説明

感熱シート

【課題】 製造プロセスを簡単にして、製造コストを抑えながら、秘密にしたい情報を確実に隠蔽できる感熱シートを提供することである。
【解決手段】 透明性を有する感熱記録紙5と、転写紙3との間にカーボン層6を備えた感熱シートにおいて、上記感熱記録紙5は、転写紙3との対向面に感熱発色層5bを設けるとともに上記感熱発色層5bのうち、隠蔽すべきエリアに熱転写用カーボンを溶融塗布して上記カーボン層6を形成する一方、熱転写用カーボンを溶融塗布する温度を、上記感熱発色層5bの発色温度よりも高くした。これにより、上記隠蔽すべきエリアに対応した感熱発色層5bが既発色部5cとなって、その部分に印字すべき情報を外部から見えないようにできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、公共料金の検針票に適した感熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガスや水道など、公共料金の検針業務においては、携帯性に優れたサーマルハンディプリンターを用いて印字する感熱シートが多く用いられている。そして、この感熱シートには、検針日時、使用量、請求金額などを印字して検針票を作成し、それを各戸のポストに直接投函するようにしている。
しかし、検針票に記録された情報が第三者に見られると、その情報から各世帯の生活状況が第三者に知られてしまうことがある。このような個人情報の漏洩を防止するために、検針票に記録した情報が外部から見えないようにするシートが知られている。
【0003】
例えば、2枚の感熱記録紙を重ねて、サーマルプリンターによって2枚同時に印字する検針用のシートが、特許文献1に記載されている。このように2枚の感熱記録紙に印字される情報のうち隠蔽したい情報部分の表面には、予め、黒色などの濃色インクによって隠蔽層を印刷し、2枚の感熱記録紙を別々に剥がしたときに初めて、内側に印字された情報が見えるようにしたものが知られている。そして、感熱記録紙を二層にしたシートにおいて、感熱発色層の発色は、感熱発色層と反対側の紙材の裏面側からも透けて見えるので、上記隠蔽層を、二層にしたシートの両側に設けなければならなかった。その分、製造工程が多くなってしまう。
【0004】
一方、上記隠蔽層を片側のみに設ければ足りるシートとして、例えば、図5に示すシートが知られている。このシートは、紙材1a上に感熱発色層1bを塗布した感熱記録紙1の裏面に、転写カーボンを塗布したカーボン層2を設け、これを転写紙3に積層して仮接着するとともに、使用量など、隠蔽すべき情報を印字する隠蔽エリアの外表面には、濃色インキで柄などを印刷した隠蔽層4を設けている。
そして、このシートを感熱記録紙1側からサーマルプリンターによって加熱すると、感熱発色層1bの加熱された部分が発色して印字されるとともに、上記加熱箇所に対応するカーボン層2が転写紙3側へ熱転写される。
なお、図中符号7は、接着剤による接着部であり、この接着部7で、上記感熱記録紙1と転写紙3とを剥離可能に仮接着している。
【0005】
但し、サーマルプリンターによって印字された上記感熱発色層1bの印字部分のうち、上記隠蔽層4に覆われた部分の印字情報は見えない。そのため、この隠蔽層4の部分に印字された情報が第三者に漏れることを防止できる。
そして、印字済みのシートから、隠蔽層4を備えた感熱記録紙1を剥がして取り除けば、転写紙3上に転写カーボンで印字された情報を見ることができる。なお、転写紙3に転写された印字情報は、上記感熱記録紙1とともに転写カーボン層2を剥離するまでは、顕在化しないため、転写紙3の裏面からその印字情報が透けて見えることがない。そのため、転写紙3の裏面には隠蔽層を設ける必要はない。
【特許文献1】特開2006−082237号公報
【特許文献2】特開平6−320858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の検針用の感熱シートでは、いずれにしても、隠蔽層を設けるための印刷工程が必要である。その分、感熱シートの製造プロセスが複雑になるという問題があった。
また、図5の隠蔽層4は、感熱記録紙1の感熱発色層1b上に印刷して形成しているが、サーマルプリンターの印字によって感熱発色層1bが発色すると、その発色部分が他の部分とは表面状態が変わることがある。そのため、隠蔽層4を濃色インキで印刷しても、よく見ると、この隠蔽層4上に印字部分が浮き上がって見えてしまうことがある。このようなことがないようにするために、隠蔽層4を形成するインキや、印刷する柄などを特別に工夫する必要があり、その分、製造コストが掛かるという問題もあった。
【0007】
この発明は、製造プロセスを簡単にして、製造コストを抑えながら、秘密にしたい情報を確実に隠蔽できる感熱シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、透明性を有する感熱記録紙と、転写紙との間にカーボン層を備えた感熱シートにおいて、上記感熱記録紙は、転写紙との対向面に感熱発色層を設けるとともに上記感熱発色層のうち、隠蔽すべきエリアに熱転写用カーボンを溶融塗布して上記カーボン層を形成する一方、熱転写用カーボンを溶融塗布する温度を、上記感熱発色層の発色温度よりも高くした点に特徴を有する。
第2の発明は、上記感熱記録紙の表面であって、熱転写用カーボンの塗布範囲に対応するエリアに、印刷用下地を設けた点に特徴を有する。
なお、上記透明性を有する感熱記録紙とは、感熱発色層を設ける紙などの基材が透明もしくは半透明であって、感熱発色層の発色状態が、感熱発色層とは反対側の面からも見えるようにしたものである。そのために、感熱記録紙の基材として、透明性の高い材質を用いるほか、全部または部分的に透明性が高くなるように処理を施した素材を用いてもよい。
【発明の効果】
【0009】
第1、第2の発明によれば、カーボン層を塗布する際に、カーボン層を形成した部分の感熱発色層が発色するので、サーマルプリンターを用いて文字情報に応じた加熱をしても、既に発色済みの感熱発色層に印字されることがない。そのため、カーボン層に対応する部分に隠蔽すべき情報を印字すれば、それが表面から見えることがない。
このような感熱シートでは、秘密にしたい印字情報を隠すために、従来のように、改めて隠蔽層を形成する必要がなく、その分、製造プロセスを簡単にできる。
【0010】
第2の発明によれば、隠蔽すべきエリアに対応して予め発色させた感熱発色層の色の影響を印刷下地で抑えることができ、そこに様々な情報を印刷できるようになる。また、この発明では、隠蔽層を印刷する工程が不要なので、印刷下地を設ける工程を設けても、隠蔽層を形成する従来のものより工程が増えることにはならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1〜図3に、この発明の第1実施形態を示す。
図1に示す感熱シートは、感熱記録紙5と、転写紙3との間に、転写用のカーボン層6を設けたもので、サーマルプリンターによって、感熱記録紙5を発色させるとともに、転写紙3へカーボン層6を熱転写することによって印字する点は、図5に示す従来のシートと同じである。
但し、この第1実施形態の上記感熱記録紙5は、透明性を有する紙材5aに感熱発色層5bを設けたものであり、感熱発色層5bの発色状態が、この実施形態の感熱シートの表面である紙材5a側から見えるようにしている。
【0012】
また、この感熱記録紙5の感熱発色層5bを、転写紙3に対向させている。この転写紙3は上記カーボン層6が熱転写する紙であるが、特別なものでなく、普通紙で構成することができる。そして、上記感熱記録紙5と転写紙3とは、サーマルプリンターを通す際に、両者の位置関係がずれないように、接着部7で部分的に仮接着している。なお、図1〜3では、一箇所のみに示しているが、実際には、サーマルプリンターおけるシートの走行方向に沿って線状にしたり、連続的に設けたりして上記感熱記録紙5と転写紙3とを一体化している。
【0013】
さらに、図1〜図3では、説明のため各層の厚みを厚く表しているが、各層は普通紙の厚みと同等かそれより薄い。特にカーボン層6は薄いので、カーボン層6を設けていない部分においても、感熱記録紙5と転写紙3との間には隙間がなく、両者の対向面は接触している。
【0014】
そして、この第1実施形態では、上記感熱発色層5bの表面に熱転写用カーボンを溶融塗布することによって上記カーボン層6を形成しているが、この熱転写用カーボンを塗布する時の温度を、上記感熱発色層5bの発色温度よりも高くしている。そのため、上記感熱発色層5bにおいてカーボン層6を設けた部分は、カーボン層6が形成される際に発色する。つまり、図1に示す感熱シートは、熱転写用カーボンを塗布した時点で、感熱発色層5bのうちカーボン層6を設けた部分が発色して既発色部5cとなる。
【0015】
このような感熱シートに、サーマルプリンターを用いて、検針情報を印字する場合について以下に説明する。なお、上記検針情報のうち、隠蔽すべき情報は、図1に示す感熱シートのカーボン層6に対応する部分に印字し、その他の情報は、カーボン層6以外の部分に印字するようにしている。つまり、上記カーボン層6に対応するエリアがこの発明の隠蔽すべきエリアである。
例えば、サーマルプリンターを用いて、隠蔽すべき文字情報に対応して、図2に示す矢印Aのように熱が作用した場合、その熱は、感熱記録紙5の既発色部5c及びその下層のカーボン層6に伝達される。
【0016】
このように、熱が伝わっても、感熱発色層5bの既発色部5cは、予め発色しているので、それ以上変色することがない。従って、上記矢印Aのように熱を作用させても、感熱発色層5bの既発色部5cには印字されないことになる。
但し、上記矢印Aで示す熱は、上記既発色部5cを介してカーボン層6に伝達され、その熱が作用した部分には、転写紙3へ転写される熱転写部6aが形成される。この熱転写部6aは、上記熱の作用によって一旦溶融し、上記感熱紙5よりも転写紙3に対する接着力が強くなった部分である。
【0017】
このとき、上記熱転写部6aは、隠蔽すべき文字情報に対して形成される部分であるが、図2の状態では、この転写部6aは周囲のカーボン層6内に含まれている。つまり、熱転写部6aの形状は、感熱記録紙5側からは見えることはなく、転写紙3側からも、一般的な転写紙の不透明度があれば見えることはない。従って、熱転写部6aで表される文字情報が外部に漏れてしまうことはない。
さらに、図2の状態では感熱記録紙5と転写紙3は熱転写部6aのカーボンを介して、手で簡単に剥がすことができる程度に接着しており、文字情報を見るために感熱記録紙5と転写紙3を剥がしてしまうと、この接着力は再び得られるものではないため、接着力の有無により開封行為の有無を確認することもできる。
【0018】
一方、図2の矢印Bのように、カーボン層6以外の部分、すなわち、感熱発色層5bの未発色部分に熱が作用すると、その部分が、サーマルプリンターの加熱に応じた発色部5dとなって感熱記録紙5に印字されることになる。このようにして発色した発色部5dは、透明性を有する紙材5aを透過してこの感熱シートの表面から見える。そこで、ここには、宛名や、検針日時など、検針票を区別するための必要最小限の情報や、第三者に知られても特に問題のない情報を印字するようにすればよい。
【0019】
このように印字したこの第1実施形態の感熱シートは、図2に示すように、隠蔽すべきエリアであるカーボン層6に対応する部分に印字した情報が外部から見えることがないので、この状態で、各戸のポストに投函するようにすれば、個人情報を守ることができる。
そして、図3に示すように、印字済みの感熱シートの感熱記録紙5を、転写紙3から剥がすと、上記カーボン層6の熱転写部6aが転写紙3に転写され、転写紙3上に情報が現れることになる。
【0020】
以上のように、この実施形態の感熱シートは、熱転写用カーボンを塗布する工程において、感熱発色層5bの一部を発色させることにより、従来のように隠蔽層を形成しないでも、情報を隠蔽する機能を備えることができた。つまり、この実施形態の感熱シートは、隠蔽機能を備えるための特別な工程を不要にし、製造プロセスを簡単にできるものである。
また、隠蔽すべきエリアに対応し、カーボン層6を設けた部分の既発色部5cは、サーマルプリンターによって印字されないので、従来のように、印字されたものを隠蔽する場合とは異なる。従来例の隠蔽層がその色や柄によっては印字文字の隠蔽が不十分になってしまうことがあったが、この実施形態の感熱シートでは、そのような問題は全く起こらない。言い換えれば、この実施形態の感熱シートなら、感熱記録紙5を剥がさない限り、隠蔽エリアに印字した情報を確実に隠蔽することができる。
【0021】
図4に示す第2実施形態は、感熱記録紙5の表面であって、熱転写用カーボンの塗布範囲である上記カーボン層6に対応するエリアに印刷用下地8を設けたものである。この印刷用下地8以外の構成は、上記第1実施形態と同じである。従って、上記第1実施形態と同じ構成要素には、図1〜図3と同じ符号を用いる。
【0022】
上記印刷用下地8は、その上に文字などを印刷するためのもので、印刷文字などが明瞭に表示されるようにするための背景色を印刷して形成したものである。もともと、カーボン層6に対応するエリアでは、上記半透明の紙材5aから上記既発色部5cの濃い発色が見えているので、そこに印刷をしても内容が良く分からなくなってしまうことがある。そこで、印刷用下地8を設けて、例えば、検針情報とは直接関係のない宣伝広告などを表示できるようにしている。
但し、宣伝広告などを、上記既発色部5cの濃色に比べて、明るい色で印刷するようにすれば、上記印刷用下地8を設けなくても、印刷情報を表示可能である。
【0023】
なお、この第2実施形態においても、情報を隠蔽するたに、製造工程が増えることはなく、確実な隠蔽ができる点は、上記第1実施形態と同じである。
また、従来例のように、隠蔽層を形成する工程が不要になったので、その分、上記印刷用下地8を形成する工程を設けても、全体の工程数が従来よりも増えることはない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態の断面図である。
【図2】第1実施形態の印字状態を示した断面図である。
【図3】第1実施形態の印字状態を示した断面図で、カーボンの熱転写を示した図である。
【図4】第2実施形態の断面図である。
【図5】従来例の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
3 転写紙
5 感熱記録紙
5a 紙材
5b 感熱発色層
5c 既発色部
6 カーボン層
6a 熱転写部
8 印刷用下地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性を有する感熱記録紙と、転写紙との間にカーボン層を備えた感熱シートにおいて、上記感熱記録紙は、転写紙との対向面に感熱発色層を設けるとともに上記感熱発色層のうち、隠蔽すべきエリアに熱転写用カーボンを溶融塗布上記カーボン層を形成する一方、熱転写用カーボンを溶融塗布する温度を、上記感熱発色層の発色温度よりも高くした感熱シート。
【請求項2】
上記感熱記録紙の表面であって、熱転写用カーボンの塗布範囲に対応するエリアに、印刷用下地を設けた請求項1に記載の感熱シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−17863(P2010−17863A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177775(P2008−177775)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(391022382)日本通信紙株式会社 (9)
【Fターム(参考)】