説明

成形型

【目的】成形品を成形型のうちの特定型の方に固定することにより成形後の自動化を実現する。
【構成】複数の成形型5,6の何れかの成形型6b,6cにフロートバルブ1を載置し、成形型5,6を型締めすることにより形成されるキャビティ10内に溶融材料を注入してフロートバルブにゴム部4を形成するに際し、フロートバルブ1を載置する成形型5,6に、当該バルブを載置可能な位置とバルブを固定する位置との間を移動し得る固定板8を設けた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、成形型に関し、特に対象物の一部に成形部を形成するための成形型に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば図5に示すフロートバルブ1の頭部1aにはゴムなどが成形されるが、この成形は同図に示すような下型2にバルブ1をセットして上型3を型締めし、バルブ1と上型3とで形成されるキャビティ内にゴム材料を射出することにより行われる。そして、この射出が終了すると成形型2,3を開いて頭部1aにゴム部4(以下、成形部ともいう)が形成されたフロートバルブ1を取り出す。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来の成形型では成形を終了してフロートバルブを取り出す際に当該バルブ1が何れの型2,3に残るかが定まらないという問題があった。本発明者が調査したところ、図5に示される形状のフロートバルブ1であれば約8割が上型3に付着し、残りのフロートバルブ1は下型2に付着することが判明した。これはキャビティ内を密閉空間とするためにはフロートバルブ1の先端側に形成されたテーパ面1bが上型3に嵌合していることが必要であるが、フロートバルブ1の加工誤差によってこの嵌合が強かったり弱かったりするためと考えられる。また、ゴム部4と上型3との付着性のばらつきもその他の要因として考えられる。
【0004】このように、成形を終了して成形型2,3を開いたときに成形品1が何れの型2,3に残るかが定まっていないと、成形品を取り出して次工程へ搬送する作業を自動化することが極めて困難となる。そのため、従来では成形品1の取り出しを手作業で行わざるを得なかった。
【0005】本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、成形品を成形型のうちの特定型の方に固定することにより成形後の自動化を実現することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の成形型は、複数の成形型の何れかの成形型に対象物を載置し、前記成形型を型締めすることにより形成されるキャビティ内に溶融材料を注入して前記対象物に成形部を形成する成形型において、前記対象物を載置する前記成形型に、前記対象物を載置可能な位置と前記対象物を固定する位置との間を移動し得る固定板を設けたことを特徴としている。
【0007】
【作用】複数の成形型の何れかの成形型に対象物を載置し、これらの成形型を型締めすることにより形成されるキャビティ内に溶融材料を注入して対象物に成形部を形成する場合、本発明の成形型では対象物を載置する成形型に設けられた固定板を利用して成形品を特定の型に付着させる。つまり、固定板を対象物が成形型に載置可能な位置に移動させた状態で当該対象物を成形型にセットし、ついでセットが終了したら固定板を対象物が固定される位置まで移動させる。
【0008】この状態でキャビティ内に溶融材料を注入して対象物に成形部を形成したのち、これらの成形型を開く。そうすると、対象物は固定板によって特定の成形型に固定されているので、型開きしたときには常に一定の成形型に成形品が付着していることになる。このため、成形品を取り出す作業の自動化が実現できる。
【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図1(A)は本発明の一実施例に係る成形型を示す平面(半断面)図、図1(B)は図1(A)のB−B線に沿う断面図、図2は同実施例の駒型を示す縦断面図、図3は本発明の他の実施例に係る成形型を示す平面(半断面)図、図4は同実施例の駒型を示す縦断面図である。
【0010】まず、図1(A)に示すように、本実施例の成形型5には4つの駒型6が設けられており、一つの駒形6で一つのフロートバルブ1にゴム部4を成形する。また、図1(B)に示すように本実施例の成形型5は上型5aおよび2つの下型5b,5cから構成されており、2つの下型5b,5cはともに動作するが上型5aと下型5b,5cとは互いに接近離反するようになっている。「7」は駒形6を成形型5にセットしたときの回り止めであって、これにより後述する固定板8の貫通孔位置が成形型5と駒形6とで合致することになる。
【0011】本実施例に係る駒形6は、図2に示すように成形型の上型5aとともに移動する上型6aと、成形型の下型5b,5cとともに移動する下型6b,6cとから構成されており、この駒形6の場合も下型が互いに固定されてともに移動する2つの下型6b,6cから構成されている。駒形の下型6b,6cには、フロートバルブ1の胴体部分に応じた凹部9が形成されており、この凹部9にフロートバルブ1を挿入すると、凹部9の底面に形成された段部9aによって当該フロートバルブ1が定位置にセットされることになる。このフロートバルブ1の基端側には環状凹部1cが形成されており、この環状凹部1cに応じた位置に固定板8が貫通されている。
【0012】フロートバルブ1を駒形6の下型6b,6cに形成された凹部9にセットして上型6aを閉じると、フロートバルブ1の先端面1bが上型6aに接することになる。これによりフロートバルブ1と上型6aとで囲まれた空間がキャビティ10を形成する。なお、下型6cにはスプリング11を介してノックピン12が設けられている。このノックピン12は無負荷状態ではCリング13により支持されているが、底部12aを何らかの手法で突き上げると、当該ノックピン12はスプリング11の弾性力に抗して下型6b,6cに挿入されたフロートバルブ1を突き上げることになる。すなわち、このノックピン12によって成形を終了したフロートバルブ1を下型6b,6cから取り出すことができる。
【0013】本実施例のフロートバルブ1は、既述したようにフロートバルブの先端1bと上型6aとが比較的嵌合した状態となってキャビティ10が形成されることから、この嵌合状態が強い場合には成形を終了するとフロートバルブ1が上型6aに付着する可能性が高くなる。逆に、フロートバルブ1の製造誤差等によってフロートバルブの先端1bと上型6aとの嵌合状態が緩い場合には成形を終了した場合にフロートバルブ1が下型6b,6cに残る可能性が高い。このように種々の事情によって成形を終了したフロートバルブ1の付着位置が定まっていないと次工程への搬送作業を自動化することはできない。そこで、本実施例の成形型ではフロートバルブの基端側に形成されている環状凹部1cを利用して、この環状凹部1cを固定板8により把持することにより常に下型6b,6cにフロートバルブ1が残るようにしている。
【0014】具体的には、図1(A)および(B)に示すように、成形型の下型5cを貫通する位置に貫通孔14が形成され、ここに固定板8が挿入されている。この固定板8は図2に示すように駒形の下型6b,6cも貫通しており、さらに先端はスプリング15によって弾性が付与されたブロック16に当接している。また、固定板8の基端側8aは先端が鋭利に形成されてスリーブ17に嵌挿されることにより支持されている。
【0015】このようにして設けられた固定板8は、スプリング15によって間接的に弾性付与されていることから、固定板8の基端8aを押すとスプリング15の弾性力に抗して当該固定板8が成形型5の奥に移動する。逆に固定板8への押圧力を解除するとスプリング15の弾性力によって原位置に戻ることになる。
【0016】また、固定板8には大小の通孔18(18a,18b)が雪だるま状に連続して形成されており、この雪だるま状の通孔18は駒形の位置に停止するようになっている。すなわち、本実施例では、小径の通孔18aは図2の右半分に示すようにフロートバルブ1の環状凹部1cに嵌合する大きさであって、また大径の通孔18bは図2の左半分に示すようにフロートバルブ1の環状凹部1cと干渉しない大きさにそれぞれ形成されている。そして、固定板8が無負荷状態では、駒形6の中心、すなわちフロートバルブ1を下型6b,6cの凹部9に挿入する位置に小径側の通孔18aが位置する。一方、固定板8の基端8aを押し込むと、駒形6の中心に大径側の通孔18bが位置することになる。したがって、成形を開始する前にフロートバルブを下型6b,6cにセットする場合には何らかの手段によって固定板の基端8aを押し、大径側の通孔18bを駒形6の中心に位置せしめる。
【0017】これにより、フロートバルブ1は固定板8となんら干渉することなく下型6b,6cの凹部9にセットすることができる。このようにしてセットを終了して固定板8への押圧力を解除すると、スプリング15の弾性力で固定板8は原位置に戻ることになるので、固定板の小径側の通孔18aが駒形6の中心まで移動し、これにより図2の右半分に示すように、固定板8がフロートバルブの環状凹部1cに嵌合することになる。そうすると、成形を終了して成形型5を開いても、フロートバルブ1は固定板の小径の通孔18aで把持されていることから、当該フロートバルブは常に下型5b,5cに残ることになる。
【0018】このようにフロートバルブ1を固定する手段である固定板8の具体的構造は、上述した実施例にのみ限定されるものではない。図1および図2に示す具体例では大小の連続した通孔18a,18bをフロートバルブの環状凹部1cに嵌合させる手法を用いたが、仮にフロートバルブに環状凹部1cなど適当な把持部位がなくとも本発明は適切に改変することができる。
【0019】例えば、図4に示す形状のフロートバルブに対しては、上述した構造の固定板は適用できないため、図3に示すような固定板を用いる。この固定板8は、駒形6の中心(フロートバルブ1の中心でもある)で左右に2分割されており、固定板8を成形型5に挿入したときに駒形6の中心付近に切欠部19が形成されている。ぞれぞれの固定板の先端側8b(図3において上側)はブロック状に形成されており成形型5との間にスプリング20が介装されている。一方、固定板8の基端側はスリーブ21に嵌挿されたブロック22に当接している。そして、ブロック22の先端22aに負荷を与えない状態ではスプリング20の弾性力によって固定板8の切欠部19の斜面がフロートバルブ1の胴体を押圧することになり、これにより当該フロートバルブ1が下型側6b,6cに把持される。この様子を図4の右半分に示す。
【0020】なお、フロートバルブ1を下型6b,6cにセットする場合には、ブロック22の先端22aを押して固定板8を成形型5の奥へ押し込む。そうすると、2つの固定板8にそれぞれ形成された切欠部19が駒形6の中心に位置し、これによりフロートバルブ1と固定板8とが干渉することがなくなる。この様子は図4の左半分に示されている。
【0021】次に作用を説明する。図5に示すようにフロートバルブ1の先端にゴム部4を形成する場合、まず、上型5a,6aあるいは下型5b,6b,5c,6cを開いて下型の凹部9にフロートバルブ1をセットする。このとき、図1に示す実施例であれば固定板8の基端8a、図3に示す実施例であればブロック22の先端22aを押しておく。こうすることにより、図1に示す実施例であれば固定板8に開設された大径側の通孔18bが、また図3に示す実施例であれば切欠部19の最深部分が駒形6の中心に位置し、フロートバルブ1と固定板8との干渉がせずに円滑に当該フロートバルブ1を挿入できる。
【0022】フロートバルブ1を下型6b,6cにセットしたら、図1に示す実施例であれば固定板の基端8a、図3に示す実施例であればブロック22aの先端の押圧を解除する。すると、それぞれの固定板8はスプリング15,20の弾性力によって原位置まで戻り、図1に示す実施例であれば小径側の通孔18aがフロートバルブ1の環状凹部1cに嵌合する。また図3に示す実施例であれば、切欠部19の斜面でフロートバルブ1の胴体を押圧する。
【0023】このようにしてフロートバルブ1が固定板8に把持された状態で成形型の上型5a,6aと下型5b,6b,5c,6cとを閉じ、フロートバルブ1の先端と上型6aとで形成されたキャビティ10内にゲートから溶融材料を注入すると、当該フロートバルブの先端にゴム部4が成形されることになる。
【0024】所定の加硫をおこなったのち上型と下型とを開くと、フロートバルブ1が上型6aに嵌合していたとしても、固定板8によって当該フロートバルブ1は下型6b,6cに強く把持されていることから、成形を終了したフロートバルブ1は常に下型6b,6cに残ることになる。したがって、例えば成形終了後のフロートバルブ1の取り出し作業をロボットや専用機などの自動機を用いて自動化しようとした場合、下型6b,6cの所定位置にワークが存在するため、どちらの型にフロートバルブが付着しているかを判別する複雑な判別手段は不要となり、容易に自動化を実現することができる。
【0025】なお、以上説明した実施例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施例に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、対象物となるワークは上述したフロートバルブにのみ限定されることはなく、成形部が形成される物体であれば本発明の成形型を用いることができる。また、対象物を付着させるのは下型のみには限られず、何れか特定の型であればよい。
【0026】
【発明の効果】本発明の成形型は、対象物を載置する成形型に対象物を載置可能な位置と対象物を固定する位置との間を移動し得る固定板を設けているので、対象物は固定板によって特定の成形型に固定されることになり、型開きしたときには常に一定の成形型に成形品が付着することになる。その結果、成形品を取り出す作業の自動化が容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明の一実施例に係る成形型を示す平面(半断面)図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図2】同実施例の駒型を示す縦断面図である。
【図3】本発明の他の実施例に係る成形型を示す平面(半断面)図である。
【図4】同実施例の駒型を示す縦断面図である。
【図5】従来の成形型を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1…フロートバルブ(対象物)
1a…先端部
1b…先端面
1c…環状凹部
2…下型
3…上型
4…ゴム部
5…成形型
5a…上型
5b,5c…下型
6…駒形
6a…上型
6b,6c…下型
7…回り止め
8…固定板
8a…基端
8b…先端
9…凹部
9a…段部
10…キャビティ
11…スプリング
12…ノックピン
12a…底部
13…Cリング
14…貫通孔
15…スプリング
16…ブロック
17…スリーブ
18…通孔
18a…小径の通孔
18b…大径の通孔
19…切欠部
20…スプリング
21…スリーブ
22…ブロック
22a…先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の成形型(5,6)の何れかの成形型(6b,6c)に対象物(1)を載置し、前記成形型(5,6)を型締めすることにより形成されるキャビティ(10)内に溶融材料を注入して前記対象物に成形部(4)を形成する成形型において、前記対象物(1)を載置する前記成形型(5,6)に、前記対象物を載置可能な位置と前記対象物を固定する位置との間を移動し得る固定板(8)を設けたことを特徴とする成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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