説明

情報処理システム

【課題】 階層構造を持つ指揮統制システムにおいて、管理している情報を迅速かつ有効に処理し、計算量の処理負荷を低減する必要がある。
【解決手段】 上位層の指揮統制装置で付与した目標IDを中位層の指揮統制装置及び下位層の対処装置でも使用することで、システム間で一括した目標番号を使用した目標情報の管理を実施する。また、処理対象目標を指定する目標指定においても、目標指定を実施する基準と目標指定解除を実施する基準を別々に設定することで、目標指定と目標指定解除の繰り返しを抑制し、処理負荷の低減を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上位層の指揮統制装置から下位層の対処装置に対し、対処すべき目標情報を伝達および指定する情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の階層構造を成す情報処理システムは、上位層の指揮統制装置が、レーダから収集した目標情報と下位層の処理装置の対処可能範囲とを判断して、目標へ対処可能であると判断した際に下位層の指揮統制装置へ対処目標を指示していた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特公平7−26799号公報
【0004】
近年の情報処理装置や通信技術の発展により、複数の指揮統制装置間で計算機やネットワークを介して必要な情報を自動的に相互交換することが可能となっている。その一方で、計算機の高性能化、センサ技術の向上と供に、収集可能な情報量が増加し、通信量や計算機の処理量も増加している。このため指揮統制装置においては、収集した大量の情報を適切に利用するための効率の良い処理および通信を実現して、正確かつ迅速な情報処理を行うことが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、指揮系統の複雑化が進み、下位層にあって目標へ対象する対処装置と対処装置を統制する中位層の指揮統制装置と中位層の指揮統制装置を統制する上位層の指揮統制装置とから成る指揮系統の階層化や、各指揮統制装置間の連携が必要となっている。この指揮系統の階層化は、システムの規模が大きくなるにつれてより深くなるものと考えられる。
【0006】
また、情報処理技術や通信技術の発展により、指揮統制装置で計算機やネットワークを利用して、必要な情報を相互に交換することが可能となり、音声伝達による情報交換から、ネットワークを利用した情報交換へと技術が進展している。
【0007】
しかし、階層構造を成す指揮統制装置の台数の増加や、隣接指揮統制装置間での通信の実施等による階層構造の複雑化に伴い、ネットワーク内を流れる情報量が増大する。この情報量の増大は、指揮統制装置の処理量の増大にも繋がる。このため、指揮統制装置では、処理すべき情報量を必要限度のものに抑えつつ、受信した情報を有効に利用して、迅速かつ効率的に情報処理および情報の送受を実現することが要望されている。
【0008】
例えば、各指揮統制装置では、外部装置や管理下の装置から受信した目標に対して、自装置で目標を管理するために目標毎に目標IDを付与して目標指定を行う。しかし、上位層の指揮統制装置と中位層の指揮統制装置とが、同一の目標に対して各々の装置で別々に目標IDを付与して目標管理してしまうと、上位層の指揮統制装置と中位層の指揮統制装置の間で同じ目標に対して異なる目標IDを付与することとなる。この場合、指揮統制装置全体として管理する目標IDが増加し、対処すべき見かけの目標数が実体の目標数よりも増大してしまうという問題がある。また、この問題を避けるため、上位層または中位層の指揮統制装置間で同じ目標IDを設定し、階層間で目標IDの情報交換を行うことも可能であるが、この場合には目標IDの情報交換に時間を要してしまい、目標に対して迅速な対応が取れなくなるという問題を生じる。
【0009】
また、上位層の指揮統制装置では、対処が必要と判断される目標が、中位層の指揮統制装置の対処可能範囲内に侵入・存在している場合に、目標への対処の要否の判定を実施し、必要と判断すれば目標への対処を指示するための目標指定を実施する。一方、目標指定を実施された目標が中位層の指揮統制装置の対処可能範囲外に離脱した場合には、目標指定解除を実施する。このとき、対処が必要と判断される目標が、中位層の指揮統制装置の対処可能範囲の境界領域を移動している場合、目標指定と目標指定解除が頻繁に繰り返し実施されてしまい、処理系に大きな負荷がかかってしまうという問題もあった。
【0010】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、階層型の指揮統制装置において、階層間での目標指定を効率的に行うことで、情報の処理量を低下させるとともに、システムの処理効率の向上化を図る目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による情報処理システムは、上位層の指揮統制装置と、分散配置された複数の中位層の指揮統制装置と、中位層の指揮統制装置の周囲に配備された複数の下位層の対処装置とが、階層構造を成して配備され、上位層の指揮統制装置から中位層の指揮統制装置へ対処目標の情報を分配する情報処理システムであって、上記上位層の指揮統制装置は、所有する上記中位層の指揮統制装置から目標IDの付与された目標の情報を収集するとともに、上記中位層の指揮統制装置から収集した個々の目標に対し中位層の指揮統制装置で付与された目標IDとは別の個別の目標IDを付与し、目標の位置、高度、種別、および速度を含む目標情報に基づき、上記中位層の指揮統制装置の所有する上記下位層の対処装置における対処可能範囲の情報から上記中位層の指揮統制装置による目標への対処要否を判定し、対処要と判定した場合に、対処を要する上記中位層の指揮統制装置に対し、上記上位層の指揮統制装置で付与した個別の目標IDと中位層の指揮統制装置で付与した目標IDとをペアにして対処すべき目標の指定情報を配信し、上記中位層の指揮統制装置は、上記上位層の指揮統制装置から配信された目標IDと対処すべき目標の指定情報を、所有する上記下位層の対処装置へ配信し、上記上位層の指揮装置から配信された目標IDに基づいて目標管理するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、上位層の指揮統制装置で付与した目標IDを中位層の指揮統制装置及び下位層の指揮統制装置でも用いることで、システム間で一括した目標番号を使用した目標情報の管理を実施することができ、階層間での目標指定を効率的に行うことが可能となり、階層間での情報処理を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明に係る実施の形態1による階層型の情報処理システムの構成を示す図である。
図において、情報処理システムは、上位層の指揮統制装置1と、上位層の指揮統制装置1が統制し分散配置された中位層の指揮統制装置2、3と、中位層の指揮統制装置2の周囲に配置され中位層の指揮統制装置2により統制される下位層の対処装置4、5と、中位層の指揮統制装置3の周囲に配置され中位層の指揮統制装置3により統制される下位層の対処装置6、7を備えて構成される。
【0014】
なお、図1では、上位層の指揮統制装置1には2台の指揮統制装置が接続されているが、中位層の指揮統制装置が3台以上接続される場合でも、本実施の形態の適用は可能である。同様に、中位層の指揮統制装置2、3に下位層の対処装置がそれぞれ2台ずつ接続されているが、下位層の対処装置が2台以上接続される場合でも、本実施の形態の適用は可能である。また、図1では上位層と中位層に指揮統制装置がある2層の構造であるが、上位層のさらに上位、または上位層と中位層の間に指揮装置が連接され階層が深くなった場合でも本実施の形態の適用は可能であることは言うまでもない。
【0015】
上位層の指揮統制装置1は通信ネットワークを介して、外部装置として外部に設置された計算機サーバに接続され、計算機サーバ内に構築されるデータベースに、管轄エリア情報102が格納される。管轄エリア情報102には、中位層の指揮統制装置2、3がそれぞれ管轄するエリアの情報が格納されている。各管轄エリアには各中位層の指揮統制装置2もしくは3が統制する下位層の対処装置4、5もしくは6、7が配備されている。この管轄エリアは中位層の指揮統制装置2もしくは3が対処装置4、5もしくは6、7を用いて対処可能な目標の存在範囲の情報を含んでいる(以降より対処装置を用いて対処可能な目標の存在範囲を対処可能範囲と呼ぶことにする)。
【0016】
上位層の指揮統制装置1は通信ネットワークを介して、外部に設けられたレーダシステムや監視カメラシステムなどの外部情報処理装置(図示略)に接続され、目標情報101が入力される。また、上位層の指揮統制装置1へは上記外部情報処理装置から管轄エリア情報102が入力される。ここで、目標情報101には、目標の速度、位置、類別、識別等の情報が含まれている。また、管轄エリア情報102には、中位層の指揮統制装置や管轄する下位層の対処装置の位置・射程距離や、中位層の指揮統制装置における対処可能範囲の情報や、中位層の指揮統制装置が管轄する下位層の対処装置について目標を対処可能な距離、侵入角などの情報が入力されている。中位層の指揮統制装置2、3は自身が管理している目標情報201および目標情報301をそれぞれ上位層の指揮統制装置へ送信する。上位層の指揮統制装置1は入力される各目標情報に基づいて、中位層の指揮統制装置2、3に対してそれぞれ必要と判断される目標情報105、106を設定し、各中位層の指揮統制装置に分配する。
【0017】
中位層の指揮統制装置2、3は上位層の指揮統制装置1から目標情報105、106を受信する他、所有するレーダセンサや監視カメラセンサ等の各センサにより構成される外部装置(図示略)から目標情報202、302を収集する。この際、下位層の対処装置の所有する各センサを介して情報収集を行っても良い(図示省略)。中位層の指揮統制装置2、3は収集した目標情報203、303を上位層の指揮統制装置1へ送信する。中位層の指揮統制装置2、3は、入力された目標情報105、106、目標情報202、302、および目標情報203、303に基づいて、下位層の対処装置4、5および6、7に対して、それぞれ目標情報205、206および305、306を送信する。
【0018】
図2は上位層の指揮統制装置1と中位層の指揮統制装置2、3の構成を示す図である。図において、上位層の指揮統制装置1は、目標情報受信部11、目標ID付与部12、目標指定要否判定部13、および目標情報送信部14で構成される。中位層の指揮統制装置2は目標情報受信部21、目標ID付与部22、目標情報送信部23、目標ID変換部24で構成される。中位層の指揮統制装置3は目標情報受信部31、目標ID付与部32、目標情報送信部33、目標ID変換部34で構成される。
【0019】
まず、図2を用いて、上位層の指揮統制装置1による目標IDの付与処理について説明する。外部情報処理装置および中位層の指揮統制装置2、3から入力された目標情報101、201、301は、一旦目標情報受信部11で受信される。目標情報受信部11では、外部情報処理装置および指揮統制装置2、3から受信した目標情報を管理する。目標情報受信部11は、このとき受信した目標情報101、201、301に対し上位層の指揮統制装置1からの目標IDが付与されていない場合、目標ID付与部12に対し目標IDが付与されていない目標情報107を送る。すなわち、目標ID付与部12は、目標情報101のみならず、目標情報201、301の中で上位層の指揮統制装置1が始めて受信した目標についての目標情報107が入力されて、指揮統制装置1で独自の目標IDを付与する。目標ID付与部12は目標情報(目標ID無)107に対し目標IDの付与を実施した後、目標IDの付与されている目標情報(目標ID付与)108を目標指定要否判定部13に送る。
【0020】
また、目標IDが予め付与されていた場合には、上位層の指揮統制装置1による目標IDの付与された目標情報109を、そのまま目標指定要否判定部13に送る。目標指定要否判定部13は、この目標IDが付与された目標情報108、または予め目標IDが付与された目標情報109を受信した後、得られた目標情報から、目標ID毎に処理対象とすべき目標を指定するための目標指定の要否判定を実施する。目標指定の要否判定では例えば、識別が味方である目標に対しては対処の必要なしと判定して、目標指定を行わない。一方、識別が不明な目標や敵対相手の目標として情報入力を受けた目標については、目標の位置や速度から対処の有無や要否の判定を実施し、目標指定を行うべき目標を決定する。目標指定要否判定部13における目標指定要否判定処理の詳細については後述する。
【0021】
目標指定要否判定部13は目標指定の要否判定結果に基づいて、目標指定を行った目標の目標情報110を目標情報送信部14に送る。目標情報送信部14は、目標情報110について目標指定に対応する中位層の指揮統制装置2、3を選別し、選別結果に基づいて対応する中位層の指揮統制装置2、3に対して、それぞれ目標情報105、106を送信する。ここで、目標情報105、106では、常に上位層の指揮統制装置1で設定した目標IDが使用されて送信が行われる。すなわち、上位層の指揮統制装置1で付与した個別の目標IDと中位層の指揮統制装置2、3で付与された目標IDとがペアになって、目標情報105、106とともに中位層の指揮統制装置2、3に送信される。
【0022】
次に、図2を用いて、上位層の指揮統制装置1と中位層の指揮統制装置2、3の間で行われる目標IDの管理について説明する。
中位層の指揮統制装置2、3は、外部から入力された目標情報203、303が、それぞれ目標情報受信部21、31にて受信される。
中位層の指揮統制装置2、3における目標情報受信部21、31は、それぞれ上位層の指揮統制装置1から目標IDを付与して送信された目標情報105、106を受信すると、自身の指揮統制装置でID管理している目標か否かを判定する。自身がID管理していない目標情報210、310については、受信した目標IDを指揮統制装置1および下位層の対処装置4、5もしくは6、7へ送信する目標情報201や205、206、301や305、306に使用し、目標情報210、310を目標情報送信部23、33に送信する。すなわち、目標情報送信部23、33は、指揮統制装置1により付与された目標IDを付けて、下位層の処理装置へ目標情報205、305を送信する。
【0023】
また、目標情報受信部21、31は、外部から初めて入力された目標情報(目標ID未付与)206、目標情報(指揮統制装置1からの目標ID付与後)308を、それぞれ中位層の指揮統制装置2、3における各目標ID付与部22、34へ入力する。目標ID付与部22、34は、目標情報206、308に対しそれぞれ独自で目標IDを付与し、目標IDを付与した目標情報(目標ID後)207、目標情報(目標ID整合済み)309を各目標情報送信部23、33へ送信する。目標情報送信部23、33は、指揮統制装置2、3の各目標ID付与部22、34にて付与した目標IDを付けて、上位層の指揮統制装置1へ目標情報201、301を送信する。上位層の指揮統制装置1は、中位層の指揮統制装置2、3から送信された目標情報201、301を目標情報受信部11で受信すると、上述したとおり、目標指定要否判定部13、目標情報送信部14にて目標指定処理が行われ、再び中位層の指揮統制装置2、3に対して目標IDの付いた目標情報105、106が送信される。
【0024】
さらに、上位層の指揮統制装置1に一度送られてから戻って来た、自身が目標IDを付与した目標についての目標情報208、308は、目標ID変換部24、34に送信される。目標ID変換部24、34は、それぞれ上位層の指揮統制装置1で付与した目標IDと中位層の指揮統制装置2および3で付与した目標IDとの対応付けを実施する。例えば、中位層の指揮統制装置2、3がそれぞれ管理する目標IDのデータベースに対し、自身が付与した目標IDに上位層の指揮統制装置1で付与された目標IDを対応付ける処理を行う。この対応付けの実施後は、上位層の指揮統制装置1で付与された目標IDを使用して、下位層の対処装置4、5または6、7に対し目標情報の送信を実施する。このように、上位層の指揮統制装置1による目標IDの付与が実施され、各指揮統制装置に通知された後は、指揮統制装置間で1元化された目標IDを使用した目標情報の管理が可能となり、装置間での目標情報の変換処理や、操作員の目標の読み替えといった処理が不要となる。
【0025】
次に、目標指定要否判定処理について説明する。
図3は上位層の指揮統制装置1における目標指定要否判定部13の構成を示す図である。目標指定要否判定部13は対処要否判定部15と、管轄下指揮装置処理可能範囲判定部16、目標指定処理装置17で構成される。上位層の指揮統制装置1の付与した目標IDで管理された目標情報108、109は、対処要否判定部15と管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16へ入力される。
【0026】
対処要否判定部15では、例えば識別が判明している目標情報があり、識別が味方であれば対処不要と判断し、敵対相手であれば対処が必要と判断する。また、速度が一定の速度以上の目標や、中位層の指揮統制装置付近に存在する目標に対しては、対処が必要と判定する。一方、指揮統制装置から遠方にいる目標であれば対処を必要としないと判定する。また、例えば貨物輸送飛行機や流線型を成す高速飛行体などの目標の類別が判明している場合には、目標の類別にしたがって対処の要否を判定する。例えば、貨物輸送飛行機であれば対処不要と判断し、高速飛行体であれば対処を要すると判断する。対処要否判定部では、目標の位置、識別、類別、速度、対処要否の判定結果を含む目標情報(対処要否判定結果)120を目標指定処理装置17へ送信する。
【0027】
管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16は、外部情報処理装置より入力された上記管轄エリア情報102に含まれた、上位層の指揮統制装置1の管轄下にある中位層の指揮統制装置の位置および対処可能範囲の情報と、目標情報受信部11より入力された目標情報109に含まれる目標位置の情報から、中位層の指揮統制装置毎に対処可能範囲内に目標が存在するか否かを判定する。ここで、中位層の指揮統制装置の対処可能範囲内に存在していると判定された目標は、該当する指揮統制装置の目標指定対象と判断される。一方、指揮統制装置1が管理する全ての指揮統制装置の対処可能範囲外と判定された目標は指揮統制装置1の目標指定の対象外と判定される。
【0028】
また、管轄下指揮統制装置処理可能範囲内判定部16は、目標指定処理装置17に対し、目標の存在し得る対処可能範囲の情報と該当する中位層の指揮統制装置の情報、および対象となる目標情報(処理可能範囲内外判定結果)121を送信する。目標指定処理装置17は、対処要否判定部15からの目標情報120と、管轄下指揮統制装置処理可能判定部16からの対処可能範囲情報および目標情報121とから、中位層の指揮統制装置の中から、対処が必要と判定される目標を対処するのに適したものを指定する。
【0029】
このとき、1目標には1つの中位層の指揮統制装置を指定する。これは、同一目標に攻撃を仕掛けるオーバキルを防ぐためである。複数の中位層の指揮統制装置における対処可能範囲内に存在している目標については、指揮装置装置と目標の間の侵入角が小さくなる中位層の指揮統制装置に対して目標指定の割り当てを実施する。これは、侵入角が小さくなる指揮統制装置の方が目標との交戦時間が長くなるためである。
【0030】
また、1つの中位層の指揮統制装置には対処可能な目標数の上限があるため、目標指定されている目標数が上限に達してしまうと、それ以上の目標指定は実施できない。
このとき、当該目標が他の指揮統制装置から対処可能範囲外と判定されていると、その目標に対する目標指定は実施されない。また、目標指定の対象となる目標が、目標指定を指示された中位層の指揮統制装置の対処可能範囲外を離脱した場合には、目標指定の解除を実施する。このとき、目標指定を解除された目標が他の指揮統制装置の対処可能範囲内に存在する場合は、対処可能な中位層の指揮統制装置に対して当該目標への目標指定が再割当てされる。
【0031】
図4に中位層の指揮統制装置2の対処可能範囲501と境界エリア502を示す。図中において、対処可能範囲501とは、中位層の指揮統制装置2が所有する下位層の対処装置4、5、8、9を用いて目標を対処可能となる領域を意味している。この境界エリア502は、上位層の指揮統制装置1が管理している領域であり、対処可能範囲501の外側に設定する。同図では、中位層の指揮統制装置2についての例を示しているが、他の中位層の指揮統制装置(例えば指揮統制装置3)についても個々に対処可能範囲および境界エリアを所有することは言うまでもない。
【0032】
上位層の指揮統制装置1では、中位層の指揮統制装置や外部の装置から得られた目標の中で脅威かつ対処が必要と判断された目標への対処指示として目標指定を、中位層の指揮統制装置へ伝達する。上位層の指揮統制装置1では、各中位層の指揮統制装置の対処可能範囲と境界エリア所有し、目標が当該指揮統制装置の対処可能範囲に侵入・存在している場合に目標指定を指示する。
【0033】
例えば、図2において目標601が対処可能範囲外(境界エリアの内外問わず)に存在している場合には目標指定を実施せず、境界エリアの外から境界エリアを経由して、対処可能範囲内(境界エリア502内)に侵入してきた目標701に対して、目標の指定を実施する。一度目標の指定を実施した後は、目標が対処可能範囲外でであっても境界エリア内に存在する限り目標の指定を維持し続ける。
【0034】
目標指定の解除は、目標702の如く、目標が境界エリア502の外側へ移動したときに実施される。目標指定を解除した目標が再び対処可能範囲内である境界エリア502内に侵入してきた場合には、目標指定を実施したときと同様に、この対処可能範囲内に進入したときに目標指定の再指定を実施する。
【0035】
このように境界領域を設けることで、中位層の指揮統制装置2、3の対処可能範囲の境界付近を移動中の目標に対して、目標指定の指示と目標指定解除の指示が繰り返されるという事態の回避が可能となる。
【0036】
かくして、上位層の指揮統制装置1は、中位層の指揮統制装置における対処可能範囲外の目標に対して目標指定を実施せず、対処可能範囲内の目標に対してのみ目標指定を行う。また、一度目標指定を行った目標については対処可能範囲外に移動しても上位層の指揮統制装置が管理する境界エリア内であれば目標指定を解除しない。このように、上位層の指揮統制装置1は、目標対処可能であるとして目標指定を行う判定と目標指定解除の判定とで、異なる判定基準を設けている。
【0037】
以上説明した通り、この実施の形態1による情報処理システムは、上位層の指揮統制装置と、分散配置された複数の中位層の指揮統制装置と、中位層の指揮統制装置の周囲に配備された複数の下位層の対処装置とが、階層構造を成して配備され、上位層の指揮統制装置から中位層の指揮統制装置へ対処目標の情報を分配する情報処理システムであって、上記上位層の指揮統制装置は、所有する上記中位層の指揮統制装置から目標IDの付与された目標の情報を収集するとともに、上記中位層の指揮統制装置から収集した個々の目標に対し中位層の指揮統制装置で付与された目標IDとは別の個別の目標IDを付与し、目標の位置、高度、種別、および速度を含む目標情報に基づき、上記中位層の指揮統制装置の所有する上記下位層の対処装置における対処可能範囲の情報から上記中位層の指揮統制装置による目標への対処要否を判定し、対処要と判定した場合に、対処を要する上記中位層の指揮統制装置に対し、上記上位層の指揮統制装置で付与した個別の目標IDと中位層の指揮統制装置で付与した目標IDとをペアにして対処すべき目標の指定情報を配信し、上記中位層の指揮統制装置は、上記上位層の指揮統制装置から配信された目標IDと対処すべき目標の指定情報を、所有する上記下位層の対処装置へ配信し、上記上位層の指揮装置から配信された目標IDに基づいて目標管理することを特徴とする。
これにより、上位層の指揮統制装置で付与した目標IDを中位層の指揮統制装置及び下位層の指揮統制装置でも使用することで、目標情報の送信毎に各指揮統制装置で実施していた目標ID変換の手間を省略し、システム間で一括した目標番号を使用した目標情報の管理を実施することができる。これによって、階層間での目標指定を効率的に行うことが可能となり、また情報の処理量を低下させるとともにシステムの処理効率の向上化を図ることができる。
【0038】
また、処理対象目標を指定する目標指定においても、目標指定を実施する基準と目標指定解除を実施する基準を別々に設定することで、目標指定と目標指定解除の繰り返しを抑制し、処理負荷の低減を実施することができる。
【0039】
このように、目標情報の送信、対処目標の判断および対処目標の指定を繰り返し実施し、中位層の指揮統制装置が上位層の指揮統制装置からの指示を受けて、下位層の対処装置へ目標情報の送信および対処目標指定を実施する情報処理システムを構成することが可能となる。
【0040】
実施の形態2.
図5はこの発明に係る実施の形態2による目標指定要否判定部の構成を示す図である。図において、この実施の形態による上位層の指揮統制装置1の目標指定要否判定部13は、対処要否判定部15と、管轄下指揮装置処理可能範囲判定部16と、目標指定処理装置17と、目標類別対管轄下対処装置判定部18と、目標高度判定部19で構成される。ここでは、実施の形態1で説明した管轄下指揮装置処理可能範囲判定部16において、その前段に目標類別対管轄下対処装置判定部18が設けられ、後段に目標高度判定部19が設けられることを特徴とする。また、この実施の形態2による管轄エリア情報102は、中位層の指揮統制装置が対処可能な対処可能範囲の情報や対処装置の射程距離情報の他、中位層の指揮統制装置や下位層の対処装置が対処可能な目標の存在し得る距離、位置、速度、高度および種類の情報を所有している。なお、図中、実施の形態1の図1〜3と同一符号のものは同様のものを示す。
【0041】
目標ID付与部12から出力される目標IDで管理された目標情報108は、対処要否判定部15と、目標類別対管轄下対処装置判定部18、管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16および目標高度判定部19へ入力される。また、目標情報受信部11から出力される目標情報109は、対処要否判定部15と目標類別対管轄下対処装置判定部18へ入力される。
【0042】
目標類別対管轄下対処装置判定部18では、入力された目標情報108、109の類別情報と、入力された管轄エリア情報102内における中位層の指揮統制装置が所有する対処装置の情報から、指揮統制装置および対処装置が目標に対し対処可能かどうかを判定する。これは中位層の指揮統制装置が所有する対処装置の対処可能距離(例えば、所有する火器の射程距離)と目標の行動範囲(高度や速度)とから、対処不可能な組み合わせかどうかを判定する。
【0043】
特に、高度の観点では、目標が飛行する高度が、対処装置の所有する火器の射程圏外である可能性があるためである。目標類別対管轄下対処装置判定部18から管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16へ入力する目標情報(類別対種別判定結果)122には、目標に対し指揮統制装置および対処装置が対処可能か不可能かの判定結果が送信される。対処可能と判定された場合には、管轄下指揮装置処理可能判定部16で処理可能範囲内に存在しているかどうかの判定が実施される。
一方、対処不可能と判定された場合には、対処不可能と判定された指揮統制装置についてはその後の管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部18および目標高度判定部19での処理は実施されない。
【0044】
目標高度判定部19では管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16から目標情報121が入力される。目標高度判定部19では目標類別対管轄下対処装置判定部18または管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16のどちらかで対処不可能と判定された目標と指揮統制装置の組み合わせについては何も判定を実施しない。目標高度判定部19は、管轄下指揮装置処理可能範囲内判定部16が処理可能範囲内と判定した目標について、中位層の指揮統制装置における管轄下の対処装置が対処可能な高度にいるかどうかを判定する。これは、水平方向と垂直方向の射程距離が異なるためである。
【0045】
目標高度判定部19は、目標高度が中位層の指揮統制装置により対処可能な高度であると判定した場合について、目標に対して指揮統制装置が対処可能であるという目標情報(高度判定結果)123を目標指定処理装置110へ送信する。
一方、目標高度判定部19は、対処不可能な高度に目標が存在していると判定した場合には、対処不可能を判定し、目標指定処理装置17に対して目標情報121を送信しない。
【0046】
また、例えば、目標を対処可能であった中位層の指揮統制装置が、目標の位置、速度、および高度の変化により目標が対処不可能になった場合には、目標への対処不可能と判断するとともに、目標指定の解除を実施する。これにより、中位層の指揮統制装置は、当該目標を指揮統制装置1による目標指定の対象外として処理を行い、下位層の対処装置に対し対処すべき目標情報121を送信しない。
【0047】
ところで、中位層の指揮統制装置と下位層の対処装置にはそれぞれ目標の対処が可能な範囲があり、中位層の指揮統制装置の対処可能な範囲は、中位層の指揮統制装置が所有している、下位層の対処装置の対処可能な範囲に依存する。上位層の指揮統制装置では、中位層の指揮統制装置から処理可能な距離にいる目標に対して目標指定を実施する。しかし、重力等により水平の射程と垂直の射程が異なるため、対処目標が飛行目標である場合、実施の形態1に示す目標指定要否判定部13によって、上位層の指揮統制装置が中位層の指揮統制装置と目標との間の距離を元に、中位層の指揮統制装置へ目標指定を実施しても、目標が対処不可能な高度に存在すると、目標指定解除が実施される。このとき、対処不可能な目標への目標指定および目標指定解除という余剰な処理が実施されてしまう。
また、上位層の指揮統制装置では、中位層の指揮統制装置から対処可能な距離にいる目標に対して目標指定を実施する。しかし、対処目標が飛行目標である場合に、中位層の指揮統制装置が所有している下位層の対処装置によっては対処不可能な目標の種別がある。実施の形態1に示す目標指定要否判定部13では、中位層の指揮統制装置の対処可能な範囲のみで上位層の装置から目標の指定を実施してしまうと、対処不可能な目標への目標指定および目標指定解除という余剰な処理が実施されてしまう。
【0048】
しかしながら、この実施の形態2では、目標高度判定部19を備えることにより、中位層の指揮統制装置の所有する対処装置と目標間の距離と目標の高度とから対処可否を判定する。この際、目標高度が中位層の指揮統制装置により対処可能な高度であると判定した場合についてのみ、目標に対して対処が行われるので、目標高度により目標指定と解除が繰り返されるというような余剰な処理が抑制される。
【0049】
また、目標類別対管轄下対処装置判定部18を備えることにより、目標の類別情報と、管轄エリア内における中位層の指揮統制装置が所有する対処装置の情報から、指揮統制装置および対処装置が目標に対し対処可能な組み合わせかどうかを判定するので、目標の種別により目標指定と解除が繰り返されるという余剰な処理が抑制される。
【0050】
この実施の形態2による目標類別対管轄下対処装置判定部18および目標高度判定部9は、特に目標高度と指揮統制装置の高度が重要となる対空処理のシステムにおいて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の実施の形態1による情報処理システムの構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1による上位層の指揮統制装置と中位層の指揮統制装置の構成を示す図であり、また目標ID付与の処理フローを示している。
【図3】この発明の実施の形態1による上位層の指揮統制装置における目標指定要否判定部の構成を示す図であり、目標指定フローを示している。
【図4】この発明の実施の形態1による中位層の指揮統制装置における対処可能領域と境界エリアの関係を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2による上位層の指揮統制装置における目標指定のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 (上位層の)指揮統制装置、2 (中位層の)指揮統制装置2、3 (中位層の)指揮統制装置、4 対処装置、5 対処装置、6 対処装置、7 対処装置、8 対処装置、9 対処装置、11 目標情報受信部、12 目標ID付与部、13 目標指定要否判定部、14 目標情報送信部、15 対処要否判定部、16 管轄下指揮統制装置処理可能範囲内判定部、17 目標指定処理装置、18 目標類別対管轄下対処装置判定部、19 目標高度判定部、21 目標情報受信部、22 目標ID付与部、23 目標情報送信部、24 目標ID変換部、31 目標情報受信部、32 目標ID付与部、33 目標情報送信部、34 目標ID変換部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位層の指揮統制装置と、分散配置された複数の中位層の指揮統制装置と、中位層の指揮統制装置の周囲に配備された複数の下位層の対処装置とが、階層構造を成して配備され、上位層の指揮統制装置から中位層の指揮統制装置へ対処目標の情報を分配する情報処理システムであって、
上記上位層の指揮統制装置は、所有する上記中位層の指揮統制装置から目標IDの付与された目標の情報を収集するとともに、上記中位層の指揮統制装置から収集した個々の目標に対し中位層の指揮統制装置で付与された目標IDとは別の個別の目標IDを付与し、
目標の位置、高度、種別、および速度を含む目標情報に基づき、上記中位層の指揮統制装置の所有する上記下位層の対処装置における対処可能範囲の情報から上記中位層の指揮統制装置による目標への対処要否を判定し、対処要と判定した場合に、対処を要する上記中位層の指揮統制装置に対し、上記上位層の指揮統制装置で付与した個別の目標IDと中位層の指揮統制装置で付与した目標IDとをペアにして対処すべき目標の指定情報を配信し、
上記中位層の指揮統制装置は、上記上位層の指揮統制装置から配信された目標IDと対処すべき目標の指定情報を、所有する上記下位層の対処装置へ配信し、上記上位層の指揮装置から配信された目標IDに基づいて目標管理する、
ことを特徴とした情報処理システム。
【請求項2】
上記上位層の指揮統制装置は、上記中位層の指揮統制装置における対処可能範囲外の目標に対して目標指定を実施せず、対処可能範囲内の目標に対してのみ目標指定を行うとともに、一度目標指定を行った目標については対処可能範囲外に移動しても上記上位層の指揮統制装置が管理する所定の境界エリア内であれば目標指定を解除しないことを特徴とした請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
上記上位層の指揮統制装置は、目標を対処可能であった指揮統制装置が、目標の位置、速度、および高度の変化により目標が対処不可能になった場合に、目標対処不可能と判断し、下位層の対処装置へ対処すべき目標情報を送信しないことを特徴とした請求項1記載の情報処理装置。
【請求項4】
上記上位層の指揮統制装置は、中位層の指揮統制装置の所有する対処装置と目標の種類の組み合わせから対処可否を判定することを特徴とした請求項1記載の情報処理システム。
【請求項5】
上記上位層の指揮統制装置は、中位層の指揮統制装置の所有する対処装置と目標間の距離と目標の高度とから対処可否を判定することを特徴とした請求項1記載の情報処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−222308(P2009−222308A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67950(P2008−67950)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】