情報処理機器室の空調システム
【課題】サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を抑制可能な情報処理機器室の空調システムを提供することを課題とする。
【解決手段】情報処理機器を収容したラック3が整列する情報処理機器室4の空調システム1であって、情報処理機器の排気が通過するホットアイルHから吸引した空気を冷却して、情報処理機器を冷やす空気が通過するコールドアイルCへ送る空調装置6と、空調装置6から送られる冷気が吹き出す給気口11と、給気口11の周囲に配置される、ホットアイルHと連通する吸込口15とを有し、給気口11を通過した冷気で吸込口15からホットアイルHの空気を誘引し、混合気を情報処理機器へ送る吹出口ユニット10と、を備える。
【解決手段】情報処理機器を収容したラック3が整列する情報処理機器室4の空調システム1であって、情報処理機器の排気が通過するホットアイルHから吸引した空気を冷却して、情報処理機器を冷やす空気が通過するコールドアイルCへ送る空調装置6と、空調装置6から送られる冷気が吹き出す給気口11と、給気口11の周囲に配置される、ホットアイルHと連通する吸込口15とを有し、給気口11を通過した冷気で吸込口15からホットアイルHの空気を誘引し、混合気を情報処理機器へ送る吹出口ユニット10と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理機器室の空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理技術の発展に伴い、情報処理機器の発熱量は増大の一途を辿っている。これに伴い、情報処理機器を冷却する空調システムの処理量も増大しており、情報処理機器を効率的に冷却できる空調技術の開発が行われている。情報処理機器を効率的に冷却するには、ホットアイルからコールドアイルへの気流の回り込みを防ぐことが空調効率の向上に有効であることが知られており(例えば、非特許文献1,2)、このような気流の回り込みを防いでコールドアイルからホットアイルへの流通のみを許容する空調システム等が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
なお、特許文献2には、各風量調整ダンパの開度を調整して各局部域の温度を適切に制御する空調装置が開示されている。また、特許文献3には、吹出口周りの空気を確実に誘引して結露を防止する吹出口装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3835615号公報
【特許文献2】特開平5−203193号公報
【特許文献3】特許第3872009号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「空気調和衛生工学便覧」、第14版、第3巻、第363頁
【非特許文献2】福田次郎、「データセンターの概況と今後の方向性」、空気調和・衛生工学、第84巻、第5号、第371頁〜第375頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多数の情報処理機器を収容したデータセンタ等の大規模な情報処理施設では、空調システムで消費される動力が情報処理機器で消費される電力に次いで大きな割合を占めており、空調動力の低減は情報処理施設全体の消費エネルギーの削減につながる。特に、空調動力のうち空気の搬送に要する動力が占める割合は大きく、サーバラックへの給気は必要十分な風量にまで削減することが求められる。
【0007】
しかし、サーバラックへの給気風量が不足すると、サーバラックから排出される暖かい排気がサーバラックの吸込み面側に回り込んで情報処理機器が局部的に高温になり、稼働に支障をきたす虞がある。そこで、多くの情報処理施設では、このような暖気の回り込みが生じないようにするため、給気風量を多めにし、且つ、給気温度を低めにして運用している。
【0008】
ところが、給気風量が過多の場合、空気の搬送動力に無駄が生ずる。また、給気風量が過多の場合、空気を冷却するコイルに戻る空気の温度が低下することになるため、冷凍機類が低圧カットやそれに近い低負荷で低効率の運転領域において作動することになる。冷却コイルに戻る温度が低下することによる冷凍機類の効率の低下は、情報処理機器の発熱量が設計仕様よりも少ない場合や、一定風量で排気する情報処理機器が多い場合にも生ずる。
【0009】
そこで、冷却コイルに戻る空気の温度が低いような場合には、サーバラックの排気が通過するホットアイルの空気の一部を、サーバラックを冷却する空気が通過するコールドアイルへ戻すことが、サーバラックへの給気を必要十分な風量とし、空調ファンや冷凍機で消費される空調動力を抑制することにつながる。しかし、これを実現するには、ホットアイルからコールドアイルへの空気の搬送動力を小さくし、且つ、コールドアイルへ吹き出す空気の温度を概ね均一とする必要がある。搬送動力が大きいと省エネルギー効果が小さくなり、温度が均一でないとサーバラックが局部的に過熱する虞があるためである。
【0010】
また、情報処理機器には、吸込み風量が内部温度によらず一定のものや、内部温度に応じて変動するものがあるため、ホットアイルとコールドアイルとの間の空調バランスは一意でない。そこで、コールドアイルへ過剰な給気がなされた際には、コールドアイルの圧力上昇を防ぐべく、コールドアイルからホットアイルへの冷気の流出が速やかに行なわれるように、流出経路の通気抵抗を小さくする必要がある。
【0011】
本願は、これらの課題に鑑みてなされたものであり、サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を抑制可能な情報処理機器室の空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、空調装置から送られる冷気を情報処理機器へ送る吹出口ユニットがホットアイルの空気を誘引する。給気による誘引、及びホットアイルとコールドアイルとの差圧により、情報処理機器へホットアイルの空気が流れる。
【0013】
詳細には、情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室の空調システムであって、前記情報処理機器の排気が通過するホットアイルから吸引した空気を冷却して、該情報処理機器を冷やす空気が通過するコールドアイルへ送る空調装置と、前記空調装置から送られる冷気が通過する給気口と、該給気口の周囲に配置される、前記ホットアイルと連通する吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送る吹出口ユニットと、を備える。
【0014】
空調システムにおいて消費される空調動力は、大まかに、空気を搬送するための動力と、空気を調温するための動力とに大別される。ここで、空気を搬送するための動力は、主に空調ファンの回転数等によって決定されるものであり、これを節減するには、冷却対象である情報処理機器に必要最小限の冷気が行き渡る程度に空気を搬送すればよい。また、空気を調温するための動力は、主に冷凍機類の動力によって決定されるものであり、これを節減するには、冷却対象である情報処理機器の冷却に必要な必要最小量の冷熱を最も動作効率の高い運転領域で生成すればよい。
【0015】
すなわち、これらの要素によってエネルギー効率が大きく左右される空調システムにおいては、情報処理機器に流入する空気の温度や風量、及び情報処理機器から流出する空気の温度が最適化されていることが肝要である。この点、情報処理機器で発生する熱量は、処理するデータ量などによって左右されるため、情報処理機器に流入する空気の温度や風量、及び情報処理機器から流出する空気の温度の最適値は一意に定まるものではない。
【0016】
そこで、本空調システムにおいては、吹出口ユニットが空調装置の冷気でホットアイルの空気を誘引するようにしている。このように構成されていれば、空調装置の風量を減らせばホットアイルの空気が空調装置の冷気によって誘引され、低負荷状態にある情報処理機器から排気される空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになる。また、コールドアイルの圧力がホットアイルの圧力よりも低い場合に生ずる両アイル間の差圧に
より、吸込口を通過するホットアイルの空気の通過量が増し、ホットアイルの空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになる。よって、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。また、空調装置の風量を減らすと、空調装置に戻る空気の温度が高くなるので、調温を行なう機器類の動作点を高効率の運転領域に保つことができ、空調システム全体の省エネルギーを図ることができる。
【0017】
また、前記ホットアイルと前記コールドアイルとは区画されており、前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルが前記ホットアイルよりも負圧になることで前記吸込口から流出する該ホットアイルの空気を誘引し、温度のばらつきが所定の許容範囲内となった混合気を前記情報処理機器へ送るものであってもよい。コールドアイルがホットアイルよりも負圧になると吸込口を通過するホットアイルの空気の通過量が増し、ホットアイルの空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになる。よって、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。なお、ここで所定の許容範囲内とは、情報処理機器へ送られる空気の温度分布のばらつきの許容範囲であり、例えば、情報処理機器の動作が補償できる温度範囲に設定される。
【0018】
また、前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルの上側または下側に配設されており、該吹出口ユニットと前記ラックとの間に挿置された、前記コールドアイルと前記ホットアイルとを隔離する遮蔽板よりもホットアイル側に設けられた、該吹出口ユニットの側面にある前記吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記コールドアイルへ向けて吹き出すものであってもよいし、或いは、前記ラックの吸気面を覆うように配設されており、前記空調装置から前記コールドアイルを経由して送られる冷気が通過する前記給気口と、前記ラックの上側あるいは下側の少なくとも何れかに設けられた通気路を経由して前記ホットアイルと連通する前記吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記情報処理機器へ送るものであってもよい。吹出口ユニットがこのように構成されていれば、空調装置からの空気を効果的に情報処理機器へ流すことができる。
【0019】
なお、上記情報処理機器室の空調システムは、前記情報処理機器に流入する空気の温度と流出した空気の温度との温度差が小さくなると前記空調装置の風量を減らし、該温度差が大きくなると該空調装置の風量を増やす制御ユニットを更に備えるものであってもよい。
【0020】
本空調システムにおいては、情報処理機器に流入する空気の温度と流出した空気の温度との温度差が小さければ、風量が過大であると判断して空調装置の風量を減らす。また、温度差が大きければ、風量が過小であると判断して空調装置の風量を増やす。これにより、空気の搬送動力や調温動力はある程度低減される。
【0021】
ところで、空調装置から送られる空気を普通の開口から吹き出させる場合、このような温度差に基づく空調装置の風量制御のみでは、風量の増減量に応じた相応の結果しか得られない。すなわち、温度差が小さくて風量が過大であると判定される場合に、単に空調装置の風量を減らしただけでは、空気の搬送に要する動力や空気を調温するための動力はある程度低減できるものの、最高効率点がある程度高負荷の運転領域に設定されているような冷凍機器類の場合、低効率の運転領域において動作させ続けることは効率的でない。
【0022】
この点、本空調システムにおいては、吹出口ユニットが空調装置の冷気でホットアイルの空気を誘引するようにしているため、制御ユニットが実行する風量制御による省エネルギー効果が更に高まる。すなわち、吹出口がこのように構成されていれば、空調装置の風
量が少ない場合には、ホットアイルの空気が空調装置の冷気によって誘引され、低負荷状態にある情報処理機器から排気される空気が情報処理機器の冷却のために再循環される。この結果、調温を行なう機器類の動作点を高効率の運転領域に保つことができる。
【0023】
また、空調装置の風量が多い場合には、コールドアイルとホットアイルとの圧力バランスや吹出口ユニットにおける誘引効率の低下に起因して、空調装置から送られる冷気の風量に対するホットアイルの空気の誘引量が相対的に減少することになる。このため、情報処理機器から排気される暖気が再循環する量が減少し、その結果、空調装置の風量を大幅に増やさなくても、調温を行なう機器類の動作点を高効率の運転領域に保つことができる。すなわち、吹出口ユニットは、情報処理機器が低負荷の状態においては、情報処理機器に流入する空気の温度分布の均一性を保ちつつ、ホットアイルからコールドアイルへ再循環する空気の風量を増やし、情報処理機器が高負荷の状態においては、再循環する空気の風量を減らすという作用を奏する。よって、制御ユニットが実行する空調装置の風量の増減量を小さくしても、情報処理機器に流入する空気の温度と流出する空気の温度との温度差を適切にコントロールできる。この結果、システム全体の空調容量を削減でき、サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を効果的に抑制可能となる。
【0024】
また、前記制御ユニットは、前記情報処理機器に流入する空気の温度が、該情報処理機器を保護する観点から決定される上限の設定温度になると、前記温度差に関わらず前記空調装置の風量を増やすものであってもよい。制御ユニットがこのような制御を行えば、空調装置から送られる冷気の風量が過剰に抑制されることがないため、情報処理機器の動作可能な温度領域を逸脱してしまうことがない。
【0025】
また、前記吹出口ユニットは、前記給気口を通過した冷気を増速する整流板を有し、該整流板によって増速した冷気で前記吸込口から前記ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送るものであってもよい。整流板によって増速された冷気が通過することにより、ホットアイルの空気が吸込口から効果的誘引される。この結果、ホットアイルの空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになるので、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を抑制可能な情報処理機器室の空調システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】実施形態に係る空調システムを配置したデータセンタの構成図である。
【図1B】実施形態に係る空調システムを配置したデータセンタの構成図である(変形例)。
【図2A】吹出口ユニットの配置例(延在配置)。
【図2B】吹出口ユニットの配置例(分散配置)。
【図3】吹出口ユニットの配置例(分散配置)。
【図4】制御ユニットが実行する制御フロー図である。
【図5】冷凍機の運転効率と負荷との関係を示したグラフである。
【図6】空調装置の風量に対するホットアイルから誘引される空気の量の割合と、空調装置の風量との相関を示したグラフである。
【図7】第一の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図8】第二の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図9】第三の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図10】第四の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図11A】第五の変形例に係る吹出口ユニットを適用した空調システムの構成図である。
【図11B】第五の変形例に係る吹出口ユニットの拡大図である。
【図12】第五の変形例に係る吹出口ユニットの正面図である(円形)。
【図13】第五の変形例に係る吹出口ユニットの構造図である。
【図14】第五の変形例に係る吹出口ユニットの正面図である(長方形)。
【図15】実施形態に係る空調システムが適用されるサーバールームの第一の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1Aは、実施形態に係る空調システム1を設置したデータセンタ2の構成図である。データセンタ2には、図1Aに示すように、各種の演算処理やデータベースの管理を行なうサーバや通信機等の情報処理機器が収容されたラック3がサーバールーム4内に多数並び、ラック列5を形成している。また、サーバールーム4には、各ラック3へ供給する冷気を生成する空調装置6が併設されている。
【0029】
各ラック3には、情報処理機器を冷却する冷却ファン24が設けられており、ラックの正面が吸気面となり、背面が排気面となるように構成されている。各ラック3の中の情報処理機器の冷却ファン24は、ラック内に収容されている情報処理機器の負荷状態や吸込み温度に応じて時々刻々と変化するように回転数が制御されるものであってもよいし、一定の回転数で動くものであってもよい。なお、情報処理機器が据え付けられていない等の理由により、ラック3内や隣接するラック3との間に隙間があるような場合は、暖気の回り込みを防ぐようなパネル等で隙間を防ぐことが好ましい。
【0030】
データセンタ2は、各ラック3へ冷気が効率的に供給されるよう、一つのラック列5を構成する各ラック3の吸気面と排気面の向きが揃えられている。なお、本願発明は、図1Aに示すように、ラック列5のコールドアイルCをまたいだ反対側は自由空間としてあっても成立する。しかし、例えば、後述する図14のように同様のラック列5を対向させる態様、或いは、図1Bに示すようにラック列5の吸気面に対向するように配置したパネル26と後述する仕切板16とによりコールドアイルCをホットアイルHから分離(隔離)する態様を採ると、冷気を効率的に利用できる。各ラック3がこのように設置されていることにより、ラック3の吸気面側には冷気が流れるコールドアイルCが形成され、ラック3の排気面側にはラック3から排出される暖気が流れるホットアイルHが形成される。
【0031】
空調装置6は、冷却コイル7と電動ファン8とを内蔵し、冷凍機23から流れる冷水、ブライン、或いは冷媒が冷却コイル7を通過することで、サーバールーム4の空気を冷やす。空調装置6は、サーバールーム4の天井付近に設けられた吸気グリル9からホットアイルHの空気を吸引して冷却し、コールドアイルCの上部へ配設された吹出口ユニット10を介してコールドアイルCへ給気する。なお、空調装置6は、冷却コイル7と電動ファン8がそれぞれ別のケーシングに納まり、両者がダクトで接続されたものであってもよい。この場合、電動ファン8は、例えば、冷却コイル7よりも上流側のダクトの途中に設けられていても良いし、或いは給気口11の直前に設けられていても良い。また、空調装置6は、サーバールーム4内に設置されていてもよい。
【0032】
吹出口ユニット10は、ここでは、ダクトあるいはチャンバーに設けられた給気口11と、給気口11から吹き出た冷気の流路をノズル状に狭めて増速させる整流板12と、整流板12の開口部を通過した冷気によってホットアイルHの空気を誘引して混合させる混合室13を形成する遮蔽板14とを有している。整流板12と遮蔽板14は暖気が塊の状態でコールドアイルCに入ることを抑止する。遮蔽板14には、吹出口21が形成されている。整流板12と遮蔽板14との間には、ホットアイルHと連通する吸込口15が形成
されており、整流板12によって増速されて動圧の高まった冷気が混合室13を通過することで、ホットアイルHの空気が吸込口15から誘引され、混合室13で混合される。このように誘引して混合されたホットアイルHの空気と空調装置6からの冷気との混合気は、例えば、ホットアイルHの空気をコールドアイルCへ向けて空調ファンで送り込むような場合に比べて、温度分布が概ね均一になるため、ラック3の局部的な過熱を招く虞が無い。なお、サーバールーム4の床が二重構造になっており、或いはラック3が架台の上などに据え付けられて下駄を履いたような状態になっていることにより、ラック3の下側をホットアイルHの空気が流通可能な構成になっている場合、吹出口ユニット10をコールドアイルCの下側に設置して混合気を上側へ向けて吹き出すようにしてもよい。サーバールーム4の床を二重構造とする場合、コールドアイルCおよびホットアイルHの床面はグレーチングなどの通気性の部材で構成する。
【0033】
なお、吹出口ユニット10は、図2Aに示すように、コールドアイルCを形成する通路の長手方向に沿って延在していてもよいし、図2Bや図3に示すように、コールドアイルCを形成する通路の長手方向に沿って複数基が分散配置されていてもよい。吹出口ユニット10には、ラック列5に沿ってその長さを同じくして配設された、吹出口ユニット10の上面に設けた空気の取入口へ空調装置6からの冷気を導くダクトやチャンバー類が併設されている。
【0034】
また、図1Aに示すように、吹出口ユニット10とラック3の上端部分との間には、ラック3の排気面から排出される暖気が吸気面へ直接的に回り込むのを防ぐための仕切板16が設けられている。この仕切板16により、吹出口ユニット10を介さないホットアイルHからコールドアイルCへの暖気の回り込みが防止され、ラック3の局部的な過熱が防止される。
【0035】
空調装置6の電動ファン8は、インバータのスイッチング周波数を調整することにより、回転数を変更可能である。電動ファン8の回転数は、制御ユニット17によって調整される。ラック3に収容されている情報処理機器の発熱量が一定と仮定した場合、電動ファン8の回転数が増加すると、ラック3を通過する空気の流速が早くなり、コールドアイルCとホットアイルHとの間の温度差が小さくなる。また、電動ファン8の回転数が減少すると、ラック3を通過する空気の流速が遅くなり、コールドアイルCとホットアイルHとの間の温度差が大きくなる。そこで、制御ユニット17は、空調装置6を以下のように制御する。
【0036】
制御ユニット17が実行する制御フローを図4に示す。制御ユニット17は、コールドアイルCに設けた温度センサTIxと、ホットアイルHに設けた温度センサTOxで、コールドアイルCの温度TIとホットアイルHの温度TOを監視している。制御ユニット17は、コールドアイルCの温度TIが設定値TIset未満であれば(S101)、コールドアイルCとホットアイルHとの温度差を確認する(S102)。そして、制御ユニット17は、温度差ΔTが設定値ΔTset未満であれば、インバータのスイッチング周波数を下げて空調装置6の風量を減らす(S103)。一方、制御ユニット17は、コールドアイルCの温度TIが設定値TIset以上か、温度差ΔTが設定値ΔTset以上であれば、インバータのスイッチング周波数を上げて空調装置6の風量を増やす(S104)。制御ユニット17は、これら一連の処理を繰り返すことにより、電動ファン8の消費電力を抑制し、且つ、冷凍機23の運転効率を上げる。
【0037】
例えば、設定値TIsetが35℃で、定格運転時の温度TIが25℃で温度TOが40℃となるように空調システムが設計されていたとする。ここで、情報処理機器の熱負荷が3分の1程度に減少すると、温度差ΔTは15℃から5℃程度になり、温度TOが30℃になる。しかし、制御ユニット17が上記制御フローを実行することで、空調装置17
の風量が3分の1程度にまで減少し、温度TIが35℃で温度TOが40℃となるように運転状態が調整される。
【0038】
なお、設定値TIsetは、ラック3に収容されている情報処理機器が許容できる冷却空気の上限温度であり、情報処理機器を保護する観点で適宜決定した値である。また、設定値ΔTsetは、ラック3に収容されている情報処理機器が許容できる給気と排気との温度差の上限であり、冷凍機23の運転効率を高める観点で決定した値である。冷凍機23の運転効率は、一般的に、図5のグラフで示されるような特性を有しているため、運転効率の高い動作領域に保たれるように、電動ファン8の風量を下げて冷凍機23に流入する冷媒(冷水あるいはブライン)の温度を上げる必要がある。
【0039】
ここで、吹出口ユニット10では、ホットアイルHの空気が空調装置6から送られる冷気と混合するようになっているため、電動ファン8の回転数が増減することにより、次のような現象が生ずる。図6は、吹出口ユニット10において、ラック3に内蔵されているファンの回転数が一定とした場合の、空調装置6の風量に対するホットアイルHから誘引される空気の量の割合(比率)と、空調装置6の風量との相関関係を示したグラフである。
【0040】
空調装置6の風量が小さいとホットアイルHの空気が効果的に誘引されるので、空調装置6の風量に対する誘引量の割合は高い(図6の点A付近)。しかし、空調装置6の風量が増えてくると、誘引される空気の量は増えるものの誘引効率は低下し、空調装置6の風量に対する誘引量の割合が低下する(図6の点B付近)。空調装置6の風量が更に増えると、混合室13においてホットアイルHの空気が合流できるだけの流路的な余裕が無くなり、また、コールドアイルCとホットアイルHとの圧力バランスの変化も相まって、吹出口ユニット10においてホットアイルHから誘引される空気の流れが止まる(図6の点C付近)。そして、コールドアイルCとホットアイルHとの圧力バランスが、整流板12の増速による誘引力を上回ると、やがて吸込口15を空気が逆流する(図6の点D付近)。
【0041】
本実施形態に係る空調システム1は、図6に示されるような吹出口ユニット10の特性を踏まえた上で空調設計がなされており、制御ユニット17が温度差ΔTに基づいて空調装置6の風量を制御することで、以下のような作用が生ずる。
【0042】
すなわち、空調システム1は、温度差ΔTが設定値ΔTset未満の場合に、制御ユニット17が空調装置6の風量を減らすことで、ラック3を通過する空気の流速の低下と、吹出口ユニット10から吹き出る空気に占めるホットアイルHの空気の割合の増加との相乗効果で、温度差ΔTを効率的に拡大させることができる。しかも、吹出口ユニット10から吹き出る空気の温度分布は、混合室13によって概ね均等になっているため、ラック3が局部的に過熱することも無い。
【0043】
また、温度差ΔTが設定値ΔTset以上の場合に、制御ユニット17が空調装置6の風量を増やすことで、ラック3を通過する空気の流速の増加と、吹出口ユニット10から吹き出る空気に占めるホットアイルHの空気の割合の減少との相乗効果で、温度差ΔTを効率的に縮小させることができる。
【0044】
これらは、換言すると、温度差ΔTが設定値ΔTsetになるように制御して冷凍機23の運転効率を高めたい場合に、上記吹出口ユニット10を設ければ、一般的な通常のレジスタ等で吹出口を構成した場合に比べて、電動ファン8の回転数の増減幅が小さくても温度差ΔTを制御可能ということである。電動ファン8の回転数の増減幅が小さくても温度差ΔTを制御可能ということは、すなわち、電動ファン8の送風能力の増減幅が小さくても広い帯域で高効率の運転を行なうことが可能ということであり、吹出口ユニット10
を設けることで、空調システム1全体の設備容量を小さくできる。
【0045】
また、吹出口ユニット10を設ければ、ラック3に収容されている情報処理機器の発熱量が少なく、ラック3に内蔵されているファンの回転数が小さくなったような場合あるいは空調装置6の風量が過大な場合に、コールドアイルCとホットアイルHとの圧力バランスの変動によって吸込口15を空気が逆流することで、コールドアイルCが過大な圧力になるのを防止するといった効果も期待できる。
【0046】
なお、空調システム1は、制御ユニット17を省いてもよい。この場合、空調装置6の風量は、手動で調整する。上記空調システム1は、ホットアイルHの空気を吹出口ユニット10で誘引しているため、制御ユニット17が省かれていても、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置6の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。また、空調装置6の風量を減らすことで、空調装置6に戻る空気の温度を高め、冷凍器23の動作点を高効率の運転領域に保つことができ、システム全体の省エネルギーを図ることができる。
【0047】
なお、上記空調システム1の吹出口ユニット10は、次のように変形してもよい。図7は、第一の変形例に係る吹出口ユニット10Aの構成図である。この吹出口ユニット10Aは、整流板12よりも上流の空調装置6側に、風量調整機構としてのダンパ19が設けられている。吹出口ユニット10Aにダンパ19を設ければ、電動ファン8の側のみならず、吹出口ユニット10Aの側でも給気量を調整できる。よって、ラック3に流出入する空気の温度差をラック毎に個別に制御することができるようになる。この結果、特定のラック3の過熱を防止し、サーバールーム4全体の空気を循環させる電動ファン8の回転数を更に抑制することができる。なお、ダンパ19によって風向が変動する可能性がある場合には、風向を揃えるフェース20を設けてもよい。なお、風量調整機構としてはダンパの代わりにシャッターを用いてもよい。
【0048】
また、上記空調システム1の吹出口ユニット10,10Aは、整流板12を、孔を多数設けたパンチング板あるいはこれらの積層体にしてもよい。第二の変形例に係る吹出口ユニット10Bを図8に示す。整流板12Bを例えば開口率が20%程度のパンチング板にすることで、ホットアイルHの空気が空調装置6からの冷気により確実に誘引される。また、吹出口ユニット10Bから吹き出る混合気の温度分布をより均一にできる。なお、温度分布を均一にするには、混合室13に気流で自転する羽根車や風車を設けることも効果的である。
【0049】
また、上記空調システム1の吹出口ユニット10,10Aは、給気口11から吹き出た冷気の流路をノズル状に狭めて増速させる整流板12を、単なる平板状のパンチング板にしてもよい。第三の変形例に係る吹出口ユニット10Cを図9に示す。整流板12Cを平板状のパンチング板とし、この板で給気口11を覆う構成を採っても、ホットアイルHの空気を効果的に誘引できる。すなわち、孔が多数設けられたパンチング板で構成される整流板12Cで給気口11を覆えば、空調装置6から送られる冷気が、整流板12Cに設けられた多数の孔を通過する際に増速されるので動圧が上がり、その冷気が混合室13に吹き出ることで吸込口15のホットアイルHの空気が誘引される。
【0050】
また、上記空調システム1の吹出口ユニット10,10A,10B,10Cは、吸込口15に風量調整機構としてのダンパを更に設けてもよい。図10は、吹出口ユニット10Aの吸込口15にダンパ19Dを設けた第四の変形例に係る吹出口ユニット10Dを示す。吸込口15にダンパ19Dが設けられていれば、空調装置6から送られる冷気に混合するホットアイルHの空気の量を任意に調整することができる。よって、例えば、ラック列5を構成する各ラック3が許容できる吸込温度にばらつきがあるような場合に、ダンパ1
9Dの開度を調整することで、各ラック3が許容できる吸込温度の範囲内で比較的高い吸込温度に調整することができる。このため、電動ファン8の回転数を抑制し、且つ、冷凍機23の運転効率を高く領域で保つことができる。
【0051】
なお、吹出口ユニットは、次のような構成にしてもよい。図11Aは第五の変形例に係る吹出口ユニット10Eを適用した空調システム1を示した図であり、図11Bは吹出口ユニット10Eの拡大図である。また、図12は吹出口ユニット10Eの斜視図であり、図13は吹出口ユニット10Eの一部を拡大した内部構造図である。本変形例に係る吹出口ユニット10Eは、コールドアイルCの上側ではなく、ラック3の正面に取り付けられている。ラック3の正面に取り付ける吹出口ユニット10Eを適用する場合、コールドアイルCは、図11Aに示すように、パネル26によってホットアイルHから分離(隔離)されており、コールドアイルCの上部にあるダクトの吹出口27から吹き出た冷気がコールドアイルCへ流れ、吹出口ユニット10Eからラック3内へ流入するように構成する。なお、2つのラック列5を対向させてコールドアイルCをホットアイルHから分離(隔離)してもよい。本変形例では、図11Bに示すように、ラック3の上部と下部には、ホットアイルHと吸込口15Eとを繋ぐ通気路25が設けられている。この吹出口ユニット10Eは、既述した吹出口ユニット10と同様の給気口11Eや整流板12E、混合室13E、吸込口15Eを多数備えており、多数の吹出部18を形成している。給気口11Eは、コールドアイルCに面していることにより、空調装置6から送られた冷気が流入するようになっている。給気口11Eから流入した冷気は、整流板12Eによって増速され、混合室13Eの周囲に形成されている吸込口15Eの空気を誘引する。これにより、既述した吹出口ユニット10と同様の作用を発揮する。なお、本変形例では、整流板12Eによる増速作用が小さいため、通気路25から吸込口15Eを介して混合室13Eへ流入する空気の流入量は、整流板12Eによって増速された空気による誘引よりも、ホットアイルHとコールドアイルCとの差圧によるものの方が支配的である。なお、本変形例において、吹出口ユニット10Eには、ホットアイルHの空気がラック3の上部と下部に設けた通気路25を介して流れていたが、例えば、サーバールーム4の床が二重構造になっており、或いはラック3が架台の上などに据え付けられて下駄を履いたような状態になっていることにより、ラック3の下側をホットアイルHの空気が流通可能な構成になっている場合、吹出口ユニット10Eにはラック3の下側を通過したホットアイルHの空気が流入するようになっていてもよい。
【0052】
このように構成される吹出口ユニット10Eであれば、ラック3の吸気面に取り付けるだけなので、既設の空調システムに対しても容易に追加することができる。また、既述した吹出口ユニット10と同様の作用を発揮するため、既設の空調システムの空調ファンの回転数を上記実施形態に係る制御ユニット17で制御すれば、システム全体の省エネルギーを実現できる。もっとも、本変形例に係る吹出口ユニット10Dは、既設の空調システムのみならず、新設する空調システムに適用することもできる。
【0053】
なお、本変形例に係る吹出口ユニット10Eの吹出部18は、図12では円形にしていたが、例えば、図14に示すように長方形であってもよい。
【0054】
ところで、上記空調システム1は、図15に示すようなサーバールーム4Aに適用することもできる。このサーバールーム4Aは、図15に示すように、コールドアイルCが2つのラック列5によって囲まれており、ホットアイルHとコールドアイルCとが完全な形で区画されている。
【0055】
空調システム1がこのようなサーバールーム4Aに適用されている場合、吹出口ユニット10における空気の誘引作用は次のようになる。すなわち、空調システム1が、実施形態に係るサーバールーム4のように、コールドアイルCとホットアイルHとが完全な形で
区画されていないような場合には、吹出口ユニット10における空気の誘引作用は、整流板12の増速作用が支配的である。一方、本変形例に係るサーバールーム4Aのように、コールドアイルCとホットアイルHとが完全な形で区画されているような場合には、吹出口ユニット10における空気の誘引作用は、整流板12の増速作用によるものの他、ラック3に内蔵されているファンの回転数によって変動するコールドアイルCとホットアイルHとの間の圧力バランスの変動という、二つの要素が支配的になる。もっとも、吹出口ユニット10を適用することによる作用効果は、空調システム1をコールドアイルCがホットアイルHと完全な形で区画されていないサーバールーム4に適用する場合と概ね同様である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・空調システム
3・・・ラック
6・・・空調装置
10,10A,10B,10C,10D,10E・・・吹出口ユニット
C・・コールドアイル
H・・ホットアイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理機器室の空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理技術の発展に伴い、情報処理機器の発熱量は増大の一途を辿っている。これに伴い、情報処理機器を冷却する空調システムの処理量も増大しており、情報処理機器を効率的に冷却できる空調技術の開発が行われている。情報処理機器を効率的に冷却するには、ホットアイルからコールドアイルへの気流の回り込みを防ぐことが空調効率の向上に有効であることが知られており(例えば、非特許文献1,2)、このような気流の回り込みを防いでコールドアイルからホットアイルへの流通のみを許容する空調システム等が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
なお、特許文献2には、各風量調整ダンパの開度を調整して各局部域の温度を適切に制御する空調装置が開示されている。また、特許文献3には、吹出口周りの空気を確実に誘引して結露を防止する吹出口装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3835615号公報
【特許文献2】特開平5−203193号公報
【特許文献3】特許第3872009号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「空気調和衛生工学便覧」、第14版、第3巻、第363頁
【非特許文献2】福田次郎、「データセンターの概況と今後の方向性」、空気調和・衛生工学、第84巻、第5号、第371頁〜第375頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多数の情報処理機器を収容したデータセンタ等の大規模な情報処理施設では、空調システムで消費される動力が情報処理機器で消費される電力に次いで大きな割合を占めており、空調動力の低減は情報処理施設全体の消費エネルギーの削減につながる。特に、空調動力のうち空気の搬送に要する動力が占める割合は大きく、サーバラックへの給気は必要十分な風量にまで削減することが求められる。
【0007】
しかし、サーバラックへの給気風量が不足すると、サーバラックから排出される暖かい排気がサーバラックの吸込み面側に回り込んで情報処理機器が局部的に高温になり、稼働に支障をきたす虞がある。そこで、多くの情報処理施設では、このような暖気の回り込みが生じないようにするため、給気風量を多めにし、且つ、給気温度を低めにして運用している。
【0008】
ところが、給気風量が過多の場合、空気の搬送動力に無駄が生ずる。また、給気風量が過多の場合、空気を冷却するコイルに戻る空気の温度が低下することになるため、冷凍機類が低圧カットやそれに近い低負荷で低効率の運転領域において作動することになる。冷却コイルに戻る温度が低下することによる冷凍機類の効率の低下は、情報処理機器の発熱量が設計仕様よりも少ない場合や、一定風量で排気する情報処理機器が多い場合にも生ずる。
【0009】
そこで、冷却コイルに戻る空気の温度が低いような場合には、サーバラックの排気が通過するホットアイルの空気の一部を、サーバラックを冷却する空気が通過するコールドアイルへ戻すことが、サーバラックへの給気を必要十分な風量とし、空調ファンや冷凍機で消費される空調動力を抑制することにつながる。しかし、これを実現するには、ホットアイルからコールドアイルへの空気の搬送動力を小さくし、且つ、コールドアイルへ吹き出す空気の温度を概ね均一とする必要がある。搬送動力が大きいと省エネルギー効果が小さくなり、温度が均一でないとサーバラックが局部的に過熱する虞があるためである。
【0010】
また、情報処理機器には、吸込み風量が内部温度によらず一定のものや、内部温度に応じて変動するものがあるため、ホットアイルとコールドアイルとの間の空調バランスは一意でない。そこで、コールドアイルへ過剰な給気がなされた際には、コールドアイルの圧力上昇を防ぐべく、コールドアイルからホットアイルへの冷気の流出が速やかに行なわれるように、流出経路の通気抵抗を小さくする必要がある。
【0011】
本願は、これらの課題に鑑みてなされたものであり、サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を抑制可能な情報処理機器室の空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、空調装置から送られる冷気を情報処理機器へ送る吹出口ユニットがホットアイルの空気を誘引する。給気による誘引、及びホットアイルとコールドアイルとの差圧により、情報処理機器へホットアイルの空気が流れる。
【0013】
詳細には、情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室の空調システムであって、前記情報処理機器の排気が通過するホットアイルから吸引した空気を冷却して、該情報処理機器を冷やす空気が通過するコールドアイルへ送る空調装置と、前記空調装置から送られる冷気が通過する給気口と、該給気口の周囲に配置される、前記ホットアイルと連通する吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送る吹出口ユニットと、を備える。
【0014】
空調システムにおいて消費される空調動力は、大まかに、空気を搬送するための動力と、空気を調温するための動力とに大別される。ここで、空気を搬送するための動力は、主に空調ファンの回転数等によって決定されるものであり、これを節減するには、冷却対象である情報処理機器に必要最小限の冷気が行き渡る程度に空気を搬送すればよい。また、空気を調温するための動力は、主に冷凍機類の動力によって決定されるものであり、これを節減するには、冷却対象である情報処理機器の冷却に必要な必要最小量の冷熱を最も動作効率の高い運転領域で生成すればよい。
【0015】
すなわち、これらの要素によってエネルギー効率が大きく左右される空調システムにおいては、情報処理機器に流入する空気の温度や風量、及び情報処理機器から流出する空気の温度が最適化されていることが肝要である。この点、情報処理機器で発生する熱量は、処理するデータ量などによって左右されるため、情報処理機器に流入する空気の温度や風量、及び情報処理機器から流出する空気の温度の最適値は一意に定まるものではない。
【0016】
そこで、本空調システムにおいては、吹出口ユニットが空調装置の冷気でホットアイルの空気を誘引するようにしている。このように構成されていれば、空調装置の風量を減らせばホットアイルの空気が空調装置の冷気によって誘引され、低負荷状態にある情報処理機器から排気される空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになる。また、コールドアイルの圧力がホットアイルの圧力よりも低い場合に生ずる両アイル間の差圧に
より、吸込口を通過するホットアイルの空気の通過量が増し、ホットアイルの空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになる。よって、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。また、空調装置の風量を減らすと、空調装置に戻る空気の温度が高くなるので、調温を行なう機器類の動作点を高効率の運転領域に保つことができ、空調システム全体の省エネルギーを図ることができる。
【0017】
また、前記ホットアイルと前記コールドアイルとは区画されており、前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルが前記ホットアイルよりも負圧になることで前記吸込口から流出する該ホットアイルの空気を誘引し、温度のばらつきが所定の許容範囲内となった混合気を前記情報処理機器へ送るものであってもよい。コールドアイルがホットアイルよりも負圧になると吸込口を通過するホットアイルの空気の通過量が増し、ホットアイルの空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになる。よって、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。なお、ここで所定の許容範囲内とは、情報処理機器へ送られる空気の温度分布のばらつきの許容範囲であり、例えば、情報処理機器の動作が補償できる温度範囲に設定される。
【0018】
また、前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルの上側または下側に配設されており、該吹出口ユニットと前記ラックとの間に挿置された、前記コールドアイルと前記ホットアイルとを隔離する遮蔽板よりもホットアイル側に設けられた、該吹出口ユニットの側面にある前記吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記コールドアイルへ向けて吹き出すものであってもよいし、或いは、前記ラックの吸気面を覆うように配設されており、前記空調装置から前記コールドアイルを経由して送られる冷気が通過する前記給気口と、前記ラックの上側あるいは下側の少なくとも何れかに設けられた通気路を経由して前記ホットアイルと連通する前記吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記情報処理機器へ送るものであってもよい。吹出口ユニットがこのように構成されていれば、空調装置からの空気を効果的に情報処理機器へ流すことができる。
【0019】
なお、上記情報処理機器室の空調システムは、前記情報処理機器に流入する空気の温度と流出した空気の温度との温度差が小さくなると前記空調装置の風量を減らし、該温度差が大きくなると該空調装置の風量を増やす制御ユニットを更に備えるものであってもよい。
【0020】
本空調システムにおいては、情報処理機器に流入する空気の温度と流出した空気の温度との温度差が小さければ、風量が過大であると判断して空調装置の風量を減らす。また、温度差が大きければ、風量が過小であると判断して空調装置の風量を増やす。これにより、空気の搬送動力や調温動力はある程度低減される。
【0021】
ところで、空調装置から送られる空気を普通の開口から吹き出させる場合、このような温度差に基づく空調装置の風量制御のみでは、風量の増減量に応じた相応の結果しか得られない。すなわち、温度差が小さくて風量が過大であると判定される場合に、単に空調装置の風量を減らしただけでは、空気の搬送に要する動力や空気を調温するための動力はある程度低減できるものの、最高効率点がある程度高負荷の運転領域に設定されているような冷凍機器類の場合、低効率の運転領域において動作させ続けることは効率的でない。
【0022】
この点、本空調システムにおいては、吹出口ユニットが空調装置の冷気でホットアイルの空気を誘引するようにしているため、制御ユニットが実行する風量制御による省エネルギー効果が更に高まる。すなわち、吹出口がこのように構成されていれば、空調装置の風
量が少ない場合には、ホットアイルの空気が空調装置の冷気によって誘引され、低負荷状態にある情報処理機器から排気される空気が情報処理機器の冷却のために再循環される。この結果、調温を行なう機器類の動作点を高効率の運転領域に保つことができる。
【0023】
また、空調装置の風量が多い場合には、コールドアイルとホットアイルとの圧力バランスや吹出口ユニットにおける誘引効率の低下に起因して、空調装置から送られる冷気の風量に対するホットアイルの空気の誘引量が相対的に減少することになる。このため、情報処理機器から排気される暖気が再循環する量が減少し、その結果、空調装置の風量を大幅に増やさなくても、調温を行なう機器類の動作点を高効率の運転領域に保つことができる。すなわち、吹出口ユニットは、情報処理機器が低負荷の状態においては、情報処理機器に流入する空気の温度分布の均一性を保ちつつ、ホットアイルからコールドアイルへ再循環する空気の風量を増やし、情報処理機器が高負荷の状態においては、再循環する空気の風量を減らすという作用を奏する。よって、制御ユニットが実行する空調装置の風量の増減量を小さくしても、情報処理機器に流入する空気の温度と流出する空気の温度との温度差を適切にコントロールできる。この結果、システム全体の空調容量を削減でき、サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を効果的に抑制可能となる。
【0024】
また、前記制御ユニットは、前記情報処理機器に流入する空気の温度が、該情報処理機器を保護する観点から決定される上限の設定温度になると、前記温度差に関わらず前記空調装置の風量を増やすものであってもよい。制御ユニットがこのような制御を行えば、空調装置から送られる冷気の風量が過剰に抑制されることがないため、情報処理機器の動作可能な温度領域を逸脱してしまうことがない。
【0025】
また、前記吹出口ユニットは、前記給気口を通過した冷気を増速する整流板を有し、該整流板によって増速した冷気で前記吸込口から前記ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送るものであってもよい。整流板によって増速された冷気が通過することにより、ホットアイルの空気が吸込口から効果的誘引される。この結果、ホットアイルの空気が情報処理機器の冷却のために再循環されるようになるので、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
サーバラックへ必要十分な風量の空気を供給しつつ、空調動力を抑制可能な情報処理機器室の空調システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】実施形態に係る空調システムを配置したデータセンタの構成図である。
【図1B】実施形態に係る空調システムを配置したデータセンタの構成図である(変形例)。
【図2A】吹出口ユニットの配置例(延在配置)。
【図2B】吹出口ユニットの配置例(分散配置)。
【図3】吹出口ユニットの配置例(分散配置)。
【図4】制御ユニットが実行する制御フロー図である。
【図5】冷凍機の運転効率と負荷との関係を示したグラフである。
【図6】空調装置の風量に対するホットアイルから誘引される空気の量の割合と、空調装置の風量との相関を示したグラフである。
【図7】第一の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図8】第二の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図9】第三の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図10】第四の変形例に係る吹出口ユニットの構成図である。
【図11A】第五の変形例に係る吹出口ユニットを適用した空調システムの構成図である。
【図11B】第五の変形例に係る吹出口ユニットの拡大図である。
【図12】第五の変形例に係る吹出口ユニットの正面図である(円形)。
【図13】第五の変形例に係る吹出口ユニットの構造図である。
【図14】第五の変形例に係る吹出口ユニットの正面図である(長方形)。
【図15】実施形態に係る空調システムが適用されるサーバールームの第一の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1Aは、実施形態に係る空調システム1を設置したデータセンタ2の構成図である。データセンタ2には、図1Aに示すように、各種の演算処理やデータベースの管理を行なうサーバや通信機等の情報処理機器が収容されたラック3がサーバールーム4内に多数並び、ラック列5を形成している。また、サーバールーム4には、各ラック3へ供給する冷気を生成する空調装置6が併設されている。
【0029】
各ラック3には、情報処理機器を冷却する冷却ファン24が設けられており、ラックの正面が吸気面となり、背面が排気面となるように構成されている。各ラック3の中の情報処理機器の冷却ファン24は、ラック内に収容されている情報処理機器の負荷状態や吸込み温度に応じて時々刻々と変化するように回転数が制御されるものであってもよいし、一定の回転数で動くものであってもよい。なお、情報処理機器が据え付けられていない等の理由により、ラック3内や隣接するラック3との間に隙間があるような場合は、暖気の回り込みを防ぐようなパネル等で隙間を防ぐことが好ましい。
【0030】
データセンタ2は、各ラック3へ冷気が効率的に供給されるよう、一つのラック列5を構成する各ラック3の吸気面と排気面の向きが揃えられている。なお、本願発明は、図1Aに示すように、ラック列5のコールドアイルCをまたいだ反対側は自由空間としてあっても成立する。しかし、例えば、後述する図14のように同様のラック列5を対向させる態様、或いは、図1Bに示すようにラック列5の吸気面に対向するように配置したパネル26と後述する仕切板16とによりコールドアイルCをホットアイルHから分離(隔離)する態様を採ると、冷気を効率的に利用できる。各ラック3がこのように設置されていることにより、ラック3の吸気面側には冷気が流れるコールドアイルCが形成され、ラック3の排気面側にはラック3から排出される暖気が流れるホットアイルHが形成される。
【0031】
空調装置6は、冷却コイル7と電動ファン8とを内蔵し、冷凍機23から流れる冷水、ブライン、或いは冷媒が冷却コイル7を通過することで、サーバールーム4の空気を冷やす。空調装置6は、サーバールーム4の天井付近に設けられた吸気グリル9からホットアイルHの空気を吸引して冷却し、コールドアイルCの上部へ配設された吹出口ユニット10を介してコールドアイルCへ給気する。なお、空調装置6は、冷却コイル7と電動ファン8がそれぞれ別のケーシングに納まり、両者がダクトで接続されたものであってもよい。この場合、電動ファン8は、例えば、冷却コイル7よりも上流側のダクトの途中に設けられていても良いし、或いは給気口11の直前に設けられていても良い。また、空調装置6は、サーバールーム4内に設置されていてもよい。
【0032】
吹出口ユニット10は、ここでは、ダクトあるいはチャンバーに設けられた給気口11と、給気口11から吹き出た冷気の流路をノズル状に狭めて増速させる整流板12と、整流板12の開口部を通過した冷気によってホットアイルHの空気を誘引して混合させる混合室13を形成する遮蔽板14とを有している。整流板12と遮蔽板14は暖気が塊の状態でコールドアイルCに入ることを抑止する。遮蔽板14には、吹出口21が形成されている。整流板12と遮蔽板14との間には、ホットアイルHと連通する吸込口15が形成
されており、整流板12によって増速されて動圧の高まった冷気が混合室13を通過することで、ホットアイルHの空気が吸込口15から誘引され、混合室13で混合される。このように誘引して混合されたホットアイルHの空気と空調装置6からの冷気との混合気は、例えば、ホットアイルHの空気をコールドアイルCへ向けて空調ファンで送り込むような場合に比べて、温度分布が概ね均一になるため、ラック3の局部的な過熱を招く虞が無い。なお、サーバールーム4の床が二重構造になっており、或いはラック3が架台の上などに据え付けられて下駄を履いたような状態になっていることにより、ラック3の下側をホットアイルHの空気が流通可能な構成になっている場合、吹出口ユニット10をコールドアイルCの下側に設置して混合気を上側へ向けて吹き出すようにしてもよい。サーバールーム4の床を二重構造とする場合、コールドアイルCおよびホットアイルHの床面はグレーチングなどの通気性の部材で構成する。
【0033】
なお、吹出口ユニット10は、図2Aに示すように、コールドアイルCを形成する通路の長手方向に沿って延在していてもよいし、図2Bや図3に示すように、コールドアイルCを形成する通路の長手方向に沿って複数基が分散配置されていてもよい。吹出口ユニット10には、ラック列5に沿ってその長さを同じくして配設された、吹出口ユニット10の上面に設けた空気の取入口へ空調装置6からの冷気を導くダクトやチャンバー類が併設されている。
【0034】
また、図1Aに示すように、吹出口ユニット10とラック3の上端部分との間には、ラック3の排気面から排出される暖気が吸気面へ直接的に回り込むのを防ぐための仕切板16が設けられている。この仕切板16により、吹出口ユニット10を介さないホットアイルHからコールドアイルCへの暖気の回り込みが防止され、ラック3の局部的な過熱が防止される。
【0035】
空調装置6の電動ファン8は、インバータのスイッチング周波数を調整することにより、回転数を変更可能である。電動ファン8の回転数は、制御ユニット17によって調整される。ラック3に収容されている情報処理機器の発熱量が一定と仮定した場合、電動ファン8の回転数が増加すると、ラック3を通過する空気の流速が早くなり、コールドアイルCとホットアイルHとの間の温度差が小さくなる。また、電動ファン8の回転数が減少すると、ラック3を通過する空気の流速が遅くなり、コールドアイルCとホットアイルHとの間の温度差が大きくなる。そこで、制御ユニット17は、空調装置6を以下のように制御する。
【0036】
制御ユニット17が実行する制御フローを図4に示す。制御ユニット17は、コールドアイルCに設けた温度センサTIxと、ホットアイルHに設けた温度センサTOxで、コールドアイルCの温度TIとホットアイルHの温度TOを監視している。制御ユニット17は、コールドアイルCの温度TIが設定値TIset未満であれば(S101)、コールドアイルCとホットアイルHとの温度差を確認する(S102)。そして、制御ユニット17は、温度差ΔTが設定値ΔTset未満であれば、インバータのスイッチング周波数を下げて空調装置6の風量を減らす(S103)。一方、制御ユニット17は、コールドアイルCの温度TIが設定値TIset以上か、温度差ΔTが設定値ΔTset以上であれば、インバータのスイッチング周波数を上げて空調装置6の風量を増やす(S104)。制御ユニット17は、これら一連の処理を繰り返すことにより、電動ファン8の消費電力を抑制し、且つ、冷凍機23の運転効率を上げる。
【0037】
例えば、設定値TIsetが35℃で、定格運転時の温度TIが25℃で温度TOが40℃となるように空調システムが設計されていたとする。ここで、情報処理機器の熱負荷が3分の1程度に減少すると、温度差ΔTは15℃から5℃程度になり、温度TOが30℃になる。しかし、制御ユニット17が上記制御フローを実行することで、空調装置17
の風量が3分の1程度にまで減少し、温度TIが35℃で温度TOが40℃となるように運転状態が調整される。
【0038】
なお、設定値TIsetは、ラック3に収容されている情報処理機器が許容できる冷却空気の上限温度であり、情報処理機器を保護する観点で適宜決定した値である。また、設定値ΔTsetは、ラック3に収容されている情報処理機器が許容できる給気と排気との温度差の上限であり、冷凍機23の運転効率を高める観点で決定した値である。冷凍機23の運転効率は、一般的に、図5のグラフで示されるような特性を有しているため、運転効率の高い動作領域に保たれるように、電動ファン8の風量を下げて冷凍機23に流入する冷媒(冷水あるいはブライン)の温度を上げる必要がある。
【0039】
ここで、吹出口ユニット10では、ホットアイルHの空気が空調装置6から送られる冷気と混合するようになっているため、電動ファン8の回転数が増減することにより、次のような現象が生ずる。図6は、吹出口ユニット10において、ラック3に内蔵されているファンの回転数が一定とした場合の、空調装置6の風量に対するホットアイルHから誘引される空気の量の割合(比率)と、空調装置6の風量との相関関係を示したグラフである。
【0040】
空調装置6の風量が小さいとホットアイルHの空気が効果的に誘引されるので、空調装置6の風量に対する誘引量の割合は高い(図6の点A付近)。しかし、空調装置6の風量が増えてくると、誘引される空気の量は増えるものの誘引効率は低下し、空調装置6の風量に対する誘引量の割合が低下する(図6の点B付近)。空調装置6の風量が更に増えると、混合室13においてホットアイルHの空気が合流できるだけの流路的な余裕が無くなり、また、コールドアイルCとホットアイルHとの圧力バランスの変化も相まって、吹出口ユニット10においてホットアイルHから誘引される空気の流れが止まる(図6の点C付近)。そして、コールドアイルCとホットアイルHとの圧力バランスが、整流板12の増速による誘引力を上回ると、やがて吸込口15を空気が逆流する(図6の点D付近)。
【0041】
本実施形態に係る空調システム1は、図6に示されるような吹出口ユニット10の特性を踏まえた上で空調設計がなされており、制御ユニット17が温度差ΔTに基づいて空調装置6の風量を制御することで、以下のような作用が生ずる。
【0042】
すなわち、空調システム1は、温度差ΔTが設定値ΔTset未満の場合に、制御ユニット17が空調装置6の風量を減らすことで、ラック3を通過する空気の流速の低下と、吹出口ユニット10から吹き出る空気に占めるホットアイルHの空気の割合の増加との相乗効果で、温度差ΔTを効率的に拡大させることができる。しかも、吹出口ユニット10から吹き出る空気の温度分布は、混合室13によって概ね均等になっているため、ラック3が局部的に過熱することも無い。
【0043】
また、温度差ΔTが設定値ΔTset以上の場合に、制御ユニット17が空調装置6の風量を増やすことで、ラック3を通過する空気の流速の増加と、吹出口ユニット10から吹き出る空気に占めるホットアイルHの空気の割合の減少との相乗効果で、温度差ΔTを効率的に縮小させることができる。
【0044】
これらは、換言すると、温度差ΔTが設定値ΔTsetになるように制御して冷凍機23の運転効率を高めたい場合に、上記吹出口ユニット10を設ければ、一般的な通常のレジスタ等で吹出口を構成した場合に比べて、電動ファン8の回転数の増減幅が小さくても温度差ΔTを制御可能ということである。電動ファン8の回転数の増減幅が小さくても温度差ΔTを制御可能ということは、すなわち、電動ファン8の送風能力の増減幅が小さくても広い帯域で高効率の運転を行なうことが可能ということであり、吹出口ユニット10
を設けることで、空調システム1全体の設備容量を小さくできる。
【0045】
また、吹出口ユニット10を設ければ、ラック3に収容されている情報処理機器の発熱量が少なく、ラック3に内蔵されているファンの回転数が小さくなったような場合あるいは空調装置6の風量が過大な場合に、コールドアイルCとホットアイルHとの圧力バランスの変動によって吸込口15を空気が逆流することで、コールドアイルCが過大な圧力になるのを防止するといった効果も期待できる。
【0046】
なお、空調システム1は、制御ユニット17を省いてもよい。この場合、空調装置6の風量は、手動で調整する。上記空調システム1は、ホットアイルHの空気を吹出口ユニット10で誘引しているため、制御ユニット17が省かれていても、情報処理機器の冷却に必要な風量を確保しつつ、空調装置6の風量を減らして空気搬送動力を削減することが可能である。また、空調装置6の風量を減らすことで、空調装置6に戻る空気の温度を高め、冷凍器23の動作点を高効率の運転領域に保つことができ、システム全体の省エネルギーを図ることができる。
【0047】
なお、上記空調システム1の吹出口ユニット10は、次のように変形してもよい。図7は、第一の変形例に係る吹出口ユニット10Aの構成図である。この吹出口ユニット10Aは、整流板12よりも上流の空調装置6側に、風量調整機構としてのダンパ19が設けられている。吹出口ユニット10Aにダンパ19を設ければ、電動ファン8の側のみならず、吹出口ユニット10Aの側でも給気量を調整できる。よって、ラック3に流出入する空気の温度差をラック毎に個別に制御することができるようになる。この結果、特定のラック3の過熱を防止し、サーバールーム4全体の空気を循環させる電動ファン8の回転数を更に抑制することができる。なお、ダンパ19によって風向が変動する可能性がある場合には、風向を揃えるフェース20を設けてもよい。なお、風量調整機構としてはダンパの代わりにシャッターを用いてもよい。
【0048】
また、上記空調システム1の吹出口ユニット10,10Aは、整流板12を、孔を多数設けたパンチング板あるいはこれらの積層体にしてもよい。第二の変形例に係る吹出口ユニット10Bを図8に示す。整流板12Bを例えば開口率が20%程度のパンチング板にすることで、ホットアイルHの空気が空調装置6からの冷気により確実に誘引される。また、吹出口ユニット10Bから吹き出る混合気の温度分布をより均一にできる。なお、温度分布を均一にするには、混合室13に気流で自転する羽根車や風車を設けることも効果的である。
【0049】
また、上記空調システム1の吹出口ユニット10,10Aは、給気口11から吹き出た冷気の流路をノズル状に狭めて増速させる整流板12を、単なる平板状のパンチング板にしてもよい。第三の変形例に係る吹出口ユニット10Cを図9に示す。整流板12Cを平板状のパンチング板とし、この板で給気口11を覆う構成を採っても、ホットアイルHの空気を効果的に誘引できる。すなわち、孔が多数設けられたパンチング板で構成される整流板12Cで給気口11を覆えば、空調装置6から送られる冷気が、整流板12Cに設けられた多数の孔を通過する際に増速されるので動圧が上がり、その冷気が混合室13に吹き出ることで吸込口15のホットアイルHの空気が誘引される。
【0050】
また、上記空調システム1の吹出口ユニット10,10A,10B,10Cは、吸込口15に風量調整機構としてのダンパを更に設けてもよい。図10は、吹出口ユニット10Aの吸込口15にダンパ19Dを設けた第四の変形例に係る吹出口ユニット10Dを示す。吸込口15にダンパ19Dが設けられていれば、空調装置6から送られる冷気に混合するホットアイルHの空気の量を任意に調整することができる。よって、例えば、ラック列5を構成する各ラック3が許容できる吸込温度にばらつきがあるような場合に、ダンパ1
9Dの開度を調整することで、各ラック3が許容できる吸込温度の範囲内で比較的高い吸込温度に調整することができる。このため、電動ファン8の回転数を抑制し、且つ、冷凍機23の運転効率を高く領域で保つことができる。
【0051】
なお、吹出口ユニットは、次のような構成にしてもよい。図11Aは第五の変形例に係る吹出口ユニット10Eを適用した空調システム1を示した図であり、図11Bは吹出口ユニット10Eの拡大図である。また、図12は吹出口ユニット10Eの斜視図であり、図13は吹出口ユニット10Eの一部を拡大した内部構造図である。本変形例に係る吹出口ユニット10Eは、コールドアイルCの上側ではなく、ラック3の正面に取り付けられている。ラック3の正面に取り付ける吹出口ユニット10Eを適用する場合、コールドアイルCは、図11Aに示すように、パネル26によってホットアイルHから分離(隔離)されており、コールドアイルCの上部にあるダクトの吹出口27から吹き出た冷気がコールドアイルCへ流れ、吹出口ユニット10Eからラック3内へ流入するように構成する。なお、2つのラック列5を対向させてコールドアイルCをホットアイルHから分離(隔離)してもよい。本変形例では、図11Bに示すように、ラック3の上部と下部には、ホットアイルHと吸込口15Eとを繋ぐ通気路25が設けられている。この吹出口ユニット10Eは、既述した吹出口ユニット10と同様の給気口11Eや整流板12E、混合室13E、吸込口15Eを多数備えており、多数の吹出部18を形成している。給気口11Eは、コールドアイルCに面していることにより、空調装置6から送られた冷気が流入するようになっている。給気口11Eから流入した冷気は、整流板12Eによって増速され、混合室13Eの周囲に形成されている吸込口15Eの空気を誘引する。これにより、既述した吹出口ユニット10と同様の作用を発揮する。なお、本変形例では、整流板12Eによる増速作用が小さいため、通気路25から吸込口15Eを介して混合室13Eへ流入する空気の流入量は、整流板12Eによって増速された空気による誘引よりも、ホットアイルHとコールドアイルCとの差圧によるものの方が支配的である。なお、本変形例において、吹出口ユニット10Eには、ホットアイルHの空気がラック3の上部と下部に設けた通気路25を介して流れていたが、例えば、サーバールーム4の床が二重構造になっており、或いはラック3が架台の上などに据え付けられて下駄を履いたような状態になっていることにより、ラック3の下側をホットアイルHの空気が流通可能な構成になっている場合、吹出口ユニット10Eにはラック3の下側を通過したホットアイルHの空気が流入するようになっていてもよい。
【0052】
このように構成される吹出口ユニット10Eであれば、ラック3の吸気面に取り付けるだけなので、既設の空調システムに対しても容易に追加することができる。また、既述した吹出口ユニット10と同様の作用を発揮するため、既設の空調システムの空調ファンの回転数を上記実施形態に係る制御ユニット17で制御すれば、システム全体の省エネルギーを実現できる。もっとも、本変形例に係る吹出口ユニット10Dは、既設の空調システムのみならず、新設する空調システムに適用することもできる。
【0053】
なお、本変形例に係る吹出口ユニット10Eの吹出部18は、図12では円形にしていたが、例えば、図14に示すように長方形であってもよい。
【0054】
ところで、上記空調システム1は、図15に示すようなサーバールーム4Aに適用することもできる。このサーバールーム4Aは、図15に示すように、コールドアイルCが2つのラック列5によって囲まれており、ホットアイルHとコールドアイルCとが完全な形で区画されている。
【0055】
空調システム1がこのようなサーバールーム4Aに適用されている場合、吹出口ユニット10における空気の誘引作用は次のようになる。すなわち、空調システム1が、実施形態に係るサーバールーム4のように、コールドアイルCとホットアイルHとが完全な形で
区画されていないような場合には、吹出口ユニット10における空気の誘引作用は、整流板12の増速作用が支配的である。一方、本変形例に係るサーバールーム4Aのように、コールドアイルCとホットアイルHとが完全な形で区画されているような場合には、吹出口ユニット10における空気の誘引作用は、整流板12の増速作用によるものの他、ラック3に内蔵されているファンの回転数によって変動するコールドアイルCとホットアイルHとの間の圧力バランスの変動という、二つの要素が支配的になる。もっとも、吹出口ユニット10を適用することによる作用効果は、空調システム1をコールドアイルCがホットアイルHと完全な形で区画されていないサーバールーム4に適用する場合と概ね同様である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・空調システム
3・・・ラック
6・・・空調装置
10,10A,10B,10C,10D,10E・・・吹出口ユニット
C・・コールドアイル
H・・ホットアイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室の空調システムであって、
前記情報処理機器の排気が通過するホットアイルから吸引した空気を冷却して、該情報処理機器を冷やす空気が通過するコールドアイルへ送る空調装置と、
前記空調装置から送られる冷気が通過する給気口と、該給気口の周囲に配置される、前記ホットアイルと連通する吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送る吹出口ユニットと、を備える、
情報処理機器室の空調システム。
【請求項2】
前記ホットアイルと前記コールドアイルとは区画されており、
前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルが前記ホットアイルよりも負圧になることで前記吸込口から流出する該ホットアイルの空気を誘引し、温度のばらつきが所定の許容範囲内となった混合気を前記情報処理機器へ送る、
請求項1に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項3】
前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルの上側または下側に配設されており、該吹出口ユニットと前記ラックとの間に挿置された、前記コールドアイルと前記ホットアイルとを隔離する遮蔽板よりもホットアイル側に設けられた、該吹出口ユニットの側面にある前記吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記コールドアイルへ向けて吹き出す、
請求項1または2に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項4】
前記吹出口ユニットは、前記ラックの吸気面を覆うように配設されており、前記空調装置から前記コールドアイルを経由して送られる冷気が通過する前記給気口と、前記ラックの上側あるいは下側の少なくとも何れかに設けられた通気路を経由して前記ホットアイルと連通する前記吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記情報処理機器へ送る、
請求項1または2に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項5】
前記情報処理機器に流入する空気の温度と流出した空気の温度との温度差が小さくなると前記空調装置の風量を減らし、該温度差が大きくなると該空調装置の風量を増やす制御ユニットを更に備える、
請求項1から4の何れか一項に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項6】
前記制御ユニットは、前記情報処理機器に流入する空気の温度が、該情報処理機器を保護する観点から決定される上限の設定温度になると、前記温度差に関わらず前記空調装置の風量を増やす、
請求項5に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項7】
前記吹出口ユニットは、前記給気口を通過した冷気を増速する整流板を有し、該整流板によって増速した冷気で前記吸込口から前記ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送る、
請求項1から6の何れか一項に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項1】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室の空調システムであって、
前記情報処理機器の排気が通過するホットアイルから吸引した空気を冷却して、該情報処理機器を冷やす空気が通過するコールドアイルへ送る空調装置と、
前記空調装置から送られる冷気が通過する給気口と、該給気口の周囲に配置される、前記ホットアイルと連通する吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送る吹出口ユニットと、を備える、
情報処理機器室の空調システム。
【請求項2】
前記ホットアイルと前記コールドアイルとは区画されており、
前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルが前記ホットアイルよりも負圧になることで前記吸込口から流出する該ホットアイルの空気を誘引し、温度のばらつきが所定の許容範囲内となった混合気を前記情報処理機器へ送る、
請求項1に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項3】
前記吹出口ユニットは、前記コールドアイルの上側または下側に配設されており、該吹出口ユニットと前記ラックとの間に挿置された、前記コールドアイルと前記ホットアイルとを隔離する遮蔽板よりもホットアイル側に設けられた、該吹出口ユニットの側面にある前記吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記コールドアイルへ向けて吹き出す、
請求項1または2に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項4】
前記吹出口ユニットは、前記ラックの吸気面を覆うように配設されており、前記空調装置から前記コールドアイルを経由して送られる冷気が通過する前記給気口と、前記ラックの上側あるいは下側の少なくとも何れかに設けられた通気路を経由して前記ホットアイルと連通する前記吸込口とを有し、該給気口を通過した冷気で該吸込口から該ホットアイルの空気を誘引し、前記混合気を前記情報処理機器へ送る、
請求項1または2に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項5】
前記情報処理機器に流入する空気の温度と流出した空気の温度との温度差が小さくなると前記空調装置の風量を減らし、該温度差が大きくなると該空調装置の風量を増やす制御ユニットを更に備える、
請求項1から4の何れか一項に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項6】
前記制御ユニットは、前記情報処理機器に流入する空気の温度が、該情報処理機器を保護する観点から決定される上限の設定温度になると、前記温度差に関わらず前記空調装置の風量を増やす、
請求項5に記載の情報処理機器室の空調システム。
【請求項7】
前記吹出口ユニットは、前記給気口を通過した冷気を増速する整流板を有し、該整流板によって増速した冷気で前記吸込口から前記ホットアイルの空気を誘引し、混合気を前記情報処理機器へ送る、
請求項1から6の何れか一項に記載の情報処理機器室の空調システム。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−87979(P2012−87979A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234299(P2010−234299)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】
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