説明

恒温槽

【課題】供試体が収容される試験室35内を少なくとも所定の温度に保つ恒温槽1において、省エネルギ化を図る。
【解決手段】恒温槽1は、試験室35内に供給される供給空気を加熱する加熱器42と、供給空気を冷却するための冷凍機5と、を備える。冷凍機5は、圧縮機52、凝縮器53、第1膨張器55、第1冷却器51、及びこれらの各機器を互いに接続する冷媒配管56,57を含む主冷媒循環回路5aと、主冷媒循環回路5aにおける第1膨張器55と第1冷却器51とをバイパスするバイパス回路5bと、バイパス回路5b上に配設された第2膨張器59及び第2冷却器510と、を有する。第1冷却器51は、供給空気の供給通路36内に配設される一方、第2冷却器510は、供給通路以外の所定の位置に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供試体を収容する試験室内を少なくとも所定の温度に保つための恒温槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば電子機器や電子・半導体部品の特性評価等のために用いられる試験装置として、供試体を収容する試験室内を所定の温度に保つための恒温槽、又は試験室内を所定の温度及び湿度に保つための恒温恒湿槽(以下、これらを総称して単に恒温槽ともいう)が知られている。
【0003】
こうした恒温槽では、例えば特許文献1に開示されているように、空気を加熱する加熱器、空気を冷却するための冷凍機、及び湿度を調整するための加湿器といった空調機器を制御して、試験室内に調和空気を供給することにより、その試験室内を所定の温度や所定の湿度に一定に保つようにしている。
【特許文献1】特開平5−327985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした恒温槽においては、例えば比較的高温高湿の運転条件のように、冷凍能力を必要としない運転領域が存在している。こうした運転領域では、省エネルギ化の観点から、冷凍機の運転を停止することも考えられるが、そうすると、試験室内の負荷によってその試験室内の温湿度の乱れを招くことになる。また、冷凍機における油の潤滑上の制限から、そもそも、冷凍機の運転を完全に停止することはできない。従って、こうした恒温槽では、冷凍能力を必要としない運転領域においても、冷凍機を一定の能力以上で運転させ続けなければならない。また、その冷凍機の運転に伴い、加熱器や加湿器の出力を余分に増大させなければならず、その分、エネルギーの消費量が増えてしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、恒温槽の省エネルギ化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、供試体が収容される試験室内を少なくとも所定の温度に保つ恒温槽は、前記試験室内に供給される供給空気を加熱する加熱器と、当該供給空気を冷却するための冷凍機と、を備え、前記冷凍機は、冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を減圧する第1膨張器、減圧された冷媒を蒸発させる第1冷却器、及びこれらの各機器を互いに接続する冷媒配管を含む主冷媒循環回路と、前記主冷媒循環回路における第1膨張器と第1冷却器とをバイパスするバイパス回路と、前記バイパス回路上に配設された第2膨張器及び第2冷却器と、を有し、前記第1冷却器は、前記供給空気の供給通路内に配設されて前記供給空気を冷却する一方、前記第2冷却器は、前記供給通路以外の所定の位置に配設されている。
【0007】
この構成によると、恒温槽における冷凍機の主冷媒循環回路は、冷媒の圧縮、凝縮、膨張及び蒸発を繰り返す冷凍サイクルを構成しており、供給空気の供給通路内に配設された第1冷却器において冷媒が蒸発することにより、その蒸発熱によって試験室に供給される供給空気が冷却される。
【0008】
そうして、この冷凍機は、前記第1冷却器に並列に設けられた第2冷却器をさらに有しており、この第2冷却器は、供給通路以外の所定の位置に配設されていることで、供給空気を冷却することがない。このため、例えば恒温槽の運転領域が、冷凍能力を必要としない運転領域であるときには、第1冷却器に冷媒を供給せずに、その冷媒を第2冷却器側に供給するようにすればよい。こうすることで、冷凍機を所定の能力でもって運転し続ける一方で、試験室に供給される供給空気は冷却されないため、加熱器の出力を、その分低下させることが可能になる。その結果、恒温槽の省エネルギ化が図られる。
【0009】
前記恒温槽は、前記凝縮器に冷却風を供給するための冷却ファンをさらに有し、前記第2冷却器は、前記冷却風を外部に排気するための排気通路に配設されている、としてもよい。
【0010】
こうすることで、第2冷却器は、凝縮器を冷却した後に排気される冷却風(冷凍機の排熱)と熱交換することになる。これによって、第2冷却器を通じて冷媒を循環させる場合においても、冷凍サイクルを成立させることができる。これと共に、その排熱を冷却して恒温槽の外部に排出することになるため、恒温槽を設置する室内空調の能力を抑制することが可能になる。このことは、その恒温槽を設置する室内を含めた全体の省エネルギ化の点で有利である。
【0011】
前記冷凍機は、前記主冷媒循環回路上に配設され、前記第1冷却器側へ供給する冷媒流量を調整する開閉弁と、前記バイパス回路上に配設され、前記第2冷却器側へ供給する冷媒流量を調整する開閉弁と、をさらに有している、とすればよい。
【0012】
こうすることで、冷凍機の運転状態に応じて、第1冷却器側への冷媒流量と、第2冷却器側への冷媒流量と、をそれぞれ調整することができ、それによって、冷凍能力が必要なときには、その必要な冷凍能力を確保しつつ、冷凍能力が不要なときには、冷凍機の運転を継続しつつも、試験室内の空調に用いられる冷凍能力をゼロにすることが可能になる。その結果、必要な試験室内を設定温度に保ちつつ、省エネルギ化が図られる。
【0013】
前記恒温槽は、前記試験室内に供給される供給空気の湿度を調整する加湿器をさらに備えている、としてもよい。こうすることで、恒温恒湿槽が構成されることになり、この恒温恒湿槽においても、冷凍能力を必要としない運転領域であるときに、加熱器及び加湿器の出力をそれぞれ低下させることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によると、冷凍機が、並列に配設された第1冷却器と第2冷却器とを有しかつ、冷凍能力が不要な運転時には、冷媒を、第1冷却器をバイパスして、第2冷却器に供給することにより、冷凍機を運転しつつも、冷凍能力を実質的にゼロにすることができる。それによって、加熱器の出力を低減することが可能になり、恒温槽の省エネルギ化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る恒温恒湿槽1を示しており、この恒温恒湿槽1は、略矩形箱状でかつ、供試体が収容される試験室を有する上部本体2と、上部本体2の下側に位置して当該上部本体2を支持すると共に、その内部に冷凍機等を収容する下部本体6と、を備えて構成されている。
【0017】
上部本体2は、その内部に略直方体の内部空間を有すると共に、その前側が開口した略矩形箱状に形成されており、前記開口を開閉する開閉扉26がヒンジを介して取り付けられている。この開閉扉26にはまた、試験室35内を外部から観察可能となるように、透明性部材によって構成された観測窓27が形成されている。
【0018】
上部本体2は、内部空間を区画形成する内壁と、上部本体の外装を構成する外壁と、その両壁の間に充填された断熱材によって構成されている。内部空間34には、その前後方向の所定位置に区画壁38が立設されており、それによって内部空間34は、区画壁38よりも前側であって、前記開閉扉26によって開閉される試験室35と、区画壁38よりも後側であって、調和空気の循環路とされる空調室36と、の2室に分けられている。内部空間34が断熱材で覆われていることによって、前記試験室35内は、外部雰囲気温度及び湿度に影響されない密閉空間とされている。
【0019】
前記試験室35内には、その左右の両側壁に、それぞれ上下に延びる一対の調節ラダー39a,39aが前後方向に所定の間隔を空けて取り付けられている(図1では一側壁の調節ラダー39aのみが図示されている)。この調節ラダー39aに棚板39が取り付けられることによって、試験室35内の所望の高さ位置に棚板39を配置して、開口を通じて試験室35内に入れられる供試体を、そこに載置することが可能になる。
【0020】
前記区画壁38の下部には、試験室35内の循環空気を吸い込む吸込口38aが形成されていると共に、その上部には、試験室35内に循環空気を吹き出す吹出口38bが形成されている。この吸込口38a及び吹出口38bを通じて、試験室35と空調室36とは互いに連通しており、試験室35内の下部から空調室36内に吸い込まれた空気は、その空調室36内を下から上へと流れて、試験室35内の上部に吹き出されることになる(図1の白抜きの矢印参照)。
【0021】
空調室36内には、その下部から上部に向かって順に、空気を加湿するための加湿ヒータ41、後述するように供給された冷媒を蒸発させ、その蒸発熱によって空気を冷却するための第1冷却器51、空気を加熱するための、例えばワイヤストリップヒータからなる加熱ヒータ42、及び空気を循環させるためのファン(例えばシロッコファン)43がそれぞれ配設されている。そうしてこの恒温恒湿槽1では、加湿ヒータ41、第1冷却器51及び加熱ヒータ42のそれぞれからなる空調機器を適宜動作させることによって、試験室35内の温度及び湿度を、設定された温度及び湿度で一定となるようにしている。
【0022】
前記加湿ヒータ41は、水が溜められるパン41aと、そのパン41aの水を加熱して蒸気を発生させるヒータ(例えばシーズヒータ)41bと、を備えている。尚、前記パン41aには、下部本体6内に配設されたタンク(図示省略)からの水が適宜供給される。
【0023】
前記第1冷却器51は、冷凍機5の一部を構成する機器であり、冷凍機5はさらに、第1冷却器51の出口側から、冷媒の流れ方向の順に、冷媒を圧縮する圧縮機52、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器53、第1電磁開閉弁54、及び、冷媒を膨張させて前記第1冷却器51に供給する第1膨張弁55を含んで構成されている。この冷凍機5においては、凝縮器53と第1冷却器51との間が冷媒供給管56によって互いに接続されると共に、その第1冷却器51と圧縮機52との間が冷媒戻し管57によって互いに接続されて、主冷媒循環回路5aが構成されている。
【0024】
そうして、この冷凍機5においてはさらに、前記冷媒供給管56における凝縮器53と第1電磁開閉弁54との間と、前記冷媒戻し管57における第1冷却器51と圧縮機52との間とがバイパス管511によって互いに接続されている。このバイパス管511には、その冷媒の流れ方向の順に、第2電磁開閉弁58、第2膨張弁59及び第2冷却器510がそれぞれ配設されており、これらによって前記第1電磁開閉弁54、第1膨張器55及び第1冷却器51をバイパスするバイパス回路5bが構成されている。
【0025】
この冷凍機5を構成する各機器51〜511の内、第1冷却器51は、前述したように空調室36内に配設されて、試験室35に供給される空気を冷却する一方、圧縮機52及び凝縮器53を含むコンデンシングユニット512は、下部本体6内に配設されている。
【0026】
コンデンシングユニット512は、凝縮器53を冷却するための冷却ファン513を備えている。また、下部本体6の前面には、その下部本体6内に空気を導入するための導入口61が形成されており、冷却ファン513の駆動によって、この導入口61から導入された空気がコンデンシングユニット512を通過して、凝縮器53を冷却することになる。コンデンシングユニット512を通過した空気は、下部本体6及び上部本体2の背部において、上下方向に延びて形成された排気路62を通って、恒温恒湿槽1の上面に上向きに開口する排気口63から、外部に排気されるように構成されている(図1の白抜きの矢印参照)。
【0027】
そうして、前記第2冷却器510は、コンデンシングユニット512よりも冷却空気の下流側に配設されており、第2冷却器510は、コンデンシングユニット512の排熱と熱交換する。
【0028】
次に、この恒温恒湿槽1における制御について説明すると、前記試験室35内の温湿度は、第1冷却器51、加熱ヒータ42及び加湿ヒータ41を、フィードバック制御することによって、設定された温湿度となるように制御される。より具体的には試験室35内の温度は、第1冷却器51と加熱ヒータ42とのバランスにより制御され、試験室35内の湿度は、第1冷却器51と加熱ヒータ42と加湿ヒータ41とのバランスにより制御される。
【0029】
この内、第1冷却器51を含む冷凍機5は、通常時は、第1電磁開閉弁54を開けかつ第2電磁開閉弁58を閉じて、冷媒を主冷媒循環回路5a内で循環させる。つまり、圧縮機52において圧縮された冷媒は、凝縮器53において凝縮されると共に、第1膨張器55において減圧された後に、第1冷却器51に供給される。そうして、その第1冷却器51において冷媒が蒸発することにより、その蒸発熱によって空調室36内の空気が冷却される。こうして、加熱ヒータ42及び加湿ヒータ41の運転とバランスされることで、試験室35内が設定された温湿度で一定にされる。
【0030】
一方、恒温恒湿槽1の運転領域が、冷凍機5の冷凍能力を必要としない運転領域であるときには、第1電磁開閉弁54を閉じかつ第2電磁開閉弁58を開いて、冷媒をバイパス回路5bを通じて循環させる。つまり、圧縮機52において圧縮された冷媒は、凝縮器53において凝縮されると共に、第2膨張器59において減圧された後に、第2冷却器510に供給される。そうして、その第2冷却器510において冷媒が蒸発する。このことにより、その蒸発熱によってコンデンシングユニット512の排熱が冷却される。
【0031】
また、必要に応じて、第1電磁開閉弁54の開度と、第2電磁開閉弁58の開度とをそれぞれ調整し、冷媒を第1冷却器51側及び第2冷却器側52のそれぞれに供給する。こうすることで、冷凍機5の冷凍能力を適宜調整することができる。
【0032】
このようにして、この恒温恒湿槽1においては、冷凍機5の冷凍能力を低下させたり、冷凍能力をゼロにしたりするときには、第2電磁開閉弁58を開いて冷媒を第2冷却器510側に供給することによって、対応することが可能であり、冷凍機5の運転を継続させたまま、冷凍機5の冷凍能力の実質的な低下又は冷凍能力の実質的な停止を実現することができる。その結果、加湿ヒータ41や加熱ヒータ42の出力を余分に増加させる必要がなくなり、恒温恒湿槽1の省エネルギ化を図ることができる。
【0033】
また、第2冷却器510をコンデンシングユニット512の排熱と熱交換し得るように配設することによって、第2冷却器510側に冷媒を循環させる場合においても冷凍サイクルを成立させることができる。それと共に、恒温恒湿槽1の外部に排出される排気温度を低下させることができ、恒温恒湿槽1が設置された室内の温度上昇が抑制される。その結果、その室内の空調能力を低下させることが可能になり、恒温恒湿槽1が設置される室内をも含めた全体の省エネルギ化を図ることができる。
【0034】
(他の実施形態)
尚、前記の各実施形態では、試験室35内の温度及び湿度を一定に保つ恒温恒湿槽1を例に本発明を説明したが、例えば試験室35内の温度を一定に保つ恒温槽に本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上説明したように、本発明は、冷凍能力が不要なときには、冷凍機の運転を継続しつつ、その冷凍能力をゼロにして省エネルギ化を図ることができるから、恒温槽及び恒温恒湿槽として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係る恒温恒湿槽の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1 恒温恒湿槽
35 試験室
41 加湿ヒータ(加湿器)
42 加熱ヒータ(加熱器)
46 供給通路
5 冷凍機
51 第1冷却器
510 第2冷却器
511 バイパス管(冷媒配管)
513 冷却ファン
52 圧縮機
53 凝縮器
54 第1電磁開閉弁
55 第1膨張器
56 冷媒供給管(冷媒配管)
57 冷媒戻し管(冷媒配管)
58 第2電磁開閉弁
59 第2膨張器
5a 主冷媒循環回路
5b バイパス回路
6 下部本体(排気通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体が収容される試験室内を少なくとも所定の温度に保つ恒温槽であって、
前記試験室内に供給される供給空気を加熱する加熱器と、当該供給空気を冷却するための冷凍機と、を備え、
前記冷凍機は、
冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を減圧する第1膨張器、減圧された冷媒を蒸発させる第1冷却器、及びこれらの各機器を互いに接続する冷媒配管を含む主冷媒循環回路と、
前記主冷媒循環回路における第1膨張器と第1冷却器とをバイパスするバイパス回路と、
前記バイパス回路上に配設された第2膨張器及び第2冷却器と、を有し、
前記第1冷却器は、前記供給空気の供給通路内に配設されて前記供給空気を冷却する一方、前記第2冷却器は、前記供給通路以外の所定の位置に配設されている恒温槽。
【請求項2】
請求項1に記載の恒温槽において、
前記凝縮器に冷却風を供給するための冷却ファンをさらに有し、
前記第2冷却器は、前記冷却風を外部に排気するための排気通路上に配設されている恒温槽。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の恒温槽において、
前記冷凍機は、
前記主冷媒循環回路上に配設され、前記第1冷却器側へ供給する冷媒流量を調整する開閉弁と、
前記バイパス回路上に配設され、前記第2冷却器側へ供給する冷媒流量を調整する開閉弁と、をさらに有している恒温槽。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の恒温槽において、
前記試験室内に供給される供給空気の湿度を調整する加湿器をさらに備えている恒温槽。

【図1】
image rotate