説明

成形材料とそれを用いた水廻り住宅設備

【課題】熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有する成形材料において、成形品外観を向上させることができ、かつ、強度などの物性の低下も抑制できる成形材料とそれを用いた水廻り住宅設備を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有し、熱可塑性樹脂の相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いた成形材料とそれを用いた水廻り住宅設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水廻り住宅設備のうち、便器、手洗いボウル、洗面ボウルなどに用いられる熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂などが知られている。
【0003】
熱可塑性樹脂は成形が容易でありコスト面にも優れているが、一方で、物性において長所と短所を併せ持つため、上記に例示したような水廻り住宅設備に用いられることは少なく、熱可塑性樹脂の種類に応じて用途も限られているのが現状である。
【0004】
例えば、ポリプロピレン樹脂は、耐薬品性、耐溶剤性に優れるが、表面硬度が低いことから、水廻り住宅設備のうち主に介護用トイレ(便器)などに用いられている。
【0005】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐薬品性、耐溶剤性に優れるが、表面硬度や耐水耐久性が低いことから、水廻り住宅設備のうち主に手洗いボウルなどに用いられている。
【0006】
ポリメチルメタクリレート樹脂は、耐水性、耐候性に優れ、さらにポリプロピレン樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂に比べて表面硬度に優れていることから、これらの点において上記のような水廻り住宅設備としての長所を有している。しかしながら、耐溶剤性が低いことから、水廻り住宅設備のうち主に家庭用便器などに用いられている。
【0007】
このポリメチルメタクリレート樹脂の水廻り住宅設備としての長所を生かしつつ、耐溶剤性を改善する技術として、特許文献1には、ポリメチルメタクリレート樹脂にポリトリメチレンテレフタレート樹脂を併用した成形材料が提案されている。
【0008】
この成形材料は、表面硬度、耐水性などのポリメチルメタクリレート樹脂の水廻り住宅設備としての長所が維持され、かつ、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の併用により水廻り住宅設備として十分な耐溶剤性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−202027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この特許文献1の成形材料は、成形品表面に色ムラが発生するという問題点があった。
【0011】
すなわち、第1に、ポリメチルメタクリレート樹脂とポリトリメチレンテレフタレート樹脂は融点が異なる。そして第2に、ポリメチルメタクリレート樹脂は非結晶性の樹脂であるのに対し、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂は結晶性の樹脂である。
【0012】
ポリメチルメタクリレート樹脂とポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、これらを混合しペレット化した後に成形されるが、上記第1および第2の点に起因してこれらの樹脂を完全に混合させにくく、その結果として成形品表面に色ムラが発生する。
【0013】
そのため、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を用いた成形材料の成形品外観を向上させる技術が望まれていた。また、一般に複数種の樹脂を均一に混合する技術として相溶化剤を用いることが知られているが、その反面として強度などの物性に悪影響を及ぼすことが多い。したがって、強度などの物性の低下を抑制しつつ成形品外観を向上させる技術が望まれていた。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有する成形材料において、成形品外観を向上させることができ、かつ、強度などの物性の低下も抑制できる成形材料とそれを用いた水廻り住宅設備を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の成形材料は、熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有し、熱可塑性樹脂の相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を含有することを特徴としている。
【0016】
この成形材料において、オレフィン系重合体は、α−オレフィンと不飽和カルボン酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、および脂肪酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体であることが好ましい。
【0017】
この成形材料において、メタ(アクリル)系重合体は、アルキル基が炭素数1〜8のメタ(アクリル)酸アルキルエステルの単独重合体または共重合体であることが好ましい。
【0018】
この成形材料において、ポリメチルメタクリレート樹脂とポリトリメチレンテレフタレート樹脂との配合比率が質量比で90:10〜50:50の範囲内であることが好ましい。
【0019】
この成形材料において、熱可塑性樹脂と相溶化剤との配合比率が質量比で100:1〜100:10の範囲内であることが好ましい。
【0020】
本発明の水廻り住宅設備は、上記の成形材料を成形して得られたものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の成形材料および水廻り住宅設備によれば、熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有する成形材料において、成形品外観を向上させることができ、かつ、強度などの物性の低下も抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0023】
なお、本明細書においてメタ(アクリル)とは、「メタクリル」または「アクリル」を意味する。
【0024】
前述したように、ポリメチルメタクリレート樹脂とポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、融点が異なることや、非結晶性と結晶性の違いに起因して、ペレット調製時に完全に混合させにくく、成形品表面に色ムラが発生する。
【0025】
本発明は、これらの熱可塑性樹脂の相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を用いたことを特徴としている。この相溶化剤を用いることで、主成分としての非結晶性の樹脂であるポリメチルメタクリレート樹脂の中に、結晶性の樹脂であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂を相溶化(アロイ化)して、均一に混合することができ、成形品外観を向上させることができる。
【0026】
さらに、この相溶化剤を用いることで、相溶化剤の配合に起因する強度などの物性の低下も抑制できる。
【0027】
また、熱可塑性樹脂として、主成分のポリメチルメタクリレート樹脂にポリトリメチレンテレフタレート樹脂を併用することにより、表面硬度、耐水性などのポリメチルメタクリレート樹脂の長所が維持され、かつ、耐溶剤性も向上する。
【0028】
本発明において、熱可塑性樹脂に用いられるポリメチルメタクリレート樹脂としては、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体を用いることができる。
【0029】
メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体は、メタクリル酸メチル単位を好ましくは80質量%以上含有する。メタクリル酸メチルとともに用いる他の単量体としては、例えば、メタ(アクリル)酸アルキルエステル、あるいはスチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1〜18のアルキル基を有するものが好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、ステアリル基などのアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
メタクリル酸アルキルエステルは、炭素数2〜18のアルキル基を有するものが好ましい。具体的には、例えば、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、ステアリル基などのアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリメチルメタクリレート樹脂の重量平均分子量は、成形加工時の流動性、耐薬品性、成形品の強度などを考慮して適宜のものとされる。例えば、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)を用いてポリスチレンを標準試料として測定した値で70000〜170000の範囲内である。GPCは、例えば次の条件で測定することができる。
装置:東ソー(株)製 HLC−8120GPC
溶離液:クロロホルム
検出器:示差屈折計
温度:40℃
【0033】
ポリメチルメタクリレート樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、公知のラジカル重合法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合などにより製造することができる。
【0034】
本発明において、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂としては、例えば、酸成分に主としてテレフタル酸を用い、グリコール成分に主としてトリメチレングリコールを用いたものを挙げることができる。
【0035】
テレフタル酸以外の他の酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、ε−オキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸などのオキシジカルボン酸などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、テレフタル酸は、酸成分の80モル%以上であることが好ましい。
【0036】
トリメチレングリコールとしては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,1−プロパンジオール、2,2−プロパンジオールなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安定性の点からは1,3−プロパンジオールが好ましく、1,3−プロパンジオールがグリコール成分の80モル%以上であることが好ましい。
【0037】
なお、トリメチレングリコールとして植物由来のものを用いることもでき、植物由来のトリメチレングリコールを原料として用いることで環境負荷を低減することができる。
【0038】
他のグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ハイドロキノンなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂には、分岐成分が共重合されていてもよい。このような分岐成分としては、例えば、トリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸などの三官能または四官能のエステル形成能を持つ酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリットなどの三官能または四官能のエステル形成能を持つアルコールなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この場合、分岐成分の量は、ジカルボン酸成分の全量に対して1モル%以下が好ましい。
【0040】
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の重量平均分子量は、ポリメチルメタクリレート樹脂と同様の方法、例えば上述した方法により測定した値で、5000〜100000の範囲内が好ましい。
【0041】
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、次の方法で製造することができる。まず、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(例えば、ジメチルエステル、モノメチルエステルなどの低級アルキルエステル)とトリメチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを、触媒の存在下、適宜の温度と時間で加熱反応させる。さらに、得られたテレフタル酸のグリコールエステルを、触媒の存在下、適宜の温度と時間で所望の重合度まで重縮合反応させることにより、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を製造することができる。
【0042】
本発明の成形材料は、熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を90:10〜50:50の質量比で含有することが好ましい。
【0043】
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の質量比を10以上にすると、水廻り住宅設備などの用途に十分な耐溶剤性が得られる。ポリメチルメタクリレート樹脂の質量比を50以上にすると、水廻り住宅設備などの用途に十分な表面硬度や耐水性が得られる。
【0044】
本発明の成形材料は、相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を含有する。
【0045】
オレフィン系重合体としては、α−オレフィンと不飽和カルボン酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、および脂肪酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体を用いることができる。また、α−オレフィンを重合して得られる単独重合体または共重合体を用いることができる。
【0046】
α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、エチレンが好ましい。
【0047】
不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数3〜10のモノカルボン酸のアルキルエステルを用いることができる。不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル基は、炭素数1〜5が好ましい。
【0048】
不飽和カルボン酸アルキルエステルとして、具体的には、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えば、炭素数3〜10のモノカルボン酸のグリシジルエステルを用いることができる。具体的には、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステルなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
【0050】
脂肪酸ビニルエステルとしては、例えば、炭素数4〜8の脂肪酸のビニルエステルを用いることができる。具体的には、例えば、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0051】
上記のオレフィン系重合体は、公知の方法、例えば、対応する単量体のラジカル重合などにより製造することができる。
【0052】
オレフィン系重合体としては、上記の中でも、α−オレフィンと不飽和カルボン酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、および脂肪酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体が好ましい。これらの共重合体を用いることで、成形品外観の向上および成形品の強度などの物性低下の抑制を特に良好に両立させることができる。
【0053】
このような共重合体は、α−オレフィンを70〜99質量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、および脂肪酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種を1〜30質量%の比率で共重合することが好ましい。この比率の範囲内にすると、成形品外観の向上および成形品の強度などの物性低下の抑制を特に良好に両立させることができる。
【0054】
オレフィン系重合体としては、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジルエステル共重合体などのランダム共重合体などを好ましく用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
グラフト共重合の側鎖を構成するメタ(アクリル)系重合体は、メタ(アクリル)酸アルキルエステルの単独重合体または2種以上で構成される共重合体である。
【0056】
メタ(アクリル)系重合体は、アルキル基が炭素数1〜8のメタ(アクリル)酸アルキルエステルの単独重合体または共重合体であることが好ましい。
【0057】
メタ(アクリル)系重合体としてこれらのものを用いることで、成形品外観の向上および成形品の強度などの物性低下の抑制を特に良好に両立させることができる。
【0058】
メタ(アクリル)酸アルキルエステルとして、具体的には、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
メタ(アクリル)系重合体としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体などを用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体が好ましい。
【0060】
上記のメタ(アクリル)系重合体は、公知の方法、例えば、対応する単量体のラジカル重合などにより製造することができる。
【0061】
グラフト共重合体を構成するためのオレフィン系重合体とメタ(アクリル)系重合体との比率は、質量比で95:5〜5:95が好ましく、80:20〜20:80がより好ましい。このような範囲内にすると、成形品外観の向上および成形品の強度などの物性低下の抑制を特に良好に両立させることができる。
【0062】
グラフト共重合体は、公知の方法、例えば、連鎖移動法、電離放射線照射法などにより製造することができる。例えば、主鎖成分粒子中で側鎖成分の単量体とラジカル(共)重合性有機過酸化物とを共重合させたグラフト化前駆体を溶融混練し、重合体同士のグラフト化反応により製造することができる。
【0063】
本発明の成形材料は、熱可塑性樹脂として、上記のポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有し、これらの相溶化剤として、上記のグラフト共重合体を含有する。熱可塑性樹脂と相溶化剤との配合比率は、質量比で100:1〜100:10の範囲内が好ましく、100:2〜100:8の範囲内がより好ましい。
【0064】
このような範囲内にすると、成形品外観の向上および成形品の強度などの物性低下の抑制を特に良好に両立させることができる。
【0065】
本発明の成形材料は、本発明の効果を損なわない範囲内において、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を配合することができる。このような他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂などを用いることができる。
【0066】
このような他の熱可塑性樹脂の配合量は、水廻り住宅設備などとしての用途や本発明の効果を得る点等を考慮すると、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含む熱可塑性樹脂の全量に対して20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0067】
本発明の成形材料は、本発明の効果を損なわない範囲内において、熱可塑性樹脂および相溶化剤以外の添加成分を配合することができる。このような添加成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、潤滑剤、耐候剤などが挙げられる。ここに例示した添加成分の配合量は、水廻り住宅設備などとしての用途や本発明の効果を得る点などを考慮すると、熱可塑性樹脂の全量に対して10質量%以下、好ましくは1質量%以下である。
【0068】
また、本発明の成形材料は、本発明の効果を損なわない範囲内において、上記に例示した添加成分以外に、粒状または繊維状の無機充填材、顔料、染料などの着色剤などを配合することができる。無機充填材の配合量は、水廻り住宅設備などとしての用途や本発明の効果を得る点などを考慮すると、熱可塑性樹脂の全量に対して30質量%以下、好ましくは10質量%以下である。着色剤の配合量は、水廻り住宅設備などとしての用途や本発明の効果を得る点などを考慮すると、熱可塑性樹脂の全量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。
【0069】
本発明の成形材料は、上記の熱可塑性樹脂、相溶化剤、および必要に応じて他の添加成分を配合し、二軸ニーダーなどを用いて溶融状態で加熱混合し、冷却、切断することにより、ペレットなどの形態として得ることができる。
【0070】
また、本発明の成形材料は、熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有し、前記熱可塑性樹脂の相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を含有するものであれば特に限定されず、例えば、成形品と実質的に同一の配合材料を押出機などで溶融混練したフルコンパウンド品だけではなく、一部の材料を高濃度化したマスターバッチ、当該マスターバッチと希釈用熱可塑性樹脂との組み合わせ(ドライブレンド)も含む。
【0071】
一部の材料を高濃度化したマスターバッチの配合比率は特に限定されないが、例えば、前記ポリメチルメタクリレート樹脂と前記ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の配合比率が質量比で1:99〜99:1が好ましく、1:99〜50:50の範囲内がさらに好ましい。また、当該マスターバッチは、一部の材料の他、顔料や添加剤等を含有してもよい。
【0072】
前記マスターバッチにおいて、熱可塑性樹脂と相溶化剤との配合比率は特に限定されず、例えば、重量比で100:1〜100:100が好ましく、100:5〜100:20の範囲内がより好ましい。
【0073】
このようにして得られた成形材料は、例えば、射出成形、押し出し成形などにより成形し、水廻り住宅設備などの各種成形品を製造することができる。
【0074】
本発明の水廻り住宅設備は、主成分としてポリメチルメタクリレート樹脂を用いたことにより、表面硬度や耐水性、その他耐候性などのポリメチルメタクリレート樹脂の水廻り住宅設備としての長所が維持される。さらに、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂を併用したことにより、耐溶剤性、特に耐ケミカルクラック性も有している。そして、上記の相溶化剤を用いたことにより、強度などの物性の低下を抑制しつつ成形品外観を向上させることができる。
【0075】
したがって、本発明の水廻り住宅設備は、介護用トイレや家庭用などの便器、手洗いボウル、洗面ボウル、歯ブラシ立てなどの洗面小物、浴室内棚板、浴槽、石鹸箱などの浴室小物などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
熱可塑性樹脂および相溶化剤として次のものを用いた。
(熱可塑性樹脂)
・ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)
三菱レイヨン(株)製「アクリペットVH」
・ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)
三井・デュポンケミカル(株)製「デュポンバイオマックス PTT1100」
(相溶化剤)
・エチレン−アクリル酸エチル共重合体(主鎖)70質量部とメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体(側鎖)30質量部とのグラフト共重合体
日油(株)製「モディパー A5300」
・スチレン−アクリル共重合体
東亜合成(株)製「ARUFON UH−2170」
・エポキシ変性アクリル重合体(主鎖)とポリメチルメタクリレート樹脂(側鎖)とのグラフト共重合体
東亜合成(株)製「レゼタ GP−301」)
【0078】
実施例1〜10、比較例1〜3では、二軸ニーダーを用いて、表1に示す配合量で熱可塑性樹脂および相溶化剤を加熱混合してストランド状に押出し、冷却後切断して成形用ペレットを得た。
【0079】
比較例4では、相溶化剤を配合せず熱可塑性樹脂のみ配合し上記と同様にして成形用ペレットを得た。
【0080】
これらの成形用ペレットを成形材料として射出成形機により試験片を作製し、これらの試験片を用いて次の評価を行った。
【0081】
[成形外観]
試験片の色ムラを目視にて次の基準により評価した。
○:外観に色ムラが見られない。
△:外観に色ムラがやや見られる。
×:外観に色ムラが目立つ。
【0082】
[曲げ強度]
試験片の曲げ強度(MPa)をJIS K 7171に準拠して測定した。判定基準として、比較例4のPTTとPMMA配合比50/50(相溶化剤なし)における強度から、2割以上低下した場合を不可とした。
【0083】
[耐水性]
JIS K 7110に準拠して、ノッチなし試験片にてアイゾット衝撃強度を測定した。試験片として、未処理品と、70℃の温水に60日間浸漬した後、乾燥した耐水性評価用の温水浸漬処理品の2種類を用い、未処理品のアイゾット衝撃強度に対する温水浸漬処理品のアイゾット衝撃強度低下率10%未満を○として評価した。
【0084】
評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1より、熱可塑性樹脂としてPMMAおよびPTTを用い、これらの相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を用いた実施例1〜10は、成形品外観に非相溶な部分がなく均一に分散していた。その結果、成形品外観に色ムラは見られなかった。
【0087】
また、実施例1〜10は、相溶化剤を配合しなかった比較例4との対比より、相溶化剤を配合しても、曲げ強度は低下せず耐水性も低下しなかった。なお、特許文献1の実施例と同様の方法で耐溶剤性(耐ケミカルクラック性:臨界歪)を評価したが、耐溶剤性も良好であった。また、表面硬度と汚染除去性も水廻り住宅設備として十分であった。
【0088】
実施例10は、実施例3の一部の材料を高濃度化したマスターバッチを作成し、そのマスターバッチにPMMAをドライブレンドした成形材料でも成形品外観に非相溶な部分がなく均一に分散していた。その結果、成形品外観に色ムラは見られなかった。また、耐溶剤性も良好であり、表面硬度と汚染除去性も水廻り住宅設備として十分であった。
【0089】
一方、上記のグラフト共重合体とは異なる他の相溶化剤を実施例4〜6と等量で用いた比較例1、3は、成形品外観の向上は見られなかった。
【0090】
特に比較例3では主鎖および側鎖の両方がメタ(アクリル)系重合体であるグラフト共重合体を用いたが、成形品外観の向上は見られなかった。このことからも、実施例1〜10のようにオレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体が成形品外観の向上に必須であることがわかる。
【0091】
比較例2は、比較例1から相溶化剤の配合量を増やしたが、成形品外観にやや向上傾向が見られたものの依然として色ムラがあり、さらに曲げ強度が大幅に低下した。
【0092】
以上のように、強度などの物性を低下させずに成形品外観を向上させるためには、相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体が適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂を含有し、前記熱可塑性樹脂の相溶化剤として、オレフィン系重合体を主鎖としメタ(アクリル)系重合体を側鎖とするグラフト共重合体を含有することを特徴とする成形材料。
【請求項2】
前記オレフィン系重合体は、α−オレフィンと不飽和カルボン酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、および脂肪酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種とを重合して得られる共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記メタ(アクリル)系重合体は、アルキル基が炭素数1〜8のメタ(アクリル)酸アルキルエステルの単独重合体または共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記ポリメチルメタクリレート樹脂と前記ポリトリメチレンテレフタレート樹脂との配合比率が質量比で90:10〜50:50の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂と前記相溶化剤との配合比率が質量比で100:1〜100:10の範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の成形材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の成形材料を成形して得られたものであることを特徴とする水廻り住宅設備。

【公開番号】特開2013−107994(P2013−107994A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254435(P2011−254435)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(000104364)出光ライオンコンポジット株式会社 (23)
【Fターム(参考)】