説明

懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法

【課題】固形脱窒基質の効果発揮を妨害する懸濁物の影響を受けることなく、生物反応である硫黄脱窒により酸化態窒素を効率良く除去低減するとともに、水酸化マグネシウムの作用によりリン酸及びアンモニア態窒素も同時且つ容易に低減できる懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法を得る。
【解決手段】懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水を、軽量粒状物2を充填した予備処理槽1、続いて硫黄及びアルカリ性物質から成る脱窒基質を表面にコーティングせしめた軽量粒状物4を充填した複合処理槽3へ通水し、懸濁物、無機態窒素、リンの除去低減を成すとともに、その効果を長期に亘り確実に発揮させるため、適宜逆洗等を実施するとともに、処理水のpHが8から8.5となるように水酸化マグネシウムを処理槽へ添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜舎汚水や食品加工廃水等を活性汚泥法等の通常の生物処理後、ある程度の懸濁物も共存する中でそれらの影響を最小限にとどめつつ効率良く無機態窒素及びリンを除去低減し、処理水放流先の環境の保全に用いられる懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水質汚濁防止法その他による硝酸性窒素等の無機態窒素に係る排出規制は年々強化されているが、畜産業に対しては経営環境の厳しさや実用的で平易な無機態窒素除去技術が確立していない等の点から暫定的な排出基準が適用されている。
【0003】
しかしながら、ブタに限定しても全国で約970万頭が肥育されており、それらの尿を中心とした畜舎汚水を高度に処理し、平成16年7月以降は少なくとも硝酸性窒素・亜硝酸性窒素の濃度に加えアンモニア性窒素濃度に0.4を乗じた数値の合計を900mg/L以下にする必要があり、また地域によっては全窒素として60mg/L以下にまで浄化することを求められる場合もある。
【0004】
畜舎汚水の処理現場で比較的多く導入されている活性汚泥法では、畜舎汚水中の窒素化合物を管理方法により容易に硝酸性窒素にまで無機化及び酸化できるが、畜舎汚水はBOD/N比が小さい場合が多く脱窒が不十分となりやすい。そのような状況下で硝酸性窒素を効率良く除去するには独立栄養細菌の一種である硫黄脱窒細菌による方法が適すると考えられ、様々な方法が提案されている(特許文献1〜2)。
【0005】
それらは基本的に、本発明者の一人が開発し提案した、硫黄マトリクス中に炭酸カルシウムを必要量均質分散させる微生物活性能付与組成物(特許文献3)を脱窒基質としているが、これを用いれば硫黄脱窒に伴い生成される硫酸イオンを的確に中和しpHの低下を抑制することができる。
【0006】
また、硫黄脱窒による硝酸性窒素の除去だけでなく、脱窒基質への水酸化マグネシウムの添加によるアンモニア性窒素及びリンの同時低減・回収を行う画期的な方法も本発明者らによって開発提案されている(特許文献4)。
【0007】
ところが、活性汚泥法等による畜舎汚水の処理水には通常懸濁物が含まれており、また、膜濾過等により懸濁物をほぼ完全に除去しても、その後に例えば硫黄脱窒を行えば硫黄酸化細菌等が増殖し且つ中和物質としての石膏微粒子等も発生するため、それらが脱窒資材の粒子間を閉塞させ脱窒効率を低下させることになる。これを防ぐためには定期的な逆洗が効果的であるが、従来の硫黄脱窒用資材は密度と粒径の面から逆洗が容易ではなかった。
【0008】
そこで、嵩比重が比較的軽く且つ粒子径を小さくすることが可能な、特許文献3の組成物を応用した資材(特許文献5)が提案されているが、該資材ではバインダーとして含まれる有機成分の分解等により懸濁物の発生が助長される恐れがあり、また、その製法上形状が球形ではなく円筒形である上に消耗に伴う微粒子化の可能性も予測され、濾過特性の面で理想的とはいえない。
【0009】
また、硝化を強めた運転による活性汚泥法等の畜舎汚水処理水にもアンモニア性窒素の残存することは多く、且つリン酸は必ず残存するので、共存懸濁物の影響を最小限にとどめた簡便で効果的な無機態窒素及びリンの同時除去・低減法が多くの現場で望まれている。
【0010】
なお、窒素及びリンの同時除去法としては種々の方法が提案されている(特許文献6〜13)が、これらの方法は窒素とリンの除去に別工程を要したり、薬注や加温・加圧を必要としたり、実排水への適用時には管理が煩雑であったり、脱窒とリン除去の両方を特定の細菌に依存したり、工程が複雑であったり、被処理水に含まれるリンの濃度に合わせた凝集材の添加が必要であったり、除去材の寿命が短かったりするなど何れも畜産の現場においては実用性に問題のある場合が多く、それらは特に中小規模の畜産現場での適用性に乏しい。
【0011】
本発明者らの開発提案した特許文献4の方法も、懸濁物共存下では脱窒効率やリン酸除去に必要な高pHの維持等には別途工夫が必要であった。
【特許文献1】特開2003−71491号公報
【特許文献2】特開2003−334590号公報
【特許文献3】特開平11−285377号公報
【特許文献4】特願2003−332479号公報
【特許文献5】特開2004−174328号公報
【特許文献6】特開2004−237170号公報
【特許文献7】特開2003−200199号公報
【特許文献8】特開平6−23390号公報
【特許文献9】特開2003−285096号公報
【特許文献10】特開2001−179295号公報
【特許文献11】特開2003−71454号公報
【特許文献12】特開平8−103787号公報
【特許文献13】特開平11−239785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、活性汚泥法等による畜舎汚水等の処理水から、それに含まれる懸濁物の低減を図ることで懸濁物による悪影響を抑制し、良好な環境での硫黄脱窒による硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の効率の良い除去とともに同時に良好な環境におけるリン酸及びアンモニア性窒素の低減を容易且つ確実に行うことが可能な懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載の発明は、懸濁物と共に無機態窒素及びリンを含有する被処理水を、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を充填した複合処理槽へ導水し、濾材により共存する懸濁物を濾過しつつ、無機態窒素及びリンを除去もしくは低減し、間欠的に複合処理槽内に蓄積した懸濁物及び不溶性のリンを逆洗により排出することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、懸濁物と共に無機態窒素及びリンを含有する被処理水を、予備処理用濾材を充填した予備処理槽に導水して懸濁物を低減し、続いて無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を充填した複合処理槽へ導水することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、予備処理用濾材は、軽量粒状物、複合処理槽の無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材、若しくは、複合処理槽において使用された後の脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下した濾材からなることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、予備処理用濾材が、複合処理槽において使用された後の脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下した濾材からなり、脱窒効果の低下した濾材を予備処理用濾材として用いる際、予備処理槽と本処理槽とを逆転して通水することを特徴とする請求項3に記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【0017】
請求項5に記載の発明は、複合処理槽の無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材のリン低減効果が低下した際に、脱窒素を維持可能な範囲で水酸化マグネシウム粉末・粉粒を添加することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材が、軽量粒状物表面に硫黄及びアルカリ性物質から成る混合物を被覆付着させた粉粒体であることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、軽量粒状物がパーライトであることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は、アルカリ性物質が炭酸カルシウム及び/又は水酸化マグネシウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法に依れば、豚舎汚水等の畜産廃水処理水や食品工場廃水処理水のような懸濁物の共存する中で硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、アンモニア性窒素、リン酸の同時除去が望まれる被処理水を簡易に、且つ、効果的に浄化することができ、しかも色度などの外観の改善にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の処理対象である被処理水は、豚舎汚水等の畜産廃水、食品工場廃水、これらを通常の生物処理した生物処理水等のように、懸濁物の共存する中で、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、及びアンモニア性窒素を含む無機態窒素と、リン酸態リン等のリンとを含有している被処理水である。このような被処理水には、例えば硫黄脱窒細菌の炭素源となりうる物質が比較的多く含有されており、炭酸カルシウムのような炭素源となり得る物質を多用する必要が無い。
このような被処理水を処理する本発明に係る懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法は、懸濁物と共に無機態窒素及びリンを含有する被処理水を、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を充填した複合処理槽へ導水し、懸濁物の低減を図ることで被処理水に共存する懸濁物による影響を最小限にとどめ且つ槽内に蓄積した懸濁物及び不溶性のリンを適宜実施する逆洗により排出することで、無機態窒素及びリンの効果的な除去低減が主として複合処理槽において成されることを基本とする。
【0023】
この方法中で複合処理槽の濾材としては、粒状、粉粒体状、粉状、塊状の資材を用いることができ、この資材としては、本発明者の一人が開発したアルカリ性物質と硫黄とが軽比重多孔質粒状物を核に被覆付着及び/含浸した組成物からなる硝酸性窒素等除去用組成物(特開2003‐71493号公報参照)を用いることが望ましい。
その核となる軽量粒状物としては真珠岩等を加熱処理して得られるいわゆるパーライト、真珠岩、坑火石、軽石、シラスバルーン等のシラス加工物、軽量セラミック、ガラス発泡物等を用いることができ、脱窒基質を構成するアルカリ性物質としては炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、石灰岩、水酸化アルミニウム、軽量気泡コンクリート(ALC)等の粉末、粉粒、細粒を用いることができる。炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを用いれば、硫黄酸化細菌による独立栄養性脱窒法により酸化態窒素の脱窒に優れると共に、アンモニア性窒素及びリンを除去することができる。
【0024】
更に、水酸化マグネシウム粉末、粉粒としては天然鉱物のブルーサイト(水滑石)や同鉱物を主要構成鉱物として含む岩石の破砕粉砕物を用いることが好ましいが、その他海水等由来や化学合成等による水酸化マグネシウムであっても使用できる。
【0025】
このような資材としては、3〜6mm程度の粒径を有する粒子が好ましく、この粒子が複数溶着して大型化されたものであっても用いることができる。この粒子中のアルカリ性物質の粒径としては、概ね0.1mm以下、軽比重多孔質粒状体の粒径としては、2〜5mm程度であるのが好適である。
この資材の嵩比重としては、0.6〜0.9g/cmが望ましい。この資材の粒子が親水性的な性質を有しているため、被処理水の処理時には、水分を含んで沈降し良好な処理を実現すると共に、逆洗時には容易に浮遊して逆洗を行うことができるため、簡易な処理を実現し易いからである。
また、粒子の形状は、球状に近いものが好ましい。球状であれば、濾過性能が高くなり、逆洗の回数を少なく抑え易いからである。
【0026】
このような資材を用いて、被処理水を処理するには、複合処理槽に資材を充填して、被処理水を例えば複合処理槽の頂部側から導水して、適宜、HRT等の各種条件を設定して下向き流で通水し、底部側から処理水を排出させるなどにより、被処理水を処理することができる。
この処理においては、例えば、処理後の処理水のpHが8.0〜8.5の範囲とするのが好適である。このようなpHの範囲では、リンの除去能が確保し易く、硝酸性窒素の除去能も確保し易いからであり、更に、亜硝酸性窒素の増加を抑制できるか減少させる傾向も見られた。
【0027】
また、この処理期間中には、被処理水中の懸濁物が濾材により濾過されると共に、硫黄酸化細菌等が増殖し、あるいは、石膏微粒子が生成されることにより形成された固形分等も濾材に捕捉される。そのため、定期又は不定期に間欠的に濾材を逆洗しつつ、処理を継続するのが好ましい。
【0028】
このような被処理水の処理によれば、複合処理槽により、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、アンモニア性窒素、リン酸の同時除去が効率的に行えると同時に、懸濁物を濾過することが可能であり、色度などの外観の改善も行える。そのため、簡易な処理方法により被処理水の処理を簡略化できる。しかも、資材として上述のような所定のものを用いれば、逆洗により容易に濾材の機能を維持することが可能であり、簡易に懸濁物の影響を抑制して長期に亘り順調に無機態窒素及びリン酸を除去低減することができる。
【0029】
本発明の方法では、確実に懸濁物の影響を抑制し長期に亘り順調に無機態窒素及びリン酸を除去低減する場合には、予備処理用濾材を充填した予備処理槽に導水して懸濁物を低減してから、複合処理槽に導水することも好ましい。
【0030】
予備処理槽に充填する予備処理用濾材としては、懸濁物を除去できるものであれば、特に限定されるものではないが、粒状の資材を濾材として用いるのがよい。このような資材としては、真珠岩等を加熱処理して得られるいわゆるパーライト、真珠岩、坑火石、軽石、シラスバルーン等のシラス加工物、軽量セラミック、ガラス発泡物、ALC粒、浄水場発生土加工物、鹿沼土等の火山灰起源土壌の加工物等を用いることができる。
この資材としては、嵩比重が0.3〜0.9g/cmのものを用いるのが好ましい。ここでは、資材の粒子が親水性的な性質を有しているため、被処理水の処理時には、水分を含んで沈降し、濾過機能を発揮し、逆洗時には容易に浮遊して逆洗を行うことができるからである。
【0031】
ここでは、特に、複合処理槽の濾材として用いるものと同様の資材、若しくは、複合処理槽において使用された後の脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下した資材を用いることが好ましい。この脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下した資材とは、十分な脱窒効果が得られなくなった資材であり、例えば、アルカリ性物質と硫黄とが軽比重多孔質粒状物を核に被覆付着及び/含浸した組成物からなる硝酸性窒素等除去用組成物の場合、長期間処理に供されたり、繰り返し逆洗等を受けて磨耗することにより、軽比重多孔質粒状物の表面の硫黄及び炭酸カルシウムに代表される脱窒基質が消費されたり、脱窒基質が剥離し、その結果、所望の脱窒速度が得られなくなったものなどである。これは、後述する水酸化マグネシウムを添加するリンの除去能の回復を繰り返し行い、長期間使用した後に生じるものである。
【0032】
このような資材を予備処理用濾材として用いれば、適切な比重を有して逆洗が行い易いだけでなく、僅かながら脱窒作用が残存しているため、装置全体としての脱窒効果を向上させることも可能である。
しかも、このようにすれば、複合処理槽と予備処理槽とに用いる資材の種類を少なくできて資材の無駄を抑えることができる。
このように予備処理槽により予め懸濁物を減少させてから、複合処理槽に被処理水を導水すれば、複合処理槽の濾材に捕捉される懸濁物の量を抑えることができて、濾材の通水性を維持し易い。このことは、逆洗の回数を減らすことになり、逆洗による濾材の磨耗等に起因する劣化を抑制でき、好適である。
【0033】
更に、本発明の方法では、より確実に懸濁物の影響を抑制し長期に亘り順調に無機態窒素及びリン酸を除去低減する場合は、懸濁物と共に無機態窒素及びリンを含有する被処理水を、予備処理用濾材を充填した予備処理槽続いて無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を充填した複合処理槽へ導水し、予備処理槽において懸濁物の低減を図り、共存する懸濁物による影響を最小限にとどめた無機態窒素及びリンの除去低減が主として複合処理槽において成され、複合処理槽に充填された無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材の脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下を機に、予備処理用濾材に換えて新たに無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を予備処理槽へ充填し、その後はそれまでの予備処理槽と複合処理槽を逆転した運転操作を行い、以後はそれを繰り返し、且つ槽内に蓄積した懸濁物及び不溶性のリンを適宜実施する逆洗により排出することで被処理水に共存する懸濁物による影響を最小限にとどめることができる。
このようにすれば、複合処理槽において劣化した資材からなる濾材を、移動させることなく予備処理用濾材として利用することができ、極めて作業性がよく、好適である。
【0034】
本発明の方法では、上記何れの場合であっても、さらに無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材のリン低減効果が低下した際、複合処理槽へ脱窒素を妨げない程度に水酸化マグネシウム粉末・粉粒を添加することによりリン除去性能の維持、回復を図ることができる。
【0035】
この水酸化マグネシウムは、溶解による消費や、被処理水中に含まれる炭酸イオン等により表面が炭酸化され、そのアルカリ性が低下しやすい。そのため、被処理水の処理を継続することにより、不足し易い。そこで、この発明の方法では、リン低減効果が低下した時点で、複合処理槽中に水酸化マグネシウムが存在するか否かに関わらず、水酸化マグネシウムを添加することとしている。
更に、この水酸化マグネシウムは、多量に添加すると、pHを過剰に上昇させて脱窒能を低下乃至は無効にすることもある。そのため、この発明では、脱窒素を妨げない程度に添加する必要がある。
なお、ここでは、水酸化マグネシウムを粉末・粉粒として添加するのが、被処理水との接触面積を大きくできる等の理由で好ましいが、逆洗時に複合処理槽から流出する懸念も存在する。ところが、この発明では、複合処理槽に上述のような資材からなる濾材を用いることにより、濾過性能を確保し易く、そのため逆洗の回数を少なく抑えることができる。しかも、水酸化マグネシウムは、懸濁物より比重が重いため、複合処理槽の濾材中に留まり易い。そのため、水酸化マグネシウムの添加により、その効果を十分に発現させることが可能となっているのである。
【0036】
リン低減効果が低下したことを判定するための指標としては、例えば、複合処理槽から排出される処理水中のリン酸濃度を用いてもよいが、処理水のpHを用いることができる。このpHとして例えばpH8以下に達したことにより、リン低減効果が低下したと判定してもよい。
そして、水酸化マグネシウム粉末・粉粒を添加する際には、過剰に添加するとpHが上昇しすぎて、細菌の活性が低下して脱窒能が低下し易いという理由で、例えば、水酸化マグネシウム粉末・粉粒を添加した状態で複合処理槽から排出される処理水のpHが8〜8.5の範囲を維持するように添加することができ、複数回に分けて添加することも好ましい。
【0037】
次に、本発明の方法により被処理水を処理するための処理装置の一例について説明する。
処理装置としては、図1で示すような装置(実施例)を用いることができる。図1中、符号1は予備処理槽、2は予備処理用濾材、3は複合処理槽、4は無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材、5は水酸化マグネシウム粉末、6は被処理水、7は処理水を示す。但し、この実施の形態に限定されるものではない。
【0038】
このような処理装置では、まず、予備処理槽1の予備処理用濾材2及び複合処理槽3の無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材4として、上記のような資材を充填する。そして、図1中、実線で示すように、被処理水6を予備処理槽1から通水し、続いて複合処理槽3に通水して、処理水7を複合処理槽3から排出することにより処理を行う。
この処理期間中には、予備処理槽1及び複合処理槽3では、図示しない逆洗装置や曝気装置等を用いて、定期又は不定期に間欠的に逆洗操作を行い、処理能力を維持させる。また、処理水7においてリンの低減効果が低下した時点では、複合処理槽3に水酸化マグネシウム粉末5の添加を行うことにより処理を継続する。
【0039】
そして、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材4の無機態窒素の低減効果が低下し、所望の脱窒速度が得られなくなった時点で、予備処理槽1から予備処理用濾材2を抜き出し、新たに無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材4を予備処理槽1に充填した上で、予備処理槽1と複合処理槽3とを逆転させる操作を行う。即ち、予備処理槽1を複合処理槽3’とし、複合処理槽3を予備処理槽1’とする。このとき、複合処理槽3’内に充填されていた予備処理用濾材2は廃棄し、新たな無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材4’を充填する。また、予備処理槽1’内に充填されていた無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材4は充填された状態のままにし、この濾材4を予備処理用濾材2’として利用する。
この状態で、図1中、鎖線で示すように、被処理水6’を予備処理槽1’から通水し、続いて複合処理槽3’に通水して、処理水7’を複合処理槽3’から排出することにより処理を行う。この装置では、更に、このような操作を繰り返すことにより、長期間連続して処理を行うことができる。
なお、使用後の廃棄される予備処理用濾材2は、その後、他の用途に利用することもでき、パーライト等の場合には、堆肥製造の副資材や土壌改良材などとして有効に利用することも可能である。
【0040】
このような装置では、本発明に係る懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法は、豚舎汚水等の畜産廃水処理水や食品工場廃水処理水のような懸濁物の共存する被処理水から無機態窒素及びリン酸が効果的に除去され放流先の水環境保全にも寄与することから、懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理に適する。
【実施例】
【0041】
上述した懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水処理の有効性を確認するべく、本発明として図1の装置(実施例)を作成し、茨城県つくば市池の台2に所在の畜産草地研究所において実際の養豚畜舎汚水を生物処理した液を供試して試験を行った。この実施例においては、複合処理槽3と予備処理槽1とを逆転させた運転は行わなかった。
【0042】
予備処理槽1として容量:5リットル、本処理槽3として容量:5リットルのものを備えつけた。
【0043】
予備処理用濾材2として真珠岩系パーライト(太平洋パーライト株式会社製):0.5リットル(層厚100mm)、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材4として真珠岩系パーライト(太平洋パーライト株式会社製)表面に、硫黄(細井化学工業株式会社製):37重量%、炭酸カルシウム(株式会社ニッチツ製):18.5重量%、水酸化マグネシウム(中国産):44.5重量%から成る混合物を被覆付着させた粉粒体で粒径2〜25mmの資材:0.5リットル(層厚100mm)を適用し、水酸化マグネシウム粉末5として平均粒子径10μmの試料(中国産)を添加し、表1に示す水質の被処理水を定量ポンプにより予備処理槽1続いて本処理槽3へHRT2.5時間、処理水温20℃の条件で導水した。
【0044】
【表1】

【0045】
比較例としては、単独の処理槽において、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材として硫黄(細井化学工業株式会社製):35重量%、炭酸カルシウム(株式会社ニッチツ製):45重量%、水酸化マグネシウム(中国産):20重量%から成る粒径5〜20mmの混合物3リットルにHRT36時間、処理水温20℃の条件で表1の水質の被処理水を通水した。
【0046】
試験の結果は、表2及び図2〜図6に示す通りであった。表2は比較例による浄化効果、図2〜図6は実施例による浄化効果を示す。
図2は、実施例における酸化態窒素、硝酸態窒素、無機態窒素の除去速度、即ち窒素除去能の変化を示す。図3は、原水(被処理水)pHと亜硝酸性窒素増加量の関係を示す。図4は、リン酸態リンの除去速度、即ちリン酸除去能の変化と、水酸化マグネシウムの添加によるリン酸除去能の回復効果を示す。図5は、処理水pHとリン酸除去能の関係を示す。図6は、パーライトを用いた予備処理による浮遊懸濁物(SS)の除去効果を示す。
なお、表2及び図2において無機態窒素として示されている中に、酸化態窒素(硝酸、亜硝酸)及びアンモニア性窒素の全てが含まれる。
【0047】
【表2】

【0048】
比較例による浄化効果は表2に示すとおりで、浮遊懸濁物(SS)については特記するほどの浄化効果が無く示さなかったが、硝酸性(硝酸態と同意)窒素の除去速度については試験期間130日を通じて最小でも0.10kg/m3/dayの値を示し良好であった。
【0049】
しかしながら比較例においては、試験開始後20日以降、亜硝酸性窒素及びアンモニア性窒素除去速度が急減し、リン酸態リンについては供試の被処理水を上回る濃度が処理水中に含まれる場合があった。それら除去効果の低下は何れも処理水pHが8以下となった場合に見られたが、硝酸性窒素除去能が逆洗により回復したのと異なり、逆洗を行ってもpHの上昇やアンモニア性窒素除去、リン酸態リン除去効果の回復は殆ど見られなかった。
【0050】
これに対し実施例では、試験開始後80日以降に窒素除去能は漸減の傾向にあったが、被処理水中の亜硝酸性窒素濃度が0.2kg/m3/day以下であれば、HRT2.5時間(比較例のHRTは36時間)でも0.3kg/m3/day以上の窒素除去能を示し、比較例に比して明らかに優った(図2参照)。なお、試験後半は原水(被処理水)pHが7.6以下であった場合が多く、そのような場合には亜硝酸性窒素が比較的多く含まれ、0.1kg/m3/day以上の値を示すことも少なくなかった(図3参照)。
【0051】
また実施例では、処理水pHが8.0以下となった50日目以降、逆洗等の操作を行ったがpH及びリン酸除去能の回復が思わしくなく、68日目以降84日目にかけて30gの水酸化マグネシウムを7回に分け本処理槽3の上部から添加したところ処理水pHが8.0以上に回復、同時にリン酸除去能も0.1kg/m3/day以上に回復し、比較例に比して明らかに優った(図4,5参照)。
【0052】
さらに実施例では、被処理水(原水)中のSSが119〜169mg/Lであったものが予備処理により8〜10mg/Lにまで低下し、91.6重量%〜95.3重量%の除去率を示した(図6参照)。図6では5日目までの結果を示したが、試験期間中に濾過抵抗の増大を指標にした適宜の逆洗を行うことで、継続的良好に5日目までと同様の濾過効果が持続した。
【0053】
また、処理水pHを8.0以上とすればリン酸除去能が維持されるだけでなく、亜硝酸性窒素の蓄積や生成も抑制される傾向が見られたことから、長期稼動の硫黄脱窒に散見される亜硝酸性窒素の残存による酸化態窒素除去能の低下を抑制できる可能性も示唆された(図3、5参照)。
【0054】
なお、視覚による比較であるが、実施例の処理水は原水(被処理水)はもとより比較例と比べ、色調の改善がなされていた。
【0055】
ところで、脱窒濾材として使用後に予備処理用濾材として転用した後の濾材は、表面の硫黄分がほぼ消費されている一方で、不溶化したリン、窒素、マグネシウム成分が表面に沈着している場合があり、濾材がパーライトを主とする場合それは法定土壌改良材として公認されており且つ堆肥化においても良質の副資材として認知されていることから、パーライト及び被処理水等に含まれる肥料成分の循環利用という点から有望なリサイクル資材となり得る。
【0056】
なお、本発明は上述した実施(実施例)の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例に係る懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理装置を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例における酸化態窒素、硝酸態窒素、無機態窒素の除去速度、即ち窒素除去能の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例における原水(被処理水)pHと亜硝酸性窒素増加量の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例におけるリン酸態リンの除去速度、即ちリン酸除去能の変化と、水酸化マグネシウムの添加によるリン酸除去能の回復効果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例における処理水pHとリン酸除去能の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例におけるパーライトを用いた予備処理による浮遊懸濁物(SS)の除去効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1、1’ 予備処理槽
2、2’ 予備処理用濾材
3、3’ 複合処理槽
4、4’ 無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材(脱窒濾材)
5、5’ 水酸化マグネシウム粉末
6、6’ 被処理水(原水)
7、7’ 処理水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁物と共に無機態窒素及びリンを含有する被処理水を、無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を充填した複合処理槽へ導水し、濾材により共存する懸濁物を濾過しつつ、無機態窒素及びリンを除去もしくは低減し、間欠的に複合処理槽内に蓄積した懸濁物及び不溶性のリンを逆洗により排出することを特徴とする懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項2】
懸濁物と共に無機態窒素及びリンを含有する被処理水を、予備処理用濾材を充填した予備処理槽に導水して懸濁物を低減し、続いて無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材を充填した複合処理槽へ導水することを特徴とする請求項1に記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項3】
予備処理用濾材は、軽量粒状物、複合処理槽の無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材、若しくは、複合処理槽において使用された後の脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下した濾材からなることを特徴とする請求項2に記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項4】
予備処理用濾材は、複合処理槽において使用された後の脱窒基質消耗に伴う脱窒効果の低下した濾材からなり、脱窒効果の低下した濾材を予備処理用濾材として用いる際、予備処理槽と本処理槽とを逆転して通水することを特徴とする請求項3に記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項5】
複合処理槽の無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材のリン低減効果が低下した際に、脱窒素を維持可能な範囲で水酸化マグネシウム粉末・粉粒を添加することを特徴とする請求項1乃至は4の何れか一つに記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項6】
無機態窒素・リンの低減に寄与する濾材が、軽量粒状物表面に硫黄及びアルカリ性物質から成る混合物を被覆付着させた粉粒体であることを特徴とする請求項1乃至は5の何れか一つに記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項7】
軽量粒状物がパーライトであることを特徴とする請求項6に記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。
【請求項8】
アルカリ性物質が炭酸カルシウム及び/又は水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項6又は7に記載の懸濁物を伴う無機態窒素・リン含有水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−136752(P2006−136752A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325770(P2004−325770)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【出願人】(391054268)株式会社ニッチツ (8)
【Fターム(参考)】