説明

感光性材料、感光性材料前駆体及び感光性材料の製造方法

【課題】材料中に屈折率変調構造を形成させる光学製品として、特にホログラム記録媒体として好適に使用することが可能な、感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料を提供する。
【解決手段】環状オリゴ糖誘導体を構成単位として含むポリマーマトリックス、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を具える感光性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料中に屈折率変調構造を形成させる光学製品として、特にホログラム記録媒体として好適に使用することが可能な感光性材料、その前駆体及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンを、感光性材料中に屈折率の変調構造として記録した位相型ホログラムは、振幅型ホログラムに比べて高い透過率や回折効率が得られ、入射光エネルギーを有効に利用できるという特徴を有する。この特徴を利用し、ホログラム記録媒体や、光学フィルター、ビームスプリッター、ヘッドマウントディスプレイといったホログラフィック光学素子(HOE)などの光学製品への応用が検討され、一部実用化されている。
【0003】
近年では、3次元ホログラフィックリソグラフィーによるフォトニック結晶構造の形成(例えば、非特許文献1)や、3次元直描(direct−write)フォトリソグラフィーによる光導波路の形成(例えば、非特許文献2)など、感光性材料中に所望の屈折率分布構造を形成させる光学製品の製造方法が検討されている。
【0004】
前記感光性材料としては、前記光学製品を製造する際の簡便性、原料選択の多様性、製造された光学製品の安定性などを考慮すれば、感光性樹脂(以下、フォトポリマーとも言う)を用いることが有利である。
【0005】
フォトポリマーの感光には、一般に、モノマーの重合反応に起因する体積収縮(以下、単に収縮とも言う)を伴う。この収縮は前記変調構造又は分布構造に歪みやずれを惹き起こす原因となり、特に、フォトポリマーが前記光学製品に用いられる場合には深刻な問題となる。
【0006】
例えば、フォトポリマーがホログラム記録媒体に用いられる場合、記録あるいは固定化処理時の光照射に伴う収縮が大きいと、前記変調構造の歪みやずれによって再生参照光のブラッグ条件を満たす入射角や波長が変わり、その結果、記録した情報を再生する際に十分な回折光強度が得られないという問題がある。この収縮がある程度の且つ等方的なものであれば光学的に補償することは可能であるが、システム側に再生参照光の入射角調整や波長調整などの制御が必要になり、再生操作が煩雑化するという問題が生じる。一方、収縮が非等方的な場合には、前記のようなシステム制御によっても補償することは困難であり、記録した情報を正確に再生することが困難になる。
【0007】
特許文献1には、重合反応に起因する収縮が比較的小さいカチオン開環重合を利用した技術が開示されている。具体的には、光酸発生剤、バインダーポリマー、特定の構造を有する二官能性及び多官能性エポキシドモノマー又はオリゴマーを含むホログラム記録媒体が開示されている。この技術は、重合に伴う収縮がラジカル重合に比べて比較的小さいカチオン開環重合を光記録時の重合反応として利用したものである。しかし、未だ収縮率が十分に低いとは言えず、また、カチオン重合は生成する重合体の分子量制御が困難であるという問題を内包しており、更に改良された材料が求められていた。
【0008】
特許文献2には、開裂反応を併用した技術が開示されている。具体的には、光酸発生剤、酸の存在下で開裂し得る官能基を介して重合性置換基が側鎖に結合されたポリマーを含む記録層を具備する記録媒体が開示されている。この技術は、ポリマー側鎖の開裂反応と、開裂側鎖由来の重合性化合物の重合反応とを光記録時に併用し、前記開裂反応に伴う膨張と前記重合反応に伴う収縮とを相殺させることにより収縮率の低減を図ったものである。しかし、記録媒体を作製する際に溶媒を用いる必要があり、均一な記録層を作製する上で厚みに制限があるという問題があった。また、前記ポリマーの分子量は溶媒可溶性を担保するために実質的な制限を受ける上、光記録時の側鎖開裂によって更に小さくなるため、記録後の安定性(アーカイバルライフ)の問題が懸念される。
【0009】
特許文献3には、有機−無機ハイブリッドマトリックスを使用した技術が開示されている。具体的には、特定の構造を有する有機金属化合物と、単官能重合性化合物とを少なくとも含むホログラム記録材料が開示されている。この技術は、比較的剛直な構造単位を有する有機−無機ハイブリッドマトリックスと、重合反応によって架橋構造を形成しにくい単官能重合性化合物とを組み合わせることにより収縮率の低減を図ったものである。しかし、特許文献2の場合と同様に、記録材料を作製する際に溶媒を用いる必要があり、均一な記録層を作製する上で厚みに制限があるという問題があった。
【0010】
特許文献4には、製造過程(in−situ)で形成させた3次元架橋ポリマーマトリックス中に光重合性化合物が分散されてなる光学製品が開示されている。ここで、3次元架橋ポリマーマトリックスは、前記光学製品に物理的強度を付与して形状を保持する役割に加え、光重合性化合物の過剰な移動を抑制し、また、光重合性化合物の重合反応に起因する体積収縮を低減する役割を果たすと考えられている(非特許文献3)。この技術によって得られた光学製品の収縮率として、例えば0.3%の報告(特許文献4、実施例4)があるものの、未だ改善の余地があった。
【0011】
また、前記光学製品に要求される高い透明性を得るために必要な相溶性の条件を満たすためには、前記3次元架橋ポリマーマトリックスと前記光重合性化合物やその重合体との組み合わせは限られ、屈折率差を大きくは取れないという問題があった。
【0012】
非特許文献4には、β−シクロデキストリンと両アミノ基末端ポリプロピレングリコールから調製された擬ポリロタキサン(Pseudo−Polyrotaxane)を出発物質として用い、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化収縮を低減した研究例が報告されている。この技術は、前記擬ポリロタキサンからのβ−シクロデキストリンの熱解離を利用したものであり、硬化物が白濁することがβ−シクロデキストリンの解離を示す証左の一つとなっている。そのため、この技術を透明性が必須要件である光学製品に適用することは難しい。
【0013】
上述のように、感光性材料、特にホログラム記録媒体などの光学製品に用いられる感光性材料は様々な方法によって性能の改善が図られてはいるものの未だ十分とは言えず、感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2001−523842号公報
【特許文献2】特開2005−10378号公報
【特許文献3】特開2007−156451号公報
【特許文献4】特開平11−352303号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】M. Campbell, D. N. Sharp, M. T. Harrison, R. G. Denning, andA. J. Turberfield, Fabrication of photonic crystals for the visible spectrum by holographic lithography, Nature, vol. 404, pp. 53-56 (2000).
【非特許文献2】A. C. Sullivan, M. W. Grabowski, and R. R. McLeod, Three-dimensional direct-write lithography into photopolymer, Applied Optics, vol. 46,pp. 295-301 (2007).
【非特許文献3】T. J. Trentler, J. E. Boyd and V. L. Colvin, Epoxy Resin-Photopolymer Composites for Volume Holography, Chemistry of Materials, Vol. 12,pp. 1431-1438 (2000)
【非特許文献4】Y. Isobe, A. Sudo, and T. Endo, Thermally Dissociable Pseudo-Polyrotaxane as a Supramolecular Shrinkage Suppressor for Epoxy-Amine Curing System, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, vol. 46, pp. 2305-2308 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、材料中に屈折率変調構造を形成させる光学製品として、特にホログラム記録媒体として好適に使用することが可能な、感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成すべく、本発明は、
環状オリゴ糖誘導体を構成単位として含むポリマーマトリックスと、
ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤と、
を具えることを特徴とする、感光性材料に関する。
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、ポリマーマトリックスの構成単位として環状オリゴ糖誘導体を含むことによって、上記感光性材料を感光させて光学製品を製造する際に、前記感光性材料の体積収縮を抑制し、透明性を向上させることができることを見出した。したがって、上記感光性材料によれば、特にホログラム記録媒体として好適に使用することが可能な、感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料を提供することができる。
【0019】
なお、ポリマーマトリックスの構成単位として環状オリゴ糖誘導体を含むことによって、感光性材料の感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料が得られる理由については明らかではないが、例えば、環状オリゴ糖誘導体の、剛直さに起因する耐収縮性、重合性モノマー包接作用に由来する収縮緩和、嵩高さに由来する低結晶性、などが奏功していると考えている。
【0020】
なお、上記感光性材料は、環状オリゴ糖誘導体を含むポリマーマトリックス形成成分と、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤とを具え、前記ポリマーマトリックス形成成分が、光ラジカル重合反応を除く反応によって重合し、前記ポリマーマトリックスを形成することを特徴とする、感光性材料前駆体を準備し、この感光性材料前駆体を、前述のように、光ラジカル重合反応を除く反応による重合を生ぜしめて前記ポリマーマトリックスを形成することによって得ることができる。
【0021】
また、本発明の感光性材料のポリマーマトリックスは、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を構成単位として含むことが好ましい。同様に、本発明の感光性材料前駆体のポリマーマトリックス形成成分は、同じく化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を含むことが好ましい。
【0022】
【化1】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R、Rはそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−を表し、Rはアルキレン基であり、nは1〜4の数であり、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。)なお、アルキレン基の炭素数は1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。
【0023】
この場合、ポリマーマトリックスに芳香環が存在することで、分子中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーを用いた場合でも相溶性が高く濁りを生じにくいため、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との屈折率差を大きくすることができ、感光性材料の屈折率変調度を高めることができる。また、感光性材料の感光時に、ラジカル重合性モノマーの少なくとも一部がポリマーマトリックスに存在するラジカル重合性基と反応して共重合することができるため、相溶性が高まり透明性が向上するとともに、形成された屈折率変調構造が安定化される。
【0024】
また、上述した感光性材料は、特にホログラム記録媒体として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上、本発明によれば、材料中に屈折率変調構造を形成させる光学製品として、特にホログラム記録媒体として好適に使用することが可能な、感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
〔環状オリゴ糖誘導体〕
本発明において、ポリマーマトリックスの構成単位又はポリマーマトリックス形成成分として含まれる環状オリゴ糖誘導体には、公知の環状オリゴ糖の各種誘導体を用いることができる。公知の環状オリゴ糖としては、例えば、シクロデキストリン(α−1,4結合からなる環状グルコオリゴ糖)、シクロデキストラン(α−1,6結合からなる環状グルコオリゴ糖)、シクロマンニン(α−1,4結合からなる環状マンノオリゴ糖)、シクロアルトリン(α−1,4結合からなる環状アルトロオリゴ糖)、シクロアワオドリン(α−1,4結合からなる環状ラムノオリゴ糖)、などが挙げられる。
【0028】
前記環状オリゴ糖の中では、入手の容易さやコストなどの観点から、シクロデキストリン誘導体が好ましく、α−シクロデキストリン誘導体又はβ−シクロデキストリン誘導体がさらに好ましい。シクロデキストリンは、複数のグルコースがα−1,4結合で環状構造を形成したオリゴ糖の一種であり、前記環状構造の内部に空孔を有している。この空孔は適度な大きさの分子を取り込む包接作用を有することが知られており、この性質を利用して、難水溶性の医薬品への水溶性付与、食品中の揮発成分の安定化、生活環境における消臭など、既に産業上広く利用されている。
【0029】
前記誘導体としては、本発明の感光性材料を構成する成分との相溶性の観点から、環状オリゴ糖が有する複数の水酸基の少なくとも一部が、アルコキシ基に変換されたアルキル化誘導体、ヒドロキシアルコキシル基に変換されたヒドロキシアルキル化誘導体、アセトキシル基に変換されたアセチル化誘導体が好ましい。
【0030】
環状オリゴ糖誘導体の含有率としては、ポリマーマトリックス(感光性材料前駆体の場合はポリマーマトリックス形成成分全体)に対して1〜40重量%が好ましく、5〜35重量%がより好ましく、10〜30重量%が更に好ましい。前記環状オリゴ糖誘導体の含有率が高過ぎると、感光性材料前駆体の粘度が高くなって感光性材料の製造が煩雑になったり、感光性材料の弾性率やガラス転移点が高くなって屈折率変調構造形成の感度が低下したりすることがある。一方、前記環状オリゴ糖誘導体の含有率が低過ぎると、十分な効果が得られない場合がある。
【0031】
ポリマーマトリックスの構成単位として環状オリゴ糖誘導体を含むことによって、感光性材料の感光時の体積収縮が小さく、透明性に優れた感光性材料が得られる理由については明らかではないが、例えば、環状オリゴ糖誘導体の、剛直さに起因する耐収縮性、重合性モノマー包接作用に由来する収縮緩和、嵩高さに由来する低結晶性、などが奏功しているとも考えられる。ポリマーマトリックスの構成単位として環状オリゴ糖誘導体を含むことによって期待される他の効果としては、感光性材料への生分解性の付与を挙げることができる。
【0032】
〔ポリマーマトリックス及びポリマーマトリックス形成成分〕
本発明において、ポリマーマトリックスは、感光性材料前駆体におけるポリマーマトリックス形成成分に対し、光ラジカル重合反応以外の反応による重合を生ぜしめて形成させることが好ましい。好ましくは、前記ポリマーマトリックスは、感光性材料の製造過程(in−situ)で形成させることが好ましい。この場合は、感光性材料前駆体におけるポリマーマトリックス形成成分が、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤の共存下で重合され、ポリマーマトリックスが形成される。この際、前記ラジカル重合性モノマーや前記光ラジカル重合開始剤が反応して減少してしまうと、感光性材料としての性能が低下するので、これらを可及的に減少させることなくポリマーマトリックスを形成させることが好ましい。
【0033】
なお、本発明における“光ラジカル重合反応以外の反応による重合”とは、不飽和基が関与する重合の他、縮合、重付加を含み、モノマー(モノマーとしての化合物)は重合性を示すオリゴマーを含む。
【0034】
具体的には、重縮合反応やイソシアネート-ヒドロキシル重付加反応(ポリウレタン形成)、イソシアネート-アミン重付加反応(ポリ尿素形成)、イソシアネート-チオール重付加反応、エポキシ-アミン重付加反応、エポキシ-チオール重付加反応、エピスルフィド-アミン重付加反応、エピスルフィド-チオール重付加反応などが挙げられる。好ましくは、イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応である。
【0035】
ラジカル重合性モノマーや光ラジカル重合開始剤、あるいは以下に説明する化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を実質的に減少させることなくポリマーマトリックスを形成させるためには、光ラジカル重合とは別の反応形態での重合が優先的に生じるように、反応触媒などを配合したり、反応温度を調整したりすることがよい。
【0036】
ラジカル重合性モノマーや光ラジカル重合開始剤、あるいは化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を実質的に減少させることなくポリマーマトリックスを形成させるための反応は、適当な触媒を用いることによって促進させることができる。例えば、イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応の触媒としては、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレートなどのスズ化合物、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、イミダゾール誘導体、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの三級アミン化合物などを用いることができる。これらの触媒は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
イソシアネート-ヒドロキシル重付加反応で得られるポリウレタンがポリマーマトリックスとなる場合を例として説明すると、イソシアネート化合物とヒドロキシ化合物がポリマーマトリックス形成成分となる。この場合、環状オリゴ糖誘導体は、ポリマーマトリックスの構成単位又はポリマーマトリックス形成成分として含まれる。
【0038】
前記イソシアネート化合物としては、1分子中に2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物又はその混合物が使用される。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタン−4,4’,4’ ’−トリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(H12MDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、シクロヘキサン−1,3,5−トリイソシアネート及びこれらのイソシアネート化合物から得られる三量体、ビウレット体、アダクト体、プレポリマーなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記ヒドロキシ化合物としては、1分子中に2以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシ化合物又はその混合物が使用される。例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートジオール類などが挙げられる。これらのヒドロキシ化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、ポリマーマトリックス及びポリマーマトリックス形成成分は、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を含むことができる。これによって、以下のような利点を得ることができる。すなわち、ポリマーマトリックスに芳香環が存在することで、分子中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーを用いた場合でも相溶性が高く濁りを生じにくいため、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との屈折率差を大きくすることができ、感光性材料の屈折率変調度を高めることができる。
【0041】
また、感光性材料の感光時に、ラジカル重合性モノマーの少なくとも一部がポリマーマトリックスに存在するラジカル重合性基と反応して共重合することができるため、相溶性が高まり透明性が向上するとともに、形成された屈折率変調構造を安定化することができる。
【0042】
なお、ポリマーマトリックス形成成分が化学式(1)で表わされるラジカル重合性化合物を含む場合は、前記ラジカル重合性基を実質的に減少させることなく、ポリマーマトリックスの形成に関与させることが好ましい。そのためには、化学式(1)で表される化合物はラジカル重合性基の他に、他の重合性官能基を有することがよい。他の重合性官能基は、ラジカル重合性基でなければ良く、また、エステル結合で重合する場合のように、一方がOH基、他方がカルボン酸基又はその誘導体基を有するように2種類以上の化合物からなっていてもよい。
【0043】
化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物の含有率としては、ポリマーマトリックス(感光性材料前駆体の場合はポリマーマトリックス形成成分全体)に対して0.5〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましく、2〜6重量%が更に好ましい。化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物の含有率が高過ぎると、感光性材料前駆体の粘度が高くなって感光性材料の製造が煩雑になったり、環状オリゴ糖誘導体による収縮低減効果が損なわれることがある。一方、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を含有しないか又は含有率が低過ぎると、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との相溶性が低下し、感光性材料に濁りを生じる場合がある。
【0044】
化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物としては、化学式(2)〜(5)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0045】
【化2】

【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
化学式(2)〜(5)において、Rはそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−を表し、Lは酸素原子、硫黄原子、−C(O)O−又は−N(R)−を表し、Lは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基又はアルキレン基を表す。また、nは1〜4の数を表し、Rはアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。なお、アルキレン基の炭素数は1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。
【0050】
化学式(2)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物などが挙げられる。
【0051】
化学式(3)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物などが挙げられる。
【0052】
化学式(4)で表される化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物などが挙げられる。
【0053】
化学式(5)で表される化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂のビニル安息香酸付加物、同ビニルフェノール付加物、同ビニルチオフェノール付加物、同ビニルアニリン付加物などが挙げられる。
【0054】
前記式(1)又は(2)〜(5)で表される化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
〔ラジカル重合性モノマー〕
本発明の感光性材料は、材料中に屈折率変調構造を形成させる光学製品として、特にホログラム記録媒体として好適に使用することができる。前記光学製品は、一般に、屈折率変調度の高いものが好ましく、そのためには、ポリマーマトリックスとラジカル重合性モノマーやその重合体との屈折率差を可及的に大きくすることが有利である。例えば、より低屈折率のポリマーマトリックスと、より高屈折率のラジカル重合性モノマーとを組み合わせることによって、屈折率差を大きくすることができる。
【0056】
本発明の感光性材料又はその前駆体に配合されるラジカル重合性モノマーとしては、当業者に知られているものであれば特に制限はないが、分子中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーを用いることが好ましい。
【0057】
かかる分子中に芳香環を有する高屈折率のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ジビニルビフェニル、ビニルターフェニル、ビニルピレン、インデン、アセナフチレン、ジベンゾフルベン、フェニル(ビニルフェニル)スルフィド、ベンジル(ビニルベンジル)スルフィド、N−ビニルカルバゾール、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ナフトキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンのジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのジ(メタ)アクリレート、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビス(4−ビニルチオフェニル)スルフィドなどが挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは、単独で用いても2種以上を組み合せてもよい。
【0058】
前記ラジカル重合性モノマーの配合量は、感光性材料又は感光性材料前駆体の全体に対して1〜30重量%が好ましく、2〜25重量%がより好ましく、3〜20重量%が更に好ましい。
【0059】
〔光ラジカル重合開始剤〕
本発明の感光性材料又はその前駆体に配合される光ラジカル重合開始剤としては、当業者に知られている種々の光ラジカル重合開始剤を用いることができ、使用する光の波長に応じて適宜選択して用いることがよい。
【0060】
好ましい光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(モルフォリン−4−イル)フェニル]ブタン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−(4−メチルベンジル)−1−[4−(モルフォリン−4−イル)フェニル]ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−(モルフォリン−4−イル)プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、(1−ヒドロキシシクロヘキシル)フェニルケトンなどが挙げられる。
【0061】
前記光ラジカル重合開始剤の配合量は、使用する光ラジカル重合開始剤の種類、ラジカル重合性モノマーの配合量などによって異なるため一概には決められないが、感光性材料又は感光性材料前駆体の全体に対して0.05〜20重量%の範囲が好ましく、0.1〜10重量%の範囲がより好ましく、0.2〜5重量%の範囲が更に好ましい。
【0062】
なお、本発明の感光性材料及び感光性材料前駆体は、可塑剤、相溶化剤、連鎖移動剤、重合促進剤、重合抑制剤、界面活性剤、消泡剤、剥離剤、安定化剤、酸化防止剤、難燃剤などの添加剤を必要に応じて更に含んでもよい。
【0063】
〔感光性材料の製造〕
本発明の感光性材料の製造方法について説明する。まず、本発明の感光性材料前駆体、すなわち、ポリマーマトリックス形成成分、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を具え、前記ポリマーマトリックス形成成分として環状オリゴ糖誘導体を含む感光性材料前駆体を準備する。次いで、前記ポリマーマトリックス形成成分に対し、光ラジカル重合反応以外の反応による重合を生ぜしめてポリマーマトリックスを形成する。この場合、ポリマーマトリックスは、ポリマーマトリックス形成成分が、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤の共存下で重合することによって形成される。
【0064】
好ましくは、前記ポリマーマトリックスは、感光性材料の製造過程(in−situ)で形成させることが好ましい。この場合、前記感光性材料前駆体をガラス、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート又はシクロオレフィンポリマーなどの透明な基材に塗布又は基材間に注入し、その後、光ラジカル重合反応以外の反応による重合を生ぜしめてポリマーマトリックスを形成することができる。
【0065】
これによって、環状オリゴ糖誘導体を構成単位として含むポリマーマトリックス中にラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を含んでなる感光性材料を得ることができる。
【0066】
なお、前記基材と前記感光性材料との間には、酸素や水分を遮断する目的で保護層を設けてもよい。保護層には、例えば前記基材と同等なもの、あるいはポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのフィルムやガラスなどを用いることができる。
【0067】
〔感光性材料の応用〕
本発明の感光性材料は、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンを屈折率変調構造として記録する体積位相型ホログラム記録媒体や、光学フィルター、ビームスプリッター、ヘッドマウントディスプレイといったホログラフィック光学素子(HOE)、3次元ホログラフィックリソグラフィーによって作製されるフォトニック結晶光学素子、あるいは3次元直描(direct−write)フォトリソグラフィーなどによって作製される光導波路などの用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
〔感光性材料前駆体の調製〕
ポリマーマトリックス形成成分のうち、環状オリゴ糖誘導体としてメチル化−β−シクロデキストリン(東京化成工業(株)製、水酸基当量367.4g/eq)10.0重量部(ポリマーマトリックス形成成分全体に対して12.3重量%)、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物として9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(新日鐵化学(株)製、ASF−400)(屈折率n=1.616)4.0重量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)22.4重量部、ポリエーテルトリオール(三洋化成工業(株)製、GP−600、平均分子量597)44.9重量部を、ポリマーマトリックス形成触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.045重量部を、ラジカル重合性モノマーとしてフェニル(4−ビニルフェニル)スルフィド(新日鐵化学(株)製)(屈折率n=1.648)15.0重量部を、光ラジカル重合開始剤としてビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イルガキュア784)1.2重量部を、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(東京化成工業(株)製)2.5重量部を配合して、感光性材料前駆体を調製した。
【0070】
〔感光性材料を含むホログラム記録媒体の作製〕
次いで、上述のようにして調製した感光性材料前駆体を、シリコンフィルムスペ−サー(厚み0.2mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(30mm×30mm、厚み1.2mm)の空隙に導入し、窒素雰囲気下、60℃で5時間加熱処理してポリマーマトリックスを形成させ、感光性材料を含む透過型ホログラム記録媒体を得た。
【0071】
〔感光性材料を含むホログラム記録媒体の評価〕
次いで、上述のようにして得た透過型ホログラム記録媒体を、パルステック工業(株)製の二光束干渉型平面波テスター、SHOT−500Gを用いて評価した。ホログラムの記録・再生には連続発振(CW)全固体レーザー(波長:532nm)を用いた。記録光の記録媒体上での光強度(二光束の合計)を7mW/cmとし、角度多重記録(49多重)を総露光量5000mJ/cmとなるようにして行った。記録されたホログラムの回折効率は、再生時の回折光及び透過光それぞれの強度を光パワーメーターで読み取った値を用いて、次式により算出した。
回折効率(%)=〔回折光強度/(透過光強度+回折光強度)〕×100
【0072】
この回折効率の値を用い、ホログラム記録媒体の多重記録性の指標として、M/#(エムナンバー)を次式により算出した。本実施例におけるホログラム記録媒体のM/#は2.3であった。
M/#=Σ√(回折効率)
【0073】
また、記録に伴う収縮率は、ホログラム記録時の角度と再生時の回折光ピークトップ角度の差(デチューン角度)から見かけの収縮率として算出した。本実施例におけるホログラム記録媒体の収縮率は0.2%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0074】
(実施例2)
環状オリゴ糖誘導体としてメチル化−α−シクロデキストリン(CycloLab,Ltd.製、水酸基当量273.4g/eq)10.0重量部(ポリマーマトリックス形成成分全体に対して12.3重量%)を用い、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)を22.9重量部、ポリエーテルトリオール(三洋化成工業(株)製、GP−600、平均分子量597)を44.3重量部とした以外は、実施例1と同様にして感光性材料を含む透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は3.1、収縮率は0.2%であった。なお、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0075】
(比較例1)
環状オリゴ糖誘導体を使用せず、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)23.7を重量部、ポリエーテルトリオール(三洋化成工業(株)製、GP−600、平均分子量597)を53.5重量部とした以外は、実施例1と同様にして感光性材料前駆体を調製した。得られた感光性材料前駆体を用い、実施例1と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は2.0、収縮率は0.3%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前は透明であったが、記録後にわずかに濁りを生じていた。
【0076】
(実施例3)
ポリマーマトリックス形成成分のうち、環状オリゴ糖誘導体としてメチル化−β−シクロデキストリン(東京化成工業(株)製、水酸基当量367.4g/eq)15.0重量部(ポリマーマトリックス形成成分全体に対して17.7重量%)、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物として9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(新日鐵化学(株)製、ASF−400)(屈折率n=1.616)4.0重量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)20.1重量部、ポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、G−700、平均分子量740)45.7重量部を、ポリマーマトリックス形成触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.03重量部を、ラジカル重合性モノマーとしてフェニル(4−ビニルフェニル)スルフィド(新日鐵化学(株)製)(屈折率n=1.648)12.0重量部を、光ラジカル重合開始剤としてビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イルガキュア784)1.2重量部を、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(東京化成工業(株)製)2.0重量部を配合して、感光性材料前駆体を調製した。得られた感光性材料前駆体を用い、実施例1と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は3.1、収縮率は0.2%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0077】
(実施例4)
メチル化−β−シクロデキストリン(東京化成工業(株)製、水酸基当量367.4g/eq)を20.0重量部(ポリマーマトリックス形成成分全体に対して23.6重量%)、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)を19.7重量部、ポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、G−700、平均分子量740)を41.1重量部とした以外は、実施例3と同様にして感光性材料前駆体を調製した。得られた感光性材料前駆体を用い、実施例1と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は3.0、収縮率は0.2%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0078】
(実施例5)
ポリマーマトリックス形成成分のうち、環状オリゴ糖誘導体としてメチル化−β−シクロデキストリン(東京化成工業(株)製、水酸基当量367.4g/eq)20.0重量部(ポリマーマトリックス形成成分全体に対して24.1重量%)、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物として9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(新日鐵化学(株)製、ASF−400)(屈折率n=1.616)4.0重量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)19.2重量部、ポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、G−700、平均分子量740)39.7重量部を、ポリマーマトリックス形成触媒としてジブチルスズジラウレート(東京化成工業(株)製)0.04重量部を、ラジカル重合性モノマーとしてフェニル(4−ビニルフェニル)スルフィド(新日鐵化学(株)製)(屈折率n=1.648)4.0重量部を、光ラジカル重合開始剤としてビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イルガキュア784)1.2重量部を、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(東京化成工業(株)製)1.0重量部を、可塑剤として炭酸プロピレン(東京化成工業(株)製)10.8重量部を配合して、感光性材料前駆体を調製した。
【0079】
得られた感光性材料前駆体を用い、実施例1と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は1.7、収縮率は0.1%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0080】
(実施例6)
ラジカル重合性モノマーとして2−ビニルナフタレン(新日鐵化学(株)製)(屈折率n=1.655)を用いた以外は、実施例5と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は1.7、収縮率は0.09%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0081】
(実施例7)
ラジカル重合性モノマーとしてアセナフチレン(新日鐵化学(株)製)(屈折率n=1.678)を用いた以外は、実施例5と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は1.8、収縮率は0.07%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前後のいずれにおいても透明であった。
【0082】
(比較例2)
環状オリゴ糖誘導体を使用せず、ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)を20.9重量部、ポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、G−700、平均分子量740)を58.1重量部とした以外は、実施例5と同様にして感光性材料前駆体を調製した。得られた感光性材料前駆体を用い、実施例1と同様にして透過型ホログラム記録媒体を作製し、評価した。得られたホログラム記録媒体のM/#は1.0、収縮率は0.2%であった。また、本実施例におけるホログラム記録媒体は、記録前は透明であったが、記録3日後にはわずかに濁りを生じていた。
【0083】
実施例及び比較例から明らかなように、本発明に従った実施例で得た感光性材料は、本発明と異なり、環状オリゴ糖誘導体を含まない感光性材料に比較して、体積収縮率が小さく、記録前後の透明性にも優れることが判明した。また、ホログラム記録媒体のM/#も相対的に高いことが判明した。
【0084】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オリゴ糖誘導体を構成単位として含むポリマーマトリックスと、
ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤と、
を具えることを特徴とする、感光性材料。
【請求項2】
前記環状オリゴ糖誘導体はシクロデキストリン誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の感光性材料。
【請求項3】
前記誘導体は、アルキル化誘導体、ヒドロキシアルキル化誘導体及びアセチル化誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の感光性材料。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが、化学式(1)で表されるラジカル重合性化合物を構成単位として含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の感光性材料。
【化1】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R、Rはそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−を表し、Rはアルキレン基であり、nは1〜4の数であり、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載の感光性材料を具えることを特徴とする、ホログラム記録媒体。
【請求項6】
環状オリゴ糖誘導体を含むポリマーマトリックス形成成分と、
ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤とを具え、
前記ポリマーマトリックス形成成分が、光ラジカル重合反応を除く反応によって重合し、前記ポリマーマトリックスを形成することを特徴とする、感光性材料前駆体。
【請求項7】
前記環状オリゴ糖誘導体はシクロデキストリン誘導体であることを特徴とする、請求項6に記載の感光性材料前駆体。
【請求項8】
前記誘導体は、アルキル化誘導体、ヒドロキシアルキル化誘導体及びアセチル化誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の感光性材料前駆体。
【請求項9】
前記ポリマーマトリックス形成成分が、化学式(2)で表されるラジカル重合性化合物を更に含む、請求項6〜8のいずれか一に記載の感光性材料前駆体。
【化2】

(式中、Arは1以上の芳香環を有する2価の基を表し、R、Rはそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Lは酸素原子、硫黄原子又は−(ORO−を表し、Rはアルキレン基であり、nは1〜4の数であり、Lは芳香環を有してもよい2価の基を表す。)
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一に記載の感光性材料前駆体におけるポリマーマトリックス形成成分に対し、光ラジカル重合反応を除く反応による重合を生ぜしめてポリマーマトリックスを形成し、前記ポリマーマトリックス、ラジカル重合性モノマー及び光ラジカル重合開始剤を含む感光性材料を製造することを特徴とする、感光性材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−111787(P2012−111787A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84709(P2009−84709)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】