説明

情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム

【課題】ユーザの視聴操作の内容を表す視聴ログから、時系列を考慮した視聴行動モデルを学習し、視聴行動を予測することができるようにする。
【解決手段】情報処理装置1においては、リモートコントローラ3から送信された時系列データである視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動をモデル化した確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルが学習される。学習後に所定の視聴操作がユーザにより行われた場合、視聴行動モデルを用いて未来の所定の時刻におけるユーザの視聴行動が予測され、ユーザが選局すると予測されるチャンネルで放送される番組に関する情報が表示装置2に表示される。本発明は、パーソナルコンピュータに適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関し、特に、ユーザの視聴操作の内容を表す視聴ログから、時系列を考慮した視聴行動モデルを学習し、視聴行動を予測することができるようにした情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
テレビジョン番組などのコンテンツに対するユーザの視聴行動を予測する技術が各種提案されている。
【0003】
例えば、ユーザの嗜好プロファイルや視聴コンテンツのモデルを用いてユーザの視聴行動を予測する方法が提案されている(特許文献1,2)。また、ユーザの視聴行動を視聴ログを用いて予測する方法として、曜日毎、時刻毎の視聴操作を、頻度、ニューラルネット、ベイジアンネットワークなどを用いてモデル化する方法が提案されている(特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−57713号公報
【特許文献2】特開2009−141952号公報
【特許文献3】特表2006−524009号公報
【特許文献4】特開2009−147904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1または2に記載されている方法によって視聴行動を予測する場合、当然、ユーザの嗜好プロファイルや視聴コンテンツのモデルを作成する必要がある。
【0006】
また、特許文献3または4に記載されている方法によっては、このコンテンツを視聴した後にあのコンテンツを視聴するといったような、時間にまたがるユーザの視聴行動のパターンをモデル化することができない。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ユーザの視聴操作の内容を表す視聴ログから、時系列を考慮した視聴行動モデルを学習し、視聴行動を予測することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面の情報処理装置は、コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルを学習する学習手段と、前記学習手段による学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識する認識手段と、前記認識手段により認識された現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動を前記視聴行動モデルを用いて予測する予測手段と、前記予測手段により予測された視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報を表示させる表示制御手段とを備える。
【0009】
前記予測手段には、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動を生起確率として予測させることができる。
【0010】
前記予測手段には、前記視聴行動モデルの各時刻における各状態の観測確率を等確率と仮定して、前記視聴行動モデルの状態遷移確率に基づいて前記所定時間経過後の各状態の生起確率を計算することにより、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動を予測させることができる。
【0011】
前記予測手段には、前記視聴行動モデルの状態遷移確率に基づいて乱数を用いて試行的に決定した前記視聴行動モデルの前記所定時間経過後までの各状態の生起確率を計算することにより、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動を予測させることができる。
【0012】
前記予測手段には、前記所定時間経過後の生起確率が最大となっている前記視聴行動、または、所定の閾値以上となっている前記視聴行動を、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動として予測させることができる。
【0013】
前記視聴行動モデルは、スパース制約が与えられた、隠れ状態を含む確率的状態遷移モデルの隠れ状態マルコフモデルであるようにすることができる。
【0014】
前記視聴行動モデルは、スパース制約が与えられた、マルチストリーム型隠れ状態マルコフモデルであるようにすることができる。
【0015】
前記視聴行動モデルの学習時に前記学習手段により算出された尤度が閾値より低い場合、または前記視聴行動モデルのエントロピーの値が閾値より高い場合、前記視聴行動モデルを用いた予測を行わせないように前記予測手段を制御する制御手段をさらに設けることができる。
【0016】
前記認識手段による現在のユーザの視聴状態の認識時に得られる尤度が閾値より低い場合、前記認識手段により認識された現在のユーザの視聴状態を起点として予測を行わせないように前記予測手段を制御する制御手段をさらに設けることができる。
【0017】
本発明の一側面の情報処理方法は、コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログを取得し、取得した前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルを学習し、学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識し、認識した現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動を前記視聴行動モデルを用いて予測し、予測した視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報を表示させるステップを含む。
【0018】
本発明の一側面のプログラムは、コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログを取得し、取得した前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルを学習し、学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識し、認識した現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動を前記視聴行動モデルを用いて予測し、予測した視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報を表示させるステップを含む処理をコンピュータに実行させる。
【0019】
本発明の一側面においては、コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログが取得され、取得された前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルが学習される。また、学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態が認識され、認識された現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動が前記視聴行動モデルを用いて予測される。さらに、予測された視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報が表示される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ユーザの視聴操作の内容を表す視聴ログから、時系列を考慮した視聴行動モデルを学習し、視聴行動を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る情報処理システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】視聴行動モデル学習処理について説明するフローチャートである。
【図4】視聴行動予測処理について説明するフローチャートである。
【図5】HMMの例を示す図である。
【図6】left-to-right型のHMMを示す図である。
【図7】スパース制約が与えられたHMMを示す図である。
【図8】マルチストリーム・エルゴディックHMMを示す図である。
【図9】マルチストリーム・エルゴディックHMMを示す他の図である。
【図10】視聴ログの例を示す図である。
【図11】視聴ログに基づいて生成される情報の例を示す図である。
【図12】視聴ログに基づいて生成される情報の他の例を示す図である。
【図13】学習結果の例を示す図である。
【図14】視聴状態の認識結果の例を示す図である。
【図15】予測結果の例を示す図である。
【図16】予測結果の他の例を示す図である。
【図17】画面表示の例を示す図である。
【図18】画面表示の他の例を示す図である。
【図19】情報処理装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図20】コンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[情報処理システムの構成例]
図1は、本発明の一実施の形態に係る情報処理システムの構成例を示すブロック図である。
【0023】
図1の情報処理システムは、情報処理装置1、表示装置2、およびリモートコントローラ3により構成される。表示装置2は、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示部を有するテレビジョン受像機であり、HDMI(High Definition Multimedia Interface)規格のケーブルなどによって情報処理装置1と接続される。
【0024】
リモートコントローラ3は表示装置2を操作するためにユーザによって用いられるコントローラである。リモートコントローラ3には、電源のオン/オフを行うときに操作されるボタン、チャンネルを選局するときに操作されるボタンなどが設けられる。
【0025】
リモートコントローラ3は、選局操作などの、表示装置2を使って番組(テレビジョン番組)を視聴するための操作である視聴操作がユーザにより行われる毎に視聴ログを生成する。視聴ログには、視聴操作の内容を表す情報、視聴操作が行われた日時、曜日の情報が含まれる。
【0026】
リモートコントローラ3は、生成した視聴ログを、USB(Universal Serial Bus)ケーブルなどを介して行われる有線の通信によって、または、ブルートゥース(商標)通信などの無線通信によって情報処理装置1に送信する。リモートコントローラ3により生成された視聴ログは日時の情報を含むものであり、時系列順に並べることが可能な時系列データである。
【0027】
情報処理装置1は、リモートコントローラ3から送信された時系列データである視聴ログを受信し、受信した視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を確率的状態遷移モデルとして学習する。ユーザの視聴行動をモデル化した確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルの学習は、例えば、3ヶ月などの所定の期間に蓄積された視聴ログを用いて行われる。
【0028】
視聴行動モデルとしては、マルチストリーム・エルゴディックHMM(Hidden Markov Model)などの、隠れ状態を含む確率的状態遷移モデルを採用することができる。マルチストリーム・エルゴディックHMMについては後述する。
【0029】
視聴行動モデルの学習後に所定の視聴操作がユーザにより行われ、視聴ログがリモートコントローラ3から送信された場合、情報処理装置1は、視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識する。
【0030】
また、情報処理装置1は、現在のユーザの視聴状態を起点として、視聴行動モデルを用いて未来の所定の時刻までの各状態の生起確率を予測することにより、その所定の時刻におけるユーザの視聴行動を予測する。例えば、ユーザの視聴行動として、未来の所定の時刻においてユーザが選局するチャンネルの番号が予測される。
【0031】
情報処理装置1は、視聴行動を予測した後、内部のメモリなどに記憶されているEPG(Electronic Program Guide)データを参照し、ユーザが選局すると予測されるチャンネルで放送される番組を特定する。情報処理装置1は、番組名、出演者の情報、代表画像などの、特定した番組に関する情報をEPGデータから抽出し、番組の放送開始前に表示装置2に表示させる。
【0032】
これにより、情報処理装置1は、ユーザの嗜好プロファイルや視聴コンテンツのモデルを用いることなく、ユーザの視聴ログから視聴行動を予測することができ、視聴すると予測される番組に関する情報を提示することが可能になる。
【0033】
また、確率的状態遷移モデルを用いてユーザの視聴行動を予測することにより、時間に跨るユーザの視聴パターンを考慮して番組を選択することが可能になる。例えば月曜日の朝7時にCH4で放送される番組を視聴した後に、朝9時にCH8で放送される番組を視聴する視聴パターンと、月曜日の朝8時にCH1で放送される番組を視聴した後に、朝10時からCH10で放送される番組を視聴する視聴パターンがあった場合を考える。この場合、単に視聴操作の履歴に基づいて番組を選択すると、時間の順序で、朝7時にCH4、朝8時にCH1、朝9時にCH8、朝10時にCH10の各CHで放送される番組が選択されることになるが、朝7時にCH4で放送される番組を視聴したときには朝9時にCH8で放送される番組を選択することができ、また、朝8時にCH1で放送される番組を視聴したときには朝10時にCH10で放送される番組を選択することが可能になる。
【0034】
[情報処理装置1の構成例]
図2は、情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。
【0035】
リモートコントローラ3から送信された視聴ログは、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14に入力される。
【0036】
視聴操作入力部11は、視聴操作の内容を表す情報を視聴ログから抽出し、操作IDを出力する。視聴操作入力部11は、表示装置2の電源のオン/オフの操作や各チャンネルの選局操作などの視聴操作と、操作IDとを対応付けた情報を管理している。視聴操作入力部11は、管理している情報に基づいて、視聴ログから抽出した情報により表される視聴操作の内容に対応する操作IDを選択し、出力する。視聴操作入力部11から出力された操作IDは、視聴行動モデルの学習時、視聴行動モデル学習部15に供給され、視聴行動の予測時、視聴状態認識部17に供給される。
【0037】
曜日情報入力部12は、視聴操作が行われた曜日の情報を視聴ログから抽出し、出力する。視聴ログに曜日の情報が含まれていない場合、視聴操作が行われた日時の情報に基づいてその視聴操作が行われた曜日が曜日情報入力部12により特定され、特定された曜日の情報が出力されるようにしてもよい。曜日情報入力部12から出力された曜日の情報は、視聴行動モデルの学習時、視聴行動モデル学習部15に供給され、視聴行動の予測時、視聴状態認識部17に供給される。
【0038】
時刻情報入力部13は、視聴操作が行われた時刻の情報を視聴ログから抽出し、出力する。時刻情報入力部13から出力された時刻の情報は、視聴行動モデルの学習時、視聴行動モデル学習部15に供給され、視聴行動の予測時、視聴状態認識部17に供給される。
【0039】
視聴操作間隔入力部14は、受信した視聴ログに含まれる時刻と、前回受信した視聴ログに含まれる時刻との差によって表される視聴操作の時間間隔である視聴操作間隔を算出し、視聴操作間隔の情報を出力する。視聴操作間隔入力部14から出力された視聴操作間隔の情報は、視聴行動モデルの学習時、視聴行動モデル学習部15に供給され、視聴行動の予測時、視聴状態認識部17に供給される。
【0040】
このように、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14においては、ユーザの視聴ログが取得され、各情報が時系列データとして出力される。視聴操作入力部11から出力される情報は操作IDの時系列データであり、曜日情報入力部12から出力される情報は曜日の時系列データである。また、時刻情報入力部13から出力される情報は時刻の時系列データであり、視聴操作間隔入力部14から出力される情報は視聴操作間隔の時系列データである。
【0041】
視聴行動モデル学習部15は、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14から供給される時系列データ(ストリーム)に基づいて視聴行動モデルを学習する。本実施の形態では、視聴行動モデルとして、スパース制約が与えられたマルチストリーム・エルゴディックHMMが採用される。視聴行動モデル学習部15は、学習によって得られた視聴行動モデルのパラメータをパラメータ記憶部16に記憶させる。
【0042】
なお、操作ID、曜日の情報、時刻の情報、視聴操作間隔の情報の4つの時系列データのうちの、操作ID、曜日の情報、時刻の情報の3つの時系列データを用いて視聴行動モデルの学習が行われるようにすることも可能である。
【0043】
視聴状態認識部17は、視聴行動モデルの学習後に視聴操作がユーザにより行われ、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14から時系列データが供給されたとき、それを受信する。また、視聴状態認識部17は、視聴行動モデルに基づいて、現在のユーザの視聴行動である視聴状態を認識し、視聴状態を表す状態IDを視聴行動予測部18に出力する。
【0044】
視聴行動予測部18は、視聴行動モデルに基づいて、所定時間経過後のユーザの視聴行動を予測する。
【0045】
具体的には、視聴行動予測部18は、視聴状態認識部17から供給された状態IDによって表される現在時刻T(T>0)のユーザの視聴状態を起点として、時刻TからN視聴操作ステップ(N>0)において生起確率が最大になっている視聴行動を予測結果として決定する。時刻TからN視聴操作ステップ(N>0)において生起確率が所定の閾値以上となっている視聴行動が予測結果として決定されるようにしてもよい。視聴行動予測部18は、予測した視聴行動を表す状態IDを表示制御部19に出力する。
【0046】
表示制御部19は、視聴行動予測部18から供給された状態IDにより表される視聴行動がチャンネルを選局する行動である場合、チャンネルを選局して視聴すると予測される番組をEPGデータ記憶部20に記憶されているEPGデータを参照して特定する。表示制御部19は、特定した、視聴すると予測される番組に関する情報をEPGデータから取得し、表示装置2に表示させる。
【0047】
EPGデータ記憶部20は、配信装置から送信されたEPGデータを、放送波を介して、またはインターネットなどのネットワークを介して受信し、記憶する。
【0048】
[情報処理装置1の動作]
図3のフローチャートを参照して、情報処理装置1の視聴行動モデル学習処理について説明する。
【0049】
ステップS1において、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14は、それぞれ、リモートコントローラ3から送信された視聴ログを取得する。視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14は、それぞれ、上述したような時系列データを視聴行動モデル学習部15に出力する。
【0050】
ステップS2において、視聴行動モデル学習部15は、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14から供給された時系列データに基づいて視聴行動モデルを学習する。すなわち、視聴行動モデル学習部15は、視聴行動モデルとしての確率的状態遷移モデルのパラメータを算出する。
【0051】
ステップS3において、パラメータ記憶部16は、視聴行動モデル学習部15による学習によって算出された視聴行動モデルのパラメータを記憶する。その後、処理は終了される。
【0052】
次に、図4のフローチャートを参照して、情報処理装置1の視聴行動予測処理について説明する。
【0053】
この処理は、視聴行動モデルのパラメータがパラメータ記憶部16に記憶されている状態において、所定の視聴操作がユーザにより行われ、新たな視聴ログがリモートコントローラ3から送信されたときに開始される。
【0054】
ステップS11において、視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14は、それぞれ、リモートコントローラ3から送信された視聴ログを取得する。視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14は、それぞれ、時系列データを視聴状態認識部17に出力する。
【0055】
ステップS12において、視聴状態認識部17と視聴行動予測部18は、視聴行動モデルのパラメータをパラメータ記憶部16から読み出す。
【0056】
ステップS13において、視聴状態認識部17は、読み出したパラメータによって規定される視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴行動である視聴状態を認識し、視聴状態を表す状態IDを視聴行動予測部18に出力する。
【0057】
ステップS14において、視聴行動予測部18は、現在時刻Tの視聴状態を起点として、時刻TからN視聴操作ステップの視聴行動を予測する。視聴行動予測部18は、予測結果である視聴行動を表す状態IDを表示制御部19に出力する。
【0058】
ここで、予測対象が時刻TからN視聴操作ステップとなっているのは、通常のHMMでは時間ステップとデータ(操作)ステップが同じになるが、情報処理装置1において処理される視聴ログのデータはデータ毎に時刻の情報を持っているためである。従って、時間ステップとデータ(視聴ログ)ステップが同じではなく、また、言い換えると、各データは、それを時間軸上に並べた場合には等間隔とはならない。そのような時間軸上で等間隔のものとはならないデータを学習したHMMも、時間軸上で等間隔のパターンを表現しているわけではない。
【0059】
ステップS15において、表示制御部19は、視聴行動予測部18から供給された状態IDに基づいて、チャンネルを選局して視聴すると予測される番組を特定し、特定した番組に関する情報を表示装置2に表示させる。その後、処理は終了される。
【0060】
例えば、番組に関する情報が表示された画面においては、番組の視聴予約、または録画予約を設定することが可能とされる。視聴予約、または録画予約が設定された番組の放送時刻になったとき、番組の受信や録画が表示装置2により開始される。
【0061】
[マルチストリーム・エルゴディックHMMについて]
ユーザの視聴行動を予測するために情報処理装置1により用いられるマルチストリーム・エルゴディックHMMについて説明する。
【0062】
図5は、HMMの例を示す図である。
【0063】
HMMは、状態と状態間遷移とを有する状態遷移モデルである。図5は3状態のHMMの例を示している。図5において、丸印はユーザの視聴行動に対応する状態を表し、矢印は状態遷移を表す。
【0064】
また、図5の丸印内のsi(i=1,2,3)は状態を表し、aijは、状態siから状態sjへの状態遷移確率を表す。bi(x)は、状態siへの状態遷移時に、観測値xが観測される出力確率密度関数を表し、πiは、状態siが初期状態である初期確率を表す。出力確率密度関数bi(x)としては、例えば、混合正規確率分布等が用いられる。
【0065】
HMM(連続HMM)は、状態遷移確率aij、出力確率密度関数bi(x)、及び初期確率πiによって定義される。状態遷移確率aij、出力確率密度関数bi(x)、及び初期確率πiを、HMMのパラメータλ={aij, bi(x), πi, i=1,2,・・・,M, j=1,2,・・・,M}という。MはHMMの状態数を表す。
【0066】
HMMのパラメータλを推定する方法としては、Baum-Welchの最尤推定法が広く利用されている。Baum-Welchの最尤推定法は、EMアルゴリズム(EM(Expectation-Maximization) algorithm)に基づくパラメータの推定方法である。
【0067】
Baum-Welchの最尤推定法によれば、観測される時系列データx=x1,x2,・・・,xTに基づき、その時系列データが観測される確率である生起確率から求まる尤度を最大化するように、HMMのパラメータλの推定が行われる。ここで、xtは、時刻tに観測される信号(サンプル値)を表し、Tは、時系列データの長さ(サンプル数)を表す。
【0068】
Baum-Welchの最尤推定法については、例えば、‘‘パターン認識と機械学習(下)’’,C.M.ビショップ著,P.333(英語原書:‘‘Pattern Recognition and Machine Learning (Information Science and Statistics) ’’,Christopher M. BishopSpringer, New York, 2006.)(以下、文献Aという)に記載されている。
【0069】
視聴操作入力部11、曜日情報入力部12、時刻情報入力部13、および視聴操作間隔入力部14からは、時系列データx=x1,x2,・・・,xTが視聴行動モデル学習部15に供給される。視聴行動モデル学習部15は、視聴ログから得られた時系列データx=x1,x2,・・・,xTを用いて、視聴行動モデルであるHMMのパラメータλを推定する。
【0070】
なお、Baum-Welchの最尤推定法は、尤度最大化に基づくパラメータ推定方法ではあるが、最適性を保証するものではなく、HMMの構造やパラメータλの初期値によっては、局所解に収束することがある。
【0071】
HMMは音声認識で広く利用されているが、音声認識で利用されるHMMでは、一般に、状態の数や状態遷移の仕方等はあらかじめ決定される。
【0072】
図6は、音声認識で利用される、left-to-right型のHMMを示す図である。
【0073】
図6の例においては、状態数は3であり、状態遷移は、自己遷移(状態siから状態siへの状態遷移)と、左から右隣の状態への状態遷移とのみを許す構造に制約されている。
【0074】
図6に示すHMMのように、状態遷移に制約があるHMMに対して、図5に示す、状態遷移に制約がないHMM、すなわち任意の状態siから任意の状態sjへの状態遷移が可能なHMMが、エルゴディック(Ergodic)HMMと呼ばれる。
【0075】
エルゴディックHMMは、構造としては最も自由度の高いHMMであるが、状態数が多くなると、パラメータλの推定が困難となる。
【0076】
例えば、エルゴディックHMMの状態数が1000である場合、状態遷移の数は100万(=1000×1000)となる。従って、この場合、パラメータλのうちの例えば状態遷移確率aijについては、100万個の状態遷移確率aijを推定することが必要となる。
【0077】
そこで、状態に対して設定する状態遷移には、スパース(Sparse)な構造であるという制約(スパース制約)をかけることができる。
【0078】
ここで、スパースな構造とは、任意の状態から任意の状態への状態遷移が可能なエルゴディックHMMのような密な状態遷移ではなく、ある状態から状態遷移することができる状態が非常に限定されている構造である。なお、ここでは、スパースな構造であっても、他の状態への状態遷移は少なくとも1つ存在し、また、自己遷移は存在することとする。
【0079】
図7は、スパース制約が与えられたHMMを示す図である。
【0080】
図7の例においては、横方向に4個、縦方向に4個の計16個の状態が2次元空間上に格子状に配置されている。2つの状態を結ぶ双方向の矢印は、その2つの状態の一方から他方への状態遷移と、他方から一方への状態遷移とを表す。図7において、各状態は自己遷移が可能であるが、その自己遷移を表す矢印の図示は省略されている。
【0081】
いま、横方向に隣接する状態どうしの距離、及び、縦方向に隣接する状態どうしの距離を、いずれも1とすると、図7Aは、距離が1以下の状態への状態遷移は可能とし、他の状態への状態遷移はできないというスパース制約が与えられたHMMを示している。
【0082】
また、図7Bは、距離が√2以下の状態への状態遷移は可能とし、他の状態への状態遷移はできないというスパース制約が与えられたHMMを示している。情報処理装置1において用いられる視聴行動モデルとしては、このようなスパース制約が与えられたマルチストリーム・エルゴディックHMMが用いられる。
【0083】
視聴状態認識部17は、学習により得られた視聴行動モデル(HMM)に対してビタビ法を適用し、視聴ログから得られた時系列データx=x1,x2,・・・,xTが観測される尤度を最も大にする状態遷移の過程(状態の系列)である最尤パスを求める。これにより、現在のユーザの視聴行動である視聴状態が認識される。
【0084】
ここで、ビタビ法とは、各状態siを始点とする状態遷移のパスの中で、時刻tに、状態siから状態sjに状態遷移する状態遷移確率aijと、その状態遷移において時系列データx=x1,x2,・・・,xTのうちの時刻tのサンプル値xtが観測される確率とを、時系列データxの長さTに亘って累積した値として表される生起確率を最大にするパス(最尤パス)を決定するアルゴリズムである。
【0085】
視聴行動予測部18は、学習により得られた視聴行動モデル(HMM)に対してフォワードアルゴリズム(Forward algorithm)を適用し、現在のユーザの視聴行動である視聴状態を起点として時刻TからN視聴操作ステップの各状態siの生起確率を計算する。
【0086】
なお、生起確率の計算方法として、各時刻での各状態siの観測確率を等確率と仮定して時刻TからN視聴操作ステップの各状態siの生起確率を状態遷移確率aijに基づいて計算する方法が採用される。また、状態遷移確率aijに基づいて乱数を用いて試行的に決定した時刻TからN視聴操作ステップの各状態siの生起確率を計算する方法が採用されるようにしてもよい。
【0087】
ここで、フォワードアルゴリズムは、各状態siに至る確率を、時間方向に前向きに伝搬することで求められる前向き確率αi(t)を計算するアルゴリズムである。各時刻の各状態の観測確率が与えられている場合、各状態siに至る確率を、前向き確率αi(t)と、後ろ向きに伝搬することで求められる後ろ向き確率βi(t)とを統合した確率値を計算するフォワードバックワードアルゴリズムが用いられるようにしてもよい。
【0088】
ビタビ法については文献AのP.347に記載されている。また、フォワードアルゴリズムについては文献AのP.336に記載されている。
【0089】
図8と図9は、マルチストリーム・エルゴディックHMMの例を示す図である。
【0090】
図8は、操作IDと曜日と時刻の3つの時系列データ(3ストリーム)を用いた場合のマルチストリーム・エルゴディックHMMを示す。図9は、その3つの時系列データに加えて、視聴操作間隔の時系列データ(4ストリーム)を用いた場合のマルチストリーム・エルゴディックHMMを示す。
【0091】
ここで、操作IDと曜日の時系列データに関しては、観測信号として離散値であるシンボルを扱う観測モデルが用られる。また、時刻と視聴操作間隔の時系列データに関しては、観測信号として連続値を扱う観測モデル(正規分布モデル)が用いられる。
【0092】
なお、マルチストリームHMMは、通常のHMMと同様な遷移確率を有する状態から、複数の、異なる確率法則に従ってデータが出力されるようなHMMである。マルチストリームHMMでは、パラメータλのうち、出力確率密度関数bi(x)が時系列データ(ストリーム)ごとに用意される。
【0093】
観測値xが与えられたときの状態iに関する時刻tにおける全体の観測確率は、図8に示す3ストリームの場合は下式(1)のように表される。
【0094】
【数1】

式(1)のbiOP(xtOP)は操作IDの時系列データに対応する出力確率密度関数であり、biday(xtday)は曜日の時系列データに対応する出力確率密度関数である。bitime(xttime)は時刻の時系列データに対応する出力確率密度関数である。それぞれの出力確率密度関数に対して指数として与えられるWOP,Wday,Wtimeは下式(2)の条件を満たす。
【0095】
【数2】

また、観測値xが与えられたときの状態iに関する時刻tにおける全体の観測確率は、図9に示す4ストリームの場合は下式(3)のように表される。
【0096】
【数3】

biduration(xtduration)は視聴操作間隔の時系列データに対応する出力確率密度関数である。それぞれの出力確率密度関数に対して指数として与えられるWOP,Wday,Wtime,Wdurationは下式(4)の条件を満たす。
【0097】
【数4】

このように、情報処理装置1においては、3ストリームを用いた場合には操作ID、曜日、時刻が、4ストリームを用いた場合には操作ID、曜日、時刻、視聴操作間隔が関連付けられた形で、ユーザの視聴行動が学習(統合学習)される。
【0098】
[データの具体例]
図10は、視聴ログの例を示す図である。
【0099】
図10に示すように、リモートコントローラ3から情報処理装置1に送信される視聴ログには、日付、曜日、時刻、視聴操作の内容が含まれる。図10の上から1番目の視聴ログは、11月21日の土曜日の10時55分に、チャンネル1の選局操作が行われたことを表す。
【0100】
図11は、視聴ログに基づいて生成される情報の例を示す図である。
【0101】
図11は、図10に示す視聴ログを曜日毎に分類し、横軸を時間軸、縦軸を日付とする平面上に所定のチャンネルの選局開始の操作と選局終了の操作をプロットした結果を示す。例えば、リモートコントローラ3から送信された視聴ログに基づいて図11に示すような視聴ログが情報処理装置1において生成される。図11の上段は木曜日の視聴行動を表し、中段は金曜日の視聴行動を表す。下段は土曜日の視聴行動を表す。
【0102】
このように、図10に示す視聴ログから生成された、曜日と日付とコンテンツの視聴時間の関係を示す情報に基づいてユーザの視聴行動の学習が行われるようにしてもよい。
【0103】
図12は、視聴ログに基づいて生成される情報の例を示す図である。
【0104】
図12は、図10に示す視聴ログを曜日毎に分類し、横軸を時間軸、縦軸を操作IDとする平面上にプロットした結果を示す。例えば、リモートコントローラ3から送信された視聴ログに基づいて図12に示すような情報が生成される。図12は土曜日の視聴操作を表しており、×印m1は時刻t1に操作IDnで表される操作が行われたことを表す。
【0105】
図13は、図12の情報に基づいてユーザの視聴行動を学習した結果を示す図である。
【0106】
図13において、各時刻に所定の操作が行われたことを表す×印を囲むそれぞれの円は、学習により得られたマルチストリーム・エルゴディックHMMの状態に相当し、円と円を結ぶ矢印はマルチストリーム・エルゴディックHMMの状態遷移に相当する。
【0107】
図14は、図13の学習結果を用いて視聴状態認識部17により行われる視聴状態の認識結果の例を示す図である。
【0108】
図14の例においては、時刻t1、時刻t2、時刻t3の各時刻に取得された視聴ログから、現在のユーザの視聴行動である視聴状態が、破線で示す円C23で表される状態であると認識されている。なお、図14において、円C21は時刻t1の視聴状態に対応し、円C22は時刻t2の視聴状態に対応する。
【0109】
図15は、図14の視聴状態の認識結果を起点として視聴行動予測部18により行われる視聴行動の予測結果の例を示す図である。
【0110】
図15の例においては、時刻t4におけるユーザの視聴行動が、破線で示す円C24で表される状態に対応する行動であると予測されている。
【0111】
図16は、視聴行動の予測結果の他の例を示す図である。
【0112】
図16の例においては、現在のユーザの視聴行動である視聴状態が円C31で表される状態であると認識されている。また、円C31で表される時刻t11における状態を起点として、時刻t12におけるユーザの視聴行動が、破線で示す円C32で表される状態に対応する行動であると予測されている。
【0113】
図17は、番組に関する情報の表示例を示す図である。
【0114】
図17の例においては、表示装置2の表示部の画面全体に、領域A1と、破線で示す領域A2が形成されている。領域A1は、ユーザが現在視聴している番組の映像が表示される領域であり、領域A2は、ユーザが視聴すると予測される番組に関する情報が表示される領域である。
【0115】
例えば、現在時刻が11時である場合、現在視聴中の番組に続けてユーザが視聴すると予測される、11時以降に放送が開始される番組に関する情報が表示される。
【0116】
図17の例においては、11時30分に放送が開始される番組#1に関する情報である代表画像P1、13時に放送が開始される番組#2に関する情報である代表画像P2、14時に放送が開始される番組#3に関する情報である代表画像P3が表示されている。各代表画像の隣には、番組の放送開始時刻が表示されている。代表画像や番組の放送開始時刻の情報はEPGデータから取得された情報である。
【0117】
ユーザがリモートコントローラ3を操作するなどして例えば代表画像P1を選択した場合、番組#1の視聴予約や録画予約が設定され、放送開始時刻の11時30分になったとき、番組#1の選局や録画がユーザの操作によることなく自動的に開始される。
【0118】
このように、ユーザが視聴すると予測される番組に関する情報については、視聴中の番組の映像の隣に表示させることが可能である。視聴操作が行われる毎に視聴ログが取得され、視聴行動が予測されるから、領域A1の表示はユーザにより視聴操作が行われる毎に切り替えられる。
【0119】
図18は、番組に関する情報の他の表示例を示す図である。
【0120】
図18の例においては、表示装置2の画面全体を使って、ユーザが視聴すると予測される番組に関する情報として、番組#11乃至#16のそれぞれの代表画像である代表画像P11乃至P16が表示されている。各代表画像の隣には、番組の放送開始時刻が表示されている。
【0121】
また、図18の例においては、番組#11の次に番組#12を視聴すると予測されていることから、代表画像P11と代表画像P12は、代表画像P11から代表画像P12に向かう矢印で結ばれている。同様に、番組#12の次に番組#13を視聴すると予測されていることから、代表画像P12と代表画像P13は、代表画像P12から代表画像P13に向かう矢印で結ばれている。
【0122】
さらに、番組#11,#12,#13を続けて視聴する視聴パターンとは異なる視聴パターンとして、番組#14,#15を続けて視聴する視聴パターンも予測結果として得られている。番組#14に関する情報である代表画像P14と番組#15に関する情報である代表画像P15は、代表画像P14から代表画像P15に向かう矢印で結ばれている。
【0123】
このように、視聴行動モデルにおいて時刻TからN視聴操作ステップの生起確率が所定の閾値以上となるパスが複数選択され、各パスを構成する状態に対応する視聴行動によって視聴されると予測される番組に関する情報が時系列順に並べて表示されるようにしてもよい。
【0124】
また、代表画像P11が選択され、番組#11の例えば視聴予約が設定された場合、番組#11に続けて視聴すると予測された番組#12,#13についても視聴予約が設定されるといったように、予測された視聴パターンに沿って同じ設定が行われるようにしてもよい。
【0125】
[変形例]
図19は、情報処理装置1の他の構成例を示すブロック図である。
【0126】
図19に示す構成のうち、図2に示す構成と同じ構成には同じ符号を付してある。重複する説明については適宜省略する。図19に示す構成においては、視聴パターン分類部31と視聴パターン変動検出部32が追加して設けられる点で、図2に示す構成と異なる。
【0127】
視聴パターン分類部31による視聴パターンの分類について説明する。
【0128】
視聴行動の予測は、ユーザの視聴パターンに規則性がある場合に行うのが望ましい。ユーザの視聴パターンに規則性がない場合、予測結果に基づいて表示される番組に関する情報は、予測精度の点からは信頼性の低いものになる。
【0129】
ここで、視聴パターンに規則性があるとは、あるユーザが「毎週月曜日から金曜日の朝7時に、毎日、CH1で放送されるニュースを見る」とか、「毎週日曜日の夜18時にCH6で放送される番組を見た後に、夜19時から、CH8で放送される番組を見る」といったような視聴パターンが存在することを意味する。逆に、視聴パターンに規則性がないとは、そのような視聴パターンが存在しないことを意味する。実際には、視聴パターンに規則性があるかないかは1か0というわけではなく、規則性が強い場合から弱い場合へと連続的に分布するものである。
【0130】
視聴パターン分類部31は、視聴行動モデルの学習時に視聴行動モデル学習部15により求められた尤度が閾値より高いか否かを判断する。この判断は、視聴行動の予測が視聴行動予測部18により行われる前の、視聴行動モデルの学習が終了したときなどの所定のタイミングで行われる。
【0131】
視聴パターン分類部31は、尤度が閾値より高い場合、ユーザの視聴パターンには規則性があると判断する。この場合、視聴パターン分類部31は、その視聴行動モデルを有効なものとし、視聴行動モデルを用いた予測を行うことを視聴行動予測部18に許可する。
【0132】
一方、視聴パターン分類部31は、尤度が閾値より低い場合、ユーザの視聴パターンには規則性がないと判断する。この場合、視聴パターン分類部31は、その視聴行動モデルを無効なものとし、視聴行動モデルを用いた予測を行わないように視聴行動予測部18を制御する。
【0133】
なお、視聴行動モデルのパラメータθを用いて表すと、観測信号X(学習に用いられた時系列データ)に関する尤度Lは下式(5)によって求められる。
【0134】
【数5】

これにより、ユーザの視聴パターンに規則性が無いにもかかわらず視聴行動を予測してしまうといった、いわば無駄な予測を抑制することが可能になる。
【0135】
また、学習時の尤度ではなく、学習後の視聴行動モデルのエントロピーを用いて規則性の有無が判断されるようにしてもよい。
【0136】
視聴行動モデルのエントロピーを用いる場合、視聴パターン分類部31は、パラメータ記憶部16に記憶されている視聴行動モデルのパラメータを読み出し、下式(6)に従ってエントロピーHを算出する。
【0137】
【数6】

視聴パターン分類部31は、算出したエントロピーHが閾値より高いか否かを判断する。この判断は、視聴行動モデルの学習が終了し、視聴行動の予測が視聴行動予測部18により行われる前に行われる。
【0138】
視聴パターン分類部31は、エントロピーHが閾値より低い場合、ユーザの視聴パターンには規則性があると判断する。この場合、視聴パターン分類部31は、その視聴行動モデルを有効なものとし、視聴行動モデルを用いた予測を行うことを視聴行動予測部18に許可する。
【0139】
一方、視聴パターン分類部31は、エントロピーHが閾値より高い場合、ユーザの視聴パターンには規則性がないと判断する。この場合、視聴パターン分類部31は、その視聴行動モデルを無効なものとし、視聴行動モデルを用いた予測を行わないように視聴行動予測部18を制御する。
【0140】
なお、ユーザの視聴パターンに規則性がないときに予測を禁止するのではなく、予測は許可するものの、尤度やエントロピーの値に応じた予測結果の信頼度などの情報が、予測結果に基づいて特定された番組に関する情報とともに表示されるようにしてもよい。
【0141】
視聴パターン変動検出部32による視聴パターンの変動検出について説明する。
【0142】
視聴行動の予測は、ユーザの現在の視聴パターン(現在時刻までの視聴行動の遷移)が日常的な視聴パターンである場合に行うことが望ましい。ユーザの現在の視聴パターンが、そのユーザの普段の視聴パターンに沿ったものではない非日常的な視聴パターンである場合、予測結果に基づいて表示される番組に関する情報は、予測精度の観点からは信頼性の低いものになる。
【0143】
ここで、ユーザの現在の視聴パターンが日常的な視聴パターンであるとは、あるユーザが、ある期間において「毎週月曜日から金曜日の朝7時に、毎日、CH1で放送されるニュースを見る」とか、「毎週日曜日の夜18時にCH6で放送される番組を見た後に、夜19時から、CH8で放送される番組を見る」といったような視聴パターンが存在していたときに、ユーザの現在の視聴パターンがその想定通りの視聴パターンであることを意味する。
【0144】
逆に、ユーザの現在の視聴パターンが非日常的な視聴パターンであるとは、ユーザの現在の視聴パターンが、想定する視聴パターンから外れたものになっていることを意味する。この例の場合、「火曜日の朝7時にCH8で放送される番組を見る」とか、「日曜日の夜18時にCH6で放送される番組を見た後に、夜19時から、CH10で放送される番組を見る」といったような視聴パターンは、非日常的な視聴パターンになる。
【0145】
ユーザの現在の視聴パターンが非日常的な視聴パターンである場合、視聴パターンに変動があることが視聴パターン変動検出部32により検出される。実際には、視聴パターンに変動があるかないかは1か0というわけではなく、変動が大きい場合から小さい場合へと連続的に分布するものである。
【0146】
例えば、視聴パターン変動検出部32は、視聴状態の認識時に得られる尤度情報を用いて、視聴パターンの変動を検出する。すなわち、視聴パターン変動検出部32による視聴パターンの変動の検出は、視聴行動モデルの学習後、視聴行動の予測前に行われる。
【0147】
尤度情報としては、例えば、視聴状態認識部17により算出された尤度の対数(対数尤度)の値や、学習サンプル(学習時の時系列データを用いて求められた尤度)に対する、視聴状態の認識時の尤度平均の比を表す値を用いることが可能である。
【0148】
視聴パターン変動検出部32は、尤度情報が閾値より高い場合、ユーザの現在の視聴パターンが日常的なものである、すなわち変動がないと判断する。この場合、視聴パターン変動検出部32は、視聴状態認識部17により認識された視聴状態を有効なものとし、その視聴状態を起点として予測を行うことを視聴行動予測部18に許可する。
【0149】
一方、視聴パターン変動検出部32は、尤度情報が閾値より低い場合、ユーザの現在の視聴パターンが非日常的なものである、すなわち変動があると判断する。この場合、視聴パターン変動検出部32は、視聴状態認識部17により認識された視聴状態を無効なものとし、その視聴状態を起点として予測を行わないように視聴行動予測部18を制御する。
【0150】
これにより、ユーザの現在の視聴パターンが非日常的なものであるにもかかわらず視聴行動を予測してしまうといった、いわば無駄な予測を抑制することが可能になる。
【0151】
なお、ユーザの現在の視聴パターンが非日常的なものであるときに予測を禁止するのではなく、予測は許可するものの、尤度の値に応じた予測結果の信頼度などの情報が、予測結果に基づいて決定された番組に関する情報とともに表示されるようにしてもよい。
【0152】
以上のようにして視聴行動の学習や予測を行う番組は、放送波を介して提供される番組であってもよいし、インターネットなどのネットワークを介して提供される番組であってもよい。
【0153】
また、以上においては、放送される番組の視聴行動の学習や予測を行う場合について説明したが、ユーザの視聴パターンが現れる他のコンテンツを対象として視聴行動の学習や予測が行われるようにしてもよい。
【0154】
例えば、ハードディスクレコーダなどの録画機器に録画されている番組の視聴行動にパターンがある場合、録画済みの番組について学習や予測が行われるようにすることも可能である。また、ラジオを聴く行動やWebページを閲覧する行動にパターンがある場合、それらのコンテンツについて学習や予測が行われるようにすることも可能である。
【0155】
[コンピュータの構成例]
上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
【0156】
図20は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【0157】
CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103は、バス104により相互に接続されている。
【0158】
バス104には、さらに、入出力インタフェース105が接続されている。入出力インタフェース105には、キーボード、マウスなどよりなる入力部106、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部107が接続される。また、入出力インタフェース105には、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる記憶部108、ネットワークインタフェースなどよりなる通信部109、リムーバブルメディア111を駆動するドライブ110が接続される。
【0159】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU101が、例えば、記憶部108に記憶されているプログラムを入出力インタフェース105及びバス104を介してRAM103にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
【0160】
CPU101が実行するプログラムは、例えばリムーバブルメディア111に記録して、あるいは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供され、記憶部108にインストールされる。
【0161】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0162】
本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0163】
1 情報処理装置, 2 表示装置, 3 リモートコントローラ, 11 視聴操作入力部, 12 曜日情報入力部, 13 時刻情報入力部, 14 視聴操作間隔入力部, 15 視聴行動モデル学習部, 16 パラメータ記憶部, 17 視聴状態認識部, 18 視聴行動予測部, 19 表示制御部, 20 EPGデータ記憶部, 31 視聴パターン分類部, 32 視聴パターン変動検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルを学習する学習手段と、
前記学習手段による学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識する認識手段と、
前記認識手段により認識された現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動を前記視聴行動モデルを用いて予測する予測手段と、
前記予測手段により予測された視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報を表示させる表示制御手段と
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記予測手段は、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動を生起確率として予測する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記予測手段は、前記視聴行動モデルの各時刻における各状態の観測確率を等確率と仮定して、前記視聴行動モデルの状態遷移確率に基づいて前記所定時間経過後の各状態の生起確率を計算することにより、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動を予測する
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記予測手段は、前記視聴行動モデルの状態遷移確率に基づいて乱数を用いて試行的に決定した前記視聴行動モデルの前記所定時間経過後までの各状態の生起確率を計算することにより、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動を予測する
請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記予測手段は、前記所定時間経過後の生起確率が最大となっている前記視聴行動、または、所定の閾値以上となっている前記視聴行動を、前記所定時間経過後のユーザの視聴行動として予測する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記視聴行動モデルは、スパース制約が与えられた、隠れ状態を含む確率的状態遷移モデルの隠れ状態マルコフモデルである
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記視聴行動モデルは、スパース制約が与えられた、マルチストリーム型隠れ状態マルコフモデルである
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記視聴行動モデルの学習時に前記学習手段により算出された尤度が閾値より低い場合、または前記視聴行動モデルのエントロピーの値が閾値より高い場合、前記視聴行動モデルを用いた予測を行わせないように前記予測手段を制御する制御手段をさらに備える
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記認識手段による現在のユーザの視聴状態の認識時に得られる尤度が閾値より低い場合、前記認識手段により認識された現在のユーザの視聴状態を起点として予測を行わせないように前記予測手段を制御する制御手段をさらに備える
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項10】
コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログを取得し、
取得した前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルを学習し、
学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識し、
認識した現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動を前記視聴行動モデルを用いて予測し、
予測した視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報を表示させる
ステップを含む情報処理方法。
【請求項11】
コンテンツを視聴するための操作の内容とそれぞれの前記操作の時刻を表す情報を含む視聴ログを取得し、
取得した前記視聴ログに基づいて、ユーザの視聴行動を表す確率的状態遷移モデルである視聴行動モデルを学習し、
学習によって得られた前記視聴行動モデルを用いて、現在のユーザの視聴状態を認識し、
認識した現在のユーザの視聴状態を起点として、所定時間経過後のユーザの視聴行動を前記視聴行動モデルを用いて予測し、
予測した視聴行動によって視聴されることが予測されるコンテンツに関する情報を表示させる
ステップを含む処理をコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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