説明

情報と電力をチャネルのサブチャネルに割当てる装置及び方法

複数のサブチャネルを有するチャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる装置(100)であって、前記チャネルはチャネル情報によって表されるものであり、前記チャネル情報の前記複数のサブチャネルと、異なる情報割当て値と、異なる電力割当て値とに対し、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段(106)であって、あるシンボルは、前記チャネルの前記複数のサブチャネルに割当てられた複数の情報ユニットを含むものであり、前記複数の情報ユニットは、ある時間枠の間に前記チャネルを介して集合的に送信されるものである、手段を備えている。さらに、サブチャネルに情報及び電力を割当てるための前記装置(100)は、前記異なる情報割当て値から情報割当て値を選択し、前記異なる電力割当て値から電力割当て値を選択する手段(108)であって、ある閾値を下回る、推定されたシンボルエラーレート値(106a)をもたらす手段も備えている。この開示された装置は、特にチャネルの部分的なチャネル状態情報のみが利用可能な場合に、チャネルのサブチャネルに対し、最適化された情報及び電力の割当てを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤレス通信システムに関し、特にマルチ入力マルチ出力チャネルを有するワイヤレス通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ入力マルチ出力(MIMO)ワイヤレスシステムは、送信機アレイ及び受信機アレイにおけるフェージングに相関がある場合、著しい性能の劣化に直面する。これは、(最小平均二乗誤差MMSEのような)線形受信機を有するシステムに対して特に言える。フェージングの相関は、MIMOチャネル行列の固有値(eigenvalue)(EV)スペクトルに大きな影響を与える。例えば相関を取ると、平均して抜きん出ているEVがほんの少し存在するが、多くのEVはゼロに近い。チャネル状態情報(CSI)を欠いた送信機は、MIMOチャネルの様々なフェージング状態に適応化することはできないため、送信電力は小さなEVに関連付けられた質の悪い固有モード(eigenmode)にその電力を注ぎ込むことによって浪費される。
【0003】
MIMOチャネル行列のこのような固有値分解(eigenvalue decomposition)は、完全なチャネル状態情報が送信機及び受信機の両方で利用できる場合に特に有用であることに注意しなければならない。その理由は、このような場合、複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナを有するワイヤレスリンクは、MIMOチャネルの可能な対角化(diagonalization)をもたらすからである。MIMOチャネルのこのような対角化が生まれることによりMIMOチャネルを、直交するサブチャネルに分割することができる。ここで、各サブチャネルは、MIMOチャネル行列の固有ベクトル(eigenvector)に対応するものである。図7は、このように分割したMIMOチャネルの概略図である。この図では、L個のサブチャネル702は、分離した(すなわち、直交する)サブチャネルとして示されている。情報s1,s2,...,sLが各サブチャネル702に与えられると、これらのサブチャネルのそれぞれの情報s1,s2,...,sLは、送信プロセッサ704によって処理される。この送信プロセッサ704は、処理された情報706を有する異なる固有ビーム(eigenbeam)(すなわち、異なるサブチャネル)を供給する。これら固有ビームは異なる送信容量を有しているため、固有ビームの強度は、特定の固有ビーム上で送信できる情報の量を表している。各固有ビームの強度は、固有値λ1,λ2,...,λLから認知することができる。これら固有値は、MIMOチャネル行列の固有値分解から直接得られる。さらに、処理された情報706が異なる固有ビームを介して送信されるときに、ノイズ成分
【数1】

が、処理された情報706がサブチャネル702を介して送信される間に加えられる。サブチャネルを介して送信された後で、受信信号w1,w2,...,wLが各サブチャネルから得られる。受信プロセッサ708を用いて受信信号w1,w2,...,wLのそれぞれを処理した後で、受信情報
【数2】

が各サブチャネルから得られる。このような対角化できるMIMOチャネルを得ることにより、ビット及び電力のローディングは、例えば従来のOFDM(OFDM:直交周波数分割多重化)の中で行われるため、結果として生じた直交チャネル(すなわち、サブチャネル)に対して適用できる。このような場合、ビットレートを最大にするため(非特許文献1を参照のこと)、ビットエラーレートを最小にするため(非特許文献2を参照のこと)、又は送信電力を最小にするために(特許文献1〜3を参照のこと)、ビット及び電力のローディングを行うための幾つかの方法が知られている。これに対して、送信機がMIMOチャネルのフェージング処理の相関に関する情報しか持っていない場合は、チャネルの対角化はもはや可能ではなく、上記の方法は適用されない。言い換えると、唯一の周知の解決策は今のところは、直交するサブチャネルとして固有ビームを処理し、前述した方法をその固有ビームに適用することから成ると言うことができる。これらの方法では、固有ビームを付加的な白色ガウスノイズ(AWGN)の直交チャネルと考え、それらのフェージングの性質を無視している。特に、Fischer 及び Huberは、ローディングアルゴリズムを提供している。このアルゴリズムでは、レート及び送信電力が各サブチャネル内の信号対雑音比を最大にするように割当てられる。閉じた形式の表現を得ることができるため、Fischer 及び Huberのアルゴリズムは複雑さが少なく、前述したようなChowらにより提案されたローディングアルゴリズムよりも更に複雑度が低い。しかしながら、このローディングアルゴリズムは、次善の(suboptimum)ローディングをもたらす単純な近似仮定(simplifying approximative assumption)に基づいている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,679,227号明細書
【特許文献2】米国特許第4,731,816号明細書
【特許文献3】米国特許第4,833,706号明細書
【非特許文献1】P.S. Chow、J.M. Cioffi、J.A.C. Bingham、「A Practical Discrete Multitone Transceiver Loading Algorithm for Data Transmission over Spectrally Shaped Channels」、IEEE Transactions on Communications、第43巻、1995年、p.773−775
【非特許文献2】R.F.H. Fischer、J.B. Huber、「A New Loading Algorithm for Discrete Multitone Transmission」、proceedings of GLOBECOM、1996年、p.724−728
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、チャネルのサブチャネルに対し、改良された、情報及び電力の割当てを行う可能性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に係るチャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる装置、請求項17に係るチャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる方法、請求項19に係る受信信号を検出する検出器、及び請求項20に係る受信信号を検出する方法によって達成される。
【0007】
本発明は、複数のサブチャネルを有するチャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる装置であって、前記チャネルはチャネル情報によって表されるものであり、前記チャネル情報の前記複数のサブチャネルと、異なる情報割当て値と、異なる電力割当て値とに対し、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段であって、あるシンボルは、前記チャネルの前記複数のサブチャネルに割当てられた複数の情報ユニットを含むものであり、前記情報ユニットの数は、ある時間枠の間に前記チャネルを介して集合的に送信されるものである、手段と、前記異なる情報割当て値から情報割当て値を選択し、前記異なる電力割当て値から電力割当て値を選択する手段であって、該選択された情報割当て値と該選択された電力割当て値とは、ある閾値を下回る、推定されたシンボルエラーレート値をもたらす手段とを備える装置を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、複数のサブチャネルを有するチャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる方法であって、前記チャネルはチャネル情報によって表されるものであり、前記チャネル情報の前記複数のサブチャネルと、異なる情報割当て値と、異なる電力割当て値とに対し、推定されたシンボルエラーレート値を決定するステップであって、あるシンボルは、前記チャネルの前記複数のサブチャネルに割当てられた複数の情報ユニットを含むものであり、前記情報ユニットの数は、ある時間枠の間に前記チャネルを介して集合的に送信されるものである、ステップと、前記異なる情報割当て値から情報割当て値を選択し、前記異なる電力割当て値から電力割当て値を選択するステップであって、該選択された情報割当て値と該選択された電力割当て値とは、ある閾値を下回る、推定されたシンボルエラーレート値をもたらすステップとを含む方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、ある受信信号を検出するための検出器であって、前記受信信号は、複数のサブチャネルを有するチャネルによって出力されるものあり、前記受信信号は、該受信信号に関連付けられている、あるサブチャネルに割当てられた情報ユニットを有するものであって、あるサブチャネル受信信号を得る手段と、前記サブチャネルの情報割当て情報を得る手段と、前記サブチャネルの前記割当て情報に基づいて、前記サブチャネル受信信号を復調する手段とを備える検出器を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、ある受信信号を検出する方法であって、前記受信信号は、複数のサブチャネルを有するチャネルによって出力されるものあり、前記受信信号は、該受信信号に関連付けられている、あるサブチャネルに割当てられた情報ユニットを有するものであって、あるサブチャネル受信信号を得るステップと、前記サブチャネルの情報割当て情報を得るステップと、前記サブチャネルの前記割当て情報に基づいて、前記サブチャネル受信信号を復調するステップとを含む方法を提供する。
【0011】
本発明は、チャネル情報と異なる情報割当て値と異なる電力割当て値とを提供することにより、複数の推定されたシンボルエラーレート値を決定することができ、ここで情報割当て値及び電力割当て値は好ましく選択されて、最小の推定されたシンボルエラーレート値が結果として得られるという知見に基づいている。従って、本発明の方法では、徹底的な検索が好ましく実行される。この方法では、例えば固有ビームのようなサブチャネルへのビット割当てなどの全ての有意義な情報割当てが評価され、特定の情報割当てが選択される。これにより、好ましいことに、最小の推定されたシンボルエラーレート値と考えられる最小の上限値が結果として得られる。このため、本発明のアプローチでは、期待されるシンボルエラーレート(シンボルエラーレート:SER)値の上限を判断基準として用いる、情報ユニット(例えば、ビット)の最適な割当てを決定する装置及び方法が提供される。考えられる制約は、例えば送信すべきビットの総数、または最大送信電力の限度である。この推定されたシンボルエラーレート値を上限の基準として使用すると、情報ユニット(例えば、ビット)の割当て及び最適な電力のローディングを容易に計算することができる。それにしても、この方法は、好ましいことに全ての割当ての可能性、好ましいことにアンテナの数によって定義される、情報ユニットの実際の数及びサブチャネルの実際の数に関する徹底的な検索に基づいている。例えば、固有ビームの異なる強度を考慮すると、潜在的な割当ての数は極めて小さい値に留まる。その上、好ましいことに幾つかの停止条件を提案されたアルゴリズムの中に取り入れて、検索を著しく短縮することができる。
【0012】
本発明の利点は、従来技術の方法とは異なり、システムの真の性能指数を形成する、推定されたシンボルエラーレート値の上限を基準として使用することであり、このため送信機のシナリオの中で使用するのに適しているということである。このシナリオでは、送信機において部分的なチャネル状態の情報のみを持っている。さらに、本発明の利点は、検索時に前記停止条件が導入され、最適な割当てのために考慮するサブチャネルの数が、例えば最大10個の送信点、すなわち10個の送信アンテナによって定義されるように適度に小さい場合は、提案したアルゴリズムの数値的な複雑度を、アルゴリズムの性能を低下させずに低減させることができるということである。これにより、本発明は、チャネルのサブチャネルに対する情報及び電力の割当てを改良する可能性を提供する。ここで、最新の方法とは対照的に、送信機において部分的なCSIのみを持っていればよい。最新の方法では、チャネルのサブチャネルに対して情報及び電力の最適な割当てを行うためには、完全なCSIを持つ必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の別の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、チャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる装置100のブロック図である。この装置100は、異なる情報割当て値を提供する手段102と、異なる電力割当て値を提供する手段104と、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106と、選択する手段108とを備えている。異なる情報割当て値を提供する手段102は、1つのシンボルにおける全てのサブシステムに対して割当てられる全情報量を受信するための入力部102aを備えている。さらに、この異なる情報割当て値を提供する手段102は、異なる情報割当て値を出力するための出力部102bを備えている。異なる電力割当て値を提供する手段104は、1つのシンボルを送信する間のチャネルのサブチャネルに割当てられる最大電力量を受信するための入力部104aを備えている。さらに、異なる電力割当て値を提供する手段104は、異なる情報割当て値を提供する手段102が出力する情報割当て値を受信するための第2の入力部104a’と、チャネル情報を受信するための第3の入力部104a”とを備えている。さらに、異なる電力割当て値を提供する手段104は、異なる電力割当て値を出力するための出力部104bを備えている。
【0015】
推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106は、異なる情報割当て値を提供する手段102の出力部102bから情報割当て値を受信するための第1の入力部106aを備えている。さらに、この推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106は、異なる電力割当て値を提供する手段104の出力部104bから電力割当て値を受信するための第2の入力部106a’を備えている。さらに、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106は、チャネル情報を受信するための第3の入力部105を備えている。
【0016】
さらに、この推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106は、推定されたシンボルエラーレート値を出力するための第1の出力部106bと、情報割当て値を出力するための第2の出力部110であって、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106の第1の入力部106aに接続されている第2の出力部110と、電力割当て値を出力するための第3の出力部112であって、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106の第2の入力部106a’に接続されている第3の出力部112とを備えている。
【0017】
選択する手段108は、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106から推定されたシンボルエラーレート値を受信するための第1の入力部108aと、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106の第2の出力部110に接続されている第2の入力部と、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106の第3の出力部112に接続されている第3の入力部とを備えている。さらに、この選択する手段108は、選択された情報割当て値を出力するための第1の出力部Ioutと、選択された電力割当て値を出力するための第2の出力部Poutとを備えている。第1の出力部Ioutは、選択する手段108の第2の入力部に接続されており、選択する手段108の第2の出力部Poutは、選択する手段108の第3の入力部に接続されている。
【0018】
図1に示されている装置100の機能性は、次のように説明することができる。
【0019】
全情報量、例えば1つのシンボルにおけるチャネルを介して送信される全ビット数は、入力部102aを介して異なる情報割当て値を提供する手段102に入力することができる。この異なる情報割当て値を提供する手段102は、異なる情報割当て値を提供し、例えば全情報量を分割して、この全情報量の一部を異なるサブチャネルに割当てることができるように構成されている。例えば、全情報量が5ビットであり、チャネルが3個のサブチャネルを含んでいる場合、異なる情報割当て値を提供する手段102は、例えば第1のサブチャネルに3ビット、第2及び第3のサブチャネルに1ビットずつを割当てるという情報値の第1の集合を提供する。ここで、異なる情報割当て値を提供する手段102はさらに、情報割当て値の第2の集合を提供する。ここでは、2ビットが第1及び第2のサブチャネルにそれぞれ割当てられ、1ビットが第3のサブチャネルに割当てられる。このため、異なる情報割当て値を提供する手段102は、チャネルの利用可能なサブチャネルに異なる情報ユニットの集合体(コンスタレーション)を提供する。
【0020】
異なる電力割当て値を提供する手段104は、入力部104aを介して最大電力量、例えばハードウェアによる制約を受ける最大電力量を受信するように構成されている。すなわち、この最大電力量は、例えば僅か1ワットの電力を送信できる送信機回路によって決まる。第2の入力部104a’を介して異なる電力割当て値を提供する手段104に入力される異なる情報割当て値についての情報と、第3の入力部104a”を介して手段104へ入力されるチャネルについての情報(例えば、チャネルの共分散行列の固有値)とに基づいて、異なる電力割当て値を提供する手段104は、異なる情報割当て値に対応する異なる電力割当て値を提供するように構成されている。前述した実施例に戻ると、異なる電力割当て値は、例えば1ワットを3個のサブチャネルに割当てる電力割当て値の第1の集合を含んでおり、例えば3ビットの情報を搬送する第1のサブチャネルに600mWが割当てられ、それぞれ1ビットの情報を搬送する第2及び第3のサブチャネルにそれぞれ200mWの電力が割当てられる。情報割当て値の第2の集合については、異なる電力割当て値を提供する手段104は、それぞれが2ビットの情報を搬送する第1及び第2のサブチャネルに400mWずつを割当てるように構成されている。ここで、1ビットの情報を搬送する第3のサブチャネルには、200mWが割当てられる。従って、異なる電力割当て値を提供する手段は、異なる情報割当て値を提供する手段102によって提供される、異なる情報割当て値の集合に対応する異なる電力割当て値の集合を提供するように構成されている。
【0021】
ここで、異なる情報割当て値及び異なる電力割当て値の前記集合は、第1の入力部106aと第2の入力部106a’とを介して、決定する手段106に送られる。決定する手段106は、決定する手段106の第3の入力部105を通して、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106に提供されたチャネル情報をさらに考慮する。推定されたシンボルエラーレート値を決定するための正確なアルゴリズムについては、後ほど説明する。しかしながら、異なる情報割当て値及び異なる電力割当て値の集合に基づいて、決定する手段106は、異なる推定されたシンボルエラーレート値を提供するように構成されている。これらの値は、決定する手段106の第1の出力部106bを通して提供される。さらに、決定する手段106の第1の出力部106bにおける推定されたシンボルエラーレート値の基礎である情報割当て値及び電力割当て値は、決定する手段106の第2の出力部110及び第3の出力部112を通して提供される。同時に、決定された、推定されたシンボルエラーレート値が、決定する手段106の第1の出力部106bを通して提供される。
【0022】
決定する手段106の出力に基づいて、選択する手段108は、特定の推定されたシンボルエラーレート値に対応する情報割当て値及び電力割当て値を選択するように構成されている。この特定の推定されたシンボルエラーレート値は、選択する手段108が、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106から受信した、最小の推定されたシンボルエラーレート値であることが好ましい。次に、この選択された情報割当て値は、選択する手段108の第1の出力部Ioutを通して出力され、一方選択された電力割当て値は、選択する手段108の第2の出力部Poutを通して出力される。
【0023】
さらに、装置(100)は、選択する手段108の第1の出力部Ioutによって出力される情報割当て情報を用いる適応変調器と、選択する手段108の第2の出力部Poutによって出力される電力割当て情報を用いる電力割当器とを備えていてもよい。ここで、これら適応変調器及び電力割当器は、チャネルのサブチャネルが互いに空間的に異なるように、送信点に対する信号を発生させる。
【0024】
装置100は、情報及び電力をチャネルのサブチャネルに割当てるように構成されているので、送信機において部分的なCISしか知られていない場合でも、情報及び電力をサブチャネルに最適に割当てることができる。このように、この部分的なチャネル状態情報を使用して性能の向上をもたらすビット及び電力のローディングを行うことができ、したがて、送信機における部分的なCISを用いてビット及び電力のローディングを同時にそして効果的に行うことができるということが分かる。
【0025】
推定されたシンボルエラーレート値を決定するためのアルゴリズムについてであるが、例えば複数のサブチャネルを有するチャネルのようなMIMOリンクを考慮する必要がある。ここで、送信信号x
【数3】

と受信信号y
【数4】

との間の関係は、式(1)によって与えられる。
y=Hx+n (1)
ここで、
【数5】

はMIMOチャネルを表し、nは白色ガウスノイズを表している。送信機がチャネルに関して有する全ての情報は、
Tx=E{HHH}
によって与えられる、送信相関行列(transmit correlation matrix)から構成されている。
【0026】
ここでいう送信相関行列は、チャネルの自己共分散行列(auto-covariance matrix)の一例である。この情報を用いて、送信信号のベクトルxを送信機におけるRTxの固有ベクトルの行列に乗算することができる。この線形プレコード化により、いわゆる固有ビームが得られる。この固有ビームのエルゴード容量(ergodic capacity)に関する最適化は、レイリーフェージングチャネルに対して既に示されている(非特許文献3を参照のこと)。しかしながら、送信すべきビット数及び最大送信電力の限度を考えると、性能を最適化するためにはどの程度の電力及びビットを個々の固有ビームに割当てるべきかという疑問が生ずる。この疑問に対する回答が、まさに本発明の目的である。
【非特許文献3】S.A.Jafar、S.Vishwanath、A.Goldsmith、「Channel Capacity and Beamforming for Multiple Transmit and Receive Antennas with Covariance Feedback」、International Conference on Communications ICC、2001年
【0027】
式(1)で表されているモデルは、送信機で行われるプレコード化及び電力ローディングを考慮するために拡張することができる。
【数6】

がRTxの固有ベクトルの行列を表し、
【数7】

が、電力を送信信号のそれぞれの構成要素に割当てる対角行列である場合は、下記のように表現することができる。
y=HUP1/2x+n
【0028】
このシステムモデルを考慮すると、受信機における信号の最尤検出により式(2)が得られる。
【数8】

【0029】
式(2)において、
【数9】

が、特定のチャネルを表すもの(channel realisation)に条件付けられた、送信されたxを有するx’に等しくなる確率は、ペアワイズエラー確率(pair wise error probability)(PEP)と呼ばれる。現在のシステムモデルに関して、この確率はガウスエラー関数(Gaussian error function)を用いて閉じた形式で表すことができ(非特許文献4を参照されたい)、結果として式(3)が得られる。
【数10】

ここで、σ2は受信機における複素数値ノイズ処理の分散であり、Hは特定のチャネルを表すものであり、d(x,x’,H)は、式(4)で表される、受信機における2つの送信信号の距離である。
【数11】

ここで、△=x’−xである。送信機において現在のチャネルを表すものに関しての情報は利用できないため、全ての可能なチャネルを表すものについて、式(3)の期待値を計算することが適している。これは、エルゴードペアワイズエラー確率(ergodic pair wise error probability)をもたらす。しかしながら、この期待に対して、閉じた解決策(close solution)は利用できない。幸いなことに、式(3)は、式(5)のようにガウスエラー関数に対するチェルノフ限度(Chernoff bound)を用いて、しっかりと上限を設けることができる。
【数12】

この式(5)の平均値は、エルゴードペアワイズエラー確率の上限を与える。この上限の期待値に対する有意義な式を得るために、式(4)に関して幾つかの代数操作が必要になる。
【数13】

ここで、
【数14】

は行列Hの第m行を表し、RTx=R1/21/2である。これらの式に対して、RTxはフルランク(full-rank)の行列であるという仮定が作られる。これは、代数的な観点からほぼ1の確率である。さらに、Hにおけるガウス分布エントリー(Gaussian distributed entry)と、受信機における空間的な非相関性と、MIMOチャネルを同じ統計値で示す全てのMISOチャネル(MISO:マルチ入力シングル出力)とを仮定すると、zmの構成要素は、以下のようなi.i.d.ガウス変数である。
【数15】

【非特許文献4】G.G.Raleigh、V.K.Jones、「Multivariate Modulation and Coding for Wireless Communication」 IEEE Journal on Selected Areas in Communications、第17巻、1999年5月、p.357−366
【0030】
これらベクトルzmの特性を考慮すると、式(5)の上限の期待値は容易に計算することができ、式(6)が得られる。
【数16】

ここで、λr(M)は行列Mの固有値であり、ρはそのランクである。最後に、式(6)は、以下の式(7)による行列式のような簡潔な形式に書き直すことができる。
【数17】

【0031】
例えこうでも、式(7)は電力及びビットのローディングに依存するため、その式はビット及び電力を固有ビームに割当てる基準として極めて有用とは言えない。ビットローディングに対する依存性は明確ではない。さらに、それはx及びx’の特定の選択に極めて強く依存する。このため、ビットローディングに対する明確な依存性を示し、同時にシンボルの特定のペアに対する依存性を取り除くものである、式(7)の上限を探すことが都合が良い。det(I+BA)が行列式(I+AB)に等しいという考えを用いて、式(7)を以下のように書き変えることができる。
【数18】

ここで、Λは、対角成分にRTxの固有値を持つ行列である。ここで、この式は以下の式(8)に示すように、容易に上限を決めることができる。
【数19】

【0032】
式(8)では、dnは、固有ビームnを介して送信するために使用される集合体の任意の2点間の最短距離であり、λnはその関連する固有値であり、Pnはその電力ロードである。要素αnを含めることによって、式(8)の上限をさらに洗練することができる。この要素αnは、その各項において発見的要素(heuristic factor)と考えることができる。この発見的要素αnは、任意の要素、又は信号集合体の中の任意の他の点に最も近接している点の平均数を意味する要素である。結果として得られる式は、期待された、又は推定されたシンボルエラーレートの上限である。これは、式(9)に基づいて評価することができる。
【数20】

【0033】
式(9)は、アルゴリズムが特定のビット及び電力の割当ての利点を評価するために使用する基準となる。
【0034】
基本的な組合せの問題を解くことにより、B個のビットを、
【数21】

におけるMt個の固有ビームに異なる方法で割当てることができる。これらの組合せのそれぞれは、強力アルゴリズム、すなわち最初に最適な電力のローディングを計算し、次に式(9)から値を得るために電力及びビットのローディングを使用することによって評価することができる。最小の値が得られるビット及び電力のローディングの割当てを選択する必要がある。所定のビットローディングに対して、最大送信電力の制約を受ける式(9)を最小化にすることにより、最適な電力ローディングが得られる。解は、式(10)によって与えられる。
【数22】

ここで、μは下記の制約、
【数23】

及び
【数24】

を満たすように選択される。
【0035】
一例として、Mt=4及びB=6の場合、このようなアルゴリズムが評価する必要がある割当ての数は84になる。たとえこの数がコンピュータ的に不可能な程大きいようには思われなくても、本願の根底にある問題の幾つかの特性を検討することによって、その数を減らすことに関心がある。固有値が
【数25】

のように並べられる場合、弱い固有ビームが強い固有ビーム、すなわちbn個のビットを有する固有ビームnのビットロードを示す固有ビームよりも大きくロードされるような割当ては破棄することができ、下記の特性、
【数26】

を有する割当てのみが理に適うように思われる。その特性に反するビットの割当てを行うと、大部分の電力が弱い固有ビームへのオーバーロードを補償するために使用されるといった電力ローディングを行うことになり(式(10)を参照のこと)、結果として性能が低下する。
【0036】
ビットロードが増加しない特性が適用される組合せの数は、以下の式のように計算できる。
【数27】

ここで、
【数28】

は、次に小さい整数値を返すものである。この式を用いて、ここで前の例に対しビットロードが増加しない組合せの数を計算できる。評価すべき割当て数は9にまで減少する。最適なビット及び電力のローディングを探すアルゴリズムは、明確な順序でそれぞれの可能性のある割当てを評価する一連の入れ子のループを用いて実行することができる。さらに、MIMOチャネルの受信アンテナの数以下の数を個数とする固有ビームのみが情報をロードされることを考慮することができる。このため、本アプローチは、このような複数の受信アンテナを考慮することができない最新のアプローチに対して付加的な自由度を有する。
【0037】
このような電力及びビットローディング検索アルゴリズムは、図2に概略的に示されている。図2に示されているアルゴリズムは、入れ子にされた複数のループ202,204,及び206を含んでおり、それぞれのループは、ビット数をあるサブチャネルに割当てる。最初に、入れ子ループの最も内側のループ202の動作をより詳細に説明する。最も内側のループ202は、ビットb2の数を2番目に強い固有ビームn=2に割当てる。ビット数は、3番目に強い固有ビームn=3に割当てられたビットb3の数から、式(B−bMt−bMt-1−...−b3)/2に相当する値までの範囲にわたる。このため、2番目に強い固有ビームに割当てられた最小のビット数は、少なくとも3番目に強い固有ビームに割当てられたビット数であるため、第2の固有ビームよりも弱い固有ビームに割当てられたビット数は、2番目に強い固有ビームに割当てられたビット数よりも確実に小さくなる。さらに、2番目に強い固有ビームには、最大のビット数が割当てられる。この最大の数は、割当てられる全ビット数Bの差分の半分に等しく、また第2の固有ビームよりも弱い固有ビームに割当てられる全てのビットの合計である。このため、2番目に強い固有ビームが第1の固有ビーム以下のビットに割当てられ、これにより2番目に強い固有ビームが最も強い固有ビームに割当てられたビット数よりも少ないか、又は少なくとも等しいビット数に確実に割当てられるようにすることができる。上記の条件は、図2に示されているアルゴリズムの行208から理解することができる。さらに、情報割当て値の1つの集合に対応する可変のビットローディングは、図2の行210に示されているように計算される。ここで、変数bit#loadingに基づいた電力のローディングは、図2に示されているアルゴリズムの行212で計算される。この電力のローディングは、図1に示されている例の場合は、異なる電力割当て値の1つの集合に対応する。変数bit#loading及びpower#loadingに基づいて、限度が図2に示されているアルゴリズムの行214で計算される。この限度は、図1に示されている推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段106によって決定される推定されたシンボルエラーレート値に対応している。次に、アルゴリズムの行216に示されているように、計算された限度は、変数bound#minによって示される最小の限度と比較される。行214で計算された限度が最小の限度よりも小さい場合、この最小の限度は行214で決定された限度の値が割当てられて、行214で決定された限度に対応する最小のビットローディングの集合体及び最小の電力ローディングの集合体が保存される。これらの動作は、図2に示されているアルゴリズムの行218で実行される。このようにして、情報割当て値をうまく選択することができる。これらの情報割当て値は、図2に示されているアルゴリズムの行210で計算されたビットローディングと、行212で計算された電力ローディングに対応する電力割当て値とに対応し、結果としてアルゴリズムの行214で計算された、限度に対応する最小の推定されたシンボルエラーレート値を得る。
【0038】
外側のループ204及び206を検討する場合、内側ループ202に関連する説明が同等に適用されることに注意されたい。より具体的に言うと、固有ビームMt−1には、最も弱い固有ビームn=Mtに割当てられた少なくともビット数bMtであるビット数bMt-1が割当てられる。この場合、2番目に弱い固有ビームn=Mt−1に割当てられるビットの最大数は、送信される全ビット数Bから最も弱い固有ビームに割当てられたビットbMtの数を減じ、その結果を固有ビームから1を引いた数で割ったものである。このように、2番目に弱い固有ビームに割当てられる最大のビット数は、送信される全ビット数から最も弱い固有ビームに割当てられるビットを引いたものが全部でMt−1個の最も強い固有ビームに等しく割当てられる場合と少なくとも同じぐらい大きいものとすることができる。ビット数bMt−1の割当ては、図2に示されているアルゴリズムの行220からわかる。
【0039】
ビット数bMtは、図2に示されているアルゴリズムの行222から決定することができる。ここで、最も弱い固有ビームMtに割当てられたビット数は、0ビットとMtビットによって除算されたBとの間の範囲にある。
【0040】
従って、図2に示されているアルゴリズムによれば、最も強い固有ビームは全てのビットが割当てられ、次に第2の固有ビームは続いて、最大の許容値までのより多くのビットが割当てられる。この最大の許容値は、非増加ビットローディング条件によって与えられる。ここで第3の固有ビームのローディングが開始され、次に第4など全ての割当てが評価されるまで続く。この可能なビット割当ての配列を利用して、停止条件をループ内に取り入れることにより計算の数を更に減らすことができる。従って、特定の固有ビームnに対して、付加的なビットの割当てbn=bn+1が結果として限度を改善しない場合は、固有ビームn及び任意のより弱い固有ビームがbnよりも多くロードされるような全ての割当てについての検索を行うことができる。結果として得られるアルゴリズムを図3に示す。
【0041】
図3は、各ループ内の停止条件を考慮していることを除いて図2に示されているアルゴリズムに基づいた、情報及び電力をサブチャネルに割当てるためのアルゴリズムである。従って、図3に示されているアルゴリズムは、特に内側のループ202,204及び206を有する図2に示されているアルゴリズムにほぼ等しい。このアルゴリズムの最初に、最も弱い固有ビームMtに対して所定の限度値のリセットが行われる行302がある。ここで、限度変数に例えば100のような極めて高い値を割当てることによって、リセットが実行される。続いて、外側ループ206が行222により開始する。この行222は、図2のアルゴリズムに示されている行222と同様である。次の行304で、2番目に弱い固有ビームn=Mt−1に対する最小の限度値のリセットが、図3のアルゴリズムの行302に示されている最も弱い固有ビームMtの限度変数のリセットと同じ方法で実行される。その下の次の行は、図2の行220に相当する行であり、2番目に弱い固有ビームMt−1を割当てるループを示している。この行に続く行306では、2番目に強い固有ビームに対する限度値のリセットが、行304及び302でリセットが実行されるのと同じ方法で行われる。次の行は、2番目に強い固有ビームのビット数b2の割当てを再度示している。これは、図2に示されているアルゴリズムの行208に対応している。次の3つの行は、図2の行210,212及び214に相当する。ここで行214は、その行で計算される限度が2番目に強い固有ビームに対する限度だけであるように僅かに修正されている。2番目に強い固有ビームに対する限度が、行208で始まる行を通して一気に計算された最小の限度よりも小さい場合は、2番目に強い固有ビームに対する最小の限度は、行214で計算された限度値に設定される。さらに行308において、2番目に強い固有ビームがビット数b2を割当てられる最も内側のループに対して、全てのループに対する最小の限度を行214で計算された限度と比較する弁別が実行される。行214で計算された2番目に強い固有ビームに対する限度が最小の限度よりも小さい場合は、最小の限度が行214で計算された2番目に強い固有ビームの限度値に対して設定され、そしてビットローディング及び電力ローディングが、図2に示されているアルゴリズムの行218に基づいて保存される。行214で計算された2番目に強い固有ビームに対する限度が2番目に強い固有ビームに対する最小の限度よりも小さくない場合は、else文に続く行310の動作が実行される。行310の動作は、第2の固有ビームよりも弱い固有ビームの1つに割当てられたビット数が、第2の固有ビームに割当てられたビット数よりも小さいかどうかの確認である。第2の固有ビームに割当てられたビット数よりも小さいビット数が割当てられた、第2の固有ビームよりも弱い固有ビームがない場合は、図3に示されているアルゴリズムは停止する。そうでない場合は、符号312で示されている行の中の命令が実行される。ここでは、最初に、最も弱い固有ビームの数n0が計算される。それは、第2の固有ビーム自身が有力候補である2番目に強い固有ビーム−1と同じ数のビットが割当てられる。その後、行314において、固有ビームの数n0に対する最小限度が第2の固有ビームに対する最小限度よりも大きいかどうか、又は数n0が2に等しいかどうかを確認する。等しい場合は、固有ビームの数n0に対する最小限度は、2番目に強い固有ビームの最小限度値に等しく設定される。これに続いて、最も内側のループ202を抜ける命令、及び固有ビームの数n0+1が計算されるループへのジャンプが実行される。行314内の識別の結果が「偽」である場合、内側ループ202を抜けて、固有ビームの数n0のビットの割当てが計算されるループへのジャンプが実行される。
【0042】
図3に示されているアルゴリズムの符号316が示している行の中の命令は、行308から始まる前に概要を説明した行と同様の動作を行い、複数の入れ子ループのさらに別のループに対して前述したような機能を提供する。
【0043】
まとめると、最も外側のループ206では、2番目に弱い固有ビームに対する最小の限度値が、最も弱い固有ビームに対する最小の限度値よりも小さいかどうかの識別が実行され、これが小さい場合は、最も弱い固有ビームに対する最小の限度値が2番目に弱い固有ビームの最小の限度値に対して設定される。これとは逆に、2番目に弱い固有ビームに対する最小の限度値が、最も弱い固有ビームに対する最小の限度値よりも小さくない場合は、図3に示されているアルゴリズムは停止する。
【0044】
そうであったとしても、アルゴリズムに取り入れられた開始条件は、直感的にうまく作られているように思われるが、最適なアルゴリズムに到達する可能性は保証されない。しかしながら、停止条件を用いて得られた解と用いない場合の解との間の差異は、性能の点からするとむしろ重要でないことが分かる。大まかに言うと、いずれかの段階で、特定の固有ビームのビットロードを増加させることは、性能の低下をもたらすと言うことができる。その理由は、電力がその固有ビームの過負荷を補償することができないためであり、その固有ビーム又は同じ負荷を有するより弱い固有ビームを更にローディングすることは性能を更に劣化させる可能性がある。
【0045】
有効性を検証するために、提案されたアプローチは、Mt=4個の送信アンテナ及びMr=4個の受信アンテナを有するチャネルにビット及び電力のローディングを行うように適用される。ビットロードはB=6ビットになるように選択され、固有値の特徴は図4に示されている。このように、図4は固有値λ1、λ2、λ3及びλ4を示している。この図で、第1の固有値λ1は、最も強い固有ビームに対応する固有値である。第2の固有値λ2は第1の固有値よりも小さく、第3の固有値λ3は第2の固有値よりも小さく、また第4の固有値λ4は第3の固有値λ3よりも小さい。チャネルを介して情報を送信するために、MIMOチャネル環境の中で使用される受信アンテナの数に相当する数の固有ビームのみが使用されることに注意されたい。
【0046】
図5A〜図5Dは、提案されたアプローチを適用することから得られ、あたかもAWGNチャネルのように直交する固有ビームを用いた、Fischer 及び Huberによって示されたアルゴリズム(近似方法)を適用することから得られたビット及び電力のローディングの図である。図5Aは、本発明の方法に基づいた電力ローディングを示している。この図では、(線502で示されている)第1の固有ビームに割当てられた電力は、全ての信号対雑音比SNRに対して、(線504で示されている)2番目に強い固有ビームに割当てられた電力よりも常に高いことが分かる。さらに、図5Bは、線506で示されている、固有値λ1を有する最も強い固有ビームに割当てられたビットを示している。この線506は、固有値λ2を有する固有ビームに対応する、2番目に強い固有ビームにロードされたビットよりも大きい。ここで、第1の固有ビームに割当てられたビット数は、第2の固有ビームに割当てられたビット数よりも常に大きい。
【0047】
図5Cは、Fischer 及び Huberによって提案された近似方法による電力ローディングを示している。この図では、電力は最初に3つの固有ビームにロードされ、固有値λ3を有する第3の固有ビームは、固有値λ1を有する第1の固有ビームよりも多くの電力が割当てられていることが分かる。その結果、全て利用可能な大量の電力が弱い固有ビームに割当てられ、3つの固有ビームにビットを割当てることに注意されたい。このことは、図5Dから理解できる。
【0048】
図6Aは、Fischer 及び Huberによって提案された近似方法とは対照的に、式(9)によって計算された、推定されたシンボルエラーレートが、本発明の部分なCSIベースの方法に基づいて電力及びビットのローディングに対して示されていることを表す図である。図6Aから分かるように、本発明の部分的なCSIベースの方法は、全ての信号対雑音比SNRにわたって、Fischer 及び Huberによって提案された近似方法よりも小さい、推定されたシンボルエラーレート値(=限度値)を提供する。ここでまとめると、ビットエラーレート(=BER)は、図6Bに示されているように得ることができる。従って、図6Bに示されているように、本発明の部分的なCSIベースの方法から結果として生じたビットエラーレートは、全ての信号対雑音比SNRにわたって、Fischer 及び Huberによって提案された近似方法によるビット及び電力のローディングから得られたビットエラーレートよりも常に小さいことに注意されたい。
【0049】
図6Aには、両方の方法から得られた限度値の曲線が示されている。この実施例の場合、性能の差異は1dBを超えている。しかし、それよりも一層重要なことは、Fischer 及び Huberによって提供された解決策は、アンテナ数又はSNRなどの本質的なシステムパラメータを意識していない(図5C及び図5Dを参照のこと)のに対し、提案したアプローチは全ての重要なシステムパラメータを考慮に入れ、式(9)を最小化するビット及び電力のローディングを行う(図6Aを参照のこと)ことが認められるということである。かかるコストは無論、増加した計算の複雑性である。しかしながら、送信アンテナ及びビットロードの実際の数に対しては、この付加的な複雑性は無視できる。例として、下位条件(sub-condition)を有する提案されたアプローチが、図5A〜図5D及び図6Aに示されている解決策に到達するには、最悪の場合、6回の計算を必要とする。最後に、シミュレーション曲線が図6Bに示されている。この図は、送信機において部分的なCSIを有するMIMOシステムの送信品質に対する性能指数として、式(9)の選択をバックアップしていることが分かる。
【0050】
本発明の方法は、ある実施要件に依存して、ハードウェア又はソフトウェアの中で実現できる。この実現は、本発明の方法が実行できるようにプログラム可能なコンピュータシステムと共に動作できるディジタル記憶媒体、特に電子的に読取り可能な制御信号を記憶したディスク又はCDを用いて行うことができる。従って、本発明は全体的に、コンピュータが読取り可能な担体上にプログラムコードが記憶されたコンピュータプログラム製品である。このプログラムコードは、コンピュータ上で本発明による方法を実行する。言い換えると、本発明の方法は、コンピュータ上で本発明の方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムである。
【0051】
最後に、本発明は、受信信号を検出するための検出器及び方法も含んでいると言うことができる。この受信信号は、複数のサブチャネルを有するチャネルにより出力されるものである。さらにこの受信信号は、その受信信号に関連付けられている、あるサブチャネルに割当てられた情報ユニットを有している。ここで、検出器はサブチャネル受信信号を得る手段と、サブチャネルに対する情報割当て情報を得る手段と、サブチャネルに対する割当て情報に基づいてサブチャネル受信信号を復調する手段とを備えている。言い換えると、本発明は受信信号を受信し変調するように構成されている受信機も含んでいると言うことができる。この受信信号は、上記のアルゴリズムに基づいて情報及び電力がロードされる送信信号に対応している。
【0052】
要約すると、MIMOシステム内のビット及び電力双方のローディングは、送信側のフェージング相関についての情報が送信機で利用できる場合に行うことができる。プログラムの制約は、最大送信電力の限度及び送信するビット数である。この方法は全ての有意義なビット割当てを調査して、期待されるシンボルエラーレート値の上限を最小にする方法を見つけ出す。また、停止条件をアルゴリズムに取り入れることができる。この停止条件は検索処理の中で必要な計算量を著しく減少させるが、性能にはほとんど影響しない。この方法は、完全なCSIに基づいており、部分的なCSIの場合に直接的に適用される最新式の方法を凌ぐものである。送信アンテナ及びビットの実際の数については、提案された方法の複雑度が、実際の実施に障害をもたらすことはない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に基づいて、チャネルのサブチャネルに対して情報及び電力を割当てるための本発明に係る装置のブロック図である。
【図2】本発明の方法を実行するための具体例としてのアルゴリズムを示す図である。
【図3】本発明の方法を実行するための具体例としての別のルーチンである。
【図4】チャネル行列の複数の例示的な固有値の強度を示す図である。
【図5A】図4に示した固有値及び本発明による実施形態を用いた、具体例としての電力ローディング及びビットローディングを示す図である。
【図5B】図4に示した固有値及び本発明による実施形態を用いた、具体例としての電力ローディング及びビットローディングを示す図である。
【図5C】図4に示されている固有値の強度を用いた従来の近似方法の電力ローディング及びビットローディングを示す図である。
【図5D】図4に示されている固有値の強度を用いた従来の近似方法の電力ローディング及びビットローディングを示す図である。
【図6A】本発明の方法を従来の近似方法と比較した、信号対雑音比(SNR)に対する推定された限度及び推定されたビットエラーレートを示す図である。
【図6B】本発明の方法を従来の近似方法と比較した、信号対雑音比(SNR)に対する推定された限度及び推定されたビットエラーレートを示す図である。
【図7】L個のサブチャネルを有する、完全なチャネル状態情報を含んだチャネル行列に基づいて対角化されたチャネルのブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブチャネルを有するチャネルのサブチャネルに対して情報及び電力を割当てる装置(100)であって、前記チャネルはチャネル情報によって表されているものであり、
前記チャネル情報の前記複数のサブチャネルと、異なる情報割当て値と、異なる電力割当て値とに対し、推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段(106)であって、あるシンボルは、前記チャネルの前記複数のサブチャネルに割当てられた複数の情報ユニットを含むものであり、前記情報ユニットの数は、ある時間枠の間に前記チャネルを介して集合的に送信されるものである、手段と、
前記異なる情報割当て値(102b)から情報割当て値を選択し、前記異なる電力割当て値(104b)から電力割当て値を選択する手段(108)であって、該選択された情報割当て値と該選択された電力割当て値とは、ある閾値を下回る、推定されたシンボルエラーレート値(106a)をもたらすものである、手段と
を備える装置。
【請求項2】
前記決定する手段(106)は、第1の情報割当て値及び第1の電力割当て値に基づいて第1のシンボルエラーレートの値を決定し、第2の情報割当て値及び第2の電力割当て値に基づいて第2の推定されたシンボルエラーレート値を決定するものであり、
前記選択する手段(108)は、前記情報割当て値及び前記電力割当て値を選択するものであって、該選択された情報割当て値と該選択された電力割当て値とは、第1及び第2の推定されたシンボルエラーレート値のうち小さいものをもたらすものである、
請求項1に記載の装置(100)。
【請求項3】
前記チャネルはマルチ入力チャネルであり、
前記チャネル情報は、前記チャネルの自己共分散行列である、
請求項1又は2に記載の装置(100)。
【請求項4】
前記サブチャネルは、前記チャネルの前記自己共分散行列の固有ベクトルに対応する固有ビームによって表されるものである、請求項3に記載の装置(100)。
【請求項5】
前記チャネルのサブチャネルの数は、前記チャネルの入力である送信点の所定の数により定義されるものであり、
前記チャネルは、前記送信点と所定の複数の受信点とを接続しているものであり、
前記装置(100)は、情報割当て情報を使用する適応変調器と、電力割当て情報を使用する電力割当器とを更に備えるものであり、
前記適応変調器及び前記電力割当器は、前記サブチャネルが互いに空間的に異なるように、前記送信点に対して信号を発生させるものである、
請求項4に記載の装置(100)。
【請求項6】
前記決定する手段(106)は、情報ユニットを、前記受信点の数以下である所定の数の固有ビームに割当てるものである、請求項4又は5に記載の装置(100)。
【請求項7】
前記異なる情報割当て値を提供する手段(102)を更に備えるものであって、前記決定する手段(106)により、ある推定されたシンボルエラーレート値の決定において使用される前記情報割当て値は、割当てられた情報ユニットの合計が、前記時間枠の間に前記チャネル上を集合的に送信される情報ユニットの総数に等しくなるように提供されるものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項8】
前記異なる電力割当て値を提供する手段(104)を更に備えるものであって、前記決定する手段(106)により、ある推定されたシンボルエラーレート値の決定において使用される前記電力割当て値は、割当てられた電力の合計が、複数の前記サブチャネルに割当てることができる最大電力以下になるように提供されるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項9】
前記チャネル情報は、チャネル情報行列(105)によって提供されるものであり、
前記決定する手段(106)は、
前記チャネル情報行列の第1の固有ベクトルに対応する第1の固有値と、前記チャネル情報行列の第2の固有ベクトルに対応する第2の固有値とを決定する手段であって、前記第1の固有値は、前記第2の固有値に等しいかまたは大きいものである、手段と、
情報ユニットの第1の数を、前記第1の固有ベクトルに対応する第1の固有ビームに割当て、情報ユニットの第2の数を、前記第2の固有ベクトルに対応する第2の固有ビームに割当てる手段であって、前記第1の固有ビームの割当ては、前記第2の固有ビームの割当てよりも高い優先順位を有するものである、手段と
を更に備えるものである、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項10】
前記割当てる手段は、前記第2の情報ユニットの数以上である前記第1の情報ユニットの数を提供するものである、請求項9に記載の装置(100)。
【請求項11】
前記チャネル情報は、固有ベクトルに対応する複数の固有値であって、前記チャネルの送信点の数に等しい数を個数とする固有値を有するチャネル情報行列によって提供されるものであり、
前記推定されたシンボルエラーレート値を決定する手段(106)は、
【数1】

により、前記推定されたシンボルエラーレート値を計算するものであり、ここでnはナンバリングインデックスであり、Mtは前記送信点の数であり、αnは番号がnである固有ビームに割当てられた任意の要素であり、dnはサブチャネルnに割り当てられる情報ユニットの数を表す指標であり、λnは前記固有ビームnの固有値であり、Pnは前記固有ビームnに割当てられた電力であり、σ2は受信機におけるノイズ信号の電力であり、Mrは受信点の数である、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項12】
前記決定する手段(106)は、固有ビームn内の所定の信号集合体の中の最も近接している点の平均数に対応するαnを選択するものである、請求項11に記載の装置(100)。
【請求項13】
情報割当て値を提供する手段(102)を更に備えるものであって、前記提供する手段(102)は、前記第1の固有ビームに割当てられた前記第1の情報ユニットの数を低減し、前記第2の固有ビームに割当てられた前記第2の情報ユニットの数を増加させるものである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項14】
前記チャネル情報は、固有ベクトルに対応する複数の固有値であって、前記チャネルの送信点の数に等しい数を個数とする固有値を有するチャネル情報行列によって提供されるものであり、
前記装置(100)は、
【数2】

によりサブチャネルに対して電力割当て値を決定する手段(104)を更に備えるものであって、ここでnはナンバリングインデックスであり、Mtは前記送信点の数であり、αnは番号がnである固有ベクトルに対応する固有ビームに割当てられた任意の要素であり、dnはサブチャネルnに割当てられた情報ユニットの数を表す指標であり、λnは固有ビームnの固有値であり、Pnは固有ビームnに割当てられた電力であり、σ2は受信機におけるノイズ信号の電力であり、Mrは受信点の数であり、μは次の制約
【数3】

を満たすように選択される変数であり、ここで、PTは最大の利用可能な送信電力である、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項15】
前記決定する手段(106)は、送信される情報ユニットの総数を、最大の固有値を有する前記固有ベクトルに対応する前記固有ビームに最初に割当てるものである、請求項14に記載の装置(100)。
【請求項16】
前記送信点の数が10以下である、請求項5に記載の装置(100)。
【請求項17】
複数のサブチャネルを有するチャネルのサブチャネルに情報及び電力を割当てる方法であって、前記チャネルはチャネル情報によって表されているものであり、
前記チャネル情報の前記複数のサブチャネルと、異なる情報割当て値と、異なる電力割当て値とに対し、推定されたシンボルエラーレート値を決定するステップであって、あるシンボルは、前記チャネルの前記複数のサブチャネルに割当てられた複数の情報ユニットを含むものであり、前記複数の情報ユニットは、ある時間枠の間に前記チャネルを介して集合的に送信されるものである、ステップと、
前記異なる情報割当て値から情報割当て値を選択し、前記異なる電力割当て値から電力割当て値を選択するステップであって、該選択された情報割当て値と該選択された電力割当て値とは、ある閾値を下回る、推定されたシンボルエラーレート値をもたらすものである、ステップと
を含む方法。
【請求項18】
送信信号を送信する装置であって、請求項1〜16のいずれか一項に記載の装置(100)を備える装置。
【請求項19】
ある受信信号を検出するための検出器であって、
前記受信信号は、複数のサブチャネルを有するチャネルによって出力されるものあり、
前記受信信号は、該受信信号に関連付けられている、あるサブチャネルに割当てられた情報ユニットを有するものであって、
あるサブチャネル受信信号を得る手段と、
前記サブチャネルの情報割当て情報を得る手段と、
前記サブチャネルの前記割当て情報に基づいて、前記サブチャネル受信信号を復調する手段と
を備える検出器。
【請求項20】
ある受信信号を検出する方法であって、
前記受信信号は、複数のサブチャネルを有するチャネルによって出力されるものあり、
前記受信信号は、該受信信号に関連付けられている、あるサブチャネルに割当てられた情報ユニットを有するものであって、
あるサブチャネル受信信号を得るステップと、
前記サブチャネルの情報割当て情報を得るステップと、
前記サブチャネルの前記割当て情報に基づいて、前記サブチャネル受信信号を復調するステップと
を含む方法。
【請求項21】
コンピュータ上で、請求項17又は20に記載の方法のうちの一つを実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−528168(P2007−528168A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502195(P2007−502195)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002525
【国際公開番号】WO2005/099127
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】