説明

感熱転写媒体および情報記録体

【課題】熱転写等の簡便な方式で使用する事が出来、かつ、偽造や改竄あるいは変造に対するセキュリティ性の高い情報を記録する事が可能となる感熱転写媒体と、この感熱転写媒体と中間転写媒体を組み合わせて使用したセキュリティ性の高い情報記録体を提供する。
【解決手段】帯状の支持体の一方の面に、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層と、前記インキ層と目視において同じ色であり赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層とがパターン状に形成されている感熱転写媒体。該感熱転写媒体の熱転写性インキ層を中間転写媒体に熱転写することで情報を記録した後、更に、熱転写性インキ層が転写された該中間転写媒体を、基材上に熱転写して形成された情報記録体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙類からなる記録担体(通帳、パスポート、免許証等の各種冊子類)および、プラスチック製である記録担体(クレジットカード、ICカード、社員証、社会保険台帳、ライセンスカード等の各種カード類)への個人情報等の情報記録に用いる感熱転写媒体に関し、特に、情報記録の偽変造を防止する情報記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
免許証、パスポートなどに代表される個人情報記録体をはじめ、クレジットカード、通帳など、セキュリティ性の求められる情報記録体は広く用いられており、この情報記録体を作成する手段の一つとして感熱転写媒体(インクリボン等)を用いることができる。感熱転写媒体を利用して情報を記録する方式としては、大きく分けて直接転写方式と中間転写方式があり、直接転写方式は基材と感熱転写媒体を当接させた上でサーマルヘッドやレーザーなどの加熱により色材を基材上に転写させることで情報記録体を得るものである。これに対して中間転写方式(又は間接転写方式)は、以下に詳細に述べるが、中間転写媒体と感熱転写媒体とを当接させた上でサーマルヘッドなどの加熱により色材を中間転写媒体上に転写させ、その後、中間転写媒体を基材に熱転写することで情報記録体を得るものである。
【0003】
前記情報記録体の作成に用いられる感熱転写媒体は、支持体上に、剥離層、顔料又は染料を含む熱転写性の着色インキ層を順次設けたものであり、場合によっては剥離層を省略することもある。また、中間転写媒体は、支持体上に、剥離性保護層、中間層、接着層を順次設けたものであり、中間層は、絵柄層、光学的可変素子(OVD:Optical Variable Device)層などであり、用途に応じて選択される。接着層は、熱転写性材料で画像・文字などの情報を形成する受像層を兼ねた受像層兼接着層とすることができる。
【0004】
中間転写媒体への情報の形成方法として例を挙げると、中間転写媒体をドラムとサーマルヘッドとでその主要部が構成される転写装置へ搬送し、感熱転写媒体の着色インキ層を中間転写媒体の受像層兼接着層に当接させ、感熱転写媒体側から前記サーマルヘッドを圧接すると共に画像データに基づき前記サーマルヘッドの発熱素子群を適宜発熱させて、画像データに基づく画像パターンを前記受像層兼接着層に形成する。尚、画像データが多色である場合には、色調の異なる複数の感熱転写媒体又は色調の異なる複数の着色インキ層を有する感熱転写媒体を適用し、同様な工程を繰返して前記受像層兼接着層に多色の画像パターンを形成する。
【0005】
中間転写媒体の基材への転写方法の例を挙げると、中間転写媒体の接着層または受像層兼接着層を被転写媒体に当接させ、中間転写媒体の支持体側から熱ロール、熱板等の加熱媒体を圧接し、転写温度に加熱して被転写媒体である基材に接着層を圧着させると共に、中間転写媒体から支持体を剥離させて情報記録体を得るものである。また基材の材質によっては基材上に易接着層を形成することにより転写を容易にすることができる。
【0006】
中間転写媒体の中間層として、例えばOVD層は、装飾性と偽造防止を目的としており、例えば微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムが形成されたOVD層と、前記微細な凹凸面に沿って設けられOVD層よりその屈折率が大きい材料からなる透過性薄膜層で構成されており、このように、前記中間層としてレリーフ型ホログラムを利用した中間転写媒体は、デッドコピーが難しく、多用されている。
【0007】
上記のようなOVD層を備えた中間転写媒体を使用した情報記録体は、それだけでも偽変造に対する高いセキュリティ性を有しているが、さらにこのような情報記録体の偽変造を防止する手段として、例えば、特許文献1では、基材と色材を用いた画像表示体との間に、無色ないし淡色の発色性物質を用いた発色層を設けることで、熱や薬品による改竄の跡を明らかにすることができる画像表示体が開示されている。
【0008】
しかしながら、例えば上記のような中間転写媒体を用いた情報記録体において、無色ないし淡色の発色性物質からなる発色層を発色させない手段によって中間転写媒体を基材から剥離し、そこに記録されている情報を改竄した上で改めて中間転写媒体が基材に転写された場合、その改竄跡を判別することは困難であった。
【特許文献1】特開2000−6555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、熱転写等の簡便な方式で使用する事が出来、かつ、偽造や改竄あるいは変造に対するセキュリティ性の高い情報を記録する事が可能となる感熱転写媒体と、この感熱転写媒体と中間転写媒体を組み合わせて使用したセキュリティ性の高い情報記録体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、帯状の支持体の一方の面に、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層と、前記インキ層と目視において同じ色であり赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層とがパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体である。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る発明は、帯状の支持体の一方の面に、少なくとも3種類の色相を持つ熱転写性インキ層が一定の領域ごとに順に繰り返して形成されている感熱転写媒体において、同一の色相を持つ領域のインキ層が、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層からなる部分と、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層からなる部分とでパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体である。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る発明は、請求項2に記載する感熱転写媒体において、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層からなる部分と、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層からなる部分とが、一方が他方の逆版になるように印刷されてパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体である。
【0013】
また、本発明の請求項4に係る発明は、帯状の支持体の一方の面に、赤外領域で光の吸収が無く少なくとも3種類の色相を持つ第一の熱転写性インキ層が一定の領域ごとに順に繰り返して形成された上に、赤外領域で光の吸収が有り目視において無色あるいは淡色である第二の熱転写性インキ層が第一の熱転写性インキ層と重なってパターン状に形成され、かつ、赤外領域で光の吸収が無く目視において無色あるいは淡色である第三の熱転写性インキ層を第二の熱転写性インキ層と逆版になるよう第一の熱転写性インキ層と重なってパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体である。
【0014】
次に、本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載する感熱転写媒体の熱転写性インキ層を中間転写媒体に熱転写することで情報を記録した後、更に、熱転写性インキ層が転写された該中間転写媒体を、基材上に熱転写して形成されたことを特徴とする情報記録体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のような構成であるから、下記に示す如き効果がある。即ち、本発明の感熱転写媒体を使用することで、熱転写という簡便な方法により潜像パターンを有する情報記録体を作成することができる。請求項1に係る発明によれば、感熱転写媒体を基材に転写して情報を記録することで、目視においては通常の印刷と変わるところがないが、機器等による赤外領域での観察においては、形成された潜像パターンを確認する事ができてセキュリティ性を高めることができる。さらに請求項5に記載する発明によれば、まず中間転写媒体に本発明の感熱転写媒体から情報を転写して、その中間転写媒体を基材に転写することで、さらに偽造や改竄に対するセキュリティ性を高めることが出来る。
【0016】
また請求項2に記載する発明によれば、顔写真などの複雑な色調を有する画像情報を基材に形成することが出来るため用途が広がる。このような感熱転写媒体を提供する手段として、請求項3に記載する発明によれば、赤外領域で光の吸収が無い着色インキ層と、赤外領域で光の吸収が有る着色インキ層をそれぞれが逆版になるように印刷した感熱転写媒体が形成される。これにより、見かけ上はそれぞれのインキ層が重ならず隙間もないため一般の感熱転写媒体と同様に使用する事が出来、さらに機器等による赤外領域での観察においては形成された潜像パターンを確認する事ができてセキュリティ性が高まる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明によれば、赤外領域で光の吸収が無い着色インキを使用して形成した感熱転写媒体のインキ層に重ねて、赤外領域で光の吸収が有るインキを印刷することでパターンを形成することが出来る。この場合には無色あるいは淡色のインキを使用するため、本来の色相を変えることは無く、さらに赤外領域で光の吸収が無いインキを逆版で印刷することでインキ層の凹凸を無くし、感熱転写における熱感度を一定にした感熱転写媒体を提供する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の感熱転写媒体及びそれを用いて形成された情報記録体を、一実施形態に基づいて、図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0019】
図1および図2は本発明の感熱転写媒体の一実施例を断面で示す概略図である。図1においては支持体1の上に剥離層2が形成され、その上に赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層3Aと、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層3Bとがパターン状に形成されている様子を表している。図3は、図1に断面で示した本発明の感熱転写媒体の一実施例を示す俯瞰図である。図2においては、支持体1の上に剥離層2が形成され、その上に赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層3Aが形成、赤外領域で光の吸収が有り目視において無色あるいは淡色である熱転写性インキ層3Cをインキ層3Aに重ねて形成し、さらに赤外領域で光の吸収が無く目視において無色あるいは淡色である熱転写性インキ層3Dをインキ層3Cと逆版になるようインキ層3Aに重ねて形成している様子を表している。
【0020】
帯状の支持体1としては、厚みが安定しており、且つ耐熱性の高いポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いるのが一般的であるが、これに限るものではない。その他の材料としては、ポリエチレンナフタレート樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム等が耐熱性の高いフィルムとして知られており、同様の目的で使用する事が可能である。また、他のフィルム、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂等の材料でも、本発明の感熱転写媒体の構成として使用される塗液の塗布条件や乾燥条件によっては使用可能である。また、転写層への影響が無い限りは、支持体に対し、帯電防止処理やマット加工、エンボス処理等の加工をしても良い。また支持体の裏面には、
熱転写時の走行性等を考慮してバックコート層を形成しておくことができる。
剥離層2としては、例えば、融点60〜120℃のワックス類が挙げられる。具体的には、パラフィンワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステル等が使用できる。また、その軟化点が60〜150℃の低軟化点樹脂を使用することもできる。この様な低軟化点樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、低分子量ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、石油樹脂等が挙げられる。また、前記ワックス類とこの低軟化点樹脂の混合物を用いてもよい。そして、以上の様な材料を溶剤に溶解または分散して塗料化し、これを支持体に塗布して剥離層を形成する。溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン(MEK)やメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール等のアルコール系溶剤が使用できる。塗布手段としては、グラビアコート、ロールコート、バーコート、エアーナイフコート、ブレードコート、スクリーン印刷等の手段が利用できる。
【0021】
熱転写性インキ層3A、3B、3C、3Dは、熱転写時に支持体から剥離して基体の上に転移する層である。組成としては、樹脂バインダーに顔料や染料等の着色剤を配合したもので、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層の場合は、更に赤外線吸収物質を配合している。
【0022】
樹脂バインダーとしては、水または有機溶剤に溶解する高分子材料が使用できる。具体的には、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、線状の飽和ポリエステル、ポリメタクリル酸メチルやポリメタクリル酸エチル等のメタクリル酸もしくはそのエステルの単独または共重合体、ポリウレタン、エポキシ、ポリブチラール等が使用できる。
【0023】
赤外線吸収物質としては、可視領域の吸収の少ない粉末化された顔料が使用でき、例えば金属錯体型の顔料が使用できる。その他には、赤外線吸収ガラスや熱線吸収ガラスを粉砕して顔料化したFe2+またはCu2+の一方あるいは両方を含有するガラス系粉末材料が使用できる。赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキの組成中の樹脂バインダーと赤外線吸収物質との割合は、溶剤を除くインキ組成中に、樹脂バインダーは30〜95質量%、赤外線吸収物質は5〜70質量%とするのが好ましく、赤外線吸収物質が5質量%未満の場合は吸収が少ないことにより読み取りが困難になり、70質量%を越えるとインキ層表面がマット状になって熱転写性が損なわれたり、インキ層の凝集力が低下したりするという問題がある。
【0024】
以上の様な樹脂バインダーと着色剤および赤外線吸収物質を使用して、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層3Aと、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層3Bを形成する。その形成手段としては、グラビア印刷による印刷を好適に利用する事が出来、図3に一例を示すように、様々なパターンを形成することが出来る。
【0025】
図4は3種類の色相を持つ感熱転写媒体の一実施例を表す俯瞰図である。通常、3種類の着色インキ層、4A、4B、4Cには減法混色3原色のシアン、イエロー、マゼンタの3色が割り当てられる事が多く、場合によってはこれに墨や紫外蛍光などのインキ層を加えて4色ないしは5色の感熱転写媒体とされることもある。図4は本発明の感熱転写媒体を通常光線下において目視で観察した場合の俯瞰図であり、同じ媒体を赤外領域で観察した様子を図5に示す。目視観察の図4において、着色インキ層はそれぞれ一様であったのに対して、赤外領域で観察した図5においては、赤外領域で光の吸収が有る着色インキ層がパターン上に印刷されている事が確認される。これらのインキ層5A、5B、5Cは、それぞれインキ層4A、4B、4Cに対応してほぼ同じ色相に調色されているため、目視
においてはその違いを判別することは出来ないが、赤外領域の観察が可能な装置を使用することによって違いを示すことが出来る。
【0026】
図1に示した感熱転写媒体を基材に転写する様子を図6に示す。感熱転写媒体を基材6に当接させ、支持体1側から図示しない加熱手段により加熱することによって、着色インキ層3Aおよび3Bを基材6に転写する。なお、図4に示したような、複数の色相の着色層を有する感熱転写媒体の場合は、この操作をそれぞれの色相の着色層について実施し、転写した着色インキ層を重ね合わせることによって複雑な色調を表現することが出来る。この図6においては、被転写物が基材6である直接転写方式を表しているが、基材の代わりに中間転写媒体を使用することで中間転写方式においても本発明を利用できる。
【0027】
以上のようにして、例えば図7に示すような、顔写真と文字情報で構成される情報記録体を作成することが出来る。この情報記録体の基材には赤外線を反射する材料が使用され、顔写真部分は赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層7Aと、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層7Bによって形成され、文字情報部分はカーボンブラックを使用した着色インキ層7Cによって形成されている。この情報記録体を目視で観察した場合は、図7に示すように、記載された顔写真と文字情報のみを確認することができる。この情報記録体を赤外領域で観察した場合、図8に示すように、顔写真部分を構成する赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層7Aの部分は赤外線を透過して基材で反射されるため不可視になる。これに対し、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層7Bの部分は、赤外線が吸収されるために他の部分に比べて暗く表示され、形成されているパターン(この例では、SECUREの文字)を確認することができる。また、カーボンブラックを使用した着色インキ層7Cで形成された文字情報部分においては赤外線が吸収されるため、赤外領域でも文字情報を確認することができる。
【0028】
本発明の感熱転写媒体を適用する情報記録体の基材としては、照射された赤外線を50%以上反射し得るものが望ましく、例えば、白色の紙、酸化チタン等を練り込んだポリエステル系シート、ポリ塩化ビニルシート、など様々な材料が使用できる。
【0029】
本発明の感熱転写媒体は、サーマルヘッド等の熱エネルギー付与手段によって、基材や中間転写媒体上に、文字、画像、コード等のあらゆる情報を簡便に形成することができ、またここで形成された情報を赤外領域で観察することにより潜像パターンを確認することができる。また本発明の感熱転写媒体は従来から使用されている感熱転写媒体の代替品として用いることができるため、専用の印刷機など特殊な機器を必要としない。以上のように、本発明における感熱転写媒体を利用することで、目視においては通常の情報記録媒体として使用でき、赤外領域での観察においては潜像のパターンを表示する事が出来る、セキュリティ性の高い情報記録体を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の具体的実施例について説明する。
【0031】
<インキの作成1>
下記組成に基づき、赤外線吸収性剤(KAYASORB IRG−068:日本化薬社製)とシアン顔料を使用して、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ(以下、赤外吸収着色インキ)を作成した。
・シアン顔料 8 質量%
・赤外線吸収剤 2 質量%
・エポキシ樹脂 17 質量%
・シリカ 3 質量%
・MEK 70 質量%
<インキの作成2>
下記組成に基づき、シアン顔料を使用して赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ(以下、着色インキ)を作成した
・シアン顔料 8 質量%
・エポキシ樹脂 17 質量%
・シリカ 3 質量%
・MEK 72 質量%
<印刷による感熱転写媒体の作成>
4.5μmのPET(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の上に、上記赤外吸収着色インキをグラビア版を用いて印刷し、厚さ0.8μmのインキ層で文字パターンを形成した。さらに、上記グラビア版の逆版になるグラビア版を作成し、このグラビア版を用いて上記着色インキを印刷し、0.8μmのインキ層で前記した文字パターンとネガポジが反転したパターンを形成した。この印刷により、上記赤外吸収着色インキ層と上記着色インキ層はお互い重なることも隙間が開くこともなく形成されて、通常の光線下においては一様に観察される感熱転写媒体が作成された。
【0032】
<情報記録体の作成>
市販のカードプリンタCP300FX(凸版印刷株式会社製)を準備し、上記で得られた感熱転写媒体と、専用中間転写媒体をセットした。プリンタに顔写真等のデータを入力し、サーマルヘッドの発熱によって感熱転写媒体上のインキ層を中間転写媒体に熱転写し、ヒートローラによってこの中間転写媒体を紙製カードに熱転写することにより、顔写真と文字情報が記載された情報記録体を得た。
【0033】
<効果の確認1>
得られた情報記録体を通常光線下において目視で観察したところ、印刷された顔写真が確認された。さらにこの情報記録体を通常光線が入らないようにした暗室に設置し、赤外光線を照射する光源と、赤外領域に感度のあるCCDカメラを用いて観察したところ、顔写真部分の存在する部分に黒色の文字パターンが確認された。
【0034】
<効果の確認2>
上記で得られた情報記録体を加熱して基材から中間転写媒体を剥がし、記載されている顔写真を溶剤などによって除去した。この基材に新たな顔写真を市販のインクジェットプリンタによって印刷して中間転写媒体のみを熱転写して、偽造された情報記録体を得た。この偽造された情報記録体は通常光線下における目視の観察によっては真正品の情報記録体と判別がつかなかった。しかし、この偽造された情報記録体を通常光線が入らないようにした暗室に設置し、赤外光線を照射する光源と、赤外領域に感度のあるCCDカメラを用いて観察したところ、本来存在すべきパターンが観察されなかったことから偽造品である事が確認された。
【0035】
以上の様に、本発明の感熱転写媒体を使用することで熱転写方式により潜像パターンを有する情報記録体を作成することができた。またこの情報記録体は赤外領域での観察により真正品であることが容易に確認することができ、また偽造や改竄を受けた場合にはその事実を明らかにする事ができた。以上のように、簡便な方式で使用可能な感熱転写媒体と、これを利用したセキュリティ性の高い情報記録体を得ることができ、本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の感熱転写媒体の一実施例を断面で示す概略図。
【図2】本発明の感熱転写媒体の一実施例を断面で示す概略図。
【図3】本発明の感熱転写媒体の一実施例を示す俯瞰図。
【図4】本発明の感熱転写媒体の一実施例を通常光線下で観察した様子を示す俯瞰図。
【図5】本発明の感熱転写媒体の一実施例を赤外領域で観察した様子を示す俯瞰図。
【図6】本発明の感熱転写媒体を基材に転写する様子を断面で示す説明図。
【図7】本発明の情報記録体の一実施例を通常光線下で観察した様子を示す俯瞰図。
【図8】本発明の情報記録体の一実施例を赤外領域で観察した様子を示す俯瞰図。
【符号の説明】
【0037】
1・・・支持体 2・・・剥離層
3A・・・赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層
3B・・・赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層
3C・・・赤外領域で光の吸収が有り目視において無色あるいは淡色の熱転写性インキ層3D・・・赤外領域で光の吸収が無く目視において無色あるいは淡色の熱転写性インキ層4A・・・赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層(色相1)
4B・・・赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層(色相2)
4C・・・赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層(色相3)
5A・・・赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層(色相1)
5B・・・赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層(色相2)
5C・・・赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層(色相3)
6・・・(情報記録体)基材
7A・・・赤外領域で光の吸収が無い熱転写性着色インキ層
7B・・・赤外領域で光の吸収が有る熱転写性着色インキ層
7C・・・カーボンブラックを使用した着色インキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の支持体の一方の面に、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層と、前記インキ層と目視において同じ色であり赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層とがパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体。
【請求項2】
帯状の支持体の一方の面に、少なくとも3種類の色相を持つ熱転写性インキ層が一定の領域ごとに順に繰り返して形成されている感熱転写媒体において、同一の色相を持つ領域のインキ層が、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層からなる部分と、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層からなる部分とでパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体。
【請求項3】
請求項2に記載する感熱転写媒体において、赤外領域で光の吸収が無い熱転写性インキ層からなる部分と、赤外領域で光の吸収が有る熱転写性インキ層からなる部分とが、一方が他方の逆版になるように印刷しパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体。
【請求項4】
帯状の支持体の一方の面に、赤外領域で光の吸収が無く少なくとも3種類の色相を持つ第一の熱転写性インキ層が一定の領域ごとに順に繰り返して形成された上に、赤外領域で光の吸収が有り目視において無色あるいは淡色である第二の熱転写性インキ層が第一の熱転写性インキ層と重なってパターン状に形成され、かつ、赤外領域で光の吸収が無く目視において無色あるいは淡色である第三の熱転写性インキ層を第二の熱転写性インキ層と逆版になるよう第一の熱転写性インキ層と重なってパターン状に形成されていることを特徴とする感熱転写媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載する感熱転写媒体の熱転写性インキ層を中間転写媒体に熱転写することで情報を記録した後、更に、熱転写性インキ層が転写された該中間転写媒体を、基材上に熱転写して形成されたことを特徴とする情報記録体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−23392(P2010−23392A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189509(P2008−189509)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】