説明

情報処理装置、情報処理方法及びプログラム

【課題】楽曲の様々な再生状態において、より自然で臨場感のある音を視聴者に提供することができる情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】コンテンツを再生する情報処理装置10を提供する。この情報処理装置10であって、コンテンツを再生する再生部11と、再生部11が再生するコンテンツを、当該コンテンツによる音像が任意の定位位置に定位するように音像定位処理する音像定位処理部14と、再生部11によるコンテンツの再生状態の変化に応じて、音像の定位位置を移動させる制御部17と、を備える。
この構成によれば、様々な再生状態の変化に応じて、コンテンツによる音像を移動させつつ、コンテンツを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な楽曲を屋外に持ち出して、ポータブルオーディオ機器で楽しむオーディオ受聴形態が増えている。ポータブルオーディオ機器によれば、多数の楽曲をメモリ内に蓄積しており、それをヘッドホンやスピーカなどの再生手段を用いて再生するケースが多い。
【0003】
ポータブルオーディオ機器のようなオーディオ機器において、複数の楽曲から任意の楽曲を選択して再生する場合、単に再生ボタンを押したり、例えば前方選択又は後方選択キーなどの選択ボタンを押して次の楽曲を探した後に再生ボタンを押して再生する方法等が採られる。
【0004】
【特許文献1】国際公開第02/065814号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この際、楽曲の再生方法の一例として、新たに楽曲の再生を開始する際に前の楽曲が再生中であれば、その楽曲の音を一旦停止して、新たに選択した楽曲の音をそのまま再生する方法が挙げられる。
【0006】
しかし、このような再生方法では、前の楽曲の再生と新たな楽曲の再生との間に無音時間帯が発生したり、突然別の楽曲に切り替わるため、スムースな音のつながりを視聴者に提供するには到っていない。
【0007】
また、楽曲の再生方法の他の例として、選択した楽曲の音量を徐々に大きくする、いわゆる『フェードイン』により楽曲の再生を開始し、音量を徐々に小さくする、いわゆる『フェードアウト』により楽曲を停止する方法もある。更に、前の楽曲の再生と新たな楽曲の再生との間の無音時間帯を無くすために、新たな楽曲の最初の再生と前の楽曲の最後の再生とを重ねつつ、それぞれフェードイン、フェードアウトしながら再生する、いわゆる『クロスフェード』により、スムースな楽曲のつながりや開始、終了を実現する方法もある。
【0008】
上記の従来の楽曲の再生方法を用いた場合、楽曲の再生と後続する楽曲の再生とのつながり・再生の開始・再生の停止は、ある程度は滑らかになる。しかし、例えば、クロスフェード再生をした場合、複数の楽曲が同じ再生装置から重なって再生されるため、クロスフェードしている間は個々の楽曲が判別し難くなり、楽曲の再生状態が不自然に切り替わることにより視聴者にストレスを与えてしまう。
【0009】
一方、近年の場所を選ばずに良い音を聴きたいという視聴者の要求は更に高まっており、このような視聴者の要求に応えることがオーディオ機器等には求められる。そして、視聴者の要求は、再生中の音質だけでなく、上記の楽曲再生の開始・終了・一時停止・再開・再生する楽曲の切り替え等の再生状態においても、より自然な楽曲の再生することにも及んでいるのが現状である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、楽曲の様々な再生状態において、より自然で臨場感のある音を視聴者に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、コンテンツを再生する情報処理装置であって、コンテンツを再生する再生部と、再生部が再生するコンテンツを、当該コンテンツによる音像が任意の定位位置に定位するように音像定位処理する音像定位処理部と、再生部によるコンテンツの再生状態の変化に応じて、音像の定位位置を移動させる制御部と、を備えることを特徴とする、情報処理装置が提供される。
【0012】
この構成によれば、再生部によりコンテンツが再生され、このコンテンツの再生状態が変化した場合に、制御部が、音像定位処理における定位位置を移動させる。そして、音像定位処理部は、この移動される定位位置に音が定位するように、再生されたコンテンツを音像定位処理する。従って、様々な再生状態の変化に応じて、コンテンツによる音像を移動させつつ、コンテンツを提供することができる。
【0013】
また、制御部は、再生部がコンテンツの再生を開始及び終了する際に、音像の定位位置を移動させてもよい。この構成によれば、再生状態の変化として、再生部がコンテンツの再生を開始する際に、コンテンツによる音像を移動させることができる。更に、再生状態の変化として、再生部がコンテンツの再生を終了する際にも、コンテンツによる音像を移動させることができる。
【0014】
また、制御部は、再生部がコンテンツの再生を開始する際に、コンテンツの視聴者に近づくように音像の定位位置を移動させ、再生部がコンテンツの再生を終了する際に、視聴者から遠ざかるように音像の定位位置を移動させてもよい。この構成によれば、視聴者が聴くコンテンツによる音像は、そのコンテンツの再生が開始される際には、視聴者に近づくように移動し、そのコンテンツの再生が終了する際には、視聴者から遠ざかるように移動することができる。従って、あたかも音の発信源が空間的に移動しているようなコンテンツの再生開始及び終了を実現することができ、この空間的な移動により、視聴者にコンテンツの再生開始又は終了を認識させることができる。
【0015】
また、再生部が再生するコンテンツを複数のコンテンツから選択する選択部を更に備え、再生部が第1コンテンツを再生中に選択部が第2コンテンツを選択した場合、制御部は、第1コンテンツ及び第2コンテンツによる音像の定位位置を移動させながら、再生部に第1コンテンツの再生を終了させ、かつ、第2コンテンツの再生を開始させてもよい。この構成のよれば、再生状態の変化として、第1コンテンツを再生している状態から第2コンテンツを再生する状態へと変化する際に、両コンテンツによる音像を移動させながら、第1コンテンツの再生を終了し、かつ、第2コンテンツの再生を開始することができる。従って、再生するコンテンツを第1コンテンツから第2コンテンツへと、よりスムースに入れ替えることができる。
【0016】
また、制御部は、第1コンテンツによる音像の定位位置を、再生部が再生するコンテンツの視聴者から遠ざかるように移動させつつ、第2コンテンツによる音像の定位位置を、視聴者に近づくように移動させてもよい。この構成によれば、再生が終了される第1コンテンツによる音像を、視聴者から遠ざかるように移動させ、再生が開始される第2コンテンツによる音像を、視聴者に近づくように移動させることができる。従って、第1コンテンツの音像と第2コンテンツの音像とが重なることを防ぐことができる。また、再生するコンテンツを第1コンテンツから第2コンテンツへと、よりスムースに入れ替えることができる。
【0017】
また、複数のコンテンツは、再生順序が決定されており、制御部は、第2コンテンツの再生順序が第1コンテンツの再生順序よりも先の場合と後の場合とで、第1コンテンツ及び第2コンテンツによる音像の定位位置の移動方向を逆にしてもよい。この構成によれば、第2コンテンツの再生順序が第1コンテンツの再生順序よりも先の場合に、一の方向に音像を移動させ、第2コンテンツの再生順序が第1コンテンツの再生順序よりも後の場合に、一の方向に対して逆の方向に音像を移動させることができる。従って、視聴者は、この移動方向により、再生順序通りに再生されているのか、それとも再生順序に対して反対の再生順序のコンテンツが再生されたのかを認識することができる。
【0018】
また、選択部は、再生部が再生するコンテンツを複数のコンテンツから選択する方法を2以上有しており、制御部は、第1コンテンツ及び第2コンテンツによる音像の定位位置を、第2コンテンツが選択された方法毎に異なる方向に移動させてもよい。この構成によれば、音像の移動方向を、第2コンテンツの選択方法によって異ならせることができる。従って、視聴者は、この移動方向の違いにより、第2コンテンツの選択方法が異なることを認識することができる。
【0019】
また、第1コンテンツ及び第2コンテンツによる音像の定位位置を移動させる方向は、再生部が再生するコンテンツの視聴者に対する左右方向及び上下方向を少なくとも含んでもよい。この構成によれば、第2コンテンツを選択する方法が一の方法である場合には、音像を左右方向に移動させることができ、第2コンテンツを選択する方法が他の方法である場合には、音像を上下方向に移動させることができる。従って、音像の定位位置の移動方向により、あたかもいわゆるクロスメディアバー(登録商標、Cross Media Bar : XMB)のようなインターフェイスを視聴者に提供することができる。
【0020】
また、複数のコンテンツには、それぞれ属性情報が対応付けられており、選択部は、第1コンテンツと同じ属性情報が対応付けられた1又は2以上のコンテンツから第2コンテンツを選択する第1方法と、第1コンテンツとは異なる属性情報が対応付けられた1又は2以上のコンテンツから第2コンテンツを選択する第2方法と、を有してもよい。この構成によれば、再生するコンテンツが第1コンテンツから第2コンテンツになる際に、両コンテンツの属性情報が同一である場合と、両コンテンツの属性情報が異なる場合とで、音像が移動する方向を異ならせることができる。従って、視聴者は、再生するコンテンツの属性情報が、同じであるのか、異なるのかを、この移動方向によって認識することができる。
【0021】
また、再生部がコンテンツの再生を開始する際に、コンテンツをフェードインさせ、再生部がコンテンツの再生を終了する際に、コンテンツをフェードアウトさせる音量可変部を更に備えてもよい。この構成よれば、音量可変部により、コンテンツの再生を開始する際にフェードインさせることができ、コンテンツの再生を終了する際にフェードアウトさせることができる。従って、コンテンツの再生開始及び終了を、よりスムースにすることができる。
【0022】
また、第1コンテンツの再生音量を減少させつつ、第2コンテンツの再生音量を増加させることにより、第1コンテンツと第2コンテンツとをクロスフェードさせる音量可変部を更に備えてもよい。この構成によれば、再生部が再生するコンテンツを第1コンテンツから第2コンテンツへ入れ替える際に、音量可変部により、両コンテンツをクロスフェードさせることができる。従って、再生するコンテンツの入れ替えを、よりスムースにすることができる。
【0023】
また、制御部は、再生部がコンテンツの再生を一時停止又は再開する際に、音像の定位位置を移動させてもよい。この構成によれば、再生状態の変化として、再生部がコンテンツの再生を一時停止する際に、コンテンツによる音像を移動させることができる。更に、再生状態の変化として、再生部がコンテンツの再生を再開する際にも、コンテンツによる音像を移動させることができる。
【0024】
また、音像定位処理部は、音像の定位位置が相異なる複数の音像定位フィルタを有し、制御部は、コンテンツが再生部で再生されることにより得られるオーディオ信号を、複数の音像定位フィルタに振り分けて入力することにより、音像の定位位置を移動させてもよい。この構成によれば、制御部がオーディオ信号を複数の音像定位フィルタに振分けることにより、音像の定位位置を移動させることができる。従って、音像定位処理における定位位置の変更に要する時間を短縮することができ、より早い処理を実現できる。
【0025】
また、音像定位処理部は、音像の定位位置を変更可能な音像定位フィルタを有し、制御部は、音像の定位位置を決定するための音像定位フィルタの係数を変更することにより、音像の定位位置を移動させてもよい。この構成によれば、制御部が音像定位フィルタの係数を変更することにより、音像の定位位置を移動させることができる。従って、音像の定位位置を移動させることができる。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンテンツを再生し、再生中のコンテンツに対して音像定位処理する際に、コンテンツの再生状態の変化に応じて、音像定位処理による音像の定位位置を移動させることを特徴とする、情報処理方法が提供される。この構成によれば、様々な再生状態の変化に応じて、コンテンツによる音像を移動させつつ、コンテンツを提供することができる。
【0027】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、コンテンツを再生する再生手段と、再生手段が再生するコンテンツを、当該コンテンツによる音像が任意の定位位置に定位するように音像定位処理する音像定位処理手段と、再生手段によるコンテンツの再生状態の変化に応じて、音像の定位位置を移動させる制御手段と、
として機能させるためのプログラムが提供される。この構成によれば、様々な再生状態の変化に応じて、コンテンツによる音像を移動させつつ、コンテンツを提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明によれば、楽曲の様々な再生状態において、より自然で臨場感のある音を視聴者に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
<1.第1実施形態>
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る楽曲再生装置について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る楽曲再生装置の構成を説明するための説明図である。
【0031】
楽曲再生装置10は、本発明に係る情報処理装置の一例であって、図1に示すように、複数のコンテンツのデジタルデータを記録した記録装置20と、サウンドを出力する出力装置とに接続される。そして、楽曲再生装置10は、再生するコンテンツのデジタルデータを記録装置20から選択して再生し、再生したコンテンツのサウンドを出力装置を介してコンテンツの視聴者(以下『リスナ』ともいう。)に提供する。
【0032】
この際、楽曲再生装置10は、コンテンツの再生状態の変化に応じて、コンテンツによるサウンドの音像の定位位置を移動させる。本実施形態では、この『再生状態の変化』が例えば『コンテンツの再生開始』又は『コンテンツの再生終了』である場合について説明する。つまり、本実施形態で『再生状態』とは『再生中』・『再生していない状態』等を示す。そして、この『再生していない状態』から『再生中』への変化を『コンテンツの再生開始』を示し、『再生中』から『再生していない状態』への変化を『コンテンツの再生終了』を示す。
【0033】
尚、再生するコンテンツは、例えばモノラルサウンドの楽曲(例えば『楽曲1〜楽曲n』)であり、出力装置は、例えばヘッドホン30である場合について以下では説明する。
【0034】
(1−1.楽曲再生装置10の構成)
楽曲再生装置10は、図1に示すように、選択部11と、再生部12と、音量可変部13と、音像定位処理部14と、D/A変換部15と、増幅部16と、制御部17と、を有する。
【0035】
選択部11は、選択回路111を有し、選択回路111は、記録装置20と再生部12とに接続される。そして、選択回路111は、再生する楽曲のデジタルデータを記録装置20から選択して取得し、取得したデジタルデータを再生部12に出力する。尚、この選択回路111は、図示しない別途の制御装置等に接続されて、視聴者の操作や予め定められた設定により楽曲を選択してもよい。
【0036】
再生部12は、再生回路121を有し、再生回路121は、選択部11と音量可変部13と制御部17とに接続される。そして、再生回路121は、選択部11が選択した楽曲のデジタルデータを取得して、その楽曲を再生して、再生した信号(以下『オーディオ信号』ともいう。)を音量可変部13に出力する。
【0037】
また、再生回路121は、図示しない別途の制御装置等に接続されて、視聴者の操作や予め定められた設定により楽曲の再生を開始・終了する。そして、再生回路121は、『再生状態情報』、つまり再生中か再生していない状態かを示す情報を制御部17に出力する。
【0038】
音量可変部13は、音量可変回路131を有し、音量可変回路131は、再生部12と音像定位処理部14と制御部17とに接続される。そして、音量可変回路131は、再生部12が再生した楽曲のオーディオ信号の音量を調整して音像定位処理部14に出力する。
【0039】
この際、音量可変回路131は、制御部17によって制御されて音量を調整する。音量可変回路131は、例えば再生状態の変化が楽曲の再生開始である場合(以下単に『再生開始時』ともいう。)には、その楽曲がフェードインするように音量を所定の大きさまで増加させる。一方、音量可変回路131は、例えば再生状態の変化が楽曲の再生終了である場合(以下単に『再生終了時』ともいう。)には、その楽曲がフェードアウトするように音量を減少させる。
【0040】
音像定位処理部14は、音像定位処理回路141を有し、音像定位処理回路141は、音量可変部13とD/A変換部15と制御部17とに接続される。この音像定位処理回路141は、音量可変部13からのオーディオ信号に対して、そのオーディオ信号の音像が定位する位置(以下『定位位置』や『音像定位位置』ともいう。)を変更する処理(以下『音像定位処理』ともいう。)を行い、左チャンネル信号と右チャンネル信号とを生成する。そして、左チャンネル信号及び右チャンネル信号は、D/A変換部15に出力される。
【0041】
この際、音像定位処理回路141は、音像定位処理における音像の定位位置を任意に変更することが可能であり、この定位位置は、制御部17によって移動される。この際、定位位置は、再生開始時には、その楽曲の音像がリスナに近づくように移動され、再生終了時には、その楽曲の音像がリスナから遠ざかるように移動される。より具体的には、例えば、定位位置は、再生開始時には、リスナの左前方から正面前方へと移動され、再生終了時には、リスナの正面前方から右前方へと移動される。
【0042】
この音像定位処理回路141の具体的な構成例について図2を参照して説明する。図2は、音像定位処理部の構成例を説明するための説明図である。
【0043】
音像定位処理回路141は、図2に示すように、音像定位フィルタ141L,141Rを有する。尚、端子C1は音量可変部13に接続され、端子C2,C3はD/A変換部15に接続され、端子C2からは左チャンネル信号が出力され、端子C3からは右チャンネル信号が出力される。
【0044】
音像定位フィルタ141L,141Rはそれぞれ、例えば図3に示すようなFIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter)により構成される。図3は、音像定位フィルタを説明するための説明図である。
【0045】
FIRフィルタは、入力した楽曲のオーディオ信号に、所定のインパルス応答を畳み込み演算処理するフィルタの一例であって、図3に示すように、遅延器D11〜D1nと係数器T11〜T1n+1と加算器A11〜A1nとを有する。
【0046】
係数器T11〜T1n+1は、入力したオーディオ信号を計数値倍する。遅延器D11〜D1nは、入力したオーディオ信号を所定の遅延量だけ遅延させる。加算器A11〜A1nは、遅延器D11〜D1n及び係数器T11〜T1n+1のいくつかを通過した2つオーディオ信号加算する。
【0047】
このような構成によりFIRフィルタは、入力したオーディオ信号に所定のインパルス応答を畳み込み演算処理することができる。
【0048】
従って、図2に示すように、音像定位処理回路141は、音像定位フィルタ141L又は音像定位フィルタ141Rによりオーディオ信号に畳み込み演算処理を行い、左チャンネル信号又は右チャンネル信号を生成する。
【0049】
この際、係数器T11〜T1n+1の係数値は、所定の定位位置に音像を定位させる伝達関数(頭部伝達関数:Head Related Transfer Function)により決定される。つまり、音像定位フィルタ141Lの係数器T11〜T1n+1の係数値は、ユーザの左耳に対する頭部伝達関数により決定される。そして、音像定位フィルタ141Rの係数器T11〜T1n+1の係数値は、ユーザの右耳に対する頭部伝達関数により決定される。
【0050】
換言すれば、所望の定位位置に応じた頭部伝達関数により音像定位フィルタ141L,141Rの係数値を変更することにより、音像定位処理回路141は所望の定位位置に音像を定位させることができる。
【0051】
従って音像定位処理回路141によれば、このような畳み込み処理をリスナの右耳への音と左耳への音とを別々に行い、右チャンネル信号と左チャンネル信号とを生成することにより、リスナに対する所定の定位位置に音像を定位させる音像定位処理を行うことができる。そして、この定位位置を順次変更していくことにより、定位位置を移動させることができる。尚、この音像定位フィルタ141L,141Rの係数値は、制御部17により変更される。
【0052】
再び図1を参照して、楽曲再生装置10の構成の説明に戻る。つまり、楽曲再生装置10が有する残りの構成であるD/A変換部15と増幅部16と制御部17とについて説明する。
【0053】
D/A変換部15は、音像定位処理部14と増幅部16とに接続させる。そして、D/A変換部15は、音像定位処理部14が出力したデジタル信号である左チャンネル信号又は右チャンネル信号をアナログ信号に変換して、増幅部16に出力する。より具体的には、D/A変換部15は、D/A変換回路151L,151Rを有する。D/A変換回路151Lは、音像定位処理部14からの左チャンネル信号をアナログ信号に変換して増幅部16に出力する。D/A変換回路151Rは、音像定位処理部14からの右チャンネル信号をアナログ信号に変換して増幅部16に出力する。
【0054】
増幅部16は、D/A変換部15とヘッドホン30とに接続される。そして、増幅部16は、アナログ化された左チャンネル信号と右チャンネル信号とを増幅してヘッドホン30に出力する。より具体的には、増幅部16は、増幅器161L,161Rを有する。増幅器161Lは、D/A変換回路151Lからの左チャンネル信号を増幅してヘッドホン30の左耳用スピーカに出力する。増幅器161Rは、D/A変換回路151Rからの右チャンネル信号を増幅してヘッドホン30の左耳用スピーカに出力する。尚、この増幅器161L,161Rは、図示しない別途の制御装置等に接続されて、視聴者の操作や予め定められた設定により信号の増幅量が変更されてもよい。
【0055】
制御部17は、再生部12と音量可変部13と音像定位処理部14とに接続される。そして、制御部17は、再生部12から受け取った楽曲の再生状態に基づいて、音量可変部13の音量を変更させると共に、音像定位処理部14の処理における音像定位位置を移動させる。
【0056】
この制御部17の具体的な構成について説明すれば、以下のようになる。
すなわち、制御部17は、再生状態取得部171と、音像定位処理判断部172と、音量変更部173と、定位位置取得部174と、定位位置変更部175と、係数記録部176と、を有する。
【0057】
再生状態取得部171は、再生部12と音像定位処理判断部172とに接続される。そして、再生状態取得部171は、再生部12から再生状態情報を取得して、音像定位処理判断部172に出力する。
【0058】
音像定位処理判断部172は、再生状態取得部171と音量変更部173と定位位置変更部175とに接続される。そして音像定位処理判断部172は、再生状態取得部171からの再生状態情報に応じて、『フェードイン信号』又は『フェードアウト信号』を音量変更部173に出力する。更に音像定位処理判断部172は、この再生状態情報に応じて、『左方接近信号』又は『右方離隔信号』を定位位置変更部175に出力する。
【0059】
フェードイン信号は、楽曲をフェードイン再生させることを示す信号であり、フェードアウト信号は、楽曲をフェードアウト再生させることを示す信号である。また、左方接近信号は、音像の定位位置をユーザの左前方から正面前方へと移動させて、ユーザに接近するように音像を移動させる信号であり、右方離隔信号は、音像の定位位置をユーザの正面前方から右前方へと移動させて、ユーザから離隔するように音像を移動させる信号である。
【0060】
より具体的には、再生状態情報が再生していない状態から再生中に変化した場合、つまり再生開始時には、音像定位処理判断部172は、音量変更部173にフェードイン信号を出力し、定位位置変更部175に左方接近信号を出力する。一方、再生状態情報が再生中から再生していない状態に変化した場合、つまり再生終了時には、音像定位処理判断部172は、音量変更部173にフェードアウト信号を出力し、定位位置変更部175に右方離隔信号を出力する。
【0061】
音量変更部173は、音像定位処理判断部172と音量可変部13とに接続される。そして、音量変更部173は、音像定位処理判断部172からのフェードイン信号又はフェードアウト信号に基づいて、音量可変部13の音量、つまりオーディオ信号の増幅量を変更する。
【0062】
より具体的には、音量変更部173は、フェードイン信号を受信した場合、音量可変部13の増幅量を所定の大きさまで増加させ、フェードアウト信号を受信した場合、音量可変部13の増幅量を約0となるまで減少させる。
【0063】
また、音量変更部173は、フェードアウト信号を受信して音量可変部13の増幅量を約0となるまで減少させる場合に、音量可変部13の増幅量が約0になると、再生を終了させるための『終了信号』を再生部12に出力する。
【0064】
定位位置取得部174は、音像定位処理部14と定位位置変更部175とに接続される。そして、定位位置取得部174は、音像定位処理部14が行う音像定位処理における音像の定位位置を示す情報(以下『定位位置情報』ともいう。)を取得して、定位位置変更部175に出力する。この定位位置は、例えば上述のように頭部伝達関数に基づく係数値に対応する。従って、定位位置取得部174は、定位位置情報として例えばこの係数値を取得してもよい。
【0065】
定位位置変更部175は、音像定位処理判断部172と定位位置取得部174と係数記録部176と音像定位処理部14に接続される。そして、定位位置変更部175は、音像定位処理判断部172からの左方接近信号又は右方離隔信号に基づいて、音像定位処理部14の音像定位処理における音像の定位位置を移動させる。
【0066】
より具体的には、例えば、所望の定位位置に対応した頭部伝達関数の係数値は、係数記録部176に予め複数記憶されている。そして定位位置変更部175は、左方接近信号又は右方離隔信号を受信した場合、その信号が示す方向へと定位位置を移動させるための頭部伝達関数による係数値を係数記録部176から取得して、音像定位処理部14に出力する。更に音像定位処理部14は、FIRフィルタの係数器T11〜T1n+1の係数値を、受け取った係数値に変更することにより、定位位置を移動させる。
【0067】
この際、定位位置変更部175は、定位位置取得部174からの定位位置情報に基づいて、所望の定位位置に定位位置が移動したかを判断しつつ、この定位位置を変更してもよい。
【0068】
(a.音像定位処理部14の他の構成例)
以上、本実施形態に係る楽曲再生装置10の構成について説明した。
尚、上記では、音像定位処理部14が音像定位処理回路141を有し、音像定位処理回路141が2つの音像定位フィルタ141L,141Rを有する場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。この音像定位処理部14は、音像定位処理を行うことができれば如何なる構成であってもよい。従って、本実施形態に係る楽曲再生装置10の動作を説明する前に、この音像定位処理部14の他の構成例について説明する。
【0069】
(a1.第1の変更例)
第1の変更例に係る音像定位処理部14M1の構成を図4に示す。
第1の変更例に係る音像定位処理部14M1は、音像定位処理回路141Mを有する。そして音像定位処理回路141Mは、図4に示すように、上記の音像定位フィルタ141L,141Rに加えて、更に時間差付加手段142とレベル差付加手段143とを有する。
【0070】
時間差付加手段142は、遅延器142L,142Rにより構成される。
遅延器142L,142Rのそれぞれは、音像定位フィルタ141L又は音像定位フィルタ141Rに接続される。そして、遅延器142L,142Rのそれぞれは、音像定位フィルタ141L又は音像定位フィルタ141Rから出力される左チャンネル信号又は右チャンネル信号を所定の遅延量だけ遅延させることにより左右の時間差を付加する。
【0071】
レベル差付加手段143は、レベル制御器143L,143Rにより構成される。
レベル制御器143L,143Rのそれぞれは、遅延器142L又は遅延器142Rに接続される。そして、レベル制御器143L,143Rのそれぞれは、遅延器142L又は遅延器142Rが時間差を付加した左チャンネル信号又は右チャンネル信号にレベル差を付加して、D/A変換部15に出力する。
【0072】
この際、音像定位フィルタ141L,141Rの係数値だけでなく、遅延器142L,142Rの各遅延量とレベル制御器143L,143Rの各レベル量とも、所定の頭部伝達関数に基づいて制御部17により変更される。
【0073】
このような構成の第1の変更例に係る音像定位処理部14M1によれば、音像定位フィルタ141L,141Rによるインパルス応答の畳み込み処理だけでなく、左チャンネル信号及び右チャンネル信号に時間差及びレベル差を付加することができる。従って、この音像定位処理部14M1によれば、音像定位処理の精度を向上させることができる。更に、レベル制御器143L,143Rのレベルを連続的に変更することにより、音像の移動をより円滑に行うことができる。
【0074】
尚、この構成による音像定位位置の変更についての詳しい説明については、本願出願人による上記特許文献1に記載されているため、ここでは省略する。
【0075】
(a2.第2の変更例)
第2の変更例に係る音像定位処理部14M2の構成を図5に示す。
図4に示したように、第2の変更例に係る音像定位処理部14M2は、レベル制御器144L,144Rと固定音像定位処理回路145L,145Rと加算器146L,146Rとを有する。
【0076】
レベル制御器144L,144Rのぞれぞれは、音量可変部13に接続される。そして、レベル制御器144L,144Rのぞれぞれは、音量可変部13からのオーディオ信号にレベル差を付加する。また、このレベル制御器144L,144Rのレベルは、制御部17により変更される。
【0077】
固定音像定位処理回路145L,145Rのぞれぞれは、レベル制御器144L又はレベル制御器144Rに接続され、レベル制御器144L又はレベル制御器144Rからのレベル差が付加されたオーディオ信号を音像定位処理する。この固定音像定位処理回路145L,145Rは、例えば、音像定位位置が固定された図2の音像定位処理回路141又は図4の音像定位処理回路141Mと同様に構成される。
【0078】
より具体的には、固定音像定位処理回路145Lは、リスナの左前方に音像を定位させるフィルタにより構成されて、リスナの左前方に定位した場合のインパルス応答を再現する。また、固定音像定位処理回路145Rは、リスナの右前方に音像を定位させるフィルタにより構成されて、リスナの右前方に定位した場合のインパルス応答を再現する。
【0079】
加算器146Lは、固定音像定位処理回路145L,145Rのぞれぞれの左チャンネル信号を加算して、D/A変換回路151Lに出力する。加算器146Rは、固定音像定位処理回路145L,145Rのぞれぞれの右チャンネル信号を加算して、D/A変換回路151Rに出力する。
【0080】
この第2の変更例に係る音像定位処理部14M2によれば、レベル制御器144L,144Rの値を連続的に変化させることにより、入力した楽曲の信号を各固定音像定位処理回路145L,145Rに供給するレベルを変更することができる。つまり、2つの固定音像定位処理回路145L,145Rに振分けるオーディオ信号のレベルを変更することができる。従って、固定音像定位処理回路145Lにより左前方に定位する音像の音量と、固定音像定位処理回路145Rにより右前方に定位する音像の音量と、のバランスを調整することにより、音像の定位位置を移動させることができる。
【0081】
このような構成の第1の変更例に係る音像定位処理部14M2によれば、制御部17がレベル制御器144L,144Rの値を変更するだけで、音像の定位位置を変更できるので、回路構成を単純にすることができ、音像定位処理に要する時間を短縮することができる。
【0082】
(1−2.楽曲再生装置10の動作)
以上、音像定位処理部14の他の構成例も含めて、本実施形態に係る楽曲再生装置10について説明した。次に、図6〜図8を参照して、上記の構成を有する本実施形態に係る楽曲再生装置10の動作について説明する。尚以下では、楽曲の再生状態の変化が楽曲の再生開始時と再生終了時である場合の動作について説明する。
【0083】
(a.再生開始時)
まず、選択部11が、再生する楽曲のオーディオ信号を記録装置20から選択して取得し、このオーディオ信号を再生部12に出力する。そして、再生部12は、リスナの操作や予め定められた設定により、このオーディオ信号を再生する。更に再生部12は、再生状態情報を再生していない状態から再生中に切り替え、この再生状態情報を制御部17に出力する。
【0084】
このオーディオの再生開始時に行われる楽曲再生装置10の動作を図6に示す。
ステップS11において、再生状態取得部171を介して再生状態情報を取得した音像定位処理判断部172は、再生状態が変化したかどうかを判断する。より具体的には、図6に示すように、音像定位処理判断部172は、再生状態情報が再生していない状態から再生中へと変化したか、つまり再生状態の変化が再生開始か否かを判断する。そして、音像定位処理判断部172は、再生開始であると判断した場合、音量変更部173にフェードイン信号を出力すると共に、定位位置変更部175に左方接近信号を出力し、ステップS12に進む。
【0085】
ステップS12において、左方接近信号を受け取った定位位置変更部175は、音像定位処理部14の音像の定位位置をリスナの左前方となるように設定する。より具体的には、まず定位位置変更部175は、定位位置が左前方となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部175は、この係数値を音像定位処理部14に出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。
【0086】
ステップS12の処理後はステップS13に進み、再生部12が楽曲のデジタルデータを再生している状態で、音量可変部13が音量を調節してフェードイン再生することにより、楽曲がフェードインにより再生される。より具体的には、フェードイン信号を受け取った音量変更部173は音量可変部13のオーディオ信号の増幅量を徐々に所定の値まで増加させ、音量可変部13はこの増幅量によりオーディオ信号を増幅する。
【0087】
ステップS13の処理後はステップS14に進み、定位位置変更部175は、音像の定位位置をユーザの正面前方に向けて移動させる。より具体的には、定位位置変更部175は、現在の定位位置よりも正面前方にずれた位置が定位位置となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部175は、この係数値を音像定位処理部14に出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。更に定位位置変更部175は、この動作を繰り返すことにより、定位位置を移動させる。
【0088】
このステップS14以降、つまり定位位置が移動されている状態でステップS15が処理される。このステップS15では、定位位置取得部174と定位位置変更部175とにより定位位置がユーザの正面前方となったか否かが判断される。より具体的には、定位位置取得部174は、現在の定位位置を示す定位位置情報を取得して定位位置変更部175に出力する。更に定位位置変更部175は、定位位置情報が表す現在の定位位置が、正面前方であるか否かを判断する。そして定位位置変更部175が定位位置が正面前方にあると判断した場合に、ステップS16に進む。
【0089】
ステップS16において、定位位置変更部175は定位位置の変更を終了する。そしてステップS16の処理後は、定位位置が正面前方に設定された状態で楽曲の再生が続行される。尚、上記ステップS11〜S16が行われている間、音像定位処理部14により定位処理されたオーディオ信号の左チャンネル信号及び右チャンネル信号は、D/A変換部15と増幅部16とを介して、ヘッドホン30からリスナにサウンドとして供給されていることは言うまでもない。
【0090】
上記の動作によれば、再生開始時にリスナが聴くサウンドの音像の定位位置がリスナの左前方から正面前方へと移動されながら、楽曲がフェードイン再生される。この音像が移動している様子を模式的に図7に示す。図7は、音像定位位置が移動する様子を概念的に説明するための説明図である。
【0091】
図7では、音像の定位位置181,182,183を模式的にスピーカとして示した。また、図7において、リスナはx軸正の位置でx軸負の方向を向いるとする。そして、y軸負の方向はリスナにとって左方向であり、y軸正の方向はリスナにとって右方向であり、z軸正の方向はリスナにとって上方向であり、z軸負の方向はリスナにとって下方向であるとする。
【0092】
再生開始時、音像の定位位置は、リスナの左前方、つまり定位位置181に設定されている。そして、楽曲がフェードイン再生されながら、楽曲の音像が正面前方へと移動される。
【0093】
更に、楽曲の音像は、移動を続け、ユーザの正面前方の定位位置182へと移動する。そして、音像は、定位位置182で停止し、楽曲の再生は続行される。
【0094】
(b.再生終了時)
以上、再生開始時の楽曲再生装置10の動作について説明した。
次に、再生終了時の楽曲再生装置10の動作について説明する。
【0095】
まず、楽曲の再生中、つまり再生部12が出力する再生状態情報が再生中の場合に、楽曲の再生が終了したり、外部の制御装置により楽曲の再生終了が選択されると、再生部12は、再生状態を再生中から再生していない状態に切り替えて、この再生状態を制御部17に出力する。
【0096】
このオーディオの再生終了時に行われる楽曲再生装置10の動作を図8に示す。
ステップS21において、再生状態取得部171を介して再生状態情報を取得した音像定位処理判断部172は、再生状態が変化したかどうかを判断する。より具体的には、図8に示すように、音像定位処理判断部172は、再生状態情報が再生中からから再生していない状態へと変化したか、つまり再生状態の変化が再生終了か否かを判断する。そして、音像定位処理判断部172は、再生終了であると判断した場合、音量変更部173にフェードアウト信号を出力すると共に、定位位置変更部175に右方離隔信号を出力し、ステップS22に進む。
【0097】
ステップS22では、再生中の楽曲のフィードアウトが開始される。より具体的には、フェードアウト信号を受け取った音量変更部173は音量可変部13のオーディオ信号の増幅量を徐々に減少させ、音量可変部13はこの増幅量によりオーディオ信号を増幅する。そして、ステップS23に進む。
【0098】
ステップS23において、定位位置変更部175は、ユーザの正面前方から右前方に向けた音像の定位位置の移動を開始させる。より具体的には、定位位置変更部175は、現在の定位位置よりも右前方にずれた位置が定位位置となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部175は、この係数値を音像定位処理部14に出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。更に定位位置変更部175は、この動作を繰り返すことにより、定位位置を移動させる。
【0099】
このステップS23以降、つまり定位位置が移動されている状態でステップS24が処理される。このステップS15では、定位位置取得部174と定位位置変更部175とにより定位位置がユーザの左前方となったか否かが判断される。より具体的には、定位位置取得部174は、現在の定位位置を示す定位位置情報を取得して定位位置変更部175に出力する。更に定位位置変更部175は、定位位置情報が表す現在の定位位置が、左前方であるか否かを判断する。そして定位位置変更部175が定位位置が左前方にあると判断した場合に、ステップS25に進む。
【0100】
ステップS25において、定位位置変更部175は定位位置の変更を終了する。
【0101】
ステップS25の処理後はステップS26に進み、音量変更部173は、音量可変部13によるフェードアウトが完了したかを判断する。そして、音量可変部13がフェードアウトが完了したと判断した場合に、ステップS27に進む。
【0102】
ステップS27において、音量変更部173は、フェードアウトを完了した場合、再生部12に終了信号を出力し、再生部12は、終了信号を受けた場合、楽曲のデジタルデータの再生を停止する。
【0103】
上記の動作によれば、再生終了時にリスナが聴くサウンドの音像の定位位置がリスナの正面前方から左前方へと移動されながら、楽曲がフェードアウトされる。
【0104】
図7に示すように、再生終了時、楽曲がフェードアウトされると共に、リスナの正面前方、つまり定位位置183に設定されていた音像の定位位置は、右前方へと移動される。
【0105】
更に、楽曲の音像は、移動を続け、ユーザの右前方の定位位置183へと移動する。そして、音像は定位位置183で停止し、楽曲の再生も終了する。
【0106】
(1−3.楽曲再生装置10による効果)
以上、本実施形態に係る楽曲再生装置10の構成及び動作について説明した。
この楽曲再生装置10によれば、再生開始時には、例えばリスナの左前方から正面前方へとリスナに近づくように楽曲の音像を移動することができ、再生終了時には、例えばリスナの正面前方から右前方へとリスナから遠ざかるように楽曲の音像を移動することができる。
【0107】
このように再生の開始時又は終了時に音像の位置を移動させることにより、これまでにない全く新しい楽曲再生の開始及び終了状態をリスナに提供することができる。つまり、楽曲の再生開始時に音像の定位位置が左前方から正面前方へと移動することにより、正面に配置されたステージ上において、あたかも演奏者がステージ左手から楽曲を演奏しながら登場したような感覚をリスナに与えることができる。同様に、楽曲の再生終了時に音像の定位位置が正面前方から右前方へと移動することにより、ステージ上において、あたかも演奏者がステージ右手へと楽曲を演奏しながら退場したような感覚をリスナに与えることができる。
【0108】
更に再生開始時に楽曲をフェードインしたり、再生終了時に楽曲をフェードアウトすることにより、あたかも演奏者が舞台上を移動しているような、リスナが受ける感覚を更に高めることができる。
【0109】
尚、このような楽曲等を聴くリスナは、より臨場感のある音質等を聴くことを望んでいる。そして、近年のデジタルハイビジョン等のテレビ放送や画像表示装置等の高画質化に伴い、オーディオを提供する再生装置においても高音質化が求められている。しかし、平面的な画像表示装置による映像に比べて、リスナは音を立体的に知覚する。よって、オーディオにおける臨場感は、音質のみに限られるものではなく、実際に聴いた場合の音の配置、つまり音の発信源の3次元的な位置等のいわゆる立体的な臨場感を再現することにも左右される。そして、このような音の立体的な臨場感は、再生中の音の定位位置に左右されるのみならず、再生開始や再生終了時のような再生状態が変化するときにこそ、リスナに顕著な影響を与えうる。つまり、再生状態が変化する際に音の立体的な配置を改善することにより、リスナに様々な感覚を与えることが可能である。そして、本実施形態に係る楽曲再生装置10によれば、一例ではあるが実際の舞台に楽曲の演奏を聴きに行ったような、または目の前で演奏者が楽曲を演奏しているようなリアリティのあるサウンドを提供することができる。換言すれば、本実施形態に係る楽曲再生装置10は、リスナに様々な感覚を与えうる演出効果を奏することができる。
【0110】
尚、再生開始時又は再生終了時における音像定位位置の移動方向を適宜変更することにより、様々な演出効果を奏することも可能である。例えば、再生開始時において、リスナの頭部を中心に回転しながら接近するように定位位置を移動させることにより、演奏者がリスナの回りを回転しながら近づいて来たような感覚をリスナに与えることも可能である。
更に例えば、再生開始時において、リスナに近づいたり離れたりを繰り返すように定位位置を移動させることにより、演奏者がリスナの周囲を行ったり来たりしている感覚をリスナに与えることも可能である。
【0111】
ここに挙げた上記の演出効果は、あくまでも一例であり、本実施形態に係る楽曲再生装置10は、他にも様々な演出効果を奏することができる。
【0112】
<2.第2実施形態>
次に、図9を参照して、本発明の第2実施形態に係る楽曲再生装置について説明する。図9は、本発明の第2実施形態に係る楽曲再生装置の構成を説明するための説明図である。
【0113】
本実施形態に係る楽曲再生装置40は、第1実施形態に係る楽曲再生装置10と同様に、本発明に係る情報処理装置の一例であり、記録装置20と、ヘッドホン30とに接続される。そして、楽曲再生装置40も、再生する楽曲のデジタルデータを記録装置20から選択して再生し、再生した楽曲のサウンドをヘッドホン30を介してリスナに提供する。
【0114】
この楽曲再生装置40は、第1実施形態に係る楽曲再生装置10と同様の動作に加えて、再生する楽曲を入れ替える際に、更に特徴的な動作をすることができる。
【0115】
つまり、楽曲再生装置40も、楽曲の再生状態の変化に応じて、楽曲による音像の定位位置を移動させるが、この楽曲再生装置40は、楽曲の再生開始又は終了だけでなく、一の楽曲の再生から他の楽曲の再生へと切り替わる場合にも、楽曲による音像の定位位置を移動させる。換言すれば、楽曲再生装置40は、再生する楽曲を入れ替える際にも、楽曲による音像の定位位置を移動させる。
【0116】
そこで、以下では、第1実施形態に係る楽曲再生装置10とは違う楽曲再生装置40の構成及び動作を中心に説明する。つまり、以下では、『再生状態の変化』が例えば『一の楽曲の再生から他の楽曲の再生への入れ替わり』である場合について説明する。
【0117】
尚、このような再生状態の変化を、以下では、再生する楽曲の『入れ替わり』や『入れ替え』等ともいう。そして、入れ替わりの前後の楽曲をそれぞれ、第1楽曲(第1コンテンツ)及び第2楽曲(第2コンテンツ)という。つまり、以下では、第1楽曲の再生を終了すると共に、第2楽曲の再生を開始する際の、楽曲再生装置40について説明する。
【0118】
ただし、再生する楽曲が入れ替わる際の、第1楽曲及び第2楽曲は必ずしも異なる楽曲である必要はない。つまり、一の楽曲の再生中に、同一の楽曲を再度再生開始する場合も、この再生楽曲の入れ替わりに含まれる。
【0119】
(2−1.楽曲再生装置40の構成)
楽曲再生装置10は、図9に示すように、選択部41と、再生部42と、音量可変部43と、音像定位処理部44と、D/A変換部15と、増幅部16と、制御部47と、を有する。
【0120】
尚、この構成において、D/A変換部15及び増幅部16は、第1実施形態に係る楽曲再生装置10と同様であるため、詳しい説明は省略する。また、楽曲再生装置40は、2つの楽曲を同時に処理するために2つのチャンネルを有する。このチャンネルをAch,Bchとする。そして、楽曲再生装置40は、第1実施形態に係る楽曲再生装置10が有するいくつかの構成と同様の構成を、このチャンネル毎に有する。従って、このような構成は、第1実施形態と同様の符号を付すと共に、各チャンネルを表すA又はBを付することにより、チャンネルの違いを示し、これらの詳しい説明は省略する。ただし、この同様の構成は、制御部17の代わりに制御部47との間で、信号等の送受信を行う。
【0121】
選択部41は、選択回路411を有し、選択回路411は、記録装置20と再生部42とに接続される。そして、選択回路411は、再生する楽曲のデジタルデータを記録装置20から選択して取得し、取得したデジタルデータを再生部42に出力する。尚、この選択回路411は、図示しない別途の制御装置等に接続されて、視聴者の操作や予め定められた設定により楽曲を選択してもよい。
【0122】
また、選択回路411は、第1楽曲をAchで再生中に、第2楽曲を選択して出力する場合は、第2楽曲をBchに出力する。そして、選択回路411は、逆に第1楽曲をBchで再生中に、第2楽曲を選択して出力する場合は、第2楽曲をAchに出力する。尚、第1楽曲をBchで再生中に第2楽曲を選択する場合は、チャンネルが違うだけで他の動作等は、第1楽曲をAchで再生中の場合と同様である。よって、以下では、第1楽曲をAchで再生中に第2楽曲を選択する場合について説明する。
【0123】
そして、選択回路411は、『選択情報』を制御部47に出力する。この『選択情報』は、選択回路411が選択している楽曲を示す情報であり、「どの楽曲を選択して再生するのか」という再生状態を示す情報の1つである。具体的には、第1楽曲の再生中は、第1楽曲の楽曲名又は識別情報等と、第1楽曲の再生順序とが、この選択情報として制御部47に出力される。そして、第2楽曲が選択されると、第2楽曲の楽曲名又は識別情報等と、第2楽曲の再生順序とが、この選択情報として制御部47に出力される。尚、再生順序とは、その楽曲が再生される順番や、トラックナンバー等の順序を意味する。
【0124】
再生部42は、Ach用の再生回路121Aと、Bch用の再生回路121Bと、を有する。この再生回路121A,121Bは、第1実施形態に係る再生回路121と同様に構成される。
【0125】
音量可変部43は、Ach用の音量可変回路131Aと、Bch用の音量可変回路131Bと、を有する。この音量可変回路131A,131Bは、第1実施形態に係る音量可変回路131と同様に構成される。
【0126】
音像定位処理部44は、Ach用の音像定位処理回路141Aと、Bch用の音像定位処理回路141Bと、加算器441L,441Rと、を有する。この音像定位処理回路141A,141Bは、第1実施形態に係る音像定位処理回路141と同世に構成される。ただしこの際、各音像定位処理回路141A,141Bの左チャンネル信号は、加算器441Lに出力され、右チャンネル信号は、加算器441Rに出力される。
【0127】
加算器441Lは、音像定位処理回路141A,141Bのそれぞれが出力した左チャンネル信号を加算して、加算した左チャンネル信号をD/A変換部15に出力する。そして、加算器441Rは、音像定位処理回路141A,141Bのそれぞれが出力した右チャンネル信号を加算して、加算した右チャンネル信号をD/A変換部15に出力する。
【0128】
そして、D/A変換部15及び増幅部16は、第1実施形態に係るD/A変換部15及び増幅部16と同様に構成される。
【0129】
制御部47は、選択部41と再生部42と音量可変部43と音像定位処理部44とに接続される。そして、制御部47は、第1実施形態に係る制御部17と同様な動作をすると共に、選択部41から受け取った選択情報、つまり楽曲の再生状態に基づいて、音量可変部43の音量を変更させると共に、音像定位処理部44の処理における音像定位位置を移動させる。
【0130】
この制御部47の具体的な構成について説明すれば、以下のようになる。
すなわち、制御部17は、選択情報取得部470と、再生状態取得部471と、音像定位処理判断部472と、音量変更部473と、定位位置取得部474と、定位位置変更部475と、係数記録部176と、を有する。
【0131】
選択情報取得部470は、選択部41と音像定位処理判断部472とに接続される。そして、選択情報取得部470は、選択部41から選択情報を取得して、音像定位処理判断部472に出力する。
【0132】
再生状態取得部471は、再生部42と音像定位処理判断部472とに接続される。そして、再生状態取得部471は、再生部42からAch及びBchの再生状態情報を取得して、音像定位処理判断部472に出力する。
【0133】
音像定位処理判断部472は、選択情報取得部470と再生状態取得部471と音量変更部473と定位位置変更部475とに接続される。そして音像定位処理判断部472は、選択情報取得部470からの選択情報、又は再生状態取得部471からの再生状態情報に応じて、適宜『フェードイン信号』又は『フェードアウト信号』の少なくとも1つを音量変更部473に出力する。更に音像定位処理判断部472は、この選択情報又は再生状態情報の変化に応じて、適宜『左方接近信号』、『右方接近信号』、『左方離隔信号』又は『右方離隔信号』の少なくとも1つを定位位置変更部475に出力する。
【0134】
右方接近信号は、音像の定位位置をユーザの右前方から正面前方へと移動させて、ユーザに接近するように音像を移動させる信号であり、左方離隔信号は、音像の定位位置をユーザの正面前方から左前方へと移動させて、ユーザから離隔するように音像を移動させる信号である。
【0135】
より具体的には、音像定位処理判断部472は、再生状態情報が変化した場合には、第1実施形態と同様に動作する。一方、音像定位処理判断部472は、選択情報が変化した場合、つまり、Achで第1楽曲を再生中に第2楽曲が選択されて、選択情報が第2楽曲を示す情報へと変化した場合には、以下のように動作する。
【0136】
すなわち、音像定位処理判断部472は、まず音量変更部473に、Achのフェードアウト信号を出力する。次に、音像定位処理判断部472は、選択情報に示された第2楽曲の再生順序を確認し、この再生順序が第1楽曲の再生順序よりも先か後かを判断する。そして、音像定位処理判断部472は、第2楽曲の再生順序が後の場合には、定位位置変更部475に、Achの右方離隔信号と、Bchの左方接近信号と、を出力し、第2楽曲の再生順序が先の場合には、定位位置変更部475に、Achの左方離隔信号と、Bchの右方接近信号と、を出力する。更に、音像定位処理判断部472は、音量変更部473に、Bchのフェードイン信号を出力する。
【0137】
音量変更部473は、音像定位処理判断部472と音量可変部43とに接続される。そして、音量変更部473は、音像定位処理判断部472からのAch又はBchのフェードイン信号又はフェードアウト信号に基づいて、音量可変部43の音量、つまりオーディオ信号の増幅量を変更する。
【0138】
より具体的には、音量変更部173は、Achのフェードアウト信号を受信した場合、音量可変部13のAchの増幅量、つまり音量可変回路131Aの増幅量を約0となるまで減少させる。そして、音量変更部173は、Bchのフェードイン信号を受信した場合、音量可変部13のBchの増幅量、つまり音量可変回路131Bの増幅量を所定の大きさまで増加させる。
【0139】
また、音量変更部173は、Achのフェードアウト信号を受信して音量可変部13のAchの増幅量を約0となるまで減少させる場合には、Achの音量可変部43の増幅量が約0になると、Achの再生を終了させるための『終了信号』を再生部42(つまり、再生回路121A)に出力する。一方、音量変更部173は、Bchのフェードアウト信号を受信して音量可変部13のBchの増幅量を約0となるまで減少させる場合には、Bchの音量可変部43の増幅量が約0になると、Bchの再生を終了させるための『終了信号』を再生部42(つまり、再生回路121B)に出力する。
【0140】
定位位置取得部474は、音像定位処理部44と定位位置変更部475とに接続される。そして、定位位置取得部474は、Ach及びBchの音像定位処理部44が行う音像定位処理における音像の定位位置を示す情報(以下『定位位置情報』ともいう。)を取得して、定位位置変更部175に出力する。この定位位置は、例えば上述のように頭部伝達関数に基づく係数値に対応する。従って、定位位置取得部474は、定位位置情報として例えばこの係数値を取得してもよい。
【0141】
定位位置変更部475は、音像定位処理判断部472と定位位置取得部474と係数記録部176とに接続される。そして、定位位置変更部475は、音像定位処理判断部472からのAch又はBchの左方接近信号等に基づいて、音像定位処理部44の音像定位処理における音像の定位位置を移動させる。
【0142】
より具体的には、例えば、所望の定位位置に対応した頭部伝達関数の係数値は、係数記録部176に予め複数記憶されている。そして定位位置変更部475は、Achの右方離隔信号等を受信した場合は、その信号が示す方向へと定位位置を移動させるための頭部伝達関数による係数値を係数記録部176から取得して、音像定位処理部44のAch(つまり、音像定位処理回路141A)に出力する。更に音像定位処理部44は、音像定位処理回路141AのFIRフィルタの係数器T11〜T1n+1の係数値を、受け取った係数値に変更することにより、定位位置を移動させる。
【0143】
また、定位位置変更部475は、Bchの左方接近信号等を受信した場合は、その信号が示す方向へと定位位置を移動させるための頭部伝達関数による係数値を係数記録部176から取得して、音像定位処理部44のBch(つまり、音像定位処理回路141B)に出力する。更に音像定位処理部44は、音像定位処理回路141BのFIRフィルタの係数器T11〜T1n+1の係数値を、受け取った係数値に変更することにより、定位位置を移動させる。
【0144】
この際、定位位置変更部475は、定位位置取得部474からの各チャンネルの定位位置情報に基づいて、所望の定位位置に定位位置が移動したかを判断しつつ、この定位位置を変更してもよい。
【0145】
(a.音像定位処理部44の他の構成例)
以上、本実施形態に係る楽曲再生装置10の構成について説明した。
尚、上記では、音像定位処理部44が、音像定位処理回路141A,141Bと加算器441L,441Rとを有する場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。従って、本実施形態に係る楽曲再生装置40の動作を説明する前に、この音像定位処理部44の他の構成例について説明する。
【0146】
他の構成例に係る音像定位処理部44Mの構成を図10に示す。
図10に示したように、音像定位処理部44Mは、Ach用のレベル制御器144LA,144RAと、Bch用のレベル制御器144LB,144RBと、加算器447L,447Rと、固定音像定位処理回路145L,145Rと、加算器146L,146Rとを有する。
【0147】
レベル制御器144LA,144RAのそれぞれは、音量可変部43のAch(つまり、音量可変回路131A)に接続される。そして、レベル制御器144LA,144RAのそれぞれは、音量可変部13のAchからのオーディオ信号にレベル差を付加する。一方、レベル制御器144LB,144RBのそれぞれは、音量可変部43のBch(つまり、音量可変回路131B)に接続される。そして、レベル制御器144LB,144RBのそれぞれは、音量可変部13のBchからのオーディオ信号にレベル差を付加する。
【0148】
そして、このレベル制御器144LA,144RA,144LB,144RBのレベルは、制御部17により変更される。
【0149】
加算器447Lは、レベル制御器144LAとレベル制御器144LBとに接続され、レベル差の付加されたオーディオ信号を加算する。そして、加算器447Rは、レベル制御器144RAとレベル制御器144RBとに接続され、レベル差の付加されたオーディオ信号を加算する。
【0150】
固定音像定位処理回路145L,145Rのぞれぞれは、加算器447L又は加算器447Rに接続され、加算器447L又は加算器447Rからの加算されたオーディオ信号を音像定位処理する。この固定音像定位処理回路145L,145Rは、第1実施形態に係る固定音像定位処理回路145L,145Rと同様に構成され、加算器146L,146Rは、第1実施形態に係る加算器146L,146Rと同様に構成される。
【0151】
この他の構成例に係る音像定位処理部44Mによれば、レベル制御器144LA,144RAの値を連続的に変化させることにより、Achの楽曲の信号を各固定音像定位処理回路145L,145Rに供給するレベルを変更することができる。そして、レベル制御器144LB,144RBの値を連続的に変化させることにより、Bchの楽曲の信号を各固定音像定位処理回路145L,145Rに供給するレベルを変更することができる。つまり、2つの固定音像定位処理回路145L,145Rに振分けるオーディオ信号のレベルを、各チャンネル毎に変更することができる。従って、固定音像定位処理回路145Lにより左前方に定位する音像の音量と、固定音像定位処理回路145Rにより右前方に定位する音像の音量と、のバランスを調整することにより、音像の定位位置を移動させることができる。かつ、各チャンネル毎に各固定音像定位処理回路145L,145Rへの入力レベルを変更することにより、両チャンネルの入れ替えを行うことができる。
【0152】
このような他の構成例に係る音像定位処理部44Mによれば、制御部17がレベル制御器144LA,144RA,144LB,144RBの値を変更するだけで、音像の定位位置を変更しつつ、第1楽曲から第2楽曲へと再生する楽曲を入れ替えることができるので、音像定位処理に要する時間を短縮することができる。更に、レベル制御器144LA,144RA,144LB,144RBのレベルを連続的に変更することにより、音像の移動をより円滑に行うことができる。
【0153】
(2−2.楽曲再生装置40の動作)
以上、音像定位処理部44の他の構成例も含めて、本実施形態に係る楽曲再生装置40について説明した。次に、図11及び図12を参照して、上記の構成を有する本実施形態に係る楽曲再生装置40の動作について説明する。尚、楽曲再生装置40は、第1実施形態に係る楽曲再生装置10と同様に、再生状態情報に基づいて動作をすることもできる。しかし、以下では、再生状態の変化として、再生する楽曲の入れ替えが行われる場合について説明する。
【0154】
まず、Achを使用して第1楽曲が再生されている間に、選択部41が、新たに再生する第2楽曲のオーディオ信号を記録装置20から選択して取得し、このオーディオ信号を再生部42に出力する。この際、選択部41から制御部47に出力される選択情報は、第1楽曲を示す情報から第2楽曲を示す情報へと切替えられる。
【0155】
そして、ステップS31において、選択情報取得部470を介して選択情報を取得した音像定位処理判断部472は、再生状態が変化したかどうかを判断する。より具体的には、図11に示すように、音像定位処理判断部472は、選択情報が、第1楽曲を示す情報から第2楽曲を示す情報へと変化したか否かを判断する。そして、音像定位処理判断部472が第2楽曲つまり新たな楽曲が選択されたと判断した場合、ステップS32に進む。
【0156】
ステップS32では、音像定位処理判断部472は、第1楽曲つまり、現在再生中の楽曲のフェードアウト信号(Achのフェードアウト信号)を音量変更部473に出力する。そして、音量変更部473は、第1楽曲のチャンネルであるAchの音量可変部43(つまり、音量可変回路131A)の増幅量を徐々に減少させ、第1楽曲のフェードアウトを開始する。
【0157】
ステップS32の処理後はステップS33に進み、音像定位処理判断部472が、選択情報に含まれた第2楽曲の再生順序を確認し、この再生順序が第1楽曲の再生順序よりも後であると判断した場合には、ステップS34へと進む。一方、音像定位処理判断部472が、第2楽曲の再生順序が第1楽曲の再生順序よりも先であると判断した場合には、ステップS35へと進む。
【0158】
(a.第2楽曲の再生順序が第1楽曲よりも先の場合)
ステップS34において、定位位置変更部475は、ユーザの正面前方から右前方に向けた第1楽曲の音像の定位位置の移動を開始させる。より具体的には、音像定位処理判断部472は、定位位置変更部475にAchの右方離隔信号を出力する。そして、この信号を受け取った定位位置変更部475は、現在の定位位置よりも右前方にずれた位置が定位位置となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部475は、この係数値を音像定位処理部44のAchに出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。更に定位位置変更部475は、この動作を繰り返すことにより、Achの定位位置を移動させる。
【0159】
ステップS34の処理後はステップS36に進み、定位位置変更部475は、音像定位処理部44の第2楽曲の音像の定位位置をリスナの左前方となるように設定する。より具体的には、音像定位処理判断部472は、定位位置変更部475にBchの左方接近信号を出力する。そして、この信号を受け取った定位位置変更部475は、Bchの定位位置が左前方となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部475は、この係数値を音像定位処理部44に出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。
【0160】
ステップS36の処理後はステップS38に進み、再生部42が第2楽曲のデジタルデータを再生している状態で、音量可変部43がBchの音量を調節してフェードイン再生することにより、第2楽曲がフェードインにより再生される。より具体的には、音像定位処理判断部472は、音量変更部473にBchのフェードイン信号を出力する。そして、この信号を受け取った音量変更部473は音量可変部43のオーディオ信号のBchの増幅量(音量可変回路131B)を徐々に所定の値まで増加させ、音量可変部43はこの増幅量によりBchのオーディオ信号を増幅する。
【0161】
ステップS38の処理後はステップS39に進み、定位位置変更部475は、第2楽曲の音像の定位位置をユーザの正面前方に向けて移動させる。より具体的には、定位位置変更部475は、現在の定位位置よりも正面前方にずれた位置が定位位置となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部475は、この係数値を音像定位処理部44のBchに出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。更に定位位置変更部175は、この動作を繰り返すことにより、Bchの定位位置を移動させる。
【0162】
このステップS39以降、つまりBchの定位位置が移動されている状態でステップS40が処理される。このステップS40では、定位位置取得部474と定位位置変更部475とにより、第2楽曲の定位位置がユーザの正面前方となったか否かが判断される。より具体的には、定位位置取得部474は、現在のBchの定位位置を示す定位位置情報を取得して定位位置変更部475に出力する。更に定位位置変更部475は、定位位置情報が表す現在のBchの定位位置が、正面前方であるか否かを判断する。そして定位位置変更部475がBchの定位位置が正面前方にあると判断した場合に、ステップS41に進む。
【0163】
ステップS41において、定位位置変更部475は、第2楽曲の定位位置の変更を終了する。ステップS41の処理後は、Bchの定位位置が正面前方に設定された状態で第2楽曲の再生が続行される。そして次に、ステップS42に進む。
【0164】
このステップS42では、定位位置取得部474と定位位置変更部475とにより第1楽曲の定位位置がユーザの右前方となったか否かが判断される。より具体的には、定位位置取得部474は、現在のAchの定位位置を示す定位位置情報を取得して定位位置変更部475に出力する。更に定位位置変更部475は、定位位置情報が表す現在のAchの定位位置が、右前方であるか否かを判断する。そして定位位置変更部475がAchの定位位置が左前方にあると判断した場合に、ステップS44に進む。
【0165】
ステップS44において、定位位置変更部475は第1楽曲の定位位置の変更を終了する。
【0166】
ステップS44の処理後はステップS45に進み、音量変更部473は、音量可変部43による第1楽曲、つまりAchのフェードアウトが完了したかを判断する。そして、音量可変部43が、第1楽曲のフェードアウトが完了したと判断した場合に、ステップS46に進む。
【0167】
ステップS46において、音量変更部473は、フェードアウトを完了した場合、再生部42のAchに終了信号を出力し、再生部42は、Achの終了信号を受けた場合、第1楽曲のデジタルデータの再生を停止する。
【0168】
尚、上記ステップS31〜S46が行われている間、音像定位処理部44により定位処理された第1楽曲及び第2楽曲のオーディオ信号の左チャンネル信号及び右チャンネル信号は、D/A変換部15と増幅部16とを介して、ヘッドホン30からリスナにサウンドとして供給されていることは言うまでもない。
【0169】
上記の動作によれば、第1楽曲と第2楽曲とは、いわゆるクロスフェードされつつ、音像を移動されながら、入れ替えられる。この音像が移動している様子を模式的に図12に示す。図12は、音像定位位置が移動する様子を概念的に説明するための説明図である。
【0170】
図12では、音像の定位位置181,182,183を模式的にスピーカとして示した。また、図12において、リスナはx軸正の位置でx軸負の方向を向いているとする。そして、y軸負の方向はリスナにとって左方向であり、y軸正の方向はリスナにとって右方向であり、z軸正の方向はリスナにとって上方向であり、z軸負の方向はリスナにとって下方向であるとする。
【0171】
図12に示すように、第1楽曲がフェードアウトされると共に、リスナの正面前方、つまり定位位置182に設定されていた第1楽曲の音像の定位位置は、右前方へと移動される。同時に、第2楽曲の音像の定位位置は、リスナの左前方、つまり定位位置181に設定されている。そして、第2楽曲がフェードイン再生されながら、第2楽曲の音像が正面前方へと移動される。
【0172】
更に、第1楽曲の音像は、移動を続け、ユーザの右前方の定位位置183へと移動する。そして、第1楽曲の音像は定位位置183で停止し、第1楽曲の再生は終了する。第2楽曲の音像も、移動を続け、ユーザの正面前方の定位位置182へと移動する。そして、音像は、定位位置182で停止し、第2楽曲の再生は続行される。
【0173】
(b.第2楽曲の再生順序が第1楽曲よりも後の場合)
一方、ステップS33のおいて、音像定位処理判断部472が、第2楽曲の再生順序が第1楽曲の再生順序よりも先であると判断した場合には、ステップS35〜S46の動作が行われる。しかし、この動作において、第1楽曲及び第2楽曲の移動方向が逆になる以外の動作は、上記の第2楽曲の再生順序が第1楽曲よりも先の場合の動作と同様である。
【0174】
つまり、第1楽曲の音像は、正面前方から左前方へと移動されて、第2楽曲の音像は、右前方から左前方へと移動される。より具体的には、音像定位処理判断部472は、定位位置変更部475のAchに左方離隔信号を出力し、Bchに右方接近信号を出力する。他の動作については、上記で詳しく説明したため、省略する。
【0175】
(2−3.楽曲再生装置40の効果)
以上、本実施形態に係る楽曲再生装置40の構成及び動作について説明した。
この楽曲再生装置40によれば、上記の第1実施形態に係る楽曲再生装置10の奏する効果に加えて、以下のような効果も奏することができる。
【0176】
すなわち、楽曲再生装置40によれば、第1楽曲を右前方(又は左前方)に移動させながら、第2楽曲を左前方(又は右前方)から正面前方に移動させて、第1楽曲と第2楽曲とを入れ替えることができる。従って、無音状態が発生しないように第1楽曲と第2楽曲とを入れ替えようとする際に、第1楽曲の音像と第2楽曲の音像とが重なることを防ぐことができる。従って、再生する楽曲の入れ替えをスムースに行うことができる。そして、リスナは、第1楽曲のサウンドと第2楽曲のサウンドとを音像の空間的な離隔により、聴き分けることが可能となる。
【0177】
このように両楽曲の音像位置を空間的に離隔した状態で移動させることにより、これまでにない全く新しい再生楽曲の入れ替え方法をリスナに提供することができる。つまり、
あたかもリスナの正面に配置されたステージ上において、第1楽曲の演奏者がステージ中央からステージ右手へと退場すると共に、次の第2楽曲の演奏者がステージ左手からステージ中央に登場するような、全く新しい入れ替え方法による楽曲の再生が可能となる。
【0178】
更に、楽曲再生装置40によれば、第2楽曲の再生順序が第1楽曲の再生順序よりも後の場合、両楽曲による音像をリスナの右方向に移動させることができ、第2楽曲の再生順序が第1楽曲の再生順序よりも先の場合、両楽曲による音像をリスナの左方向に移動させることができる。よって、リスナは、この音像の移動方向によって、楽曲が再生順序通りに再生されているのか、再生順序とは逆の楽曲が再生されたのかを認識することができる。
【0179】
更に、第1楽曲と第2楽曲とを互いにクロスフェード再生させることができ、両楽曲の入れ替えを更にスムースにすることができ、無音状態の発生を防ぐことができる。
【0180】
以上のように本実施形態に係る楽曲再生装置40によれば、楽曲を再生してユーザに提供する際に、様々な演出効果を奏することができる。しかし、ここに挙げた上記の演出効果は、あくまでも一例であり、本実施形態に係る楽曲再生装置40は、他にも様々な演出効果を奏することができる。
【0181】
<3.第3実施形態>
更に次に、図13を参照して、本発明の第3実施形態に係る楽曲再生装置について説明する。図13は、本発明の第3実施形態に係る楽曲再生装置の構成を説明するための説明図である。
【0182】
本実施形態に係る楽曲再生装置50は、第1,2実施形態に係る楽曲再生装置10,40と同様に、本発明に係る情報処理装置の一例であり、記録装置20と、ヘッドホン30とに接続される。そして、楽曲再生装置50も、再生する楽曲のデジタルデータを記録装置20から選択して再生し、再生した楽曲のサウンドをヘッドホン30を介してリスナに提供する。
【0183】
この楽曲再生装置40は、第2実施形態に係る楽曲再生装置50と同様の動作に加えて、再生する楽曲を選択する方法を複数有しており、再生する楽曲をこの選択方法で選択された楽曲に入れ替える際に、更に特徴的な動作をすることができる。つまり、楽曲再生装置40は、再生状態の変化として再生する楽曲が入れ替わる際に、次に再生する選択方法に応じて、更に特徴的な動作をすることができる。
【0184】
より具体的には、図13に示すように、記録装置20に記録された複数の楽曲のそれぞれには、属性情報が対応付けられている。この『属性情報』は、例えば、楽曲のジャンル・アーティスト名・収録アルバム名・楽曲の再生頻度・楽曲の人気度・楽曲が作成された地域・楽曲の再生時間・楽曲の提供元・アーティストの性別等の様々な情報である。第2実施形態の場合と同様に、第1楽曲の再生中に第2楽曲を選択する場合について説明すると、楽曲再生装置40は、第2楽曲を選択する方法として、第2楽曲群の属性と、第1楽曲群の属性との関係において、複数の選択方法を有している。つまり、選択方法として、例えば、同一のアーティストではあるが、異なる収録アルバムの中から第2楽曲を選択する方法や、同一のアーティストで、かつ同一の収録アルバムの楽曲から第2楽曲を選択する方法や、同一のアーティストであり、同一の収録アルバムであり、なおかつ同一の人気度の楽曲から第2楽曲を選択する方法などが挙げられる。
【0185】
以下では、説明の便宜上、この属性情報が収録アルバムであり、楽曲再生装置40は、第2楽曲の選択方法として、同一のアルバムの楽曲から選択する方法と、異なるアルバムの楽曲から選択する方法との2つの方法を有する場合について説明する。そして、この収録アルバムを、以下では『楽曲群』(グループ等)ともいう。つまり、図13に示すように、第1楽曲群〜第n楽曲群には、それぞれ複数の楽曲(例えば、第1楽曲群には、楽曲1,1〜楽曲1,n)が含まれ、それぞれの楽曲には、属性情報としてこの『楽曲群』が対応付けられている場合について説明する。
【0186】
そして、本実施形態に係る楽曲再生装置50も、再生する楽曲を入れ替えるという再生状態の変化に応じて、楽曲による音像の定位位置を移動させる。しかし、この際、楽曲再生装置50は、次の楽曲の選択方法毎に、定位位置の移動方向を異ならせることを1つの特徴とする。以下、このような特徴を有する楽曲再生装置50について詳しく説明する。
【0187】
(3−1.楽曲再生装置50の構成)
楽曲再生装置10は、図13に示すように、選択部51と、再生部42と、音量可変部43と、音像定位処理部44と、D/A変換部15と、増幅部16と、制御部57と、を有する。
【0188】
尚、この構成において、選択部51及び制御部57以外の構成は、第2実施形態に係る楽曲再生装置40と同様であるため、詳しい説明は省略する。ただし、この同様の構成は、制御部47の代わりに制御部57との間で、信号等の送受信を行う。
【0189】
選択部51は、楽曲群選択回路511と、楽曲記録回路512と、選択回路411とを有する。
【0190】
楽曲群選択回路511は、記録装置20と楽曲記録回路512と制御部57とに接続される。そして、楽曲群選択回路511は、再生する楽曲が属する楽曲群に含まれる1又は2以上の楽曲のデジタルデータを記録装置20から選択して取得し、取得したデジタルデータを楽曲記録回路512に出力する。また、楽曲群選択回路511は、選択した楽曲群の属性情報を制御部57に出力する。尚、この楽曲群選択回路511は、図示しない別途の制御装置等に接続されて、視聴者の操作や予め定められた設定により楽曲群を選択してもよい。
【0191】
楽曲記録回路512は、楽曲群選択回路511と選択回路411とに接続される。そして、楽曲記録回路512は、楽曲群選択回路511が出力した楽曲群に含まれる1又は2以上の楽曲のデジタルデータを記録する。そして、選択回路411は、この楽曲記録回路512が記録した楽曲から、再生する楽曲を選択することになる。
【0192】
制御部57は、選択部51と再生部42と音量可変部43と音像定位処理部44とに接続される。そして、制御部57は、第2実施形態に係る制御部47と同様な動作をすると共に、選択部41から受け取った属性情報に基づいて、音像定位処理部44の処理における音像定位位置の移動方向を変更させる。
【0193】
この制御部57の具体的な構成について説明すれば、以下のようになる。
すなわち、制御部57は、属性情報取得部571と、選択情報取得部470と、再生状態取得部471と、音像定位処理判断部572と、音量変更部473と、定位位置取得部474と、定位位置変更部475と、係数記録部176とを有する。
【0194】
尚、この構成において、属性情報取得部571及び音像定位処理判断部572以外の構成は、第2実施形態に係る楽曲再生装置40と同様であるため、詳しい説明は省略する。ただし、この同様の構成は、音像定位処理判断部472の代わりに音像定位処理判断部572との間で、信号等の送受信を行う。
【0195】
属性情報取得部571は、選択部51と音像定位処理判断部572とに接続される。そして、属性情報取得部571は、選択部51から属性情報を取得して、音像定位処理判断部572に出力する。
【0196】
音像定位処理判断部572は、属性情報取得部571と選択情報取得部470と再生状態取得部471と音量変更部473と定位位置変更部475とに接続される。そして音像定位処理判断部572は、第2実施形態に係る音像定位処理判断部472と同様の動作をすると共に、属性情報取得部571からの属性情報と、選択情報取得部470からの選択情報の変化に応じて、適宜『下方接近信号』、『上方離隔信号』、『左方接近信号』、『右方接近信号』、『左方離隔信号』又は『右方離隔信号』の少なくとも1つを定位位置変更部475に出力する。
【0197】
下方接近信号は、音像の定位位置をユーザの下前方から正面前方へと移動させて、ユーザに接近するように音像を移動させる信号であり、上方離隔信号は、音像の定位位置をユーザの正面前方から上前方へと移動させて、ユーザから離隔するように音像を移動させる信号である。
【0198】
より具体的には、音像定位処理判断部572は、選択情報が変化した場合において、第1楽曲の属性情報と第2楽曲の属性情報とが同じ場合には、第2実施形態と同様に動作する。一方、音像定位処理判断部572は、両属性情報が異なる場合には、以下のように動作する。
【0199】
すなわち、音像定位処理判断部572は、まず音量変更部473に、第1楽曲のAchのフェードアウト信号を出力する。次に、音像定位処理判断部572は、属性情報に示された第2楽曲の楽曲群を確認し、この楽曲群が第1楽曲の楽曲群と同一か否かを判断する。そして、音像定位処理判断部572は、第2楽曲の楽曲群と第1楽曲の楽曲群とが異なる場合には、定位位置変更部475に、Achの上方離隔信号と、Bchの下方接近信号と、を出力する。更に、音像定位処理判断部572は、音量変更部473に、Bchのフェードイン信号を出力する。
【0200】
(a.音像定位処理部44の他の構成例)
以上、本実施形態に係る楽曲再生装置10の構成について説明した。
尚、音像定位処理部44が備える音像定位処理回路141A,141Bは、第1実施形態の音像定位処理回路141と同様に、2つの音像定位フィルタ141L,141Rにより構成されるが、本発明はこの例に限定されない。つまり、音像定位処理回路141A,141Bは、音像の定位位置を左右方向だけでなく、上下方向へも移動させられる構成ならば如何様にも構成できる。そこで、本実施形態に係る楽曲再生装置50の動作を説明する前に、この音像定位処理回路141A,141Bの他の構成例である音像定位処理回路541について説明する。つまり、音像定位処理部44は、例えば、2つの音像定位処理回路141A,141Bのそれぞれを下記の音像定位処理回路541に置き換えることにより構成されてもよい。
【0201】
他の構成例に係る音像定位処理回路541の構成を図14に示す。
尚、図14に示す音像定位処理回路541は、信号処理回路542V,542L,542Rと、レベル制御器543と、を有する。尚、端子C8は、音量可変部43のAch又はBchに接続され、端子C9,C10は、D/A変換部15のD/A変換回路151L又は151Rに接続される。
【0202】
信号処理回路542Vは、図15に示すようなFIRフィルタで構成され、遅延器D21〜D2nと係数器T21〜T2n+1と加算器A21〜A2nとを有する。この信号処理回路542Vは、端子C11からのオーディオ信号に、図16に示すような、音像をリスナの上方又は下方に定位させるためのインパルス応答(A)を畳み込み演算処理する。そして、信号処理回路542Vは、この畳み込み演算処理したオーディオ信号を、端子C13から出力し、畳み込み演算処理していないオーディオ信号を、端子C12から出力する。
【0203】
信号処理回路542L,542Rのそれぞれは、図17に示すようにデジタルフィルタで構成され、遅延器D31〜D3nと係数器T31〜T3n+1と加算器A31〜A3nとを有する。そして、信号処理回路542L,542Rのそれぞれは、端子C14からのオーディオ信号に、図18に示すような、音像をリスナの正面前方に定位させるためのインパルス応答(B)を畳み込み演算処理する。尚、信号処理回路542Lは、リスナの左耳に至る頭部伝達特性をインパルス応答として再現するように、係数器T31〜T3n+1の係数を設定され、信号処理回路542Rは、リスナの右耳に至る頭部伝達特性をインパルス応答として再現するように、係数器T31〜T3n+1の係数を設定される。
【0204】
また、信号処理回路542Vと、信号処理回路542L又は信号処理回路542Rとは、以下のように接続される。つまり、図14に示すように、信号処理回路542Vの端子C12は、信号処理回路542L及び信号処理回路542Rの端子C14に直接接続される。よって、信号処理回路542Vによって畳み込み処理されていない信号が、信号処理回路542L及び信号処理回路542Rの遅延器の入力となり、それぞれのインパルス応答が畳み込み処理される。
【0205】
一方、信号処理回路542Vの端子C13は、レベル制御器543を介して、信号処理回路542L及び信号処理回路542Rの端子C14に接続される。よって、信号処理回路542Vで畳み込み処理された信号が、信号処理回路542L及び信号処理回路542Rの加算器の入力となる。
【0206】
従って、音像定位処理回路541によれば、端子C9,C10からは、図19に示すように、上方又は下方へのインパルス応答の特徴部(A)と、正面前方へのインパルス応答の特徴部(B)とが合成された畳み込み処理を行うことができる。よって、音像を上前方又は下前方に定位させることができる。そして、この状態から、レベル制御器543のレベルを減少させることにより、上方又は下方へのインパルス応答の特徴部(A)の成分を減少させることにより、音像を正面前方に移動させることができる。
【0207】
この構成の音像定位処理回路541によれば、インパルス応答に対応した係数器T31〜T3n+1の全ての係数を変えることなく、レベル制御器543のレベルを変更するだけで、音像の定位位置を移動させることができる。よって、極めて簡単な構成により音像定位位置の移動させる音像定位処理部44を実現できる。
【0208】
(3−2.楽曲再生装置50の動作)
以上、音像定位処理部44の他の構成例も含めて、本実施形態に係る楽曲再生装置50について説明した。次に、図20及び図21を参照して、上記の構成を有する本実施形態に係る楽曲再生装置50の動作について説明する。尚、楽曲再生装置50は、第2実施形態に係る楽曲再生装置10と同様に動作をすることもできる。しかし、以下では、第2実施形態と異なる動作を中心に説明する。
【0209】
まず、Achを使用して第1楽曲が再生されている間に、楽曲群選択回路511が、新たに再生する第2楽曲が属する楽曲群1に含まれる1又は2以上の楽曲1,1〜1,nのオーディオ信号を記録装置20から選択して取得し、楽曲記録回路512に記録させる。この際、楽曲群選択回路511から制御部57に出力される属性情報は、第1楽曲が属する楽曲群から第2楽曲が属する楽曲群に切替えられる。
【0210】
そして、選択回路411が、新たに再生する第2楽曲のオーディオ信号を楽曲記録回路512から選択して取得し、このオーディオ信号を再生部42に出力する。この際、選択回路411から制御部57に出力される選択情報は、第1楽曲を示す情報から第2楽曲を示す情報へと切替えられる。
【0211】
そして、ステップS31において、選択情報取得部470を介して選択情報を取得した音像定位処理判断部572は、再生状態が変化したかどうかを判断する。より具体的には、図20に示すように、音像定位処理判断部572は、選択情報が、第1楽曲を示す情報から第2楽曲を示す情報へと変化したか否かを判断する。そして、音像定位処理判断部572が第2楽曲つまり新たな楽曲が選択されたと判断した場合、ステップS51に進む。
【0212】
ステップS51では、音像定位処理判断部572は、属性情報取得部571を介して取得した属性情報を確認する。そして、第1楽曲の属性情報と第2楽曲の属性情報とが同一であれば、第2実施形態と同様の動作を行う(図11のステップS32に進む。)。一方、属性情報が異なる場合には、ステップS52以降の動作を行う。より具体的には、第2楽曲が属する楽曲群(以下「第2楽曲群」とする。)と、第1楽曲が属する楽曲群(以下「第1楽曲群」とする。)とが異なる場合には、ステップS52以降の動作を行う。
【0213】
ステップS52では、音像定位処理判断部572は、第1楽曲つまり、現在再生中の楽曲のフェードアウト信号(Achのフェードアウト信号)を音量変更部473に出力する。そして、音量変更部473は、第1楽曲のチャンネルであるAchの音量可変部43(つまり、音量可変回路131A)の増幅量を徐々に減少させ、第1楽曲のフェードアウトを開始する。
【0214】
ステップS52の処理後はステップS53に進み、定位位置変更部475は、ユーザの正面前方から上前方に向けた第1楽曲の音像の定位位置の移動を開始させる。より具体的には、音像定位処理判断部472は、定位位置変更部475にAchの上方離隔信号を出力する。そして、この信号を受け取った定位位置変更部475は、現在の定位位置よりも上前方にずれた位置が定位位置となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部475は、この係数値を音像定位処理部44のAchに出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。更に定位位置変更部475は、この動作を繰り返すことにより、Achの定位位置を移動させる。
【0215】
ステップS53の処理後はステップS54に進み、定位位置変更部475は、音像定位処理部44の第2楽曲の音像の定位位置をリスナの下前方となるように設定する。より具体的には、音像定位処理判断部572は、定位位置変更部475にBchの下方接近信号を出力する。そして、この信号を受け取った定位位置変更部475は、Bchの定位位置が下前方となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部475は、この係数値を音像定位処理部44に出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。
【0216】
ステップS54の処理後はステップS55に進み、再生部42が第2楽曲のデジタルデータを再生している状態で、音量可変部43がBchの音量を調節してフェードイン再生することにより、第2楽曲がフェードインにより再生される。より具体的には、音像定位処理判断部572は、音量変更部473にBchのフェードイン信号を出力する。そして、この信号を受け取った音量変更部473は音量可変部43のオーディオ信号のBchの増幅量(音量可変回路131B)を徐々に所定の値まで増加させ、音量可変部43はこの増幅量によりBchのオーディオ信号を増幅する。
【0217】
ステップS55の処理後はステップS56に進み、定位位置変更部475は、第2楽曲の音像の定位位置をユーザの正面前方に向けて移動させる。より具体的には、定位位置変更部475は、現在の定位位置よりも正面前方にずれた位置が定位位置となる頭部伝達関数に対応したFIRフィルタの係数値等を係数記録部176から取得する。そして、定位位置変更部475は、この係数値を音像定位処理部44のBchに出力してFIRフィルタの係数値等を変更させる。更に定位位置変更部175は、この動作を繰り返すことにより、Bchの定位位置を移動させる。
【0218】
このステップS56の処理後はステップS57に進み、定位位置取得部474と定位位置変更部475とにより、第2楽曲の定位位置がユーザの正面前方となったか否かが判断される。より具体的には、定位位置取得部474は、現在のBchの定位位置を示す定位位置情報を取得して定位位置変更部475に出力する。更に定位位置変更部475は、定位位置情報が表す現在のBchの定位位置が、正面前方であるか否かを判断する。そして定位位置変更部475がBchの定位位置が正面前方にあると判断した場合に、ステップS58に進む。
【0219】
ステップS58において、定位位置変更部475は、第2楽曲の定位位置の変更を終了する。ステップS58の処理後は、Bchの定位位置が正面前方に設定された状態で第2楽曲の再生が続行される。そして次に、ステップS59に進む。
【0220】
このステップS59では、定位位置取得部474と定位位置変更部475とにより第1楽曲の定位位置がユーザの上前方となったか否かが判断される。より具体的には、定位位置取得部474は、現在のAchの定位位置を示す定位位置情報を取得して定位位置変更部475に出力する。更に定位位置変更部475は、定位位置情報が表す現在のAchの定位位置が、右前方であるか否かを判断する。そして定位位置変更部475がAchの定位位置が上前方にあると判断した場合に、ステップS60に進む。
【0221】
ステップS60において、定位位置変更部475は第1楽曲の定位位置の変更を終了する。
【0222】
ステップS60の処理後はステップS61に進み、音量変更部473は、音量可変部43による第1楽曲、つまりAchのフェードアウトが完了したかを判断する。そして、音量変更部473が第1楽曲フェードアウトが完了したと判断した場合に、ステップS62に進む。
【0223】
ステップS62において、音量変更部473は、フェードアウトを完了した場合、再生部42のAchに終了信号を出力し、再生部42は、Achの終了信号を受けた場合、第1楽曲のデジタルデータの再生を停止する。
【0224】
尚、上記ステップS31〜S62が行われている間、音像定位処理部44により定位処理された第1楽曲及び第2楽曲のオーディオ信号の左チャンネル信号及び右チャンネル信号は、D/A変換部15と増幅部16とを介して、ヘッドホン30からリスナにサウンドとして供給されていることは言うまでもない。
【0225】
上記の動作によれば、第1楽曲と第2楽曲とは、いわゆるクロスフェードされつつ、音像を移動されながら、入れ替えられる。そして、第1楽曲と第2楽曲とが同一の楽曲群に含まれる場合には、両楽曲の音像は左右方向に移動される。一方、異なる楽曲群に含まれる場合には、両楽曲の音像は上下方向に移動される。この音像が移動している様子を模式的に図21に示す。図21は、音像定位位置が移動する様子を概念的に説明するための説明図である。
【0226】
図21では、音像の定位位置181〜185を模式的にスピーカとして示した。また、図21において、リスナはx軸正の位置でx軸負の方向を向ているとする。そして、y軸負の方向はリスナにとって左方向であり、y軸正の方向はリスナにとって右方向であり、z軸正の方向はリスナにとって上方向であり、z軸負の方向はリスナにとって下方向であるとする。
【0227】
再生する楽曲が第1楽曲から第2楽曲に入れ替わる際、両楽曲はクロスフェードされる。そして、両楽曲の音像の定位位置は、図21に示すように移動される。つまり、第1楽曲と第2楽曲とが同一の楽曲群(同一の属性)であれば、第1楽曲の音像は、正面前方の定位位置182から、右前方の定位位置183又は左前方の定位位置181へと移動される。これと同時に、第2楽曲の音像は、左前方の定位位置181又は右前方の定位位置183から、正面前方の定位位置182へと移動される。つまり、この場合、両楽曲は、左右方向へと移動しつつ、入れ替えられる。
【0228】
一方、第1楽曲と第2楽曲とが異なる楽曲群(異なる属性)であれば、第1楽曲の音像は、正面前方の定位位置182から上前方の定位位置185へと移動される。これと同時に、第2楽曲の音像は、下前方の定位位置184から正面前方の定位位置182へと移動される。つまり、この場合、両楽曲は、上下方向へと移動しつつ、入れ替えられる。
【0229】
(3−3.楽曲再生装置50の効果)
以上、本実施形態に係る楽曲再生装置50の構成及び動作について説明した。
この楽曲再生装置50によれば、上記の第2実施形態に係る楽曲再生装置40の奏する効果に加えて、以下のような効果も奏することができる。
【0230】
すなわち、楽曲再生装置50によれば、このように属性に応じて音像を移動させることにより、図22に示すような、再生する楽曲と音像の移動方向との関係を、ユーザに認識させることができる。図22は、再生する楽曲と音像の移動方向とを関係を示す説明図である。
【0231】
より具体的には、同一の楽曲群(例えば、楽曲群2)に含まれる楽曲を選択する場合には、音像が左右方向へと移動(例えば、楽曲2,3から楽曲2,1へ)し、異なる楽曲群(例えば楽曲群2と楽曲群3)に含まれる楽曲を選択する場合には、音像が上下方向へと移動する(例えば、楽曲2,3から楽曲3,3へ)ような、楽曲選択のインターフェイスを提供することができる。つまり、楽曲再生装置50によれば、楽曲等のコンテンツ選択におけるいわゆる『クロスメディアバー(登録商標)』を音像にて実現することができる。
【0232】
このような楽曲再生装置50は、視覚的なクロスメディアバー(登録商標)による楽曲の選択と、連動して作動されることにより、より大きな演出効果をリスナに提供することができる。つまり、従来の楽曲再生装置によれば、楽曲の選択時に認識する視覚的な動作と、再生される音との間には、音量痛いの相関関係はなく、再生される音は、選択するインターフェイスとは切り離された存在であった。しかし、この楽曲再生装置50によれば、リスナが視覚的なクロスメディアバー(登録商標)により楽曲を選択した場合、そのクロスメディアバー(登録商標)の動きに連動して移動する音像をリスナに提供することができる。その結果、リスナにクロスメディアバー(登録商標)の動きと再生される楽曲との一体感を与えることができる。
【0233】
以上のように本実施形態に係る楽曲再生装置40によれば、楽曲を再生してユーザに提供する際に、様々な演出効果を奏することができる。しかし、ここに挙げた上記の演出効果は、あくまでも一例であり、本実施形態に係る楽曲再生装置40は、他にも様々な演出効果を奏することができる。
【0234】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0235】
上記実施形態では、楽曲1〜n等のコンテンツが再生されるとして、情報処理装置の一例として楽曲再生装置10について説明した。しかしこのコンテンツは、楽曲に限られるものではなく、再生される際に出力装置がオーディオデータを発するものであれば如何なるコンテンツであってもよい。例えば、コンテンツとして、楽曲だけでなく、音声、ビデオ映像、TV映像、映画映像、フラッシュ等であってもよい。そして、本発明の情報処理装置は、これらコンテンツを再生する装置等に適用することができる。
【0236】
また、上記実施形態では、楽曲のデジタルデータが記録装置20に記録されて、このデジタルデータが楽曲再生装置10で再生されるとした。しかしこの楽曲は、例えばアナログデータとして記録されてもよい。この場合、楽曲再生装置10は、例えば『A/D変換部』を記録装置20と音像定位処理部14との間に有し、アナログデータの楽曲は、デジタルデータに変換され、音像定位処理部14により音像定位処理されてもよい。
【0237】
また、上記実施形態では、楽曲を再生した音をユーザに提供する出力装置の一例として、ヘッドホン30が使用される場合について説明した。しかし、この出力装置は、ヘッドホン30に限られず、例えば、スピーカ、スピーカシステム、骨伝導スピーカ等の音を発することができる様々な出力装置であってもよい。この場合、例えば音像定位処理部14のFIRフィルタ等の特性を決定する係数等を変更して、出力装置に適した頭部伝達関数を変更することにより、本発明の情報処理装置は実現されうる。また、複数のスピーカを備える場合、例えば音像定位処理部14が有するFIRフィルタ等の個数を変更することにより、本発明の情報処理装置は実現されうる。
【0238】
また、上記実施形態では、楽曲のデジタルデータは、モノラルサウンドのオーディオデータであるとして説明した。しかし、この楽曲のデジタルデータは、例えば、ステレオサウンド等の多チャンネルのオーディオデータであってもよい。この場合、対応するチャンネル毎に同様の処理を行うように各構成の個数や配置を変更することにより、本発明の情報処理装置は実現されうる。
【0239】
また、上記実施形態では、楽曲再生装置10等は、音量可変部13を備えるとして説明したが、楽曲再生装置10等は、この音量可変部13を備えなくてもよい。
【0240】
また、上記実施形態では、『再生状態の変化』が楽曲の再生開始・再生終了・再生する楽曲の入れ替えである場合について説明した。しかし再生状態の変化は、これらの例に限定されるものではなく、例えば楽曲の再生の一時停止・再生の再開・リピート設定・ミキシング・スロー再生・倍速再生等であってもよい。更に、再生状態の変化は、コンテンツが映像等とともに際せされる場合、この映像の切り替わり等に対応した状態であってもよく、コンテンツがゲーム等である場合、ユーザの操作に応じたゲーム等による動作の変更等に対応してもよい。再生状態の変化が一時停止の場合は、例えば、上記の第1実施形態における再生終了時の動作と同様の動作によって実現することができる。そして、再生状態の変化が再生再開の場合は、例えば、上記の第1実施形態における再生開始時の動作と同様の動作によって実現することもできる。他にも様々なバリエーションが考えられる。
【0241】
また、上記実施形態では、音像の定位位置の移動方向が左右方向や上下方向である場合について説明した。しかし音像の定位位置の移動方向は、FIRフィルタ等の特性を変更することにより、様々な方向に設定することができる。例えばこの音像定位位置を、リスナの頭部を中心とした円周上を回転するように移動させてもよい。このような定位位置の移動は、より立体的な音像をリスナに提供することができ、リスナの聴覚に様々な情報を提供することができる。つまり、リスナは、このように円周上を回転するように移動する音像を聞くことにより、楽音がリスナ自信の回りを回転しているように知覚することができる。
【0242】
また、上記実施形態では、音像定位処理部14M2、44Mが、左前方に音像を固定させる固定音像定位処理回路145Lと、右前方に音像を固定させる固定音像定位処理回路145Rと、を有する場合について説明した。しかし、この固定音像定処理回路の個数はかかる例に限定されない。例えば、DVD等で標準的に使用されるスピーカ配置である左前方・正面前方・右前方・左後方・右後方等のように、3以上の固定音像定処理回路を使用してもよい。この場合、例えば各固定音像定処理回路にオーディオ信号をレベル分配により振り分けることにより、音像の定位位置を制御することができる。
【0243】
また、上記実施形態では、選択部41が、Achで再生されている第1楽曲と、Bchで新たに再生を開始する第2楽曲とを入れ替える際の動作について説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、楽曲再生装置40は、選択部41が第1楽曲と第2楽曲とを選択した場合に、両者をリミックスして再生してもよい。
【0244】
つまり、楽曲再生装置40は、第1楽曲をAchで再生開始し、この第1楽曲の音像定位位置を左前方から正面前方へと移動させる。更に、楽曲再生装置40は、第2楽曲をBchで再生開始し、この第2楽曲の音像定位位置を右前方から正面前方へと移動させる。その結果、両楽曲の音像が正面前方にて定位する。従って、楽曲再生装置40は、リスナの正面前方において両楽曲をリミックスして再生することもできる。
【0245】
更にこの際、楽曲の個数は第1楽曲と第2楽曲との2曲に限定されず、3つや更に多くの楽曲をリミックスすることも可能である。複数の楽曲を再生してリミックスする場合、楽曲再生装置40は、上記のAch及びBch以外に更に複数のチャンネルを有するように構成されるが、各チャンネルは上記と同様に構成することができる。また、この際、各チャンネルの楽曲が再生を開始される初期位置として、音像定位処理部44による音像定位位置を複数設定することもできる。つまり、複数の楽曲がそれぞれ異なる定位位置より再生開始されるように、各チャンネルは、初期位置としての音像定位位置を、正面前方やリスナの位置を中心として上下又は左右の角度方向に略均一になるように設定してもよい。そして各チャンネルで再生される楽曲の音像定位位置を、それぞれ正面前方に向けて移動させる。その結果、複数の楽曲の音像が正面方向にて定位する。従って、楽曲再生装置40は、複数の楽曲をリスナの正面前方においてリミックスして再生することもできる。
【0246】
また、上記各実施形態で説明した一連の処理は、専用のハードウエアにより実行させてもよいが、ソフトウエアにより実行させてもよい。一連の処理をソフトウエアにより行う場合、図23に示すような汎用又は専用のコンピュータにプログラムを実行させることにより、上記の一連の処理を実現することができる。
【0247】
図23は、プログラムを実行することにより一連の処理を実現するコンピュータの構成例を説明するための説明図である。一連の処理を行うプログラムのコンピュータによる実行について説明すれば、以下のようになる。
【0248】
図23に示すように、コンピュータは、例えば、バス601と、CPU(Central Processing Unit)603と、記録装置と、入出力インターフェイス606と、通信装置607と、入力装置と、ドライブ611と、出力装置となどを有する。これらの各構成は、バス601や入出力インターフェイス606等を介して相互に情報を伝達可能に接続されている。
【0249】
プログラムは、例えば、記録装置の一例である、HDD(Hard Disk Drive)603・ROM(Read Only Memory)604・RAM(Random Access
Memory)605等に記録しておくことがきる。
【0250】
また、プログラムは、例えば、フレキシブルディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体612に、一時的又は永続的に記録しておくこともできる。このようなリムーバブル記録媒体612は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することもできる。この場合、これらのリムーバブル記録媒体612に記録されたプログラムは、ドライブ611により読み出されて、入出力インターフェイス606・バス601等を介して上記の記録装置に記録されてもよい。
【0251】
更に、プログラムは、例えば、ダウンロードサイト・他のコンピュータ・他の記録装置等(図示せず)に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワーク608を介して転送され、通信装置607がこのプログラムを受信する。そして、通信装置607が受信したプログラムは、入出力インターフェイス606・バス601等を介して上記の記録装置に記録されてもよい。
【0252】
そして、CPU602が、上記の記録装置に記録されたプログラムに従い各種の処理を実行することにより、上記の一連の処理が、実現される。この際、CPU602は、例えば、上記の記録装置から直接プログラムを、直接読み出して実行してもよく、RAM605に一旦ロードした上で実行してもよい。更にCPU602は、例えば、プログラムを通信装置607やドライブ611を介して受信する場合、受信したプログラムを記録装置に記録せずに直接実行してもよい。
【0253】
更に、CPU602は、必要に応じて、例えばマウス609・キーボード610・マイク(図示せず)等の入力装置から入力する信号や情報に基づいて各種の処理を行ってもよい。
【0254】
そして、CPU602は、上記の一連の処理を実行した結果を、スピーカ614又はヘッドホン615等の出力装置から出力する。更にCPU602は、必要に応じてこの処理結果を、モニタ613等の他の出力装置に出力してもよく、通信装置607から送信してもよく、上記の記録装置やリムーバブル記録媒体612に記録させてもよい。
【0255】
尚、本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的に又は個別的に実行される処理をも含むものである。また時系列的に処理されるステップでも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0256】
【図1】本発明の第1実施形態に係る楽曲再生装置の構成を説明するための説明図である。
【図2】同実施形態に係る音像定位処理部の構成例を説明するための説明図である。
【図3】音像定位フィルタを説明するための説明図である。
【図4】同実施形態に係る音像定位処理部の構成の第1の変更例を説明するための説明図である。
【図5】同実施形態に係る音像定位処理部の構成の第2の変更例を説明するための説明図である。
【図6】同実施形態に係る楽曲再生装置の再生開始時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】音像定位位置が移動する様子を概念的に説明するための説明図である。
【図8】同実施形態に係る楽曲再生装置の再生終了時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る楽曲再生装置の構成を説明するための説明図である。
【図10】音像定位処理部の構成の他の例を説明するための説明図である。
【図11】同実施形態に係る楽曲再生装置の楽曲入れ替え時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図12】音像定位位置が移動する様子を概念的に説明するための説明図である。
【図13】本発明の第3実施形態に係る楽曲再生装置の構成を説明するための説明図である。
【図14】音像定位処理回路の構成の他の例を説明するための説明図である。
【図15】信号処理回路の構成を説明するための説明図である。
【図16】信号処理回路によるインパルス応答を説明するための説明図である。
【図17】信号処理回路の構成を説明するための説明図である。
【図18】信号処理回路によるインパルス応答を説明するための説明図である。
【図19】音像定位処理回路によるインパルス応答を説明するための説明図である。
【図20】同実施形態に係る楽曲再生装置の楽曲群入れ替え時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図21】音像定位位置が移動する様子を概念的に説明するための説明図である。
【図22】再生する楽曲と音像の移動方向とを関係を示す説明図である。
【図23】プログラムを実行することにより一連の処理を実現するコンピュータの構成例を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0257】
10,40,50 楽曲再生装置
20 記録装置
30 ヘッドホン
11,41,51 選択部
12,42 再生部
13,43 音量可変部
14,14M1,14M2,44,44M 音像定位処理部
15 D/A変換部
16 増幅部
17,47,57 制御部
111,411 選択回路
121,121A,121B 再生回路
131,131A,131B 音量可変回路
141,141M,141A,141B,541 音像定位処理回路
141L,141R 音像定位フィルタ
142 時間差付加手段
142L,142R 遅延器
143 レベル差付加手段
143L,143R レベル制御器
144L,144R レベル制御器
144LA,144RA,144LB,144RB レベル制御器
145L,145R 固定音像定位処理回路
146L,146R 加算器
151L,151R D/A変換回路
161L,161R 増幅器
171,471 再生状態取得部
172,472,572 音像定位処理判断部
173,473 音量変更部
174,474 定位位置取得部
175,475 定位位置変更部
176 係数記録部
181,182,183,184,185 定位位置
441L,441R,447L,447R 加算器
470 選択情報取得部
511 楽曲群選択回路
512 楽曲記録回路
542V,542L,542R 信号処理回路
543 レベル制御器
571 属性情報取得部
601 バス
602 CPU
603 HDD
604 ROM
605 RAM
606 入出力インターフェイス
607 通信装置
608 ネットワーク
609 マウス
610 キーボード
611 ドライブ
612 リムーバブル記録媒体
613 モニタ
614 スピーカ
615 ヘッドホン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテンツを再生する情報処理装置であって、
前記コンテンツを再生する再生部と、
前記再生部が再生するコンテンツを、当該コンテンツによる音像が任意の定位位置に定位するように音像定位処理する音像定位処理部と、
前記再生部による前記コンテンツの再生状態の変化に応じて、前記音像の定位位置を移動させる制御部と、
を備えることを特徴とする、情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記再生部が前記コンテンツの再生を開始及び終了する際に、前記音像の定位位置を移動させることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記再生部が前記コンテンツの再生を開始する際に、前記コンテンツの視聴者に近づくように前記音像の定位位置を移動させ、
前記再生部が前記コンテンツの再生を終了する際に、前記視聴者から遠ざかるように前記音像の定位位置を移動させることを特徴とする、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記再生部が再生するコンテンツを複数のコンテンツから選択する選択部を更に備え、
前記再生部が第1コンテンツを再生中に前記選択部が第2コンテンツを選択した場合、
前記制御部は、前記第1コンテンツ及び前記第2コンテンツによる音像の定位位置を移動させながら、前記再生部に前記第1コンテンツの再生を終了させ、かつ、前記第2コンテンツの再生を開始させることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1コンテンツによる音像の定位位置を、前記再生部が再生するコンテンツの視聴者から遠ざかるように移動させつつ、
前記第2コンテンツによる音像の定位位置を、前記視聴者に近づくように移動させることを特徴とする、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記複数のコンテンツは、再生順序が決定されており、
前記制御部は、
前記第2コンテンツの再生順序が前記第1コンテンツの再生順序よりも先の場合と後の場合とで、前記第1コンテンツ及び前記第2コンテンツによる音像の定位位置の移動方向を逆にすることを特徴とする、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記選択部は、前記再生部が再生するコンテンツを前記複数のコンテンツから選択する方法を2以上有しており、
前記制御部は、前記第1コンテンツ及び前記第2コンテンツによる音像の定位位置を、前記第2コンテンツが選択された方法毎に異なる方向に移動させることを特徴とする、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記第1コンテンツ及び前記第2コンテンツによる音像の定位位置を移動させる方向は、前記再生部が再生するコンテンツの視聴者に対する左右方向及び上下方向を少なくとも含むことを特徴とする、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記複数のコンテンツには、それぞれ属性情報が対応付けられており、
前記選択部は、
前記第1コンテンツと同じ属性情報が対応付けられた1又は2以上のコンテンツから前記第2コンテンツを選択する第1方法と、
前記第1コンテンツとは異なる属性情報が対応付けられた1又は2以上のコンテンツから前記第2コンテンツを選択する第2方法と、
を有することを特徴とする、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記再生部が前記コンテンツの再生を開始する際に、前記コンテンツをフェードインさせ、前記再生部が前記コンテンツの再生を終了する際に、前記コンテンツをフェードアウトさせる音量可変部を更に備えることを特徴とする、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記第1コンテンツの再生音量を減少させつつ、前記第2コンテンツの再生音量を増加させることにより、前記第1コンテンツと前記第2コンテンツとをクロスフェードさせる音量可変部を更に備えることを特徴とする、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記再生部が前記コンテンツの再生を一時停止又は再開する際に、前記音像の定位位置を移動させることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記音像定位処理部は、音像の定位位置が相異なる複数の音像定位フィルタを有し、
前記制御部は、前記コンテンツが前記再生部で再生されることにより得られるオーディオ信号を、前記複数の音像定位フィルタに振り分けて入力することにより、前記音像の定位位置を移動させることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記音像定位処理部は、前記音像の定位位置を変更可能な音像定位フィルタを有し、
前記制御部は、前記音像の定位位置を決定するための前記音像定位フィルタの係数を変更することにより、前記音像の定位位置を移動させることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項15】
コンテンツを再生し、
再生中の前記コンテンツに対して音像定位処理する際に、前記コンテンツの再生状態の変化に応じて、前記音像定位処理による音像の定位位置を移動させることを特徴とする、情報処理方法。
【請求項16】
コンピュータを、
コンテンツを再生する再生手段と、
前記再生手段が再生するコンテンツを、当該コンテンツによる音像が任意の定位位置に定位するように音像定位処理する音像定位処理手段と、
前記再生手段による前記コンテンツの再生状態の変化に応じて、前記音像の定位位置を移動させる制御手段と、
として機能させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2009−44263(P2009−44263A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204685(P2007−204685)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】