説明

心血管疾患を処置するためのボツリヌス毒素の使用

【課題】哺乳動物の心血管疾患を処置する。
【解決手段】有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物の血管に直接投与し、それによって心血管疾患を処置するステップを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉塞した血管の直径を機械的に拡大した後で血管に起こりうる再狭窄を防止または軽減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症は、脂肪性、線維性、石灰化性または血栓性の沈着物が、動脈の最内層である内膜の中および下にアテローム斑を形成する進行性の疾患である。アテローム性動脈硬化症は大型および中型の動脈を冒す傾向がある。最もよく冒される動脈は、大動脈、腸骨動脈、大腿動脈、冠動脈、および大脳動脈である。臨床症状は、アテローム性動脈硬化斑の塊によって罹患動脈を通過する血流が減少し、その結果、それより遠位の組織機能または器官機能が損なわれるために生じる。
【0003】
経皮経管冠血管形成術は冠血管アテローム硬化症の非観血的な処置方法である。この手術では、膨張式バルーンを冠動脈の動脈狭窄領域に挿入する。バルーンを15〜30秒間膨張させると、狭窄した管腔または通路の拡大が起こる。通常、1回目のバルーン膨張後は残存狭窄が存在するので、残存管狭窄の重症度を軽減するために、通例、複数回の膨張または長時間の膨張が行われる。
【0004】
ステントはしばしばバルーン冠血管形成術と併用される。ステントは、典型的には、まずバルーンによって狭窄血管を拡大した後、その血管を開いた状態で支えておくために用いられる。閉塞した血管を拡大し、開いておくには、自己拡大型ステントも使用される。さまざまなステントとその使用法は米国特許第6,190,404号、第6,344,055号、第6,306,162号、第6,293,959号、第6,270,521号、第6,264,671号、第6,261,318号、第6,241,758号、第6,217,608号、第6,196,230号、第6,183,506号、第5,989,280号に開示されている。これら各特許の開示は参照により本明細書にそのまま組み込まれる。
【0005】
血管形成術に伴う問題の1つは、術後に再狭窄または閉塞の再発が起こりうることである。血管壁が裂けると、血栓形成性の高い異物およびタンパク質、例えばコラーゲンなどに、血液がばく露される。その結果生じる血餅は、血餅内で血小板によって放出されうる成長ホルモンを含みうる。また血栓形成は、マクロファージ由来の細胞による成長ホルモンおよびサイトカインの放出も引き起こしうる。成長ホルモンは、平滑筋細胞および線維芽細胞を、その領域で凝集させ、増加させうる。さらに、血管形成術後は、通常は血管の内面を覆っている細胞単層の喪失がしばしば認められ、それが血栓形成につながる。血管壁の断裂と内皮層の喪失との組合せは、しばしば、血栓形成性が極めて高い血管内面をもたらす。再狭窄は、通常は動脈壁内に存在する平滑筋細胞が、血栓形成に応答して傷害部位で増殖することによって起こりうる。
【0006】
また、血管形成術は動脈壁に傷害を与え、それが炎症を伴うようにもなる。どの種類の炎症応答でも、再狭窄の一因となりうる新しい組織(例えば瘢痕組織)の成長を引き起こしうる。
【0007】
他にも、血管形成術後に起こる再狭窄の主原因の一つとして、傷害を受けた動脈壁が、正常な動脈壁に見られる血液適合性よりも低い血液適合性を示しうることを挙げることができる。血液適合性の低下に付随する有害な応答には、血小板の付着、凝集および活性化、血栓形成、炎症細胞反応、例えば単球またはマクロファージの付着および活性化、ならびに動脈壁への白血球の浸潤が含まれる。
【0008】
再狭窄は、冠血管形成術患者全体の3分の1を超える人々に起こりうる深刻な問題である。したがって、閉塞した血管を機械的に拡大する手術に続いて起こりうる再狭窄の発生を軽減または排除する方法が必要とされている。
【0009】
ボツリヌス毒素
嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で成長する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18時間後〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0010】
A型ボツリヌス毒素(「BoNT/A」)は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体)血清型Aの約50ピコグラムがマウスにおけるLD50である。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18グラム〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、BoNT/Aは、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素(BoNT/B)よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素(「BoNT/B」)は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、BoNt/Aの霊長類LD50の約12倍である。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリンの放出を阻止するようである。
【0011】
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。BoNt/Aは、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣および頸部ジストニーを処置するために米国食品医薬品局によって承認されている。更に、B型ボツリヌス毒素は、頚部ジストニーを処置するためにFDAによって承認されている。A型以外のボツリヌス毒素血清型は、BoNt/Aと比較した場合、効力が弱く、かつ/または活性の継続時間が短いようである。末梢筋肉内BoNt/Aの臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。BoNt/Aの単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均して約3ヶ月である。
【0012】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型ボツリヌス毒素およびE型ボツリヌス毒素はともに25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、これらの毒素は、このタンパク質内の異なるアミノ酸配列を標的とする。BoNT/B、D、FおよびGは小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素(BoNT/C1)は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。
【0013】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、H鎖と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
【0014】
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから細胞形質中に逃れ出る。この最後の段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素が、エンドソーム膜を通って細胞形質に移動する。
【0015】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、H鎖およびL鎖を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。
【0016】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、BoNt/A複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。BoNT/BおよびC1は500kDの複合体としてのみ産生されるようである。BoNT/Dは300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、BoNT/EおよびFは約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成する)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
【0017】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン、CGRPおよびグルタメートのそれぞれの放出を阻害することが報告されている。
【0018】
BoNT/Aは、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、BoNt/B血清型を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0019】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばBoNt/B毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、BoNt/Aと比較したBoNt/Bの知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、BoNt/Bは、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのBoNt/Aよりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0020】
BoNt/Aは、(例として)下記のように臨床的に使用されていることが報告されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標)1
1 BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0021】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
【0022】
主として破傷風神経毒は中枢神経系において作用し、ボツリヌス神経毒は神経筋接合部において作用し、いずれも冒されたニューロンの軸索からシナプスへのアセチルコリン放出を阻害し、その結果麻痺を起こす。冒されたニューロンにおける中毒作用は持続性であり、最近までは不可逆的であると考えられていた。破傷風神経毒は、一つの免疫学的に明確な血清型として存在することが知られている。
【0023】
アセチルコリン
典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心臓の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0024】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0025】
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、交感神経および副交感神経の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスに見られる。ニコチン性受容体はまた、神経筋接合部における骨格筋繊維の多くの膜にも存在する。
【0026】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類およびインスリンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【発明の概要】
【0027】
概要
本発明は哺乳動物(例えばヒト)の心血管疾患を処置する方法を提供する。この方法は、心血管疾患を処置するために、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物の血管に直接投与するステップを含む。ある態様では、心血管疾患を処置することにより、再狭窄が防止される。
【0028】
本発明の一態様では、前記哺乳動物が心血管術を受けているか、または心血管術を受けたことがある。ある態様では、前記心血管術が動脈心血管術、例えば冠動脈心血管術である。
【0029】
ある態様では、前記心血管術が血管形成術を含む。ある態様では、前記血管形成術が、哺乳動物の血管内にステントを挿入するステップを含む。別の態様では、前記血管形成術が、血管内にステントを挿入するステップを含まない。血管形成術は、例えばバルーン血管形成術であることができる。ある態様では、前記バルーン血管形成術がステントの使用を含む。例えば、ステントはバルーン血管形成術中に血管内に挿入することができる。
【0030】
手術はバルーンの使用に限定されるわけではない。例えばバネまたは他の拡大装置など、収縮した血管を機械的に開くために使用することができる任意の装置を使って、血管形成術を行うことができる。
【0031】
ボツリヌス毒素を投与するステップは、血管壁にボツリヌス毒素を注射するステップを含みうる。特に、血管の内膜層、中膜層および/または外膜層に毒素を注射することができる。さらに、投与ステップは、ボツリヌス毒素を被覆または含浸したステントを使って達成することもできる。
【0032】
本発明の一態様では、ボツリヌス毒素が血管への損傷を軽減または排除する。起こりうる損傷の例は、血管の伸張および/または断裂、または血管の内径を機械的に拡大した結果として血管に起こりうる他の任意の損傷である。ある態様では、ボツリヌス毒素が、少なくとも一つには、血管を拡張することにより、血管への損傷を軽減または排除する。別の態様では、ボツリヌス毒素が、少なくとも一つには、血管の炎症を軽減または排除することにより、血管への損傷を軽減または排除する。
【0033】
本発明によれば、ボツリヌス毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型もしくはG型ボツリヌス毒素、またはその混合物、またはその組合せなど(修飾ボツリヌス毒素、ハイブリッドボツリヌス毒素またはキメラボツリヌス毒素を含む)、任意のボツリヌス毒素であることができる。
【0034】
また、本発明によれば、心血管術後に起こりうる哺乳動物での血管の再狭窄を防止する方法も提供される。一態様として、本方法は、前記哺乳動物に有効量のボツリヌス毒素を投与し、それによって血管の再狭窄を防止するステップを含む。
【0035】
さらにまた、本発明によれば、心血管術中または心血管術後に起こりうる血管での損傷を防止することによって、哺乳動物における再狭窄を防止する方法が提供される。一態様として、本方法は、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物に投与し、それによって血管での損傷を防止し、再狭窄を防止するステップを含む。
【0036】
本発明は、心血管術中または心血管術後に起こりうる血管での炎症を防止することによって、哺乳動物における再狭窄を防止する方法も提供する。一態様として、本方法は、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物に投与し、それによって血管での炎症を防止し、再狭窄を防止するステップを含む。
【0037】
さらに本発明は、心血管術前、心血管術中または心血管術後に血管を拡張することによって、哺乳動物における再狭窄を防止する方法も提供する。一態様として、本方法は、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物に投与し、それによって血管を拡張し、再狭窄を防止するステップを含む。
【0038】
さらにまた、本発明は心血管術用の組成物を提供する。一態様として、これらの組成物は、ボツリヌス毒素が結合しているステントまたはボツリヌス毒素が埋め込まれているステントを含む。ボツリヌス毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型もしくはG型ボツリヌス毒素、またはその混合物、またはその組合せなど、任意のボツリヌス毒素であることができる。
【0039】
本明細書に記載する特徴または特徴の組合せは、その文脈、本明細書および当業者の知識から明らかになるように、その組合せに含まれる特徴が互いに相反しないことを条件として、いずれも本発明の範囲に包含される。
本発明の他の利点および側面は、本願請求項および以下の詳細な説明から明らかである。
【0040】
定義
「薬剤」は、本発明に従って使用されるボツリヌス毒素などの神経毒と定義される。薬剤は、無修飾神経毒の生物学的活性の一部または全部を有する神経毒の断片、修飾神経毒または変異型神経毒であることができる。
「血管形成術」とは、血管の内径を機械的に拡大する任意の手術を意味する。
【0041】
「ボツリヌス毒素」は、天然ボツリヌス毒素またはボツリヌス毒素の機能的断片または修飾ボツリヌス毒素を表しうる。また、1つのアミノ酸またはわずかなパーセンテージのアミノ酸(例えば約5%未満、または例えば約1%未満)が欠失、付加、改変または置換されるアミノ酸欠失、アミノ酸付加、アミノ酸改変またはアミノ酸置換を持つボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素の保存的修飾変異体である。ボツリヌス毒素中の1つ以上のアミノ酸を化学的に類似するアミノ酸で置換した場合にも、ボツリヌス毒素の保存的修飾変異体が得られる。機能的に類似するアミノ酸を記載した一覧表は当技術分野ではよく知られている。以下の5つの群は、それぞれ互いに保存的置換であるアミノ酸を含んでいる:脂肪族アミノ酸:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I);芳香族アミノ酸:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);含硫アミノ酸:メチオニン(M)、システイン(C);塩基性アミノ酸:アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H);酸性アミノ酸:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)。Creighton(1984)「Proteins」W. H. Freeman and Company も参照されたい。天然ボツリヌス毒素の保存的修飾変異体は「ボツリヌス毒素」の意味の範囲に包含される。
【0042】
「心血管」とは、血管に関係すること、例えば心臓の血管に関係することを意味する。 「クロストリジウム毒素」または「クロストリジウム神経毒」とは、クロストリジウム細菌属が自然に産生する毒素を意味する。例えば、クロストリジウム毒素には、ボツリヌス毒素、破傷風毒素、ディフィシレ毒素およびブチリカム毒素などがあるが、これらに限るわけではない。クロストリジウム毒素は、既知の組換え手段により、非クロストリジウム細菌を使って製造することもできる。
【0043】
「組合せ」とは、要素の整えられた並びを意味する。例えば、ボツリヌス毒素の組合せとは、E型ボツリヌス毒素の投与、それに続くA型ボツリヌス毒素の投与、それに続くB型ボツリヌス毒素の投与を意味しうる。これは、例えば型の異なる毒素を投与に先立って混合する「混合物」とは対照的な用語である。
【0044】
「損傷」とは、断裂、擦過、伸張、掻爬、打撲および/または炎症、または炎症によって起こる傷害、または手術(例えば機械的な力を使って血管の内径を拡大する手術)を受けている血管で起こりうる他の傷害を意味する。
【0045】
「断片」とは、天然アミノ酸配列のうち5アミノ酸以上を含み、最大で天然配列から少なくとも1つのアミノ酸を差し引いた大きさを持つ、アミノ酸配列を意味する。例えば、A型ボツリヌス毒素軽鎖の断片は、天然A型ボツリヌス毒素軽鎖のアミノ酸配列のうち5アミノ酸以上を含み、最大で天然軽鎖から1アミノ酸を差し引いた大きさを持つ。
【0046】
「HC」とは、クロストリジウム毒素のH鎖から得られる断片であって、H鎖のカルボキシル末端断片と等価(例えば機能的に等価)であるもの、または細胞表面もしくは細胞表面受容体への結合に関与する完全なH鎖中の断片に相当する部分を意味する。
【0047】
「HN」とは、クロストリジウム毒素のH鎖から得られる断片または変異体であって、完全なH鎖のうち、細胞内エンドソーム膜を横切って起こる、細胞の細胞質への少なくともL鎖の移行に関与する部分に機能的に等価でありうるものを意味する。HNは、H鎖からHCが除去された結果として生成しうる。またHNは、H鎖を修飾してそのHCがもはやコリン作動性細胞表面に結合しないようにした結果として得ることもできる。
【0048】
「重鎖」とは、クロストリジウム神経毒の重鎖、またはクロストリジウム神経毒のHNの断片もしくは変異体を意味する。重鎖は約100kDの分子量を持つことができ、H鎖またはHと呼ぶことができる。
【0049】
「LHN」とは、HNにつながれたL鎖を含む、クロストリジウム神経毒から得られる断片を意味する。LHNは、HCドメインが除去または修飾されるようなタンパク質分解によって、完全なクロストリジウム神経毒から得ることができる。
【0050】
「軽鎖」とは、クロストリジウム神経毒の軽鎖、またはクロストリジウム神経毒の軽鎖の断片もしくは変異体を意味する。軽鎖は約50kDの分子量を持つことができ、L鎖、L、またはクロストリジウム神経毒のタンパク質分解ドメインと呼ぶことができる。
「リンカー」とは、2つ以上の他の分子または成分を一つにつなぐ分子を意味する。
【0051】
「修飾神経毒」とは、非天然成分が共有結合している神経毒、および/または神経毒の天然部分が欠けている神経毒を意味する。例えば、修飾ボツリヌス毒素は、サブスタンスP分子が共通結合しているボツリヌス毒素の軽鎖であることができる。
「神経毒」または「毒素」とは、ニューロン機能または細胞分泌を阻害する物質を意味する。クロストリジウム毒素は神経毒の例である。
【0052】
「防止する」とは、全部または一部が起こらないようにすることを意味する。
「軽減する」とは、規模(例えば大きさ、量または数)を小さくすることを意味する。軽減は約1%〜約100%であることができる。例えば、軽減は約1%〜約10%、または約10%〜約20%、または約10%〜約30%、または約10%〜約40%、または約10%〜約50%、または約10%〜約60%、または約10%〜約70%、または約10%〜約80%、または約10%〜約90%、または約10%〜約100%であることができる。
【0053】
「スペーサー」とは、本発明に従って使用される薬剤の成分同士を物理的に引き離しかつ/または本発明に従って使用される薬剤の成分間に距離を加える分子または一組の分子を意味する。
【0054】
「実質的に」とは、ほとんどそうであるが、完全にはそうでないことを意味する。例えば、実質的にとは、約10%〜約99.999%、約20%〜約99.999%、約30%〜約99.999%、約40%〜約99.999%、または約50%〜約99.999%を意味しうる。
【0055】
「ターゲティング成分」とは、ある細胞表面または細胞表面受容体に対して特異的結合親和性を持つ分子を意味する。
【0056】
「変異体」とは、ある開示された分子またはペプチドと、その構造および機能が、実質的に同じ分子またはペプチドを意味する。例えば、ある指定された軽鎖の変異体は、その指定された軽鎖のアミノ酸配列と比較して、アミノ酸配列の相違を持ちうる。変異体は、具体的に開示される分子と等価であると見なすことができ、したがって本発明の範囲に包含される。
【発明を実施するための形態】
【0057】
説明
本発明は、一つには、神経毒、例えばボツリヌス毒素が、心血管疾患の処置、例えば心血管術を受けたことがある患者または心血管術を受けている患者における心血管疾患の処置に、有用であるという発見に基づいている。一態様として、本発明は、心血管術後の再狭窄を軽減または排除する方法を提供する。
【0058】
本明細書に開示する方法が、例えば冠状(心臓)血管、大脳(脳)血管、頚動脈(頚)血管、腎(腎臓)血管、内臓(腹部)血管、腸骨(股関節部)血管、大腿膝窩(大腿部)血管、膝窩下(膝)血管を含む(ただしこれらに限らない)、体内のどの血管にも応用できることは、当業者には理解されるだろう。
【0059】
本発明は、血管(例えば冠動脈)の損傷に直接的または間接的につながりうる手術を受けている、または受けようとしている、または受けたことがある患者の血管への神経毒(例えばボツリヌス毒素)の適用を含む。一態様として、本発明は、血管形成術を受ける患者を、その手術後の再狭窄が軽減または排除されるように処置する方法を提供する。ある態様では、上記血管形成術がステント(例えば自己拡大型ステント)の使用を含む。もう一つの態様では、上記血管形成術がバルーン血管形成術である。もう一つの態様では、上記血管形成術が、ステントの使用を含むバルーン血管形成術である。もう一つの態様では、上記血管形成術が、ステントの使用を含まないバルーン血管形成術である。
【0060】
どの作用理論または作用機序にも本発明を限定するつもりはないが、本方法は、処置しなければ閉塞するか部分的に閉塞する血管の機械的拡大に伴って起こりうる血管への損傷を防止すると考えられる。したがって、本発明の方法では、そのような損傷の結果として起こりうる再狭窄を、防止することができる。防止しうる損傷の例は、断裂、擦過、伸張、掻爬、打撲および/または炎症もしくは炎症が引き起こす傷害、または手術(例えば血管の内径を機械的な力を使って拡大する手術)を受ける血管で起こりうる他の傷害である。
【0061】
血管に損傷が生じるのを防止するボツリヌス毒素の作用機序は完全には分かっていないが、本発明者は考えうる作用理論として少なくとも2つの理論を提案する。ただし特定の作用理論または作用機序に本発明を限定するつもりはない。
【0062】
一例として、これらの毒素は、血管に対して拡張作用を発揮し、その結果、血管の内径を含む血管の直径を増大させると考えられる。光干渉断層法を使って、毒素が示す拡張作用の尺度を得ることができる。毒素の拡張作用は、その毒素を投与する前に血管開口部が持っていた元の大きさに対する係数として定量化することができる。一態様として、血管開口部は、毒素を投与する前の開口部の大きさに対して約1.5倍〜約100倍まで拡張することができる。例えば、血管開口部は、毒素を投与する前の開口部の大きさに対して約2倍〜約5倍まで拡張することができる。もう一つの例では、毒素を投与する前の開口部の大きさに対して、約2倍〜約10倍まで、血管開口部を拡張することができる。もう一つの例では、毒素を投与する前の開口部の大きさに対して、約2倍〜約30倍まで、血管開口部を拡張することができる。もう一つの例では、毒素を投与する前の開口部の大きさに対して、約2倍〜約50倍まで、血管開口部を拡張することができる。もう一つの例では、毒素を投与する前の開口部の大きさに対して、約50倍〜約100倍まで、血管開口部を拡張することができる。
【0063】
血管を拡張することにより、インターベンション術に対する血管の受容性を高めることができる。例えば、バルーン血管形成術および/またはステントの挿入または他の機械的インターベンションが血管を損傷する可能性は、血管が拡張した状態にある場合には、少なくなると考えられる。血管への薬剤の投与により、血管形成術などの手術を行う前に、血管を拡張することができる。通常の技術を持つ医師は、拡張が起こったかどうか、そして拡張がどの程度起こったかを決定することができる。例えば、光干渉断層法を使ってこれらの決定を行うことができる。
【0064】
本発明を限定するものではないが、もう一つの作用理論では、本明細書に開示する毒素が炎症媒介細胞、例えば血管内皮細胞に作用すると考えられる。これらの細胞は生物学的に活性な多くの炎症媒介物質を与え、それらの媒介物質にはブラジキニン、一酸化窒素および血管作用性小腸ペプチドが含まれうる。これらの媒介物質および/または他の媒介物質の放出は、再狭窄の一因となりうる血管炎症を引き起こす事象の一因になりうる。
【0065】
分泌またはエキソサイトーシスに際して、媒介物質は小胞に含まれていると考えられ、その小胞は細胞膜の内面に融合することにより、小胞の内容物を細胞外に放出する。このエキソサイトーシス過程の妨害がクロストリジウム毒素の作用様式でありうると理論づけられる。
【0066】
クロストリジウム毒素は、その軽鎖成分(例えばボツリヌス軽鎖成分)を利用して、分泌過程に関与するタンパク質を切断するか切断以外の形でその機能を妨害することにより、血管細胞または他の細胞における炎症誘発分子の分泌を防止または軽減することによって作用しうると理論づけられる。本発明のある種の態様では、重鎖成分(例えばHN)も、例えば、細胞内小胞(例えばエンドソーム)からの本発明薬剤の放出を助けることなどによって機能しうる。
【0067】
どの作用理論または作用機序にも本発明を限定するつもりはないが、炎症は直接的または間接的に再狭窄の一因になりうると推測される。例えばバルーン血管形成術および/またはステントの挿入などの心血管術に付随して起こりうる血管の炎症を防止または軽減することにより、心血管術を受けた患者における再狭窄を軽減することができる。
【0068】
本願発明の有効性に関して考えうるもう一つの機序は、ニューロンが媒介する血管収縮を阻害するというボツリヌス毒素の作用である。ボツリヌス毒素で前処置することにより、伸張後収縮を阻害することができる。毒素の天然結合部分の全部または一部が、処置すべき血管を神経支配する交感神経細胞上のα2受容体に毒素を誘導する新たな結合部分で置き換えられた標的指向型毒素であるボツリヌス毒素は、本発明の範囲に包含される。また、拡張を引き起こすために、NOを局所的に誘導することもできる。
【0069】
本発明で使用される神経毒は、ターゲティング成分、処置成分、および移行成分を含みうる。
ある態様では、上記ターゲティング成分が、ブチリカム毒素、破傷風毒素、またはA型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素を含むボツリヌス毒素の重鎖のカルボキシル末端断片を含む。
【0070】
もう一つの態様として、上記ターゲティング成分は非ボツリヌス毒素由来の成分であってもよい。本発明において使用しうるターゲティング成分の例は、抗体、モノクローナル抗体、抗体断片(Fab、F(ab)'2、Fv、ScFv、および同様の他の抗体断片)、レクチン、ホルモン、サイトカイン、成長因子、ペプチド、糖質、脂質、グリコンおよび核酸などであるが、これらに限るわけではない。本発明に役立ちうる他のターゲティング成分は、参照により本明細書にそのまま組み込まれるWO01/21213に開示されている。
【0071】
本発明で使用されるターゲティング成分の典型例の一つは、サブスタンスPまたはサブスタンスPに類似する物質である。サブスタンスPまたはサブスタンスPに類似する物質をターゲティング成分として使用することは、米国特許出願第09/489,667号、第09/922,093号および第09/625,098号に記載されており、これらの特許出願はそれぞれ参照により本明細書にそのまま組み込まれる。
【0072】
処置成分は、形質膜の細胞質面による分泌小胞の認識およびドッキングならびにその小胞と形質膜との融合に不可欠なタンパク質を選択的に切断するように作用する。処置成分の作用の一つは、細胞からの神経伝達物質の放出を実質的に妨害することでありうる。処置成分のもう一つの作用は、血管の拡張を引き起こすことでありうる。もう一つの作用は、平滑筋組織の弛緩性麻痺を引き起こすことでありうる。もう一つの作用は、炎症誘発細胞などの細胞からの分泌を軽減または排除することでありうる。ある態様では、上記処置成分が、ブチリカム毒素、破傷風毒素、ボツリヌス毒素、例えばA型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素の軽鎖を含む。
【0073】
移行成分は、神経毒の少なくとも一部(例えば処置成分)が標的細胞の細胞質内に輸送されやすくなるようにすることができる。ある態様では、上記移行成分が、ブチリカム毒素、破傷風毒素、ボツリヌス毒素、例えばA型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素の重鎖のアミノ末端断片を含む。
【0074】
本発明の基本的一側面によれば、組換えDNA法を使って、本発明に役立つ薬剤の成分を製造することができる。これらの技術は、例えばボツリヌス神経毒の重鎖、軽鎖またはその変異体、修飾ボツリヌス神経毒鎖および/またはそれらの鎖の断片などといった、ボツリヌス神経毒成分をコードしうるクローン化遺伝子を、自然界から、または合成オリゴヌクレオチド配列から取得するステップを含みうる。クローン化遺伝子はターゲティング成分をコードしてもよい。
【0075】
上記の遺伝子は、例えば、ファージまたはプラスミドまたはファージミドなどのクローニングベクターにクローン化することができる。組換えベクターを宿主細胞、例えば大腸菌などの原核細胞に形質転換する。タンパク質を発現させた後、それらを通常の技術で単離することができる。
【0076】
2つ以上の薬剤成分をコードする融合遺伝子を使用することができる。例えば、ターゲティング成分とボツリヌス毒素重鎖および/または軽鎖および/または重鎖断片および/または軽鎖断片とを、一つのクローン化遺伝子から融合タンパク質として生成させることができる。あるいは、組換え技術によって取得した個々の成分を、同様の供給源または他の供給源から取得した他の成分に、化学的につなぐこともできる。例えば、ターゲティング成分を、組換えL鎖または組換え融合LHNにつなぐことができる。ボツリヌス成分とターゲティング部分との連結部分は適当なスペーサー成分を含むことができ、そのスペーサー成分もDNAにコードされていてよい。
【0077】
ある態様では、型の異なるボツリヌス毒素に由来するL鎖とHNとのハイブリッドであってもよいLHNを、融合タンパク質として組換え発現させる。そのようなLHNハイブリッドは、ターゲティング成分につなぐこともできる。LとHNの間および/またはLHNとターゲティング成分の間に1つ以上のスペーサーが含まれていてもよい。
【0078】
本発明のもう一つの態様では、本発明で使用される薬剤を製造するために、ボツリヌス神経毒のL鎖またはエンドペプチダーゼ活性を含むL鎖の断片を組換え発現させる。
【0079】
本発明のもう一つの態様では、ボツリヌス神経毒のL鎖またはエンドペプチダーゼ活性を含むL鎖の断片を、H鎖のHNおよびターゲティング成分との融合タンパク質として、組換え発現させる。発現した融合タンパク質は1つ以上のスペーサー領域を含んでもよい。例えば、L鎖をHNに融合し、そのHNをターゲティング成分に融合することができる。もう一つの例として、HNをL鎖に融合し、そのL鎖をターゲティング成分に融合することもできる。スペーサー成分は、本発明の薬剤を構成する成分の一部または全部の間に、組換え発現させることができる。
【0080】
LHNのハイブリッドを製造する一例では、L鎖をB型ボツリヌス毒素から取得し、HN鎖断片のアミン末端セグメントを、A型ボツリヌス毒素から取得する。A型ボツリヌス毒素のHN断片は、Shone C.C., Hambleton, P. および Melling, J. が記載した方法(1987, Eur. J. Biochem. 167, 175-180)に従って製造され、B型ボツリヌス毒素のL鎖は、Sathyamoorthy, V. および DasGupta, B. R. の方法(1985, J. Biol. Chem. 260, 10461-10466)に従って製造される。次に、10倍モル過剰のジピリジルジスルフィドを添加した後、4℃で終夜インキュベートすることによって、A型ボツリヌス毒素のH鎖断片のアミン末端セグメントに含まれる遊離システインを誘導体化する。次に、PD10カラム(ファルマシア)でタンパク質をPBS中に脱塩することにより、過剰のジピリジルジスルフィドおよびチオピリドン副生成物を除去する。
【0081】
次に、誘導体化したHNを濃縮して1mg/mlを超えるタンパク質濃度にしてから、B型ボツリヌス毒素に由来する等モル量のL鎖(PBS中、>1mg/ml)と混合する。室温で終夜インキュベートした後、Superose 6(ファルマシア)でのサイズ排除クロマトグラフィーによって混合物を分離し、その画分をSDS−PAGEで分析する。次に、そのキメラLHNを利用して、ターゲティング成分を含む複合剤を製造することができる。
【0082】
上述の例は単に本発明を例証しているに過ぎない。薬剤の合成に際して、ボツリヌス成分(例えば修飾ボツリヌス神経毒またはその断片)へのターゲティング部分のカップリングは、当業者に知られる試薬および技術を使った化学的カップリングによって達成することができる。したがって、薬剤のターゲティング部分をボツリヌス神経毒成分に共有結合させることができるカップリング化学であって当業者に知られているものはいずれも、本願の範囲に含まれる。
【0083】
生物学的持続性および/または生物学的活性が変化している修飾ボツリヌス毒素を本発明に使用することが考えられる。米国特許出願第09/620,840号および第09/910,346号には、ボツリヌス毒素の生物学的持続性を変化させるための方法および組成物の例が記載されている。これら2件の特許出願は参照により本明細書にそのまま組み込まれる。
【0084】
生物学的持続性強化成分および/または生物学的活性強化性分、例えばロイシン系モチーフを、ボツリヌス神経毒に付加することによって、そのボツリヌス神経毒の生物学的持続性および/または生物学的活性を増加させることができる。同様に、生物学的持続性強化成分をボツリヌス神経毒から除去することによって、その神経毒の生物学的持続性および/または生物学的活性を減少させることもできる。
【0085】
ボツリヌス神経毒はハイブリッド神経毒であることができる。例えば、神経毒のターゲティング成分、移行成分および処置成分は、血清型の異なるボツリヌス毒素に由来してもよい。例えば、本ポリペプチドは、A型ボツリヌス毒素のHCに由来する第1アミノ酸配列領域、B型ボツリヌス毒素のHNに由来する第2アミノ酸配列領域、およびE血清型ボツリヌス毒素の軽鎖に由来する第3アミノ酸配列領域を含むことができる。これは単なる一例であり、他の考えうる組合せはすべて本発明の範囲に包含される。
【0086】
神経毒のターゲティング成分、移行成分および処置成分は、それらの元となった天然配列から修飾されていてもよい。例えば、上記アミノ酸配列領域では、天然配列と比較して、少なくとも1つ以上のアミノ酸が付加、欠失または置換されていてもよい。
【0087】
生物学的持続性強化成分に含まれるアミノ酸の代わりに使用することができるアミノ酸には、アラニン、アスパラギン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンおよび他の天然アミノ酸ならびに非標準アミノ酸が含まれる。
【0088】
本発明の方法では約1%〜約100%の有効性で再狭窄が軽減される。軽減は、例えば約1%〜約10%、または約10%〜約20%、または約10%〜約30%、または約10%〜約40%、または約10%〜約50%、または約10%〜約60%、または約10%〜約70%、または約10%〜約80%、または約10%〜約90%、または約10%〜約100%でありうる。
【0089】
一般に、投与すべき神経毒の用量は、処置される患者の年齢、病態および体重によって変動しうる。神経毒の効力も考慮されることになる。毒素効力はマウスに関するLD50値の倍数として表される。1「単位」の毒素は、毒素の接種前には疾患を持たないマウス群の50%を殺す毒素量と定義することができる。例えば、市販のA型ボツリヌス毒素は、典型的には、1ナノグラムが約40マウス単位を含むような効力を持っている。アラガン社(Allergan, Inc.)が「BOTOX」という登録商標で供給しているA型ボツリヌス毒素製品のヒトでの効力またはLD50は、約2,730マウス単位であると考えられる。
【0090】
神経毒は約0.001単位〜約100単位の用量で投与することができる。ある態様では、約0.01単位〜約5単位の個別投薬量を使用する。もう一つの態様では、約0.01単位〜約3単位の個別投薬量を使用する。さらにもう一つの態様では、約0.01単位〜約1単位の個別投薬量を使用する。さらにもう一つの態様では、約0.05単位〜約1単位の個別投薬量を使用する。一定の状況で、より大きいまたはより小さい効力を持つ神経毒の投薬量を調節する方法は、当業者には知られているか、当業者であれば容易に確かめることができる。
【0091】
修飾型または変異型ボツリヌス毒素について、効力を、マウスに関する本発明薬剤のLD50値の倍数として表すことができる。1「U」または1「単位」の薬剤は、薬剤の接種前には疾患を持たないマウス群の50%を殺す毒素量と定義することができる。あるいは、効力を、等モル量の天然非変異型ボツリヌス毒素がもたらすであろう薬剤のLD50値として表してもよい。
【0092】
好ましくは最低処置有効量を患者に投与する。最低処置有効量とは、毒素の投与を受ける患者の血管に対して望ましい作用をもたらす投薬量である。当業者であれば、血管に対する毒素の作用を評価または定量する方法を決定することができる。例えば、光干渉断層法を使って、毒素の拡張作用の尺度を得ることができる。
【0093】
最初の処置では、低用量を投与して、その神経毒に対する患者の感受性および耐性を決定することができる。必要に応じて、同じ投薬量または異なる投薬量を血管に更に投与することができる。例えば、冠血管形成術などの手術を実施する前および/またはその手術中および/またはその手術後に、毒素を血管に投与することができる。投与回数と投与時機は担当医が決定してよい。
【0094】
神経毒は、例えば、針を使った血管への注射や、針なし注射などによって、投与することができる。毒素は、軟膏、ローション、クリーム、エマルジョンなどの送達基剤に入った毒素を、血管壁に適用することによって投与することもできる。
【0095】
ある態様では、本発明の薬剤を注射によって患者に投与する。例えば、患者の心血管系に薬剤を注射することができる。特に、注射は動脈、例えば冠動脈に行うことができる。典型的には、手術(例えば閉塞した血管の内径を機械的に拡大するための手術)を受けることになっている血管の領域に、注射を行う。
【0096】
薬剤は血管の外側から血管壁に注射するか、または血管の内側から血管壁に注射することができる。血管壁に注射する方法は当業者にはよく知られている。例えば、薬剤は、1本以上の注射針を含むカテーテルを利用して、血管の内側から血管壁に注射することができる。
【0097】
針なし注射送達法では、マイクロプロジェクタイル薬物粒子を神経毒で被覆した後、体外送達装置から血管中に発射する。発射速度および注射部位からの距離に依存して、薬物粒子は血管の異なる層を貫通する。マイクロプロジェクタイルが血管細胞を貫通するか、血管細胞内に沈着する時に、神経毒が放出される。血管の個々の層を、マイクロプロジェクタイルの標的にすることができる。
【0098】
神経毒は、ボツリヌス毒素などの毒素を被覆または含浸したステントまたは血管形成術用バルーンを使って投与することもできる。米国特許第6,306,423号および第6,312,708号には、毒素を含浸、取り付けまたは包埋することができる材料が開示されており、それらを使ってステントおよび/または血管形成術用バルーンを被覆することができる。また、この材料を使って、毒素を含むステントを形成することもできる。これら2件の特許に記載されている内容は、参照により本明細書にそのまま組み込まれる。ある態様では、処置すべき血管にまずボツリヌス毒素を投与してから、毒素を含むステントおよび/またはバルーンを挿入する。もう一つの態様では、処置すべき血管に前もって毒素を投与せずに、ボツリヌス毒素を含むステントおよび/またはバルーンを挿入する。
【0099】
必要であれば、投与を繰り返すことができる。一般的指針として、血管に投与されたA型ボツリヌス毒素は、例えば約1ヶ月〜約3ヶ月、または例えば約3ヶ月〜約6ヶ月、または例えば約6ヶ月〜約1年にわたって、拡張および/または抗炎症作用をもたらすことができる。
【0100】
上記の薬剤には、冠血管形成術などの手術を行う前に、血管に対するその作用を発揮させることができる。例えば、薬剤には、手術を始める前に、血管を拡張させ、かつ/または血管の炎症を防止させることができる。通常の技術を持つ医師であれば、薬剤が血管に対するその作用をいつ発揮したか決定することができる。
【0101】
本発明の好ましい態様を次に挙げる:
[項1]
哺乳動物の心血管疾患を処置する方法であって、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物の血管に直接投与し、それによって心血管疾患を処置するステップを含む方法。
[項2]
哺乳動物が心血管術を受けているか、または心血管術を受けたことがある上記項1に記載の方法。
[項3]
心血管疾患の処置によって再狭窄を防止する上記項1に記載の方法。
[項4]
心血管術が動脈心血管術である上記項2に記載の方法。
[項5]
心血管術が冠動脈心血管術である上記項2に記載の方法。
[項6]
心血管術が血管形成術を含む上記項2に記載の方法。
[項7]
血管形成術が、血管内にステントを挿入するステップを含まない上記項6に記載の方法。
[項8]
投与が、血管壁にボツリヌス毒素を注射するステップを含む上記項1に記載の方法。
[項9]
投与ステップを、ボツリヌス毒素を被覆または含浸したステントを使って達成する上記項1に記載の方法。
【0102】
[項10]
ボツリヌス毒素が血管の損傷を軽減または排除する上記項1に記載の方法。
[項11]
ボツリヌス毒素が、血管の拡張により、血管の損傷を軽減または排除する上記項10に記載の方法。
[項12]
ボツリヌス毒素が、血管の炎症を軽減または排除することにより、血管の損傷を軽減または排除する上記項10に記載の方法。
[項13]
ボツリヌス毒素が、A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型ボツリヌス毒素、その混合物、およびその組合せから成る群から選択される上記項1に記載の方法。
[項14]
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である上記項1に記載の方法。
【0103】
[項15]
心血管術後に起こりうる哺乳動物の血管の再狭窄を防止する方法であって、哺乳動物に有効量のボツリヌス毒素を投与し、それによって血管の再狭窄を防止するステップを含む方法。
[項16]
心血管術中または心血管術後に起こりうる血管の損傷を防止することによって、哺乳動物における再狭窄を防止する方法であって、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物に投与し、それによって血管の損傷を防止し、再狭窄を防止するステップを含む方法。
[項17]
心血管術中または心血管術後に起こりうる血管の炎症を防止することによって、哺乳動物における再狭窄を防止する方法であって、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物に投与し、それによって血管の炎症を防止し、再狭窄を防止するステップを含む方法。
[項18]
心血管術前または心血管術中に血管を拡張することによって、哺乳動物における再狭窄を防止する方法であって、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物に投与し、それによって血管を拡張し、再狭窄を防止するステップを含む方法。
【0104】
[項19]
ボツリヌス毒素を付着するかまたは埋め込んだステントを含む、心血管術用の組成物。
[項20]
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である上記項19に記載の組成物。
【0105】
本発明を詳しく説明したので、本発明の実施を例証する実施例を以下に記載する。ただし、本願の請求項によって定義される本発明の範囲を、これらの実施例が限定すると考えてはならない。
実施例
【実施例1】
【0106】
ステントを使用しないバルーン血管形成術におけるボツリヌス毒素の使用
54歳の男性患者が救急外来検査で胸痛を訴える。この患者は1日に2〜3箱のタバコを吸い、平均的な体重を持ち、冠動脈閉鎖の家族歴がある。この患者は左冠動脈に閉塞があると診断される。冠血管造影図を使って、動脈の狭窄を測定する。この患者は左冠動脈が80%閉塞していると見積もられる。この患者にはバルーン血管形成術を翌週行うことにする。
【0107】
医師は、約0.05単位〜約5単位のA型ボツリヌス毒素を患者の左冠動脈壁に注射することによって、手術を開始する。注射に続いて、動脈を拡張させる。次に、鼠蹊部/大腿上部から患者の大腿動脈に3ミリメートルのノンコンプライアント・バルーンカテーテルを挿入する。次に、ビデオモニタを使って作業を誘導しながら、動脈を通してカテーテルを心臓まで送り込む。閉鎖した動脈の位置までガイドワイヤを前進させ、そのガイドワイヤに沿って標的冠血管閉鎖部位にバルーンカテーテルを通す。カテーテルが標的部位に到達したら、数秒〜数分にわたってバルーンを膨張させる。バルーンの収縮後に、同じ部位をさらに1回以上の膨張で処置することができる。処置した動脈への損傷はほとんどないかまたは全くないことが、検査によってわかる。
この手術の一年後に再狭窄の徴候はなく、患者の健康状態は良好なようである。
【実施例2】
【0108】
ステントを使用するバルーン血管形成術におけるボツリヌス毒素の使用
約30%の過体重で血清コレステロールレベルが約260である62歳の男性患者が胸痛を訴える。この患者には冠動脈閉鎖があると診断され、経皮経管冠血管形成術を行うことにする。
【0109】
約0.01単位〜約1単位のボツリヌス毒素を、閉鎖部位の動脈壁に直接注射する。注射に続いて、動脈を拡張させる。次に、手首部分から患者の骨間動脈に3ミリメートルのコンプライアント・バルーンカテーテルおよびステントを挿入する。次に、骨間動脈を通してカテーテルおよびステントを閉鎖部位まで送り込む。閉鎖した動脈の位置までガイドワイヤを前進させ、そのガイドワイヤに沿って標的冠血管閉鎖部位にカテーテルおよびステントを通す。カテーテルが標的部位に到達したらバルーンを膨張させ、それに応じてステントを拡大して、動脈を開いた状態で支える。バルーンを収縮させて除去し、拡大したステントを適所に残す。動脈への損傷の徴候はない。
この手術の6ヶ月後に再狭窄の徴候はなく、患者の健康状態は良好なようである。
【実施例3】
【0110】
再狭窄の進行症例を処置するためのステント併用バルーン血管形成術におけるボツリヌス毒素の使用
49歳の男性患者が、再狭窄の結果として、冠動脈閉鎖と診断される。この患者には冠動脈閉鎖の病歴があり、過去にバルーン血管形成術を受けた。その手術の6ヶ月後に患者は再狭窄の進行症例と診断される。
【0111】
この患者は、A型、B型、C型、D型、D型、F型および/またはG型ボツリヌス毒素を使った経皮経管冠血管形成術を受ける。約0.1単位〜約4単位のボツリヌス毒素を再狭窄部位の血管壁に注射する。注射に続いて動脈を拡張させる。次に、患者の大腿動脈に4ミリメートルのコンプライアント・バルーンカテーテルおよびステントを挿入する。次に、ビデオモニタを使って作業を誘導しながら、動脈を通してカテーテルおよびステントを閉鎖部位まで送り込む。閉鎖した動脈の位置までガイドワイヤを前進させ、そのガイドワイヤに沿って標的冠血管閉鎖部位にカテーテルおよびステントを通す。カテーテルおよびステントが標的部位に到達したら、バルーンを膨張させ、それに応じてステントを拡大して、動脈を開いておく。バルーンを収縮させて除去し、拡大したステントを適所に残す。この手術の3〜6ヶ月後に、血管のステント部位にボツリヌス毒素を再注射する。
上記手術の2年後に再狭窄の徴候はなく、患者の健康状態は良好なようである。
【実施例4】
【0112】
ボツリヌス毒素を含浸したステントを使用するバルーン血管形成術
58歳の女性患者が冠動脈閉鎖と診断される。この患者には、A型、B型、C型、D型、E型、F型および/またはG型ボツリヌス毒素を含浸したステントを用いる経皮経管冠血管形成術を行うことにする。
【0113】
約0.1〜約2単位のボツリヌス毒素を、閉鎖部位の血管壁に注射する。注射に続いて動脈を拡張させる。次に、2ミリメートルのコンプライアント・バルーンカテーテル、およびボツリヌス毒素を被覆または含浸したステントを、患者の大腿動脈に挿入する。ビデオモニタを使って作業を誘導しながら、大腿動脈を通してカテーテルおよびステントを閉鎖部位まで通す。閉鎖した動脈の位置までガイドワイヤを前進させ、そのガイドワイヤに沿ってカテーテルおよびステントを標的冠血管閉鎖部位まで通す。カテーテルおよびステントが標的部位に到達したら、バルーンを膨張させ、それに応じてステントを拡大して、動脈を開いた状態で支える。バルーンを収縮させて除去し、拡大したステントを適所に残す。
この手術の1年後に再狭窄の徴候はなく、患者の健康状態は良好なようである。
【実施例5】
【0114】
ボツリヌス毒素を含浸した自己拡大型ステントを使用するバルーン血管形成術
50歳の男性患者が、左冠動脈の冠動脈閉鎖と診断され、ボツリヌス毒素を含浸した自己拡大型ステントを使った経皮経管冠動脈形成術を受けることになる。
【0115】
医師は、約0.1単位〜約5単位のA型ボツリヌス毒素を患者の左冠動脈壁に注射することによって、手術を開始する。注射に続いて、動脈を拡張させる。次に、ボツリヌス毒素を含浸した自己拡大型ステントを、カテーテルと共に、手首部分から患者の総骨間動脈に挿入する。骨間動脈を通して閉鎖部位までカテーテルおよびステントを通す。閉鎖した動脈の位置までガイドワイヤを前進させて、ボツリヌス毒素含浸自己拡大型ステントを標的冠血管閉鎖部位に進める。カテーテルが標的部位に到達したら、ステントを拡大して、動脈を開いた状態で支える。
この手術の2年後に再狭窄の徴候はなく、患者の健康状態は良好なようである。
【実施例6】
【0116】
カテーテル注射システムを使ったボツリヌス毒素の注射
51歳の女性患者が胸痛を訴える。この患者は過体重で、血清コレステロールレベルは約270である。この患者には冠動脈閉鎖があると診断される。冠血管造影図を使って、動脈の狭窄を測定する。この患者は冠動脈が70%〜90%閉塞していると見積もられる。この患者には経皮経管冠血管形成術を行うことにする。
【0117】
約0.01単位〜約3単位のボツリヌス毒素を、閉鎖部位の動脈壁に直接注射する。注射のために、1本以上の注射針を含むカテーテルを、鼠蹊部/大腿上部から患者の大腿動脈を通して、冠動脈閉鎖部位まで挿入する。その位置で、閉塞した血管の内壁にボツリヌス毒素を注射する。
【0118】
ボツリヌス毒素の注射に続いて、動脈を拡張させる。次に、3ミリメートルのコンプライアント・バルーンカテーテル、およびA型ボツリヌス毒素を含浸したステントを、患者の大腿動脈に挿入する。ビデオモニタを使って作業を誘導しながら、大腿動脈を通してカテーテルおよびステントを閉鎖部位まで送り込む。ガイドワイヤを閉鎖した動脈の位置まで前進させ、そのガイドワイヤに沿ってカテーテルおよびステントを標的冠血管閉鎖部位に通す。カテーテルが標的部位に到達したら、バルーンを膨張させ、それに応じてステントを拡大して、動脈を開いた状態で支える。バルーンを収縮させて除去し、拡大したステントを適所に残す。血管への損傷の徴候はない。
この手術の1年後に再狭窄の徴候はなく、患者の健康状態は良好なようである。
【0119】
本発明の範囲には、心血管疾患を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素などの神経毒の使用も包含される。
上述の文献、論文、特許、特許出願および刊行物はすべて参照により、本明細書に、そのまま組み込まれる。
したがって、本願請求項の精神および範囲を、上述した好ましい態様の説明に限定してはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の心血管疾患を処置する方法であって、有効量のボツリヌス毒素を哺乳動物の血管に直接投与し、それによって心血管疾患を処置するステップを含む方法。

【公開番号】特開2013−53167(P2013−53167A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−277214(P2012−277214)
【出願日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【分割の表示】特願2009−32291(P2009−32291)の分割
【原出願日】平成15年3月24日(2003.3.24)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】