説明

成形方法及び成形用金型

【課題】 簡便な成形用金型により、従来の成形方法に比して成形体の隅部の成形限界を向上させることができる成形方法及び同方法の実施に好適に用いることができる成形用金型を提供する。
【解決手段】 本発明の成形方法は、平坦状の底壁と側壁とが曲面状の隅部によって連成された成形体の成形方法である。前記成形体の隅部の外面を成形する隅部外面成形部16を備えたダイ1を準備し、平坦状の底壁61と側壁62とが前記成形体の隅部の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する大径隅部63によって連成された中間成形体60を成形し、前記中間成形体60の大径隅部63の内側に配した成形用ゴムリング5を加圧変形させて、前記大径隅部63を前記ダイ1の隅部外面成形部16に密着変形させて前記成形体の隅部を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根、インテリア、カーテンウォール等の建材、器物、電機部品、光学機器、自動車、鉄道車両及び航空機等の輸送機器、一般機械部品等のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機、精密機械などのプレス成形品の素材として、アルミニウムや高張力鋼板が使用されているが、これらは破断やしわが発生し易いため、従来の軟鋼板に比べて平坦状の壁部が交叉する隅部の曲率半径を大きくする必要があり、成形品の隅部の曲面が緩やかな形状に制限されるという問題がある。
この問題を克服するため、プレス成形法においてもいくつかの提案がなされている。例えば、特開2001−334315号公報(特許文献1)には、成形用金型から不活性ガスを噴出するようにし、成形の最終段階にポンチ内から不活性ガスを噴出して曲率半径の小さな隅部(アール部、R部という場合がある。)を成形する方法が提案されている。また、AEROSPACE AMERICA/MARCH 2000, VOL.38, NO.3, p28-29(非特許文献1)には、ポンチ内に放電成形用電極を設けて、成形の最終段階で放電成形により隅を成形する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2001−334315号公報
【非特許文献1】AEROSPACE AMERICA/MARCH 2000, VOL.38, NO.3, p28-29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、金型より不活性ガスを噴射する方法は高圧となる不活性ガスのシール方法が困難であり、また、放電成形用電極を設ける方法も装置構成が複雑となり、いずれの方法も設備コストが高くなり、通常のプレス成形方法に比して生産性も低下する。
また、一般的に自動車用部材などで用いられる複雑な形状を有する成形品は、一般的に成形工程を複数に分けて成形されることが多く、簡便で安価な成形用金型を用いて、より小さな曲率半径の隅部の成形が可能な成形方法が求められる。
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、簡便な成形用金型により、従来の成形方法に比して成形体の隅部の成形限界を向上させることができる成形方法及び同方法の実施に好適に用いることができる成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の成形方法は、平坦状の底壁と側壁とが曲面状の隅部によって連成された成形体の成形方法である。前記成形体の隅部の外面を成形する隅部外面成形部を備えたダイを準備し、平坦状の底壁と側壁とが前記成形体の隅部の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する大径隅部によって連成された中間成形体を成形し、前記中間成形体の大径隅部の内側に配した成形用弾性体を加圧変形させて、前記大径隅部を前記ダイの隅部外面成形部に密着変形させて前記成形体の隅部を成形する。
【0005】
本発明の成形方法によれば、目的の成形体の隅部の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する大径隅部によって底壁と側壁とが連成された中間成形体に対して、その大径隅部の内側に配した成形用弾性体を加圧変形させて、前記大径隅部を前記ダイの隅部外面成形部に密着変形させるので、前記大径隅部が張り出し成形された状態になり、大径隅部が変形する際、ひずみを均一化することができ、隅部の成形限界を向上させることができる。
【0006】
上記成形方法において、前記中間成形体を成形した後、この中間成形体をダイから取り出して別工程で前記成形体の隅部を成形するようにしてもよく、また前記中間成形体をダイに保有したまま、前記成形体の隅部を成形するようにしてもよい。
【0007】
また、本発明の成形用金型は、平坦状の底壁と側壁とが曲面状の隅部によって連成された成形体を成形する成形用金型である。前記底壁の外面を成形する底壁外面成形部と、前記側壁の外面を成形する側壁外面成形部と、前記隅部の外面を成形する隅部外面成形部とが凹状に連成された凹部成形面を備えたダイと、前記凹部成形面と協働して前記成形体を成形するポンチとを備える。前記ポンチは、前記ダイの底壁外面成形部と協働して前記底壁の内面を成形する底壁内面成形部を備えた中型部と、前記中型部の外側に設けられ、前記ダイの側壁外面成形部と協働して前記側壁の内面を成形する側壁内面成形部とを備えた外型部と、前記中型部の端部に配置された成形用弾性部材を備える。前記成形用弾性部材は、前記ダイとポンチの中型部と外型部とによって平坦状の底壁と側壁とが前記成形体の隅部の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する大径隅部によって連成された中間成形体を成形した後、前記外型部をダイ側に移動させることで前記大径隅部が前記ダイの隅部外面成形部に加圧密着されるように加圧変形して前記成形体の隅部を成形する。
【0008】
この成形用金型によると、中間成形体をダイとポンチの中型部と外型部とによって成形後、中間成形体をダイに保有したまま、ポンチの外型部をさらにダイ側に移動することで、成形用弾性部材を加圧変形させて前記大径隅部をダイの前記隅部外面成形部に加圧密着させ、これによって前記成形体の隅部を張り出し成形することができる。また、中間成形体を成形後、これをダイから取り出して、隅部を別工程で成形する必要が必要がないため、簡単な構造でありながら、生産性に優れる。
【0009】
前記成形用金型において、前記ポンチの外型部はダイに対して移動自在とされ、前記中型部は前記外型部に保持用弾性部材を介して保持され、前記保持用弾性部材は、前記外型部が中間成形体の底壁を成形した後、圧縮変形して前記外型部の移動を許容するようにすることができる。
【0010】
この保持用弾性部材を用いることにより、ポンチの外型部をダイ側に移動することで、中型部と外型部によって中間成形体を成形した後、さらに外型部は前記保持用弾性部材を圧縮変形しつつ、ダイ側に移動することができ、前記成形用弾性部材によって中間成形体の大径隅部の内側をダイの隅部外面成形部側に加圧変形させ、前記大径隅部を前記隅部外面成形部に密着させるように変形させることができる。このため、ポンチの外型部のみを移動させるだけで、所期の成形体を成形することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形方法によると、高圧ガス噴射手段や放電成形電極を備えない簡便な成形用金型により、成形体の隅部の成形限界を向上させることができ、このためアルミニウム材などの加工の難しい曲面状隅部の曲率半径をより小さくすることができる。また、本発明の成形用金型によると、簡単な構造でありながら、前記成形方法を容易に実施することができ、生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、実施形態にかかる成形用金型を図を参照して説明する。
図1は、図6に示す平坦状の底壁51と側壁52とが曲面状の隅部53によって連成された有底筒状成形体(目標成形品)50を成形する成形用金型の実施形態である。
この成形用金型は、凹部成形面11を有するダイ1と、前記凹部成形面11と協働して前記成形体50を成形するポンチ2と、前記凹部成形面11の開口外周部に形成された板押さえ面12に素板(ブランク)Bを押圧する板押さえ部材6とを備えている。
【0013】
前記ダイ1は、前記成形体50の底壁51の外面を成形する底壁外面成形部14と、前記側壁52の外面を成形する側壁外面成形部15と、前記隅部53の外面を成形する隅部外面成形部16とを有し、これらが前記凹部成形面11を構成している。
【0014】
前記ポンチ2は、中型部3と、前記中型部3の外周側に移動自在に設けられた外型部4とを備えている。前記中型部3は、前記底壁外面成形部14と共同して前記底壁51の内面を成形する底壁内面成形部21を有する。前記外型部4は、前記側壁外面成形部15と共同して前記側壁52の内面を成形する側壁内面成形部22を有する。前記ポンチ2は、さらに前記中型部3の上端外周部に付設された成形用ゴムリング(成形用弾性部材)5を備えている。前記中型部3は、前記底壁内面成形部21が形成された成形軸部24と、この成形軸部24の下方に段差部25を介して形成された大径軸部26と、この大径軸部26の下方に延設された小径軸部27を備える。一方、前記外型部4は、前記成形軸部24および大径軸部26の外周側に設けられ、その外周面に前記側壁内面成形部22が形成された成形筒部31と、成形筒部31の下方に延設された本体軸部32を備えている。前記成形筒部31は、前記中型部3の段差部25に係合しており、この係合により、外型部4は前記段差部25より上方(ダイ側)へ移動可能とされ、下方へは移動不能に拘束されている。また、前記成形筒部31の上端面は、前記成形用ゴムリング5を載置するようになっている。
【0015】
前記ポンチ2の中型部3の小径軸部27、外型部4の本体軸部32は、それぞれプレスの昇降部材に連結されて、各々昇降自在とされている。前記外型部4は、中型部3の段差部25に係合した状態では、段差部25より下方へは移動することはできないが、中型部3が有底筒状成形体50の底壁51をほぼ成形完了した際、中型部3に対してさらに上昇させることができる。なお、前記段差部25は必ずしも必要でないが、前記段差部25を設けておくことで、中型部3が有底筒状成形体50の底壁51を成形する際、中型部3の小径軸部27を上昇させるだけで、外型部4も中型部3と同時に上昇して有底筒状成形体50の側壁52を同時に成形することができる利点がある。
【0016】
前記成形用ゴムリング5の材質としては、一般用、汎用のゴム材を各種利用することができ、例えばウレタンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、ハイパロンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴムなどを用いることができる。ゴムの硬さについては、硬い方がよく、Hs60以上、好ましくはHs90以上がよい。なお、ゴム硬度は、充填剤の添加量を増大させることで硬度を上げることができる。
【0017】
次に、上記成形用金型を用いて、前記有底筒状成形体50を成形する方法について説明する。
まず、ポンチを下死点に下げた状態で、図1に示すように、ダイ1の板押さえ面12と板押さえ部材6との間に素板Bを押圧状態で挟持する。
次いで、ポンチ2の小径軸部を上昇させると、図2に示すように、ポンチ2の中型部3と、前記段差部25に係合した外型部4が共にダイ側に移動して、素板Bが深絞り成形され、平坦状の底壁61と側壁62とが、成形目標である有底筒状成形体50の隅部53の曲率半径よりも大きい曲率半径の曲面で形成された大径隅部63によって連成された中間成形体60を成形する。
前記中間成形体60が成形完了した後(図2に示す状態)、さらに外型部4の本体軸部32をダイ側へ移動させると、外型部4のみが上昇し、前記成形用ゴムリング5は、図3に示すように、前記中間成形体60の大径隅部63の内面と、前記中型部3の先端部外周面と、前記外型部4の上端面とで囲まれた空間部内に加圧状態で押し込められて変形し、ついには図3に示すように、前記大径隅部63がダイ1の隅部外面成形部16に加圧密着するように変形する。これによって、目標である有底筒状成形体50の底壁51と側壁52との間に曲率半径の小さい隅部53が成形される。前記成形用ゴムリング5の加圧変形により、大径隅部63は均等にダイ1の隅部外面成形部16に沿って変形するので、従来に比して高い成形限界での成形が可能になる。
【0018】
上記実施形態の成形用金型では、ポンチ2の中型部3、外型部4を各々別の駆動源(プレス昇降部材)でそれぞれ昇降移動するようにしたが、図1の二点鎖線で示すように、前記ポンチ2の外型部4は上記実施形態と同様、ダイ1に対して移動自在とする一方、前記中型部3を、前記外型部4の移動方向に伸縮可能に配置された保持用ゴムリング(保持用弾性部材)7を介して前記外型部4に保持するようにすることができる。保持用ゴムリング7は、前記成形用ゴムリング7と同様のゴム材を用いることができる。なお、保持用弾性部材としては、前記保持用ゴムリングのほか、各種の圧縮コイルバネを用いることもできる。
【0019】
図4は、保持用ゴムリングを用いた他の実施形態に係る成形用金型であり、ダイ、板押さえ部材など、図1に示した成形用金型のものと同様のものは、同符号を付して説明を省略する。
この成形用金型では、ポンチ2Aの中型部3Aは、その上端部に設けた拡径部35と、その下方に延設された大径部36と、さらにその下方に延設された小径部37とで構成される。外型部4Aは、本体軸部40の上面に開口した凹部41を備え、前記凹部41の底面には中心孔42が設けられ、これらは外型部4Aに同心状に形成されている。前記中型部3Aの大径部36は前記凹部41に、小径部37は前記中心孔42に移動自在に装着される。また、成形用ゴムリング5Aが前記拡径部35の直下に装着され、その下端は前記外型部4Aの凹部41の外周上面に当接している。このため、ポンチ2Aの中型部3Aは、外型部4Aの上面に成形用ゴムリング5Aを介して上下方向に移動可能に載置された状態となっている。一方、前記凹部41には、保持用ゴムリング7Aが大径部36の下方に収容されている。
【0020】
このような保持用ゴムリング7Aを用いることにより、ポンチ2Aの外型部3Aをダイ側に移動することで、外型部4Aに保持用ゴムリング7Aを介して保持された中型部3Aも外型部4Aと共に移動して中間成形体を成形する。その成形が完了した後、さらに外型部4Aを前記保持用ゴムリング7Aを弾性変形(圧縮)させつつ、ダイ側に移動させる。これにより、図5に示すように、前記成形用ゴムリング5Aを加圧変形させて、中間成形体の大径隅部を前記隅部外面成形部16に密着させ、これに沿うように変形させることができる。このため、ポンチ2Aの駆動源は外型部4Aに対する昇降部材のみで済み、プレス装置をより簡単な構造とすることができる。
【0021】
上記実施形態では、成形対象として、図6に示す有底円筒体50としたが、図7に示すように、底壁51Aと四面の側壁52Aとが隅部53Aを介して連成され、隣合う側壁52A同士がコーナー部54Aを介して連成された有底角筒体50Aでもよい。また、これらの有底筒状成形体に限らず、曲面状隅部を有する成形体であれば平面形状は問わない。また、曲面状隅部の一部に本発明の成形方法を適用してもよい。また、本発明の成形方法、成形用金型は、適度な板押さえ圧の下、素板をダイに流入させつつ成形する深絞り成形のほか、板押さえ圧を大きくして素板の流入をほとんど生じない状態で成形する張り出し成形に対しても好適に適用することができる。
【0022】
以下、本発明の実施例を挙げてより具体的に本発明を説明するが、本発明はかかる実施例により限定的に解釈されるものではない。
【実施例1】
【0023】
側壁内径φ50mm、隅部(内面)の曲率半径が5mmの図6に示す有底円筒体(目標成形品)を深絞り成形する成形試験を実施した。
成形試験には、凹部成形面を有するダイ(図4のもの)と、この凹部成形面と協働して素板を成形する凸状成形面を有する従来形状のポンチ(隅部内面成形部(肩)の曲率半径Rが異なるものを2種)と、成形用ゴムリングを備えた実施例にかかるポンチ(図4のもの)を準備した。金型サイズ(単位はmm)は以下のとおりである。
(1) ダイ(全てのポンチに対して共通)
凹部成形面(側壁外面成形部)の内径:φ52.6、隅部外面成形部(ダイ肩)のR:6
(2) 従来ポンチ1
側壁内面成形部の外径:φ49、隅部内径成形部のR:10
(3) 従来ポンチ2
側壁内面成形部の外径がφ49、隅部内面成形部のR:5
(3) 実施例ポンチ
外型部の本体軸部の外径:φ49、凹部:内径φ30×深さ19、中心孔:内径φ10;中型部の大径部外径:φ29.95、小径部外径:φ9.95;成形用ゴムリングの材質:ウレタンゴム(Hs95)、内径:φ30、断面外径:φ8;保持用ゴムリングの材質:ウレタンゴム(Hs95)、内径:φ14、外径:φ26、厚さ:10
【0024】
まず、従来ポンチを用いて深絞り成形した場合の限界絞り比を以下の要領で調べた。 平面形状が円形で、絞り比(DR:素板外径/ポンチ(側壁内面成形部)外径))が1.8〜2.1となる下記サイズの素板(6022アルミニウム合金、板厚1.0mm)を準備し、上記ダイと従来ポンチ1及び従来ポンチ2を用いて、種々の絞り比で、板押さえ力500〜700kgf 、パンチ速度100mm/sec の下で深絞りを行った。その結果、隅部に破断が生じない限界絞り比は、従来ポンチ1を用いた場合の限界絞り比は2.05、従来ポンチ2を用いた場合の限界絞り比は2.0であった。
素板サイズ(単位mm)
φ90(DR1.8)、φ100(DR2.0)、φ102.5(DR2.05)、φ105(DR2.1)
【0025】
次に、下記成形条件にて上記と同様の板押さえ力、パンチ速度で深絞り成形を行い、成形された有底円筒体の隅部付近の板厚を調べた。その結果を図9に示す。なお、測定部位の位置は、図6の矢印で示すように、円筒中心軸を含む平面で有底円筒体を切断したとき、底壁中心Cから円筒体の断面に沿って測定した距離で表した。
成形条件A:従来ポンチ1を用いてDR2.05で1段成形した。
成形条件B:従来ポンチ2を用いてDR2.0で第1段成形した。
成形条件C:実施例ポンチを用いてDR2.05で1段成形した。
【0026】
図9より、成形条件A(従来例1)では、隅部の曲率半径が大きいので、DR2.05でも隅部での素板板厚からの肉厚減少率は11.4%程度に止まった。しかし、成形条件B(従来例2)では、DR2.0の場合、隅部で破断が生じなかったものの、隅部での肉厚が17%程度減肉した。一方、成形条件C(実施例)では、絞り比2.05の成形が可能となり、肉厚減少率は従来例1より若干大きいものの、12.5%程度に止まった。
【実施例2】
【0027】
向かい合う側壁間の内幅46×46mm、底壁と側壁間の隅部(内面)の曲率半径3mm、隣接する側壁間のコーナー部(内面)の曲率半径7mmの図7に示す有底角筒体(目標成形品)を深絞り成形する成形試験を実施した。
成形試験には、凹部成形面を有するダイと、この凹部成形面と協働して素板を成形する凸状成形面を有する従来形状のポンチ(隅部内面成形部(肩)の曲率半径Rが異なるものを2種)と、成形用ゴムリングを備えた実施例にかかるポンチを準備した。成形用金型の構造は基本的に実施例1と同様であるが、ダイの凹部成形面、ポンチの側壁内面成形部の平面形状は正方形であり、金型サイズ(単位はmm)は以下のとおりである。
(1) ダイ(全てのポンチに対して共通)
凹部成形面(側壁外面成形部)の対向面間の幅:48.52×48.52、コーナー部外面成形部のR:8、隅部外面成形部(ダイ肩)のR:4、
(2) 従来ポンチ1
側壁内面成形部の対向面間の外幅:45×45、コーナー部内面成形部のR:7、隅部内面成形部のR:10、
(3) 従来ポンチ2
側壁内面成形部の対向面間の外幅:45×45、コーナー部内面成形部のR:7、隅部内面成形部のR:3、
(3) 実施例ポンチ
外型部の本体軸部(平面視正方形)の対向面間の外幅:45×45、凹部(平面視正方形)の対向面間の内幅:25.95×25.95×深さ19、中心孔:内径φ10;中型部の大径部(平面視正方形)の対向面間の外幅:25.9×25.9、小径部外径:φ9.95;成形用ゴムリング(平面視正方形)の材質:ウレタンゴム(Hs95)、対向辺間の内幅:26×26、断面外径:φ8mm;保持用ゴムリングの材質:ウレタンゴム(Hs95)、内径:φ14mm、外径:φ22、厚さ:10mm
【0028】
まず、従来ポンチを用いて深絞り成形した場合の限界絞り比を以下の要領で調べた。
図8に示すように、平面形状が8角形で、絞り比(DR:素板板幅L/ポンチ(側壁外面成形部)外幅))が1.75〜2.0となる下記サイズの素板(6022アルミニウム合金、板厚1.0mm)を準備し、上記ダイと従来ポンチ2を用いて、種々の絞り比で、板押さえ力200kgf 、パンチ速度100mm/sec の下で深絞りを行った。その結果、隅部に破断が生じない限界絞り比は、1.75であった。また、従来ポンチ1で曲率半径の大きな隅部を有する中間成形体を成形した後、従来パンチ2で仕上成形した結果、やはり絞り比が1.75以上の成形では隅部に破断が生じた。
素板サイズ(板幅L、単位mm)
78.5(DR1.75)、81.5(DR1.8)、85.5(DR1.9)、87.75(DR1.95)、90.0(DR2.0)
【0029】
次に、下記成形条件にて上記と同様の板押さえ力、パンチ速度で深絞り成形を行い、成形された有底角筒体の隅部付近の板厚を調べた。その結果を図10に示す。なお、測定部位の位置は、図7の矢印で示すように、角筒中心軸を含み、隣接する側壁の交叉中心部を含む平面で角筒体を切断したとき、底壁中心Cから角筒体の断面(対角断面)に沿って測定した距離で表した。
成形条件A:従来ポンチ1を用いてDR2.0で1段成形した。
成形条件B:従来ポンチ2を用いてDR1.75で1段成形した。
成形条件C:実施例ポンチを用いてDR2.0で1段成形した。
【0030】
図10より、成形条件A(従来例1)では、隅部の目標曲率半径が10mmと緩やかな曲面であるので、絞り比が2.0でも肉厚減少率が22%程度であった。これに対し、成形条件B(従来例2)では、DR1.75なので隅部で破断しなかったものの、隅部の曲率半径が3mmと厳しいため、隅部の肉厚減少率が40%程度と大きく、成形限界に到達していることが確認された。一方、成形条件C(実施例)では、DRが2.0という厳しい成形でも、肉厚減少率は18%程度に止まっており、曲率半径が3mmという小さな隅部を有する成型品でも成形可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係る成形用金型の断面説明図である。
【図2】実施形態に係る成形用金型による中間成形体の成形状態を示す半部断面説明図である。
【図3】実施形態に係る成形用金型による隅部成形状態を示す半部説明図である。
【図4】他の実施形態に係る成形用金型の断面説明図である。
【図5】他の実施形態に係る成形用金型による隅部成形状態を示す断面説明図である。
【図6】有底円筒体の一部切り欠き斜視図である。
【図7】有底角筒体の斜視図である。
【図8】実施例2で用いた素板の平面図である。
【図9】実施例1の成形実験結果であり、隅部付近における、有底円筒体の中心からの距離と板厚との関係を示す図である。
【図10】実施例1の成形実験結果であり、隅部付近における、有底角筒体の中心からの距離と板厚との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ダイ
2、2A ポンチ
3、3A 中型部
4,4A 外型部
5、5A 成形用ゴムリング(成形用弾性部材)
7、7A 保持用ゴムリング(保持用弾性部材)
16 隅部外面成形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦状の底壁と側壁とが曲面状の隅部によって連成された成形体の成形方法であって、
前記成形体の隅部の外面を成形する隅部外面成形部を備えたダイを準備し、
平坦状の底壁と側壁とが前記成形体の隅部の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する大径隅部によって連成された中間成形体を成形し、前記中間成形体の大径隅部の内側に配した成形用弾性体を加圧変形させて、前記大径隅部を前記ダイの隅部外面成形部に密着変形させて前記成形体の隅部を成形する、成形方法。
【請求項2】
前記中間成形体を成形した後、この中間成形体をダイから取り出して別工程で前記成形体の隅部を成形する、請求項1に記載した成形方法。
【請求項3】
前記中間成形体を成形した後、この中間成形体をダイに保有したまま、前記成形体の隅部を成形する、請求項1に記載した成形方法。
【請求項4】
平坦状の底壁と側壁とが曲面状の隅部によって連成された成形体を成形する成形用金型であって、
前記底壁の外面を成形する底壁外面成形部と、前記側壁の外面を成形する側壁外面成形部と、前記隅部の外面を成形する隅部外面成形部とが凹状に連成された凹部成形面を備えたダイと、
前記凹部成形面と協働して前記成形体を成形するポンチとを備え、
前記ポンチは、前記ダイの底壁外面成形部と協働して前記底壁の内面を成形する底壁内面成形部を備えた中型部と、前記中型部の外側に設けられ、前記ダイの側壁外面成形部と協働して前記側壁の内面を成形する側壁内面成形部とを備えた外型部と、前記中型部の端部に配置された成形用弾性部材を備え、
前記成形用弾性部材は、前記ダイとポンチの中型部と外型部とによって平坦状の底壁と側壁とが前記成形体の隅部の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する大径隅部によって連成された中間成形体を成形した後、前記外型部をダイ側に移動させることで前記大径隅部が前記ダイの隅部外面成形部に加圧密着されるように加圧変形して前記成形体の隅部を成形する、成形用金型。
【請求項5】
前記ポンチの外型部はダイに対して移動自在とされ、前記中型部は前記外型部に保持用弾性部材を介して保持され、前記保持用弾性部材は、前記外型部が中間成形体の底壁を成形した後、圧縮変形して前記外型部の移動を許容する、請求項4に記載した成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−125585(P2007−125585A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320673(P2005−320673)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)