説明

感熱型平版印刷版

【課題】アブレーション方式や機上現像方式等における所謂デブリ処理を一切必要とせず、耐刷性と耐汚れ性がバランスよく向上した感熱型平版印刷版を提供する。
【解決手段】支持体上の片面に少なくとも熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、支持体から遠い側の画像形成層(B)が酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムを含有することを特徴とする感熱型平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型印刷版に関し、従来のアブレーション方式や機上現像方式等における層除去処理等、所謂デブリ処理を必要としない感熱型平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューターおよびその周辺機器の発展により各種デジタルプリンタを用いた平版印刷版の製版方法が各種提案されている。例えば、特開平6−138719号公報、特開平6−250424号公報には、乾式電子写真法レーザープリンタにより製版するもの、特開平9−58144号公報には、熱溶融型インクを用いたオンデマンドインクジェットプリンタにより製版するもの、さらに、特開昭63−166590号公報には熱転写インクリボンを用いるサーマルプリンタにより製版するもの等が知られている。
【0003】
上記のようなプリンタを用いた製版方法は、従来の可視光レーザー等を用いた光モードタイプとは大別され、取り扱い上において安全光の制約を受けないことから、この点で大きな利点を持つ。また従来の光モードタイプにおいて通常用いられる露光後の現像処理を全く必要としない点から、これらの製版方式で製版された印刷版はプロセスレス印刷版と総称されている。
【0004】
しかし上記プロセスレス印刷版は、いずれも保水性付与層が設けられた支持体表面に、感脂性(即ち、平版印刷インク着肉性)の記録画像を転写付与することにより印刷版を形成する方式であったため、次のような問題点があった。
【0005】
1)画像を形成する層が親水性であるためトナーやインク等の付着が十分ではなく、例えば転写トナー画像濃度が不足したり、転写画像に白抜けが発生するような問題。
2)転写画像の定着が十分ではなく、耐刷性が低下し、特に小ポイント文字の一部や低網点画像に欠落が生じるような問題。
3)非画像部に少量のトナーが不規則に転写されたり、熱転写インクリボンが擦れること等によって、全体的に薄い地汚れが発生する等の問題。
【0006】
一方、支持体上に熱可塑性樹脂あるいは熱溶融性粒子を含有する画像形成層を設けて、サーマルヘッドや赤外線レーザー等により加熱印字することで親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版等も提案されている。
【0007】
例えば、特開昭58−199153号公報(特許文献1)、あるいは特開昭59−174395号公報(特許文献2)には、画像形成層に熱転写リボン等を介さずサーマルヘッド等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。特開2000−190649号公報(特許文献3)、特開2000−301846号公報(特許文献4)には、赤外線レーザー等で直接加熱描画することにより親油性の画像部が得られる感熱型平版印刷版も記載されている。これらはいずれも相変換型印刷版であり、元々親水性であった部分が相変換を起こし、疎水性(親油性)に変化するものである。通常の平版印刷では、上記のように得られた親油性の画像部に、水とインキの両方が同時に供給され、該画像部が着色性のインキを受理、他の非画像部は親水性のために水を選択的に受け入れ、インキを受理しない。該画像部上に受理したインキを、例えば、紙等の被印刷体に転写させることによって印刷がなされるようになる。
【0008】
しかしながら、上記した相変換を利用した感熱型平版印刷版は、画像形成層の加熱部分を画像部、非加熱部分を非画像部として利用するため、画像形成層自身が画像部と非画像部を兼ねている。このため同じ相変換を利用する感熱型平版印刷版であっても、従来のアブレーション方式や機上現像方式等の所謂デブリ処理により画像部と非画像部を形成する印刷版(水や湿し水等で現像処理することで非加熱の画像形成層を除去し、画像形成層と支持体の間に設けられた親水性層を露出させる感熱型平版印刷版)とは異なり、非画像部であっても熱可塑性樹脂や熱溶融性物質を含有する。即ち、上記デブリ処理が一切行われないことから、加熱部であっても、非加熱部分であっても、塗設された塗膜はそのまま印刷に利用されることになる。このため、加熱部の感脂性(親油性)を上げると、一方で親水性が犠牲になるという相反する傾向を持ち合わせており、耐刷性と耐汚れ性をバランスよく向上させることは極めて困難であった。
【0009】
感熱型平版印刷版の感熱層に無機顔料を用いることは従来から知られており、例えば前述の特許文献1〜3に加え、特公昭43−5845号公報(特許文献5)特公昭47−14282号公報(特許文献6)、特開昭63−116891号公報(特許文献7)、特開平01−295894号公報(特許文献8)等に記載される。これら先行技術において無機顔料は非画像部の親水性を高めて耐汚れ性を向上させたり、あるいは塗膜の膜強度を向上させる目的で利用される。しかしこれらに記載される方法では、耐刷性と耐汚れ性を同時に満足できる感熱型平版印刷版は得られなかった。
【0010】
一方、特開平05−200966号公報(特許文献9)には、支持体上に第一感熱層と第二感熱層をこの順に設け、第二感熱層が無機顔料を含有し、第一感熱層が無機顔料を含有しない感熱型平版印刷版が記載される。しかし該第一感熱層と第二感熱層は、いずれか一方が親インキ性樹脂層、いずれか一方が撥インキ樹脂層であり、該感熱型平版印刷版は第2感熱層の熱印字された箇所を剥離除去する、所謂デブリ処理により画像部と非画像部を形成する印刷版である。また印刷機上にて非画像部を除去する機上現像型の感熱型平版印刷版においても、例えば特開2005−28774号公報(特許文献10)、特開2005−309417号公報(特許文献11)で、画像形成層中にフィラーとして無機顔料の例示があるが、主として無機フィラーは現像性に寄与する目的において利用されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−199153号公報
【特許文献2】特開昭59−174395号公報
【特許文献3】特開2000−190649号公報
【特許文献4】特開2000−301846号公報
【特許文献5】特公昭43−5845号公報
【特許文献6】特公昭47−14282号公報
【特許文献7】特開昭63−116891号公報
【特許文献8】特開平01−295894号公報
【特許文献9】特開平05−200966号公報
【特許文献10】特開2005−28774号公報
【特許文献11】特開2005−309417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、アブレーション方式や機上現像方式等における所謂デブリ処理を一切必要とせず、耐刷性と耐汚れ性がバランスよく向上した感熱型平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は下記の手段によって解決された。
(1)支持体上の片面に少なくとも熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、支持体から遠い側の画像形成層(B)が酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムを含有することを特徴とする感熱型平版印刷版。
(2)上記酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムの含有量が、該画像形成層(B)が含有する熱可塑性樹脂量に対して8〜26質量%である上記(1)記載の感熱型平版印刷版。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、アブレーション方式や機上現像方式等における所謂デブリ処理を一切必要とせず、耐刷性と耐汚れ性がバランスよく向上した感熱型平版印刷版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の感熱型平版印刷版は、熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を有する。画像形成層はサーマルヘッドや赤外線レーザーで加熱描画すると、熱が加わった部位では水溶性高分子化合物に埋もれている熱可塑性樹脂、熱溶融性物質が溶融し層の極表面に一部滲み出る形で溶出変換し疎水性を発現し、印刷時にインキを受理することが可能となる。熱が与えられなかった部位の熱可塑性樹脂や熱溶融性物質は水溶性高分子化合物に埋もれたままで、画像形成層が元々有する親水性を維持する。
【0016】
本発明においては、熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を2層隣接して設ける。一方の支持体に近い側の画像形成層が画像形成層(A)であり、もう一方が支持体から遠い側の画像形成層(B)である。そして本発明の感熱型平版印刷版は、支持体から遠い側の画像形成層(B)に酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムを含有させるものである。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
<酸化亜鉛>
酸化亜鉛はその製法から乾式法と湿式法に大別され、乾式法には、フランス法とアメリカ法があり、湿式法ではドイツ法等がよく知られている。フランス法は、高純度金属亜鉛を加熱し、発生する亜鉛蒸気を酸化雰囲気中で燃焼させて酸化亜鉛を生成する方法で、一方のアメリカ法は、亜鉛鉱石(フランクナイト)にコークス等の還元剤を加えてばい焼し、発生する亜鉛蒸気を空気酸化して生成する方法である。また、湿式法は、亜鉛塩、例えば炭酸亜鉛等を熱分解する方法、亜鉛塩のアルカリ溶液を酸で中和しながら直接液中に酸化亜鉛を沈澱させる方法、亜鉛塩の酸性溶液を、アルカリ中で中和しながら直接液中に沈澱させる方法がある。一般的には、亜鉛塩の酸性溶液(硫酸亜鉛液または塩化亜鉛液)と、ソーダ灰等のアルカリと反応させ、水洗−ろ過−乾燥後、焼成、粉砕して製造される。これらの方法で製造される酸化亜鉛については、例えば、正同化学(株)、堺化学(株)、ハクスイテック(株)、本荘ケミカル(株)、東邦亜鉛(株)等の各社から市販されているものが挙げられ、いずれについても本発明で使用することができる。
【0018】
<硫酸バリウム>
硫酸バリウムは、重晶石を粉砕して脱鉄洗浄、水ひして得られるひ性硫酸バリウム(バライト粉)と、バリウム塩素溶液に硫酸塩水溶液を加えて化学的に沈澱させて製造される沈降性硫酸バリウムとがある。これらの方法で製造される硫酸バリウムについては、例えば、堺化学(株)、竹原化学工業(株)、ハクスイテック(株)等から市販されているもの等が挙げられるが、いずれについても本発明で使用することができる。さらに、硫酸バリウムについては、粒子形成後に後処理として有機高分子処理が施されていてもよく、Al、SiおよびZr等の金属元素いずれかの水酸化物や酸化物であったり、Mg、Ca、SrおよびBa等の金属元素いずれかのリン酸塩等によって表面処理が施されていてもよい。
【0019】
本発明において支持体から遠い側の画像形成層(B)は最表層(最外層)であることが好ましく、これにより耐刷性と耐汚れ性をより高いレベルで両立させることができる。この場合、酸化亜鉛あるいは硫酸バリウムの平均粒径が大きすぎた場合、画像形成層(B)にサーマルヘッドにて直接接触させて印字した際に、接触面積が減少するおそれがある。接触面積の減少は、熱効率の低下招き耐刷性を低下させたりする場合がある。一方、酸化亜鉛あるいは硫酸バリウムの平均粒径が小さすぎる場合、耐刷性や耐汚れ性において効果が小さくなるのは勿論ではあるが、酸化亜鉛あるいは硫酸バリウムの粒径如何によって、過度に接触面積が拡大するような場合においては、剥離性が低下する等して、スティッキング耐性を低下させる場合がある。このことから本発明に用いる酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムの平均粒径は、0.1〜1.0μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5μmである。
【0020】
本発明で用いる酸化亜鉛あるいは硫酸バリウムの形状については、不定形のものが好ましく、板状、柱状、粒状いずれかであってもよい。
【0021】
また画像形成層(B)が含有する酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムの含有量には好ましい範囲が存在し、画像形成層(B)が含有する熱可塑性樹脂量に対して8〜26質量%であることが好ましい。これにより耐刷性と耐汚れ性をより高いレベルで両立させることができる。また、画像形成層(A)および画像形成層(B)に含まれる熱可塑性樹脂の総量に対しては5質量%以下の範囲を超えないように用いることが望ましい。
【0022】
<水溶性高分子化合物>
本発明の画像形成層(A)、および画像形成層(B)に含有する水溶性高分子化合物としては、例えばゼラチン、ゼラチン誘導体等の蛋白質またはセルロース誘導体、澱粉、アラビアゴム、デキストラン、プルラン等の多糖類のような天然化合物とポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、スチレン・マレイン酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩、アクリルアミド重合体等の合成高分子化合物等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独使用でも2種類以上を併用してもよいが、画像形成層(A)では、ゼラチンとポリビニルアルコールを併用して用いることが好ましく、一方、画像形成層(B)にはゼラチンおよび多糖類を併用することが特に好ましい。
【0023】
また、上記のように水溶性高分子を併用する場合には、それぞれに最適な使用比率が存在する。最適な使用比率としては、画像形成層(A)においては、ゼラチンとポリビニルアルコールを、ゼラチン100質量%に対してポリビニルアルコールを1〜10質量%の範囲で用いることが好ましい。一方、画像形成層(B)においては、ゼラチン100質量%に対して多糖類を2〜20質量%の範囲で用いることが好ましい。画像形成層(A)、および画像形成層(B)で使用する水溶性高分子化合物の総量としては、画像形成層の全固形分量に対して0.5〜50質量%にすることが好ましい。
【0024】
<熱可塑性樹脂>
本発明の画像形成層(A)、および画像形成層(B)に含有する熱可塑性樹脂としては、鎖状ポリマーからなり加熱によって可塑性を示す固体状の有機高分子化合物であって、有機高分子化合物の水分散体を指す。代表例はスチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体、スチレンメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた合成ゴムラテックスが好ましく用いられるが、スチレン無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル/アクリル酸エステル共重合体、および低融点ポリアミド樹脂等の水分散体も使用可能である。これら熱可塑性樹脂は単独もしくは2種以上を併用して用いることもできる。印刷インクのビヒクル(バインダー成分)との親和性から、かかる熱可塑性樹脂としては合成ゴムラテックスが好ましく、特にスチレンブタジエン共重合体とその変性物が望ましい。好ましい熱可塑性樹脂の配合量としては、全ての画像形成層の固形分量に対して5〜50質量%とすることが好ましい。
【0025】
熱による溶融、融着効果を発現し易くするためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50〜150℃、さらに好ましくは55〜120℃のものを使用するのが好ましい。ガラス転移温度が50℃未満では製造工程中に液状に相変化を起こし、非画像部にも疎水性が発現するため印刷地汚れの原因となる場合がある。また150℃を超える場合はポリマーの熱溶融が起こりにくく、比較的小出力のレーザーや小型サーマルプリンタでは強固な画像を形成するのが困難となる場合がある。
【0026】
本発明の画像形成層(A)における水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の含有比率(熱可塑性樹脂の質量/水溶性高分子化合物の合計の質量)は、0.1〜50であることが好ましく、さらに好ましくは1〜20である。画像形成層(B)における水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の含有比率(熱可塑性樹脂の質量/水溶性高分子化合物の合計の質量)は、0.01〜10であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜3である。また画像形成層(A)における水溶性高分子化合物に対する熱可塑性樹脂の含有比率が、画像形成層(B)におけるその含有比率よりも高くすることが好ましい。さらに、画像形成層(A)における含有比率と画像形成層(B)におけるその含有比率との差が0.5以上であればより好ましい。このような範囲に調整することにより、耐刷性と耐汚れ性により優れた感熱型平版印刷版が得られる。
【0027】
<熱溶融性物質>
本発明の画像形成層(A)、および画像形成層(B)に含有する熱溶融性物質としては、下記一般式(1)〜(4)で示される化合物の中から選ばれた少なくとも1種、およびカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等のワックス類、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の脂肪酸、およびそのエステル、アミド類等のワックス類をその目的に応じて用いることが好ましい。これらは、融点が50〜150℃の有機化合物が好ましく用いられる。融点が50℃未満では製造工程中に溶融してしまい、印刷物の地汚れの原因となる場合がある。一方、150℃を超えるとサーマルヘッド等の熱印加で溶融しにくく、画像トビの発生、親油性等の発現が乏しくなる場合がある。画像形成層における熱溶融性物質の好ましい配合量としては、画像形成層の全固形分量に対して1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%である。
【0028】
以下に一般式(1)で示される化合物について説明する。
【0029】
【化1】

【0030】
上記式中の、Xは−O−、または−CO−O−を示し、R〜Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1から10までの整数を示し、置換基R〜R、およびR〜Rは互いに結合して芳香環を形成していてもよい。
【0031】
一般式(1)で示される化合物のうちでも、Xが−O−である化合物が好ましく、特にRおよびRが水素原子または炭素数1〜4のアルキル基で、R〜Rが水素原子であり、nが1〜4の整数である化合物が特に好ましく用いられる。
【0032】
一般式(1)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−(1−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(2)1−(2−ナフトキシ)−4−フェノキシブタン
(3)1−(2−イソプロピルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(4)1−(4−メチルフェノキシ)−3−(2−ナフトキシ)プロパン
(5)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(6)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(7)1−(2−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(8)1−(2−ナフトキシ)−6−フェノキシヘキサン
(9)1−フェノキシ−2−(2−フェニルフェノキシ)エタン
(10)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−フェニルフェノキシ)エタン
(11)1,4−ジフェノキシブタン
(12)1,4−ビス(4−メチルフェノキシ)ブタン
(13)1,2−ジ(3,4−ジメチルフェノキシ)エタン
(14)1−フェノキシ−3−(4−フェニルフェノキシ)プロパン
(15)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(16)1,2−ジフェノキシエタン
(17)1−(4−メチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(18)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(19)1−(3,4−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(20)1−(4−エチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(21)1−(4−イソプロピルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(22)1,2−ビス(2−メチルフェノキシ)エタン
(23)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(24)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−(2−メチルフェノキシ)エタン
(25)1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(26)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(27)1−(4−エチルフェノキシ)−2−(3−メチルフェノキシ)エタン
(28)1,2−ビス(4−メチルフェノキシ)エタン
(29)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(30)1−(2,5−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(31)フェノキシ酢酸−2−ナフチル
(32)2−ナフトキシ酢酸−4−メチルフェニル
(33)2−ナフトキシ酢酸−3−メチルフェニル
【0033】
次に一般式(2)で示される化合物について説明する。
【0034】
【化2】

【0035】
上記式中、Rはアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。また、式中のナフタレン環はさらに置換基を有していてもよく、好ましい置換基の例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基等が挙げられる。
【0036】
上記の一般式(2)においてRで表わされる置換基のうち炭素数4〜20のアルキル基、炭素数4〜24のアリール基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数7〜20のアリールカルボニル基がより好ましい。上記一般式(2)において、ナフタレン環がさらに有してもよい置換基のうちハロゲン基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数2〜25のカルバモイル基がより好ましい。
【0037】
一般式(2)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−ベンジルオキシナフタレン
(2)2−ベンジルオキシナフタレン
(3)2−p−クロロベンジルオキシナフタレン
(4)2−p−イソプロピルベンジルオキシナフタレン
(5)2−ドデシルオキシナフタレン
(6)2−デカノイルオキシナフタレン
(7)2−ミリストイルオキシナフタレン
(8)2−p−tert−ブチルベンゾイルオキシナフタレン
(9)2−ベンゾイルオキシナフタレン
(10)2−ベンジルオキシ−3−N−(3−ドデシルオキシプロピル)カルバモイルナフタレン
(11)2−ベンジルオキシ−3−N−オクチルカルバモイルナフタレン
(12)2−ベンジルオキシ−3−ドデシルオキシカルボニルナフタレン
(13)2−ベンジルオキシ−3−p−tert−ブチルフェノキシカルボニルナフタレン
【0038】
次に一般式(3)で示される化合物について説明する。
【0039】
【化3】

【0040】
上記式中、R、Rは水素原子、ハロゲン基、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。Xは単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。
【0041】
一般式(3)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)シュウ酸ビスベンジル
(2)シュウ酸ビス(p−メチルベンジル)
(3)シュウ酸ビス(p−クロロベンジル)
(4)シュウ酸ビス(m−メチルベンジル)
(5)シュウ酸ビス(p−エチルベンジル)
(6)シュウ酸ビス(p−メトキシベンジル)
(7)シュウ酸ビス(2−フェノキシエチル)
(8)シュウ酸ビス(2−o−クロロフェノキシエチル)
(9)シュウ酸ビス(2−p−クロロフェノキシエチル)
(10)シュウ酸ビス(2−p−エチルフェノキシエチル)
(11)シュウ酸ビス(2−m−メトキシフェノキシエチル)
(12)シュウ酸ビス(2−p−メトキシフェノキシエチル)
(13)シュウ酸ビス(4−フェノキシブチル)
【0042】
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、シュウ酸ビスベンジル、シュウ酸ビス(p−メチルベンジル)、シュウ酸ビス(p−クロロベンジル)、シュウ酸ビス(m−メチルベンジル)、シュウ酸ビス(p−エチルベンジル)、シュウ酸ビス(p−メトキシベンジル)が挙げられる。
【0043】
以下に一般式(4)で示される化合物について説明する。
【0044】
【化4】

【0045】
上記式中、R10、R10′、R11およびR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。
【0046】
一般式(4)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1,2−ビスフェノキシメチルベンゼン
(2)1,3−ビスフェノキシメチルベンゼン
(3)1,4−ビス(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(4)1,4−ビス(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(5)1,3−ビス(4−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(6)1,3−ビス(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(7)1,3−ビス(2,6−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(8)1,4−ビス(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(9)1,2−ビス(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(10)1,3−ビス(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(11)1,2−ビス(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(12)1,3−ビス(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(13)1,3−ビス(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
(14)1,4−ビス(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
【0047】
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、1,2−ビスフェノキシメチルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0048】
一般式(1)〜(4)で示される化合物の中でも優れた耐刷性が得られる点において、一般式(1)、(2)および(4)で示される化合物が好ましく、さらには一般式(1)および(2)で示される化合物が好ましく、最も好ましい化合物は一般式(1)で示される化合物である。また上記熱溶融性物質については、それぞれを単独で使用してもよいし、組み合わせて使用することもできるが、本発明では、一般式(1)〜(4)で示される化合物とワックス類をそれぞれ少なくとも1種組み合わせて用いる。
【0049】
上記一般式(1)〜(4)で示される化合物は常温で固体の物質であるが、熱による反応性を高めるために、微分散処理を行って使用することが好ましい。微分散処理の方法は、一般に塗料製造時に用いられる湿式分散法であるロールミル、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等のビーズミル等を使用することができる。ビーズミルでは、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のセラミックビーズや、クロム、スチール等の金属ビーズ、ガラスビーズ等が使用できる。分散粒径はメジアン径で0.1〜1.2μmが望ましく、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。なお、メジアン径とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)であり、粒度分布を評価するパラメータの一つとしてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA920((株)堀場製作所製)等を用いて測定することができる。
【0050】
本発明においては、画像形成層(A)における水溶性高分子化合物に対する熱溶融性物質の含有比率(熱溶融性物質の質量/水溶性高分子化合物の質量)に関しては好ましい範囲があり、1.0以上であることが好ましい。一方、画像形成層(B)における水溶性高分子化合物に対する熱溶融性物質の含有比率(熱溶融性物質の質量/水溶性高分子化合物の質量)に関しても好ましい範囲があり、0〜0.5であることが好ましい。また本発明において、画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する熱溶融性物質の含有比率は、画像形成層(B)におけるその含有比率よりも高くすることが好ましく、さらに該比率の差は、1.0以上であることがより好ましい。このような範囲に調整することにより、耐刷性と耐汚れ性により優れた感熱型平版印刷版が得られる。
【0051】
<架橋剤>
本発明の画像形成層(A)、および画像形成層(B)は、上記水溶性高分子化合物の種類に応じて硬膜剤(耐水化剤)を含有することが好ましい。硬膜剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等、水溶性高分子化合物の架橋を促すことによって耐水性を付与するものを用いることができるが、特に好ましくは、ジビニルスルホンを用いる。硬膜剤の配合量は全画像形成層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量に対して、0.01〜30質量%で用いることが好ましく、より好ましい使用量としては、5〜30質量%の範囲である。
【0052】
本発明の感熱型平版印刷版では、視認性確保のため一般的な感熱記録紙、感圧記録紙に使用されるフェノール誘導体や芳香族カルボン酸誘導体等の顕色剤や発色剤(電子供与性染料前駆体)を含有させることができる。
【0053】
<顕色剤>
顕色剤の具体的な例としては、4−クミルフェノール、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4,4′−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(4−ヒドロキシフェニルチオエトキシ)メタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス[α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1,3−ビス[α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィン、4−ヒドロキシ−4′−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシフェニル−4′−ベンジルオキシフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−3′,4′−テトラメチレンビフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシフェニル−p−トリルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、N,N′−ジ−m−クロロフェニルチオ尿素、N−(フェノキシエチル)−4−ヒドロキシフェニルスルホンアミド等のフェノール性化合物、4−[3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ]サリチル酸亜鉛、4−[2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ]サリチル酸亜鉛、5−[p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル]サリチル酸亜鉛、p−クロロ安息香酸亜鉛等の芳香族カルボン酸の亜鉛塩、さらにはチオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体等の有機酸性物質等が例示される。
【0054】
<発色剤>
発色剤(電子供与性染料前駆体)の具体的な例としては、(1)トリアリールメタン系化合物として3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(クリスタル・バイオレット・ラクトン)、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−フェニルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−p−ジメチルアミノフェニル−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等:(2)ジフェニルメタン系化合物として、4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等:(3)キサンテン系化合物として、ローダミンB−アニリノラクタム、ローダミンB−p−ニトロアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタム、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−オクチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(3,4−ジクロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(2−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−フェニチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(4−ニトロアニリノ)フルオラン等:(4)チアジン系化合物として、ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等:(5)スピロ系化合物として、3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3′−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチルナフト−(3−メトキシ−ベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等が挙げられる。また、これらは単独でも2種以上を併用して用いてもよい。
【0055】
<光熱変換物質>
さらに、本発明では画像形成層に光熱変換物質を配合することもできる。光熱変換剤を用いることで、サーマルヘッドだけでなく赤外線レーザー等の活性光による書き込みも可能となる。光熱変換物質の例としては、効率よく光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合には、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えば、カーボンブラック、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物や、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等の金属化合物類等が挙げられる。
【0056】
その他に、本発明の画像形成層(A)および画像形成層(B)には、防腐剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、pH調節剤、その他の塗布助剤等も必要に応じて添加することができる。
【0057】
本発明の感熱型平版印刷版が有する画像形成層は、画像部の耐刷性、非画像部の耐水性および機械的強度の観点から、乾燥固形分として0.5〜30g/mであることが好ましい。また本発明における画像形成層(A)、および画像形成層(B)を塗設する方法としては、支持体に近い側の画像形成層(A)を塗布し、次に画像形成層(B)を順次塗布して重ねていく方法や、スライドホッパー方式で多層を同時に塗布する方法等があり、どちらの方法でもよい。
【0058】
本発明の感熱型平版印刷版は、支持体と画像形成層の間に二酸化チタンとバインダー樹脂、および架橋剤からなる下塗り層を設けることが好ましい。これにより画質や耐刷性を低下させることなく、印刷時の版圧変化に伴う汚れ、具体的には、印刷機のブランケットローラー上にできた僅かな起伏が原因で部分的な版圧変化が生じ、印刷紙面の極先端および尻端部に発現する印刷汚れを改善することが可能となる。
【0059】
<二酸化チタン>
下塗り層が含有する二酸化チタンは、ルチル型、アナタース型のいずれでもよく、その製法についても硫酸法、塩素法いずれかに限定されるものではない。それらを単独または混合して使用してもよい。さらに、分散安定性や他の機能性の観点から、各種表面処理を施したものを選択的に用いることも可能である。表面処理組成としては、アルミナやシリカ、酸化亜鉛、ジルコニア等が一般的である。市販されている二酸化チタンとしては、例えば堺化学工業(株)からSR−1、R−650、R−5N、R−7E、R−3L、A−110、A−190等、石原産業(株)からタイペークR−580、同R−930、同A−100、同A−220、同CR−58、チタン工業(株)からクロノスKR−310、同KR−380、同KA−10、同KA−20等、テイカ(株)からチタニックスJR−301、同JR−600A、同JR−800、同JR−701等、デュポン(株)からタイピュアR−900、同R−931等が挙げられる。
【0060】
下塗り層に用いる二酸化チタンの平均粒子径は下塗り層の平均乾燥膜厚よりも小さくすることが好ましい。二酸化チタンは一般に一次粒子が幾つか凝集して二次粒子、三次粒子等の形で存在する。該二酸化チタンの平均粒子径は、例えば、ポリカルボン酸系や脂肪酸アミン系、スルホン酸アミド系、ε−カプロラクトン系、ハイドロステアリン酸系、ポリエステルアミン等の分散剤を加えた分散媒中に二酸化チタンを添加し、これをボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を使用して分散することで、適宜調整することが好ましい。二酸化チタンの層中に用いる好ましい平均粒子径としては0.1〜1.5μmであることが好ましく、特に0.2〜1.0μmであることが好ましい。なお本発明における平均粒子径は、レーザー散乱式の粒度分布計(例えば(株)堀場製作所製LA920)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。一方、下塗り層の乾燥固形分量は0.5〜20g/mの範囲とすることが好ましい。
【0061】
下塗り層に用いられる二酸化チタンの含有量としては、広い範囲で設定することができるが、下塗り層が含有するバインダー樹脂の固形分100質量部に対して200〜1000質量%で用いることが好ましく、より好ましくは400〜600質量%である。二酸化チタンの含有量が少ない場合には、隠蔽性が低下する場合があり、過剰に用いた場合においては、例えば塗液の安定性が低下したり、不規則な凝集等により嵩密度が増大して表面粗さが大きくなり画質が低下する場合がある。
【0062】
<バインダー樹脂>
下塗り層が含有するバインダー樹脂としては、例えば、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチン等のゼラチン、多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性ポリマーを用いることができるが、特にゼラチンを用いることが好ましい。
【0063】
<架橋剤>
下塗り層が含有する架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等が好適に用いることができるが、画像形成層同様にジビニルスルホンが好ましい。架橋剤の配合量は前記バインダーの固形分量に対して1〜30質量%が好ましく、さらには2〜15質量%とすることが好ましい。
【0064】
<支持体>
本発明の感熱型平版印刷版に用いる支持体には耐水性支持体を用いるが、プラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙等の耐水性支持体が好ましく使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミドおよびポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムとこれらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂等の湿潤紙力剤によって耐水化が施された紙を好適に用いることができる。
【0065】
次に、上述した本発明の感熱型平版印刷版を用いた製版方法について説明する。本発明の感熱型平版印刷版は、感熱型の画像形成層を有するため、該画像形成層中に光熱変換物質を配合することにより例えば760nmから1200nmの赤外光を含む光を照射することで画像部を形成することが可能であり、さらに赤外線を放射する固体レーザーおよび半導体レーザーにより画像部を形成することが好ましい。特にレーザー露光によれば、コンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。またサーマルヘッドやヒートブロック等により画像形成層を直接熱により描画し画像部を形成することも可能であるが、サーマルヘッドによればコンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。
【0066】
サーマルヘッドを使用して製版する場合は、厚膜または薄膜のラインヘッドを用いたラインプリンタや薄膜のシリアルヘッドを用いたシリアルプリンタ等を用いることができる。記録エネルギー密度は、10〜100mJ/mmであることが好ましく、また比較的高品質な出力画像を得るためにはヘッドの画像記録密度が300dpi以上であることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。なお、以下の記述の中における単位として%や部は、特に記載がない限り質量比を示す。
【0068】
(実施例1)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン樹脂被覆紙の片面に、下記組成の下塗り層塗工液と、画像形成層a−1および画像形成層b−1の塗工液をスライドホッパーコーティング法により、支持体側から下塗り層、画像形成層a−1、画像形成層b−1(最上層)の順になるように3重層同時塗布を行った。その際、湿分塗布量を、下塗り層塗工液が15g/m、画像形成層a−1塗工液が30g/m、画像形成層b−1塗工液が10g/mに設定して行った。
【0069】
<下塗り層塗工液>
ゼラチン(牛骨、アルカリ処理、脱カル処理) 0.8部
二酸化チタンスラリー:TISR1固形量換算 4.0部
(堺化学(株)製、ルチル型、一次粒子径=0.3μm、アルミナ処理)
顔料分散剤(アクリル酸共重合金属塩、10%溶液) 0.2部
界面活性剤(エチルヘキシルスルホコハク酸塩、0.5%溶液) 0.05部
硬膜剤(ジビニルスルホン、5%溶液) 2.0部
水で全量を15部とした。
【0070】
<画像形成層a−1塗工液>
ゼラチン(牛骨、アルカリ処理、脱カル処理) 0.8部
ポリビニルアルコール:PVA505 0.07部
(クラレ(株)製、鹸化度=73.5モル%、重合度500)
カルボキシル化SBR:ラックスター7132C 3.0部
(DIC(株)製、固形分=約45%、アニオン性、Tg=約60℃)
顕色剤混合スラリー 8.0部
発色剤 0.7部
(3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、30%スラリー)
界面活性剤(エチルヘキシルスルホコハク酸塩、0.5%溶液) 0.4部
硬膜剤(ジビニルスルホン、5%溶液) 2.0部
水で全量を30部とした。
【0071】
<画像形成層b−1塗工液>
ゼラチン(牛骨、アルカリ処理、脱カル処理) 0.4部
水溶性多糖類:プルラン(林原商事(株)製、食品添加物) 0.01部
カルボキシル化SBR:ラックスター7132C 0.6部
(DIC(株)製、固形分=約45%、アニオン性、Tg=約60℃)
硫酸バリウムスラリー:バリエースB−35固形量換算 0.03部
(堺化学工業(株)製、平均粒径=0.3μm)
顔料分散剤(アクリル酸共重合金属塩、10%溶液) 0.002部
発色剤 0.3部
(3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、30%スラリー)
水性ワックス 0.3部
(n−オクタコサン酸(炭素数28)、固形分30%)
界面活性剤(エチルヘキシルスルホコハク酸塩、0.5%溶液) 0.2部
硬膜剤(ジビニルスルホン、5%溶液) 1.0部
水で全量を10部とした。
【0072】
上記下塗り層塗工液に用いる二酸化チタンスラリー、および画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムスラリーの作製には、共に顔料分散剤としてアクリル酸共重合金属塩を用いる。その作製方法は、顔料分散剤が添加された水中に、一定撹拌のもと、二酸化チタン、または硫酸バリウムを徐々に加えていき、ホモミキサーを用いて30分間の高速微分散処理を施すことで作製できる。スラリーは塗工液調製の直前に作製したものを用いた。
【0073】
また、上記画像形成層a−1塗工液に用いる顕色剤混合スラリーは、下記構成薬品で予め調製され製造したものを使用した。
<顕色剤混合スラリーの構成薬品>
材料a:KS−232
(三光(株)製、増感剤、1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン)
材料b:D−8
(日本曹達(株)製、顕色剤、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン)
材料c:ポリマロン1318
(荒川化学(株)製、分散剤、アニオン性スチレン系樹脂15%水溶液)
【0074】
上記の材料cを0.7部添加した水中に、一定撹拌のもと、材料aおよび材料bを各々1部ずつを混ぜ合わせた後、小型ダイノーミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて任意の粒径まで微分散処理を施し、顕色剤混合スラリーを得た。なお、材料a、材料bおよび材料cの合計での固形分濃度が約35%になるように調製した。
【0075】
その他の薬品については、ゼラチンやポリビニルアルコールさらには水溶性多糖類等の親水性高分子を水中で加熱溶解させる以外は、割水以外に特別な調整等は行わなかった。ただし、上記顕色剤混合スラリーについては、調製の段階から、また、発色剤については、取り扱う全ての過程において、温度が45℃を超えないように注意して行った。
【0076】
上記湿分塗布量において3重層同時塗布を行った後、直ちに1〜3℃の冷風にて塗膜をゲル化させ、その後30℃に設定された温風にて乾燥を行った。乾燥後、温度40℃/湿度40%に調整された恒温恒湿器を用いて7日間の加温を行うことにより、実施例1の感熱型平版印刷版を得た。
【0077】
上記のように作製した感熱型平版印刷版を、CTP用サーマルデジタルプリンター(三菱製紙(株)製Thermal Digiplater TDP−459:1200dpi/120lpi)を用いて画像出力(記録エネルギー密度70〜100mJ/mm、電気容量330W)を行い印刷刷版を作製した。この印刷刷版を用いて以下の方法にて印刷適性の評価を行った。
【0078】
<耐刷性>
印刷機は、オフセット枚葉印刷機ハイデルベルグQM46を使用、印刷インキには大日本インキ化学工業(株)製のFusionG墨N、給湿液には三菱製紙(株)製SLM−ODを10%希釈液で用い、エッチング液にも同給湿液をそのまま用いて印刷を行った。耐刷性評価としては、スタート時の印刷紙面と、5,000枚印刷時の印刷紙面とを比較して、20%網点および50%網点の減衰割合を25倍ルーペで観察し、以下の評価基準を用いて判定した。この結果も表1に合わして示す。
◎:20%、50%網点部共に、殆ど変化なし
○:50%網点部では殆ど変化ないが、20%網点部で減衰が確認できる
△:20%、50%網点部共に、減衰が確認できる
×:20%網点部で5割以上の減衰が見られる
××:20%網点部で9割以上の減衰が見られる
【0079】
<地汚れ性>
印刷機は、同じくオフセット枚葉印刷機ハイデルベルグQM46を使用、印刷インキには大日本インキ化学工業(株)製のFusionG墨S、給湿液には日研化学(株)製アストロマークIIIを0.5%希釈液で用い、エッチング処理を施さず印刷をスタートした。地汚れ性評価としては、印刷スタートから2,000枚目の印刷紙面において、以下の評価基準を用いて判定した。この結果を表1に示す。
◎:1〜2,000枚目まで地汚れの発生なし
○:1〜1,500枚目までは地汚れの発生なし
△:1〜1,000枚目までは地汚れの発生なし
×:刷り出し汚れが発生(5枚以内)、または1,000枚未満で地汚れ発生
××:刷り出し汚れが発生(6枚以上)
【0080】
(実施例2)
実施例1の画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムに代えて酸化亜鉛(堺化学工業(株)製、微細酸化亜鉛、平均粒径=0.29μm)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価を行った。この結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
実施例1の画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムスラリーを除いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価を行った。この結果を表1に示す。
【0082】
(実施例3)
実施例1の画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムスラリーの添加量を0.03部から0.06部に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価を行った。この結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4)
実施例1の画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムスラリーの添加量を0.03部から0.08部に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価を行った。この結果を表1に示す。
【0084】
(実施例5)
実施例1の画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムスラリーの添加量を0.03部から0.0135部に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価を行った。この結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
実施例1の画像形成層b−1塗工液に用いる硫酸バリウムを細孔シリカ(グレースデビソン(株)製、SylojetA25、平均粒径=0.32μm)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2の感熱型平版印刷版を得た。得られた感熱型平版印刷版を用いて実施例1と同様に画像出力して印刷刷版を作製し評価を行った。この結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1に示す結果から判るように、本発明により耐刷性と耐汚れ性がバランスよく向上した感熱型平版印刷版が得られていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上の片面に少なくとも熱可塑性樹脂、熱溶融性物質、および水溶性高分子化合物を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、支持体から遠い側の画像形成層(B)が酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムを含有することを特徴とする感熱型平版印刷版。
【請求項2】
前記酸化亜鉛もしくは硫酸バリウムの含有量が、該画像形成層(B)が含有する熱可塑性樹脂量に対して8〜26質量%である請求項1記載の感熱型平版印刷版。

【公開番号】特開2011−189719(P2011−189719A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60195(P2010−60195)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】