説明

情報隠蔽紙材

【課題】 封筒内部や葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報を隠蔽でき、紙パルプ資源の利用を低減でき、安価に提供できる、新たな情報隠蔽紙材を提供する。
【解決手段】粒径100μm以上1mm未満で、且つ、乾燥時L値が55以下である有色有機物と、紙パルプとを含有してなる情報隠蔽紙材であって、当該有色有機物の配合率X重量%とその坪量Yg/m2とが次の式(1)に示される関係であることを特徴とする情報隠蔽紙材を提案する。
式(1)・・0.058X2−4.02X+119.1≦Y≦100(但し、10≦X≦35)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば封筒を作製したり、葉書に貼付するシートとして利用したりすることによって、封筒内や葉書に記載された個人情報等の情報を隠蔽することができる情報隠蔽紙材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人情報を利用したさまざまなサービスが提供され、私たちの生活は大変便利なものになってきている。しかし、その一方で、個人情報の漏えいなどによる被害が多発している。そのため、個人情報の保護に関する社会的関心が高まっており、企業においては個人情報の安全管理に関する適切な対応が不可欠となっている。
【0003】
個人情報の安全管理の一手段として、郵便物に記載された個人情報を隠蔽することが挙げられる。封筒内部や葉書などには、個人情報や秘密情報が記載されている場合があり、そのような場合には、これらの情報が他人に見られないように隠蔽する必要がある。
【0004】
封筒内部の個人情報等を保護する手段としては、例えば隠蔽性の高い紙材から形成された封筒を利用することが考えられる。また、葉書に記載されたの個人情報等を保護する手段としては、個人情報等が記載された部分に、隠蔽性が高く、かつ剥離可能なシートを貼付することが考えられる。
【0005】
例えば、個人情報や重要情報などが透かして見られないように、裏面にグレー色や文字などを印刷した隠蔽性を有する用紙を使用した封筒や葉書裏面用貼付シートなどが販売されている。
【0006】
また、特許文献1には、隠蔽性が高く、圧着はがきなどの印刷エリアを有効活用することができる隠蔽用紙が開示されている。
【0007】
特許文献2には、表の白色面と裏の白色面との間に遮蔽層のある紙で構成し、紙面に印刷した文字や写真等が裏側へ透けて見えない紙が開示されている。
【0008】
特許文献3には、他人に読まれない守秘文書面のある葉書や透かし読み防止の一重封筒が記載されている。
【0009】
特許文献4には、白紙の片面又は両面或は全体を遮光性の優れた色に着色し、更にその着色面或は両面に白または適当な色のインク等を塗って表面を調色した紙が開示されている。
【0010】
他方、近年の原油価格高騰や紙パルプ用木材チップや古紙の価格高騰のため、紙製造の際の原料や燃料コストが増加し、紙パルプ中に紙原料以外の有機物を使用することに注目が集まっている。
【0011】
例えば特許文献5などには、紙パルプスラリー中に各種植物(茶粕、ビール、しょうゆの副産物、海藻類など)の茎、葉、種実、皮、繊維などをそのまま、もしくは所定の寸法に裁断もしくは粉砕、分散、叩解してパルプスラリー中に添加して包装用紙や封筒、印刷用紙などに使用される美麗な模様形成体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−166682号公報
【特許文献2】特開平5−287698号公報
【特許文献3】特開平5−278373号公報
【特許文献4】特開平6−166988号公報
【特許文献5】特開平6−235198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示されている隠蔽用紙は、基紙と第二基紙とを接着する接着剤層を暗色系の色に着色する工程や、擬似記録情報を付する工程などが増えるため、コスト面でデメリットが生じる。
特許文献2に開示されている紙は、光性に優れた黒色の着色層や黒色の可とう性のプラスチック、塗料等の薄い膜、或は不透明性の強い物質の薄い膜、例えばアルミ箔、不透明性の強い顔料微粒子や遮蔽用微粒子を特に多量に含む着色層や膜を使用して3層構成により見えない紙を作製するため、やはり工程が増え、コスト面でデメリットが生じる。
【0014】
特許文献3に開示されている一重封筒は、内部にサンドイッチ状に遮蔽層である黒色等の層を持ち遮蔽層と白紙部からなる構造であり、工程が増え、コスト面でデメリットが生じる。
特許文献4に開示されている紙は、インク等を塗って表面を調色した紙についても工程が増えコスト面でデメリットが生じる。
また、これら特許文献3、特許文献4は、遮蔽層や遮光層に関する記述があるものの、それら遮蔽・遮光処理は、中層に黒色の着色を施すなど遮蔽・遮光層1層にて封筒や葉書シートを作製すると文字が記載できず、封筒や葉書の機能を失う可能性があった。
【0015】
特許文献5などに開示されている模様形成体、すなわち、各種植物(茶粕、ビール、しょうゆの副産物、海藻類など)の茎、葉、種実、皮、繊維などを添加した模様形成体は、ファンシーペーパーとしての使用用途であり、封筒の中身や葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報を隠蔽するための各種植物のL値、粒径、配合量、坪量については記載されておらず、封筒の中身や葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報を隠蔽するための機能性を有するものではなかった。
【0016】
このような従来の課題に鑑み、本発明の目的は、封筒内部や葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報を隠蔽することができ、しかも、紙パルプ資源の利用を低減することができ、紙に色付けや印刷する必要もなく、安価に提供できる、新たな情報隠蔽紙材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、粒径100μm以上1mm未満で、且つ、乾燥時L値が55以下である有 有機物と、紙パルプとを含有してなる情報隠蔽紙材であって、当該有色有機物の配合率X重量%とその坪量Yg/m2とが次の式(1)に示される関係であることを特徴とする情報隠蔽紙材を提案する。
式(1)・・0.058X2−4.02X+119.1≦Y≦100(但し、10≦X≦35)
【0018】
本発明の情報隠蔽紙材においては、有色有機物が紙材中にランダムに点在するようになるから、例えば、本発明の情報隠蔽紙材を利用して封筒を作製したり、或いは、葉書等に貼付するための保護シートとして利用したりすれば、封筒内部や葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報を隠蔽することができ、しかも、紙パルプ資源の利用を低減することができ、紙に色付けや印刷する必要もない。
【0019】
また、本発明の情報隠蔽紙材において、有色有機物の配合率X重量%とその坪量Yg/m2とが次の式(2)に示される関係に調整すれば、文字サイズ72pt未満の文字情報を視認することができないようにすることができる。
式(2)・・0.068X2−4.56X+114.8≦Y≦100(但し、5≦X≦35)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明が下記実施形態に制限されるものではない。
【0021】
本実施形態に係る情報隠蔽紙材(以下「本情報隠蔽紙材」と称する。)は、所定の有色有機物を紙パルプに所定量配合し、有色有機物の配合量と坪量との関係が所定の関係を満たすように作り込んでなる情報隠蔽紙材である。
【0022】
(紙パルプ)
本情報隠蔽紙材に用いる紙パルプとしては、特に限定するものではなく、例えば針葉樹や広葉樹の木チップ、古紙から得られる化学パルプ、再生パルプ、機械パルプなどを好ましく用いることができる。
例えば木チップを原料とする場合は、木チップを蒸解し、脱リグニン工程を経て、洗浄と脱水を繰り返し行うことにより得られる無漂白パルプや、その無漂白パルプを漂白及び洗浄して得られる漂白パルプを好ましく用いることができる。また、木チップをリファイナーにより磨り潰し、洗浄と脱水を繰り返し行うことにより得られる無漂白パルプや、その無漂白パルプを漂白及び洗浄した漂白パルプなども好ましく用いることができる。
他方、古紙を原料とする場合は、古紙をパルパーにて解繊後、洗浄して得られる無漂白パルプや、その無漂白パルプを漂白、洗浄した漂白パルプなどを好ましく用いることができる。
これら化学パルプ、再生パルプ、機械パルプはそれぞれ単独にて使用しても構わないが、それらを適宜混合して抄紙してもよい。
また、上記のうちの2種類以上の紙パルプを混合して使用してもよいし、積層構成としてもよい。
【0023】
(有色有機物)
本情報隠蔽紙材に用いる有色有機物は、無漂白有機物であり、隠蔽性の観点から、乾燥時のL値が55以下であるのが好ましく、特に35以下、中でも特に31以下であるのが好ましい。
有色有機物のL値が55以下であれば、有色有機物の配合量を調整することで、封筒内の紙材に記載された機密情報や個人情報などの情報を視認できなくすることができる。また、葉書に貼付することで、葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報を視認できなくすることができる。
なお、有色有機物のL値の下限は特に限定するものではないが、現実的には、炭(有色有機物の炭化物)のL値≒0が下限値となるものと考えられる。
【0024】
乾燥時のL値が55以下である有色有機物の具体的な例としては、例えば、茶系飲料製造に用いられる緑茶、烏龍茶、紅茶、混合茶、緑茶殻、烏龍茶殻、紅茶殻、混合茶殻等の茶系飲料製造残渣、コーヒー豆粉末、コーヒー飲料製造工程で排出されるコーヒー残渣、杉木粉などが挙げられる。
特にL値が低い有色有機物に関しては、有色有機物配合紙材が低坪量でも個人情報保護効果があることから、コーヒー豆粉末、緑茶、シルバースキン(コーヒー豆の豆皮)が好ましい。
【0025】
乾燥時のL値が35以下の有色有機物の具体的な例としては、例えば、シルバースキン、緑茶、コーヒー豆粉末、その抽出残渣などを挙げることができる。
乾燥時のL値が31以下の有色有機物の具体的な例としては、例えば、緑茶、コーヒー豆粉末、その抽出残渣などを挙げることができる。
【0026】
これらの中でも、緑茶やコーヒー粉末、或いはこれらの残渣などに関しては、熱を加えて熱劣化するとL値がより一層低値になるため、かかる観点から、焙煎・火入れ・乾燥などの加熱工程を経たコーヒー粉末・茶、それらの製造残渣がさらに好ましい。
より具体的に言えば、例えば緑茶であれば、熱を与えることにより、L値を低下させることができるから、ほうじ茶などはL値が低くてより好ましい。
緑茶殻であれば、乾燥温度を高く、乾燥時間を長くすることによって、L値を低下させることができる。
コーヒー豆粉末であれば、熱を与えることにより、L値を低下させることができる。
また、コーヒー残渣であれば、乾燥温度を高く、乾燥時間を長くすることによって、L値を低下させることができる。
【0027】
有色有機物は、以上の中から一種類を選択して単独で用いることも可能であるが、これらの中から2種類以上を選択して併用することも可能である。
【0028】
有色有機物は、その粒度が100μm以上1mm未満であること、すなわち、目開き100μmの篩の篩上に分類され、且つ、目開き1mmの篩の篩下に分類されることが重要である。
有色有機物の粒径が1mm以上であると、紙表面に凹凸ができ、紙表面の有色有機物が剥離し易くなる。よって、例えば本情報隠蔽紙材を利用して封筒を作製した場合、封筒内部の有色有機物が剥離し、封筒内に封入されている紙などの記録媒体を汚す可能性がある。また、本情報隠蔽紙材を葉書等に貼付するための保護シートとして利用した場合には、有色有機物の脱離の影響で葉書に記載された機密情報や個人情報などを汚す可能性がある。
他方、有色有機物の粒径が100μm未満であると、抄紙工程で有色有機物が網より流亡し、歩留りが悪化するだけでなく、所定の配合量を紙に滞留させることができなくなる可能性があるほか、網の目に有色有機物が詰まって脱水効率が低下する可能性がある。
以上の観点から、有色有機物の粒度は、100μm以上であるのが好ましく、特に110μm以上(抄造工程の網よりひと回り大きい粒度)であるのがさらに好ましい。
【0029】
有色有機物の配合量は、特に限定するものではない。例えば5重量%以上35重量%以下の範囲で調整するのが好ましい。
有色有機物の配合量が35重量%以下であれば、抄紙時に紙繊維(長繊維)と有色有機物繊維(短繊維)が絡み合わずに抄造不良を起こすことを抑制することができる。また、抄造した際に封筒内部の有色有機物が剥離するのを抑制することができるから、封筒内に封入されている紙などの記録媒体を汚すのを防ぐこともできる。また、葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報なども同様に有色有機物と繊維状紙パルプとを絡み合わせて抄紙した有色有機物配合紙にて貼付シートを作製すると、茶殻の脱離の影響で葉書に記載された機密情報や個人情報などを汚すのを抑えることもできる。他方、有色有機物の配合量が5重量%以上であれば、封筒内部、葉書の機密情報や個人情報などの情報を視認できなくすることができる。
かかる観点から、有色有機物の配合量は、5重量%以上であるのがさらに好ましく、中でも10重量%以上であるのがより一層好ましい。
【0030】
(坪量)
本情報隠蔽紙材の坪量は、100g/m2以下であるのが好ましく、中でも36g/m2〜98g/m2、その中でも50g/m2〜86.3g/m2であるのがさらに好ましい。
本情報隠蔽紙材の坪量が100g/m2以下であれば、例えば本情報隠蔽紙材に示された文字の文字視認性を良好に維持することができる。
【0031】
なお、坪量を調整するには、紙1m2当りに添加する原料パルプ量を調製すればよい。例えば、幅1mの紙を抄造する場合、10m/分のスピードでラインを動かし、1分間に乾燥重量700gのパルプを添加すれば、坪量を70g/m2とすることができ、1分間に乾燥重量300gのパルプを添加すれば、坪量を30g/m2とすることができる。
【0032】
(有色有機物の配合量と紙材の坪量との関係)
本情報隠蔽紙材においては、有色有機物の配合量X(重量%)と坪量Y(g/m2)との関係が、次の式(1)、好ましくは次の式(2)を満足するように、作り込むことが重要である。
式(1)・・0.058X2−4.02X+119.1≦Y≦100(但し、10≦X≦35)
【0033】
有色有機物の配合量X(重量%)と坪量Y(g/m2)との関係が、
0.058X2−4.02X+119.1≦Y
の関係を満足すれば、例えば封筒表面や葉書面(貼付しない箇所)に表示された文字の視認性を顕著に低下させることなく、封筒内に封入された紙材面或いは貼付する葉書面に表示された文字を隠蔽することができる。
【0034】
また、有色有機物の配合量X(重量%)と坪量Y(g/m2)との関係が、
式(2)・・0.068X2−4.56X+114.8≦Y≦100(但し、5≦X≦35)
の関係を満足すれば、例えば封筒内に封入された紙材面或いは貼付する葉書面に表示された72pt未満の文字を隠蔽することができる。
【0035】
(利用形態)
本情報隠蔽紙材は、単独で用いて単層シートとして利用することもできるが、2枚以上を積層して複層シートとして利用することもできる。その他、普通紙など他の紙材やプラスチックシートなどと積層して複合シートとして利用することもできる。
【0036】
<製造方法>
本情報隠蔽紙材は、例えば、通常の紙材同様、脱リグニン工程、蒸解工程及び洗浄・漂白工程を経て紙パルプを調製し、得られた無漂白又は漂白紙パルプに水、その他の必要な添加剤を加えてスラリー化した後、得られた紙スラリーに対して有色有機物を添加して有色有機物入り紙スラリーを得る。そして、このようにして得られた有色有機物入り紙スラリーを、上記のように有色有機物の配合量と坪量とが所定の関係になるように、抄紙(濾過・圧搾・乾燥)して本情報隠蔽紙材を作製することができる。但し、このような製造方法に限定するものではない。
【0037】
なお、蒸解工程、すなわち大きな蒸解釜で原料となるチップを煮込む工程は、有色有機物を添加しても、通常と同じようにすればよい。
漂白工程では、塩素(二酸化塩素など)或いは、酸素やオゾン、過酸化水素などによって漂白すればよい。
【0038】
また、抄紙工程の具体的方法としては、例えば、有色有機物を紙パルプ、水、添加剤などと混合し、得られた混合物を、目開き100μm未満の網上に流し込み、厚さを調整してフェルト状に成形し、得られたフェルト成型物をプレス機により脱水及び乾燥して残留水分を蒸発させるようにすればよい。
なお、表裏面層は鉱物性顔料ならびに接着剤を塗工した塗工紙でもかまわない。
【0039】
<用語の説明>
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0041】
<サンプルの作製>
緑茶葉(仕上茶、品種:やぶきた、1番茶)と、この緑茶葉を90℃の熱湯で3分間抽出して得られる抽出残渣としての茶殻を105℃にて6時間熱風乾燥させて得られた乾燥茶殻と、を準備した。
【0042】
また、コーヒー豆(深煎り焙煎)50gを粉砕機(ジューサーミキサー(株式会社東芝製「JC−L80MR」))に投入し、10分間撹拌及び粉砕し、目開き1mmの篩と目開き2mmの篩とを用いて、粒径1mm以上2mm未満に篩い分けしたコーヒー豆粉末と、そのコーヒー豆粉末を90℃の熱湯で3分間抽出して得られる抽出残渣としての含水コーヒー粕を105℃にて6時間熱風乾燥させて得られた乾燥コーヒー粕と、を準備した。
【0043】
上記の如く準備した緑茶、乾燥茶殻、コーヒー及び乾燥コーヒー粕それぞれ50gを粉砕機(ジューサーミキサー(株式会社東芝製「JC−L80MR」))に投入し、10分間撹拌及び粉砕した後、目開き100μmの篩と目開き1mmの篩とを用いて、粒径100μm以上1mm未満のサンプルと、粒径1mm以上のサンプルとに篩い分けし、緑茶粉砕物A、A’、茶殻粉砕物C、C’、コーヒー粉砕物B、B’、及び、コーヒー粕粉砕物D、D’を得た(表1)。
【0044】
また、コーヒーの豆皮(シルバースキン)、ヒノキの木粉及び杉の木粉それぞれ50gを粉砕機(ジューサーミキサー((株式会社東芝製「JC−L80MR」))に投入し、10分間撹拌及び粉砕した後、目開き100μmの篩と目開き1mmの篩とを用いて、粒径100μm以上1mm未満のサンプルと、粒径1mm以上のサンプルとに篩い分けし、シルバースキン粉砕物E,E’、ヒノキ粉砕物F、F’、杉粉砕物G、G’を得た(表1)。
【0045】
各サンプルのL値は、分光式色彩計(日本電色工業株式会社製)を用いて測定し、表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
<有色有機物脱離テスト>
白色度70%の古紙30gに対して水1000Lを配合し、解繊して得られた紙スラリーに対して、乾物重量比で10、20、30、35重量%の各サンプルを添加して有色有機物入り紙スラリーを得た。
得られた有色有機物入り紙スラリーを、それぞれ網(網の目開き80メッシュ)に流し込み、105℃で乾燥後、坪量24g/m2、48g/m2、72g/m2の有色有機物入り紙を得た。
【0048】
このようにして得た有色有機物入り紙を二つ折りにして、有機物の脱離の有無を確認し、次の基準で評価した。「×」を不合格とし、「○」のみを合格とした。
【0049】
(評価基準)
○ :有色有機物の脱離がない。
× :有色有機物の脱離がある。
― :抄造不良
【0050】
【表2】

【0051】
表2の結果より、有色有機物の粒径が1mm以上であると、紙表面に凹凸ができ、有色有機物が脱離し易いことが分かった。よって、例えば封筒を作成する場合には、封筒内部の有色有機物が剥離し、封筒内に封入されている、機密情報や個人情報などの情報が記載された紙などの記録媒体を汚し、封筒としての役割を失う可能性があることが予想される。また、葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報なども保護するために、葉書に貼り付ける貼付シートとして利用すると、有色有機物の脱離の影響で葉書に記載された機密情報や個人情報などを汚す可能性がある。
他方、有色有機物の粒径が100μm未満であると、抄紙工程で有色有機物が網より流亡し、歩留りが悪化するだけでなく、所定の配合量を紙に滞留させることができない可能性があること、また、網の目に有色有機物が詰まり脱水効率が低下する可能性があることが分かった。
【0052】
有色有機物の配合量は、35重量%以下となるように配合するのが好ましいことが分かった。すなわち、有色有機物の配合量が35重量%を超えると、抄紙時に紙繊維(長繊維)と有色有機物繊維(短繊維)が絡み合わずに抄造不良を起こす可能性があることが分かった。また、抄造可能であっても、例えば封筒を作成した場合には、封筒内部の有色有機物が剥離し、封筒内に封入されている、機密情報や個人情報などの情報が記載された紙などの記録媒体を汚す可能性がある。また、葉書に記載された機密情報や個人情報などの情報なども保護するために、葉書に貼り付ける貼付シートとして利用すると、有色有機物の脱離の影響で葉書に記載された機密情報や個人情報などを汚す可能性があることも分かった。
【0053】
以上より、有色有機物の粉砕粒度を100μm以上1mm未満に制御し、かつ各有色有機物配合量を35重量%以下に制御するのが望ましいことが分かった。よって、この条件にて次の文字視認性テストを行った。
【0054】
<文字視認性テスト>
白色度70%の紙30gに対して水1000Lを配合し、解繊して漂白紙スラリーを準備した。
粒径100μm以上1mm未満の有色有機物サンプル(緑茶粉砕物A、茶殻粉砕物C、コーヒー粉砕物B、コーヒー粕粉砕物D、シルバースキン粉砕物E、ヒノキ木粉F、杉木粉G)を、前記漂白紙スラリーに対して、表3−表9記載の配合量にて添加し、撹拌棒で撹拌して有色有機物入り紙スラリー(濃度3重量%)を得た。
【0055】
得られた有色有機物スラリーを、表3―表9記載の坪量になるように網(網の目開き100μm)に流し込み、上部より3kg/cm2の圧力を加えて水分率約75%まで脱水して有色有機物入り紙マットを得た。そして、この有色有機物入り紙マットを110℃にて2時間、絶乾状態になるまで乾燥し、有色有機物入り紙を得た。
各有色有機物入り紙の文字視認性テストを下記試験方法にて行った。
【0056】
セイコーエプソン社製のカラープリンター(PM−820C)を用いて、坪量63g/m2の白色紙に、文字サイズ8pt、10.5pt、12pt、16pt、22pt、36pt、72ptで、かつMS明朝、MSゴシック、MSゴシック(太字)の各フォントにて「あ」の黒色文字をそれぞれ印刷した後、印刷面の上に表3−表9記載の各サンプルシートで覆い、文字の視認テストを行い、次の基準で評価した。
なお、「○」「△」が合格判定、それ以外は不合格判定とした
【0057】
=評価基準=
○:各フォント、すべてサイズの文字を視認することができない。
△:文字サイズによっては視認することができない。
×:文字の視認性が良い。
−:抄造不可能。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
表3−9の結果より、ヒノキ木粉(L値60.7)の文字視認性テストが有色有機物配合品と同等であることから、有色有機物のL値が高い場合には文字視認性が良くなることが明らかとなった。
杉粉砕物の100μm以上1mm未満を基準として判断すると、L値が50以下の緑茶、茶殻、コーヒー、コーヒー粕、シルバースキン、杉木粉(L値50.1)に関して文字視認性テストの結果から、Y座標を坪量、X座標を有色有機物の配合率としてなる座標中に上記試験結果をプロットし、各有色有機物において○(各フォント、すべてサイズの文字を視認することができない)部分と、△(文字サイズによっては視認することができない)部分との境界部分(X,Y)をそれぞれ求めた(表10)。
緑茶、茶殻、コーヒー、コーヒー粕、シルバースキン及び杉木粉(L値50.1)の(X,Y)の平均を求め、境界部分を多項式近似(2次)にて近似曲線を求めたところ、次の(式1)を得ることができた。
0.058X2−4.02X+119.1≦Y≦100(式(1))
【0066】
【表10】

【0067】
式1より、各有色有機物において○(各フォント、すべてサイズの文字を視認することができない)部分は、10≦X≦35の範囲内で0.058X2−4.02X+119.1≦Yに存在する。また、封筒や葉書シートに加工する際、Y(坪量)は100g/m2超であると有色有機物無配合紙も文字視認性が悪くなることから、良好な条件としては、10≦X≦35の範囲内で0.058X2−4.02X+119.1≦Y≦100の条件に該当することであることが分かった。
【0068】
また、緑茶、茶殻、コーヒー、コーヒー粕、シルバースキン及び杉木粉(L値50.1)の各有色有機物において、×(文字の視認性が良い部分。)(−:抄造不可能部分を含む)と、△(文字サイズによっては視認することができない)で、かつ72pt以上で視認性がある部分の境界部分(X,Y)をそれぞれ求めた(表11)。なお、表11に示した値は、各有色有機物の測定値(n数10)の平均値である。
そして、緑茶、茶殻、コーヒー、コーヒー粕、シルバースキン及び杉木粉(L値50.1)の(X,Y)の平均を求め、境界部分を多項式近似(2次)にて次の近似曲線(式2)を求めた。
Y=0.068X2 −4.56X+114.8(式2)
【0069】
【表11】

【0070】
式2より、各有色有機物において△(文字サイズによっては視認することができない)で、かつ72pt以上で視認性がある部分は、5≦X≦35の範囲内で、0.068X2 −4.56X+114.8≦Yに存在し、封筒や葉書シートに加工する際、Y(坪量)は100g/m2超であると、有色有機物無配合紙も文字視認性が悪くなることから、72pt未満の文字を隠蔽するための条件としては、10≦X≦35の範囲内で、0.068X2 −4.56X+114.8≦Y≦100に該当することであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径100μm以上1mm未満で、且つ、乾燥時L値が55以下である有色有機物と、紙パルプと、を含有してなる情報隠蔽紙材であって、当該有色有機物の配合率X重量%とその坪量Yg/m2とが次の式(1)に示される関係であることを特徴とする情報隠蔽紙材。
式(1)・・0.058X2−4.02X+119.1≦Y≦100(但し、10≦X≦35)
【請求項2】
粒径100μm以上1mm未満で且つ乾燥時L値が55以下である有色有機物と、紙パルプとを含有してなる情報隠蔽紙材であって、当該有色有機物の配合率X重量%とその坪量Yg/m2とが次の式(2)に示される関係であり、文字サイズ72pt未満の文字情報を視認することができないことを特徴とする情報隠蔽紙材。
式(2)・・0.068X2−4.56X+114.8≦Y≦100(但し、5≦X≦35)
【請求項3】
隠蔽する情報が、文字、数字、図柄、マークまたは模様のうちのいずれか、或いはこれらの組み合わせによって表現された情報であることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報隠蔽紙材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載された情報隠蔽紙材を用いてなる情報隠蔽封筒。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載された情報隠蔽紙材を用いてなる葉書貼付用情報隠蔽紙材シート。

【公開番号】特開2011−37175(P2011−37175A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187693(P2009−187693)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】