説明

感熱転写シート

【課題】保存経時後の感熱転写シートを使用した場合に、ランニングによるヘッド汚れが顕著に少ない感熱転写シートを提供する
【解決手段】基材フィルムの一方の面に、特定のイエロー染料を含有するイエロー染料層を有し、他方の面に滑剤及び樹脂を含む耐熱滑性層が形成されている感熱転写シートであって、該耐熱滑性層に滑剤として特定のOH基を有するリン酸エステル及び/又はその塩を含有し、かつ
該感熱転写シートの耐熱滑性層側から20kVに加速したビーム径1μm以下の電子線を照射して得られる該耐熱滑性層中のリン元素のK線に由来する特性X線強度を縦横200μm四方の領域内の各地点でエネルギー分散型X線分光器により測定した場合に、該領域内における該強度の最大値が最小値に対して少なくとも2.5倍以上であり、かつ該領域内にリン元素K線由来の特性X線強度の極大値を有する極大領域が複数存在し、これら極大領域間における該特性X線強度の極大値の標準偏差を該特性X線強度の平均で割って求めた変動係数が0.25以下である感熱転写シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感熱転写シートに関するもので、さらに詳しくは保存経時後の感熱転写シートを使用した場合でのランニングによるヘッド汚れが著しく良化された感熱転写シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の熱転写記録方法が知られているが、中でも染料拡散転写記録方式は、銀塩写真の画質に最も近いカラーハードコピーが作製できるプロセスとして注目されている。しかも、銀塩写真に比べて、ドライである、デジタルデータから直接可視像化できる、複製作りが簡単であるなどの利点を持っている。
この染料拡散転写記録方式では、染料を含有する感熱転写シート(以下、インクシートともいう。)と感熱転写受像シート(以下、受像シートともいう。)とを重ね合わせ、次いで、電気信号によって発熱が制御されるサーマルヘッド等によってインクシートを加熱することでインクシート中の染料を感熱転写受像シートに転写して画像情報の記録を行うものであり、シアン、マゼンタ、イエローの3色を重ねて記録することで色の濃淡に連続的な変化を有するカラー画像を転写記録することができる。
【0003】
サーマルプリンターヘッドと感熱転写シートの焼付き防止、およびサーマルプリンターヘッドと感熱転写シート間の滑り性を付与する等の目的で、プリンターのサーマルプリンターヘッドに接する側の感熱転写シートには耐熱滑性層が設けられている。また、通常、この感熱転写シートは、基材フィルム上に染料層を塗工後、乾燥し、巻き取ってロール形態として一旦保管し、引き続きロールから引き出して所望の巾にカットして、再度巻き取ってロール形態として、プリンターにセットする製品形態として保管している。従って、この製品形態では、耐熱滑性層と染料層は接触した形で経時されるようになっており、そのため、経時中に染料層の色素が耐熱滑性層に転写し、しかる後にプリントを行うと、プリント時に色素の付着した耐熱滑性層がサーマルヘッドで加熱されるために、大量にプリントを行っていくと、熱による色素の分解物がサーマルヘッドの汚れとなって蓄積し、ついにはプリント時に画面故障を起すという問題があった。
一方、耐熱滑性層の研究は以前より行われており、例えば、特許文献1には滑り性を向上させるために耐熱滑性層にリン酸エステル系界面活性剤を添加することが、また、特許文献2には滑性を付与するために特定のリン酸エステル亜鉛塩を含有させることが開示されている。また、染料層に使用する色素の研究も以前より行われており、例えば、特許文献3では特定構造のイエロー色素の研究が開示されている。
しかしながら、これらの各特許文献に記載の感熱転写シートでは、上記の問題点に対し、必ずしも満足できるものでなく、その改良が強く望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平8−90942号公報
【特許文献2】特許第2655544号公報
【特許文献3】特公平6−19033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、保存経時後の感熱転写シートを使用した場合でのランニングによるヘッド汚れが著しく良化された感熱転写シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、下記手段で本発明の上記目的が達成できることを見出した。
(1)基材フィルムの一方の面に、イエロー染料を含有するイエロー染料層を有し、他方の面に滑剤及び樹脂を含む耐熱滑性層が形成されている感熱転写シートであって、該イエロー染料の少なくとも1種が下記一般式(1)で表されるイエロー色素であって、該耐熱滑性層に滑剤として下記一般式(P)で表される化合物を含有し、かつ
該感熱転写シートの耐熱滑性層側から20kVに加速したビーム径1μm以下の電子線を照射して得られる該耐熱滑性層中のリン元素のK線に由来する特性X線強度を縦横200μm四方の領域内の各地点でエネルギー分散型X線分光器により測定した場合に、該領域内における該強度の最大値が最小値に対して少なくとも2.5倍以上であり、かつ該領域内にリン元素K線由来の特性X線強度の極大値を有する極大領域が複数存在し、これら極大領域間における該特性X線強度の極大値の標準偏差を該特性X線強度の平均で割って求めた変動係数が0.25以下であることを特徴とする感熱転写シート。
【0007】
【化1】

【0008】
(一般式(1)中、Aは置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、RおよびRは各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基または置換もしくは無置換のカルバモイル基を表し、Rは置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表す。)
【0009】
一般式(P)
{(R1aO)(R2aO)P(=O)O}
【0010】
(一般式(P)中、Mは、水素原子、金属イオン、またはアンモニウムイオンを表す。R1aは、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。R2aは、水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。mはMの価数と同じであって1〜6の数を示す。)
(2)前記強度の最大値が最小値に対して少なくとも3.0倍以上であって、かつ前記分布の変動係数が0.22以下であることを特徴とする(1)に記載の感熱転写シート。
(3)前記耐熱滑性層に含有する前記一般式(P)で表される化合物の少なくとも1種の融点が40℃〜100℃であることを特徴とする(1)または(2)に記載の感熱転写シート。
(4)前記耐熱滑性層に、さらにアルキルカルボン酸の多価金属塩を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
(5)前記耐熱滑性層に、さらにタルク粒子を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
(6)前記タルク粒子の含有量と、前記一般式(P)で表される化合物の含有量との関係が、前記一般式(P)で表される化合物の含有量を100質量部としたとき、前記タルク粒子の含有量が30質量部以上であることを特徴とする(5)に記載の感熱転写シート。
(7)前記基材フィルムが、基材フィルムの少なくとも一方の面上に易接着層を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
(8)前記耐熱滑性層の樹脂が、該樹脂のポリマー鎖長末端もしくはポリマー構造中に2個以上の水酸基を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
(9)前記樹脂が、ポリアクリルポリオール樹脂であることを特徴とする(8)に記載の感熱転写シート。
(10)前記耐熱滑性層の前記樹脂が架橋されている架橋されていることを特徴とする(8)または(9)に記載の感熱転写シート。
(11)前記架橋における架橋反応が、40℃〜53℃の温度範囲でかつ1日〜20日の期間で行なわれてなるものであることを特徴とする請求項10に記載の感熱転写シート。
(12)前記感熱転写シートが、支持体上に、中空ポリマーラテックスを含有する断熱層とポリマーラテックスを含有する受容層を有する感熱転写受像シートと組み合わせて使用される感熱転写シートであることを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
(13)支持体上に、中空ポリマーラテックスを含有する断熱層とポリマーラテックスを含有する受容層とを有する感熱転写受像シートと、基材フィルムの一方の面にイエロー染料を含有する染料層を有し、他方の面に滑剤及び樹脂を含む耐熱滑性層を有する感熱転写シートとを、前記感熱転写受像シートの受容層と前記感熱転写シートの染料層とが接するように重ね合わせ、画像信号に応じた熱エネルギーを前記感熱転写シートの耐熱滑性層側から付与することにより画像を形成する画像形成方法であって、該イエロー染料の少なくとも1種が下記一般式(1)で表されるイエロー染料であり、該耐熱滑性層に滑剤として下記一般式(P)で表される化合物を含有し、かつ該感熱転写シートの耐熱滑性層側から20kVに加速したビーム径1μm以下の電子線を照射して得られる該耐熱滑性層中のリン元素のK線に由来する特性X線強度を縦横200μm四方の領域内の各地点でエネルギー分散型X線分光器により測定した場合に、該領域内における該強度の最大値が最小値に対して少なくとも2.5倍以上であり、かつ該領域内にリン元素K線由来の特性X線強度の極大値を有する極大領域が複数存在し、これら極大領域間における特性X線強度の極大値の標準偏差を該特性X線強度の平均で割って求めた変動係数が0.25以下であることを特徴とする画像形成方法。
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(1)中、Aは置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、RおよびRは各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基または置換もしくは無置換のカルバモイル基を表し、Rは置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表す。)
一般式(P)
{(R1aO)(R2aO)P(=O)O}
(一般式(P)中、Mは、水素原子、金属イオン、またはアンモニウムイオンを表す。R1aは、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。R2aは、水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。mはMの価数と同じであって1〜6の数を示す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明により、保存経時後の感熱転写シートを使用した場合でも、ランニングによるヘッド汚れが著しく少なく良化された感熱転写シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
1)感熱転写シート
(感熱転写シート(インクシート)の構成)
インクシートは熱転写画像形成の際に、感熱転写受像シートに重ねて置かれ、インクシート側からサーマルプリンターヘッド等によって加熱することにより染料(色素)をインクシートから感熱転写受像シートに転写するために用いられる。本発明のインクシートは、インクシートの基材フィルムの一方の面に、熱転写可能な染料及び樹脂を含む染料層(以下、熱転写層、感熱転写層ともいう)を有し、他方の面に、滑剤及び樹脂を含む耐熱滑性層を有する。基材フィルムと染料層間及び/または基材フィルムと耐熱滑性層間に易接着層(プライマー層)を設けることもできる。
【0015】
(耐熱滑性層)
本発明では、耐熱滑性層に滑剤としてOH基を有するリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩を含有する。
以下に本発明のOH基を有するリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩について好ましい態様を例示するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0016】
(OH基を有するリン酸エステル)
本発明に用いられるOH基を有するリン酸エステルとは、リン酸一分子当たり3つのリン酸基(OH)に対して、エステル化が1箇所(モノエステル)または2箇所(ジエステル)なされており、エステル化されていないOH基(水酸基)が残存しているものである。
【0017】
(リン酸エステルの塩)
本発明に用いられるリン酸エステルの塩とは、リン酸一分子当たりリン原子に結合した3つのOH基に対して、エステル化が1箇所(モノエステル)または2箇所(ジエステル)なされており、エステル化されていないOH基の水素原子の1つが金属イオンまたはアンモニウムイオンに置換された化合物のことである。
【0018】
上記のOH基を有するリン酸エステル及びリン酸エステルの塩としては、下記一般式(P)で表される化合物が好ましい。
【0019】
一般式(P)
{(R1aO)(R2aO)P(=O)O}
【0020】
式中、Mは水素原子、金属イオンまたはアンモニウムイオンを表し、R1aは脂肪族基またはアリール基を表し、R2aは水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族基、またはアリール基を表す。これらの脂肪族基やアリール基は置換基を有してもよい。mはMの価数と同じであって1〜6の数を示す。
上記脂肪族基やアリール基が置換してもよい置換基としては、例えば、脂肪族基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基等)、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルケノキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケノキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基等が挙げられる。
1a、R2aにおける脂肪族基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、これらの置換基はさらにこれらの置換基で置換されていてもよい。
1aは脂肪族基が好ましく、なかでもアルキル基またはアルケニル基が好ましく、R2aは水素原子または脂肪族基が好ましく、水素原子、アルキル基またはアルケニル基が好ましい。なお、これらの脂肪族基、アルキル基、アルケニル基は上述の置換基を有していてもよい。
1aまたは/およびR2aが脂肪族基である場合、以下の基である場合が好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
11〜R14は、各々独立に水素原子または置換基を表す。置換基としては、前記一般式(P)におけるR1a、R2aの脂肪族基やアリール基が有してもよい置換基が挙げられる。R11〜R14は水素原子またはアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。nは0〜20の数を表し、1〜8がさらに好ましい。R15は脂肪族基またはアリール基を表す。
15における脂肪族基は、アルキル基またはアルケニル基が好ましく、炭素原子数は6〜20が好ましく、12〜18がより好ましい。また、R15は置換基を有してもよく、該置換基としては、前記一般式(P)におけるR1a、R2aの脂肪族基やアリール基が有してもよい置換基が挙げられるが、無置換の脂肪族基が好ましい。
15のアリール基は、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。該アリール基は置換基を有してもよく、前記一般式(P)におけるR1a、R2aの脂肪族基やアリール基が有してもよい置換基が挙げられ、なかでもアルキル基が好ましい。この場合のアルキル基は、炭素原子数が6〜20が好ましく、12〜18がより好ましい。
15は、好ましくは脂肪族基であり、より好ましくはステアリル基、オレイル基である。
また、nが0の場合も本発明においては好ましい。
OH基を有するリン酸エステルの中で炭素数12〜18のアルキル基を有するリン酸モノエステルまたはジエステルが更に好ましい。
【0023】
MおよびR2aにおける金属イオンは1価金属イオンであっても多価金属イオンであってもよい。1価金属イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンが最も好ましい。多価金属イオンとしてはアルカリ金属イオン以外の任意の多価金属イオンであり、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、銅イオン、鉛イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、クロムイオンおよびマンガンイオンなどが挙げられるが、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンが好ましく、亜鉛イオンが最も好ましい。
アンモニウムイオンとしては下記一般式で表わされるイオンが好ましい。
N(RA1)(RA2)(RA3)(RA4
上記において、RA1〜RA4は各々独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基を表し、該置換基としては、前記一般式(P)におけるR1a、R2aの脂肪族基やアリール基が有してもよい置換基が挙げられる。これらの置換基のうち、好ましくはヒドロキシル基、フェニル基である。また、RA1〜RA4のいずれか2〜3個の基が互いに結合して環(例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環、ピペラジン環、インドリン環、キヌクリジン環、ピリジン環)を形成してもよい。
A1〜RA4は水素原子または置換基を有してもよいアルキル基が好ましい。
アンモニウムイオンとしては、NH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)、モルホリニウム、N(CHCHOH)、NH(Cが好ましく、NH、NH(CHCHOH)、モルホリニウムがより好ましい。
【0024】
本発明においては、前記OH基を有するリン酸エステル及び/または前記リン酸エステルの塩として前記一般式(P)で表される化合物を含有するが、これを単独で使用してもよく、これらを複数種併用することもできる。
【0025】
これらのリン酸エステルは、その多くが市販されており、例えば、日光ケミカルズ(株)のNIKKOL DLP−10、NIKKOL DOP−8NV、NIKKOL DDP−2、NIKKOL DDP−4、NIKKOL DDP−6、NIKKOL DDP−8、NIKKOL DDP−10、第一工業製薬(株)のプライサーフAL、プライサーフA208F、プライサーフA208N、プライサーフA217E、プライサーフA219B、東邦化学工業(株)のフォスファノールRB410、フォスファノールRB710、フォスファノールGF199、フォスファノールLP700、フォスファノールLB400、堺化学工業(株)のPhoslexA―8、PhoslexA―18、PhoslexA―18D(いずれも商品名)が挙げられる。
これ以外に、ジラウリルリン酸エステル、ジオレイルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、ジ(ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル)リン酸が挙げられる。
【0026】
リン酸エステルの塩としては、その多くが市販されており、例えば、第一工業製薬(株)のプライサーフM208B、プライサーフM208F、東邦化学工業(株)のフォスファノールRD720、フォスファノールGF185、フォスファノールGF215、フォスファノールRS710M、フォスファノールSC6103、堺化学工業(株)のLBT―1830、LBT―1830精製品、LBT―2230、LBT―1813、LBT―1820(いずれも商品名)が挙げられる。
これ以外に、ジラウリルリン酸エステルの亜鉛塩、ジオレイルリン酸エステルの亜鉛塩、ジステアリルリン酸エステルの亜鉛塩、ジ(ポリオキシエチレンノニルエーテル)リン酸ナトリウム、ジ(ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル)リン酸、ジ(ポリオキシエチレンデシルフェニルエーテル)リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0027】
本発明のOH基を有するリン酸エステルおよびリン酸エステルの塩の総塗設量は耐熱滑性層の総塗設質量の1%以上25%以下であることが好ましく、2%以上15%以下であることがさらに好ましい。また、本発明のOH基を有するリン酸エステルおよびリン酸エステルの塩を複数種併用することも好ましい。これらOH基を有するリン酸エステルおよびリン酸エステルの塩が固体であり、かつ耐熱滑性層用塗工液に対する溶解度が低いあるいは溶解しない場合には、耐熱滑性層用塗工液への分散を早めるあるいは安定化するためにあらかじめ粉末状の形態にしておくことが好ましく、粒子サイズとしては0.1μmから100μmが好ましく、1μmから30μmがより好ましい。
【0028】
次に本発明において規定する、耐熱滑性層のリン元素のK線に由来する特性X線強度の測定方法について述べる。
(特性X線強度)
特性X線強度測定方法は、原理としては電子線照射により試料中の原子を励起して得られる特性X線の強度を測定するものであり、以下に詳細に説明する。
(電子線照射)
照射する電子線は解像度を確保するために加速電圧20kV、ビーム径が1μm以下とする。加速電圧が上昇しても下降してもリン元素由来の特性X線強度は低下し、同時にベースラインノイズも増加するため正確な強度を測定することが出来ない。ビームの照射により試料中で電子が散乱されるため空間分解能はビーム径より大きくなる。電子の散乱は元素の種類によっても異なるが、本発明においては加速電圧20kVで深さ方向が約5μm、巾方向が約10μmであり、ビーム径が1μm以下であれば空間分解能に差はない。測定する特性X線強度を大きくするためには、通常電流量を増加させるが同時にビーム径の増加を伴う。より大電流を得られ、電流量増加によるビーム径増大が小さい理由から電界放出型電子銃(Field Emission Electron Gun)を電子源として用いる。電流量と特性X線強度は比例するため電流量を一定に保つ。
【0029】
(特性X線測定)
測定方式として、波長分散型X線分光法(Wavelength Dispersive X−ray spectrometry,略称「WDS」または「WDX」)およびエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray spectrometry,略称「EDS」または「EDX」)がある。各々特徴を有する測定手法であるが、微小領域の分析に優れること、分析時間が短いことから本発明ではエネルギー分散型X線分光法を用いる。本発明においては、一ヶ所の測定時間は1分から10分程度で実施することが出来る。リン元素の特性X線はKα1線(2.014keV)、Kα2線(2.013keV)およびKβ1線(2.139keV)の3種があるが、エネルギー分散型X線分光法においては各々が重なって1つのピークとして検出されるためこれをK線と称する。本発明のリン元素のK線に由来する特性X線強度とは、前記リン元素のK線強度のことである。同一試料の複数の箇所でリン元素K線由来の特性X線強度測定を行う場合には前記電流量に加えて測定時間も一定に保つことが好ましい。
【0030】
電子線源が併用出来ることおよび測定位置を確認出来ることのために、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope 略称「SEM」)にエネルギー分散型X線分光器を装備した装置(略称「SEM−EDX」、「SEM−EDS」)による測定が好ましい。
具体的には、試料をまずSEM測定して電子ビームのピントが十分合っていることを確認し、同じ領域全体をEDX(エネルギー分散型X線分光器)により走査測定してリンの元素マッピングを実施する。EDXによる元素マッピングとは、電子ビームを走査しながら各箇所において特性X線を短時間で測定してマッピングする方法であり、マッピング像からリン元素含有量の多い地点と少ない地点を大まかに選定することが出来る。選定した地点毎に電子ビームを走査せず固定してリン元素K線由来の特性X線強度を測定することで各地点での正確な相対強度を測定することが出来る。
ここで、得られた強度値を、支持体に平行に平面(2次元距離平面、互いに直行するX軸とY軸)を取り、この平面に直行する縦軸(Z軸)にリン元素K線由来の特性X線強度を取った3次元空間をプロットした場合、上記強度値の複数の山(その山頂が極大値)と谷(その谷底が極小値)が存在する。
本発明において、特性X線強度の極大領域とは、特性X線強度の少なくとも1つの極大値(上記3次元空間プロットにおける強度値の一つの山頂)を含み、かつこの極大値の地点に隣接してその周囲を取り囲む特性X線強度の低い地点(その極小値が、上記の谷底)に対して該極大値(最大値)が該極小値(最小値)の1.5倍以上の特性X線強度の極大値を有する極大領域(上記山の部分から上記谷の最も低い部分(極小値)を含む領域)のことである。ここで、もし、1.5倍未満であるならば、更に周囲の広い領域において同様の検証を行い、上記1.5以上の要件を満たすまで距離平面を広げ、特性X線強度の最も低い地点(極大領域内の最も低い地点)と特性X線強度の最も高い地点(極大領域内の最も高い地点)との関係が、上記1.5倍以上の関係を満たす極大領域を求める。このため、個々の特性X線強度の極大領域は距離平面面積が異なっており、一つの特性X線強度の極大領域の中に複数の極大値や極小値(山頂や谷底)があってもよい。このように、上記要件を満たすものを1つの特性X線強度の極大領域とする。本発明の測定方法においては前述の通り、巾方向の電子線の散乱が約10μmであるため空間分解能から、特性X線強度の極大領域の極大値を示す地点間の距離は少なくとも4μm以上離れている。
また、本発明において、特性X線強度の極大値(以下、これを「極大特性X線強度」ともいう)とは、上記極大領域中で測定された最も高い特性X線強度(一つの極大領域に含まれる1つ又は複数の極大値の中の最大値、すなわち、最も高い山の頂点に相当する強度値)のことである。
【0031】
200μm四方の領域内のリン元素K線由来の特性X線強度の最大値、最小値は、この200μm四方の領域内の最も該特性X線強度の大きい値、最も小さい値である。最小値は、一般的にはリン元素含有量の少ない地点を合計10〜20地点選定して電子ビームを照射して測定することで求めることができる。一方、最大値はリン元素含有量の多い各領域の中心に電子ビームを照射して測定することで求めることができる。
本発明において、リン元素含有量の多い領域は一般に盛り上がっているためにSEM測定で盛り上がった領域をあらかじめ特定しておき、リン元素含有量の多い領域を大まかに判別することができる。本発明において表面形状をSEM測定するために加速電圧を2〜5kVで行うことができる。
【0032】
(測定用試料準備)
試料に電子ビームを照射することで試料が帯電すると、帯電による電界で電子ビームがゆらぎ、かつ電子ビームの電流値も変動するため正確な測定が行えない。帯電を防止するためには、通常、試料表面を導電性薄膜で覆って帯電を防止する。導電性薄膜としては炭素(C)をスパッタリングによって20nmから35nmの厚さでコートして形成することが一般に好ましく行われる。
より詳細な説明は「表面分析技術選書 電子プローブ・マイクロアナライザー 日本表面科学会編」丸善(株)発行,1998年や、EPMA Electron probe microanalyzer電子プローブ・マイクロアナライザー 木ノ内 嗣郎 著 技術書院発行,2001年に記載されている。
【0033】
(耐熱滑性層中のリン元素K線由来の特性X線強度)
本発明においては、上記の方法で測定した耐熱滑性層中の各地点のリン元素K線由来の特性X線強度において、前記縦横200μm平方の領域内における特性X線強度の最小値に対して、該領域内の特性X線強度の最大値が2.5倍以上(好ましくは10.0倍以下)であることが好ましく、3.0倍以上(好ましくは8.0倍以下)であることがより好ましい。この値が大きいほど耐熱滑性層中でOH基を有するリン酸エステル又はリン酸エステルの塩が均一ではなく局在していることを表している。本発明においては耐熱滑性層中にこのようなOH基を有するリン酸エステル又はリン酸エステルの塩が局在化した領域(前述の特性X線強度の極大領域であり、すなわち、前述の特性X線強度の極小値に対して1.5倍以上の強度の極大値を有する領域)が複数存在するが、この領域の個数は200μm四方の領域に対して、10〜1000個が好ましく、20〜500個が最も好ましい。OH基を有するリン酸エステル又はリン酸エステルの塩の局在化した領域に対応するリン元素K線由来の特性X線強度(前述の特性X線強度の極大値)のばらつきが小さいことが好ましく、200μm四方の領域に存在するOH基を有するリン酸エステル又はリン酸エステルの塩の局在化した各領域に対応する変動係数(計算方法は後述する)が0.25以下であることが好ましく、0.22以下がより好ましく、0.20以下が最も好ましい。また、特性X線強度の極大値の平均の0.7倍から1.3倍の範囲にあるOH基を有するリン酸エステル又はリン酸エステルの塩の局在化した領域が個数として全体の80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、98%以上が最も好ましい。
特性X線強度の極大値の平均と標準偏差とから、分布の変動係数を求めることができる。計算式は以下の通りである。
数式(1) (特性X線強度の極大値の平均)=(特性X線強度の極大値の総和)/(総和をとった全測定数)
数式(2) (標準偏差)={[(各々の特性X線強度の極大値)―(特性X線強度の極大値の平均)]の2乗の総和/(総和をとった全測定数)}の0.5乗
数式(3) (変動係数)=(標準偏差)/(特性X線強度の極大値の平均)
【0034】
本発明において、前記のOH基を有するリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩は耐熱滑性層に滑り性を付与するために用いる。本発明によれば、上で詳述した本書に記載の方法に従ってリン元素K線由来の特性X線強度を測定し、その結果、前記所定領域内における特性X線強度の最大値の最小値に対する比の値が本発明で規定する所定の範囲内にあること、リン元素K線由来の特性X線強度の極大値を有する複数の極大領域間が存在すること、及び特性X線強度の極大値について前記数式(1)〜(3)により求められる変動係数の値が本発明で規定する所定の範囲内にあること、の条件が全て満たされた場合にのみ、保存経時後の感熱転写シートを使用した場合に、ランニングによるヘッド汚れを良化させることができるという優れた効果を奏するものである。ここで、以上の3つの条件をいずれも満たすことを、「OH基を有する所定のリン酸エステル又はその塩が本発明で規定する所定の分布状態を満たす」とも言う。
【0035】
次に本発明において規定する耐熱滑性層用の塗工液の製造方法について述べる。
耐熱滑性層用の塗工液は液中に分子状態で分散していない粒子状の領域を持つ液であるため、塗料工業で用いられる顔料分散液の製造手法を用いることができる。
製造工程として一般に、溶解工程と分散工程に大別することができる。溶解工程とは、耐熱滑性層成分の中で塗工液用の溶媒に溶解する成分を溶解して溶解液を作る工程のことであり、一般には樹脂を有機溶剤に溶解することが含まれる。分散工程とは、前記溶解液と、耐熱滑性層成分の中で塗工液用の溶媒に完全に溶解しない成分とを、混ぜて分散する工程のことである。塗工液用の溶媒に完全に溶解しない成分は2次凝集した粉体である場合が多く、分散工程には、(1)粉体表面を溶解液でぬらす工程、(2)凝集した粉体を一次粒子にほぐす、または一次粒子を粉砕する工程、(3)分散された粒子を安定化する工程、が挙げられる。(1)の工程は、粉体表面が溶解液でぬれ易いことが好ましく、粉体表面の空気と溶解液を置換することになるため、分散条件として高圧または高せん断力(ずり応力)が好ましい。(2)の工程には、粉体の凝集と解くために分散条件として高せん断力を要する。(3)の工程において、分散した粒子が液中で再凝集しないようにするため、また、塗工液を塗工後乾燥して溶剤が無くなった場合にも再凝集しないようにするために、各種添加剤を添加することができる。通常(1)〜(3)の工程は同一分散装置の中で同時に進行するが、(1)の工程を事前に実施する工程(プレミキシング)を設けることも好ましい。また樹脂を架橋剤で硬化させて耐熱滑性層を形成する場合には、一般に分散後の液に架橋剤を塗工前に添加して塗工を行うことができる。
【0036】
前記分散に用いる分散装置としては公知のものを使用できる。例えば、3本ロールミルは回転速度の異なるロール間の接点に働くせん断力と押し付け圧力を利用して分散するものであり、サンドミルおよびビーズミルは容器内でガラスビーズやジルコニアビーズのようなメディアを攪拌することで得られる衝撃力とずり応力を利用して分散するものである。ビーズミルにおけるメディアの攪拌が重力によるものであるために衝撃力とずり応力が制限されることに対して、メディアを回転する腕木によって強制的に攪拌して強い衝撃力とずり応力を得られるように改良されたアトライターがある。少量分散用としては以上の他にも、少量容器を振り混ぜるペイントシェーカーや、ビーズミルの衝撃力とずり応力が制限されることに対して、容器自体を自転と公転を同時に行うことでメディアを強制的に攪拌して強い衝撃力とずり応力を得られるように改良された遊星型ビーズミル等がある。 より詳細な説明は「塗料の流動と顔料分散」共立出版(株)発行,1992年や、「塗料と塗装(増補版)」(株)パワー社発行,平成6年や、「乳化・分散の理論と実際 理論編」特殊化学工業(株)発行,1997年や、「印刷インキ入門 改訂版」(株)印刷学会出版部発行,2002年に記載されている。
【0037】
本発明において、耐熱滑性層に滑り性を付与するために用いる前記のOH基を有するリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩は、溶解液に対する溶解性が低いものであるために耐熱滑性層用の塗工液中で分散粒子の状態となっており、また、塗工液を塗工後乾燥して形成する耐熱滑性層中でも分散粒子の状態となっているものと考えられる。また、分散過程では前述の通り、高せん断力を付与することで、発熱を伴うこと、更には一次粒子の粉砕を生じる場合がある。発熱に対して容器外壁や攪拌羽根中に熱媒体を通してバルクとして温度制御することができるが、せん断力を生ずるロール間の微視的な界面またはビーズ界面の微視的な領域での発熱を完全に抑えることはできない。このためOH基を有するリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩は分散工程中に、微視的な高せん断力領域の発熱により溶解し、その後析出する過程を経ていると思われる。この溶解と析出をコントロールして分散状態を制御し易くするために、OH基を有するリン酸エステルまたはリン酸エステルの塩において融点が40℃〜100℃のものを少なくとも1種使用することが好ましく、融点が50℃〜90℃であることが更に好ましい。
前述の理由により、耐熱滑性層中での分散粒子の状態は、原料の粉体の粒子サイズや形状とは一般には一致しない。更に分散条件は塗工液の組成、製造スケールおよび分散装置により大きく変化するために、一律に決められるものではない。このために、本発明においては耐熱滑性層中での分散状態を特性X線強度測定により規定する。
【0038】
本発明において、耐熱滑性層にその他の滑剤、可塑剤、安定剤、充填剤およびフィラー等の添加剤を併用してもよい。
フィラーとして、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化黒鉛等のフッ化物、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、硫化鉄等の硫化物、シリカ、コロイダルシリカ、酸化鉛、アルミナ、酸化モリブデン等の酸化物、グラファイト、雲母、窒化ホウ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム(ブルーサイト)、炭酸マグネシウム(マグネサイト)、炭酸マグネシウムカルシウム(ドロマイト)、粘土類(タルク、カオリン、酸性白土等)等の無機化合物からなるフィラー、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の有機樹脂、シリコーンオイル、アルキルカルボン酸多価金属塩(ステアリン酸亜鉛塩、ステアリン酸リチウム塩等)、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の各種ワックス類、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の界面活性剤を挙げることができる。フィラーの粒子サイズとしては0.1μmから50μmが好ましく、0.5μmから10μmがより好ましく、フィラーの粒子形状としては不定形、球形、立方体、針状、平板状等いずれの形状であっても用いることができるが、針状および平板状のものが好ましく用いられる。
これらの併用が可能な添加剤の中で、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、タルク、カオリンおよびアルキルカルボン酸多価金属塩が好ましく、酸化マグネシウム、タルクおよびアルキルカルボン酸多価金属塩がより好ましく、この内、アルキルカルボン酸多価金属塩としてはステアリン酸亜鉛塩がより好ましい。
ここで、本発明の効果をより効果的に奏するには、タルク(タルク粒子)またはアルキルカルボン酸多価金属塩を使用するのが好ましく、タルク(タルク粒子)とアルキルカルボン酸多価金属塩をともに使用するのが特に好ましい。
【0039】
タルクとは、マグネシウムの含水ケイ酸塩鉱物であり、理論組成はMgSi10(OH)である。ケイ酸塩の層状構造2層の間にマグネシウム含有層が挟みこまれた3層構造を単位構造としており、単位構造間のケイ酸塩層同士の結合が弱いためにへき開性を有し、柔らかく(モース硬度1)かつ滑り性を有する。また900℃付近まで分解せず、かつ大部分の薬品に不活性であるため、熱的および化学的に安定な物質である。上記タルクは単斜晶系および三斜晶系の2種が存在するが、本発明においてはいずれの晶系のタルクを用いることもでき、また単斜晶系および三斜晶系の混合物も用いることができる。
耐熱滑性層にタルクを含有させることは、タルクが柔らかいためにサーマルプリンターヘッドを傷つけ難く、滑り性を有することで感熱転写シートの伸びを抑制して印画シワを生じ難く、熱的および化学的に安定であることからサーマルプリンターヘッドに対する融着や腐食の影響が小さいことに有用性がある。
【0040】
タルクは、市販されている天然鉱物由来の粉末状タルクを使用することができ、例えば日本タルク(株)製のミクロエースシリーズ、SGシリーズ、松村産業(株)製のハイ・フィラーシリーズ、(株)福岡タルク工業所製のPSシリーズ、浅田製粉(株)製のJETシリーズ、竹原化学工業(株)製ハイトロンシリーズまたは日本ミストロン(株)製のMVシリーズ等(いずれも商品名)を挙げることが出来る。本発明においてタルク粒子の平均球相当径粒子サイズは、0.5〜10μmが好ましく、0.8〜5μmが更に好ましく、1〜4μmが最も好ましい。タルクの平均球相当径粒子サイズはレーザー回折散乱法で求めることができる。
本発明において、耐熱滑性層中のタルクの含有量の関係は、前記OH基を有するリン酸エステルおよびリン酸エステルの塩の総含有量を100質量部としたとき、30質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。なお、上限は好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、さらに好ましくは400質量部以下である。
【0041】
アルキルカルボン酸多価金属塩において、アルキルカルボン酸は、炭素数8〜25のアルキルカルボン酸が好ましく、炭素数12〜21がより好ましく、炭素数14〜20がされに好ましく、例えば、オクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などが挙げられ、多価金属としては、2価または3価の金属であるアルカリ土類金属、遷移金属が挙げられ、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、カドミウム、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄などが挙げられ、なかでも亜鉛が好ましい。アルキルカルボン酸多価金属塩としては、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸銅などが挙げられ、このなかでもステアリン酸亜鉛が好ましい。これらは市販されていたり、対応するカルボン酸から容易に合成することができる。
これらのアルキルカルボン酸多価金属塩は、耐熱滑性層の樹脂(バインダー樹脂)100質量部に対し、0.1〜50質量部使用するのが好ましく、0.5〜10質量部使用するのがより好ましい。
【0042】
耐熱滑性層に含まれるこれらのタルクやアルキルカルボン酸多価金属塩以外の添加剤の量は様々であるが、耐熱滑性層の総量に対して0.001質量%〜50質量%が好ましく、0.01質量%〜20質量%がより好ましい。
【0043】
エステル系界面活性剤には酸根を有しているものが有り、サーマルヘッドからの熱量が大になるとエステルが分解し、更に背面層のpHが低下してサーマルヘッドの腐食摩耗が激しくなる場合がある。これに対しては、中和したエステル系界面活性剤を用いる方法、水酸化マグネシウムなどの中和剤を用いる方法等がある。
その他の添加剤としては高級脂肪酸アルコール、オルガノポリシロキサン、有機カルボン酸等を挙げることができる。
【0044】
耐熱滑性層には樹脂を含むが、耐熱性の高い公知の樹脂を用いることができる。例として、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酢酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアセトアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン等のビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリビニルトルエン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性又はフッ素変性ウレタン等の天然又は合成樹脂の単体又は混合物を挙げることができる。
耐熱性を高めるため、紫外線又は電子ビームを照射して樹脂を架橋することが出来る。また、架橋剤を用い、加熱により架橋させることも可能である。この際、触媒を添加することも出来る。架橋剤としては、イソシアネート系(ポリイソシアネート、ポリイソシアネートの環状3量体等)、金属系(チタンテトラブチレート、ジルコニウムテトラブチレート、アルミニウムトリイソプロピレート等)等が挙げられる。これら架橋剤と反応させる樹脂の例としては、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリエステルポリオール、アルキドポリオール、およびアミノ基を側鎖に含むシリコーン化合物等が挙げられる。
【0045】
耐熱滑性層を塗設後に高温の更には高湿の環境に置くことで架橋剤との反応を促進することが知られている。この点、本発明においては、耐熱滑性層中に含有する前記一般式(P)で表されるリン酸エステル又はリン酸エステルの塩局在化構造が破壊されない条件を選ぶことが好ましい。また、本発明の耐熱滑性層における前記リン酸エステル又は塩局在化構造が破壊されない条件で十分に架橋反応を促進できるように、上記樹脂と架橋剤の組み合わせを選定することができる。60℃低湿条件であれば1日以内に十分架橋反応を促進できる樹脂と架橋剤の組み合わせが好ましい。
このような樹脂としては、樹脂のポリマー鎖長末端もしくはポリマー構造中に2個以上の水酸基を有するものであることが好ましい。ここで、樹脂のポリマー鎖長末端もしくはポリマー構造中に2個以上の水酸基を有するとは、該樹脂のポリマー鎖の長さ方向の末端もしくはそのポリマーの末端ではない構造中に水酸基を2個以上有していることを意味する。このような樹脂としては、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。なお、本発明においては、ポリアクリルポリオールにはポリメタアクリルポリオールも包含されるものである。本発明においては、これらのなかでもポリアクリルポリオールが好ましい。
樹脂のポリマー鎖長末端もしくはポリマー構造中に2個以上の水酸基を有する樹脂としては、市販のものを使用することができ、例えば、三井化学ポリウレタン(株)製タケラック(登録商標)シリーズ、綜研化学(株)製サーモラックシリーズ、日立化成(株)製ヒタロイドシリーズ、ハリマ化成(株)製ハリアクロンシリーズ、大日本インキ(株)製アクリディックシリーズ及び日本ポリウレタン(株)製ニッポランシリーズ(いずれも商品名)を挙げることが出来るがこれらに限定されない。
【0046】
樹脂のポリマー鎖長末端もしくはポリマー構造中に2個以上の水酸基を有する樹脂の水酸基価は樹脂の固形分に対して5〜300が好ましく、15〜100が最も好ましい。水酸基価とはJIS K−1557−1で規定されている試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのmg数のことである。このような樹脂の酸価は樹脂の固形分に対して20以下が好ましく、0〜10が最も好ましい。酸価とはJIS K−1557−5で規定されている試料1g中の遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数のことである。
【0047】
イソシアネート系架橋剤を用いて架橋させる場合には、IRスペクトル測定により残留イソシアネート基を検出することで架橋反応の進行を検出することができ、十分架橋反応を促進するとは、塗布して乾燥直後の耐熱滑性層中の残留イソシアネート基由来のIRスペクトルピーク強度に対して、架橋反応後の残留イソシアネート基由来のIRスペクトルピーク強度が20%以下であることであり、好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下であることである。
本発明の効果を効率的に発揮させるためには、樹脂と架橋剤の反応を促進する温度は65℃以下であることが好ましく、55℃以下であることがより好ましく、40℃から53℃であることが最も好ましい。また、樹脂と架橋剤の反応を促進する時間は、12時間以上40日以下であることが好ましく、18時間以上30日以下であることがより好ましく、1日以上20日以下であることが最も好ましい。
【0048】
耐熱滑性層は、前述の塗工液を、グラビアコーティング、ロールコーティング、ブレードコーティング、ワイヤーバーなどの公知の方法で塗設することによって形成される。耐熱滑性層の膜厚は0.1〜3μmの膜厚が好ましく、0.2〜2μmがより好ましい。
【0049】
(基材フィルム)
本発明の感熱転写シートの基材フィルムは特に限定されず、求められる耐熱性と強度を有するものであれば、従来公知の任意のものを使用することができる。例として、グラシン紙、コンデンサー紙、パフィン紙等の薄紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の耐熱性の高いポリエステル類、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエチレン誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、アイオノマー等のプラスチックの延伸あるいは未延伸フィルムや、これらの材料を積層したものが好ましい基材フィルムの具体例として挙げられる。ポリエステルフィルムはこれらの中でも特に好ましく、延伸処理されたポリエステルフィルムがより好ましく、基材フィルムの少なくとも一方の面に易接着層を形成した後に延伸して製造されたものが特に好ましい。
この基材フィルムの厚さは、強度及び耐熱性等が適切になるように材料に応じて適宜選択されるが、1〜30μm程度のものが好ましく用いられる。より好ましくは1〜20μm程度のものであり、さらに好ましくは3〜10μm程度のものが用いられる。
【0050】
(易接着処理)
基材フィルムは、塗布液の濡れ性及び接着性の向上を目的として、易接着処理を行なってもよい。易接着処理方法として、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等公知の樹脂表面改質技術を例示することができる。
このうち、基材フィルム上に塗布によって易接着層を形成することもでき、本発明においては易接着層を形成することが好ましい。易接着層に用いられる樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂やポリビニルアルコール樹脂等のビニル系樹脂、ポリビニルアセトアセタールやポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂等を例示することができる。
支持体に用いられる基材フィルムは、フィルムを溶融押出し形成する時に、未延伸フィルムに塗工処理を施し、その後に延伸処理して行なうことも可能である。
また、上記の処理は、二種類以上を併用することもできる。
ここで、前述のように、本発明においては、基材フィルムの少なくとも一方の面に、易接着層を形成後、延伸したものが好ましい。本発明の感熱転写シートは、染料層と基材フィルムの間に易接着層(染料バリア層)を設けることが好ましい。
【0051】
転写するための染料(好ましくは昇華性染料)を含む染料層は染料層塗工液を塗設して形成することが出来る。
【0052】
(染料層)
本発明の染料層は、イエロー、マゼンタ、シアンの各色の染料層及び必要に応じてブラックの染料層が同一の基材フィルム上に面順次で繰り返し塗り分けられているのが好ましい。一例として、イエロー、マゼンタ及びシアンの各色相の染料層が同一の基材フィルム上の長軸方向に、感熱転写受像シートの記録面の面積に対応して面順次に塗り分けられている場合を挙げることができる。この3層に加えて、ブラックの色相の染料層と転写性保護層(これは、後述する転写性保護層積層体であってもよい)のどちらか、あるいは双方が塗り分けられるのも好ましい態様である。
この様な態様を取る場合、各色の開始点をプリンターに伝達する目的で、感熱転写シート上に目印を付与することも好ましい態様である。このように面順次で繰り返し塗り分けることによって、染料の転写による画像の形成、さらには画像上への保護層の積層を一つの感熱転写シートで行なうことが可能となる。
しかしながら、本発明は前記のような染料層の設け方に限定されるものではない。昇華型熱転写インク層と熱溶融転写インク層を併設することも可能であり、また、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック以外の色相の染料層を設ける等の変更をすることも可能である。また、形態としては長尺であっても良いし、枚葉の熱転写シートであっても良いし、特に使用前の感熱転写シートが重なった状態で保管される態様に好ましく用いることができる。
【0053】
(染料層塗工液)
染料層塗工液は、少なくとも昇華性染料と、バインダー樹脂を含有するものであるが、必要に応じて、有機微粉末もしくは無機微粉末、ワックス類、シリコーン樹脂、含フッ素有機化合物等を含有することも本発明の好ましい態様である。
【0054】
本発明の感熱転写シートにおいて、各々の染料は、染料層中にそれぞれ20〜80質量%含有されることが好ましく、30〜70質量%含有されることがより好ましい。
染料層の塗設は、ロールコート、バーコート、グラビアコート、グラビアリバースコート等の一般的な方法で行われる。また染料層の塗設量は、0.1〜2.0g/m(固形分換算、以下本発明における塗布量は特に断りのない限り、固形分換算の数値である)が好ましく、更に好ましくは0.2〜1.2g/mである。染料層の膜厚は0.1〜2.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.2〜1.2μmである。
【0055】
染料層は単層構成であっても複層構成であってもよく、複層構成の場合、染料層を構成する各層の組成は同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
(染料)
以下に、本発明で使用する一般式(1)で表される色素についてさら詳細に説明する。
【0057】
【化4】

【0058】
一般式(1)中、Aは置換もしくは無置換のアリーレン基(炭素数は6〜12が好ましく、より好ましくはフェニレン基であり、例えば、p−フェニレン基)を表し、RおよびRは各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(炭素数は1〜10が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−オクチル基)、置換もしくは無置換のアルケニル基(炭素数は2〜10が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基)または置換もしくは無置換のアリール基(炭素数は6〜12が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基)を表し、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(炭素数は1〜10が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−オクチル基)、置換もしくは無置換のアリール基(炭素数は6〜12が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基)、置換もしくは無置換のアミノ基(炭素数は0〜12が好ましく、例えば、アミノ基、アルキルアミノ基、アニリノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、ウレタン基)、置換もしくは無置換のアルコキシ基(炭素数は1〜10が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基)、置換もしくは無置換のアリールオキシ基(炭素数は6〜12が好ましく、例えば、フェノキシ基)、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基(炭素数は2〜11が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基)、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基(炭素数は7〜13が好ましく、例えば、フェノキシカルボニル基)または置換もしくは無置換のカルバモイル基(炭素数は1〜13が好ましく、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基)を表し、Rは置換もしくは無置換のアルキル基(炭素数は1〜10が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−オクチル基)または置換もしくは無置換のアリール基(炭素数は6〜12が好ましく、例えば、フェニル基)を表す。
【0059】
ここで、前記、A、R、R、RおよびRの各基が置換してもよい置換基をさらに詳しく説明する。
以下に、このような置換基としては、下記の基が挙げられ、各々の置換基の具体的な基、各々の置換基の中での好ましい基を含めて説明する。
【0060】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。中でも塩素原子、臭素原子が好ましく、特に塩素原子が好ましい。
脂肪族基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族基(環状の脂肪族基とは、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、ビシクロアルキル基等の環状の脂肪族基を意味する)であり、飽和脂肪族基には、アルキル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基が含まれ、置換基を有してもよい。これらの炭素数は1〜30が好ましい。例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、ベンジルおよび2−エチルヘキシルを挙げることができる。ここで、シクロアルキル基としては置換もしくは無置換のシクロアルキル基が含まれる。置換もしくは無置換のシクロアルキル基は、炭素数3〜30のシクロアルキル基が好ましい。例としては、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシルを挙げることができる。ビシクロアルキル基としては、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基を挙げることができる。例として、ビシクロ[1.2.2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2.2.2]オクタン−3−イルを挙げることができる。さらに環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。
【0061】
不飽和脂肪族基としては、直鎖、分枝または環状の不飽和脂肪族基であり、アルケニル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基、アルキニル基が含まれる。アルケニル基としては直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。アルケニル基としては、炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基が好ましい。例としてはビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイルを挙げることができる。シクロアルケニル基としては、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基が好ましい。例としては、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イルが挙げられる。ビシクロアルケニル基としては、置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基が含まれる。ビシクロアルケニル基としては炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基が好ましい。例として、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2.2.2]オクト−2−エン−4−イルを挙げることができる。アルキニル基は、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基が好ましく、例えば、エチニル、およびプロパルギルが挙げられる。
【0062】
アリール基は、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基が好ましく、例えば、フェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニルが挙げられ、置換基を有してもよいフェニル基が好ましい。
ヘテロ環基は、置換もしくは無置換の芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、それらはさらに縮環していてもよい。これらのヘテロ環基としては、好ましくは5または6員のヘテロ環基であり、また環構成のヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が好ましい。さらに好ましくは、炭素数3〜30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。ヘテロ環基におけるヘテロ環としては、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、シンノリン環、フタラジン環、キノキサリン環、ピロール環、インドール環、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピラゾール環、イミダゾール環、ベンズイミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、ベンズオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、イソチアゾール環、ベンズイソチアゾール環、チアジアゾール環、イソオキサゾール環、ベンズイソオキサゾール環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、イミダゾリジン環、チアゾリン環などが挙げられる。
脂肪族オキシ基(代表としてアルコキシ基)は、置換もしくは無置換の脂肪族オキシ基(代表としてアルコキシ基)が含まれ、炭素数は1〜30が好ましい。例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n−オクチルオキシ、メトキシエトキシ、ヒドロキシエトキシおよび3−カルボキシプロポキシなどを挙げることができる。
アリールオキシ基は、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基が好ましい。アリールオキシ基の例として、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−tert−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシなどを挙げることができる。好ましくは、置換基を有してもよいフェニルオキシ基である。
【0063】
アシルオキシ基は、ホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基が好ましい。アシルオキシ基の例には、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシなどを挙げることができる。
【0064】
カルバモイルオキシ基は、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基が好ましい。カルバモイルオキシ基の例には、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシなどを挙げることができる。
脂肪族オキシカルボニルオキシ基(代表としてアルコキシカルボニルオキシ基)は、炭素数2〜30が好ましく、置換基を有していてもよい。例えば、メトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、tert−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシなどを挙げることができる。
【0065】
アリールオキシカルボニルオキシ基は、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基が好ましい。アリールオキシカルボニルオキシ基の例には、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシなどを挙げることができる。好ましくは置換基を有してもよいフェノキシカルボニルオキシ基である。
【0066】
アミノ基は、無置換のアミノ基、脂肪族アミノ基(代表としてアルキルアミノ基)、アリールアミノ基およびヘテロ環アミノ基を含む。アミノ基は、炭素数1〜30の置換もしくは無置換の脂肪族アミノ基(代表としてアルキルアミノ基)、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアミノ基が好ましい。アミノ基の例には、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ、ヒドロキシエチルアミノ、カルボキシエチルアミノ、スルフォエチルアミノ、3,5−ジカルボキシアニリノ、4−キノリルアミノなどを挙げることができる。
【0067】
アシルアミノ基は、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基が好ましい。アシルアミノ基の例には、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノなどを挙げることができる。
【0068】
アミノカルボニルアミノ基は、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基が好ましい。アミノカルボニルアミノ基の例には、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノなどを挙げることができる。なお、この基における「アミノ」とは、この基中のアミノ部分が前述のアミノ基と同義であることを意味する。他の基においても同様である。
【0069】
脂肪族オキシカルボニルアミノ基(代表としてアルコキシカルボニルアミノ基)は、炭素数2〜30が好ましく、置換基を有してもよい。例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、tert−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノなどを挙げることができる。
アリールオキシカルボニルアミノ基は、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基が好ましい。アリールオキシカルボニルアミノ基の例には、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノなどを挙げることができる。置換基を有してもよいフェニルオキシカルボニルアミノ基が好ましい。
【0070】
スルファモイルアミノ基は、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基が好ましい。スルファモイルアミノ基の例には、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノなどを挙げることができる。
【0071】
脂肪族(代表としてアルキル)もしくはアリールスルホニルアミノ基は、炭素数1〜30の置換もしくは無置換の脂肪族スルホニルアミノ基(代表としてアルキルスルホニルアミノ基)、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ基(好ましくは置換基を有してもよいフェニルスルホニルアミノ基)が好ましい。例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノなどを挙げることができる。
【0072】
脂肪族チオ基(代表としてアルキルチオ基)は、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基が好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオなどを挙げることができる。
【0073】
スルファモイル基は、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基が好ましい。スルファモイル基の例には、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイルなどを挙げることができる。
【0074】
脂肪族(代表としてアルキル)もしくはアリールスルフィニル基は、炭素数1〜30の置換または無置換の脂肪族スルフィニル基(代表としてアルキルスルフィニル基)、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基(好ましくは置換基を有してもよいフェニルスルフィニル基)が好ましい。例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニルなどを挙げることができる。
脂肪族(代表としてアルキル)もしくはアリールスルホニル基は、炭素数1〜30の置換または無置換の脂肪族スルホニル基(代表としてアルキルスルホニル基)、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基(好ましくは置換基を有してもよいフェニルスルホニル基)が好ましい。例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−トルエンスルホニルなどを挙げることができる。
【0075】
アシル基は、ホルミル基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換の脂肪族カルボニル基(代表としてアルキルカルボニル基)、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基(好ましくは置換基を有してもよいフェニルカルボニル基)、炭素数4〜30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基が好ましい。例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2−ピリジルカルボニル、2−フリルカルボニルなどを挙げることができる。
【0076】
アリールオキシカルボニル基は、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基が好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−tert−ブチルフェノキシカルボニルなどを挙げることができる。好ましくは置換基を有してもよいフェニルオキシカルボニル基である。
【0077】
脂肪族オキシカルボニル基(代表としてアルコキシカルボニル基)は、炭素数2〜30が好ましく、置換基を有してもよい。例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニルなどを挙げることができる。
カルバモイル基は、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル基が好ましい。カルバモイル基の例には、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイルなどを挙げることができる。
【0078】
アリールもしくはヘテロ環アゾ基として、例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾなどを挙げることができる。
イミド基として、例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミドなどを挙げることができる。
これらに加え、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基が挙げられる。
【0079】
以上の前記A、R、R、RおよびRの各基が置換してもよい置換基の例としてのこれらの各基はさらに置換基を有してもよく、このような置換基としては、上述の置換基が挙げられる。
【0080】
Aは、置換もしくは無置換のアリーレン基であり、好ましくは置換もしくは無置換のフェニレン基であり、より好ましくはメチル基または塩素原子が置換したフェニレン基または無置換のフェニレン基であり、最も好ましくは無置換のフェニレン基である。なお、Aにおけるフェニレン基としてはp−フェニレン基が好ましい。
【0081】
として、好ましくは置換もしくは無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)、アリル基、置換もしくは無置換のアリール基(好ましくは炭素数6〜10)であり、より好ましくは置換または無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1〜6)、アリル基であり、最も好ましくは無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1〜4)であり、なかでもエチル基が好ましい。
【0082】
として、好ましくは置換もしくは無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)、アリル基、置換もしくは無置換のアリール基(好ましくは炭素数6〜10)であり、より好ましくは置換または無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1〜6)、アリル基であり、最も好ましくは無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1〜4)であり、なかでもエチル基が好ましい。
【0083】
として、好ましくは置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基であり、より好ましくはジアルキルアミノ基(好ましくは炭素数2〜8)、無置換のアミノ基、無置換のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6)であり、さらに好ましくはジアルキルアミノ基(好ましくは炭素数2〜4)、無置換のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4)であり、最も好ましくは無置換のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4)であり、なかでもエトキシ基が好ましい。
【0084】
として、好ましくは置換または無置換の炭素数1〜8のアルキル基、置換または無置換のアリール基(好ましくは炭素数6〜10)であり、より好ましくは置換もしくは無置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基(好ましくは炭素数6〜10)であり、さらに好ましくは置換もしくは無置換のアリール基(好ましくは無置換のアリール基でさらに好ましくは炭素数6〜10)であり、なかでも置換もしくは無置換のフェニル基が好ましく、最も好ましくは無置換のフェニル基である。
【0085】
一般式(1)で表される色素の好ましい置換基の組み合わせ(A、R、R、RおよびRの組み合わせ)については、これらの置換基の少なくとも1つが前記の好ましい置換基である色素が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい置換基である色素がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である色素が最も好ましい。
【0086】
一般式(1)で表される色素の好ましい置換基の組み合わせは、Aは置換もしくは無置換のフェニレン基であり、Rが置換もしくは無置換の炭素数1〜8のアルキル基、アリル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリール基であり、Rが置換もしくは無置換の炭素数1〜8のアルキル基、アリル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリール基であり、Rは置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基であり、Rは置換もしくは無置換の炭素数1〜8のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10アリール基である組み合わせである。
より好ましい置換基の組み合わせは、Aは置換もしくは無置換のフェニレン基であり、Rが置換もしくは無置換の炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、置換もしくは無置換のフェニル基であり、Rが置換もしくは無置換の炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、置換もしくは無置換のフェニル基であり、Rは置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基であり、Rは置換もしくは無置換の炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のフェニル基である組み合わせである。
最も好ましい置換基の組み合わせは、Aはメチル基または塩素原子で置換されたフェニレン基または無置換のフェニレン基であり、Rが置換もしくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基、アリル基であり、Rが置換もしくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基、アリル基であり、Rは置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基であり、Rは置換もしくは無置換のフェニル基である組み合わせである。
【0087】
一般式(1)で表される色素のうち、市販されていないものに関しては、一般的に行われているピラゾロン誘導体とアミノベンズアルデヒド誘導体との脱水縮合反応により合成することができる。
以下に、本発明の一般式(1)で表されるイエロー色素の具体例を示すが、本発明で用いることができるイエロー色素は以下の具体例によって限定的に解釈されるものではない。
【0088】
【表1】

【0089】
本発明に用いられる染料は、その他の色素を併用することも可能であり、熱により拡散し、感熱転写シートに組み込み可能かつ、加熱により感熱転写シートから感熱転写受像シートに転写するものであれば特に限定されず、感熱転写シート用の色素として従来から用いられてきている色素、あるいは公知の色素を併用することができる。
好ましい色素としては、たとえば、ジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン等のメチン系、インドアニリン、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系等が挙げられる。
【0090】
具体例を挙げると、イエロー色素としては、ディスパースイエロー231、ディスパースイエロー201、ソルベントイエロー93等が挙げられ、本発明の一般式(1)で表される色素と併用してもよい。マゼンタ色素としては、ディスパースバイオレット26、ディスパースレッド60、ソルベントレッド19等が、さらに、シアン色素としては、ソルベントブルー63、ソルベントブルー36、ディスパースブルー354、ディスパースブルー35等が挙げられるがこれらに限定されない。また、上記の各色相の色素を任意に組み合わせることも可能である。
【0091】
(染料層用樹脂)
本発明の感熱転写シートにおいて、通常、染料は樹脂(バインダー、樹脂バインダーとも呼ばれる)と呼ばれる高分子化合物に分散された状態で基材フィルム上に塗設されている。本発明では染料層に含まれる樹脂バインダーとして、公知のものを使用することができる。例として、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド等のアクリル系樹脂、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール系樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酢酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、硝酸セルロース等の変性セルロース系樹脂ニトロセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース及びエチルセルロースなどのセルロース系樹脂や、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、各種エストラマー等が挙げられ、上記からなる群から選ばれる少なくとも1種類の樹脂により染料層は構成される。
これらを単独で用いる他、これらを混合、または共重合して用いることも可能であり、各種架橋剤によって架橋することも可能である。
本発明において、セルロース系樹脂およびポリビニルアセタール系樹脂が好ましく、より好ましくはポリビニルアセタール系樹脂である。中でもポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が本発明において好ましく用いられる。
染料層における染料の樹脂に対する含有量の比(質量比)はどのような割合であってもよいが、0.1〜5.0が好ましく、0.5〜3.0がより好ましく、0.9〜2.0がさらに好ましい。
【0092】
(転写性保護層積層体)
本発明では、感熱転写シートに転写性保護層積層体を面順次で設けることも好ましい。転写性保護層積層体は、熱転写された画像の上に透明樹脂からなる保護層を熱転写で形成し、画像を覆い保護するためのものであり、耐擦過性、耐光性、耐候性等の耐久性向上を目的とする。転写された染料が受像シート表面に曝されたままでは、耐光性、耐擦過性、耐薬品性等の画像耐久性が不十分な場合に有効である。
転写性保護層積層体は、基材フィルム上に、基材フィルム側から離型層、保護層、接着剤層の順に形成することができる。保護層を複数の層で形成することも可能である。保護層が他の層の機能を兼ね備えている場合には、離型層、接着剤層を省くことも可能である。基材フィルムとしては、易接着層の設けられたものを用いることも可能である。
【0093】
(転写性保護層)
本発明の転写性保護層を形成する樹脂としては、耐擦過性、耐薬品性、透明性、硬度に優れた樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、これら各樹脂のシリコーン変性樹脂、紫外線遮断性樹脂、これら各樹脂の混合物、電離放射線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を用いることができる。なかでも、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
また、各種架橋剤によって架橋することも可能である。
【0094】
(転写性保護層樹脂)
アクリル樹脂としては、従来公知のアクリレートモノマー、メタクリレートモノマーの中から選ばれた少なくとも1つ以上のモノマーからなる重合体で、アクリル系モノマー以外にスチレン、アクリロニトリル等を共重合させても良い。好ましいモノマーとしてメチルメタクリレートを仕込み質量比で50質量%以上含有していることが挙げられる。
本発明のアクリル樹脂は、分子量が20,000以上100,000以下であることが好ましい。
【0095】
本発明のポリエステル樹脂としては、従来公知の飽和ポリエステル樹脂を使用できる。上記ポリエステル樹脂を使用する場合は、ガラス転移温度は50〜120℃が好ましく、又、分子量は2,000〜40,000の範囲が好ましく、更に4,000〜20,000の範囲が保護層転写時に箔切れ性が良くなり、より好ましい。
【0096】
(紫外線吸収剤)
本発明において、保護層および/または接着層に、紫外線吸収剤を含有することが好ましく、紫外線吸収剤としては、従来公知の無機系紫外線吸収剤、有機系紫外線吸収剤が使用できる。有機系紫外線吸収剤としては、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、置換アクリロニトリル系、ヒンダートアミン系等の非反応性紫外線吸収剤や、これらの非反応性紫外線吸収剤に、例えば、ビニル基やアクリロイル基、メタアクリロイル基等の付加重合性二重結合、あるいは、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基等を導入し、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂に共重合若しくは、グラフトしたものを使用することができる。また、樹脂のモノマーまたはオリゴマーに紫外線吸収剤を溶解させた後、このモノマーまたはオリゴマーを重合させる方法が開示されており(特開2006−21333号公報)、こうして得られた紫外線遮断性樹脂を用いることもできる。この場合には紫外線吸収剤は非反応性のもので良い。
これら紫外線吸収剤に中でも、特にベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系が好ましい。これら紫外線吸収剤は画像形成に使用する染料の特性に応じて、有効な紫外線吸収波長域をカバーするように組み合わせて使用することが好ましく、また、非反応性紫外線吸収剤の場合には紫外線吸収剤が析出しないように構造が異なるものを複数混合して用いることが好ましい。
紫外線吸収剤の市販品としては、チヌビン−P(チバガイギー製)、JF−77(城北化学製)、シーソープ701(白石カルシウム製)、スミソープ200(住友化学製)、バイオソープ520(共同薬品製)、アデカスタブLA−32(旭電化製)(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0097】
(転写性保護層の形成)
保護層の形成法は、用いられる樹脂の種類に依存するが、前記染料層の形成方法と同様の方法で形成すことができ、0.5〜10μmの厚さが好ましい。
【0098】
(離型層)
前記転写性保護層が熱転写時に基材フィルムから剥離しにくい場合には、基材フィルムと保護層との間に離型層を形成することができる。転写性保護層と離型層の間に更に剥離層を形成しても良い。離型層は、例えば、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース誘導体樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸系ビニル樹脂、アクリルビニルエーテル系樹脂、無水マレイン酸樹脂、及びこれらの樹脂群の共重合体を少なくとも1種以上含有する塗工液を、従来公知のグラビアコート、グラビアリバースコート等の方法で塗設、乾燥することにより形成することができる。上記の樹脂の中でも、アクリル樹脂として、アクリル酸やメタクリル酸等の単体、または他のモノマー等と共重合させた樹脂、あるいはセルロース誘導体樹脂が好ましく、基材フィルムとの密着性、保護層との離型性において優れている。
各種架橋剤によって架橋することも可能であり、また、電離放射線硬化性樹脂および紫外線硬化性樹脂も用いることができる。
【0099】
離型層は、熱転写時に被転写体に移行するもの、あるいは基材フィルム側に残るもの、あるいは凝集破壊するもの等を、適宜選択することができるが、熱転写により離型層が基材フィルム側に残存し、離型層と転写性保護層との界面が熱転写された後の保護層表面になるようにすることが、表面光沢性、保護層の転写安定性等の点で優れており、好ましい態様である。離型層の形成方法は、従来公知の塗設方法で形成でき、その厚みは乾燥状態で0.5〜5μm程度が好ましい。
【0100】
(接着層)
転写性保護層積層体の最上層として、保護層の最表面に接着層を設けることができる。これによって保護層の被転写体への接着性を良好にすることができる。
【0101】
2)感熱転写受像シート
次に感熱転写プリントを形成するために本発明の感熱転写シートと組み合わせて使用できる感熱転写受像シート(以下、単に受像シートともいう。)に関して詳細に説明する。
感熱転写受像シートは、染料を受容する熱可塑性の受容ポリマーを含有する少なくとも1層の受容層を支持体上に有する。受容層には、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、その他の添加物を含有させることができる。支持体と受容層との間に、例えば断熱層(多孔質層)、光沢制御層、白地調整層、帯電調節層、接着層、プライマー層などの中間層が形成されていてもよい。支持体と受容層との間に少なくとも1層の断熱層を有することが好ましい。
受容層およびこれらの中間層は同時重層塗布により形成されることが好ましく、中間層は、必要に応じて複数設けることができる。
支持体の裏面側にはカール調整層、筆記層、帯電調整層が形成されていてもよい。支持体裏面各層を塗布するためには、ロールコート、バーコート、グラビアコート、グラビアリバースコート等の一般的な方法を用いることができる。
本発明においては、特に、支持体上に、中空ポリマー(粒子)ラテックスを含有する断熱層とポリマー(粒子)ラテックスを含有する受容層を有するものが、本発明の効果を効果的に奏する点で好ましい。
【0102】
感熱転写受像シートは、受容層に染料染着可能なポリマーラテックスを使用することが好ましい。またポリマーラテックスとしては単独でも複数のポリマーラテックスを混合使用してもよい。
【0103】
ポリマーラテックスとは一般に熱可塑性樹脂が微粒子として水溶性の分散媒中に分散されたものである。本発明のポリマーラテックスに用いられる熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、塩化ビニル共重合体、ポリウレタン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
このうちポリカーボネート、ポリエステル、塩化ビニル共重合体が好ましく、ポリエステル、塩化ビニル共重合体が特に好ましい。
【0104】
ポリエステルはジカルボン酸誘導体とジオール化合物との縮合により得られ、芳香環や飽和炭化環を含有してもよく、分散性を付与するための水溶性基してもよい。
【0105】
塩化ビニル共重合体としては、塩化ビニルと酢酸ビニル共重合体、塩化ビニルとアクリルレートの共重合体、塩化ビニルとメタクリレートの共重合体、塩化ビニルと酢酸ビニルとアクリレートの共重合体、塩化ビニルとアクリレートとエチレンの共重合体等が挙げられる。このように2元共重合体でも3元以上の共重合体でもよく、モノマーが不規則に分布していても、ブロック共重合していてもよい。
該共重合体にはビニルアルコール誘導体やマレイン酸誘導体、ビニルエーテル誘導体などの補助的なモノマー成分を添加してもよい。共重合体において塩化ビニル成分は50質量%以上含有されていることが好ましく、またマレイン酸誘導体、ビニルエーテル誘導体等の補助的なモノマー成分は10質量%以下であることが好ましい。
ポリマーラテックスは単独でも混合物として使用してもよい。ポリマーラテックスは、均一構造であってもコア/シェル型であってもよく、このときコアとシェルをそれぞれ形成する樹脂のガラス転移温度が異なっても良い。
【0106】
この様なポリマーラテックスのガラス転移温度(Tg)は、20℃以上90℃以下であることが好ましく、より好ましくは25℃以上80℃以下である。
【0107】
商業的に入手可能なアクリレートラテックスとしては、日本ゼオン株式会社製、NipolLX814(Tg25℃)、NipolLX857X2(Tg43℃)等(いずれも商品名)が挙げられる。
商業的に入手可能なポリエステルラテックスとしては、東洋紡株式会社製 バイロナールMD−1100(Tg40℃)、バイロナールMD−1400(Tg20℃)、バイロナールMD−1480(Tg20℃)、MD−1985(Tg20℃)等(いずれも製品名)が挙げられる。
商業的に入手可能な塩化ビニル共重合体としては、日信化学工業株式会社製 ビニブラン276(Tg33℃)、ビニブラン609(Tg48℃)、住化ケムテックス株式会社製スミエリート1320(Tg30℃)、スミエリート1210(Tg20℃)等(いずれも商品名)が挙げられる。
【0108】
ポリマーラテックスの添加量は、ポリマーラテックスの固形分が受容層中の全ポリマーの50〜98質量%であることが好ましく、70〜95質量%であることがより好ましい。またポリマーラテックスの平均粒子サイズは、好ましくは1〜50000nmであり、より好ましくは5〜1000nmである。
【0109】
本発明で用いることができる感熱転写受像シートは、断熱層に中空ポリマーを含有することが好ましい。
本発明において中空ポリマーとは粒子内部に空隙を有するポリマー粒子であり、好ましくは水分散物であり、例えば、1)ポリスチレン、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂等により形成された隔壁内部に水などの分散媒が入っており、塗布乾燥後、粒子内の水が粒子外に蒸発して粒子内部が中空となる非発泡型の中空ポリマー粒子、2)ブタン、ペンタンなどの低沸点液体を、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステルのいずれか又はそれらの混合物もしくは重合物よりなる樹脂で覆っており、塗工後、加熱により粒子内部の低沸点液体が膨張することにより内部が中空となる発泡型マイクロバルーン、3)上記の2)をあらかじめ加熱発泡させて中空ポリマーとしたマイクロバルーンなどが挙げられる。
これらの中でも、上記1)の非発泡型の中空ポリマー粒子が好ましく、必要に応じて2種以上混合して使用することができる。具体例としてはロームアンドハース社製 ローペイク HP−1055、JSR社製 SX866(B)、日本ゼオン社製 Nipol MH5055 (いずれも商品名)などが挙げられる。
【0110】
これらの中空ポリマーの平均粒子径は0.1〜5.0μmであることが好ましく、0.2〜3.0μmであることがさらに好ましく、0.4〜1.4μmであることが特に好ましい。
また、中空ポリマーは、空隙率が20〜70%のものが好ましく、30〜60%のものがより好ましい。
【0111】
中空ポリマー粒子のサイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、その外径の円相当換算直径を測定し算出する。平均粒径は、中空ポリマー粒子を少なくとも300個透過電子顕微鏡を用いて観察し、その外形の円相当径を算出し、平均して求める。また中空ポリマーの空隙率とは、粒子体積に対する空隙部分の体積の割合から求める。
【0112】
中空ポリマーのポリマー特性として、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上200℃以下であることが好ましく、90℃以上180℃以下である中空ポリマーがさらに好ましい。中空ポリマーとしては、中空ポリマーラッテックスが特に好ましい。
【0113】
感熱転写受像シートの受容層及び/または断熱層には水溶性ポリマーを含有させることができる。ここで水溶性ポリマーとは、20℃において水100gに対し0.05g以上の溶解度を有し、より好ましくは0.1g以上、さらに好ましくは0.5g以上の溶解度を有する。
【0114】
感熱転写受像シートに用いることのできる水溶性ポリマーとして、カラギナン類、ペクチン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、水溶性ポリエステル等を挙げることができる。このうちゼラチンとポリビニルアルコールが好ましい。
【0115】
ゼラチンは分子量10,000から1,000,000までのものを用いることができ、ゼラチン中にCl、SO2−等の陰イオンを含んでいてもよいし、Fe2+、Ca2+、Mg2+、Sn2+、Zn2+などの陽イオンを含んでいても良い。ゼラチンは水に溶かして添加することが好ましい。
またゼラチンには、アルデヒド型架橋剤、N−メチロール型架橋剤、ビニルスルホン型架橋剤、クロロトリアジン型架橋剤等の公知の架橋剤を添加することができる。このうちビニルスルホン型架橋剤、クロロトリアジン型架橋剤が好ましく、具体的例としては、ビスビニルスルホニルメチルエーテル、N,N’−エチレン−ビス(ビニルスルホニルアセタミド)エタン、4,6−ジクロロ−2−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジンまたはそのナトリウム塩を挙げることができる。
【0116】
ポリビニルアルコールとしては、完全けん化物、部分けん化物、変性ポリビニルアルコール等の各種ポリビニルアルコールを用いることができる。これらポリビニルアルコールについては、長野浩一ら共著,「ポバール」(高分子刊行会発行)に記載のものが用いられる。ポリビニルアルコールは、その水溶液に添加する微量の溶剤あるいは無機塩類によって粘度調整をしたり粘度安定化させたりすることが可能であって、詳しくは上記文献144〜154頁記載のものを使用することができる。その代表例としてホウ酸を含有させることで塗布面質を向上させることができ、好ましい。ホウ酸の添加量は、ポリビニルアルコールに対し0.01〜40質量%であることが好ましい。
【0117】
ポリビニルアルコールの具体例として、完全けん化物としてはPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117Hなど、部分けん化物としてはPVA−203、PVA−205、PVA−210、PVA−220など、変性ポリビニルアルコールとしてはC−118、HL−12E、KL−118、MP−203が挙げられる。(いずれも商品名、株式会社クラレ製)
【0118】
感熱転写受像シートの受容層に、フッ素原子が置換した脂肪族基を側鎖に有する高分子化合物を含有させることができる。この場合、感熱転写シートが含有するフッ素原子が置換した脂肪族基を側鎖に有する高分子化合物と同一の高分子化合物を含有しても同じ範疇の異なる高分子化合物を含有してもよく、好ましい態様である。また、離型剤として公知のポリエチレンワックス、アミドワックス等の固形ワックス類、シリコーンオイル、リン酸エステル系化合物、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を含有してもよい。
【0119】
フッ素原子が置換した脂肪族基を側鎖に有する高分子化合物の含有量は、受容層の全固形分(質量)に対して0.01%〜20%であり、好ましくは0.1%〜10%であり、さらに好ましくは1%〜5%である。
【0120】
3)画像形成方法
次に本発明の感熱転写シートを用いて行うことのできる画像形成方法について説明する。
画像形成方法では、感熱転写受像シートの受容層と感熱転写シートの染料層とが接するように重ね合わせ、サーマルヘッドからの画像信号に応じた熱エネルギーを感熱転写シートの耐熱滑性層側から付与することにより画像を形成する。
具体的な画像形成は、例えば特開2005−88545号公報などに記載された方法と同様にして行うことができる。本発明では、消費者にプリント物を提供するまでの時間を短縮するという観点から、プリント時間は15秒未満が好ましく、3〜12秒がより好ましく、さらに好ましくは、3〜7秒である。
【0121】
上記プリント時間を満たすために、プリント時のライン速度は0.73msec/line以下であることが好ましく、更に好ましくは0.65msec/line以下である。また、高速化条件における転写効率向上の観点から、プリント時のサーマルヘッド最高到達温度は、180℃以上450℃以下が好ましく、更に好ましくは200℃以上450℃以下である。更には350℃以上450℃以下が好ましい。
【0122】
本発明は、感熱転写記録方式を利用したプリンター、複写機などに利用することができる。熱転写時の熱エネルギーの付与手段は、従来公知の付与手段のいずれも使用することができ、例えば、サーマルプリンター(例えば、日立製作所製、商品名、ビデオプリンターVY−100)等の記録装置によって記録時間をコントロールすることにより、5〜100mJ/mm程度の熱エネルギーを付与することによって所期の目的を十分に達成することができる。また、本発明の感熱転写シートと組み合わせて使用する感熱転写受像シートは、支持体を適宜選択することにより、熱転写記録可能な枚葉またはロール状の感熱転写受像シート、カード類、透過型原稿作成用シート等の各種用途に適用することもできる。
【実施例】
【0123】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で、部または%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0124】
実施例1
(感熱転写シートの作製)
基材フィルムとして片面に易接着層が形成された後に延伸して製造された厚さ4.5μmのポリエステルフィルムの易接着層とは反対面に、乾燥後の固形分塗布量が1g/mとなるように後述の耐熱滑性層塗工液を塗布した。後述の耐熱滑性層塗工液のポリイソシアネートと樹脂との反応性の基の比率(−NCO/OH)は1.1であった。塗布直後に100℃オーブンで1分間乾燥後、引き続き熱処理(60℃20時間)を行いイソシアネートとポリオールの架橋反応を行い硬化させた。熱処理後に未反応のイソシアネート基をIR測定により確認し、十分に反応していることを確認した。
このようにして作製した耐熱滑性層形成ポリエステルフィルムの易接着層塗布側に後述の塗工液により、イエロー、マゼンタ、シアンの各染料層および転写性保護層積層体を面順次となるように塗布した感熱転写シートを作製した。各染料層の固形分塗布量は、0.8g/mとした。これらを塗布した直後に100℃オーブンで1分間乾燥させた。
なお、転写性保護層積層体の形成は、離型層用塗工液を塗布し、その上に保護層用塗工液を塗布し、乾燥した後に、さらにその上に接着層塗工液を塗布した。
【0125】
耐熱滑性層用分散液
ポリアクリルポリオール系樹脂(50%溶液) 51.0質量部
(樹脂固形分に対する水酸基価が61、酸価が5)
トリス(m―クレジル)リン酸エステル(融点26℃) 3.6質量部
ステアリン酸亜鉛(炭素数18のカルボン酸の亜鉛塩) 0.5質量部
タルク 2.0質量部
酸化マグネシウム 0.5質量部
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 43.5質量部
【0126】
前記耐熱滑性層用分散液の樹脂と溶媒をあらかじめ溶解し、溶解液にその他添加剤を添加してプレミキシングを実施後、分散を実施した。分散条件は以下の3つの条件のいずれかで実施した。
(条件1)ペイントシェーカーを用いて185分間分散。(耐熱滑性層101)
(条件2)独・フリッチュ社製遊星型ボールミルP−7型(商品名)を用いて500rpm45分間分散(耐熱滑性層102)
(条件3)独・フリッチュ社製遊星型ボールミルP−7型を用いて500rpm25分間分散、引き続き100rpm20分間分散(耐熱滑性層103)
【0127】
耐熱滑性層塗工液
耐熱滑性層用分散液 68.0質量部
ポリイソシアネート(75%溶液) 11.2質量部
(バーノックD−750、商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 21.0質量部
【0128】
イエロー染料層塗工液
表3に記載のイエロー色素 5.0質量部
染料Y 1.5質量部
ポリビニルアセタール樹脂 6.9質量部
(デンカブチラール#5000−D、商品名、電気化学工業(株)製)
含フッ素高分子化合物 0.1質量部
(メガファックF−472SF,商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
マット剤(フローセンUF、商品名、住友精工(株) 0.12質量部
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 85質量部
【0129】
【化5】

【0130】
マゼンタ染料層塗工液
染料化合物(M−1) 0.8質量部
染料化合物(M−2) 1.0質量部
染料化合物(M−3) 6.8質量部
ポリビニルアセタール樹脂 6.2質量部
(エスレックKS−1、商品名、積水化学工業(株)製)
離型剤 0.05質量部
(X−22−3000T、商品名、信越化学工業(株)製)
離型剤 0.03質量部
(TSF4701、商品名、モメンティブ・パフォーマンス・
マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
マット剤 0.15質量部
(フローセンUF、商品名、住友精工(株)製)
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 85質量部
【0131】
【化6】

【0132】
シアン染料層塗工液
染料化合物(C−1) 0.4質量部
染料化合物(C−2) 8.9質量部
染料化合物(C−3) 0.5質量部
ポリビニルアセタール樹脂 5.0質量部
(デンカブチラール#5000−D、商品名、電気化学工業(株)製)
含フッ素高分子化合物 0.1質量部
(メガファックF−472SF、商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
マット剤(フローセンUF、商品名、住友精工(株)製) 0.12質量部
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 85質量部
【0133】
【化7】

【0134】
(転写性保護層積層体)
染料層の作製に使用したものと同じポリエステルフィルムに、以下に示す組成の離型層,保護層および接着層用塗工液を塗布し、転写性保護層積層体を形成した。乾膜時の塗布量は離型層0.2g/m、保護層0.4g/m、接着層2.0g/mとした。
【0135】
離型層塗工液
変性セルロース樹脂 5.0質量部
(L−30、商品名、ダイセル化学)
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 95.0質量部
保護層塗工液
アクリル樹脂溶液(固形分40%) 90質量部
(UNO−1、商品名、岐阜セラミック(有)製)
メタノール/イソプロパノール混合溶媒 10質量部
接着層塗工液
アクリル樹脂 25質量部
(ダイアナールBR−77、商品名、三菱レイヨン(株)製)
下記紫外線吸収剤UV−1 0.5質量部
下記紫外線吸収剤UV−2 2質量部
下記紫外線吸収剤UV−3 0.5質量部
下記紫外線吸収剤UV−4 0.5質量部
PMMA微粒子(ポリメチルメタクリレート微粒子) 0.4質量部
メチルエチルケトン/トルエン混合溶媒 70質量部
【0136】
【化8】

【0137】
(感熱転写受像シート(Z−1)の作製)
支持体として合成紙(ユポFPG200、厚さ200μm、商品名、(株)ユポ・コーポレーション製)を用い、この一方の面に下記組成の白色中間層、受容層の順にバーコーターにより塗布を行った。それぞれの乾燥時の塗布量は白色中間層:1.0g/m、受容層:4.0g/mとなるように塗布を行い、塗布後乾燥した後にプリンターの設定に合った形状に加工して感熱転写受像シート(Z−1)を作製した。
【0138】
白色中間層
ポリエステル樹脂 10質量部
(バイロン200、商品名、東洋紡(株)製)
蛍光増白剤 1質量部
(Uvitex OB、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
酸化チタン 30質量部
メチルエチルケトン/トルエン(質量比1/1) 90質量部
【0139】
受容層
塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂 100質量部
(ソルバインA、商品名、日信化学工業(株)製)
アミノ変性シリコーン 5質量部
(信越化学工業(株)製、商品名、X22−3050C)
エポキシ変性シリコーン 5質量部
(信越化学工業(株)製、商品名、X22−3000E)
メチルエチルケトン/トルエン(質量比1/1) 400質量部
【0140】
感熱転写受像シート(Z−2)の作製
ポリエチレンで両面ラミネートした紙支持体表面に、コロナ放電処理を施した後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含むゼラチン下塗層を設けた。この上に、下記組成の下引き層、断熱層、受容層下層、受容層上層を支持体側からこの順に積層させた状態で、米国特許第2,761,791号明細書に記載の第9図に例示された方法により、同時重層塗布を行った。それぞれの乾燥時の塗布量が下引き層:6.0g/m、断熱層:8.5g/m、受容層下層:2.4g/m、受容層上層:3.0g/mとなるように塗布を行い乾燥後に、30℃で5日間熱処理を行い架橋剤とゼラチンの架橋反応を行った後にプリンターの設定に合った形状に加工して感熱転写受像シート(Z−2)を作製した。 また、下記の組成は、固形分としての質量部を表す。
【0141】
受容層上層
塩化ビニル系ラテックス 21.0質量部
(ビニブラン900、商品名、日信化学工業(株)製)
塩化ビニル系ラテックス 1.6質量部
(ビニブラン276、商品名、日信化学工業(株)製)
ゼラチン(10%水溶液) 2.5質量部
下記エステル系ワックスEW−1 1.8質量部
下記界面活性剤F−1 0.1質量部
下記界面活性剤F−2 0.4質量部
受容層下層
塩化ビニル系ラテックス(Tg 46℃) 18.0質量部
(ビニブラン690、商品名、日信化学工業(株)製)
塩化ビニル系ラテックス(Tg 73℃) 8.0質量部
(ビニブラン900、商品名、日信化学工業(株)製)
ゼラチン(10%水溶液) 8.0質量部
下記界面活性剤F−1 0.03質量部
断熱層
アクリルスチレン系中空ポリマー 66.0質量部
(平均粒径0.5μm)(MH5055、商品名、日本ゼオン(株)製)
ゼラチン(10%水溶液) 24.0質量部
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンNa塩(架橋剤)
0.1質量部
下引き層
ポリビニルアルコール 7.0質量部
(ポバールPVA205、商品名、(株)クラレ製)
スチレンブタジエンゴムラテックス 55.0質量部
(SN−307、商品名、日本エイ アンド エル(株)製)
下記界面活性剤F−1 0.02質量部
【0142】
【化9】

【0143】
耐熱滑性層(101)から(103)に対して耐熱滑性層中のリン酸エステルの種類を以下のように本発明で規定する一般式(P)で表される化合物に変更すること以外は同様にして耐熱滑性層(104)から(109)を作製した。
耐熱滑性層(104)から(106)はリン酸エステルとして堺化学工業(株)製フォスレックスA−18(モノ―およびジ−ステアリルリン酸エステル混合物で融点62℃)を用いた。
耐熱滑性層(107)から(109)はリン酸エステルとして第一工業製薬(株)製プライサーフA208N(モノ―およびジ−ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル混合物で融点−2℃)を用いた。なお、これらリン酸エステルの融点は示差走査熱量計(DSC)測定より求めた値である。
【0144】
耐熱滑性層(110)の作製
特公平6−19033号公報の実施例3に記載されている滑層のように、リン酸エステル化合物を含有しない耐熱滑性層として、耐熱滑性層(105)からモノ−およびジ−ステアリルリン酸エステル混合物のみ除去した以外は耐熱滑性層(105)と同様にして耐熱滑性層(110)を作製した。
【0145】
耐熱滑性層(201)の作製
耐熱滑性層(106)に対して、耐熱滑性層用分散液に含有するステアリン酸亜鉛を使用しないことおよび耐熱滑性層中のリン酸エステルの分布を変更するために分散条件を変更すること以外は同様にして耐熱滑性層(201)を作製した。
【0146】
耐熱滑性層(202)の作製
耐熱滑性層(201)に対して耐熱滑性層用分散液のモノ−およびジーステアリルリン酸エステル混合物(融点62℃)3.5質量部をモノ−およびジーステアリルリン酸エステルの亜鉛塩(融点190℃)3.5質量部に変更し、ステアリン酸亜鉛を0.5質量部使用する以外は同様にして耐熱滑性層(202)を作製した。
【0147】
耐熱滑性層(203)の作製
(201)に対して耐熱滑性層用分散液のモノ−およびジーステアリルリン酸エステル混合物(融点62℃)3.6質量部を0.6質量部に変更し、モノ−およびジーステアリルリン酸エステルの亜鉛塩(融点190℃)2.9質量部を使用し、更にステアリン酸亜鉛を0.5質量部使用する以外は同様にして耐熱滑性層(203)を作製した。
【0148】
(特性X線強度測定および計算)
感熱転写シート(101)の耐熱滑性層側から電子ビームを照射して、耐熱滑性層中のリン元素のK線に由来する特性X線強度を測定した。具体的には日立製作所(株)製、高分解能電界放出型走査電子顕微鏡S−4700(商品名)を用い、同装置に装備されているエネルギー分散型X線分光器を用いて測定を行った。電子線の加速電圧は20kV、電子線ビーム径は1μm以下の条件で行った。本書の記載に従い、リン元素含有量の多い領域と少ない地点を選定して縦横200μm四方の領域内の各地点でリン元素K線由来の特性X線強度を測定した。各測定値のリン元素含有量の最大値(リン元素含有特性X線強度の最大値)と最小値(リン元素含有特性X線強度の最小値)から比(最大値/最小値)を求めた。以下、この比を単に「最大値/最小値」とも言う。この値が大きい程耐熱滑性層中でリン酸エステルがより局在していることを表す。また、前記〔発明を実施するための最良の形態〕で詳しく説明した方法により、リン元素X線強度の局在領域(リン元素のK線に由来する特性X線の極大領域)とそれに対応するX線強度の極大値(最大極大値)を求め、更にそれらの極大値の変動係数(以下、単に「変動係数」とも言う。)を前記数式(1)〜(3)に従って求めた。これらの値を、OH基を有する所定のリン酸エステル又はその塩の局在部(以下、これらを併せて、「リン酸エステル局在部」と略記する。)の分布状態を示す尺度とする。ここで、この変動係数の値が小さい程、耐熱滑性層中のリン酸エステル局在部の分布が均一であることを表す。
耐熱滑性層(101)を(102)から(109)、(201)〜(203)に変更する以外は同様にして各サンプルについて上記の値を求めた。
これらの耐熱滑性層の構成および分散条件と上記の値を表2に示す。
【0149】
【表2】

【0150】
表2より、本発明の範囲外のOH基を有さないリン酸エステルのみを使用した耐熱滑性層(101)から(103)では、分散条件を変更しても耐熱滑性層中のリン酸エステルの分布状態を本発明の範囲内とすることは出来ない。本発明の範囲内のOH基を有するリン酸エステルを有する化合物を使用した耐熱滑性層(104)から(109)の中で分散条件を検討することで、耐熱滑性層(105)、(106)、(108)および(109)の耐熱滑性層中のリン酸エステルの分布状態を本発明の範囲内とすることができる。使用するリン酸エステルの種類により、耐熱滑性層中のリン酸エステルの分布状態をより好ましい範囲とする分散条件が異なっており、分散条件が一概に規定できないことも分かる。
これらの耐熱滑性層と下記の各種イエロー色素に変更した前述のイエロー染料塗工液を組合せ、下記表2の各種感熱転写シートの試料を作製した。
【0151】
(評価条件および画像形成、測定)
上記感熱転写シートの各試料をそれぞれ耐熱滑性層と染料層が接触するようにロール状の形態に加工し、30℃、相対湿度80%の環境下で30日経時させた。
この後、感熱転写受像シートZ−1と組み合わせて、25℃、相対湿度50%の環境下で、富士フィルム(株)製 フジフィルムサーマルフォトプリンター ASK−2000(商品名)を用いて黒ベタのプリントを連続4800枚行なった。プリント後のサーマルヘッドを取り外してカラー3Dレーザー顕微鏡VK−9500GII(商品名、(株)キーエンス製)を用いてサーマルヘッド形状プロファイルの高さ測定を行い付着した汚れの高さμmを求め、この値を、感熱転写シートの経時後のランニングによるヘッド汚れ、の指針とし、値が小さい程、良好と判断した。具体的には、ヘッド汚れ高さが、4μm以下であれば良好、4.0より大きくて7.0μm未満であれば画面上にはほとんど影響がでないため、実用上許容内、7.0μm以上になると、画面上にもキズが現れ始めるため、許容外と判断した。
この結果をまとめて下記表3に示す。
【0152】
【表3】

【0153】
【化10】

【0154】
上記表3より、本発明の試料はいずれも、経時後の感熱転写シートのランニングに対しても、ヘッド汚れが顕著に少なくなっていることが分かる。
【0155】
実施例2
実施例1の感熱転写受像シート(Z−1)を(Z−2)に変更した以外はすべて実施例1と同様の実験、評価を行ったところ、実施例1を上回る結果が得られた。
【0156】
実施例3
耐熱滑性層(301)〜(308)の作成
実施例1の耐熱滑性層(203)に対して、耐熱滑性層用分散液のモノ−およびジ−ステアリルリン酸エステルの亜鉛塩(融点190℃)2.9質量部を0.6質量部に変更し、モノ−およびジ−ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル混合物(融点−2℃)を2.4質量部使用して耐熱滑性層用分散液の組成を変更し、更にイソシアネートとポリオールの架橋反応を行う熱処理条件を56℃2日に変更すること以外は同様にして耐熱滑性層(301)、51℃6日に変更すること以外は同様にして耐熱滑性層(302)、43℃18日に変更する以外は同様にして耐熱滑性層(303)、および35℃30日に変更する以外は同様にして耐熱滑性層(304)を作製した。更に耐熱滑性層(301)〜(304)に対して耐熱滑性層用分散液のポリアクリルポリオール樹脂をポリビニルブチラール樹脂に固形分として同量で置き換え、かつ耐熱滑性層塗工液のポリイソシアネートと樹脂との反応性の基の比率(−NCO/OH)が1.1となるようにポリイソシアネートの量を変更すること以外は同様にして耐熱滑性層(305)〜(308)を作製した。熱処理後に未反応のイソシアネート基をIR測定により確認し、いずれの熱処理条件でも十分に反応していることを確認した。
【0157】
作製した耐熱滑性層(301)から(308)を実施例1と同様にして特性X線強度の測定および計算を行った。これら感熱転写シートの耐熱滑性層の樹脂、熱処理条件および特性X線強度の測定および計算から求めた値を表4に示す。
【0158】
【表4】

【0159】
これらの耐熱滑性層とイエロー色素を下記表5の組合せに変更した以外は感熱転写シートの試料36と同様にして、下記の感熱転写シートを作製した。これらの各感熱転写シートを実施例1と同様の実験で評価した。
この結果を表5に示す。
【0160】
【表5】

【0161】
上記表5より、試料50〜65はいずれも本発明の範囲であるが、熱処理条件を40℃〜53℃かつ1日〜20日の範囲内にして、耐熱滑性層の樹脂としてポリアクリルポリオールを使用し、本発明の色素と組み合わせることで、本発明の効果がより大きく発現することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に、イエロー染料を含有するイエロー染料層を有し、他方の面に滑剤及び樹脂を含む耐熱滑性層が形成されている感熱転写シートであって、該イエロー染料の少なくとも1種が下記一般式(1)で表されるイエロー色素であって、該耐熱滑性層に滑剤として下記一般式(P)で表される化合物を含有し、かつ
該感熱転写シートの耐熱滑性層側から20kVに加速したビーム径1μm以下の電子線を照射して得られる該耐熱滑性層中のリン元素のK線に由来する特性X線強度を縦横200μm四方の領域内の各地点でエネルギー分散型X線分光器により測定した場合に、該領域内における該強度の最大値が最小値に対して少なくとも2.5倍以上であり、かつ該領域内にリン元素K線由来の特性X線強度の極大値を有する極大領域が複数存在し、これら極大領域間における該特性X線強度の極大値の標準偏差を該特性X線強度の平均で割って求めた変動係数が0.25以下であることを特徴とする感熱転写シート。
【化1】

(一般式(1)中、Aは置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、RおよびRは各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基または置換もしくは無置換のカルバモイル基を表し、Rは置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表す。)
一般式(P)
{(R1aO)(R2aO)P(=O)O}
(一般式(P)中、Mは、水素原子、金属イオン、またはアンモニウムイオンを表す。R1aは、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。R2aは、水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。mはMの価数と同じであって1〜6の数を示す。)
【請求項2】
前記強度の最大値が最小値に対して少なくとも3.0倍以上であって、かつ前記分布の変動係数が0.22以下であることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写シート。
【請求項3】
前記耐熱滑性層に含有する前記一般式(P)で表される化合物の少なくとも1種の融点が40℃〜100℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の感熱転写シート。
【請求項4】
前記耐熱滑性層に、さらにアルキルカルボン酸の多価金属塩を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
【請求項5】
前記耐熱滑性層に、さらにタルク粒子を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
【請求項6】
前記タルク粒子の含有量と、前記一般式(P)で表される化合物の含有量との関係が、前記一般式(P)で表される化合物の含有量を100質量部としたとき、前記タルク粒子の含有量が30質量部以上であることを特徴とする請求項5に記載の感熱転写シート。
【請求項7】
前記基材フィルムが、基材フィルムの少なくとも一方の面上に易接着層を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
【請求項8】
前記耐熱滑性層の樹脂が、該樹脂のポリマー鎖長末端もしくはポリマー構造中に2個以上の水酸基を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
【請求項9】
前記樹脂が、ポリアクリルポリオール樹脂であることを特徴とする請求項8に記載の感熱転写シート。
【請求項10】
前記耐熱滑性層の前記樹脂が架橋されていることを特徴とする請求項8または9に記載の感熱転写シート。
【請求項11】
前記架橋における架橋反応が、40℃〜53℃の温度範囲でかつ1日〜20日の期間で行なわれてなるものであることを特徴とする請求項10に記載の感熱転写シート。
【請求項12】
前記感熱転写シートが、支持体上に、中空ポリマーラテックスを含有する断熱層とポリマーラテックスを含有する受容層を有する感熱転写受像シートと組み合わせて使用される感熱転写シートであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の感熱転写シート。
【請求項13】
支持体上に、中空ポリマーラテックスを含有する断熱層とポリマーラテックスを含有する受容層とを有する感熱転写受像シートと、基材フィルムの一方の面にイエロー染料を含有する染料層を有し、他方の面に滑剤及び樹脂を含む耐熱滑性層を有する感熱転写シートとを、前記感熱転写受像シートの受容層と前記感熱転写シートの染料層とが接するように重ね合わせ、画像信号に応じた熱エネルギーを前記感熱転写シートの耐熱滑性層側から付与することにより画像を形成する画像形成方法であって、該イエロー染料の少なくとも1種が下記一般式(1)で表されるイエロー染料であり、該耐熱滑性層に滑剤として下記一般式(P)で表される化合物を含有し、かつ該感熱転写シートの耐熱滑性層側から20kVに加速したビーム径1μm以下の電子線を照射して得られる該耐熱滑性層中のリン元素のK線に由来する特性X線強度を縦横200μm四方の領域内の各地点でエネルギー分散型X線分光器により測定した場合に、該領域内における該強度の最大値が最小値に対して少なくとも2.5倍以上であり、かつ該領域内にリン元素K線由来の特性X線強度の極大値を有する極大領域が複数存在し、これら極大領域間における特性X線強度の極大値の標準偏差を該特性X線強度の平均で割って求めた変動係数が0.25以下であることを特徴とする画像形成方法。
【化2】

(一般式(1)中、Aは置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、RおよびRは各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基または置換もしくは無置換のカルバモイル基を表し、Rは置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表す。)
一般式(P)
{(R1aO)(R2aO)P(=O)O}
(一般式(P)中、Mは、水素原子、金属イオン、またはアンモニウムイオンを表す。R1aは、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。R2aは、水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、置換もしくは無置換の脂肪族基、または置換もしくは無置換のアリール基を表す。mはMの価数と同じであって1〜6の数を示す。)

【公開番号】特開2010−83001(P2010−83001A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254801(P2008−254801)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】