説明

慢性閉塞性肺疾患を処置するための方法および組成物

本発明は、哺乳類対象において慢性閉塞性肺疾患を処置する方法であって、有効量の式(I)の特定二環式化合物および/またはその互変異性体を、必要とする対象へ投与することを含む方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類対象において慢性閉塞性肺疾患を処置するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、完全には可逆性でない気流制限を特徴とする疾患状態である。この気流制限は通常、進行性であり、有害性の粒子または気体に対する肺の異常な炎症反応と関連している。COPDは、固定した気道疾患の2症状である慢性気管支炎および肺気腫を表すのにしばしば用いられる広義の用語であるが、喘息(可逆性気流制限)は含まれない。
【0003】
COPDについての最も重大な危険因子は喫煙である。多くの国々で人気のあるパイプ、葉巻および他の種類のタバコ喫煙も、COPDの危険因子である。
【0004】
COPDの他の要因には、作業上の粉塵および化学薬品(蒸気、刺激物質および煙霧)などがあり、曝露が十分に激しいかまたは長期に渡る場合、排気性の乏しい居住空間において料理や暖房に用いたバイオマス燃料による室内空気汚染または屋外大気汚染により、吸入粒子の肺への総負荷が増大するが、COPDを引き起こすその具体的な作用についてはあまり理解されていない。受動喫煙も呼吸器症状およびCOPDの原因となる。幼児期の呼吸器感染は、成人期の肺機能の低下および呼吸器症状の増加に関係する(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(慢性閉塞性肺疾患のためのグローバルイニシアチブ)、POCKET GUIDE TO COPD DIAGNOSIS, MANAGEMENT, AND PREVENTION(COPD診断、処置および予防のためのポケットガイド)、A Guide for Health Care Professionals(医療専門家のためのガイド)、2005年7月更新)。
【0005】
医師らは、現在の治療法は症状の軽減をもたらすのみであることを報告しており、COPDの進行を変化させる(肺機能の進行性損失を遅くする、または、より重要であるのは確立した疾患自体を逆行させる)ことができる処置法が望まれている。しかしながら、これらの考えを臨床的利益へと転化できるような新たな治療法は未だ存在しない。様々な薬効分類について多くの薬剤が調査されてはいる。しかしながら、これらは、肺機能の進行性損失を軽減するまたは逆行させるという、未だ満たされていない重要なニーズに対処できるとまでは期待されていない。
【0006】
プロスタグランジン類(以後PG類と示す)は、ヒトまたは他の哺乳類の組織または器官に含まれ広範な生理学的活性を示す、有機カルボン酸分類群のメンバーである。天然に存在するPG類(天然PG類)は、一般に、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する:
【化1】


【0007】
一方、天然PG類の幾つかの合成類似体は修飾された骨格を持っている。天然PG類は5員環部分の構造特性によって、PGA類、PGB類、PGC類、PGD類、PGE類、PGF類、PGG類、PGH類、PGI類およびPGJ類に分類され、さらに炭素鎖部分の不飽和結合の数と位置によって、以下の3つのタイプに分類される。
下付1:13,14−不飽和−15−OH
下付2:5,6−および13,14−ジ不飽和−15−OH
下付3:5,6−、13,14−および17,18−トリ不飽和−15−OH。
【0008】
さらに、PGF類は9位のヒドロキシ基の配置によってαタイプ(ヒドロキシ基がα配置である)およびβタイプ(ヒドロキシ基がβ配置である)に分類される。
【0009】
PGE1、PGE2およびPGE3は、血管拡張、血圧低下、胃液分泌減少、腸管運動促進、子宮収縮、利尿、気管支拡張および抗潰瘍作用を有することが知られている。PGF、PGFおよびPGFは高血圧、血管収縮、腸管運動促進、子宮収縮、黄体退縮および気管支収縮作用を有することが知られている。
【0010】
また、幾つかの15−ケト−PG類(すなわちヒドロキシ基の代わりに15位にオキソ基を持つPG類)および13,14−ジヒドロ−15−ケト−PG類(すなわち13、14位間は単結合である)は、天然PG類の代謝中に酵素の作用によって自然に生成する物質として知られている。
【0011】
上野らの米国特許第5,254,588号明細書には、いくつかの15-ケト-PG化合物が肺機能不全の処置に有用であることが記載されている。
【0012】
上野らの米国特許第5,362,751号明細書には、いくつかの15-ケト-PGE化合物が気管気管支拡張剤として有用であることが記載されている。
【0013】
上野らの米国特許第6,197,821号明細書には、いくつかの15-ケト-PGE化合物が、高血圧、バージャー病、喘息、眼底疾患などと関係があるとされているエンドセリンのアンタゴニストであることが記載されている。
【0014】
上野らの米国特許第7,064,148号明細書および米国特許出願公開第2003/0166632号明細書には、プロスタグランジン化合物がクロライドチャネル、特にClCチャネル、殊にClC-2チャネルを開いて活性化することが記載されている。
【0015】
上記の引用文献は参照により本明細書に含まれる。
【0016】
COPDにおいて、特定の二環式化合物がどのように作用するかは知られていない。
【発明の開示】
【0017】
[発明の概要]
本発明の目的は、哺乳類の患者において慢性閉塞性肺疾患を処置する方法を提供することである。別の局面において、本発明の目的は、哺乳類の患者における慢性閉塞性肺疾患を処置するための医薬組成物を提供することである。本発明者らは集中的に研究を行い、特定の二環式化合物がCOPDの処置に有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は、哺乳類対象において慢性閉塞性肺疾患を処置する方法であって、有効量の式(I)で表される二環式化合物および/またはその互変異性体を、必要とする対象へ投与することを含む方法に関する:
【化2】

[式中、
A1およびA2は同じまたは異なるハロゲン原子であり、
Bは−CH3、−CH2OH、−COCH2OH、−COOH、またはその医薬上許容し得る塩、エーテル、エステルもしくはアミドである]。
【0019】
本発明はまた、哺乳類対象における慢性閉塞性肺疾患を処置するための、有効量の上記式(I)で表される二環式化合物および/またはその互変異性体を含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明はさらに、哺乳類対象における慢性閉塞性肺疾患を処置するための医薬組成物を製造するための、上記式(I)で表される二環式化合物および/またはその互変異性体の使用を提供する。
【0021】
[発明の詳細な説明]
本発明に用いられる二環式化合物は式(I)により表される:
【化3】

[式中、
A1およびA2は同じまたは異なるハロゲン原子であり、
Bは−CH3、−CH2OH、−COCH2OH、−COOH、またはその医薬上許容し得る塩、エーテル、エステルもしくはアミドである]。
【0022】
「ハロゲン」なる用語は通常の意味で用いられ、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子を含む。A1およびA2について、特に好ましいハロゲン原子はフッ素原子である。
【0023】
適切な「医薬上許容し得る塩」には、慣用される非毒性塩、例えば、無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩およびカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩およびマグネシウム塩など)、アンモニウム塩;または、有機塩基との塩、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩およびカフェイン塩など)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩およびリジン塩など)、テトラアルキルアンモニウム塩などがある。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によって、または塩交換によって調製し得る。
【0024】
エーテルの例には、アルキルエーテル、例えば、低級アルキルエーテル、例えばメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテルおよび1−シクロプロピルエチルエーテルなど;中級または高級アルキルエーテル、例えばオクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテルおよびセチルエーテルなど;不飽和エーテル、例えばオレイルエーテルおよびリノレニルエーテルなど;低級アルケニルエーテル、例えばビニルエーテル、アリルエーテルなど;低級アルキニルエーテル、例えばエチニルエーテルおよびプロピニルエーテルなど;ヒドロキシ(低級)アルキルエーテル、例えばヒドロキシエチルエーテルおよびヒドロキシイソプロピルエーテルなど;低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル、例えばメトキシメチルエーテルおよび1−メトキシエチルエーテルなど;随意に置換されたアリールエーテル、例えばフェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジ−メトキシフェニルエーテルおよびベンズアミドフェニルエーテルなど;およびアリール(低級)アルキルエーテル、例えばベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテルなどがある。
【0025】
エステルの例には、脂肪族エステル、例えば、低級アルキルエステル、例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステルおよび1−シクロプロピルエチルエステルなど;低級アルケニルエステル、例えばビニルエステルおよびアリルエステルなど;低級アルキニルエステル、例えばエチニルエステルおよびプロピニルエステルなど;ヒドロキシ(低級)アルキルエステル、例えばヒドロキシエチルエステルなど;低級アルコキシ(低級)アルキルエステル、例えばメトキシメチルエステルおよび1−メトキシエチルエステルなど;および随意に置換されたアリールエステル、例えば、フェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジ−メトキシフェニルエステルおよびベンズアミドフェニルエステルなど;およびアリール(低級)アルキルエステル、例えばベンジルエステル、トリチルエステルおよびベンズヒドリルエステルなどがある。
【0026】
Bのアミドは、式−CONR'R''で表される基を意味し、ここで、R'およびR''はそれぞれ水素原子、低級アルキル、アリール、アルキル−またはアリール−スルホニル、低級アルケニルおよび低級アルキニルであり、例えば、低級アルキルアミド、例えばメチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミドおよびジエチルアミドなど;アリールアミド、例えばアニリドおよびトルイジド;およびアルキル−またはアリール−スルホニルアミド、例えばメチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミドなどがある。
【0027】
好ましい実施形態は、式(I)のA1およびA2がフッ素原子であり、Bが−COOHである二環式化合物により構成される。
【0028】
本発明の二環式化合物は、固体の状態では二環式形態として存在するが、溶媒に溶解すると部分的に上記化合物の互変異性体を形成する。水の非存在下において、式(I)で表される化合物は、主に二環式化合物の形態で存在する。水性媒質中では、例えばC-15位のケトン間に水素結合が生じ、それにより二環式環の形成が妨害されると考えられている。また、C-16位のハロゲン原子は二環式環の形成を促進すると考えられている。以下に示す、C-11位のヒドロキシ部分とC-15位のケト部分間の互変異性は、13,14単結合およびC-16位に2つのフッ素原子を有する化合物の場合に特に顕著である。
【0029】
本発明によると、前記の式(I)の化合物の「互変異性体」、例えばC-15位にケト基およびC-16位にハロゲン原子を有する単環式互変異性体も処置に用いることができる。
【化4】

【0030】
本発明の好ましい単環型の化合物は、従来のプロスタグランジンの命名法に従い、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18(S)-メチル-PGE1と命名することができる。
【0031】
本発明に用いられる化合物は、米国特許第5,739,161号明細書(本引用文献は参照により本明細書に含まれる)に開示されている方法により調製することができる。
【0032】
本発明によると、哺乳類対象は、本発明に用いられる化合物を投与することによって本発明により処置し得る。その対象はヒトを含めいずれの哺乳類対象であってもよい。本化合物は全身的または局所的に適用することができる。通常、本化合物は経口投与、鼻腔内投与、吸入投与、静脈内注射(点滴を含む)、皮下注射、直腸内投与、経皮投与などにより投与し得る。
【0033】
投与量は、動物の系統、年齢、体重、処置すべき症状、望む治療効果、投与経路、処置期間などに応じて変化し得る。1日に0.00001-500μg/kg、好ましくは0.0001-100μg/kg、より好ましくは0.001-10μg/kg量を、1日に1-4回全身または局所投与または連続投与することにより、十分な効果が得られうる。
【0034】
本化合物は、従来法により投与に適した医薬組成物として製剤化するのが好ましい。その組成物は、経口投与、鼻腔内投与、吸入投与、注射または灌流に適したもの、ならびに外部薬、坐薬または腟坐薬であり得る。
【0035】
本発明の組成物は生理学的に許容し得る添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤には本発明の化合物とともに用いる成分、例えば、賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基剤、坐薬用基剤、エアゾール剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤、機能性物質(例えばシクロデキストリン、生体内分解高分子など)、安定剤などがあり得る。これらの添加剤は当業者によく知られており、一般的な製剤学の参考書に記載されているものから選択すればよい。
【0036】
本発明の組成物における上記に規定の化合物の量は、組成物の処方に応じて変化させてよく、一般に0.000001-10.0%、より好ましくは0.00001-5.0%、最も好ましくは0.0001-1%であり得る。
【0037】
経口投与のための固体組成物の例には、錠剤、トローチ剤、舌下錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤などがある。固体組成物は1以上の活性成分と少なくとも1つの不活性希釈剤を混合して調製してもよい。その組成物に、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば、潤滑剤、崩壊剤および安定剤をさらに含ませてもよい。錠剤および丸剤は、必要に応じて、腸溶性または胃腸溶性フィルムによって被覆してもよい。それらは2以上の層によって被覆してもよい。それらは徐放性物質に吸収させても、またはマイクロカプセル化してもよい。さらに、本組成物は、ゼラチンなどの易分解性物質を用いてカプセル化してもよい。それらは、脂肪酸またはそのモノ、ジもしくはトリグリセリドなどの適切な溶媒にさらに溶解させて軟カプセルとしてもよい。即効性が必要な場合は舌下錠を用いてもよい。
【0038】
経口投与、鼻腔内投与または吸入投与のための液体組成物の例には、乳剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤などがある。そのような組成物は、慣用される不活性希釈剤、例えば精製水またはエチルアルコールをさらに含んでもよい。この組成物は、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤や懸濁剤などのアジュバント、甘味剤、香味剤、芳香剤および保存剤を含んでもよい。
【0039】
本発明の組成物は、1以上の活性成分を含有する噴霧用組成物の形態であってもよく、これは既知の方法によって調製することができる。
【0040】
鼻腔内用製剤の例には、1以上の活性成分を含む、水性もしくは油性溶液剤、懸濁剤または乳剤があり得る。活性成分の吸入による投与のために、本発明の組成物はエアロゾルとなり得る懸濁液、溶液または乳液の形態、または乾燥粉末の吸入に適した粉末の形態であってもよい。吸入投与のための組成物は、慣用される噴射剤をさらに含んでもよい。
【0041】
非経口投与のための本発明の注射用組成物の例には、滅菌した水性もしくは非水性溶液剤、懸濁剤および乳剤などがある。水性溶液剤または懸濁剤のための希釈剤には、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水およびリンゲル液などがあり得る。
【0042】
溶液剤および懸濁剤のための非水性希釈剤には、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油など)、アルコール(エタノールなど)およびポリソルベートなどがあり得る。この組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤などの添加剤をさらに含んでもよい。それらは、例えば細菌保留フィルターを通して濾過することによって、滅菌剤を配合することによって、またはガスもしくは放射性同位体照射滅菌によって滅菌してもよい。注射用組成物は、滅菌粉末組成物として提供し、使用前に注射用の滅菌溶媒に溶解させることもできる。
【0043】
本発明の別の形態は坐剤または腟坐剤であり、これらは通常用いられる基剤、例えば体温で軟化するカカオバターに活性成分を混合することによって調製することができ、吸収性を向上させるために適切な軟化温度を有する非イオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0044】
本明細書で用いる場合「処置」または「処置する」なる用語は、症状の予防、治療、軽減、症状の減弱および進行の抑止などの、あらゆる管理手段を含む。
【0045】
上述のように、「慢性閉塞性肺疾患」または「COPD」なる用語は、完全には可逆性でない気流制限を特徴とする疾患状態を含む。COPDは、固定した気道疾患の2症状である慢性気管支炎および肺気腫を表すのにしばしば用いられる広義の用語である。従って、本発明の化合物は、慢性気管支炎および肺気腫を含むCOPDの処置に有用である。
【0046】
COPDはしばしば症状の増悪を伴い、多くの増悪は、気管気管支樹の感染または空気汚染の増大によって引き起こされる。本発明はまた、本発明の医薬組成物を用いることによるCOPDに基づくまたは附随する感染の処置を提供する。
【0047】
本発明の医薬組成物は、1以上の式(I)の化合物を含有してもよく、また本発明の目的に反しないならば式(I)の化合物以外の1以上の薬理活性成分をさらに含んでもよい。
【0048】
本発明のさらなる詳細を実施例を参照して以下に示すが、これは本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0049】
[方法]
喫煙システム(INH06-CIG01A、株式会社M.I.P.S)を用いてモルモットをタバコの煙に曝させた。各動物を曝露ホルダーに入れ、曝露チャンバーに固定した。週5日間、25日の間、1日30本のタバコの煙(ピース(登録商標)、日本たばこ産業株式会社)を、煙発生装置から曝露チャンバーに引き入れた(1から25日目)。シャム曝露群においては、タバコの煙に換えて空気を曝露チャンバーに引き入れた。
【0050】
化合物A(13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18(S)-メチル-PGE1)の水溶液を加圧噴霧器(LC Plus Nebulizer, Pari GmbH)を用いて気化させ、タバコの煙に曝露させる1時間前から30分間、吸入システム(SIS-A、柴田科学株式会社)チャンバーの動物に吸入させた。
【0051】
26日目に、覚醒下の動物の特異的気道抵抗(sRaw)を、呼吸機能測定システム(Pulmos-1、株式会社M.I.P.S)を用いてダブルフロープレチスモグラフ(double flow plethysmo-graph)技術により測定した。
【0052】
sRawの測定後、動物をケタミン(60 mg/kg)およびキシラジン(8 mg/kg)により麻酔し、気管をカニューレ処置した。肺機能を肺機能測定システム(Biosystem Manoeuvers, Buxco Electronics, Inc.)を用いて測定した。測定パラメーターには、残気量(RV)および100ミリ秒の強制呼気肺活量(FEV100)を用いた。
【0053】
肺機能の測定後、動物を麻酔下において失血させて屠殺し、胸部を切開した。5ミリリットルの生理食塩水を気管カニューレを通して肺へ注入し、洗浄液を穏やかに吸引して回収した。この手順を繰り返し、回収した洗浄液をひとまとめにした(総じて10mLの気管支肺胞洗浄液、BALF)。BALF中のマクロファージ(単球)数を計数した。
【0054】
[結果]
表1に示すように、対照群の特異的気道抵抗(sRaw)は、シャム曝露群と比較して、タバコの煙への曝露により増加した。化合物Aにより、対照群と比較して、タバコの煙への曝露により誘導されるsRawの増加は有意に抑制された。
【0055】
表2に示すように、タバコ煙曝露により、シャム曝露群と比較して、対照群の残気量(RV)は増加し、100ミリ秒の強制呼気肺活量(FEV100)は減少した。化合物Aにより、対照群と比較して、タバコ煙曝露により誘導されるこれらの変化は有意に抑制された。
【0056】
表3に示すように、対照群の気管支肺胞洗浄液中のマクロファージ(単球)数は、タバコ煙曝露によって、シャム曝露群と比較して増加した。化合物Aにより、対照群と比較して、タバコ煙曝露によって誘導されるマクロファージ(単球)数の増加は有意に抑制された。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
これらの結果は化合物AがCOPDの処置に有益であることを示している。
【実施例2】
【0061】
[方法]
8本のタバコの煙を無血清培養培地100mlに通してゆっくりと引き込み、生じた懸濁液を0.20μmフィルターを通して濾過した。得られた溶液を100%タバコ煙抽出物(CSE)とした。ヒト肺のII型肺胞細胞(A549)を96ウェルプレート上で48時間成長させ、最終濃度が1.5×105細胞/ウェルとなった。次いで細胞を100nMの化合物Aまたは1%、2.5%および5%CSEによりそれぞれ別個に処理した。他の組においては、100nMの化合物Aを1%、2.5%または5%CSEとともに加えた。インキュベーションは全て37℃にて24時間行った。24時間処理した後、細胞を0-4℃のPBSにより3回洗浄した。細胞傷害のマーカーであるサイトゾルに転移したシトクロムcの測定は、シトクロムc ELISAアッセイキットの説明書に従って行った。
【0062】
[結果]
1.0%-5%の範囲のCSEによる24時間の処理後、細胞のミトコンドリアからサイトゾルへ放出された(転移)シトクロムcの用量依存的増加が測定された。図1に示すように、1% CSEでは、0.1% DMSOを含まない対照と比較して、シトクロムc転移に有意な増加は見られなかったが、2.5%および5% CSEにおいては転移は有意に増加した(それぞれP<0.01およびP<0.005)。0.1% DMSO対照と比較した場合も1%、2.5%および5% CSEにおいて同様の結果が観察された(それぞれNS、P<0.01およびP<0.05)。化合物Aにより、DMSO対照と比較して、1%、2.5%および5% CSEにおいてシトクロムc転移が有意に減少した(それぞれP<0.05、P<0.02およびP<0.005)。結果は肺胞細胞に対する化合物Aの保護的効果を実証している。
【0063】
これらの結果は化合物AがCOPDの処置に有益であることを示している。
【0064】
本発明を詳細に、また具体的な実施形態を参照して説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱せずに様々な改変および修飾を行うことが可能であることは当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、100 nMの化合物Aの存在下または非存在下における24時間のCSE処置後の、A549ミトコンドリアからのシトクロムcの転移を示すグラフである。A549細胞をコンフルエンスまで成長させ、1%(E)、2.5%(H)および5%(K)のCSEにより24時間処理した。その後、シトクロムc転移を測定した。0.1% DMSO(B)(化合物Aの媒体)でも、化合物A(C)単独でもサイトゾルのシトクロムcに有意な影響はなかった。CSEにより、用量依存的にシトクロムc転移の有意な増加が起こった。各用量のCSEにおいて、細胞は100 nMの化合物A(E、G、I)によってCSE誘導性のシトクロムc転移から保護されていた。データは平均±SEM pg/ウェルとして表し、n(各項目のウェル数)はそれぞれの棒グラフ上に示す。データはシトクロムcのpg/ウェルとして表す。各ウェルは1.5×105細胞を含んでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類対象における慢性閉塞性肺疾患の処置のための医薬組成物を製造するための、式(I)で表される二環式化合物、および/またはその互変異性体の使用:
【化1】

[式中、
A1およびA2は同じまたは異なるハロゲン原子であり、
Bは−COOHであり、その医薬上許容される塩、エーテル、エステルまたはアミドを含む]。
【請求項2】
A1およびA2がフッ素原子である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
Bが−COOHである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
哺乳類対象において慢性閉塞性肺疾患を処置する方法であって、有効量の式(I)で表される二環式化合物および/またはその互変異性体を、必要とする対象に投与することを含む方法:
【化2】

[式中、
A1およびA2は同じまたは異なるハロゲン原子であり、
Bは−COOHであり、その医薬上許容される塩、エーテル、エステルまたはアミドを含む]。
【請求項5】
A1およびA2がフッ素原子である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
Bが−COOHである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
哺乳類対象における慢性閉塞性肺疾患を処置するための、有効量の式(I)で表される二環式化合物および/またはその互変異性体を含む医薬組成物:
【化3】

[式中、
A1およびA2は同じまたは異なるハロゲン原子であり、
Bは−COOHであり、その医薬上許容される塩、エーテル、エステルまたはアミドを含む]。
【請求項8】
A1およびA2がフッ素原子である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
Bが−COOHである、請求項8に記載の組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2009−528259(P2009−528259A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541517(P2008−541517)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/JP2007/054127
【国際公開番号】WO2007/102446
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【Fターム(参考)】