説明

応答解析装置、方法及びプログラム

【課題】解析対象モデルのうち内部領域より外側の範囲が非線形の挙動を示す応答解析における解析精度の向上を実現する。
【解決手段】内部領域と外部領域との間に波動境界モデルとしてエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルに対し、まず外部領域の地盤について非線形の時刻歴応答解析を行って各解析時刻(Δt刻み)での地盤の物性値を算出し(38)、算出した物性値に基づき外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクス及びインパルス応答をΔtb(>Δt)刻みで算出し(40〜44)、全解析時刻のインパルス応答を補間演算によって算出し(46)、解析対象モデルの時刻歴応答解析を全解析時刻について行う(52)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は応答解析装置、方法及びプログラムに係り、特に、波動境界モデルを含む解析対象モデルに対して時間領域での振動問題の応答解析を行う応答解析装置、該応答解析装置に適用可能な応答解析方法、及び、コンピュータを前記応答解析装置として機能させるための応答解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震時の建物の挙動や損傷を精度良く評価するためには、建物と地盤との相互作用効果を考慮して地震応答解析を行う必要がある。また地震応答解析は、周波数領域で応答解析を行う周波数応答解析と、時間領域で応答解析を行う時刻歴応答解析とに大別されるが、大地震時には地盤・建物とも大きく塑性化するので、建物の挙動等を精度良く評価するためには、非線形の解析が可能な時刻歴応答解析を行うことが望ましい。
【0003】
また、地震応答解析では地盤を有限要素法(FEM)の非線形ソリッド要素を用いてモデル化することが多い。地盤は本来半無限的な広がりを持つのに対し、FEM解析では解析領域を有限としてモデル化する必要があるため、解析対象モデルの側面や底面には波動境界モデルが設定される。建物で励起された波動は主として、下方へは実体波として、側方へは表面波として伝播するが、表面波の方がより遠方まで伝播するため、解析対象モデルの側面及び底面のうち、側面に設定する波動境界モデルが解析結果により大きな影響を及ぼす。時間領域の解析に適用可能な側面境界モデルとしては、例えば繰返し境界、粘性境界、無反射境界が知られている。このうち、繰返し境界はモデル化は極めて容易であるものの波動境界としての精度が低く、モデル化領域(解析対象モデル)を大きくとる必要があるので解析負荷が大きい。また、粘性境界は斜め方向からの波動に対しての精度が低く、解析精度を上げるため同様にモデル化領域を大きくする必要がある。更に、無反射境界は現実の問題への適用に課題が多く、あまり用いられていない。
【0004】
一方、より高精度な波動境界モデルとしてエネルギー伝達境界(Energy Transmitting Boundary、又は、Consistent Transmitting Boundary)が知られている。エネルギー伝達境界は、剛基盤上に平行成層をなす地盤の外端に設置され、水平方向には厳密で、上下方向は要素の変位仮定に従う(線形一次要素であれば、変位は直線的に変化する)高精度の境界であり、任意方向からの波動をほぼ完全に吸収する特性を有している。このため、解析対象モデルの側面の波動境界モデルとして上記のエネルギー伝達境界を用いれば、モデル化領域を大幅に小さくすることで、同等の解析精度での応答解析を、より小さな解析負荷で実現できる。
【0005】
但し、エネルギー伝達境界の特性は伝達境界マトリクスと補正力ベクトルによって表されるものの、このうち伝達境界マトリクスは、周波数領域の複素数であり強い振動数依存性を有しているので、時間領域に変換することは困難であり、側面境界モデルとしてエネルギー伝達境界を適用した解析対象モデルによる応答解析は、周波数領域での等価線形解析に限られていた。これを解決するため、本願発明者は、波動境界モデルとしてエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルに対する時間領域での応答解析を実現する技術を既に提案している(特許文献1参照)。なお、本願発明者は、周波数領域の複素関数である地盤の動的剛性を時間領域で表されるインパルス応答へ変換する技術も既に提案している(例えば特許文献2や非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−250805号公報
【特許文献2】特許3878626号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中村尚弘,「地盤インピーダンスの時間領域変換による成層地盤に埋込まれた構造物の地震応答解析」,日本建築学会構造系論文集,2003年5月,第567号,p.63−70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、解析対象モデルのうちエネルギー伝達境界及びエネルギー伝達境界よりも外側の範囲(外部領域)に対しては線形解析を行う技術であり、例えば硬い地盤上に建設された建物に地震が到来した等の解析条件では良好な解析精度が得られるものの、例えば軟らかい地盤上に建設された建物に地震が到来した等のように、地震の到来に伴って非線形の挙動を示す範囲がエネルギー伝達境界にまで及ぶような解析条件で応答解析を行った場合には、エネルギー伝達境界や外部領域の塑性化(非線形化)を表現できないために解析精度が低下する、という問題があった。
【0009】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、解析対象モデルのうち内部領域より外側の範囲が非線形の挙動を示す応答解析における解析精度の向上を実現できる応答解析装置、応答解析方法及び応答解析プログラムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る応答解析装置は、地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの前記外部領域に対し、前記解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うことで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値を前記解析対象の各時刻毎に各々演算する物性値演算手段と、前記物性値演算手段により前記解析対象の各時刻毎に演算された前記外部領域における前記解析対象物体の物性値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの、前記エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、前記解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算するマトリクス演算手段と、前記マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された前記伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と前記物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算するインパルス応答演算手段と、前記インパルス応答演算手段によって前記解析対象の各時刻毎に演算された前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を用いて、前記解析対象モデルに対し、前記特定の外力が入力されたときの挙動を前記解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行う解析手段と、を含んで構成されている。
【0011】
請求項1記載の発明では、地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの外部領域に対し、物性値演算手段により、解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析が行われることで、外部領域における解析対象物体の物性値が解析対象の各時刻毎に各々演算される。なお、解析対象物体の物性値としては、例えば解析対象物体の剪断歪振幅値γ、剪断波速度Vs及び減衰定数hを適用することができる。これにより、特定の外力が入力された場合の外部領域における解析対象物体の挙動を表すデータ(解析対象の各時刻での物性値)が得られる。
【0012】
また、マトリクス演算手段は、物性値演算手段により解析対象の各時刻毎に演算された外部領域における解析対象物体の物性値に基づき、特定の外力が入力されたときの、エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算し、インパルス応答演算手段は、マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、特定の外力が入力されたときのエネルギー伝達境界のインパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算する。
【0013】
このように、請求項1記載の発明では、解析対象モデルのうちの外部領域に対し、解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うことで、特定の外力が入力されたときの外部領域における解析対象物体の物性値を解析対象の各時刻毎に演算しておき、解析対象の時刻のうちの少なくとも2以上の時刻について伝達境界マトリクスを各々演算し、2以上の時刻について演算した伝達境界マトリクスに基づいて、エネルギー伝達境界のインパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算するので、特定の外力の入力に伴って解析対象モデルの外部領域が非線形の挙動を示す場合にも、解析対象の各時刻における外部領域の挙動を正確に反映したインパルス応答を得ることができる。
【0014】
そして請求項1記載の発明では、解析手段により、インパルス応答演算手段によって解析対象の各時刻毎に演算されたエネルギー伝達境界のインパルス応答を用いて、解析対象モデルに対し、特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析が行われるので、解析対象モデルのうち内部領域より外側の範囲が非線形の挙動を示す応答解析における解析精度の向上を実現できる。
【0015】
なお、請求項1記載の発明において、エネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスは、例えば請求項2に記載したように、内部領域の質量マトリクスを[M]、剛性マトリクスを[KI]、変位ベクトルを{u(t)}、境界力ベクトルを{FR(t)}、外部領域における解析対象物体の応答変位を{uR(t)}、境界に作用する補正力ベクトルを−[DR(t)]{uR(t)}とし、
[MI]{u"(t)}+([K(t)]+[R(t)]){u(t)}
=−y"(t)[M]{1}+{FR(t)} …(1)
{FR(t)}=([R(t)]−[DR(t)]){uR(t)} …(2)
解析対象モデル全体の運動方程式を上記の(1),(2)式で表したときに、上記の(1),(2)式の[R(t)]で表すことができる。
【0016】
以下、上記の(1),(2)式について説明する。図1には、地盤を一定サイズの多数個の構成要素の集合体としてモデル化すると共に、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界を設け、モデルの中心位置に関して逆対称条件を設けて1/2モデル化して成る右側の1/2モデル(モデルの右側にのみエネルギー伝達境界が存在し、エネルギー伝達境界を挟んで左側には内部領域が、右側には外部領域(自由地盤ともいう)が位置しているモデル)を示す。この1/2モデルにおいて、2次元面内問題での外部領域(自由地盤)の波動方程式は次の(3)式で表される。
([A(t)]k+i[B(t)]k+[G(t)]−ω[M]){u(ω)}={0} …(3)
ここで、kは波数、{u(ω)}は外部領域(自由地盤)の変位ベクトルである。また、[A(t)],[B(t)],[G(t)],[M]は2n×2n(nは節点数)のマトリクスで、以下の要素毎のサブマトリクス[A(t)]j,[B(t)]j,[G(t)]j,[M]jの重ね合せで表される。各サブマトリクスは、各要素のラメ定数G(t)j,λ(t)jを用いて次の(4)〜(7)式で表される。hjjは各要素の高さと密度である。
【0017】
【数1】

ここで、
[C]=[G(t)]−ω[M(t)] …(8)
とし、次の(9)式の波数kに関する固有値問題を解く。
|[A(t)]k2+i[B(t)]k+[C(t)]|={0} …(9)
得られた4n個の固有モードより、右方向に伝播する成分2n個を抽出し、モードマトリクス[V]とする。これより、1/2モデルの右側に存在するエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスは次の(10)式の[R(t)]で表される。但し、[D(t)]は下記の(11)式で表されるサブマトリクス[D(t)]jの重ね合せで表される。
[R(t)]=i・[A(t)][V][K][V]−1+[D(t)] …(10)
【0018】
【数2】

【0019】
なお、先の(10)式ではマトリクスが非対称となるが、以下では対称位置の項を平均することによりマトリクスを対称化する。これより、解析対象モデル全体の運動方程式として先の(1)式が得られ、境界力ベクトル{FR(t)}の演算式として先の(2)式が得られる。なお、先の(2)式における補正力(切欠き力ともいう)ベクトル−[DR(t)]{uR(t)}は、地震動が鉛直下方より入射する場合は[Q(t)]=[D(t)]、それ以外の場合は[Q(t)]=ik[A(t)]+[D(t)]となる。但しkは波数である。また、[R(t)], {uR(t)},{FR(t)}は、(10)式までは境界部の自由度数2nで定義したが、内部領域の自由度に重ね合わせるため、(1),(2)式では内部領域の自由度数に拡張して用いている。
【0020】
また、請求項1又は請求項2記載の発明において、物性値演算手段は、例えば請求項3に記載したように、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、前記虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで得られた前記因果的単位虚数関数のインパルス応答値を用いて、解析対象モデルのうちの外部領域に対する応答解析を行うことで、外部領域における解析対象物体の物性値として剪断歪振幅値γ、剪断波速度Vs及び減衰定数hを演算するように構成することが好ましい。
【0021】
地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体に、解析対象物体を振動させる特定の外力として、大地震時等のように大エネルギーかつ大振幅の外力が入力された場合、解析対象物体のうちの地盤は、非線形の挙動として、内部減衰の履歴吸収エネルギー(減衰定数h)が振動数ωにあまり依存しない振動数非依存特性(減衰定数hが振動数ωに拘わらず一定値を示す特性)を示すと共に、剛性低下率α(=剛性G/初期剛性G)及び減衰定数hが物体(地盤)の剪断歪振幅値γに応じて変化する歪振幅依存特性も示す。
【0022】
これに対して請求項3記載の発明では、因果的単位虚数関数のインパルス応答値を用いて解析対象モデルのうちの外部領域に対する応答解析を行うので、特開2008−304227号公報に記載の発明と同様に、地盤が振動数非依存特性及び歪振幅依存特性も示すことによる影響を受けることなく、外部領域における解析対象物体の挙動を高精度に解析することができ、解析対象の各時刻での物性値として、外部領域における解析対象物体の挙動を高精度に表す物性値が得られる。
【0023】
また、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、インパルス応答演算手段は、例えば請求項4に記載したように、マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された伝達境界マトリクスの値に基づき、特定の外力が入力されたときのエネルギー伝達境界のインパルス応答を、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻について各々演算した後に、解析対象の各時刻のうちエネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻でのエネルギー伝達境界のインパルス応答を、2以上の時刻について各々演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答から補間演算によって求めるように構成することが好ましい。これにより、演算負荷が比較的大きい伝達境界マトリクスの演算回数を減少させることで、解析手段による応答解析における解析精度の低下は抑制しつつ、伝達境界マトリクスの演算に起因する演算負荷を低減することができる。
【0024】
また、請求項4記載の発明において、インパルス応答演算手段によるインパルス応答の補間演算は、例えば請求項5に記載したように、エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻での外部領域における解析対象物体の剪断歪振幅値γが、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻での外部領域における解析対象物体の剪断歪振幅値γを内分する比率に基づいて、エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻でのエネルギー伝達境界のインパルス応答を、2以上の時刻について各々演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答から補間演算によって求めることによって実現できる。
【0025】
また、請求項4記載の発明において、インパルス応答演算手段によるインパルス応答の補間演算は、例えば請求項6に記載したように、エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻が、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻を内分する比率に基づいて、エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻でのエネルギー伝達境界のインパルス応答を、2以上の時刻について各々演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答から補間演算によって求めることによっても実現できる。
【0026】
また、請求項1〜請求項6の何れかに記載の発明において、インパルス応答演算手段は、例えば請求項7に記載したように、物体の変位に依存するインパルス応答の同時成分をk、物体の速度に依存するインパルス応答の同時成分をc、物体の加速度に依存するインパルス応答の同時成分をm、物体の変位に依存するインパルス応答のΔt刻みの時間遅れ成分をkj、物体の速度に依存するインパルス応答のΔt刻みの時間遅れ成分をcj(但しjは自然数でtj=Δt・j)、時間領域での物体の変位をu(t)、速度をu'(t)、加速度をu"(t)としたときに、前記物体の加速度に依存し少なくとも同時成分を含んで成る質量項も含む数式として、前記インパルス応答FB(t)を規定する数式である、
【0027】
【数3】

上記(12)式を用い、マトリクス演算手段によって伝達境界マトリクスが演算された時刻におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答を、前記時刻における、前記振動がN種(N=n+1)の周波数のときの伝達境界マトリクスの値に基づいて演算するよう構成することができる。これにより、特許文献1からも明らかなように、本願発明者が非特許文献1で提案した演算方法に従ってエネルギー伝達境界のインパルス応答を演算する場合よりも、エネルギー伝達境界のインパルス応答としてより高精度な値を得ることができ、解析対象モデルに対する時間領域での応答解析の解析精度を向上させることができる。
【0028】
また、請求項7記載の発明において、インパルス応答演算手段は、例えば請求項8に記載したように、前記(12)式における物体の加速度に依存するインパルス応答の同時成分mに対する修正値Δm0、物体の変位に依存するインパルス応答の同時成分kに対する修正値Δk0を下記の(13)式によって演算し、
【0029】
【数4】

(但し、上記(13)式において、
【0030】
【数5】

であり、上記(14)式におけるRe(S))は、前記(12)式を用いて演算した前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答から再現された、下記の(15)式で表される前記伝達境界マトリクスS(ω)の振動数ωでの実部の値を表し、
【0031】
【数6】

上記(14)式におけるRe(D(ω))は、(12)式に基づく前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答の演算に用いた、振動数ωでの前記伝達境界マトリクスのデータD(ω)のうちの実部の値を表す)、演算した修正値Δm0,Δk0を用いて前記同時成分m,kを修正するように構成することが好ましい。これにより、特許文献1からも明らかなように、上記の同時成分m,kの修正を行わない場合と比較して、エネルギー伝達境界のインパルス応答として更に高精度な値を得ることができ、解析対象モデルに対する時間領域での応答解析の解析精度を更に向上させることができる。
【0032】
また、請求項7記載の発明において、インパルス応答演算手段は、例えば請求項9に記載したように、前記(3)式における物体の速度に依存するインパルス応答の同時成分をcに対する修正値Δc0も下記の(16)式によって演算し、
Δc0=−E/B …(16)
(但し、上記(16)式において、
【0033】
【数7】

であり、上記(17)式におけるIm(S(ωi))は、前記(12)式を用いて演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答から再現された、前記(15)式で表される伝達境界マトリクスS(ω)の振動数ωでの虚部の値を表し、上記(17)式におけるIm(S))は、(12)式に基づくエネルギー伝達境界のインパルス応答の演算に用いた、振動数ωでの伝達境界マトリクスのデータD(ω)のうちの虚部の値を表す)、演算した修正値Δc0を用いて同時成分cも修正するように構成することが好ましい。
【0034】
これにより、特許文献1からも明らかなように、上記の同時成分cの修正を行わない場合と比較して、例えばインパルス応答の演算に用いるデータ点の振動数軸上における位置が等間隔でない等のように、演算したインパルス応答のうちの虚部についての精度が低下し易い条件の場合に、エネルギー伝達境界のインパルス応答として更に高精度な値を得ることができ、解析対象モデルに対する時間領域での応答解析の解析精度を更に向上させることができる。
【0035】
請求項10記載の発明に係る応答解析方法は、コンピュータに、地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの前記外部領域に対し、前記解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行わせることで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値を前記解析対象の各時刻毎に各々演算させ、前記解析対象の各時刻毎に演算させた前記外部領域における前記解析対象物体の物性値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの、前記エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、前記解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算させ、2以上の時刻について各々演算させた前記伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と前記物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算させ、前記解析対象の各時刻毎に演算させた前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を用いて、前記解析対象モデルに対し、前記特定の外力が入力されたときの挙動を前記解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行わせるので、請求項1記載の発明と同様に、解析対象モデルのうち内部領域より外側の範囲が非線形の挙動を示す応答解析における解析精度の向上を実現できる。
【0036】
請求項11記載の発明に係る応答解析プログラムは、コンピュータを、地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの前記外部領域に対し、前記解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うことで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値を前記解析対象の各時刻毎に各々演算する物性値演算手段、前記物性値演算手段により前記解析対象の各時刻毎に演算された前記外部領域における前記解析対象物体の物性値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの、前記エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、前記解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算するマトリクス演算手段、前記マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された前記伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と前記物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算するインパルス応答演算手段、及び、前記インパルス応答演算手段によって前記解析対象の各時刻毎に演算された前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を用いて、前記解析対象モデルに対し、前記特定の外力が入力されたときの挙動を前記解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行う解析手段として機能させる。
【0037】
請求項11記載の発明に係る応答解析プログラムは、コンピュータを、上記の物性値演算手段、マトリクス演算手段、インパルス応答演算手段及び解析手段として機能させるためのプログラムであるので、コンピュータが請求項11記載の発明に係る応答解析プログラムを実行することで、コンピュータが請求項1に記載の応答解析装置として機能することになり、請求項1記載の発明と同様に、解析対象モデルのうち内部領域より外側の範囲が非線形の挙動を示す応答解析における解析精度の向上を実現できる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように本発明は、地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの外部領域に対し、解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うことで、外部領域における解析対象物体の物性値を解析対象の各時刻毎に各々演算し、解析対象の各時刻毎に演算した物性値に基づき、特定の外力が入力されたときの伝達境界マトリクスの値を解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算し、2以上の時刻について各々演算した伝達境界マトリクスの値に基づき、特定の外力が入力されたときのエネルギー伝達境界のインパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算し、解析対象の各時刻毎に演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答を用いて、解析対象モデルに対し、特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うので、解析対象モデルのうち内部領域より外側の範囲が非線形の挙動を示す応答解析における解析精度の向上を実現できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】地盤モデル(1/2モデル)の一例を示すイメージ図である。
【図2】実施形態に係るコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【図3】地震応答解析処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】地震応答解析処理における各ステップの関係(データの流れ)を示す概念図である。
【図5】地震応答解析処理で用いる解析対象モデルの一例を示すイメージ図である。
【図6】地盤の剪断歪振幅値γ−剛性低下率α特性、剪断歪振幅値γ−減衰定数h特性の一例を示す線図である。
【図7】因果的単位虚数関数の、(A)は虚数部全体、(B)は正則成分、(C)は特異成分を各々示す線図である。
【図8】解析対象モデルの他の例を示すイメージ図である。
【図9】本願発明者が実施した解析検討において、外部領域の地盤の時刻歴応答解析で最大歪記憶時間が各値のときの、(A)は最大加速度、(B)は最大歪、(C)は最大剪断応力の応答値の分布を各々示す線図である。
【図10】本願発明者が実施した解析検討において、外部領域の地盤の時刻歴応答解析で得られた剪断歪の時間変化を地盤モデルの各部位毎に示す線図である。
【図11】本願発明者が実施した解析検討において、外部領域の地盤の時刻歴応答解析で得られた剪断波速度Vs及び減衰定数hの時間変化を地盤モデルの各部位毎に示す線図である。
【図12】本願発明者が実施した解析検討において、外部領域の地盤の時刻歴応答解析で得られた代表時刻毎の剪断歪、剪断波速度Vs及び減衰定数hの分布を示す線図である。
【図13】本願発明者が実施した解析検討において、本発明を適用した時刻歴応答解析での応答値を示す線図である。
【図14】本願発明者が実施した解析検討において、本発明を適用した時刻歴応答解析での各モデルの応答値の基準値に対する比率を示す図表である。
【図15】本願発明者が実施した解析検討において、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析での応答値を示す線図である。
【図16】本願発明者が実施した解析検討において、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析での各モデルの応答値の基準値に対する比率を示す図表である。
【図17】本願発明者が実施した解析検討において、波動境界モデルとしての粘性境界に対する等価線形の応答解析での応答値を示す線図である。
【図18】本願発明者が実施した解析検討において、波動境界モデルとしての粘性境界に対する等価線形の応答解析での各モデルの応答値の基準値に対する比率を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図2には本発明を適用可能なコンピュータ10が示されている。コンピュータ10は、CPU10A、ROMやRAM等から成るメモリ10B、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等から成る不揮発性の記憶部10Cを備えており、CRT又はLCDから成るディスプレイ12、キーボード14、マウス16が各々接続されている。
【0041】
コンピュータ10の記憶部10Cには、後述する地震応答解析処理を行うための地震応答解析プログラムがインストールされている。この地震応答解析プログラムは、請求項11に記載の応答解析プログラムに対応している。また、コンピュータ10は請求項10及び請求項11に記載のコンピュータに対応しており、CPU10Aが地震応答解析プログラムを実行することで、請求項1等に記載の発明に係る応答解析装置として機能する。なお、コンピュータ10としてはパーソナル・コンピュータ(PC)が好適であるが、これに限られるものではなく、例えばワークステーションであってもよいし、汎用の大型コンピュータであってもよい。
【0042】
次に本実施形態の作用として、CPU10Aが地震応答解析プログラムを実行することで実現される地震応答解析処理について、図3(及び図4)を参照して説明する。なお、本実施形態に係る地震応答解析処理では、地盤と当該地盤に埋め込まれた地下部分を有する建物が一体となった解析対象物体に地震動が入力された場合の挙動を時間領域でΔt刻みで解析する応答解析を、解析対象モデルとして、例として図5に示すように、解析対象物体を構成する地盤を一定サイズの多数個の構成要素(メッシュ領域ともいう)の集合体としてモデル化されると共に、解析対象物体を構成する建物が複数個の節点を含む構造体モデルとしてモデル化されて成り、地盤モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられ、モデルの中心位置に関して逆対称条件を設けて1/2モデル化されて成る右側の1/2モデル(モデルの右側にのみエネルギー伝達境界が存在し、エネルギー伝達境界を挟んで左側には内部領域が、右側には外部領域(自由地盤ともいう)が位置しているモデル)を用いて行う。
【0043】
地震応答解析処理のステップ30では、解析対象モデルの内部領域の地盤及び建物の動特性マトリクスを演算するためのデータを取得する。なお、本実施形態において、動特性マトリクスは、地盤や建物の応答解析を行うのに必要な特性を表すマトリクスを意味し、具体的には、質量マトリクス、減衰マトリクス及び剛性マトリクスから構成され、ステップ30で取得されるデータとしては、例えば内部領域の地盤各層毎の物性値(例えば剪断波速度Vs、ポアソン比ν、密度ρ、減衰定数h、剛性低下率特性γ−α及び減衰定数特性γ−h(一例を図6に示す)等(但し剪断波速度Vs及び減衰定数hは解析開始時刻における値(初期値))や、建物の各階毎の定数(質量、剪断剛性、回転慣性、減衰率h等)等が挙げられる。
【0044】
次のステップ32では、ステップ30で取得したデータに基づき、有限要素法(FEM)による解析を行うことで内部領域の地盤及び建物の動特性マトリクスを演算する。これにより、前出の(1)式に示す内部領域の質量マトリクス[M]、内部領域の剛性マトリクス[K]、前出の(8)式に示す減衰マトリクス[C]が各々算出される。なお、本実施形態では材料減衰の振動数非依存性を表す減衰モデルとして因果的履歴減衰モデルを用いており、上記の減衰マトリクス[C]は因果的履歴減衰モデルを用いて算出される。
【0045】
ステップ34では入力地震動のデータ(本発明における「特定の外力」を表すデータ)を取得し、次のステップ36では外部領域の地盤(無限遠方地盤)の動特性マトリクス及び地震応答を演算するためのデータとして、外部領域の地盤各層の物性値(例えば剪断波速度V、ポアソン比ν、密度ρ、減衰定数h、剛性低下率特性γ−α及び減衰定数特性γ−h等(但し、剪断波速度Vs及び減衰定数hは解析開始時刻における値(初期値)))を取得する。
【0046】
ステップ38では、先のステップ34で取得した入力地震動のデータと、先のステップ36で取得した外部領域の地盤(無限遠方地盤)の地震応答を演算するためのデータに基づいて、取得したデータが表す入力地震動が入力されたときの、外部領域の地盤(無限遠方地盤)の非線形の地震応答を時間領域で演算・解析する(図4も参照)。大地震時等のように大エネルギーかつ大振幅の外力が入力された地盤は、内部減衰の履歴吸収エネルギー(減衰定数h)が振動数ωにあまり依存しない振動数非依存特性(減衰定数hが振動数ωに拘わらず一定値を示す特性)を示すと共に、剛性低下率α(=剛性G/初期剛性G)及び減衰定数hが物体(地盤)の剪断歪振幅値γに応じて変化する歪振幅依存特性も示す。
【0047】
このため、本実施形態では、例として図7に示すように、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分(図7(B)参照)、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分(図7(C)参照)の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、前記虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数Z'(ω)を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値として、物体の速度に依存する同時成分c(t0)、物体の変位に依存する同時成分k(t0)、物体の変位に依存するΔt刻みの時間遅れ成分k(tj)(但しjは自然数でtj=Δt・j)が予め演算されて記憶部10Cに記憶されている。
【0048】
そして、ステップ38における応答解析は以下のようにして行われる。すなわち、まず因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値(c(t0),k(t0),k(tj))を記憶部10Cから読み出し、物体(この場合は外部領域の地盤)の質量マトリクスを[Ms]、物体の初期剛性マトリクスを[K0]、時間領域での物体の変位ベクトルを{u(t)}、速度ベクトルを{u'(t)}、反力ベクトルを{F(γ,t)}、物体を振動させる外力の時間領域での加速度をy"(t)、時間遅れ成分k(tj)の総数をnとしたときに、記憶部から読み出した因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値(c(t0),k(t0),k(tj))を、
[Ms]{u"(t)}+{F(γ,t)}=−y"(t)[Ms]{1} …(18)
但し、
【0049】
【数8】

上式に代入する。
【0050】
そして、ステップ34で取得した入力地震動のデータから、解析対象の時刻t(初期値はt=0)に外部領域の地盤に加わる外力を表すデータを抽出し、抽出したデータが表す外力に基づいて、解析対象時刻tにおける外部領域の地盤の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}を各々推定し、推定した変位ベクトル{u(t)}に基づいて解析対象時刻tにおける外部領域の地盤の剪断歪振幅値γを演算し、外部領域の地盤の剛性低下率特性γ−α及び減衰定数特性γ−hに基づき、剪断歪振幅値γ(但し、このときの剪断歪振幅値γは解析対象の時刻tから過去Δtm秒(=最大歪記憶時間)の間の剪断歪振幅値γの最大値)に対応する剛性低下率α及び減衰定数hを各々演算し、推定した変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}、演算した剛性低下率α及び減衰定数hも前出の(18),(19)式に代入して解析対象時刻tにおける外部領域の地盤の挙動を演算し、演算の結果、解析対象時刻tに外部領域の地盤に加わる外力と、解析対象時刻tにおける外部領域の地盤の反力との偏差が許容範囲内か否か判定し、偏差が許容範囲内でなければ変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}を修正して上記の演算を繰り返すことで、解析対象時刻tに外力に対する外部領域の地盤の反力の偏差が許容範囲内になる外部領域の地盤の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}の値を求め、外力に対する外部領域の地盤の反力の偏差が許容範囲内になった時点での外部領域の地盤の剪断歪振幅値γ、剪断波速度Vs及び減衰定数hを、解析対象時刻tにおける外部領域の地盤の物性値としてメモリ10Bに記憶させる。
【0051】
上述した一連の処理は、入力地震動のデータが表す外力が加わった場合の単一の解析対象時刻tにおける外部領域の地盤の挙動を解析する処理であり、解析対象時刻tをΔtずつ増加させながら、解析対象の全時刻について上述した一連の処理を各々行う(特開2008−304227号公報も参照)ことで、入力地震動のデータが表す外力が加わった場合の解析対象の全時刻における外部領域の地盤の挙動を表す物性値(剪断歪振幅値γや剪断波速度Vs、減衰定数h等)が各々求まることになる。なお、上記のステップ38は本発明に係る物性値演算手段(より詳しくは請求項3に記載の物性値演算手段)による処理の一例である。
【0052】
次のステップ40では、先のステップ36で取得した外部領域の地盤の地震応答を演算するためのデータと、ステップ38の応答解析によって得られた、入力地震動のデータが表す外力が加わった場合のΔt刻みの解析対象の全時刻における外部領域の地盤の挙動を表す物性値から、外部領域の地盤の挙動を表す物性値(剪断波速度Vs、減衰定数h)をΔtb刻み(但しΔtb>Δtであり、例えばΔtb=1秒、Δt=0.01秒程度の値が好適である)で抽出し、抽出したΔtb刻みの各時刻における物性値に基づいて(なお、ポアソン比ν及び密度ρについては時刻に拘わらず一定値を用いる)、入力地震動のデータが表す外力が加わった場合のΔtb刻みの各時刻における外部領域の地盤の動特性マトリクスを各々演算する(図4も参照)。これにより、外部領域の地盤の動特性マトリクスとして、先の(3)式におけるマトリクス[A(t)],[B(t)],[G(t)],[M]やモードマトリクス[V]、先の(11)式で表されるサブマトリクス[D(t)]jの重ね合せで表されるマトリクス[D(t)]がΔtb刻みの各時刻毎に算出される。
【0053】
次のステップ42では、ステップ40の演算によって得られたΔtb刻みの各時刻における外部領域の地盤の動特性マトリクスを先の(10)式に各々代入することで、入力地震動のデータが表す外力が加わった場合の外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスをΔtb刻みの各時刻毎に演算する(図4も参照)。これにより、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスとして、先の(10)式で表される伝達境界マトリクス[R(t)]が、Δtb刻みの各時刻毎に、Δtb刻みの各時刻における外部領域の地盤の挙動を表す物性値(剪断波速度Vs、ポアソン比ν、密度ρ、減衰定数h:但し、 ポアソン比ν及び密度ρは時刻に拘わらず一定)に基づいて算出されることになる。
【0054】
ステップ44では、ステップ42でΔtb刻みの各時刻毎に算出された外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスを時間領域へ各々変換することで、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答をΔtb刻みの各時刻毎に算出する。或る時刻における外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答は、具体的には以下のようにして演算することができる。
【0055】
すなわち、まずステップ48の演算によって得られた伝達境界マトリクスのデータから、予め設定された演算対象の周波数範囲内のN種の周波数(N種の角振動数ω1,…,ωN)における伝達境界マトリクスの値を表すN個の複素データSB1),…,SBN)を各々抽出する。なお、演算対象の周波数範囲としては、例えば0〜20(Hz)の範囲を適用することができる。次に、インパルス応答を規定する数式として先の(12)式を、伝達境界マトリクスを規定する数式として先の(15)式を用い、(12),(15)式に基づいて導出した次の(20),(21)式の連立方程式にN個の複素データS(ω1),…,S(ωN)を代入し、この連立方程式の解を求めることで、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答を、予め設定されたΔt刻みで演算する。
【0056】
【数9】

【0057】
この演算により、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答として、物体の変位に依存するインパルス応答の同時成分k0、物体の速度に依存するインパルス応答の同時成分c0、物体の加速度に依存するインパルス応答の同時成分m0のデータが得られると共に、物体の変位に依存するインパルス応答の時間遅れ成分kjのデータがΔt刻みでn個(n=N−1)得られ、物体の速度に依存するインパルス応答の時間遅れ成分cjのデータがΔt刻みでn−1個得られる。
【0058】
続いて、先の(13),(14)式に従って修正値Δm0,Δk0を演算し、演算した修正値Δm0,Δk0を用いてインパルス応答の同時成分m,kを修正する。更に、例えばインパルス応答の演算に用いるデータ点の振動数軸上における位置が等間隔でない等のように、演算したインパルス応答のうちの虚部についての精度が低下し易い条件である場合には、先の(16),(17)式に従って修正値Δc0も演算し、演算した修正値Δc0を用いて同時成分cを修正する。上記の演算により、或る解析対象時刻tにおける外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答が得られる。そして、上記の演算をΔtb刻みの各時刻について各々行うことで、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答がΔtb刻みの各時刻毎に得られる。
【0059】
次のステップ46では、Δtb刻みの各時刻毎に演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答に基づいて、Δt刻みの全解析対象時刻におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答を補間演算によって求める。この補間演算を行うことで、演算負荷が比較的大きい伝達境界マトリクスの算出や伝達境界マトリクスからのエネルギー伝達境界のインパルス応答の算出を解析対象の全時刻について行う場合と比較して前記算出の回数が削減され、前記算出を行うことでコンピュータ10に加わる演算負荷を低減することができる。
このステップ46は請求項4に記載のインパルス応答演算手段による演算の一例である。
【0060】
なお、ステップ46における補間演算は、具体的には、例えばインパルス応答演算対象の時刻tにおける剪断歪振幅値γに基づいて、伝達境界マトリクス(及びエネルギー伝達境界のインパルス応答)が演算済みの時刻の中から、個々の時刻における剪断歪振幅値γ1,γ2が「γ1<γ<γ2」なる関係を満たす時刻t1,t2を選択し、時刻t1におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答をX1、時刻t2におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答をX2としたときに、インパルス応答演算対象の時刻tにおけるエネルギー伝達境界のインパルス応答Xを規定する次の(22)式を用い、
X=X1+(X2−X1)・{γ/(γ2−γ1)} …(22)
演算対象時刻tにおけるエネルギー伝達境界のインパルス応答を構成する各成分(k0,c0,m0,kj,cj)を上記の(22)式によって各々算出することによって実現できる。この演算を、解析対象の全時刻のうち伝達境界マトリクス(及びエネルギー伝達境界のインパルス応答)が未演算の全ての時刻について行うことで、Δt刻みの全解析対象時刻におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答が得られる。
【0061】
上記の(22)式における"{γ/(γ2−γ1)}"は、請求項5に記載の「エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻での外部領域における解析対象物体の剪断歪振幅値γが、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻での外部領域における解析対象物体の剪断歪振幅値γを内分する比率」の一例であり、(22)式の補間演算によってインパルス応答値を求める処理は請求項5に記載のインパルス応答演算手段による処理の一例である。
【0062】
また、ステップ46における補間演算は(22)式を用いることに限られるものではなく、例えばインパルス応答演算対象の時刻tに基づいて、伝達境界マトリクス(及びエネルギー伝達境界のインパルス応答)が演算済みの時刻の中から「t1<γ<t2」なる関係を満たす時刻t1,t2を選択し、時刻t1におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答をX1、時刻t2におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答をX2としたときに、インパルス応答演算対象の時刻tにおけるエネルギー伝達境界のインパルス応答Xを規定する次の(23)式を用い、
X=X1+(X2−X1)・{t/(t2−t1)} …(23)
演算対象時刻tにおけるエネルギー伝達境界のインパルス応答を構成する各成分(k0,c0,m0,kj,cj)を上記の(23)式によって各々算出するようにしてもよい。この演算を、解析対象の全時刻のうち伝達境界マトリクス(及びエネルギー伝達境界のインパルス応答)が未演算の全ての時刻について行った場合にも、Δt刻みの全解析対象時刻におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答が得られる。
【0063】
上記の(22)式における"{t/(t2−t1)}"は、請求項6に記載の「エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻が、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻を内分する比率」の一例であり、(23)式の補間演算によってインパルス応答値を求める処理は請求項6に記載のインパルス応答演算手段による処理の一例である。
【0064】
次のステップ48では、ステップ38の演算によって得られた外部領域の地盤の地震応答、先のステップ36で取得したデータ、ステップ46で解析対象の全時刻について各々演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答に基づいて、時間領域における外部領域の地盤の補正力ベクトルを解析対象の全時刻について各々演算する(図4も参照)。これにより、外部領域の地盤の補正力ベクトルとして、先の(1)式における補正力ベクトル−[DR(t)]{uR(t)}が解析対象の全時刻について各々算出される。
【0065】
ステップ50では、先のステップ32の演算によって得られた内部領域の地盤及び建物の動特性マトリクス、先のステップ38の演算によって得られた時間領域における外部領域の地盤の地震応答、先のステップ40〜ステップ46の演算により得られた外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界のインパルス応答のうち解析対象時刻t(初期値は解析対象時刻t=0)におけるインパルス応答、及び、先のステップ48の演算によって得られた外部領域の地盤の補正力ベクトルのうち解析対象時刻t(初期値は解析対象時刻t=0)における補正力ベクトルを結合することで、解析対象モデルに対して時間領域の応答解析を行うための時間領域の運動方程式(次の(24)式参照)を求める(図4も参照)。
[MI]{u"(t)}+[KI]{u(t)}+{R0}=−y"(t)[MI]{1}+{F(t)}+{Rf(t)} …(24)
但し、
【0066】
【数10】

【0067】
そしてステップ52では、先のステップ34で取得した入力地震動のデータが表す解析対象時刻tにおける地震動を(24),(25)式の運動方程式に代入し、先に説明したステップ38と同様に、演算結果が収束する迄繰り返し演算を行って解析対象時刻tにおける解析対象物体の挙動を求めることを、解析対象時刻tをΔtずつ増加させると共に、(24),(25)式の運動方程式に代入するエネルギー伝達境界のインパルス応答、外部領域の地盤の補正力ベクトル及び地震動を、Δt増加後の解析対象時刻tに対応する値に切り替えながら繰り返すことで、解析対象モデルに対する時間領域の地震応答解析(時刻歴応答解析)を解析対象の全時刻について各々行う。これにより、内部領域の地盤、建物及び外部領域の地盤が一体となった解析対象物体に地震動が入力された場合の解析対象物体の挙動を、地盤や建物の塑性化を考慮しつつ、また非線形の挙動を示す範囲がエネルギー伝達境界にまで及ぶような解析条件であっても影響を受けることなく、精度良く評価することができる。
【0068】
なお、上記では解析対象モデルとして、例として図5に示すように、モデルの中心位置に関して逆対称条件を設けて1/2モデル化したモデルを用いる態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、解析対象モデルとして、例として図8に示すように、内部領域の左側及び右側に外部領域が各々設けられると共に、内部領域と左右の外部領域との間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が各々設けられたモデルを用いてもよい。このような解析対象モデルを用いて応答解析を行うことで、左右の外部領域の地盤の物性値が相違していたり、地表が傾斜している等の理由で、解析対象モデルの中心位置を挟んで左側部分と右側部分の対称性が保証されない場合にも、応答解析の精度が低下することを防止することができる。
【0069】
上記のように、内部領域の左側及び右側にエネルギー伝達境界が各々設けられた解析対象モデルを用いた場合、左側及び右側の伝達境界マトリクスを[L(t)],[R(t)]、左側及び右側の境界力ベクトルを{FL(t)},{FR(t)}、左側及び右側の外部領域の地盤の応答変位を{uL(t)},{uR(t)}、左側境界及び右側境界に作用する補正力ベクトルを−[DL(t)]{uL(t)},−[DR(t)]{uR(t)}とすると、解析対象モデル全体の運動方程式は、
[MI]{u"(t)}+([K(t)]+[L(t)]+[R(t)]){u(t)}
=−y"(t)[M]{1}+{FL(t)}+{FR(t)} …(26)
{FL(t)}=([L(t)]−[DL(t)]){u(t)} …(27)
{FR(t)}=([R(t)]−[DR(t)]){uR(t)} …(28)
先に(1),(2)式に代えて上記の(26)〜(28)式で表される。
【0070】
また、上記では解析対象物体を2次元のモデルにモデル化して応答解析を行う場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、解析対象物体を3次元のモデルにモデル化して応答解析を行う場合にも適用可能である。
【0071】
また、上記では外部領域における解析対象の各時刻毎の解析対象物体の物性値(剪断歪振幅値γや剪断波速度Vs、減衰定数h等)の演算を、因果的単位虚数関数のインパルス応答を用いて行う態様(請求項3記載の発明に対応する態様)を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記の演算にあたって他の演算方法を適用することも本発明の権利範囲に含まれる。
【0072】
また、上記では、解析対象の各時刻のうちエネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻でのエネルギー伝達境界のインパルス応答を、2以上の時刻について各々演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答から求める際の補間演算として、エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻での外部領域における解析対象物体の剪断歪振幅値γが、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻での外部領域における解析対象物体の剪断歪振幅値γを内分する比率を用いる演算方法と、エネルギー伝達境界のインパルス応答が未演算の時刻が、伝達境界マトリクスの値が演算された2以上の時刻を内分する比率を用いる演算方法を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記の補間演算にあたって他の演算方法を適用することも本発明の権利範囲に含まれる。
【0073】
更に、上記では本発明に係る応答解析プログラムに対応する地震応答解析プログラムがコンピュータ10の記憶部10Cに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、本発明に係る応答解析プログラムは、CD−ROMやDVD−ROM等の記録媒体に記録されている形態で提供することも可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の有用性を確認するために、本願発明者が行った解析検討の詳細を説明する。この解析検討では、図8に示すように、内部領域の左側及び右側に外部領域が各々設けられると共に、内部領域と左右の外部領域との間に波動境界モデルが各々設けられた解析対象モデルを用いた。
【0075】
【表1】

【0076】
上記の表1に示すように、地盤は、剪断波速度Vs=500m/sの基盤上に、層厚40mで剪断波速度Vs=300m/sの表層地盤が存在する二層地盤とした。解析対象モデルのうちの地盤モデルは表層地盤のみモデル化し、基盤の特性は底面粘性境界で評価した。また、表層地盤は図6に示すγ−α特性、γ−h特性を有しているものとした。
【0077】
【表2】

【0078】
また、建物は平面形状が20m×20m、上記の表2に示すように、高さ24mで6階建の構造物とし、解析対象モデルでは、この建物を質点系剪断モデルで表した。建物の減衰は因果的履歴減衰で減衰定数hを3%とした。
【0079】
また、入力地震動は、El Centro1940NS波(継続時間10 秒、時間刻みΔt=0.01秒)を最大加速度=500Galに設定して用い、2E(上昇波の2倍)として定義した。時間積分はNewmark-β法とし、平均加速度法(β=1/4)とした。
【0080】
本解析検討では、まず上記の解析条件で(1)外部領域の地盤の時刻歴応答解析(図3,4のステップ38に相当する解析)、(2)外部領域を含む伝達境界マトリクスの演算(図3,4のステップ40,42に相当する演算)、(3)伝達境界マトリクスのインパルス応答の演算(図3,4のステップ44に相当する演算)を順に行った。
【0081】
(1)外部領域の地盤の時刻歴応答解析
外部領域の地盤の時刻歴応答解析では、非線形因果的履歴減衰モデル(fmax=10Hz、18項モデル)を用いた。先にも説明したように、この応答解析では、各解析対象時刻における剛性低下率α及び減衰定数hとして、剛性低下率特性γ−α及び減衰定数特性γ−hに基づき、解析対象時刻より最大歪記憶時間Δtm秒だけ前の時刻から解析対象時刻迄の間の剪断歪振幅値γの最大値に対応する値を用いるが、最大歪記憶時間Δtmの相違が応答値に与える影響を確認するため、最大歪記憶時間Δtmを0.1秒,0.5秒,1.0秒,2.0秒に切り替えて応答解析を各々行った。結果を図9に示す。図9(A)に示す最大加速度、図9(B)に示す最大歪、図9(C)に示す最大剪断応力の何れについても、最大歪記憶時間Δtm=0.1秒以外であれば応答値の相違は非常に小さい。この結果から、以降の解析検討では最大歪記憶時間Δtm=1.0秒を採用した。
【0082】
なお、最大歪記憶時間Δtm=1.0秒の場合に、時刻歴応答解析で得られる剪断歪の応答値及び剪断歪の絶対値の時間変化を、地盤モデルの深度方向に沿った各位置毎に図10に示す。但し、(A)は地盤モデルの地表(GL)から深度0.5mの位置(地表付近の位置)、(B)は地表から深度20.5mの位置(深度方向のおよそ中央の位置)、(C)は地表から深度39.5mの位置(地盤モデルの底部付近の位置)における剪断歪の時間変化を各々示す。また、最大歪記憶時間Δtm=1.0秒の場合の外部領域の地盤の時刻歴応答解析の結果として、図11には、剪断波速度Vs及び減衰定数hの時間変化を、地盤モデルの深度方向に沿った各位置毎に示し、図12には、地盤モデルの深度方向に沿った剪断歪、剪断波速度Vs及び減衰定数hの応答値の分布を代表的な時刻毎(1秒、3秒、8秒)毎に示す。
【0083】
(2)外部領域を含む伝達境界マトリクスの演算
外部領域の地盤の時刻歴応答解析の結果に基づき、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスをΔtb毎に演算した。本解析検討ではΔtb=1秒とし、解析周波数は0.5Hz〜20Hzの0.5Hz刻みとした。外部領域の地盤の時刻歴応答解析によって得られた解析対象の各時刻毎の外部領域の地盤の物性値(剪断波速度Vs及び減衰定数h:図11参照)から、Δtb刻みの各時刻における外部領域の地盤の剪断波速度Vs及び減衰定数hを各々抽出し、抽出した剪断波速度Vs及び減衰定数hを用いてΔtb刻みの各時刻における伝達境界マトリクスを演算した。エネルギー伝達境界の自由度は、41節点×2(水平・上下自由度)の82であり、上記の演算により、Δtb刻みの各時刻毎に、外部領域の地盤を含むエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスとして、82×82成分の振動数依存の複素マトリクスが算出された。
【0084】
(3)伝達境界マトリクスのインパルス応答の演算
Δtb刻みの各時刻毎に演算したエネルギー伝達境界の伝達境界マトリクスを時間領域へ変換することで、エネルギー伝達境界のインパルス応答をΔtb刻みの各時刻毎に演算した。この演算における時間領域変換の条件を次の表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
また、Δtb刻みの各時刻毎に演算したエネルギー伝達境界のインパルス応答を、解析対象の各時刻(本解析検討ではΔt=0.01秒刻みの各時刻)毎の剪断歪振幅値γに基づいて内挿することで、解析対象の全時刻におけるエネルギー伝達境界のインパルス応答を補間演算によって各々求めた。なお、補間演算に用いる剪断歪振幅値γとしては、最大歪を生じる地盤モデルの最下層の構成要素における値を用いた。
【0087】
本解析検討では、続いて、上記の一連の演算によって得られたエネルギー伝達境界のインパルス応答を用い(次に述べるケースNT)、本発明を適用した時刻歴応答解析の有効性を確認することを目的として、次の表4に示すように、解析対象モデルにおける建物端部と波動境界モデルとの距離L(図8参照)を互いに相違させた複数種のモデルの各々に対し、本発明を適用した時刻歴応答解析(波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界に対する等価線形の応答解析:次の表5に示すケースNT)、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界に対する等価線形の応答解析:次の表5に示すケースLT)、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(次の表5に示すケースV)を各々行い、解析結果を比較した。
【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
なお、この解析検討では、図8に示すように、地盤と当該地盤に埋め込まれた地下部分を有する建物が一体となった解析対象物体を表し、内部領域と、内部領域の左側及び右側に存在する外部領域と、の間に波動境界モデルが各々設けられたモデルを用い、波動境界モデルの差異が応答解析に与える影響を明確にするため、外部領域に対する応答解析を非線形解析に統一した。
【0091】
図13には、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)での解析結果として、距離L=5m,20m,40m,120mの各モデル毎の最大応答加速度の解析結果を図13(A)に、最大応答変位の解析結果を図13(B)に、最大応答剪断力の解析結果を図13(C)に各々示す。図13に解析結果を示した各モデルのうち最も高精度な解析結果が得られるモデルは、原理上、内部領域のサイズが最大の距離L=120mのモデルであるが、図13(A)〜(C)からも明らかなように、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)では、Lがより小さいモデルの応答値が距離L=120mのモデルの応答値と一致しているか差が小さく、距離Lが小さい場合にも応答解析の精度が比較的高いことが理解できる。
【0092】
図14(A)〜(C)には、上記の解析結果(本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)での解析結果)のうち、距離L=120mのモデルでの応答値を数値で示すと共に、この応答値を基準値としたときの各モデルでの応答値の比率を示している。また、図中の各欄のうち、基準値(距離L=120mのモデルでの応答値)に対する偏差が±10%以下の欄は白色、前記偏差が±10%よりも大きく±20%以下の欄は灰色、前記偏差が±20%よりも大きい欄は黒色で表示している。
【0093】
図14から明らかなように、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)では、距離L=30m以上のモデルでは全ての応答値が基準値に対して±10%以内に収まっており、距離L=30m未満のモデルであっても、基準値に対する偏差が±10%よりも大きい応答値の数が、距離L=20mのモデルで1個、距離L=15mのモデルで3個、距離L=5,10mのモデルで5個と比較的少なく、また基準値に対する偏差が±20%よりも大きい応答値は存在していない。以上の結果から、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)では、解析対象モデルのサイズ(距離L)が比較的小さい場合にも良好な精度の解析結果が得られる。
【0094】
一方、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)での解析結果を図15に示す。図15を図13と比較しても明らかなように、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)では、距離L=120mのモデルでの応答値が、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)における距離L=120mのモデルでの応答値とおよそ一致しているものの、距離Lがより小さいモデルでの応答値については、距離L=120mのモデルでの応答値に対しての偏差が若干増加していることが理解できる。
【0095】
また、図16(A)〜(C)には、上記の解析結果(本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)での解析結果)を図14(A)〜(C)と同様に示す(基準値として本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)における距離L=120mのモデルでの応答値を用いている)が、図16から明らかなように、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)では、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)と比較して、全ての応答値が基準値に対して±10%以内に収まっているモデル群における距離Lの最小値が距離L=40mと大きくなっており、基準値に対する偏差が±10%よりも大きい応答値の数も増加し、距離L=5,10mのモデルでは基準値に対する偏差が±20%よりも大きい応答値も出現していることから、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)よりも解析精度が低下していることが明らかである。
【0096】
また、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)での解析結果を図17に示す。図17を図13及び図15と比較しても明らかなように、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)では、距離L=120mのモデルでの応答値については、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)や特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)とおよそ一致しているものの、距離Lがより小さいモデルでの応答値については、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)や特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)と比較して、応答値のばらつきが増加している。
【0097】
また、図18(A)〜(C)には、上記の解析結果(波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)での解析結果)を図14や図16と同様に示す(基準値は本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)における距離L=120mのモデルでの応答値)。図18から明らかなように、波動境界モデルとしての粘性境界に対する等価線形の応答解析(ケースV) では、全ての応答値が基準値に対して±10%以内に収まっているモデル群における距離Lの最小値が距離L=100mと大幅に大きくなっており、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)と比較して、基準値に対する偏差が±20%よりも大きい応答値の数も著しく増加している。また、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)では、距離Lが十分に大きい場合を除き、距離Lの増加に対して解析精度が必ずしも向上しない傾向があることも確認できる。
【0098】
以上の結果から、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)は、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)や、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)と比較して、内部領域のサイズ(距離L)がより小さいモデルで同等の解析精度が得られることが確認された。
【0099】
また上記の解析検討では、個々の応答解析をIBM Power5+(登録商標)プロセッサ(2.2GHz)搭載のコンピュータを用いて行うと共に、個々の応答解析での処理時間(演算時間)を、時刻歴応答解析の所要時間と、前処理(外部領域の地盤のマトリクス演算やエネルギー伝達境界のインパルス応答の演算等の処理)の所要時間と、に分けて各々計測した。計測結果を次の表6に示す
【0100】
【表6】

【0101】
表6から明らかなように、全体としては、解析対象モデルのサイズ(距離L)が大きくなるに従って処理時間(演算時間)が増加する傾向を示している。なお、部分的には、例えばケースLTにおける距離L=30mのモデルと距離L=40mのモデルの処理時間のように、解析対象モデルのサイズ(距離L)の増大に拘わらず処理時間(演算時間)が減少している場合があるが、これは内部領域に対する非線形の応答解析において、演算結果の収束に要した演算回数の差異に因るものと考えられる。
【0102】
処理時間(演算時間)を各ケース単位で比較すると、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)は、波動境界モデルが粘性境界であることから、波動境界モデルに関する演算が簡単であり処理時間も最も短くなっている。一方、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)及び特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)は、何れも波動境界モデルがエネルギー伝達境界であることから、時刻歴応答解析の所要時間はほぼ同程度であり、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)よりもやや長く、更に前処理(外部領域の地盤のマトリクス演算やエネルギー伝達境界のインパルス応答の演算等の処理)も必要となる。
【0103】
なお、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)は特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)よりも前処理の所要時間が増大しているが、これは、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)では、外部領域の地盤のマトリクスやエネルギー伝達境界のインパルス応答が1回の演算で算出できるのに対し、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)では、外部領域の地盤のマトリクスやエネルギー伝達境界のインパルス応答の演算をΔtb刻みで繰り返し、更に全解析対象時刻についてエネルギー伝達境界のインパルス応答を補間演算によって算出する必要があるためである。
【0104】
上記の結果から明らかなように、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)は、解析対象モデルとして同一サイズ(距離Lが同一)のモデルを用いたとすると、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)や、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)よりも処理時間が長くなる。但し、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)は、前述のように波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)や、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)よりも解析精度が高いため、サイズ(距離L)がより小さい解析対象モデルで同等の解析精度が得られる。
【0105】
例えば図14,16,18に示した結果によると、基準値に対する応答値の偏差を±10%以内とした場合、解析対象モデルの最小サイズ(距離Lの最小値)は、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)では距離L=30m、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)では距離L=40m、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)では距離L=100mとなる(表6ではそれぞれを灰色の欄で示す)。従って、前処理を含めた処理時間(演算時間)は、本発明を適用した時刻歴応答解析(ケースNT)では距離L=30mのモデルで17.4分(=13.8分+3.6分)、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析(ケースLT)では距離L=40mのモデルで16.6分(=16.3分+0.3分)、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析(ケースV)では距離L=100mのモデルで17.2分となり、大きな差異はない。
【0106】
上記で説明した応答解析は2次元の応答解析であり、解析対象モデルとしても2次元のモデルを用いているが、3次元の解析対象モデルを用いる3次元の応答解析では、解析対象モデルを構成する構成要素数が非常に多いため、演算負荷が高く応答解析に長い時間が掛かる反面、解析対象モデルが小サイズ化(距離Lが減少)すると、これに伴って解析対象モデルを構成する構成要素の数が大幅に減少し、演算負荷も大幅に削減される。従って、本発明を適用した時刻歴応答解析は、特に3次元の応答解析を行う場合に、特許文献1に記載の発明を適用した時刻歴応答解析や、波動境界モデルとして粘性境界を用いた等価線形の応答解析と比較して、処理時間(演算時間)の点で大きな優位性を有していると考えられる。
【符号の説明】
【0107】
10 コンピュータ
10C 記憶部
12 ディスプレイ
14 キーボード
16 マウス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの前記外部領域に対し、前記解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うことで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値を前記解析対象の各時刻毎に各々演算する物性値演算手段と、
前記物性値演算手段により前記解析対象の各時刻毎に演算された前記外部領域における前記解析対象物体の物性値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの、前記エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、前記解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算するマトリクス演算手段と、
前記マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された前記伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と前記物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算するインパルス応答演算手段と、
前記インパルス応答演算手段によって前記解析対象の各時刻毎に演算された前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を用いて、前記解析対象モデルに対し、前記特定の外力が入力されたときの挙動を前記解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行う解析手段と、
を含む応答解析装置。
【請求項2】
前記エネルギー伝達境界の前記伝達境界マトリクスは、前記内部領域の質量マトリクスを[M]、剛性マトリクスを[KI]、変位ベクトルを{u(t)}、境界力ベクトルを{FR(t)}、前記外部領域における前記解析対象物体の応答変位を{uR(t)}、境界に作用する補正力ベクトルを−[DR(t)]{uR(t)}とし、
[MI]{u"(t)}+([K(t)]+[R(t)]){u(t)}
=−y"(t)[M]{1}+{FR(t)} …(1)
{FR(t)}=([R(t)]−[DR(t)]){uR(t)} …(2)
前記解析対象モデル全体の運動方程式を上記の(1),(2)式で表したときに、上記の(1),(2)式の[R(t)]で表される請求項1記載の応答解析装置。
【請求項3】
前記物性値演算手段は、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、前記虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで得られた前記因果的単位虚数関数のインパルス応答値を用いて、前記解析対象モデルのうちの前記外部領域に対する応答解析を行うことで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値として剪断歪振幅値γ、剪断波速度Vs及び減衰定数hを演算する請求項1又は請求項2記載の応答解析装置。
【請求項4】
前記インパルス応答演算手段は、前記マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された前記伝達境界マトリクスの値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を、前記伝達境界マトリクスの値が演算された前記2以上の時刻について各々演算した後に、前記解析対象の各時刻のうち前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答が未演算の時刻での前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を、前記2以上の時刻について各々演算した前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答から補間演算によって求める請求項1〜請求項3の何れか1項記載の応答解析装置。
【請求項5】
前記インパルス応答演算手段は、前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答が未演算の時刻での前記外部領域における前記解析対象物体の剪断歪振幅値γが、前記伝達境界マトリクスの値が演算された前記2以上の時刻での前記外部領域における前記解析対象物体の剪断歪振幅値γを内分する比率に基づいて、前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答が未演算の時刻での前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を、前記2以上の時刻について各々演算した前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答から補間演算によって求める請求項4記載の応答解析装置。
【請求項6】
前記インパルス応答演算手段は、前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答が未演算の時刻が、前記伝達境界マトリクスの値が演算された前記2以上の時刻を内分する比率に基づいて、前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答が未演算の時刻での前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を、前記2以上の時刻について各々演算した前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答から補間演算によって求める請求項4記載の応答解析装置。
【請求項7】
前記インパルス応答演算手段は、物体の変位に依存するインパルス応答の同時成分をk、物体の速度に依存するインパルス応答の同時成分をc、物体の加速度に依存するインパルス応答の同時成分をm、物体の変位に依存するインパルス応答のΔt刻みの時間遅れ成分をkj、物体の速度に依存するインパルス応答のΔt刻みの時間遅れ成分をcj(但しjは自然数でtj=Δt・j)、時間領域での物体の変位をu(t)、速度をu'(t)、加速度をu"(t)としたときに、前記物体の加速度に依存し少なくとも同時成分を含んで成る質量項も含む数式として、前記インパルス応答FB(t)を規定する数式である、
【数1】


上記(3)式を用い、前記マトリクス演算手段によって前記伝達境界マトリクスが演算された時刻における前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を、前記時刻における、前記振動がN種(N=n+1)の周波数のときの前記伝達境界マトリクスの値に基づいて演算する請求項1〜請求項6の何れか1項記載の応答解析装置。
【請求項8】
前記インパルス応答演算手段は、前記(3)式における物体の加速度に依存するインパルス応答の同時成分mに対する修正値Δm0、物体の変位に依存するインパルス応答の同時成分kに対する修正値Δk0を下記の(4)式によって演算し、
【数2】


(但し、上記(4)式において、
【数3】


であり、上記(5)式におけるRe(S))は、前記(3)式を用いて演算した前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答から再現された、下記の(6)式で表される前記伝達境界マトリクスS(ω)の振動数ωでの実部の値を表し、
【数4】


上記(5)式におけるRe(D(ω))は、(3)式に基づく前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答の演算に用いた、振動数ωでの前記伝達境界マトリクスのデータD(ω)のうちの実部の値を表す)、演算した修正値Δm0,Δk0を用いて前記同時成分m,kを修正する請求項7記載の応答解析装置。
【請求項9】
前記インパルス応答演算手段は、前記(3)式における物体の速度に依存するインパルス応答の同時成分をcに対する修正値Δc0も下記の(7)式によって演算し、
Δc0=−E/B …(7)
(但し、上記(7)式において、
【数5】


であり、上記(8)式におけるIm(S(ωi))は、前記(3)式を用いて演算した前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答から再現された、前記(6)式で表される前記伝達境界マトリクスS(ω)の振動数ωでの虚部の値を表し、上記(8)式におけるIm(S))は、(3)式に基づく前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答の演算に用いた、振動数ωでの前記伝達境界マトリクスのデータD(ω)のうちの虚部の値を表す)、演算した修正値Δc0を用いて前記同時成分cも修正する請求項7記載の応答解析装置。
【請求項10】
コンピュータに、
地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの前記外部領域に対し、前記解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行わせることで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値を前記解析対象の各時刻毎に各々演算させ、
前記解析対象の各時刻毎に演算させた前記外部領域における前記解析対象物体の物性値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの、前記エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、前記解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算させ、
2以上の時刻について各々演算させた前記伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と前記物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算させ、
前記解析対象の各時刻毎に演算させた前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を用いて、前記解析対象モデルに対し、前記特定の外力が入力されたときの挙動を前記解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行わせる応答解析方法。
【請求項11】
コンピュータを、
地盤単独又は地盤と建物から成る解析対象物体がモデル化されて成り、モデルの内部領域と外部領域の間に波動境界モデルとしてのエネルギー伝達境界が設けられた解析対象モデルのうちの前記外部領域に対し、前記解析対象物体を振動させる特定の外力が入力されたときの挙動を解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行うことで、前記外部領域における前記解析対象物体の物性値を前記解析対象の各時刻毎に各々演算する物性値演算手段、
前記物性値演算手段により前記解析対象の各時刻毎に演算された前記外部領域における前記解析対象物体の物性値に基づき、前記特定の外力が入力されたときの、前記エネルギー伝達境界の主要な構成要素であり、周波数領域の複素数として定義され、かつ強い振動数依存性を有する伝達境界マトリクスの値を、前記解析対象の各時刻のうちの2以上の時刻について各々演算するマトリクス演算手段、
前記マトリクス演算手段により2以上の時刻について各々演算された前記伝達境界マトリクスの値に基づき、物体を振動させる外力と前記物体の挙動との関係を時間領域で表すインパルス応答として、前記特定の外力が入力されたときの前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を解析対象の各時刻毎に各々演算するインパルス応答演算手段、
及び、前記インパルス応答演算手段によって前記解析対象の各時刻毎に演算された前記エネルギー伝達境界の前記インパルス応答を用いて、前記解析対象モデルに対し、前記特定の外力が入力されたときの挙動を前記解析対象の各時刻毎に解析する応答解析を行う解析手段
として機能させる応答解析プログラム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図1】
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【図5】
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【図8】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−32214(P2012−32214A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170374(P2010−170374)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)