説明

恒温装置、キャピラリ電気泳動装置

【課題】コンパクトなキャピラリ恒温装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る恒温装置は、可撓性を有する素材を用いて構成されたヒータを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリ電気泳動装置のキャピラリの温度を保持する恒温装置、およびその恒温装置を備えたキャピラリ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、キャピラリに高分子ゲルやポリマー溶液等の電気泳動媒体(分離媒体)を充填して電気泳動を行うキャピラリ電気泳動装置が広く用いられるようになってきた。
【0003】
下記特許文献1に記載されているキャピラリ電気泳動装置は、従来から用いられてきた平板型電気泳動装置に比べて熱放散性が高く、より高い電圧を試料に印加することができる。そのため、高速で電気泳動を行うことができる長所がある。また、試料(サンプル)が微量で済む点、分離媒体の自動充填やサンプルの自動注入ができる点等、数多くの利点があり、DNAやタンパク質の解析をはじめ、様々な分離分析測定に利用されている。
【0004】
キャピラリ電気泳動装置の分離性能を安定化するためには、キャピラリの温度を調整(温調)する必要がある。このためキャピラリ電気泳動装置は、例えば下記特許文献2に示されているようなキャピラリの温調を行うための恒温槽を備えている。
【0005】
特許文献2に記載のキャピラリ電気泳動装置では、キャピラリが複数本あり、キャピラリが3次元的に配置されている。そのため、熱源をすべてのキャピラリに直接接触させることが難しい。そこで特許文献2では、空気を用いて熱を間接的にキャピラリに供給して温調を行っている。
【0006】
一方、熱源をキャピラリに直接接触させて温調を行う電気泳動装置として、Life Technologies社から発売されている310ジェネティックアナライザがある。同装置は、キャピラリを1本のみ備える電気泳動装置である。この電気泳動装置の恒温槽は、箱状の構造を有し、ヒータの上に貼られた熱伝導シートの上にキャピラリを配置して直接接触させ、キャピラリの温調を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2776208号公報
【特許文献2】特許第3519647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に記載の電気泳動装置では、空気を介してキャピラリを熱源に間接的に接触させるため、温調の効率が下がる。
【0009】
一方、Life Technologies社から発売されている310ジェネティックアナライザの恒温槽は、キャピラリが通る部分の面積よりもヒータ面積の方が大きい。そのため、電気泳動装置の中で恒温槽が占める容積が大きくなり、その結果として電気泳動装置全体の大きさも大きくなっている。また、箱状の恒温槽を採用しているため、恒温槽の形状に合わせてキャピラリを配置する必要がある。そのため、恒温槽の中でキャピラリを取り付ける作業を行う必要があり、作業性がよいとはいえない。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、コンパクトなキャピラリ恒温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る恒温装置は、可撓性を有する素材を用いて構成されたヒータを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る恒温装置は、キャピラリと略同一の形状を取ることができるので、キャピラリに直接接触して温調を行いつつ、キャピラリの温調のために必要な面積を小さくすることができる。これにより、電気泳動装置の容積も小さくすることができる。また、恒温装置の形状の自由度が増したことにより、キャピラリと恒温装置の取り付け作業を容易に行うことができ、作業効率の観点から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係るキャピラリ電気泳動装置100の構成図である。
【図2】恒温装置132の構成を示す図である。
【図3】恒温装置132の断面図である。
【図4】恒温装置132の別構成例を示す断面図である。
【図5】キャピラリ電気泳動装置100の動作フローである。
【図6】実施の形態2に係る恒温装置132の構成図である。
【図7】実施の形態3に係る恒温装置132の構成図である。
【図8】実施の形態4に係る恒温装置132の構成図である。
【図9】実施の形態5に係る恒温装置132の構成図である。
【図10】実施の形態6に係る恒温装置132の発熱部材1004を示す図である。
【図11】実施の形態7に係る恒温装置132の構成を示す図である。
【図12】実施の形態8に係るキャピラリ電気泳動装置100の構成図である。
【図13】実施の形態9に係るキャピラリ電気泳動装置100の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係るキャピラリ電気泳動装置100の構成図である。キャピラリ電気泳動装置100は、ポンプユニット110、照射・検出ユニット120、恒温ユニット130、オートサンプラユニット140、高圧電源ユニット150を備える。
【0015】
ポンプユニット110は、キャピラリ161にポリマーなどの分離媒体を充填する。
【0016】
照射・検出ユニット120は、キャピラリ161にレーザやLEDなどの光源より光を照射し、キャピラリ161より発する蛍光などを検出する。検出した光は、図示しない測定装置に出力される。測定装置は、検出した光に基づきサンプルを分析する。
【0017】
恒温ユニット130は、キャピラリ161の温度を保持する。
【0018】
オートサンプラユニット140は、バッファ容器や廃液容器などをキャピラリ161のサンプル導入端に運搬する装置である。バッファ容器はバッファ液を保持する。廃液は、キャピラリ先端を洗浄する洗浄水や使用済の分離媒体をキャピラリ外に押し出すことにより生ずる。オートサンプラユニット140は、これらの液をキャピラリ161の端部に自動運搬し、分析工程を自動化する役割を有する。
【0019】
高圧電源ユニット150は、バッファ液に高圧電源を印加して電気泳動を生じさせる。
【0020】
以上、キャピラリ電気泳動装置100の概略構成を説明した。次に、キャピラリ161の温度を保持する恒温装置132の構成について説明する。
【0021】
図2は、恒温装置132の構成を示す図である。恒温装置132は、可撓性を有する柔軟な素材で形成されており、キャピラリ161の形状に合わせて形状を変えることができる。これにより、キャピラリ161がどのような形状であっても、キャピラリ161の側面に直接接触して覆うことができる。
【0022】
恒温装置132は、次の図3〜図4でも示すように、蓋部132aと本体部132bに分かれて構成されている。蓋部132aと本体部132bを例えばヒンジなどで接続し、蓋部132aを開閉することができるようにしてもよい。図2(a)は恒温装置132を閉じた状態、図2(b)は開いた状態を示す。蓋部132aと本体部132bは必ずしもヒンジなどで接続する必要はなく、蓋部132aと本体部132bが完全に分離するように構成してもよい。
【0023】
図3は、恒温装置132の断面図である。恒温装置132の蓋部132aと本体部132bは、それぞれ断熱層301、ヒータ層302、熱伝導層303の3層からなる多層構造を有する。各層とも、可撓性を有する柔軟な素材で形成されており、キャピラリ161の形状に合わせて形状を変えることができる。本発明における「ヒータ」は、上記各層からなる構造がこれに相当する。
【0024】
断熱層301は、恒温装置132の外部からの熱を遮断する断熱効果を有する素材を用いて形成されている。
【0025】
ヒータ層302には、キャピラリ161を加熱する発熱部材が埋め込まれている。発熱部材の1例として、例えば金属製の発熱抵抗体が挙げられる。また、ヒータ層302は、サーミスタなどの温度センサを備え、図示しない温度制御装置に温度を通知する。温度制御装置は、通知された温度に基づき、キャピラリ161の温度を保持する温度制御を行う。
【0026】
熱伝導層303は、発熱部材の熱をキャピラリ161に伝える役割を有する。熱伝導層303は、熱伝導性がありかつ絶縁性のある、例えば熱伝導性ゴムのような素材を用いて形成されている。これは、電気泳動を行う時にキャピラリ161に高電圧が印加されるため、万が一電気泳動中に恒温装置132の中でキャピラリ161が破損するような事態が発生しても、漏電事故が発生しないようにするためである。
【0027】
熱伝導層303にはキャピラリが通る溝が形成されており、ここにキャピラリ161を配置する。熱伝導層303で使用している素材が十分に柔らかい場合は、その弾力性を利用し、溝を切らないでキャピラリ161を挟み込むようにしてもよい。
【0028】
図4は、恒温装置132の別構成例を示す断面図である。図4に示す構成では、蓋部132aまたは本体部132bのいずれか一方にのみがヒータ層302を有する。ヒータ層302を有さない方は、ヒータ層302に代えて第2熱伝導層401を有する。第2熱伝導層401は、例えば金属などの熱伝導性のよい材質で構成されており、ヒータ層302で生じた熱は第2熱伝導層401を介して拡散する。
【0029】
以上、恒温装置132の構成について説明した。次に、キャピラリ電気泳動装置100の各部の詳細構成と併せて、電気泳動装置100の動作を説明する。
【0030】
図5は、キャピラリ電気泳動装置100の動作フローである。以下、図5の各ステップについて、キャピラリ電気泳動装置100の各部の動作と併せて説明する。
【0031】
(図5:ステップS200)
キャピラリ電気泳動装置100の電源をONにすると、本動作フローが開始する。
【0032】
(図5:ステップS201)
ユーザは、キャピラリ電気泳動装置100の開始ボタンを押下するなどして、キャピラリ電気泳動装置100の測定動作を開始する。
【0033】
(図5:ステップS202)
キャピラリ電気泳動装置100は、恒温装置132の温度を設定し、キャピラリ161の温調を開始する。恒温装置132の温度は、ユーザが手動で設定してもよいし、測定の内容に応じて規定の値をあらかじめ定めておき、自動設定してもよい。
【0034】
(図5:ステップS203)
キャピラリ電気泳動装置100は、ヒータ層302が備えている温度センサより、恒温装置132の温度を取得する。キャピラリ電気泳動装置100は、恒温装置132の温度があらかじめ設定した温度に達するまで次の処理を行わずに待機する。
【0035】
(図5:ステップS204)
恒温装置132の温度が設定温度に達すると、キャピラリ電気泳動装置100は、オートサンプラユニット140が備えるオートサンプラ142を稼動させ、廃液容器をキャピラリ161の端部162に運搬する。この廃液容器には、キャピラリ161より押し出された廃分離媒体を溶解するための水が入れられている。
【0036】
(図5:ステップS205)
キャピラリ電気泳動装置100は、シリンジ111を押してポリマー容器113内のポリマー(分離媒体)を吸引し、キャピラリ161に新しい分離媒体を注入する。使用済の古い分離媒体は、新しい分離媒体に押し出され、廃液容器に排出される。
【0037】
(図5:ステップS206)
キャピラリ電気泳動装置100は、新しい分離媒体の注入が完了すると、オートサンプラ142を用いて洗浄水容器をキャピラリ161の端部162に運搬する。オートサンプラ142は、キャピラリ161の端部162を洗浄水容器内の洗浄水に浸し、キャピラリ161の端部162を洗浄する。
【0038】
(図5:ステップS207)
キャピラリ電気泳動装置100は、オートサンプラ142を用いてバッファ容器143をキャピラリ161の端部162に運搬する。
【0039】
(図5:ステップS208)
キャピラリ電気泳動装置100は、高圧電源ユニット150が備える高圧電源151を用いて、キャピラリ161に電圧を印加する。この時点ではキャピラリ161にはサンプルを注入しない。本ステップで行う動作を、予備泳動と呼ぶ。陽極側バッファ容器114内の陽極側電極115は、接地されている。高圧電源151が印加する電圧により、陰極側電極152と陽極側電極115の間に電位差が生じ、電気泳動が行われる。
【0040】
(図5:ステップS209)
キャピラリ電気泳動装置100は、オートサンプラ142を用いて洗浄水容器をキャピラリ161の端部162に運搬する。オートサンプラ142は、キャピラリ161の端部162を洗浄水容器内の線浄水に浸し、キャピラリ161の端部162を洗浄する。
【0041】
(図5:ステップS210)
キャピラリ電気泳動装置100は、オートサンプラ142を用いてサンプル容器141をキャピラリ161の端部162に運搬する。オートサンプラ142は、キャピラリ161の端部162をサンプル容器141内のサンプル溶液に浸す。
【0042】
(図5:ステップS211)
キャピラリ電気泳動装置100は、高圧電源151を用いてキャピラリ161に電圧を印加する。これにより、サンプルは電気力学的にキャピラリ161内に注入される。
【0043】
(図5:ステップS212)
キャピラリ電気泳動装置100は、オートサンプラ142を用いて洗浄水容器をキャピラリ161の端部162に運搬する。オートサンプラ142は、キャピラリ161の端部162を洗浄水容器内の線浄水に浸し、キャピラリ161の端部162を洗浄する。
【0044】
(図5:ステップS213)
キャピラリ電気泳動装置100は、オートサンプラ142を用いてバッファ容器143をキャピラリ161の端部162に運搬する。
【0045】
(図5:ステップS214)
キャピラリ電気泳動装置100は、高圧電源151を用いてキャピラリ161に電圧を印加し、電気泳動を行う。
【0046】
(図5:ステップS215)
キャピラリ電気泳動装置100は、電気泳動が完了すると、次の電気泳動を行うか否かを判定する。次の電気泳動を行う場合は、ステップS205に戻って同様の処理を継続する。次の電気泳動を行わない場合は、本動作フローを終了する。
【0047】
以上、キャピラリ電気泳動装置100の各部の動作を、電気泳動の観点から説明した。キャピラリ161内をサンプルが電気泳動しているとき、キャピラリ161に励起光121を照射する。信号検出装置122は、励起光によってサンプルが蛍光している様子を検出し、図示しない測定装置に検出結果を出力する。測定装置は、信号検出装置122の検出結果に基づきサンプルを分析する。
【0048】
以上のように、本実施の形態1によれば、恒温装置132は、キャピラリ161の形状に合わせて形状を変えることのできる、可撓性を有する柔軟な素材を用いて形成されている。これにより、恒温装置132の恒温部分の面積を、キャピラリ161と略同等のサイズにすることができるので、恒温装置132のサイズを小さくすることができる。また、従来技術のようにキャピラリ161本体よりも大幅にサイズが大きい恒温槽を設ける必要がなくなり、キャピラリ電気泳動装置100自体のサイズも小さくすることができる。
【0049】
<実施の形態2>
実施の形態1では、恒温装置132はキャピラリ161を配置するための中空部を有するチューブ状の構成を有することを説明した。本発明の実施の形態2では、実施の形態1と同様に可撓性を有する素材を用いて、恒温装置132をシート状に構成した例を説明する。
【0050】
図6は、本実施の形態2に係る恒温装置132の構成図である。本実施の形態2において、恒温装置132は、実施の形態1と同様の3層構造で構成されたシート状の形状を有している。以下、図6の各図について説明する。
【0051】
図6(a)は、恒温装置132がキャピラリ161を覆う前の状態を示す。ここでは2枚のシート状の恒温装置132を例示したが、恒温装置132の枚数は任意でよい。これらのシートは、後述する熱伝導層303を内側にして向かい合っている。
【0052】
この2枚のシートはいずれも、実施の形態1と同様の柔軟性のある素材を用いて形成されており、キャピラリ電気泳動装置100の恒温ユニット130を格納する空間の形状に合わせて変形させて配置することができる。複数のシートを設ける場合は、シートのいずれかの辺を相互に接着するなどして固定してもよい。また、1枚のシートを中心線で折り曲げて図6(a)のように対向させてもよい。
【0053】
図6(b)は、恒温装置132がキャピラリ161を覆った状態を示す。恒温装置132は、シート面でキャピラリ161を挟み込むようにしてキャピラリ161を覆う。キャピラリ161を挟んだ後、2枚のシートは開かないように固定される。固定の方法としては、例えば以下のような方法が考えられる。
【0054】
(図6:固定方法その1)
2枚のシートの両端に引張ばねを設ける。2枚のシートを開くときにばねが伸びて圧縮方向に弾性力が生じる。キャピラリ161をシートの間に挟んだ後、ばねの圧縮力によりシートを閉じた状態に戻す。
【0055】
(図6:固定方法その2)
2枚のシートの合わせ口をクリップで閉じる、スライド式の止め具で閉じる、あるいはホックやバンドで止めるなどの手法により、2枚のシートを閉じた状態で固定する。
【0056】
図6(c)は、恒温装置132のシート層構造を示す断面図である。恒温装置132のシートは、実施の形態1と同様に、断熱層301、ヒータ層302、熱伝導層303の3層構造を有する。ヒータ層302への電力供給は、電源ケーブル601を介して行う。
【0057】
以上のように、本実施の形態2によれば、恒温装置132は3層構造を有するシート状に形成されており、シート面で挟むようにしてキャピラリ161を覆う。これにより、簡易な構成で実施の形態1と同様の効果を発揮することができる。
【0058】
<実施の形態3>
本発明の実施の形態3では、実施の形態2とは異なる形状で恒温装置132を構成した例を説明する。
【0059】
図7は、本実施の形態3に係る恒温装置132の構成図である。本実施の形態3において、恒温装置132は、実施の形態1〜2と同様の3層構造で構成されたシート状の形状を有している。以下、図7の各図について説明する。
【0060】
図7(a)は、恒温装置132がキャピラリ161を覆う前の状態を示す。ここでは1枚のシート状の恒温装置132を例示したが、恒温装置132の枚数は任意でよい。このシートは、実施の形態1〜2と同様の柔軟性のある素材を用いて形成されており、電気泳動装置100の恒温ユニット130を格納する空間の形状に合わせて変形させて配置することができる。
【0061】
図7(b)は、恒温装置132がキャピラリ161を覆った状態を示す。恒温装置132は、熱伝導層303を内側にし、シート面をキャピラリ161に巻きつけるようにしてキャピラリ161を覆う。シートをキャピラリ161に巻きつけた後、シートは開かないように固定される。固定の方法としては、例えば面ファスナーで止める、バンドや金具などで固定する、などが考えられる。
【0062】
図7(c)は、恒温装置132のシート層構造を示す断面図である。恒温装置132のシートは、実施の形態1〜2と同様に、断熱層301、ヒータ層302、熱伝導層303の3層構造を有する。ヒータ層302への電力供給は、実施の形態2と同様である。
【0063】
以上のように、本実施の形態3によれば、恒温装置132は3層構造を有するシート状に形成されており、シート面を巻きつけるようにしてキャピラリ161を覆う。これにより、簡易な構成で実施の形態1〜2と同様の効果を発揮することができる。また、巻きつけることによりシートが安定する効果もある。
【0064】
<実施の形態4>
本発明の実施の形態4では、1種類の恒温装置132で複数種類のキャピラリ161の長さに対応することができる構成を説明する。恒温装置132自体の構成は概ね実施の形態2〜3と同様であるため、以下では差異点を中心に説明する。
【0065】
図8は、本実施の形態4に係る恒温装置132の構成図である。本実施の形態4において、恒温装置132は、実施の形態2〜3いずれかで説明した多角形シート状の形状を有する。ここでは長方形状のシートを例示したが、その他の多角形の形状を採用することもできる。
【0066】
図8(a)は、恒温装置132をキャピラリ161に巻きつける前の状態を示す。恒温装置132の短辺801は、短いキャピラリ161aに巻きつけるとキャピラリ161aの中央部を概ね覆うことができる長さになっている。恒温装置132の長辺802は、長いキャピラリ161bに巻きつけるとキャピラリ161bの中央部を概ね覆うことができる長さになっている。
【0067】
図8(b)は、恒温装置132をキャピラリ161bに巻きつけた状態を示す。この場合は、キャピラリ161bと長辺802を平行に置き、図8(a)に示す方向804の向きに恒温装置132を巻きつける。
【0068】
図8(c)は、恒温装置132をキャピラリ161aに巻きつけた状態を示す。この場合は、キャピラリ161aと短辺801を平行に置き、図8(a)に示す方向803の向きに恒温装置132を巻きつける。
【0069】
図8(b)(c)いずれの場合でも、電源ケーブル601はシートの端から外に出ているので、方向803、804いずれの向きに恒温装置132を巻きつけた場合でも、電源ケーブル601を巻き込まずに済む。
【0070】
以上のように、本実施の形態4によれば、1つの恒温装置132を複数のキャピラリ161の長さに対応させることができる。したがって、異なる長さのキャピラリ161ごとに恒温装置132のサイズを調整する必要がなくなり、恒温装置132の製造コストなどの観点から有利である。
【0071】
また、本実施の形態4によれば、キャピラリ電気泳動装置100からキャピラリ161を取り外して異なる長さのキャピラリ161を取り付けるときでも、辺の長さが合えば恒温装置132をそのまま使用することができる。
【0072】
<実施の形態5>
本発明の実施の形態5では、恒温装置132をキャピラリ161に取り付けた状態で恒温装置132の長さを可変することのできる構成を説明する。恒温装置132を形成する可撓性を有する素材および3層構造は、実施の形態1〜4と同様である。以下では実施の形態1〜4と本実施の形態5との差異点を中心に説明する。
【0073】
図9は、本実施の形態5に係る恒温装置132の構成図である。本実施の形態5において、恒温装置132は、じゃばら状に形成されている。ここでは、実施の形態1と同様の中空チューブ形状の恒温装置132にじゃばら構造を導入した例を示したが、実施の形態2〜4で説明したシート形状の恒温装置132にじゃばら構造を導入することもできる。
【0074】
図9(a)はじゃばらを縮めた状態、図9(b)はじゃばらを伸ばした状態を示す。じゃばら構造を導入することにより、キャピラリ161の長さに合わせて恒温装置132の長さを自由に調整することができる。
【0075】
以上のように、本実施の形態5によれば、恒温装置132はじゃばら構造を有し、キャピラリ161の長さに合わせて長さを自由に調整することができる。これにより、1種類の恒温装置132で複数のキャピラリ161の長さに対応することができるので、恒温装置132を同一の仕様で多数製造することができ、コスト等の観点から有利である。
【0076】
<実施の形態6>
本発明の実施の形態6では、ヒータ層302に埋め込む発熱部材の密度を部位毎に変えて熱分布を調整する例を説明する。その他の構成は実施の形態1〜5と概ね同様であるため、以下では差異点を中心に説明する。
【0077】
図10は、本実施の形態6に係る恒温装置132の発熱部材1004を示す図である。恒温装置132の端部付近の領域1001および1002は、キャピラリ161が外気に接するため温度が上昇しにくく、また温度が自然に低下しやすい傾向がある。そこで、領域1001および1002では、恒温装置132の中央付近の領域1003よりも発熱部材1004の密度を高くし、温度を上げやすくした。
【0078】
図10のように発熱部材1004の密度を部位によって変える構成は、実施の形態1〜5いずれにおいても採用することができる。ただし、実施の形態4のように恒温装置132をキャピラリ161に取り付ける方向が変わる可能性がある場合には、各方向について図10と同様に端部付近の領域の発熱部材1004の密度が高くなるように構成する必要がある。例えば図8のように恒温装置132が長方形である場合には、発熱部材1004を格子状に配置し、長方形の各辺近傍の発熱部材1004の密度を高くしておくとよい。
【0079】
本実施の形態6では、恒温装置132の両端において発熱部材1004の密度を高くしたが、例えばキャピラリ161のいずれか一方の端部が外気に接しないような場合は、その端部については発熱部材1004の密度を中央部分と同程度にしてもよい。
【0080】
以上のように、本実施の形態6では、ヒータ層302が有する発熱部材1004の密度を恒温装置132の部位に応じて変えている。これにより、キャピラリ161が外気に接する領域1001および1002の温度を上げやすくし、キャピラリ161の温度ムラを低減することができる。
【0081】
<実施の形態7>
図11は、本発明の実施の形態7に係る恒温装置132の構成を示す図である。本実施の形態7において、恒温装置132は、キャピラリ161と一体的に構成されている。恒温装置132自体の構成は、実施の形態1〜6と同様である。恒温装置132をキャピラリ161に固定する方法も、実施の形態1〜6と同様でよい。
【0082】
本実施の形態7によれば、キャピラリ161と恒温装置132を一体的に取り扱うことができるので、キャピラリ電気泳動装置100へこれらを着脱する作業が容易になる利点がある。
【0083】
<実施の形態8>
以上の実施の形態1〜7において、キャピラリ161および恒温装置132をキャピラリ電気泳動装置100から自由に着脱できるように構成してもよい。本実施の形態8に係るキャピラリ電気泳動装置100は、上記構成を採用することにより、電気泳動の目的やサンプルの種類などに応じて異なる種類のキャピラリ161を用いることができる。
【0084】
図12は、本実施の形態8に係るキャピラリ電気泳動装置100の構成図である。図12(a)は短いキャピラリ161を用いる場合、図12(b)は長いキャピラリ161を用いる場合を示す。
【0085】
図12に示すように、長さが異なるキャピラリ161を用いる場合、キャピラリ161の長さに対応した恒温装置132を準備しておくか、または実施の形態4〜5で説明したように複数のキャピラリ161の長さに対応できる恒温装置132の構成を採用する必要がある。
【0086】
キャピラリ161の一端(サンプル導入側)はバッファ容器側に、反対側の一端は検出部を経由しポリマー注入部へ接続される。電源ケーブル601および温度センサの信号ケーブルは、装置側の恒温槽用端子に接続される。
【0087】
<実施の形態9>
本発明の実施の形態9では、1本のキャピラリ161に対して複数の恒温装置132を取り付ける例を説明する。恒温装置132の構成は、実施の形態1〜7と同様である。
【0088】
図13は、本実施の形態9に係るキャピラリ電気泳動装置100の構成図である。図13(a)は短いキャピラリ161を用いる場合、図13(b)は長いキャピラリ161を用いる場合を示す。
【0089】
本実施の形態9では、複数の恒温装置132を組み合わせてキャピラリ161を覆っている。これにより、単一の恒温装置132のみではキャピラリ161全体を覆うことができない場合でも、支障なくキャピラリ161の温調を行うことができる。また、キャピラリ161の長さと比較して短い恒温装置132を複数準備しておけば、これらを組み合わせることにより、種々のキャピラリ161に対応することができる。組み合わせる恒温装置132の長さや数は、キャピラリ161の長さなどに応じて適宜選択すればよい。
【0090】
各恒温装置132の温度は、個別に制御できるようにしてもよい。例えば各恒温装置132を個別に図示しない温度制御装置に接続し、温度制御装置は各恒温装置132が備える温度センサの検出値に基づきキャピラリの温度を均一に保持する。具体的には、実施の形態6で説明したように、キャピラリ161の端部近傍の恒温装置132は温度を高めに制御する、などの手法が考えられる。
【0091】
各恒温装置132の発熱部材密度は、全ての恒温装置132について同一でもよいしそれぞれ異なっていてもよい。例えば、キャピラリ161の端部近傍には発熱部材密度の高い恒温装置132を配置してもよい。
【0092】
後者の場合、発熱部材密度の違いによりキャピラリ161の温度ムラを低減することができるので、各恒温装置132を個別に温度制御する場合と比べて制御処理を簡易にすることができる。またこの場合、実施の形態6で説明したような、単一の恒温装置132内の発熱部材密度を部位によって変える構成と比較して、個々の恒温装置132の発熱部材密度は均一である。そのため、恒温装置132自体の構成を簡易化することができるので、製造工程を簡易化できる利点がある。
【符号の説明】
【0093】
100:キャピラリ電気泳動装置、110:ポンプユニット、111:シリンジ、113:ポリマー容器、114:陽極側バッファ容器、115:陽極側電極、120:照射・検出ユニット、121:励起光、122:信号検出装置、130:恒温ユニット、132:恒温装置、140:オートサンプラユニット、141:サンプル容器、142:オートサンプラ、143:バッファ容器、150:高圧電源ユニット、151:高圧電源、152:陰極側電極、161:キャピラリ、162:端部、301:断熱層、302:ヒータ層、303:熱伝導層、401:第2熱伝導層、601:電源ケーブル、801:短辺、802:長辺、803:方向、804:方向、1001〜1003:領域、1004:発熱部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリ電気泳動装置のキャピラリの温度を保持する恒温装置であって、
前記キャピラリを覆って前記キャピラリを加熱するヒータを備え、
前記ヒータは、可撓性を有する素材を用いて構成されている
ことを特徴とする恒温装置。
【請求項2】
前記ヒータは、前記キャピラリの形状に合わせて形状を変えることのできる素材を用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項3】
前記ヒータは、前記キャピラリを挟んで覆う面を有するシート状の形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項4】
前記ヒータは、前記キャピラリに巻きついて前記キャピラリを覆う面を有するシート状の形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項5】
前記ヒータは、複数の辺を有するシート状の形状を有し、
前記辺のうちいずれか複数は、異なる長さを有する複数の前記キャピラリそれぞれの長さに対応する長さを有する
ことを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項6】
前記ヒータは、じゃばら状に構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項7】
前記ヒータは、内部に発熱部材を配置して構成されており、
前記ヒータの端部には、前記ヒータの中央部よりも前記発熱部材が多く配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項8】
請求項1記載の恒温装置と、
前記恒温装置を用いて温度を保持するキャピラリと、
を備えたことを特徴とするキャピラリ電気泳動装置。
【請求項9】
前記恒温装置は、前記キャピラリの形状に沿って前記キャピラリを覆うように配置されている
ことを特徴とする請求項8記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項10】
前記恒温装置は前記キャピラリから着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項8記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項11】
前記恒温装置を複数備え、
前記キャピラリの複数の部位に前記恒温装置をそれぞれ配置した
ことを特徴とする請求項8記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項12】
前記恒温装置の温度をそれぞれ個別に制御する温度制御装置を備えた
ことを特徴とする請求項11記載のキャピラリ電気泳動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−112375(P2011−112375A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266371(P2009−266371)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)