連する器官のような様々な器官組織を含む、体組織に投与され得る。
【0049】
MDC懸濁液中の細胞の数および投与方法は、治療される部位と症状に依存して異なり得る。非限定的な例として、本発明に従って、約1−1.5×106MDCが膀胱平滑筋組織における低温傷害の直径約8mmの領域の治療のために注射され、約0.5−1.0×106MDCが頭蓋欠損の約5mmの領域の治療のためにコラーゲン・スポンジ・マトリックスによって投与される(実施例9参照)。ここで開示する実施例と一致して、熟達した医師は、各々の症例について決定される必要条件、制限および/または最適化に従ってMDCに基づく治療の量および方法を調節することができる。
【0050】
皮膚症状:本発明に従ったMDCおよびその組成物は、美容的処置、たとえば形成外科または老化防止処置における軟組織増加のための材料として著明な有用性を有する。特に、そのようなMDCおよびMDC含有組成物は、創傷、皮膚のひだ、しわ、非外傷性起源の皮膚陥凹、皮膚萎縮線条、陥凹性瘢痕、尋常性ざ瘡からの瘢痕化、および唇の形成不全を含むがこれらに限定されない、ヒトまたは動物被験体における様々な皮膚症状を治療するために使用できる。より詳細には、本発明のMDCおよび組成物は、皮膚のひだ、しわまたは顔面、特に眼の周囲の領域の皮膚陥凹を治療するために使用できる。皮膚症状を治療するため、MDCはここで開示するように調製され、その後、たとえば注射によって、欠陥を補填する、増量するまたは修復するために皮膚、皮下または皮内に投与される。導入されるMDCの数は、深い皮膚陥凹または欠陥ならびに表在表面の陥凹または欠陥を修復するために必要に応じて調節される。たとえば皮膚の約5mmの領域の増加のためには約1−1.5×106MDCが使用される(実施例3参照)。
【0051】
管腔の症状:もう1つの実施形態では、本発明に従ったMDCおよびその組成物は、動物またはヒトを含む哺乳動物被験体における管腔の症状のための治療としてさらなる有用性を有する。特に、筋由来始原細胞は、身体内の様々な生物学的管腔または空隙を完全にまたは部分的にブロックする、増強する、拡大する、密封する、修復する、増量するまたは補填するために使用される。管腔は、限定を伴わずに、血管、腸、胃、食道、尿道、膣、ファローピウス管、輸精管および気管を含む。空隙は、限定を伴わずに、様々な組織創傷(すなわち外傷による筋肉および軟組織容積の喪失;刺創または銃創のような貫通発射体による軟組織の破壊;乳癌のための乳房切除術後の乳房組織の喪失または肉種を治療するための手術後の筋組織の喪失を含む、組織の外科的切除による疾患または組織死からの軟組織の喪失等)、病巣、裂溝、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、および動物またはヒトを含む哺乳動物の体内に存在し得る他の望ましくないまたは不要の陥凹または孔を含み得る。管腔の症状の治療のために、MDCはここで開示するように調製され、その後、たとえば注射または静脈内送達によって、空隙を満たすまたは修復するために管腔組織に投与される。導入されるMDCの数は、軟組織環境における大きなまたは小さな空隙を修復するために必要に応じて調節される。
【0052】
括約筋の症状:本発明に従ったMDCおよびその組成物は、動物またはヒトを含む哺乳動物被験体における括約筋の損傷、筋力低下、疾患または機能不全の治療のためにも使用され得る。特に、MDCは、食道、肛門、心臓、幽門および尿道括約筋の組織を増加させるために使用される。より詳細には、本発明は、胃食道逆流症状、および尿および便失禁のための軟組織増加治療を提供する。括約筋欠陥の治療のために、MDCはここで述べるように調製され、その後、たとえば注射によって、付加的な容積、補填材または支持を提供するために括約筋組織に投与される。導入されるMDCの数は、様々な量の増量材を提供するために必要に応じて調節される。たとえば胃食道接合部の約5mmの領域または肛門括約筋の約5−10mmの領域の増加を提供するために約1−1.5×106MDCが使用される(実施例4参照)。
【0053】
筋増加および収縮性:本発明のさらにもう1つの実施形態では、MDCおよびその組成物は、ヒトまたは動物被験体における筋症状の治療のために使用される。特に、MDCは、傷害、疾患、不活動、もしくは無酸素または手術誘発性外傷によって引き起こされる筋力低下または機能不全を治療するために骨格筋または平滑筋を増加させるために使用され得る。より詳細には、本発明は、スポーツ関連傷害のような骨格筋の筋力低下または機能不全のための治療を提供する。本発明はまた、心不全、または心筋梗塞に関連する損傷のような、平滑筋疾患または機能不全のための治療を提供する。
【0054】
筋増加または筋関連症状の治療のために、MDCはここで述べるように調製され、たとえば注射によって、付加的な容積、補填剤または支持を提供するために筋組織に投与される。熟達した医師によって認識されるように、導入されるMDCの数は、様々な量の増量材を提供するために必要または要求に応じて調節される。たとえば心臓組織の約5mmの領域の増加のためには約1−1.5×106MDCが注射される(実施例7参照)。
【0055】
加えて、MDCおよびその組成物は、たとえば胃腸組織、食道組織および膀胱組織のような平滑筋組織の収縮性に影響を及ぼすために使用され得る。実際に、実施例6で明らかにされるように、筋由来始原細胞、すなわちMDCの導入後、低温損傷膀胱組織において筋収縮性が回復することが認められた。それ故、本発明はまた、筋収縮を回復する上での、および/または、食道、胃および腸平滑筋を含む胃腸運動性低下のような、平滑筋収縮性の問題を改善するまたは克服する上での本発明のMDCの使用を包含する。本発明のMDCが改善、軽減または矯正し得る症状のさらなる非限定的な例は、胃不全麻痺、すなわち胃の運動および排出低下である。
【0056】
心臓の症状:さらにもう1つの実施形態では、MDCおよびその組成物は、ヒトまたは哺乳動物被験体における心臓状態の治療または予防のために使用される。これらの心臓状態は、心筋梗塞、心不全、アダムズ‐ストークス病、先天性心疾患、狭心症、不整脈、心房細動、細菌性心内膜炎、心筋症、うっ血性心不全、拡張機能障害、心雑音および心室期外収縮を含む。MDCおよびその組成物は、これらの心臓状態が起こるのを防ぐために予防的に投与され得るか、または疾病が起こった後、心臓状態によって引き起こされる心臓への損傷を修復するために投与され得る。たとえばMDCおよびその組成物は、心臓発作(心筋梗塞)の危険度が高いヒトまたは動物に、心臓発作が起こる前に投与され得る。同じかまたは別のヒトまたは動物に、心臓発作の発症後に心臓を修復するためにMDCおよびその組成物を投与し得る。
【0057】
心臓状態の治療または予防のために使用されるMDCおよびその組成物は、ここで述べる方法を用いてヒトまたは動物骨格筋組織から単離され得る。緩慢接着細胞(MDC)を単離した後、ヒトまたは動物患者への輸送のために細胞を凍結し得る。好ましい実施形態では、骨格筋細胞をヒトまたは動物患者から単離し、低温であるが凍結しない温度(たとえば4℃)に置き、MDC単離のために収集する。MDCおよびその組成物を単離した後、MDCを細胞培養で増殖させ、凍結して、解凍と投与のために患者に送り返す。
【0058】
投与するとき、MDCおよびその組成物は、心臓内に直接または心臓のすぐ外側に注射され得る。心臓内に注射するとき、MDCおよびその組成物は、心室・心房のいずれかまたは心臓壁に注射され得る。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、MDCは、心筋梗塞(MI)、特に急性期の治療のために使用される。MI後の損傷を治療することは、その後有害なリモデリングと瘢痕化を予防し、機能の低下を予防しながら、有益なリモデリングを促進するために不可欠である。急性期のMDCにより、より少ない細胞用量でMI患者へのより大きな利益が提供され得る。
【0060】
遺伝子操作された筋由来細胞
本発明のもう1つの態様では、本発明のMDCは、1またはそれ以上の活性生体分子をコードする核酸配列を含むように、およびタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ホルモン、代謝産物、薬剤、酵素等を含むこれらの生体分子を発現するように遺伝的に操作され得る。そのようなMDCは、ヒトを含むレシピエントに対して組織適合性(自系)または非組織適合性(同種異系)であり得る。これらの細胞は、様々な治療のため、たとえば癌、移植拒絶反応、および筋および神経組織の再生、糖尿病、肝不全、腎不全、パーキンソン病のような神経障害および疾患のような疾患および疾病の治療のため、およびここで述べるように、治療薬などの遺伝子産物を組織増加または空隙補填の部位に送達するための、長期的な局所送達システムとしての機能を果たすことができる。
【0061】
本発明において好ましいのは、レシピエントに外来性と認識されない自系の筋由来始原細胞である。これに関して、細胞を介した遺伝子導入または送達のために使用されるMDCは、望ましくは主要組織適合遺伝子座(ヒトにおけるMHCまたはHLA)に適合する。そのようなMHCまたはHLA適合細胞は自系であり得る。あるいは、細胞は、同じかまたは類似のMHCまたはHLA抗原プロフィールを有する人物からであり得る。患者はまた、同種異系MHC抗原に寛容化され得る。本発明はまた、米国特許第5,538,722号に述べられているような、MHCクラスIおよび/またはクラスII抗原を欠く細胞の使用を包含する。
【0062】
MDCは、当業者に公知の様々な分子学的手法および方法、たとえばトランスフェクション、感染または形質導入によって遺伝子操作され得る。ここで使用する形質導入は、一般に、ウイルスまたは非ウイルスベクターの細胞への導入によって外来性または異種遺伝子を含むように遺伝的に操作された細胞を指す。トランスフェクションは、より一般的に、プラスミドまたは非ウイルスベクター内に保有される外来性遺伝子を含むように遺伝的に操作された細胞を指す。MDCは種々のベクターによってトランスフェクトまたは形質導入され得、それ故発現された産物を筋肉に移入するための遺伝子送達ビヒクルとして働くことができる。
【0063】
ウイルスベクターは好ましいが、当業者は、所望タンパク質またはポリペプチド、サイトカイン等をコードする核酸配列を含むための細胞の遺伝子操作は、融合、トランスフェクション、リポソームの使用によって媒介されるリポフェクション、電気穿孔、DEAE−デキストランまたはリン酸カルシウムでの沈殿、核酸被覆粒子(たとえば金粒子)による微粒子銃法(バイオリスティック法)、微量注入等を含む、たとえば米国特許第5,538,722号に述べられているような、当技術分野で公知の方法によって実施され得る。
【0064】
異種(すなわち外来性)核酸(DNAまたはRNA)を、生物活性産物の発現のために筋細胞に導入するためのベクターは当技術分野において周知である。そのようなベクターは、プロモーター配列、好ましくは細胞特異的であり、発現される配列の上流に位置するプロモーターを有する。ベクターはまた、場合により、トランスフェクションの成功とベクターに含まれる核酸配列の発現の指標としての発現のための、1またはそれ以上の発現マーカー遺伝子を含み得る。
【0065】
本発明の筋由来細胞のトランスフェクションまたは感染のためのビヒクルまたはベクター構築物の説明的な例は、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびアデノ関連ウイルスベクターのような、複製欠損ウイルスベクター、DNAウイルスまたはRNAウイルス(レトロウイルス)ベクターを含む。アデノ関連ウイルスベクターは一本鎖であり、細胞の核への多数のコピーの核酸の効率的な送達を可能にする。アデノウイルスベクターが好ましい。ベクターは通常、原核生物DNAを実質的に含まず、多くの異なる機能的核酸配列を含み得る。そのような機能的配列の例は、筋細胞において活性なプロモーター(たとえば強力プロモーター、誘導的プロモーター等)およびエンハンサーを含む、転写および翻訳開始および終結調節配列を含むポリヌクレオチド配列、たとえばDNAまたはRNA配列を包含する。
【0066】
また、対象とするタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ポリヌクレオチド配列)も機能的配列の一部として含まれる;フランキング配列も、部位指定組込みのために含まれ得る。一部の状況では、5’フランキング配列は相同的組換えを可能にし、それ故、一例として、転写のレベルを高めるまたは低下させるために誘導的または非誘導的転写を提供するように、転写開始領域の性質を変化させる。
【0067】
一般に、筋由来始原細胞によって発現されることが所望される核酸配列は、筋由来始原細胞にとって異種である、構造遺伝子、または機能的フラグメント、セグメントまたは遺伝子の部分の核酸配列であり、たとえば所望タンパク質またはポリペプチド産物をコードする。コードされ、発現される産物は、細胞内に存在し得る、すなわち細胞質、核または細胞の小器官に保持され得るか、または細胞によって分泌され得る。分泌のために、構造遺伝子内に存在する天然シグナル配列が保持され得るか、または天然では構造遺伝子内に存在しないシグナル配列が使用され得る。ポリペプチドまたはペプチドがより大きなタンパク質のフラグメントであるとき、シグナル配列は、分泌およびプロセシング部位でのプロセシング後、所望タンパク質が天然配列を有するように提供され得る。本発明に従った使用のための対象遺伝子の例は、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子およびプログラムされた細胞死因子をコードする遺伝子を含む。特定例は、BMP−2(rhBMP−2)、IL−1Ra、第IX因子およびコネキシン43を含むが、これらに限定されない。
【0068】
上述したように、ベクター構築物を含む細胞の選択のためにマーカーが存在し得る。マーカーは、誘導的または非誘導的遺伝子であり得、一般にそれぞれ誘導下または誘導不在下での陽性選択を可能にする。一般的に使用されるマーカー遺伝子の例は、ネオマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グルタミンシンテターゼ等を含む。
【0069】
使用するベクターは、一般に、当業者によって常套的に使用されるように、複製起点および宿主細胞における複製のために必要な他の遺伝子も同時に含む。一例として、複製起点および特定ウイルスによってコードされる複製に関連するタンパク質を含む複製系が構築物の一部として含まれ得る。複製系は、複製のために必要な産物をコードする遺伝子が最終的に筋由来細胞を形質転換しないように選択しなければならない。そのような複製系は、たとえばG.Acsadiら、1994,Hum.Mol.Genet.3:579−584によって述べられているように構築される複製欠損アデノウイルス、およびエプスタイン‐バーウイルスに代表される。複製欠損ベクター、特に複製欠損のレトロウイルスベクターの例は、Priceら、1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:156;およびSanesら、1986,EMBO J.,5:3133によって述べられている、BAGである。最終的な遺伝子構築物は、1またはそれ以上の対象遺伝子、たとえば生物活性代謝分子をコードする遺伝子を含み得る。加えて、cDNA、合成によって生産されるDNAまたは染色体DNAが、当業者に公知であり、当業者によって実施される方法およびプロトコールを用いて使用され得る。
【0070】
所望する場合は、感染性複製欠損ウイルスベクターを、細胞のインビボ注射に先立って細胞を遺伝子操作するために使用し得る。これに関して、ベクターを両栄養性パッケージングのためにレトロウイルスプロデューサー細胞に導入し得る。筋由来始原細胞の隣接領域への自然拡大は、対象部位内または対象部位における多回の注射を回避する。
【0071】
もう1つの態様では、本発明は、所望遺伝子産物をコードする異種遺伝子を含むように操作されたアデノウイルスベクターを用いて、ウイルスによって形質導入されたMDC、たとえば初期前駆体筋細胞の使用を通して、ヒトを含むレシピエント哺乳動物宿主の細胞および組織へのエクスビボ遺伝子送達を提供する。そのようなエクスビボアプローチは、直接遺伝子導入アプローチに勝る、効率的なウイルス遺伝子導入の利点を提供する。エクスビボ手順は、筋組織の単離細胞からの筋由来始原細胞の使用を含む。筋由来始原細胞の供給源として役立つ筋生検は、損傷部位から、または臨床外科医からより容易に入手可能であり得る別の領域から入手できる。
【0072】
本発明に従って、クローン単離物が、当技術分野で公知の様々な手順、たとえば組織培養培地での限界希釈プレーティングを用いて筋由来始原細胞(すなわちPP6細胞)の集団から誘導され得ることは認識される。クローン単離物は、1個の単独細胞から生じる遺伝的に同一の細胞を含む。加えて、クローン単離物は、クローン単離細胞系を樹立するために、上述したようなFACS分析、続いて各穴につき1個の細胞を達成するための限界希釈を用いて誘導され得る。PP6細胞集団に由来するクローン単離物の一例は、実施例9で説明されるmc13である。好ましくは、MDCクローン単離物が、本発明の方法において、ならびに1またはそれ以上の生物活性分子の発現のための遺伝子操作のために、または遺伝子置換療法において使用される。
【0073】
MDCを、最初に、食塩水またはリン酸緩衝食塩水のような生理的に許容される担体または希釈剤中に懸濁された、所望遺伝子産物をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む操作されたウイルスベクターに感染させ、次に宿主において適切な部位に投与する。本発明と一致して、MDCは、上述したように、骨、上皮組織、結合組織、筋肉組織、および消化器系、心臓血管系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系および神経系に関連する器官のような様々な器官組織を含む、体組織に投与され得る。所望遺伝子産物が注入された細胞によって発現され、それ故遺伝子産物が宿主に導入される。導入され、発現された遺伝子産物は、それにより、宿主において長期的な生存を有する本発明のMDCによって長期間にわたって発現されるので、損傷、機能不全または疾患を治療する、修復するまたは改善するために利用され得る。
【0074】
筋芽細胞を介した遺伝子治療の動物モデル試験では、筋酵素欠損の部分的矯正のために筋肉100mgにつき106筋芽細胞の移植が必要であった(J.E.Morganら、1988,J.Neural.Sci.86:137;T.A.Partridgeら、1989,Nature 337:176)。このデータから推定すると、70kgのヒトについての遺伝子治療のために、生理的に適合性の媒質に懸濁された約1012MDCを筋組織に移植することができる。この数の本発明のMDCは、ヒトソースからの1回の100mg骨格筋生検から生産できる(以下参照)。特定損傷部位の治療に関して、所与の組織または損傷部位への遺伝子操作されたMDCの注入は、溶液または懸濁液中に治療有効量の細胞、好ましくは、生理的に許容される媒質中に、治療される組織cm3につき約105−106細胞を含む。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
MDCの冨化、単離および分析
MDCの冨化と単離:MDCを、記述されているように(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)作製した。筋外植片を多くの供給源の後肢から、すなわち3週齢のmdx(ジストロフィー)マウス(C57BL/10ScSn mdx/mdx,Jackson Laboratories)、4−6週齢の正常雌性SD(Sprague Dawley)ラット、またはSCID(重症複合型免疫不全)マウスの後肢から得た。動物ソースの各々からの筋組織を切開して骨を除去し、切り刻んでスラリーにした。次にスラリーを、0.2%XI型コラゲナーゼ、ジスパーゼ(グレードII、240単位)および0.1%トリプシンとの37℃で1時間の連続インキュベーションによって消化した。生じた細胞懸濁液を18、20および22ゲージの針に通し、3000rpm で5分間遠心分離した。その後、細胞を増殖培地(10%ウシ胎仔血清、10%ウマ血清、0.5%ニワトリ胚抽出物および2%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM)に懸濁した。次に細胞をコラーゲン被覆したフラスコでプレプレーティングした(Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。約1時間後、上清をフラスコから取り出し、新鮮コラーゲン被覆フラスコに再プレーティングした。この1時間のインキュベーション内に迅速に接着した細胞は主として線維芽細胞であった(Z.Quら、前出;Chancellorらの米国特許第6,866,842号)。細胞の30−40%が各フラスコに接着した後、上清を取り出し、再プレーティングした。約5−6回の連続プレーティング後、培養物を、出発細胞集団から単離され、さらなる試験において使用される、PP6細胞と称される小さな円形細胞で冨化した。初期プレーティングで単離された接着細胞を一緒にプールし、PP1−4細胞と称した。
【0076】
mdx PP1−4、mdx PP6、正常PP6および線維芽細胞集団を、細胞マーカーの発現に関して免疫組織化学分析によって検査した。この分析の結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
mdx PP1−4、mdx PP6、正常PP6および線維芽細胞をプレプレーティング手法によって誘導し、免疫組織化学分析によって検査した。「−」は細胞の2%未満が発現を示したことを指示し;「(−)」;「−/+」は細胞の5−50%が発現を示したことを指示し;「+/−」は細胞の〜40−80%が発現を示したことを指示し;「+」は細胞の>95%が発現を示したことを指示し:「nor」は正常細胞を指示し;「na」は免疫組織化学データが入手できないことを指示する。
【0078】
mdxおよび正常マウスの両方が、このアッセイで試験したすべての細胞マーカーの同一の分布を示したことが注目される。それ故、mdx突然変異の存在は、単離PP6筋細胞由来集団の細胞マーカー発現に影響を及ぼさない。
【0079】
MDCを、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10%HSウマ血清、0.5%ニワトリ胚抽出物および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を含む増殖培地、または2%ウシ胎仔血清と1%抗生物質溶液を添加したDMEMを含む融合培地で増殖させた。すべての培地供給量はGibco Laboratories(Grand Island,NY)を通して購入した。
【0080】
(実施例2)
MDCベクターおよびトランスフェクション
レトロウイルスおよびアデノウイルスベクター:MFG−NB(N.Ferryら、1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377−81)レトロウイルスベクターをMDC実験のために使用した。このベクターは、ロングターミナルリピート(LTR)から転写されたシミアンウイルス(SV40)ラージT抗原からクローニングされた核局在化配列を含む修飾LacZ遺伝子(NLS−LacZ)を含む。レトロウイルス株を増殖させ、以前に述べられているように調製した(J.C.van Deutekomら、1998,Neuromuscul.Disord.8:135−48)。レトロウイルスの力価は1×107−1×109cfu/mlと測定された。
【0081】
アデノウイルスベクターも使用した。 このベクターは、ヒトサイトメガロウイルス(HuCMV)プロモーターの制御下にあるLacZ遺伝子を含んだ(J.Huardら、1994,Hum Gene Ther 5:949−58)。E1−E3欠失組換えアデノウイルスを、Dr.I.Kovesdi(Gene Vec Inc.,Rockville,MD)を通して入手した。
【0082】
MDCのウイルス形質導入:ウイルス形質導入のために、MDCをT 75フラスコに1−1.5×106の密度で植え付けた。PP6 MDCをHBSS(ハンクス平衡塩溶液)で洗浄し、8μg/ml Polybrene(商標)(Abbott Laboratories,Chicago,Ill.)を含むDMEM 5ml中のレトロウイルス(1×107−1×109cfu/ml)またはアデノウイルス(1×109cfu/ml)懸濁液と共に37℃で4時間インキュベートした。ウイルス形質導入したMDCを、増殖培地10ml中、37℃で24時間増殖させた。次にMDCをHBSSで洗い、0.25%トリプシンで1分間酵素消化した。処理したウイルス形質導入MDCを3,500rpmで5分間遠心分離し、ペレットをHBSS 20μlに再懸濁した。
【0083】
(実施例3)
皮膚の軟組織増加
MDCおよびコラーゲンの注射:SDラットを、標準的な方法を用いてハロタンで麻酔し、Betadine(登録商標)溶液で手術部位を洗浄することによって手術用に準備した。下腹部の皮膚に、ハミルトンマイクロシリンジを用いてHBSS中のMDC懸濁液10μl(約1−1.5×106細胞)、市販のウシコラーゲン(Contigen(商標);C.R.Bard,Covington,Ga.)10μl、または滅菌食塩水10μlのいずれかを注射した。注射後5日目、2週間目および4週間目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、顕微鏡で検査し、写真撮影した。組織化学分析は、ヘマトキシリン、エオシンまたはトリクローム染色を含んだ。
【0084】
結果は、MDCが皮膚組織への注射後少なくとも4週間まで生存可能であり、注射部位の組織の炎症の証拠を伴わなかったことを明らかにする(図1D−1F)。これに対し、コラーゲンは皮膚組織への注射後2週間目に生存可能ではなかった(図1Bおよび1C)。それ故、MDC組成物は、たとえば美容的および審美的適用または手術における使用のための皮膚増加材料として使用することができる。これまで、移植した筋細胞は、生存するためにそれが結合する周囲の宿主筋線維を必要とすると考えられていたので、これは予想外の所見である。非筋組織への注射後の本発明のMDCの生存は、実施例8および9においてさらに明らかにされる。
【0085】
(実施例4)
胃食道接合部および肛門括約筋の軟組織増加
SDラットを上述したように手術のために準備した。胃食道接合部および肛門括約筋を露出させるために腹部正中切開を実施した。ハミルトンマイクロシリンジを用いて軟組織にHBSS中の筋由来始原細胞懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を注射した。注射後3日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの実験の結果は、MDC組成物が、胃食道逆流または便失禁症状または状態の治療のために食道および肛門括約筋増量材料として使用できることを明らかにする(図2Aおよび2B)。
【0086】
(実施例5)
膀胱尿管接合部の軟組織増加
SDラットを上述したように手術のために準備した。尿管−膀胱(膀胱尿管)接合部を露出させるために腹部正中切開を実施した。ハミルトンマイクロシリンジを用いて組織にHBSS中のMDC懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を注射した。注射後3日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの結果は、MDCに基づく組成物が、膀胱尿管逆流症状または状態の治療のために尿管膀胱増加材料として使用できることを明らかにする(図3Aおよび3B)。
【0087】
(実施例6)
低温損傷膀胱組織のMDC治療
低温損傷とMDC移植:SDラットを上述したように手術のために準備した。膀胱と尿道を露出させるために下腹部正中切開を実施した。次に膀胱に食塩水1mlを満たした。ドライアイス上で冷却した直径8mmのアルミニウム棒で低温損傷を実施した。冷却した探針を膀胱壁の一方の側に15または30秒間(それぞれ「軽度」または「重度」損傷と称する)当てる。低温損傷後直ちに、1つの重度損傷群に本発明の筋由来細胞(HBSS 15μl中1−1.5×106細胞)を注射し、対照重度損傷群にはHBSS(15μl)を注射した(n=3/群)。低温損傷の1週間後、その他の軽度および重度損傷群にHBSS 50μl中のMDC懸濁液(2−3×106細胞)を注射し、対照軽度および重度損傷群にはHBSS 50μlを注射した(n=4/群)。各々の群に関して、注射は、30ゲージの針とハミルトンマイクリシリンジを用いて損傷領域の中心に実施した。
【0088】
平滑筋アクチン(α−SMアクチン)についての免疫組織化学染色:免疫組織化学分析のための試料を調製するため、組織または細胞試料を−20℃の低温アセトンに2分間固定し、5%HSで1時間ブロックした。試料を、マウスモノクローナル抗平滑筋アクチン一次抗体(カタログ番号F−3777;Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)(PBS pH7.4中1:400希釈)と共に湿度室において室温で一晩インキュベートした。次に試料をPBSで3回洗浄し、Cy3蛍光色素と結合した抗マウスIgG二次抗体(Sigma Chemical Co.)(PBS pH7.4中1:200希釈)と共にインキュベートした。
【0089】
速ミオシン重鎖(Fast MyHC)についての免疫組織化学染色:組織または細胞試料を−20℃の低温アセトンに2分間固定し、5%HSで1時間ブロックした。試料を、その後、マウスモノクローナル抗骨格筋ミオシン(速)一次抗体(カタログ番号M4276;Sigma Chemical Co.)(PBS pH7.4中1:400希釈)と共に湿度室において室温で一晩インキュベートした。次に試料をPBSで3回洗浄し、Cy3結合抗マウスIgG二次抗体(Sigma Chemical Co.)(PBS pH7.4中1:200希釈)と共にインキュベートした。
【0090】
細胞培養:実施例1で調製した筋由来始原細胞を、35mmコラーゲン被覆皿において増殖培地に接種した。24時間後、増殖培地を融合培地と交換した。MDCが筋管に分化するまで、培地を毎日交換しながら細胞を融合培地に維持した。
【0091】
収縮性試験:MDC注射の2週間後、動物を安楽死させ、膀胱細片を作製するために使用した。2つの細片を各々の膀胱から作製し、両方の細片を、膀胱の周囲に沿って伸びるように切断した。膀胱細片を組織バスに入れ、神経収縮に供して(20Hz、10および80ショック)、以下で述べるように記録し、分析した。
【0092】
組織の採取および組織学的検査:SDラットを安楽死させ、注射部位の周囲の組織の試料を切除した。液体窒素中であらかじめ冷却した2−メチルブタンを用いて試料を瞬間凍結した。試料の組織化学分析は、ヘマトキシリンおよびエオシン染色を含んだ。試料を染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。各々のクリオスタット切片は厚さ10μmと測定された。
【0093】
膀胱平滑筋組織の電気刺激:動物を安楽死させ、膀胱を迅速に切除した。膀胱壁の周囲をカバーする2つの切片を各々の膀胱から得た。細片を、95%O2と5%CO2で通気したクレブス溶液(113mmol/l NaCl、4.7mmol/l KCl、1.25mmol/l CaCl2、1.2mmol/l MgS04、25mmol/l NaHCO3、1.2mmol/l KH2PO4および11.5mmol/lグルコース)を含む5ml器官バスに入れた。初期張力を10mNに設定し、TBM4ストレインゲージ増幅器(World Precision Instruments)に連結されたストレインゲージ変換器で等尺性収縮を測定した。データ取得プログラムを用いて(Windaq,DATAQ Instruments,Inc.,Akron,OH)収縮測定を蓄積した。チャネルごとのサンプリング率を100Hzに設定した。算定プログラムを使用して(WindaqEx,DATAQ Instruments,Inc.)収縮の大きさを計算した。20分間の平衡期間後、器官バスの上部と底部の4cm離れた2つの白金ワイヤ電極を通して電場刺激を適用した。温度は実験全体を通して37℃に保持した。
【0094】
膀胱平滑筋組織の化学刺激:膀胱細片を最大電圧(100V)で0.25ミリ秒間の矩形波パルスで刺激し、1、2、5、10、20または40Hzで10または80ショックを使用して周波数応答曲線を構築した。電気刺激後、収縮を誘導するために5、10または20μMカルバコールを膀胱細片に添加した。平行実験では、1μMアトロピンを添加し、上述したように電気刺激を適用して、収縮を誘導するために50μMメチレンATPを添加した。
【0095】
神経支配についての染色:平滑筋におけるMDCの再神経支配を評価するためにアセチルコリン(Ach)染色を使用した。Achは、神経終末の存在を指示する神経筋接合部についての染色である。MDC注射後、3、15、30日目または6カ月後に組織を切除し、Achに関して染色し、顕微鏡で観察して、写真撮影した。
【0096】
統計解析:数値は平均±標準偏差として報告されている。0.05未満の「P」値を統計的に有意とみなした。スチューデントt検定を使用した。
【0097】
MDC分化:実施例1で作製した筋由来始原細胞を細胞分化に関して評価した。α−SMアクチンは平滑筋細胞表現型についての最初期の公知のマーカーであり(K.M.McHugh,1995,Dev.Dyn.204:278−90)、筋線維芽細胞表現型の主要マーカーである(I.Darbyら、1990,Lab.Invest.63:21−9)。筋細胞分化の間に、α−SMアクチンの発現は低下し、一方速MyHC発現が上昇する。α−SMアクチンおよび速MyHCマーカーを使用したMDC処置膀胱組織の組織化学分析は、低温損傷の部位への注射後のMDCの分化を明らかにする。低温損傷膀胱組織への注射後5日目に、いくつかのMDC(少なくとも20%)はα−SMアクチン染色を示し(図5B)、細胞がまだ未分化であることを指示する。注射の6カ月後には、しかし、速MyHC染色の同時上昇(図5I)を伴う、α−SMアクチン染色の低下(図5F)によって示されるように、実質的にすべてのMDCが筋管または筋線維に分化していた。
【0098】
筋の再神経支配:アセチルコリン(Ach)は神経筋接合部に存在するので、筋神経支配のインジケータの役割を果たすことができる。Achマーカーを使用したMDC処置膀胱組織の組織化学分析は、低温損傷の部位への注射後のMDCの再神経支配を明らかにする。低温損傷膀胱組織への注射後3日目に、注射されたMDCは、比較的低いレベルのAch染色によって指示されるように(図6A)、最小限の神経支配を示す。注射後15日目に、Ach染色のレベル上昇によって指示されるように(図6B)、神経支配のレベル上昇が認められる。注射後30日目には、神経支配のさらなる上昇を指示する、より一層のAch染色が認められる(図6C)。注射後6か月目に、低倍率で観察されるMDC注射領域全体にわたる実質的なAch染色によって指示されるように(図6D)、広汎な神経支配が認められる。これらの結果は、骨盤神経が膀胱のMDC注射領域へと成長しつつあることを指示し、MDCが注射した組織の収縮性と機能を改善し得ることを示唆する。
【0099】
注射したMDCが処置した膀胱組織の機能を改善したかどうかを判定するために、いくつかの収縮性試験を実施した(上記参照)。表2は、MDC注射を実施したまたは実施しなかった低温損傷後の膀胱筋の収縮性パラメータを示すデータを提示する。
【0100】
【表2】
*p<0.05、**p<0.01。数値は平均±標準偏差である。統計分析のために、対照およびMDC注射群に関してスチューデントt検定を実施した。第1群:低温損傷後直ちにMDCを注射した重度損傷群。第2群:低温損傷の1週間後にMDCを注射した軽度損傷群。第3群:低温損傷の1週間後にMDCを注射した重度損傷群。第4群:正常膀胱組織。
【0101】
低温損傷後直ちにMDCを注射した重度損傷群(第1群)は、対照(擬似)群と同様の収縮性を示した(表2の第1群の擬似とMDCの列に示されている収縮性レベルを比較する)。しかし、低温損傷の1週間後にMDCを注射した重度損傷群(第3群)は、対照群と比較して(表2において星印で指示されている擬似とMDCの列に示されている収縮の大きさのレベルを比較する)高い収縮率を示した(それぞれ20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで対照膀胱の145%および161%)。同様に、低温損傷の1週間後にMDCを注射した重度損傷群(第3群)は、対照群と比較して(表2の第3群の擬似とMDCの列における収縮速度値を比較する)高い収縮速度(それぞれ20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで対照細片の119%および121%)を示した。低温損傷の1週間後にMDCを注射した軽度損傷群(第2群)も、対照群と比較して(表2の第2群の擬似とMDCの列に示されている収縮性レベルを比較する)高い収縮の大きさおよび速度を示した。これらの試験の結果は、MDC注射が低温損傷した膀胱筋組織に収縮性を回復させ得ることを示し、MDCに基づく組成物が尿失禁の治療のために使用できることを指示する。
【0102】
(実施例7)
心筋層の軟組織増加
SDラットを上述したように手術のために準備した。心臓を露出させるために胸部切開を実施した。ハミルトンマイクロシリンジを用いてHBSS中のMDC懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を心室壁に注射した。3日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの実験の結果は、MDC組成物が、心不全または心筋梗塞に続発する傷害または脱力の治療のために心筋軟組織増加材料として使用できることを明らかにする(図7Aおよび7B)。
【0103】
(実施例8)
肝臓、脾臓および脊髄組織へのMDC注射
SDラットを上述したように手術のために準備した。肝臓および脾臓を露出させるために腹部正中切開を実施した。両方の部位に、ハミルトンマイクロシリンジを用いてHBSS中のMDC懸濁液10μl(1−1.5×106細胞)を注射した。同時に、脊髄を露出させるために背部正中切開と部分椎弓切除術を実施した。次に、レベルT10の脊髄組織に、肝臓および脾臓組織に関して実施したようにHBSS中のMDC懸濁液を注射した。
注射後4日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製して、LacZマーカーを担持する細胞の局在と生存能を調べるためにβ−ガラクトシダーゼで染色し、顕微鏡で検査して、写真撮影した。これらの実験は、MDC組成物が、様々な肝臓、脾臓および脊髄の損傷、疾患または機能不全を治療するために肝臓、脾臓および脊髄軟組織増加材料として使用できることを示す(図8A、8B、9A、9B、10Aおよび10B)。
【0104】
(実施例9)
骨欠損のMDC治療
筋由来細胞の単離:MDCを、実施例1で述べたようにmdxマウスから得た。
【0105】
PP6筋由来始原細胞のクローン単離:PP6細胞集団からクローンを単離するため、PP6細胞を、LacZ、ミニジストロフィンおよびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした。簡単に述べると、pPGK−NEOからのネオマイシン耐性遺伝子を含むSmaI/Sa/Iフラグメントを、LacZ遺伝子を含むpIEPlacZプラスミド内のSmaI/Sa/I部位に挿入し、pNEOlacZプラスミドを創製した。短縮型のジストロフィン遺伝子を含むDysM3からのXhoI/Sa/Iフラグメント(K.Yuasaら、1998,FEBS Lett.425:329336;Dr.Takeda,Japanからの贈呈品)をpNEOlacZ内のSa/I部位に挿入して、ミニジストロフィン、LacZおよびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを作製した。トランスフェクションの前にSa/I消化によってプラスミドを線状化した。
【0106】
PP6細胞を、製造者の指示に従ってLipofectamine Reagent(Gibco BRL)を使用して、ミニジストロフィン、LacZおよびネオマイシン耐性遺伝子を含む線状プラスミド10μgでトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、個別のコロニーが出現するまで10日間、細胞を3000μg/mlのG418(Gibco BRL)で選択した。次に、コロニーを単離し、大量のトランスフェクト細胞を得るために増殖させて、その後LacZの発現に関して試験した。これらのPP6由来クローンの1つ、mc13をさらなる試験のために使用した。
【0107】
免疫組織化学:PP6、mc13およびマウス線維芽細胞を6穴培養皿に接種し、低温メタノールで1分間固定した。次に細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、室温にて1時間、5%ウマ血清でブロックした。一次抗体を以下のようにPBSに希釈した:抗デスミン(1:100,Sigma)、ビオチニル化抗マウスCD34(1:200,Pharmingen)、ウサギ抗マウスBcl−2(1:500,Pharmingen)、ウサギ抗マウスM−カドヘリン(1:50、Dr.A.Wernigからの贈呈品)、マウス抗マウスMyoD(1:100,Pharmingen)、マウス抗ラットミオゲニン(1:100,Pharmingen)、ウサギ抗マウスFlk−1(1:50,Research Diagnostics)、およびビオチニル化Sca−1(1:100,Pharmingen)。細胞を一次抗体と共に室温で一晩インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、適切なビオチニル化二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで洗い、Cy3蛍光色素と結合した1/300ストレプトアビジンと共に室温で1時間インキュベートした。次に細胞を蛍光顕微鏡によって分析した。各々のマーカーについて、細胞の無作為に選択した10の視野に関して染色細胞のパーセンテージを算定した。
【0108】
4週齢の正常マウス(C−57 BL/6J,Jackson Laboratories)からの筋試料の凍結切片を低温アセトンで2分間固定し、PBSに希釈した5%ウマ血清中で1時間プレインキュベートした。CD34、Bcl−2およびコラーゲンIV型に関して、以下の一次抗体を使用した:ビオチン抗マウスCD34(PBS中1:200,Pharmingen)、ウサギ抗マウスBcl−2(1:1000,Pharmingen)およびウサギ抗マウスコラーゲンIV型(PBS中1:100,Chemicon)。ジストロフィン染色のために、ヒツジ抗ヒトDY10抗体(PBS中1:250希釈)を一次抗体として使用し、抗ヒツジビオチン(PBS中1:250希釈)およびストレプトアビジン(PBS中1:250希釈)を用いてシグナルを増幅した。
【0109】
rhBMP−2での刺激、オステオカルシン染色およびアルカリホスファターゼアッセイ:細胞を、12穴コラーゲン被覆フラスコにおいて1−2×104細胞/穴の密度で3穴ずつにプレートした。200ng/mlの組換えヒトBMP−2(rhBMP−2)を増殖培地に添加することによって細胞を刺激した。最初のプレーティング後1、3および5日目に増殖培地を交換した。対照群の細胞は、rhBMP−2を添加せずに並行して増殖させた。rhBMP−2刺激を伴うまたはrhBMP−2刺激なしでの6日後に、マイクロサイトメーターを用いて細胞を計数し、オステオカルシンおよびアルカリホスファターゼ発現に関して分析した。オステオカルシン染色のために、細胞をヤギ抗マウスオステオカルシン抗体(PBS中1:100,Chemicon)と共にインキュベートし、次いでCy3蛍光色素と結合した抗ヤギ抗体と共にインキュベートした。アルカリホスファターゼ活性を測定するため、細胞溶解産物を調製し、p−ニトロフェニルホスフェートからの無機リン酸の加水分解による試薬の色の変化を利用する市販のキット(Sigma)を用いて分析した。生じた色の変化を分光光度計で測定し、データを、106細胞に基準化した国際単位ALP活性/リットルとして表した。スチューデントt検定を用いて統計的有意性を解析した(p<0.05)。
【0110】
筋形成および骨形成系統におけるmc13細胞のインビボでの分化−筋形成系統:mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの後肢筋に筋肉内注射した。動物を注射後15日目に犠死させ、注射した筋組織を凍結し、クリオスタット切片を作製して、ジストロフィン(上記参照)およびLacZ発現に関して検定した。LacZ発現に関して試験するため、筋切片を1%グルタルアルデヒドで固定し、その後X−gal基質(リン酸緩衝食塩水中の0.4mg/ml 5−ブロモクロロ−3インドリル−β−D−ガラクトシド(Boehringer−Mannheim)、1mM MgCl2、5mM K4Fe(CN)6および5mM K3Fe(CN)6)と共に1−3時間インキュベートした。分析の前に切片をエオシンで対比染色した。並行実験では、mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。動物を注射後7日目に犠死させ、後肢を単離して、上述したようにジストロフィンおよびβ−ガラクトシダーゼの存在に関して検定した。
【0111】
骨形成系統:アデノウイルスBMP−2プラスミド(adBMP−2)を構築するため、rhBMP−2コード配列をBMP−2−125プラスミド(Genetics Institute,Cambridge,Mass.)から切り出し、HuCMVプロモーターを含む複製欠損(E1およびE3遺伝子が欠失している)アデノウイルスベクターにサブクローニングした。簡単に述べると、BMP−2−125プラスミドをSa/Iで消化し、rhBMP−2 cDNAを含む1237塩基対フラグメントを生成した。次にrhBMP−2 cDNAをpAd.loxプラスミドのSa/I部位に挿入し、それにより遺伝子をHuCMVプロモーターの制御下に置いた。psi−5ウイルスDNAとpAd.loxのCREW細胞へのコトランスフェクションによって組換えアデノウイルスを得た。生じたadBMP−2プラスミドを、さらなる使用時まで−80℃で保存した。
【0112】
mc13細胞をトリプシン化し、感染の前にマイクロサイトメーターで計数した。HBSS(GibcoBRL)を用いて細胞を数回洗浄した。50感染多重度単位に等しいアデノウイルス粒子をHBSSに前混合し、その後細胞の上に層状に重ねた。細胞を37℃で4時間インキュベートし、次に等量の増殖培地と共にインキュベートした。気密注射器の30ゲージ針を使用して、露出させたSCIDマウス(Jackson Laboratories)の下腿三頭筋に0.5−1.0×106細胞の注射を実施した。14−15日目に、動物をメトキシフルランで麻酔し、頸部脱臼によって犠死させた。後肢をX線撮影によって分析した。その後、下腿三頭筋を単離し、リン酸緩衝食塩水で緩衝し、液体窒素中で予備冷却した2−メチルブタン中で瞬間凍結した。凍結試料を、クリオスタット(Microm,HM 505 E,Fisher Scientific)を用いて5×10μm切片に切断し、さらなる分析のために−20℃で保存した。
【0113】
RT−PCR分析:TRIzol試薬(Life Technologies)を使用して全RNAを単離した。SuperScript(商標) Preamplification System for First Strand cDNA Synthesis(Life Technologies)を使用して、製造者の指示に従って逆転写を実施した。簡単に述べると、ランダムヘキサマー100ngを70℃で10分間、全RNA 1μgにアニーリングし、その後氷上で冷却した。10XPCR緩衝液2μl、25mM MgCl2 2μl、10mM dNTP混合物1μl、0.1M DTT 2μlおよびsuperscript 11逆転写酵素200Uで逆転写を実施した。反応混合物を42℃で50分間インキュベートした。
【0114】
標的のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅を、逆転写酵素反応産物2μl、Taq DNAポリメラーゼ(Life Technologies)100μl(5U)および1.5mM MgCl2を含む反応混合物50μl中で実施した。Oligoソフトウエアを用いてCD34 PCRプライマーを設計し、それらは以下の配列を有した:CD34 UP:TAA CTT GAC TTC TGC TAC CA(配列番号1);およびCD34 DOWN:GTG GTC TTA CTG CTG TCC TG(配列番号2)。その他のプライマーは以前の試験に従って設計し(J.Rohwedelら、1995,Exp.Cell Res.220:92−100;D.D.Comelisonら、1997,Dev.Biol.191:270−283)、それらは以下の配列を有した:
【0115】
【化1】
以下のPCRパラメータを使用した:1)94℃、45秒間;2)50℃、60秒間(CD34)または60℃、60秒間(ミオゲニンおよびc−met);および3)72℃、90秒間を40サイクル。PCR産物を、アガロース−TBE−臭化エチジウムゲルによって確認した。予想されたPCR産物の大きさは以下のとおりである:CD34に関しては147bp;ミオゲニンに関しては86bp;およびc−metに関しては370bp。ゲノムDNA汚染の可能性を排除するため、2つの対照反応を実施した:1)逆転写酵素の不在下での並行逆転写、および2)イントロンにまたがるプライマーセット(Clonetech)を使用したβ−アクチンの増幅。
【0116】
頭蓋欠損アッセイ:3匹の6−8週齢の雌性SCIDマウス(Jackson Laboratories)を対照群と実験群において使用した。動物をメトキシフルランで麻酔し、腹臥位で手術台上に置いた。10番の刃を使用して、頭皮を切開して頭蓋を露出させ、骨膜を除去した。硬膜の貫通を最小限に抑えながら、歯科用バーを使用して約5mmの全層円形頭蓋欠損を創造した。コラーゲン・スポンジ・マトリックス(Helistat(商標),Colla−Tec,Inc.)に、adBMP−2形質導入を伴ってまたは伴わずに、0.5−1.0×106MDCを接種し、頭蓋欠損内に置いた。4−0ナイロン縫合糸を用いて頭皮を閉じ、動物に給餌して、活動させた。14日後、動物を犠死させ、頭蓋標本を観察して、その後顕微鏡で分析した。フォン・コッサ染色のために、頭蓋標本を4%ホルムアルデヒドに固定し、次に0.1M AgNO3溶液に15分間浸けた。標本を少なくとも15分間光に暴露し、PBSで洗浄して、その後観察のためにヘマトキシリンとエオシンで染色した。
【0117】
Y−プローブを使用したインサイチューハイブリダイゼーションにおける蛍光:凍結切片を3:1 メタノール/氷酢酸(v:v)に10分間固定し、空気乾燥した。次に切片を2XSSC(0.3M NaCl、0.03Mクエン酸ナトリウム)、pH7.0中の70%ホルムアミドにおいて70℃で2分間変性した。その後、スライドガラスを各濃度で2分間の一連のエタノール洗浄(70%、80%および95%)によって脱水した。Y染色体特異的プローブ(Y.Fanら、1996,Muscle Nerve 19:853−860)を、BioNickキット(Gibco BRL)を使用して製造者の指示に従ってビオチニル化した。ビオチニル化したプローブを、次に、G−50 Quick Spin Column(Boehringer−Mannheim)を用いて精製し、5ng/mlの超音波処理したニシン精子DNAと共に凍結乾燥した。ハイブリダイゼーションの前に、50%ホルムアミド、1XSSCおよび10%硫酸デキストランを含む溶液にプローブを再懸濁した。75℃で10分間の変性後、プローブを変性切片上に置き、37℃で一晩ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、切片を2XSSC溶液、pH7.0によって72℃で5分間洗浄した。次に切片をBMS溶液(0.1M NaHCO3、0.5M NaCl、0.5%NP−40、pH8.0)中で洗浄した。ハイブリダイズしたプローブをフルオレセイン標識アビジン(ONCOR,Inc)で検出した。核を、Vectashield封入剤(Vector,Inc)中10ng/mlの臭化エチジウムで対比染色した。
【0118】
mc13細胞のマーカー分析:mc13、PP6および線維芽細胞によって発現された生化学的マーカーを、RT−PCRおよび免疫組織化学を用いて分析した。表3(下記)は、mc13細胞が、幹細胞様特性を有する造血細胞のマーカーとして最近同定された(B.L.Zieglerら、前出)、ヒトKDR遺伝子のマウスホモログであるFlk−1を発現したが、CD34またはCD45を発現しなかったことを示す。しかし、本発明のPP6 MDCに由来する他のクローン単離物は、CD34ならびに他のPP6細胞マーカーを発現した。ここで述べる手順が、PP6筋由来始原細胞集団をクローン化し、筋由来始原細胞に特徴的な細胞マーカーを発現するクローン単離物を得るために使用できることは当業者に認識される。そのようなクローン単離物は本発明の方法に従って使用できる。たとえばクローン単離物は、デスミン、CD34およびBcl−2を含む始原細胞マーカーを発現する。好ましくは、クローン単離物はまた、Sca−1およびFlk−1細胞マーカーを発現するが、CD45またはc−Kit細胞マーカーを発現しない。
【0119】
【表3】
細胞を上述したように単離し、免疫組織化学分析によって検査した。「−」は、細胞の0%が発現を示したことを指示する;「+」は、細胞の>98%が発現を示したことを指示する;「+/−」は、細胞の40−80%が発現を示したことを指示する;「−/+」は、細胞の5−30%が発現を示したことを指示する;「na」は、データが入手できないことを指示する。
【0120】
CD34+およびBcl−2+細胞のインビボでの局在化:インビボでのCD34+およびBcl−2+細胞の位置を同定するため、正常マウスの下腿三頭筋からの筋組織切片を、抗CD34および抗Bcl−2抗体を用いて染色した。CD34陽性細胞は、デスミンに関しても陽性である(図12B)筋由来細胞の小集団を構成した(図12A)。抗コラーゲンIV型抗体とCD34+・デスミン+細胞の共染色は、それらを基底膜に局在化した(図12Bおよび12D)。図12A−Dにおいて矢じりで指示されるように、小さな血管もCD34およびコラーゲンIV型に関して陽性であったが、核染色で共局在しなかった。血管内皮細胞によるCD34の発現が以前の試験で示された(L.Finaら、前出)。Bcl−2+・デスミン+細胞が同様に同定され(図12E−12H)、基底膜内に局在化された(図12Fおよび12H)。衛星細胞の位置を同定するために切片をM−カドヘリンに関しても染色した(図12I)。衛星細胞は、CD34+・デスミン+細胞、またはBcl−2+・デスミン+細胞と同様の位置で同定された(矢印、図12I)。しかし、M−カドヘリンとCD34またはBcl−2を共局在化する多数の試みは成功せず、M−カドヘリン発現細胞がBcl−2またはCD34を共発現しないことを示唆した。これは、ここで開示するように、高レベルのCD34およびBcl−2を発現するが、M−カドヘリンは極微のレベルでしか発現しないPP6細胞と一致する。
【0121】
クローン化筋始原細胞の骨形成系統へのインビトロ分化:mc13細胞を、rhBMP−2での刺激によって骨形成分化能に関して評価した。細胞を6穴培養皿にプレートし、200ng/ml rhBMP−2の存在下または不在下で集密まで増殖させた。34日以内に、rhBMP−2に暴露したmc13細胞は、rhBMP−2不在下の細胞と比較して劇的な形態形成変化を示した。rhBMP−2の不在下では、mc13細胞は多核筋管に融合し始めた(図13A)。200ng/ml rhBMP−2に暴露したときは、しかし、細胞は単核のままであり、融合しなかった(図13B)。細胞密度が>90%の集密度に達したとき、未処置培養物は融合して多数の筋管を形成したが(図13C)、処置細胞は円形で肥大性になった(図13D)。免疫組織化学を使用して、これらの肥大細胞をオステオカルシンの発現に関して分析した。オステオカルシンは、骨に沈着し、骨芽細胞によって特異的に発現されるマトリックスタンパク質である。未処置群と異なり、rhBMP−2処置した肥大細胞はオステオカルシンの有意の発現を示し(図13E)、それ故、mc13細胞がrhBMP−2への暴露後に骨芽細胞に分化できることを示唆した。
【0122】
mc13細胞を、次に、rhBMP−2刺激後のデスミンの発現に関して分析した。新たに単離したmc13細胞は均一なデスミン染色を示した(図14Aおよび14B)。rhBMP−2への暴露から6日以内に、mc13細胞の30〜40%だけがデスミン染色を示した。rhBMP−2刺激の不在下では、mc13細胞の約90〜100%がデスミン染色を示した(図14C)。この結果は、rhBMP−2によるmc13細胞の刺激がこれらの細胞についての筋形成能の喪失を生じさせることを示唆する。
【0123】
さらに、mc13細胞をrhBMP−2刺激後のアルカリホスファターゼの発現に関して分析した。アルカリホスファターゼは骨芽細胞分化についての生化学的マーカーとして使用されてきた(T.Katagiriら、1994,J.Cell Biol.,127:1755−1766)。図14Dに示すように、mc13細胞のアルカリホスファターゼ発現はrhBMP−2に応答して600倍以上上昇した。対照として使用したPP1−4細胞は、rhBMP−2に応答したアルカリホスファターゼ活性の上昇を示さなかった(図14D)。合わせて考慮すると、これらのデータは、PP6クローン単離物、たとえばmc13細胞が、インビトロでrhBMP−2暴露に応答して筋形成マーカーを喪失し、骨形成系統を通して分化し得ることを明らかにする。
【0124】
mc13細胞の筋形成および骨形成系統へのインビボでの分化:mc13細胞がインビボで筋形成系統を通して分化できるかどうかを判定するため、細胞をmdxマウスの後肢筋組織に注射した。動物を注射後15日目に犠死させ、組織学的および免疫組織化学的分析のためにそれらの後肢を採取した。いくつかの筋線維は、注射部位の周囲の領域においてLacZおよびジストロフィン染色を示し(図15Aおよび15B)、mc13細胞がインビボで筋形成系統に分化することができ、ジストロフィー筋において筋再生を増強し、ジストロフィンを回復させ得ることを指示する。
【0125】
並行実験では、mc13細胞をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。動物を注射後7日目に犠死させ、組織学的および免疫組織化学的分析のために後肢筋を採取した。いくつかの後肢筋細胞はLacZおよびジストロフィン染色を示し(図15C、15D:「*」も参照のこと)、mc13細胞がジストロフィン発現の救済のために標的組織に全身的に送達され得ることを示唆した。
【0126】
インビボでのmc13細胞の多能特性を試験するため、細胞をrhBMP−2をコードするアデノウイルスベクター(adBMP−2)で形質導入した。adBMP−2を有するmc13細胞を、次に、SCIDマウスの後肢に注射した。動物を注射後14日目に犠死させ、後肢を組織化学的および免疫化学的分析のために切除した。adBMP−2で形質導入したmc13細胞の酵素免疫検定法(ELISA)分析は、感染細胞がrhBMP−2を産生できることを示した。注射したSCIDマウスの後肢のX線分析は、注射の14日以内に堅固な異所性骨形成を明らかにした(図15E)。異所性骨のLacZ染色を用いた組織学的分析は、LacZ陽性mc13細胞が、骨芽細胞および骨細胞が認められる典型的な位置である、石灰化マトリックスまたは小窩内に均一に位置したことを示す(図15F)。
【0127】
異所性骨の形成におけるmc13の役割をさらに確認するため、筋切片をジストロフィンの存在に関しても染色した。図15Gに示すように、異所性骨はジストロフィンに関して高度に陽性の細胞を含み、mc13細胞が骨形成に密接に関与していることを示唆する。対照として、線維芽細胞に関して同様の実験を実施した。線維芽細胞は堅固な異所性骨形成を支持することが認められたが、注射した細胞は一様に骨の外側で認められ、いずれも石灰化マトリックス内に位置することができなかった。これは、線維芽細胞が、異所性骨を形成するようにrhBMP−2を送達することができるが、骨芽細胞に分化することはできないことを示唆する。この場合、異所性骨の石灰化に関与する細胞はおそらく宿主組織に由来すると考えられる。それ故、これらの結果は、mc13細胞がインビボおよびインビトロの両方で骨芽細胞に分化できることを明らかにする。
【0128】
遺伝子操作された筋由来細胞による骨治癒の増強:骨格的に成熟した(6−8週齢)雌性SCIDマウスにおいて上述したように歯科用バーを用いて頭蓋欠損(約5mm)を創造した。以前の実験は、5mmの頭蓋欠損が「非治癒性(non−healing)」であることを明らかにした(P.H.Krebsbachら、1998,Transplantation 66:1272−1278)。頭蓋欠損に、adBMP−2で形質導入したmc13細胞または形質導入していないmc13細胞を接種したコラーゲン・スポンジ・マトリックスを充填した。これらのマウスを14日目に犠死させ、頭蓋欠損の治癒を分析した。図16Aに示すように、rhBMP−2なしのmc13細胞で処置した対照群は欠損の治癒の証拠を示さなかった。これに対し、rhBMP−2を発現するように形質導入したmc13細胞で処置した実験群は、2週間目に頭蓋欠損のほとんど完全な閉鎖を示した(図16B)。石灰化した骨を強調するフォン・コッサ染色は、rhBMP−2を発現するように形質導入したmc13細胞で処置した群において堅固な骨形成を示したが(図16D)、対照群では極微の骨形成しか認められなかった(図16C)。
【0129】
実験群における新しい骨の領域を、移植した細胞を同定するためにY染色体特異的プローブとの蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)によって分析した。図16Eに示すように、Y染色体陽性細胞が新たに形成された骨内で同定され、rhBMP−2の影響下での移植細胞の骨形成への能動的な関与を指示した。Y染色体陰性細胞も新たに形成された頭蓋内で同定され、それ故宿主由来細胞の能動的な関与も指示した。これらの結果は、mc13細胞がrhBMP−2での刺激後に「非治癒性」骨欠損の治癒を媒介し得ることを明らかにし、本発明のMDCが骨欠損、損傷または外傷の治療において使用できることを指示する。
【0130】
(実施例10)
緩慢接着ヒトMDCは性質としてより筋形成性であり、誘発性心筋梗塞を有するマウスにおいて左心室機能を改善する。
【0131】
急速および緩慢接着MDCの集団を、Center for Organ Recovery and Education(CORE)から入手した3名の男性と3名の女性ドナー(13歳の男性、57歳の男性、70歳の男性、32歳の女性、59歳の女性、64歳の女性)の直筋から単離した。14の試料についての生検の大きさは42−247mgの範囲であった。平均の大きさは129mgであった。57歳の男性ドナーから単離した急速および緩慢接着MDCを心臓内注射のために使用した。
【0132】
骨格筋生検組織を直ちに低温溶液(硫酸ゲンタマイシン(100ng/ml、Roche)を添加したHypo Thermosol(BioLife))に入れ、4℃で保存する。3−7日後、生検組織を保存から取り出し、生産を開始させる。結合組織または非筋組織を生検試料から切除する。単離のために使用する残存筋組織を計量する。組織をハンクス平衡塩溶液(HBSS)中で細かく切り刻み、円錐管に移して、遠心分離する(2,500×g、5分間)。次にペレットを消化酵素溶液(Liberase Blendzyme 4(0.4−1.0U/mL、Roche)に再懸濁する。生検試料100mgにつき消化酵素溶液2mLを使用して、回転板上で37℃にて30分間インキュベートする。その後試料を遠心分離する(2,500×g、5分間)。ペレットを培地に再懸濁し、70μmのセルストレーナーに通す。この実施例で述べる手順のために使用する培地は、以下の成分を添加したCambrex Endothelial Growth Medium EGM−2基本培地であった:i.10%(v/v)ウシ胎仔血清、およびii.インスリン増殖因子−1(IGF−1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、ヘパリンおよびアスコルビン酸を含む、Cambrex EGM−2 SingleQuot Kit。次に、ろ過した細胞溶液をT25培養フラスコに移し、5%CO2中37℃で30−120分間インキュベートする。このフラスコに付着する細胞が「急速接着細胞」である。
【0133】
インキュベーション後、T25フラスコから細胞培養上清を取り、15mL円錐管に入れる。T25培養フラスコを温めた培地2mLで洗浄し、前記15mL円錐管に移す。15mL円錐管を遠心分離する(2,500×g、5分間)。ペレットを培地に再懸濁し、新しいT25培養フラスコに移す。フラスコを5%CO2中37℃で〜2日間インキュベートする(このフラスコに付着する細胞が「緩慢接着細胞」である)。インキュベーション後、細胞培養上清を吸引し、新しい培地をフラスコに添加する。その後フラスコを増殖のためにインキュベーターに戻す。このあと、培養フラスコ中の細胞集密度を50%未満に維持するように標準培養継代を実施する。継代の間にフラスコから接着細胞を分離するためにトリプシン−EDTA(0.25%、Invitrogen)を使用する。「緩慢接着細胞」の典型的な増殖は、3,700万細胞の平均総生細胞数を達成するために平均17日間(生産を開始させる日から出発して)を要する(n=14の生産を14の異なる生検試料から実施し、生検重量は42−247mgの範囲であり、平均129mgである)。
【0134】
ひとたび所望細胞数が達成されれば、トリプシン−EDTAを使用してフラスコから細胞を採取し、遠心分離する(2,500×g、5分間)。ペレットをBSS−P溶液(ヒト血清アルブミン(2%v/v、Sera Care Life)を添加したHBSS)に再懸濁し、計数する。次に細胞溶液を再び遠心分離し(2,500×g、5分間)、低温保存溶液(ヒト血清アルブミン(2%v/v、Sera Care Life)を添加したCryoStor(Biolife))で所望細胞濃度に再懸濁して、極低温保存のために適切なバイアルにパッケージする。クライオバイアルを冷凍容器に入れ、−80℃の冷凍庫内に置く。凍結細胞懸濁液を室温で解凍して細胞を等量の生理食塩水と共に投与し、直接注射する(追加操作なしで)ことによって細胞を投与する。緩慢接着細胞集団(n=7生検)の系統特性決定は以下を示す:筋形成(87.4%CD56+、89.2%デスミン+)、内皮(0.0%CD31+)、造血(0.3%CD45+)、および線維芽細胞(6.8%CD90+/CD56−)。
【0135】
骨格筋生検組織の解離後、細胞の2つの分画を培養フラスコへのそれらの急速または緩慢接着に基づいて収集した。次に細胞を増殖培地での培養で増殖させ、その後1.5mlエッペンドルフ管の低温保存溶液中で凍結した(15μ中3×105細胞)。対照群については、低温保存溶液15μlだけを管に入れた。これらの管を注射時まで−80℃で保存した。注射の直前に、管を保存から取り出し、室温で解凍して、0.9%塩化ナトリウム溶液15μlで再懸濁した。生じた30μl溶液を、次に、30ゲージ針を用いて0.5ccインスリンシリンジに導入した。手術および注射を実施する試験者には管の内容物がわからないようにした。
【0136】
細胞数および生存能を、GuavaフローサイトメーターおよびViacountアッセイキット(Guava)を用いて測定した。CD56は、PE結合抗CD56抗体(1:50、BD Pharmingen)およびPE結合アイソタイプ対照モノクローナル抗体(1:50、BD Pharmingen)を使用してフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。デスミンは、モノクローナルデスミン抗体(1:100、Dako)およびアイソタイプ対照モノクローナル抗体(1:200、BD Pharmingen)を使用してパラホルムアルデヒド固定細胞(BD Pharmingen)に関するフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。Cy3結合抗マウスIgG抗体(1:250、Sigma)を用いて蛍光標識化を実施した。各工程の間に、細胞を透過性上昇緩衝液(BD Pharmingen)で洗浄した。クレアチンキナーゼ(CK)アッセイのために、各穴につき1×105細胞を12穴プレートの分化誘導培地に接種した。4−6日後、細胞をトリプシン処理によって採取し、遠心分離にかけてペレットにした。細胞溶解産物上清を、CK Liqui−UVキット(Stanbio)を用いてCK活性に関して検定した。
【0137】
ヒト細胞の異種移植に関連する免疫拒絶反応を回避するために、細胞をNOD−SCIDマウスの心臓に注射した。Institutional Animal Care and Use Committee,Children’s Hospital of Pittsburghは、この試験において実施される動物および手術手順を承認した(プロトコール37/04)。22週齢のNOD.CB17 prkdc重症複合型免疫不全(NOD−SCID)マウス(The Jackson Laboratory,Bar harbor,ME,USA)をこの試験で使用した。マウスをイソフルランと酸素の気体混合物で麻酔し、挿管した。手術中、人工呼吸器で陽圧換気を維持した。正常に位置する左心耳の先端から2mmの左冠動脈前下行枝の結紮によって急性心筋梗塞を誘導した。結紮後直ちに、調製した溶液を梗塞に隣接する収縮壁の前面と側面および梗塞の中心部に注射した(各領域につき10μl)。
【0138】
移植の2週間後と6週間後に、左心室機能を評価するために心エコー検査を実施した。心エコー検査は、13−Mhzリニアアレイ変換器(15L8)を備えたSequoia C256システム(Acusion,Mountain View,CA,USA)を用いて盲検化された試験者によって実施された。マウスをイソフルランガスで麻酔し(1分間の誘導のために3%イソフルランおよび維持のために1.50%イソフルラン)、背臥位で拘束した。収縮末期面積(ESA)と拡張末期面積(EDA)の両方を左心室の短軸像から測定した。LV収縮性の指標である左室内腔面積変化率(FAC)を、FAC(%)=[(EDA−ESA)/EDA]×100として算定した。
【0139】
データを平均±SEとして提示する。心機能データにおける統計的有意差は二方向ANOVAによって決定した。Student−Newman−Keuls多重比較検定でポストホック解析を実施した。
【0140】
急速および緩慢接着MDCの筋形成特性決定
6名の異なるドナー(男性3名と女性3名)の組織から単離した細胞において、我々は、急速接着MDCの集団が、緩慢接着MDCの集団(平均71.0%)と比較したとき、より低いレベルの筋形成マーカーCD56発現を示す(6集団すべての平均、49.5%)ことを認めた(図17)。各群について同数の細胞を、筋形成分化を誘導する条件に供したとき、急速接着MDC(平均69U/L)は緩慢接着MDC(平均142U/L)よりも低いクレアチンキナーゼ活性レベルを示し(図17)、緩慢接着細胞が急速接着細胞よりも多量の筋を生産できることを指示した。合わせて考慮すると、これらの結果は、緩慢接着MDCの集団が、急速接着MDCの集団と比較したとき、より筋形成性であり(CD56含量)、筋生成に関してより強力である(CK活性)ことを示唆する(図17)。
【0141】
注射用にパッケージし、凍結した細胞の解凍後特性決定
我々は、心臓内注射用にパッケージし、凍結したMDC(57歳の男性ドナーから単離した)の解凍後試料を分析した。どちらの細胞集団も解凍直後には等しく高い割合の生存能を有しており(92%)、両集団の細胞の非常に高いパーセンテージが注射の時点で生存可能であることを指示した(表1)。筋形成マーカーCD56を発現した細胞の割合は、表4に示すように、急速接着MDCと緩慢接着MDCについてそれぞれ43.8%と85.1%であった。
【0142】
【表4】
同様の傾向が、急速(62.5%)および緩慢接着MDC(93.6%)についての筋形成マーカー、デスミンの発現レベルにおいて認められた。解凍後にCK活性によって測定した細胞の筋形成能は、急速および緩慢接着細胞についてそれぞれ82および181U/Lであった。これら2つの集団の間での筋形成含量(CD56およびデスミン)および筋形成分化(CK)の差は、心臓内注射のために使用された細胞が、典型的にはドナー骨格筋から単離される急速および緩慢接着細胞の代表集団であることを指示する(図17参照)。
【0143】
心機能
2つの理由から、57歳の男性から単離したMDCを心臓内注射のために使用した。第一に、このドナーからの急速および緩慢接着細胞集団は、表5および図17に示すようにその他のドナーから単離した細胞を代表する筋形成特性を示した。
【0144】
【表5】
第二に、ドナーの筋生検の年齢および性別がそのような治療を必要とする標的集団と適合性であると思われる。
【0145】
対照群と比較したとき、急速または緩慢接着細胞を注射した心臓は、図18に示すように心筋梗塞後2週間目で早くも、FACによって測定したとき、LV収縮性の改善を示した。また、表5に示す結果は、それぞれ23.0%および69.7%の上昇を明らかにする。6週間目まで、LV収縮性レベルはどちらの細胞群においても安定なままであったが、対照群では小さな低下が認められ、表5および図18に示すように、対照溶液を注射した心臓と比較したとき急速および緩慢接着細胞を注射した心臓に関してそれぞれ45.2%および118.9%のLV収縮性のさらに一層大きな改善を生じさせた。対照群と比べての有意差は、緩慢接着MDC群においてのみ達成された(図18;*P<0.05、緩慢接着MDC対対照)。加えて、緩慢接着MDCを注射した心臓は、急速接着細胞を注射した心臓を上回るLV収縮性を明らかにし(図18;†P<0.05、緩慢接着細胞(MDC)対急速接着細胞)、心筋梗塞修復に関して緩慢接着細胞が急速接着細胞よりも優れていることを示唆した。
【0146】
我々は、ヒト骨格筋生検組織の解離後、培養フラスコへのそれらの急速または緩慢接着に基づいて細胞の2つの分画を単離した。培養フラスコに緩慢に接着した細胞の集団は、急速に接着した細胞の集団と比較したとき、より高い筋形成含量とより大きな筋形成効率/効力によって特徴づけられる。心筋梗塞修復に関して、細胞のいずれかの分画を注射した心臓は、対照を注射した心臓と比較したとき機能的改善を提供した。しかし、緩慢接着細胞は、急速接着細胞と比較したとき心筋梗塞後のより優れた機能回復を提供した。
【0147】
本明細書において引用するすべての特許出願、特許、テキストおよび文献参照、本発明が属する技術分野の技術水準をより詳細に説明するためにそれらの全体が参照によりここに組み込まれる。
【0148】
様々な変更が、上述したような本発明の範囲と精神から逸脱することなく上記方法および組成物において実施され得るので、付属の図面で示す、または付属の特許請求の範囲で定義される、上記説明に含まれるすべての対象物は、例示と解釈され、限定的な意味ではないことが意図されている。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図11K】
【図11L】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図12G】
【図12H】
【図12I】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結ヒト筋由来始原細胞(MDC)を含む医薬組成物であって、該MDCが、
(a)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(b)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(c)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(d)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程;
(e)細胞数を増大させるために該細胞を培養する工程;および
(f)該細胞を凍結する工程
を含む方法に従って単離され、凍結細胞がヒトMDCである、医薬組成物。
【請求項2】
前記MDCが−30℃未満の温度で凍結される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記MDCが−70℃未満の温度で凍結される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記MDCがドライアイス上で凍結される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
治療を必要とするヒト被験体において心臓状態によって引き起こされる心臓の欠陥を治療する方法であって、
(a)該ヒト被験体から骨格筋細胞を単離する工程;
(b)該細胞を10℃未満の温度に冷却する工程;
(c)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(d)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(e)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(f)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程であって、単離された細胞がMDCである、工程;
(g)細胞数を増大させるために該細胞を培養する工程;
(h)該MDCを−30℃未満の温度で凍結する工程;および
(i)該MDCを解凍して、該ヒト被験体の心臓に該MDCを投与する工程;
を含み、それによって治療を必要とするヒト被験体において心臓状態によって引き起こされる心臓の欠陥を治療する、方法。
【請求項6】
前記心臓状態が、心筋梗塞、心不全、アダムズ‐ストークス病、先天性心疾患、狭心症、不整脈、心房細動、細菌性心内膜炎、心筋症、うっ血性心不全、拡張機能障害、心雑音および心室期外収縮から成る群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記心臓状態が前記ヒト被験体において開始する前に、前記骨格筋細胞が該ヒト被験体から単離される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記心臓状態が前記ヒト被験体において開始した後に、前記骨格筋細胞が該ヒト被験体から単離される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記MDCが、前記心臓に該MDCを注射する工程によって投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記MDCが前記心臓壁に注射される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
心機能の改善を必要とする哺乳動物被験体において心機能を改善する方法であって、
(a)ヒト被験体から骨格筋細胞を単離する工程;
(b)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(c)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(d)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(e)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程であって、単離された細胞がMDCである、工程;および
(f)該MDCを該ヒト被験体の心臓に投与する工程;
を含み、それによって心機能を改善を必要とする哺乳動物被験体において心機能を改善する、方法。
【請求項12】
前記心機能の改善が、左心室収縮性の改善である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記MDCが、前記心臓に該MDCを注射する工程によって投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記MDCが心臓壁に注射される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物がヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記MDCが、前記ヒト被験体の心臓に投与される前にその数を増大させるために培養される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物骨格筋由来始原細胞(MDC)の目標集団を単離する方法であって、
(a)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(b)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(c)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;および
(d)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程;
を含み、それによってMDCの目標集団を単離する、方法。
【請求項18】
前記MDCがその後凍結される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記MDCが−30℃未満の温度で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記MDCが−70℃未満の温度で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記MDCがドライアイス上で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳動物がヒトである、請求項17に記載の方法。
【請求項1】
凍結ヒト筋由来始原細胞(MDC)を含む医薬組成物であって、該MDCが、
(a)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(b)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(c)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(d)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程;
(e)細胞数を増大させるために該細胞を培養する工程;および
(f)該細胞を凍結する工程
を含む方法に従って単離され、凍結細胞がヒトMDCである、医薬組成物。
【請求項2】
前記MDCが−30℃未満の温度で凍結される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記MDCが−70℃未満の温度で凍結される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記MDCがドライアイス上で凍結される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
治療を必要とするヒト被験体において心臓状態によって引き起こされる心臓の欠陥を治療する方法であって、
(a)該ヒト被験体から骨格筋細胞を単離する工程;
(b)該細胞を10℃未満の温度に冷却する工程;
(c)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(d)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(e)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(f)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程であって、単離された細胞がMDCである、工程;
(g)細胞数を増大させるために該細胞を培養する工程;
(h)該MDCを−30℃未満の温度で凍結する工程;および
(i)該MDCを解凍して、該ヒト被験体の心臓に該MDCを投与する工程;
を含み、それによって治療を必要とするヒト被験体において心臓状態によって引き起こされる心臓の欠陥を治療する、方法。
【請求項6】
前記心臓状態が、心筋梗塞、心不全、アダムズ‐ストークス病、先天性心疾患、狭心症、不整脈、心房細動、細菌性心内膜炎、心筋症、うっ血性心不全、拡張機能障害、心雑音および心室期外収縮から成る群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記心臓状態が前記ヒト被験体において開始する前に、前記骨格筋細胞が該ヒト被験体から単離される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記心臓状態が前記ヒト被験体において開始した後に、前記骨格筋細胞が該ヒト被験体から単離される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記MDCが、前記心臓に該MDCを注射する工程によって投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記MDCが前記心臓壁に注射される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
心機能の改善を必要とする哺乳動物被験体において心機能を改善する方法であって、
(a)ヒト被験体から骨格筋細胞を単離する工程;
(b)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(c)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(d)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;
(e)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程であって、単離された細胞がMDCである、工程;および
(f)該MDCを該ヒト被験体の心臓に投与する工程;
を含み、それによって心機能を改善を必要とする哺乳動物被験体において心機能を改善する、方法。
【請求項12】
前記心機能の改善が、左心室収縮性の改善である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記MDCが、前記心臓に該MDCを注射する工程によって投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記MDCが心臓壁に注射される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物がヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記MDCが、前記ヒト被験体の心臓に投与される前にその数を増大させるために培養される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物骨格筋由来始原細胞(MDC)の目標集団を単離する方法であって、
(a)ヒト骨格筋細胞を第一細胞培養容器中で30〜120分間懸濁する工程;
(b)培地を該第一細胞培養容器から第二細胞培養容器に傾瀉する工程;
(c)該培地中に残存する細胞を該第二細胞培養容器の壁に付着させる工程;および
(d)該第二細胞培養容器の壁から該細胞を単離する工程;
を含み、それによってMDCの目標集団を単離する、方法。
【請求項18】
前記MDCがその後凍結される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記MDCが−30℃未満の温度で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記MDCが−70℃未満の温度で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記MDCがドライアイス上で凍結される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳動物がヒトである、請求項17に記載の方法。
【図14−1】
【図14−2】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図15E】
【図15F】
【図15G】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図16E】
【図17】
【図18】
【図14−2】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図15E】
【図15F】
【図15G】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図16E】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2010−511051(P2010−511051A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539319(P2009−539319)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/024566
【国際公開番号】WO2008/066886
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(504279968)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ − オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (24)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/024566
【国際公開番号】WO2008/066886
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(504279968)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ − オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (24)
【Fターム(参考)】
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