説明

志賀毒素および志賀様毒素を阻害するための組成物および方法

本発明は、志賀毒素産生細菌による感染を治療または予防するための組成物および方法を提供する。本発明は、志賀毒素および/または志賀様毒素の宿主細胞表面への結合に影響する(すなわち、遮断する、阻害する)糖鎖エピトープが、高密度で、ムチン型タンパク質主鎖上の種々のコア糖鎖によって特異的に発現され得るという発見に一部基づいている。このポリペプチドは、本明細書において志賀毒素阻害性(STI)融合タンパク質またはSIポリペプチドと称される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して志賀毒素産生細菌および志賀様毒素産生細菌による感染を治療または予防するための組成物および方法に関し、より具体的には、志賀毒素および志賀様毒素を阻害する糖鎖エピトープを含む融合ポリペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
志賀毒素および志賀様毒素は、毒性のAサブユニットと5つの糖鎖結合性Bサブユニットからなる。志賀毒素はShigella dysenteriaeによって産生される。この毒素は、Gb3(Galα4Galβ4Glcβ1Cer)発現細胞に結合し、内部移行するとタンパク質合成を阻害し、それにより感染個体において下痢、出血性大腸炎または溶血性尿毒症症候群が生じる。S.dysenteriaeの感染によって誘発されるサイトカインにより、一部の細胞においてGb3産生が引き起こされ得ることが示されている。志賀様毒素1は志賀毒素とほぼ同一であり、同様にGb3を認識する。志賀様毒素2は違う形態で存在し、その大部分は同様にGb3を認識するが、ある形態はGb4(GalNAcβ3Galα4Galβ4Glcβ1Cer)にも結合することが示されている。複数の研究により、糖鎖リガンドの脂質部も認識において重要な役割を果たしていることが示されている。志賀様毒素1および志賀様毒素2は主に腸管出血性大腸菌(EHEC)によって産生されるが、Aeromononas caviae、Aeromononas hydrophila、Citrobacter freundiiおよびEnterobacter cloacaeによっても産生される。志賀毒素と志賀様毒素間に類似性があるにもかかわらず、細胞への作用および宿主免疫系との相互作用に関しては相違がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、志賀毒素および/または志賀様毒素の宿主細胞表面への結合に影響する(すなわち、遮断する、阻害する)糖鎖エピトープが、高密度で、ムチン型タンパク質主鎖上の種々のコア糖鎖によって特異的に発現され得るという発見に一部基づいている。このポリペプチドは、本明細書において志賀毒素阻害性(STI)融合タンパク質またはSIポリペプチドと称される。公知の細菌毒素結合活性を有する糖鎖決定基で覆われた十分なO−結合型グリカンを担持するこれらの重度にグリコシル化された組換え型タンパク質は、デコイとして、また、例えば気道または消化管における細菌毒素感染を特異的に予防する(例えば立体的に阻害する)ように働き得る。この融合タンパク質は、毒性が低く、薬物に対する細菌の耐性を誘発する危険性が少ない。
【0004】
一態様において、本発明は、Galα4Galβ3GalNAcα糖鎖エピトープおよび/またはGalα4Galβ4GlcNac糖鎖エピトープを担持し、第2のポリペプチドに作動可能に連結された第1のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを提供する。第1のポリペプチドはこれらのエピトープに対して多価である。第1のポリペプチドは、例えば、PSGL−1またはその一部分などのムチンポリペプチドである。ムチンポリペプチドはPSGL−1の細胞外部分であることが好ましい。
【0005】
第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも一領域を含む。例えば、第2のポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖ポリペプチドの一領域を含む。あるいは、第2のポリペプチドは免疫グロブリン重鎖のFc領域を含む。
【0006】
融合ポリペプチドは多量体である。融合ポリペプチドは二量体であることが好ましい。
【0007】
SI融合ポリペプチドをコードする核酸、ならびにここに記載したSI融合ポリペプチドコード核酸を含有するベクターおよびここに記載したベクターまたは核酸を含有する細胞も、本発明に含まれる。場合によって、ベクターは、所望の糖鎖エピトープを合成するために必要な1種または複数種のグリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸をさらに含む。例えば、ベクターはα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする核酸、および場合によってコア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードする核酸を含有する。
【0008】
別の態様において、本発明は、志賀毒素および/または志賀様毒素の細胞表面への結合を阻害する(例えば減少させる)方法を提供する。志賀毒素産生細菌および/もしくは志賀様毒素産生細菌または遊離の志賀毒素および志賀様毒素をSI融合ポリペプチドと接触させることによって結合を阻害する。本発明は、患者における志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染、または志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染に付随する障害の症状を、志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染を受けている、またはそれを生じる危険性のある患者を識別し、その患者に本発明の融合ポリペプチドを投与することによって予防または緩和する方法も特色とする。細菌は、例えば、Shigella dystenteriae(S.dysenteriae)、Escheria Coli(E.Coli)、腸管出血性大腸菌、Aeromononas caviae(A.caviae)、Aeromononas hydrophila(A.hydrophila)、Citrobacter freundii(C.freundii)およびEnterobacter cloacae(E.cloacae)である。
【0009】
対象は、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタなどの哺乳動物である。対象は、志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染、または志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染に付随する障害を受けている、またはそれを生じる危険性がある。志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染、または志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌の感染に付随する障害を受けている、またはそれを生じる危険性がある対象は、当技術分野で公知の方法によって識別される。
【0010】
本発明の融合ポリペプチドを含む医薬組成物も本発明に含まれる。
【0011】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似しているまたは同等である方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で挙げた全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、その全体が参照により組み込まれている。矛盾する場合は、定義を含め、本明細書に支配される。さらに、材料、方法および実施例は例示しているのみであり、限定するものではない。
【0012】
本発明の他の特色および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、志賀毒素および/または志賀様毒素の結合活性に影響する(すなわち、遮断する、阻害する)糖鎖エピトープが、糖タンパク質、例えばムチン型タンパク質主鎖上に高密度で特異的に発現され得るという発見に一部基づいている。このより高い密度の糖鎖エピトープにより、単価のオリゴ糖および野生型、例えば未変性の非組換えで発現された糖タンパク質と比較して結合価および親和性が増加する。
【0014】
志賀毒素産生細菌および志賀様毒素産生細菌は、特異的な細胞表面糖脂質であるGb3(Galα4Galβ4Glcβ1Cer)および/またはGb4(GalNAcβ3Galα4Galβ4Glcβ1Cer)を介して宿主細胞に結合する。宿主細胞の表面に結合すると、毒素は内部移行し、標的細胞内部のタンパク質合成の阻害を引き起こす。細胞に入った後、タンパク質はN−グリコシダーゼとして機能し、リボソームを含むRNAからいくつかの核酸塩基を切断し、それによってタンパク質合成が停止し、その結果、下痢、出血性大腸炎および/または溶血性尿毒症症候群が生じる。
【0015】
本発明は、志賀毒素および/または志賀様毒素と宿主細胞表面との間の結合相互作用に影響を及ぼす(すなわち、遮断する、阻害する)のに有用な、多数のGalα4Galβ3GalNAcαエピトープおよび/またはGalα4Galβ4GlcNAcエピトープを含有する糖タンパク質−免疫グロブリン融合タンパク質(本明細書では「SI融合タンパク質またはSI融合ペプチド」と称する)を提供する。エピトープは末端である、すなわちグリカンの末端にある。SI融合タンパク質は、志賀毒素および/または志賀様毒素の細胞表面への結合を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または100%阻害する。例えば、SI融合タンパク質は、志賀毒素、志賀様毒素1および/または志賀様毒素2の宿主細胞表面への結合を阻害するのに有用である。
【0016】
SI融合ペプチドは、志賀毒素および/または志賀様毒素を阻害する結合活性において、糖鎖のモルベースで遊離のサッカライドと比較して効率的である。SI融合ペプチドは、同等量の遊離のサッカライドと比較して、2倍、4倍、10倍、20倍、50倍、80倍、100倍以上多い量の毒素を阻害する。
融合ポリペプチド
さまざまな態様において、本発明は、糖タンパク質、例えばムチンポリペプチドの少なくとも一部分を含有し、第2のポリペプチドに作動可能に連結された第1のポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。本明細書で使用する「融合タンパク質」または「キメラタンパク質」とは、非ムチンポリペプチドに作動可能に連結された糖タンパク質ポリペプチドの少なくとも一部分を含む。
【0017】
「ムチンポリペプチド」とは、ムチンドメインを有するポリペプチドを指す。ムチンポリペプチドは、1個、2個、3個、5個、10個、20個またはそれ以上のムチンドメインを有する。ムチンポリペプチドは、O−グリカンで置換されたアミノ酸配列を特徴とする任意の糖タンパク質である。例えば、ムチンポリペプチドは、アミノ酸が1つおき、または2つおきにセリンまたはトレオニンになっている。ムチンポリペプチドは分泌タンパク質である。あるいは、ムチンポリペプチドは細胞表面タンパク質である。
【0018】
ムチンドメインは、アミノ酸のトレオニン、セリンおよびプロリンに富み、そこでオリゴ糖がN−アセチルガラクトサミンを介してヒドロキシアミノ酸(O−グリカン)に連結している。ムチンドメインは、O−結合グリコシル化部位を含むかあるいはO−結合グリコシル化部位からなる。ムチンドメインは、1個、2個、3個、5個、10個、20個、50個、100個またはそれ以上のO−結合グリコシル化部位を有する。あるいは、ムチンドメインはN−結合グリコシル化部位を含む。ムチンポリペプチドは、その質量の50%、60%、80%、90%、95%または100%がグリカンによるものである。ムチンポリペプチドは、MUC遺伝子(すなわち、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5a、MUC5b、MUC5c、MUC6、MUC11、MUC12など)によってコードされる任意のポリペプチドである。あるいは、ムチンポリペプチドはP−セレクチン糖タンパク質リガンド1(PSGL−1)、CD34、CD43、CD45、CD96、GlyCAM−1、MAdCAM−1、赤血球グリコホリン、グリコカリシン、グリコホリン、シアロホリン、ロイコシアリン、LDL−R、ZP3、およびエピグリカニンである。ムチンはPSGL−1であることが好ましい。PSGL−1は、各々が402アミノ酸を含有する、1型膜貫通トポロジーの120kDaのサブユニットが2個ジスルフィド結合したホモ二量体糖タンパク質である。細胞外ドメインにおいて、O−結合オリゴ糖を付加するための3個または4個の潜在部位を含有する10アミノ酸のコンセンサス配列の繰り返しが15ある。一実施形態において、10アミノ酸のコンセンサス配列は、A(I)QTTQ(PAR)P(LT)A(TEV)A(PG)T(ML)E(配列番号1)である。別の実施形態において、10アミノ酸のコンセンサス配列はAQ(M)TTP(Q)P(LT)AA(PG)T(M)E(配列番号2)である。PSGL−1は、各単量体に、O−結合グリコシル化のための部位を54以上、およびN−結合グリコシル化のための部位を4以上有すると予測される。
【0019】
ムチンポリペプチドは、ムチンタンパク質の全部または一部分を含有する。あるいは、ムチンタンパク質は、ポリペプチドの細胞外部分を含む。例えば、ムチンポリペプチドは、PSGL−1の細胞外部分またはその一部分(例えば、GenBank受託番号A57468に開示されているアミノ酸19〜319)を含む。ムチンポリペプチドは、PSGL−1のシグナル配列部分(例えば、アミノ酸1〜18)、膜貫通ドメイン(例えばアミノ酸320〜343)、および細胞質ドメイン(例えば、アミノ酸344〜412)も含む。
【0020】
「非ムチンポリペプチド」は、グリカンによる質量分が少なくとも40%未満であるポリペプチドを指す。
【0021】
本発明のSI融合タンパク質の中で、ムチンポリペプチドはムチンタンパク質の全部または一部分に相当する。SI融合タンパク質は、ムチンタンパク質の少なくとも一部分を含む。「少なくとも一部分」とは、ムチンポリペプチドが少なくとも1つのムチンドメイン(例えば、O−結合グリコシル化部位)を含有することを意味する。ムチンタンパク質は、ポリペプチドの細胞外部分を含む。例えば、ムチンポリペプチドはPSGL−1の細胞外部分を含む。
【0022】
第1のポリペプチドは、1種または複数種のグリコシルトランスフェラーゼによってグリコシル化される。第1のポリペプチドは、2種、3種、5種またはそれ以上のグリコシルトランスフェラーゼによってグリコシル化される。グリコシル化は逐次的または連続的である。あるいは、グリコシル化は同時的またはランダムである、すなわち特定の順序がない。第1のポリペプチドは、N−結合グリカンまたはO−結合グリカンを、タンパク質主鎖に付加またはタンパク質主鎖上に産生することができる任意の酵素によってグリコシル化される。例えば、第1のポリペプチドは、α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼによってグリコシル化される。α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの適切な供給源としては、これらに限定されないが、GenBank受託番号NP_059132、AAO39150、ABP35533、ABP35532、ABQ10741、ABQ10740、AAS77221、AAS77220、AAS77219、AAS77216、AAS77215、AAS77214、AAX20109、AAO39151、AAO39149、AAP47170、AAP47169、AAP47168、AAP47167、AAP47166、AAP47165、およびAAP47164が挙げられ、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。特定の実施形態において、第1のポリペプチドは、α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼおよびコア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの両方によってグリコシル化される。コア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの適切な供給源としては、GenBank受託番号CAA79610、Z19550、BAB66024、AP001515、AJ420416.1、AK313343.1、AL832647.2、AY196293.1、BC074885.2、BC074886、BC109101、BC109102.1、M97347.1、BAG36146.1、CAD89956.1、AAH74885.1、AAH74886.1、AAI09102.1、AAI09103.1、AAA35919.1、AAH17032、O95395、NP_004742、EAW77572、NP_004742.1、BC017032、AF102542.1、AAD10824.1、AF038650.1、NM_004751.2、Q9P109、NP_057675、EAW95751、AF132035.1、AAF63156.1、およびNP_057675.1が挙げられるが、これらに限定されない。第1のポリペプチドは、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%を超える、糖鎖による質量分を含有する。
【0023】
融合タンパク質の中で、「作動可能に連結された」という用語は、第1のポリペプチドをO−結合グリコシル化および/またはN−結合グリコシル化することが可能になるように、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドが化学的に連結している(最も一般的には、ペプチド結合などの共有結合によって)ことを指すものとする。融合ポリペプチドをコードする核酸を指して用いる場合、作動可能に連結されたという用語は、ムチンポリペプチドをコードする核酸と非ムチンポリペプチドをコードする核酸が互いにインフレーム融合していることを意味する。非ムチンポリペプチドは、ムチンポリペプチドのN末端またはC末端に融合することができる。
【0024】
SI融合タンパク質は、1つまたは複数の追加成分に連結される。例えば、SI融合タンパク質は、SI融合タンパク質配列がGST(すなわち、グルタチオンS−トランスフェラーゼ)配列のC末端に融合したGST融合タンパク質にさらに連結することができる。そのような融合タンパク質により、SI融合タンパク質の精製を容易にすることができる。あるいは、SI融合タンパク質は、固体支持体にさらに連結することができる。さまざまな固体支持体が当業者に公知である。例えば、SI融合タンパク質は、例えば、金属化合物、シリカ、ラテックス、ポリマー材料、マイクロタイタープレート、ニトロセルロース、またはナイロンまたはそれらの組み合わせで作られた粒子に連結される。固体支持体に連結されたSI融合タンパク質は、志賀毒素産生細菌および志賀様毒素産生細菌によって引き起こされる感染を診断またはスクリーニングするツールとして使用することができる。
【0025】
融合タンパク質は、異種性シグナル配列(すなわち、ムチン核酸によってコードされるポリペプチド内に存在しないポリペプチド配列)をそのN末端に含む。例えば、天然のムチン糖タンパク質シグナル配列を取り出して別のタンパク質からのシグナル配列と置き換えることができる。ある種の宿主細胞(例えば哺乳動物宿主細胞)において、異種性シグナル配列の使用によってポリペプチドの発現および/または分泌を増加させることができる。
【0026】
本発明のキメラタンパク質または融合タンパク質は、標準の組換えDNA技法によって作製することができる。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片を、従来技法に従って、例えば、ライゲーション用の平滑末端または付着末端の利用、適当な末端をもたらす制限酵素消化、必要に応じて突出末端の埋め込み、望ましくない結合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理、および酵素的ライゲーションにより、インフレームで互いにライゲーションさせる。融合遺伝子は、自動DNA合成装置を含めた従来技法によって合成される。あるいは、2つの連続的な遺伝子断片間に相補的なオーバーハングを生じるアンカープライマーを用いて遺伝子断片のPCR増幅を行い、続いて遺伝子断片をアニーリングし再増幅させてキメラ遺伝子配列を生成することができる(例えば、Ausubelら(編)、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley & Sons、1992年を参照されたい)。さらに、融合成分(例えば、免疫グロブリン重鎖のFc領域)をコードする多くの発現ベクターが市販されている。ムチンをコードする核酸をそのような発現ベクターにクローニングし、それによって融合成分を免疫グロブリンタンパク質にインフレームで連結することができる。
【0027】
SI融合ポリペプチドは、二量体、三量体または五量体などのオリゴマーとして存在しうる。SI融合ポリペプチドは二量体であることが好ましい。
【0028】
第1のポリペプチド、および/または第1のポリペプチドをコードする核酸は、当技術分野で公知のムチンをコードする配列を用いて構築される。ムチンポリペプチドおよびムチンポリペプチドをコードする核酸の適切な供給源としては、それぞれ、GenBank受託番号NP663625およびNM145650、CAD10625およびAJ417815、XP140694およびXM140694、XP006867およびXM006867ならびにNP00331777およびNM009151が挙げられ、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0029】
ムチンポリペプチド成分は、天然に存在するムチン配列(野生型)に、糖鎖含有量の増加(突然変異していない配列と比べて)をもたらす改変を有する変異型ムチンポリペプチドとして提供される。本明細書で用いる天然に存在する(野生型)ムチン配列における改変とは、ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列において1つまたは複数の置換、付加または欠失を含み、それによって、コードされるタンパク質に1つまたは複数のアミノ酸の置換、付加または欠失が導入される。改変は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発などの標準の技法によって、天然に存在するムチン配列中に導入することができる。
【0030】
例えば、変異型ムチンポリペプチドは、野生型ムチンと比較して追加的なO−結合グリコシル化部位を含んだ。あるいは、変異型ムチンポリペプチドは、野生型ムチンポリペプチドと比較してセリン残基、トレオニン残基またはプロリン残基の数の増加をもたらすアミノ酸配列の改変を含む。この糖鎖含有量の増加は、当業者に公知の方法によって、ムチンのタンパク質と糖鎖の比を決定することにより評価可能である。
【0031】
あるいは、ムチンポリペプチド成分は、天然に存在するムチン配列(野生型)に、O−結合グリコシル化部位が多いムチン配列またはより高度なグリコシル化をもたらすペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼによって好んで認識されるムチン配列をもたらす改変を有する変異型ムチンポリペプチドとして提供される。
【0032】
一部の実施形態において、ムチンポリペプチド成分は、タンパク質分解に対して耐性が高い(突然変異していない配列と比べて)ムチン配列をもたらす、天然に存在するムチン配列(野生型)に改変を有する変異型ムチンポリペプチドとして提供される。
【0033】
第1のポリペプチドは全長PSGL−1を含む。あるいは、第1のポリペプチドは、全長に満たないPSGL−1ポリペプチド、例えばPGSL−1ポリペプチドの機能的断片を含む。例えば、第1のポリペプチドは、PSGL−1ポリペプチドの400隣接アミノ酸未満の長さ、例えば、PSGL−1ポリペプチドの300、250、150、100または50隣接アミノ酸以下の長さ、PSGL−1ポリペプチドの少なくとも25隣接アミノ酸の長さである。第1のポリペプチドは、例えば、PSGL−1の細胞外部分である、またはその一部分を含む。代表的なPSGL−1ポリペプチドおよび核酸配列としては、GenBank受託番号XP006867;XM006867;XP140694およびXM140694が挙げられる。
【0034】
第2のポリペプチドは可溶性であることが好ましい。一部の実施形態において、第2のポリペプチドは、SI融合ポリペプチドと第2のムチンポリペプチドの連関を容易にする配列を含む。第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも一領域を含む。「少なくとも一領域」とは、軽鎖、重鎖、Fc領域、Fab領域、Fv領域またはそれらの任意の断片などの免疫グロブリン分子の任意の部分を含むことを意味する。免疫グロブリン融合ポリペプチドは当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第5,516,964号、同第5,225,538号、同第5,428,130号、同第5,514,582号、同第5,714,147号および同第5,455,165号に記載されている。
【0035】
第2のポリペプチドは、全長免疫グロブリンポリペプチドを含む。あるいは、第2のポリペプチドは、全長に満たない免疫グロブリンポリペプチド、例えば重鎖、軽鎖、Fab、Fab、Fv、またはFcを含む。第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドの重鎖を含むことが好ましい。第2のポリペプチドは、免疫グロブリンポリペプチドのFc領域を含むことがより好ましい。
【0036】
第2のポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域のエフェクター機能よりも低いエフェクター機能を有する。あるいは、第2のポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖のFc領域と同様またはそれより高いエフェクター機能を有する。Fcのエフェクター機能としては、例えば、Fc受容体結合性、補体結合およびT細胞除去活性が挙げられる(例えば米国特許第6,136,310号を参照されたい)。T細胞除去活性、Fcエフェクター機能、および抗体安定性をアッセイする方法は当技術分野で公知である。一実施形態において、第2のポリペプチドは、Fc受容体に対する親和性が低いまたは親和性を有さない。あるいは、第2のポリペプチドは補体タンパク質C1qに対する親和性が低いまたは親和性を有さない。
【0037】
本発明の別の態様は、ムチンポリペプチド、またはその派生体、断片、類似体または相同体をコードする核酸を含有するベクター、好ましくは発現ベクターに関する。ベクターは、免疫グロブリンポリペプチド、またはその派生体、断片、類似体または相同体をコードする核酸に作動可能に連結された、ムチンポリペプチドをコードする核酸を含有する。さらに、ベクターは、α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼなどのグリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸を含む。本明細書で用いる「ベクター」という用語は、それが連結している別の核酸を運搬する能力がある核酸分子を指す。ベクターの1種は「プラスミド」であり、追加のDNAセグメントをその中にライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターはウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中にライゲーションすることができる。ある種のベクターは、それが導入された宿主細胞において自己複製する能力がある(例えば、細菌の複製起点を有する細菌性ベクターおよびエピソーム性哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、ある種のベクターは、それが作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導する能力がある。本明細書ではそのようなベクターを「発現ベクター」と称する。一般に、組換えDNA技法において有益である発現ベクターは多くの場合プラスミドの形態である。本明細書において、「プラスミド」と「ベクター」とは、プラスミドがベクターの最も一般的な使用形態であるので、互換的に使用することができる。しかし、本発明は、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの、同等の機能を果たすような他の形態の発現ベクターを含むものとする。
【0038】
本発明の組換え発現ベクターは、本発明の核酸を、宿主細胞において核酸が発現するのに適した形態で含み、これは組換え発現ベクターが、発現に用いられる宿主細胞に基づいて選択された、発現される核酸配列に作動可能に連結された1つまたは複数の制御配列を含むことを意味する。組換え発現ベクターの中で、「作動可能に連結された」とは、対象のヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列の発現が可能になるように(例えば、in vitro転写/翻訳系において、またはベクターが宿主細胞に導入された場合は宿主細胞において)制御配列(複数可)に連結されていることを意味するものとする。
【0039】
「制御配列」という用語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節要素(例えばポリアデニル化シグナル)を含むものとする。そのような制御配列は、例えば、Goeddel、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY、185巻、Academic Press、San Diego、Calif.、(1990年)に記載されている。制御配列は、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を誘導するもの、および特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を誘導するものを含む(例えば、組織特異的制御配列)。当業者には当然のことながら、発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどのような因子に左右され得る。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、それによって、本明細書に記載の核酸によってコードされる融合タンパク質または融合ペプチド(例えば、SI融合ポリペプチド、SI融合ポリペプチドの突然変異型など)を含めた、タンパク質またはペプチドを作製することができる。
【0040】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞においてSI融合ポリペプチドを発現させるために設計することができる。例えば、SI融合ポリペプチドは、Escherichia coliなどの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用する)、酵母細胞または哺乳動物細胞において発現させることができる。適切な宿主細胞は、Goeddel、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185巻、Academic Press、San Diego、Calif.、(1990年)でさらに考察されている。あるいは、組換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター制御配列およびT7ポリメラーゼを用いてin vitroで転写および翻訳することができる。
【0041】
原核生物におけるタンパク質の発現は、ほとんどの場合、融合タンパク質か非融合タンパク質のいずれかの発現を誘導する構成プロモーターまたは誘導性プロモーターを含有するベクターを用いてEscherichia coliにおいて行われる。融合ベクターは、その中にコードされているタンパク質、通常組換えタンパク質のアミノ末端に、いくつものアミノ酸を付加する。そのような融合ベクターは一般に3つの目的にかなう:(i)組換えタンパク質の発現を増加させること;(ii)組換えタンパク質の溶解性を増加させること;および(iii)親和性精製においてリガンドとして働くことにより組換えタンパク質の精製を助長すること。多くの場合、融合発現ベクターにおいて、融合成分と組換えタンパク質の接合部にタンパク質分解の切断部位を導入して、組換えタンパク質を融合成分から分離し、続いて融合タンパク質を精製できるようにする。そのような酵素、および同種の認識配列としては、Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼが挙げられる。典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;SmithおよびJohnson、1988年、Gene 67巻、31〜40頁)、pMAL(New England Biolabs、Beverly、Mass.)およびpRIT5(Pharmacia、Piscataway、N.J.)が挙げられ、それぞれ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合性タンパク質、またはプロテインAを標的の組換えタンパク質に融合する。
【0042】
適切な誘導性非融合E.coli発現ベクターの例としては、pTrc(Amrannら、(1988年)、Gene、69巻、301〜315頁)およびpET11d(Studierら、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY、185巻、Academic Press、San Diego、Calif.、(1990年)、60〜89頁)が挙げられる。
【0043】
E.coliにおける組換えタンパク質の発現を最大にするための1つの戦略は、組換えタンパク質をタンパク質分解性切断する能力に障害がある宿主細菌においてタンパク質を発現させることである。例えば、Gottesman、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY、185巻、Academic Press、San Diego、Calif.、(1990年)119〜128頁を参照されたい。別の戦略は、発現ベクターに挿入される核酸の核酸配列を、各アミノ酸に対する個々のコドンがE.coliにおいて優先的に使用されるものになるように改変することである(例えば、Wadaら、1992年、Nucl. Acids Res.、20巻、2111〜2118頁を参照されたい)。本発明の核酸配列のそのような改変は、標準のDNA合成技法によって行うことができる。
【0044】
SI融合ポリペプチド発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母Saccharomyces cerivisaeにおいて発現させるためのベクターの例としては、pYepSec1(Baldariら、1987年、EMBOJ.、6巻、229〜234頁)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz、1982年、Cell、30巻、933〜943頁)、pJRY88(Schultzら、1987年、Gene、54巻、113〜123頁)、pYES2(Invitrogen Corporation、San Diego、Calif.)、およびpicZ(InVitrogen Corp、San Diego、Calif.)が挙げられる。
【0045】
あるいは、SI融合ポリペプチドは、バキュロウイルス発現ベクターを用いて昆虫細胞において発現させることができる。培養昆虫細胞(例えば、Mamestra brassicae細胞またはSF9細胞)においてタンパク質を発現させるために入手可能なバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smithら、1983年、Mol. Cell. Biol.、3巻、2156〜2165頁)およびpVLシリーズ(LucklowおよびSummers、1989年、Virology、170巻、31〜39頁)が挙げられる。
【0046】
本発明の核酸は、哺乳動物発現ベクターを用いて哺乳動物細胞において発現される。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed、1987年、Nature、329巻、840頁)およびpMT2PC(Kaufmanら、1987年、EMBO J.、6巻、187〜195頁)が挙げられる。哺乳動物細胞において使用する場合、発現ベクターの調節機能は、多くの場合ウイルス制御要素によってもたらされる。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、およびサルウイルス40に由来する。原核細胞と真核細胞の両方に適した他の発現系については、例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL.、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年の第16章および第17章を参照されたい。
【0047】
本発明の別の態様は、本発明の組換え発現ベクターが導入された宿主細胞に関する。「宿主細胞」と「組換え宿主細胞」という用語は、本明細書では互換的に用いられる。そのような用語は、特定の対象細胞だけではなく、そのような細胞の後代または潜在的な後代も指すことが理解されよう。突然変異か環境の影響のいずれかによって、続く世代にある種の一時的変異が起こり得るため、そのような後代は、実際には親細胞と同一ではない可能性があるが、それでも本明細書で使用する用語の範囲内に含める。
【0048】
宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であってよい。例えば、SI融合ポリペプチドは、E.coliなどの細菌細胞、M.brassicaeなどの昆虫細胞、酵母または哺乳動物細胞(ヒト、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはCOS細胞など)において発現させることができる。他の適切な宿主細胞は、当業者に公知である。
【0049】
ベクターDNAは、従来の形質転換技法またはトランスフェクション技法によって原核細胞または真核細胞に導入することができる。本明細書で用いる「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、宿主細胞に外来核酸(例えばDNA)を導入するための、当技術分野で認められているさまざまな技法を指すものとし、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈降法、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション法、リポフェクション法、または電気穿孔法が挙げられる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrookら、(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL.、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989年)、および他の実験マニュアルで見ることができる。
【0050】
哺乳動物細胞の安定トランスフェクションに関して、使用する発現ベクターおよびトランスフェクション技法によっては、ごく一部の細胞のみがそのゲノムに外来DNAを組み込み得ることが公知である。これらの組み込み体を同定し選択するために、一般に、選択マーカー(例えば抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を、対象の遺伝子と一緒に宿主細胞に導入する。さまざまな選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与する選択マーカーが挙げられる。選択マーカーをコードする核酸は、融合ポリペプチドをコードするベクターと同じベクターで宿主細胞に導入することができ、または別々のベクターで導入することができる。導入された核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択によって同定することができる(例えば、選択マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存するが、他の細胞は死ぬ)。
【0051】
培養した宿主原核細胞または培養した宿主真核細胞などの本発明の宿主細胞は、SI融合ポリペプチドを作製する(すなわち、発現させる)ために使用することができる。したがって、本発明は、本発明の宿主細胞を用いてSI融合ポリペプチドを作製する方法をさらに提供する。一実施形態において、この方法は、本発明の宿主細胞(SI融合ポリペプチドをコードする組換え発現ベクターが導入された宿主細胞)を、SI融合ポリペプチドが作製されるように適切な培地で培養する工程を含む。別の実施形態において、この方法は、培地または宿主細胞からSIポリペプチドを単離する工程をさらに含む。
【0052】
SI融合ポリペプチドは、抽出、沈降、クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動などの従来の条件に従って単離し、精製することができる。例えば、免疫グロブリン融合タンパク質は、融合タンパク質のFc部分に選択的に結合する、固定化プロテインAまたは固定化プロテインGを含有するカラムに溶液を通すことによって精製することができる。例えば、Reis, K. J.ら、J. Immunol.、132巻、3098〜3102頁(1984年)、PCT出願、公開番号WO87/00329を参照されたい。次いで、カオトロピック塩を用いた処理によって、または酢酸水溶液(1M)を用いた溶出によって、融合ポリペプチドを溶出することができる。
【0053】
あるいは、本発明によるSI融合ポリペプチドは、当技術分野で公知の方法を用いて化学合成することができる。ポリペプチドの化学合成については、例えば、Peptide Chemistry、A Practical Textbook、Bodasnsky編、Springer−Verlag、1988年、Merrifield、Science、232巻、241〜247頁、(1986年);Baranyら、Intl. J. Peptide Protein Res.、30巻、705〜739頁(1987年); Kent、Ann. Rev. Biochem.、57巻、957〜989頁(1988年)、およびKaiserら、Science、243巻、187〜198頁、(1989年)に記載されている。ポリペプチドは、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まないように標準のペプチド精製技法を用いて精製する。「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、ペプチドの合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質からペプチドを分離した、ペプチド調製物を含む。一実施形態において、「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、約30%(乾燥重量)未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質、より好ましくは約20%未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質、さらに好ましくは約10%未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質、最も好ましくは約5%未満の化学的前駆体または非ペプチド化学物質を有するペプチド調製物を含む。
【0054】
ポリペプチドの化学合成により、D−アミノ酸および他の小さい有機分子を含めた、修飾されたアミノ酸または非天然アミノ酸の組み込みが容易になる。ペプチドの1つまたは複数のL−アミノ酸の、対応するD−アミノ酸アイソフォームへの置き換えを用いて、酵素的加水分解に対するペプチドの抵抗性を増加させ、生物活性のあるペプチドの1つまたは複数の特質、すなわち受容体結合性、機能的効力または作用の持続を増強することができる。例えば、Dohertyら、1993年、J. Med. Chem.、36巻、2585〜2594頁、Kirbyら、1993年、J. Med. Chem.、36巻、3802〜3808頁;Moritaら、1994年、FEBS Lett.、353巻、84〜88頁;Wangら、1993年、Int.J. Pept. Protein Res.、42巻、392〜399頁;FauchereおよびThiunieau、1992年、Adv. Drug Res.、23巻、127〜159頁を参照されたい。
【0055】
ペプチド配列に共有結合架橋を導入することにより、ポリペプチド主鎖を立体配座的かつ組織分布的に制約することができる。この戦略は、効力、選択性および安定性が増加した、融合ポリペプチドのペプチド類似体を開発するために使用することができる。環状ペプチドの立体配座エントロピーは、対応する直鎖状ペプチドよりも低いため、非環状類似体よりも環状類似体に対して、より少ないエントロピー減少で特異的な立体配座が採用される可能性があり、その結果、結合自由エネルギーがより有利なものになる。大環状化は、多くの場合、ペプチドのN末端とC末端の間、側鎖とN末端もしくはC末端の間[例えば、KFe(CN)をpH8.5で用いて](Samsonら、Endocrinology、137巻、5182〜5185頁(1996年))、または2つのアミノ酸側鎖間にアミド結合を形成することによってなされる。例えば、DeGrado、Adv Protein Chem、39巻、51〜124頁(1988年)を参照されたい。可動性を低減させるために、直鎖配列にジスルフィド架橋も導入される。例えば、Roseら、Adv Protein Chem、37巻、1〜109頁(1985年);Mosbergら、Biochem Biophys Res Commun、106巻、505〜512頁(1982年)を参照されたい。さらに、システイン残基のペニシラミン(Pen、3−メルカプト−(D)バリン)での置き換えが、一部のオピオイド受容体相互作用の選択性を増加させるために用いられる。LipkowskiおよびCarr、Peptides: Synthesis、Structures、およびApplications、Gutte編、Academic Press、287〜320頁(1995年)。
志賀毒素および/または志賀様毒素の宿主細胞への結合を減少させる方法
志賀毒素および/または志賀様毒素の細胞表面への結合は、細胞を本発明のSI融合ペプチドと接触させることによって阻害される(例えば減少する)。SI融合タンパク質は、細菌毒素の細胞表面への結合を立体的に阻害し、その結果、細菌毒素の感染を予防する。あるいは、細胞表面への志賀毒素および/または志賀様毒素の結合は、志賀毒素および/または志賀様毒素を本発明のSI融合ペプチドと接触させ、それによってSI融合ペプチドが志賀毒素および/または志賀様毒素に結合し、その結果、志賀毒素および/または志賀様毒素の天然エピトープへの結合が予防されることによって阻害され(例えば減少し)、その結果、細菌毒素の感染が予防される。志賀毒素または志賀様毒素は、例えば、志賀毒素、志賀様毒素1または志賀様毒素2である。志賀様毒素産生細菌は、例えば、Shigella dysenteriae、腸管出血性大腸菌(EHEC)、Aeromononas caviae、Aeromononas hydrophila、Citrobacter freundiiおよび/またはEnterobacter cloacaである。
【0056】
付着の阻害は、細胞内部移行の減少およびタンパク質合成阻害の減少を特徴とする。SI融合ペプチドを対象に全身投与および/または直腸内投与することによって、SIペプチドを対象の1つまたは複数の細胞と接触させる。SIペプチドは、細菌毒素の細胞表面への結合および/または細胞への内部移行を減少させる(例えば、阻害する)のに十分な量を投与する。あるいは、志賀毒素産生細菌および/または志賀様毒素産生細菌を直接SIペプチドと接触させる。志賀毒素/志賀様毒素の細胞表面への結合は、当技術分野で公知の標準の免疫細胞化学アッセイを用いて、例えば、放射活性を用いて毒素の細胞への結合を測定することによって、または他の手段、標識化毒素によって、抗志賀毒素抗体を用いて付着した毒素を検出することによって、または細胞に毒素を接触もしくは暴露させた後のタンパク質合成レベルを測定することによって測定される。
【0057】
この方法は、志賀毒素および/または志賀様毒素の感染または志賀毒素および/または志賀様毒素に関連付けられる疾患の症状を緩和するのに有用である。志賀毒素および/または志賀様毒素の感染に付随する症状としては、例えば、下痢、出血性大腸炎および/または溶血性尿毒症症候群が挙げられる。
【0058】
本明細書に記載の方法により、本明細書に記載のような志賀毒素および/または志賀様毒素の感染または障害の1つまたは複数の症状の重症度の軽減またはその緩和がもたらされる。志賀毒素および/または志賀様毒素の感染または志賀毒素および/または志賀様毒素による感染に付随する障害は、一般に、標準の方法論を用いて、医師によって診断および/またはモニタリングされる。
【0059】
対象は、例えば、任意の哺乳動物、例えばヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタである。治療は、細菌毒素の感染または障害の診断に先立って施される。あるいは、治療は、対象が感染した後に施される。
【0060】
治療の効果は、特定の細菌毒素感染または細菌毒素感染に付随する障害を診断または治療するための任意の公知の方法に関連して決定される。細菌毒素感染または障害の1つまたは複数の症状が緩和されることで、化合物が臨床上の利点を付与することが示される。
SI融合ポリペプチドまたはSI融合ポリペプチドをコードする核酸を含む医薬組成物
本発明のSI融合タンパク質、またはそれらの融合タンパク質をコードする核酸分子(本明細書では「治療用物質」または「有効化合物」とも称される)、およびそれらの派生体、断片、類似体および相同体は、投与するために適した医薬組成物中に組み込むことができる。そのような組成物は、一般に、核酸分子、タンパク質、または抗体および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」とは、医薬投与に適合する任意の、全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張液および吸収遅延剤などを含めるものとする。適切な担体は、本明細書に参照により組み込まれている、当分野で標準の参照テキストであるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。そのような担体または希釈剤の好ましい例としては、水、食塩水、フィンガー溶液(finger’s solution)、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソームおよび固定油などの非水性ビヒクルも使用することができる。医薬として有効な物質へのそのような媒体および作用剤の使用は当技術分野で周知である。従来の媒体または作用剤は、どれも有効化合物と適合しない場合を除いて、組成物にそれらを使用することが企図されている。補充の有効化合物も組成物中に組み込むことができる。
【0061】
本明細書で開示している有効作用剤も、リポソームとして製剤化することができる。リポソームは、Epsteinら、Proc. Natl. Acad. Sci、USA、82巻、3688頁(1985年);Hwangら、Proc. Natl Acad. Sci.、USA、77巻、4030頁(1980年);および米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号に記載のような、当技術分野で公知の方法によって調製される。循環時間を増大させたリポソームが、米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0062】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG−誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって生成することができる。リポソームを定義済みの孔サイズのフィルターを通して押し出し、所望の直径を有するリポソームを得る。
【0063】
本発明の医薬組成物は、目的とする投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例としては、非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば吸入)、経皮投与(すなわち局所的)、経粘膜投与、および直腸内投与が挙げられる。非経口施用、皮内施用、または皮下施用するために使用する溶液または懸濁液としては、下記の構成材料を挙げることができる:注射用の水などの滅菌希釈剤、食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗細菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調整するための作用剤。pHは、塩化水素または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチックで作られたアンプル、使い捨て注射器または多回用量バイアルに封入することができる。
【0064】
注射用に使用するのに適した医薬組成物は、注射用滅菌溶液または注射用滅菌分散系を即席で調製するための滅菌水溶液(水溶性の場合)または滅菌分散系および滅菌粉末を含む。静脈内投与するための適切な担体としては、生理食塩水、静菌性水、CremophorEL(商標)(BASF、Parsippany、N.J.)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は滅菌されていなければならず、容易な注射性(syringeability)がある限りは流体であるべきである。組成物は、製造および保管の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用から保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であってよい。妥当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散系の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、維持することができる。微生物作用の予防は、さまざまな抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって実現し得る。多くの場合、等張剤、例えば、砂糖、マニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0065】
滅菌注射用溶液は、必要量の有効化合物(例えばSI融合タンパク質)を、上記で列挙した成分の1種またはそれらの組み合わせを有する適当な溶媒に組み込み、その後必要に応じてろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散系は、有効化合物を、塩基性の分散媒および上記で列挙した成分からの必要な他成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合の調製方法は、有効成分の粉末と任意の追加的な所望成分を、前もって滅菌ろ過したそれらの溶液から得る、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0066】
経口用組成物は、一般に不活性希釈剤または食用担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入することができ、または錠剤に圧縮することができる。治療的に経口投与するために、有効化合物を賦形剤と一緒に組み込み、錠剤、トローチ剤、またはカプセルの形態で使用することができる。経口用組成物は、うがい薬として使用する液体担体を用いて調製することもでき、液体担体中の化合物は経口的に施用され、ゆすいで(swish)吐き出されるまたは嚥下される。薬学的に適合する結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ剤などは、下記の成分、または似た性質の化合物をどれでも含んでよい:微結晶セルロース、トラガカントゴムもしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくは乳糖などの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、もしくはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはステロテス(Sterotes)などの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動性促進剤;ショ糖もしくはサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジフレーバーなどの香味料。
【0067】
吸入によって投与するために、化合物は、適切な高圧ガス、例えば二酸化炭素などのガスを含有する加圧容器もしくは加圧ディスペンサーからのエアロゾル噴霧剤の形態、またはネブライザーの形態で送達される。
【0068】
経粘膜的または経皮的な手段によっても全身投与することができる。経粘膜的または経皮的に投与するために、浸透させる関門に対して適当な浸透剤が製剤に用いられる。そのような浸透剤は一般に当技術分野で公知であり、例えば、経粘膜投与用としては、洗浄剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、点鼻薬または座薬を使用することによって実現可能である。経皮投与するために、有効化合物は軟膏剤、膏薬、ゲル、またはクリームに、当技術分野で一般に公知の通り製剤化される。
【0069】
化合物は座薬の形態(例えば、ココアバターおよび他のグリセリドなどの従来の座薬基剤と一緒に)または直腸内に送達するための保持かん腸剤の形態で調製することもできる。
【0070】
有効化合物は、埋め込みおよびマイクロカプセル化送達系を含めた制御放出製剤など、その化合物が体から迅速に排出されることから保護するであろう担体と一緒に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生物分解性、生体適合性のポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから商業的に得ることもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する感染細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬学的に許容できる担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に記載のように、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0071】
経口用組成物または非経口用組成物は、投与を簡単にするため、および用量を均一にするために単位剤形に製剤化される。本明細書で用いる単位剤形とは、治療される対象に対する単位剤形に適合させた、物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体と関連して所望の治療効果を生ずるよう計算された、所定量の有効化合物を含有する。本発明の単位剤形の規格は、有効化合物特有の特性および実現されるべき特定の治療効果、およびそのような、個体を治療するための有効化合物の配合技術分野における固有の制限によって規定され、またそれらに直接左右される。
【0072】
本発明の核酸分子は、ベクターに挿入し、遺伝子治療ベクターとして使用することができる。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与によって(例えば、米国特許第5,328,470号を参照されたい)、または定位的注射によって(例えば、Chenら、1994年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91巻、3054〜3057頁を参照されたい)対象に送達することができる。遺伝子治療ベクターの医薬調製物は、許容できる希釈剤中に遺伝子治療ベクターを含んでよく、または、遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれた緩慢放出マトリックスを含んでよい。あるいは、完全な遺伝子送達ベクター、例えばレトロウイルスベクターが、組換え細胞から無傷で作製され得る場合、この医薬調製物は遺伝子送達系を生じる1つまたは複数の細胞を含んでよい。
【0073】
必要に応じて、持続的放出調製物を調製することができる。持続的放出調製物の適切な例としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、そのマトリックスは、成形品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。持続的放出マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、またはポリビニルアルコール)、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγ−L−グルタミン酸エチルの共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸共重合体と酢酸ロイプロイドで構成される注射用マイクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸共重合体、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸などのポリマーによって、分子を100日間にわたって放出することが可能になるが、ある種のヒドロゲル放出タンパク質では、それよりも短期間になる。
【0074】
医薬組成物は、投与の説明書と一緒に容器、パック、またはディスペンサーの中に含めることができる。
【0075】
本発明を、下記の非限定的な実施例でさらに例示する。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
Galα4Galβ3GalNacαグリカンおよび/またはGalα4Galβ4GlcNacグリカンを担持するP−セレクチン糖タンパク質リガンド1のIgG Fc融合物を分泌する安定な細胞系のエンジニアリング
PSGL−1/mIgG2b発現プラスミドを、内生のα1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するM.Brassicae昆虫細胞に安定にトランスフェクトして所望のエピトープ、Galα4Galβ3GalNAcαを産生させる。あるいは、PSGL−1/mIgG2b発現プラスミドを、α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼおよびコア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼと一緒にCHO−K1細胞にトランスフェクトしてGalα4Galβ4GlcNAc(血液型P1エピトープ)構造を産生させる。あるいは、PSGL−1/mIgG2b発現プラスミドを、α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ、1つまたは複数のペプチドGalNAcT、および場合によって、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミンを作り出すことができる1つまたは複数の酵素、ならびにE.coli細胞中に存在する糖鎖前駆体からのUDP−GalおよびUDP−GalNAcと一緒にE.Coli細胞にトランスフェクトして、Galα4Galβ4GlcNAc(血液型P1エピトープ)構造を産生させる。種々の選択薬物に対する耐性に基づいて安定なクローンを選択する。
細胞培養
M.Brassicae細胞を、適当な選択培地で培養する。CHO−K1細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)および25μg/mlの硫酸ゲンタマイシンを有するダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(DMEM)で培養する。この選択培地は、1種または複数種の薬物選択因子(例えば、プロマイシン、ハイグロマイシンB、G418および/またはゼオシン(Zeocin))を含有する。
発現プラスミドの構築
α1,4GalT発現プラスミドを構築し、PSGL−1/mIgG2b発現プラスミドを、Liuら、Transplantation、63巻、1673頁(1997年)に記載の通り構築する。コア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ発現プラスミドを、Liuら、Glycobiology、15巻(6号)、571頁、(2005年)に記載の通り構築する。
DNAトランスフェクションとクローン選択:M.Brassicae細胞
M.Brassicae細胞を、75cmのT型フラスコに播種し、およそ24時間後または細胞集密度が70〜80%に達した時にトランスフェクトする。トランスフェクトした24時間後、各T型フラスコ内の細胞をいくつかの100mmペトリ皿に分割し、薬物選択因子(例えば、プロマイシン、ハイグロマイシンb、G418および/またはゼオシン(Zeocin))を含有する選択培地でインキュベートする。およそ2週間後に薬物耐性クローンが形成される。クローンを顕微鏡の下で同定し、ピペットマンを用いて手で選び取る。選択されたコロニーを96ウェルプレート中、選択薬物の存在下でさらに2週間培養する。細胞が80〜90%の集密度に達したら細胞培養上清を回収する。PSGL−1/mIgG2bの濃度を、ヤギの抗マウスIgG Fc抗体を用いてELISA、SDS−PAGEおよび/またはウェスタンブロットによって評価する。
DNAトランスフェクションとクローン選択:CHO−K1細胞
接着CHO−K1細胞を、75cmのT型フラスコに播種し、およそ24時間後または細胞集密度が70〜80%に達した時にトランスフェクトする。トランスフェクトするために修飾ポリエチレンイミン(PEI)トランスフェクション法を使用することができる(Boussif, O.ら、1995年、He, Z.ら、2001年)。トランスフェクトした24時間度、各T型フラスコ内の細胞をいくつかの100mmペトリ皿に分割し、1種または複数種の薬物選択因子(例えば、プロマイシン、ハイグロマイシンb、および/またはG418)を含有する選択培地でインキュベートする。およそ2週間後に薬物耐性クローンが形成される。クローンを顕微鏡の下で同定し、ピペットマンを用いて手で選び取る。選択されたコロニーを96ウェルプレート中、選択薬物の存在下でさらに2週間培養する。細胞が80〜90%の集密度に達したら細胞培養上清を回収する。PSGL−1/mIgG2bの濃度を、ヤギの抗マウスIgG Fc抗体を用いてELISA、SDS−PAGEおよび/またはウェスタンブロットによって評価する。最も高いPSGL−1/mIgG2b発現を有するクローンを、α1,4GalTをコードするプラスミドでトランスフェクトし、PSGL−1/mIgG2bクローンの選択に使用したものと異なる薬物選択因子を用いて選択する。耐性クローンをELISA、SDS−PAGEおよびウェスタンブロットによって単離し、特徴付けする。
PSGL−1/mIgG2b上のGalα4Galβ3GalNAcα糖鎖エピトープおよびGalα4Galβ4GlcNac糖鎖エピトープの密度および酵素結合免疫吸着検定法を用いたPSGL−1/mIgG2bの定量化
細胞培養上清中の組換えPSGL−1/mIgG2b濃度、およびその相対的なαGalエピトープ密度を、下記の通り2抗体サンドイッチELISAによって決定することができる。96ウェルのELISAプレートを、20μ/mlの濃度のアフィニティー精製したポリクローナルヤギ抗マウスIgG Fc抗体(cat.nr.55482;Cappel/Organon Teknika、Durham、NC)で、4℃で一晩コーティングする。プレートをPBS中1%BSAで1時間ブロッキングする。PSGL−1/mIgG2bを含有する上清を4時間インキュベートし、次いで0.5%(v/v)Tween20を含有するPBSで3回洗浄する。洗浄後、プレートを、1:3,000希釈のペルオキシダーゼコンジュゲート抗マウスIgG Fc抗体(cat.no.A−9917;Sigma)、または1:2,000希釈したペルオキシダーゼコンジュゲートGSA I IB−レクチン(cat.no.L−5391;Sigma)で2時間インキュベートする。結合したペルオキシダーゼコンジュゲート抗体またはペルオキシダーゼコンジュゲートGSAレクチンを、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン二塩酸塩(cat.nr.T−3405;Sigma,Sweden)で可視化する。2MのHSOによって反応を停止させ、プレートを450nmで読み取る。PSGL−1/mIgG2b濃度を、融合タンパク質作製に用いた培地中または1%BSA含有PBS中に再懸濁させた精製したマウスIgG Fc断片(cat.Nr.015−000−008;Jackson ImmunoResearch Labs.,Inc.,West Grove,PA)の希釈系列を較正に用いて見積もる。エピトープ密度を、2つのELISAからの相対的なO.D.を比較することによって決定する(GSA反応性/抗マウスIgG反応性)。
【0077】
(実施例2)
in vitroにおける細菌毒素感染の阻害
志賀毒素および/または志賀様毒素と、志賀毒素および/または志賀様毒素の細胞変性作用に感受性の内皮細胞を用いて、感受性宿主細胞における毒素と細胞表面の結合、およびタンパク質合成の妨害を予防することに関する上記の融合タンパク質の阻害能を評価する。
【0078】
(実施例3)
投与経路
Galα4Galβ3GalNacαグリカンおよび/またはGalα4Galβ4GlcNacグリカンを担持する組換えPSGL−1/mIgG2b(すなわち、STI融合タンパク質)は、溶血性尿毒症症候群を予防するために全身投与される。STI融合タンパク質は、感染部位からの伝播を予防するために直腸内投与される。
他の実施形態
本発明をその詳細な説明とともに記載したが、前述の説明は例示であり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定しないことを意図している。他の態様、利点、および改変は以下の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2のポリペプチドに連結された第1のポリペプチドを含む融合ポリペプチドであって、前記第1のポリペプチドがα1,4ガラクトシルトランスフェラーゼによってグリコシル化されたムチンポリペプチドであり、前記第2のポリペプチドが免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも一領域を含む、融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記ムチンポリペプチドが、コア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼによってさらにグリコシル化されたものである、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記ムチンポリペプチドが、Galα4Galβ3GalNacα構造またはGalα4Galβ4GlcNac構造を含むグリカンレパートリーを有する、請求項1または2に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記ムチンポリペプチドが、PSGL−1、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5a、MUC5b、MUC5c、MUC6、MUC11、MUC12、CD34、CD43、CD45、CD96、GlyCAM−1、およびMAdCAM−1またはそれらの断片からなる群から選択される、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記ムチンポリペプチドが、P−セレクチン糖タンパク質リガンド1(PSGL−1)の少なくとも一領域を含む、請求項4に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記ムチンポリペプチドが、P−セレクチン糖タンパク質リガンド1の細胞外部分を含む、請求項5に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記第2のポリペプチドが、免疫グロブリン重鎖ポリペプチドの領域を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記第2のポリペプチドが、免疫グロブリン重鎖のFc領域を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
細菌毒素感染の症状を予防または緩和することを必要とする対象において、細菌毒素感染の症状を予防または緩和するための方法であって、前記対象に請求項1に記載の融合ポリペプチドを投与する工程を含む方法。
【請求項10】
前記融合ポリペプチドが前記対象に全身投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記融合ポリペプチドが前記対象に直腸内投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌毒素が、Shigella dysenteria、腸管出血性大腸菌、Aeromononas caviae、Aeromononas hydrophila、Citrobacter freundiiおよびEnterobacter cloacaeからなる群から選択される細菌によって産生される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記細菌毒素が志賀毒素または志賀様毒素1である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細菌毒素が志賀様毒素2である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ムチン−免疫グロブリン融合ポリペプチドを作製する方法であって、
a)
i)免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも一部分をコードする核酸に連結された、ムチンポリペプチドをコードする核酸と、
ii)α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチドをコードする核酸と、
iii)場合によって、コア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードする核酸と
を含む細胞を準備する工程と、
b)前記ムチン−免疫グロブリン融合ポリペプチドの作製を可能にする条件下で前記細胞を培養する工程であって、前記融合ポリペプチドが、Galα4Galβ3GalNAcα構造またはGalα4Galβ4GlcNac構造を含むグリカンレパートリーを有する工程と、
c)前記ムチン−免疫グロブリン融合ポリペプチドを単離する工程と
を含む方法。
【請求項16】
前記細胞が真核細胞または原核細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記真核細胞が哺乳動物細胞または酵母細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物細胞がCHO細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記原核細胞が細菌細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
a)免疫グロブリンポリペプチドの少なくとも一部分をコードする核酸に連結された、ムチンポリペプチドをコードする核酸と、
b)α1,4ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチドをコードする核酸と、
c)場合によって、コア2β1,6−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードする核酸と
を含む細胞。

【公表番号】特表2011−519912(P2011−519912A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508012(P2011−508012)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006059
【国際公開番号】WO2009/136298
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(510296247)リコファーマ アーベー (1)
【Fターム(参考)】