説明

情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム

【課題】光音響イメージングの際に、インパルス応答の影響を除去するデコンボリューション手法を好適に行うための技術を提供する。
【解決手段】測定対象からの弾性波が受信機により受信された圧力信号の初期値を取得する信号初期化手段と、受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化手段と、各初期値に基づいて修正圧力信号を出力する出力手段を有し、出力手段は、インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正手段と、複数の拘束条件により圧力信号を修正する信号拘束手段と、圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正手段と、インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束手段とを有し、各処理を所定の条件に従って反復して実行することにより、修正圧力信号を生成する情報処理装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光音響イメージングの技術が開発されている。これは、測定対象に光を照射したときに光音響効果により発生する音響波(光音響波)を、受信素子を有する探触子などの受信機で受信し、音響波の圧力信号を求める技術である。これにより測定対象内部の三次元圧力分布や光学特性値分布を求めること、すなわち再構成が可能になる。よって、生体を測定対象とすれば、生体内部を画像化して腫瘍の観察など医療分野への応用ができる。
【0003】
光音響イメージングで測定される圧力信号は、受信機のインパルス応答の影響を受けて劣化する。そのため再構成で得られる三次元圧力分布画像の解像度及びコントラストが低下する。上記解像度及びコントラストを改善するには、受信機のインパルス応答の影響を除去する必要がある。かかる除去操作は、数学的には逆畳み込み演算と等価であり、「デコンボリューション」と呼ばれる。
【0004】
光音響イメージングにおけるデコンボリューション手法として非特許文献1の例がある。非特許文献1では、受信機のインパルス応答を実測して圧力信号のデコンボリューションを行う手法が開示されている。具体的には、励起光を微小領域に集中させ、その領域から発せられる圧力信号をインパルス応答の近似値として用いる手法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wang et al., “Photoacoustic imaging with deconvolution algorithm,” Phys. Med. Biol. 49 (2004) 3117-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の手法では、インパルス応答の実測が必要であった。一般に、受信機のインパルス応答を正確に測定するには、十分な高周波成分を含む既知の入力信号を生成し、これに対する受信機の応答を正確に測定する必要がある。しかし、ノイズ存在下でかかる測定を行うのは困難である。
また、実際の応用の場面では、測定環境の違いや機器の経時変化に伴い、インパルス応答が変化する。上記の手法では、これらの変化に応じて何度もインパルス応答を測定する必要が生じるため、現実的な運用は困難であった。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、光音響イメージングの際に、インパルス応答の影響を除去するデコンボリューション手法を好適に行うための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、測定対象から伝播した弾性波が受信機により受信されて得られた圧力信号の初期値を取得する信号初期化手段と、前記受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化手段と、前記圧力信号の初期値および前記インパルス応答の初期値に基づいて修正圧力信号を出力する出力手段と、を有する情報処理装置であって、前記出力手段は、インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正手段と、高コントラスト性、正値性および周波数帯域
特性を拘束条件として圧力信号を修正する信号拘束手段と、圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正手段と、インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束手段とを有し、前記信号修正手段、前記信号拘束手段、前記インパルス応答修正手段および前記インパルス応答拘束手段の処理を、所定の条件に従って反復して実行することにより、前記修正圧力信号を生成することを特徴とする情報処理装置である。
【0009】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、情報処理装置が、測定対象から伝播した弾性波が受信機により受信されて得られた圧力信号の初期値を取得する信号初期化ステップと、前記情報処理装置が、前記受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化ステップと、前記情報処理装置が、前記圧力信号の初期値および前記インパルス応答の初期値に基づいて修正圧力信号を出力するステップと、を有する情報処理方法であって、前記出力するステップでは、前記情報処理装置が、インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正ステップと、前記情報処理装置が、高コントラスト性、正値性および周波数帯域特性を拘束条件として圧力信号を修正する信号拘束ステップと、前記情報処理装置が、圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正ステップと、前記情報処理装置が、インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束ステップとが、所定の条件に従って反復して実行されることにより、前記修正圧力信号が生成されることを特徴とする情報処理方法である。
【0010】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、測定対象から伝播した弾性波が受信機により受信されて得られた圧力信号の初期値を取得する信号初期化ステップと、前記受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化ステップと、前記圧力信号の初期値および前記インパルス応答の初期値に基づいて修正された圧力信号を出力するステップと、を有する情報処理方法を、情報処理装置に実行させる情報処理プログラムであって、前記出力するステップでは、インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正ステップと、高コントラスト性、正値性および周波数帯域特性を拘束条件として圧力信号を修正する信号拘束ステップと、圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正ステップと、インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束ステップとが、所定の条件に従って反復して実行されることにより、前記修正圧力信号が生成されることを特徴とする情報処理プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光音響イメージングの際に、インパルス応答の影響を除去するデコンボリューション手法を好適に行うための技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した光音響イメージング装置の模式図。
【図2】本発明の実施の形態における処理の各工程を示したフローチャート。
【図3】本発明の適用前後で圧力信号を比較した図。
【図4】本発明の適用前後で再構成結果を比較した図。
【図5】本発明の前処理手段の構成を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の技術は、光音響イメージングにおいて、測定対象内部の三次元圧力分布あるいは光学特性値分布を求める(再構成する)前の、圧力信号を整形する段階に適用される。従って本発明は、光音響イメージング装置としてはもちろん、光音響イメージング装置に組み込まれたり、接続されたりして使用される画像処理装置あるいは情報処理装置として実施することもできる。本発明はまた、コンピュータ等の画像処理装置や情報処理装置に
本発明の各工程における処理を実行させる画像処理プログラムまたは情報処理プログラムとしても実現できる。本発明はまた、プログラムに従い画像処理装置や情報処理装置が行う画像処理方法や情報処理方法としても実現できる。
【0014】
光音響イメージング装置においては、光照射によって生じた弾性波の圧力信号の発生源分布(三次元圧力分布)、あるいはそれから導かれる吸収係数分布などの光学特性値分布が求められる。さらに光学特性値分布から、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布のような物質濃度分布も求められる。さらにこれら各種の値の分布に基づき、例えば医療診断の目的で、表示手段に表示するための測定対象内部の画像データを作成し、画像化(再構成)を行うことができる。
【0015】
<光音響イメージング装置の構成と機能>
図1は、本発明の実施の形態を含む光音響イメージング装置全体の模式図である。以下、装置の各構成要素の機能を説明する。
【0016】
光源1はレーザ光源であり、測定対象2にパルス状のレーザ光11を入射させる。測定対象が生体の場合、光源からは生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される波長の光を照射する。光源としては数ナノから数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生させ得るパルス光源が好ましい。光源としてはレーザが好ましいが、レーザのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザとしては、固体レーザ、ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザなど様々なレーザを使用することができる。光源が使用する波長に関しては、生体内において吸収が少ない700nmから1100nmの波長領域が好ましい。ただし、比較的生体表面付近の生体組織の光学特性値分布を求める場合は、上記の波長領域よりも範囲の広い、例えば400nmから1600nmの波長領域を使用することも可能である。
【0017】
測定対象2は内部に吸光係数分布を持つ物体であり、光源1より入射した光を物体内の各点における吸光係数に応じて吸収する。吸収された光のエネルギーが物体内の各点のグリュナイゼン係数に応じて弾性波を生じさせることにより、測定対象内部に圧力分布を生じさせる。この圧力分布を本明細書では三次元圧力分布と呼ぶ。
【0018】
測定対象2の内部に発生した三次元圧力分布は弾性波21として周囲に伝播する。超音波受信機3に達した前記弾性波は、時系列の圧力データとして測定及び記録される。これを本明細書では圧力信号と呼称する。この弾性波は、音波、超音波、音響波、光音響波、光超音波とも呼ばれる。
超音波受信機は、弾性波を受信して電気信号に変換する検出器である。電気信号には、必要に応じてAD変換や増幅処理が施される。測定対象から主に発生する100KHzから100MHzの弾性波を受信できる検出器が好適に用いられる。超音波受信機は、圧電現象を用いるもの、光の共振を用いるもの、容量の変化を用いるものなど、弾性波を受信できるものであればどのような検出器でもよい。また、複数の受信素子がリニア状あるいは平面状に配列された超音波受信機を用いれば、検出時間を短縮できると共に、測定対象の振動の影響を低減できる。超音波受信機は、本発明の受信機に相当する。
【0019】
前記圧力信号に対して前処理手段4にてノイズ除去やデコンボリューション等の前処理工程を行う。本発明はこの前処理工程を特徴づけるものである。
前処理の済んだ圧力信号に対して再構成手段5にて再構成工程を行う。再構成とは圧力信号から前記三次元圧力分布を復元推定する工程である。再構成手段は、本発明の作成手段に相当する。
再構成された三次元圧力分布に対して、後処理手段6にて特徴抽出やコントラスト調整等の後処理工程を行う。
これら前処理手段、再構成手段、後処理手段は、例えばコンピュータ等の情報処理装置で実行されるプログラムのモジュールとして実現することもできるし、専用の回路を用いても構わない。
【0020】
後処理の結果として得られた三次元圧力分布は、表示手段7に表示される。これらの工程により測定対象2内部の吸光係数分布に関する情報を三次元的に可視化できる。
以上が、本発明の実施の形態に係る光音響イメージング装置及びその動作の概要である。
【0021】
<デコンボリューションの各工程>
次に、図2を参照しながら、本発明の実施の形態における各工程を説明する。なお、以下の説明では圧力信号の推定値及びインパルス応答の推定値を単に信号、インパルス応答と記し、特に区別が必要な場合以外、推定値である旨を書かない。各工程は、図5に示すように、前処理手段4の各構成要素によって行われる。
【0022】
はじめに、ステップS21において、信号初期化手段21にて受信機より圧力信号の実測値を取得する(後述の式(1)、式(2)におけるy)。また、信号の初期値(式(1)におけるx)を0とする。
【0023】
次に、ステップS22において、インパルス応答初期化手段22にてインパルス応答の初期値(式(2)におけるh)を算出もしくは取得する。算出する場合は、例えば、周波数特性において受信機と等価な減衰振動子モデルを用いてインパルス応答の近似値を推算してもよい。取得する場合は、例えば、ノイズを含むインパルス応答の実測値を近似値として用いてもよい。要するに真のインパルス応答を定性的に近似する時系列データを用いればよいのであって、例えば、機器の経時変化等でインパルス応答が若干変化しても、初期値を変化させる必要はない。
【0024】
次に、ステップS23において、反復制御手段23にて信号のデコンボリューションを行う反復計算を開始する。図2では、前記反復計算を二重ループとして示してある。二重ループの中には、まず、後述の信号修正手段と信号拘束手段とによる処理をこの順で適当な回数反復して適用する内部ループ(第一のループ処理)がある。さらに、インパルス応答修正手段とインパルス応答拘束手段とによる処理をこの順で適当な回数反復して適用する内部ループ(第二のループ処理)がある。そして、これらの内部ループを順に繰り返し行う工程を外部ループ(第三のループ処理)としてある。以下、この二重ループによる処理を説明する。
しかし、これはあくまで実施形態の一例を示したに過ぎず、各修正手段および各拘束手段による処理の本質を損なわない限りにおいて、適宜、反復の順番や反復の回数を変更することができる。
【0025】
次に、ステップS24において、信号修正手段24にて、この時点でのインパルス応答を真値とみなして信号の修正を行う。修正の方法は、例えば、式(1)に示すLandweber反復により行うことができる。なお、式(1)において、xはk回目の反復における信号の推定値、γは緩和係数、hはインパルス応答、yは実際に測定された圧力信号、*は複素共役、積記号(○に×)は畳みこみ積である。
【数1】

【0026】
式(1)における緩和係数γは、反復の収束する速さを調整する係数であって、0より
大きく2より小さい実数をインパルス応答のパワースペクトル(フーリエ変換の絶対値の2乗)の最大値で除した値を使うことができる。これは反復写像のスペクトル半径が1より小さいこと(収束条件)から定まる。さらに言えば、反復が安定して行える限り、緩和係数は大きい値であるほど好ましい。
【0027】
次に、ステップS25において、信号拘束手段25にて、信号の正値性、高コントラスト性、周波数帯域特性を拘束条件として信号を再修正する。
具体的には、例えば、基線除去(高コントラスト性に対応)、負値除去(正値性に対応)、高周波成分除去(周波数帯域特性に対応)をこの順で行うことにより信号を拘束してもよい。
【0028】
また、前記基線除去は、例えば、信号の平均値、中央値、低周波成分のいずれかに所定の係数を乗じたのち元の信号から減ずることにより、基線を除去してもよい。この処理は信号のバックグラウンドが反復計算中に増加するのを抑制し、以って信号の高コントラスト性を保証するためのものである。したがってその所定の係数は0以上の実数であればよい。
【0029】
また、前記負値除去は、例えば、単純に信号の負の部分を0に置換することで実現できる。この処理は圧力信号の時間積分(速度ポテンシャル)が正値であるという物理的要請を保証するためのものである。
【0030】
また、前記高周波成分除去は、例えば、適当なカットオフ周波数によって特徴づけられるローパスフィルタによって、信号の高周波成分を除去してもよい。この処理は信号に含まれる高周波数のノイズが反復計算中に増加するのを抑制するためのものであり、修正後の信号の帯域上限を定める。したがって、そのカットオフ周波数は、受信機の帯域中心を特徴づける周波数の1倍以上10倍以下の値とするのが好ましい。
【0031】
次に、ステップS26において、反復制御手段23が、S23で説明したような反復制御を行う。圧力信号修正処理を終了する条件が満たされていれば、本フローを終了し、再構成処理に移行する。
次に、ステップS27において、インパルス応答修正手段27にて、この時点での信号を真値とみなしてインパルス応答の修正を行う。修正の方法は、例えば、式(2)に示すLandweber反復により行うことができる。なお、式(2)において、hはk回目の反復におけるインパルス応答、γは緩和係数、xは信号、yは実際に測定された圧力信号、*は複素共役、積記号(○に×)は畳みこみ積である。
【数2】

【0032】
式(2)における緩和係数に関する条件は、前記ステップS24における条件と同様に、反復の収束する速さを調整する係数であって、0より大きく2より小さい実数を信号のパワースペクトルの最大値で除したものを用いてもよい。
【0033】
次に、ステップS28において、インパルス応答拘束手段28にて、インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を再修正する。
具体的には、適当なカットオフ時間により特徴づけられる減衰関数をインパルス応答に乗じることにより、インパルス応答を拘束してもよい。この処理はインパルス応答が有限の時間で減衰するという物理的要請を保証するためのものである。したがってそのカットオフ時間は、インパルス応答の典型的な減衰時間を示す指標であればよく、例えば、受信
機の帯域中心を特徴づける周波数と、受信機の帯域幅を特徴づけるQ値とから算出してもよい。
【0034】
最後に、ステップS23に戻り、反復制御手段23にて、反復計算を終了するか否かの判定を行う。判定は、例えば、所定の反復回数に達したことで終了としてもよいし、前記信号修正手段もしくは前記インパルス応答修正手段における各修正量が所定の基準値を下回ったことで終了としてもよいし、またそれらの条件を組み合わせて用いてもよい。終了しない場合は上記の反復計算を継続する。
【0035】
本フローにおける、信号初期化手段21、インパルス応答初期化手段22、反復制御手段23、信号修正手段24、信号拘束手段25、インパルス応答修正手段27、インパルス応答拘束手段28は、前処理手段4の一部を構成するものである。この様子を図5に示す。反復制御手段23は、不図示の制御線により他の構成要素を制御している。それぞれの手段は例えば、前処理手段を実現するプログラムの一部として構成することも可能であり、専用の回路を用いても構わない。また、信号修正手段、信号拘束手段、インパルス応答修正手段およびインパルス応答拘束手段は、インパルス応答の初期値と圧力信号の初期値に基づいて、最終的に修正された圧力信号である修正圧力信号を生成し出力する出力手段と捉えることもできる。
【0036】
以上の各工程により、信号とインパルス応答とが同時に拘束条件下で最も有り得る値に収束する。なお、信号は圧力信号の速度ポテンシャルに収束する。
【0037】
<実施例>
以下、実施例として、本発明の情報処理装置により上記フローに従って算出したデコンボリューションの結果について述べる。
【0038】
測定データ1は下記のように測定したものである。光源として、Ti:Saレーザ(波長797nm)を用いた。測定対象として、ウレタンゲルのブロックに直径0.3mmのゴムワイヤを5mm間隔で包埋したものを用いた。超音波受信機として、CMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)を用いた。
【0039】
測定データ2は下記のように測定したものである。光源として、Ti:Saレーザ(波長797nm)を用いた。測定対象として、ウレタンゲルのブロックに直径2mmのチューブ状光吸収体(ウレタンゲルに光を吸収するインクを加えたもの)を10mm間隔で包埋したものを用いた。超音波受信機として、ピエゾ素子を用いた超音波トランスデューサを用いた。
【0040】
再構成には、既知のバックプロジェクション法を用いた。なお、本発明は再構成以前の圧力信号の整形に係るものであるから、再構成手法の如何に依らずその効果が発揮される。例えばバックプロジェクション法の代わりに、k−space法、最小二乗法、制約付き最小二乗法、非線形最適化法のいずれかの手法により再構成してもよい。
【0041】
各設定値は次のとおりである。インパルス応答の初期値は、減衰振動子モデルから算出したものを用いた。信号修正手段とインパルス応答修正手段における緩和係数γは、「1.9」をそれぞれインパルス応答、信号のパワースペクトルの最大値で割った値を用いた。信号拘束手段における基線除去は、信号の中央値に1をかけて元の信号から減ずる方法を採った。信号拘束手段におけるカットオフ周波数は、受信機の帯域中心周波数の3倍とした。インパルス応答拘束手段におけるカットオフ時間は、60μsを用いた。反復回数は、信号修正及び拘束ループを6回、インパルス応答修正及び拘束ループを6回とし、これら一連の処理を順に300回反復した。
上記の設定値を用いて、図2に示したフローチャートに従ってデコンボリューションを行った。
【0042】
図3は、測定データ1に対してデコンボリューションを行った結果を圧力信号として表示したものである。図3において、縦軸は時間を、横軸は超音波受信機の受信素子の位置を表す。また、右側のスケールは色の濃さに応じて圧力(P)を表す。図3(a)に示すように、デコンボリューション前には主信号(矢印に「M」の文字で示す)の後の時刻に、複数の本来存在しないピークが見られる。一方、図3(b)に示すように、デコンボリューション後にはそれらのピークは見られなかった。
【0043】
図4は、測定データ2に対してデコンボリューションを行い、再構成した結果である。図4(a)に示すように、デコンボリューション前には解像度もコントラストも低い。一方、図4(b)に示すように、デコンボリューション後には、解像度、コントラストともに向上した。
【0044】
なお、上記計算に要した時間は1.4GFlopsの計算機環境において9秒間であった。
【0045】
上記の結果から、本発明のデコンボリューション処理によって、光音響イメージングにおける解像度、コントラストが改善し、本発明の課題が解決されたことが示された。
【0046】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明は上記特定の形態に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で実施形態の修正をすることができる。
【符号の説明】
【0047】
3:超音波受信機、4:前処理手段、21:信号初期化手段、22:インパルス応答初期化手段、23:反復制御手段、24:信号修正手段、25:信号拘束手段、27:インパルス応答修正手段、28:インパルス応答拘束手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から伝播した弾性波が受信機により受信されて得られた圧力信号の初期値を取得する信号初期化手段と、
前記受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化手段と、
前記圧力信号の初期値および前記インパルス応答の初期値に基づいて修正圧力信号を出力する出力手段と、
を有する情報処理装置であって、
前記出力手段は、
インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正手段と、
高コントラスト性、正値性および周波数帯域特性を拘束条件として圧力信号を修正する信号拘束手段と、
圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正手段と、
インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束手段とを有し、前記信号修正手段、前記信号拘束手段、前記インパルス応答修正手段および前記インパルス応答拘束手段の処理を、所定の条件に従って反復して実行することにより、前記修正圧力信号を生成する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記インパルス応答初期化手段は、前記受信機のインパルス応答の実測か、近似値の推算により、前記インパルス応答の初期値を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
はk回目の反復における圧力信号の推定値、γは緩和係数、hはインパルス応答、yは実際に測定された圧力信号、*は複素共役、積記号は畳みこみ積であるとしたときに、
前記信号修正手段は、式(1)により圧力信号を修正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の情報処理装置。
【数1】

【請求項4】
前記式(1)における緩和係数は、0より大きく2より小さい実数を前記インパルス応答のパワースペクトルの最大値で除したものを用いる
ことを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
はk回目の反復におけるインパルス応答、γは緩和係数、xは圧力信号、yは実際に測定された圧力信号、*は複素共役、積記号は畳みこみ積であるとしたときに、
前記インパルス応答修正手段は、式(2)によりインパルス応答を修正する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【数2】

【請求項6】
前記式(2)における緩和係数は、0より大きく2より小さい実数を、前記式(2)における圧力信号のパワースペクトルの最大値で除したものを用いる
ことを特徴とする請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記信号拘束手段は、前記高コントラスト性に対応する基線除去、前記正値性に対応する負値除去、前記周波数帯域特性に対応する高周波成分除去の順に圧力信号の修正を行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記信号拘束手段は、圧力信号の平均値、中央値および低周波成分のいずれかに所定の係数を乗じたのち当該圧力信号から減ずることにより、前記基線除去を行う
ことを特徴とする請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記基線除去における前記所定の係数は、0以上の実数である
ことを特徴とする請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記信号拘束手段は、所定のカットオフ周波数を持つローパスフィルタにより、前記高周波成分除去を行う
ことを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記高周波成分除去における前記所定のカットオフ周波数は、前記受信機の帯域中心の周波数の1倍以上10倍以下の値である
ことを特徴とする請求項10に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記インパルス応答拘束手段は、所定のカットオフ時間を持つ減衰関数をインパルス応答に乗じることにより、当該インパルス応答を修正する
ことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記インパルス応答拘束手段における前記所定のカットオフ時間は、前記受信機の帯域中心の周波数と、前記受信機の帯域幅を表すQ値とから算出される
ことを特徴とする請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記出力手段は、
前記信号修正手段、前記信号拘束手段の順に圧力信号の修正を繰り返す第一のループ処理と、
前記インパルス応答修正手段、前記インパルス応答拘束手段の順にインパルス応答の修正を繰り返す第二のループ処理と、
前記第一のループ処理および前記第二のループ処理を繰り返す第三のループ処理の、回数及び順番を制御する
ことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記出力手段は、前記第一のループ処理、前記第二のループ処理および前記第三のループ処理を、それぞれ所定の回数だけ実行する
ことを特徴とする請求項14に記載の情報処理装置。
【請求項16】
前記出力手段は、前記第一のループ処理における圧力信号の修正量が所定の基準値を下回るまで前記第一のループ処理を実行する
ことを特徴とする請求項14に記載の情報処理装置。
【請求項17】
前記出力手段は、前記第二のループ処理におけるインパルス応答の修正量が所定の基準値を下回るまで前記第二のループ処理を実行する
ことを特徴とする請求項14に記載の情報処理装置。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか1項に記載の情報処理装置と、
当該情報処理装置によって修正された圧力信号を用いて、バックプロジェクション法、
k−space法、最小二乗法、制約付き最小二乗法および非線形最適化法のいずれかの手法により前記測定対象内部の画像データを作成する作成手段と、
を有することを特徴とする光音響イメージング装置。
【請求項19】
情報処理装置が、測定対象から伝播した弾性波が受信機により受信されて得られた圧力信号の初期値を取得する信号初期化ステップと、
前記情報処理装置が、前記受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化ステップと、
前記情報処理装置が、前記圧力信号の初期値および前記インパルス応答の初期値に基づいて修正圧力信号を出力するステップと、
を有する情報処理方法であって、
前記出力するステップでは、
前記情報処理装置が、インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正ステップと、
前記情報処理装置が、高コントラスト性、正値性および周波数帯域特性を拘束条件として圧力信号を修正する信号拘束ステップと、
前記情報処理装置が、圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正ステップと、
前記情報処理装置が、インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束ステップとが、所定の条件に従って反復して実行されることにより、前記修正圧力信号が生成される
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項20】
測定対象から伝播した弾性波が受信機により受信されて得られた圧力信号の初期値を取得する信号初期化ステップと、
前記受信機のインパルス応答の初期値を取得するインパルス応答初期化ステップと、
前記圧力信号の初期値および前記インパルス応答の初期値に基づいて修正された圧力信号を出力するステップと、
を有する情報処理方法を、情報処理装置に実行させる情報処理プログラムであって、
前記出力するステップでは、
インパルス応答を用いて圧力信号を修正する信号修正ステップと、
高コントラスト性、正値性および周波数帯域特性を拘束条件として圧力信号を修正する信号拘束ステップと、
圧力信号を用いてインパルス応答を修正するインパルス応答修正ステップと、
インパルス応答の時間帯域特性を拘束条件としてインパルス応答を修正するインパルス応答拘束ステップとが、所定の条件に従って反復して実行されることにより、前記修正圧力信号が生成される
ことを特徴とする情報処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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