説明

患者の水分状態及び/又は栄養状態を判断するための方法及び装置

バイオインピーダンスを用いて患者の水分状態及び/又は栄養状態を監視する。バイオインピーダンス方法及び装置は、細胞内組織からの導電性寄与をさらに良く考慮して、患者の身体組成の改善された正確さが増加した評価を可能にする、洗練されたモデルを利用する。第1種の細胞組織は第2種の細胞組織と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なるように寄与するということを考慮することにより、患者の細胞内体積(ICV)は、患者の細胞内電気抵抗Rmixを求め、Rmixを用いて細胞内体積ICVを導き出すことによって求められる。本出願はまた、本発明に係る方法を実行するための装置、及び該装置で使用されるべきコンピュータ・プログラムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の水分状態及び/又は栄養状態を監視する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、人体の健康を維持するためのいくつかの機能を果たす。第1に、それらは患者の血液容量からあらゆる過剰水分を分離することにより、水分バランスをコントロールする。第2に、それらは尿素又はクレアチニンのような、あらゆる排出物質から血液を浄化する役目を果たす。最後に、とりわけ、それらは健康的かつ必要な濃度レベルを確保するように、電解質のような、血液中の特定物質の濃度レベルのコントロールもする。
腎不全になると、摂取水分が体内組織及び脈管系に蓄積して、循環系に大きなストレスを与える。この余剰水分は、人工透析中に血液の限外ろ過により除去されなくてはならない。水分の除去が不十分であれば、長期的な結果は深刻であり、高血圧と心不全を引き起こす。心不全それ自体は透析患者に非常に起こりやすいものであり、水分過剰な状態が、その主要要因の1つであると考えられる。水分除去の過剰もまた、透析患者が脱水状態となり、これは常に低血圧を引き起こすため危険である。
【0003】
乾燥重量(簡潔にするために、この特許申請書類の全体にわたって、「重量」と「質量」という言葉は同意語として使用され、それはまた医学分野では恒例である)とは、腎臓が正常に機能した場合に達成される、患者の体重を定義する。言い換えれば、これは心血管系リスクを最小限に抑えるために達成されるべき最適な目標重量(又は水分状態)を表す。日常の治療法において、その評価のための定量的手法がないため、乾燥重量は常にわかりにくい問題であった。現在のところ乾燥重量の問題は、例として血圧、心エコー検査のような間接的指標、及びX線といった主観的情報を用いてアプローチされる。さらに、標準乾燥重量として一般に受け入れられる一組の状態を定義するのは、特に困難であった。
【0004】
患者の水分状態を導き出すための有望な方法は、バイオインピーダンス測定の使用を含む。患者に付着された2つ又はそれ以上の電極に小さい交流電流が流され、対応する電位差が測定される。人体の種々の水分区分は、測定された信号に様々に寄与する。複数の周波数の使用により、細胞内体積(ICV)及び細胞外体積(ECV)における水分を求めることが可能となる。そういった装置の例は、国際特許出願WO092/19153号に説明されている。しかしながら、この文書は、特定の患者の乾燥重量がいかにして導き出されるかについての方法は開示していない。
米国特許第5,449,000号は、ECV及びICVにおける水分質量を求めるために、同じく複数の周波数を使用するバイオインピーダンス・システムを説明している。さらに、いわゆる母集団予測式を使用及び選択するために、特定の母集団依存データが採用されている。その後、これらの公式を用いて、及びセグメント・バイオインピーダンス信号の助けにより、人体組成が分析される。
国際特許出願WO 02/36004号A1は、腎不全なしの状態についての細胞外体積における過剰水分体積を外挿推定することにより、バイオインピーダンス装置を用いて腎不全患者の乾燥重量を導き出すための方法及び装置を説明している。同様の手順により、健康な人のなかでの偏差を説明し、特定組織に属する質量補正項を導き出すことができる。
【0005】
国際特許出願WO 03/053239号A1は、具体的にはバイオインピーダンス測定を活用して、水分不良体積と他の組織構成部分とをより良好に分離するために、健康な人の特定の身体区分における変動に対処する区分モデルを開示している。そういった装置を用いて、患者の栄養状態に関する情報も得ることができる。
米国特許第6,615,077号は、信号を治療の進行と関連付けるために、バイオインピーダンス装置によって人工透析を監視するための手法を説明している。
【0006】
ICV及びECVの水分体積の算出を実行するバイオインピーダンス装置は、Xitron Technologies社からHydra(登録商標)の下で流通している。この装置の詳細は、国際特許出願WO 92/19153号に開示されている。この装置は、ICW及びECWのあらゆる値を導き出し、分離するために、測定されたインピーダンス値を、細胞内空間ICW及び細胞外空間ECWにおける水分体積の寄与を模擬する抵抗要素とリンクさせる、インピーダンス位置モデルに依存する。既存装置の場合には、このモデルはいわゆるHanaiモデルである。
異なる周波数の交流電流が電極により患者に適用されると、体内組織の電気インピーダンスが変化するという事実を利用して、Hanaiモデルを適用することによりECWが測定される。低周波数では、細胞膜は絶縁体として働き、適用された電流はECV空間のみを通過する。高周波数では、細胞膜は導電性が増加し、従って電流はICV空間及びECV空間の両方を通過する。従って、対応するインピーダンス位置は、2つの並列分岐で構成され、第1分岐はECV空間をオーム抵抗REで示し、第2分岐はICV空間をオーム抵抗RIと、直列接続された静電容量とで示す。それぞれの区分の水分体積は、体積がまた希釈測定により求められた従来の研究から使用可能な区分抵抗定数に基づいて、抵抗情報から算出される。
【0007】
ECW及びICWのこのようにして導出された結果に依存する方法、例としてWO 02/36004号A1又はWO 03/053239号A1に開示された方法の正確さは、初めの、即ちHanaiモデルの正確さに依存する。本発明の発明者らは、体内水分及び体内組織を評価する現在のバイオインピーダンス方法の結果の正確さにおける特定の欠陥は、Hanaiモデルの制約に原因があるということに注目した。
従って、ECV及びICV空間に対する水分及び組織の寄与をより正確に分離して、患者の体内組織の改善され正確さが増加した評価を可能にし、患者の水分状態、栄養状態及び指導状態へのより良好な洞察を提供する、より洗練されたモデルを利用するバイオインピーダンス方法及び装置が必要とされる。そういった方法を提供するのが、本発明の目的である。
【発明の開示】
【0008】
患者の細胞内電気抵抗Rmixを求め、第1種の細胞組織は第2種の細胞組織と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なったように寄与することを考慮することにより患者の細胞内電気抵抗Rmixを導き出すステップを含む、患者の細胞内体積ICVを求めるための方法によって、本発明の問題は解決される。細胞内体積ICVとして、全てのICV空間、又はICW空間のような共有のみ、又はこれらの量に直接関連したパラメータを考慮することができる。
本発明は、特に無脂肪組織及び脂肪組織に関する限り、関心ある組織の物理的特性の大きく改善された表現をもたらす、Hanaiモデルに小さな修正を既に施した観察結果に基づく。本発明の考え方によれば、これらの修正は、特に細胞内体積に関するものである。
本発明の目的はまた、非侵襲性、精密、かつ身体区分の評価に容易に使用できる装置を提供することである。従って、本発明はまた、測定ユニットを含む本発明に係る方法を実行するための装置に関連し、その測定ユニットは、患者の細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixを測定するためのバイオインピーダンス装置と、第1種の組織細胞は第2種の組織細胞と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なるように寄与することを考慮することによりRmixを用いて細胞内体積ICVを導き出すように構成された評価ユニットとを含む。
【0009】
好ましい実施形態において、評価ユニットは、マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニットを含むマイクロプロセッサ・ユニットであり、マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニットには、第1種の組織細胞は第2種の組織細胞と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なるように寄与することを考慮することによりRmixを用いて細胞内体積ICVを導き出すためのプログラムが格納されている。
評価ユニットがマイクロプロセッサ格納ユニットを含む、本発明に係る方法を実行するために、本発明に係る装置に格納されることになる、コンピュータ・プログラムが格納された格納媒体を含むコンピュータ・プログラム製品もまた、本発明の一部を成す。
本発明の多様なさらなる実施形態は、独立請求項の従属請求項の対象である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明をより理解するために、添付の図面を参照しながら非制限的な例が説明される。
図1に説明されるように、人体は、3つの区分、すなわち、質量MEXを有する過剰水分又は水分不良区分、質量MLTを有する無脂肪組織区分、及び質量MATを有する脂肪組織区分に分けられる。3つの区分全てにおいて、細胞外水分(ECW)と細胞内水分(ICW)もまた、他の寄与(ミネラル、プロテイン、脂質その他)と共に図1に示されている。主にECV空間に蓄積する過剰水分MEXは、患者の水分不良状態の指標となる。健康体では、MEXは消えることになる。MEXはまた、患者が水分過剰であるという水分状態を示す負の値をもつこともある。
無脂肪組織及び脂肪組織は、この出願の枠組みにおいては、それらの含水量によって区別される。無脂肪組織の質量MLTは、骨、(血液を含む)臓器、及び筋肉から成る。骨の割合が全含水量にいくらかのばらつきをもたらすかもしれないが、無脂肪組織の大部分は、約72%から75%の含水量を有する。さらに洗練されたモデルは、骨又は他の組織の影響を含めて考慮することができるが、この目的に関しては、そのような細かい点は無視する。一方で、脂肪組織の質量MATは、大部分が脂肪細胞又は含脂肪細胞の形態の脂質と水分から成ると考えられる。
【0011】
異なる組織の電気的特性の研究において、異なる対象体間で、測定された(見かけの)抵抗率データに大きな散乱があることがわかった。細胞内液の組成はその電解質組成に関してよく知られているので、組織のタイプにかかわらず、純細胞内液の抵抗率はおそらく同じであると推測できる。しかしながら、全体的な又は見かけの細胞内抵抗率を決めるのは、細胞内空間に含まれる非導電物質である。非導電物質により電流経路が延ばされ、結果として、全体にわたり不均一な流束密度となる。したがって見かけの抵抗率は、純細胞内液よりもいくらか高くなる。この場合の液は、タンパク質又は脂質といったいかなる有機物質も含まない電解質溶液のことをいう。脂肪組織は特に、大量の脂肪とごく少量の水分を含み、結果として、他の組織よりもいくらか高い見かけの抵抗率となる。
この細胞内の不均質性を適正に考慮する第1ステップでは、一方の無脂肪細胞の抵抗率と、もう一方の脂肪細胞の抵抗率とを単純に区別するのが有益であるように思われる(図2)。従って、脂肪組織を除く全ての細胞は、同じ見かけの抵抗率ρLTを有すると考えられる。さらに図2に示されるように、細胞内の液は、全ての細胞において同じ純抵抗率(指数「ICW」により示される)を有する。
【0012】
純細胞内液は他のあらゆる組織と同様であるが、脂肪細胞内体積の約80−90%は脂肪が占めている。これは図2において脂肪組織細胞内の大きい内円で説明され、細胞の残りはその細胞の含有水分を表している。したがって、脂肪組織の見かけの抵抗率は、筋肉といった他の組織の抵抗率よりも高くなる。電流データは、含有水分の違いと整合して、見かけの脂肪組織の抵抗率ρATは、見かけの無脂肪組織の抵抗率ρLTのほぼ3倍程度高くなることを意味する。図2で示した値は、本発明者らによってなされた分析から導き出された予測である。
Hanaiモデルでは、ECVに関連する第1区分とICVに関連する第2区分とを用いて人体を概算する。そういったシステムの電気特性に関する限り、ICVの細胞は、ゼロ周波数電流において絶縁体として機能する。細胞が懸濁している依然として導電性の細胞外媒体を通る電流経路は、延長される。
【0013】
交流電流が使用されるときには、ICVの細胞は、周波数の増加と共に導電性が増大する、電流のためのさらなる経路として働く。この状況は図3aに説明される。人体は、ECV流体空間内の細胞の懸濁液(ICV)からなる組織によって表すことができる。電気特性は、図3aにも表されるようにインピーダンス位置によってシミュレートされることができ、電流経路は2つの経路に分けられ、第1の経路はオーム抵抗REのようにだけ機能するECVを表し、第2の経路はオーム抵抗RI及び直列静電容量として機能するICVを表す。
【0014】
時間tにおける高さHgtと共に、人体のECV又はICVといった区分の体積Vを、電気オーム抵抗R及び見かけの抵抗率ρと関連付ける基本式は、式1によって与えられ、

Bは、等価な円筒形モデルにより、腕及び脚などの四肢のような測定路における特定の身体部分の表現を説明する、いわゆる形状係数である。測定電極KBの特定の配置モードは一定であると考えられるので、修正抵抗率のような他の項に吸収されることも可能である。従って簡単にするために、KBは、この明細書の残りの部分では省略される。
【0015】
式(2)により、導電物質と非導電物質の均一混合物の見かけの抵抗率は、導電物質の純抵抗率ρ0、及び非導電物質の体積比cと関連付けられる。

【0016】
Hanaiモデルでは、式(1)及び式(2)は二回適用される、すなわち、一回はECVに対して適用され、一回はICVに対して適用される。式(1)及び式(2)は、ゼロ周波数においては、ECV抵抗率ρEをECV抵抗率REと関連付け、cは非導電細胞、即ちICVを説明し、これらの式は、無限周波数においては、全抵抗率ρE+1を組み合わされた空間ECV及びICVに関する全抵抗率RE+1と関連付け、このときcは、脂質、タンパク質及びミネラルのような、この体積内に懸濁した非導電物質を説明する。事前に求められたECVからの全体積の差によって、ICVが導き出される。
しかしながら、特にICVの表現については、上記に示したように改善する必要がある。例として肢においては、骨が無脂肪物質(主に骨格筋)によって囲まれ、外側層が脂肪組織、そうでなければ皮下脂肪とされるものから成る。従って、図2の説明において既に概説されたように、異なる見かけの抵抗率を有する、主に関連する少なくとも2つの異なる組織(脂肪組織及び無脂肪組織)がある。
従って、人体組織の従来の電気的モデルは、細胞内空間における少なくとも2つの経路を特徴付けるように修正することができる。2つの組織は、2つの並列導体によって考慮することができる。対応するインピーダンス位置が図3bに示されている。ICVの2つの組織は、無脂肪組織のオーム抵抗RI,LTと、脂肪組織のオーム抵抗RI,ATによって表される。図2とは異なり、個々の細胞内の内円は、ここでは細胞内に含まれる水を表す。
【0017】
ICVに関する脂肪組織及び無脂肪組織の組み合わされた見かけの抵抗率ρmixは、

によって与えられ、ρLT、ρATは見かけの抵抗率であり、VLT、VATはそれぞれ細胞の無脂肪組織及び脂肪組織の体積である。式(4)によってスカラψが定義され、

それぞれ、MAT、MLTは質量であり、DAT、DLTは脂肪組織区分及び無脂肪組織区分の密度であり、θAT、θLTは、脂肪組織区分及び無脂肪組織区分の全組織体積からの細胞内組織体積の体積分率である。スカラχは無次元である。脂肪組織密度は約0.92kg/リットルであり、筋肉密度は約1.06kg/リットルである。同様に、全脂肪体積に対する細胞内脂肪の体積分率は、無脂肪組織の体積分率よりも高くなることが多い。従ってχは通常、1.5から2の範囲にある。基本的に、χは、脂肪組織及び無脂肪組織の組織特性において基礎となるものであることから、一般に定数化される。しかしながら、実際には、個体から別の個体へと形状係数KBにおける変動があるため、ばらつきが発生する可能性がある。従って、この係数を適切に計算から除外する、又は比較できる測定状態を達成するために、注意が必要である。
【0018】
式(4)を式(3)に置き換えると、

となる。
【0019】
上記に説明された係数χは、様々な組織における細胞内区分の体積分率の知識に依存するので、若干わかりにくい。筋肉組織及び脂肪組織の両者は様々な細胞サイズを有するので、χを数値化するのは非常に難しい。
このχを求める問題を解決するために、健康な対象体の一群におけるデュアルX線吸収度分析法(DXA)測定からのデータが、脂肪組織及び無脂肪組織の基準値を提供するのに用いられた。対応する細胞内抵抗値を求めるために、対象体はまたバイオインピーダンスを用いて測定された。対応するデータは図4に示される。「1」と示されたグラフは、a=2.9663Ωm、b=0.5218を用いて、式6により与えられる指数項に当てはまるものを表す。

「2」と示されたグラフは、式(5)に当てはまるものを表す。図4では、純脂肪細胞内組織と純無脂肪細胞内組織についての抵抗値も示されている。説明される本発明の実施形態では、式(5)又は式(6)に従った関数は、患者のルーチン測定を実施して水分不良状態の水分体積及び/又は脂肪組織のような特定区分の質量/重量を導き出し、患者の水分状態及び/又は栄養状態のより良好な洞察を提供するための新しい手法の適用において中心的役割を果たす。
【0020】
式(5)又は式(6)を活用すると、全てのパラメータの明示的な測定を要することなく、繰り返しによって個々の患者の実質混合抵抗率ρmixを導き出すことが可能である。ICVの通常の開始値を用いて質量MAT及びMLTの対応する値を導き出すことが可能であり、それは図4に示された関数を用いることにより新しいICV値を導き出し、そして混合抵抗率ρmixの新しい値を導き出すことを可能にする。いったん十分な収束が達成されれば、ρmix及びICVの真の値がみつかる。その後のステップで他のパラメータが最終的に算出される。繰り返しプロセス自体は、後で詳細に説明される。
【0021】
ICV全体は構成要素ICVATとICVLTに分けられる。これらは、比例定数ζLT及びζATを用いて、無脂肪組織区分の質量MLT及び脂肪組織区分のMATと関連付けられる。

患者の全質量又は全重量Mは、図1に従う。

式(8)を活用してMATを式(7)に代入し、結果として生じるMLTに関する式を解くと、式(9)が得られる。

【0022】
無脂肪組織の質量MLTを導き出す前に、水分不良状態の質量MEXが算出されなくてはならない。開始点は、この区分はそれ自身を完全にECV空間内に明示するという観察である。ECWはバイオインピーダンス測定により通常の様式で測定可能であり、ECV空間内の全水分体積としてECWをみると、ECWLTは無脂肪組織区分のECV空間内の水分体積として導出され、ECWATは脂肪区分のECV空間内の水分体積として導出され、水分不良状態の細胞外水分体積ECWEXは、式(10)により導出される。

【0023】
無脂肪組織の単位質量あたりの細胞内水分体積λICW,LT

無脂肪組織の単位質量あたりの細胞外水分体積λECW,LT

脂肪組織の単位質量あたりの細胞外水分体積λECW,AT

の定義を用いて、

の定義をさらに導入すると、式(10)は、式(8)及び式(9)を活用して式(15)に変換可能であり、

ECWは細胞外水分の密度である。水分不良状態の体積ECWEX(従って水分不良状態の質量MEX)が求められると、無脂肪組織の質量MLTは、式(9)から算出可能であり、脂肪組織の質量MATは式(8)を解くことにより算出可能である。
【0024】
この物理的背景情報の後で、患者の水分状態又は栄養状態を判断するための本発明に係る方法の例は、本発明に係る装置の実施形態を活用して詳細に説明される。患者の水分不良状態の質量MEX又は体積ECWEXを求めるための装置のそういった実施形態は、図5に示される。装置10は、マイクロプロセッサ・ユニット1を含み、該ユニットは、マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニット1aを含む。マイクロプロセッサ・ユニット1は、リンク4を用いて、インターフェース・ユニット2及びコンピュータ格納ユニット3に接続される。時間tにおける患者の質量MEX、MLT及び/又はMATを測定し、求めるためのプログラムは、マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニット1aに格納される。
【0025】
マイクロプロセッサ・プログラムは、2つ又はそれ以上の周波数の患者のインピーダンス値を求める装置を制御する。対応する測定のために、装置10は、リンク6を用いてインターフェース・ユニット2に接続されるバイオインピーダンス測定手段5を含む。バイオインピーダンス測定手段5は、接触抵抗のようなインピーダンス・データへの影響を自動的に補正できる能力がある。そういったバイオインピーダンス測定手段5の例は、Xitron Technologies社からHydra(登録商標)の下で流通している、既に言及した装置である。
【0026】
バイオインピーダンス測定のために、種々の電極配置が可能である。図5においては、2つの電極要素5a及び5bのみがバイオインピーダンス測定装置5に取り付けられる。電極ユニット5a及び5bの各々は、電流注入電極と電位ピックアップ電極(図示せず)からなる。図6の左側部分に概説されるように、2つの電極ユニット5a及び5bをそれぞれ患者の手首及び足首に取り付けることにより、身体全体のインピーダンスを求めることができる。この電極構成の下では、身体は、胴、脚、及び腕を表す幾つかの均質の円筒部の組み合わせとみなすことができる。全インピーダンスに対するこれらの構成部の平均的寄与もまた図6に与えられ、それは主に円筒部の異なる断面積に起因する。
肩と腰に付加的な電極を使用することにより、これらの円筒形部分は別々に測定することができ、その結果おそらく体積判定の正確さが増す。そういった構成は図6の右側に表示されている。付加的な電極ユニット5a’及び5b’が患者の該当する肩及び腰にぴったりと接着され、人体要素である脚、腕及び胴への部分的アプローチが可能となる。
【0027】
マイクロプロセッサ格納ユニット1aに格納されたプログラムは、両方とも臨界閾値以下である対応する電流及び電圧信号を記録することにより、少なくとも2つの任意の周波数でインピーダンス測定を開始し、それにより装置は患者のインピーダンスを非侵襲的に調べることができ、そして医療スタッフを必要とすることなく患者自身で容易に取り付けることができる。
【0028】
図5に示された実施形態に戻ると、人体計測的大きさXとして患者の身長Hgtと、患者の体重又は質量Mを、例としてキーボードといった適切なインターフェース手段を用いて、インターフェース・ユニット2を介して装置10に入力することができる。これは、リンク8を用いてインターフェース・ユニット2に連結された測定及び/又は計量手段7により支援可能である。
図5に示された実施形態では、インターフェース・ユニット2はインターフェースとして機能し、該インターフェースにより、Hgt、M及びあらゆる測定されたインピーダンスの値、又は適用された電流及び電圧の値が、コンピュータ格納ユニット3、マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニット1aに格納されたプログラム、インターフェース2及びバイオインピーダンス測定手段5の間のリンクを経由して直接交換される。
マイクロプロセッサ格納ユニット1aに格納されたプログラムは、以前に確立され格納されたデータを活用して、種々の体組織の全身体質量へのあらゆる寄与を判断するために、格納されたデータを処理する。
【0029】
多様な結果を導き出すためにプログラムを進める全てのプロシージャは、図8に集約されたパラメータ値が使用されている図7にまとめられている。
上記に説明したように、身体組織の電気インピーダンスは異なる周波数の交流電流が電極を経由して患者に適用されたときに変化するという事実を利用することにより、ECW値が求められる。低周波数では、細胞膜は絶縁体としての機能を果たし、適用された電流は、ECV空間、即ちECW体積のみを通過する。高周波数では、細胞膜はより導電性を増し、従って電流はICV空間及びECV空間の両方を通過する。少なくとも2つの周波数にわたる、好ましくは或る範囲の周波数にわたるインピーダンスの測定が、ECW及びICV両方の判断を可能にする。
【0030】
ECWは、低周波数又はゼロ周波数における抵抗RをREに等しくなるように取ることにより、式(1)から導き出される。高周波数での第2の測定では、測定されたインピーダンスRは、RE及びRmixの両方からの寄与を有し、後者の抵抗率は見かけの抵抗率ρmixに対応する。REがわかっていれば、Rmixは図3bに従ったインピーダンス位置から導き出すことができ、Rmixは電流についての両方の細胞内経路の結果抵抗を説明する。
プログラムはその後、図7に概説されたプロシージャにより進む。抵抗ρmixの開始値の平均、例としてρmix,start=0,8Ωmをとり、そして式(1)に従って抵抗Rmix及び身長Hgtの格納値、開始値ICVnewが算出される。プログラムはその後、導き出されたばかりのデータの収束をチェックする、反復ループを入力する。このループでは、ICVnewの前の値がパラメータICVoldの新しい値として格納され、ループの終了時に収束チェックができるようにする。
【0031】
ICVoldの値を活用して、水分不良状態の質量MEX又は体積ECWEXが式(15)に従って導出され、無脂肪組織質量MLTが式(9)に従って導出され、脂肪組織質量MATが式(8)に従って導出される。MATとMLTの値を導出してから、MAT/MLT比が算出される。格納された関係ρmix(MLT/MLT)即ち式(6)を活用して、ρmixの新しい値が導き出される。ここで反復ループが閉じられて、新しくできたρmix値を用いることにより、細胞内体積ICVnewの新しい値を式(1)に従って算出可能となる。いったん収束が確立されれば、ICVの整合する値がわかる。その後、このパラメータ値から導き出すことが可能なその他の関心あるパラメータと共に、そういった他のパラメータが反復プロシージャの一部であったかどうかとは無関係に、種々の重量成分の最終値を算出可能である。
【0032】
EX又はECWEXの結果は最終的に、通常、ユーザに結果を表示するディスプレイ装置である出力ユニット9に伝えられる。中間結果として又は質量MATのような付加的な結果としてであるかとは無関係に、さらなる結果は、ディスプレイの情報供与特性を付加する。
区分的な結果は、以前に導き出された結果を含むトレンド分析を可能にするために装置に格納することができる。最新の及び以前のデータから加重平均値を導き出すことにより、データをならすことが有益であるということも立証されている。この目的で、データ内の統計的散乱を減少させるため、当該技術分野では多様なアルゴリズムが使用可能である。表示されるべき現在結果の平均化プロシージャにおける有益な改善は、最高重量の最新の測定を与えることにより、及び、測定が行われてから経過した時間の増加と共に、他の以前の測定の重量を減少させることにより、得られた。
【0033】
従って、本発明に係る開示された装置及び方法は、乾燥重量の管理のための有効でより正確な技術を提供する。脂肪組織又は脂肪区分の重量MAT、及び/又は無脂肪組織区分の重量MLTも求められる場合には、本発明は、患者の栄養状態に関する結論を与える、有益なさらなる結果をもたらす。これは、患者が本当に水分不良状態であるかそうでないかに依存しない。
従って、いかなる治療法とも無関係に、いかなる個人の管理も可能である。本発明は特に、血液透析、血液ろ過、血液透析ろ過又は腹膜透析のあらゆる方式(この特許出願において、これら治療法の全ては、「人工透析」という専門用語を用いて要約されている)といった、末期腎不全治療を受ける患者に適用可能である。こうした患者には基準から大きく外れた電解質状態及び液体状態がたびたび起こるため、水分状態の特徴付けもまた集中治療環境においては非常に望まれている。さらに、家庭、薬局、医業、透析ユニット、病棟、フィットネス・センター、その他の栄養又は健康パラメータが必要とされる事実上あらゆる環境で、測定は実用的となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】水分不良状態の質量MEX、無脂肪組織質量MLT、及び脂肪組織質量MATを表す3つの身体区分を表す略図である。
【図2】無脂肪組織細胞及び脂肪組織細胞、並びにそれらの電気抵抗ρに対する影響を表す略図である。
【図3a】Hanaiモデルに従う等価なインピーダンス位置を概略的に示す図である。
【図3b】本発明に従う等価なインピーダンス位置を概略的に示す図である。
【図4】細胞内混合抵抗率ρmixと、脂肪組織及び無脂肪組織の質量MAT及びMLTの比との間の関係を表す例である。
【図5】本発明に係る患者の身体組成の評価のための装置の実施形態を概略的に示す図である。
【図6a】身体全体のバイオインピーダンス測定のためのバイオインピーダンス電極配置を表す。
【図6b】身体区分のバイオインピーダンス測定のためのバイオインピーダンス電極配置を表す。
【図7】様々な身体区分質量を導き出すための、本発明に係る方法を用いた反復方法を表す概略グラフである。
【図8】身体質量成分の算出のための、例示的な実施形態において必要な様々なパラメータの例示値の集約を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の細胞内体積ICVを求める方法であって、
患者の細胞内電気抵抗Rmixを求め、
第1種の細胞組織は第2種の細胞組織と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なるように寄与することを考慮することによりRmixを用いて細胞内体積ICVを導き出す、
ステップを含む方法。
【請求項2】
患者の少なくとも1つの人体計測上の大きさXを求め、前記人体計測上の大きさXを用いることにより前記細胞内体積ICVを導き出すステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの人体計測上の大きさXが、患者の身長Hgtであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者の細胞外電気抵抗REを求め、前記REを用いて患者の細胞外水分体積ECWを導き出すステップをさらに含むことを特徴とする上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記細胞外水分体積ECWを用いることによって患者の水分不良状態の水分体積ECWEXを導き出すステップをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
患者の総質量Mを求め、前記総質量Mを用いることによって前記水分不良状態の水分体積ECWEXを導き出すステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
患者の前記第1種の組織の質量MAT及び前記第2種の組織の質量MLTを導き出すステップをさらに含むことを特徴とする上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1種の組織が脂肪組織であり、前記第2種の組織が無脂肪組織であることを特徴とする上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記無脂肪組織が、前記患者の脂肪組織でない組織によって定義されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記請求項のいずれかに記載の方法を実行するための装置(10)であって、
患者の細胞内電気抵抗Rmixを求めるためのバイオインピーダンス装置を含む測定ユニット(5)と、
第1種の細胞組織は第2種の細胞組織と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なるように寄与することを考慮することにより、Rmixを用いて細胞内体積ICVを導き出すように構成された評価ユニット(1)と、
を含む装置。
【請求項11】
前記評価ユニットが、マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニット(1a)を含むマイクロプロセッサ・ユニット(1)であり、前記マイクロプロセッサ・プログラム格納ユニット(1a)には、第1種の細胞組織は第2種の細胞組織と比較すると細胞内体積ICVの電気抵抗Rmixに異なるように寄与することを考慮することにより、Rmixを用いて細胞内体積ICVを導き出すためのプログラムが格納されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記マイクロプロセッサ格納ユニット(1a)に格納された前記プログラムはまた、前記抵抗Rmixを求めるための前記測定ユニットを制御することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記装置が、患者の人体計測上の大きさXを前記評価ユニット(1)に入力するための入力手段(2)をさらに含み、前記評価ユニットは、Xを用いて前記細胞内体積ICVを導き出すように構成されていることを特徴とする請求項10乃至請求項12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記測定ユニット(5)はまた、患者の細胞外電気抵抗REを求めるように構成され、前記評価ユニット(1)は、REを用いて前記細胞外水分体積ECWを導き出すように構成されていることを特徴とする請求項10乃至請求項13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記評価ユニット(1)がさらに、前記細胞外水分体積ECWを用いて水分不良状態の水分体積ECWEXを導き出すように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記装置が、患者の総質量Mを前記評価ユニットに入力するための入力手段(2)をさらに含み、前記評価ユニットは、前記Mを用いて前記水分不良状態の水分体積ECWEXを導き出すように構成されていることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記評価ユニット(1)が、前記患者の前記第1種の組織の質量MAT及び前記第2種の組織の質量MLTを導き出すように構成されることを特徴とする請求項10乃至請求項16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記第1種の組織が脂肪組織であり、前記第2種の組織が無脂肪組織であることを特徴とする請求項10乃至請求項17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記無脂肪組織が、前記患者の脂肪組織でない組織として定義されることを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記評価ユニットから導き出されたあらゆるデータを出力する、好ましくは表示するために前記評価ユニット(1)に接続された出力ユニット(9)をさらに備えることを特徴とする請求項10乃至請求項19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
請求項11に記載の装置(10)のマイクロプロセッサ・プログラム格納ユニット(1a)に格納されることになる、マイクロプロセッサ・プログラムが格納された格納媒体を含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−504082(P2008−504082A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518457(P2007−518457)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007023
【国際公開番号】WO2006/002656
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(597075904)フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【Fターム(参考)】