説明

成人T細胞白血病診断器具

【課題】 HTLV−1感染者のATL早期診断又はATL患者の診断に好適な安定した高精度のTSLC1検出キットを提供する。
【解決手段】
イムノクロマト診断キットの構造において、標識抗体パッドの標識抗体と判定ラインの検出抗体に、抗原たんぱく質の異なる部位を認識する抗TSLC1抗体を用いる。すなわち、標識抗体には、ニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体(clone 3E1 Anti−SynCAM/TSLC1)を用い、検出抗体には、この標識抗体との組み合わせで高精度に検出可能なファージディスプレイヒト抗TSLC1抗体を使用する。この組み合わせにより、本発明では、検液中の抗原TSLC1タンパク質が微量でも、高精度で安定してATLの診断ができる。このことは、ATL患者の診断はもとより、TSLC1タンパク質量が少ないHTLV−1母子感染者中のATL発症リスク群におけるATLの早期診断に効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー法(以下「イムノクロマト」という)又はエライザ法によるTSLC1(Tumor Suppressor in Lung cancer1;以下「TSLC1」という)の検出キット、特に成人T細胞白血病(Adult T cell Leukemia;以下「ATL」という)とその病因となるヒトT細胞白血病ウイルス(Human T−cell Leukemia Virus type1;以下「HTLV−1」という)の診断に使用するTSLC1検出キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ATLは、主に母乳によるHTLV−1感染により発症する腫瘍性疾患である。これまでは、南九州を中心とする地域に特異的にみられる疾患として知られていたが、最近は全国的に広く分布してきている。
厚生労働省による全国調査によれば、HTLV−1感染者数は約108万人(2009年)、ATL患者数は増加傾向(年間1000人超)にある。乳幼時に感染すると、40〜60年の感染期間を経て4〜6%の感染者が発症する。HTLV−1感染者中の発症危険率は低いが、臓器浸潤をともなう予後不良の疾患である。一旦急性化すると、今のところ適正な治療法はなく、予後生存率の中央値は1年未満である。
【0003】
一方、TSLC1は、細胞間接着分子IgSF4(Immunoglobulin Super Family,menber4;以下「IgSF4」という)とも言われるが、TSLC1という名前からも明らかなように肺癌の抑制遺伝子として見出されたものである。
【0004】
特許文献1は、この肺癌抑制遺伝子TSLC1のmRNAとその蛋白質がATL患者の白血病細胞において約30倍以上高発現していることを開示している(表1参照)。同様にHTLV−1感染細胞株においても、一部TSLC1の高発現が認められている。正常血液細胞またはその他の白血病細胞においては発現していない(図3参照)。このことから、TSLC1の高発現はATL特異的であるとともに、HTLV−1感染者の動態診断においても有用であることを示唆している。
【0005】
特許文献2は、このTSLC1を抗原とする抗体を用いたATLのイムノクロマト診断器具を開示している。この診断器具は、構造的には典型的なイムノクロマトキットである。例えば、図1に示すように、毛細管現象を利用して検液が流れるように配置された検液滴下パッド、標識パッド、反応膜、検液吸引パッドで構成されている。標識パッドには、金コロイドとTSLC1のマウス抗体からなるコンジュゲートパッドを用いている。ニトロセルロースからなる反応膜上には、標識抗体と同一又は異なるハイブリドーマから産生されたTSLC1のマウス抗体を線状に固相化した判定ラインを設けてある。検体中にTSLC1が含まれていれば、TSLC1は標識抗体との複合体を形成して判定ラインの検出抗体に捕捉され、検出抗体が標識物質の色を呈する。特許文献2では、標識抗体と検出抗体に同一又は異なるハイブリドーマから産生されたマウス抗体の使用例が開示されている。
【0006】
特許文献3は、肝癌細胞に特異的に発現する分子としてIgSF4を同定、これに抗体を作用させることで、抗体依存性細胞障害活性(Antibody−Dependent Cell mediated Cytotoxicity;以下「ADCC活性」という)が発揮されるとの知見を得て、癌治療等に有効な抗IgSF4抗体を提供している。またIgSF4抗体のひとつの用途として、ATL検査用試薬(請求項14)、被検査細胞を対象としてIgSF4を検出するステップを含むATL診断用情報を取得する方法(請求項15)、ATL治療に有効なIgSF4結合化合物のスクリーニング方法(請求項19)及びATL治療法(請求項24)も示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−147798号
【特許文献2】特開2006−317220号
【特許文献3】WO2006/090750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1はTSLC1とATLの関係を開示しているが、イムノクロマトキットに適性のあるTSLC1の抗体に関する言及はない。特許文献2は、前述のように抗TSLC1抗体を用いたATLのイムノクロマト診断器具を開示している。しかし、この診断器具では、標識抗体と同一または異なるハイブリドーマからなるマウス抗体を判定ラインに固相化している。この例によれば、判定ラインのマウス検出抗体が標識抗体のマウス抗体と同一又は異なっていても、TSLC1の認識に定性な差異はないとされている(表1参照)が、標識抗体と検出抗体とが同一のハイブリドーマからなる抗TSLC1抗体の場合には、検液中の抗原TSLC1タンパク質の同一部位を認識する恐れがあり、検液中のTSLC1濃度が低いと検出され難い。かかる観点から、異なる部位を高精度で認識する安定した抗体の組み合わせが望ましい。また特許文献3には、IgSF4(TSLC1)に特異的な抗体が開示されており、その抗体アミノ酸の抗原相補性決定領域(以下「CDR」という)を特定しているが、大部分はADCC活性を利用した肝臓癌の治療に関するものである。ATLの診断(請求項14)あるいは汎用キット[0096][0097]に関しては、ATL細胞表面マーカーのひとつとして、IgSF4抗体の利用可能性を示唆するにとどまっており[0177]。TSLC1検出用のイムノクロマトキット抗体としての好適なIgSF4抗体あるいはその組み合わせへの言及はない。
【0009】
本発明の目的は、前記のごとき状況にかんがみ、ATLの診断に好適で、安定した高精度の検出能を有するTSLC1検出キットを提供するにある。
【0010】
本発明の他の目的は、HTLV−1感染者におけるATLの早期診断に好適で、安定した高精度の検出能を有するTSLC1検出キットを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、鋭意検討した結果、標識抗体と検出抗体にTSLC1タンパク質の認識部位が明らかに異なる二種の抗TSLC1抗体を組み合わせて使用することにより、ATLの診断に好適で、安定した高精度の検出能を得ることができることを見出し、本発明に到った。
【0012】
すなわち、前記知見に基づく本発明のTSLC1検出キットは、下記の特徴及び態様を有する。
項1:固相化されたファージディスプレイヒト抗TSLC1モノクローナル抗体と、標識されたニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体(clone 3E1 Anti−SynCAM/TSLC1)との組み合わせからなるTSLC1検出キット。
項2:ニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体が着色粒子又は酵素で標識されている請求項1記載のTSLC1検出キット。
項3:着色粒子標識が、金コロイド、有色ラテックス粒子、及び着色セルロース粒子からなる群から選ばれたひとつである請求項2のTSLC1検出キット。
項4:酵素標識が、アルカリホスファターゼと発色基質BCIP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸)との組み合わせからなる請求項2のTSLC1検出キット。
項5:酵素標識が、パーオキシダーゼと発色基質TMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)との組み合わせからなる請求項2のTSLC1検出キット。
項6:請求項1〜5記載のTSLC1検出キットを用いたエライザーキット。
項7:請求項1〜5記載のTSLC1検出キットを用いたイムノクロマトキット。
項8:検液滴下パッド、標識パッド、反応膜、及び検疫吸引部位をこの順序で上流から下流へと連通するように配置した検査スティックを有し、該標識パッド抗体がニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体であり、反応膜上の検出ラインが個相化されたファージディスプレイヒト抗TSLC1モノクローナル抗体であるイムノクロマトキット。
項9:反応膜上の検出ラインの下流に、さらに抗マウスIgGヒツジモノクローナル抗体からなる参照ラインを備えている請求項8のTSLC1検出キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、標識抗体にトリIgY抗TSLC1抗体、判定ラインの検出抗体にファージヒト抗TSLC1抗体と、明らかにTSLC1タンパク質の異なった部位を認識する抗体を組み合わせることにより、検液中のTSLC1タンパク質を安定して検出、その有無を判定できる。また、検出抗体にファージヒト抗TSLC1抗体という、ファージディスプレイ法により得られたヒトモノクローナル抗体を使用することにより、抗原接種動物の免疫系の制約を受ける動物免疫抗体とは異なり、安定した高精度の検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に従って本発明を詳述する。図1において検出スティックは、バックシート1、反応膜2、標識抗体パッド3、検液滴下パッド4、検液吸引パッド5を備えている。バックシート1上には、反応膜2を貼り付けてある。反応膜2の一端には標識抗体パッド3を介して検液滴下パッド4を、他端には検液吸引パッド5を設ける。4aは検液滴下部である。反応膜2上には、抗TSLC1抗体を固相化した判定ライン6と、必要に応じて参照ライン7を塗布する。この検出スティックでは、上流側の検液滴下パッド4の検出滴下部4aに滴下された検液が、下流側の検液吸引パッド5の吸引により、反応膜2上を流れるように、検液滴下パッド4、標識抗体パッド3、反応膜2、検液吸引パッド5の順序で、少なくともその一部が接触するように配置されている。一方、図2の検出キットは、図1の検出スティックにカバー8を付したものである。カバー8には、検出スティック1の検液滴下部4aに対応する部分に、開口した検液滴下口8aを設け、検液吸引パッド5に対応する部分には、吸引した血液が滞留して逆流しないように、開放口9を設けてある。
【0015】
検出スティックのバックシート1の材質には、特に制限はないが例えば紙を用い、そのサイズは幅69mm×長さ350mm×厚さ0.1mm程度である。
【0016】
本発明の反応膜2には、ニトロセルロース膜を好適に用いることができるが、タンパク質を吸着する能力を有する担体であれば、膜の種類や材質は問わない。そのままでは吸着能を有さない反応膜については、アミノ基やカルボキシル基を導入して化学的に修飾した抗TSLC1抗体結合能を有する膜も使用できる。
【0017】
反応膜2の上流側には標識抗体パッド3を設ける。標識抗体パッド3には濾紙を用いる。本発明で使用する標識抗体には、例えば市販のリコンビナントFc−SynCAM由来のニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体Anti−SYNCAM/TSLC1CADM1;Clone 3E1,Subclass Chicken IgY(株式会社医学生物学研究所社製)を好適に用いる。標識物質としては、一般的に金コロイド粒子を用いるが、有色のラテックス粒子でも良い。金コロイド粒子のサイズは、粒子径20−100nm程度が好適である。有色のラテックス粒子径は、0.05−0.5μmの範囲が望ましい。これらの粒子は、例えば濃度10−1000μg/mLの炭酸緩衝液(pH9.0)中で、トリIgY抗TSLC1抗体を吸着する。また、ラテックス等の微粒子に吸着又は反応せしめた抗体結合粒子を反応膜に封入することも可能である。有色粒子の代わりには、アルカリフォスターゼなどの酵素標識抗体を用いることもできる。
【0018】
ニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体の一般的作成方法としては、抗原を免疫する動物はニワトリである。免疫用抗原としては、天然のTSLC1タンパク質又は組換えDNA法もしくは化学合成により調製したTSLC1タンパク質を用いる。タンパク質としては、アミノ酸配列の全長又は1−373の部分ペプチドを用いる。TSLC1タンパク質のアミノ酸配列は、配列表に示す。
【0019】
免疫法には特に制限されないが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などを用いる。免疫の間隔は、数日から数週間、好ましくは4−21日とする。免疫したニワトリの免疫応答レベルを確認、又は細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選択するためには、免疫したニワトリの血中抗体価もしくは抗体産生細胞の培養上清中における抗体価を測定する。抗体価の測定方法としては、例えばRIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素連結イムノソルベントアッセイ)などを挙げることができる。
【0020】
トリIgY抗TSLC1抗体の作成にあたっては、例えばTSLC1タンパク質のアミノ酸配列1−373のペプチドをコードする遺伝子をプラスミド(pET28b/TSLC1)に組み込むことにより形質転換した大腸菌BL21をLB培地に接種して、略37℃で培養する。培養液はイソプロピル−β−D−チオガトピラノシド処理して、TSLC1の産生を誘導し、回収する。回収した菌体は、界面活性剤や超音波で破砕処理した後に、沈渣を回収し、Ni−セファロースカラム等により組み換えTSLC1タンパク質として分離、精製する。
【0021】
アミノ酸配列1−373のペプチドは、TSLC1タンパク質の細胞外ドメインに相当するので、これを抗原とする抗体は、蛍光ラベル等により細胞を染色することがきる。またリガンドとの結合を中和する中和抗体としても使える可能性がある。
【0022】
検液滴下パッド4と検液吸引パッド5には、毛細管現象により検液を吸収又は吸引し易い濾紙を用いる。
【0023】
また本発明では、反応膜2の中央部近傍表面に、検液の流れに直交するようにファージヒト抗TSLC1抗体からなる判定ライン6を塗布する。ファージヒト抗TSLC1抗体は、ファージディスプレイ法により作成する。ファージディスプレイ法では、機能を負うペプチドやタンパク質(表現型)と、それをコードするDNA(遺伝子型)がファージ粒子上で対応しており、ディスプレイされたタンパク質とその標的物質との相互作用を検出することができる。このファージディスプレイヒト抗体ライブラリは広く公開されている。ファージディスプレイ法では、抗原に対する動物への免疫やハイブリドーマの作成を要しないため、それらの影響を受けずに、抗体遺伝子から直接モノクローナル抗体を得ることができる。
【0024】
判定ライン6の塗布、固相化にあたっては、まずファージヒト抗TSLC1抗体を50μM/L、pH7.8程度の炭酸緩衝液で透析し、蛋白質量として1mg/mLの抗体液を得る。次いで、この抗体液を反応膜2上に塗布し、乾燥する。最後に、副反応を抑えるため、反応膜2を1%程度のアルブミンやスキムミルク等の溶液に浸漬、ブロッキングする。水洗、乾燥後、反応膜2は、塗布された判定ライン6が上になるようにバックシート1上に貼着する。
【0025】
反応膜2の検液下流側には、必要に応じて参照ライン7を設けることもできる。参照ライン7は、検液が検液吸引パッド5の吸引により、参照ライン7まで正常に届いているか否かを検出するもので、例えば抗マウスIgGヒツジモノクローナル抗体を好適に用いることができる。
【0026】
図2のTSLC1検出キットは、図1に示す検出スティックにカバー8を取り付けたものである。検出スティックの検液滴下部4aに対応するカバー8の部分には、検液滴下口8aを開口するが、それ以外はすべて閉じて検出スティックを保護している。
【0027】
本発明では、既述のように、検出抗体として免疫動物によるノイズを回避するため、ファージヒト抗TSLC1抗体を用いることがひとつの特徴である。このファージヒト抗TSLC1抗体との組み合わせで有効な標識抗体として、ファージヒト抗TSLC1抗体とは異なる抗原TSLC1タンパク質の部位を認識するトリIgY抗TSLC1抗体が有効であると考えられる。しかし、実際には、同じ標識トリIgY抗TSLC1抗体でも、Anti−SynCAM/TSLC1;Clone 3E1;IgY1は、表1に示すように、すべてのファージヒト抗TSLC1抗体試料において、抗原濃度0.03ng/mLまで有効に検出できるが、表2に示すように、Anti−SynCAM/TSLC1;Clone 9D2;IgY2は、いずれのファージヒト抗TSLC1抗体試料に対しても、十分な検出能を持たない。このことから、本発明のファージヒト抗TSLC1抗体との組み合わせで有効な標識抗TSLC1体は、Anti−SynCAM/TSLC1;Clone 3E1;IgY1である。
【表1】

【表2】

【0028】
本発明のTSLC1検出キットを用いて検液中のTSLC1タンパク質を検出するには、抗凝固剤を添加する。検液原としては、血清又は血漿のいずれでも使用できる。抗凝固剤としては、ヘパリンやEDTA等を挙げることができる。次に検液を検液滴下用口8aから、検液滴下パッド4の検液滴下部4aに滴下する。検液は標識抗体パッド3を介して、反応膜2上に展開される。滴下された検液は、まずこの標識パッド3で標識されたトリ抗TSLC1抗体と反応する。次いで、標識された検液は反応膜2の判定ラインに6に塗布されたファージヒト抗TSLC1抗体と反応し、検液吸引パッド5に吸収される。
この反応は、約5−30分で終了する。
【0029】
検液中にTSLC1タンパク質が存在すれば、標識抗体と複合体を形成し、判定ラインで捕捉、蓄積されて、標識物質の色を呈し、目視で確認できる。例えば、標識物質が金コロイドの場合には、判定ライン6のラインは赤紫色を呈する。検体中にTSLC1タンパク質が存在しなければ、標識抗体と複合体を形成することはないので、判定ライン6に変化はない。判定ライン6が変化しない場合、検液の流れの中断による否かを判定するため、参照ライン7を設けることもできる。参照ライン7は、検液中のTSLC1の有無にかかわらす標識物質の色を呈するので、検液が参照ラインまで正常に届いているかを確認できる。参照ライン7が呈色しない場合、判定ライン6の無変化は検液中のTSLC1タンパク質の不在ではなく、検液の流れの停滞によると推定できる。
【実施例1】
【0030】
抗原用TSLC1タンパク質溶液の調整
TSLC1の調製は、TSLC1タンパク質のアミノ酸配列の1番目から373番目までのアミノ酸をコードする遺伝子をプラスミド(pET28b/TSLC1)に、組み換えDNA法により、以下のように組み込み調製した。
【0031】
まず、pETNdeITSLC1プライマー(gccatatgcagaatctgtttacgaaacac: 配列番号2)及びpETTSLC1XhoIプライマー(gcctcgagatccactgccctgatcgagccc: 配列番号3)によりTSLC1のcDNAを増幅し、NdeI及びXhoI制限酵素処理後、pET−28b(+)ベクター(Novagen)中のNdeI及びXhoI制限酵素サイトに挿入した。
【0032】
次に、プラスミド(pET28b/TSLC1)で大腸菌BL21を形質転換し、LB培地10mLに接種して37℃で一夜培養した。培養液をLB培地500mLに接種し、25℃で培養し、600nmの吸光度0.5近傍で、βイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド処理し、TSLC1部分のタンパク質の産生を誘導した。さらに一夜培養後、菌体を遠心分離して回収した。回収菌体は超音波破砕処理し、8M尿素に懸濁、4℃、7時間、おだやかに撹拌した。撹拌後、遠心分離して上清を回収した。回収上清は、キレーティングセファローズNiカラム(ファルマシア)にかけた。カラムは、5mMイミダゾールと8M尿素を含むリン酸緩衝食塩液(pH7)と、100mMイミダゾールを含むリン酸緩衝食塩液(pH7.5)で洗浄し、700mMイミダゾールを含むリン酸緩衝食塩液(pH7.5)で溶離した。溶離TSLC1タンパク質画分は、4M尿素を含むリン酸緩衝食塩液(pH7)中に透析した。透析液中の尿素濃度を徐々に下げ、最終的に0にしてTSLC1タンパク質溶液とした。
【0033】
使用抗体
・判定ライン用のファージヒト抗TSLC1抗体には、株式会社医学生物学研究所社製;phage035−181、phage035−212、phage035−273、phage035−283を使用した。
・ 標識用のトリ抗TSLC1抗体には、株式会社医学生物学研究所社製;
商品名anti−SynCAM/TSLC1/CADM1;Clone 3E1;IgY1を使用した。
・参照ライン用の抗マウスIgGヒツジ抗体には、Anti IgG(H+L)(Rockland社製)を使用した。
【0034】
反応膜の作製
反応膜2は、幅30mm×横300mmのニトロセルロース膜を用いた。反応膜2上の判定ライン6は、アドテック社製塗布機を用いて、反応膜2の下流端から13mmの位置に、前記ファージヒト抗TSLC1抗体(No.035−212)の1mg/mLを0.025mL/30mmとなるように線状に塗布した。参照ライン7は、同反応膜2の同端から22mmの位置に、0.5mg/mLに調製した抗マウスIgGヒツジ抗体を0.025mL/30mmとなるように線状に塗布した。判定ライン6と参照ライン7を塗布後の反応膜2は、室温で1時間放置し、ブロッキング液に室温で30分間浸漬し、脱イオン水で5分間の洗浄を3回繰り返した後、再び室温に放置し、乾燥した。
【0035】
標識抗体パッドの作製
金コロイド液(付記3)500mL中に、炭酸カリウム緩衝液(pH9.0)で0.1mg/mLに希釈した前記抗TSLC1トリモノクローナル抗体(3E1)25.0mLを加え、室温で30分間反応させた。次いで、0.1g/mL牛血清アルブミン水溶液5mLを更に加えて、20分間反応させた。8,000×Gで4℃、30分間遠心後、沈渣を回収した。5%グルコース及び2.5%BSAを含む水溶液を全量で100mLとし金コロイド標識抗体液とした。調製した金コロイド標識抗体液をガラスパッド(MILLIPORE社製;商品名 NEW SUREWICK GFCP G041)に5mL/mmになるように吸収させ、常温で風乾した。乾燥後、縦10±1mm×横300±5mmに裁断した。裁断した本ガラスパッドを金コロイド標識トリ抗TSLC1モノクローナル抗体パッド3として用いた。
【0036】
検査キットの組立
本スティック(図1参照)は、次のように組み立てた。すなわち、バックシート1(幅6mm×長さ69mm×厚さ0.1mm)の下流端から21mmの位置に、反応膜2(幅6mm×長さ30mm)下流端が位置するように、判定ライン6及び参照ライン7を上にして貼り付けた。次にこの反応膜2の上流端側に、標識抗体パッド3(幅6mm×長さ10mm)を両接触端が2mm重なるように貼り付けた。さらに検液滴下パッド4(幅6mm×長さ20mm)を標識抗体パッド3上に、互いの下流端が一致するように貼り付けた。一方、検液吸引パッド5(幅6mm×長さ25mm)は、反応膜2の下流端と4mm重なるように貼り付けた。本スティック1本を専用ケースに入れ、TSLC1検査用スティック(図2参照)とした。
【試験例1】
【0037】
TSLC1検出能の定性的評価
試料の調製;ATL患者、HTLV−1感染者及び健常者の血清又は血漿を用いた。血清又は血漿は、リン酸緩衝液で、10倍希釈し、試料とした。ATL患者の病型は、参考までに表5に示す。
試験方法:各試料約100μlをの検液滴下部4a実施例1のキット(図1)に滴下した。15分間静置後、判定ライン6の有無を金コロイド判定用色見本(アドテック社製)により判定した。結果を表3、4及び5に示す。
【試験例2】
ウエスタンブロット法(先願図3)
方法
血清又は血漿をSDS sample bufferで溶解し95℃で5分間heatする。SDS−PAGEにより電気泳動を行い、タンパク質を分離し、その後PVDF膜に転写した。膜は5%スキムミルクを含むPBSでブロッキングし、その後anti−SynCAM/TSLC1/CADM1;Clone 3E1;IgY1を一次抗体として作用し、ついでHRPラベルしたanti−chiken IgYを二次抗体として作用した。基質を添加して、HRPの酵素活性により生じた化学発光をイメージアナライザーにて解析した。結果を表3、4及び5に示す。
【試験例3】
試験例1の定量的評価:エライザ法(トリとファージの抗体)
方法
TSLC1陽性抗原(0.63mg/mL)を陽性抗原希釈液(リン酸緩衝液にtween−20(1g/L)、牛血清アルブミン(1g/L)、アジ化ナトリウム(1g/L)及びフェーノールレッド(10mg/L)を含む)を用いて25、50、100、200、400、800,1600倍に希釈した。血清又は血漿を検体希釈液を用いて5倍あるいは10倍希釈した。
希釈した陽性抗原及び検液をwellにそれぞれ50μLずつ入れた。POD希釈液(リン酸緩衝液にtween−20(1g/L)、牛血清アルブミン(1g/L)、及びブリリアングリー(50mg/L)を含む)で200倍希釈したPOD−3E1をそれぞれ100μL入れて、よく撹拌した。フィルムでカバーして、遮光、室温にて6時間静置した。6時間後、中の液を捨てて300μLのwash bufferで3回洗浄してよく水気を切った。エライザー発色液(TMB−Z)(A液及びB液を容積比1:1で混合。A液:蒸留水中に無水クエン酸(40g/L)及び過酸化水素(400μl/L)を含む。B液:70%メタノール中にTMB−Z(250mg/L)を含む。)をそれぞれ200μLずつ入れてよく撹拌し遮光、室温にて10分静置した。10分後反応停止液をそれぞれ50μLずつ入れてよく撹拌し、撹拌後すぐにオートリーダー(吸光度450nm)で測定した。結果を表3、4及び5に示す。
【表3】

【表4】

【表5】

考察:表3、表4及び表5から明らかなように、実施例1の標識トリIgY抗TSLC1抗体とファージヒト抗TSLC1抗体(No.035−212)を組み合わせた本発明のTSLC1検出キットの試験結果は、血清サンプルではHTLV−1感染者及びATL患者のいずれにおいても、健常者と比較して十分な呈色を示した。又、図3、図4及び図5から試験例1のイムノクロマトの呈色強度と試験例2のウェスタンブロット法の発色強度及び試験例3のエライザ法のTSLC1濃度を比較すると、HTLV−1感染者及びATL患者のいずれにおいても相関性があり、試験結果の信頼性が高いことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明TSLC1検出キットは、検体中のTSLC1タンパク質の有無を安定的に高精度で以って、簡易且つ迅速に判定できるので、臨床現場において、HTLV−1感染者のATLの早期診断、あるいはATL患者の診断に有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:バックシート
2:反応膜
3:標識抗体パッド
4:検液滴下パッド
4a:検液滴下部
5:検液吸引パッド
6:判定ライン
7:参照ライン
8:カバー
8a:検液滴下口
9:開放口
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のTSLC1検出キットを示す模式図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図1の検出スティックにカバーを付した本発明の検出キットを示す模式図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図3】エライザ法とイムノクロマトグラフの比較である。
【図4】エライザ法とウェスタンブロット法の比較である。
【図5】イムノクロマトとウェスタンブロット法の比較である。
【配列表】2006317220000001.app

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相化されたファージディスプレイヒト抗TSLC1モノクローナル抗体と、標識されたニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体(clone 3E1 Anti−SynCAM/TSLC1)との組み合わせからなるTSLC1検出キット。
【請求項2】
ニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体が着色粒子又は酵素で標識されている請求項1記載のTSLC1検出キット。
【請求項3】
着色粒子標識が、金コロイド、有色ラテックス粒子、及び着色セルロース粒子からなる群から選ばれたひとつである請求項2のTSLC1検出キット。
【請求項4】
酵素標識が、アルカリホスファターゼと発色基質BCIP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸)との組み合わせからなる請求項2のTSLC1検出キット。
【請求項5】
酵素標識が、パーオキシダーゼと発色基質TMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)との組み合わせからなる請求項2のTSLC1検出キット。
【請求項6】
請求項1〜5記載のTSLC1検出キットを用いたエライザーキット。
【請求項7】
請求項1〜5記載のTSLC1検出キットを用いたイムノクロマトキット。
【請求項8】
検液滴下パッド、標識パッド、反応膜、及び検疫吸引部位をこの順序で上流から下流へと連通するように配置した検査スティックを有し、該標識パッド抗体がニワトリIgY抗TSLC1モノクローナル抗体であり、反応膜上の検出ラインが固相化されたファージディスプレイヒト抗TSLC1モノクローナル抗体であるイムノクロマトキット。
【請求項9】
反応膜上の検出ラインの下流に、さらに抗マウスIgGヒツジモノクローナル抗体からなる参照ラインを備えている請求項8のTSLC1検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40912(P2013−40912A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193331(P2011−193331)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【出願人】(595008711)アドテック株式会社 (5)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)