説明

感熱型平版印刷版

【課題】耐刷性を十分に保持しながら、汚れ回復性、ブランパイリングが改善された感熱型平版印刷版を提供する。
【解決手段】耐水性支持体上に熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)がゼラチンおよび多糖類を含有することを特徴とする感熱型平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型平版印刷版に関し、アブレーション方式や機上現像方式等の層除去処理を必要としない感熱型平版印刷版に関する。詳しくは耐刷性を低下させることなく、非画像部の汚れ回復性およびブランパイリングが改善された感熱型平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターおよびその周辺機器の発展により各種デジタルプリンタを用いた平版印刷版の製版方法が各種提案されている。例えば、特開平6−138719号公報、特開平6−250424号公報には、乾式電子写真法レーザープリンタにより製版するもの、特開平9−58144号公報には、熱溶融型インクを用いたオンデマンドインクジェットプリンタにより製版するもの、更に、特開昭63−166590号公報には熱転写インクリボンを用いるサーマルプリンタにより製版するもの等が知られている。
【0003】
上記のようなデジタルプリンタを使用した製版方法は、今までの可視光レーザー等を用いた光モードタイプとは大別され、取り扱い上において安全光の制約を受けないことから、この点で大きな利点を持つ。また従来の光モードタイプにおいて通常用いられる露光後の現像処理を全く必要としない点から、これらの製版方式で製版された印刷版はプロセスレス印刷版と総称されている。
【0004】
しかし上記プロセスレス印刷版は、何れも保水性付与層が設けられた支持体表面に、感脂性(即ち、平版印刷インキ着肉性)の記録画像を転写付与することにより印刷版を形成する方式であったため、次のような問題点があった。
【0005】
1)画像を形成する層が親水性であるためトナーやインク等の付着が十分ではなく、例えば転写トナー画像濃度が不足、転写画像に白抜けが発生するような問題。
2)転写画像の定着が十分ではなく、耐刷性が低下し、特に小ポイント文字の一部や低網点画像に欠落が生じるような問題。
3)非画像部に少量のトナーが不規則に転写したり、熱転写インクリボンが擦れること等によって、全体的に薄い地汚れが発生する等の問題。
【0006】
一方、支持体上に熱可塑性樹脂あるいは熱溶融性粒子を含有する画像形成層を設けて、サーマルヘッドや赤外線レーザー等により加熱印字することで親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版等も提案されている。
【0007】
例えば、特開昭58−199153号公報(特許文献1)、あるいは特開昭59−174395号公報(特許文献2)には、画像形成層に熱転写リボン等を介さずサーマルヘッド等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。特開2000−190649号公報(特許文献3)、特開2000−301846号公報(特許文献4)には、赤外線レーザー等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版も記載されている。これらは何れも相変換タイプの印刷版であり、元々親水性であった部分が相変換を起こし、疎水性(親油性)に変化するものである。
【0008】
平版印刷版は、油脂性のインキを受理する親油性の画像部とインキを受理しない親水性の非画像部からなり、一般に非画像部は水を受け付ける。通常の平版印刷では、水とインキの両方を版面に供給し、画像部は着色性のインキを、非画像部には水を選択的に受け入れて、画像部のインキを紙等の被印刷体に転写させることによって印刷がなされている。従って、画像部と非画像部の親油性および親水性の差を十分に大きくすることで、乳化状態の水−インキが版面に供給された時に、画像部は十分にインキを、非画像部は十分に水が受理でき、良好な印刷物が得られる。
【0009】
しかし上記した相変換タイプの感熱型平版印刷版は、保水性付与層上の感脂性の記録画像を転写するプロセスレス印刷版とは異なり、同じ層に親油性成分と親水性成分が存在し熱により相変換するものであるため、画像部と非画像部との親油性/親水性の差が不十分であった。そのため、鮮明な印刷画像を得難く耐刷性が十分でないといった問題や、地汚れが生じた場合に湿し水を過多に与えて汚れを正常に回復させる、所謂汚れ回復性や、ブランケット上の非画像部にインキが堆積するブランパイリング(ブランケット汚れ)が劣る問題等の取り扱い性も十分満足できるものではなかった。
【0010】
耐刷性や地汚れといった問題に対しては、特開平11−95417号公報(特許文献5)では、画像形成層にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の親水性樹脂を架橋して用いることで耐刷性や保水性を改善されることが記載されているが、親水性樹脂自体の相変換を利用するものであるので、画像部の疎水化のレベルが低く、疎水性/親水性の差が十分ではなかった。特開2000−75471号公報(特許文献6)では、疎水性発生物質に熱可塑性樹脂、ワックス分散物、撥水剤等を用い、親水性物質にゼラチンやポリビニルアルコール等を用いることで、特に耐水性、印刷再現性等を向上させたとあるが、これも疎水性/親水性の差が十分ではなかった。
【0011】
また特開平07−1849号公報(特許文献7)では画像形成層が含有する親水性バインダーの一例として多糖類が記載され、特開2005−81583号公報(特許文献8)では親水性バインダーとして多糖類を用いた感熱型平版印刷版の具体例が記載され、特開2009−196262号公報(特許文献9)には、ゼラチンを含有する画像形成層を有する感熱型平版印刷版が記載されるが、何れも汚れ回復性、ブランパイリングが十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭58−199153号公報
【特許文献2】特開昭59−174395号公報
【特許文献3】特開2000−190649号公報
【特許文献4】特開2000−301846号公報
【特許文献5】特開平11−95417号公報
【特許文献6】特開2000−75471号公報
【特許文献7】特開平07−1849号公報
【特許文献8】特開2005−81583号公報
【特許文献9】特開2009−196262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、耐刷性を低下させることなく、非画像部の汚れ回復性およびブランパイリングが改善された感熱型平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は下記の手段によって解決された。
(1)耐水性支持体上に熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)がゼラチンおよび多糖類を含有することを特徴とする感熱型平版印刷版。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、耐刷性を低下させることなく、非画像部の汚れ回復性およびブランパイリングが改善された感熱型平版印刷版を提供するができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の感熱型平版印刷版は、熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を有する。画像形成層はサーマルヘッドや赤外線レーザーで加熱描画すると、熱が加わる部位は水溶性高分子化合物に埋もれている熱可塑性樹脂、熱溶融性物質が溶融し層の極表面に滲み出ることで疎水性を発現し、印刷時にインキを受理することが可能となる。熱が与えられない部位は熱可塑性樹脂や熱溶融性物質が水溶性高分子化合物に埋もれたままで、画像形成層が元々有する親水性を維持する。
【0017】
本発明の感熱型平版印刷版は、熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有する。例えば一方の画像形成層は耐水性支持体に近い画像形成層(A)であり、もう一方の画像形成層は耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)である。そして本発明の感熱型平版印刷版は、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の水溶性高分子化合物としてゼラチンおよび多糖類を併用する。以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
<水溶性高分子化合物>
耐水性支持体に近い画像形成層(A)が含有する水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉およびその誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、スチレン・マレイン酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独使用でも2種類以上の併用でも良く、耐水性支持体に近い画像形成層(A)が含有する水溶性高分子化合物としては、特に皮膜形成に富むゼラチンやポリビニルアルコールとその変性物が非画像部の親水性保持に好ましく選択され、ゼラチンとポリビニルアルコールを併用して用いることが特に好ましい。
【0019】
一方、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)は水溶性高分子化合物として、ゼラチンおよび多糖類を含有する。ゼラチンとしては、動物のコラーゲンを原料としたゼラチンであれば全て使用できるが、豚皮、牛皮、および牛骨から得られるコラーゲンを原料としたゼラチンが好ましい。また、ゼラチンの種類も特に制限はないが、石灰処理ゼラチンおよび酸処理ゼラチンの他、特公昭38−4854号公報、特公昭39−5514号公報、特公昭40−12237号公報、特公昭42−26345号公報、米国特許第2,525,753号明細書、米国特許第2,594,293号明細書、米国特許第2,614,928号明細書、米国特許第2,763,639号明細書、米国特許第3,118,766号明細書、米国特許第3,132,945号明細書、米国特許第3,186,846号明細書、米国特許第3,312,553号明細書、英国特許第1,033,189号明細書等に記載のゼラチン誘導体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明に用いる多糖類は、単糖類、オリゴ糖には分類されない単糖が多数結合した糖類であり、水溶性であることが好ましい。本発明の画像形成層に用いる水溶性多糖類として、澱粉およびその誘導体、セルロース誘導体(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、デキストラン、プルラン等が挙げられるが特にプルランを用いることが耐刷性の点で好ましい。また上記ゼラチンと多糖類を併用して用いる際には両者の間で好ましい比率があり、ゼラチンに対して多糖類を2.5〜20質量%とすることが好ましい。更にゼラチンと多糖類以外の水溶性高分子化合物を併用してもよいが、それらの含有量はゼラチンに対して20質量%未満であることが好ましい。
【0021】
本発明の耐水性支持体に近い画像形成層(A)、および耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)が含有する上記水溶性高分子化合物の配合量は画像形成層の全固形分量に対して0.5〜50質量%が好ましい。
【0022】
<熱可塑性樹脂>
耐水性支持体に近い画像形成層(A)、および耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)が含有する熱可塑性樹脂としては、鎖状ポリマーからなり加熱によって可塑性を示す固体状の有機高分子化合物であって、有機高分子化合物の水分散体を指す。代表例はスチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体、スチレンメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた合成ゴムラテックスが好ましく用いられるが、スチレン無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル/アクリル酸エステル共重合体、および低融点ポリアミド樹脂等の水分散体も使用可能である。これら熱可塑性樹脂は単独もしくは2種以上併用して用いることができる。印刷インクのビヒクル(バインダー成分)との親和性から、かかる熱可塑性樹脂としては合成ゴムラテックスが好ましく、特にスチレンブタジエン共重合体とその変性物が望ましい。好ましい熱可塑性樹脂の配合量としては、画像形成層の全固形分量に対して5〜50質量%とすることが好ましい。
【0023】
熱による溶融、融着効果を発現し易くするためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50〜150℃、更に好ましくは55〜120℃のものを使用するのが好ましい。ガラス転移温度が50℃未満では製造工程中に液状に相変化を起こし、非画像部にも疎水性が発現するため印刷地汚れの原因となる場合がある。また150℃を超える場合はポリマーの熱溶融が起こりにくく、比較的小出力のレーザーや小型サーマルプリンタでは強固な画像を形成するのが困難となる場合がある。
【0024】
本発明において耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)のゼラチンおよび多糖類に対する熱可塑性樹脂の比率よりも高くすることが好ましい。耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)のゼラチンおよび多糖類に対する熱可塑性樹脂の比率(熱可塑性樹脂の質量/ゼラチンおよび多糖類の合計の質量)は0.01〜10であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜3である。また耐水性支持体に近い画像形成層(A)における比率(熱可塑性樹脂の質量/水溶性高分子化合物の質量)にも好ましい範囲があり、0.1〜50であることが好ましく、更に好ましくは1〜20である。更には画像形成層(A)における比率と画像形成層(B)における比率との差が0.5以上であることが好ましい。このような範囲に調整することにより、耐刷性と耐汚れ性により優れた感熱型平版印刷版が得られる。
【0025】
<熱溶融性物質>
耐水性支持体に近い画像形成層(A)、および耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)が含有する熱溶融性物質としては、カルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等のワックス類、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の脂肪酸、およびそのエステル、アミド類、および下記一般式(1)〜(4)で示される化合物の中から選ばれた少なくとも1種等が挙げられ、融点が50〜150℃の有機化合物が好ましく用いられる。融点が50℃未満では製造工程中に溶融してしまい、印刷物の地汚れの原因となる場合がある。一方、150℃を超えるとサーマルヘッド等の熱印加で溶融しにくく、画像トビの発生、親油性等の発現が乏しくなる場合がある。画像形成層における熱溶融性物質の好ましい配合量としては、画像形成層の全固形分量に対して1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。
【0026】
以下に一般式(1)で示される化合物について説明する。
【0027】
【化1】

【0028】
上記式中の、Xは−O−、または−CO−O−を示し、R〜Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1から10までの整数を示し、置換基R〜R、およびR〜Rは互いに結合して芳香環を形成していても良い。
【0029】
一般式(1)で示される化合物のうちでも、Xが−O−である化合物が好ましく、特にRおよびRが水素原子または炭素数1〜4のアルキル基で、R〜Rが水素原子であり、nが1〜4の整数である化合物が特に好ましく用いられる。
【0030】
一般式(1)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−(1−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(2)1−(2−ナフトキシ)−4−フェノキシブタン
(3)1−(2−イソプロピルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(4)1−(4−メチルフェノキシ)−3−(2−ナフトキシ)プロパン
(5)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(6)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(7)1−(2−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(8)1−(2−ナフトキシ)−6−フェノキシヘキサン
(9)1−フェノキシ−2−(2−フェニルフェノキシ)エタン
(10)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−フェニルフェノキシ)エタン
(11)1,4−ジフェノキシブタン
(12)1,4−ビス(4−メチルフェノキシ)ブタン
(13)1,2−ジ(3,4−ジメチルフェノキシ)エタン
(14)1−フェノキシ−3−(4−フェニルフェノキシ)プロパン
(15)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(16)1,2−ジフェノキシエタン
(17)1−(4−メチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(18)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(19)1−(3,4−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(20)1−(4−エチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(21)1−(4−イソプロピルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(22)1,2−ビス(2−メチルフェノキシ)エタン
(23)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(24)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−(2−メチルフェノキシ)エタン
(25)1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(26)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(27)1−(4−エチルフェノキシ)−2−(3−メチルフェノキシ)エタン
(28)1,2−ビス(4−メチルフェノキシ)エタン
(29)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(30)1−(2,5−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(31)フェノキシ酢酸−2−ナフチル
(32)2−ナフトキシ酢酸−4−メチルフェニル
(33)2−ナフトキシ酢酸−3−メチルフェニル
【0031】
次に一般式(2)で示される化合物について説明する。
【0032】
【化2】

【0033】
上記式中、Rはアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。また、式中のナフタレン環は更に置換基を有していても良く、好ましい置換基の例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基等が挙げられる。
【0034】
上記の一般式(2)においてRで表される置換基のうち炭素数4〜20のアルキル基、炭素数4〜24のアリール基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数7〜20のアリールカルボニル基がより好ましい。上記一般式(2)において、ナフタレン環が更に有しても良い置換基のうちハロゲン基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数2〜25のカルバモイル基がより好ましい。
【0035】
一般式(2)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−ベンジルオキシナフタレン
(2)2−ベンジルオキシナフタレン
(3)2−p−クロロベンジルオキシナフタレン
(4)2−p−イソプロピルベンジルオキシナフタレン
(5)2−ドデシルオキシナフタレン
(6)2−デカノイルオキシナフタレン
(7)2−ミリストイルオキシナフタレン
(8)2−p−tert−ブチルベンゾイルオキシナフタレン
(9)2−ベンゾイルオキシナフタレン
(10)2−ベンジルオキシ−3−N−(3−ドデシルオキシプロピル)カルバモイルナフタレン
(11)2−ベンジルオキシ−3−N−オクチルカルバモイルナフタレン
(12)2−ベンジルオキシ−3−ドデシルオキシカルボニルナフタレン
(13)2−ベンジルオキシ−3−p−tert−ブチルフェノキシカルボニルナフタレン
【0036】
次に一般式(3)で示される化合物について説明する。
【0037】
【化3】

【0038】
上記式中、R、Rは水素原子、ハロゲン基、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。Xは単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。
【0039】
一般式(3)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)シュウ酸ジベンジル
(2)シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)
(3)シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)
(4)シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)
(5)シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)
(6)シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)
(7)シュウ酸ビス(2−フェノキシエチル)
(8)シュウ酸ビス(2−o−クロロフェノキシエチル)
(9)シュウ酸ビス(2−p−クロロフェノキシエチル)
(10)シュウ酸ビス(2−p−エチルフェノキシエチル)
(11)シュウ酸ビス(2−m−メトキシフェノキシエチル)
(12)シュウ酸ビス(2−p−メトキシフェノキシエチル)
(13)シュウ酸ビス(4−フェノキシブチル)
【0040】
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)、シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)が挙げられる。
【0041】
以下に一般式(4)で示される化合物について説明する。
【0042】
【化4】

【0043】
上記式中、R10、R10′、R11およびR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。
【0044】
一般式(4)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1,2−ジフェノキシメチルベンゼン
(2)1,3−ジフェノキシメチルベンゼン
(3)1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(4)1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(5)1,3−ジ(4−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(6)1,3−ジ(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(7)1,3−ジ(2,6−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(8)1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(9)1,2−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(10)1,3−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(11)1,2−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(12)1,3−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(13)1,3−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
(14)1,4−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
【0045】
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、1,2−ジフェノキシメチルベンゼン、1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0046】
一般式(1)〜(4)で示される化合物の中でも優れた耐刷性が得られる点において、一般式(1)、(2)および(4)で示される化合物が好ましく、更には一般式(1)および(2)で示される化合物が好ましく、最も好ましい化合物は一般式(1)で示される化合物である。また上記熱溶融性物質これらは、それぞれを単独で使用しても良いし、組み合わせて使用することもできるが、耐刷性の観点からワックス類と一般式(1)〜(4)で示される化合物を併用して用いることが好ましい。
【0047】
上記一般式(1)〜(4)で示される化合物は常温で固体の物質であるが、熱による反応性を高めるために、微分散処理を行って使用することが好ましい。微分散処理の方法は、一般に塗料製造時に用いられる湿式分散法であるロールミル、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等のビーズミル等を使用することができる。ビーズミルでは、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のセラミックビーズや、クロム、スチール等の金属ビーズ、ガラスビーズ等が使用できる。分散粒径はメジアン径で0.1〜1.2μmが望ましく、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。なお、メジアン径とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)であり、粒度分布を評価するパラメータの一つとしてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA920((株)堀場製作所製)等を用いて測定することができる。
【0048】
本発明においては、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の、ゼラチンおよび多糖類に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率(一般式(1)〜(4)で示される化合物の質量/ゼラチンおよび多糖類の合計の質量)には好ましい範囲があり、0.5以下であることが好ましい。一方、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率(一般式(1)〜(4)で示される化合物の質量/水溶性高分子化合物の質量)においても好ましい範囲があり、1.0以上であることが好ましい。また本発明において耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の上記比率よりも高くすることが好ましく、更に該比率の差は、1.0以上であることが好ましい。このような範囲に調整することにより、耐刷性と耐汚れ性により優れた感熱型平版印刷版が得られる。
【0049】
<架橋剤>
本発明の耐水性支持体に近い画像形成層(A)、および耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)は、上記水溶性高分子化合物の種類に応じて硬膜剤(耐水化剤)を含有することが好ましい。硬膜剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等、水溶性高分子化合物の架橋を促すことによって耐水性を付与するものを用いることができるが、特に好ましい硬膜剤はゼラチンの場合ジビニルスルホンが、ポリビニルアルコールの場合グリオキザールが好ましく用いられる。硬膜剤の配合量は全画像形成層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量に対して、0.01〜30質量%とすることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。
【0050】
本発明の感熱型平版印刷版は、上記した画像形成層(A)、(B)以外に画像形成層(A)と画像形成層(B)の間、あるいは画像形成層(A)よりも更に耐水性支持体に近い位置に、別の画像形成層を有することができる。
【0051】
本発明の感熱型平版印刷版では、視認性確保のため一般的な感熱記録紙、感圧記録紙に使用されるフェノール誘導体や芳香族カルボン酸誘導体等の顕色剤や発色剤(電子供与性染料前駆体)を含有させることができる。
【0052】
<顕色剤>
顕色剤の具体的な例としては、4−クミルフェノール、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4,4′−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(4−ヒドロキシフェニルチオエトキシ)メタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス[α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1,3−ビス[α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィン、4−ヒドロキシ−4′−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシフェニル−4′−ベンジルオキシフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−3′,4′−テトラメチレンビフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシフェニル−p−トリルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、N,N′−ジ−m−クロロフェニルチオ尿素、N−(フェノキシエチル)−4−ヒドロキシフェニルスルホンアミド等のフェノール性化合物、4−[3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ]サリチル酸亜鉛、4−[2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ]サリチル酸亜鉛、5−[p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル]サリチル酸亜鉛、p−クロロ安息香酸亜鉛等の芳香族カルボン酸の亜鉛塩、更にはチオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体等の有機酸性物質等が例示される。
【0053】
<発色剤>
発色剤(電子供与性染料前駆体)の具体的な例としては、(1)トリアリールメタン系化合物として3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(クリスタル・バイオレット・ラクトン)、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−フェニルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−p−ジメチルアミノフェニル−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等:(2)ジフェニルメタン系化合物として、4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等:(3)キサンテン系化合物として、ローダミンB−アニリノラクタム、ローダミンB−p−ニトロアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタム、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−オクチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(3,4−ジクロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(2−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−フェニチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(4−ニトロアニリノ)フルオラン等:(4)チアジン系化合物として、ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等:(5)スピロ系化合物として、3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3′−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチルナフト−(3−メトキシ−ベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等が挙げられる。また、これらは単独でも2種以上を併用して用いても良い。
【0054】
<光熱変換物質>
更に、本発明では画像形成層に光熱変換物質を配合することもできる。光熱変換剤を用いることで、サーマルヘッドだけでなく赤外線レーザー等の活性光による書き込みも可能となる。光熱変換物質の例としては、効率よく光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合には、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えば、カーボンブラック、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物や、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等の金属化合物類等が挙げられる。
【0055】
<無機顔料>
従来、感熱記録紙では一般に二酸化珪素、酸化亜鉛、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の吸油性の高い無機顔料によって前記した熱溶融性物質を吸着させることで、サーマルヘッドとの結着を防止してスティッキング現象を改善し、画像描画上支障のないように処方される。しかしながら本発明の画像形成層に無機顔料を含有せしめた場合、耐刷性が低下する傾向にある。従って無機顔料は画像形成層の全固形分に対して10質量%未満とすることが好ましく、更に5質量%未満とすることが好ましい。
【0056】
その他、耐水性支持体に近い画像形成層(A)、および耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)は更に、防腐剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、pH調節剤などを添加することもできる。
【0057】
本発明の感熱型平版印刷版が有する画像形成層は、画像部の耐刷性、非画像部の耐水性および機械的強度の観点から、乾燥固形分として0.5〜30g/mであることが好ましい。また本発明において耐水性支持体に近い画像形成層(A)、および耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)を塗設する方法としては、画像形成層(A)を塗布し、次に画像形成層(B)を順次塗布して重ねていく方法や、スライドホッパー方式で多層を同時に塗布する方法等がある。
【0058】
本発明の感熱型平版印刷版は、耐水性支持体と画像形成層の間に二酸化チタンとバインダー樹脂、および架橋剤からなる下塗り層を設けることが好ましい。これにより画質や耐刷性を低下させることなく、印刷時の版圧変化に伴う汚れ、具体的には、印刷機のブランケットローラー上にできた僅かな起伏が原因で部分的な版圧変化が生じ、印刷紙面の極先端および尻端部に発現する印刷汚れを改善することが可能となる。
【0059】
<二酸化チタン>
下塗り層が含有する二酸化チタンは、ルチル型、アナタース型の何れでもよく、その製法についても硫酸法、塩素法何れかに限定されるものではない。それらを単独または混合して使用しても良い。更に、分散安定性や他の機能性の観点から、各種表面処理を施したものを選択的に用いることも可能である。表面処理組成としては、アルミナやシリカ、酸化亜鉛、ジルコニア等が一般的である。市販されている二酸化チタンとしては、例えば堺化学工業(株)からSR−1、R−650、R−5N、R−7E、R−3L、A−110、A−190等、石原産業(株)から、タイペークR−580、同R−930、同A−100、同A−220、同CR−58、チタン工業(株)から、クロノスKR−310、同KR−380、同KA−10、同KA−20等、テイカ(株)から、チタニックスJR−301、同JR−600A、同JR−800、同JR−701等、デュポン(株)から、タイピュアR−900、同R−931等が挙げられる。
【0060】
下塗り層に用いる二酸化チタンの平均粒子径は下塗り層の平均乾燥膜厚よりも小さくすることが好ましい。二酸化チタンは一般に一次粒子が幾つか凝集して二次粒子、三次粒子等の形で存在する。該二酸化チタンの平均粒子径は、例えば、ポリカルボン酸系や脂肪酸アミン系、スルホン酸アミド系、ε−カプロラクトン系、ハイドロステアリン酸系、ポリエステルアミン等の分散剤を加えた分散媒中に二酸化チタンを添加し、これをボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を使用して分散することで、適宜調整することが好ましい。二酸化チタンの層中に用いる好ましい平均粒子径としては0.1〜1.5μmであることが好ましく、特に0.3〜1.0μmであることが好ましい。なお本発明における平均粒子径は、レーザー散乱式の粒度分布計(例えば(株)堀場製作所製LA920)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。一方、下塗り層の平均乾燥膜厚は1.0〜3.0μmの範囲とすることが好ましく、更に1.0〜1.5μmの範囲とすることがより好ましい。
【0061】
下塗り層に用いられる二酸化チタンの含有量としては、広い範囲で設定することができるが、下塗り層が含有するバインダー樹脂の固形分量に対して200〜1000質量%で用いることが好ましく、より好ましくは400〜600質量%である。二酸化チタンの含有量が少ない場合には、隠蔽性が低下する場合があり、過剰に用いた場合においては、例えば塗液の安定性が低下したり、不規則な凝集等により嵩密度が増大して表面粗さが大きくなり画質が低下する場合がある。
【0062】
<バインダー樹脂>
下塗り層が含有するバインダー樹脂としては、例えば、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチン等のゼラチン、多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性ポリマーを用いることができるが、特にゼラチンを用いることが好ましい。
【0063】
<架橋剤>
下塗り層が含有する架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等が好適に用いることができるが、バインダー樹脂がゼラチンである場合に特に好ましい架橋剤はジビニルスルホンである。架橋剤の配合量は前記バインダーの固形分量に対して1〜30質量%が好ましく、更には2〜15質量%とすることが好ましい。
【0064】
本発明の感熱型平版印刷版は前述した耐水性支持体に近い画像形成層(A)、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)、および下塗り層以外に、導電性、帯電防止改善の機能を付加したり印刷版としてのカールを防止するカール防止層、所望のカールを付与するカール促進層等を設けてもよいが、支持体から最も離れた画像形成層(B)は最表層であることが好ましい。
【0065】
<耐水性支持体>
本発明の感熱型平版印刷版が有する耐水性支持体としては、プラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙等の耐水性支持体が好ましく使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミドおよびポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムとこれらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂等の湿潤紙力剤によって耐水化された紙を好適に用いることができる。
【0066】
次に、上述した本発明の感熱型平版印刷版を用いた製版方法について説明する。本発明の感熱型平版印刷版は、感熱型の画像形成層を有するため、画像形成層中に光熱変換物質を配合することにより例えば760nmから1200nmの赤外光を含む光を照射することで画像部を形成することが可能であり、更に赤外線を放射する固体レーザーおよび半導体レーザーにより画像部を形成することが好ましい。特にレーザー露光によれば、コンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。またサーマルヘッドやヒートブロック等により画像形成層を直接熱により描画し画像部を形成することも可能であるが、サーマルヘッドによればコンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。
【0067】
サーマルヘッドを使用する場合は、厚膜または薄膜のラインヘッドを用いたラインプリンタや薄膜のシリアルヘッドを用いたシリアルプリンタ等が使用できる。記録エネルギー密度は、10〜100mJ/mmであることが好ましく、また比較的高品質な出力画像を得るためにはヘッドの画像記録密度が300dpi以上であることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。なお、以下の記述の中における%や部は、特に記載がない限り質量比を示すものである。
【0069】
(実施例1)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン樹脂被覆紙の片面に、下記組成の下塗り層塗工液と、画像形成層(A1)および画像形成層(B1)の塗工液をスライドホッパーコーティング法により、湿分塗布量で下塗り層塗工液を15g/m、画像形成層(A1)塗工液を30g/m、画像形成層(B1)塗工液を10g/mになるように、支持体側から順に下塗り層、画像形成層A1、画像形成層B1(最上層)となるように3重層同時塗布を行った。
【0070】
<下塗り層塗工液>
ゼラチン 0.8部
アクリル酸共重合金属塩(分散剤、10%溶液) 0.2部
二酸化チタン:TISR1 4.0部
(堺化学(株)製、ルチル型、アルミナ処理)
界面活性剤(0.5%溶液) 0.05部
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 2.0部
水で全量を15部とした。
【0071】
<画像形成層(A1)塗工液>
ゼラチン 0.8部
ポリビニルアルコール 0.07部
カルボキシル化SBR樹脂:ラックスター7132C 3.0部
(DIC(株)製、固形分45%水分散体、アニオン性、Tg:60℃)
顕色剤混合スラリー 8.0部
発色剤スラリー 0.7部
界面活性剤(0.5%溶液) 0.4部
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 2.0部
水で全量を30部とした。
【0072】
<画像形成層(B1)塗工液>
ゼラチン 0.4部
プルラン((株)林原商事製) 0.005部
カルボキシル化SBR樹脂:ラックスター7132C 0.6部
(DIC(株)製、固形分45%水分散体、アニオン性、Tg:60℃)
発色剤スラリー 0.3部
界面活性剤(0.5%溶液) 0.2部
モンタン酸エステルワックスエマルジョン 0.3部
(熱溶融性樹脂:n−オクタコサン酸(炭素数28)、固形分30%)
ジビニルスルホン硬膜剤(5%溶液) 1.0部
水で全量を10部とした。
【0073】
上記下塗り層塗工液は、分散剤が添加された水中に二酸化チタンを加えてホモミキサーを用いて30分間の高速微分散処理を施し、その後、ゼラチン、界面活性剤、およびジビニルスルホン硬膜剤を順次混ぜ合わせることで調製した。なおこの下塗り層塗工液の一部を採取、希釈してレーザー散乱式の粒度分布計((株)堀場製作所製LA920)を用いて二酸化チタンの平均粒子径を測定したところ、0.7μmであった。
【0074】
上記画像形成層(A1)塗工液に用いている顕色剤混合スラリーは、下記調製方法で予め製造したものを使用した。
<顕色剤混合スラリーの調製>
材料a:1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(三光(株)製:KS−232)
材料b:4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン
(日本曹達(株)製:D−8)
【0075】
上記の材料a、材料bを1部ずつ攪拌機で混合後、小型ダイノーミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて任意の粒径まで微分散処理を施し、固形分濃度約35%に調製することで顕色剤混合スラリーを得た。
【0076】
上記画像形成層(A1)塗工液および画像形成層(B1)塗工液に用いている発色剤スラリーは、下記調製方法で予め製造したものを使用した。
<発色剤スラリーの調製>
材料c:3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン
(山本化成(株)製:ODB2)
【0077】
上記の材料cを小型ダイノーミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて任意の粒径まで微分散処理を施し、固形分濃度約30%に調製することで発色剤スラリーを得た。
【0078】
上記湿分塗布量にて3重層同時塗布を行った後、直ちに3℃の冷風にて塗膜をゲル化させ、その後30℃の温風にて乾燥を行った。乾燥後、温度40℃/湿度40%に調整された恒温恒湿器を用いて7日間の加温を行うことにより、実施例1の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察し、任意の10カ所の平均値から下塗り層の平均乾燥膜厚を求めたところ1.5μmであった。
【0079】
上記のように作製した感熱型平版印刷版を、CTP用サーマルデジタルプリンター(三菱製紙(株)製Thermal Digiplater TDP−459:1200dpi/120lpi)を用いて画像出力(記録エネルギー密度70〜100mJ/mm、電気容量330W)を行い印刷刷版を作製した。この印刷刷版を以下の方法にて評価した。
【0080】
<汚れ回復性評価>
印刷機として、オフセット枚葉印刷機ハイデルベルグ社製QM46を使用し、印刷インキはDIC(株)製FusionG墨Nを使用し、給湿液は(株)日研化学研究所製アストロマークIIIを1.5%に希釈して使用し、エッチング液は給湿液を使用した。汚れ回復性評価として、300枚印刷し印刷機を15分間停止、リスタート後印刷紙面からインキが除去するまでの枚数を評価した。この結果を表1に示す。
【0081】
<ブランパイリング評価>
印刷機として、オフセット枚葉印刷機リョービ(株)製RYOBI660を使用し、印刷インキはDIC(株)製FusionG墨Nを使用し、給湿液は(株)日研化学研究所製アストロマークIIIを0.5%に希釈して使用し、エッチング液は三菱製紙(株)製SLM−OD30を25%に希釈して使用した。ブランパイリング評価として、2500枚印刷後のブランケットの汚れ具合を評価した。この結果を表1に示す。
○:ブランケットがインキによって汚れていない。
△:やや汚れているが実用上問題ないレベル。
×:ブランケットがインキによって汚れている。
【0082】
<耐刷性評価>
印刷機として、オフセット枚葉印刷機ハイデルベルグ社製QM46を使用し、印刷インキはDIC(株)製FusionG墨Nを使用し、給湿液は三菱製紙(株)製SLM−ODを10%に希釈して使用し、エッチング液は給湿液を使用した。耐刷性評価として5000枚印刷時の印刷紙面における50%網点を20倍ルーペで観察し、以下の評価基準を用いて判定した。この結果を表1に示す。
○:50%網点の模様が欠落なく再現されている。
△:50%網点の模様がやや欠落しているが実用上問題ないレベル。
×:50%網点の模様が大半欠落し再現されていない。
【0083】
(実施例2)
実施例1の画像形成層(B1)塗工液に用いるプルランの量を0.005部から0.015部に変更した画像形成層(B2)塗工液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0084】
(実施例3)
実施例1の画像形成層(B1)塗工液に用いるプルランの量を0.005部から0.03部に変更した画像形成層(B3)塗工液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例3の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0085】
(実施例4)
実施例1の画像形成層(B1)塗工液に用いるプルランの量を0.005部から0.06部に変更した画像形成層(B4)塗工液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例4の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0086】
(実施例5)
実施例1の画像形成層(B1)塗工液に用いるプルランの量を0.005部から0.1部に変更した画像形成層(B5)塗工液を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例5の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0087】
(実施例6)
実施例3で用いた画像形成層(B3)塗工液が含有するプルランに代えて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製メトローズ65SH)を用いた画像形成層(B6)塗工液を用いる以外は実施例3と同様にして、実施例6の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0088】
(比較例1)
実施例3で用いた画像形成層(B3)塗工液が含有するゼラチンに代えて、ポリアクリル酸ナトリウム((株)日本触媒製アクアリックDL522)を用いた画像形成層(B7)塗工液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較例1の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0089】
(比較例2)
実施例3で用いた画像形成層(B3)塗工液が含有するゼラチンに代えて、ポリエチレングリコール(分子量7500)を用いた画像形成層(B8)塗工液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較例2の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0090】
(比較例3)
実施例3で用いた画像形成層(B3)塗工液が含有するゼラチンに代えて、ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−235)を用いた画像形成層(B9)塗工液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較例3の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0091】
(比較例4)
実施例3で用いた画像形成層(B3)塗工液においてプルランを用いず、ゼラチンの使用量を0.43部に変更した画像形成層(B10)塗工液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較例4の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0092】
(比較例5)
実施例3で用いた画像形成層(B3)塗工液においてゼラチンを用いず、プルランの使用量を0.43部に変更した画像形成層(B11)塗工液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較例5の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価した。この結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示す結果から判るように、本発明によって耐刷性を保持しながら、汚れ回復性、ブランパイリングが改善された感熱型平版印刷版が得られることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性支持体上に熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)がゼラチンおよび多糖類を含有することを特徴とする感熱型平版印刷版。