説明

感熱転写記録媒体

【課題】
面状の不均一さや、熱シワの発生といった問題を解決した感熱転写記録媒体の提供を目的とする。
【解決手段】
基材フイルムの一方の面には少なくとも昇華性染料とバインダーを含有してなる感熱転写色材層が設けている感熱転写記録媒体であって、感熱転写色材層のバインダーが水酸基を有するポリマーであり、その水酸基含有残基の全残基に対する重量割合が15%未満であり、かつそのバインダーの固有粘度が塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン、トルエンおよびエタノールを重量比5:2:2:1で含む混合溶媒中、25℃で測定した場合に、0.5dL/g未満であり、かつ該感熱転写色材層に、添加剤としてイソシアネート基を有するポリマーを含み、その量は、バインダーの重量部を1とした場合に、0.1〜0.4重量部の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フイルムの一方の面には少なくとも昇華性染料とバインダーを含有してなる感熱転写昇華色材層が設けられている感熱転写記録媒体に関し、更に詳しくは、感熱転写昇華色材層がムラなく均一であり、しかもシワや貼りつきの発生無しに感熱転写記録が行われるようにした感熱転写記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱転写は、サーマルヘッド等に熱記録部材よる加熱加圧により感熱転写記録媒体の感熱転写層の一部を被転写体に転移させて所望の転写画像を受像体上に形成するようにした記録方法である。この感熱転写記録に際して用いられる感熱転写媒体としては、昇華性染料を色材として用いたものが、階調表現に優れるために近年特に広く用いられるようになっている。このような感熱転写記録媒体を用いて得られる転写画像はその階調の滑らかさと濃度において銀塩写真に迫るものであり、しかも光学系の銀塩写真と異なり、記録しようとする画像をデジタル的に処理して熱転写(プリント)できるため、デジタルカメラやコンピュータグラフィックに係る画像情報や、印刷校正用途の画像情報の出力用記録媒体として有用である。
【0003】
この昇華性染料を用いた感熱転写記録媒体は、昇華性染料とバインダーを混合したものをコーティングして感熱転写色材層を基材フイルム上に設けられることによって得られる。染料熱転写による感熱転写記録は、このようにして得られる感熱昇華転写記録媒体を用い、サーマルヘッド等の熱記録部材を用いて受像媒体に昇華性染料の一部を移行させることにより行われる。
【0004】
一方、感熱転写記録ができるだけきれいに得られるようにするため、感熱転写記録媒体は、転写時に感熱転写記録媒体にシワが発生せず、また受像体への貼りつきなどが発生しないように設計しなければならない。また通常、染料やバインダーをフイルム上にコーティングして感熱転写記録層を形成する際には、それらを有機溶剤に溶解させて塗布を行うが、その際にできるだけ均一にムラなく塗布が行われるように配慮することも要求される。
【0005】
染料熱転写に用いられる感熱転写記録媒体として、特許文献1に記載されているようなものがある。この感熱転写記録媒体は、バインダーを、固有粘度が塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン、トルエンおよびエタノールを重量比5:2:2:1の割合で含む混合溶媒中、25℃で測定した場合に、1.6dL/g以上であるものを選定することによって、感熱転写色材層形成時の塗布の不均一性を解消し、良好な転写画像が得られるようにしたものである(本明細書中でいう固有粘度とは特許文献1に記されている極限粘度と同一の意味のものである。なお、本明細書中で単に「固有粘度」と記述してあるものは塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン、トルエンおよびエタノールを重量比5:2:2:1で含む混合溶媒中、25℃で測定した場合の固有粘度を表す。)。
【特許文献1】特許第2703159号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のような感熱転写記録媒体を用いた感熱転写記録においては次のような問題点が発生する。すなわち、バインダーとして固有粘度が0.5dl/g以上のものを用いることは、感熱転写色材層の形成に用いられる染料とバインダーを有機溶剤に溶解させてなる塗布液の粘度が高いものになることを意味し、この塗布液を用いグラビアロール等
により塗布を行った際、均一な塗布膜が得られなくなってしまう。より具体的には、グラビア塗布の際に塗布液のはねが生じ、塗布面に塗布の不均一さに由来するムラが発生してしまう。この事実は下記する比較のための実施例により裏付けられている。
【0007】
有機溶剤の量を多くすれば粘度は下げられるが、この場合は所望の塗布量を得るためにはその分だけ塗布液を多量に塗布せねばならず、効率が悪く実用的ではない。また特許文献1に記載されているように、塗布液に使用される有機溶剤が塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン、トルエンおよびエタノールの混合物であり、さらに塗布する基材フイルムの厚みが厚く、使用する染料の量が多いときには所定の効果を奏するものと考えられるが、コスト面や環境負荷を考えて溶剤には汎用有機溶剤を使用し、基材フイルムには薄いフイルムを使用し、さらには染料をできるだけ少なく使用した場合、所望の感熱転写色材層を有する感熱転写記録媒体を得ることができず、希望する画質の転写画像が得られなかった。
【0008】
この問題を解決するためには、固有粘度がさらに低いバインダーを使用することが考えられる。しかし固有粘度の低いバインダーを単純にそれのみで使用した場合には、次のような問題点が発生することが判明した。すなわち、熱転写時にサーマルヘッドの熱によって感熱転写記録媒体に熱シワが発生し、その結果所望の品質の画像が得られなくなるという問題である。この事実は下記する比較のための実施例により裏付けられている。
【0009】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、感熱転写記録媒体の感熱転写色材層を構成するバインダーの固有粘度を最適なものにし、かつ添加剤を加えることによって、薄い基材フイルムを用い、昇華性染料の含有割合が少ない感熱転写記録媒体を用いても、加工適性が良好で均一な感熱転写色材層の塗布・形成ができ、さらには熱転写時に熱シワも生じずに良好な感熱転写記録が行えるという性能を有する感熱転写記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するためになされる、請求項1に記載の発明は、基材フイルムの一方の面には少なくとも昇華性染料とバインダーを含有してなる感熱転写色材層が設けている感熱転写記録媒体であって、感熱転写色材層のバインダーが水酸基を有するポリマーであり、その水酸基含有残基の全残基に対する重量割合が15%未満であり、かつそのバインダーの固有粘度が、0.5dL/g未満であり、かつ該感熱転写色材層に、添加剤としてイソシアネート基を有するポリマーを含み、その量は、バインダーの重量部を1とした場合に、0.1〜0.4重量部の範囲であることを特徴とする感熱転写記録媒体である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、基材フイルムの感熱転写色材層が設けられていない面に、バックコート層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写記録媒体である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、基材フイルムが1〜20μmの厚さのプラスチックフイルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の感熱転写記録媒体である。
【0013】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、感熱転写色材層の乾燥厚みが0.5〜5μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の感熱転写記録媒体である。
【0014】
さらにまた、請求項5に記載の発明は、バインダーがポリビニルアセタールであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の感熱転写記録媒体である。
【0015】
さらにまた、請求項6に記載の発明は、感熱転写色材層にはさらに添加剤として有機ま
たは無機微粒子を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の感熱転写記録媒体である。
【0016】
さらにまた、請求項7に記載の発明は、感熱転写色材層にはさらに添加剤として界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1乃至6に記載の感熱転写記録媒体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の感熱転写記録媒体は、基材フイルムの一方の面には少なくとも昇華性染料とバインダーを含有してなる感熱転写色材層が設けている感熱転写記録媒体であって、感熱転写色材層のバインダーが水酸基を有するポリマーであり、その水酸基含有残基の全残基に対する重量割合が15%未満であり、かつそのバインダーの固有粘度が0.5dL/g未満であるので、感熱転写色材層の加工適性が優れるため、均一な感熱転写色材層の形成が行え、かつ感熱転写色材層には、添加剤としてイソシアネート基を有するポリマーを含み、その量は、バインダーの重量部を1とした場合に、0.1〜0.4重量部の範囲であるので、熱シワを発生せずに感熱転写記録が行え、良好な画質の転写画像の記録が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1は本発明に係る感熱転写記録媒体の概略の断面構成を示している。
【0019】
本発明に係る基材フイルム(1)は感熱転写色材層(2)とバックコート層(3)を支持するものである。昇華転写方式の場合、サーマルヘッドにより昇華転写層(2)中の昇華性染料を転写する際に、昇華転写層(2)自体が転写されるのを防ぐため、フイルムベース(11)とこの上に形成された易接着層(12)から成ることが望ましい。
【0020】
フイルムベース(11)は、サーマルヘッドによる加熱で軟化変形しない耐熱性を有しているものである。かかる理由からポリエステルフイルム、具体的にはポリエチレンテレフタレートフイルムやポリエチレンナフタレートフイルムが望ましい。また、熱伝導性及び強度の点から1〜20μm程度の厚さで、幅1〜20cmの長尺のフイルムが好ましい。
【0021】
易接着層(12)は、かかるフィルムベース(11)と昇華転写層(2)を強固に接着するものである。
【0022】
後述するように、昇華転写層(2)はポリビニルアセタール等をバインダーの主成分とすることから、易接着層(12)としてはポリイソシアネートとポリオールの反応硬化物から成るポリウレタン系樹脂が好ましい。
【0023】
ポリイソシアネートとしては、2,4トリレンジイソシアネート、2,6トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ビトリレンジイソシアネート等が使用できる。また、ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリル系ポリオール等が使用できる。
【0024】
より具体的には、日本ポリウレタン(株)製ニツポラン3110、3113、3115等のポリオールと、日本ポリウレタン(株)製コロネートEH等のポリイソシアネートである。かかるポリウレタン樹脂はウレタン系塗料もしくはウレタン系接着剤の名で市販されている。
易接着層(12)はロールコート、リバースコート、グラビアコート等の薄膜形成方法で
塗布形成できる。厚さは熱伝導性の点から薄い方が好ましく、例えば5μm以下であるが、接着力を維持するため、0.1μm以上の厚さを有することが望まれる。
【0025】
一方、感熱転写層(2)は、諧調のあるカラー画像を形成するためのものとしては、基材フイルム(1)の長手方向に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の色相を呈する感熱転写色材層を面順次で配置させた構成のものが望ましい。
【0026】
この感熱転写色材層(2)は各色相を呈する染料とバインダーと添加剤を少なくとも含有してなるものである。染料はいわゆる昇華性染料で、気化性染料又は熱溶融移行性染料と呼ばれることもある。通常分散染料又は油溶性染料である。サーマルヘッドの発熱条件、例えば5〜50V、数msで良好に転写できる必要がある。発熱温度は通常300〜400℃である。
【0027】
イエロー(Y)の感熱昇華転写色材層(2‐Y)に用いる染料としては、例えば、Kayacet Yellow AG 、Kayakut Yellow TDN(以上、日本化薬(株)製)、PTY52 、Dianix Yellow 5R-E、Dianix Yellow F3G-E 、Dianix Brilliant Yellow 5G −E (以上、三菱化学(株)製)、DY 108 (以上、有本化学(株)製)、Sumikaron Yellow EFG、Sumikaron Yellow E−4GL(以上、住友化学(株)製)、FORON Brilliant Yellow S6GLPI(Sand社製)等が例示できる。
【0028】
マゼンタ(M)の感熱昇華転写色材層(2‐M)に用いる染料としては、例えば、Kayacet Red 026 、Kayacet Red 130 、Kayacet Red B(以上、日本化薬(株)製)、Oil Red DR-99 、Oil Red DK-99 (以上、有本化学(株)製)、Diacelliton Pink B(以上、三菱化学(株)製)、Sumikaron Red E-FBL (住友化学(株)製)、Latyl Red B (du pont社製)、Sudan Red 7B(BASF社製)、Resolin Red FB、Ceres Red 7B(以上、Bayer 社製)等が例示できる。
【0029】
また、シアン(C)の感熱昇華転写色材層(2‐C)に用いる染料としては、例えば、Kayalon Fast Blue FG 、Kayacet Blue FR 、Kayacet Blue 136、Kayacet Blye 906(以上日本化薬(株)製)、Oil Blue 63 (以上、有本化学(株)製)、HSB9(以上、三菱化学(株)製)、Disperse Blue ♯1 (住友化学(株)製)、Ceres Blue GN (Bayer 社製)、DuranoI Brilliant Blue 2G(ICI社製)等が例示できる。
【0030】
バインダーは上記した昇華転写染料を基材(1)に固定するためのもので、水酸基を有するポリマーである。例示すればアセタール系、セルロース系、ポリエステル系、アクリルポリオール系などのポリマーである。
【0031】
ここで、このポリマーの水酸基含有残基は、全重量のうち15%未満であることが望ましい。後述するように水酸基は添加剤のイソシアネート基と反応するため、15%以上であると反応が進みすぎてしまい、望む物性、すなわち加熱時の染料放出性が適切な範囲である感熱転写記録媒体が得られないからである。
【0032】
バインダーはサーマルヘッド等による感熱転写を行う時に受像体に接着せず、受像体側に転移しないことが必要である。この理由から、ポリビニルアルコールの架橋物を主成分とする樹脂が特に望ましい。例えば、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等である。これらの樹脂は分子量10,000〜200,000のものが使用できる。このバインダー成分は一種類の樹脂だけではなく、複数の樹脂を混合して用いてもよい。転写時の染料の透過を向上させるため、エチルセルロース等の他の樹脂を少量混合して用いることもできる。
【0033】
なお、感熱昇華転写色材層(2)の熱応答性を向上するため、染料はこの感熱昇華転写色材層(2)中の30〜70重量%を占めることが望ましい。感熱昇華転写色材層(2)は、染料とバインダーを適当な溶剤に溶解又は分散して、グラビア塗布法等により塗布形成することができる。溶剤としてはアルコール系、ケトン系、芳香族系等の周知の溶剤が使用できる。この感熱昇華転写色材層(2)は、目的とする画像の濃度に応じて0.5〜5μm程度の厚さに設ければ良い。層の形成に際しては、一回の塗布で所定の厚さが確保できない場合には多数回重ねて塗布すれば良い。
【0034】
この感熱転写色材層(2)は染料とバインダーの他に、添加剤としてイソシアネート基を有するポリマーを含有する。このイソシアネート基含有ポリマーは、分子量100〜2,000程度のものが使用できる。この添加剤と上述した水酸基含有ポリマーを両方含有させることにより、良好な加工性と均一な面状、さらに熱転写時に熱シワを生じないという効果をもたらすことができる。
【0035】
上記の効果は、次の二段階に分かれて発現する。第一段階である感熱転写層の塗布時においては、固有粘度の低いバインダーを使用することで良好な加工性、均一な面性が得られる。ここにおいて、イソシアネート基含有ポリマーは分子量がバインダーに比べて非常に小さいため、塗液の粘度には影響を及ぼさない。第二段階である感熱転写媒体が使用される場面、すなわち転写時においては、第一段階の後、適切な乾燥・エージング過程等を経ることにより、水酸基を有するポリマーであるバインダーと、イソシアネート基を有するポリマーである添加剤が反応重合することにより、熱シワが発生しない感熱昇華転写媒体にしておくことができる。
【0036】
この効果は、基材フイルムが1〜20μmの厚さのプラスチックフイルムであり、感熱転写色材層の乾燥厚みが0.5〜5μmであることを特徴とするときに良好に発現させることができる。
【0037】
またこの効果は、水酸基を有するバインダーがポリビニルアルコール残基を含むポリアセタール系樹脂、具体的にはポリビニルアセトアセタールあるいはポリビニルブチラールであるときに一層良好に発現させることができる。
【0038】
さらに感熱転写色材層(2)に添加剤としてさらに無機あるいは有機微粒子を含むことにより、熱転写時に感熱転写色材層(2)と受像体の間で貼りつきが生じるのを防ぐことができる。この微粒子は0.01〜1.0μmの大きさのものが好適に使用できる。
【0039】
なお、感熱転写色材層(2)と受像体の熱転写時における離型性を向上させるために、感熱転写色材層(2)には界面活性剤を含有させることが好ましい。かかる界面活性剤の例としてはフッ素系・シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
【0040】
さらに、感熱転写色材層(2)を印刷により塗布形成する際に塗布液の操作性を向上させるために、塗布液に消泡剤を含有させてもよい。
【0041】
本発明では、必要に応じて受像体の転写画像を保護するための熱転写性保護層(図示せず)が感熱転写色材層(2)と面順次に基材フイルム上に設けてあってもよい。この熱転写性保護層の構成材料としては、ニトロセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、石油樹脂、アイオノマー、エチレンアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂、ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、エステルガム、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ポリアミド樹脂、ポリ塩素化オレフィン等の天然樹脂や合成ゴムの誘導体等が挙げられる。熱転写性保護層は上記のような材料の1種あるいは2種以上よりなる組成物により形成することができる。
【0042】
なお、必要に応じて転写性保護層の剥離性をよくするために、熱転写性保護層の構成材料と相溶性のない樹脂、あるいは相溶性の悪い樹脂よりなる離型層を基材フイルムとの間に設けておいてもよい。さらに、受像体の受像面と保護層の間の密着性を向上させるためにこの熱転写保護層のうえに接着層を設けておいてもよい。また、これらの保護層、接着層には、必要に応じて、紫外線吸収剤や光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、有機・無機微粒子等を含有させておいてもよい。
【0043】
なお、長尺状の感熱転写記録媒体を巻き取った際に、感熱転写色材層(2)や上述した熱転写性保護層がそれらが形成されていない基材フイルムの面に接着(ブロッキング)するのを防ぐと共に、サーマルヘッドが付着して感熱昇華転写媒体のスムーズな走行を妨害することを防止するため、基材フイルム(1)の感熱転写色材層(2)や熱転写性保護層が形成されていない基材フイルムの面にバックコート層(3)を設けておくことが望ましい。
【0044】
このバックコート層(3)は、感熱昇華転写媒体のスムーズな走行を確保するため、滑性のある成分を含有する層であることが望ましい。例えば、リン酸エステルの金属塩や、アルキルリン酸エステル、シリコーン系樹脂、シリコーンオイル等を含有する層である。このバックコート層(3)は薄いものが好ましく、0.1〜5μmの厚さで十分である。形成はグラビアコート、ロールコート、リバースコート等により行えばよい。
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの例に限定されるものではない。なお、この実施例に使用するバインダーの呼称と特性を表1に示した。以下の実施例では表1で記されたバインダー名を使用する。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
まず、予め片面が易接着処理されているPETフイルム(厚さ4.5μm、東レ製)の、易接着処理がされていない面に、シリコーン(信越化学製)を0.5g/m2 になるように塗布し、バックコート層つき基材フイルムを得た。
【0047】
次に、上記のようにして得られたバックコート層つき基材フイルムの、易接着処理が施されている面の上に、下記の感熱昇華転写色材層形成用途液をグラビアコート方式により、乾燥後の厚さが1.5μmとなるように塗布して感熱昇華転写色材層を設け、その後乾燥と120℃24時間のエージングを行い、実施例1に係る感熱転写記録媒体を得た。
【0048】
<感熱昇華転写色材層形成用途液の組成>
昇華性染料 61重量部
バインダーA 36重量部
イソシアネート基含有ポリマー(NCO/OH比=1.8) 8重量部
フッ素系界面活性剤(DIC製) 1重量部
有機微粒子(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、粒径0.2μm) 2重量部
溶剤 メチルエチルケトン 217重量部
溶剤 トルエン 109重量部
<実施例2>
実施例1の感熱昇華転写色材層形成用途液組成のうち、イソシアネート基含有ポリマーを除いた以外は、実施例1と同様にして、比較のための実施例2に係る感熱転写記録媒体を得た。
【0049】
<実施例3>
実施例1の感熱昇華転写色材層形成用途液組成のうち、バインダーAを、バインダーBに代え、イソシアネート基含有ポリマーを除いた以外は、実施例1と同様にして、比較のための実施例3に係る感熱転写記録媒体を得た。
【0050】
<実施例4>
実施例1の感熱昇華転写色材層形成用途液組成のうち、バインダーAを、バインダーCに代え、イソシアネート基含有ポリマーを除いた以外は、実施例1と同様にして、比較のための実施例4に係る感熱転写記録媒体を得た。
【0051】
実施例1〜4に使用したバインダーの固有粘度を次のようにして測定した。
【0052】
<固有粘度測定>
オストワルド式粘度計(仕様:水30℃、10mLで100sec(±20秒))を用い、25℃に保った恒温槽中で、塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン、トルエンおよびエタノールを重量比5:2:2:1で含む混合溶媒にバインダーを溶解させ、固有粘度を測定した。バインダーを複数種使用している場合は、所定の量バインダーを混合したものについて測定した。得られた結果は表1に示した。
【0053】
実施例1〜4に係る感熱転写記録媒体の転写時における熱シワの発生を次のようにして評価した。
【0054】
<熱シワ評価>
感熱転写記録媒体を、市販のプリンタにセットし、市販の受像紙に対して転写を行い、転写後の画像に熱シワ由来の画像の乱れがあるかどうか確認した。評価は◎:非常によい、○:よい、×:悪いの三段階で評価した。得られた結果は表2に示した。
【0055】
実施例1〜4に係る感熱転写記録媒体の感熱転写色材層の面状態を次のようにして評価した。
【0056】
<面状態評価>
感熱転写記録媒体のうち、感熱転写色材層が設けられている部分を切り取り、透過光で肉眼観察を行い、面の均一さを、◎:非常によい、○:よい、×:悪いの三段階で評価した。得られた結果は表2に示した。
【0057】
【表1】

表1は、感熱昇華転写色材層形成用途液に使用したバインダーの呼称と、その性質を記した表である。
【0058】
【表2】

表2は、感熱昇華転写色材層形成用途液の組成の概要と、転写画像における熱シワの発生と、感熱転写記録媒体の面状態と、以上を総合した印画後の画像につき、実施例1〜4について記した表である。
【0059】
<評価結果>
得られた感熱転写記録媒体を用いてサーマルヘッドによる印画を行った場合、添加剤の
イソシアネート基含有ポリマーを含まない場合、すなわち実施例2においては熱シワの発生が顕著であった。また、実施例3,4で見られるように、バインダーの固有粘度が高いほど、熱シワの発生は少なくなっている。このように固有粘度が0.5未満のバインダーを単独で用いると熱シワが発生するのだが、添加剤としてイソシアネート基含有ポリマーを含む場合、すなわち実施例1おいては、熱シワの発生は見られず、固有粘度が0.5以上のバインダーを単独で利用した場合と同等の性能を発することが分かった。
【0060】
またバインダーの固有粘度が0.5未満である実施例1、2の場合において、非常に良好な面状態を得ることができた。バインダーの固有粘度が0.5以上の場合、すなわち実施例3,4に係る感熱転写記録媒体の感熱転写色材層においては、塗布時の感熱転写色材層形成用塗液のはねに由来すると考えられる面状の不均一さが生じていた。
【0061】
以上の結果を総合して、印画後の画像を評価すると、バインダーの固有粘度が0.5未満であり、かつ添加剤としてイソシアネート基含有ポリマーを含む場合では良好な画像が得られたが、バインダーの固有粘度が0.5以上であったり、0.5以下でも添加剤を使用しなかった場合では面状の不均一さや熱シワ、貼り付きに由来する画像の悪化が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に用いる感熱転写記録媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1 基材フイルム
11 フイルムベース
12 易接着層
2 感熱転写色材層
3 バックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フイルムの一方の面には少なくとも昇華性染料とバインダーを含有してなる感熱転写色材層が設けられている感熱転写記録媒体であって、感熱転写色材層のバインダーが水酸基を有するポリマーであり、その水酸基含有残基の全残基に対する重量割合が15%未満であり、かつそのバインダーの固有粘度が塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン、トルエンおよびエタノールを重量比5:2:2:1で含む混合溶媒中、25℃で測定した場合に、0.5dL/g未満であり、かつ該感熱転写色材層に、添加剤としてイソシアネート基を有するポリマーを含み、その量は、バインダーの重量部を1とした場合に、0.1〜0.4重量部の範囲であることを特徴とする感熱転写記録媒体。
【請求項2】
基材フイルムの感熱転写色材層が設けられていない面に、バックコート層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項3】
基材フイルムが1〜20μmの厚さのプラスチックフイルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項4】
感熱転写色材層の乾燥厚みが0.5〜5μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の感熱転写記録媒体。
【請求項5】
バインダーがポリビニルアセタールであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の感熱転写記録媒体。
【請求項6】
感熱転写色材層にはさらに添加剤として有機または無機微粒子を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の感熱転写記録媒体。
【請求項7】
感熱転写色材層にはさらに添加剤として界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜6に記載の感熱転写記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−46850(P2010−46850A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211556(P2008−211556)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】