説明

感熱孔版印刷用マスター

【課題】細密化されたサーマルヘッドを有する印刷機に対応した、高画質で耐久性に優れ、且つ低コストな感熱孔版印刷用マスターを提供すること。
【解決手段】少なくとも熱可塑性樹脂フィルム層、接着層、多孔性繊維膜層を有する感熱孔版印刷用マスターであって、前記接着層は、ポリイソシアネートを水に分散させてなる水系ポリイソシアネートを主成分剤とするものであり、前記多孔性繊維膜層は、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュバルブなどによる閃光照射や赤外線照射、レーザー光線等のパルス的照射、あるいはサーマルヘッド等によって穿孔製版される感熱孔版印刷用マスターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、感熱孔版印刷用マスターとしては、ポリエステル系フィルム、塩化ビニリデン系フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムに、合成繊維、あるいはこれらを混抄した薄葉紙、不織布、紗等によって構成された多孔性支持体を接着剤で貼り合せた構造のものが知られている(例えば特許文献1の特開昭51−2513号公報、特許文献2の特開昭57−182495号公報など)。
近年サーマルヘッドの細密化が進んでおり、1ドットの大きさが小さくなってきたため、繊維径の細い合成繊維のみからなる支持体が多く用いられるようになった。
【0003】
感熱孔版印刷用マスターを製造する場合に支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合せるための接着剤としては、いくつか提案がなされている(特許文献3の特公平5−27556号公報、特許文献4の特公平7−88499号公報、特許文献5の特公平5−34155号公報、特許文献6の特公平5−34156号公報、特許文献7の特開平4−47707号公報等)。
しかしながら、これら発明において接着剤を塗布する場合、接着剤を有機溶剤に溶解したり、又は加熱により接着剤の粘度を下げ塗布する必要があり、有機溶剤を使用した場合設備が高価となるばかりか、合成繊維を侵食してしまい強度が低下したり、残留溶剤によりカール、デラミ等の悪影響を与えるという問題があった。
また加熱により接着剤の粘度を下げ塗布するホットメルト方法においては、熱により熱可塑性樹脂フィルムが収縮してしまうのを避けるために、接着剤を支持体側に塗布する必要があり、合成繊維のみからなる支持体の様に繊維間結着力が弱い支持体を用いた場合、繊維が接着剤塗布ローラーに剥ぎ取られてしまい生産性が悪いという問題があった。また温度が高すぎると合成繊維を溶解させてしまうという問題もあった。
これらの問題を解決した感熱孔版印刷用マスターとして、特許文献8の特許第4549557号(P4549557)公報開示のものが挙げられる。即ち、熱可塑性樹脂フィルムと、合成繊維のみからなる多孔性支持体(本明細書中では多孔性繊維膜と表記)を接着させた感熱孔版印刷用マスターにおいて、ウレタン樹脂を水に分散させてなる水系ウレタン樹脂を主成分とする接着剤を用いて接着させたことを特徴とする感熱孔版印刷用マスターである。
確かに、このマスターでは上述の問題は発生しないが、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜の間の接着強度が低いことによるデラミ(剥離)が、本発明者らによる更なる継続的な検討の結果、新たな問題として認識されるに至った(後述の比較例1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の欠点を解決し、細密化されたサーマルヘッドを有する印刷機に対応した、高画質で耐久性に優れ、且つ低コストな感熱孔版印刷用マスターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜と熱可塑性樹脂フィルムを問題なく貼り合せるために水系の接着剤に着目して鋭意研究した結果、接着剤としてポリイソシアネートを水に分散することにより得られる水系ポリイソシアネートを、多孔性繊維膜の繊維と熱可塑性樹脂フィルム面との接着部位域に重点的に、適用して貼り合せることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための特徴的手段として以下の手段を包含する。
(1)「少なくとも熱可塑性樹脂フィルム層、接着層、多孔性繊維膜層を有する感熱孔版印刷用マスターであって、前記接着層は、ポリイソシアネートを水に分散させてなる水系ポリイソシアネートを主成分剤とするものであり、前記多孔性繊維膜層は、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスター」。
(2)「少なくとも熱可塑性樹脂フィルム層、多孔性樹脂膜層、接着層、多孔性繊維膜層を有する感熱孔版印刷用マスターであって、前記多孔性樹脂膜層は、前記熱可塑性樹脂フィルム上に、多孔性樹脂膜層成形用流動体を用いて積層され、該多孔性樹脂膜層成形用流動体は、樹脂とその樹脂の良溶媒と貧溶媒を含有し、前記接着層は、ポリイソシアネートを水に分散させてなる水系ポリイソシアネートを主成分剤とするものであり、前記多孔性繊維膜層は、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスター」。
(3)「接着剤の乾燥後に多孔性繊維膜を積層し接着したことを特徴とする前記(1)項又は(2)項に記載の感熱孔版印刷用マスター」。
(4)「前記ポリイソシアネートが自己乳化型ポリイソシアネートであることを特徴とする前記(1)項乃至(3)項のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター」。
(5)「接着剤の乾燥後の付着量が、0.2g/m〜1.0g/mの範囲であることを特徴とする前記(1)項乃至(4)項のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター」。
(6)「層間の接着強度が2N/m以上であることを特徴とする前記(1)項乃至(5)項のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター」。
(7)「多孔性繊維膜または多孔性樹脂膜が積層された面と反対側の熱可塑性樹脂フィルムの王研式平滑度が5000秒以上であることを特徴とする前記(1)項乃至(6)項のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター」。
(8)「接着剤が多孔性繊維膜に塗布されたことを特徴とする前記(1)項乃至(7)項のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター」。
【発明の効果】
【0007】
以下の詳細かつ具体的な説明からよく理解されるように、本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムと合成繊維からなる多孔性繊維膜を接着させた感熱孔版印刷用マスターまたは熱可塑性樹脂フィルム上に形成させた多孔性樹脂膜と合成繊維からなる多孔性繊維膜を接着させた感熱孔版印刷用マスターにおいて、接着剤としてポリイソシアネートを水に分散させることにより得られる水系ポリイソシアネートを主成分とするものを用いて接着させたことにより、細密化されたサーマルヘッドを有する印刷機に対しても、高画質で、耐久性の優れた感熱孔版印刷用マスターを提供することができるという極めて優れた効果が発揮される。
すなわち、より具体的に云えば、ポリイソシアネートの化学反応により接着剤が硬化するため、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜に十分な接着強度が得られ、デラミ(剥離)の問題がない感熱孔版印刷用マスターが実現され、また、接着層を介して多孔性樹脂膜層と多孔性繊維膜層が積層されてなることにより、デラミの問題がなく、さらに印刷時の画像白抜けが少ない感熱孔版印刷用マスターが実現される。また、接着剤の乾燥後に多孔性繊維膜が積層され、接着された場合には、乾燥した状態でもポリイソシアネートは残っているので、高い接着強度が得られ、接着剤が多孔性支持体(多孔性繊維膜または多孔性樹脂膜)に浸透することがないので、少量の接着剤で高い接着強度が得られる他、印刷時の画像白抜けが少ない特徴ある感熱孔版印刷用マスターが実現され、更に、ポリイソシアネートが自己乳化型ポリイソシアネートであることにより、接着剤塗工時にポリイソシアネートの凝集が起こりにくいため、接着剤の塊ができず、印刷時の白抜けの少ない感熱孔版印刷用マスターが得られ、また更に、接着剤の付着量が少なすぎると接着強度が不足してデラミが発生しやすく、接着剤の付着量が多すぎると印刷時に画像白抜けが発生しやすいところ、接着剤の乾燥後の付着量が、0.1g/m〜1.0g/mの範囲であることにより、デラミが発生しにくく、画像白抜けの少ない感熱孔版印刷用マスターが得られるという極めて優れた効果が発揮される。
更にまた、層間の接着強度が2N/m以上であれば、デラミのない感熱孔版印刷用マスターが得られる。
ここで、層間とは熱可塑性樹脂フィルム−多孔性繊維膜間、熱可塑性樹脂フィルム−多孔性樹脂膜間、多孔性樹脂膜−多孔性繊維膜間である。これらの層間の接着強度が2N/m未満の場合、デラミ(層間の剥離)が発生しやすく、シワの原因となるばかりでなく、印刷時にマスターの伸び、ハガレ、破れといった問題を引起こすことがある。なお、前記接着強度の上限は、インキ通過が阻害されなければ特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
そして、多孔性繊維膜または多孔性樹脂膜が積層された面と反対側の熱可塑性樹脂フィルムの王研式平滑度が5000秒以上であるマスターは、サーマルヘッドによる熱穿孔性に優れ、穿孔不良が少なく、印刷時の画像白抜けが少なくなり、更に、接着剤が多孔性繊維膜に塗布されてなることにより、接着剤のフィルムに付着する面積が小さくなり、サーマルヘッドによるフィルム穿孔の阻害が起こりにくくなるので、印刷時の画像白抜けが少ない感熱孔版印刷用マスターが得られるという極めて優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の感熱孔版印刷用マスターの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−接着剤−
以下、本発明について具体的かつ詳細に説明する。
ここで、図1は,本発明の感熱孔版印刷用マスターの一例を示す模式断面図である。
熱可塑性樹脂フィルム(1)上に、多孔性樹脂膜(2)及び多孔性繊維膜(3)をこの順に有する多孔性支持体(4)が積層されて、積層体(5)が構成されている例である。
本発明の感熱孔版印刷用マスター(以下、単に「マスター」と呼ぶことがある)を製造する場合に用いる接着剤は、ポリイソシアネートを水に分散させてなる水系ポリイソシアネートを主成分とするものである。
本発明の水系ポリイソシアネートはポリイソシアネートが水に分散された状態のもの(いわゆるO/W型エマルション)であり、その粒径より、0.001μm以下は水溶液、0.001〜0.1μmはコロイド分散、0.1μm以上ではエマルションの3種類に分類できるが、その状態に関して特に限定されるものではない。
【0010】
本発明に用いられるポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、2,4−ジイソシアネート−1−メチルシクロヘキサン、2,6−ジイソシアネート−1−メチルシクロヘキサン、ジイソシアネートシクロブタン、テトラメチレンジイソシアネート、o−、m−、およびp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサヒドロメタキシリデンジイソシアネート(HXDI)、およびリジンジイソシアネートアルキルエステル(該アルキルエステルのアルキル部分は1〜6個の炭素原子を有すことが望ましい)等のような脂肪族または脂環式ジイソシアネート:トルイレン−2,4−ジイソシアネート(TD1)、トルイレン−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、3−メチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、m−およびp−フェニレンジイソシアネート、クロロフェニレン−2,4−ジイソシアネート、ナフタリン−1,5−ジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネートおよびジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート:並びにこれらの混合物が用いられる。
【0011】
水系ポリイソシアネートの製造方法としては、乳化剤を使用して水に分散させる場合と、これを用ない場合とがあるが、任意に選択すれば良く特に限定されない。
乳化剤を使用する場合は、ポリイソシアネートと乳化剤水溶液とを高速攪拌することにより水系ウレタン樹脂を得ることができる。
該乳化剤としては、親水性の強いアニオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤等が用いられ、親水基と親油基のバランスを表わすHLB値(Hydrophilic−Lyophiric Balance)が11−20の界面活性剤を使用すると安定したエマルションを得ることができる。
乳化剤を用いない方法としては、平均分子量が8000以下のポリイソシアネートを水にそのまま分散させる方法、または自己乳化させる方法等が挙げられる。
自己乳化の方法としては、溶剤中でポリイソシアネートにジアミノ化合物を反応させてアニオン性の親水基をポリマー鎖に導入し、導入後水を加えて溶剤を留去する方法、スルホン化反応を経る方法等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0012】
本発明における接着剤塗工液の好ましい粘度範囲は200cp〜2000cpである。
200cpよりも低粘度だと塗工された接着剤の多くが多孔性支持体材料に浸透したり、接着相手の熱可塑性樹脂フィルムの全面へ不必要に展開され、所望の接着強度が得られないことがある。また、2000cpよりも高粘度だと塗工時に多孔性繊維膜の繊維を引き抜いてしまったり、熱可塑性樹脂フィルムにシワを発生させたりしてしまうことがある。
本発明における接着剤の塗布方法は、特に限定されるものではないが希釈した溶液をロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーター等を用いて塗布し、乾燥するのが好ましい。
水系イソシアネート樹脂の希釈は水のみで行なうことが好ましいが、乾燥効率を上げるために少量のアルコールを添加してもよい。いずれにしても、塗工された接着剤の多くが多孔性支持体材料の接着部位域に留まらず、接着相手の熱可塑性樹脂フィルム面の全面へ不必要に展開されること等を避けことが好ましく、これは、希釈剤種類と量、塗工液粘度、塗工手段、乾燥程度、後述する塗布量等により調節することができる。
また接着剤層の形成面は熱可塑性樹脂フィルム面であっても、多孔性支持体面であっても、両側に塗布しても良いが、多孔性支持体面に接着剤を適用することがより好ましい。
【0013】
本発明における接着剤の乾燥後の塗布量は0.2g/m〜1.0g/mの範囲が好ましい。乾燥後の塗布量が0.2g/m未満であると接着性が低下し、1.0g/mを超えると穿孔阻害が発生する。
【0014】
−架橋剤等−
また、接着剤水分散液中に、架橋剤を添加することができ、また、必要に応じて帯電防止剤等を添加することもできる。
架橋剤(少なくとも2個の活性水素基を含有する材料)としてはブロックイソシアネート、エポキシ系、メラミン系等、用いる水系ウレタン樹脂に合ったものを選択できる。
また帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性の各界面活性剤、カーボン、導電材料等が挙げられるが、水系ポリイソシアネートの分散状態に影響を与えないものであれば特に限定されない。
【0015】
本発明の感熱孔版印刷用マスターにおいて、多孔性樹脂膜や多孔性繊維膜などの多孔性支持体が積層された面と反対側の熱可塑性樹脂フィルムの王研式平滑度は、5000秒以上が好ましい。
王研式平滑度が5000秒未満だとサーマルヘッドとの密着性が低下し、穿孔不良が発生しやすくなる。
【0016】
次に、本発明のマスターにおける熱可塑性樹脂フィルムは、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはその共重合体から得られる熱可塑性樹脂フィルムなど従来公知のものが用いられるが、穿孔感度の点からポリエステルフィルムが特に好ましく用いられる。
【0017】
ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとして好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ヘキサメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等を挙げることができる。
穿孔感度を向上させるために特に好ましくは、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ヘキサメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等を挙げることができる。
【0018】
−熱可塑性樹脂フィルム−
本発明のマスターにおける上記熱可塑性樹脂フィルムには必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
さらには必要に応じて易滑性を付与することもできる。
易滑性付与方法としては特に制限はないが、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式あるいは乾式シリカなどの無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機高分子粒子等を配合する方法、内部粒子による方法、界面活性剤を塗布する方法等がある。
【0019】
本発明のマスターにおける熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、通常好ましくは0.5μm〜5.0μmであり、更に好ましくは1.0μm〜3.0μmである。
厚さが5.0μmを超えると穿孔性を低下する場合があり、0.5μmより薄いと製膜安定性が悪化したり、耐刷性が低下したりする場合がある。
【0020】
−多孔性繊維膜−
また、本発明のマスターにおける合成繊維は、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはその共重合体から得られる合成繊維など従来公知のものが用いられる。
また芯鞘構造を有するバインダー繊維等を用いても良い。
これらの合成繊維は単体で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
本発明においては穿孔時の熱安定性の点からポリエステル繊維が特に好ましく用いられ、少なくとも60wt%以上がポリエステル繊維であるのがより好ましい。
【0021】
ポリエステル繊維に用いられるポリエステルとして好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体等を挙げることができる。
【0022】
これらの合成繊維の原材料ポリマーには必要に応じて難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤あるいはポリシロキサン等の消泡剤を配合することができる。
【0023】
本発明における多孔性支持体の坪量は、通常好ましくは3g/m〜20g/m、更に好ましくは5g/m〜15g/mである。
坪量が20g/mを超えると、インキの通過性が低下して画像鮮明性が低下する。
また坪量が3g/mより少ないと支持体として十分な強度を得られない場合がある。
【0024】
本発明のマスターにおける合成繊維からなる多孔性支持体は、短繊維を抄紙した抄造紙であっても良いし、不織布や織物であっても良いし、スクリーン紗などであっても良いが、不織布がより好ましく用いられる。
【0025】
−多孔性樹脂膜−
本発明における多孔性樹脂膜は、膜の内部及び表面に多数の空隙を持つ構造を有するもので、該空隙がインキの通過性の点から多孔性膜内において厚さ方向に連続構造であるものが望ましい。
【0026】
前記多孔性樹脂膜の構造は、不定形の棒状、球状、又は枝状に連結した(和紙のような短い構成単位が絡み合っているものではなく、印刷などで形成される単純な形状の組み合わせでもない)複雑な三次元構造を有するもの、いわゆる糸瓜に似た構造、ハニカム状構造、蜂の巣状構造などが好適に挙げられる。
本発明において、多孔性樹脂膜の平均孔径は一般に2μm〜50μm、望ましくは5μm〜30μmである。平均孔径が2μmに満たない場合には、インキ通過性が悪い。そのため、十分なインキ通過量を得るために低粘度インキを用いれば、画像にじみや印刷中に印刷ドラムの側部や巻装されているマスターの後端から印刷インキがしみ出す現象が発生する。また、多孔質樹脂膜内の空膜率が低くなることが多く、サーマルヘッドによる穿孔を阻害しやすくなる。一方、平均孔径が50μmを超える場合には、多孔性樹脂膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され、裏汚れやにじみ等の不具合が発生する。即ち、平均孔径は小さすぎても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。特に、多孔性樹脂膜内の空隙の平均孔径が20μm以下である場合、多孔性樹脂膜層が厚い程印刷インキが通りにくくなるので、この層の厚みによってインキの印刷用紙への転写量を制御することができる。そして、層の厚さが不均一であると印刷むらを生じることがあるので、厚みは均一であることが望ましい。
【0027】
多孔膜形成用塗布液の粘度は50cp〜2000cpが好ましい。50cpよりも低粘度だと機械塗工時のフィルム搬送時に流動が発生しやすく、正常な多孔性樹脂膜形成が妨げられることがある。一方、2000cpを越えると、乾燥時の樹脂収縮によってフィルムにシワが発生しやすい上、多孔性樹脂膜の空隙率も低くなりやすく、得られる膜のインキ通過性がよくない場合が多い。塗布液の乾燥前付着量は100g/m以下であることが好ましい。100g/mを超えると、塗布後の乾燥過程で液が流動しやすく正常な多孔性樹脂膜形成が妨げられることが有る。塗布液の乾燥前付着量は100g/m以下であれば特に問題はないが、インキ通過性を制御できる多孔性樹脂膜を形成させるためには10g/m以上であることが好ましい。
【0028】
本発明の多孔性樹脂膜の厚みは、2μm〜100μm、望ましくは5μm〜50μmである。5μmに満たない場合は、サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残りにくく、インキ転写量が制御されずに印刷物の裏汚れが発生しやすい。また、多孔性樹脂膜のインキ転写量抑制効果は膜が厚いほど大きく、印刷時の紙へのインキ転写量は多孔性樹脂膜の厚みによって調節できる。多孔性樹脂膜の密度は、通常0.03g/m〜0.8g/mで、望ましくは0.06g/m〜0.4g/mである。密度が0.03g/m未満だと膜の強度が不足し、また膜自体も壊れやすい。0.8g/mを超えると印刷時のインキ通過性が悪くなる。
【0029】
次に、本発明の感熱孔版印刷用マスターの多孔性樹脂膜の形成方法について説明する。
第1の多孔性樹脂膜の形成方法は、例えば、特開平10−24667号公報に開示されているように、多孔性樹脂膜を形成する樹脂の良溶媒(樹脂を溶解可能な溶媒を言う)と貧溶媒(実質的に樹脂を溶解せず、蒸発速度が前記良溶媒の蒸発速度より遅い溶媒を言う)とが互いによく溶ける場合に用いられ、樹脂とその樹脂に対する良溶媒と貧溶媒とを含む流動体を熱可塑性樹脂フィルム上に半析出状態で塗布し、乾燥して形成する。この樹脂、その良溶媒、及び貧溶媒を含む流動体は乾燥過程において、良溶媒が先に蒸発し、相対的に貧溶媒が増加し、樹脂の濃縮などにより樹脂が析出して、三次元網状構造を形成する。
良溶媒と貧溶媒をそれぞれ一種ずつ用いる場合には、良溶媒の沸点は相対的に貧溶媒の沸点より低くなければならない。良溶媒と貧溶媒の選定は任意であるが、一般には沸点差が15℃〜40℃である場合に所望の特性を持つ多孔性樹脂膜が形成されやすい。沸点差が10℃未満の場合には、両溶媒の蒸発時間差が小さく、形成される膜が多孔性構造になりにくい。貧溶媒の沸点が高すぎる場合には、乾燥に時間がかかり生産性に劣るため、貧溶媒の沸点は150℃以下であることが望ましい。
【0030】
塗布液中の樹脂濃度は使用する材料によって異なるが5%〜30%である。5%未満では開口径が大きくなり過ぎたり、多孔性樹脂膜の厚みのむらが生じたりしやすい。逆に、30%を超えると多孔性樹脂膜が形成されにくく、あるいは形成されても孔径が小さくなり所望の特性は得られにくい。多孔性樹脂膜の平均孔径の大きさは雰囲気中の貧溶媒の影響を受け、一般にその良溶媒に対する割合が高いほど凝結量が多くなり、平均孔径は大きくなる。貧溶媒の添加比率は樹脂、溶媒により異なるので実験により適宜決定する必要がある。一般的に、貧溶媒の添加量が多くなるに従い多孔質樹脂膜の孔径が大きくなる。貧溶媒の添加量が多すぎると樹脂が析出し塗布液が不安定になる。
この第1の形成方法では、一般的に糸瓜状構造の多孔性樹脂膜が形成され、エーテルやアセトンなど、蒸発の速い溶剤を選択して生産性を高めることができる。
【0031】
前記多孔性樹脂膜の形成に用いられる樹脂材料としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニル−塩化ビニリデンコポリマー、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマーなどのビニル系樹脂;ポリブチレン樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂;ポリフェニレンオキサイド樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂;アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の目的であるインキ通過性の優れる多孔性樹脂膜を形成するためには、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
前記多孔性樹脂膜には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて、例えば、フィラー、帯電防止剤、スティック防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤など
を添加することができる。
【0033】
前記フィラーは、多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ、コシなどを調節するために添加される。ここで、前記フィラーとは、顔料、紛体や繊維状物質も含まれる概念であり、これらの中でも、特に、針状、板状、又は繊維状のフィラーが好ましい。
前記フィラーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケイ酸マグネシウム、セピオライト、チタン酸カリウム、ウオラストナイト、ゾノライト、石膏繊維などの鉱物系針状フィラー;非酸化物系針状ウイスカ、複酸化物系ウイスカなどの人工鉱物系針状フィラー;マイカ、ガラスフレーク、タルクなどの板状フィラー;カーボンファイバー、ポリエステル繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維などの天然又は合成の繊維状フィラーなどが挙げられる。
前記顔料としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂などからなる有機ポリマー粒子;カーボンブラック、酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカなどの無機顔料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記フィラーの添加量は、前記樹脂100質量部に対し5〜200質量部が好ましい。
前記フィラーの添加量が、5質量部未満であると、カールが発生し易くなることがあり、200質量部を超えると、多孔性樹脂膜の強度が低下することがある。
【0034】
前記多孔性樹脂膜の第2の形成方法としては、多孔性樹脂膜を形成する樹脂の良溶媒と貧溶媒とが互いに混ざり合わない場合に用いられ、例えば、特開平11−235885号公報に開示されているように、W/O型(油中水型)エマルションを主体とした流動体を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥して多孔性樹脂膜を形成する方法である。このW/O型エマルションから形成される多孔性樹脂膜は一般的にハニカム状構造、蜂の巣状の三次元的網状構造を有している。この第2の形成方法により形成される多孔性樹脂膜は、W/O型エマルションを主体とする流動体を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、乾燥して形成されるものであり、主として水の部分が乾燥後、インクが通過する孔となり、溶剤中の樹脂(フィラー、乳化剤などの添加物が含まれていてもよい)が構造体となる。
【0035】
前記樹脂としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系誘導体、これらの変性物、又はこれらの共重合体などが挙げられる。これらの中でも、ビニルアセタール系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、ウレタン系樹脂が特に好ましい。
【0036】
前記W/O型エマルションの形成には、比較的親油性の強いHLBが2.5〜6の界面活性剤が有効であるが、水相にもHLBが8〜20の界面活性剤を使用するとより安定で均一なW/O型エマルションが得られる。高分子界面活性剤の使用も、より安定で均一なエマルションを得る方法の一つである。また、水系にはポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの増粘剤の添加がエマルションの安定化に有効である。
【0037】
前記多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ、及びコシなどを調節するために、多孔性樹脂膜中には、更に必要に応じてフィラーなどの添加剤を添加することができる。これらの中でも特に、針状、板状、又は繊維状のフィラーが好ましい。なお、フィラーとしては、前記第1の形成方法と同様のものから適宜選択することができる。
第2の形成方法では、得られる多孔性樹脂膜形状が樹脂の溶解度に依存しないので温度や湿度の影響を受けにくく、形成される多孔性樹脂膜形状の再現性が高い。処方の自由度が高く、多孔性樹脂膜の形成できる範囲が広いので、油相水相の比率や樹脂濃度、樹脂分子量などで塗布液の粘度を調整し易い。また、一般に多孔性樹脂膜形成用塗布液の固形分濃度が同じならば第1の形成方法よりも多孔性樹脂膜形成用塗布液の粘度が高粘度になる。
【0038】
前記第1及び第2形成方法における多孔性樹脂膜の乾燥後付着量としては、0.3〜20g/mが好ましく、0.5〜10g/mがより好ましい。前記付着量が、0.3g/m未満であると、インキ付着量が制御されずに印刷物の裏移りが悪くなることがあり、20g/mを超えるとインクの通過を阻害して画像が悪くなることがある。
【0039】
本発明の多孔性樹脂膜形成用塗布液の熱可塑性樹脂フィルムヘの塗布方式としてはブレード、トランスファーロール、ワイヤーバー、リバースロール、グラビア、ダイ等の従来一般的に用いられている塗布方式が使用でき、特に限定されるものではない。
【0040】
多孔性樹脂膜上に多孔性繊維膜を積層した感熱孔版印刷用マスターにおいては、多孔性樹脂膜によりインキが均一に分散されるので、印刷画像品質に優れるとともに、多孔性繊維膜によりコシや強度が高められ、搬送性や耐刷性にも優れる。
【0041】
前記無溶剤型接着剤を用いた場合には、ロール状に巻かれた感熱孔版印刷用マスターの反応を促進させる目的で、キュアを行うことが好ましい。該キュアの温度としては、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。前記キュアの温度が、50℃を超えると、熱可塑性樹脂フィルムの収縮が発生してカールの問題が生じることがある。なお、前記キュアの時間としては、目的とする接着力が得られることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
本発明の感熱孔版印刷用マスターは、フィルムのサーマルヘッドに接触すべき片面に穿孔時の融着を防止するため、シリコーンオイル、シリコーン系樹脂、フッソ系樹脂、界面活性剤、帯電防止剤、耐熱剤、酸化防止剤、有機粒子、無機粒子、顔料、分散助剤、防腐剤、消泡剤等からなる薄層を設けることが望ましい。該融着防止の薄層の厚みは、好ましくは0.005μm〜0.4μm、より好ましくは0.01μm〜0.2μmである。
【0043】
本発明の感熱孔版印刷用マスターにおいて融着防止の薄層を設ける方法は特に限定されないが、水、溶剤等に希釈した溶液をロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーター等を用いて塗布し、乾燥するのが好ましい。
【0044】
本発明においては、感熱孔版印刷用マスターの特性測定に以下の方法を採用した。
[特性の測定方法、評価基準]
−画質−
作成したマスターを(株)リコー製サテリオA650(サーマルヘッド解像度600dpi)に供給してサーマルヘッド式製版方式により、50mm×50mmの黒べたを有する原稿を用意し、製版、標準速度で100枚印刷した。
該印刷物を目視判定により、黒べた部で白抜けのないものを◎、目立たないものを○、白抜けはあるが実用上問題ないものを△、白抜けの目立つものを×と評価した。
【0045】
−耐刷性−
作成したマスターを(株)リコー製サテリオA650に供給して、サーマルヘッド式製版方式により、6ポイントの文字と50mm×50mmの黒べたを有する原稿を用い製版、標準速度で5000枚の印刷を行った。
フィルム剥がれ(デラミ)やマスターシワ等がないものを○、これらが有るものの実使用上問題ないものを△、印刷画像に影響が出るほどのフィルム剥がれやマスターシワが有るものを×と評価した。
【0046】
−平滑度−
王研式平滑度平滑度の測定は王研式平滑度試験機(熊谷理機工業製、KY−55型)を用い、サンプルは20℃、65%の雰囲気で24時間調湿し、3枚の測定値を平均して測定値とした。
【0047】
−接着強度−
感熱孔版印刷用マスターを38mm幅に切り出した後、片端の熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜を剥離し、熱可塑性樹脂フィルム側をデジタルフォースゲージに固定、多孔性繊維膜側に500gの錘を接続。錘を落下させた際のフォースゲージピーク値を読み取り、メートル幅に換算した。請求項2の感熱孔版印刷用マスターのように熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜の間に多孔性樹脂膜がある場合でも、多孔性樹脂膜の存在による区別は行わず、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜側を剥離して測定した。
【実施例】
【0048】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではな
い。なお、以下に示す部はいずれも重量基準である。
【0049】
[実施例1]
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作成>
ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社 エスレックKS−1 重量平均分子量:2.7万) 0.4部
ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社 エスレックKS−3 重量平均分子量:10.8万) 0.6部
タルク(平均粒径D50 SALD法:4.4um SK法:3.8um 日本タルク株式会社ミクロエースL−1) 1.0部
ソルビタン脂肪酸エステル(セスキオレイン酸ソルビタン HLB:3.7 日光ケミカルズ株式会社 SO−15) 0.1部
変性シリコーンオイル(ポリエーテル変性シリコーン 信越化学工業株式会社 KF6012) 0.1部
アクリル系ポリマーO/W型エマルション(重量平均分子量:10万〜20万 平均粒子径:0.09um ジョンソンポリマー株式会社Joncryl−711) 0.2部
以上を酢酸エチル 27.6 に溶解、分散した後、これを攪拌しながら、HEC 1%水溶液 30部をゆっくり添加して白濁した多孔性樹脂膜形成用塗布液を得た。得られた塗布液を20℃50%RHの雰囲気中で、熱可塑性樹脂フィルム(厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム)上にダイコーターで塗布・乾燥し多孔性樹脂膜を形成しロール状に巻き取った。 乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は1.6g/mである。
【0050】
<多孔性繊維膜の作成>
湿式抄紙により、繊度1.0dの芯鞘構造のポリエステル繊維(60重量部)と繊度0.3dの延伸ポリエステル繊維(40重量部)を抄紙し120℃の温度で熱処理し、坪量7.0g/m、厚み30.0μmの多孔性繊維膜を得た。
鞘 ポリエチレンテレフタレート 熱溶融温度:110℃
芯 ポリエチレンテレフタレート 熱溶融温度:260℃
【0051】
<感熱孔版印刷用マスターの作成>
二価アルコール変性ヘキサメチレンジイソシアネート(自己乳化型ポリイソシアネート 平均分子量 1000)の50wt%水分散液を、前記にて作成した多孔性繊維膜に乾燥後の塗布量が0.19g/mとなるようにロールコーターで延転塗布し、前記にて作成した熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422)の5%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後巻き取り、30℃で3日間キュアし本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mである。
【0052】
[実施例2]
接着剤 二価アルコール変性ヘキサメチレンジイソシアネート(自己乳化型ポリイソシアネート 平均分子量 1000)の50wt%水分散液を乾燥後の塗布量が0.40g/mになるように多孔性繊維膜へ塗布した以外は実施例1と同じ方法で感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0053】
[実施例3]
実施例1の多孔性繊維膜に接着剤 二価アルコール変性ヘキサメチレンジイソシアネート(自己乳化型ポリイソシアネート 平均分子量 1000)の50wt%水分散液を乾燥後の塗布量が0.40g/mとなるようにロールコーターで延転塗布し、熱可塑性樹脂フィルム(厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム)と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性繊維膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422)の5%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後巻き取り、30℃で3日間キュアし本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mである。
【0054】
[実施例4]
接着剤 二価アルコール変性ヘキサメチレンジイソシアネート(自己乳化型ポリイソシアネート 平均分子量 1000)の50wt%水分散液を多孔性繊維膜へ乾燥後の塗布量が1.02g/mになるように塗布した以外は実施例3と同じ方法で感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0055】
[実施例5]
接着剤 二価アルコール変性ヘキサメチレンジイソシアネート(自己乳化型ポリイソシアネート 平均分子量 1000)の50wt%水分散液を多孔性繊維膜へ乾燥後の塗布量が0.40g/mになるように塗布したのち、これを乾燥させてから熱可塑性樹脂フィルムと重ね合わせた以外は実施例3と同じ方法で感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0056】
[実施例6]
熱可塑性樹脂フィルム(厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム)に接着剤 二価アルコール変性ヘキサメチレンジイソシアネート(自己乳化型ポリイソシアネート 平均分子量 1000)の20wt%水分散液を乾燥後の塗布量が0.40g/mとなるようにグラビアコーターで塗布し、実施例1の多孔性繊維膜と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性繊維膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422)の5%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後巻き取り、30℃で3日間キュアし本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mである。
【0057】
[比較例1]
実施例1の多孔性繊維膜に接着剤 アデカボンタイターHUX401(旭電化社製)の40wt%水分散液を乾燥後の塗布量が2.0g/mとなるようにロールコーターで延転塗布し、熱可塑性樹脂フィルム(厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム)と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性繊維膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422)の5%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後巻き取り、感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mである。
【0058】
[実施例7]
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作成>
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社 エスレックBHS 重量平均分子量:6.6万) 1.5部
タルク(日本タルク株式会社ミクロエースL−1) 0.5部
ソルビタン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ株式会社 SO−15) 0.1部
変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社 KF6012) 0.1部
アクリル系ポリマーO/W型エマルション(ジョンソンポリマー株式会社Joncryl−711) 0.2部
以上を酢酸エチル 22.6 に溶解、分散した後、これを攪拌しながら、HEC 1%水溶液 25部をゆっくり添加して白濁した多孔性樹脂膜形成用塗布液を得た。得られた塗布液を20℃50%RHの雰囲気中で、熱可塑性樹脂フィルム(厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム)上にダイコーターで塗布・乾燥し多孔性樹脂膜を形成しロール状に巻き取った。 乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は1.6g/mである。
【0059】
<水系ポリイソシアネート接着剤の作成>
トルイレン−2,4−ジイソシアネート(平均分子量1000) 50部
界面活性剤 TI−10(モノイソステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、HLB 15.0、日本サーファクタント工業) 1部
水 49部
以上を攪拌混合し、水系ポリイソシアネート接着剤を得た。
【0060】
<感熱孔版印刷用マスターの作成>
上記接着剤を、実施例1の多孔性繊維膜に乾燥後の塗布量が0.4g/mとなるようにロールコーターで延転塗布し、前記にて作成した熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422)の5%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後巻き取り、30℃で3日間キュアし本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mである。
【0061】
[実施例8]
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作成>
ABS樹脂(電気化学工業 GR3000 ビカット軟化点(5kg加重):95℃ 熱変形温度(18.6kgf/cm):85℃) 2.5部
タルク(日本タルク株式会社ミクロエースL−1) 0.5部
以上をアセトン 15部に溶解、分散した後、これを攪拌しながら、IPA 10部をゆっくり添加して白濁した多孔性樹脂膜形成用塗布液を得た。得られた塗布液を20℃50%RHの雰囲気中で、熱可塑性樹脂フィルム(厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム)上にダイコーターで塗布・乾燥し多孔性樹脂膜を形成しロール状に巻き取った。
乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は2.0g/mである。
【0062】
<水系ポリイソシアネート接着剤の作成>
ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート(平均分子量1000) 50部
界面活性剤 TI−10(モノイソステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、HLB 15.0、日本サーファクタント工業社製) 1部
水 49部
以上を攪拌混合し、水系ポリイソシアネート接着剤を得た。
【0063】
<感熱孔版印刷用マスターの作成>
上記接着剤を、請求項1の多孔性繊維膜に乾燥後の塗布量が0.4g/mとなるようにロールコーターで延転塗布し、前記にて作成した熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製 SF8422)の5%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後巻き取り、30℃で3日間キュアし本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mである。
【0064】
作成した感熱孔版印刷用マスターを前記した方法にて評価した。
結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
この結果から、以下のような顕著な事項が理解できる。
実施例1 接着剤の付着量が少ないため、接着強度が低めであり、耐刷試験時に感熱孔版印刷用マスターにわずかにシワが見られたものの、実使用上の問題はない。熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜の間に多孔性繊維膜を持つため、画質が良い。
実施例2 接着剤付着量の調整により、実施例1の高画質に加え、優れた耐刷性が得られている。
実施例3 熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜を積層した感熱孔版印刷用マスター。
実施例4 接着剤の付着量が多い為に、やや画像に白抜けが見られるが実使用上問題ない。
実施例5 接着剤の乾燥後に熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜を積層したことにより、接着剤がフィルム上に広がらず、実施例3よりも接着剤による穿孔阻害が減少。画質が改善された。
実施例6 接着剤を熱可塑性樹脂フィルムに塗布した感熱孔版印刷用マスター。実使用上問題ないものの、フィルム全体に接着剤を塗布しているので、実施例3と比較して画質が劣る。
比較例1 接着剤の接着力が低い為、画像に白抜けが多く出るほど多く接着剤を塗布しても、耐刷試験時にマスターが剥がれ、画像に乱れが生じた。
実施例7 界面活性剤を用いて水系ポリイソシアネート接着剤を作成した実施例。
自己乳化型ポリイソシアネート同様問題がない。
実施例8 界面活性剤を用いて水系ポリイソシアネート接着剤を作成した実施例。
自己乳化型ポリイソシアネート同様問題がない。
【符号の説明】
【0067】
1 熱可塑性樹脂フィルム
2 多孔性樹脂膜
3 多孔性繊維膜
4 多孔性支持体
5 積層体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特開昭51−2513号公報
【特許文献2】特開昭57−182495号公報
【特許文献3】特公平5−27556号公報
【特許文献4】特公平7−88499号公報
【特許文献5】特公平5−34155号公報
【特許文献6】特公平5−34156号公報
【特許文献7】特開平4−47707号公報
【特許文献8】特許第4549557号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂フィルム層、接着層、多孔性繊維膜層を有する感熱孔版印刷用マスターであって、前記接着層は、ポリイソシアネートを水に分散させてなる水系ポリイソシアネートを主成分剤とするものであり、前記多孔性繊維膜層は、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。
【請求項2】
少なくとも熱可塑性樹脂フィルム層、多孔性樹脂膜層、接着層、多孔性繊維膜層を有する感熱孔版印刷用マスターであって、前記多孔性樹脂膜層は、前記熱可塑性樹脂フィルム上に、多孔性樹脂膜層成形用流動体を用いて積層され、該多孔性樹脂膜層成形用流動体は、樹脂とその樹脂の良溶媒と貧溶媒を含有し、前記接着層は、ポリイソシアネートを水に分散させてなる水系ポリイソシアネートを主成分剤とするものであり、前記多孔性繊維膜層は、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。
【請求項3】
接着剤の乾燥後に多孔性繊維膜を積層し接着したことを特徴とする請求項1又は2に記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項4】
前記ポリイソシアネートが自己乳化型ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項5】
接着剤の乾燥後の付着量が、0.2g/m〜1.0g/mの範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項6】
層間の接着強度が2N/m以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項7】
多孔性繊維膜または多孔性樹脂膜が積層された面と反対側の熱可塑性樹脂フィルムの王研式平滑度が5000秒以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター
【請求項8】
接着剤が多孔性繊維膜に塗布されたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。

【図1】
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【公開番号】特開2013−111805(P2013−111805A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258526(P2011−258526)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】