説明

成型加工性に優れた高機能ポリエチレン繊維

【課題】耐切創性能が優れており、室温付近の製品使用温度では寸法安定性が高く、且つ、ポリエチレンの融点よりも遥かに低温加工時における収縮率および応力が高い成型加工性に優れたポリエチレン繊維及び、それを用いた紐状物、ロープ、織編物、手袋、防護カバーを提供する。
【解決手段】極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなり40℃における熱応力が0.05cN/dtex以下、且つ、70℃における熱応力が0.05cN/dtex以上0.25cN/dtex以下であることを特徴とする低温加工性に優れた高収縮性ポリエチレン繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温付近の寸法安定性が高く、且つ、ポリエチレンの融点未満の低温成型加工時における高収縮および高応力性能を有するポリエチレン繊維に関する。さらに詳しくは、食肉用締め糸、安全ロープ、仕上げロープ、高収縮性の布帛やテープ、および各種産業資材の防護カバーとした場合に優れた耐切創性能を示すポリエチレン繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然繊維の綿や有機繊維が耐切創性素材として用いられており、それらの繊維などを編みあげた織編物が、耐切創性を必要とする分野で多く用いられている。
【0003】
耐切創性を付与する手段として、アラミド繊維などの高強度繊維の紡績糸からなる編物や織物などが考案されてきた。しかしながら、毛抜けや耐久性の点で不十分であった。一方、他の手段として、金属繊維を有機繊維や天然繊維と組み合わせて用いることにより、耐切創性を向上させる試みが行われている。しかしながら、この方法は、金属繊維を組み合わせることにより、風合いが堅くなり、柔軟性が損なわれるだけではなく、製品重量が大きくなり取り扱いが困難になるという問題点がある。
【0004】
上記の問題点を解決する発明として、ポリエチレンを溶媒に溶かして溶液にし、いわゆるゲル紡糸法を用いた高い弾性率を有するポリエチレン繊維が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、前記のポリエチレン繊維は弾性率が高すぎるため、風合いが硬くなる問題があった。更には溶媒を使用することにより該ポリエチレン繊維作成時における作業環境が悪化する問題がある。また製品にしたのちにも該ポリエチレン繊維中に残存する溶媒が、屋内外で使用される該用途では微量の残存溶媒であっても環境負荷をもたらすため問題となっている。
【0005】
また上記耐切創性能を必要とする分野の仕様領域が広がっており、様々な用途での使用が想定されている。例えば耐切創手袋などはすべり防止のための樹脂加工を施す際に熱処理工程を通過させるものも存在するが、樹脂加工を施さず、編地のまま使用することもある。この際には、実使用温度領域(20〜40℃付近)での寸法安定性が求められ、収縮応力、収縮率としては低いことが好ましい。また、他の用途としては、各種産業資材の防護カバーが挙げられる。防護カバーに求められる機能として耐切創性能だけではなく、極力該資材の形状にカバーの形状を合わせることが強く求められている。このような要求に応える防護カバーの作成手段としては該資材の形状に合わせた織編物に加工することが挙げられるが、この場合、該資材の形状が複雑になると完全に形状を合わせることができず、部分的にカバーする織編物の弛みが発生してしまう問題点があった。この問題を解消するために、熱収縮率の高い糸を用いて織編物を作成し、その後、熱処理を行うことで、高収縮を発現させ、形状に合わせた防護カバーを作成する方策が考えられる。しかし、ポリエチレン繊維の場合、他の樹脂に比べ融点が低いこともあり、出来るだけ低い温度(70〜100℃)で熱収縮させることが必要である。従って、70〜100℃での収縮応力、収縮率は比較的高い方が好ましい。しかしながら、従来のポリエチレン繊維では、20〜40℃付近での低い収縮応力、収縮率と、70〜100℃での高い収縮応力、収縮率を同時に有する繊維は得られず、(特許文献1、2、3、4参照)用途に応じて選択する必要があった。
【0006】
このように、所定の温度領域において、必要な収縮率を有する、耐切創性に優れた高機能繊維やそれらからなる防護用織編物は未だ完成されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3666635公報
【特許文献2】特開2003−55833号公報
【特許文献3】特許4042039号公報
【特許文献4】特許4042040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来の問題点を解決することにあり、20〜40℃での収縮応力および収縮率が小さく、且つ、70〜100℃での収縮応力および収縮率が大きいポリエチレン繊維を提供することにある。この両立した物性により、食肉用締め糸、安全手袋、安全ロープ、仕上げロープ、産業用製品を防護するカバー等、各種の耐切創性能が要求される用途を使い分けすることなく提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリエチレン繊維の種々の温度における収縮率および熱応力値に着目し、鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明は、極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなり40℃における熱応力が0.10cN/dtex以下、且つ、70℃における熱応力が0.05cN/dtex以上0.30cN/dtex以下であることを特徴とする高機能ポリエチレン繊維である。
【0011】
本発明の第2の発明は極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなり40℃における熱収縮率が0.6%以下、且つ、70℃における熱収縮率が0.8%以上であることを特徴とする高機能ポリエチレン繊維である。
【0012】
本発明の第3の発明はポリエチレンの重量平均分子量(Mw)が50,000〜600,000であり、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0以下である上記発明1〜2いずれか1項記載の高機能ポリエチレン繊維である。
【0013】
本発明の第4の発明は比重が0.90以上であり、平均引張り強度が8cN/dtex以上、初期弾性率が200〜750cN/dtexである上記発明1〜3いずれか1項記載の高機能ポリエチレン繊維である。
【0014】
本発明の第5の発明は上記発明1〜4記載いずれか1項記載の高機能ポリエチレン繊維からなることを特徴とする織編物である。
【0015】
本発明の第6の発明は極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなるポリエチレンを溶融で紡糸し、更に80℃以上の温度で延伸した後に、該延伸糸を冷却速度を7℃/sec以上で急速冷却し、得られた該延伸糸を0.005〜3cN/dtexの張力で巻き取ることを特徴とする高機能ポリエチレン繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高機能ポリエチレン繊維は実使用温度付近での収縮率が小さく、且つ、70〜100℃での収縮率および応力が大きい為、実使用温度における寸法安定性が高く、ポリエチレンの力学物性の低下を損なうことのない温度下での優れた高収縮および高収縮応力を発現することが可能である。また、本繊維からなる紐状物、織編物、手袋、およびロープは、耐切創性に優れており、例えば、食肉用締め糸、安全手袋、安全ロープ、仕上げロープ、産業用製品を防護するカバー、などとして優れた性能を発揮するものである。さらに、本発明のポリエチレン繊維は、上記成型加工品に限らず、高収縮性の布帛やテープなどとして幅広く応用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の可染性に優れる高機能ポリエチレン繊維は、その極限粘度が0.8dL/g以上、4.9dL/g以下であり、好ましくは1.0〜4.0dL/g、更に好ましくは1.2〜2.5dL/gである。極限粘度を4.9dL/g以下とすることにより、溶融紡糸法での製糸が容易になり、いわゆるゲル紡糸等で製糸する必要がない。そのため、製造コストの抑制、作業工程の簡略化の点で優位である。さらに、製造時に溶剤を用いないため作業者や環境への影響も小さい。また製品となった繊維中の残留溶剤も存在しないため製品使用者に対する溶媒の悪影響がない。また、極限粘度を0.8dL/g以上とすることにより、ポリエチレンの分子末端基の減少により、繊維中の構造欠陥数を減少させることができる。そのため、強度や弾性率等の繊維の力学物性や耐切創性能を向上させることができる。
【0018】
本発明で用いるポリエチレンは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることが好ましい。また、本願発明の効果が得られる範囲で、エチレンの単独重合体ばかりでなく、エチレンと少量の他のモノマー、例えば、α−オレフィン、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体を使用することができる。また、これらは、共重合物どうし、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド体であってもよく、部分的な架橋を有していてもよい。
【0019】
しかしながら、エチレン以外の含有量が増えすぎると、却って延伸の阻害要因となる。そのため、耐切創性の優れた高強度繊維を得るという観点から、α−オレフィン等の他のモノマーは、モノマー単位で5.0mol%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0mol%以下、更に好ましくは0.2mol%以下である。もちろん、エチレン単独のホモポリマーであってもよい。
【0020】
本発明の高機能ポリエチレン繊維は、原料ポリエチレンの分子特性を上述の極限粘度にし、繊維状態での重量平均分子量が50,000〜600,000、好ましくは70,000〜300,000であり、更に好ましくは90,000〜200,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると、分子量が低い為に断面積あたりの分子末端数が多くこれが構造欠陥として作用したことによると想定される、後述する延伸工程において高い延伸倍率を得ることができないばかりでなく、後述の延伸後の急速冷却をおこなって得られた繊維の引張強度が8cN/dtex以上にならない。また重量平均分子量が600,000を超えると溶融での紡糸では、溶融粘度が非常に大きくなり、ノズルからの吐出が非常に困難となるため好ましくない。重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が5.0以下であることが好ましい。Mw/Mnが5.0を超えると高分子量成分の含有により後述する延伸工程での張力が大きくなることに伴う延伸中での糸切れが多発し好ましくない。
【0021】
本発明の高機能ポリエチレン繊維は、引張強度が8cN/dtex以上であることが好ましい。かかる強度を有することにより、溶融紡糸法で得られる汎用ポリエチレン繊維では展開できなかった用途にまで広げることができる。
【0022】
また、引張強度は、より好ましくは、10cN/dtex以上がより好ましく、更に好ましくは11cN/dtex以上である。引張強度の上限は特に限定されないが、引張強度が55cN/dtex以上の繊維を得ることは、溶融紡糸法では技術的、工業生産的に困難である。
【0023】
本発明の高機能ポリエチレン繊維は、引張弾性率200cN/dtex以上750cN/dtex以下であることが好ましい。かかる弾性率を有することにより、溶融紡糸法で得られる汎用ポリエチレン繊維では展開できなかった用途にまで、展開することができる。より好ましい引張弾性率は、300cN/dtex以上700cN/dtex以下、更に好ましくは350cN/dtex以上680cN/dtex以下である。
【0024】
本発明の高機能ポリエチレン繊維を得る製造方法については、以下の溶融紡糸法によることが好ましい。例えば、溶剤を用いて行う超高分子量ポリエチレン繊維の製法の一つであるゲル紡糸法では、高強度のポリエチレン繊維を得られるものの、生産性が低いばかりでなく、溶剤使用による製造作業者の健康や環境への影響、また繊維中に残留する溶剤が製品使用者の健康に与える影響が大きい。
【0025】
本発明の高機能ポリエチレン繊維は上述したポリエチレンを、押出機等を用いて融点よりも10℃以上、好ましくは50℃以上、更に好ましくは80℃以上高い温度で溶融押出しし、定量供給装置を用いてポリエチレンの融点より80℃、好ましくは100℃以上高い温度でノズルに供給する。その後、直径を0.3〜2.5mm、好ましくは直径0.5〜1.5mmを有するノズルより0.1g/min以上の吐出量で吐出する。次に該吐出糸を5〜40℃まで冷却した後に100m/min以上で巻き取る。更に得られた該巻取り糸を1回以上の回数で該繊維の融点未満で延伸する。このとき複数回延伸する場合は、後段になるほど、延伸時の温度が高いほうが好ましい。また延伸の最後段の延伸温度は80℃以上〜融点未満、好ましくは90℃以上〜融点未満である。このとき1回のみの延伸の場合はその延伸時の条件温度を示す。
【0026】
さらに、本発明の重要な構成の一つは、上述した延伸工程後の該繊維の処理方法に挙げられる。具体的には上述の延伸工程で加熱した該繊維を急冷する工程の導入およびその条件である。加熱して延伸した該繊維を7℃/sec以上の冷却速度で急速冷却することが望ましい。好ましくは10℃/sec、更に好ましくは20℃/secである。冷却速度が7℃/sec未満の場合、延伸工程直後に繊維中の分子鎖緩和が生じるため、高温(70〜100℃)での残留応力が低下してしまう。本発明における高機能ポリエチレン繊維が有する70℃での熱応力は、0.05cN/dtex以上0.30cN/dtex以下、好ましくは0.08cN/dtex以上0.25cN/dtex以下、更に好ましくは0.10cN/dtex以上0.22cN/dtex以下である。また70℃における熱収縮率は0.8%以上5.0%以下、好ましくは1.2%以上4.8%以下である。
【0027】
さらに、本発明の重要な構成の一つは、上述した延伸工程後、更に冷却工程の後における繊維の張力の制御である。具体的には冷却後の巻き取り時の張力である。繊維が冷却された状態での巻き取り張力を適正にすることで、20℃以上40℃以下での繊維の収縮応力、収縮率を制御することが可能である。該張力は好ましくは0.005〜3cN/dtexである。より好ましくは0.01〜1cN/dtex, 更に好ましくは0.05〜0.5cN/dtexである。冷却工程の後の該張力が0.005cN/dtex未満であると工程中の該繊維の弛みが大きくなり操業することができない。また該張力が3cN/dtexを超えると工程中に該繊維の破断もしくは単糸切れに伴う毛羽が発生し好ましくない。このようにして得られる本発明における高機能ポリエチレン繊維が有する40℃の収縮応力は0.10cN/dtex以下、好ましくは0.8cN/dtex以下、更に好ましくは0.6cN/dtex以下である。また本発明における高機能ポリエチレン繊維が有する40℃の収縮率は0.6%以下、好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.4%以下である。
【0028】
本発明の高機能ポリエチレン繊維は、弾性繊維を芯糸にした被覆弾性糸とし、それを用いて織編物にすることが好ましい。着用感が高まり脱着が容易となる。また、耐切創性も幾分改善される傾向があった。弾性繊維は、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系など、特に限定されることはない。ここでいう弾性繊維とは50%伸張時に50%以上の回復性を有する繊維をいう。
【0029】
その製造方法としては、カバリング機を用いても、弾性糸をドラフトしながら非弾性繊維と合撚しても良い。弾性繊維の混率は、質量比で1%以上、好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。弾性繊維の混率が低ければ十分な伸縮回復性が得られないからである。ただし高すぎると強度が低くなってしまうため、50%以下、さらには30%以下が好ましい。
【0030】
本発明の防護用織編物は、クープテスターのインデックス値が3.9以上であることが、耐切創性の耐久性の点から好ましい。また、上限は特にないが、クープテスターのインデックス値を高くするには、繊維を太くすればよいが、風合いが悪くなる傾向がある。そこで、このような点から、クープテスターのインデックス値の上限は14が好ましい。また、クープテスターのインデックス値の範囲は、4.5〜12がより好ましく、さらに好ましくは5〜10である。
【0031】
本発明の繊維及び/又は被覆弾性糸は、編み機に掛けられ編物が得られる。もしくは織機にかけられ布帛を得ることができる。
【0032】
本発明の耐切創性織編物の身生地は、該複合弾性糸が構成繊維として質量比が3割以上であることが耐切創性の点から好ましく、より好ましくは5割以上であり、一層好ましくは7割以上である。
【0033】
残りの7割以下の割合で、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、綿、毛などの天然繊維、レーヨン等の再生繊維などを用いても良い。摩擦耐久性から単糸1〜4デシテックスのポリエステルマルチフィラメントや、同ナイロンフィラメントを用いるのが好ましい。
【0034】
本発明において得られるポリエチレン繊維の特性の測定及び評価は下記のように行った。
【0035】
(1)極限粘度
135℃のデカリンにてウベローデ型毛細粘度管により、種々の希薄溶液の比粘度を測定し、その粘度の濃度に対するプロットの最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点より極限粘度を決定した。測定に際し、サンプルを約5mm長の長さにサンプルを分割または切断し、ポリマーに対して1質量%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加し、135℃で4時間攪拌溶解して測定溶液を調整した。
【0036】
(2)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及びMw/Mn
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及びMw/Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては、Waters製GPC 150C ALC/GPCを用い、カラムとしてはSHODEX製GPC UT802.5を一本、UT806Mを2本用い、検出器として示差屈折率計(RI検出器)を用いて測定した。サンプルを約5mm長の長さにサンプルを分割または切断した後に測定溶媒中に145℃で溶解し、測定溶媒は、o−ジクロロベンゼンを使用しカラム温度を145℃とした。試料濃度は1.0mg/mlとし、200マイクロリットル注入し測定した。分子量の検量線は、ユニバーサルキャリブレーション法により分子量既知のポリスチレン試料を用いて作成されている。
【0037】
(3)強度・伸度・弾性率
JIS L1013 8.5.1に準拠して測定した。強度、弾性率は、株式会社オリエンテック製の「テンシロン万能材料試験機」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/dtex)、伸度(%)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dtex)を計算して求めた。このとき測定時にサンプルに印加する初荷重を繊度の1/10とした。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0038】
(4)熱応力測定
測定にはセイコーインスツルメント社製の熱応力歪測定装置(TMA/SS120C)を用いた。長さ20mmの繊維に初荷重0.01764cN/dtexを繊維に負荷し、昇温速度20℃/分で昇温して室温(20℃)から融点までの測定結果を得た。この測定結果から、40℃、および70℃における応力を求めた。
【0039】
(5)収縮率測定
JIS L1013 8.18.2 乾熱収縮率(b)法に準拠して測定した。測定繊維サンプルを70cmにカットし、両端より各々10cmの位置に、即ちサンプル長さ50cmがわかるように印をつけた。次に繊維サンプルに余計な荷重が印加されないように吊り下げた状態で熱風循環型の加熱炉に所定の温度で30分間加熱した。その後、加熱炉より繊維サンプルを取り出し、室温まで十分に徐冷した後に最初に繊維サンプルに印をつけた位置の長さを計測した。なお所定の温度とは、40℃、70℃である。また収縮率は以下の式より求めることができる。

収縮率(%)=100×(加熱前の繊維サンプル長さ−加熱後の繊維サンプル長さ)
/(加熱前の繊維サンプル長さ)

尚、各値は2回の測定値の平均値を使用した。
【0040】
(6)耐切創性
耐切創性は、クープテスター(ソドマット(SODMAT)社製)を用いて評価する。
この装置の試料台にはアルミ箔が設けられており、この上に試料を載置する。次いで、装置に備えられた円形の刃を、走行方向とは逆方向に回転させながら試料の上を走らせる。試料が切断されると、円形刃とアルミ箔とが接触して通電し、耐切創性試験が終了したことを感知する。円形刃が作動している間中、装置に取り付けられているカウンターがカウントを行うので、その数値を記録した。
【0041】
この試験は、目付け約200g/mの平織りの綿布をブランクとし、試験サンプル(手袋)の切創レベルを評価する。ブランクからテストを開始し、ブランクのテストと試験サンプルのテストを交互に行い、試験サンプルを5回テストし、最後に6回目のブランクをテストして、1セットの試験を終了する。以上の試験を5セット行い、5セットの平均のIndex値を耐切創性の代用評価とした。Index値が高いほど、耐切創性に優れることを意味する。
【0042】
ここで算出される評価値はIndexと呼ばれ、次式により算出される。
A=(サンプルテスト前の綿布のカウント値+サンプルテスト後の綿布のカウント値)
/2
Index=(サンプルのカウント値+A)/A
【0043】
今回の評価に使用したカッターは、OLFA株式会社製のロータリーカッターL型用φ45mmを用いた。材質はSKS−7タングステン鋼であり、刃厚0.3ミリ厚であった。また、テスト時にかかる荷重は3.14N(320gf)にして評価を行う。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
極限粘度1.9dL/g、重量平均分子量120,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.7である高密度ポリエチレンを280℃で溶融し、オリフィス径φ0.8mm、300Hからなる紡糸口金からノズル面温度280℃で単孔吐出量0.5g/minで吐出した。吐出された糸条を10cmの保温区間を通過させ、その後40℃、0.4m/sのクエンチで冷却後、紡糸速度250m/minでチーズ形状に捲き取り、未延伸糸を得た。得られた該未延伸糸を100℃の熱風で加熱し10倍に延伸した後に、連続して水温15℃の水浴を用いて、直ちに該延伸糸を冷却し巻き取った。このときの冷却速度は54℃/secであった。また該延伸糸の巻取り時の張力を0.1cN/dtexとした。
【0046】
(実施例2)
実施例1においてローラー温度及び雰囲気温度を65℃に設定した延伸機において、2個の駆動ローラー間で、一気に2.8倍に延伸し、さらに、100℃の熱風で加熱し、5.0倍の延伸を施した以外は、実施例1と同様にして繊維を得た。得られた繊維の物性、有機物の含有量、評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、延伸後、冷却ローラーを用い、の冷却速度を10℃/secとした以外は、実施例1と同様にして繊維を得た。得られた繊維の物性、有機物の含有量、評価結果を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、延伸、冷却後の巻取り張力を1cN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして繊維を得た。得られた繊維の物性、有機物の含有量、評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
極限粘度20dL/g、重量平均分子量3,300,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が6.3である超高分子量ポリエチレンを10質量%、およびデカヒドロナフタレン90質量%のスラリー状の混合物を、分散しながら230℃の温度に設定したスクリュー型の混練り機で溶解し、170℃に設定した直径0.8mmを30ホール有する口金に計量ポンプにて単孔吐出量1.0g/minで供給した。
ノズル直下に設置したスリット状の気体供給オリフィスにて、100℃に調整した窒素ガスを1.2m/分の速度で供給し、できるだけ糸条に均等に当たるようにして繊維の表面のデカリンを積極的に蒸発させた。その後、30℃に設定された空気流にて実質的に冷却し、ノズル下流に設置されたネルソン状のローラーにて50m/分の速度で引き取った。この際に糸状に含有される溶剤は、元の質量の約半分まで低下していた。
引き続き、繊維を120℃の加熱オーブン下で3倍に延伸した。この繊維を149℃に設置した加熱オーブン中にて4.0倍で延伸した。延伸後、冷却工程を経ず、1cN/texで巻き取った。このとき延伸後の冷却工程を経ない場合の冷却速度は、巻き取られた糸の温度から換算して、1.0℃/secであった。得られた繊維の物性評価結果を表1に示す。
尚、得られた繊維は40℃の寸法安定性は良好であるが、70℃の収縮率および熱応力値が低く、熱収縮による成型加工性が困難であることがわかった。
【0050】
(比較例2)
極限粘度1.6dL/g、重量平均分子量96,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.3、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0.4個である高密度ポリエチレンをφ0.8mm、390Hからなる紡糸口金から、290℃で単孔吐出量0.5g/minの速度で押し出した。押し出された繊維は、15cmの保温区間を通り、その後20℃、0.5m/sのクエンチで冷却され、300m/minの速度で巻き取り、未延伸糸を得た。該未延伸糸を1段延伸は、25℃で2.8倍の延伸を行った。さらに105℃まで加熱し5.0倍の延伸を施した。延伸後、冷却工程を経ず、5cN/dtexで巻き取った。得られた繊維の物性評価結果を表1に示す。
尚、得られた繊維は40℃の収縮率および熱応力が大きく寸法安定性が悪いことがわかった。
【0051】
(比較例3)
2回目の延伸温度を90℃、延伸倍率を3.1倍とした以外は、比較例2と同様の条件で延伸糸を作成した。
得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
尚、得られた繊維は40℃の収縮率および熱応力が大きく寸法安定性が悪いことがわかった。
【0052】
(比較例4)
極限粘度1.9dL/g、重量平均分子量91,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が7.3の高密度ポリエチレンを用い、延伸後の冷却工程を経ず、巻取り張力を0.005cN/dtexとした以外は、比較例3と同様の条件で延伸糸を作成した。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
得られた繊維は40℃の寸法安定性は良好であるが、70℃の収縮率および熱応力値が低く、低温での成型加工性が困難であることがわかった。また優れた耐切創性能を得ることができなかった。この理由は定かではないが、冷却速度も遅く、巻き取り張力も低かったため、分子鎖が緩和しているため、と考えられる。
【0053】
(比較例5)
極限粘度8.2dL/g、重量平均分子量1,020,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が5.2の超高分子量ポリエチレンを用い、300℃で加熱し紡糸を試みたがノズルから吐出することができず、紡糸することができなかった。
【0054】
(比較例6)
極限粘度1.9dL/g、重量平均分子量115,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.8である高密度ポリエチレンをφ0.8mm、30Hからなる紡糸口金から、290℃で単孔吐出量0.5g/minの速度で押し出した。押し出された繊維は、10cmの保温区間を通り、その後20℃、0.5m/sのクエンチで冷却され、500m/minの速度で巻き取り未延伸糸を得た。該未延伸糸を複数台の温度コントロールの可能なネルソンロールにて延伸した。1段延伸は、25℃で2.0倍の延伸を行った。さらに100℃まで加熱し6.0倍の延伸を施した。延伸後、急冷することなく、5cN/dtexで巻き取った。得られた繊維の物性評価結果を表1に示す。
尚、得られた繊維は40℃の寸法安定性が悪く、70℃の収縮率および熱応力値が低く、低温での成型加工性が困難であることがわかった。
【0055】
(比較例7)
延伸後の冷却工程における冷却速度を10℃/secとした以外は、比較例3と同様の条件で延伸糸を作成した。得られた繊維の物性、評価結果を表1に示す。
尚、得られた繊維は40℃の収縮率および熱応力が大きく寸法安定性が悪いことがわかった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の高収縮性ポリエチレン繊維は製品として使用される室温付近での収縮率および収縮応力が小さく、且つ、70℃以上100℃以下での収縮率および収縮応力が大きい為、収縮処理時の締付け力が大きく、しかもポリエチレンの力学物性の低下を損なうことのない低温下での優れた高収縮を可能とした。また、本発明の紐状物、織編物、手袋、およびロープは、耐切創性に優れており、例えば、食肉用締め糸、安全手袋、安全ロープ、仕上げロープなどとして優れた性能を発揮するものである。さらに、本発明の高収縮性ポリエチレン繊維は、上記成型加工品に限らず、高収縮性の布帛やテープなどとして産業資材や包装用材料などの用途に幅広く応用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなり40℃における熱応力が0.10cN/dtex以下、且つ、70℃における熱応力が0.05cN/dtex以上0.30cN/dtex以下であることを特徴とする高機能ポリエチレン繊維。
【請求項2】
極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなり40℃における熱収縮率が0.6%以下、且つ、70℃における熱収縮率が0.8%以上であることを特徴とする高機能ポリエチレン繊維。
【請求項3】
ポリエチレンの重量平均分子量(Mw)が50,000〜600,000であり、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が5.0以下である請求項1または2いずれか1項に記載の高機能ポリエチレン繊維。
【請求項4】
比重が0.90以上であり、平均引張り強度が8cN/dtex以上、初期弾性率が200〜750cN/dtexである請求項1〜3いずれか1項に記載の高機能ポリエチレン繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高機能ポリエチレン繊維からなることを特徴とする織編物。
【請求項6】
極限粘度[η]が0.8dL/g以上4.9dL/g以下であり、その繰り返し単位が実質エチレンからなるポリエチレンを溶融で紡糸し、更に80℃以上の温度で延伸した後に、該延伸糸を冷却速度を7℃/sec以上で急速冷却し、得られた該延伸糸を0.005〜3cN/dtexの張力で巻き取ることを特徴とする低温加工性に優れた高機能ポリエチレン繊維の製造方法。



【公開番号】特開2011−168926(P2011−168926A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35195(P2010−35195)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】