説明

情報処理装置、方法、プログラム、及び記録媒体

【課題】着想支援や文章作成等のために多項目表現を作成する際に、複数人の会議形式で利便性が高く行える情報処理装置を実現することを課題とする。
【解決手段】多項目表現生成編集手段1以外に、多項目表現変化抽出手段2と、ピア・トウ・ピア交信手段7を設け、また送信権移譲手段3によって、会議参加者の誰でも送信権者になれるようにして、多項目表現を全員で共有しつつ、文字チャットや音声チャットやビデオチャットで遠隔会議が可能となる仕組みを構築し、かつ情報通信ネットワーク9上で安全な通信を行うため、暗号化/解読手段8を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KJ法やマインドマップ等の図式的項目間関連二次元表現等を用いて、着想支援や、文章能力・コミュニケーション能力の向上等の支援を、情報処理装置で行う際の発明に関するものである。
【背景技術】
【0002】
独創的な着想を生み出す補助とするために、さまざまな着想支援法が提案されてきた。二次元図式的な着想支援法として、わが国で広く用いられて代表的な方法の一つは、川喜田二郎氏の非特許文献1にある紙カード式の「KJ法」であり、以後でKJ法と呼ぶ際は川喜田二郎氏の方法を指す。また海外では英国のTony Buzan氏による非特許文献2にある「マインドマップ(Mind
Map)」も普及している。その他にもさまざまな二次元図式的着想支援法が開発されている。これらは新規な着想の支援を行ったり、収集した情報を整理するためや、情報を記憶しやすくするためや、文書作成を支援するため等に用いられ、説明の補助として客先で用いる等の用途に供されることも多い。これらの表現法の表現は多様であるが、本質は似通っているため、ここではこれらの表現法をまとめて「図式的項目間関連二次元表現法」という言葉で代表して呼び、また作成された図式を「図式的項目間関連二次元表現」と呼ぶことにする。
【非特許文献1】川喜田二郎、『川喜田二郎著作集 第5巻』、中央公論社、1996年
【非特許文献2】トニー・ブザン、バリー・ブザン著、神田昌典訳,『ザ・マインドマップ』、ダイヤモンド社、2005年(原著:The Mind Map Book、複数出版社より)
【0003】
図式的項目間関連二次元表現の代表的な例として、図1に掲げるのは、紙カード式のKJ法等の京都大学式のいわゆる紙切れ法等と呼ばれる図式的項目間関連二次元表現を、本発明の情報処理装置で表現した例である。この図では図式的項目間関連二次元表現の代表的ないくつかをカード中に例示している。過去の京都大学式の表現法を代表してきたKJ法では、事柄や概念などを紙のカードに記載していく。1枚のカードに記載される情報を、ここでは「項目」という言葉で呼ぶ。項目においては少ない文字数で要約した表現がとられるのが通常である。項目を記載した多数のカードを机上に並べ、関連のあるものをグループ化する。複数のグループやカードを集めて、さらにグループ化を行うという多段のグループ化を行ってよい。そのようにしてできた関連を表現するため、紙の上に多数のカードを並べて、図のようにグループを閉曲線で囲い、またグループ間の関連に補助の線などを用いて表現する。なお、グループにつける名称や、全体として図式につけるタイトルも、項目という言葉で総称することにする。このKJ法と類似する方法では、項目間の階層を図式としてはループ等の閉図形で囲んで表現する等が適当であるので、それらを一括して「ループ型」の図式的項目間関連二次元表現と呼ぶことにする。
【0004】
一方、マインドマップの場合には、グループ化ではなく、枝分かれという表現法を用いている。前記の図1と同じ項目を表現したのが図2である。図1でタイトルに相当する項目を中央に配置し、グループ化に相当する表現を上位項目からの項目の枝分かれによって表示している。マインドマップと類似する方法では、項目間の階層を枝分かれで表現するので、それらを一括して「ツリー型」の図式的項目間関連二次元表現と呼ぶことにする。マインドマップでは中央からの枝分かれとするが、グラフ理論で述べるツリー形状の表現法、魚の骨格に似た表示法となるフィッシュボーン図など表示形態はさまざまに変形される。
【0005】
これら以外にも、図式的項目間関連二次元表現法はさまざまある。フローチャートと類似して、矢印を用いて、枝分かれや合流を表現する手法も存在する。これらを一括して「流れ図型」の図式的項目間関連二次元表現と呼ぶことにする。また、二次元の表または座標面として、そこに項目を並べるなどの手法も存在する。それらを一括して「マトリックス型」の図式的項目間関連二次元表現と呼ぶことにする。三次元以上の座標を意図した表現もあるが、図式としては紙面や画像ディスプレイ等に表現するため、図式的項目間関連二次元表現である。いずれにしても、ループ型からマトリックス型に至るまで、あるいはその他の図式的表現法を含め、そのすべては複数の項目を図式上に二次元に並べた表現であるというのが共通の特徴である。
【0006】
また、図式的項目間関連二次元表現ではなく、単に項目を箇条書きにする等の従来どおりの文書表現によって着想支援の手段とすることも行われる。図式的項目間関連二次元表現では、項目を二次元表現で並べているため、思いがけない項目間関連等を把握しやすい。図式的項目間関連二次元表現法では、項目の二次元上での配置の移動を行ったり、項目とその間の関係を目立たせる補助的な線や図形を描く等の追加的な二次元表現法を提供していることが多い。一方、単なる箇条書き等の文書表現型では、それに比べて視認性に劣るものの、ワード・プロセサ等を用いれば、項目の移動・修正等が自在であるため、近年は比較的扱いやすくなってきている。
【0007】
従来はこのような図式的項目間関連二次元表現や文書表現を紙の上に記述して用いていたが、情報処理装置が普及するに伴い、ワード・プロセサのみならず、図式的項目間関連二次元表現をも情報処理装置上で実現することが多くなっている。従来のまま紙の上で行うと、書き直しが面倒であり、また紙カードを並べたり貼り付ける際には、カードが散逸するなどの問題が発生するが、情報処理装置上で実現するならば、操作がより容易になると期待されるからである。ここでは、このような図式的項目間関連二次元表現と、箇条書き等の文書表現をまとめて、「多項目表現」と呼ぶことにする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような多項目表現は、1人で作成する場合もあるが、複数人の会議形式で作成する場合も多い。たとえば紙カード式のKJ法の場合、非特許文献1においては、複数人の参加者によるいわゆるブレーンストーミング(互いに自由に意見を出し合う会議形式の意)を重視している。そして誰か記録係を設けるという方法を想定している。単一人で出せる着想には限りがあるため、三人寄れば文殊の知恵ということわざのように、複数人で考えたほうが優れた着想を得られることが多いのである。
【0009】
紙カード式のKJ法の場合には、会議でのブレーンストーミングによって、まず多くの項目を提案し合っていく、そしてそれらをカードに書き込み、机上に多数のカードを並べる。それらのカードをグループ化して、全体を整理して、着想支援に用いたり、レポート等の文書の作成を行う補助とする。
【0010】
情報処理装置を用いた図式的項目間関連二次元表現等の多項目表現においては、このような作業を情報処理装置上で行いたいのだが、情報処理装置のディスプレイ画面を数人でのぞき込んで行うのは、画面サイズの点で不便である。大画面プロジェクタで投影して、投影画面を見ながら議論するという方法も採用されるが、通常の会議形式の対面座席配置とならないため、これも不便である。また、1台の情報処理装置の画面を複数台の多くのディスプレイに同時表示する方法をとるには、特殊なシステム構成を要するうえに、ディスプレイ表示を操作するのは通常は1人の操作者のみであるので、やはり多くの参加者にとって不便である。
【0011】
そもそも優れた着想を行うためには、多人数で議論し合うことが多くの場合に生産性が高い。しかしながら、通常の画面サイズの情報処理装置1台を用いた場合には、そのような協同作業を行いにくいという欠点が存在するのである。これを改善しないことには、多項目表現を用いた会議形式の創造的作業の支援に、情報処理装置を効果的に用いにくいわけである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、会議参加者それぞれが1台ずつ有する情報処理装置間で多項目表現等のデータの交信を行い、各自が自らの情報処理装置画面を操作しながら、協同作業を行える環境を構築することが望まれる。それが本発明で提示する解決策である。
【0013】
図3に示すのは、この課題を解決する情報処理装置として本発明で備える手段をすべて図示した構成である。用途によって、このうち用いない手段を省略した構成でもよい。また、情報処理装置として当然のこととして、情報処理装置用の通常のキーボードやマウスや音声や画像等の入力手段、通常のディスプレイやプリンタや音声等の出力手段、内部で用いる記憶手段やネットワーク等を介した外部記憶手段等を必要に応じて使えるものとする。また、携帯情報機器やデジタル家電製品等の形態をとる場合は、代替する入力・出力・記憶手段等を必要に応じて備えているものとする。
【0014】
多項目表現を生成して、その表示・蓄積等を行う多項目表現生成編集手段1は必須である。たとえばKJ法あるいはマインドマップ等を生成・編集する手段であり、その存在を本発明では前提とする。
【0015】
また、ピア・トウ・ピア(peer-to-peer)通信を行うピア・トウ・ピア交信手段7も必須である。ただし、その内部に配置した暗号化/解読手段8は、必要な場合に実装するものとする。ピア・トウ・ピア交信手段7は、たとえばマイクロソフト社の提供するSDK(Software Development Kit)であるPeer-to-Peer SDK等を用いれば、当業者が開発することが可能である。ピア・トウ・ピア通信とは、従来のようにサーバを介した通信ではなく、仲間(peer)同士の間で行う通信方式であって、サーバではなくクライアントコンピュータ同士で情報通信ネットワーク9上で行う通信の方式である。いわゆるファイル交換ソフトで使われることが多い通信方式であるが、ここでは複数人での会議用の通信に用いる。
【0016】
これら以外に必須であるのは、多項目表現生成編集手段1における多項目表現の変化を抽出する多項目表現変化抽出手段2である。それ以外の手段は必要に応じて実装すればよく、後述する。
【0017】
さて、多項目表現変化抽出手段2は、多項目表現生成編集手段1と組み合わせて、ユーザが生成・編集した多項目表現の変化を抽出する。変化の抽出は、多項目表現生成編集手段1が持つ内部データが変化したことを調べればよい。あるいは略式の方法としては、ユーザが多項目表現の編集における確定操作(たとえばEnterキーを押すことによって確定するとか、画面上のあるボタンをマウスでクリックすると確定する等である)を行ったとき、多項目表現が変化したとみなせばよい。厳密には変化が起こっていなくても、ユーザが確定操作を行ったとき、すべて一括して変化であるとみなすわけである。
【0018】
このようにして多項目表現が変化すると、その変化を瞬時に抽出して、時々刻々と会議の参加者にピア・トウ・ピア通信で伝える。変化の伝え方には、基本的に2種類ある。1つ前の多項目表現との変化を差分データとして伝える方法と、差分ではなく、新たな多項目表現全体のデータをそのまま送る方法である。後者は容易であるので実現しやすいが、送信データ量が増加するという問題もある。一方、前者に関しては、多項目表現特有の差分の表現法もありうるが、ソフトウェア配布などで採用される差分データ形式等を機械的に採用することもでき、当業者が実現する技術基盤は整っていると考えられる。
【0019】
そのようなデータを送出するピア・トウ・ピア通信には、ファイル交換用ネットワークなどさまざまな実現形態があるので、ここで述べる用途の会議のために実現方式を述べていこう。ここのでピア・トウ・ピア通信は、1つのグループ内での通信である。その実現のために、まずピア・トウ・ピア交信手段7の設定を行わなければならない。
【0020】
会議の議長に当たる参加者を「親」と呼ぶ。情報通信ネットワーク9上での親のアドレスは固定されていて変化しないとする。また、それ以外の参加者を「子」と呼ぶ。情報通信ネットワーク9上での子のアドレスもすべて固定されていて変化しないとする。これらのアドレスをコンピュータアドレスと呼ぶことにする。またこの会議で用いるピア・トウ・ピア通信のいわゆるポート番号が一意に決まっており、変化しないとする。
【0021】
インターネットの場合、各コンピュータアドレスはIPアドレスと呼ばれる。IPとはInternet Protocolの意である。IPアドレスには2通りあって、世界中で一意的に情報処理装置を識別できるグローバルIPアドレスと、LAN(local area network)内で各情報処理装置を識別するローカルIPアドレスがあるので、注意が必要である。また、従来はIPv4という第4版のプロトコル(通信規約の意)だったが、近年はIPv6と呼ばれる第6版のプロトコルが用いられることもある。
【0022】
LANに接続されている情報処理装置は、通常はルータやゲートウェイ等と呼ばれる装置を介して、WAN(wide area network)と呼ばれる外部のインターネットと通信を行う。そのとき、LAN内のローカルIPアドレスは外部からは見えない。それではピア・トウ・ピア通信を行うためのコンピュータアドレスを使用するのに困ることになる。
【0023】
この解決には現在ではさまざまな標準的な方法が用いられており、情報通信ネットワーク9側の方法であるので、ここで詳しく述べる必要はないが、ルータ等には一意のグローバルIPアドレスが存在し、かつここで用いるピア・トウ・ピア通信等すべての通信には、固有のポート番号が振られている。グローバルIPアドレスとポート番号の組み合わせに対して、ルータ等は、該当する情報処理装置が該グローバルIPアドレスでピア・トウ・ピア通信を行っているように、WAN側に見せかけるのである。また、IPv6の場合は方式が異なっていて、IPアドレスのビット長が非常に長いので、そのような見せかけを行う必要がなく、LAN内の情報処理装置をもWAN側で一意に識別できる方式を用いる。
【0024】
さてこのようにして、会議に参加する各情報処理装置のコンピュータアドレスがすべて一意に決まって、互いに識別できるとする。WANを介するときもあれば、同一LAN内のみでの通信ならば、ローカルIPアドレスのみで互いを識別できる。このとき、親のIPアドレスによって、グループが一意に識別され、他のグループと異なるものとして、会議参加者だけでグループを形成して通信を行い、グループ外の者はこのグループ内の通信に入ってこないものとしなければならない。
【0025】
そのために、まず親がピア・トウ・ピア交信手段7の設定を行い、親のIPアドレスによって、グループを生成する。通常のピア・トウ・ピア通信のSDKにはグループを生成する方法が提供されている。子は親のIPアドレスを指定して、グループに参加する。
【0026】
なお、ピア・トウ・ピア通信においてグループを形成するには、SDKにおいて通常いくつかの方式がある。完全にサーバなしで、クライアント間でグループを形成するには、最も容易なのは親のコンピュータアドレスを指定することである。それによって、インターネット等の情報通信ネットワーク9が自動的に親を瞬時に探し当てるのはネットワーク側の機能である。
【0027】
また、それ以外の方式もある。親はグループ名と親のコンピュータアドレスとを、ピア・トウ・ピア通信のグループ管理用のロビーサーバ等と呼ぶサーバに登録する。子はロビーサーバにグループ名を問い合わせて、親のコンピュータアドレスを知り、親に接続する。このようなロビーサーバ等を用いずに、情報通信ネットワーク9上に配置された多数の情報処理装置が、グループ名と親のコンピュータアドレスとの表を分散的に保有し、互いに問い合わせを行って、親のIPアドレスを知る方式もある。また、親が子を招待する方式等もあるが、本発明では子の参加方式は、ピア・トウ・ピア通信で採用されるものはいずれでもよいので利用するものとする。
【0028】
さて、会議に参加する各情報処理装置が、このようにしてピア・トウ・ピア交信手段7によって情報通信ネットワーク9を介してグループを形成し、子が親と接続することが可能となる。しかしながら、それだけでは多項目表現をグループの参加者間で共有できないのは当然である。共有するための仕組みが必要である。
【0029】
考えてみよう。まず全員が同じ多項目表現を、自らの情報処理装置上に保持しているとしよう。参加者おのおのは多項目表現生成編集手段1をもっているので、自らの情報処理装置上の多項目表現を編集することができるのが通常である。では、参加者のおのおのが勝手に多項目表現を編集して改変してしまったとしたら、全員で共有すべき多項目表現はどれになるだろうか。このままでは会議の統制がとれなくなってしまう。
【0030】
このような問題があるため、参加者全員に多項目表現を送るのは、会議参加者中の1名のみとすべきである。会議開始時には、親が多項目表現を他の参加者に送る。親が多項目表現を編集すると、親の情報処理装置中の多項目表現変化抽出手段2が変化を抽出して、子の全員にそれを送る。すなわち、この会議においては、親のみが多項目表現を生成・編集して、それを子全員と共有するという仕組みを採用すれば、参加者間で多項目表現に矛盾が生じることはなく、会議を円滑に運営できる装置となるわけである。
【0031】
同室において、全員が机上に1台ずつ該情報処理装置を置き、通常の会話形式で会議を行うとともに、それに伴って親が多項目表現を生成・編集していく。その多項目表現は、会議参加者全員にピア・トウ・ピア交信手段7によって瞬時に配信され続ける。多項目表現には付随する情報があってもよい。たとえば、文書項目だけの箇条書きに対して、その詳しい本文等である。それらもピア・トウ・ピア交信手段7で配信してよいのはもちろんであり、ここでは一括して多項目表現と呼ぶ。子の多項目表現生成編集手段1に多項目表現が配信されるため、子は自らの情報処理装置でローカルに自分の手元にある多項目表現に変更を加えて、さまざまな視点から考えてよいが、親が多項目表現を編集して変更すると、瞬時にそれが配信されるため、子の変更はその子のところだけの一時的な変更にすぎず、他の参加者に配信されることはない。子は会議室内での会話形式で変更の提案を行うのみであり、採用されれば、親によってそれが多項目表現として配信される。しかしそれでも子はさまざまに多項目表現を操作して考えることができるので、新たな着想支援のために優れた便宜を提供できるのである。
【0032】
なお、ピア・トウ・ピア通信等によって、データやデスクトップ画面等の共有を行い、通信によるいわゆる電子会議等を行う方式は従来も存在したが、その場合に共有されるのは、親のデスクトップ画面を子のデスクトップに表示する等の機能であって、子側でもしもそのデスクトップ画面に操作を行えたとしても、それは参加者全員に表示している親の画面に対してであって、子側が個々に自由に異なるデータを操作できるわけではなかった。子側が個々に異なるデータを操作する方式は、上記の従来の方式では容易に実現しえなかったことに注意しなければならない。本発明の情報処理装置の構成によって、初めて多項目表現生成編集手段1で、子が個々に異なる多項目表現を操作できるようになるわけである。また、親のデスクトップ画面を共有する方式では、配信するのは画面という画像が主であるため、交信データ量が非常に多く、情報通信ネットワーク8に大きな負荷をかけ、応答時間が大きくなって、操作性が悪くなるという問題も存在したわけである。
【0033】
さて、多項目表現を生成・編集して、それを配信する権利を「送信権」と呼ぶことにする。また、送信権をもつ者を「送信権者」と呼ぶ。1グループ内で、送信権者は常に1名のみである。通常は親が送信権者となるのが適当である。送信権者以外は多項目表現のデータを送信しない仕組みを実現すればよい。
【0034】
そのためには、ピア・トウ・ピア交信手段7は、送信権者以外の多項目表現変化抽出手段2が変化を抽出しても、それを情報通信ネットワーク9に送信しないことにすればよい。また、送信権者は、多項目表現変化抽出手段2を介して多項目表現を送信するのみであって、ピア・トウ・ピア交信手段7が多項目表現の受信を受け付けなければよく、受信は送信権者以外の全員が行う。
【0035】
この制御をさらに高度化するためには、送信権移譲手段3を設ければよい。送信権移譲手段3は、多項目表現変化抽出手段2のオン/オフを制御することにしておけば、送信権を持たない者の場合、多項目表現変化抽出手段2が作動するのを止めることができ、処理の効率化にもつながる。
【0036】
送信権をもたない子は、送信権移譲手段3を通じて、送信権の要求信号を発信する。それはピア・トウ・ピア交信手段7を通じて情報通信ネットワーク9に発信され、送信権者が受信する。送信権者には、送信権要求信号が到着したことが表示され、送信権者はそれを知って、イエスまたはノーの反応を行う。具体的にはイエスまたはノーのボタンをクリックする等の操作を行えばよい。イエスの場合には、送信権者側の送信権移譲手段3は、自らの多項目表現の送受信部に指令を発して、多項目表現の送信を停止し、受信のみを可とする。一方、送信権を移譲された側の送信権移譲手段3は、送信権者からの送信権移譲信号を受信して、自らの送信権をオンにし、その結果、多項目表現の送信が可になり、受信を停止する。一方、送信権を移譲しない場合は、送信権者は移譲拒否信号を送る。
【0037】
このような送信権移譲手段3を設ければ、会議の参加者は誰でも送信権者になることができ、民主的に会議を運営することが可能となる。しかも常に矛盾のない多項目表現を全員で共有できる。
【0038】
さて、情報通信ネットワーク9を介してピア・トウ・ピア交信手段7で通信を行うのであるから、同室内で口頭での会議形式を採用するだけでなく、遠隔地とのいわゆる電子会議を行うようにする仕組みを導入するという選択も適当である。そのためには、文字チャット送受信手段4、あるいは音声チャット送受信手段5、あるいはビデオチャット送受信手段6、あるいはそのいくつかを設けるのが適切である。このようにすれば、遠隔地の参加者との間で意見の交換を行うことができ、いわゆる電子会議を円滑に運営することができる。文字チャット、音声チャット、ビデオチャットに関しては、参加者の誰でも送信できる。
【0039】
文字チャット送受信手段4は通常のいわゆる文字チャットを行えるのみでよく、実用例は多い。当業者はそれを用いればよい。会議参加者の誰かが文字でメッセージを書き、それを送信すれば、全員に着信して、それが画面に表示される。
【0040】
また、音声チャット送受信手段5は、通常の音声でのチャットを行えるのみでよく、これも実用例は多い。いわゆるIP電話機能の多人数版である電子会議機能である。当業者はそれを用いればよい。会議参加者の誰かが音声で発言すれば、それが全員に着信して、各自の情報処理装置のスピーカから流れる。
【0041】
さらに、ビデオチャット送受信手段6は、いわゆる電子会議やビデオ会議機能等として、これも実用例は多い。当業者はそれを用いればよい。会議参加者の映像が他の参加者の画面にも動画として表示され、誰かが音声で発言すれば、それが全員に着信して、各自の情報処理装置のスピーカから流れ、かつ映像が画面に動画で表示される。
【0042】
ピア・トウ・ピア交信手段7で、多項目表現、送信権移譲手段3の信号、文字チャット、音声チャット、ビデオチャット等を分別するのは容易である。それぞれのデータには、たとえばその先頭にタグとなる目印である情報をつけるという規約にしておき、そのタグを見て分別すればよい。たとえば、多項目表現ならばタグは0をつけ、送信権移譲手段3の信号ならばタグは1、文字チャットならばタグは2、音声チャットならばタグは3、ビデオチャットならばタグは4とする等である。
【0043】
さらに、情報通信ネットワーク9を介して通信を行うには、ピア・トウ・ピア交信手段7に暗号化/解読手段8を付加するという選択を行うのも適切である。暗号化にはAES(Advanced Encryption Standard)等の各種の標準アルゴリズムが存在する。またそのソースコードが公開されているものも多い。このような暗号化/解読手段8を付加して、情報通信ネットワーク9に出る情報はすべて暗号化することができる。
【0044】
暗号化/解読手段8には暗号化の鍵が必要である。そのような鍵はグループ内で共有することになるため、親がグループを生成するときにパスワードとして決め、グループに参加する子は、参加時にその鍵をパスワードとして入力するのが一法である。そのようなパスワードは、ピア・トウ・ピア通信と別のルートで、参加者に知らせるのが通常である。このようにすれば、情報通信ネットワーク9を用いて情報の送受信を行っても、安全性の高い情報処理装置となる。
【0045】
さて、各手段における処理の手順をフローチャートで示しておこう。いくつかの手段は既製のものを使えるので、特に記載することはない。本発明で必要となる手順のみをフローチャートで示すものとする。実装していない手段がある場合に、該手段に関する手順を素通りする等の対応は、容易にフローチャートを変形できる。また、現在のプログラミングはオブジェクト指向プログラミングが一般化していて、マルチスレッド環境下でイベント駆動的に作動するので、イベントを捕捉することによって機能することを基本としている。
【0046】
多項目表現生成編集手段1においては、通常の多項目表現の生成・編集機能とともに、送信権をもたない場合に、ピア・トウ・ピア交信手段7からの受信データを表示する機能が必要になる。図4に示すステップを実装しなければならない。送信権をもつか判定し(S11)、多項目表現の受信データが存在するか判定して(S12)、それを受信して表示する(S13)。なお、送信権移譲手段3が存在しない場合は、親は送信権をもち、子はもたないと設定されているとする。
【0047】
多項目表現変化抽出手段2においては、図5のステップを実装しなければならない。送信権をもつか判定し(S21)、多項目表現生成編集手段1において多項目表現が変化しているならば(S22)、送信データを作成して、ピア・トウ・ピア交信手段7で送信する(S23)。
【0048】
送信権移譲手段3においては、図6のステップを実装しなければならない。自らが送信権をもつかを判定して(S31)、もつ場合は、送信権要求信号の到着を調べ(S32)、到着した場合は、ユーザが送信権を移譲するか判断を行い(S33)、移譲する場合は自らの送信権をオフにして、送信権要求側に送信権移譲信号を送出する(S34)。一方、送信権を移譲しない場合は、移譲拒否信号を送出する(S35)。また、送信権をもたない場合は、ユーザが送信権を要求するか判定して(S36)、送信権を要求する場合には送信権要求信号を発信して(S37)、送信権者からの信号の到着を待って、送信権移譲信号によって送信権を取得したか、あるいは移譲拒否信号を受信したかを判定し(S38)、送信権を取得した場合は自らの送信権をオンにする(S39)。
【0049】
文字チャット送受信手段4、音声チャット送受信手段5、およびビデオチャット送受信手段6は、通常のものを用いればよいので、特にフローチャートを記載する必要はない。送受信データの種別に関しては、次のピア・トウ・ピア交信手段7側で判定する仕組みをここの記載では採用するが、ピア・トウ・ピア交信手段7からデータを受信する側が個々に判定するように、判定部を分散する方式に容易に変更できるのはもちろんである。
【0050】
ピア・トウ・ピア交信手段7においては、通常のピア・トウ・ピア通信以外に、図7のステップを実装しなければならない。親がグループを生成して、子がそのグループに接続するのは通常のステップであるので、通常のピア・トウ・ピア交信手段の方式を採用すればよいのでここでは記載不要であるが、送受信データが、多項目表現、送信権移譲手段3の信号、文字チャット、音声チャット、ビデオチャットのいずれであるかの分別が必要である。まず送受信のいずれであるかを判定する(S41)。送信の場合、送信データの種別に従って固有のタグを付与し(S42)、暗号化が必要ならば暗号化/解読手段8を用いて暗号化を行い(S43)、データをグループ参加者に向けて情報通信ネットワーク9で送信する(S44)。また受信の場合、まず情報通信ネットワーク9から届いたデータを受信し(S45)、暗号解読が必要ならば暗号化/解読手段8を用いて解読を行い(S46)、受信データの種別をタグによって判別して適切な手段にデータを引き渡せばよい(S47)。
【0051】
暗号化/解読手段8は受動的であって、ピア・トウ・ピア交信手段7から起動されて、暗号化または解読を要求されるのみであり、特にフローチャートを記載する必要はない。データが暗号化されているかどうかは、データにタグ情報を付加しておいて判定すればよく、容易である。たとえば暗号化されていないデータの前に0というタグを追加し、暗号化されたデータの前には1というタグを追加しておけば、受信側でそのタグをまず見て、解読が必要かどうかを容易に判定できるわけである。
【0052】
以上のステップを実行することによって、ここで述べた情報処理方法を実現することができ、また情報処理プログラムとして実装できるようになる。
【発明の効果】
【0053】
本発明は以上に説明したようなものであるから、以下に記載するような効果を発揮する。KJ法やマインドマップ等の着想支援等の用途に用いられる多項目表現等を生成・編集する際に、複数人による会議形式で行うのが、優れた着想を練るために適しているが、従来の情報処理装置では画面サイズの問題もあり、そのような協同作業が行いにくかった。1台の小さな画面を全員で見たり、プロジェクタで大画面に投影して全員で見る等の方法しかとりにくかった。
【0054】
しかし本発明によれば、会議の参加者は1人1台の情報処理装置を目前に置くことができる。そして、ピア・トウ・ピア通信の特定の1グループに参加すると、参加者間で通信を行うことができ、参加者を特定した交信を行いつつ、参加者間に矛盾のない情報を共有できる。
【0055】
多項目表現は、送信権者が生成・編集したもののみが、参加者全員に配信される。これは重要な仕組みであって、全員が共有する多項目表現に矛盾が起こることを防ぐ仕組みである。これによって、全員で情報共有を行いつつ、会議を円滑に進行させることが可能となる。しかも各人の情報処理装置でローカルに多項目表現を操作して、着想を深めることが可能であるので、会議の進行の効率化が可能である。
【0056】
また、送信権移譲手段3を備えることにより、送信権者の移譲が可能になる。会議の議長だけでなく、参加者の誰でも多項目表現を編集して送信し、それを参加者全員で共有できるため、民主的に会議を運営することができる。
【0057】
さらに、文字チャット送受信手段4、音声チャット送受信手段5、ビデオチャット送受信手段6のすべてあるいはいくつかを備えることにより、同室の会議参加者だけでなく、遠隔の参加者とも意見の交換を行い、遠隔会議が可能になるため、利便性が非常に大きい。また、暗号化/解読手段8を備えることにより、情報通信ネットワーク9上で情報の安全性の高い会議を行うことができる。
【0058】
以上のように、本発明は複数人の会議形式で着想を練る、文書をまとめる等の作業を行う際に、従来に比して格段に利便性が高く効率的な方法を提供する発明である。着想支援等の作業に資するところ大であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明は、コンピュータ上に情報処理装置として実現するのが最良である。あるいは携帯電話機等の携帯情報機器や、デジタル家電製品等の形態をとることもある。図3の手段のすべてを用いるか、あるいは利用しない一部を除いた構成とする。情報処理プログラム、あるいはそれを配布するための記録媒体としても実現される。
【実施例1】
【0060】
KJ法あるいはそれと類する図式のための多項目表現生成編集手段1を採用した情報処理装置は、本発明の典型的な実施例である。これまで説明してきた図3に相当する。図3中の手段のすべてを用いるか、あるいは利用しない一部を除いた構成である。KJ法の多項目表現生成編集手段1は、すでに製品ソフトが販売されているため、当業者が開発可能な手段である。実用的で高い便宜を提供できる装置となる。
【実施例2】
【0061】
実施例1において、多項目表現をマインドマップにした情報処理装置は、類似の一実施例となる。マインドマップの多項目表現生成編集手段1は、すでに製品ソフトも販売されているため、当業者が開発可能な手段である。実施例1と同様に、実用的で高い便宜を提供できる装置となる。
【実施例3】
【0062】
このような情報処理装置においては、処理の対象は多項目表現とは限らず、一般の共有情報でもかまわないはずである。たとえばレポート文書、CAD(computer-aided design)における図面、共同作成する楽譜等、複数人で共同作成する情報ならば、何に対してもこのような情報処理装置を効果的に適用できる。図3において、多項目表現生成編集手段1を共有情報生成編集手段10で置き換え、また多項目表現変化抽出手段2を共有情報変化抽出手段11で置き換える。そのような情報処理装置の構成を図8に示す。この図において、用途によっては用いない手段を省略した構成でもよいことは、先述のとおりである。
【0063】
共有情報変化抽出手段11の機能は、多項目表現変化抽出手段2と同様であって、共有情報の蓄積されているデータ中に変化が起こったら検出するか、あるいはユーザがEnterキーの押下や確定ボタンのクリック等で共有情報の編集を確定したときに、共有情報の変化をピア・トウ・ピア交信手段7で配信する。共有情報の変更を配信できるのは、送信権者のみである等の機能の細部は前述のものと同一である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
既述からわかるように、本発明はコンピュータ技術、携帯情報機器技術、デジタル家電技術等との相性が非常によく、当業者が実施しやすい。応用分野として、KJ法やマインドマップ等の多項目表現や共有情報において、会議形式や遠隔会議形式で、項目や共有情報の生成・編集を利便性が高く効率的に行う技術として利用可能であり、かつ実施しやすいものである。着想支援や文章作成等に利用した場合、知的作業の効率化を達成することができ、産業上の利用可能性が大きい発明である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】着想支援法の分類に関する紙カード式のKJ法等の京都大学式の図式的項目間関連二次元表現を本発明の情報処理装置で表現した例である。
【図2】図1と同項目のマインドマップの例である。
【図3】本発明の情報処理装置の構成である。
【図4】多項目表現生成編集手段1に追加する処理のフローチャートである。
【図5】多項目表現変化抽出手段2の処理のフローチャートである。
【図6】送信権移譲手段3の処理のフローチャートである。
【図7】ピア・トウ・ピア交信手段7に追加する処理のフローチャートである。
【図8】多項目表現生成編集手段1を共有情報生成編集手段10で置き換え、多項目表現変化抽出手段2を共有情報変化抽出手段11で置き換えた、本発明の情報処理装置の構成である。
【符号の説明】
【0066】
1 多項目表現生成編集手段
2 多項目表現変化抽出手段
3 送信権移譲手段
4 文字チャット送受信手段
5 音声チャット送受信手段
6 ビデオチャット送受信手段
7 ピア・トウ・ピア交信手段
8 暗号化/解読手段
9 情報通信ネットワーク
10 共有情報生成編集手段
11 共有情報変化抽出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多項目表現生成編集手段と、該多項目表現生成編集手段での多項目表現の変化を抽出する多項目表現変化抽出手段と、その変化を送受信するピア・トウ・ピア交信手段を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
多項目表現生成編集手段と、該多項目表現生成編集手段での多項目表現の変化を抽出する多項目表現変化抽出手段と、その変化を送受信するピア・トウ・ピア交信手段と、多項目表現の送信権の移譲に伴う処理および制御を行う送信権移譲手段を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
請求項1または2の情報処理装置であって、文字チャット送受信手段、音声チャット送受信手段、ビデオチャット送受信手段のうちいくつかを備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの情報処理装置であって、ピア・トウ・ピア交信手段における送受信データの暗号化および解読を行う暗号化/解読手段を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、多項目表現生成編集手段を、共有情報生成編集手段で置き換え、また多項目表現変化抽出手段を、該共有情報生成編集手段での共有情報の変化を抽出する共有情報変化抽出手段に置き換えた構成であることを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の各該請求項に含まれる全手段の機能を実現するステップを備える情報処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかとして情報処理装置を機能させる情報処理プログラム。
【請求項8】
前記請求項の情報処理プログラムを記録した情報処理装置読み取り可能な記録媒体。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−282229(P2008−282229A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126168(P2007−126168)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(303028239)有限会社エイチ・アイ・エンタープライズ (3)
【Fターム(参考)】