説明

成形体用の樹脂組成物

【課題】 所望の有彩色に調色された成形体が得られる樹脂組成物の提供。
【解決手段】 ベース樹脂100質量部に対して、染料、酸化チタンを除く顔料、酸化チタンを含む着色成分を含有しており、成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜30%であり、かつL値が10〜85である、成形体を所望の有彩色に調色できる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の色に調色することができる、成形体用の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品には、用途から求められる着色のほか、消費者の購買力を惹起する目的で彩色を施すこともあり、色の鮮やかさが製品の販売量にも大きな影響を与えることがある。
【0003】
特許文献1は、着色された成形品の鮮映性、耐熱性、耐候性及び実用耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供するものであり、着色剤(染料、顔料)は任意成分としてのみ記載されている。
【0004】
特許文献2は、光の透過性が高く、透明または半透明の成形品を与え、着色剤と混合した場合には着色鮮映性あるいは光沢性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、染料、顔料は任意成分としてのみ記載されている。
【0005】
特許文献3は、透明性、色調、耐衝撃性及び剛性が物性バランスよく優れているゴム強化スチレン系透明樹脂組成物に関するものであり、染料及び顔料は任意成分としてのみ記載されている。
【0006】
特許文献4は、被着体に貼着した場合、その被着体の種類にかかわらず色鮮やかな装飾又は表示が可能な高彩度接着シートに関するもので、白色顔料を配合することが記載されている。
【特許文献1】特開2002−241571号公報
【特許文献2】特開2004−244518号公報
【特許文献3】特開2002−105150号公報
【特許文献4】特許第2547031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、着色剤を配合して着色することは知られているが、染料と顔料の組み合わせにより、所望の鮮やかさを有する有彩色や無彩色の成形品を得る具体的な技術は知られていない。
【0008】
本発明は、用途等に応じて求められる所望の有彩色や無彩色に調色された成形体が得られる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
1.ベース樹脂100質量部に対して、染料、酸化チタンを除く顔料、酸化チタンを含む着色成分を含有しており、成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜30%であり、かつL値が10〜85である、成形体を所望の有彩色に調色できる樹脂組成物。
2.ベース樹脂100質量部に対して、染料と酸化チタンを含む着色成分を含有しており、成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜10%であり、かつL値が85〜95である、成形体を所望の白色に調色できる樹脂組成物。
3.ベース樹脂が、下記の(a)〜(c)の性質を満たすものである、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【0010】
(a)ベース樹脂の成形体の光沢度が80%以上であること
(b)ベース樹脂の成形体の全光線透過率が30%以上であること
(c)ベース樹脂の成形体のb値が40以下であること
4.ベース樹脂が、樹脂混合物及び/又は共重合体であり、
前記樹脂混合物が、メタクリル系樹脂とスチレン系樹脂を含むものであり、
前記共重合体が、メタクリル酸エステル系単量体とスチレン系単量体との共重合体を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
5.ベース樹脂が、ポリメタクリレート、ABS樹脂及びAS樹脂を含む樹脂混合物又は前記各重合体が得られる単量体の共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
6.染料と顔料の含有比率は同量であり、染料又は顔料に対する酸化チタンの含有比率(染料又は顔料の含有量/酸化チタンの含有量)が5/1〜1/20である請求項1、3〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物。
7.染料に対する酸化チタンの含有比率(染料の含有量/酸化チタンの含有量)が1/1×10〜1/1×10である請求項2記載の樹脂組成物。
【0011】
本発明において、「メタクリル系樹脂」は、メタクリル樹脂、アクリル樹脂或いはメタクリル酸エステルとアクリル酸エステル又はそれらと共重合可能な単量体との共重合体を意味する。
【0012】
本発明において「メタクリル酸エステル系単量体」は、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルを意味し、更にそれらと共重合可能な単量体も含む意味である。
【0013】
本発明において、「有彩色」は無彩色を除く意味であり、「無彩色」は、白から灰色を経て黒に至る系列の色を意味する。また、本発明において「調色」とは、成形体の色を調節することを意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物によれば、用途等に応じた所望の有彩色と無彩色を有する成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<成形体を所望の有彩色に調色できる樹脂組成物>
本発明の成形体を所望の有彩色に調色できる樹脂組成物(以下、「有彩色成形体用組成物」という)で用いるベース樹脂は、下記の(a)〜(c)の性質を満たすものが好ましい。
【0016】
(a)ベース樹脂の成形体の光沢度が80%以上、好ましくは90%以上であること;
(b)ベース樹脂の成形体の全光線透過率が30%以上、好ましくは50%以上であること;
(c)ベース樹脂の成形体のb値が40以下、好ましくは30以下であること。
【0017】
このようなベース樹脂としては、樹脂混合物、共重合体又はこれらの混合物を用いることができる。樹脂混合物は、メタクリル系樹脂とスチレン系樹脂を含むものが好ましく、共重合体は、メタクリル酸エステル系単量体とスチレン系単量体との共重合体を含むものが好ましい。ベース樹脂は、ポリメタクリレート、ABS樹脂及びAS樹脂を含む樹脂混合物又は前記各重合体が得られる単量体の共重合体がより好ましい。
【0018】
ベース樹脂が樹脂混合物である場合、メタクリル系樹脂とスチレン系樹脂の合計含有量は20質量%以上が好ましく、ベース樹脂が共重合体である場合、メタクリル酸エステル系単量体とスチレン系単量体との共重合体の合計含有量は20質量%以上が好ましい。
【0019】
本発明で用いる着色成分に含まれる染料、酸化チタンを除く顔料は、有彩色のものであり、同色を用いることが好ましい。例えば、赤色の成形体用の組成物を得るためには、赤色の染料と顔料を用いる。
【0020】
染料、酸化チタンを除く顔料としては、化学便覧 応用化学編(昭和61年10月15日発行,丸善株式会社)のp1399−p1417に記載の染料、p1427−p1451に記載の顔料から選択して用いることができる。
【0021】
ベース樹脂100質量部に対する染料の含有量は0.005〜1.0質量部、好ましくは0.01〜0.8質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部である。
【0022】
ベース樹脂100質量部に対する酸化チタンを除く顔料の含有量は0.005〜1.0質量部、好ましくは0.01〜0.8質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部である。
【0023】
ベース樹脂100質量部に対する酸化チタンの含有量は0.01〜0.3質量部、好ましくは0.01〜0.2質量部、より好ましくは0.01〜0.1質量部である。
【0024】
染料と顔料の含有比率は同量程度であり、染料又は顔料に対する酸化チタンの含有比率(染料又は顔料の含有量/酸化チタンの含有量)は、5/1〜1/20が好ましく、4/1〜1/15がより好ましく、4/1〜1/10が更に好ましい。
【0025】
本発明の有彩色成形体用組成物は、実施例に記載の方法で測定される成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜30%であり、好ましくは1〜28%、より好ましくは1〜25%である。
【0026】
本発明の有彩色成形体用組成物は、実施例に記載の方法で測定される成形体のL値が10〜85であり、好ましくは12〜78、より好ましくは12〜76である。
【0027】
本発明の有彩色成形体用組成物は、色によって、下記のとおりの好ましい全光線透過率とL値が存在している。
【0028】
赤である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、2〜20%であり、好ましくは3〜15%、より好ましくは4〜13%であり、L値は15〜45であり、好ましくは20〜40、より好ましくは28〜35である。
【0029】
橙である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、5〜30%であり、好ましくは8〜25%、より好ましくは10〜20%であり、L値は40〜70であり、好ましくは48〜63、より好ましくは50〜60である。
【0030】
黄である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、10〜30%であり、好ましくは13〜28%、より好ましくは15〜25%であり、L値は65〜85であり、好ましくは68〜80、より好ましくは69〜78である。
【0031】
緑である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、1〜20%であり、好ましくは3〜15%、より好ましくは4〜13%であり、L値は15〜45であり、好ましくは21〜35、より好ましくは23〜33である。
【0032】
青である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、1〜15%であり、好ましくは1〜12%、より好ましくは1〜8%であり、L値は15〜45であり、好ましくは18〜32、より好ましくは20〜30である。
【0033】
藍である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、1〜14%であり、好ましくは1〜11%、より好ましくは1〜8%であり、L値は10〜30であり、好ましくは10〜27、より好ましくは10〜25である。
【0034】
紫である場合の全光線透過率(厚さt=1mm)は、1〜18%であり、好ましくは1〜15%、より好ましくは2〜10%であり、L値は15〜35であり、好ましくは18〜32、より好ましくは20〜30である。
【0035】
<成形体を所望の白色に調色できる樹脂組成物>
本発明の成形体を所望の白色に調色できる樹脂組成物(以下、「白色成形体用組成物」という)で用いるベース樹脂は、上記の有彩色成形体用組成物と同じものを挙げることができる。「白色」には、白色に近い薄い灰色から、白色〜黒色の中間色の灰色まで含まれる。
【0036】
本発明で用いる染料は、紫又は青染料、蛍光増白染料(蛍光増白剤)を挙げることができ、具体的には、化学便覧 応用化学編(昭和61年10月15日発行,丸善株式会社)のp1399−p1417に記載の染料から選択して用いることができる。
【0037】
染料に対する酸化チタンの含有比率は(染料の含有量/酸化チタンの含有量)は、1/1×10〜1/1×10が好ましく、1/8×10〜1/5×10がより好ましく、1/5×10〜1/8×10が更に好ましい。
【0038】
本発明の白色成形体用組成物は、実施例に記載の方法で測定される成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜10%であり、好ましくは1〜8%、より好ましくは1〜7%である。
【0039】
本発明の白色成形体用組成物は、実施例に記載の方法で測定される成形体のL値が85〜95であり、好ましくは88〜95、より好ましくは90〜93である。
【0040】
本発明の各組成物には、用途等に応じて、公知の樹脂添加剤を配合することができる。公知の樹脂添加剤としては、各種の充填剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、老化防止剤、相溶化剤、難燃剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤等を挙げることができる。
【0041】
本発明の組成物は、各種の電気・電子製品、各種家庭用品、電話機、玩具、建材等の彩色が求められる各種用途に適用することができる。
【実施例】
【0042】
(1)全光線透過率
測定装置:光線透過率測定装置 TC-H III DP(東京電色社製)
積分球方式 JIS-K7105 10mmφ ハロゲンランプ 条件c光
測定サンプルは、3段厚み(1mm、2mm、3mm)のカラープレート(全寸50mm×90mm、3mm厚み部:50mm×45mm、2mm厚み部:50mm×22.5mm、1mm厚み部:50mm×22.5mm)を用い、その1mm部分の全光線透過率を測定した。
【0043】
(2)L値
測定装置:分光光度計 COLOR−7X(倉敷紡績株式会社製)
計算色差式 : CIE 1976Lab(反射率)
測定光源 D-65(10)
測定サンプルは、3段厚み(1mm、2mm、3mm)のカラープレート(全寸50mm×90mm、3mm厚み部:50mm×45mm、2mm厚み部:50mm×22.5mm、1mm厚み部:50mm×22.5mm)を用い、3mm部分を用い測定した。
【0044】
(3)光沢度
測定装置:可変角度光沢度測定装置 TC-108DP/P
測定角度 60°
測定サンプルは、3段厚み(1mm、2mm、3mm)のカラープレート(全寸50mm×90mm、3mm厚み部:50mm×45mm、2mm厚み部:50mm×22.5mm、1mm厚み部:50mm×22.5mm)を用い、その3mm部分の全光線透過率を測定した。また、光沢度は、ベース樹脂にカーボンブラックを0.2部添加し、黒着色した樹脂を成形し、得たカラープレートで測定した。色調は、2mm厚、3mm厚の部分を目視にて総合的に評価した。
【0045】
(4)b値
測定装置:分光光度計 COLOR−7X(倉敷紡績株式会社製)
計算色差式 : CIE 1976Lab(反射率)
測定光源 D-65(10)
測定サンプルは、3段厚み(1mm、2mm、3mm)のカラープレート(全寸50mm×90mm、3mm厚み部:50mm×45mm、2mm厚み部:50mm×22.5mm、1mm厚み部:50mm×22.5mm)を用い、3mm部分を用い測定した。
【0046】
(5)色調
色調は、2mm厚、3mm厚の部分を目視にて総合的に評価した。具体的には、実施例5(黄)と比較例1(黄)、実施例13(白)と比較例2(白)を相対評価した。
○:鮮やかな色で深みがあり、透けて見えない(高級感あり)。
△:透けて見えないが、色に深みがない。
×:透けて見える(高級感なし)。
(ベース樹脂)
ABS樹脂:スチレン量30質量%、アクリロニトリル10質量%、ゴム(ポリブタジエン)量60質量%)
AS樹脂:030SF ダイセルポリマー(株)製
PMMA:アクリペットVH001 三菱レーヨン(株)製
(染料)
赤:プラストレッド8370(Solvent Red 179),有本化学工業(株)製
橙:マクロレックスオレンジ3G(Solvent Orange 60),バイエル(株)製
黄:プラストイエロー8040(Disperse Yellow 54),有本化学工業(株)製
青:ダイアレジンブルーN(Solvent Blue 94),三菱化学株式会社製
藍(紫):プラストバイオレット8855(Solvent Violet 31),有本化学工業(株)製
紫:マクロレックス レッド バイオレット R(Disperse Violet 31),バイエル(株)製
紫(白色組成物用):プラストバイオレット8840(Solvent Violet 13),有本化学工業(株)製
(顔料)
赤:PV−FAST RED B(Pigment Red 149),クラリアントジャパン(株)製
橙:PV-FAST ORANGE GRL(Pigment Orange 43),クラリアントジャパン(株)製
黄:TY-70 (Pigment Yellow 53),石原産業株式会社製
青:群青No2400(Pigment Blue 29),(株)第一化成製
藍(青):Fastogen Blue 5050(Pigment Blue 15:1),(株)第一化成製
紫:ダイイチバイオレット DV-10(Pigment Violet 15),(株)第一化成製
酸化チタン:デユポンタイピュアー R-103(Pigment White 6),デユポン(株)社製
蛍光増白剤:Hostalux KS:クラリアントジャパン(株)製
安定剤:イルガノックス1010:チバガイギー
実施例及び比較例
表1に示す各成分(質量%)を用い、二軸押出し機(池貝(株)製 PCM30/2−28.5−2V)により、溶融混錬した後、ストランド状に押出したものを切断し、本発明の樹脂組成物のペレットを得た。
【0047】
得られたペレットを射出成形機(シリンダー温度23℃、金型温度50℃)にて成形して、上記した3段厚みのカラープレートを作製し、各試験を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂100質量部に対して、染料、酸化チタンを除く顔料、酸化チタンを含む着色成分を含有しており、成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜30%であり、かつL値が10〜85である、成形体を所望の有彩色に調色できる樹脂組成物。
【請求項2】
ベース樹脂100質量部に対して、染料と酸化チタンを含む着色成分を含有しており、成形体の全光線透過率(厚さt=1mm)が1〜10%であり、かつL値が85〜95である、成形体を所望の白色に調色できる樹脂組成物。
【請求項3】
ベース樹脂が、下記の(a)〜(c)の性質を満たすものである、請求項1又は2記載の樹脂組成物。
(a)ベース樹脂の成形体の光沢度が80%以上であること
(b)ベース樹脂の成形体の全光線透過率が30%以上であること
(c)ベース樹脂の成形体のb値が40以下であること
【請求項4】
ベース樹脂が、樹脂混合物及び/又は共重合体であり、
前記樹脂混合物が、メタクリル系樹脂とスチレン系樹脂を含むものであり、
前記共重合体が、メタクリル酸エステル系単量体とスチレン系単量体との共重合体を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ベース樹脂が、ポリメタクリレート、ABS樹脂及びAS樹脂を含む樹脂混合物又は前記各重合体が得られる単量体の共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項6】
染料と顔料の含有比率は同量であり、染料又は顔料に対する酸化チタンの含有比率(染料又は顔料の含有量/酸化チタンの含有量)が5/1〜1/20である請求項1、3〜5のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
染料に対する酸化チタンの含有比率(染料の含有量/酸化チタンの含有量)が1/1×10〜1/1×10である請求項2記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−114260(P2009−114260A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286292(P2007−286292)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】